(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
リアクトルと、上側スイッチング素子と、下側スイッチング素子とを含み、直流電源からの電力を電力変換するとともにコンデンサによって平滑して出力するDC/DCコンバータを制御する制御装置であって、
前記DC/DCコンバータの動作を状態方程式を用いて模擬するオブザーバであって、前記DC/DCコンバータの現在の状態値に応じて、前記上側および下側スイッチング素子の両方がオフする時間であるデッドタイムによるデューティ比の誤差である誤差デューティ比と、前記コンデンサのコンデンサ電圧検出誤差とを外乱として付加し、前記コンデンサのコンデンサ電圧、前記リアクトルを流れるリアクトル電流、前記誤差デューティ比、及び前記コンデンサ電圧検出誤差を推定するオブザーバと、
前記リアクトル電流の推定値を用いて前記DC/DCコンバータのデューティ比を制御するデューティ比制御器とを備え、
前記オブザーバは、間欠昇圧時で前記上側スイッチング素子および前記下側スイッチング素子の両方をオフ状態に維持するスイッチング素子全オフ時にはリアクトル電流の推定値とデッドタイムによる誤差デューティ比の推定値の出力値をゼロとする、
DC/DCコンバータの制御装置。
【発明を実施するための形態】
【0014】
<第1の基本形態>
図1は、第1の基本形態におけるDC/DCコンバータの制御装置30を含むモータ駆動装置100の基本構成を示している。モータ駆動装置100は、直流電源10、DC/DCコンバータ11、低圧側コンデンサ17、高圧側コンデンサ18及び負荷104を含んで構成される。DC/DCコンバータ11は、リアクトル12、上側スイッチング素子14、下側スイッチング素子16を有する。負荷104は、インバータ105と、インバータ105に接続され、インバータ105によって駆動されるモータ106とを有する。モータ106はU相、V相、W相の3相交流電流により駆動される3相モータである。
【0015】
直流電源10の正極にはリアクトル12の一端が接続され、リアクトル12の他端には上側スイッチング素子14の一端及び下側スイッチング素子16の一端の接続点Cが接続される。上側スイッチング素子14の他端は正極母線19を介して、負荷104を構成するインバータ105の正極側に接続される。下側スイッチング素子16の他端は負極母線20を介して、直流電源10の負極とインバータ105の負極側とに接続される。低圧側コンデンサ17は、DC/DCコンバータ11の入力側で、リアクトル12の一端及び直流電源10の正極の間と負極母線20との間に接続され、電圧を平滑化させるために用いられる。高圧側コンデンサ18は、DC/DCコンバータ11の出力側で、正極母線19及び負極母線20の間に接続され、リアクトル12からの出力電圧を平滑化させるために用いられる。
【0016】
なお、実施の形態では、上側スイッチング素子14及び下側スイッチング素子16はNPNトランジスタとする。上側スイッチング素子14は、正極母線19側がコレクタ、リアクトル12側がエミッタとされる。下側スイッチング素子16は、リアクトル12側がコレクタ、負極母線20側がエミッタとされる。また、上側スイッチング素子14及び下側スイッチング素子16のそれぞれに並列に環流ダイオードが接続される。
【0017】
DC/DCコンバータ11において、上側スイッチング素子14をオフ状態及び下側スイッチング素子16をオン状態とすることで、リアクトル12を介して直流電源10の正極から負極に向けたリアクトル電流i
Lが流れる。これによって、リアクトル12にエネルギーが蓄積される。次に、下側スイッチング素子16をオフ状態とすることで、リアクトル電流i
Lが遮断され、リアクトル12の端部に直流電源10の電圧(電源電圧v
b)よりも高い電圧が生じる。そして、これに応じた電流が正極母線19に向けて流れて高圧側コンデンサ18が充電されて高圧側コンデンサ18の両端間電圧であるコンデンサ電圧v
cが上昇する。このコンデンサ電圧v
cが負荷104に印加される。また、上側スイッチング素子14がオン状態とされることで、高圧側コンデンサ18から直流電源10の正極へ向けたリアクトル電流i
Lが流れる。これによって、コンデンサ電圧v
cが低下する。DC/DCコンバータ11の出力電圧、すなわちコンデンサ電圧v
cは、キャリア信号の1周期に対する上側スイッチング素子14のオン割合を示すデューティ比によって決定される。
【0018】
DC/DCコンバータ11は、制御装置30によって各スイッチング素子14,16のオンオフ状態が制御される。制御装置30には、DC/DCコンバータ11の現在の状態値が入力される。制御装置30は入力された状態値に応じてDC/DCコンバータ11を制御する。状態値として、直流電源10の電源電圧v
