特許第6776479号(P6776479)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6776479
(24)【登録日】2020年10月9日
(45)【発行日】2020年10月28日
(54)【発明の名称】診断装置、診断方法、及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   H02B 3/00 20060101AFI20201019BHJP
   H02B 13/065 20060101ALI20201019BHJP
   H01H 9/54 20060101ALI20201019BHJP
【FI】
   H02B3/00 M
   H02B13/065 A
   H01H9/54 C
【請求項の数】20
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2020-513658(P2020-513658)
(86)(22)【出願日】2018年12月28日
(86)【国際出願番号】JP2018048510
【審査請求日】2020年3月5日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001634
【氏名又は名称】特許業務法人 志賀国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】阿部 裕太
(72)【発明者】
【氏名】田中 勉
(72)【発明者】
【氏名】向田 彰久
(72)【発明者】
【氏名】内田 和徳
(72)【発明者】
【氏名】永田 真一
(72)【発明者】
【氏名】白井 英明
【審査官】 内田 勝久
(56)【参考文献】
【文献】 特許第3870321(JP,B2)
【文献】 特開2016−226146(JP,A)
【文献】 特開2013−224651(JP,A)
【文献】 特開2009−070771(JP,A)
【文献】 特開2016−038277(JP,A)
【文献】 特開2015−163878(JP,A)
【文献】 特開2001−145217(JP,A)
【文献】 特開平08−083544(JP,A)
【文献】 特開平11−250777(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02B 1/00 − 1/38
H02B 1/46 − 7/08
H02B 13/00 − 13/08
H01H 9/54
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
開閉装置の動作特性及び前記開閉装置の作動時における環境条件を取得する取得部と、
前記環境条件に基づいて、前記開閉装置の診断に用いられる閾値を設定する設定部と、
前記動作特性と前記設定された閾値とに基づいて、前記開閉装置の状態を診断する診断部と、
を備え、
前記動作特性は、前記開閉装置の動作時間、ストローク、前記開閉装置の容器温度、密封ガス温度、油圧、主回路通電電流、振動の特性、コイル電流、モータ電流、モータ動作時間、補助開閉器接点の動作時間、開閉装置の動作音のうち少なくとも1つであり、
前記環境条件は、外気温、前記開閉装置の容器温度、密封ガス温度、機構部温度、油圧、操作電圧、動作方向、開閉装置が前回動作してから今回動作するまでの経過時間のうちの少なくとも1つであり、
前記閾値は、上限値と下限値とを含む場合があり、
前記診断部は、上限値と下限値が閾値として設定されている前記動作特性に基づいて前記開閉装置の診断を行う場合、前記上限値と前記下限値の範囲を前記動作特性が逸脱した場合に、前記開閉装置を異常と診断し、
前記設定部は、上限値と下限値とを含む閾値について、前記動作特性に応じた偏りを生じさせて補正された閾値から各動作時における前記上限値及び前記下限値を設定し、
前記環境条件を変動させて前記開閉装置の動作特性を実測した際の前記動作特性と、環境条件を変数として行った解析結果より得られる前記開閉装置の動作特性と、の少なくとも一方に基づいて、補正される閾値から、動作時における環境条件に従って各動作時における前記閾値を設定する、
診断装置。
【請求項2】
前記設定部は、予め設定された閾値の初期補正を更新して、前記閾値を再設定する、 請求項1に記載の診断装置。
【請求項3】
開閉装置の動作特性及び前記開閉装置の作動時における環境条件を取得する取得部と、 前記環境条件に基づいて、前記開閉装置の診断に用いられる閾値を設定する設定部と、 前記動作特性と前記設定された閾値とに基づいて、前記開閉装置の状態を診断する診断部と、
を備え、
前記設定部は、前記取得部が取得した実測結果の直前の所定範囲内を除いた実測結果に基づいて、前記閾値を更新して再設定する、
診断装置。
【請求項4】
開閉装置の動作特性及び前記開閉装置の作動時における環境条件を取得する取得部と、 前記環境条件に基づいて、前記開閉装置の診断に用いられる閾値を設定する設定部と、 前記動作特性と前記設定された閾値とに基づいて、前記開閉装置の状態を診断する診断部と、
を備え、
前記取得部は、複数の前記環境条件を取得し、
前記設定部は、複数の前記環境条件のそれぞれに所定の条件範囲を設定しておき、前記条件範囲を外れた環境条件を、前記閾値を設定するために用いる対象から除外する、
診断装置。
【請求項5】
開閉装置の動作特性及び前記開閉装置の作動時における環境条件を取得する取得部と、 前記環境条件に基づいて、前記開閉装置の診断に用いられる閾値を設定する設定部と、 前記動作特性と前記設定された閾値とに基づいて、前記開閉装置の状態を診断する診断部と、
を備え、
前記取得部は、複数の前記環境条件を取得し、
前記設定部は、複数の前記環境条件のそれぞれに所定の条件範囲を設定しておき、前記条件範囲を外れた環境条件における前記動作特性を前記の診断や警告を行う対象から除外する、
診断装置。
【請求項6】
開閉装置の動作特性及び前記開閉装置の作動時における環境条件を取得する取得部と、 前記環境条件に基づいて、前記開閉装置の診断に用いられる閾値を設定する設定部と、 前記動作特性と前記設定された閾値とに基づいて、前記開閉装置の状態を診断する診断部と、
を備え、
前記診断部は、前記取得部により取得された前記開閉装置の動作特性を正規化し、
正規化された前記開閉装置の動作特性を用いて、前記開閉装置の動作特性のトレンドを診断し、
前記環境条件により設定された閾値の下限値を0とし、上限値を1として、前記開閉装置の動作特性を正規化する、
診断装置。
【請求項7】
前記診断部は、正規化された前記開閉装置の動作特性の変動度合いに基づいて、前記開閉装置の動作特性のトレンドを診断する、
請求項6に記載の診断装置。
【請求項8】
前記診断部は、前記開閉装置の動作回数または動作日時を変数とした回帰線を算出し、算出した回帰線が前記閾値の上限値または下限値を逸脱する動作回数または動作日時を予測する、
請求項6に記載の診断装置。
【請求項9】
前記診断部は、前記開閉装置の動作履歴が一定値に満たない場合に、前記開閉装置の動作特性のトレンドを診断しない、
請求項6から8のうちいずれか1項に記載の診断装置。
【請求項10】
