特許第6776477号(P6776477)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6776477塩基性染料組成物並びにそれを用いた染色方法及び染色物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6776477
(24)【登録日】2020年10月9日
(45)【発行日】2020年10月28日
(54)【発明の名称】塩基性染料組成物並びにそれを用いた染色方法及び染色物
(51)【国際特許分類】
   C09B 67/22 20060101AFI20201019BHJP
   C09B 19/00 20060101ALI20201019BHJP
   C09B 29/042 20060101ALI20201019BHJP
   C09B 29/045 20060101ALI20201019BHJP
   D06P 1/41 20060101ALI20201019BHJP
   D06P 1/42 20060101ALI20201019BHJP
   D06P 3/79 20060101ALI20201019BHJP
   D06P 3/82 20060101ALI20201019BHJP
【FI】
   C09B67/22 A
   C09B67/22 F
   C09B19/00
   C09B29/042
   C09B29/045
   D06P1/41
   D06P1/42 Z
   D06P3/79 B
   D06P3/82 K
【請求項の数】9
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2020-506549(P2020-506549)
(86)(22)【出願日】2019年3月12日
(86)【国際出願番号】JP2019009950
(87)【国際公開番号】WO2019176923
(87)【国際公開日】20190919
【審査請求日】2020年6月9日
(31)【優先権主張番号】特願2018-45134(P2018-45134)
(32)【優先日】2018年3月13日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004086
【氏名又は名称】日本化薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100136939
【弁理士】
【氏名又は名称】岸武 弘樹
(72)【発明者】
【氏名】谷部 重光
(72)【発明者】
【氏名】漆山 武雄
【審査官】 井上 明子
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭50−152081(JP,A)
【文献】 特開昭50−152082(JP,A)
【文献】 特開昭50−123984(JP,A)
【文献】 特開昭50−107287(JP,A)
【文献】 英国特許出願公開第2070050(GB,A)
【文献】 特開昭52−39729(JP,A)
【文献】 特開2002−69864(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D06P1/00−7/00
C09B1/00−69/10@Z
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で示される塩基性染料と、
下記式(2)〜(3)で示される少なくとも1種の塩基性染料とを含有する青色塩基性染料組成物。
【化1】
[式(2)中、Rは(C1〜C3)アルキル基又はシアノ(C1〜C3)アルキル基を表す。式(3)中、Rは水素原子又は(C1〜C3)アルコキシ基を表す。式(1)〜(3)中、XはOH、CHSO、又はハロゲン化物イオンを表す。]
【請求項2】
前記式(1)で示される塩基性染料の含有率が50〜95質量%であり、
前記式(2)〜(3)で示される塩基性染料の合計の含有率が5〜50質量%である請求項1に記載の青色塩基性染料組成物。
【請求項3】
前記式(1)〜(3)において、XがBr又はClである請求項1又は2に記載の青色塩基性染料組成物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の青色塩基性染料組成物と、
下記式(4)で示される塩基性染料を含有する黄色塩基性染料組成物、及び下記式(5)〜(6)で示される少なくとも1種の塩基性染料を含有する赤色塩基性染料組成物の少なくとも一方の組成物とを含有する塩基性染料組成物。
【化2】
[式(4)中、Rは水素原子、(C1〜C3)アルキル基、又は(C1〜C3)アルコキシ基を表す。式(4)〜(6)中、XはOH、CHSO、又はハロゲン化物イオンを表す。]