b、コンデンサ18のコンデンサ電圧v
c、負荷であるモータ106の電流i
u,i
w及びモータ106の回転角θの検出値が対応するセンサから制御装置30へ入力される。制御装置30は、モータの電流i
u,i
w及びモータの回転角θからDC/DCコンバータ11の出力電流i
mを算出する。
【0019】
図2は、制御装置30の構成を示す図である。制御装置30は、電流指令生成器(iL指令生成器)31、オブザーバ32、デューティ比制御器34、及び三角波比較器36を含んで構成される。
【0020】
電流指令生成器31には、コンデンサ電圧指令値v
c*とコンデンサ電圧検出値v
cとの偏差が入力される。電流指令生成器31は、例えば入力された偏差を比例積分演算であるPI演算して、リアクトル12を流れるリアクトル電流の指令値i
L*を生成するPI制御器とすることができる。リアクトル電流指令値i
L*は、リアクトル電流を制御するための目標値となる値であり、後述のデューティ比制御器34に入力される。
【0021】
オブザーバ32は、デッドタイムによる誤差デューティ比、コンデンサ電圧検出誤差を外乱として付加したものであり、コンデンサ電圧v
c、電源電圧v
bおよび出力電流i
mを受けて、これらの値からDC/DCコンバータ11の状態方程式を用いて、コンデンサ電圧推定値v
c~、リアクトル電流推定値i
L~、デッドタイムによる誤差デューティ比推定値Δd~、およびコンデンサ電圧検出誤差推定値Δvc~を算出して出力する。なお、以下において、図中の推定値には上付の波線~(チルダ)を付して示してある。
【0022】
ここで、DC/DCコンバータ11の状態方程式を説明するために、まず、外乱を付加していない比較例の状態方程式としての比較例状態方程式を説明する。
【0023】
比較例状態方程式は、数式(1)にて表される。ここで、コンデンサ電圧はv
c、リアクトル電流はi
L、電源電圧はv
b、出力電流(負荷電流)はi
m、リアクトル12のインダクタンスはL、コンデンサ18のキャパシタンスはC、リアクトル12の抵抗値はR
L、デューティ比はdと示す。
【数1】
【0024】
数式(1)にデッドタイムを考慮した誤差デューティ比Δdを組み込むと数式(2)に示す状態方程式となる。ここでデッドタイムによる誤差デューティ比とは、スイッチング素子のオン時間の割合であるデューティ比に対する、デッドタイムにより生じるデューティ比の誤差である。
【数2】
【0025】
数式(2)を、双1次変換を用いて離散化させると数式(3)のように示される。
【数3】
【0026】
図3は、基本形態のオブザーバ32を示す図である。オブザーバ32において、入力信号、出力信号が
図3で示されるようになる。
図3において、Aは、数式(3)の破線枠αで示される係数と、破線枠A1で示される行列とを乗じたものであり、α×A1で表される。
【0027】
図3において、Bは、数式(3)の破線枠αで示される係数と破線枠B1で示される行列とを乗じたものであり、α×B1で表される。
図3のCは、数式(4a)、数式(4b)で表されるものである。
【数4】
【0028】
図3のCとして、数式(4a)、数式(4b)で表されるもので用いることによりリアクトル電流の推定精度を高くできるが、計算量軽減のために、数式(5)を用いることもできる。
【数5】
【0029】
ここで、本基本形態では、DC/DCコンバータ11の状態方程式として、誤差デューティ比Δdとコンデンサ電圧検出誤差Δv
cとを含む数式(6)を定義する。
【数6】
【0030】
数式(6)を、双1次変換を用いて離散化させると数式(7)のように示される。
【数7】
【0031】
数式(7)に基づいて、コンデンサ18の電圧の推定値であるコンデンサ電圧推定値v
c〜(k)と、リアクトル12の電流の推定値であるリアクトル電流推定値i
L〜(k)とは、数式(8)のように表すことができる。また、数式(7)に基づいて、誤差デューティ比の推定値である誤差デューティ比推定値Δd
〜(k)と、コンデンサ電圧検出誤差の推定値であるコンデンサ電圧検出誤差推定値Δv
c〜(k)とは数式(8)のように表すことができる。ここで、Tは制御周期であり、h
1〜h
4はオブザーバゲインである。以下では推定値を表すチルダの
〜(波線)を省略する場合がある。
【数8】
【0032】
オブザーバ32は、入力されたコンデンサ電圧v
c、電源電圧v
b及び出力電流i
mを数式(8)に代入することによって、現在の誤差デューティ比Δd(=Δd(k))の推定値、及びリアクトル電流i
L(=i
