(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6776173
(24)【登録日】2020年10月9日
(45)【発行日】2020年10月28日
(54)【発明の名称】制御棒及び沸騰水型原子炉
(51)【国際特許分類】
G21C 7/113 20060101AFI20201019BHJP
G21D 1/00 20060101ALI20201019BHJP
【FI】
G21C7/113GDB
G21D1/00 W
【請求項の数】14
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2017-81453(P2017-81453)
(22)【出願日】2017年4月17日
(65)【公開番号】特開2018-179832(P2018-179832A)
(43)【公開日】2018年11月15日
【審査請求日】2020年1月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】507250427
【氏名又は名称】日立GEニュークリア・エナジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】橘 正彦
(72)【発明者】
【氏名】金田 潤也
(72)【発明者】
【氏名】石岡 真一
(72)【発明者】
【氏名】荒川 貴行
(72)【発明者】
【氏名】瀬戸 武裕
【審査官】
関口 英樹
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭63−196889(JP,A)
【文献】
特開昭54−140091(JP,A)
【文献】
特開2014−211309(JP,A)
【文献】
特開2013−002984(JP,A)
【文献】
特開2003−307583(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G21C7/00−7/36
G21D1/00−9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
沸騰水型原子炉内に配置される制御棒であって、
水平断面が十字状のタイロッドと、
前記タイロッドの一端に接合され、水平断面が十字状のハンドルと、
前記タイロッドおよび前記ハンドルに接合され、水平断面がU字状のシースと、を備え、
前記シースは、前記タイロッドの一部を被覆する被覆部を有し、
前記被覆部は、前記タイロッドが露出する露出部を有し、
前記被覆部は、前記露出部を複数有し、
前記複数の露出部同士の間隔が3.2mm以下であることを特徴とする制御棒。
【請求項2】
沸騰水型原子炉内に配置される制御棒であって、
水平断面が十字状のタイロッドと、
前記タイロッドの一端に接合され、水平断面が十字状のハンドルと、
前記タイロッドおよび前記ハンドルに接合され、水平断面がU字状のシースと、を備え、
前記シースは、前記タイロッドの一部を被覆する被覆部を有し、
前記被覆部は、前記タイロッドが露出する露出部を有し、
前記被覆部の端部から前記露出部までの距離が3.2mm以下であることを特徴とする制御棒。
【請求項3】
沸騰水型原子炉内に配置される制御棒であって、
水平断面が十字状のタイロッドと、
前記タイロッドの一端に接合され、水平断面が十字状のハンドルと、
前記タイロッドおよび前記ハンドルに接合され、水平断面がU字状のシースと、を備え、
前記シースは、前記タイロッドの一部を被覆する被覆部を有し、
前記被覆部は、前記タイロッドが露出する露出部を有し、
前記被覆部は、前記露出部を複数有し、
前記複数の露出部同士の間隔が3.2mm以下であり、
前記被覆部の端部から前記露出部までの距離が3.2mm以下であることを特徴とする制御棒。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載の制御棒であって、
前記露出部は、前記被覆部を貫通する貫通孔であり、
前記貫通孔の前記被覆部表面における形状は、略円形、略矩形、スリット形のいずれかであることを特徴とする制御棒。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項に記載の制御棒であって、
前記シース内に中性子吸収材を備え、
前記シースは、前記中性子吸収材が露出する冷却孔を複数有し、
前記シースの水平方向における断面積が、いずれの位置においても、前記被覆部に前記露出部を設ける前の前記シースの水平方向における最小断面積を下回らないように前記露出部が設けられることを特徴とする制御棒。
