(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
例えば、油井や天然ガス井等(以下、総称して「油井」ともいう)の試掘又は生産、オイルサンドやシェールガス等の非在来型資源の開発、二酸化炭素の回収や貯留(CCS(Carbon dioxide Capture and Storage))、地熱発電、あるいは温泉等では、油井管と呼ばれる鋼管が用いられる。鋼管同士の連結には、ねじ継手が用いられる。
【0003】
鋼管用ねじ継手の形式は、カップリング型とインテグラル型とに大別される。カップリング型の場合、連結対象の一対の管材のうち、一方の管材が鋼管であり、他方の管材がカップリングである。この場合、鋼管の両端部の外周に雄ねじ部が形成され、カップリングの両端部の内周に雌ねじ部が形成される。そして、鋼管の雄ねじ部がカップリングの雌ねじ部にねじ込まれ、これにより両者が締結されて連結される。インテグラル型の場合、連結対象の一対の管材がともに鋼管であり、別個のカップリングを用いない。この場合、鋼管の一端部の外周に雄ねじ部が形成され、他端部の内周に雌ねじ部が形成される。そして、一方の鋼管の雄ねじ部が他方の鋼管の雌ねじ部にねじ込まれ、これにより両者が締結されて連結される。
【0004】
一般に、雄ねじ部が形成された管端部の継手部分は、雌ねじ部に挿入される要素を含むことから、ピンと称される。一方、雌ねじ部が形成された管端部の継手部分は、雄ねじ部を受け入れる要素を含むことから、ボックスと称される。ピン及びボックスは、管材の端部であるため、いずれも管状である。
【0005】
鋼管用ねじ継手には、内部からの圧力流体(以下、「内圧」ともいう)及び外部からの圧力流体(以下、「外圧」ともいう)に対して優れた密封性能が要求される。このため、ねじ継手には、メタル−メタル接触によるシール部が設けられる。シール部は、ピンの外周面に設けられたピンシール面と、ボックスの内周面に設けられたボックスシール面とで構成される。ピンシール面の径は、ボックスシール面の径よりもわずかに大きい。ピンシール面及びボックスシール面の径の差を干渉量という。ねじ継手が締結されてシール面同士が嵌め合わされると、干渉量により、ピンシール面の縮径及びボックスシール面の拡径が発生する。シール面の各々が元の径に戻ろうとする弾性回復力により、シール面に接触圧力が発生して全周密着し、密封性能が発揮される。
【0006】
特表2007−504420号公報には、シール面の有効接触長さを最大にすることを目的としたねじ継手が開示されている。このねじ継手では、ピンシール面が円弧面で構成されるとともに、ボックスシール面がテーパ面で構成されている。同公報には、このような構成により、軸方向へ非常に有効な接触幅と、有効接触区間に沿ってほぼ放物線状の接触圧分布とが形成されると記載されている。
【0007】
特開2014−101983号公報には、密封性能及び耐圧縮性能の確保を目的としたねじ継手が開示されている。このねじ継手は、ピンの先端部に設けられたピンショルダ面と、ボックスの奥端部に設けられたボックスショルダ面とを備える。ピンショルダ面及びボックスショルダ面は、締結状態で互いに接触してショルダ部を構成する。同公報には、ボックスショルダ面からピンショルダ面への接触反力は、向求心成分がなくてピンの先端部の縮径変形に寄与しないか、又は向遠心成分があってピンの先端部の縮径変形に抵抗すると記載されている。
【0008】
同公報のねじ継手では、各ショルダ面と管軸に垂直な面との交差角であるショルダ角が0°以上20°以下に設定されている。同公報によれば、ショルダ角が20°を超えると、上記向遠心成分が過大となってシール部にダメージが発生する。
【0009】
同公報のねじ継手では、ピンショルダ面の外径がボックスショルダ面の外径よりも小さい。同公報によれば、この構成により、ボックスからピンの先端部への縮径方向の押し力の発生を防止することができ、当該押し力に起因するシール部の接触弱化を抑制できる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
