特許第6776475号(P6776475)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6776475排ガス浄化用ハニカム触媒およびその用途
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6776475
(24)【登録日】2020年10月9日
(45)【発行日】2020年10月28日
(54)【発明の名称】排ガス浄化用ハニカム触媒およびその用途
(51)【国際特許分類】
   B01J 35/04 20060101AFI20201019BHJP
   B01J 32/00 20060101ALI20201019BHJP
   B01D 53/86 20060101ALI20201019BHJP
   B01D 53/96 20060101ALI20201019BHJP
   F01N 3/28 20060101ALI20201019BHJP
【FI】
   B01J35/04 301B
   B01J32/00
   B01D53/86
   B01D53/96
   F01N3/28 301P
【請求項の数】12
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2020-126209(P2020-126209)
(22)【出願日】2020年7月27日
【審査請求日】2020年7月27日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000228198
【氏名又は名称】エヌ・イーケムキャット株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000590
【氏名又は名称】特許業務法人 小野国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高山 豪人
(72)【発明者】
【氏名】小俣 秀哉
【審査官】 森坂 英昭
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−082000(JP,A)
【文献】 特開2017−020442(JP,A)
【文献】 特開2008−115717(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00 − 38/74
B01D 53/86
B01D 53/96
F01N 3/00 − 3/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
両端が開口した多角形な管状のセルが集合して形成された柱形のハニカム構造体のセルの壁表面に排ガスの流れ方向を基準に上流側と下流側に触媒組成物を被覆して上流触媒層と下流触媒層を設けた排ガス浄化用ハニカム触媒であって、
両触媒層は管状のセルの開口端面の一方から他方の開口端面に向けて、セルの長さ未満に被覆されることでセルの両開口端面の間に各々触媒層端を有しており、
少なくともセル角部のセル壁直上に被覆された両触媒層端は鋭角な勾配を有して重複、離間または当接することでセルの壁上に形成された高低差を有し、
この高低差の頂点を基点として上流側下流側の少なくとも一方に形成された取り付きが存在し、
この頂点と、下流触媒層の取り付きが位置する触媒層表面から特定される比高が30〜200μmである、
排ガス浄化用ハニカム触媒。
【請求項2】
ハニカム構造体がフロースルー型であり、触媒組成物の被覆がウオッシュコート法である請求項1に記載の排ガス浄化用ハニカム触媒。
【請求項3】
ハニカム構造体におけるセル密度が62〜124セル/cmである請求項1または2に記載の排ガス浄化用ハニカム触媒。
【請求項4】
セルの両開口端面の間にある上流触媒層端と下流触媒層端が離間するもので、離間距離が10mm以下である請求項1〜3の何れか1に記載の排ガス浄化用ハニカム触媒。
【請求項5】
セル角部以外のセル壁直上に被覆された両触媒層端は鋭角な勾配を有して重複、離間または当接することでセルの壁上に形成された高低差を有し、
この高低差の頂点を基点として上流側下流側の少なくとも一方に形成された取り付きが存在し、
この頂点と、下流触媒層の取り付きが位置する触媒層表面から特定される比高が、セル角部における比高の70%以下である請求項1〜4の何れか1に記載の排ガス浄化用ハニカム触媒。
【請求項6】
ハニカム構造体における上流触媒層と下流触媒層のあたる領域の触媒担持量の差が20wt%以下である請求項1〜5の何れか1に記載の排ガス浄化用ハニカム触媒。
【請求項7】
請求項1〜6の何れか1に記載の触媒層を下層とし、更にこの下層の表面に触媒組成物を被覆した上層触媒層を有する排ガス浄化用ハニカム触媒。
【請求項8】
下層がゾーンコートで形成され、上層触媒層が下層触媒層における高低差が形成されている領域を被覆して形成され、下層のゾーンコートの端部が5〜60°の鋭角を形成している請求項7記載の排ガス浄化用ハニカム触媒。
【請求項9】
排ガス流中に請求項1〜8の何れか1に記載の排ガス浄化用ハニカム触媒を配置した排ガス浄化装置。
【請求項10】
排ガス浄化用ハニカム触媒における排ガスの空間速度が100,000/hより大である請求項9に記載の排ガス浄化用ハニカム触媒を配置した排ガス浄化装置。
【請求項11】
請求項9または10に記載の排ガス浄化装置を使用し、ガソリン自動車から排出される排ガスを浄化する方法。
【請求項12】
両端が開口した多角形な管状のセルが集合して形成された柱形のハニカム構造体のセルの壁表面に排ガスの流れ方向を基準に上流側と下流側に触媒組成物を被覆して上流触媒層と下流触媒層を設けた、請求項1〜8の何れか1に記載の排ガス浄化用ハニカム触媒の製造方法であって、
触媒組成物が少なくとも無機酸化物粒子と水によりスラリー化したものであり、
このスラリーをハニカム構造体開口端面から供給して、開口端面から気流を供給してハニカム構造体の所定の長さにスラリーを塗り伸ばし、スラリーの塗り伸ばしが完了するまで気流を流し続ける、
排ガス浄化用ハニカム触媒の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車から排出される排ガスの流路中にハニカム触媒を配置して有害成分を浄化するにあたり、排ガスの流通抵抗(圧力損失、圧損)の低減を図る技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ガソリンや軽油を燃料として使用する内燃機関は自動車用原動機として使用されている。このような内燃機関では燃料の燃焼によって未燃焼の炭化水素、一酸化炭素、窒素酸化物などの有害成分を含む排ガスが排出される。このような排ガスは触媒を使用して浄化したうえで大気中に排出される。排ガス中の有害成分の浄化にあたっては触媒化したハニカム形状の構造担体がハニカム触媒として広く使用されている。
【0003】
ハニカム触媒は管状のセルが集積して形成された柱形のハニカム構造体のセルに触媒成分を被覆する事で触媒化したものである。このようなハニカム触媒は内燃機関から排出される有害物質の浄化が検討されるようになって以来、現在に至るまで市場において広く使用され続けている。
【0004】
ハニカム触媒は浄化対象とする排ガスの成分に応じてその組成を最適化した触媒組成物をハニカム構造体のセルに被覆したものである。自動車等の内燃機関から大気中に排出される排ガス中の有害成分の量については各国の行政機関により規制値が設けられており、近年の環境意識の高まりに伴いその規制値は年を追うごとに厳しさを増している。
【0005】
このように厳しさを増した排ガス中の有害成分の排出規制に対しては、触媒設計においても多様な対応が検討されており、そのような対応の一つとして、ハニカム構造体の部位毎に被覆する触媒成分を変えた仕様が知られており、このようなハニカム触媒をゾーンコート触媒という事もある(特許文献1)。
【0006】
ゾーンコート触媒には様々な仕様が提案されている。ゾーンコートの仕様として最も広く普及しているのが柱形のハニカム構造体の軸線方向、すなわち管状セルの長さ方向の所定の位置で異なる作用を有する触媒組成物を塗り分ける仕様である。これにより、本来であれば2つの触媒を使用しなければならないところ、一つの触媒で2つのハニカム触媒としての作用を発揮する事が可能になり、部品コストの低減、また、触媒搭載部位の省スペース化が図られる。
