特許第6776232号(P6776232)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6776232
(24)【登録日】2020年10月9日
(45)【発行日】2020年10月28日
(54)【発明の名称】摺動部品
(51)【国際特許分類】
   F16J 15/34 20060101AFI20201019BHJP
   F16C 17/04 20060101ALI20201019BHJP
   F16C 33/10 20060101ALI20201019BHJP
【FI】
   F16J15/34 G
   F16C17/04 A
   F16C33/10 Z
【請求項の数】8
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2017-524731(P2017-524731)
(86)(22)【出願日】2016年5月13日
(86)【国際出願番号】JP2016064251
(87)【国際公開番号】WO2016203878
(87)【国際公開日】20161222
【審査請求日】2018年11月21日
(31)【優先権主張番号】特願2015-119942(P2015-119942)
(32)【優先日】2015年6月15日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000101879
【氏名又は名称】イーグル工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100201259
【弁理士】
【氏名又は名称】天坂 康種
(74)【代理人】
【識別番号】100116506
【弁理士】
【氏名又は名称】櫻井 義宏
(72)【発明者】
【氏名】徳永 雄一郎
(72)【発明者】
【氏名】井上 秀行
(72)【発明者】
【氏名】木村 航
(72)【発明者】
【氏名】井口 徹哉
(72)【発明者】
【氏名】細江 猛
(72)【発明者】
【氏名】笠原 英俊
(72)【発明者】
【氏名】大田 崇史
(72)【発明者】
【氏名】千葉 啓一
(72)【発明者】
【氏名】板谷 壮敏
(72)【発明者】
【氏名】香取 一光
【審査官】 羽鳥 公一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−133496(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/103631(WO,A1)
【文献】 国際公開第2014/174725(WO,A1)
【文献】 米国特許第06152452(US,A)
【文献】 国際公開第2014/050920(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16J 15/34−15/38
F16C 17/04
F16C 33/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに相対摺動する一対の摺動部品を備え、一方の摺動部品は回転側密封環であり、他方の摺動部品は固定側密封環であり、これらの密封環は半径方向に形成された摺動面を有し、被密封流体が漏洩するのをシールするものであって、
前記一対の摺動部品のうち前記一方の摺動部品の摺動面には、両摺動面のランド部により被密封流体側及び漏れ側と非連通に隔離されるように動圧発生溝が設けられ、
前記動圧発生溝の漏れ側端部と前記漏れ側との間の摺動面の前記動圧発生溝と径方向において離隔された位置には独立形状の微細な凹部が複数設けられ、
前記他方の摺動部品の摺動面の内径は、前記動圧発生溝の前記漏れ側端部より径方向に小さく、かつ、前記一方の摺動部品の摺動面の内径より大きく設定されることにより
前記動圧発生溝側に設けられた前記微細な凹部は前記他方の摺動部品の摺動面のランド部と摺動し、前記漏れ側に設けられた前記微細な凹部は前記漏れ側に連通することを特徴とする摺動部品。
【請求項2】
互いに相対摺動する一対の摺動部品を備え、一方の摺動部品は回転側密封環であり、他方の摺動部品は固定側密封環であり、これらの密封環は半径方向に形成された摺動面を有し、被密封流体である液体又はミスト状の流体が漏洩するのをシールするものであって、
前記一対の摺動部品のうち前記一方の摺動部品の摺動面には、両摺動面のランド部により被密封流体側及び漏れ側と非連通に隔離されるように動圧発生溝が設けられ、
前記動圧発生溝の漏れ側端部と前記漏れ側との間の摺動面の前記動圧発生溝と径方向において離隔された位置には独立形状の微細な凹部が複数設けられ、
前記他方の摺動部品の摺動面の内径は、前記動圧発生溝の前記漏れ側端部より径方向に小さく、かつ、前記一方の摺動部品の摺動面の内径より大きく設定されることにより
前記動圧発生溝側に設けられた前記微細な凹部は前記他方の摺動部品の摺動面のランド部と摺動し、前記漏れ側に設けられた前記微細な凹部は前記漏れ側に連通することを特徴とする摺動部品。
【請求項3】
前記動圧発生溝は、漏れ側の流体を吸い込み被密封流体側にポンピングするスパイラル形状をなしていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の摺動部品。
【請求項4】
前記独立形状の微細な凹部は、ディンプルから構成されることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の摺動部品。
【請求項5】
前記独立形状の微細な凹部は、ヘリングボーン溝から構成されることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の摺動部品。
【請求項6】
前記独立形状の微細な凹部は、レイリーステップ機構を形成するグルーブ部から構成されることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の摺動部品。