L(k))の推定値を算出する。また、オブザーバ32は、コンデンサ電圧検出誤差Δv
c(=Δv
c(k))の推定値を算出する。なお、推定される誤差デューティ比推定値Δd~、リアクトル電流推定値i
L~、及びコンデンサ電圧検出誤差推定値Δv
c~は、数式(8)におけるkをk−1に読み替えて処理することによって算出することができる。算出された誤差デューティ比推定値Δd~、リアクトル電流推定値i
L~、及びコンデンサ電圧検出誤差推定値Δv
c~は、デューティ比制御器34に入力される。
【0033】
なお、kは、制御回数を示す。例えば、d(k)は、k回目の制御におけるデューティ比dを表し、d(k+1)は、(k+1)回目の制御におけるデューティ比dを表す。他の状態量についても同様である。
【0034】
ここで、本基本形態において、オブザーバ32は、数式(8)の4つのオブザーバゲインh
1、h
2、h
3、h
4を持つ。このうち、数式(8)の3行目と4行目とに対応するh
3、h
4は、上側スイッチング素子14の常時オン状態か否かに応じて、値が切り替わる。以下、h
3は第1オブザーバゲインh
3と記載し、h
4は、第2オブザーバゲインh
4と記載する場合がある。オブザーバゲインh
1、h
2、h
3、h
4は、
図3のhに対応する。
【0035】
図4は、オブザーバゲインの切換部37の構成を示す図である。制御装置30は、切換部37を持ち、その切換部37は、第1及び第2オブザーバゲインh
3、h
4の値を、上側スイッチング素子14の常時オン状態か否かに応じて切り換える。具体的には、第1オブザーバゲインh
3は、デッドタイムによる誤差でデューティ比を計算するためのオブザーバゲインである。第2オブザーバゲインh
4は、コンデンサ電圧検出誤差を計算するためのオブザーバゲインである。
【0036】
図4において、上アームオン信号として、上側スイッチング素子14の常時オン状態か否かが切換部37に入力される。
図4では、切換部37の内部において「1」は、上側スイッチング素子14が常時オンとなり、上アームが常時オンされたことを表す。このときには下側スイッチング素子16が常時オフされる。
図4の切換部37の内部において「0」は、上側スイッチング素子14がスイッチングを開始し、上アームの常時オンが解除されたことを表す。このときには下側スイッチング素子16もスイッチングを開始する。
【0037】
切換部37は、上側スイッチング素子14が常時オンされたときに、第1オブザーバゲインh
3を0とし、第2オブザーバゲインh
4に0以外の数値C4を持たせる。一方、切換部37は、上側スイッチング素子14の常時オンが解除された後に、上側オブザーバゲインh
3に0以外の数値を持たせ、第2オブザーバゲインh
4を0とする。
【0038】
また、数式(8)の1行目と2行目とに対応するオブザーバゲインh
1、h
2は、上側スイッチング素子14の常時オン状態に無関係に0以外の数値C1、C2を持っている。
【0039】
これにより、上側スイッチング素子14が常時オンされたときに、コンデンサ電圧検出誤差に対応する値が第2オブザーバゲインh
4に対応して出力されるので、コンデンサ電圧検出誤差を精度よく推定できる。また、上側スイッチング素子14の常時オンが解除されたときには、デッドタイムによる誤差デューティ比に対応する値が第1オブザーバゲインh
3に対応して出力される。これにより、誤差デューティ比を用いてデューティ比を精度よく計算することができる。このように数式(8)を用いたオブザーバ32では、コンデンサ電圧検出誤差を推定でき、その推定値が次の制御周期に用いられて、コンデンサ電圧、リアクトル電流、及び誤差デューティ比が推定される。
【0040】
オブザーバ32は、コンデンサ電圧推定値v
c~、リアクトル電流推定値i
L~、及びコンデンサ電圧検出誤差推定値Δv
c~を推定する。
図2に示すように、オブザーバ32からは、誤差デューティ比推定値Δd~と、コンデンサ電圧検出誤差推定値Δv
c~とを外乱として出力する。デューティ比制御器34には、電流指令生成器31からリアクトル電流指令値i
L*が入力される。デューティ比制御器34には、オブザーバ32からリアクトル電流i
L、誤差デューティ比Δd、及びコンデンサ電圧検出誤差Δv
cの推定値も入力される。なお、
図2に破線矢印で示すように、オブザーバ32からデューティ比制御器34にコンデンサ電圧v
cの推定値が入力され、デューティ比制御器34の演算でその推定値が用いられてもよい。
【0041】
デューティ比制御器34は、オブザーバ32から出力されたリアクトル電流推定値i
L~と、電流指令生成器31で生成されたリアクトル電流指令値i
