(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6776166
(24)【登録日】2020年10月9日
(45)【発行日】2020年10月28日
(54)【発明の名称】電動巻上機及び電動巻上機におけるワイヤロープ溝の摩耗検知方法
(51)【国際特許分類】
B66D 5/30 20060101AFI20201019BHJP
B66B 11/08 20060101ALI20201019BHJP
【FI】
B66D5/30 Z
B66B11/08 Z
【請求項の数】6
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2017-64484(P2017-64484)
(22)【出願日】2017年3月29日
(65)【公開番号】特開2018-167918(P2018-167918A)
(43)【公開日】2018年11月1日
【審査請求日】2019年3月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】502129933
【氏名又は名称】株式会社日立産機システム
(74)【代理人】
【識別番号】110001689
【氏名又は名称】青稜特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】後藤 直樹
【審査官】
須山 直紀
(56)【参考文献】
【文献】
特開平06−166492(JP,A)
【文献】
特開昭55−089181(JP,A)
【文献】
特開2011−213479(JP,A)
【文献】
特開2003−104667(JP,A)
【文献】
特開2014−156318(JP,A)
【文献】
特開平01−235801(JP,A)
【文献】
特開2017−003410(JP,A)
【文献】
特開2008−050140(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66D 5/30
B66B 11/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
吊り荷を吊るためのワイヤロープが巻きつけられたドラムと、前記ドラムを回転させて、前記ドラムに巻きつけられた前記ワイヤロープを上下動させ前記吊り荷を上げ下げする電動機を有する電動巻上機であって、
前記ドラムは、前記ワイヤロープが通過するワイヤロープ溝を有し、
前記ワイヤロープ溝の溝底部には段差部が形成されており、
前記段差部を介して前記ワイヤロープ溝が摩耗したことを検知する摩耗検知部を更に有し、
前記摩耗検知部は、
前記ワイヤロープが前記段差部に所定の深さ入り込んだ時に押下されるボタン部と、
前記ボタン部の押下を検知したことに応答して、前記ワイヤロープ溝が摩耗したこと報知するための信号を出力するスイッチと、
を有することを特徴とする電動巻上機。
【請求項2】
前記段差部は、コの字形、U字形又はV字形に形成された断面構造を有することを特徴とする請求項1に記載の電動巻上機。
【請求項3】
前記ワイヤロープ溝と前記段差部の間の角部は、丸み部又は面取り部を構成することを特徴とする請求項1に記載の電動巻上機。
【請求項4】
前記段差部は、前記ドラムの回転方向に沿って全周にわたって形成されていることを特徴とする請求項1に記載の電動巻上機。
【請求項5】
前記段差部は、前記ドラムの回転方向に沿って部分的に形成されていることを特徴とする請求項1に記載の電動巻上機。
【請求項6】
吊り荷を吊るためのワイヤロープが巻きつけられたドラムと、前記ドラムを回転させて、前記ドラムに巻きつけられた前記ワイヤロープを上下動させ前記吊り荷を上げ下げする電動機と、前記ワイヤロープに張力を与えるシーブを有する電動巻上機であって、
前記ドラムは、前記ワイヤロープが通過する第1のワイヤロープ溝を有し、
前記第1のワイヤロープ溝の溝底部には第1の段差部が形成されており、
前記シーブは、前記ワイヤロープが通過する第2のワイヤロープ溝を有し、