【請求項5】
前記青色塩基性染料組成物の含有率が30〜60質量%であり、
前記黄色塩基性染料組成物の含有率が35〜60質量%であり、
前記赤色塩基性染料組成物の含有率が5〜20質量%であり、
前記青色塩基性染料組成物中の前記式(1)で示される塩基性染料の含有率が60〜80質量%であり、
前記青色塩基性染料組成物中の前記式(2)〜(3)で示される塩基性染料の合計の含有率が20〜40質量%である請求項4に記載の塩基性染料組成物。
【請求項6】
前記式(4)〜(6)において、XがBr又はClである請求項4又は5に記載の塩基性染料組成物。
【請求項7】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の青色塩基性染料組成物、又は請求項4〜6のいずれか1項に記載の塩基性染料組成物を用いて繊維材料を染色する工程を含む染色方法。
【請求項8】
前記繊維材料が、アクリル繊維、塩基性染料可染合成繊維(CDP)、又はそれらの混紡物、交織物、若しくは交編物を含む請求項7に記載の染色方法。
【請求項9】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の青色塩基性染料組成物、又は請求項4〜6のいずれか1項に記載の塩基性染料組成物により染色された、アクリル繊維、塩基性染料可染合成繊維(CDP)、又はそれらの混紡物、交織物、若しくは交編物を含む染色物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アクリル繊維又は塩基性染料可染合成繊維(Cation Dyeable Polyester;CDP)(以下、「CDP繊維」とも称する。)の染色に適する塩基性染料組成物、並びにそれを用いた染色方法及び染色物に関する。
【背景技術】
【0002】
塩基性染料を用いるアクリル繊維又はCDP繊維の染色においては、黄色、赤色、及び青色の三原色用染料を用い、それらを種々の割合で配合して染色することが知られている(例えば、特許文献1〜5参照)。
【0003】
三原色に使用される塩基性染料に関しては、各染料のビルドアップ性が優れていること、三原色の染着速度がほぼ等しく温度依存性が揃っていること、三原色の発色性及び諸堅牢度が優れることが必要とされている。
【0004】
ところで、近年、ファッション性や機能性としての吸湿発熱を重視し、アクリル繊維とCDP繊維との混紡、交織等が拡大している。
【0005】
従来の三原色に使用される塩基性染料は、アクリル繊維単独、又はCDP繊維単独では問題視されなかったが、アクリル繊維とCDP繊維との混紡、交織等において親和性が異なることで染着挙動が異なり、均一に染色できない問題が発生し、再現性不良が起こっている。そのため、均一染色でき、かつ、再現性に優れる三原色が強く望まれている。
【0006】
このような問題を解決するために様々な検討がなされているが、未だ満足な結果は得られていない(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特公昭51−012754号公報
【特許文献2】米国特許第4638053号明細書
【特許文献3】特公平03−074707号公報
【特許文献4】特公昭57−054594号公報
【特許文献5】特公昭55−043022号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、アクリル繊維、CDP繊維、又はそれらの混紡物、交織物、若しくは交編物を均一に再現性良く、かつ、高堅牢度に染色できる塩基性染料組成物、並びにそれを用いた染色方法及び染色物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、特定の青色塩基性染料を含有し、任意に特定の赤色塩基性染料及び/又は特定の黄色塩基性染料を更に含有する塩基性染料組成物及びそれを用いる染色方法を見出し、本発明を完成させるに至った。
【0010】
すなわち、本発明は以下の1)〜9)に関する。
1) 下記式(1)で示される塩基性染料と、
下記式(2)〜(3)で示される少なくとも1種の塩基性染料とを含有する青色塩基性染料組成物。
【化1】
[式(2)中、Rは(C1〜C3)アルキル基又はシアノ(C1〜C3)アルキル基を表す。式(3)中、Rは水素原子又は(C1〜C3)アルコキシ基を表す。式(1)〜(3)中、XはOH、CHSO、又はハロゲン化物イオンを表す。]
【0011】
2) 前記式(1)で示される塩基性染料の含有率が50〜95質量%であり、
前記式(2)〜(3)で示される塩基性染料の合計の含有率が5〜50質量%である1)に記載の青色塩基性染料組成物。