高い耐トルク性能を実現する鋼管用ねじ継手として、楔型ねじが適用されたねじ継手が知られている。楔型ねじは、リードに沿って徐々に変化するねじ幅を有し、フランク角が負角である挿入面及び荷重面を有する。楔型ねじは、自緊作用を有する。すなわち、楔型ねじが適用されたねじ継手では、締結が完了すると、雄ねじ部及び雌ねじ部の挿入面同士、並びに雄ねじ部及び雌ねじ部の荷重面同士が互いに接触して、雄ねじ部と雌ねじ部とが嵌まり合う。
【0015】
一般に、楔型ねじが適用されたねじ継手には、ショルダ部が設けられることはない。例えば、特表2007−504420号公報のねじ継手は、楔型ねじで構成されたねじ部を備えるが、ショルダ部を備えていない。一方、ショルダ部を備えるねじ継手には、通常、楔型ねじが適用されることはない。例えば、特開2014−101983号公報のねじ継手には、ショルダ部が設けられているが、締結完了時にねじ部の挿入面同士が接触しない台形ねじが適用されている。
【0016】
このように、鋼管用ねじ継手では、通常、楔型ねじとショルダ部とを組み合わせて設けることはない。ねじ継手に楔型ねじを適用し、且つショルダ部を設ける場合、挿入面同士及び荷重面同士の接触(ロッキング)と、ショルダ面同士の接触(ショルダリング)とが同時に発生するように制御する必要がある。楔型ねじのロッキングとショルダリングとが同時に発生しなければ、シール部及び/又はねじ部に所定の干渉量が導入されず、複合荷重に対して弱い箇所が生じる可能性がある。また、締結トルク線上でねじ部及びショルダ部のそれぞれについて別々に降伏が発生する現象が起こる可能性もある。これらの事態を防止するためには、ねじ継手の製造公差を厳密に設定する必要がある。このため、楔型ねじとショルダ部との組み合わせは、通常は避けられる。
【0017】
しかしながら、製造公差の問題を除けば、楔型ねじとショルダ部とを組み合わせることにより、密封性能の向上を期待することができる。すなわち、締結完了時における楔型ねじのロッキング効果及びショルダリング効果により、シール部に発生する接触力を増加させることができると考えられる。
【0018】
本発明者等は、楔型ねじのねじ部及びショルダ部の双方をねじ継手に設けた上で、優れた密封性能を得るのに適正なショルダ面の角度を検討した。その結果、本発明者等は、実施形態に係るねじ継手を完成させた。
【0019】
実施形態に係る鋼管用ねじ継手は、管状のピンと、管状のボックスとを備える。ピンは、鋼管本体に接続されている。ボックスは、ピンが挿入されてピンと締結される。ピンは、ピンショルダ面と、雄ねじ部と、ピンシール面とを有する。ピンショルダ面は、ピンの先端部に設けられる環状面である。ピンショルダ面は、外周縁部が内周縁部よりもピンの先端側に位置するように傾斜する。雄ねじ部は、ピンの外周面に設けられる。雄ねじ部は、楔型ねじで構成される。ピンシール面は、ピンショルダ面と雄ねじ部との間においてピンの外周面に設けられる。ボックスは、ボックスショルダ面と、雌ねじ部と、ボックスシール面とを有する。ボックスショルダ面は、ピンショルダ面に対応してボックスの奥端部に設けられる環状面である。ボックスショルダ面は、外周縁部が内周縁部よりもボックスの奥端側に位置するように傾斜する。雌ねじ部は、雄ねじ部に対応してボックスの内周面に設けられる。雌ねじ部は、楔型ねじで構成される。ボックスシール面は、ピンシール面に対応してボックスの内周面に設けられる。締結状態において、ピンショルダ面がボックスショルダ面と接触し、雄ねじ部の挿入面及び荷重面がそれぞれ雌ねじ部の挿入面及び荷重面と接触し、且つ、ピンシール面がボックスシール面と接触する。ショルダ角は、4°以上である。ショルダ角は、非締結状態においてピンショルダ面及びボックスショルダ面の各々が管軸に垂直な面となす角度である。
【0020】
上記ねじ継手には、楔型ねじで構成された雄ねじ部及び雌ねじ部と、ピンショルダ面及びボックスショルダ面とが設けられている。締結状態では、雄ねじ部及び雌ねじ部の挿入面同士及び荷重面同士が接触し、ピンショルダ面とボックスショルダ面とが接触する。すなわち、締結完了時に楔型ねじのロッキング及びショルダリングが発生する。これにより、荷重の作用時に、ねじ部とショルダ部との間に配置されたピンシール面及びボックスシール面の変形が生じにくくなり、シール面同士の接触力が増加することが期待される。さらに、各ショルダ面は、4°以上のショルダ角を有する。詳しくは後述するが、当該ショルダ角であれば、従来のねじ継手と比較して優れた密封性能を得ることができる。
【0021】
