(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
板状の基材の第1の面にケイ酸塩を主体とし、アクリル樹脂を添加した親水性の親水性皮膜が設けられたフィンを、内部に冷媒流路を備え管状の管体の外面にSi粉末とZn含有フッ化物系フラックスとバインダからなるろう材層が設けられたチューブに複数枚並列配置して挿通させた後に、加熱、冷却し、ろう材層を溶融、固化させ、チューブとフィンとを接合する熱交換器の製造方法であり、
前記親水性皮膜として複数の微小な孔を有する多孔状であり、前記基材の前記第1の面に前記親水性皮膜の前記孔を介して露出する露出部を有し、塗布後、加熱乾燥し水洗して付着量を50mg/m2以上350mg/m2以下とした親水性皮膜を形成し、前記露出部として前記基材の前記第1の面に30%以上90%以下開口させ、前記ろう材層を前記管体及び前記フィンよりも孔食電位で卑とする熱交換器の製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ポストコートによって熱交換器に親水性皮膜を形成するためには、熱交換器一基ずつを親水性処理液に浸漬するバッチ処理が必要となるため、量産には手間と時間がかかる上に、親水性処理液の無駄も多く、その廃液処理に手間がかかる。したがって、製造技術の改善が望まれている。
【0008】
本発明は、これらの問題を解決するためになされたものであり、ポストコートを施すことなく、フィンの表面に親水性を付与し、フィンの間の隙間に雨水や結露水が保水されることを防ぐ熱交換器の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の熱交換器は、内部に冷媒流路を備えた
アルミニウム又はアルミニウム合金からなるチューブと、複数枚並列配置されて前記チューブが挿通され、前記チューブとろう付け接合された板状の
アルミニウム又はアルミニウム合金からなるフィンと、を有し、前記フィンは、板状の基材と、前記基材の第1の面
に設けられたケイ酸塩を主体とする
ろう付け後親水性の親水性皮膜と、を備え、前記チューブは、管状の管体
であり、その外面に設けられた
Si粉末とZn含有フッ化物系フラックスと前記管体のアルミニウムとの溶融凝固物からなるフィレットにて、前記チューブと前記フィンが接合されており、前記親水性皮膜が、複数の微小な孔を有する多孔状に形成され、前記基材の前記第1の面に前記親水性皮膜の前記孔を介して露出する露出部が形成され、前記露出部が、前記基材の前記第1の面に30%以上90%以下形成され、前記ろう材層が前記管体及び前記フィンよりも孔食電位で卑とされていることを特徴とする。
【0010】
上記の熱交換器は、前記
フィレットが、Si粉末:1.0〜5.0g/m
2と、Zn含有フッ化物系フラックス:3.0〜10.0g/m
2と、バインダ:0.5〜3.5g/m
2を有するろう材層とアルミニウムとの溶融凝固物であることが好ましい。
また、上記の熱交換器は、前記フィンが、前記基材の第2の面に設けられたケイ酸塩を主体とする親水性の親水性皮膜を備えていても良い。
【0011】
また、上記の熱交換器は、前記管体の表面に
拡散Znを含有する犠牲陽極層が形成された構成でも良い。
【0012】
また、上記の熱交換器は、前記チューブを構成する材料の孔食電位は、前記フィンを構成する材料の孔食電位よりも貴であっても良い。
【0013】
また、上記の熱交換器は、前記複数のフィンの間隔が1mm以上、2mm以下であることが好ましい。
【0014】
また、上記の熱交換器は、前記露出部が前記基材の前記第1の面に30%以上70%以下形成されたことが好ましい。
【0015】
また、上記の熱交換器は、前記ケイ酸塩がケイ酸ナトリウムまたはケイ酸リチウムであることが好ましい。
また、上記の熱交換器は、前記フィンの前記基材、並びに前記チューブが、アルミニウム又はアルミニウム合金からなることが好ましい。
【0016】
