特許第6776103号(P6776103)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6776103
(24)【登録日】2020年10月9日
(45)【発行日】2020年10月28日
(54)【発明の名称】消臭紙の製造方法
(51)【国際特許分類】
   D21H 21/14 20060101AFI20201019BHJP
   A61F 13/15 20060101ALI20201019BHJP
【FI】
   D21H21/14 B
   A61F13/15 141
【請求項の数】9
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-226737(P2016-226737)
(22)【出願日】2016年11月22日
(65)【公開番号】特開2018-83995(P2018-83995A)
(43)【公開日】2018年5月31日
【審査請求日】2019年9月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】特許業務法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】糸井 隆
(72)【発明者】
【氏名】幸田 拓也
【審査官】 堀内 建吾
(56)【参考文献】
【文献】 特開平02−053997(JP,A)
【文献】 特開平09−253430(JP,A)
【文献】 特開2009−154326(JP,A)
【文献】 特開2009−155743(JP,A)
【文献】 特開平02−242999(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2009/0047363(US,A1)
【文献】 韓国公開特許第10−2007−0114302(KR,A)
【文献】 特開2010−037693(JP,A)
【文献】 特開平05−279977(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D21B1/00−D21J7/00
A61F13/15
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩素を含有する湿潤紙力剤、亜鉛を含有する消臭剤、塩素トラップ剤、定着剤、及びパルプを含む抄紙用スラリーを抄造する工程を有する消臭紙の製造方法であって、
前記湿潤紙力剤及び前記定着剤を添加せずに前記パルプ、前記消臭剤、前記塩素トラップ剤及び前記水を混合して中間スラリーを得、
前記中間スラリーに前記湿潤紙力剤を添加した後、0.1秒以上60秒以内に前記定着剤を添加して前記抄紙用スラリーを調製する消臭紙の製造方法
【請求項2】
前記塩素トラップ剤が、亜鉛よりイオン化傾向の高い金属の塩である請求項1に記載の消臭紙の製造方法。
【請求項3】
前記定着剤の添加に先立ち、前記中間スラリーを水で希釈して、目的とする前記抄紙用スラリーの濃度に調整する請求項1又は2に記載の消臭紙の製造方法。
【請求項4】
前記中間スラリーに前記湿潤紙力剤を添加した後、0.5秒以上60秒以内に前記定着剤を添加して前記抄紙用スラリーを調製する請求項1ないし3のいずれ一項に記載の消臭紙の製造方法。
【請求項5】
塩素を含有する湿潤紙力剤、亜鉛を含有する消臭剤、塩素トラップ剤、定着剤、及びパルプを含む抄紙用スラリーを抄造する工程を有する消臭紙の製造方法であって、
前記塩素トラップ剤がクエン酸カルシウムである消臭紙の製造方法。
【請求項6】
前記塩素トラップ剤がクエン酸カルシウムである、請求項1ないし4のいずれか一項に記載の消臭紙の製造方法。
【請求項7】
前記湿潤紙力剤を添加した後、0.1秒以上60秒以内に前記定着剤を添加する、請求項5に記載の消臭紙の製造方法
【請求項8】
前記湿潤紙力剤及び前記定着剤を添加せずに前記パルプ、前記消臭剤、前記塩素トラップ剤及び前記水を混合して中間スラリーを得、
前記中間スラリーに前記湿潤紙力剤を添加した後に、前記定着剤を添加して前記抄紙用スラリーを調製する請求項5又は7に記載の消臭紙の製造方法。
【請求項9】