上記ショルダ角は、40°以上であってもよい。
【0022】
詳しくは後述するが、ショルダ角を40°以上に設定することにより、優れた耐トルク性能を得ることができる。
【0023】
上記ショルダ角は、60°以下であってもよい。
【0024】
一般に、ショルダ角を増加させると、ピンの先端部の剛性が低下して密封性能が低くなる。しかしながら、実施形態に係るねじ継手の構成の場合、ショルダ角が60°以下であれば、ピンの先端部の剛性低下の影響を受けにくく、優れた密封性能を維持することができる。この点については後述する。
【0025】
以下、実施形態について、図面を参照しつつ具体的に説明する。図中同一及び相当する構成については同一の符号を付し、同じ説明を繰り返さない。説明の便宜上、各図において、構成を簡略化又は模式化して示したり、一部の構成を省略して示したりする場合がある。
【0026】
[ねじ継手の構成]
図1は、実施形態に係る鋼管用ねじ継手1の概略構成を示す縦断面図である。縦断面とは、ねじ継手1の管軸CLを含む平面で切断された断面をいう。ねじ継手1は、インテグラル型のねじ継手であってもよいし、カップリング型のねじ継手であってもよい。
【0027】
図1に示すように、ねじ継手1は、ピン10と、ボックス20とを備える。ピン10及びボックス20は、それぞれ管状である。ボックス20にピン10が挿入され、ピン10とボックス20とが締結される。
【0028】
ピン10は、鋼管本体30に接続されている。ピン10は、鋼管の端部に切削加工が施されることで形成される。鋼管本体30とは、ピン10を含む鋼管においてボックス20に挿入されない部分をいう。以下、管軸CLが延びる方向(管軸方向)において、ピン10の先端側を内、前又は奥、鋼管本体30側を外又は後と称する場合がある。
【0029】
ピン10は、ピンショルダ面11と、ピンシール面12と、雄ねじ部13とを備える。ピンショルダ面11、ピンシール面12、及び雄ねじ部13は、管軸方向の前方から後方に向かってこの順で配置されている。
【0030】
ピンショルダ面11は、ピン10の先端部に設けられている。ピンショルダ面11は、管状のピンの先端面に配置されている。したがって、ピンショルダ面11は環状面である。
【0031】
ピンシール面12は、ピン10の外周面に設けられる。ピンシール面12は、ピンショルダ面11と雄ねじ部13との間に配置されている。ピンシール面12は、例えば、円弧もしくは楕円弧を管軸CLの周りに回転させた回転体の周面、又は管軸CLを軸とする円錐台の周面で構成される。あるいは、ピンシール面12は、これらの周面を2種以上組み合わせてなる。
【0032】
雄ねじ部13は、ピン10の外周面に設けられる。雄ねじ部13は、ピンシール面12よりも鋼管本体30側に配置されている。雄ねじ部13は、楔型ねじで構成される。楔型ねじとは、ねじ山の頂部から基部に向かってねじ山幅が徐々に狭くなる形状を有するねじである。雄ねじ部13は、ピン10の先端に向かってねじ外径が小さくなるテーパ雄ねじで構成される。雄ねじ部13のねじ山幅は、ピン10の先端に向かって徐々に狭くなっている。
【0033】
ボックス20は、ボックスショルダ面21と、ボックスシール面22と、雌ねじ部23とを備える。ボックスショルダ面21、ボックスシール面22、及び雌ねじ部23は、管軸方向の前方から後方に向かってこの順で配置されている。
【0034】
ボックスショルダ面21は、ピンショルダ面11に対応して、ボックス20の奥端部に設けられる。ボックスショルダ面21は、ピンショルダ面11と同様、環状面である。ボックスショルダ面21は、締結状態においてピンショルダ面11に接触して、ピンショルダ面11とともにショルダ部を形成する。ピンショルダ面11及びボックスショルダ面21は、ピン10のねじ込みを制限するストッパの役割を担う。ピンショルダ面11及びボックスショルダ面21は、継手内部において、ねじの締め付け軸力を発生させる役割を担う。
【0035】
ボックスシール面22は、ピンシール面12に対応して、ボックス20の内周面に設けられる。ボックスシール面22は、ボックスショルダ面21と雌ねじ部23との間に配置される。ボックスシール面22は、例えば、円弧もしくは楕円弧を管軸CLの周りに回転させた回転体の周面、又は管軸CLを軸とする円錐台の周面で構成される。あるいは、ボックスシール面22は、これらの周面を2種以上組み合わせてなる。ボックスシール面22は、締結状態においてピンシール面12に接触して、ピンシール面12とともにメタル−メタル接触によるシール部を形成する。