【請求項7】
前記動圧発生溝は、漏れ側の端部が被密封流体側の端部に比較して周方向に長く延びて形成され、漏れ側の開口部が拡大された形状に形成されることを特徴とする請求項1ないし請求項6のいずれか1項に記載の摺動部品。
【請求項8】
前記一対の摺動部品の少なくとも一方の摺動部品の摺動面には、被密封流体側に連通し、漏れ側には連通しないように構成された流体導入溝が設けられることを特徴とする請求項1ないし請求項7のいずれか1項に記載の摺動部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、メカニカルシール、軸受、その他、摺動部に適した摺動部品に関する。特に、摺動面に流体を介在させて摩擦を低減させるとともに、摺動面から流体が漏洩するのを防止する必要のある密封環、例えば、ターボチャージャー用あるいは航空エンジン用のギアボックスに使用されるオイルシール、または軸受などの摺動部品に関する。
【背景技術】
【0002】
摺動部品の一例である、メカニカルシールにおいて、その性能は、漏れ量、摩耗量、及びトルクによって評価される。従来技術ではメカニカルシールの摺動材質や摺動面粗さを最適化することにより性能を高め、低漏れ、高寿命、低トルクを実現している。しかし、近年の環境問題に対する意識の高まりから、メカニカルシールの更なる性能向上が求められており、従来技術の枠を超える技術開発が必要となっている。
そのような中で、例えば、ターボチャージャーのような回転部品のオイルシール装置に利用されるものとして、ハウジングに回転可能に収納された回転軸と、回転軸とともに回転する円盤状の回転体と、ハウジングに固定され、回転体の端面に当接して外周側から内周側へオイルの漏れるのを防止する円盤状の固定体とを備え、固定体の当接面には流体の遠心力により正圧を発生する環状の溝が設けられ、オイルが外周側から内周側へ漏れるのを防止するようにしたものが知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
また、例えば、有毒の流体をシールする回転軸の軸封装置において、回転軸とともに回転リングとケーシングに取付けられた静止リングとを備え、回転リング及び静止リングのいずれかの摺動面に回転リングの回転により低圧側の液体を高圧側に向かって巻き込むスパイラル溝が高圧側の端部が行止まり形状であるように設けられ、高圧側の被密封流体が低圧側へ漏れるのを防止するようにしたものが知られている(例えば、特許文献2参照。)。
また、例えば、ターボチャージャーの駆動軸を圧縮機ハウジングに対してシールするのに適した面シール構造として、協働する1対のシールリングのうち、その一方は回転構成要素に設けられ、他方は静止構成要素に設けられ、これらのシールリングは、作動中に実質的に半径方向に形成されたシール面を有して、シール面同士の間に、シール面の外側区域をシール面の内側区域に対してシールするためのシールギャップが形成され、シール面の少なくとも一方に、ガスを送り込むのに有効な周方向に離間した複数の凹部が設けられ、該凹部はシール面の一方の周縁から他方の周縁に向かって延びているとともに、凹部の内端は前記シール面の他方の周縁から半径方向に離間して設けられ、非ガス成分を含むガス媒体中の非ガス成分がシールされるようにしたものが知られている(例えば、特許文献3参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実開昭62−117360号公報
【特許文献2】特開昭62−31775号公報
【特許文献3】特開2001−12610号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記の特許文献1ないし3に記載の従来技術においては、例えば図9に示すように、静止リング51の摺動面51aに回転リング52の回転により低圧流体側(以下、「漏れ側」ということがある。)の流体を被密封流体側(高圧流体側)に向かって巻き込むスパイラル溝53の漏れ側の端部53aが漏れ側に直接開口しているため、開口部近傍において、静止リング51の摺動面と回転リング52の摺動面との相対摺動によりダストが強制的に摺動面に引きずり込まれる場合がある。また、引きずり込まれたダストは両摺動面の相対摺動により粉砕され、微細化され、両摺動面の間にさらに進入しやすくなり、両摺動面の摩耗等の表面損傷を促進するという問題があった。
【0006】
本発明は、相対摺動する一対の摺動部品の摺動面において、定常運転時には摺動面を流体潤滑の低摩擦とすると共に、被密封流体の漏れ及び摺動面へのダストの進入を防止し、摺動面の密封と潤滑との相反する両機能を向上させることのできる摺動部品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため本発明の摺動部品は、第1に、
互いに相対摺動する一対の摺動部品を備え、一方の摺動部品は回転側密封環であり、他方の摺動部品は固定側密封環であり、これらの密封環は半径方向に形成された摺動面を有し、被密封流体が漏洩するのをシールするものであって、
前記一対の摺動部品のうち前記一方の摺動部品の摺動面には、両摺動面のランド部により被密封流体側及び漏れ側と非連通に隔離されるように動圧発生溝が設けられ、
前記動圧発生溝の漏れ側端部と前記漏れ側との間の摺動面の前記動圧発生溝と径方向において離隔された位置には独立形状の微細な凹部が複数設けられ、
前記他方の摺動部品の摺動面の内径は、前記動圧発生溝の前記漏れ側端部より径方向に小さく、かつ、前記一方の摺動部品の摺動面の内径より大きく設定されることにより
前記動圧発生溝側に設けられた前記微細な凹部は前記他方の摺動部品の摺動面のランド部と摺動し、前記漏れ側に設けられた前記微細な凹部は前記漏れ側に連通することを特徴としている。