【0007】
ゾーンコートに限らず、ハニカム構造体への触媒組成物の被覆にはウオッシュコート法が広く用いられている。ウオッシュコート法の概要は、ハニカム構造体の一方の開口端面から所定量の触媒組成物スラリーを供給し、コレを風圧等の手段を用いてハニカム構造体の他の開口端面に向けて触媒組成物スラリーを塗り伸ばし、あるいは余分な触媒組成物スラリーを除去するものである(特許文献2、特許文献3)。
【0008】
また、ハニカム構造体に被覆される触媒成分の均等化を目的に同一の触媒組成をゾーンコートする場合がある。ウオッシュコート法では、触媒組成物スラリーが供給される側の開口端面周辺では触媒組成物スラリーの滞留時間が比較的長くなり、ハニカム構造体の吸水性と相まって触媒組成物中の成分が多く担持されてしまう事がある。このような触媒成分の偏りは、それが水溶性の成分であればセル壁への成分の含侵によるものであったり、塗り伸ばし過程で触媒組成物スラリー中の水分がセル壁に吸収されて生じる触媒組成物スラリーの増粘によるものであったりする。このような触媒成分の偏りはハニカム構造体が軸線方向に長い場合、特に顕著に表れる事がある。
【0009】
このような触媒成分の偏りを少なくする事を目的に、ハニカム構造体への触媒組成物スラリーの被覆を各開口端面からハニカム構造体の長さの半分ずつ行うのが触媒成分の均等化を目的とするゾーンコートである。この様な理由もあり、多くのハニカム触媒の製造でウオッシュコート法によるゾーンコートが用いられている。
【0010】
排ガス浄化用のハニカム触媒は排ガスの流れ中に配置されるものであるのは前述のとおりである。排ガスの流れ中に配置されたハニカム触媒は排気に対しては抵抗となる。排気抵抗が大きくなり過ぎると内燃機関の燃焼室内の掃気、吸気が完全に行われない状態となり、内燃機関の出力低下につながる。
【0011】
ハニカム触媒はハニカム構造体を貫く管状のセルを有する事から、他の構造型担体、例えば粒状の構造担体に比べれば排気抵抗が少ないものであるといえる。しかし、セル内に触媒組成物を被覆する事はセルの断面積を減少させてしまう事になる。断面積を減少したセルは排気に対しては抵抗を増す事になり、内燃機関における出力の低下につながり易い。このような排ガスにおける排出抵抗を背圧または圧力損失また略して圧損という事もある。
【0012】
内燃機関が自動車のエンジンに使用されるものである場合、出力の低下が僅かなものであっても自動車の運動性能の低下として商品の価値を下げてしまう恐れがある。このような出力の低下を補う為にはエンジンの回転数を上げたり、より大型のエンジンを採用する事もできるが、その場合は燃費の悪化を招き、環境への負荷が増してしまう事になる。特に近年の市場における環境への意識は高いものがあり、自動車における燃費の良し悪しは市場の購買意欲への訴求力に大きく影響する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】国際公開WO18/016606号公報
【特許文献2】特表2003−506211号公報
【特許文献3】特表2011−529788号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
前述のとおり、ゾーンコート触媒は一つのハニカム構造体上に2以上の触媒組成物を被覆担持するものである事からハニカム触媒として多様な触媒設計が可能になり、今後益々普及して行くものと予想される。一方で、触媒の被覆担持はハニカム構造体のセル壁上に施される事から、触媒組成物の被覆前に比べるとハニカム構造体におけるガスの流路となるセルの開口断面積は小さくなり、抵抗は増し、圧力損失が大きなものになってしまう。出力と燃費の向上は内燃機関における当面の重要課題でもあり、ハニカム触媒においても排ガスの浄化に伴い内燃機関の出力や燃費に悪影響を与える事は好ましいものでは無く、いうまでも無くゾーンコート触媒でも圧力損失の少ないものである事が好ましい。
【0015】
従って、本発明では、排ガス浄化用ハニカム触媒において圧力損失が少なく、省エネルギー、CO削減となる技術を提供する事を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意研究した結果、両端が開口した多角形な管状のセルが集合して形成された柱形のハニカム構造体のセルの壁表面に排ガスの流れ方向を基準に上流側と下流側に触媒組成物を被覆して上流触媒層と下流触媒層を設けた排ガス浄化用ハニカム触媒において、少なくともセル角部のセル壁直上に被覆された両触媒層端に生じる凹凸を特定の範囲にする事により、上記課題を解決できる事を見出し、本発明を完成させた。
【0017】
すなわち、本発明は、両端が開口した多角形な管状のセルが集合して形成された柱形のハニカム構造体のセルの壁表面に排ガスの流れ方向を基準に上流側と下流側に触媒組成物を被覆して上流触媒層と下流触媒層を設けた排ガス浄化用ハニカム触媒であって、
両触媒層は管状のセルの開口端面の一方から他方の開口端面に向けて、セルの長さ未満に被覆されることでセルの両開口端面の間に各々触媒層端を有しており、
少なくともセル角部のセル壁直上に被覆された両触媒層端は鋭角な勾配を有して重複、離間または当接することでセルの壁上に形成された高低差を有し、
この高低差の頂点を基点として上流側下流側の少なくとも一方に形成された取り付きが存在し、
この頂点と、下流触媒層の取り付きが位置する触媒層表面から特定される比高が30〜200μmである、
排ガス浄化用ハニカム触媒である。
【0018】
また、本発明は、排ガス流中に上記排ガス浄化用ハニカム触媒を配置した排ガス浄化装置である。
【0019】
更に、本発明は、上記排ガス浄化装置を使用し、ガソリン自動車から排出される排ガスを浄化する方法である。
【0020】
また更に、本発明は、両端が開口した多角形な管状のセルが集合して形成された柱形のハニカム構造体のセルの壁表面に排ガスの流れ方向を基準に上流側と下流側に触媒組成物を被覆して上流触媒層と下流触媒層を設けた、上記の排ガス浄化用ハニカム触媒の製造方法であって、
触媒組成物が少なくとも無機酸化物粒子と水によりスラリー化したものであり、
このスラリーをハニカム構造体開口端面から供給して、開口端面から気流を供給してハニカム構造体の所定の長さにスラリーを塗り伸ばし、スラリーの塗り伸ばしが完了するまで気流を流し続ける、
排ガス浄化用ハニカム触媒の製造方法である。
【発明の効果】
【0021】
本発明のハニカム触媒であれば、ハニカム構造体の一方の開口端面から他方の開口端面に向けて均一な層で触媒組成物を被覆したハニカム触媒よりも圧力損失を下げる事ができる。このような均一な触媒組成物層はユニフォーム(uniform)と言われる事もある。ユニフォームな触媒層を持つハニカム触媒は一度のウオッシュコートによる被覆で触媒スラリーをハニカム構造体のセル内全体に塗り伸ばす事により得られる。このようなユニフォームなハニカム触媒では触媒組成物層の表面に障害抵抗となる凹凸は無く、圧力損失は小さいものと考えられていたが、触媒層に本発明の比高を有するハニカム触媒によれば、ユニフォームなハニカム触媒よりも圧力損失を小さくする事ができる。
【0022】
なお、本発明においてゾーンコートといったときは上流層と下流層の組合せだけでハニカム触媒を構成したハニカム触媒のみを指すものではなく、例えば[下層:ゾーンコート,上層:ユニフォーム][下層:ユニフォーム,上層:ゾーンコート][下層上流:ゾーンコート,中層:ユニフォーム,上層下流:ゾーンコート]の様に多様な組合せを含むものであり、このような多様な層構成のハニカム触媒において発明の効果が期待できるものである。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明における比高の例で、図3において上流触媒層と下流触媒層が相対する部位を表した模式図である。
図2】本発明のハニカム触媒を表す模式図である。