【0036】
雌ねじ部23は、雄ねじ部13に対応して、ボックス20の内周面に設けられる。雌ねじ部23は、雄ねじ部13を構成する楔型ねじと噛み合う楔型ねじで構成される。雌ねじ部23は、ボックス20の奥端に向かってねじ内径が小さくなるテーパ雌ねじで構成される。雌ねじ部23は、締結状態において雄ねじ部13とともにねじ部を形成する。ねじ部は、1条ねじ又は2条ねじであることが好ましい。
【0037】
雄ねじ部13及び雌ねじ部23で構成されるねじ部は、リードに沿って徐々に変化するねじ幅を有する。ただし、ねじ部の一部においてねじ幅が一定になっていてもよい。例えば、ねじ部の管軸方向の内端部及び/又は外端部では、ねじ幅が一定であってもよい。
【0038】
図2は、ねじ継手1の部分拡大図である。
図2には、ねじ継手1のねじ部が拡大して示されている。
【0039】
図2に示すように、雄ねじ部13は、ねじ山頂面131と、ねじ谷底面132と、挿入面133と、荷重面134とを有する。挿入面133及び荷重面134は、ねじ山頂面131とねじ谷底面132とを接続するフランク面である。挿入面133は、ボックス20に対するピン10のねじ込みで先行する面である。荷重面134は、ねじ山頂面131を挟んで挿入面133の反対側に配置されている。
【0040】
挿入面133及び荷重面134は、負のフランク角を有する。フランク角とは、ねじ継手1の縦断面において、管軸CLに垂直な直線とフランク面とがなす角度をいう。
【0041】
挿入面133のフランク角については、時計回りを負の方向とする。よって、負のフランク角を有する挿入面133は、外周部が内周部よりも管軸方向の前方に位置するように傾斜する。荷重面134のフランク角については、反時計回りを負の方向とする。よって、負のフランク角を有する荷重面134は、外周部が内周部よりも管軸方向の後方に位置するように傾斜する。
【0042】
雌ねじ部23は、ねじ谷底面231と、ねじ山頂面232と、挿入面233と、荷重面234とを有する。挿入面233及び荷重面234は、ねじ谷底面231とねじ山頂面232とを接続するフランク面である。荷重面234は、ねじ谷底面231を挟んで挿入面233と対向する。
【0043】
挿入面233及び荷重面234は、負のフランク角を有する。挿入面233のフランク角については、時計回りを負の方向とする。よって、挿入面233は、外周部が内周部よりも管軸方向の前方に位置するように傾斜する。荷重面234のフランク角については、反時計回りを負の方向とする。よって、荷重面234は、外周部が内周部よりも管軸方向の後方に位置するように傾斜する。
【0044】
締結状態において、雌ねじ部23のねじ谷底面231は、雄ねじ部13のねじ山頂面131と隙間を空けて対向する。締結状態において、雌ねじ部23のねじ山頂面232は、雄ねじ部13のねじ谷底面132に接触する。ただし、締結状態において、雌ねじ部23のねじ谷底面231及び雄ねじ部13のねじ山頂面131が互いに接触し、雌ねじ部23のねじ山頂面232及び雄ねじ部13のねじ谷底面132が非接触であってもよい。
【0045】
締結状態において、雌ねじ部23の挿入面233は、雄ねじ部13の挿入面133と接触する。締結状態において、雌ねじ部23の荷重面234は、雄ねじ部13の荷重面134と接触する。この際、雌ねじ部23の挿入面233の全体が雄ねじ部13の挿入面133と接触している必要はない。例えば、製造公差等によって、雌ねじ部23の挿入面233において、雄ねじ部13の挿入面133と接触していない箇所があってもよい。
【0046】
図3は、ねじ継手1の部分拡大図である。
図3には、非締結状態のねじ継手1の前部が示されている。
【0047】
図3に示すように、ピンショルダ面11は、外周縁部が内周縁部よりもピン10の先端側に位置するように傾斜する。ピンショルダ面11は、ショルダ角θ1を有する。ショルダ角θ1は、ボックス20と締結されていない状態のピン10において、ピンショルダ面11と、管軸CLに垂直な面とがなす角度である。
【0048】