前記第2のワイヤロープ溝の溝底部には第2の段差部が形成されていることを特徴とする電動巻上機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動巻上機及び電動巻上機におけるワイヤロープ溝の摩耗検知方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電動巻上機は吊り荷の巻上げや搬送を行うクレーンの巻上装置である。電動巻上機は、吊り荷を吊るためのワイヤロープが巻きつけられるドラムと、ドラムを回転させてドラムに巻きつけられたワイヤロープを上下動させ吊り荷を上げ下げする電動機を有する。例えば、特許文献1には、上記構成を有する電動巻上機が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−50140号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
通常、電動巻上機のドラムには、ワイヤロープが通過するワイヤロープ溝が形成されており、ワイヤロープはワイヤロープ溝の溝底部に沿って通過し巻き取られる。この際、ワイヤロープ溝の溝底部はワイヤロープとの接触により摩耗するにつれて深くなるが、このワイヤロープ溝の摩耗を目視で確認することは困難である。
【0005】
特許文献1は、ワイヤロープのストランド切れ等の損傷を検知しているが、ワイヤロープ溝の摩耗を検知することについては言及されていない。
【0006】
本発明の目的は、電動巻上機においてワイヤロープ溝の摩耗を目視で又は自動的に検知することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様の電動巻上機は、吊り荷を吊るためのワイヤロープが巻きつけられたドラムと、前記ドラムを回転させて、前記ドラムに巻きつけられた前記ワイヤロープを上下動させ前記吊り荷を上げ下げする電動機を有し、前記ドラムは、前記ワイヤロープが通過するワイヤロープ溝を有し、前記ワイヤロープ溝の溝底部には段差部が形成されていることを特徴とする。
【0008】
本発明の一態様の電動巻上機は、吊り荷を吊るためのワイヤロープが巻きつけられたドラムと、前記ドラムを回転させて、前記ドラムに巻きつけられた前記ワイヤロープを上下動させ前記吊り荷を上げ下げする電動機と、前記ワイヤロープに張力を与えるシーブを有し、前記ドラムは、前記ワイヤロープが通過する第1のワイヤロープ溝を有し、前記第1のワイヤロープ溝の底部には第1の段差部が形成されており、前記シーブは、前記ワイヤロープが通過する第2のワイヤロープ溝を有し、前記第2のワイヤロープ溝の溝底部には第2の段差部が形成されていることを特徴とする。
【0009】
本発明の一態様の電動巻上機におけるワイヤロープ溝の摩耗検知方法は、吊り荷を吊るためのワイヤロープが通過するワイヤロープ溝を有するドラムを回転させて、前記ドラムに巻きつけられた前記ワイヤロープを上下動させ前記吊り荷を上げ下げする電動巻上機におけるワイヤロープ溝の摩耗検知方法であって、前記ワイヤロープ溝の溝底部に、第1の高さを有する段差部を設け、前記ワイヤロープ溝が摩耗して、前記段差部の高さが前記第1の高さより小さい第2の高さになった時に、前記ワイヤロープ溝の摩耗を検知することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明の一態様によれば、電動巻上機においてワイヤロープ溝の摩耗を目視で又は自動的に検知することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図4】実施例1のワイヤロープ溝の摩耗限界時の断面図である。
【
図5】実施例1の他のワイヤロープ溝の断面図である。
【
図6】実施例1の他のワイヤロープ溝の断面図である。
【
図7】実施例1の他のワイヤロープ溝の断面図である。
【
図11】実施例2の摩耗自動検知部を備えたワイヤロープ溝の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を用いて実施例について説明する。
【実施例1】
【0013】
図1を参照して、実施例1の電動巻上機の構成について説明する。
電動巻上機50は、吊り荷の巻上げ及び巻下げを行うための駆動源となる電動機51、吊り荷を吊るためのワイヤロープ52を巻きつけるためのドラム53、電動機51の回転を減速するための減速部54、電動機51を制動するブレーキ装置55を有する。
【0014】
電動機51の回転は、減速部54を介してドラム53に伝達され、ドラム53が回転することによりドラム53に巻きつけられたワイヤロープ52が上下動して吊り荷を上げ下げする。ドラム53に巻かれるワイヤロープ52には、シーブ56を介して吊り荷を吊るロードブロック57が取り付けられている。
【0015】