上記の熱交換器に係る製造方法は、板状の基材の第1の面にケイ酸塩を主体とし、アクリル樹脂を添加した親水性の親水性皮膜が設けられたフィンを、内部に冷媒流路を備え管状の管体の外面にSi粉末とZn含有フッ化物系フラックスとバインダからなるろう材層が設けられたチューブに複数枚並列配置して挿通させた後に、加熱、冷却し、ろう材層を溶融、固化させ、チューブとフィンとを接合する熱交換器の製造方法であり、前記親水性皮膜として複数の微小な孔を有する多孔状であり、前記基材の前記第1の面に前記親水性皮膜の前記孔を介して露出する露出部を有し、塗布後、加熱乾燥し水洗して付着量を50mg/m
2以上350mg/m
2以下とした親水性皮膜を形成し、前記露出部として前記基材の前記第1の面に30%以上90%以下開口させ、前記ろう材層を前記管体及び前記フィンよりも孔食電位で卑とすることを特徴とする。
【0017】
また、上記熱交換器の製造方法は、前記ろう材層が、Si粉末:1.0〜5.0g/m
2と、Zn含有フッ化物系フラックス(KZnF
3):3.0〜10.0g/m
2と、バインダ:0.5〜3.5g/m
2からなる配合組成のろう材層であることを特徴とする。
【0018】
また、上記熱交換器の製造方法は、前記ケイ酸塩に対する前記アクリル樹脂の重量比を13%以上155%以下としても良い。
また、上記熱交換器の製造方法は、前記ケイ酸塩がケイ酸ナトリウムまたはケイ酸リチウムであることが好ましい。
【0019】
また、上記の熱交換器の製造方法は、前記親水性皮膜の付着量を150mg/m
2以上350mg/m
2以下とし、前記露出部を前記基材の前記第1の面に30%以上70%以下形成することが好ましい。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、フィンの基材の第1の面にケイ酸塩を主体とする親水性皮膜が設けられている。ケイ酸塩を主体とする親水性皮膜は、無機皮膜であるために、ろう付け時の600℃前後の温度の加熱工程を経ても親水性を保つことができる。したがって、親水性皮膜は、熱交換器の組み立て前にフィンの基材に予め塗布するプレコート工程により形成でき、製造工程を簡素化して熱交換器を提供できる。
また、本発明によれば、並列配置された隣り合うフィン同士の隙間は、フィンの第1の面と第2の面とが互いに向かい合った状態となる。したがって、フィンの間の隙間の少なくとも一方の面には、親水性皮膜が施された第1の面が配された状態となり、フィンの間に雨水や結露水が保水されにくい。これにより、熱交換効率の高い熱交換器を提供できる。
また、本発明によれば、基材の第1の面に30%以上90%以下露出部を形成し、ろう材層を管体及びフィンよりも孔食電位で卑としているので、フィンの犠牲防食効果によりチューブの孔食を防止することができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、添付図面に基づき、実施形態の一例について詳細に説明する。なお、以下の説明で用いる図面は、特徴をわかりやすくするために、便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などが実際と同じであるとは限らない。
【0023】
図1は、本実施形態の熱交換器11を示す斜視図である。
本実施形態の熱交換器11は、ルームエアコンディショナーの室内・室外機用の熱交換器、あるいは、HVAC(Heating Ventilating Air Conditioning)用の室外機、自動車用の熱交換器などの用途に使用されるオールアルミニウム熱交換器である。
【0024】
熱交換器11は、左右に離間し平行に配置された一対のヘッダ管14と、一対のヘッダ管14の間に相互に間隔を保って平行に、かつ、ヘッダ管14に対してほぼ直角に接合された複数本のチューブ22と、チューブ22を構成する管体12の外面12bにろう付けされ外気に熱を放散する複数枚のフィン13と、を備えている。一対のヘッダ管14のうち一方には、ヘッダ管14を介しチューブ22に冷媒を供給する供給管15が設けられている。また、他方のヘッダ管14には、チューブ22を経由した冷媒を回収する回収管16が設けられている。チューブ22、フィン13、ヘッダ管14、供給管15、回収管16は、アルミニウム又はアルミニウム合金を主材料として構成されている。
【0025】
図2は、チューブ22の長さ方向に直交する面に沿って横断面をとった熱交換器11の断面図である。
