(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
汚染水、または、汚染土壌に含まれる溶出液を、pH4超かつpH8未満に調整し、0〜60℃の温度および大気圧下で、硫黄含有量が0.1質量%以上5質量%以下である鉄または鉄合金からなる金属粉に接触させることを含む、汚染水または汚染土壌中に含まれる過塩素酸塩、塩素酸塩、亜塩素酸塩又は次亜塩素酸塩の除去方法。
【背景技術】
【0002】
過塩素酸塩は、過塩素酸イオン(ClO
4−)を含む塩であり、ロケットやミサイル燃料の推進剤、火薬、爆薬、花火等にしばしば使用される強力な酸化剤である。他にも、リチウム電池の電解質や金属錯体触媒の対アニオン等にも使われている。
【0003】
近年、この過塩素酸イオン(ClO
4−)が環境水、飲料水や食品などに存在することが明らかとなり、その影響が懸念されている。過塩素酸イオン(ClO
4−)は甲状腺におけるヨウ素の取り込みを抑制する作用を有しており、そのため、適切な排水処理技術が必要とされている(非特許文献1)。
【0004】
また、過塩素酸塩は上述の通りミサイル燃料の推進剤、火薬などに用いられているが、これらの使用の多くは軍が関連するもとのと推定される。よって、軍用地などにおける土壌では、過塩素酸イオン(ClO
4−)が一般の土壌より多く含まれている可能性が高い。
【0005】
しかし、従来の水処理技術を過塩素酸イオン(ClO
4−)の処理に適用することは難しいと考えられている。
【0006】
これまでに報告されている過塩素酸塩の浄化手段としては、イオン交換樹脂で吸着除去した例(特許文献1)もしくは両性イオン交換樹脂で吸着除去した例(特許文献2)、バクテリアを用いる過塩素酸アンモニウムの生物学的浄化の例(特許文献3)等がある。さらに、特定の複素環置換芳香族化合物を含む過塩素酸イオン補足剤を用いる例(特許文献4)、KClを用いて廃水から過塩素酸塩イオンを除去する方法(特許文献5)も報告されている。また、熱水と各種金属粉を混合する事によって過塩素酸塩を除去する手段も知られている(非特許文献1)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上述の特許文献1及び2に記載されているようなイオン交換樹脂を用いる過塩素酸塩の浄化は可能と考えられるが、使用後のイオン交換樹脂の廃棄する際に問題が起こる。つまり、過塩素酸イオン(ClO
4−)の抜本的な処理のためには無害な化学種、すなわちCl
−まで分解する必要がある。
【0010】
また、特許文献3〜5や非特許文献1に記載されているような浄化方法は、有望な浄化方法であると考えられるが、簡易性に欠けるという難点がある。特に高温高圧水を使用する非特許文献1記載の方法では、高度な装置が必要となり、コストが高くなる恐れがある。微生物を使用する特許文献3記載の技術でも、当該微生物の人体に対する影響がまだ分かっていないという問題もある。
【0011】
さらに、過塩素酸以外にも、塩素酸塩、亜塩素酸塩又は次亜塩素酸塩といった塩素酸系化合物による土壌等の汚染もあわせて問題となる可能性がある。
【0012】
本発明は、上記の様な問題点に着目してなされたものであって、その目的は、簡易かつ効率良く、汚染水または汚染土壌から過塩素酸塩、塩素酸塩、亜塩素酸塩又は次亜塩素酸塩を除去できる浄化方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは鋭意検討を重ね、下記構成によって上記課題が解決できることを見出した。
【0014】
すなわち、本発明の一局面に係る過塩素酸塩、塩素酸塩、亜塩素酸塩又は次亜塩素酸塩の浄化方法は、汚染水、または、汚染土壌に含まれる溶出液を、pH4超かつpH8未満に調整し、0〜60℃の温度および大気圧下で、硫黄含有量が0.1質量%以上5質量%以下である鉄または鉄合金からなる金属粉に接触させることを含む。
【0015】
また、前記浄化方法において、前記金属粉がアトマイズ粉であることが好ましい。