図3図2のハニカム触媒におけるA−A断面図であり、ハニカムを構成する管状のセルの表面に触媒組成物がゾーンコートされている状態を表す模式図である。
図4図1の例において排ガスの流れを模式化した図である。
図5】本発明の例で、三つの触媒層が形成された実施形態について排ガスの流れを模式化した図である。
図6】本発明の比較実施形態における排ガスの流れを模式化した図である。
図7】本発明のハニカム触媒を製造する方法の第1の例を模式的に表した工程図である。
図8】本発明のハニカム触媒を製造する方法の第2の例を模式的に表した工程図である。
図9】本発明の実施例において製造したハニカム触媒についてSEM(走査型電子顕微鏡:Scanning Electron Microscope)により確認した断面を表す模式図である。図中、W−W、C−Cは確認した断面を、矢印は確認した視線を表す。
図10】ハニカム触媒において、排ガスがセル壁からの受ける摩擦力の強さを表した模式図である。
図11】本発明の実施例1によって製造した下流触媒層の取り付き部周辺C−C断面のSEM画像である。セル壁と触媒層の界面を破線により示している。
図12】本発明の実施例1によって製造した下流触媒層の取り付き部周辺W−W断面のSEM画像である。セル壁と触媒層の界面を破線により示している。
図13】本発明の実施例2によって製造した下流触媒層の取り付き部周辺C−C断面のSEM画像である。セル壁と触媒層の界面を破線により示している。
図14】本発明の実施例2によって製造した下流触媒層の取り付き部周辺W−W断面のSEM画像である。セル壁と触媒層の界面を破線により示している。
図15】本発明の実施例3によって製造した下流触媒層の取り付き部周辺C−C断面のデジタルマイクロスコープ画像である。セル壁−触媒層の界面と触媒層の表面は破線により示している。
図16】本発明の比較例1によって製造した比高の無いハニカム触媒を、その軸線と直交する面で切断したセル断面のSEM画像である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
[排ガス浄化用ハニカム触媒]
本発明の排ガス浄化用ハニカム触媒(以下、これを「本発明のハニカム触媒」ということもある)は、両端が開口した多角形な管状のセルが集合して形成された柱形のハニカム構造体のセルの壁表面に排ガスの流れ方向を基準に上流側と下流側に触媒組成物を被覆して上流触媒層と下流触媒層を設けた排ガス浄化用ハニカム触媒であって、
両触媒層は管状のセルの開口端面の一方から他方の開口端面に向けて、セルの長さ未満に被覆されることでセルの両開口端面の間に各々触媒層端を有しており、
少なくともセル角部のセル壁直上に被覆された両触媒層端は鋭角な勾配を有して重複、離間または当接することでセルの壁上に形成された高低差を有し、
この高低差の頂点を基点として上流側下流側の少なくとも一方に形成された取り付きが存在し、
この頂点と、下流触媒層の取り付きが位置する触媒層表面から特定される比高が30〜200μmである。
【0025】
[作用に関する推測]
本発明のハニカム触媒は、特定の構造を有する事で、排ガスの流れ、特に高速で流れる排ガスの流れにおいて圧力損失が低減する理由は定かでは無いが、その理由の一つとして排ガスが通過するセル表面、すなわち触媒層表面に特定の高低差の凹凸(障害物)が存在する事により、触媒層表面における排ガスの流れに乱れが生じる事で障害物以降の排ガスと触媒層表面の間で摩擦や層流等の抵抗が低下するためでは無いかと考えられる。このような摩擦抵抗自体は排ガスでいえばその流速が速い程大きくなるものであり、これは自動車用の内燃機関であれば高出力が期待される高回転の時に相当するが、本発明のハニカム触媒であれば、このような高流速な排ガス条件において特に圧力損失が低減し易い事が確認されている。
【0026】
[比高:障害物]
一方で、排ガスの流れ中に障害物が存在するとそれ自体は抵抗となり圧力損失の原因になる。そのため、本発明においても大きすぎる障害物の存在は望ましいものでは無い。また、障害物の形状も排ガスの流れに対する抵抗として重要な要素である。例えば、障害物が触媒層表面から垂直に立ち上がったような形状であると、それ自体が大きな抵抗になり、障害物以降で低減する摩擦抵抗を越えてしまう事がある。一方で、本発明の様に障害物である触媒層端の形状が鋭角な傾斜を有するものであれば、障害物の存在そのものによる抵抗は小さくなり、障害物以降で摩擦抵抗の低減の効果を充分に発揮する事が可能になる。これにより排ガスにおける圧力損失を低減する事が可能になる。ただし、触媒層端の形状が鋭角な傾斜を有するもので有ったとしても、障害物としての大きさが著しく大きなものであると、障害物による抵抗が増すのみならず、セルの開口断面積も小さくなってしまい、排ガスの流通が阻害され、この場合も圧力損失の増加が懸念される。本発明においては圧力損失低減に効果的な障害物の形状として、触媒層端の鋭角な形状と共にその大きさを後述する比高をもって特定している。
【0027】
[比高]
比高とは、ある地域内の地表の最高点と最低点との高さの差で起伏状態を表すものであり、主に地理学の分野の高低差に関する考え方である。本発明の排ガス触媒では下流触媒層の上流側の端(以下、特にことわりの無い限り下流触媒層端という事がある)が鋭角な勾配を持つものであるが、この勾配と、勾配の頂点と、この頂点以降の平野部、この三か所によって特定される高低差をもって比高としている。この比高の角度と大きさを適切にする事で、摩擦抵抗の減少量が障害物により生じる抵抗に勝り、結果的に圧力損失そのものが低減するものと考えられるのは前述のとおりである。
【0028】
本発明のハニカム触媒における比高は、前記した頂点と、下流触媒層の取り付きが位置する触媒層表面から特定されるものであり、これは30〜200μmであり、好ましくは50〜150μmである。この比高が大きすぎると障害抵抗も大きくなり、またセルの開口断面積そのものを小さくしてしまう事にもなり、結果的に圧力損失を増してしまう事がある。なお、比高は、触媒層が複数層が積層される場合にもこの範囲にある事が望ましい。
【0029】
なお、上記比高の範囲は、セル角部のセル壁直上におけるものであるが、本発明においては、セル角部以外のセル壁直上においても、この頂点と、下流触媒層の取り付きが位置する触媒層表面から特定する事ができる。そして、セル角部以外のセル壁直上における頂点と、下流触媒層の取り付きが位置する触媒層表面から特定される比高は、セル角部おける比高の70%以下であり、好ましくは60%以下である。セル角部以外では上流触媒層や下流触媒層を薄くする事ができるので、セル角部よりも比高を小さくして、障害抵抗を小さく圧力損失も少なくする事が好ましい。
【0030】
[比高形成部の形状]
本発明において、比高を形成する部位の形状、すなわち下流触媒層端の形状は前述のとおり鋭角であれば特に限定されるものではなく、下流触媒層の平野部から上流側に向かって見て単純に傾斜を下る凹形状でも、下流触媒層の平野部から上流側に向かって一度隆起してから下流触媒層端に向かって傾斜を下る凸形状を有するものであっても良いが、凹形状である事が好ましい。凹形状であるとセルの断面積を小さくする事はなく、触媒設計における圧力損失要因の一つであるセル断面積の縮小を除く事ができる。
【0031】
比高が凸形状である例としては、図1(B2)、図1(B3)のような形状が挙げられる。図1(B2)の例における比高は、下流側触媒層の平野部から一旦隆起したその頂上までの高さと、その頂上から下流触媒層端の取り付きがある触媒層の凹部の底までの高さの和になる。図1(B3)の例における比高は、下流側触媒層の平野部から一旦隆起したその頂上までの高さと、その頂上から下流触媒層端の取り付きが位置する上流触媒層表面までの高さの和になる。
【0032】
凸形状の比高を形成する方法は特に限定されるものはないが、触媒組成物スラリーについてはその水分量、揺変性等を、ハニカム構造体についてはその吸水量等を、後述するウオッシュコート法については触媒組成物スラリーの供給量、エアブロー(気流)の時間や圧力等を調整する事でも形成できる。
【0033】