図2に示すように、チューブ22を構成する管体12の内部には幅方向に沿って並ぶ複数(本実施形態では6つ)の冷媒流路12aが形成されている。
また、
図2に示すようにフィン13には、チューブ22の断面形状に対応する切り欠き部19が、複数形成されている。切り欠き部19には、それぞれチューブ22が嵌合、ろう付けされることで固定されている。
【0026】
図3、
図4は、熱交換器11においてチューブ22の長さ方向に沿って縦断面を取った断面図であり、
図3はそれぞれろう付け工程前の状態を示し、
図4はろう付け工程後の状態を示す。
フィン13は、複数枚並列配置されるとともに切り欠き部19においてチューブ22が挿通されている。複数のフィン13は、一定の間隔をおいて相互に平行に配置されている。
フィン13は、切り欠き部19の周縁部にチューブ22の外面12bに沿って屈曲した屈曲部20を有している。屈曲部20は、バーリング加工により形成することができる。
【0027】
チューブ22とフィン13とは、一定間隔に並べたフィン13を串刺しするように、フィン13の切り欠き部19内にチューブ22が嵌合しろう付けにより固定されている。 ろう付け前の状態において、フィン13の切り欠き部19に形成された屈曲部20とチューブ22との隙間は10μm以下とすることが好ましい。
本実施形態のフィン13は、切り欠き部19においてチューブ22が挿通するが、切り欠き部19に代えて貫通孔を設け貫通孔にチューブ22が挿通される構成としても良い。
【0028】
以下に熱交換器11の主な構成要素についてより詳細に説明する。
【0029】
<<フィン>>
フィン13は、アルミニウム又はアルミニウム合金からなる板状の基材3と、基材3の第1の面3a及び第2の面3bに設けられた親水性皮膜1と、を有している。
【0030】
<基材>
基材3は、JIS1050系などの純アルミニウム系あるいはJIS3003系のアルミニウム合金を主体とした合金からなる。また、基材3は、JIS3003系のアルミニウム合金に質量%で2%程度のZnを添加したアルミニウム合金からなるものであっても良い。さらに、基材3は、その表面に耐食性下地処理を施したものであっても良い。
【0031】
基材3は、チューブ22を構成する管体12の孔食電位よりも卑の孔食電位となる材質を用いることが好ましい。管体12の腐食は冷媒の漏れ出しにつながるおそれがある。基材3の孔食電位を管体12の孔食電位より卑とすることで、フィン13が優先的に腐食し管体12に孔食が生じることを遅延させることができる。
基材3は、上記組成を有するアルミニウム合金を常法により溶製し、熱間圧延工程、冷間圧延工程、プレス工程などを経て加工される。なお、基材3の製造方法は、本発明としては特に限定されるものではなく、既知の製法を適宜採用することができる。
【0032】
<親水性皮膜>
フィン13は、基材3の第1の面3a及び第2の面3bに、親水性皮膜1を有している。
親水性皮膜1は、ケイ酸ナトリウム、ケイ酸リチウムなどのケイ酸塩を主体とする。親水性皮膜1は、ろう付け処理の前に、塗布された塗料を乾燥(焼き付け)することで形成されたプレコート皮膜である。親水性皮膜1の具体例として、ケイ酸塩の皮膜、ケイ酸塩にアクリル樹脂を混合した皮膜であって、後述するろう付け処理を経た後に残留するものを例示できる。
【0033】
親水性皮膜1のケイ酸塩として具体的にはケイ酸ナトリウム(水ガラス、Na
xSiO
2)、ケイ酸カリウムあるいはケイ酸リチウムの何れかを例示できる。また、親水性皮膜1は、10質量%以下程度のアクリル樹脂、界面活性剤等を含んでいても良い。この場合は、残部がケイ酸塩となる。
【0034】
親水性皮膜1の付着量は、50〜1500mg/m
2の範囲であることが好ましい。親水性皮膜1の付着量が少なすぎると、親水性が不足となり、付着量が多すぎると、フィン13とチューブ22との間に存在する皮膜量が多すぎてろう付け性が低下する。
【0035】
図5は、親水性皮膜1の一例を示す図である。親水性皮膜1は、