L*とに応じて、指令値となるデューティ比d(k+1)を求めるための演算が行われ出力される。これにより、デューティ比制御器34は、DC/DCコンバータ11のデューティ比を制御する。デューティ比制御器34は後で詳しく説明する。
【0042】
デューティ比制御器34から出力されたデューティ比d(k+1)は、三角波比較器36に入力される。三角波比較器36は、三角波キャリア信号の値と、デューティ比d(k+1)とを比較し、その比較した結果に基づいてスイッチング信号を生成し、DC/DCコンバータ11の各スイッチング素子14,16にスイッチング信号を出力する。各スイッチング素子14,16は、そのスイッチング信号によりオンオフ状態が制御されることにより、適切な電圧制御が行われる。これにより、リアクトル電流指令値i
L*に応じてDC/DCコンバータ11が制御される。
【0043】
次に、デューティ比制御器34を説明する。デューティ比制御器34は第1モデル予測制御器50(
図5)を含んで構成される。具体的には、第1モデル予測制御器(第1MPC)50は、DC/DCコンバータ11の状態方程式を用いてデューティ比を制御する。このとき、第1モデル予測制御器50は、上側スイッチング素子14及び下側スイッチング素子16のデューティ比dを複数の異なる値に変化させたときのDC/DCコンバータ11における所定の状態値(状態量)に対する予測値を算出する。第1モデル予測制御器50は、状態値(状態量)の目標を示す指令値と予測値との差に応じてデューティ比を制御する。以下、第1モデル予測制御器50は、第1MPC50と記載する場合がある。
【0044】
図5は、第1MPC50の構成を示す図である。実施の形態では、第1MPC50は、所定の状態値としてリアクトル12を流れる電流の予測値であるリアクトル電流予測値i
L^(ハット)を算出する。そして、第1MPC50は、リアクトル電流指令値i
L*に近づくようなリアクトル電流予測値i
L^(ハット)となるデューティ比dを求める処理を行う。
【0045】
図5に示すように、第1MPC50は、加算器40(40−2〜40−129)、予測演算器42(42−1〜42−129)、評価関数演算器44(44−1〜44−129)、最小値選択器46を含んで構成される。
【0046】
加算器40(40−2〜40−129)は、現在のデューティ比d(k)に所定値を加算することによりデューティ比d(k)に変化を与えて出力する。本実施の形態では、デューティ比d(k)は、0〜1023の値の範囲で表されるものとする。すなわち、下アームである下側スイッチング素子16が常時オンであり、上アームである上側スイッチング素子14が常時オフである状態のときのデューティ比dが0で表されるものとする。また、下アームである下側スイッチング素子16が常時オフであり、上アームである上側スイッチング素子14が常時オンである状態のときのデューティ比dが1023で表されるものとする。加算器40は、現在のデューティ比d(k)を中心値として、d(k)±64の範囲で変化を与えて出力する。変化の範囲は、DC/DCコンバータ11のデッドタイムの期間及びPWM周期に基づいて設定することが好適である。例えば、デッドタイム/PWM周期×デューティ比dの数値範囲で算出される値よりも大きな変換の範囲とすることが好適である。具体的には、デッドタイムが5μs、PWM周期が100μsである場合、デューティ比dを0〜1023の範囲で表した場合には5/100×1023=51よりも大きい数値範囲を変化の範囲とすることが好適である。一方、演算負荷をできるだけ小さくするために、変化の範囲はできるだけ狭い方が好適である。そこで、本実施の形態では、変化の範囲を±64とした例を示している。
【0047】
加算器40−2は、現在のデューティ比d(k)に1を加算してd(k)+1を出力する。加算器40−3は、現在のデューティ比d(k)に2を加算してd(k)+2を出力する。同様に、加算器40−4〜加算器40−65は、現在のデューティ比d(k)にそれぞれ3〜64を加算して出力する。また、加算器40−66は、現在のデューティ比d(k)から1を減算してd(k)−1を出力する。加算器40−67は、現在のデューティ比d(k)から2を減算してd(k)−2を出力する。同様に、加算器40−68〜加算器40−129は、現在のデューティ比d(k)からそれぞれ3〜64を減算して出力する。加算器40−2〜40−129からの出力は、それぞれ予測演算器42−2〜42−129へ入力される。
【0048】
予測演算器42は、加算器40からの出力、コンデンサ電圧v
c、リアクトル電流推定値i
L〜(=i
L〜(k))、電源電圧v
b、出力電流(負荷電流)i
m及び誤差デューティ比Δd