【0016】
さらに、前記浄化方法において、前記汚染水、または、前記汚染土壌に含まれる溶出液に、前記金属粉に加えて還元剤を接触させることを含むことが好ましい。
【0017】
また、前記還元剤が、尿素またはアセトンから選択される少なくとも1つであることが好ましい。
【0018】
本発明の他の局面に係る浄化処理剤は、上述した浄化方法に使用される浄化処理剤であって、硫黄含有量が0.1質量%以上5質量%以下である金属粉を含有することを特徴とする。
【0019】
前記浄化処理剤は、さらに還元剤を含むことが好ましい。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、簡易かつ効率良く、汚染水または汚染土壌から過塩素酸塩、塩素酸塩、亜塩素酸塩又は次亜塩素酸塩を除去できる浄化方法並びに浄化処理剤を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明者らは、鋭意検討した結果、過塩素酸化合物等と硫黄含有量が0.05質量%以上5質量%以下である金属粉(鉄または鉄合金からなる金属粉)とをpH4超かつpH8未満という条件下で接触させると、0〜60℃の温度(常温)・大気圧下でも過塩素酸が分解される事が分かった。さらに、本発明の浄化方法によれば、過塩素酸が分解した際、塩素酸、亜塩素酸、次亜塩素酸等の塩素酸系化合物にならず、完全に分解する事を確認した。また、塩素酸、亜塩素酸又は次亜塩素酸化合物も分解できることも確認した。
【0022】
すなわち、本発明における、汚染水または汚染土壌中に含まれる過塩素酸塩、塩素酸塩、亜塩素酸塩又は次亜塩素酸塩の浄化方法は、汚染水、または、汚染土壌に含まれる溶出液を、pH4超かつpH8未満に調整し、0〜60℃の温度および大気圧下で、硫黄含有量が0.1質量%以上5質量%以下である鉄または鉄合金からなる金属粉に接触させることを含むことを特徴とする。
【0023】
以下、本発明の実施の形態について、より具体的に説明するが、本発明はこれらの実施形態に限定されるものではない。
【0024】
(金属粉)
本実施形態で使用する金属粉は、その表面で過塩素酸塩(過塩素酸化合物)、塩素酸塩(塩素酸化合物)、亜塩素酸塩(亜塩素酸化合物)又は次亜塩素酸塩(次亜塩素酸化合物)を分解する事ができる。ただし、接触溶液pHが4超8未満に調整されている事が必要である。さらに、後述するような還元剤を併用する事でさらに分解性を向上させる事が可能である。
【0025】
前記金属粉としては、鉄又はその合金を主成分とする粉体であれば特に限定されず、工業的に入手可能なあらゆる金属粉を用いることができる。金属粉の種類としては、例えばアトマイズ鉄粉、鋳鉄粉、スポンジ鉄粉等の鉄基完全金属粉(プレアロイ合金粉)又は部分金属粉(プレミックス合金粉)が挙げられる。また、上記合金が含有する鉄以外の元素としては、例えば炭素、硫黄、ニッケル、銅、亜鉛、アルミニウム、コバルト等が挙げられる。本明細書における「主成分」とは、金属粉を構成する成分のうち質量基準で最も多く含まれる成分(例えば50質量%以上)を指す。
【0026】
本実施形態で使用する金属粉としては、アトマイズ法により製造されたアトマイズ金属粉が好ましい。アトマイズ金属粉は大量生産が可能であるため、本実施形態の浄化方法を処理施設等における大規模な処理に適用することができる。また、アトマイズ金属粉は、成分や粒径を揃えやすい。このアトマイズ金属粉としては、鉄合金をアトマイズした完全金属粉でもよく、鉄粉をアトマイズした後金属粉を付着させた部分合金化粉でもよい。
【0027】
前記金属粉の平均粒径の上限としては、特に限定はされないが、1000μmが好ましく、500μmがより好ましく、100μmがさらに好ましい。一方、金属粉の平均粒径の下限としては、1μmが好ましい。前記平均粒径が1000μm以下であれば、金属粉の表面積が大きくなり十分な除去速度が得られると考えられる。一方、上記平均粒径が1μm以上の場合、歩留まりが高くなり取り扱い性が向上すると考えられる。ここで「平均粒径」とは、JIS−Z−8801(2006)に規定されるふるいを用いた乾式ふるい分け試験により粒子径分布を求め、この粒子径分布において累積質量が50%となる粒径をいう。