前記診断部は、前記取得部における前記開閉装置の動作特性の取得に欠損が発生した場合に、正規化された動作特性の数回分の結果を用いて、前記欠損による欠損値を算出して補填する、
請求項6から9のうちいずれか1項に記載の診断装置。
【請求項11】
診断装置のコンピュータが、
開閉装置の動作特性及び前記開閉装置の作動時における環境条件を取得し、
前記環境条件に基づいて、前記開閉装置の診断に用いられる閾値を設定し、
前記動作特性と前記設定された閾値とに基づいて、前記開閉装置の状態を診断し、
前記動作特性は、前記開閉装置の動作時間、ストローク、前記開閉装置の容器温度、密封ガス温度、油圧、主回路通電電流、振動の特性、コイル電流、モータ電流、モータ動作時間、補助開閉器接点の動作時間、開閉装置の動作音のうち少なくとも1つであり、
前記環境条件は、外気温、前記開閉装置の容器温度、密封ガス温度、機構部温度、油圧、操作電圧、動作方向、開閉装置が前回動作してから今回動作するまでの経過時間のうちの少なくとも1つであり、
前記閾値は、上限値と下限値とを含む場合があり、
上限値と下限値が閾値として設定されている前記動作特性に基づいて前記開閉装置の診断を行う場合、前記上限値と前記下限値の範囲を前記動作特性が逸脱した場合に、前記開閉装置を異常と診断し、
上限値と下限値とを含む閾値について、前記動作特性に応じた偏りを生じさせて補正された閾値から各動作時における前記上限値及び前記下限値を設定し、
前記環境条件を変動させて前記開閉装置の動作特性を実測した際の前記動作特性と、環境条件を変数として行った解析結果より得られる前記開閉装置の動作特性と、の少なくとも一方に基づいて、補正される閾値から、動作時における環境条件に従って各動作時における前記閾値を設定する、
診断方法。
【請求項12】
診断装置のコンピュータに、
開閉装置の動作特性及び前記開閉装置の作動時における環境条件を取得させ、
前記環境条件に基づいて、前記開閉装置の診断に用いられる閾値を設定させ、
前記動作特性と前記設定された閾値とに基づいて、前記開閉装置の状態を診断させ、
前記動作特性は、前記開閉装置の動作時間、ストローク、前記開閉装置の容器温度、密封ガス温度、油圧、主回路通電電流、振動の特性、コイル電流、モータ電流、モータ動作時間、補助開閉器接点の動作時間、開閉装置の動作音のうち少なくとも1つであり、
前記環境条件は、外気温、前記開閉装置の容器温度、密封ガス温度、機構部温度、油圧、操作電圧、動作方向、開閉装置が前回動作してから今回動作するまでの経過時間のうちの少なくとも1つであり、
前記閾値は、上限値と下限値とを含む場合があり、
上限値と下限値が閾値として設定されている前記動作特性に基づいて前記開閉装置の診断を行う場合、前記上限値と前記下限値の範囲を前記動作特性が逸脱した場合に、前記開閉装置を異常と診断させ、
上限値と下限値とを含む閾値について、前記動作特性に応じた偏りを生じさせて補正された閾値から各動作時における前記上限値及び前記下限値を設定させ、
前記環境条件を変動させて前記開閉装置の動作特性を実測した際の前記動作特性と、環境条件を変数として行った解析結果より得られる前記開閉装置の動作特性と、の少なくとも一方に基づいて、補正される閾値から、動作時における環境条件に従って各動作時における前記閾値を設定させる、
プログラム。
【請求項13】
診断装置のコンピュータが、
開閉装置の動作特性及び前記開閉装置の作動時における環境条件を取得し、
前記環境条件に基づいて、前記開閉装置の診断に用いられる閾値を設定し、
取得した実測結果の直前の所定範囲内を除いた実測結果に基づいて、前記閾値を更新して再設定し、
前記動作特性と前記設定された閾値とに基づいて、前記開閉装置の状態を診断する、
診断方法。
【請求項14】
診断装置のコンピュータに、
開閉装置の動作特性及び前記開閉装置の作動時における環境条件を取得させ、
前記環境条件に基づいて、前記開閉装置の診断に用いられる閾値を設定させ、
取得した実測結果の直前の所定範囲内を除いた実測結果に基づいて、前記閾値を更新して再設定させ、
前記動作特性と前記設定された閾値とに基づいて、前記開閉装置の状態を診断させる、
プログラム。
【請求項15】
診断装置のコンピュータが、
開閉装置の動作特性及び前記開閉装置の作動時における複数の環境条件を取得し、
複数の前記環境条件のそれぞれに所定の条件範囲を設定しておき、前記条件範囲を外れた環境条件を、前記開閉装置の診断に用いられる閾値を設定するために用いる対象から除外し、
前記環境条件に基づいて、前記閾値を設定し、
前記動作特性と前記設定された閾値とに基づいて、前記開閉装置の状態を診断する、
診断方法。
【請求項16】
診断装置のコンピュータに、
開閉装置の動作特性及び前記開閉装置の作動時における複数の環境条件を取得させ、
複数の前記環境条件のそれぞれに所定の条件範囲を設定させておき、前記条件範囲を外れた環境条件を、前記開閉装置の診断に用いられる閾値を設定するために用いる対象から除外させ、
前記環境条件に基づいて、前記閾値を設定させ、
前記動作特性と前記設定された閾値とに基づいて、前記開閉装置の状態を診断させる、
プログラム。
【請求項17】
診断装置のコンピュータが、
開閉装置の動作特性及び前記開閉装置の作動時における複数の環境条件を取得し、
前記環境条件に基づいて、前記開閉装置の診断に用いられる閾値を設定し、
複数の前記環境条件のそれぞれに所定の条件範囲を設定しておき、前記条件範囲を外れた環境条件における前記動作特性を前記の診断や警告を行う対象から除外し、
前記動作特性と前記設定された閾値とに基づいて、前記開閉装置の状態を診断する、
診断方法。
【請求項18】
診断装置のコンピュータに、
開閉装置の動作特性及び前記開閉装置の作動時における複数の環境条件を取得させ、
前記環境条件に基づいて、前記開閉装置の診断に用いられる閾値を設定させ、
複数の前記環境条件のそれぞれに所定の条件範囲を設定させておき、前記条件範囲を外れた環境条件における前記動作特性を前記の診断や警告を行う対象から除外させ、
前記動作特性と前記設定された閾値とに基づいて、前記開閉装置の状態を診断させる、
プログラム。
【請求項19】
診断装置のコンピュータが、
開閉装置の動作特性及び前記開閉装置の作動時における環境条件を取得し、
前記環境条件に基づいて、前記開閉装置の診断に用いられる閾値を設定し、
取得された前記開閉装置の動作特性を、前記環境条件により設定された閾値の下限値を0とし、上限値を1として正規化し、
正規化された前記開閉装置の動作特性を用いて、前記開閉装置の動作特性のトレンドを診断する、
診断方法。
【請求項20】
診断装置のコンピュータに、
開閉装置の動作特性及び前記開閉装置の作動時における環境条件を取得させ、
前記環境条件に基づいて、前記開閉装置の診断に用いられる閾値を設定させ、
得された前記開閉装置の動作特性を、前記環境条件により設定された閾値の下限値を0とし、上限値を1として正規化させ、
正規化された前記開閉装置の動作特性を用いて、前記開閉装置の動作特性のトレンドを診断させる、
プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、診断装置、診断方法、及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
GIS(Gas Insulated Switchgear;ガス絶縁開閉装置)などの開閉装置は、定期的に保守点検される。開閉装置を保守点検するため、開閉装置の動作特性を自動的に取得する診断装置が知られている。この診断装置は、開閉装置の動作特性、例えば開閉装置の動作時間を、動作時間に影響を与えるパラメータに基づいて補正した後に、補正後の動作時間に基づいて開閉装置の状態を診断する。しかしながら、この技術においては、パラメータの変動に対する動作特性のばらつきが大きいと補正の精度が悪くなり、診断精度が低くなるという課題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3870321号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明が解決しようとする課題は、より精度よく開閉装置の状態を診断することができる診断装置、診断方法、及びプログラムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
実施形態の診断装置は、取得部と、設定部と、診断部と、を持つ。取得部は、開閉装置の動作特性及び前記開閉装置の作動時における環境条件を取得する。設定部は、前記環境条件に基づいて、前記開閉装置の診断に用いられる閾値を設定する。診断部は、前記動作特性と前記設定された閾値とに基づいて、前記開閉装置の状態を診断する。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1】第1実施形態の開閉装置100及び診断装置300の構成図。
図2】開閉装置100の実測値データの一例を示す図。
図3】動作特性に対する閾値の一例を示す図
図4】動作特性に対する閾値の一例を示す図
図5】動作特性に対する兆候閾値の一例を示す図
図6】診断装置300により閾値を設定する手順の一例を示すフローチャート。
図7】診断装置300により開閉装置100を診断する手順の一例を示すフローチャート。
図8】第2実施形態の開閉装置100及び診断装置300の構成図。
図9】開閉装置の動作時間と開閉回数の正規化前のトレンドグラフ。
図10】開閉装置の動作時間と開閉回数の正規化後のトレンドグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、実施形態の診断装置、診断方法、及びプログラムを、図面を参照して説明する。
【0008】
≪第1実施形態≫
図1は、第1実施形態の開閉装置100及び診断装置300の構成図である。開閉装置100は、例えば、ガス絶縁開閉装置(GIS、Gas-Insulated Switchgear)である。例えば、開閉装置100は、容器101と、機構部102と、固定接点103と、可動接点104と、操作ロッド105と、駆動源106と、センサ107と、制御盤108と、を備える。制御盤108には、制御装置200及び診断装置300が設けられる。
【0009】
容器101は、例えば鋼製の容器である。容器101には、絶縁ガス、例えば絶縁性に優れたSF(六フッ化硫黄)ガスが密封ガスとして密封される。容器101には、例えば、断路器、遮断器、母線電線路、避雷器、計器用変成器などが収容される。
【0010】
容器101には、例えば、断路器の固定接点103と、可動接点104と、操作ロッド105と、が収容される。機構部102は、容器101に隣接して設けられる。機構部102には、駆動源106と図示しないリンク機構が収容される。機構部102には、図示しない補助開閉器が設けられる。駆動源106としては、例えば、モータ(電動モータ)、スプリング、油圧シリンダ、エアシリンダなどが用いられる。
【0011】
固定接点103は、容器101内で固定される。可動接点104は、固定接点103に近づく方向及び固定接点103から離れる方向に移動可能である。固定接点103が可動接点104と接触することにより、固定接点103と可動接点104とが通電可能となる。
【0012】
操作ロッド105は、駆動源106の動力を可動接点104に伝える部材である。操作ロッド105の一端には、可動接点104が接続され、他端には駆動源106が接続される。駆動源106が例えばモータである場合、モータは、例えば正回転することにより固定接点103に近づく方向に可動接点104を移動させる。モータは、例えば逆回転することにより固定接点103から離反する方向に可動接点104を移動させる。
【0013】
センサ107は、例えば開閉装置100または制御装置200の適宜の位置に取り付けられる。センサ107は、例えば所定のタイミングや所定の周期で開閉装置100の動作特性及び環境条件を計測する。センサ107は、例えば、時間を計測するタイマ、温度を計測する温度センサ、電流電圧値を検出する電流電圧センサ、ストロークを計測するストロークセンサ、圧力を計測する圧力センサ、音を計測する音響センサ等のセンサ群によって構成される。
【0014】
センサ107は、例えば、開閉装置100の動作特性として、開閉装置100の動作時間、ストローク、開閉装置100の容器温度、密封ガス温度、密封ガス圧力、油圧、主回路通電電流、振動の特性、コイル電流、モータ電流、モータ動作時間、補助開閉器接点の動作時間、動作音を計測する。
【0015】
開閉装置100の動作時間は、例えば、固定接点103と可動接点104が接続された閉路状態から、可動接点104が作動して固定接点103と可動接点104が離反して開路状態となるまでに要する時間である。または、開閉装置100の動作時間は、固定接点103と可動接点104が離反された開路状態から、可動接点104が作動して固定接点103と可動接点104が接続されて閉路状態となるまでに要する時間である。ストロークは可動接点の時間に対する移動距離である。
【0016】
開閉装置100の容器温度は、例えば、容器101の温度である。密封ガス温度は、例えば、容器101に密封された絶縁ガスの温度である。密封ガス圧力は、例えば、容器101に密封された絶縁ガスの圧力である。油圧は、例えば、駆動源106が油圧シリンダである場合の油圧シリンダにおける作動油の圧力である。
【0017】
主回路通電電流は、例えば、固定接点103及び可動接点104で構成される主回路に通電する電流の大きさである。振動特性は、開閉装置100が開閉する際に発生する振動の特性である。コイル電流は駆動源106を動作させる時にコイルに流れる電流である。モータ電流は、開閉装置100が開閉する際に、または駆動源106のばねを伸縮させたり、油圧、空気圧エネルギーを蓄えたりする際に、モータに流れる電流である。モータ動作時間は、例えばモータが継続して動作する時間である。補助開閉器接点の動作時間は、例えば、駆動源106と連動した補助開閉器の接点が開から閉となる位置、または閉から開となる位置に移動するまでにかかる時間である。動作音は、例えば、開閉装置が動作した時、または、駆動源106のばねを伸縮させたり、油圧、空気圧エネルギーを蓄えたりする際に、モータが動作した時の動作音である。
【0018】