このような諸条件を調整して凸形状の比高が形成される様子についてウオッシュコート法を使用した場合の一例を挙げて簡単に述べると次のとおりである。水分量の減少と共に剪断増粘性を有する所定量の触媒組成物スラリーを調整する。吸水性のあるセラミクス製ハニカム構造体にこの触媒組成物スラリーを供給する。続いてハニカム構造体の触媒組成物スラリーの供給側から比較的低圧力のエアブローにより触媒組成物スラリーをセル壁上に低速度で塗り伸ばすか、塗り伸ばしにあたって徐々にエアブロー圧力を低下させ、エアの流速を低下させる。
【0034】
適切な制御調整のもとでこの様なハニカム触媒の製法を採用すると触媒組成物スラリーは次の様な挙動をもってセル壁上に触媒組成物層を所定の長さで形成する事ができる。触媒組成物スラリー中の水分は塗り伸ばしの間にハニカム構造体に吸収されて行き、加えて塗り伸ばしの剪断力によってスラリーの粘度が増す。所定の粘度に達した際に触媒組成物スラリーの端はセル壁上を移動しなくなるか著しく移動速度が下がり停滞する。停滞した触媒組成物スラリー端は塗り伸ばされて来た触媒組成物層よりも厚くなり山状に溜まる事がある。ここで、エアブローを中止すると触媒組成物スラリーにかかる応力は、わずかな間であるが塗り伸ばしによる慣性力の働きで徐々に弱まって行く。応力が弱まる事で山状の触媒組成物スラリー端が減粘して動き出し、山が崩れる様に最後の塗り伸ばしが行われ、山頂にあたる凸部を持った状態で傾斜を持った触媒層端が形成される。
【0035】
なお、触媒組成物スラリーの所定ゾーンの被覆完了(塗り伸ばしの完了)まで、少なくともエアブロー圧力をかけて気流を流し続ける事が好ましく、触媒組成物スラリーの塗り伸ばしが完了するまで気流の速度を低下させない事がより好ましい。気流の速度を低下させなければ、剪断応力で粘性を変化させる触媒組成物スラリーを使用した場合にも、粘度を一定に保ち均一な厚みで触媒組成物スラリーを被覆され易くなる。このようなエアブロー操作により凸形状は形成され難くなる。ここで、エアブローの方向をハニカム構造体のスラリーの供給端面と同じくし、ハニカム構造体に供給するスラリーの量も塗り伸ばすのに必要な量のみにする事で、圧損原因になるかもしれない凸形状が出来難くなり、エアブロー操作で排出される余剰なスラリーの量もごく僅かなものになり、高価な貴金属を使う事が多い触媒コストの低減を図る事ができる。
【0036】
この様に、本発明のハニカム触媒は所定の比高を形成するものであるが、このような比高はハニカム構造体のセル全てに形成されている事が好ましい事は言うまでもない。しかし、後述するウオッシュコート法では気流をもって触媒組成物スラリーを塗り伸ばす工程を含む事からハニカム構造体を構成するセル毎に塗り伸ばされ方にバラツキが生じ易く、全てのセルに触媒組成物スラリーを同一に被覆する事が難しい場合がある。このような実施上の制約を踏まえると、本発明の比高はセル数の内8割以上で構成されている事が好ましく、9割以上で構成されている事がより好ましい。
【0037】
[上流触媒層と下流触媒層の離間(Gap)]
本発明のハニカム触媒の比高が前述のような凹形状である場合、上流触媒層と下流触媒層を離間させる事で形成する事ができる。このような離間においてその距離は特に限定されるものでは無いが、下流触媒層端と上流触媒層端の間が1〜10mm以下である事が好ましく、1〜5mm以下である事がより好ましい。離間距離が比較的短い事で、触媒層が被覆されない面積が小さくなり、ハニカム構造体の幾何学的表面積を有効に利用する事ができる。
【0038】
[下流触媒層端の角度]
本発明のハニカム触媒における下流触媒層端の形状は鋭角である事で排ガスの流れに対する障害抵抗が低減するものであるが、その角度は5〜60°が好ましく、10〜30°がより好ましい。角度が大すぎると障害抵抗が大きくなり易い事は前述のとおりであるが、小さすぎると下流触媒層における平野部に至るまでの距離が長くなり、その間は触媒層としての厚みが薄くなり、排ガスを充分に浄化するのに必要な触媒量が担持されていない領域が長くなってしまう事がある。また、浅すぎる事で抵抗が小さくなり過ぎる事があり、この場合は排ガスの流れを充分に乱す事が出来なくなる事があり、充分な圧損低減を図れない事がある。
【0039】
[触媒層の多様性:多層化]
本発明のハニカム触媒は、ハニカム構造体において上流触媒層、下流触媒層のみで構成されていても良いが、このような二つの層のみで構成されるものに限るものではなく、必須構成要素である上流触媒層と下流触媒層に加え、更に一以上の触媒層を被覆したもの、例えば上流触媒層と下流触媒層を被覆した後、その上に触媒層を被覆したものであっても良い。この例の場合、上流触媒層と下流触媒層は下層(under coat)、この下層の上に被覆する触媒層は上層あるいは表層(top coat)とも言われる事がある。
【0040】
このような下層、表層で本発明のハニカム触媒を構成する場合、その例としては下層として上流触媒層、下流触媒層それぞれに相対する端部を離間させてセル内部のセル壁上に被覆し、その後表層をセル内部のセル壁上に少なくとも下層触媒層における高低差が形成されている領域を被覆する仕様(zone coat)や、一様(uniform)に被覆する仕様等が挙げられる。この場合、表層触媒層は下層触媒層に形成された凹部をなぞる様に被覆される事で、ハニカム触媒における最終的な触媒層にも凹部が形成される。
【0041】
上層、下層の様に複数の触媒層を形成する場合、下層がゾーンコート(zone coat)で形成され、上層が下層における高低差が形成されている領域を被覆して形成された仕様にあっては、下層のzone coatの端部は5〜60°の鋭角を形成している事が好ましく、10〜30°であることがより好ましい。下層端部の角度が大きなものであると、下層表面を被覆する上層における比高の形成角度も本発明の範囲を超えて大きくなり易く、触媒組成物スラリーの液性や被覆工程によっては排ガスの流通にあたり障害になってしまうような凹部ができてしまう場合がある。
【0042】
本発明が適用可能なハニカム触媒は上記の例の他、当業者によって採用される多様な仕様が考えられるが、いかなる層構成の仕様をとる場合であっても、本発明における所定の比高を構成する必要がある。また、本発明の比高は一か所であっても良いが、多数のゾーンコートから構成される触媒の場合、本発明の比高も複数個所形成されていても良い事は言うまでもない。
【0043】
[セル角部:触媒層の最厚部位]
本発明のハニカム触媒における比高はセルの壁において一様に形成されたものであっても良いが、セルの壁の特定部位において形成された状態であっても良い。このような特定部位としてはセルの断面でいうと角部が挙げられる。市場に普及しているハニカム構造体のセル断面の形状には三角、四角、六角がある。ハニカム触媒の製造に広く採用されているウオッシュコート法では、触媒組成物はセル角部に厚く被覆される傾向がある。このように厚く被覆され易い部位は触媒層に凹凸を付け易く、本発明のハニカム触媒における比高を構成するのに好ましい部位であるといえる。
【0044】
ウオッシュコート法の詳細については例をあげて後述するが、ウオッシュコート法ではスラリー化した触媒組成物をハニカム構造体のセル内に供給する事でセルの壁表面に触媒組成物層を形成するものである。触媒組成物スラリーは触媒成分であるアルミナやシリカ等の無機酸化物粒子を大量に含むもので高粘度に調整されている。このような高粘度な液体を、ハニカムを構成するような細い多角形断面のセルに供給した場合、セルの断面における角部では触媒組成物スラリーによるメニスカスが形成され触媒組成物スラリーが厚く被覆される。このようなセル角部と平面部の触媒層の厚みの差は10倍程度にまでなる事もある。
【0045】
[セル角:摩擦]
また、セル角は排ガスがセル壁からの摩擦の影響を大きく受ける場所でもある。図10に模式図としても示したが、セル角の領域は2面のセル壁からの摩擦力を受ける領域であり、流通する排ガスにとってはセル壁中央よりもセル壁から受ける摩擦抵抗が大きくなる領域であるいえる。
【0046】
[四角セル vs. 六角セル]
このようなメニスカスはセルの角部の角度が小さい程強く形成され易い。市場に流通しているハニカム構造体のセルの端面形状は三角、四角、六角で粗占められているのは前述のとおりであるが、セルの角部に本発明の比高を形成する場合、六角断面のセルよりも四角断面セルの方がセルの方が形成され易い。