この特徴によれば、定常運転時には摺動面を流体潤滑の低摩擦とすると共に、漏れ側の流体中に混在するダストの摺動面への進入を防止し、摺動面の密封と潤滑との相反する両機能を向上させることのできる摺動部品を提供することができる。また、動圧発生溝は被密封流体側とはランド部により隔離され、また、微細な凹部は動圧発生溝と径方向において離隔された位置に配列され、それぞれが独立しているため、静止時においても漏れが発生することがない。
【0008】
また、本発明の摺動部品は、第2に、
互いに相対摺動する一対の摺動部品を備え、一方の摺動部品は回転側密封環であり、他方の摺動部品は固定側密封環であり、これらの密封環は半径方向に形成された摺動面を有し、被密封流体である液体又はミスト状の流体が漏洩するのをシールするものであって、
前記一対の摺動部品のうち前記一方の摺動部品の摺動面には、両摺動面のランド部により被密封流体側及び漏れ側と非連通に隔離されるように動圧発生溝が設けられ、
前記動圧発生溝の漏れ側端部と前記漏れ側との間の摺動面の前記動圧発生溝と径方向において離隔された位置には独立形状の微細な凹部が複数設けられ、
前記他方の摺動部品の摺動面の内径は、前記動圧発生溝の前記漏れ側端部より径方向に小さく、かつ、前記一方の摺動部品の摺動面の内径より大きく設定されることにより
前記動圧発生溝側に設けられた前記微細な凹部は前記他方の摺動部品の摺動面のランド部と摺動し、前記漏れ側に設けられた前記微細な凹部は前記漏れ側に連通することを特徴としている。
この特徴によれば、定常運転時には摺動面を流体潤滑の低摩擦とすると共に、被密封流体である液体の漏れ及び漏れ側の流体中に存在するダストの摺動面への進入を防止し、摺動面の密封と潤滑との相反する両機能を向上させることのできる摺動部品を提供することができる。また、動圧発生溝は被密封流体である液体側とはランド部により隔離され、また、微細な凹部は動圧発生溝と径方向において離隔された位置に配列され、それぞれが独立しているため、静止時においても漏れが発生することがない。
【0009】
また、本発明の摺動部品は、第3に、第1又は第2の特徴において、前記動圧発生溝は、漏れ側の流体を吸い込み被密封流体側にポンピングするスパイラル形状をなしていることを特徴としている。
この特徴によれば、定常運転時には漏れ側の流体が被密封流体側に向けてポンピングされ、被密封流体が漏れ側へ漏洩することが防止される。
【0010】
また、本発明の摺動部品は、第4に、第1ないし第3のいずれかの特徴において、前記独立形状の微細な凹部は、ディンプルから構成されることを特徴としている。
この特徴によれば、製作を容易にすることができる。
【0011】
また、本発明の摺動部品は、第5に、第1ないし第3のいずれかの特徴において、前記独立形状の微細な凹部は、ヘリングボーン溝から構成されることを特徴としている。
この特徴によれば、より大きな動圧効果を得ることができる。
【0012】
また、本発明の摺動部品は、第6に、第1ないし3のいずれかの特徴において、前記独立形状の微細な凹部は、レイリーステップ機構を形成するグルーブ部から構成されることを特徴としている。
この特徴によれば、グルーブ部を効率的に配置することができ、より大きな動圧効果を得ることができる。
【0013】
また、本発明の摺動部品は、第7に、第1ないし6のいずれかの特徴において、前記動圧発生溝は、漏れ側の端部が被密封流体側の端部に比較して周方向に長く延びて形成され、漏れ側の開口部が拡大された形状に形成されることを特徴としている。
この特徴によれば、動圧発生溝の漏れ側の端部aと漏れ側とが非連通であって、漏れ側の流体中に混在するダストの動圧発生溝への進入が抑制されたものにおいて、動圧発生溝への流体供給の効果を増大することができる。
【0014】
また、本発明の摺動部品は、第8に、第1ないし7のいずれかの特徴において、一対の摺動部品の少なくとも一方の摺動部品の摺動面には、被密封流体側に連通し、漏れ側には連通しないように構成された流体導入溝が設けられることにより、起動時などの回転側密封環の低速回転状態において摺動面の外周側に存在する液体が、積極的に摺動面に導入され、摺動面の潤滑を行うことができる。
また、回転側密封環が定常運転等の高速回転時において流体導入溝から摺動面に導入された液体は遠心力により排出されるため、漏れ側である内周側に液体が漏洩することはない。
【発明の効果】
【0015】
本発明は、以下のような優れた効果を奏する。
(1)互いに相対摺動する一対の摺動部品を備え、一方の摺動部品は固定側密封環であり、他方の摺動部品は回転側密封環であり、これらの密封環は半径方向に形成された摺動面を有し、被密封流体が漏洩するのをシールするものであって、前記一対の摺動部品の少なくとも一方の摺動部品の摺動面には、両摺動面のランド部により被密封流体側及び漏れ側と非連通に隔離されるように動圧発生溝が設けられ、前記動圧発生溝と前記漏れ側との間の摺動面の前記動圧発生溝と径方向において離隔された位置には独立形状の微細な凹部が複数設けられていることにより、定常運転時には摺動面を流体潤滑の低摩擦とすると共に、漏れ側の流体中に混在するダストの摺動面への進入を防止し、摺動面の密封と潤滑との相反する両機能を向上させることのできる摺動部品を提供することができる。また、動圧発生溝は被密封流体側とはランド部により隔離され、また、微細な凹部は動圧発生溝と径方向において離隔された位置に配列され、それぞれが独立しているため、静止時においても漏れが発生することがない。
【0016】