【0028】
上記金属粉は、硫黄含有量が0.1質量%以上5質量%以下である。硫黄の存在により過塩素酸塩等の塩素酸系化合物の除去性能が発現する。金属粉に硫黄を含有させることによって当該除去性能が向上する理由としては以下のように考えられる。つまり、硫黄の作用で金属粉表面に電子が発生し(鉄のアノード反応:Fe→Fe
2++2e
−)、発生した電子によって、塩素酸系化合物の還元が促進されるものと考えられる。
【0029】
金属粉中における硫黄含有量の上限は5質量%であり、4質量%がより好ましく、3質量%がさらに好ましい。一方、上記含有量の下限は0.1質量%であり、0.8質量%であることがさらに好ましい。上記含有量が5質量%を超える場合、金属粉における過塩素酸塩等の塩素酸系化合物の吸着効率が低下するおそれがある。また、当該浄化処理剤のコストが不必要に増加するおそれがある。逆に、上記含有量が0.1質量%未満の場合、上述の硫黄による過塩素酸塩等の塩素酸系化合物の除去性能の向上作用が不十分となるおそれがある。
【0030】
なお、本実施形態において「硫黄含有量」とは、燃焼法による炭素・硫黄分析装置を用いて測定される値である。
【0031】
(汚染水および汚染土壌)
本実施形態で浄化する汚染水又は汚染土壌は過塩素酸塩(過塩素酸化合物)、塩素酸塩(塩素酸化合物)、亜塩素酸塩(亜塩素酸化合物)又は次亜塩素酸塩(次亜塩素酸化合物)を含む。本実施形態において汚染水とは、上述したような過塩素酸塩等の塩素酸系化合物に汚染されている水や地下水等をさす。これらはそのまま浄化処理に供してもよいし、浄化処理を行う前に、必要に応じてフィルターろ過などを行ってもよい。
【0032】
本実施形態の浄化方法で、浄化可能な塩素酸系化合物種は汚染水又は汚染土壌中ではそれぞれイオンの状態(例えば、過塩素酸塩の場合は、過塩素酸イオン又は過塩素酸化合物イオン)として存在し、汚染水又は汚染土壌中に存在している。
【0033】
本実施形態において浄化対象とする過塩素酸は、過塩素酸イオンや、過塩素酸ナトリウム、過塩素酸カリウム等の塩や化合物といったいかなる形態であってもよい。通常は、過塩素酸が分解すると酸素数が減少して、順に塩素酸、亜塩素酸、次亜塩素酸になる可能性があるが、本実施形態の浄化方法を用いた場合にはそれら3種の存在が確認されなかった。確認された反応は、以下の反応である:
NaClO
4+Fe→FeOx+NaCl
(過塩素酸ナトリウム→塩化ナトリウムへ分解)
よって、本実施形態の浄化方法では、塩素酸、亜塩素酸、次亜塩素酸等が発生することなく、過塩素酸中の酸素がすべて反応していると考えられる。
【0034】
なお、塩素酸塩、亜塩素酸塩、次亜塩素酸塩についても、上述したような本実施形態の浄化方法を用いて鉄粉および尿素の混合物と接触させた場合、いずれもすべて完全に分解(分析しても各物質は検出されなかった)された。よって、本実施形態の浄化方法は、塩素酸塩、亜塩素酸塩、次亜塩素酸塩にも適用できる。
【0035】
汚染水又は汚染土壌は、過塩素酸塩等の塩素酸系化合物以外に1種以上の重金属又は重金属含有化合物をさらに含んでもよい。すなわち、本実施形態の金属粉は鉛等の重金属の吸着除去にも有効であるため、前記汚染水または汚染土壌が重金属又は重金属含有化合物を含んでいても、過塩素酸塩等の塩素酸系化合物と同時に除去する事が可能である。ここで、「重金属」とは、25℃における比重が4.5以上の金属種である。具体的には、鉛、ヒ素、セレン、クロム、フッ素などが挙げられる。
【0036】
前記重金属化合物としては、例えば、硝酸カドミウム、ヒ酸水素ナトリウム、セレン酸ナトリウム、二クロム酸カリウム等が挙げられる。上記重金属イオン又は重金属化合物としては、例えばカドミウムイオン(Cd
2+)、ヒ酸イオン(AsO
43−)、セレン酸イオン(SeO
42−)、鉛イオン(Pb
2+)、クロムイオン(Cr