前記定着剤の添加に先立ち、前記中間スラリーを水で希釈して、目的とする前記抄紙用スラリーの濃度に調整する請求項8に記載の消臭紙の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は消臭紙の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
抗菌性や消臭性を有する紙の製造技術としては、例えば特許文献1に記載のものが知られている。この文献には、消臭性能を有する粉体、繊維状物、水、湿潤紙力剤及びアニオン系高分子化合物を含むスラリー組成物から、湿式抄造により抄造成形体を製造する方法が記載されている。この方法においては、前記粉体、前記繊維状物及び前記水を、撹拌して混合した後、得られた混合液を希釈し、その希釈の途中又は希釈後に、前記湿潤紙力剤及び前記アニオン系高分子化合物を添加して前記スラリー組成物を得ている。
【0003】
特許文献2には、消臭性能を有する粉体、繊維状物及び平均分子量1000万以上の中アニオン性高分子化合物を含み、坪量が50g/m未満である粉体含有シートが記載されている。同文献によれば、同文献に記載の粉体含有シートを提供することができるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−155743号公報
【特許文献2】特開2009−228162号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、抗菌性や消臭性を有する紙の製造の原料として用いられる抄紙用スラリーには様々な成分が含まれており、それらの成分の相互作用に起因して、抗菌剤や消臭剤の効果が減殺されてしまい、所期の抗菌効果や消臭効果が発揮されない場合がある。
【0006】
したがって本発明の課題は、前述した従来技術が有する欠点を解消し得る消臭紙の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、塩素を含有する湿潤紙力剤、亜鉛を含有する消臭剤、塩素トラップ剤、定着剤、及びパルプを含む抄紙用スラリーを抄造する工程を有する消臭紙の製造方法を提供するものである。
【0008】
また本発明は、亜鉛を含有する消臭剤と金属の塩化物とを有する消臭紙を提供するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明の製造方法によれば、他の成分との相互作用に起因して消臭剤が本来的に有する消臭効果が損なわれることを効果的に防止し得る消臭紙を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下本発明を、その好ましい実施形態に基づき説明する。本発明に従い製造される消臭紙は、湿式抄造法で好適に得ることができる。湿式抄造法においては、紙の原料となるパルプを含む抄紙用スラリーを抄造することで、目的とする消臭紙を得ることができる。抄紙用スラリーは一般にパルプ、湿潤紙力剤、及び定着剤を含む水分散液からなる。目的とする消臭紙に消臭効果を発現させる観点から、抄紙用スラリーには消臭剤が更に含まれている。
【0011】
抄紙用スラリーに含まれる各成分のうち、パルプはその種類に特に制限はなく、得られる消臭紙の具体的な用途に応じて適切なものを用いることができる。具体的には、針葉樹晒しクラフトパルプ、広葉樹晒しクラフトパルプ及び古紙パルプ等の木材パルプ、マーセル化パルプ及び架橋パルプなどの嵩高性の化学処理パルプなどが挙げられる。これらのパルプは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0012】
パルプはその叩解度が200ml以上であることが好ましく、300ml以上であることが更に好ましく、400ml以上であることが一層好ましい。また、パルプはその叩解度が700ml以下であることが好ましく、650ml以下であることが更に好ましく、600ml以下であることが一層好ましい。具体的には、パルプはその叩解度が200ml以上700ml以下であることが好ましく、300ml以上650ml以下であることが更に好ましく、400ml以上600ml以下であることが一層好ましい。パルプの叩解度をこの範囲内に設定することで、生産時及び加工時に破れることなく、柔らかい消臭紙が得られる点から好ましい。パルプの叩解度は、JIS P 8121−2カナダ標準ろ水度法に準じて測定される。