〜(=Δd
〜(k))、及びコンデンサ電圧検出誤差Δv
c〜(=Δv
c〜(k))を用いてリアクトル電流予測値i
L^(ハット)を算出して出力する。リアクトル電流予測値i
L^(ハット)は、リアクトル12を流れる電流の予測値である。
【0049】
リアクトル電流予測値i
L^(ハット)は、数式(7)において、左辺の2行目i
L(k+1)をi
L^[d(k)+a](ハット)、右辺のΔd(k)をΔd
〜(k)、右辺のi
L(k)をi
L〜(k)、右辺のΔv
c(k)をΔv
c〜(k)に置き換えて展開したi
L^[d(k)+a](ハット)の演算式を用いて算出される。
【0050】
予測演算器42−1は、i
L^[d(k)+a](ハット)の演算式のaを0としてi
L^[d(k)](ハット)を算出して出力する。予測演算器42−2は、i
L^[d(k)+a](ハット)の演算式のaを1としてi
L^[d(k)+1](ハット)を算出して出力する。同様に、予測演算器42−3〜予測演算器42−65は、それぞれaを2〜64としてi
L^[d(k)+a](ハット)を算出して出力する。予測演算器42−66は、i
L^[d(k)+a](ハット)の演算式のaを−1としてi
L^[d(k)−1](ハット)を算出して出力する。予測演算器42−67は、i
L^[d(k)+a](ハット)の演算式のaを−2としてi
L^[d(k)−2](ハット)を算出して出力する。同様に、予測演算器42−68〜予測演算器42−129は、それぞれaを−3〜−64としてi
L^[d(k)+a](ハット)を算出して出力する。予測演算器42−1〜42−129の出力は、それぞれ評価関数演算器44−1〜44−129へ入力される。
【0051】
評価関数演算器44は、コンデンサ電圧指令値v
c*、予測演算器42から入力されたリアクトル電流予測値i
L^(ハット)、電流指令生成器31から入力されたリアクトル電流指令値i
L*に基づいて評価関数Jの演算を行い、演算結果を出力する。評価関数Jは、数式(9)にて表される。
【数9】
【0052】
評価関数演算器44−1は、数式(9)のaを0としてJ[d(k)]を算出して出力する。評価関数演算器44−2は、数式(9)のaを1としてJ[d(k)+1]を算出して出力する。同様に、評価関数演算器44−3〜評価関数演算器44−65は、それぞれaを2〜64としてJ[d(k)+a]を算出して出力する。評価関数演算器44−66は、数式(9)のaを−1としてJ[d(k)−1]を算出して出力する。評価関数演算器44−67は、数式(9)のaを−2としてJ[d(k)−2]を算出して出力する。同様に、評価関数演算器44−68〜評価関数演算器44−129は、それぞれaを−3〜−64としてJ[d(k)+a]を算出して出力する。評価関数演算器44−1〜44−129の出力は、最小値選択器46へ入力される。
【0053】
なお、評価関数Jは、数式(10)としてもよい。この場合も、評価関数演算器44−1〜評価関数演算器44−129にてそれぞれJ[d(k)],J[d(k)+1]・・・J[d(k)−64]を算出して出力する。
【数10】
【0054】
最小値選択器46は、評価関数演算器44−1〜評価関数演算器44−129にて算出されたJ[d(k)],J[d(k)+1]・・・J[d(k)−64]のうち最小値を選択する。最小値選択器46は、評価関数Jを最小値とするd(k)+aを次の制御の際のデューティ比d(k+1)として三角波比較器36(
図2)に出力する。これにより、デューティ比制御器34は、リアクトル電流推定値がリアクトル電流指令値となるように、デューティ比d(k+1)を制御する。
【0055】
なお、デューティ比制御器34から出力されたデューティ比d(k+1)は、リミッタ(図示せず)に入力することもできる。リミッタは、デューティ比制御器34から出力されたデューティ比d(k+1)の入力を受け、入力されたデューティ比d(k+1)が最適デューティ比範囲DR内になるように制限する。リミッタから出力された最適範囲のデューティ比d(k+1)は、三角波比較器36に入力される。これにより、制御装置30は、三角波比較器36に入力されたデューティ比d(=d(k+1))となるように上側スイッチング素子14及び下側スイッチング素子16のオン期間を制御する。したがって、DC/DCコンバータ11は、指令値とされるコンデンサ電圧指令値v
c*及びリアクトル電流指令値i
L*となるようにコンデンサ電圧v
c及びリアクトル電流i
Lが制御される。
【0056】
<第2の基本形態>
第2の基本形態は、上記の第1の実施の形態における第1MPC50の構成を第2モデル予測制御器に変更したものである。以下、
図1〜