【請求項6】
沸騰水型原子炉内に配置される制御棒であって、
水平断面が十字状のタイロッドと、
前記タイロッドの一端に接合され、水平断面が十字状のハンドルと、
前記タイロッドおよび前記ハンドルに接合され、水平断面がU字状のシースと、を備え、
前記シースは、前記タイロッドの一部を被覆する被覆部を有し、
前記被覆部は、前記タイロッドが露出する露出部を有し、
前記シース内に中性子吸収材を備え、
前記シースは、前記中性子吸収材が露出する冷却孔を複数有し、
前記シースの水平方向における断面積が、いずれの位置においても、前記被覆部に前記露出部を設ける前の前記シースの水平方向における最小断面積を下回らないように前記露出部が設けられることを特徴とする制御棒。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか1項に記載の制御棒であって、
前記シース内に中性子吸収材を備え、
前記シースは、前記中性子吸収材が露出する冷却孔を複数有し、
前記複数の冷却孔は、前記シース表面において千鳥状に配置されることを特徴とする制御棒。
【請求項8】
原子炉の運転を制御する制御棒を備える沸騰水型原子炉であって、
前記制御棒は、水平断面が十字状のタイロッドと、
前記タイロッドの一端に接合され、水平断面が十字状のハンドルと、
前記タイロッドおよび前記ハンドルに接合され、水平断面がU字状のシースと、を備え、
前記シースは、前記タイロッドの一部を被覆する被覆部を有し、
前記被覆部は、前記タイロッドが露出する露出部を有し、
前記被覆部は、前記露出部を複数有し、
前記複数の露出部同士の間隔が3.2mm以下であることを特徴とする沸騰水型原子炉。
【請求項9】
原子炉の運転を制御する制御棒を備える沸騰水型原子炉であって、
前記制御棒は、水平断面が十字状のタイロッドと、
前記タイロッドの一端に接合され、水平断面が十字状のハンドルと、
前記タイロッドおよび前記ハンドルに接合され、水平断面がU字状のシースと、を備え、
前記シースは、前記タイロッドの一部を被覆する被覆部を有し、
前記被覆部は、前記タイロッドが露出する露出部を有し、
前記被覆部の端部から前記露出部までの距離が3.2mm以下であることを特徴とする沸騰水型原子炉。
【請求項10】
原子炉の運転を制御する制御棒を備える沸騰水型原子炉であって、
前記制御棒は、水平断面が十字状のタイロッドと、
前記タイロッドの一端に接合され、水平断面が十字状のハンドルと、
前記タイロッドおよび前記ハンドルに接合され、水平断面がU字状のシースと、を備え、
前記シースは、前記タイロッドの一部を被覆する被覆部を有し、
前記被覆部は、前記タイロッドが露出する露出部を有し、
前記被覆部は、前記露出部を複数有し、
前記複数の露出部同士の間隔が3.2mm以下であり、
前記被覆部の端部から前記露出部までの距離が3.2mm以下であることを特徴とする沸騰水型原子炉。
【請求項11】
請求項8から10のいずれか1項に記載の沸騰水型原子炉であって、
前記露出部は、前記被覆部を貫通する貫通孔であり、
前記貫通孔の前記被覆部表面における形状は、略円形、略矩形、スリット形のいずれかであることを特徴とする沸騰水型原子炉。
【請求項12】
請求項8から11のいずれか1項に記載の沸騰水型原子炉であって、
前記シース内に中性子吸収材を備え、
前記シースは、前記中性子吸収材が露出する冷却孔を複数有し、
前記シースの水平方向における断面積が、いずれの位置においても、前記被覆部に前記露出部を設ける前の前記シースの水平方向における最小断面積を下回らないように前記露出部が設けられることを特徴とする沸騰水型原子炉。
【請求項13】
原子炉の運転を制御する制御棒を備える沸騰水型原子炉であって、
前記制御棒は、水平断面が十字状のタイロッドと、
前記タイロッドの一端に接合され、水平断面が十字状のハンドルと、
前記タイロッドおよび前記ハンドルに接合され、水平断面がU字状のシースと、を備え、
前記シースは、前記タイロッドの一部を被覆する被覆部を有し、
前記被覆部は、前記タイロッドが露出する露出部を有し、
前記シース内に中性子吸収材を備え、
前記シースは、前記中性子吸収材が露出する冷却孔を複数有し、
前記シースの水平方向における断面積が、いずれの位置においても、前記被覆部に前記露出部を設ける前の前記シースの水平方向における最小断面積を下回らないように前記露出部が設けられることを特徴とする沸騰水型原子炉。
【請求項14】
請求項8から13のいずれか1項に記載の沸騰水型原子炉であって、
前記シース内に中性子吸収材を備え、