センサ107は、例えば、開閉装置100の周囲の環境条件として、外気温、開閉装置の容器温度、密封ガス温度、機構部温度、油圧、操作電圧、動作方向、開閉装置が前回動作してから今回動作するまでの経過時間を計測する。このうち、開閉装置の容器温度、密封ガス温度、油圧は、動作特性として計測される数値と共通する。
【0019】
外気温は、開閉装置100の周囲の外気の温度である。機構部温度は、機構部102の温度である。操作電圧は、例えば、駆動源106がモータである場合のモータを操作する際にモータにかかる電圧であり、モータ以外の場合は、駆動源106を動作させるコイルにかかる電圧である。動作方向は、可動接点104の動作が開操作かまたは閉操作かを表す。開閉装置が前回動作してから今回動作するまでの経過時間は、開閉装置が前回動作してから今回動作するまでの不動作の時間である。
【0020】
センサ107は、計測した動作特性及び環境条件の実測結果である実測値を診断装置300に送信する。センサ107は、必要に応じてデータサイズやフォーマット加工などのエッジ処理をした後の動作特性及び環境条件の実測値を診断装置300に送信する。
【0021】
センサ107は、動作特性及び環境条件の各項目の実測値を計測する所定のタイミングや所定の周期を共通してもよいし、個々に設定してもよい。センサ107は、動作特性及び環境条件の各項目をまとめて計測してもよいし、個々に計測してもよい。センサ107は、計測した動作特性及び環境条件の各項目の実測値をまとめて送信してもよいし、個々に送信してもよい。
【0022】
制御装置200は、開閉装置100の駆動源106を動作させ可動接点104を開閉させる制御を行う。制御装置200は、開閉装置100を開閉させる際に、駆動源106に開閉信号を出力する。駆動源106は、制御装置200により出力される開閉信号に応じて作動し、可動接点104を移動させる。制御装置200は、駆動源106を作動させることで開閉装置100を開閉させる。補助開閉器は、可動接点104の移動に伴い接点が開から閉、または、閉から開に切り換わる。
【0023】
診断装置300は、取得部310と、設定部320と、診断部330と、警告部340と、記憶部350と、表示部380と、を備える。診断部330は、開閉装置100の状態を診断する。診断部330は、動作特性が閾値を逸脱したときに開閉装置100に異常が発生したと診断する。設定部320は、診断部330の診断に用いられる閾値を設定する。
【0024】
取得部310は、開閉装置100のセンサ107により送信される開閉装置100の動作特性及び環境条件の実測値を取得する。取得部310は、取得した動作特性の実測値を診断部330に出力するとともに、取得した動作特性及び環境条件の実測値を記憶部350に格納する。記憶部350には、実測値データ352及び閾値データ354が格納されている。
【0025】
取得部310は、所定数の動作特性及び環境条件を取得した場合に、設定情報を設定部320に出力する。設定情報を出力するための所定数は、適宜の数でよく、1でもよいし、50や100でもよい。所定数が小さいと、設定部320における閾値の再設定(更新)の頻度高くなり、閾値の精度を高くすることができる。所定数が大きいと、設定部320における閾値の更新の頻度が低くなり、演算処理量を軽減させることができる。
【0026】
図2は、開閉装置100の実測値データの一例を示す図である。第1実施形態では、センサ107は、開閉装置100の動作特性及び環境条件の各項目をまとめて計測し、回数別実測値データとして診断装置300に送信する。診断装置300では、記憶部350は、開閉装置100の動作特性及び環境条件の各項目をまとめて記憶する。記憶部350は、過去にセンサ107により送信された回数別実測値データのすべてを実測値データ352として記憶している。実測値データ352には、開閉装置100の動作特性のデータである動作特性データ及び環境条件のデータである環境条件データが含まれる。
【0027】
開閉装置100の使用実績がない新品の状態では、記憶部350は、実測値データ352が格納されておらず、閾値データ354としては、閾値の初期値である初期閾値が格納されている。初期閾値は、どのように設定してもよい。例えば、開閉装置100と同型の開閉装置を用いて、環境条件を変動させて動作させて取得した動作特性や、環境条件を変数として行った解析結果より得られる開閉装置の動作特性を元にした、基準環境条件における閾値からの補正式や補正係数により、開閉装置の動作時の環境条件に合わせて設定してもよい。あるいは開閉装置100と同型の開閉装置における過去の使用実績に基づく動作特性及び環境条件に基づいて基準環境条件における閾値からの補正式や補正係数により、設定してもよい。補正式や補正係数に用いる環境条件は、1つでもよいし複数でもよい。開閉装置100の使用が開始され、実測値データ352が最初に記憶部350に格納されるとともに、開閉装置100の使用実績が増えると、実測値データ352も同様に増えていく。実測値データ352は、開閉装置100の動作特性及び環境条件の実測値を蓄積した蓄積データである。このうち、動作特性を蓄積したデータが動作特性蓄積データであり、環境条件を蓄積したデータが環境条件蓄積データである。
【0028】
設定部320は、取得部310により設定情報が出力された場合に、記憶部350に格納された実測値データ352及び閾値データ354を読み出し、開閉装置100の動作特性の各項目に対する環境条件に合わせた閾値を設定する。設定部320は、予め設定された閾値の初期補正を更新して閾値を再設定する。設定部320は、実測値データ352のうち、過去に記憶された多数の回数別実測値データの中から、閾値の再設定(更新)に用いる回数別実測値データを選択し、閾値の補正式や補正係数を再設定(更新)させてもよい。また基準環境条件における閾値からの補正式や補正係数を求める動作特性データが無い場合や、十分でない場合は、実測値データ352のうち過去に記憶された多数の回数別実測データを用いて閾値の補正式や補正係数を算出し、設定してもよい。
【0029】
例えば、設定部320は、取得部310が取得した回数別実測値データの直前の所定範囲内を除いた回数別実測値データを選択する。具体的に、設定部320は、閾値の再設定に用いる実測値データとして、過去数回分より前の回数別実測値データを選択する。例えば、実測値データ352に100回分の回数別実測値データが含まれる場合に、91回から100回目に格納された回数別実測値データを除いた1回目から90回目までの回数別実測値データを閾値の再設定に用いる実測値データとして選択する。なお、ここでは、取得部310が取得した回数別実測値データの直前の所定範囲内は、取得部310が取得した回数別実測値データの直前の10回分の範囲であるが、他の回数分でもよい。また、取得部310が取得した回数別実測値データの直前の所定時間の間の範囲でもよい。
【0030】
設定部320は、選択した実測値データ352に基づいて、閾値データ354として記憶された閾値の補正式や補正係数を再設定(更新)することにより、新たに閾値データを設定する。設定部320は、実測値データ352の変動に応じて閾値を補正する補正式や補正係数を算出し、算出した補正式を用いて閾値を更新してもよい。設定部320は、動作特性に対応付けられた環境条件下における動作特性の閾値を設定する。閾値は、開閉装置100の状態を判定するための閾値である。