【0012】
3) 前記式(1)〜(3)において、XがBr又はClである1)又は2)に記載の青色塩基性染料組成物。
【0013】
4) 1)〜3)のいずれか1項に記載の青色塩基性染料組成物と、
下記式(4)で示される塩基性染料を含有する黄色塩基性染料組成物、及び下記式(5)〜(6)で示される少なくとも1種の塩基性染料を含有する赤色塩基性染料組成物の少なくとも一方の組成物とを含有する塩基性染料組成物。
【化2】
[式(4)中、Rは水素原子、(C1〜C3)アルキル基、又は(C1〜C3)アルコキシ基を表す。式(4)〜(6)中、XはOH、CHSO、又はハロゲン化物イオンを表す。]
【0014】
5) 前記青色塩基性染料組成物の含有率が30〜60質量%であり、
前記黄色塩基性染料組成物の含有率が35〜60質量%であり、
前記赤色塩基性染料組成物の含有率が5〜20質量%であり、
前記青色塩基性染料組成物中の前記式(1)で示される塩基性染料の含有率が60〜80質量%であり、
前記青色塩基性染料組成物中の前記式(2)〜(3)で示される塩基性染料の合計の含有率が20〜40質量%である4)に記載の塩基性染料組成物。
【0015】
6) 前記式(4)〜(6)において、XがBr又はClである4)又は5)に記載の塩基性染料組成物。
【0016】
7) 1)〜3)のいずれか1項に記載の青色塩基性染料組成物、又は4)〜6)のいずれか1項に記載の塩基性染料組成物を用いて繊維材料を染色する工程を含む染色方法。
【0017】
8) 前記繊維材料が、アクリル繊維、塩基性染料可染合成繊維(CDP)、又はそれらの混紡物、交織物、若しくは交編物を含む7)に記載の染色方法。
【0018】
9) 1)〜3)のいずれか1項に記載の青色塩基性染料組成物、又は4)〜6)のいずれか1項に記載の塩基性染料組成物により染色された、アクリル繊維、塩基性染料可染合成繊維(CDP)、又はそれらの混紡物、交織物、若しくは交編物を含む染色物。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、アクリル繊維、CDP繊維、又はそれらの混紡物、交織物、若しくは交編物を均一に再現性良く、かつ、高堅牢度に染色できる塩基性染料組成物、並びにそれを用いた染色方法及び染色物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
[青色塩基性染料組成物]
本実施形態に係る青色塩基性染料組成物(B)は、下記式(1)で示される塩基性染料と、下記式(2)〜(3)で示される少なくとも1種の塩基性染料とを含有する。
【0021】
【化3】
【0022】
上記式(2)において、Rは、(C1〜C3)アルキル基又はシアノ(C1〜C3)アルキル基を表す。(C1〜C3)アルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基等が挙げられる。シアノ(C1〜C3)アルキル基としては、シアノメチル基、シアノエチル基、シアノプロピル基等が挙げられる。Rとしては、メチル基又はシアノエチル基が好ましい。
【0023】
上記式(3)において、Rは、水素原子又は(C1〜C3)アルコキシ基を表す。(C1〜C3)アルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基等が挙げられる。Rとしては、水素原子又はエトキシ基が好ましい。
【0024】
上記式(1)〜(3)において、Xは、OH、CHSO、又はハロゲン化物イオンを表し、好ましくはBr又はClを表す。
【0025】
上記式(1)で示される塩基性染料は、特許文献1等に記載されている。上記式(2)で示される塩基性染料は、特許文献2等に記載されており、例えば、C.I.ベーシックブルー162(式(2)におけるRがシアノエチル基、XがCHSO)及びC.I.ベーシックブルー54(式(2)におけるRがメチル基、XがCHSO)が挙げられる。上記式(3)で示される塩基性染料は、特開平10−3183号公報等に記載されている。上記式(3)で示される塩基性染料としては、例えば、C.I.ベーシックブルー3(式(3)におけるRが水素原子、XがCl)が挙げられる。上記式(1)〜(3)で示される塩基性染料は、商業的に入手可能である。
【0026】
本実施形態に係る青色塩基性染料組成物(B)は、上記式(1)で示される塩基性染料と、上記式(2)〜(3)で示される少なくとも1種の塩基性染料とを含有するため、アクリル繊維及びCDP繊維への染着率を近似させることができ、これらの繊維の混紡物、交織物、又は交編物を含む染色物の染色性を視感的に均一なものとすることができる。
【0027】