(2)互いに相対摺動する一対の摺動部品を備え、一方の摺動部品は固定側密封環であり、他方の摺動部品は回転側密封環であり、これらの密封環は半径方向に形成された摺動面を有し、被密封流体である液体又はミスト状の流体が漏洩するのをシールするものであって、前記一対の摺動部品の少なくとも一方の摺動部品の摺動面には、両摺動面のランド部により被密封流体側及び漏れ側と非連通に隔離されるように動圧発生溝が設けられ、前記動圧発生溝と前記漏れ側との間の摺動面の前記動圧発生溝と径方向において離隔された位置には独立形状の微細な凹部が複数設けられていることにより、定常運転時には摺動面を流体潤滑の低摩擦とすると共に、被密封流体である液体の漏れ及び漏れ側の流体中に存在するダストの摺動面への進入を防止し、摺動面の密封と潤滑との相反する両機能を向上させることのできる摺動部品を提供することができる。また、動圧発生溝は被密封流体である液体側とはランド部により隔離され、また、微細な凹部は動圧発生溝と径方向において離隔された位置に配列され、それぞれが独立しているため、静止時においても漏れが発生することがない。
【0017】
(3)動圧発生溝は、漏れ側の流体を吸い込み被密封流体側にポンピングするスパイラル形状をなしていることにより、定常運転時には漏れ側の流体が被密封流体側に向けてポンピングされ、被密封流体が漏れ側へ漏洩することが防止される。
【0018】
(4)独立形状の微細な凹部は、ディンプルから構成されることにより、製作を容易にすることができる。
【0019】
(5)独立形状の微細な凹部は、ヘリングボーン溝から構成されることにより、より大きな動圧効果を得ることができる。
【0020】
(6)独立形状の微細な凹部は、レイリーステップ機構を形成するグルーブ部から構成されることにより、グルーブ部を効率的に配置することができ、より大きな動圧効果を得ることができる。
【0021】
(7)動圧発生溝は、漏れ側の端部が被密封流体側の端部に比較して周方向に長く延びて形成され、漏れ側の開口部が拡大された形状に形成されることにより、動圧発生溝の漏れ側の端部aと漏れ側とが非連通であって、漏れ側の流体中に混在するダストの動圧発生溝への進入が抑制されたものにおいて、動圧発生溝への流体供給の効果を増大することができる。
【0022】
(8)一対の摺動部品の少なくとも一方の摺動部品の摺動面には、被密封流体側に連通し、漏れ側には連通しないように構成された流体導入溝が設けられることにより、起動時などの回転側密封環の低速回転状態において摺動面の外周側に存在する液体が、積極的に摺動面に導入され、摺動面の潤滑を行うことができる。
また、回転側密封環が定常運転等の高速回転時において流体導入溝から摺動面に導入された液体は遠心力により排出されるため、漏れ側である内周側に液体が漏洩することはない。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明の実施例1に係るメカニカルシールの一例を示す縦断面図である。
図2】本発明の実施例1に係る摺動部品の摺動部分を拡大して示したものであって、紙面下方の水平方向に回転中心が存在する。
図3図1のA−A矢視図である
図4】微細な凹部の有する機能を説明する説明図である。
図5】本発明の実施例2に係る摺動部品の一方の摺動面を示すもので、実施例1の図3に対応する図である。
図6】本発明の実施例3に係る摺動部品の一方の摺動面を示すもので、実施例1の図3に対応する図である。
図7】本発明の実施例4に係る摺動部品の一方の摺動面を示すもので、実施例1の図3に対応する図である。
図8】本発明の実施例5に係る摺動部品の一方の摺動面を示すもので、実施例1の図3に対応する図である。
図9】従来技術を説明するための説明図であって、(a)は縦断面図、(b)はB−B矢視図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下に図面を参照して、この発明を実施するための形態を、実施例に基づいて例示的に説明する。ただし、この実施例に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置などは、特に明示的な記載がない限り、本発明の範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。
【実施例1】
【0025】
図1ないし図4を参照して、本発明の実施例1に係る摺動部品について説明する。
なお、以下の実施例においては、摺動部品の一例であるメカニカルシールを例にして説明する。また、メカニカルシールを構成する摺動部品の外周側を被密封流体側(液体側あるいはミスト状の流体側)、内周側を漏れ側(気体側)として説明するが、本発明はこれに限定されることなく、外周側が漏れ側(気体側)、内周側が被密封流体側(液体側あるいはミスト状の流体側)である場合も適用可能である。また、被密封流体側(液体側あるいはミスト状の流体側)と漏れ側(気体側)との圧力の大小関係については、例えば、被密封流体側(液体側あるいはミスト状の流体側)が高圧、漏れ側(気体側)が低圧、あるいは、その逆のいずれでもよく、また、両方の圧力が同一であってもよい。
【0026】
図1は、メカニカルシールの一例を示す縦断面図であって、摺動面の外周から内周方向に向かって漏れようとする被密封流体、例えば、軸受部に使用された潤滑油を密封する形式のインサイド形式のものであり、ターボチャージャに備えられたコンプレッサのインペラー1を駆動させる回転軸2側にスリーブ3を介してこの回転軸2と一体的に回転可能な状態に設けられた一方の摺動部品である円環状の回転側密封環4と、ハウジング5にカートリッジ6を介して非回転状態で、かつ、軸方向移動可能な状態で設けられた他方の摺動部品である円環状の固定側密封環7とが設けられ、固定側密封環7を軸方向に付勢するコイルドウェーブスプリング8によって、ラッピング等によって鏡面仕上げされた摺動面S同士で密接摺動するようになっている。すなわち、このメカニカルシールは、回転側密封環4及び固定側密封環7は半径方向に形成された摺動面Sを有し、互いの摺動面Sにおいて、被密封流体、例えば、液体あるいはミスト状の流体(以下、液体あるいはミスト状の流体を、単に「液体」ということがある。)が摺動面Sの外周から内周側の漏れ側へ流出するのを防止するものである。
なお、符号9はOリングを示しており、カートリッジ6と固定側密封環7との間をシールするものである。