【0031】
設定部320は、開閉装置100の動作特性の各項目に対する閾値を、当該動作特性の項目に対応付けられた環境条件の各項目のいずれかの下における閾値として設定する。以下に動作特性として開閉装置100のモータ電流と、その環境条件が外気温である場合を例にとり閾値の設定方法やその再設定(更新)方法について説明する。
【0032】
環境条件データである外気温を段階的に複数の温度範囲で区切る。外気温が各温度範囲にあるときのモータ電流の実測値をそれぞれ複数抽出する。抽出した実測値から、モータ電流についての正規分布を外気温の温度範囲ごとに生成し、平均値及び標準偏差σを算出する。算出した平均値に対する偏差により閾値を設定する。例えば、平均値に対して+3σとなる数値を閾値の上限値として設定し、平均値に対して−3σとなる数値を閾値の下限値として設定する。これらの環境条件や動作特性の測定を開閉装置100の同型器で行い、正規分布を生成し平均値及び標準偏差σを算出し、算出した平均値に対する偏差により設定した閾値を初期値として記憶部350に格納してもよい。あるいは環境条件や動作特性データを記憶部350に格納し、設定部320で前記一連の計算を行い閾値を設定してもよい。
【0033】
設定部320は、1つの動作特性に対して1つの環境条件を対応させて閾値を設定するが、1つの動作特性に対して複数の環境条件を対応させて閾値を設定してもよい。設定部320は、複数の動作特性に対して1つの環境条件を対応させて閾値を設定してもよいし、複数の動作特性に対して複数の環境条件を対応させて閾値を設定してもよい。設定部320は、設定した閾値を閾値データ354として記憶部350に格納する。
【0034】
図3は、動作特性に対する閾値の一例を示す図である。図3には、動作特性がモータ電流であり、環境条件が外気温である場合のモータ電流の閾値が示される。図3に示す第1上限ラインL11は、閾値のうち上限値を示すラインであり、第1下限ラインL12は、閾値のうち下限値を示すラインである。第1上限ラインL11と第1下限ラインL12の間の第1平均ラインL13は、モータ電流の実測値の平均値を示すラインである。
【0035】
設定部320で平均値や標準偏差を算出する場合では、設定部320は、例えば、動作特性に応じて偏りを調整し、閾値の上限値及び下限値の少なくとも一方を設定する場合もある。例えば、開閉装置100が正常に動作する場合、駆動源106としてのモータに流れるモータ電流は、外気温によらず、高い方にも低い方にもほぼ均等にばらつきが生じる。このため、設定部320は、例えばモータ電流の閾値として、上記のように、平均値に対して±3σの数値を閾値として設定する。
【0036】
これに対して、開閉装置100が正常に動作する場合、可動接点104の速度が遅くなる要因は種々あり、遅い方にはある程度ばらつくが、可動接点104の速度が速くなる要因はほとんどなく、早い方向にばらつくことはほとんどない。可動接点104の速度が速くなる要因としては、例えば、操作ロッド105の速度が速くなることが考えられる。しかし、操作ロッド105の速度が速くなることは、ダンパの制動不良が原因と考えられ、開閉装置100の異常としてとらえられる。
【0037】
このため、設定部320は、例えば、動作日時のうちの動作時間の閾値として、平均値との間の幅を上限値では広く、下限値では狭く設定する。例えば、設定部320は、平均値に対して+3σとなる数値を閾値の上限値として設定し、平均値に対して−σとなる数値を閾値の下限値として設定する。設定部320は、設定した閾値を閾値データ354として記憶部350に格納する。
【0038】
図4は、動作特性に対する閾値の一例を示す図である。図4には、動作特性が動作時間であり、環境条件が外気温である場合の動作時間の閾値が示される。図4に示す第2上限ラインL21は、閾値のうち上限値を示すラインであり、第2下限ラインL22は、閾値のうち下限値を示すラインである。第2上限ラインL21と第2下限ラインL22の間の第2平均ラインL23は、モータ電流の実測値の平均値を示すラインである。
【0039】
図3に示すように、第1平均ラインL13と第1上限ラインL11の間の幅は、第1平均ラインL13と第1下限ラインL12の間の幅に近くなる。これに対して、図4に示すように、第2平均ラインL23と第2上限ラインL21の間の幅は、第2平均ラインL23と第2下限ラインL22の間の幅よりもおおよそ広くなる。
【0040】
設定部320は、例えば、動作特性に応じて偏りを調整するにあたり、算出した平均値に対する偏差の大きさを調整する以外の方法を用いてもよい。例えば、設定部320は、実測値データ352のうちの動作特性データから環境条件による補正が可能な閾値の上限値及び下限値を直接求めてもよい。設定部320は、確率密度関数を生成し、歪度(スキュー)を調整することで、動作特性に応じて偏りを調整してもよいし、対数正規分布を生成してもよい。また、設定部320は、SVMやK−近傍法などのアルゴリズムを用いて、動作特性に応じて偏りを調整してもよい。
【0041】
設定部320は、開閉装置100の異常を診断するための閾値を設定するとともに、開閉装置100の異常の兆候を診断するための兆候閾値を設定する。設定部320は、例えば、閾値よりもばらつきが狭い範囲までを含むように兆候閾値の上限値及び下限値を設定する。
【0042】
設定部320は、閾値を設定するために算出した平均値及び標準偏差σを用いて、平均値に対する偏差により兆候閾値を設定する。例えば、設定部320は、平均値に対して+2.5σとなる数値を兆候閾値の上限値として設定し、平均値に対して−2.5σとなる数値を兆候閾値の下限値として設定する。これらの偏りの調整や兆候閾値の算出は、同型器のデータ等を元に行ったものを初期値として適用してもよい。
【0043】
図5は、動作特性に対する兆候閾値の一例を示す図である。図5には、動作特性がモータ電流であり、環境条件が外気温である場合のモータ電流の閾値及び兆候閾値が示される。図5に示す第1兆候上限ラインL31は、兆候閾値のうち上限値を示すラインであり、第1兆候下限ラインL32は、兆候閾値のうち下限値を示すラインである。
【0044】
診断部330は、取得部310により動作特性及び環境条件が出力された場合に、記憶部350に格納された閾値データを読み出す。診断部330が記憶部350から読み出す閾値データは、取得部310により出力された動作特性に対応する閾値データである。診断部330は取得部310により出力された動作特性と記憶部350から読み出した閾値データを比較し、開閉装置100の異常を診断する。
【0045】
診断部330は、開閉装置100の異常を診断する際に、異常の兆候を合わせて診断する。診断部330は、開閉装置100の動作特性が閾値を逸脱したときに開閉装置100に異常があると診断する。診断部330は、開閉装置100の動作特性が閾値を逸脱しないが、兆候閾値を逸脱したときに開閉装置100に異常の兆候があると診断する。