本実施形態に係る青色塩基性染料組成物(B)は、上記式(1)で示される塩基性染料の含有率が50〜95質量%であり、上記式(2)〜(3)で示される塩基性染料の合計の含有率が5〜50質量%であることが好ましく、上記式(1)で示される塩基性染料の含有率が50〜80質量%であり、上記式(2)〜(3)で示される塩基性染料の合計の含有率が20〜50質量%であることがより好ましい。塩基性染料の含有率を上記範囲とすることにより、アクリル繊維及びCDP繊維への染着率をより近似させることができる傾向にある。
【0028】
また、本実施形態に係る青色塩基性染料組成物(B)は、C.I.ベーシックブルー35を含有していてもよい。C.I.ベーシックブルー35の含有率は、所望の色調に応じて適宜調整され得る。
【0029】
[塩基性染料組成物]
本実施形態に係る塩基性染料組成物は、上記の青色塩基性染料組成物(B)と、下記式(4)で示される塩基性染料を含有する黄色塩基性染料組成物(Y)、及び下記式(5)〜(6)で示される少なくとも1種の塩基性染料を含有する赤色塩基性染料組成物(R)の少なくとも一方の組成物とを含有する。青色塩基性染料に加え、黄色塩基性染料及び/又は赤色塩基性染料を更に含有させることにより、所望の色調を有する塩基性染料組成物を得ることができる。青色塩基性染料組成物(B)、黄色塩基性染料組成物(Y)、及び赤色塩基性染料組成物(R)の各々の含有率は、所望の色調に応じて適宜調整され得る。
【0030】
【化4】
【0031】
上記式(4)において、Rは、水素原子、(C1〜C3)アルキル基、又は(C1〜C3)アルコキシ基を表す。(C1〜C3)アルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基等が挙げられる。(C1〜C3)アルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基等が挙げられる。Rとしては、水素原子又はメトキシ基が好ましい。
【0032】
上記式(4)〜(6)において、Xは、OH、CHSO、又はハロゲン化物イオンを表し、好ましくはBr又はClを表す。
【0033】
上記式(4)で示される塩基性染料は、特許文献5等に記載されており、例えば、C.I.ベーシックイエロー51(式(4)におけるRが水素原子、XがCHSO)、C.I.ベーシックイエロー29(式(4)におけるRがメチル基、XがCl)、及びC.I.ベーシックイエロー28(式(4)におけるRがメトキシ基、XがCHSO)が挙げられる。上記式(5)で示される塩基性染料は、特許文献4等に記載されており、例えば、C.I.ベーシックレッド46(式(5)におけるXがBr)が挙げられる。上記式(6)で示される塩基性染料は、特許文献5等に記載されており、例えば、C.I.ベーシックレッド29(式(6)におけるXがCl)が挙げられる。上記式(4)〜(6)で示される塩基性染料は、商業的に入手可能である。
【0034】
本実施形態に係る塩基性染料組成物は、黒色用塩基性染料組成物であってもよい。黒色用塩基性染料組成物は、青色塩基性染料組成物(B)の含有率が30〜60質量%であり、黄色塩基性染料組成物(Y)の含有率が35〜60質量%であり、赤色塩基性染料組成物(R)の含有率が5〜20質量%であることが好ましい。また、青色塩基性染料組成物(B)は、上記式(1)で示される塩基性染料の含有率が60〜80質量%であり、上記式(2)〜(3)で示される塩基性染料の合計の含有率が20〜40質量%であることが好ましく、上記式(1)で示される塩基性染料の含有率が70〜80質量%であり、上記式(2)〜(3)で示される塩基性染料の合計の含有率が20〜30質量%であることがより好ましい。各色の塩基性染料組成物の含有率を上記範囲とすることにより、アクリル繊維及びCDP繊維への染着率をより近似させることができる傾向にある。
【0035】
なお、上述したとおり、青色塩基性染料組成物(B)は、C.I.ベーシックブルー35を含有していてもよい。C.I.ベーシックブルー35の含有率は、所望の色調に応じて適宜調整され得る。
【0036】
[青色塩基性染料組成物及び塩基性染料組成物の調製方法等]
青色塩基性染料組成物及び塩基性染料組成物の調製において、各塩基性染料の配合方法は特に限定されない。例えば、それぞれの塩基性染料を別々に合成し、その後に配合する方法;合成時に生成した各塩基性染料を含有する染料液を混合し、その後に乾燥して組成物とする方法;染浴にそれぞれの染料を溶解し、染浴中で各組成物と同じ組成とする方法;等を採用することができる。その際に、各塩基性染料の混合割合は、所望の色調に応じて適宜決定される。
【0037】
青色塩基性染料組成物及び塩基性染料組成物は、必要に応じて、公知の添加剤、例えば、濃度調整剤、分散剤、均染剤、沈殿防止剤、金属イオン封鎖剤、還元防止剤等を含有してもよい。