また、符号10は動圧発生溝、符号11は微細な凹部を示すものであり、これらについては後記において詳細に説明する。
また、本例では、スリーブ3と回転側密封環4とは別体の場合について説明しているが、これに限らず、スリーブ3と回転側密封環4とを一体に形成してもよい。
【0027】
回転側密封環4及び固定側密封環7の材質は、耐摩耗性に優れた炭化ケイ素(SiC)及び自己潤滑性に優れたカーボンなどから選定されるが、例えば、両者がSiC、あるいは、いずれか一方がSiCであって他方がカーボンの組合せが可能である。
【0028】
図2は、本発明の実施例に係る摺動部品の摺動部分を拡大して示したものである。
図2において、回転側密封環4の摺動面Sには、回転側密封環4及び固定側密封環7の摺動面のランド部Rにより被密封流体側及び漏れ側と非連通に隔離されるように動圧発生溝10が設けられている。すなわち、本例においては、動圧発生溝10は、回転側密封環4の摺動面Sにのみ設けられ、動圧発生溝10の径方向における漏れ側及び非密封流体側にはランド部Rが存在し、この回転側密封環4のランド部Rに対して固定側密封環7の摺動面Sのランド部Rが摺接することにより、動圧発生溝10を被密封流体側及び漏れ側と非連通に隔離している。詳述すると、固定側密封環7の摺動面Sの被密封流体側の外径は、回転側密封環4の動圧発生溝10の被密封流体側の端部より径方向に大きく、また、固定側密封環7の摺動面Sの漏れ側の内径は、動圧発生溝10の漏れ側の端部より径方向に小さく設定され、固定側密封環7の摺動面Sのランド部Rと回転側密封環4の動圧発生溝10の内径側及び外径側のランド部Rとが摺接することにより動圧発生溝10が被密封流体側及び漏れ側と非連通に隔離されているのである。
【0029】
図3にも示すように、動圧発生溝10の漏れ側の端部10aと漏れ側との間の摺動面ISには独立形状の微細な凹部11が複数設けられている。微細な凹部11は、動圧発生溝10の漏れ側の端部10aと径方向において離隔された位置に配設され、動圧発生溝10とは非連通である。
図3においては、微細な凹部11は、ほぼ円形のディンプル111から構成されている。ディンプル111は、ランダムに配設されており、その大きさ、例えば、径は同一でもよく、同一でなくてもよい。
【0030】
本発明において、「微細な凹部」とは、平坦な摺動面Sに形成されるくぼみのことであり、その形状は特に限定されるものではない。例えば、くぼみの平面形状は円形、楕円形、長円形、もしくは多角形など種々の形が包含され、くぼみの断面形状もお椀状、または、方形など種々の形が包含される。
そして、摺動面Sに形成された多数の微細な凹部11は、この摺動面Sと相対摺動する相手側摺動面との間に流体力学的な潤滑液膜として介入する液体の一部を保持して、潤滑液膜を安定化させる機能も有するものである。
【0031】
個々の微細な凹部11は、図4に示すようなレイリーステップを構成するものとみなすことができる。
図4において、回転側密封環4の摺動面S(R)には図の断面と直交する方向に延びるレイリーステップ11aが形成されており、固定側密封環7の摺動面Sは平坦に形成されている。回転側密封環4が矢印で示す方向に相対移動すると、両摺動面間に介在する流体が、その粘性によって矢印方向に追随移動しようとし、その際、レイリーステップ11aの存在によって動圧(正圧)を発生する。この動圧の発生により両摺動面の間隔がわずかに広げられ、漏れ側の流体が動圧発生溝10に吸い込まれやすくなるものである。
【0032】
図3に示すように、動圧発生溝10は、漏れ側の流体を吸い込み被密封流体側にポンピングするためのものであり、例えば、スパイラル形状をなしている。
すなわち、 動圧発生溝10は、スパイラル形状の動圧発生溝10の径方向における漏れ側及び非密封流体側にはランド部Rが存在するため、被密封流体側及び漏れ側と非連通に隔離されている。そして、回転側密封環4と固定側密封環7の相対摺動により、漏れ側の端部10aから被密封流体側の端部10bに向けてポンピング作用を発揮するようにスパイラル状に傾斜され、端部10bにおいて動圧(正圧)を発生するものである。
【0033】
スパイラル形状の動圧発生溝10は、定常運転等の回転側密封環4の高速回転状態において、ディンプル111の作用に助けられながら、漏れ側から気体を吸い込み、被密封流体側の端部10b付近で動圧(正圧)を発生するため、回転側密封環4と固定側密封環7との摺動面Sには僅かな間隙が形成され、摺動面Sは気体潤滑の状態となり非常に低摩擦となる。
【0034】
上記したように、ほぼ円形のディンプル111は、動圧発生溝10の漏れ側の端部10aと漏れ側との間の摺動面ISの動圧発生溝10の漏れ側の端部10aと径方向において離隔された位置に配設され、それぞれが独立した形状であるため、動圧発生溝10の漏れ側の端部10aと漏れ側との間が直接連通されることはない。このため、漏れ側の流体中に混在するダストの動圧発生溝10への進入を抑制することができる。
【0035】
以上説明した実施例1の構成によれば、以下のような効果を奏する。
(1)一対の摺動部品の少なくとも一方の摺動部品の摺動面S(回転側密封環4の摺動面S)には、両摺動面Sのランド部Rにより被密封流体である液体側及び漏れ側と非連通に隔離されるように動圧発生溝10が設けられ、動圧発生溝10と漏れ側との間の摺動面ISの動圧発生溝10と径方向において離隔された位置には、微細な凹部11を構成する、独立形状のディンプル111が複数設けられていることにより、定常運転時には摺動面を流体潤滑の低摩擦とすると共に、被密封流体である液体の漏れ及び漏れ側の流体中に存在するダストの摺動面への進入を防止し、摺動面の密封と潤滑との相反する両機能を向上させることのできる摺動部品を提供することができる。また、動圧発生溝10は被密封流体である液体側とはランド部Rにより隔離され、また、ディンプル111は動圧発生溝10と径方向において離隔された位置に配列され、それぞれが独立しているため、静止時においても漏れが発生することがない。