前記シースは、前記中性子吸収材が露出する冷却孔を複数有し、
前記複数の冷却孔は、前記シース表面において千鳥状に配置されることを特徴とする沸騰水型原子炉。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制御棒及びこれを備える沸騰水型原子炉に関する。
【背景技術】
【0002】
沸騰水型原子炉は、複数の燃料集合体が装荷された炉心を原子炉圧力容器内に有している。これらの燃料集合体内に存在する核燃料物質に含まれるウラン235が、中性子を吸収して核分裂を起こし、熱を発生する。炉心に供給された炉水(冷却水)は、その熱によって加熱されて沸騰し、一部が蒸気になる。炉心内では、上記の核分裂によって新たに発生する中性子が他のウラン235を分裂させる連鎖反応が起きている。
【0003】
核分裂の連鎖反応量を制御するため、中性子吸収材を内部に収納する制御棒が利用される。このうち、沸騰水型原子炉で通常使用される制御棒は、水平断面が十字形をしており、4体の燃料集合体のチャンネルボックスの相互間に形成される間隙(飽和水領域)内に挿入される。4体の燃料集合体により構成される1つのセル当たり1体の制御棒が設けられる。原子炉圧力容器内でほぼ1つのセル毎にそれら4体の燃料集合体の下方に、制御棒案内管が配置される。制御棒は、セル内の4体の燃料集合体の各チャンネルボックス、及び制御棒案内管をガイド部材として利用する。また、制御棒は、下端部が制御棒駆動機構に連結され、制御棒駆動機構の駆動操作によって炉心に挿入されたり、炉心から引抜かれたりする。制御棒は、反応度制御及び出力分布の調整に用いられる重要機器である。
【0004】
図9、10、11を参照して、沸騰水型原子炉に用いられる従来のハフニウム棒型制御棒の構造について簡単に説明する。制御棒101は、十字型の水平断面形状を有するタイロッド103上端部にハンドル102が接合されており、タイロッド103の下端部に落下速度リミッタ111が接合されている。制御棒101は、タイロッド103から四方に伸びる4枚のブレード112を有している。
【0005】
図10は、4枚のうち1枚のブレード112について、ハンドル102とシース105とタイロッド103との接合部の一部を拡大した平面図である。各ブレード112は、タイロッド103とハンドル102とに取り付けられ、水平断面がU字状であるシース105を有している(
図11)。
【0006】
U字型の水平断面形状を有するシース105は、内部に中性子吸収材である棒状のハフニウム部材104を有している。シース105には、シース105の内外を貫通する冷却孔106を複数個設けている。冷却孔106は、ブレード112の複数の所定の高さ位置に、1つのブレード112あたり4個(裏表に各2個づつ)設けている(
図9)。なお、ハフニウム部材104は管状や板状の場合もある。
【0007】
近年、沸騰水型原子炉に用いられる制御棒において、シースの表面に微小なひびが生じる事象が報告されている。このひびは、応力、腐食及び放射線照射の3つの環境要因が重畳したときに発生する照射誘起型応力腐食割れ(IASCC:Irradiation Assisted Stress Corrosion Cracking)であると考えられている。このひびは、隙間内に不純物が蓄積することで炉水の通流が妨げられることで発生する隙間腐食が起点となって発生する。シースに生じるIASCCを抑制するため、例えば、特許文献1には、ハンドルと中性子吸収材(ハフニウム部材)を固定するピンの端面に窪みを設けることでシース内部での炉水の流路を形成する技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2011−208959号公報
【特許文献2】特開2009−128349号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Yoichi Wada et al., Effects of γ-Ray Irradiation Upon SCC Initiation and Propagation Under BWR Conditions, 14th Int. Conf. on Environmental Degradation of Materials in Nuclear Power Systems, Virginia Beach, VA, August 23-27, 2009, P.596-603.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ハフニウム棒型制御棒の場合、制御棒の下方から上方へ炉水が通流する。シースとハフニウム棒の間隙が適切な間隔に管理されていれば、炉水は当該間隙を通流することができる。そのため、ハフニウム棒と近接するシース内面への不純物の蓄積が生じず、炉水の通流の阻害が生じない。その結果、シース内面はシース外面と同程度の酸素濃度が維持されるので、隙間腐食ならびに隙間腐食を起点としたひびの発生が抑制される。