図5を参照して説明する。第2モデル予測制御器は、第2MPCと記載する場合がある。本実施の形態では、第2MPCは、DC/DCコンバータ11の状態方程式を、上側スイッチング素子14及び下側スイッチング素子16のデューティ比dに対する二次方程式に変形し、当該二次方程式にオブザーバ32で算出された誤差デューティ比推定値Δd
〜(=Δd
〜(k))とコンデンサ電圧検出誤差Δv
c〜(=Δv
c〜(k))を導入、すなわち適用することでデューティ比dを算出して制御する。制御装置30は、算出されたデューティ比dを用いてDC/DCコンバータ11を制御する。
【0057】
数式(7)の左辺の2行目i
L(k+1)をi
L*(k)、右辺のΔd(k)をΔd
〜(k)、右辺のi
L(k)をi
L〜(k)、右辺のΔv
c(k)をΔv
c〜(k)に置き換えて、デューティ比d(k)に対する二次方程式に変更すると数式(11)となる。
【数11】
【0058】
数式(11)の二次方程式をデューティ比d(k+1)に対して解くと、数式(12)で表される。
【数12】
【0059】
第2MPCは、算出したデューティ比d(k+1)を、リミッタを介してまたはリミッタを介さずに三角波比較器36に出力する。これにより、制御装置30は、三角波比較器36に入力されるデューティ比d(=d(k+1))となるように上側スイッチング素子14及び下側スイッチング素子16のオン期間を制御する。このため、DC/DCコンバータ11は、指令値とされるコンデンサ電圧指令値v
c*及びリアクトル電流指令値i
L*となるようにコンデンサ電圧v
c及びリアクトル電流i
Lが制御される。
【0060】
以下、基本形態の効果を確認したシミュレーション結果を説明する。
図6は、比較例のオブザーバを用いた制御装置において、コンデンサ電圧検出誤差が−10Vである場合の電圧の制御を示す図である。
図7は、比較例においてコンデンサ電圧検出誤差が−10Vである場合の電流の制御及び誤差デューティ比の推定値を示す図である。
図6、
図7では、比較例として、上記の第1の基本形態において、DC/DCコンバータの状態方程式としてコンデンサ電圧検出誤差を含まない構成を用いている。
図6、
図7及び後述する
図8〜
図13を含めて、上側スイッチング素子14が常時オンされている場合、上側及び下側スイッチング素子14,16はスイッチング動作をしていないため、i
L、i
L〜、Δd
〜は0となる。
【0061】
図6、
図7では、上アームの常時オンにより上側スイッチング素子14が常時オンされ下側スイッチング素子16が常時オフされたことを示し、上アームの常時オン解除により上側スイッチング素子14がスイッチングを開始したことを示している。コンデンサ電圧v
C_realは、コンデンサ電圧の実際値を示している。また、
図6、
図7では、上アームの常時オン解除後の目標電圧をv
b0としている。ここで、v
b0は、上側スイッチング素子14が常時オンで負荷電流imが0であるときの電源電圧v
bの電圧値である。
【0062】
図6に示すように、コンデンサ電圧検出値が実際値であるコンデンサ電圧v
C_realより低くなる方向に誤差がある場合には、上アームの常時オン解除によって、本来は、リアクトル電流が値を持たない、すなわち0に維持されることが予定される。一方、比較例の場合には、
図7に示すように上アームの常時オン解除時に、リアクトル電流の検出値及び推定値が値を持って大きく振れている。
【0063】
図8は、比較例のオブザーバを用いた制御装置において、コンデンサ電圧検出誤差が+10Vである場合の電圧の制御を示す図である。
図9は、比較例においてコンデンサ電圧検出誤差が+10Vである場合の電流の制御及び誤差デューティ比の推定値を示す図である。
図8の制御を行った比較例の構成も
図6、
図7の場合と同様である。
図8のように、コンデンサ電圧検出値が実際値であるコンデンサ電圧v
C_realより高くなる方向に誤差がある場合も、低くなる方向の誤差がある場合と同様に、上アームの常時オン解除によって、本来は、リアクトル電流が値を持たないことが予定される。一方、比較例の場合には、
図9に示すように、上アームの常時オン解除時に、リアクトル電流の推定値がコンデンサ電圧検出誤差に応じて負の方向に値を持つように変化し、0であるリアクトル電流検出値との間にオフセットが生じている。また、このとき、誤差デューティ比は、正の方向に値を持つように大きく変化している。これにより、比較例ではリアクトル電流の推定精度が低下することが分かる。
【0064】
図10は、基本形態のオブザーバ32を用いた制御装置30において、コンデンサ電圧検出誤差が−10Vである場合の電圧の制御を示す図である。