ボックスショルダ面21は、外周縁部が内周縁部よりもボックス20の奥端側に位置するように傾斜する。ボックスショルダ面21は、ショルダ角θ2を有する。ショルダ角θ2は、ピン10と締結されていない状態のボックス20において、ボックスショルダ面21と、管軸CLに垂直な面とがなす角度である。
【0049】
ボックスショルダ面21のショルダ角θ2は、ピンショルダ面11のショルダ角θ1と実質的に等しい。ショルダ角θ1とショルダ角θ2とが実質的に等しいとは、ショルダ角θ1とショルダ角θ2との差が製造交差の範囲内であることをいう。例えば、ショルダ角θ1とショルダ角θ2との差は、±1°の範囲内である。以下、説明の便宜上、ショルダ角θ1,θ2を特に区別しないときは、ショルダ角θという。
【0050】
ピンショルダ面11及びボックスショルダ面21のショルダ角θは、優れた密封性能の観点から、4°以上である。密封性能をさらに向上させるためには、ショルダ角θは、7°以上であることが好ましく、20°以上であることがより好ましい。
【0051】
耐トルク性能を向上させるためには、ショルダ角θは、40°以上であることが好ましい。
【0052】
ショルダ角θは、ピン10の先端部において必要な剛性を確保するため、60°以下であることが好ましい。現実的な製造という観点でも、ピンショルダ面11に連続するピン10の外周面及びボックスショルダ面21に連続するボックス20の内周面の各々の傾斜角度や、ピン10及びボックス20を切削する刃物の角度を考慮すると、ショルダ角θの上限値は60°である。
【0053】
ピンシール面12及びボックスシール面22の形状は特に限定されるものではないが、本実施形態のピンシール面12は、ピン10の径方向外方に凸の曲面である。一方、ボックスシール面22は、概ねテーパ状の面である。ボックスシール面22の径は、ボックス20の奥端に向かって徐々に小さくなっている。
【0054】
非締結状態のピン10において、ピンシール面12の最大径の位置P1は、ピン10の先端から管軸方向に所定距離D1だけ離れた位置にある。距離D1は、例えば、5mm以上である。ピン10において、ピンシール面12の前方には剛体部14が設けられている。剛体部14は、ピン10のうち、ピンシール面12よりも管軸方向の前方の部分であって、ピンショルダ面11を含む。
【0055】
剛体部14は、ピンの先端に向かうにつれて外径が小さくなっている。ピン10の縦断面視で、剛体部14の外周面は、管軸CLに対してわずかに傾斜している。剛体部14の外周面の少なくとも一部は、締結状態においてボックス20の内周面に接触しない。剛体部14は、ねじ継手1に圧縮荷重が負荷された際に、ピンシール面11の塑性変形を吸収する。この剛体部14により、ボックスシール面21に対するピンシール面11の接触面圧の低下が抑制される。
【0056】
[効果]
本実施形態に係るねじ継手1は、ピンショルダ面11及びボックスショルダ面21と、楔型ねじで構成された雄ねじ部13及び雌ねじ部23とを有する。締結状態では、ピンショルダ面11がボックスショルダ面21に当接し、且つ、雄ねじ部13及び雌ねじ部23の挿入面133,233同士及び荷重面134,234同士が接触する。このように、ねじ継手1では、締結完了時にショルダリング及びねじ部のロッキングが発生する。これにより、ねじ継手1に荷重が作用した際、ショルダ部とねじ部との間に配置されたシール部のたわみが生じにくくなり、ピンシール面12とボックスシール面22との接触力が増加することを期待することができる。さらに、ピンショルダ面11及びボックスショルダ面21のショルダ角が4°以上であるため、優れた密封性能を得ることができる。
【0057】
以上、実施形態について説明したが、本開示は、上記実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。
【実施例】
【0058】
本開示による効果を検証するため、楔型ねじが適用された鋼管用ねじ継手を対象にした有限要素解析を実施した。具体的には、
図1〜
図3に示す基本構成を有するねじ継手のモデルについて、ピンショルダ面(11)及びボックスショルダ面(21)のショルダ角(θ)を変化させて解析を行い、密封性能及び耐トルク性能を評価した。解析に用いた鋼管の寸法は、7”26#(公称外径177.80mm、公称肉厚9.19mm)、鋼管の材料は、API規格のL80鋼(公称耐力YS=552MPa(80ksi))である。