【0013】
必要に応じ、パルプに加えて、他の湿式抄造可能な繊維を用いることもできる。そのような繊維としては、例えばレーヨン、リヨセル、テンセル及びポリビニルアルコール等の親水性繊維、並びに熱融着性を有する熱可塑性繊維などが挙げられる。
【0014】
パルプは、抄紙用スラリー中に、好ましくは0.01質量%以上含まれ、更に好ましくは0.05質量%以上、一層好ましくは0.1質量%以上含まれる。またパルプは、抄紙用スラリー中に、好ましくは3質量%以下含まれ、更に好ましくは2質量%以下、一層好ましくは0.5質量%以下含まれる。具体的には、パルプは、抄紙用スラリー中に、好ましくは0.01質量%以上3質量%以下含まれ、更に好ましくは0.05質量%以上2質量%以下、一層好ましくは0.1質量%以上1.5質量%以下含まれる。
【0015】
湿潤紙力剤としては種々のものが知られているところ、本発明においては塩素を含有する湿潤紙力剤を用いることが好適である。かかる湿潤紙力剤を配合することで、工業的に見合う経済性を維持しつつ、得られる消臭紙に高い湿潤強度を付与することができる。湿潤強度を高めることは、消臭紙を例えば使い捨ておむつ等の吸収性物品の構成材料として用いる場合に、尿等によって該消臭紙が濡れても破断しづらくなるという観点から有利である。塩素を含有する湿潤紙力剤の例としては、ポリアミド・エピクロルヒドリン樹脂、グリオキサール変性ポリアミド・エピクロルヒドリン樹脂等を用いることができるが、これらに限られない。塩素を含有する湿潤紙力剤は1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。また、塩素を含有する湿潤紙力剤と、塩素を含有しない湿潤紙力剤とを併用することもできる。
【0016】
湿潤紙力剤は、抄紙用スラリー中のパルプに対して、好ましくは0.01質量%以上含まれ、更に好ましくは0.05質量%以上、一層好ましくは0.1質量%以上含まれる。また湿潤紙力剤は、抄紙用スラリー中のパルプに対して、好ましくは3質量%以下含まれ、更に好ましくは2質量%以下、一層好ましくは1質量%以下含まれる。具体的には、湿潤紙力剤は、抄紙用スラリー中のパルプに対して、好ましくは0.1質量%以上3質量%以下含まれ、更に好ましくは0.2質量%以上2質量%以下、一層好ましくは0.3質量%以上1質量%以下含まれる。
【0017】
定着剤としては、パルプ繊維を凝集させてフロックを形成させ得る作用を有する薬剤を用いることができる。そのような薬剤としては、アニオン系高分子化合物を用いることが好ましい。アニオン系高分子化合物としては、例えば、アクリルアミド−アクリル酸共重合体、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリアクリルアミド部分加水分解物、アクリルアミド−2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸共重合体等を用いることができる。
【0018】
定着剤は、抄紙用スラリー中のパルプに対して、好ましくは0.001質量%以上含まれ、更に好ましくは0.005質量%以上、一層好ましくは0.01質量%以上含まれる。また定着剤は、抄紙用スラリー中のパルプに対して、好ましくは0.2質量%以下含まれ、更に好ましくは0.1質量%以下、一層好ましくは0.05質量%以下含まれる。具体的には、定着剤は、抄紙用スラリー中のパルプに対して、好ましくは0.001質量%以上0.2質量%以下含まれ、更に好ましくは0.005質量%以上0.1質量%以下、一層好ましくは0.01質量%以上0.05質量%以下含まれる。
【0019】
抄紙用スラリー中には、上述した成分に加えて消臭剤が含まれている。消臭剤としては種々のものが知られているところ、本発明においては亜鉛を含有する消臭剤を用いることが好適である。かかる消臭剤を配合することで、工業的に見合う経済性を維持しつつ、得られる消臭紙に高い消臭効果を付与することができる。亜鉛を含有する消臭剤の例としては、酸化亜鉛などが挙げられる。また、ミズカナイトHP(水澤化学工業株式会社製)やゼオミックス(株式会社シナネンゼオミックス)などの市販品を用いることもできる。亜鉛を含有する消臭剤は1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。また、亜鉛を含有する消臭剤と、亜鉛を含有しない消臭剤とを併用することもできる。また、亜鉛を含有する消臭剤を、担体に担持させて使用することができる。担体としては例えば無機多孔質体などが挙げられる。無機多孔質体としては、例えばアルミノシリケートゼオライトなどが挙げられる。