図11は、基本形態においてコンデンサ電圧検出誤差が−10Vである場合の電流の制御及び誤差デューティ比の推定値を示す図である。
図10、
図11の制御では、第1基本形態の構成を用いた。
図10、
図11に示すように、基本形態では、
図6、
図7に示した比較例の場合と異なり、リアクトル電流推定値とリアクトル電流検出値とをほぼ一致させることができた。
【0065】
図12は、基本形態のオブザーバ32を用いた制御装置30において、コンデンサ電圧検出誤差が+10Vである場合の電圧の制御を示す図である。
図13は、基本形態においてコンデンサ電圧検出誤差が+10Vである場合の電流の制御及び誤差デューティ比の推定値を示す図である。
図12、
図13の制御も、第1基本形態の構成を用いた。
図12、
図13に示すように、基本形態では、コンデンサ電圧検出誤差として正の値を持つ場合も、
図10、
図11と同様に、リアクトル電流推定値とリアクトル電流検出値とをほぼ一致させることができた。これにより、本発明の効果を確認できた。
【0066】
[変形例]
DC/DCコンバータにおいて、リアクトル電流に応じてリアクトルのインダクタンスLの値は変化する。そこで、上記の各基本形態における制御において、リアクトル12に流れるリアクトル電流i
Lまたは流れると予想されるリアクトル電流推定値i
L〜に応じてリアクトル12のインダクタンスLを変更するように設定することが好適である。
【0067】
図14は、電流値に対するリアクトル12のインダクタンスLの変化を示す図である。
図14において、横軸の電流値は最大電流を1として正規化し、縦軸のリアクトル12のインダクタンスLは電流値が0のときを1として正規化して示している。
【0068】
なお、上記の基本形態では、オブザーバを同一次元オブザーバとしたが、最小次元オブザーバを適用してもよい。また、双1次変換を利用して状態方程式を離散化したが、これに限定されるものではなく、0次ホールド、前進差分、後退差分を利用して離散化させてもよい。
【0069】
上記の各基本形態及びその変形例によれば、リアクトル電流を精度よく推定できるので、DC/DCコンバータ11を精度よく制御できる。
【0070】
<実施形態(間欠昇圧)>
本実施形態では、間欠昇圧を対象とする。昇圧コンバータの間欠昇圧モードでは、昇圧コンバータの損失軽減を狙い、昇圧動作の終了後(コンデンサ電圧v
cの目標値までの昇圧の終了後)、リアクトル電流が小さい場合に上下スイッチング素子を全周期オフ(スイッチング素子全オフ)する。例えば、リアクトル電流i
Lまたはその目標値i
L*が所定値以下の状態が所定時間継続した場合に、間欠昇圧モードに入る。定速走行時など、モータ消費電力が小さい状態が継続する場合であり、間欠昇圧モードに入る条件については、従来より提案されているものを採用すればよい。
【0071】
また、間欠昇圧モードにおいては、コンデンサ電圧v
cを監視し、コンデンサ電圧v
cが目標値から所定値離れた場合にスイッチング素子全オフを解除して昇圧動作を行う。そして、コンデンサ電圧v
cが目標値に達したら、再度スイッチング素子全オフとする。間欠昇圧モードでは、このような間欠的な昇圧を繰り返す。
【0072】
そして、昇圧動作の終了後、リアクトル電流が小さい場合に上下スイッチング素子を全オフすると、昇圧コンバータの入力電圧より昇圧コンバータの出力電圧が高いためリアクトル電流i
Lは流れない。また、リアクトル電流が流れないためデッドタイムによって発生するデューティ比に誤差Δdは発生しない。すなわち、リアクトル電流i
L,デッドタイムによる誤差デューティ比Δdはともにゼロである。
【0073】
上述した基本形態のオブザーバは、このような状態でも状態方程式に基づいて、リアクトル電流、デッドタイムによる誤差デューティ比を推定し、その推定値i
L~,Δd~を算出する。推定値i
L~,Δd~は、スイッチング素子のオンオフを行っていることを前提とした状態方程式に基づき算出しており、これらは実際にはゼロであるにもかかわらずゼロにはならない。
【0074】
本実施形態では、間欠昇圧モードで、上下スイッチング素子を全周期オフ(スイッチング素子全オフ)の場合には、リアクトル電流推定値とデッドタイムによる誤差デューティ比推定値をゼロとする。これによって、スイッチング素子全オフ時と、昇圧再開時における状態を精度良く推定することができる。
【0075】
図15には、本実施形態のオブザーバ32の構成が示されている。
図3のオブザーバ32の構成に加え、切替器32aが追加されている。この切替器32aには、算出されたリアクトル電流の推定値i