図5に示すように、複数の微小な孔1aを有する多孔状に形成されていることが好ましい。親水性皮膜1を多孔状とすることで、親水性皮膜1が形成された基材3の第1の面3a及び第2の面3bには、親水性皮膜1の孔1aを介して露出する露出部4が形成される。露出部4が形成されていることで、基材3が外気に直接的にさらされて基材3がチューブ22に対し優先的に腐食する。これによりチューブ22の孔食を遅延させる犠牲防食効果を得ることができる。
【0036】
露出部4は、基材3の第1の面3a及び第2の面3bの全体に対し30%以上90%以下であることが好ましい。
露出部4を、基材3の第1の面3a及び第2の面3bに対し30%以上とすることで、十分な犠牲防食効果を得ることができるが、30%を下回ると、基材3が十分に腐食せずにチューブ22の孔食を防ぐことができない。
露出部4を、基材3の第1の面3a及び第2の面3bに対し90%以下とすることで、第1の面3a及び第2の面3bに十分な親水性を付与できる。露出部4が多すぎる場合には、親水性皮膜1が不足し十分な親水性を得ることができないおそれがある。露出部4を90%以下とすることで、親水性皮膜1の皮膜量を確保し、これにより第1の面3a及び第2の面3bに十分な親水性を与えることができる。
【0037】
親水性皮膜1を形成する方法は、ロールコートなどで皮膜を形成し、オーブンで乾燥させるなど、種々の皮膜形成方法を適宜採用することができる。
親水性皮膜1を多孔状とする場合には、ケイ酸塩とアクリル樹脂との混合物を塗料として用いることが好ましい。アクリル樹脂はケイ酸塩に溶け合わない(相溶性が低い)。したがって、このような塗料は、ケイ酸塩の中にアクリル樹脂の塊が浮いているような状態となる。この塗料を基材3の第1の面3a及び第2の面3bに塗布し焼き付け(乾燥)することで、シリカが固化する。さらにこの皮膜を水洗いすることでアクリル樹脂の大部分が除去されて多孔状の親水性皮膜1を形成することができる。
【0038】
親水性皮膜1の多孔状態は、ケイ酸塩とアクリル樹脂とからなる塗料の混合比を調整することで制御することができる。
図6は、ケイ酸塩として水ガラスを用いた場合の、水ガラスに対するアクリル樹脂の重量比(アクリル/水ガラス)と、基材3の第1の面3aの全体に対する露出部4の面積と、の関係を示すグラフである。
図6に示すように、水ガラスに対して混合させるアクリル樹脂の量を増やすことで、露出部4の面積が増加する。また、水ガラスに対するアクリル樹脂の重量比(アクリル/水ガラス)を13%以上150%以下とすることで、基材3の露出部4を、基材3の第1の面3aの全体に対し30%以上90%以下とすることができる。
【0039】
<<チューブ>>
図3に示すように、チューブ22は、管体12と、管体12の外面12bに形成されるろう材層5と、を有している。管体12は、
図2に示すようにその内部に複数の冷媒流路12aが形成された偏平多穴管である。
管体12は、JIS1050系などの純アルミニウム系あるいはJIS3003系のアルミニウム合金を主体とした合金からなる。一例として、Si:0.10〜0.60%、Fe:0.1〜0.6質量%、Mn:0.1〜0.6質量%、Ti:0.005〜0.2質量%、Cu:0.1質量%未満、残部がアルミニウム及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金を押出することにより作製されたものである。
管体12は、ろう付け工程を経て形成されたフィレット5A、並びにフィン13の基材3の孔食電位よりも貴の孔食電位となる材質を用いることが好ましい。これにより、管体12の腐食が開始する前にフィレット5A及びフィン13の基材3の腐食が開始し、管体12の腐食を遅延させることができる。
【0040】
ろう付け前のチューブ22の管体12には、フィン13が接合される外面12bの一部に、Si粉末:1.0〜5.0g/m
2と、Zn含有フッ化物系フラックス(KZnF
3):3.0〜10.0g/m
2と、バインダ(例えば、アクリル系樹脂):0.5〜3.5g/m
2からなる配合組成のろう材層5が形成されている。
図3に示すように、ろう付け前の熱交換器11において、チューブ22のろう材層5は、フィン13の屈曲部20のチューブ22と対向する部分(対向面20a)とチューブ22との間に位置する。ろう材層5は、600℃前後の加熱(ろう付け工程)後に冷却されることで、対向面20aとチューブ22との間に満たされた状態で固化し、