【0059】
各モデルについて、ISO13679 Series A試験を模擬した複合荷重条件を用い、荷重ステップごとにおけるシール接触力の値を評価した。当該条件下で変化するシール接触力のうち、最小値(最小シール接触力)を密封性能の指標とした。
【0060】
また、各モデルについて、ねじ継手の締結を模擬した解析を実施し、降伏トルクの指標の1つとされるMTV(Maximum Torque Value)の値で耐トルク性能を評価した。
【0061】
密封性能の評価の結果を
図4に示す。
図4は、最小シール接触力とショルダ角(θ)との関係を示すグラフである。
図4では、ショルダ部及び楔型ねじを備えるねじ継手(実施例)との比較のため、ショルダ部を備えない楔型ねじのねじ継手(比較例)の最小シール接触力も示している。
【0062】
図4に示すように、実施例に係るねじ継手では、ショルダ角(θ)を増加させるほど最小シール接触力が上昇する傾向となっている。一般には、ショルダ角(θ)を増加させると、ピン(10)の先端部の剛性が低下し、特に外圧に対する密封性能が低下すると考えられる。しかしながら、実施例に係るねじ継手は、ロッキングされたねじ部とショルダ部との間にシール部が挟まれてシール部の接触面圧が増幅し、荷重負荷時のピンシール面(12)のたわみが減少する。このため、ショルダ角(θ)を増加させた場合であっても、ピン(10)の先端部の剛性の低下に起因する密封性能の低下が抑制されたものと推測される。
【0063】
具体的には、実施例に係るねじ継手の最小シール接触力は、ショルダ角(θ)の増加とともに上昇し、ショルダ角(θ)が4°になった時点で、比較例に係るねじ継手の最小シール接触力よりも大きくなった。最小シール接触力は、ショルダ角(θ)が4°を超えた後もショルダ角(θ)の増加につれて上昇するが、ショルダ角(θ)が7°以上になると一旦横ばいになる。しかしながら、ショルダ角(θ)が20°以上になると、再び、ショルダ角(θ)の増加につれて最小シール接触力が上昇する。
【0064】
よって、ショルダ角(θ)が4°以上であれば、ショルダ部を備えない従来の楔型ねじのねじ継手よりもシール接触力を高めることができ、優れた密封性能を確保することができる。ショルダ角(θ)が7°以上であれば、シール接触力が従来のねじ継手よりも高い値で安定するため、優れた密封性能をより確実に得ることができる。ショルダ角(θ)が20°以上であれば、シール接触力が著しく上昇するため、さらに優れた密封性能を得ることができる。
【0065】
ただし、ショルダ角(θ)が60°を超えると、ショルダ角(θ)を増加させてもシール接触力は増加しなくなる。これは、ピン(10)の先端部の剛性低下の影響が過大になったためと考えられる。したがって、ショルダ角(θ)は、60°以下であることが好ましい。
【0066】
耐トルク性能の評価の結果を
図5に示す。
図5は、解析で得たMTVの値(耐トルク性能)とショルダ角(θ)との関係を示すグラフである。
図5では、ショルダ部及び楔型ねじを備えるねじ継手(実施例)との比較のため、ショルダ部を備えない楔型ねじのねじ継手(比較例)のMTVも示している。
【0067】
図5に示すように、実施例に係るねじ継手では、ショルダ角(θ)を増加させるほどMTVの値が上昇する傾向となっている。ショルダ角(θ)が40°以上になると、実施例に係るねじ継手のMTVの値は、比較例に係るねじ継手のMTVの値よりも大きくなる。よって、ショルダ角(θ)が40°以上であれば、ショルダ部を備えない従来の楔型ねじのねじ継手よりも高い耐トルク性能を得ることができる。
【0068】
以上より、非締結状態におけるショルダ面(11,21)のショルダ角(θ)を4°以上に設計し、且つ、締結完了時においてねじ部の挿入面(133,233)同士及び荷重面(134,234)同士を接触させるとともにショルダ面(11,21)同士を接触させることにより、優れた密封性能が実現されることを確認することができた。より優れた密封性能を得るためには、ショルダ角(θ)を好ましくは7°以上、より好ましくは20°以上とすればよい。また、ショルダ角(θ)を40°以上とすれば、優れた密封性能と、優れた耐トルク性能とを両立できることも確認することができた。ショルダ角(θ)の上限値は、特に限定されるものではないが、好ましくは60°である。