【0046】
診断部330は、例えば、取得部310により出力された環境条件下におけるモータ電流の実測値が、図3に示す第1上限ラインL11と第1下限ラインL12の間に入っていれば開閉装置100の異常は見つからなかったと診断する。診断部330は、取得部310により出力された環境条件下におけるモータ電流の実測値が、第1上限ラインL11と第1下限ラインL12の間から外れていれば、開閉装置100に異常が見つかったと診断する。診断部330は、開閉装置100に異常が見つかったと診断した場合には、表示部380に開閉装置100の作動を停止させる停止情報を表示させる。
【0047】
診断部330は、例えば、取得部310により出力された環境条件下におけるモータ電流の実測値が、図5に示す第1兆候上限ラインL31と第1兆候下限ラインL32の間に入っていれば開閉装置100の異常の兆候は見つからなかったと診断する。診断部330は、取得部310により出力された環境条件下におけるモータ電流の実測値が、第1兆候下限ラインL31と第1上限ラインL11と間、または第1兆候下限ラインL32と第1下限ラインL12の間にあれば、開閉装置100に異常の兆候が見つかったと診断する。
【0048】
警告部340は、診断部330による開閉装置100の診断結果に基づいて、開閉装置100に異常の兆候が見られた場合に警告する。警告部340は、開閉装置100に異常の兆候が見られた場合に、警告情報を生成して表示部380に出力する。表示部380は、出力された警告情報を表示する。警告部340は、警告情報を表示部380に表示させることにより、作業員等に対して警告する。表示部380は、例えば、制御盤108の外側に設けられた液晶モニタである。表示部380は、液晶モニタ以外の表示装置、例えばタッチパネルなどでもよい。警告情報の出力は、何れかの通信手段を用いて外部に送信してもよい。
【0049】
次に、診断装置300による開閉装置100の診断手順について説明する。診断装置300は、開閉装置100を診断するにあたり、異常を判定するための閾値を設定する。そこで、診断装置300により閾値を設定する手順について説明した後に、診断装置300により開閉装置100を診断する手順について説明する。
【0050】
図6は、診断装置300により閾値を設定する手順の一例を示すフローチャートである。取得部310は、開閉装置100のセンサ107により送信された実測値を受信したか否かを判定する(ステップS101)。センサ107により送信された実測値を受信していない場合、取得部310は、そのまま図6に示す処理を終了する。
【0051】
センサ107により送信された実測値を受信した場合、取得部310は、取得した実測値を実測値データとして記憶部350に格納する(ステップS103)。次に、設定部320は、記憶部350に格納された実測値データ352及び閾値データ354を読み出す(ステップS105)。設定部320は、読み出した実測値データ352により、閾値データとして記憶された開閉装置100の作動時の環境条件下における動作特性の閾値を補正し、閾値データ354として設定する(ステップS107)。
【0052】
記憶部350に格納された実測値データ352は、閾値データ354を設定する際に用いられたデータから、取得部310により格納されたデータよりも増えている。このため、補正される閾値データ354は、補正前の閾値データ354を更新したデータとなる。設定部320は、設定した閾値データ354を記憶部350に格納する(ステップS109)。こうして、設定部320は、図6に示す処理を終了する。
【0053】
図7は、診断装置300により開閉装置100を診断する手順の一例を示すフローチャートである。診断部330は、取得部310により開閉装置100の動作特性及び環境条件の実測値が出力されたか否かを判定する(ステップS201)。取得部310により実測値が出力されていないと判定した場合、診断部330は、図7に示す処理を終了する。
【0054】
取得部310により実測値が出力されたと判定した場合、診断部330は、記憶部350に格納された閾値データを読み出す(ステップS203)。診断部330は、取得部310により出力された動作特性の実測値と、記憶部350から読み出した閾値データとを比較して、動作特性の実測値が閾値データにおける閾値の上限値と下限値との間の範囲内にあるか否かを判定する(ステップS205)。
【0055】
動作特性の実測値が閾値データにおける閾値の上限値と下限値との間の範囲内にあると判定した場合、診断部330は、動作特性の実測値が閾値データにおける兆候閾値の上限値と下限値との間の範囲内にあるか否かを判定する(ステップS207)。動作特性の実測値が閾値データにおける兆候閾値の上限値と下限値との間の範囲内にあると判定した場合、診断装置300は、開閉装置100に異常及び異常の兆候はないと診断する。診断装置300は、そのまま開閉装置100の作動を継続させて(ステップS209)、図7に示す処理を終了する。
【0056】
ステップS205において、動作特性の実測値が閾値データにおける閾値の上限値と下限値との間の範囲内にないと判定した場合、診断部330は、開閉装置100に異常があると診断する。続いて、診断部330は、開閉装置100の故障を知らせる故障情報を表示部380に表示させる(ステップS211)。こうして、診断装置300は、図7に示す処理を終了する。
【0057】
ステップS207において、動作特性の実測値が閾値データにおける兆候閾値の上限値と下限値との間の範囲内にないと判定した場合、診断部330は、開閉装置100に異常の兆候があると診断する。この場合、警告部340は、開閉装置100の異常の発生の兆候を警告する警告情報を表示部380に表示させる(ステップS215)。こうして、診断装置300は、図7に示す処理を終了する。
【0058】
開閉装置100においては、例えば、環境条件の変化により、機構部102と可動接点104を接続する部品に使用されたグリースの粘度やパッキン硬さの変化に伴い摩擦が変化する。このようなグリースの粘度やパッキン硬さの変化に伴い摩擦が変化により、開閉装置100の動作時間が変化する。開閉装置100の異常や異常の兆候を捉えるためには、これらの環境条件による変化を考慮する必要がある。
【0059】
この点、第1実施形態の診断装置300においては、開閉装置100の作動時における環境条件に基づいて、開閉装置100の異常及び異常の兆候を診断する閾値(兆候閾値)を設定する。このため、第1実施形態の診断装置300は、環境条件によらない、例えば開閉装置の機械的な損傷などの異常を捉えることが可能となる。したがって、第1実施形態の診断装置300によれば、より精度よく開閉装置100の状態を診断することができる。
【0060】
第1実施形態の診断装置300は、開閉装置100の動作特性に応じて閾値の上限値または下限値の偏りを調整している。このため、第1実施形態の診断装置300によれば、開閉装置100の動作特性に適した閾値を設定できるので、より精度よく開閉装置100の状態を診断することができる。
【0061】