図4に示すようにフィレット5A(ろう材層)となりフィン13とチューブ22とをろう付け接合する。
【0041】
図2に示すように、管体12の外面12bは、平坦な表面(上面)6A及び裏面(下面)6Bと、これら表面6A及び裏面6Bに隣接する第1の側面6C及び第2の側面6Dと、からなる。第1の側面6Cは、フィン13の切り欠き部19の開口側に位置し外部に開放されている。第2の側面6Dは、第1の側面6Cの反対側に位置し切り欠き部19に囲まれて配置されている。
ろう材層5は、一例として、管体12の外面12bのうちフィン13と当接する領域、即ち、管体12の表面6Aと裏面6Bと第2の側面6Dと、に形成されている。このような熱交換器11において、ろう材層5が設けられていない管体12の第1の側面6Cは、防食されるカソード部となり、フィン13及びフィレット5Aが優先(犠牲)腐食されるアノード部となる。また、ろう付け後の管体12の表面6A、裏面6B、及び第2の側面6Dには、ろう材層5に含まれていたSiとZnがろう付け温度で管体12側に拡散し、管体12の表層部にSiとZnを含む犠牲陽極層が形成される。
【0042】
以下、前記ろう材層5を構成する組成物について説明する。
<Si粉末>
Si粉末は、チューブ22の管体12を構成するAlと反応し、フィン13とチューブ22を接合するろうを形成するが、ろう付け時にZn含有フラックスとSi粉末が溶融してろう液となる。
このろう液にフラックス中のZnが均一に拡散し、管体12の表面に均一に広がる。液相であるろう液内でのZnの拡散速度は固相内の拡散速度より著しく大きいので、これにより均一なZn拡散がなされ、管体12表面の面方向のZn濃度がほぼ均一となる。また、管体12の表面から深さ方向への拡散について見ると、SiはAlと共晶となって融点を下げるので、管体12の表面では共晶組成となった状態にZnが拡散し管体12の表面に所定厚さの犠牲陽極層が生成する。この犠牲陽極層の生成によりチューブ22の耐食性を向上できる。
【0043】
<Si粉末塗布量:1.0〜5.0g/m
2>
Si粉末の塗布量が1.0g/m
2未満であると、ろう形成が不十分となるおそれがあり、塗布量が5.0g/m
2を超えると、チューブの溶融量が増加してチューブの肉厚が減少して、好ましくない。このため、ろう材層5におけるSi粉末の含有量は1.0〜5.0g/m
2とすることが好ましい。
<Si粉末粒度:最大粒径:D(99):20μm以下>
Si粉末の粒度がD(99)において20μm以下であれば、均一な犠牲陽極層を形成することが可能である反面、20μmを超えると、局部的に深いエロージョンが生成し、均一な犠牲陽極層を形成できなくなるおそれがある。このため、Si粉末の粒度は、最大粒径D(99)において20μm以下が好ましい。なお、D(99)とは、体積割合で小さい粒から累積し、全体の99%となる粒の粒径のことである。これらの値は、いずれもレーザ光散乱法で測定することができる。
【0044】
<Zn含有フッ化物系フラックス>
Zn含有フッ化物系フラックスは、ろう付けに際し、管体12の表面に犠牲陽極層の電位を適正に卑とするZnを拡散させた犠牲陽極層を形成する効果がある。また、ろう付け時に管体12の表面の酸化物を除去し、ろうの広がり、濡れを促進してろう付け性を向上させる作用を有する。
<フラックス塗布量:3.0〜10.0g/m
2>
Zn含有フッ化物系フラックスの塗布量が3.0g/m
2未満であると、電位差が低くなり、犠牲効果が発揮されないおそれがある。また、被ろう付け材(管体12)の表面酸化皮膜の破壊除去が不十分なためにろう付け不良を招くおそれがある。一方、塗布量が10.0g/m
2を超えると、電位差が過大となり、腐食速度が増加し、犠牲陽極層の存在による防食効果が短時間になるおそれがある。このため、Zn含有フッ化物系フラックスの塗布量を3.0〜10.0g/m
2とすることが好ましい。Zn含有フッ化物系フラックスは、一例としてKZnF
3を用いることができる。
【0045】
<バインダ>
ろう材層5には、Si粉末、Zn含有フッ化物系フラックスに加えてバインダを含む。バインダの例としては、好適にはアクリル系樹脂を挙げることができる。