6+)等が挙げられる。
【0037】
(浄化処理)
本実施形態の浄化方法は、上述したような金属粉を、浄化を所望する汚染水、または、汚染土壌に所定の条件で接触させる工程(接触工程)を含む。
【0038】
接触させる方法には特に限定はない。例えば、汚染水の場合は、当該汚染水における浄化処理開始時のpHを4超8未満に調整し、そこへ本実施形態の金属粉を投入し攪拌を行うこと等によって接触させて、汚染水に含まれる過塩素酸塩を除去することができる。
【0039】
汚染土壌の場合は、土壌中に存在する水分(化学水、吸湿水、毛管水、重力水、雨水等)へ土壌中の過塩素酸化合物や重金属等が溶出するので、この土壌に含まれる溶出液を抽出して、その溶液pHを上記範囲に調整し、前記汚染水と同様に浄化することができる。なお、汚染土壌が水分を含まない場合は、汚染土壌に水を添加し汚染土壌中の水溶性成分を溶出した溶液を作ることで同様に浄化処理ができる。
【0040】
なお、汚染水や汚染土壌からの溶出液に投入する金属粉の量には特に制限はなく、汚染水や汚染土壌の量や汚染の程度等によって適宜設定すればよい。通常、金属粉を基準とした接触量の下限としては、汚染水又は汚染土壌溶出液1000mLに対し、0.1gが好ましく、0.2gがより好ましい。一方、上記接触量の上限としては、100gが好ましく、10gがより好ましい。上記接触量が0.1g以上であれば、金属粉の性能のバラツキによる浄化効果のバラツキを抑制できる。一方、上記接触量が100g以下であれば、効果が飽和することもなく金属粉の量に見合った効果が得られる(コストパフォーマンスの向上)。
【0041】
汚染水または汚染土壌からの溶出液における浄化処理開始時のpHの調整は、例えば非金属系還元剤の添加量の調整、水等の溶媒やpH調整剤の添加等により行うことができる。pH調整剤としては、例えば塩酸、硫酸、硝酸、リン酸等の無機酸、蟻酸、酢酸、シュウ酸等の有機酸などが挙げられる。
【0042】
本実施形態の接触工程においては、汚染水または汚染土壌からの溶出液における浄化処理開始時のpHが4超かつ8未満に調整されることが重要である。このようなpH範囲であれば、金属粉が過塩素酸化合物を浄化するのに好適な状態に維持されるためである。また、より好ましいpH範囲はpH=4.5〜6.5である。
【0043】
また、前記接触工程は、0〜60℃の温度および大気圧下で行われる。接触工程の温度の好ましい下限値は5℃以上であり、より好ましくは10℃以上、さらに好ましくは20℃以上であり、さらに22℃以上であることがより好ましい。また、好ましい上限値は40℃以下であり、より好ましくは35℃以下、さらに好ましくは30℃以下であり、さらに27℃以下であることがより好ましい。気圧については、天候(晴れ/雨;高気圧/低気圧)等によって多少変動はするが、これらによる気圧変化も本明細書における「大気圧」に含まれる。
【0044】
(還元剤)
本実施形態の浄化方法では、前記接触工程において、前記汚染水、または、前記汚染土壌に含まれる溶出液に、前記金属粉に加えて還元剤を接触させてもよい。還元剤を金属粉と併用することによって、過塩素酸塩等の塩素酸系化合物の分解性を高め、より確実に分解できると考える。
【0045】
これは、以下の反応が進行していると考えられるためである。
【0046】
ClO
4(XはNaやK等の任意の元素)+Fe+還元剤→
XCl+FeOx+還元剤反応物
本実施形態で使用できる還元剤種としては、尿素、過酸化水素、メチルエチルケトン、アセトンなどが代表的な還元剤として挙げられるが、他の還元剤を用いる事も可能である。なかでも、尿素またはアセトンを使用することが好ましい。
【0047】
還元剤を使用する場合、前記接触工程で使用する還元剤の量は、特に限定はされないが、例えば、0.2g/L〜100g/L程度の濃度で使用することができる。還元剤を0.2g/L以上の濃度で使用することによって、上記したような効果がより確実に得られる。一方で上限値については、100g/Lを超えると効果が飽和してしまいコスト的に意味がなくなるため、100g/L以下とすることが望ましい。