【0020】
亜鉛を含有する消臭剤は、抄紙用スラリー中のパルプに対して、好ましくは0.01質量%以上含まれ、更に好ましくは0.05質量%以上、一層好ましくは0.1質量%以上含まれる。また亜鉛を含有する消臭剤は、抄紙用スラリー中のパルプに対して、好ましくは5質量%以下含まれ、更に好ましくは2質量%以下、一層好ましくは1質量%以下含まれる。具体的には、亜鉛を含有する消臭剤は、抄紙用スラリー中のパルプに対して、好ましくは0.01質量%以上5質量%以下含まれ、更に好ましくは0.05質量%以上2質量%以下、一層好ましくは0.1質量%以上1質量%以下含まれる。
【0021】
ところで、消臭剤を多量に用いることで、消臭紙の消臭性能を更に向上させることができる。しかしながら、抄造時の工程内に残留する汚れを少なくする観点からは、用いる消臭剤の量を減らすことが好ましい。後述する実施例で例証されるとおり、本発明では塩素トラップ剤を用いることにより、少量の消臭剤を添加するだけで、十分な硫化水素吸着量、すなわち十分な消臭力を消臭紙に付与することができる。特に、抄紙用スラリー中のパルプに対して、消臭剤が0.2質量%と極めて少量含まれていた場合に、塩素トラップ剤を用いる効果が顕著に表れ、従来よりも格段に優れた消臭力を得ることができる。
【0022】
上述の各成分を含有する抄紙用スラリーを用い、湿式抄造によって消臭紙を製造すると、消臭剤が本来的に有している消臭効果、例えば硫黄系化合物に対する消臭効果が低下する傾向にあることが本発明者によって見出された。この原因を本発明者が検討したところ、亜鉛を含有する消臭剤から亜鉛が水中に溶出し、溶出した亜鉛が、湿潤紙力剤に含まれる塩素と反応して塩化亜鉛が生成することが一因である可能性が判明した。詳細には、この塩化亜鉛の生成によって、亜鉛を含有する消臭剤が失活し、消臭性能、特に硫黄系化合物に対する消臭性能が低下すると考えられる。
【0023】
上述した消臭剤の失活を抑制すべく本発明者が鋭意検討した結果、抄紙用スラリー中に、塩素トラップ剤を含有させることが有効であることが判明した。塩素トラップ剤とは、亜鉛に先んじて、水中に存在する塩素化学種、例えば塩化物イオン等と反応することで、亜鉛と塩素化学種との反応を阻害する作用を有する化合物のことである。本発明者が更に検討を推し進めたところ、塩素トラップ剤として、亜鉛よりもイオン化傾向の高い金属(以下、この金属のことを「トラップ金属」とも言う。)の塩を用いると、亜鉛と塩素化学種との反応が一層阻害される点から好ましい。この塩は水溶性塩であることが好ましい。
【0024】
トラップ金属としては、例えばマンガン、アルミニウム、マグネシウム、ナトリウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、カリウム及びリチウムなどが挙げられる。これらの金属は1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの金属のうち、特にカルシウム、マグネシウムなどを用いると、亜鉛と塩素化学種との反応が一層阻害される点から好ましい。
【0025】
トラップ金属とともに塩を構成する化学種としては、例えば各種の有機カルボン酸残基、炭酸残基、水酸残基、及び珪酸残基などが挙げられる。これらの化学種は1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。特にトラップ金属とともに塩を構成する化学種として、有機カルボン酸残基又は炭酸残基を用いることが、亜鉛と塩素化学種との反応が一層阻害される点から好ましい。有機カルボン酸残基のうち、有機多価カルボン酸残基を用いることが好ましい。有機多価カルボン酸残基の例としては、クエン酸残基、リンゴ酸残基、アクリル酸残基、酢酸残基、乳酸残基、及びコハク酸残基などが挙げられる。とりわけ、有機多価カルボン酸残基としてクエン酸残基を用い、トラップ金属としてカルシウムを用いると、すなわち塩素トラップ剤としてクエン酸カルシウムを用いると、亜鉛と塩素化学種との反応が更に一層阻害される点から好ましい。