バインダは犠牲陽極層の形成に必要なSi粉末とZn含有フラックスを管体12の表面6A、裏面6B、又は第2の側面6Dに固着する作用があるが、バインダの塗布量が0.5g/cm
2未満であると、ろう付け時にSi粉末やZnフラックスが管体12から脱落し、均一な犠牲陽極層が形成されないおそれがある。一方、バインダの塗布量が3.5g/cm
2を超えると、バインダ残渣によりろう付け性が低下し、均一な犠牲陽極層が形成されないおそれがある。このため、バインダの塗布量は、0.5〜3.5g/m
2とすることが好ましい。なお、バインダは、通常、ろう付けの際の加熱により蒸散する。
【0046】
Si粉末、フラックス及びバインダからなるろう材層5の形成方法は、本発明において特に限定されるものではなく、スプレー法、シャワー法、フローコータ法、ロールコータ法、刷毛塗り法、浸漬法、静電塗布法などの適宜の方法によって行うことができる。
また、ろう材層5の形成領域は、管体12の表面6A、裏面6B、及び第2の側面6Dの全体としても良く、また一部としても良い。さらに、本実施形態の管体12は第1の側面6Cにろう材層5が形成されていないが、塗布方法によっては第1の側面6Cにも一部形成されてしまうことがある。本発明はこのようなものを排除しない。
【0047】
<<製造方法>>
上述したフィン13及びチューブ22を備えた熱交換器11の製造方法の一例を説明する。
まず、チューブ22、及びフィン13、を用意する。フィン13は、基材3の第1の面3a及び第2の面3bに予め多孔状の親水性皮膜1を形成しておく。フィン13には、切り欠き部19とその周縁の屈曲部20とが形成されている。また、チューブ22として、管体12の外面12bの一部に予めろう材層5が形成されたものを用意する。
次に、
図3に示すように、複数枚のフィン13を並列に配置し、切り欠き部19にチューブ22を挿通させる。
【0048】
次に、ろう材層5の融点以上の温度に加熱するろう付け工程を行う。加熱によって、管体12の外面12bに形成されたろう材層5が溶融しろう液となる。このろう液は、毛管力によりフィン13の屈曲部20の対向面20aと管体12の外面12bの間の隙間に流れ、隙間を満たす。さらに、冷却することで、
図4に示すように、ろう液が固化しフィレット5A(ろう材層)を形成する。このフィレット5Aにより、チューブ22とフィン13とが接合される。
【0049】
ろう付けに際しては、不活性雰囲気などの適切な雰囲気で適温に加熱して、ろう材層5を溶融させる。この場合、フラックスの活性度が上がって、フラックス中のZnが被ろう付け材(フィン13の基材3)の肉厚方面に拡散するのに加え、ろう材及び被ろう付け材の双方の表面の酸化皮膜を破壊してろう材と被ろう付け材との間の濡れを促進する。
ろう付けに際しては、チューブ22の管体12を構成するアルミニウム合金のマトリックスの一部がろう材層5の組成物と反応してろうとなって、チューブ22の管体12とフィン13がろう付けされる。管体12の表層部ではろう付けによってフラックス中のZnが拡散して管体12内側よりも卑になった犠牲陽極層が形成される。
【0050】
<<効果>>
本実施の形態の構造によれば、良好なろう付けがなされ、管体12とフィン13との間に十分なサイズのフィレット5A(ろう材層)が形成される。
このフィレット5Aは、管体12及びフィン13よりも孔食電位が卑となっている。したがって、管体12及びフィン13と比較して優先的に腐食し、管体12及びフィン13の孔食を遅延させることができる。
また、ろう材層5を溶融、固化させる工程を経た後であっても、親水性皮膜1は残留し、フィン13に親水性を付与することができる。
【0051】
なお、チューブ22のろう材層5を溶融、固化させてフィン13とチューブ22とを接合する工程において、同時に、チューブ22にヘッダ管14をろう付け接合することが好ましい。
【0052】
フィン13には、親水性皮膜1が形成されているので、フィン13の親水性を高くすることができる。
ケイ酸塩を主体とする親水性皮膜1は、無機皮膜であるために、ろう付け時の600℃前後の温度の加熱工程を経ても親水性を保つことができる。したがって、親水性皮膜1は、熱交換器11の組み立て前にフィン13の基材3に予め塗布するプレコート工程により形成できる。ろう付け後にポストコートで親水性皮膜を形成する工程は不要となるために、製造工程を簡素化して熱交換器11を提供できる。