【0011】
しかしながら、制御棒の中心部に位置するタイロッドとシースとが重なり合う領域は隙間幅が狭く、かつ広範囲で重なり合ってため、炉水が均一に通流できず停滞する可能性がある。このようにして停滞水が発生すると、腐食生成物が排出されにくくなり、物質の蓄積や固着が進行することで物理的に炉水の通流を妨害し易くなる。さらに、炉水に含まれる酸素もタイロッドとシースが重なり合う領域の停滞水中には供給されにくくなる。酸素の枯渇が発生した隙間内(タイロッドとシースが重なり合う領域)では溶解反応が進行し、酸素が十分存在する領域(隙間外の表面)で酸素の還元反応が進行することで隙間腐食が進行する。そのため、シースの隙間内面側で隙間腐食を起点としたひび割れも生じるおそれがある。
【0012】
特許文献1に記載されている技術はIASCCを抑制することはできるものの、ピンを当てるので応力が負荷され、且つ、隙間幅が狭く且つ広い範囲で近接しているため、隙間腐食を十分抑制することができないおそれがある。
【0013】
本発明は前記状況に鑑みてなされたものであり、沸騰水型原子炉において、制御棒を構成するタイロッドおよびシース間の隙間腐食を抑制可能な制御棒及びこれを備える沸騰水型原子炉を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するために、本発明は、沸騰水型原子炉内に配置される制御棒であって、水平断面が十字状のタイロッドと、前記タイロッドの一端に接合され、水平断面が十字状のハンドルと、前記タイロッドおよび前記ハンドルに接合され、水平断面がU字状のシースと、を備え、前記シースは、前記タイロッドの一部を被覆する被覆部を有し、前記被覆部は、前記タイロッドが露出する露出部を有
し、前記被覆部は、前記露出部を複数有し、前記複数の露出部同士の間隔が3.2mm以下であることを特徴とする。
【0015】
また、本発明は、 原子炉の運転を制御する制御棒を備える沸騰水型原子炉であって、前記制御棒は、水平断面が十字状のタイロッドと、前記タイロッドの一端に接合され、水平断面が十字状のハンドルと、前記タイロッドおよび前記ハンドルに接合され、水平断面がU字状のシースと、を備え、前記シースは、前記タイロッドの一部を被覆する被覆部を有し、前記被覆部は、前記タイロッドが露出する露出部を有
し、前記被覆部は、前記露出部を複数有し、前記複数の露出部同士の間隔が3.2mm以下であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、沸騰水型原子炉において、制御棒を構成するタイロッドおよびシース間の隙間腐食を抑制可能な制御棒及びこれを備える沸騰水型原子炉を実現することができる。
【0017】
上記した以外の課題、構成および効果は、以下の実施形態の説明によって明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の一実施形態に係る制御棒の一部を示す斜視図である。
【
図3】
図2のIIIb−IIIb線切断部端面図である。
【
図4】
図2のシース5における被覆部9部の一部を拡大した図である。
【
図5A】発明者らが実施した高温水中浸漬試験によりステンレス鋼の隙間内に発生した浸食の拡大写真である。
【
図5B】発明者らが実施した高温水中浸漬試験においてステンレス鋼の隙間内表面に発生した浸食の位置を示す図である。
【
図6A】
図9に示した従来のハフニウム棒型制御棒のハンドル102とシース105とタイロッド103との接合部の一部を拡大した平面図、ならびに断面の模式図である。
【
図6B】
図1のII部分の拡大図、ならびに断面の模式図である。
【
図8】本発明の一実施形態に係る沸騰水型原子炉の概略構成を示す図である。
【
図9】沸騰水型原子炉に用いられる従来のハフニウム棒型制御棒の構造を示す斜視図である。
【
図10】
図9のハンドル102とシース105とタイロッド103との接合部の一部を拡大した平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、適宜図面を参照して本発明に係る制御棒及びこれを備える沸騰水型原子炉について詳細に説明する。なお、各図面において、同一の構成については同一の符号を付し、重複する部分についてはその詳細な説明は省略する。