L~と、デッドタイムによる誤差デューティ比の推定値Δd~が入力されてくるとともに、ゼロ発生器からのゼロが入力されてくる。そして、切替器32aには、スイッチング素子全オフか否かを示す制御信号fpwmstopが、入力され、この制御信号fpwmstopがスイッチング素子全オフでないこと(昇圧)を示す場合には切替器32aが「0」を選択し、fpwmstopがスイッチング素子全オフを示す場合には、切替器32aが「1」を選択する。すなわち、切替器32aは、昇圧の場合には算出されたリアクトル電流i
Lの推定値i
L~と、デッドタイムによる誤差デューティ比の推定値Δd~を選択し、これらをそのまま出力し、スイッチング素子全オフの場合には、ゼロを選択してリアクトル電流i
Lの推定値i
L~と、デッドタイムによる誤差デューティ比の推定値Δd~としてゼロを出力する。
【0076】
このように、本実施形態においては、オブザーバ32が切替器32aを有しており、スイッチング素子全オフの場合には、リアクトル電流i
Lの推定値i
L~と、デッドタイムによる誤差デューティ比の推定値Δd~を正しい値であるゼロにする。従って、オブザーバ32の出力である、コンデンサ電圧v
c、リアクトル電流i
L、デッドタイムによる誤差デューティ比Δd、コンデンサ電圧の誤差Δv
cの推定値v
c~,i
L~,Δd~,Δv
c~を正しい値にできる。従って、昇圧が再開された場合にも、正しい推定が行える。
【0077】
図16に、基本形態および実施形態における出力電圧(コンデンサ電圧v
c)、リアクトル電流i
L、リアクトル電流推定値i
L~、デッドタイムによる誤差デューティ比推定値Δd~を示す。基本形態では、スイッチング素子全オフの場合におけるリアクトル電流推定値i
L~、デッドタイムによる誤差デューティ比推定値Δd~がゼロでなく、従って昇圧を開始した際に大きなリアクトル電流i
Lが流れ、出力電圧v
cにも大きなピークが発生する。
【0078】
一方、本実施形態では、スイッチング素子全オフの場合におけるリアクトル電流推定値i
L~、デッドタイムによる誤差デューティ比推定値Δd~がゼロであり、昇圧を開始した際のリアクトル電流i
L、出力電圧v
cが適切なものになる。
【0079】
「昇圧復帰時の処理」
上述したように、オブザーバ32は、スイッチング素子全オフの場合に、リアクトル電流推定値i
L~、デッドタイムによる誤差デューティ比推定値Δd~がゼロに固定している。リアクトル電流は、実際に値がゼロであり、昇圧によってリアクトル電流が流れ始めるので、昇圧開始時のリアクトル電流推定値i
L~がゼロで正しい。
【0080】
一方、デッドタイムによる誤差デューティ比推定値Δd~は、スイッチング素子全オフの場合には、ゼロで正しいが、昇圧を開始した際にゼロから変化するわけではない。従って、昇圧再開時に、適切な値にセットすることが好ましい。
【0081】
本実施形態では、オブザーバ32は、昇圧に復帰する際に、デッドタイムによる誤差デューティ比の推定値Δd~として、デッドタイムと昇圧コンバータのキャリア周期の比率(デッドタイム/キャリア周期)を計算した値を出力する。キャリア周期は、PWM制御の1周期であり、デューティ比に応じて1周期の上下スイッチング素子のオンオフ期間が決定される。すなわち、デッドタイムはキャリアの1周期に対し決定される。そして、デッドタイムによるデューティ比誤差は、デッドタイムによって生じる状態のずれに起因するものであり、デッドタイムが大きいほど大きくなると考えられる。そこで、(デッドタイム/キャリア周期)で計算した値がデッドタイムによる誤差デューティ比の推定値として好適であると考えられる。
【0082】
また、誤差には、プラスの誤差と、マイナスの誤差がある。(デッドタイム/キャリア周期)で計算した値には符号がないため、常にプラスの誤差とするとかえって初期値として不適な場合が生じる。
【0083】
本実施形態では、デューティ比が増加傾向にあるか、減少傾向にあるかで、誤差デューティ比の符号を決定する。例えば、前回の計算によるデューティ比と今回の計算によるデューティ比が増加(今回デューティ比−前回デューティ比の値が正)の場合には(デッドタイム/キャリア周期)で計算した値を誤差デューティ比の推定値Δd~の値とし、前回の計算によるデューティ比と今回の計算によるデューティ比が減少(今回デューティ比−前回デューティ比の値が負)の場合には−(デッドタイム/キャリア周期)で計算した値を誤差デューティ比Δd~の推定値として、デューティ比が増加傾向か、減少傾向かで符号を反対にする。これによって、デューティ比の変化に合わせて誤差デューティ比の推定値を適切なものに設定することができる。なお、変化がゼロの場合には、誤差デューティ比の推定値をゼロにするとよい。