【0053】
さらに、親水性皮膜1が多孔状に形成されていることで、基材3の第1の面3aに露出部4が形成される。露出部4が形成されることで、基材3がチューブ22の管体12に対して優先的に腐食し、管体12の孔食を遅延させることができる。
【0054】
(変形例)
次に上述した実施形態の変形例について説明する。
図7は、変形例の熱交換器のろう付け後の状態を示し、チューブ22の長さ方向に沿って縦断面を取った断面図である。
なお、上述の実施形態と同一態様の構成要素については、同一符号を付し、その説明を省略する。
【0055】
変形例の熱交換器は、フィン23を有する。フィン23は、基材3の第1の面3aに親水性皮膜1を有しており、第2の面3bには、親水性皮膜1が形成されていない。
第2の面3bは、屈曲部20に位置しチューブ22と対向する対向面20aと連続している。フィン23は、基材3の第2の面3bに親水性皮膜1が形成されていないことで、対向面20aが露出しており、親水性皮膜1がろう付け性を阻害することがない。これによって、チューブ22とフィン23とを強固にろう付けできる。
【0056】
また、並列配置された隣り合うフィン23同士の隙間は、親水性皮膜1が形成された第1の面3aと形成されていない第2の面3bとが互いに向かい合った状態となっている。したがって、隙間の一方の面には、親水性の親水性皮膜1を施された第1の面3aが配置された状態となり、互いに隣り合うフィン23の間に雨水や結露水が保水されにくい。これにより、フィン23の隙間を水分で塞ぐことがなく、熱交換効率が低下しないフィン構造を備えた熱交換器11を提供できる。
このように、親水性皮膜1がフィン23の一方の面にのみ形成する本変形例であっても、熱交換効率の高い熱交換器11を提供できる。
【0057】
変形例の熱交換において、複数枚並列配置されたフィン23同士の隙間は、1mm以上2mm以下とすることが好ましい。隣り合うフィン23同士の隙間を1mm以上とすることで、熱交換効率を高めることができる。また、フィン23同士の隙間を2mm以下とすることで、熱交換器11を小型化できる。加えて、フィン23同士の隙間を2mm以下とすることで、フィン23の第2の面3bに付着した水滴が2mm以上に成長することなく、対向するフィン23の第1の面3aに沿って排出される。したがって、フィン23同士の隙間を流れる空気の流動を妨害せず、熱交換効率の高い熱交換器11を実現できる。
【実施例】
【0058】
以下、実施例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0059】
<<サンプルの作製>>
0.4質量%〜0.6質量%Siと1.0質量%〜2.0質量%Mnと2.5質量%〜3.5質量%Znと、残部不可避不純物とAlとからなる板状の基材の両面に対し、下段の表1に示す種類、皮膜量の親水性皮膜をバーコーター法で塗布、乾燥し、さらに水洗いすることで形成した。
幾つかのサンプルは、親水性皮膜の形成に用いた塗料にアクリル樹脂を表1に示す重量混合比で混合した。このアクリル樹脂は、乾燥後の水洗いにより大部分が除去される。これにより、親水性皮膜は多孔状となり、親水性皮膜が形成された基材に露出部が形成される。親水性皮膜が形成された第1の面を走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope、SEM)により観察し、第1の面に形成された露出部の面積の割合を表1に示す。
【0060】
次に、0.3質量%〜0.5質量%Siと0.2質量%〜0.4質量%Mnと残部不可避不純物とAlとからなるチューブ用アルミニウム合金を溶製し、この合金を横断面形状(肉厚0.26mm×幅17.0mm×全体厚1.5mm)であって、扁平状の熱交換器用アルミニウム合金の管体とした。
さらに、この管体の表面、裏面、並びに第2の側面にろう材層を形成した。ろう材層は、Si粉末(D(99)粒度10μm)3gと、フラックス(KZnF
3:D(50)粒度2.0μm)6g、及び、アクリル系樹脂バインダ1g、溶剤としてのイソプロピルアルコール16gの混合物からなる溶液をロール塗布し、乾燥させることで形成した。