【実施例1】
【0020】
図1から
図6Bを参照して、実施例1の制御棒の構成について説明する。
図1は、本実施例に係る制御棒の一部を示す斜視図である。
図2は、
図1のII部分の拡大図である。
図3は、
図2のIIIb−IIIb線切断部端面図である。
図4は、
図2のシース5における被覆部9部の一部を拡大した図である。
図5A,
図5Bは、発明者らが実施した高温水中浸漬試験によるステンレス鋼の隙間内浸食の結果を示す図である。また、
図6Bは
図1のII部分の拡大図とその断面を示す模式図であり、
図6Aは比較のために示す従来の制御棒の対応部分の拡大図とその断面を示す模式図である。
【0021】
図1,
図2,
図3に示すように、本実施例に係る制御棒1は、設置面に対して水平な方向に切断した断面(水平断面)が十字状のタイロッド3を備えている。また、この制御棒1は、タイロッド3の上端に接合された水平断面が十字状のハンドル2を備えている。タイロッド3の十字とハンドル2の十字は、上部から見た場合に軸心が一致する位置で、かつ上部から見た平面視において両者の十字状の端部(タイロッド3の十字とハンドル2の十字)が重なり合う向きで、相互に固定されている。
【0022】
そして、この制御棒1は、タイロッド3の十字状の各端部から延出するように、かつハンドル2の下方に延出するようにシース5が設けられている。言い換えると、軸心に配置された十字状のタイロッド3の形状に沿って四方に伸びるように4枚のシース5がタイロッド3に接合されると共に、十字状のハンドル2の下方に伸びるようにシース5が接合されている。
【0023】
ハフニウム部材4は棒状であり、ハンドル2の下方に吊り下げられている。シース5は、水平断面がU字状であり(
図3参照)、ハフニウム部材4を覆うように設置されている。シース5には内部のハフニウム部材4が露出するように複数の冷却孔6が設けられている(
図1、
図2参照)。シース5は、タイロッド3と重なり合う部分の任意の箇所で、制御棒1の長手方向に接合され、ハンドル2と重なり合う部分の任意の箇所で制御棒1の短手方向に接合されている。これらの接合は、例えば、溶接で行われている。これらの溶接は通常行われる一般的な装置及び条件で行うことができる。
【0024】
このような構造であるため、シース5は、
図2,
図3に示すように、タイロッド3の一部を被覆する被覆部9を有している。なお、
図2,
図3では4枚のシース5のうち1枚のシース5及びタイロッド3を図示している。
図2,
図3には示していないが同じ構造のシース5及びハンドル2がタイロッド3の他の3つの端部にも同様に設けられている。この被覆部9におけるタイロッド3とシース5の隙間幅dは非常に狭く、0.2mmから1.0mmの範囲としている。
【0025】
ここで、例えば、上記特許文献2にはハフニウム部材とシースの隙間幅を0.2mmより大きく1.0mm以下とする旨が記載されており、本実施例では、タイロッド3とシース5の隙間幅dをこれと同等としている。なお、ハフニウム部材4は棒状であるので、
図3に示すように、シース5と任意の隣接した2つのハフニウム部材4との間には、前記した隙間幅dよりも広い(1mmより大きい)略三角形の隙間が生じる。
【0026】
従って、シース5とハフニウム部材4の隙間は炉水の通流が、
図2,
図3に示すタイロッド3とシース5の隙間よりも容易であるので、炉水からの酸素の供給も容易となる。そのため、シース5とハフニウム部材4の隙間と、シース5の外との酸素濃度に大きな差が生じず、隙間腐食が生じ難くなっている。
【0027】
これに対し、被覆部9におけるタイロッド3とシース5の隙間幅dは前記したように狭く、炉水が通流し難くなっているので、炉水からの酸素の供給も困難となる。そのため、タイロッド3とシース5の間と、シース5の外とで酸素濃度に大きな差が生じる可能性があり、隙間腐食が生じ易くなる。
【0028】
ここで、上記非特許文献1によれば、シースの外が高酸素濃度(1000ppb)である場合、腐食電位は100〜200mVvs.SHEである。SHEは標準水素電極を表し、Vvs.SHEは標準水素電極電位を基準とした電位を表している。また、タイロッドとシースとが重なり合って接合されている領域(被覆部)に形成される隙間の内部の酸素濃度を、シースの外の1/20の酸素濃度(50ppb)とした場合の腐食電位は、−200〜−300mVvs.SHEとなる。