【0047】
[四角セル vs. 三角セル]
一方で、メニスカスの形成し易さだけを考えれば三角セルの方が四角セルのよりもメニスカスは形成され易い。しかし、三角セルの場合にはメニスカスが形成され易過ぎるために本発明の比高は四角セルの方が三角セルの方が形成し易い。これは、特に下層、表層の様に触媒層を多層化した時に特に顕著になる。下層を上流触媒層端と下流触媒層端を離間させて凹部を形成してその上に表層を被覆した場合、三角セルであると表層コートにおいてセルの角部に溜まる触媒組成物スラリーが多くなり易い。それにより下層で形成した凹部を表層コートの触媒組成物スラリーが埋めてしまい、最終的な触媒層表面に現れる比高が小さなものになってしまう事がある。このような事情もあり、本発明の実施する場合、ハニカム構造体のセル断面の形状が三角、四角、六角の中では四角が望ましい形状といえる。
【0048】
[排ガスの流速(空間速度)]
ハニカム触媒中の排気ガスの流速は空間速度(SV: Space Velocity)として表される事がある。これは、ハニカム触媒内を通過する1時間当たりの排ガス量を、ハニカム触媒の体積で除したもので、単位としてはh−1で表される。
【0049】
本発明のハニカム触媒は、排ガス流中に配置する事により効果が得られるが、特に比較的流速の速い排ガス流中において圧力損失の低減効果が得られ易く、具体的には排ガスの空間速度が100,000/h以上である場合において使用される事が効果的である。このような高速な空間速度は、自動車の内燃機関であれば高回転での稼働が想定される。内燃機関を高回転で稼働させる状態は、一般的に加速時や急坂の登坂時や高積載量での走行時など、運転者が高出力を求めている状況である。このような高出力を求めている状況において、圧力損失が少なく内燃機関で高出力を得られ易いハニカム触媒はまさに市場が求めるものである。また、高出力が得られ易い事は内燃機関の効率的な稼働が可能である事でも有る。運転者が必要とするときに速やかに高出力を得る事が可能であれば、使用する燃料の量も抑制され環境負荷低減にも貢献可能な触媒であるといえる。
【0050】
[ハニカム構造体]
<セル密度>
本発明のハニカム触媒を構成するハニカム構造体は、市場に流通し、自動車排ガスの浄化に使用されるハニカム構造体であれば特に限定されるものでは無いが、ハニカムのセル断面積が小さすぎるとそれ自体が抵抗になり本発明の効果が得られ難い場合があるため、ある程度大きなセルの断面積を持つハニカム構造体に対して適用される事が好ましい。セルの断面の大きさは、単位面積当たりのセルの数をもってセル密度として表されるのが一般的で、市場には多様なセル密度のハニカム構造体が供給されている。
【0051】
本発明を実施する上で好ましいセル密度は62〜124セル/cm(400〜800セル/inch)が好ましく、62〜93セル/cm(400〜600セル/inch)がより好ましい。
【0052】
<セル壁の厚み>
また、ハニカム構造体においてはそのセルの壁の厚みも排ガスの通気に際しては抵抗となる。そのため、同じセル密度のハニカム構造体であればセルの壁は薄い方が望ましい。また、ハニカム構造体を触媒化した場合、セルの開口断面積はセルの壁の厚みが増したのと同じ断面積は減少してしまう事から、圧力損失を上げずに少しでも多くの触媒量を被覆するためにもセルの壁は出来るだけ薄いものである事が好ましい。しかし、セルの壁が薄過ぎるとハニカム構造体としての機械的強度が低下して実用に耐えられない事がある。
【0053】
ハニカム構造体におけるセルの壁の厚みはミリインチ「mil」として表される事もあるが、本発明を実施する上で好ましいセルの壁の厚みは0.025〜0.3mm(1〜12mil)が好ましく、0.05〜0.2mm(2〜8mil)がより好ましく、0.05〜0.125mm(2〜5mil)がもっとも好ましい。
【0054】
<ハニカムの材質>
排ガス浄化用のハニカム構造体の材質としては様々な無機酸化物が提案されており、実際に市場にも供給されている。このような材質としては無機酸化物を成形焼成したものと金属製に分けられる。本発明のハニカム触媒に使用できるハニカム構造体の材質は特に限定されるものではないが、無機酸化物であればコージェライト、炭化ケイ素、シリカ、アルミナ、ゼオライトなどが挙げられ、金属製であればステンレス製が挙げられる。中でもコージェライトは価格も低く、耐久性にも優れ、自動車用の排ガス浄化用のハニカム構造体材料として優れ、本発明への適用においても好ましい材質であるといえる。
【0055】
<ハニカム構造体の種類>
排ガス浄化用のハニカム構造体は管状のセルが集積したものであるが、その構造上の違いからフロースルー型ハニカム構造体とウォールフロー型ハニカム構造体が知られている。フロースルー型ハニカム構造体は各管状のセルの両端が開口しており、排ガスは一方の開口端から流入して他方の開口端から排出される。ここでセルの壁上に触媒組成物が被覆されていると排ガスは触媒組成物に接触しながらセル内を通過する事になり、この間に排ガス中の有害成分が浄化される。
【0056】
ウォールフロー型ハニカム構造体のセルの壁は排ガスが通過可能な多孔質体からなるもので、管状のセルは柱形のハニカム構造体の両底面において互い違いに目封じされ、一つのセルにおける開口は一つのみとなっている。すなわち、排ガスの入口側端面において目封じされたセルは出口側端面においては開口されており、入口側端面において目封じされているセルは出口側端面では開口している状態になる。
【0057】
このようなウォールフロー型ハニカム構造体にウオッシュコート法をもって触媒組成物スラリーを被覆した場合、触媒組成物は多孔質体からなる壁の上に被覆もしくは壁の中に含侵、あるいはその両方に担持される。そして、排ガスはセルの壁上壁中を通過し、その間に煤等の微粒子成分が濾しとられ、濾しとられた微粒子成分は排ガスの昇温をもって燃焼除去され、煤以外の有害成分も浄化するものであれば排ガスの通過に際してそれらも浄化される。ウォールフロー型ハニカム構造体に本発明の比高を形成する場合、目封じの無い状態で本発明の比高を持つ触媒層を形成し、その後で目封じを行っても良い。
【0058】
このようなハニカム構造体の種類のうち、本発明のハニカム構造体としてはフロースルー型ハニカム構造体を使用する事が好ましい。フロースルー型ハニカム構造体であれば、ほぼ全ての排ガスがセル壁上を直線的に通過するため排ガスの流速も早く、本発明の比高の作用によって生じる圧力損失低減の効果が得られ易いものと考えられる。
【0059】
[触媒組成]
本発明のハニカム触媒に使用できる触媒組成物はその成分などは特に限定されるもので無いが、セルの壁上に厚みをもって触媒層が形成される必要がある事から、セルの壁内部に含侵する事のない無機酸化物粒子を含有する必要がある。無機酸化物粒子は触媒活性種である貴金属を触媒層中に高分散に担持するため当業者によって広く採用されているものである。また、本発明の無機酸化物粒子にはこのような貴金属生物の担体としての他、酸素、窒素、炭化水素などを一時的に吸蔵し、有害成分の浄化にあたり最適なタイミングで放出するための助触媒成分も含まれる。本発明ではこのような触媒組成物スラリー中の無機酸化物粒子を総称して固形分という事がある。このような固形分は水等の溶媒と共にスラリー化されウオッシュコート法をもってハニカム構造体に被覆する事ができる。
【0060】
このような固形分の例としては、アルミニウム、ケイ素、セリウム、ジルコニウム、チタニウム等の金属の酸化物、またはこれら金属の一種以上からなる複合酸化物が挙げられる。複合酸化物の中にはゼオライト等の結晶性多孔質体も含まれる。また、触媒組成物スラリーにはこのような固形分の他、活性種として白金、パラジウム、ロジウム、銅、鉄等の各種遷移金属を水溶性の塩として使用する事ができ、他にも、各種界面活性剤、バリウムなどのアルカリ金属、アルカリ土類金属を含んでも良い。
【0061】
このような固形分の粒子としてのサイズは、レーザー回折・散乱法によって測定した粒度分布における積算値50%での粒径で0.1〜200μmが好ましく1〜100μmがより好ましい。本明細書における平均粒子径に関する記載も、特にことわりの無い限りこのような手法により測定された値である。