青色塩基性染料組成物及び塩基性染料組成物の形態は特に制限されず、例えば、粉末状、顆粒状、及び液体状であってよい。
【0038】
青色塩基性染料組成物又は塩基性染料組成物を構成する各塩基性染料、及び必要に応じて上記の添加剤等を染浴、パディング浴、又は捺染糊に加え、染浴等を調製して染色する場合に、各塩基性染料、添加剤等を溶解する順序は任意の順序でよい。使用する各構成成分の使用量も公知の方法を参考にして決めればよい。
【0039】
本実施形態に係る青色塩基性染料組成物及び塩基性染料組成物は、アクリル繊維又はCDP繊維を含む繊維材料の染色に有用であり、特に、アクリル繊維及びCDP繊維の混紡物、交織物、又は交編物を含む繊維材料の染色に好適である。混紡物、交織物、及び交編物におけるアクリル繊維及びCDP繊維の各々の割合は、所望の性質に応じて任意に調整され得る。更に、染色可能な繊維材料には、これらの繊維又は混合繊維と他の繊維(例えば、綿、レーヨン、ポリエステル繊維、アセテート繊維、羊毛、絹、ナイロン等のポリアミド繊維等)との混紡物、交織物、交編物等が挙げられる。
【0040】
CDP繊維としては、例えば、酸性改質ポリエステル繊維が挙げられる。酸性改質ポリエステル繊維は、例えば、ポリエステル繊維のイソフタル酸成分の一部にスルホイソフタル酸を用い、繊維分子中にスルホン酸基を導入して塩基性染料で染色できるように改質した繊維である。
【0041】
本実施形態に係る青色塩基性染料組成物及び塩基性染料組成物によれば、均一に染色された染色物、例えば、アクリル繊維、CDP繊維、又はそれらの混紡物、交織物、若しくは交編物を含む染色物を製造することができ、再現性にも優れている。更に、本実施形態に係る青色塩基性染料組成物及び塩基性染料組成物は、アクリル繊維、CDP繊維、又はそれらの混紡物、交織物、若しくは交編物を高堅牢度に染色することができ、発色性にも優れている。
【0042】
[青色塩基性染料組成物又は塩基性染料組成物を用いる染色方法]
本実施形態に係る染色方法は、上記青色塩基性染料組成物又は上記塩基性染料組成物を用いて繊維材料を染色する工程を含む。繊維材料としては、青色塩基性染料組成物又は塩基性染料組成物による染色が有用な上述の繊維材料を用いることができる。
【0043】
青色塩基性染料組成物又は塩基性染料組成物を用いて繊維材料を染色する工程は、例えば、公知の下記のような方法に従って行うことができるが、これらに限定されるものではない。
染色工程では、例えば、所望の色相及び濃度に応じた青色塩基性染料組成物又は塩基性染料組成物を染浴に加え、酸性液調整剤を添加する。酸性液調整剤としては、例えば、ギ酸、酢酸、クエン酸、リンゴ酸等の有機酸及びその塩;塩酸、硫酸等の無機酸及びその塩;などが挙げられる。これらの酸性液調整剤は、1種類を単独で使用してもよく、2種類以上を併用してもよい。酸性液調製剤の使用量は適宜調整され、特に制限はない。
染色工程終了後、水洗又は湯洗の後、市販のソーピング剤を含むソーピング浴にて洗浄を行い、又はハイドロサルファイト、二酸化チオ尿素等を使用した還元洗浄を行い、染色を終了する。
【0044】
青色塩基性染料組成物又は塩基性染料組成物の使用量は、通常、繊維材料の質量に対して0.0005〜15質量%程度とすることが好ましい。
【実施例】
【0045】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明は、実施例のみに限定されるものではない。
【0046】
上記式(1)〜(7)で示される塩基性染料としては、以下の(a)〜(i)の塩基性染料を用いた。C.I.ベーシックはカラーインデックスジェネリックネームである。塩基性染料の配合割合は表1に示す。なお、本文中「部」は、特別な記載がない限り質量部を表す。
【0047】
(a)式(1)におけるXがClである染料
(b)C.I.ベーシックブルー162(式(2)の塩基性染料に相当)
(c)C.I.ベーシックブルー54(式(2)の塩基性染料に相当)
(d)C.I.ベーシックブルー3(式(3)の塩基性染料に相当)
(e)C.I.ベーシックイエロー51(式(4)の塩基性染料に相当)
(f)C.I.ベーシックイエロー29(式(4)の塩基性染料に相当)
(g)C.I.ベーシックイエロー28(式(4)の塩基性染料に相当)
(h)C.I.ベーシックレッド46(式(5)の塩基性染料に相当)
(i)C.I.ベーシックレッド29(式(6)の塩基性染料に相当)
【0048】
[塩基性染料組成物の配合例]
下記表1に示す塩基性染料の組み合わせ及びそれらの使用量に従って、配合例1〜18及び比較配合例1〜9の塩基性染料組成物を調製した。表1中の数値は、各塩基性染料の使用量(単位:部)を表す。