(2)動圧発生溝10は、漏れ側の流体を吸い込み被密封流体である液体側にポンピングするスパイラル形状をなしていることにより、定常運転時には漏れ側の流体が被密封流体である液体側に向けてポンピングされ、被密封流体である液体が漏れ側へ漏洩することが防止される。
(3)独立形状の微細な凹部11がほぼ円形のディンプル111から構成されるため、製作を容易にすることができる。
【実施例2】
【0036】
図5を参照して、本発明の実施例2に係る摺動部品について説明する。
実施例2に係る摺動部品は、動圧発生溝と漏れ側との間の摺動面の動圧発生溝と径方向において離隔された位置に設けられる独立形状の微細な凹部11の構成が実施例1の摺動部品と相違するが、その他の基本構成は実施例1と同じであり、同じ部材には同じ符号を付し、重複する説明は省略する。
【0037】
図5において、動圧発生溝10の漏れ側の端部10aと漏れ側との間の摺動面ISには独立形状の微細な凹部11を構成するヘリングボーン溝112が複数設けられている。ヘリングボーン溝112は、動圧発生溝10の漏れ側の端部10aと径方向において離隔された位置に配設される。
【0038】
ヘリングボーン溝112は、平面形状が直角に曲げられた略L字状をなしており、摺動面の上流側に向けて開くように配列され、周方向に複数設けられている。
個々の微細なヘリングボーン溝112は、図4に示すようなレイリーステップを構成し、回転側密封環4が矢印で示す方向に相対移動すると、両摺動面間に介在する流体が、その粘性によって矢印方向に追随移動しようとし、その際、ヘリングボーン溝112のレイリーステップ112aの存在によって動圧(正圧)を発生する。この動圧の発生により両摺動面の間隔がわずかに広げられ、漏れ側の流体が動圧発生溝10に吸い込まれやすくなるものである。
【0039】
以上説明した実施例2の構成によれば、以下のような効果を奏する。
(1)一対の摺動部品の少なくとも一方の摺動部品の摺動面S(回転側密封環4の摺動面S)には、両摺動面Sのランド部Rにより被密封流体である液体側及び漏れ側と非連通に隔離されるように動圧発生溝10が設けられ、動圧発生溝10と漏れ側との間の摺動面ISの動圧発生溝10と径方向において離隔された位置には、微細な凹部11を構成する、独立形状のヘリングボーン溝112が複数設けられていることにより、定常運転時には摺動面を流体潤滑の低摩擦とすると共に、被密封流体である液体の漏れ及び漏れ側の流体中に存在するダストの摺動面への進入を防止し、摺動面の密封と潤滑との相反する両機能を向上させることのできる摺動部品を提供することができる。また、動圧発生溝10は被密封流体である液体側とはランド部Rにより隔離され、また、ヘリングボーン溝112は動圧発生溝10と径方向において離隔された位置に配列され、それぞれが独立しているため、静止時においても漏れが発生することがない。
(2)動圧発生溝10は、漏れ側の流体を吸い込み被密封流体である液体側にポンピングするスパイラル形状をなしていることにより、定常運転時には漏れ側の流体が被密封流体である液体側に向けてポンピングされ、被密封流体である液体が漏れ側へ漏洩することが防止される。
(3)独立形状の微細な凹部11がヘリングボーン溝112から構成されるため、より大きな動圧効果を得ることができる。
【実施例3】
【0040】
図6を参照して、本発明の実施例3に係る摺動部品について説明する。
実施例3に係る摺動部品は、動圧発生溝と漏れ側との間の摺動面の動圧発生溝と径方向において離隔された位置に設けられる独立形状の微細な凹部11の構成が実施例1の摺動部品と相違するが、その他の基本構成は実施例1と同じであり、同じ部材には同じ符号を付し、重複する説明は省略する。
【0041】
図6において、動圧発生溝10の漏れ側の端部10aと漏れ側との間の摺動面ISには独立形状の微細な凹部を構成するグルーブ部113aが複数設けられている。グルーブ部113aは、動圧発生溝10の漏れ側の端部10aと径方向において離隔された位置に配設される。また、グルーブ部113aは、半径方向に一定の幅を有し、周方向に延びた円弧状をなしており、半径方向深溝12とともにレイリーステップ機構113を形成する。グルーブ部113aの深さは半径方向深溝12の深さに比べて浅い。
【0042】
個々の微細なグルーブ部113aは、図4に示すようなレイリーステップを構成し、回転側密封環4が矢印で示す方向に相対移動すると、半径方向深溝12を介して漏れ側から流体を吸い込み、吸い込まれた流体が、その粘性によって矢印方向に追随移動しようとし、その際、レイリーステップ機構113のレイリーステップ113bの存在によって動圧(正圧)を発生する。この動圧の発生により両摺動面の間隔がわずかに広げられ、漏れ側の流体が動圧発生溝10に吸い込まれやすくなるものである。
【0043】
以上説明した実施例3の構成によれば、以下のような効果を奏する。
(1)一対の摺動部品の少なくとも一方の摺動部品の摺動面S(回転側密封環4の摺動面S)には、両摺動面Sのランド部Rにより被密封流体である液体側及び漏れ側と非連通に隔離されるように動圧発生溝10が設けられ、動圧発生溝10と漏れ側との間の摺動面ISの動圧発生溝10と径方向において離隔された位置には、微細な凹部11を構成する、独立形状のグルーブ部113aが複数設けられていることにより、定常運転時には摺動面を流体潤滑の低摩擦とすると共に、被密封流体である液体の漏れ及び漏れ側の流体中に存在するダストの摺動面への進入を防止し、摺動面の密封と潤滑との相反する両機能を向上させることのできる摺動部品を提供することができる。また、動圧発生溝10は被密封流体である液体側とはランド部Rにより隔離され、また、グルーブ部113aは動圧発生溝10と径方向において離隔された位置に配列され、それぞれが独立しているため、静止時においても漏れが発生することがない。