【0062】
[触媒組成物スラリー]
本発明のハニカム触媒は、少なくとも前記のような固形分としての無機酸化物粒子と水によりスラリー化したものを使用し、例えば、後述するウオッシュコート法をもって製造する事ができる。スラリー化するにあたっては無機酸化物粒子の粒径や濃度は製造条件に応じて適宜調整される。また、スラリーは必要に応じて界面活性剤等を使用して粘性を調整しても良い。また、スラリーには必要に応じてpH調整剤としての酸やアルカリ等、固形分以外の触媒成分を含ませても良い。更に、スラリーに用いられる水はそれ以外の液体の溶媒を添加しても良い。
【0063】
このような触媒組成物スラリーの物性の例としては、例えば、室温(20℃)でB型粘度計により60rpmで測定された粘度として10〜500[mPa・s]である事が好ましく、50〜300[mPa・s]である事がより好ましい。このような粘度であれば後述するウオッシュコート法による触媒組成物スラリーの被覆において適度な触媒層の厚みと上流触媒層と下流触媒層の相対する部位における比高が実現できる。本明細書における粘度についての記載は、特にことわりの無い限りこの手法により測定された値である。
【0064】
また、上記のような触媒組成物スラリーの粘度を実現するための固形分の濃度は、媒体として水を使用した場合10〜60wt%が好ましく20〜50wt%である事がより好ましい。これも後述するウオッシュコート法によるハニカム触媒の製造において適度な触媒層の厚みと比高の形成に適した濃度といえる。
【0065】
[ハニカム触媒の製造方法:ウオッシュコート法]
本発明のハニカム触媒の製造方法は特に限定されるものでは無く、ハニカム構造体を触媒化するにあたり使用可能な様々な公知の手法を用いる事ができる。このような手法のうち代表的な触媒化方法にはウオッシュコート法がある。本発明のハニカム触媒もウオッシュコート法により製造する事ができる。
【0066】
ウオッシュコート法をもって本発明のハニカム触媒を製造する場合、少なくとも下流触媒層と上流触媒層の2つの領域(zone)を触媒組成物で塗り分ける必要がある。そのため、ハニカム構造体への触媒組成物の被覆は各領域に対して行われる。このような塗り分をゾーンコートともいう。以下、その例の概要について図面を参照しながら説明する。
【0067】
[ウオッシュコート法:第1の製法]
図7はウオッシュコート法によるゾーンコートの様子を模式的に表したものである。図7の主な工程は矢印に示した数字の順番に従って進む。[矢印1]の前はハニカム構造体と水等の溶媒でスラリー化した触媒組成物が準備されている状態である。この例でのハニカム構造体は円柱形であり、ハニカム構造体は筒体中に把持固定されている。ハニカム構造体の把持は空気の圧力で膨張収縮するバルーンと言われる弾性体により行われる。バルーンはハニカム構造体の外周面を一周する形になっており、この把持面によってバルーンが取り付けられた筒体は気密可能な状態になる。
【0068】
このような配置状態のハニカム構造体に対し、触媒組成物スラリーはハニカム構造体の下方開口端面の下に準備される。触媒組成物スラリーはその容器下方から消費に応じて順次供給される。
【0069】
ハニカム構造体の下方開口端面は[矢印1]の後のとおり触媒組成物スラリーに浸漬される。
【0070】
触媒組成物スラリーに浸漬されたハニカム構造体は[矢印3]の後の工程に進む。ここで筒体内部は減圧され所定量の触媒組成物スラリーが液上げされる。液上げ減圧時間や負圧の大きさを調整する事でハニカム構造体内部の所定の高さに制御される。この所定高さが第一の触媒組成物層(第一ゾーン)となる。
【0071】
液上げが終了したハニカム構造体は[矢印4]の後に進む。ここで筒体上方から気流(エアブロー:air blow)を適用して余剰スラリーが除去(ブローアウト:blow out)される。気流の強さや時間を調整する事でも、ハニカム構造体を管状セルの壁上に被覆する触媒量を調整する事ができる。
【0072】
エアブローが終了したハニカム構造体は[矢印5]の後のように反転される。反転が完了したハニカム構造体は[矢印6]の後のように、再び触媒組成物スラリーへの液付け準備に入る。
【0073】
以降、[矢印7]の後から[矢印10]の後までの工程は、[矢印1]の後から[矢印4]の後の工程である浸漬、液上げ、エアブローと同様である。このようにして第二の触媒組成物層(第二ゾーン)が形成される。この工程で使用する触媒組成物スラリーは、第一ゾーンに使用した組成と異なるものであっても良いが同一組成の触媒組成物スラリーを使用しても良い。
【0074】
この様に第一ゾーン、第二ゾーンが形成されたハニカム構造体は乾燥、焼成工程を経る事でハニカム構造型触媒になるが、実際の製造にあたっては図7に示した工程以外の操作を加えても良い事は言うまでもない。例えば、[矢印6]において乾燥、焼成工程を加えてもよく、[矢印10]の後に更に異なる触媒組成物を被覆する工程を加えても良い。また、液上げ高さや液上げする触媒組成物スラリーの量等を調整する事で、第一ゾーン、第二ゾーンを離間(gap)させたり、重複(lap)させたりする事ができる。
【0075】
また、[矢印2][矢印8]の後の液上げでは触媒組成物スラリーをゾーンコートの長さ相当の高さまで吸い上げても良いが、その高さに満たない程度の量を吸い上げ、後段の[矢印4][矢印5]の後、[矢印9][矢印10]の後のエアブロー工程、反転工程をそれぞれ入れ替え、触媒組成物スラリーを吸い上げた端面側からエアブロー工程を施し、液上げした触媒組成物スラリーを塗り伸ばすものであっても良い。
【0076】
この様なエアブローの手順の他、触媒組成物スラリーの吸い上げからエアブローまでの静置時間、エアブローの強さや時間、また触媒組成物スラリーにおける剪断粘性、固形分の濃度(水分量)などを調整する事で触媒層の厚みや各ゾーンの相対する端の形状を調整する事ができ、本発明における比高を調整する事もできる。
【0077】
[ウオッシュコート法:第2の製法]
ウオッシュコート法においては前記第1の製法に変更を加えても良い。第1の製法に変更を加えた例として、図8に第2の製法を模式的に表す。第2の製法では、第一の製法における矢印5の後と矢印6の後を、矢印9の後と矢印10の後の工程を、それぞれ入れ替え、触媒組成物スラリーの吸上げ量を第1の製法よりも少なくし、エアブローにより触媒組成物スラリーを各ゾーンの所定の領域に塗り伸ばしている。
【0078】
第2の製法であれば余剰なスラリーの発生が少なくなるという利点もあるが、触媒組成物スラリーの液の性質によっては凸な比高形状となり易い傾向がある。
【0079】
[模式図を引用した実施形態、比較形態の説明]
本発明のハニカム触媒における比高に関する代表的な例は図1のように表される。図1では(B1)(B2)(B3)3種類を実施形態の例を表す模式図として開示している。図1図2のハニカム触媒をA−A面で切断し、A−A断面を表した図3における上流触媒層と下流触媒層が相対する部位を拡大したものである。
【0080】
図1(B1)では、上流触媒層(21)、下流触媒層(22)がセル壁(1)表面上で重なり合う事なく、鋭角な各端面が相対して向かい合っている。図1(B1)では上流触媒層(21)の端部と下流触媒層(22)の端部は当接していても離間していても良い。図1(B1)の下流触媒層端は取り付き(221)から頂点(5)に向かって鋭角な勾配を有しており、頂点(5)から下流側は平野になっている。図1(B1)では、取り付き(221)から頂点(5)の高低差が比高[H]となる。
【0081】
図1(B2)では、上流触媒層(21)、下流触媒層(22)の端部は当接していても離間していても良い点、鋭角な各端面が相対して向かい合っている点は図1(B)と同様である。図1(B2)の下流触媒層端は取り付き(221)から頂点(5)に向かって鋭角な勾配を有しており、頂点(5)から下流側へは下り勾配を有し、以降は平野になっている。図1(B2)では、取り付き(221)から頂点(5)の高低差(h1)と、頂点(5)からの下り勾配の高低差(h2)の和が比高[H]となる。
【0082】