【0049】
【表1】
【0050】
[評価]
得られた各塩基性染料組成物を、染着分配性試験及び堅牢度試験により評価した。
【0051】
(染着分配性試験)
(1)手順
表1に示す配合例1〜18及び比較配合例1〜9の各塩基性染料組成物及び酢酸1部に水を加えて全量600部の染浴を調製した。この染浴にアクリルモスリン(三菱ケミカル(株)製、(株)色染社より入手)25部及びCDPニット(「カチオン可染型ポリエステルニットスムース(加工系)」、帝人(株)製、(株)色染社より入手)25部の2種類の繊維材料を投入し、40℃で10分間処理した後、トップ温度100℃又は105℃まで1℃/分の昇温スピードで加熱昇温した。各トップ温度で60分間、繊維材料を染色した後、水洗した。次いで、市販のソーピング剤(カヤテクターE、日本化薬(株)製)2g/L、ハイドロサルファイト2g/L、苛性ソーダ1g/Lを含む水溶液1000部中で70℃にて15分間のソーピングをし、次いで水洗及び乾燥して染色物を得た。
【0052】
(2)判定方法
得られたアクリルモスリン及びCDPニットの染色物のC.I.E.LAB色空間における濃度(明度L)及び色相(a、b)を、測色機カラーアイCE7100(マクベス社製)を使用して、D65光源下で測定した。色差ΔEは、C.I.E色差式を使用して求めた。アクリルモスリン染色物を基準としたCDPニット染色物の相対濃度(アクリルモスリン染色物の濃度:100)及び色差ΔEを下記表2に示す。相対濃度は100に近いほど優れており、色差ΔEは0に近いほど優れる。
【0053】
【表2】
【0054】
(3)試験結果
表2に示されるように、配合例1〜18のいずれの塩基性染料組成物を用いた場合であっても、濃度の差及び色相変化が極めて小さく、アクリルモスリン及びCDPニットの染着分配性の差が小さかった。この結果から、配合例1〜18の塩基性染料組成物は、アクリル繊維及びCDP繊維の混紡物、交織物、又は交編物を含む繊維材料を均一に染色することができることが示された。一方、比較配合例1〜9の塩基性染料組成物は、配合例1〜18の塩基性染料組成物と比較して、アクリルモスリン及びCDPニットの濃度の差が大きく、色差ΔEも大きかった。
【0055】
なお、アクリルモスリン及びCDPニットの混合比を変えても、配合例1〜18の塩基性染料組成物を用いた場合の染着分配性は同様の結果となった(データは示さず)。この結果から、配合例1〜18の塩基性染料組成物は、アクリル繊維及びCDP繊維の混合比に関わらず、それらの繊維の混紡物等を含む繊維材料を均一に染色できることが示された。
【0056】
(堅牢度試験)
(1)試験準備
表1に示す配合例1、4、5、8、10〜17の各塩基性染料組成物及び酢酸1部に水を加えて全量600部の染浴を調製した。この染浴にアクリル繊維及びCDP繊維の交編物50部を投入し、40℃で10分間処理した後、トップ温度105℃まで1℃/分の昇温スピードで加熱昇温した。トップ温度で60分間、交編物を染色した後、水洗した。次いで、市販のソーピング剤(カヤテクターE、日本化薬(株)製)2g/L、ハイドロサルファイト2g/L、苛性ソーダ1g/Lを含む水溶液1000部中で70℃にて15分間のソーピングをし、次いで水洗及び乾燥して染色物を得た。
【0057】
(2)耐光(JIS L 0843)
JIS L 0843に準じて、キセノンアーク灯光に対する染色堅牢度を実施した。照射照度50W/m(波長300〜400nm)、BPT(ブラックバネル温度)63℃、相対湿度50%、照射露光量7100kJ/mの条件下で行った。評価判定は、同時に照射したブルースケールと同程度の変褪色を示した等級で表示した。5級が最も光に強く、1級が最も光に弱いことを示す。結果を下記表3に示す。
【0058】
(3)洗濯(JIS L 0844)
JIS L 0844に準じて、洗濯に対する堅牢度を実施した。染色物に添付白布としてアクリル及び綿を添付し、A−2法(マルセル石鹸5g/L、液量100mL、50℃、30分間)にて処理した。評価判定は、添付白布の汚染度を汚染用グレースケールJIS L 0805に基づき等級で表示した。5級が最も良い結果を表し、1級が最も悪い結果を示す。結果を下記表3に示す。
【0059】
【表3】
【0060】
(4)結果
表3に示されるように、配合例1、4、5、8、10〜17の各塩基性染料組成物を用いて得られた染色物は、いずれも光に対する堅牢度試験の等級が「5」であり、耐光性に優れていることが示された。また、洗濯に対する堅牢度試験では、いずれの染色物も「5」又は「4−5」という高い等級を示し、洗濯による色落ちや色移りをしにくく、洗濯堅牢度にも優れていることが示された。