第1実施形態の診断装置300は、閾値データにおける閾値の上限値と下限値との間の範囲内にない実測値に対応するデータを削除する。このため、開閉装置100の異常判定の閾値を設定するために用いるデータとして、開閉装置100に異常があったと判定するデータを除くことができる。したがって、第1実施形態の診断装置300によれば、より精度よく開閉装置100の状態を診断することができる。
【0062】
診断装置300により取得した開閉装置100は、実測値データを取得した時点では異常と診断されない場合でも、異常が進展している可能性や、異常を含んでいる可能性がある。この点、開閉装置100の動作特性の実測値を取得した後、一定期間、または一定回数の後に、開閉装置100に異常が出現しなかった場合は、開閉装置100の動作特性の実測値には、異常が含まれなかったとみなすことができる。第1実施形態の診断装置300は、取得部310が取得した実測結果の直前の所定範囲内を除いた実測結果に基づいて、閾値を設定する。このため、第1実施形態の診断装置300によれば、開閉装置100に異常が出現しなかった場合の動作特性に基づいて閾値を設定できるので、より精度よく開閉装置100の状態を診断することができる。また、第1実施形態の診断装置300によれば、閾値を設定するために用いるデータの数を少なくできるので、診断装置300における演算負荷を軽減することができる。
【0063】
第1実施形態の診断装置300では、兆候閾値が設定されており、動作特性の実測値が閾値データにおける兆候閾値の範囲内にない場合、開閉装置100に異常の兆候があると診断し、警告部340が警告する。このため、開閉装置100に異常が出現する前に、点検や交換部品の事前計画をしたり、その準備をしたりすることができる。
【0064】
なお、第1実施形態の診断装置300は、実測値データ352を用いて閾値データを設定する。これに対して、診断装置300は、実測値データ352のうちの動作特性データが不足する場合などには、実測値データ352に代えてまたは加えて、実際に環境条件を変動させて動作特性を計測し、計測結果に基づいて動作特性データを収集してもよい。診断装置300は、実測値データ352に代えてまたは加えて、環境条件を変数として行った解析により取得した開閉装置の動作特性に基づいて動作特性データを収集してもよい。
【0065】
例えば、診断装置300は、開閉装置100の動作モデルを用いた解析としてシミュレーションを行い、開閉装置100の動作時間データを収集してもよい。診断装置300は、例えば、外気温変化に対するグリースの粘度変化からなる摩擦力の変化を解析モデルのパラメータ入力とし、解析結果により外気温を変化させてシミュレーションを行ってもよい。そして、設定部320は、収集した動作特性データ及び動作特性データを収集する際の環境条件に基づいて、閾値を設定してもよい。
【0066】
第1実施形態の診断装置300は、開閉装置100の動作特性として、モータ電流または開閉速度を対象として開閉装置100の異常を診断するが、他の動作特性を対象として開閉装置100の異常を診断しもよい。例えば、開閉装置100の動作時間、ストローク、開閉装置100の容器温度、密封ガス温度、密封ガス圧力、油圧、主回路通電電流、振動の特性、コイル電流、モータ電流、モータ動作時間、補助開閉器接点の動作時間の1つまたは複数を対象として開閉装置100の異常を診断してもよい。また、環境条件について、外気温、開閉装置の容器温度、密封ガス温度、機構部温度、油圧、操作電圧、動作方向、不動作時間の1つまたは複数を対象としてもよい。
【0067】
また、複数の環境条件のそれぞれに対して、条件範囲を設定しておき、条件を外れた環境条件下で計測された動作特性の実測値データを、閾値設定に用いる対象から除外するようにしてもよい。例えば、異常気象により外気温が−30℃となるなど、通常の環境条件では想定しえない状況において、動作特性データが取得されることがある。このような動作特性データを用いると、閾値の精度を低下させる原因となる。第1実施形態の診断装置300において条件を外れた環境条件下で計測された動作特性の実測値データを、閾値設定に用いる対象から除外することにより、診断の精度の低下を抑制することができる。あるいは、条件を外れた環境条件下で計測された動作特性については、診断の対象から除外することにより、誤った診断を下すことを抑制することができる。
【0068】
≪第2実施形態≫
以下、第2実施形態について説明する。図8は、第2実施形態の開閉装置100及び診断装置300の構成図である。図8に示すように、第2実施形態の開閉装置100及び診断装置300は、第1実施形態の開閉装置100と同様の構成を有している。第2実施形態の診断装置300は、第1実施形態の診断装置300における警告部340に代えて、提案部360を備える。第2実施形態の診断装置300は、取得部310により出力され、記憶部350に格納された実測値データに基づいて、開閉装置100の動作特性のトレンドを診断する。第2実施形態の診断装置300は、開閉装置100の動作特性のトレンドの診断結果に基づいて、開閉装置100の対処法を提案する。
【0069】
第2実施形態の診断装置300における設定部320は、第1実施形態の設定部320と同様にして動作特性の閾値を補正(更新)して設定する。設定部320は、過去数回分の実測値データ352のうちの動作特性データ及び閾値データ354をそれぞれ正規化する。設定部320は、閾値データの上限値を1とし、下限値を0とするための換算式を算出する。設定部320は、算出した換算式を正規化関数とし、正規化関数データ356として記憶部350に格納する。
【0070】
診断部330は、正規化された開閉装置100の動作特性の変動度合いに基づいて、開閉装置100の動作特性のトレンドを診断する。具体的に、診断部330は、正規化された動作特性データに基づいて、開閉装置100の動作特性のトレンドを診断するための回帰線を算出する。診断部330は、算出した回帰線が、正規化された閾値データ354の上限値または下限値を逸脱するまでの回数を計算し、その回数を開閉装置100に異常が発生する動作回数として予測する。このため、診断部330は、正規化された開閉装置100の動作特性の変動度合いが大きいほど、開閉装置100に異常が発生する動作回数が少なくなると診断する。
【0071】
第2実施形態では、過去数回分の実測値データを用いて開閉装置100の動作特性のトレンドを診断するが、例えば、過去の一定時間分の実測値データを用いて開閉装置100の動作特性のトレンドを診断してもよい。また、実測値データに代えて、開閉装置100の動作モデルを用いた解析による解析結果としての解析値を用いてもよい。
【0072】
提案部360は、診断部330による開閉装置100の診断結果に基づいて、開閉装置100の対処法を生成し、対処法に応じた対処情報を生成する。提案部360は、生成した対処情報を表示部380に表示させる。提案部360は、対処情報を表示部380に表示させて、開閉装置100の対処法を作業員等に提案する。
【0073】
図9は、開閉装置の動作時間と開閉回数の正規化前のトレンドグラフである。図10は、開閉装置の動作時間と開閉回数の正規化後のトレンドグラフである。この例では、動作特性は動作時間である。図9に示す動作特性データP11は、正規化される前の過去数回分のデータである。動作特性データP11には、それぞれ閾値の上限値P12及び閾値の下限値P13が設定されている。