(2)動圧発生溝10は、漏れ側の流体を吸い込み被密封流体である液体側にポンピングするスパイラル形状をなしていることにより、定常運転時には漏れ側の流体が被密封流体である液体側に向けてポンピングされ、被密封流体である液体が漏れ側へ漏洩することが防止される。
(3)独立形状の微細な凹部がレイリーステップ機構113を形成する略円弧状のグルーブ部113aから構成されるため、グルーブ部113aを効率的に配置することができ、より大きな動圧効果を得ることができる。
【実施例4】
【0044】
図7を参照して、本発明の実施例4に係る摺動部品について説明する。
実施例4に係る摺動部品は、動圧発生溝の形状が実施例1の摺動部品と相違するが、その他の基本構成は実施例1と同じであり、同じ部材には同じ符号を付し、重複する説明は省略する。
【0045】
図7において、動圧発生溝15は、実施例1の動圧発生溝10と同じく、動圧発生溝15の径方向における漏れ側及び非密封流体側にはランド部Rが存在するため、被密封流体側及び漏れ側と非連通に隔離されている。そして、回転側密封環4と固定側密封環7の相対摺動により、漏れ側の端部15aから被密封流体側の端部15bに向けてポンピング作用を発揮するようにスパイラル状に傾斜され、端部15bにおいて動圧(正圧)を発生するものである。その際、スパイラル形状の動圧発生溝15は、定常運転等の回転側密封環4の高速回転状態において、ディンプル111の作用に助けられながら、漏れ側から気体を吸い込み、被密封流体側の端部15b付近で動圧(正圧)を発生するため、回転側密封環4と固定側密封環7との摺動面Sには僅かな間隙が形成され、摺動面Sは気体潤滑の状態となり非常に低摩擦となる。
【0046】
動圧発生溝15の漏れ側の端部15aと漏れ側との間には、独立した形状のほぼ円形のディンプル111が端部15aと漏れ側と離間しては配設されているため、端部15aと漏れ側と直接連通されることはなく、漏れ側の流体中に混在するダストの動圧発生溝15への進入を抑制することができるものであるが、同時に、動圧発生溝15への漏れ側の流体供給も抑制されたものとなっている。
このため、図7に示す動圧発生溝15は、漏れ側の端部15aが被密封流体側の端部15bに比較して周方向に長く延びて形成され、漏れ側の開口部が拡大された形状に形成され、動圧発生溝15へ流体供給効果が増大されている。
【0047】
動圧発生溝15の漏れ側の端部15aは、流体供給効果を増大する意味では上流側に延びて形成される方が好ましい。また、漏れ側の端部15aの径方向の幅は被密封流体側の端部15bの幅と同程度でよい。
【0048】
以上説明した実施例4の構成によれば、前記した実施例の効果に加えて以下のような効果を奏する。
動圧発生溝15の漏れ側の端部15aと漏れ側とが非連通であって、漏れ側の流体中に混在するダストの動圧発生溝15への進入が抑制されたものにおいて、動圧発生溝15への流体供給の効果を増大することができる。
【実施例5】
【0049】
次に、図8を参照して、本発明の実施例5に係る摺動部品について説明する。
実施例5に係る摺動部品は、一対の摺動部品の少なくとも一方の摺動部品の摺動面の被密封流体側に流体導入溝及び正圧発生機構が設けられる点で前記実施例と相違するが、その他の基本構成は前記実施例と同じであり、同じ部材には同じ符号を付し、重複する説明は省略する。
【0050】
図8(a)において、回転側密封環4の摺動面Sには、該摺動面Sの被密封流体側、すなわち、外周側の周縁に連通し、漏れ側、すなわち、内周側の周縁には連通しないように構成された流体導入溝16が設けられている。
【0051】
流体導入溝16は、外周側の周縁に沿うように1個以上配設され、平面形状は略矩形状に形成され、摺動面Sの外周側の周縁において被密封流体側と連通し、内周側とはランド部Rにより隔離されている。
【0052】
また、流体導入溝16の円周方向の下流側に連通して流体導入溝16より浅い正圧発生溝17aを備える正圧発生機構17が設けられている。正圧発生機構17は、正圧(動圧)を発生することにより摺動面間の流体膜を増加させ、潤滑性能を向上させるものである。
正圧発生溝17aは、上流側が流体導入溝16に連通し、外周側とはランド部Rにより隔離されている。
本例では、正圧発生機構17は、上流側において流体導入溝16に連通する正圧発生溝17a及びレイリーステップ17bを備えたレイリーステップ機構から構成されるが、これに限定されることなく、要は、正圧を発生する機構であればよい。
図8(a)において、流体導入溝16及び正圧発生機構17のなす平面形状は略L字状をなしている。
【0053】
今、回転側密封環4が反時計方向に回転するとした場合、外周側の液体は略矩形状の流体導入溝16から摺動面に導入され、摺動面Sの潤滑を行うことができる。その際、正圧発生機構17により正圧(動圧)が発生されるため、摺動面間の流体膜が増大され、潤滑性能をさらに向上させることができる。
また、回転側密封環4が定常運転等の高速回転時において流体導入溝16から摺動面に導入された液体は遠心力により排出されるため、漏れ側である内周側に液体が漏洩することはない。
【0054】
図8(b)は、流体導入溝の形状が異なる点で図8(a)と相違するが、その他は図8(a)と同じである。
【0055】
図8(b)において、回転側密封環4の摺動面Sには、該摺動面Sの被密封流体側、すなわち、外周側の周縁に連通し、漏れ側、すなわち、内周側の周縁には連通しないように構成された流体導入溝18が設けられている。
【0056】
流体導入溝18は、外周側の周縁に沿うように配設され、摺動面Sの外周側の周縁にのみ連通する流体導入部18a及び流体導出部18b、並びにこれらを周方向に連通する流体連通部18cから構成され、内周側とはランド部Rにより隔離されている。