【0029】
このことから、タイロッド3とシース5の間の酸素濃度が、シース5の外の酸素濃度の1/20になると、隙間の内外の腐食電位に大きな差が発生することから、隙間腐食が発生する可能性が高くなると言える。
【0030】
隙間内のある深さ位置で酸素濃度が1/20に低下して、隙間内の腐食電位が低下して電位差が生じ隙間腐食が発生するものと考えられる。このため本発明者らは、寸法50mm×15mmのステンレス鋼の板材2枚を重ね合わせて隙間部を形成し、高温水中に浸漬して、隙間内の浸食発生位置を調べた。
図5A,
図5Bに一例として隙間腐食により発生した浸食を観察した結果、ならびに隙間内で浸食が発生した位置をまとめた結果を示す。
【0031】
その結果、浸食は隙間の開口部から深さ約1.2mm〜2.0mmの位置に集中して浸食が発生した。(
図5Bに示すように、平均値は約1.6mmである。)このため被覆部9において、シース5とタイロッド3との間隙に形成される最大の隙間深さは、1.6mmまで許容できると考えた。すなわち、隙間の開口部から隙間内の最も深い位置までの距離を1.6mmにでき、隙間部の両側を炉水に接触させれば3.2mmまで許容できることになる。
【0032】
図2,
図3に示すように、本実施例では、タイロッド3を被覆する被覆部9は、タイロッド3の表面が露出する露出部8を1つ以上有している。さらに
図4に示すように、被覆部9は、使用される態様において、複数個の露出部8同士の端部間の直線距離L1が3.2mm以下となるように、露出部8を配置している。また、被覆部9の端部と露出部8の端部との直線距離L2が、被覆部9の何れの部位においても3.2mmを上回らないように露出部8を配置している。逆に言えば、被覆部9のうち露出部8を設けない領域では、dなる間隙を介して、シース5とタイロッド3が重なっていることになる。
【0033】
このように被覆部9に露出部8を設置すると、被覆部9において形成される隙間の深さは最大1.5mmとなる。このため、露出部8を通じてタイロッド3が炉水と接触できる。そのため、露出部8の端部同士、および被覆部9の端部と露出部8の端部との距離を、いずれの位置においても3.2mm以下として設計することにより、炉水によりタイロッド3とシース5の間に酸素などの酸化剤が供給され、タイロッド3とシース5の間と、シース5の外とにおける酸素濃度の差が低減し、ひび割れにつながる可能性がある隙間腐食を抑制することができる。
【0034】
また、本実施例においては、シース5の水平断面の面積の最小値が、露出部8を設けない従来の制御棒における最低断面積を下回らないように、露出部8を設けるのが好ましい。
図1,
図2,
図3,
図6Bに示すように、シース5には、シース5の内側と外側を貫通する冷却孔(貫通孔)6(6a,6b)が設けられている。この冷却孔(貫通孔)6(6a,6b)は、4枚のブレードの裏表両面に複数個設けられている。ある特定の高さ位置に着目すれば、1ブレードあたり計4個の冷却孔(貫通孔)6(6a,6b)が設けられており、したがってブレードの片面には2個設けられている。
【0035】
シース5における水平方向の断面積が、露出部8を設けない従来の制御棒における最小断面積、すなわち冷却孔6a、6bが設けられた高さ位置における水平方向断面積を下回ると、シース5の強度が低下するおそれがある。このため、水平方向に2個設けられた冷却孔6の中心を通る水平線に沿った断面において、最小断面積となる。
【0036】
このため、
図6Bに示すように、このうち1組の冷却孔6bを上下方向に冷却孔6a直径寸法と同じ距離だけ移動して設置すれば、言い換えると、複数の冷却孔6a,6bを千鳥状に配置すれば、冷却孔6bの直径×シース厚さの分だけ断面積が増加する。シース5によってタイロッド3が被覆される被覆部9に位置するシース5に貫通孔を設けて露出部8を設けた場合であっても、露出部8を設けない場合の最低断面積を下回らない構成とする。これにより、シース5の強度低下を回避して露出部8を設けることができ、隙間腐食を抑制できる。
【実施例2】
【0037】
図7Aから
図7Cを参照して、実施例2の制御棒の構成について説明する。
図7Aから
図7Cはそれぞれ
図2の変形例を示しており、露出部8や被覆部9の形状が
図2と相違する点で実施例1の制御棒とは異なっている。
【0038】
図2に示す制御棒ではタイロッド3とシース5の接合領域の被覆部9に多数の円形の露出部(貫通孔)8を設けているのに対し、
図7Aの制御棒では制御棒の短手方向に長い(延在する)スリットを露出部(貫通孔)8として設けている。多数の円形の露出部(貫通孔)8に替えて、