図1(B3)では、上流触媒層(21)、下流触媒層(22)が鋭角な各端面が重複しているおり、上流触媒層が下流触媒層に乗り上げる形で重複している。図1(B3)の下流触媒層端は取り付き(221)から頂点(5)に向かって鋭角な勾配を有しており、頂点(5)から下流側へは下り勾配を有し、以降は平野になっている。図1(B3)では、取り付き(221)から頂点(5)の高低差(h1)と、頂点(5)からの下り勾配の高低差(h2)の和が比高[H]となる。図1(B3)では上流触媒層が下流触媒層に乗り上げる形で重複しているが、下流触媒層が上流触媒層に乗り上げる形で重複していても良い。
【0083】
図4図1における比高が排ガスの流れ(3)に与える影響を表している。図4の(B1)(B2)(B3)は図1の(B1)(B2)(B3)に対応している。図4(B1)では、排ガスの流れ(3)は凹部との摩擦により触媒層表面をなぞる様に流通する。この排ガスの流れ(3)は下流触媒層の取り付き(221)から始まる勾配に接触する。勾配は障害物として排ガスの流れ(3)に対する障害抵抗(41)となる。障害抵抗(41)を受けた排ガスの流れ(3)は勾配に沿って図中右斜め上に向かう。比高を構成する頂点を通過した排ガスは下流触媒層表面から跳ね上げられる様にして流れる。これにより、排ガスの流れ(3)と下流触媒層表面との間の摩擦が減少する事で、ハニカム触媒における圧力損失が低減するものと考えられる。
【0084】
図4(B2)、図4(B3)では触媒層の構造は異なるが、勾配の存在による圧力損失の低減作用は図4(B1)と同様である。
【0085】
図5(B4)は上流触媒層(21)と下流触媒層(22)が下流触媒層の取り付き以降に勾配をもって比高を形成している点は前記の例と同様である。図5(B4)ではこの上流触媒層(21)と下流触媒層(22)を下層とし、下層の上流触媒層(21)と下流触媒層(22)は離間していて、この下層表面に上層触媒層(23)が被覆している。上層触媒層(23)では勾配は幾分緩やかになるものの、下層の形状をなぞる様に最終的な触媒層表面が形成される。
【0086】
図5(B4)では、排ガスの流れ(3)は上記の実施形態の例と同様に、上層触媒層(23)表面における下流触媒層(22)勾配にあたる部位によって排ガスの流れ(3)が跳ね上げられ、上層触媒層(23)表面と排ガスの流れ(3)の摩擦が減少し、圧力損失が低減するものと考えられる。
【0087】
このような実施形態の例に対し、図6では本発明の比較形態に相当する例を表している。図6(C1)では下流触媒層(22)端は緩やかな勾配を有していて比高の大きさも小さい。このような場合には排ガスの流れ(3)の跳ね上げられる量が小さく、下流触媒層(22)の平野部との間で生じる摩擦を充分に減少する事が出来ず、ハニカム触媒における圧力損失を低減するには至れないものと考えられる。この事は図6(C5)のように触媒層表面に適切な凹凸を有さず、ほぼ平坦な表面を持つ触媒層においても同様である。
【0088】
図6(C2)では触媒層表面が大きく凸になっているもので、この例では凸部による障害抵抗(41)が大きくなり、障害抵抗(41)自体の大きさによって圧力損失が増加してしまう。
【0089】
図6(C2)のような大きな凸部は障害抵抗増大の原因になる、本発明における比高という考え方の点では、下流触媒層(22)を厚く被覆する事で本発明の比高の範囲に入る事も考えられる。図6(C3)はそのような例を模式化したものである。図6(C3)では図6(C2)に比べて比高の値としては小さくなっているが、下流触媒層(22)を厚く被覆した事によりセルの開口断面積が小さくなり圧力損失は増大してしまう。更に、図6(C3)では下流触媒層(22)の平野部と頂点までの高低差が小さくなる事で下流触媒層(22)と排ガスの流れ(3)との摩擦の増加も懸念される。なお、比高の値が本発明の範囲にあっても触媒層の厚みがセル断面積の縮小になり圧力損失が増大してしまう事は図6(C4)のように上流触媒層(21)が厚く被覆された例でも同様である。
【0090】
[触媒層の厚さ:ハニカム触媒セルの開口断面積]
触媒化したハニカム構造体のセルの開口断面積は触媒がセル壁上に層として被覆される事から、触媒化前のセルの開口断面積は小さくなる。セルの開口断面積が小さくなると排ガスはセル内を流れ難くなり圧力損失が大きくなってしまう。本発明の比高についても、比高のみを所定の値としても、触媒層が厚すぎる場合はそもそも圧力損失が増大してしまう事から適切な厚みで触媒層を形成する必要がある。そのため、自動車の排ガス浄化のために実装されるハニカム触媒、特にフロースルー型のハニカム触媒においては、触媒化前のセルの開口断面積に対する触媒化後のセルの開口断面積は70%以上である事が好ましく80%以上がより好ましい。この様な広い開口断面積を確保しつつ所定の比高で効果的に圧損を低下させるためには前述の様に所定の比高はセルの角部に形成し、セル壁の中央部は触媒層を薄く形成する事が望ましい。
【0091】
また、ハニカム触媒のセルは一方の開口端面から他方の開口端面に向け、ハニカム構造体の軸線方向に管状に形成されているため、平均的には前記の様な好ましい範囲の開口断面積を持つ場合でも、セルの一部が極端に触媒層が厚く被覆されて開口断面積が小さくなってしまっている部位があると、この場合も圧力損失は増大してしまう。このような偏った触媒層の厚みを持たない仕様としては、フロースルー型のハニカム構造体を使用し、本発明の様に上流触媒層と下流触媒層をもつハニカム触媒を構成した場合、本発明の比高を形成する部位を挟んだ上流触媒層が形成されるセルの開口断面積と下流触媒層が形成されるセルの開口断面積の差は20%以下である事が好ましく、10%以下である事がより好ましい。
【0092】
[触媒層の厚さ:触媒担持量]
一方で、セル壁上の触媒層はセル角で厚く、セル壁の中ほどでは薄く被覆される傾向がある。これは前述のとおり触媒組成物スラリーをセル壁上に被覆するとメニスカスの影響を受けるからである。言い換えるとセル壁上の触媒層の厚みはセルの部位により異なるものといえる。また、触媒層の厚みを製造工程で管理する場合、ハニカム触媒は非破壊で管理する必要がある。この様な事情で製品としてのハニカム触媒について触媒層の厚みを直接管理する事は難しい。
【0093】
そのため、触媒層の厚み、すなわちハニカム触媒におけるセルの開口断面積の管理手段として、当業者においてはハニカム構造体の単位体積あたりの触媒の担持重量として管理する手法が取られている。本発明においても同様に管理可能であり、フロースルー型のハニカム構造体を使用した場合、ハニカム触媒全体としては50〜300g/Lが好ましく、100〜250g/Lである事がより好ましい。触媒量が少なすぎると充分な厚みの触媒層が得られず所定の比高が形成できない事がある他、主要な活性種であるPt、Pd、Rh等の貴金属成分を高分散に分散できず排ガス浄化用触媒として充分な性能が得られない事がある。また、触媒量が多すぎるとセル壁上に形成される触媒層が厚くなり過ぎてセルの開口面積が小さくなり、その事で圧力損失が大きくなってしまう事がある。
【0094】
フロースルー型のハニカム構造体を使用して本発明の上流触媒層と下流触媒層をもつハニカム触媒を構成した場合にも、前記の開口断面積と同様に、上流触媒層が形成されるハニカム構造体の領域と下流触媒層が形成されるハニカム構造体の領域における触媒組成物の重量(乾燥重量)の差は20%以下である事が好ましく、10%以下である事がより好ましい。このように触媒層の厚み、または触媒担持量を管理して本発明の比高を設定することで圧力損失の少ないハニカム触媒を得る事ができる。
【実施例】
【0095】
以下、本発明について実施例を挙げて詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に何ら限定されるものではない。
【0096】
[ハニカム構造体]
・コージェライト製フロースルー型
・セル密度:93 cel/cm(600 cel/inch
・セルの壁の厚み:0.1 mm(4 mil)
・形状:円柱形
・サイズ:直径 118.4 × 高さ 118 mm
・飽和吸水率:18wt%
・気孔率:35vol%
【0097】
[触媒成分]
・γ−アルミナ[平均粒子径:35μm,BET:150m/g]