本例では、流体導入部18a及び流体導出部18bは周方向において一定距離隔てて設けられ、それぞれ、径方向に直線状に延びているため、流体導入溝18の平面形状は略U字形をなしている。
【0057】
また、流体導入溝18と外周側とで囲まれる部分に流体導入溝18より浅い正圧発生溝17aを備える正圧発生機構17が設けられている。正圧発生機構17は、正圧(動圧)を発生することにより摺動面間の流体膜を増加させ、潤滑性能を向上させるものである。
正圧発生溝17aは、上流側が流体導入部18aに連通し、流体導出部18b及び外周側とはランド部Rにより隔離されている。
本例では、正圧発生機構17は、上流側において流体導入溝18の流体導入部18aに連通する正圧発生溝17a及びレイリーステップ17bを備えたレイリーステップ機構から構成されるが、これに限定されることなく、要は、正圧を発生する機構であればよい。
【0058】
今、回転側密封環4が時計方向に回転するとした場合、外周側の液体は略U字形の流体導入溝18の流体導入部18aから摺動面に導入され、流体導出部18bから外周側に排出されるが、その際、起動時などの回転側密封環4の低速回転状態において摺動面Sの外周側に存在する液体が、積極的に摺動面Sに導入され、摺動面Sの潤滑を行うことができる。その際、正圧発生機構17により正圧(動圧)が発生されるため、摺動面間の流体膜が増大され、潤滑性能をさらに向上させることができる。
また、回転側密封環4が定常運転等の高速回転時において流体導入溝18から摺動面に導入された液体は遠心力により排出されるため、漏れ側である内周側に液体が漏洩することはない。
【0059】
図8(b)では、流体導入溝18の平面形状は略U字形に形成されているが、これに限らず、流体導入部18aと流体導出部18bとが内径側において交叉する形状、すなわち、略V字でに形成されてもよい。
【0060】
以上説明した実施例5の構成によれば、実施例1の効果に加えて以下のような効果を奏する。
回転側密封環4の摺動面Sには、該摺動面Sの被密封流体側、すなわち、外周側の周縁に連通し、漏れ側、すなわち、内周側の周縁には連通しないように構成された流体導入溝16または18が設けられることにより、起動時などの回転側密封環4の低速回転状態において摺動面Sの外周側に存在する液体が、積極的に摺動面Sに導入され、摺動面Sの潤滑を行うことができる。その際、正圧発生機構17により正圧(動圧)が発生されるため、摺動面間の流体膜が増大され、潤滑性能をさらに向上させることができる。
また、回転側密封環4が定常運転等の高速回転時において流体導入溝16または18から摺動面に導入された液体は遠心力により排出されるため、漏れ側である内周側に液体が漏洩することはない。
【0061】
以上、本発明の実施例を図面により説明してきたが、具体的な構成はこれら実施例に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における変更や追加があっても本発明に含まれる。
【0062】
例えば、前記実施例では、摺動部品をメカニカルシール装置における一対の回転用密封環及び固定用密封環のいずれかに用いる例について説明したが、円筒状摺動面の軸方向一方側に潤滑油を密封しながら回転軸と摺動する軸受の摺動部品として利用することも可能である。
【0063】
また、例えば、前記実施例では、摺動部品の外周側を被密封流体側(液体側あるいはミスト状の流体側)、内周側を漏れ側(気体側)として説明したが、本発明はこれに限定されることなく、外周側が漏れ側(気体側)、内周側が被密封流体側(液体側あるいはミスト状の流体側)である場合も適用可能である。また、被密封流体側(液体側あるいはミスト状の流体側)と漏れ側(気体側)との圧力の大小関係については、例えば、被密封流体側(液体側あるいはミスト状の流体側)が高圧、漏れ側(気体側)が低圧、あるいは、その逆のいずれでもよく、また、両方の圧力が同一であってもよい。
【0064】
また、例えば、前記実施例では、動圧発生溝10がスパイラルグルーブである場合について説明したが、これに限定されることなく、レイリーステップと逆レイリーステップの組み合わせでもよく、要は、漏れ側の流体を吸い込んで動圧(正圧)を発生する機構であればよい。
【0065】
また、例えば、前記実施例では、微細な凹部11について、ディンプル111、ヘリングボーン溝112及びレイリーステップ機構113のレイリーステップ113bを説明したが、これに限定されることなく、例えば、平行溝、直交溝でもよい。また、前記実施例では、ディンプル111の形状についてほぼ円形である場合について説明したが、これに限らず、例えば、楕円形、長円形あるいは矩形状でもよい。
【0066】
また、例えば、前記実施例4では、漏れ側の開口部が拡大された動圧発生溝15について実施例1に適用する場合について説明したが、これに限定されることなく、実施例2及び3にも適用できることはいうまでもない。
【0067】
また、例えば、前記実施例5では、摺動面の被密封流体側に設けられる流体導入溝及び正圧発生機構について実施例1に適用する場合について説明したが、これに限定されることなく、実施例2、3及び4にも適用できることはいうまでもない。
【符号の説明】
【0068】
1 インペラー
2 回転軸
3 スリーブ
4 回転側密封環
5 ハウジング
6 カートリッジ
固定側密封環
8 コイルドウェーブスプリング
10 動圧発生溝
10a 漏れ側の端部
10b 被密封流体側の端部
11 微細な凹部
111 ディンプル
112 ヘリングボーン溝(微細な凹部)
112a レイリーステップ
113 レイリーステップ機構
113a グルーブ部
113b レイリーステップ
12 半径方向深溝
15 動圧発生溝
16 流体導入溝
17 正圧発生機構
18 流体導入溝
S 摺動面
IS 動圧発生溝の漏れ側の端部と漏れ側との間の摺動面
R ランド部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9