図7Aのようにスリット状に露出部(貫通孔)8を設けることで被覆部9の機械的な強度の低下を最小限に抑えることができる。
【0039】
なお、
図7Aのように露出部(貫通孔)8をスリット状に設ける場合も、実施例1(
図2)と同様に、隣接するスリット同士の間隔(距離L1)を3.2mm以下になるように露出部(貫通孔)8を配置するのが望ましい。また、被覆部9の端部と露出部(貫通孔)8の端部との直線距離L2が被覆部9の何れの部位においても3.2mmを上回らないように露出部(貫通孔)8を配置するのが望ましい。
【0040】
また、
図7Bの制御棒では円形の露出部(貫通孔)8に替えて、露出部(貫通孔)8を矩形(または正方形)に形成している。露出部(貫通孔)8を矩形(または正方形)にすることで実施例1(
図2)と同様に隙間腐食の防止効果を得ることができ、さらに被覆部9の端部(角部)における配置(レイアウト)がしやすいなどのメリットもある。
【0041】
また、
図7Cに示すように、被覆部9に露出部(貫通孔)8を設けずに、被覆部9を制御棒の短手方向に短く形成することで、タイロッド3とシース5の接合領域の被覆部9の面積(すなわち、タイロッド3とシース5との重なり)を低減し、タイロッド3とシース5の間の隙間腐食を抑制することも可能である。この場合、タイロッド3とシース5の接合部の機械的な強度を考慮して、タイロッド3とシース5の接合領域の被覆部9の面積(すなわち、タイロッド3とシース5との重なり)を設計する必要がある。
【実施例3】
【0042】
図8を参照して、本実施例の沸騰水型原子炉について説明する。
図8は、本実施例に係る沸騰水型原子炉の構成の概略を説明する概略説明図である。
図8に示すように、本実施例に係る沸騰水型原子炉80は、原子炉格納容器81と、圧力容器82とを有している。原子炉格納容器81は、冷却水喪失時などに圧力障壁となると共に、放射性物質の放散に対する障壁を形成するための施設であり、燃料集合体が収められた圧力容器(原子炉)などの重要な機器を覆っている。
【0043】
原子炉格納容器81は、その目的を果たすため、内部に水を有し、原子炉から放出される蒸気を水で凝縮して圧力の上昇を防ぐ圧力抑制室プール83を有している。圧力容器82は、原子炉の炉心を収めた状態で内部の圧力を保持する容器である。圧力容器82内には冷却水Wが収められている。冷却水Wは、再循環ポンプ84により圧力容器82内を循環する。
【0044】
ここで、本実施例に係る沸騰水型原子炉80は、圧力容器82の下部に、実施例1または実施例2で説明した本発明に係る制御棒1を備えている。本実施例においては、4体の燃料集合体85(
図8には簡略的に図示している)にて構成される1つのセル当たり1体の制御棒1を備えている。制御棒1は、
図1に示すように、タイロッド3の下端部に落下速度リミッタ11が接合されている。制御棒1は、落下速度リミッタ11の下部が制御棒駆動機構(図示せず)に連結され、制御棒駆動機構の駆動操作により圧力容器82(炉心)に挿入されたり、炉心から引抜かれたりすることによって、反応度制御及び出力分布の調整を行う。
【0045】
本実施例に係る沸騰水型原子炉80は、実施例1や実施例2で説明した本発明に係る制御棒1を備えており、冷却水Wによってタイロッド3とシース5の間に酸素を効果的に供給することができ、酸素濃度を高くできる。そのため、タイロッド3とシース5の間の酸素濃度がシース5の外の酸素濃度の1/20よりも高くなり、隙間腐食が抑制される。従って、本実施例に係る沸騰水型原子炉80は、メンテナンスに掛かる手間及びコストを低減することができる。
【0046】
以上、本発明の一実施形態に係る制御棒及びこれを備える沸騰水型原子炉について詳細に説明したが本発明の主旨はこれに限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【符号の説明】
【0047】
1…制御棒
2…ハンドル
3…タイロッド
4…ハフニウム部材
5…シース
6,6a,6b…冷却孔(貫通孔)
8…露出部(貫通孔)
9…被覆部
11…落下速度リミッタ
80…沸騰水型原子炉
81…原子炉格納容器
82…圧力容器
83…圧力抑制室プール
84…再循環ポンプ
W…冷却水
85…燃料集合体
101…制御棒
102…ハンドル
103…タイロッド
104…ハフニウム部材
105…シース
106…冷却孔
111…落下速度リミッタ
112…ブレード
d…隙間幅
L1…複数個の露出部8同士の端部間の直線距離
L2…被覆部9の端部と露出部8の端部との直線距離。