【0074】
設定部320は、図10に示すように、正規化後の閾値の上限値P22を1とし、閾値の下限値P23は0とするための正規化関数を生成する。診断部330は、設定部320が生成した正規化関数に基づいて、図9に示す動作特性データP11を正規化して、図10に示す正規化後の動作特性データP21を算出する。
【0075】
続いて、診断部330は、正規化後の動作特性データP21から回帰線T11を生成する。図10に示す例では、開閉装置100の動作回数を増加させると、回帰線T11は、増加する傾向がみられる。そして、診断部330は、回帰線T11が閾値の上限値P22を超える回数を計算し、その回数を開閉装置100に異常が発生する動作回数(以下「予測回数」という)として予測する。
【0076】
診断部330予測回数を予測した後、提案部360は、予測回数までの開閉装置100の動作回数に応じた開閉装置100の対処法を提案する。例えば、予測回数までの開閉装置100の動作回数が少ない場合には、提案部360は、異常発生の兆候があることから、開閉装置100の対処法として、開閉装置100の点検や保全方法の変更等を提案する。また、予測回数までの開閉装置100の動作回数が多い場合には、提案部360は、開閉装置100の対処法として、開閉装置100を点検等することなく、あるいは開閉装置100を簡単に点検等して開閉装置100の動作させることを提案する。
【0077】
例えば、提案部360は、予測回数が、次に開閉装置100を点検する回数よりも前である場合は点検の前倒しを提案する。提案部360は、予測回数が次々回に開閉装置100を点検する回数よりも前である場合、診断結果の内容により次回点検時期の前倒し、点検周期の周期変更、次回点検の内容、異常発生の兆候がある箇所の保全方法を変えるなどを提案する。
【0078】
第2実施形態の診断装置300は、開閉装置100の作動時における環境条件に基づいて設定した閾値を用いて動作特性の回帰線を生成し、開閉装置100の動作特性のトレンドを診断する。このため、環境条件によらない、例えば開閉装置の機械的な損傷などの異常に基づく開閉装置100の動作特性のトレンドを診断することができる。したがって、第2実施形態の診断装置300によれば、開閉装置100の動作特性のトレンドをより精度よく診断することができる。
【0079】
開閉装置100の動作履歴が一定値に満たない場合、例えば、開閉装置100の動作回数が一定値未満である場合や開閉装置100の動作期間が一定期間に未達の場合には、トレンド診断に用いる開閉装置の特性が不足する。このため、診断装置300により開閉装置100の動作特性のトレンドを診断したとしても、精度が高くなるとは言い難い。このため、第2実施形態の診断装置300において、開閉装置100の動作特性のトレンドを診断するにあたり、開閉装置100の動作回数や動作期間が一定の回数や期間に未達の場合には、開閉装置100の動作特性のトレンドを診断しないようにしてもよい。この場合には、診断装置300は、過去数回分等の実測値データに代えて、工場出荷試験かまたは運転前の初回試験にて取得した開閉装置100の動作特性を用いてもよい。したがって、第2実施形態の診断装置300によれば、精度の悪い診断を回避して、開閉装置100の動作特性のトレンドをより精度よく診断することができる。
【0080】
開閉装置100のセンサ107は、開閉装置100の動作特性についてのデータを種々計測して、診断装置300に送信する。しかし、開閉装置100の動作特性を計測するデータは、さまざまな理由で欠損する可能性がある。その理由は、外部ノイズによるものやセンサ故障によるものなどがある。センサ107による計測が欠損すると、診断装置300が取得する動作特性データが欠損する。この欠損によりデータ分析を実施する際に診断の精度が下がるだけではなく、分析が不可となることがある。
【0081】
そこで、第2実施形態の診断装置300では、取得部310における開閉装置100の動作特性の取得に欠損が発生した場合に、正規化された動作特性の数回分の結果を用いて、欠損による欠損値を算出して補填する。このため、動作特性データの欠損により診断の精度が低下する事態などを抑制できる。したがって、第2実施形態の診断装置300によれば、開閉装置100の動作特性のトレンドをより精度よく診断することができる。
【0082】
なお、欠損値の算出に用いる動作特性データは、欠損したデータの直前の動作特性データであるが、欠損したデータの直前の動作特性データ以外の動作特性データでもよい。例えば、欠損したデータの直前の動作特性データでもよいし、欠損したデータの数回前に取得された動作特性データでもよい。
【0083】
上記各実施形態の診断装置300は、開閉装置100の制御盤108に設けられているが、他の位置に設けられていてもよい。例えば、開閉装置100が設置される発電所などの場所以外の場所、例えば所定の管理センターなどに設けられていてもよい。また、診断装置300の各要素は、離れた場所に設けられ、それぞれ信号の授受が可能な状態とされていてもよい。例えば、記憶部350は、クラウドに設けられていてもよい。
【0084】
また、動作特性データや環境条件データは、自機で収集されたデータのみであってもよいし、他機で収集されたデータのみであってもよいし、自機と他機で収集されたデータでもよい。動作特性データや環境条件データは、同一または類似構造の開閉装置、例えば、同型の開閉装置100により収集されたデータでもよいし、同じ構成要素を備える開閉装置100、例えば遮断器と断路器を備える開閉装置により収集されたデータでもよい。
【0085】
また、閾値の設定にあたり、補正に誤差が生じた場合には、診断部330において、当該誤差が生じた閾値を用いることなく、開閉装置100の動作特性の診断を行うようにしてもよい。また、閾値を逸脱した動作特性やその組み合わせを特定し、閾値を逸脱した動作特性やその組み合わせに応じて、開閉装置100に生じた異常の種類を特定するようにしてもよい。
【0086】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0087】
100…開閉装置、101…容器、102…機構部、103…固定接点、104…可動接点、105…操作ロッド、106…駆動源、107…センサ、108…制御盤、200…制御装置、300…診断装置、310…取得部、320…設定部、330…診断部、340…警告部、350…記憶部、352…実測値データ、354…閾値データ、356…正規化関数データ、360…提案部、380…表示部
【要約】
診断装置は、取得部と、設定部と、診断部と、を持つ。取得部は、開閉装置の動作特性及び前記開閉装置の作動時における環境条件を取得する。設定部は、前記環境条件に基づいて、前記開閉装置の診断に用いられる閾値を設定する。診断部は、前記動作特性と前記設定された閾値とに基づいて、前記開閉装置の状態を診断する。
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