【0061】
次に、前記チューブと各種フィンを1段組み立て、仮のミニコア試験体を構成し、これらの試験体を窒素雰囲気の炉内に600℃×3分保持する条件でろう付けを行った。このろう付けにより、ろう付け皮膜が形成されていたチューブの表面及び裏面に、犠牲陽極層が形成されるとともに、親水性皮膜を備えたフィンがろう付けされたので、これらを熱交換器試験体とした。
<<試験>>
また、これらの熱交換器試験体を用いて以下に説明するろう付け性評価、親水性評価、並びに耐食性評価を行った。
【0062】
<ろう付け性評価>
ろう付接合された熱交換器試験体の複数のろう付け箇所を目視評価し、接合が不十分(未接合)である箇所を数えた。1つのサンプルに対して、100か所の接合部を確認して、95か所以上(95%以上)が正常に接合されているものを合格とする。
【0063】
<親水性評価(水洗後接触角測定)>
600℃×3分のろう付け後、流水に24時間浸漬し、フィン表面の接触角を測定した。接触角が30°以下であれば合格とする。
【0064】
<耐食性評価>
600℃×3分のろう付け後、得られた各熱交換器試験体について、ASTM G85−A3で規定されているSWAAT試験を実施し、チューブに貫通孔が確認されるまでの日数を評価した。200日以上であれば合格とする。
ろう付け性評価、親水性評価、並びに耐食性評価の評価結果を表1にまとめて示す。
【0065】
【表1】
【0066】
<考察>
表1から、サンプルNo.1〜No.3の熱交換器試験体は、親水性が悪いことが分かる。サンプルNo.1〜No.3の熱交換器試験体は、フィンの親水性皮膜として親水基を備えた有機皮膜を有している。このような有機皮膜は、ろう付けにおける加熱(600℃×3分)によって、消失してしまい、十分な親水性を付与することができないためであると考えられる。
【0067】
表1からサンプルNo.4〜No.17の熱交換器試験体は、親水性、耐食性、並びにろう付け性において、一定の水準を満たしている。これらのうち、特にサンプルNo.13〜No.16の熱交換器試験体は、親水性、耐食性、並びにろう付け性が特に優れた結果となった。
【0068】
サンプルNo.4〜No.10の熱交換器試験体は、親水性皮膜の皮膜量を様々に変えたサンプル群である。これらのサンプルの比較から親水性皮膜の皮膜量を50mg/m
2以上とすることで、十分な親水性を得ることができることが確認された。
【0069】
サンプルNo.11〜No.17の熱交換器試験体は、親水性皮膜を形成する際の塗料に混合させるアクリル樹脂の重量混合比を様々に変えたサンプル群である。これらのサンプルの比較から、基材の露出面積を30%以上、90%以下とすることで、チューブに貫通孔が生じることを遅延できることが確認された。
【0070】
次に、親水性皮膜を備えたフィンを別途用意して、表面を走査型電子顕微鏡により撮像した。
図8(A)は、水ガラスに対する前記アクリル樹脂の重量比を10%とした塗料により形成した親水性皮膜の画像であり、露出部の面積比は約20%となっている。
図8(B)は、水ガラスに対する前記アクリル樹脂の重量比を20%とした塗料により形成した親水性皮膜の画像であり、露出部の面積比は約50%となっている。
図8(C)は、水ガラスに対する前記アクリル樹脂の重量比を40%とした塗料により形成した親水性皮膜の画像であり、露出部の面積比は約60%となっている。
図8(D)は、水ガラスに対する前記アクリル樹脂の重量比を80%とした塗料により形成した親水性皮膜の画像であり、露出部の面積比は約70%となっている。
図8の画像に例示されるように、ケイ酸塩とアクリル樹脂とを混合した塗料を用いることで、多孔状の親水性皮膜を形成することができる。また、ケイ酸塩とアクリル樹脂との重量比を調整することで、露出部の面積比を調整できることが確認された。
【0071】
以上に、本発明の様々な実施形態を説明したが、各実施形態における各構成及びそれらの組み合わせ等は一例であり、本発明の趣旨から逸脱しない範囲内で、構成の付加、省略、置換、及びその他の変更が可能である。また、本発明は実施形態によって限定されることはない。