【0048】
(浄化処理剤)
本発明には、上述したような浄化方法に使用される浄化処理剤も包含される。本実施形態の浄化処理剤は、硫黄含有量が0.1質量%以上5質量%以下である金属粉を含有することを特徴とする。当該浄化処理剤はさらに還元剤を含んでいてもよい。本実施形態で使用できる金属粉、還元剤、およびそれらの配合割合は上述の浄化方法と同様にすることができる。また、金属粉及還元剤の他にも、発明の効果を妨げない範囲で、溶媒等のその他の成分を含有してもよい。また、pH調整剤等の添加剤を含んでいてもよい。
【0049】
以下では、本発明を、実施例を用いてさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されない。
【実施例】
【0050】
[試験例1]
(実施例1〜3および比較例1〜3)
内容積500mLのポリエチレン製容器に、250mlの和光純薬製の過塩素酸ナトリウムを濃度=1.0mg/L(過塩素酸濃度として0.81mg/L)に溶解した水溶液(汚染水とする)を入れた。この溶液に固液比(g/mL)が1:1000(g:mL)となるように金属粉を添加して混合物を得た。固液比(g/mL)は、前記汚染水と前記金属粉の混合液における全液体量(mL)に対する全固体量(g)の比である。
【0051】
金属粉としては、1質量%の硫黄を含有する環境用鉄粉(株式会社神戸製鋼所製のエコメル(登録商標)53NJ)を用いた。
【0052】
次に、各実施例および比較例において、前記混合物の浄化処理開始pHを下記表1に示すpHに調整して、混合物のpHおよび酸化還元電位(ORP;Oxidation Reduction Potential)をそれぞれ測定した(下記表2における「試験前pH」、「試験前ORP」)。なお、前記混合物の開始pHは、酸性への調節には塩酸、アルカリ性への調節には水酸化ナトリウムを用いて調整した。
【0053】
pH測定には、株式会社堀場製作所製のpH計(本体型式=D−52、pH電極型式=9615S)を用いた。ORP測定には、株式会社堀場製作所製のORP計(本体型式=D−52、ORP電極型式=9300)を用いた。まず、測定溶液中に電極を浸け、pHおよびORPの値が安定するまで待機した。そして、数値が変動しなくなるまで安定した後、当該数値を測定値として記録した。
【0054】
次に、水平振とう機を用いて汚染水と金属粉の混合物を1時間振とうし、撹拌した。このとき、温度25℃、大気圧下、回転数140rpm、振とう幅4cmの条件とした。
【0055】
振とう後、再度、前記混合物のpHおよび酸化還元電位をそれぞれ測定した(下記表2における「試験後pH」、「試験後ORP」)。そして、混合液を孔径0.45μmのメンブレンフィルタを用いて吸引濾過した。その後、処理後汚染水の過塩素酸濃度をイオンクロマトグラフ法にて測定した。この結果を表2に示す。
【0056】
【表1】
【0057】
【表2】
【0058】
(考察)
表2の結果より、金属粉を溶液pH4超8未満という条件で汚染水に接触させることにより、汚染水中の過塩素酸濃度を有意に低下できることが示された。一方、開始時の溶液pH4以下またはpH8以上の条件では、過塩素酸濃度を低下させることはできなかった。
【0059】
[試験例2]
(実施例4〜6)
下記表3に示すように、金属粉(エコメル53NJ)0.25gに加えて還元剤として、尿素(実施例4)0.25g、アセトン0.25g(実施例5)または尿素2.5g(実施例6)を汚染水へ添加した以外は、試験例1の実施例3(開始pH=5)と同様に浄化処理を行い、過塩素酸濃度を測定した。結果を表4に示す。
【0060】
【表3】
【0061】
【表4】
【0062】
(考察)
表4の結果より、還元剤である尿素又はアセトンを所定量で金属粉と併用すると、過塩素酸濃度をさらに低下できることが示された。
【0063】
[試験例3]
金属粉に変えて、重金属類を除去できるMgO化合物を用いて過塩素酸を除去できるかどうか検討した。