【0026】
塩素トラップ剤は、抄紙用スラリー中のパルプに対して、好ましくは0.1質量%以上含まれ、更に好ましくは0.5質量%以上、一層好ましくは1質量%以上含まれる。また塩素トラップ剤は、抄紙用スラリー中のパルプに対して、好ましくは30質量%以下含まれ、更に好ましくは20質量%以下、一層好ましくは10質量%以下含まれる。具体的には、塩素トラップ剤は、抄紙用スラリー中のパルプに対して、好ましくは0.1質量%以上30質量%以下含まれ、更に好ましくは0.5質量%以上20質量%以下、一層好ましくは1質量%以上10質量%以下含まれる。
【0027】
本発明の製造方法においては、上述した各成分、すなわち塩素を含有する湿潤紙力剤、亜鉛を含有する消臭剤、塩素トラップ剤、定着剤、及びパルプを水と混合して抄紙用スラリーを調製する。これらの成分の混合の順序は、各成分として用いられる具体的な物質の種類に応じて適切に定めればよい。
【0028】
抄紙用スラリーの調製は、特に、次の順序で行うことが、パルプへの消臭剤の定着性が良好になり、また消臭紙の湿潤強度が高まることから好ましい。すなわち、先ず、パルプ、亜鉛を含有する消臭剤、塩素トラップ剤及び水を撹拌して混合する。この混合は、塩素を含有する湿潤紙力剤及び定着剤を添加せずに行う。混合は、水に、パルプ、亜鉛を含有する消臭剤及び塩素トラップ剤を添加して行う。パルプ、亜鉛を含有する消臭剤及び塩素トラップ剤の添加の順序に特に制限はない。このようにして中間スラリーが得られる。中間スラリー中に塩素を含有する湿潤紙力剤及び定着剤は含まれていない。
【0029】
混合は、容器内で撹拌して行う。撹拌の方法は、モーター、エンジン等の動力により撹拌翼を回転させる方法が好ましいが、撹拌翼を用いない方法、例えば水流や泡によって撹拌させる方法、容器壁面あるいは容器内に超音波をかけて振動させる等を用いる方法や、人力により撹拌翼、棒等を回転させる方法であってもよい。好ましい方法は、モーター、エンジン等の動力により撹拌翼を回転させる方法である。
【0030】
中間スラリーにおけるパルプの濃度は、0.01質量%以上とすることが好ましく、0.05質量%以上とすることが更に好ましく、0.1質量%以上とすることが一層好ましい。また、中間スラリーにおけるパルプの濃度は、3質量%以下とすることが好ましく、2質量%以下とすることが更に好ましく、1.5質量%以下とすることが一層好ましい。具体的には、中間スラリーにおけるパルプの濃度は、0.01質量%以上3質量%以下とすることが好ましく、0.05質量%以上2質量%以下とすることが更に好ましく、0.1質量%以上1.5質量%以下とすることが一層好ましい。中間スラリーにおけるパルプの濃度をこの範囲に設定することで、パルプを中間スラリー中に均一に分散させることができ、抄造後の地合い斑の少ない消臭紙を得ることができる点から好ましい。
【0031】
中間スラリーにおける亜鉛を含有する消臭剤の量は、パルプに対して0.01質量%以上とすることが好ましく、0.05質量%以上とすることが更に好ましく、0.1質量%以上とすることが一層好ましい。また、中間スラリーにおける亜鉛を含有する消臭剤の量は、パルプに対して、2質量%以下とすることが好ましく、1質量%以下とすることが更に好ましく、0.5質量%以下とすることが一層好ましい。具体的には、中間スラリーにおける亜鉛を含有する消臭剤の量は、パルプに対して0.01質量%以上2質量%以下とすることが好ましく、0.05質量%以上1質量%以下とすることが更に好ましく、0.1質量%以上0.5質量%以下とすることが一層好ましい。中間スラリーにおける亜鉛を含有する消臭剤の量をこの範囲に設定することで、亜鉛を中間スラリー中に均一に分散させることができ、抄造後の亜鉛を消臭紙に斑なく定着させることができる点から好ましい。
【0032】