・セリウム・ジルコニウム複合酸化物[平均粒子径:2μm,BET:70m/g]
・硝酸パラジウム
・硝酸ロジウム
・酸化バリウム
・水
【0098】
[触媒組成物スラリー1:下層[上流触媒層][下流触媒層]用]
固形分である上記の[γ−アルミナ:セリウム・ジルコニウム複合酸化物:酸化バリウム]を重量比で[50:40:10]、ウオッシュコート後にハニカム構造体の単位体積あたり[3g/L]となる金属換算の硝酸パラジウム(Pd)、これらと水を混合し、固形分濃度:[45wt%]、粘度:[200cps(0.2Pa・s)]の触媒組成物スラリーを調整した。粘度はローター回転数60rpmのB型粘度計で測定した値である。
【0099】
[触媒組成物スラリー2:上層[uniform層]成分]
固形分である上記の[γ−アルミナ:セリウム・ジルコニウム複合酸化物]を重量比で[84:16]、ウオッシュコート後にハニカム構造体の単位体積あたり[3g/L]となる金属換算の硝酸パラジウム(Pd)、これらと水を混合し、固形分濃度:[28wt%]、粘度:[80cps(0.08Pa・s)]の触媒組成物スラリーを調整した。粘度はローター回転数60rpmのB型粘度計で測定した値である。
【0100】
[実施例1]
下層として触媒組成物スラリー1を使用し、ウオッシュコート法により下層となる上流触媒層と下流触媒層を形成した。それぞれの層のハニカム構造体の各開口端面からの長さ(高さ)、単位体積あたりの固形分被覆量(g/L)、各層の離間距離を以下に記す。
【0101】
・下層上流触媒層長さ:54mm
・下層上流触媒層固形分被覆量:100g/L
・下層下流触媒層長さ:54mm
・下層下流触媒層固形分被覆量:100g/L
・離間距離:10mm
【0102】
上記の様に下層を形成した後、触媒組成物スラリー2を使用し、ハニカム構造体全域に一様(uniform)な表層触媒層を形成した。固形分被覆量を以下に記す。
・上層触媒固形分被覆量:100g/L
【0103】
この様に触媒組成物スラリーを被覆したハニカム構造体を150℃で2時間乾燥後、550℃で0.5時間焼成し、実施例1のハニカム触媒を得た。得られた実施例1のハニカム触媒を軸線方向に割り、図9のC−C断面(セル角の対角断面)、W−W断面(セル壁の対辺断面)が表れるように研ぎ出し、本発明のハニカム触媒における比高が表れた箇所についてSEM画像を撮影した。比高の大きさと共にC−C断面を図11に、W−W断面を図12として表す。実施例1では角部に厚く触媒層が形成され、比高も壁平面部分よりも大きなものとなっていた。また、ハニカム触媒における下層触媒層の平野部に相当する部位を直径方向で切断してハニカム構造体のセル開口の断面積と比べたところ、開口断面積の減少は15%であった。また、下層下流触媒層における取り付きから下層下流触媒層の頂点へ向けての勾配は概ね10°であった。
【0104】
[実施例2]
下層の形成時におけるウオッシュコート時のハニカム構造体に対する触媒組成物スラリーの液上げ量とエアブロー圧力を変えて下層を形成した他は実施例1と同様にして実施例2のハニカム触媒を得た。下層、上層のハニカム構造体の各開口端面からの長さ(高さ)、単位体積あたりの固形分被覆量(g/L)、各層の重複距離を以下に記す。
【0105】
・下層上流触媒層長さ:54mm
・下層上流触媒層固形分被覆量:100g/L
・下層下流触媒層長さ:54mm
・下層下流触媒層固形分被覆量:100g/L
・重複距離:10mm
・表層(uniform)触媒固形分被覆量:100g/L
【0106】
実施例2のハニカム触媒についても、実施例1と同様に断面を研ぎ出し、図9のC−C断面、W−W断面のSEM画像を撮影した。実施例1の場合と同様に、本発明の比高が表れた箇所についてSEM画像を撮影した。比高の大きさと共にC−C断面を図13に、W−W断面を図14として表す。実施例2でも角部に厚く触媒層が形成され、比高も壁平面部分よりも大きなものとなっていた。また、ハニカム触媒における下層触媒層の平野部に相当する部位を直径方向で切断してハニカム構造体のセル開口の断面積と比べたところ、これも開口断面積の減少は15%であった。また、下層下流触媒層における取り付きから下層下流触媒層の頂点へ向けての勾配は概ね20°であった。
【0107】
[実施例3]
触媒組成物スラリー1の水分量を35wt%とし、本発明の図8に表した第2の製法を使用し、各層の離間距離、固形分被覆量が実施例1と同じになる様に下層形成時のウオッシュコート時のハニカム構造体に対する触媒組成物スラリーの液上げ量とエアブロー圧力を調整した他は実施例1と同様にして実施例3のハニカム触媒を得た。
【0108】
実施例3のハニカム触媒についても、実施例1と同様に図9のC−C断面を研ぎ出し、デジタルマイクロスコープを使用して断面画像を撮影した。比高の大きさと共にC−C断面を図15として表す。実施例3における比高は下流触媒層から上流に向けて一度標高を増し、頂点から上流に向けて鋭角な勾配をもって触媒層の厚みを減らして形成されていた。
【0109】
[比較例1]
下層触媒層用として触媒組成物スラリー1を、表層触媒層用として触媒組成物スラリー2を使用し、一様(uniform)な下層触媒層における固形分被覆量:100g/L(下層の総固形分被覆量)になる様にウオッシュコート時の液上げ量、エアブロー圧力を調整した他は実施例1と同様にして用いて一様(uniform)な下層と上層からなる、本発明の比高形成操作を行わない比較例1のハニカム触媒を得た。
【0110】
比較例1のハニカム触媒についてハニカム構造体の軸線の中央部で直径方向の切断面についてSEM画像を撮影した。触媒層の厚みと共に図16として表す。開口断面積の減少は概ね12%であった。
【0111】
[試験例1]
<圧損評価:評価条件>
この様にして得られた実施例1〜3、比較例1のハニカム触媒に対し、圧力損失測定装置(ツクバリカセイキ株式会社製)を使用し、毎分4mの速さの室温空気を流し、室温空気の導入側と排出側の差圧を測り圧力損失の様子を確認した。実施例1〜3、比較例1のハニカム触媒の体積は1.3Lであり、室温空気の流速は空間速度で184,615/hである。実際の乗用車用エンジンにおいては稼働時の負荷やエンジン制御の状況によって異なるものの、これは小型乗用車用の1,300cc程度のエンジンでは6,000rpm程度と、圧力損失の影響を受け易い高回転領域での稼働に相当する。結果を各ハニカム触媒の比高と共に表1に表す。
【0112】
【表1】
【0113】
実施例1〜3のハニカム触媒は、比高を特定の範囲にする事により、比高形成操作を行わない比較例1のハニカム触媒と比較して圧力損失を抑制できた。
【符号の説明】
【0114】
1 セル壁
2 触媒組成物層
21 上流触媒層(upper zone)
211 上流下層触媒
22 下流触媒層(lower zone)
221 取り付き
23 上層触媒層(uniform over coat)
3 排ガス流れ
41 障害抵抗
42 摩擦抵抗
5 頂上
【要約】
【課題】排ガス浄化用ハニカム触媒において圧力損失が少なく、省エネルギー、CO削減となる技術を提供する。
【解決手段】両端が開口した多角形な管状のセルが集合して形成された柱形のハニカム構造体のセルの壁表面に排ガスの流れ方向を基準に上流側と下流側に触媒組成物を被覆して上流触媒層と下流触媒層を設けた排ガス浄化用ハニカム触媒であって、
両触媒層は管状のセルの開口端面の一方から他方の開口端面に向けて、セルの長さ未満に被覆されることでセルの両開口端面の間に各々触媒層端を有しており、
少なくともセル角部のセル壁直上に被覆された両触媒層端は鋭角な勾配を有して重複、離間または当接することでセルの壁上に形成された高低差を有し、
この高低差の頂点を基点として上流側下流側の少なくとも一方に形成された取り付きが存在し、
この頂点と、下流触媒層の取り付きが位置する触媒層表面から特定される比高が30〜200μmである、
排ガス浄化用ハニカム触媒、排ガス流中に前記排ガス浄化用ハニカム触媒を配置した排ガス浄化装置および前記排ガス浄化装置を使用し、ガソリン自動車から排出される排ガスを浄化する方法。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16