【0064】
(比較例4)
MgO化合物として、和光純薬工業社製「MgO」を金属粉の代わりに投入し、pH調整を行わなかった(開始pH=約11)以外は、試験例1と同様にして浄化処理を行い(表5参照)、過塩素酸濃度を測定した。結果を表6に示す。
【0065】
(比較例5)
Mg(OH)
2化合物として、和光純薬工業社製「Mg(OH)
2」を金属粉の代わりに投入し、pH調整を行わなかった(開始pH=約10)以外は、試験例1と同様にして浄化処理を行い(表5参照)、過塩素酸濃度を測定した。結果を表6に示す。
【0066】
【表5】
【0067】
【表6】
【0068】
(考察)
表6の結果より、重金属類の除去のために従来使用されているMgO系の浄化処理剤では、過塩素酸を全く除去できないことがわかった。
【0069】
[試験例4]
(比較例6〜11)
金属粉として硫黄を含まない純鉄粉(株式会社神戸製鋼所製「30MBH1」;硫黄含有量0質量%)を使用した以外は、試験例1と同様にして、開始pHを下記表7に示すように調整して浄化処理を行い(下記表7参照)、過塩素酸濃度を測定した。なお、比較例11のみ純鉄粉に加えて還元剤(アセトン)を使用した。結果を表8に示す。
【0070】
【表7】
【0071】
【表8】
【0072】
(考察)
表8に示されるように、硫黄を含まない金属粉(鉄粉)を用いた場合では、開始pHを調整しても過塩素酸をほとんど除去できないことがわかった。
【0073】
[試験例5]
(比較例12)
Mg(OH)
2化合物として、和光純薬工業社製「Mg(OH)
2」を金属粉の代わりに投入し、pH調整を行った(開始pH=5)以外は、試験例1と同様にして浄化処理を行い(表9)、過塩素酸濃度を測定した。結果を表10に示す。
【0074】
(比較例13)
Mg(OH)
2化合物として、和光純薬工業社製「Mg(OH)
2」を金属粉の代わりに投入し、さらに還元剤として尿素を用い、pH調整を行った(開始pH=5)以外は、試験例1と同様にして浄化処理を行い(表9)、過塩素酸濃度を測定した。結果を表10に示す。
【0075】
【表9】
【0076】
【表10】
【0077】
(考察)
表10に示されるように、MgO化合物を用いて開始pHを調整しても過塩素酸をほとんど除去できないことがわかった。
【0078】
[試験例6]
過塩素酸以外の塩素酸系化合物に対する、除去性能を検討した。
【0079】
(実施例7)
汚染水として、内容積500mLのポリエチレン製容器に、250mlの和光純薬製の塩素酸ナトリウムを濃度=1mg/L(塩素酸濃度として0.78mg/L)に溶解した水溶液を用いたこと、並びに、金属粉(エコメル53NJ)0.25gに加えて、還元剤として尿素0.05gを汚染水へ添加した以外は、実施例4と同様にして浄化処理を行い(表11)、塩素酸濃度を測定した。結果を表12に示す。
【0080】
(実施例8)
汚染水として、内容積500mLのポリエチレン製容器に、250mlの_和光純薬製の亜塩素酸ナトリウムを濃度=1mg/L(亜塩素酸濃度として0.75mg/L)に溶解した水溶液を用いたこと、並びに、金属粉(エコメル53NJ)2.5gに加えて、還元剤として尿素0.05gを汚染水へ添加した以外は、実施例4と同様にして浄化処理を行い(表11)、亜塩素酸濃度を測定した。結果を表12に示す。
【0081】
(実施例9)
汚染水として、内容積500mLのポリエチレン製容器に、250mlの和光純薬製の次亜塩素酸ナトリウムを濃度=1mg/L(次亜塩素酸濃度として0.69mg/L)に溶解した水溶液を用いたこと、並びに、金属粉(エコメル53NJ)25gに加えて、還元剤として尿素0.05gを汚染水へ添加した以外は、実施例4と同様にして浄化処理を行い(表11)、次亜塩素酸濃度を測定した。結果を表12に示す。
【0082】
【表11】
【0083】
【表12】
【0084】
(考察)
表12に示されるように、塩素酸塩、亜塩素酸塩又は次亜塩素酸塩についても本実施例の除去方法で完全に除去されることが示された。