中間スラリーにおける塩素トラップ剤の量は、パルプに対して0.1質量%以上とすることが好ましく、0.2質量%以上とすることが更に好ましく、0.5質量%以上とすることが一層好ましい。また、中間スラリーにおける塩素トラップ剤の量は、パルプに対して、20質量%以下とすることが好ましく、15質量%以下とすることが更に好ましく、10質量%以下とすることが一層好ましい。具体的には、中間スラリーにおける塩素トラップ剤の量は、パルプに対して0.1質量%以上20質量%以下とすることが好ましく、0.2質量%以上15質量%以下とすることが更に好ましく、0.5質量%以上10質量%以下とすることが一層好ましい。中間スラリーにおけるこの範囲の塩素トラップ剤の量は、抄造時の工程内の汚れを少なくすることができ、且つ、消臭紙の地合い斑を少なくすることができるほど十分な量であるので好ましい。
【0033】
次に、中間スラリーに、塩素を含有する湿潤紙力剤及び定着剤を添加して、抄紙用スラリーを調製する。塩素を含有する湿潤紙力剤及び定着剤の添加の順序は、塩素を含有する湿潤紙力剤が先でもよく、定着剤が先でもよく、あるいは両者同時でもよい。消臭紙の湿潤強度や亜鉛を含有する消臭剤の定着性が一層向上する観点から、塩素を含有する湿潤紙力剤を先に添加した後に、定着剤を添加して抄紙用スラリーを調製することが好ましい。
【0034】
中間スラリーに添加する塩素を含有する湿潤紙力剤及び定着剤の量は、該中間スラリー中に含まれているパルプの量に対する、塩素を含有する湿潤紙力剤及び定着剤それぞれの量の割合が、上述のとおりとなるようにすればよい。
【0035】
塩素を含有する湿潤紙力剤の添加が完了した後、所定時間が経過したら定着剤を添加することが好ましい。具体的には、塩素を含有する湿潤紙力剤を添加した後、0.1秒以上後に定着剤を添加することが好ましく、更に好ましくは0.5秒以上後に、また、180秒以内に定着剤を添加することが好ましく、更に好ましくは120秒以内、一層好ましくは60秒以内に定着剤を添加する。下限以上の時間範囲で定着剤を添加することで、消臭剤の失活を大幅に抑制できることできる点から好ましい。また、塩素トラップ剤のみでは、パルプスラリー中と亜鉛イオンの失活を完全には防止ができないため、上限以下とすることで、亜鉛イオンと塩化物イオンとが遭遇する時間を少なくし、補足的に亜鉛イオンの失活を防止することができることから好ましい。定着剤の添加に先立ち、上述のとおり水で希釈した中間スラリーを更に水で希釈して、目的とする抄紙用スラリーの濃度に調整することが好ましい。希釈の程度は、中間スラリー中のパルプの濃度C0に対する、目的とする中間スラリー中のパルプの濃度C1の割合C1/C0が、好ましくは10(5/0.5)以上であり、また、好ましくは100(5/0.01)以下、更に好ましくは50以下、一層好ましくは30以下となるようにする。こうすることで、湿潤紙力剤及び定着剤を中間スラリー中に均一に分散させることができ、抄造時の工程内の汚れを少なくすることができる点から好ましい。
【0036】
このようにして抄紙用スラリーが得られる。この抄紙用スラリーを用い、湿式抄造法によって、目的とする消臭紙を製造する。湿式抄造法には、例えば連続抄紙式である円網抄紙機、長網抄紙機、短網抄紙機、ツインワイヤー抄紙機などを用いることができる。また手抄きによるバッチ方式を用いてもよい。抄紙用スラリーと、該スラリーと異なる組成のスラリーとを用いた多層抄き合わせによって消臭紙を製造することもできる。また、抄紙用スラリーを抄造して得られた紙匹どうしを多層に貼り合わせたり、該紙匹に、抄紙用スラリーと異なる組成を有するスラリーから得られた紙匹を貼り合わせたりすることによって、多層の消臭紙を製造することもできる。
【0037】
このようにして得られた消臭紙においては、その製造過程での塩素と亜鉛との反応が塩素トラップ剤によって阻害されるので、亜鉛に起因する消臭効果の低下が抑制され、消臭剤の所期の消臭効果が十分に発現する。
【0038】
以上の説明から明らかなとおり、本製造方法で得られた消臭紙においては、塩素トラップ剤に含まれる金属と、湿潤紙力剤に含まれる塩素との反応物である金属塩化物が含まれている。つまり本製造方法で得られた消臭紙は、亜鉛を含有する消臭剤と金属の塩化物とを有する。このような消臭紙はこれまで知られておらず、本発明者が初めて見出した新規なものである。しかし、消臭紙に含まれている金属塩化物の量を測定することは困難であるため、該消臭紙をその構成成分等で特定することは現在の技術水準では容易でない。
【0039】