図3に示すように、ドラム53には、ワイヤロープ52が均一にドラム53に巻きつくためガイドの役割を果たすワイヤロープ溝1が設けられている。
【0016】
次に、
図10を参照して、シーブ56の構成について説明する。
【0017】
シーブ56とは、軸受により支持された自由回転可能な円盤形の機構であり、円盤の外形部にはドラム53と同様にワイヤロープ溝1が設けられている。ワイヤロープ溝1を通過するワイヤロープ52に張力を与えることによりロードブロック57を保持している。
【0018】
次に、
図2〜
図4を参照して、ワイヤロープ溝1について説明する。
図2は従来のワイヤロープ溝1の断面である。
図2に示すように、ワイヤロープ52はワイヤロープ溝1の溝底部2に沿って通過して巻き取られる。溝底部2はワイヤロープ52との接触により摩耗するにつれて深くなるが、目視での確認は難しいためノギズ等の測定機を用いて摩耗量を測定する。
【0019】
図3は、実施例のワイヤロープ溝3の断面である。
図3に示すように、ワイヤロープ52が通過するワイヤロープ溝1の溝底部2に高さHの段差部4を設ける。通常時はこの高さHを保つ状態でワイヤロープ52がワイヤロープ溝1に沿って通過する。ワイヤロープ溝1が摩耗するにつれて、ワイヤロープ溝1の溝底部2に設けられた段差部4の高さHは小さくなる。
【0020】
図4は、ワイヤロープ溝1の摩耗限界時の断面を示す。ここで、摩耗限界時とは、例えば、ワイヤロープ径の約10%だけワイヤロープ溝1が摩耗した時である。摩耗限界になると、段差部4の高さHの値はほぼ0になり、ワイヤロープ52は段差部4の底部5に接触する。この時、ワイヤロープ溝3は摩耗限界に達していると判断できる。
【0021】
また、ワイヤロープ溝1の溝底部2に設けられた段差部4の形状は、例えば、
図3に示すような断面が略コの字形の構造、
図5に示すような断面が略U字形の構造、
図6に示すような断面が略V字形の構造に形成可能である。
【0022】
また、
図7に示すようにワイヤロープ溝1と段差部4との間に形成される角部6は、Rで丸みをつけるか又は面取りをすることにより、ワイヤロープ52にかかる負荷を小さくすることができる。
【0023】
また、ワイヤロープ溝1及び段差部4の形成方法としては、鋳鉄製のドラム53であれば鋳込み時に木型によってワイヤロープ溝1及び段差部4を形成する方法、切削によってワイヤロープ溝1及び段差4を形成する方法等がある。
【0024】
また、段差部4は、
図8に示すように、ワイヤロープ溝1と同一方向に全周にわたって形成するのが好ましい(ドラム53の回転方向に沿って全周にわたって形成する)。あるいは、段差部4は、
図9に示すように、ワイヤロープ溝1と垂直方向に部分的に形成しても良い(ドラム53の回転方向に沿って部分的に形成する)。
実施例1によれば、ワイヤロープ溝1の摩耗を目視で検知することができる。
【実施例2】
【0025】
図11を参照して、実施例2について説明する。
実施例2が実施例1と異なる点は、実施例1では目視でワイヤロープ溝1の摩耗を検知しているのに対して、実施例2ではワイヤロープ溝1の摩耗を自動的に検知する点である。その他の電動巻上機50の構成等については実施例1の構成と同様なのでその説明は省略する。
【0026】
図11に示すように、ワイヤロープ溝1の溝底部2に段差部4が設けられている。段差部4の底部5には、ドラム53の内面部7まで貫通する貫通穴3が設けられている。貫通穴3には、上端が段差部4の底部5に位置し、下端がドラム53の内面部7に位置するボタン部101が配置されている。ドラム53の内面部7にはスイッチ100が配置されている。
【0027】
このような構成の下、通常時は、段差部4の存在によりワイヤロープ52がボタン部101に接触することはない。しかし、ワイヤロープ溝1が摩耗限界に達すると段差部4がなくなり、ワイヤロープ52がボタン部101の上端を押下してボタン部101の下端がスイッチ100に接触する。ボタン部101の下端がスイッチ100に接触すると、スイッチ100はワイヤロープ溝1が摩耗限界に達したこと報知するための信号を出力する。
【0028】
実施例2によれば、ワイヤロープ溝1の摩耗を自動的に検知することができる。
【符号の説明】
【0029】
1 ワイヤロープ溝
2 溝底部
3 貫通穴
4 段差部
5 底部
6 角部
7 内面部
50 電動巻上機
51 電動機
52 ワイヤロープ
53 ドラム
54 減速機
55 ブレーキ装置
56 シーブ
57 ロードブロック
100 スイッチ
101 ボタン部