このようにして得られた消臭紙は、消臭が必要とされる様々な用途に用いられる。そのような用途としては、例えば生理用ナプキン、使い捨ておむつ及び失禁パッド等の各種の吸収性物品の構成材料、壁紙、シーツ、押入シート、箪笥シート、下駄箱シート、マット、靴インソール、マスク、フィルター類、ラッピング食品の中敷シートなどが挙げられる。
【実施例】
【0040】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。しかしながら本発明の範囲は、かかる実施例に制限されない。特に断らない限り、「%」は「質量%」を意味する。
【0041】
〔実施例1−1ないし1−6〕
針葉樹クラフトパルプ、亜鉛を含有する消臭剤及び塩素トラップ剤を添加し、これらを食品用ミキサーを用いて十分に混合して中間スラリーを得た。針葉樹クラフトパルプとしては、その叩解度550mlに調整されたものを用いた。亜鉛を含有する消臭剤としては、水澤化学工業株式会社製のミズカナイトHP(SiO=46.2%,Al=9.0%,ZnO=34.2%,Ignition Loss=10.0%)を用いた。塩素トラップ剤としては、クエン酸カルシウムを用いた。中間スラリー中におけるパルプの濃度は1%、塩素トラップ剤の濃度はパルプに対して5%、亜鉛を含有する消臭剤の濃度はパルプに対して0.2%であった。
【0042】
得られた中間スラリーを水で希釈をした。希釈の途中に塩素を含有する湿潤紙力剤としてポリアミド・エピクロルヒドリン樹脂(WS4024、星光PMC株式会社製)をパルプに対して0.5%添加した。添加が完了してから10秒後、30秒後、60秒後、90秒後、120秒後、及び180秒後にそれぞれ定着剤をパルプに対して0.025%添加して0.3%中間スラリーを得た。定着剤としては、MTアクアポリマー株式会社製のアコフロックA95(アクリルアミド−アクリル酸共重合体、数平均分子量1700万)を用いた。定着剤の添加に先立ち、既に水で希釈された中間スラリーを再び水で希釈して、目的とする抄紙用スラリーの濃度に調整した。
【0043】
中間スラリーの希釈は、撹拌を停止した後に行った。塩素を含む湿潤紙力剤及び定着剤の添加のタイミングは、塩素を含む湿潤紙力剤については、撹拌を終了した段階とし、定着剤については中間スラリーを水で希釈し、抄造に用いられる最終濃度(パルプ濃度0.2%)に希釈した段階とした。このようにして、目的とする抄紙用スラリーを調製した。得られた抄紙用スラリーを用い、手抄きによって消臭紙を製造した。
【0044】
〔実施例2−1ないし2−6及び実施例3−1ないし3−6〕
実施例1において用いた塩素トラップ剤に代えて、以下の表1に示す塩素トラップ剤を用いた。それ以外は実施例1と同様にして消臭紙を製造した。
【0045】
〔実施例4〕
実施例1において、塩素を含有する湿潤紙力剤と定着剤とを同時に添加した。それ以外は実施例1と同様にして消臭紙を製造した。
【0046】
〔実施例5〕
実施例1において、塩素を含有する湿潤紙力剤と定着剤との添加の順序を逆にした。それ以外は実施例1と同様にして消臭紙を製造した。
【0047】
〔実施例6−1ないし6−6〕
実施例1において用いた亜鉛を含有する消臭剤の使用量を、以下の表1に示す値とした。それ以外は実施例1と同様にして消臭紙を製造した。
【0048】
〔比較例1−1ないし1−6及び比較例2−1ないし2−6〕
以下の表1に示す条件を用いた以外は実施例1と同様にして消臭紙を製造した。
【0049】
〔評価〕
実施例及び比較例で得られた消臭紙について消臭効果を評価した。消臭効果は、硫化水素の吸着量に基づき評価した。硫化水素の吸着量は次の方法で測定した。10cm×10cmにカットした消臭紙を、共栓付き三角フラスコに入れた。硫化水素の濃度が1000ppmである硫化水素/窒素混合ガスを、5mlのシリンジを用いてフラスコ内に4ppm注入した。フラスコを共栓で閉鎖して30分静置した。その後、硫化水素検知管(株式会社ガステック製の4LT)を用いて硫化水素量を測定した。4ppm注入して硫化水素の残存がない場合は、硫化水素が検知されるまで4ppmの硫化水素を繰り返し注入した。結果を表1に示す。
【0050】
【表1】
【0051】
表1に示す結果から明らかなとおり、各実施例で得られた消臭紙は、比較例の消臭紙に比べて硫化水素の吸着量が多く、消臭剤の失活が抑制されていることが判る。