(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
内輪と、前記内輪の外側に設置された外輪と、前記内輪と前記外輪との間に介在された複数の転動体と、前記転動体を周方向に間隔を置いて回転軸を中心に回転可能に保持するポケットを備えた円環状の保持器とを備えた玉軸受であって、
前記保持器は、ポリエーテルエーテルケトン、グラファイトおよび炭素繊維を含む樹脂組成物からなり、
上記樹脂組成物全体を100重量%としたときに、上記ポリエーテルエーテルケトンは60重量%以上80重量%以下の量、前記グラファイトは10重量%以上30重量%以下の量で、前記炭素繊維は5重量%以上20重量%以下の量で含まれており、
上記保持器の外周面を回転軸に平行に切断する平面であって隣接する2つのポケットの間に位置し、それぞれのポケットに接し、かつ軸方向両端面まで延在する矩形領域を観察領域とした際に、上記観察領域中でグラファイトが占める総面積に対して、粒子を内接する円の直径が30μm以上であるグラファイトが占める面積の割合すなわち面積率が10%以上20%以下である、
玉軸受。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、実施の形態について、添付図面を参照して詳細に説明する。なお、以下の実施の形態により何ら限定されるものではない。
【0010】
実施形態に係る玉軸受は、歯科用ハンドピースに好適に用いられる高速回転用玉軸受である。
図1は、歯科用ハンドピースの外観図であり、
図2は、歯科用ハンドピースのヘッド部の断面図であり、
図3は、ヘッド部に用いられる玉軸受の断面図であり、
図4は、玉軸受に用いられる保持器の斜視図である。
【0011】
図1に示すように、歯科用ハンドピース1は、回転機構を有するヘッド部2と、該ヘッド部2に着脱可能に装着された工具3とを有する。歯科用ハンドピース1を使用する際には、工具3を高速回転(たとえば毎分40万回転以上)させて、歯の切削等が行われる。
【0012】
図2に示すように、歯科用ハンドピース1のヘッド部2は、ハウジング4の中に、工具3とともに、軸部材5、一対の玉軸受6、タービン翼7および空気供給口8を有する。工具3は軸部材5に装着され、軸部材5は軸方向に存在する上下一対の玉軸受6を介してハウジング4に回転自在に支持されている。さらに、軸部材5には、一対の玉軸受6の間にタービン翼7が取り付けられている。このタービン翼7に対して空気供給口8から圧縮空気を供給すると、タービン翼7が高速回転する。これにより、軸部材5および工具3も高速回転させることができる。
【0013】
図2および
図3に示すように、玉軸受6は、外周面に内輪軌道を有する内輪61、内周面に外輪軌道を有する外輪62、該内輪軌道と該外輪軌道との間に介在する複数の転動体(玉)63、および転動体63を周方向に間隔を置いて回転可能に保持する保持器64を有する。内輪61および外輪62は、たとえばステンレス鋼により形成され、転動体63は、たとえばステンレス鋼、またはセラミックスにより形成される。
図4に示すように、円環状の保持器64には、転動体63を転動自在に保持するためのポケット65が周方向に一定間隔で複数設けられている。
【0014】
保持器64の内周面は内輪61の外周面に対向しており、保持器64の外周面は外輪62の内周面に対向している。外輪62はハウジング4に内嵌し、内輪61は軸部材5に外嵌する。玉軸受6においては、内輪61および外輪62が回転軸Aの周りに相対回転自在になっている。すなわち、歯科用ハンドピース1を使用する際には、内輪61が外輪62に対して高速で回転する。
【0015】
なお、外輪62には、玉軸受6内部から潤滑剤が漏洩したり、玉軸受6内部に異物が入り込んだりすることを防ぐため、シール、シールドなどの密封部材が設けられていてもよい。
【0016】
保持器64について、さらに詳細に説明する。保持器64は、ベース樹脂としてポリエーテルケトン系樹脂を含むもみ抜き型の保持器である。ポリエーテルケトン系樹脂としては、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトンエーテルケトンケトンなどが挙げられる。ポリエーテルケトン系樹脂は、1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。ところで、従来、歯科用ハンドピースの玉軸受に用いられる保持器について、ベース樹脂としてポリアミドイミド(PAI)が用いられている。このポリアミドイミドは耐熱性に優れ、耐久寿命は長く高い初期強度を有する。しかし、歯科用ハンドピースを繰り返し煮沸消毒する(高温高湿環境下におく)ことで、樹脂を構成するイミド基の吸湿性により、劣化が進み強度が低下する。これに対して、ポリエーテルケトン系樹脂を用いると、高温高湿環境下に置かれた際の強度の低下が抑えられる。
【0017】
さらに、保持器64は、ポリエーテルケトン系樹脂とともに、粒子状のグラファイトおよび炭素繊維を含む。保持器64中に、グラファイトは10重量%以上30重量%以下の量で、炭素繊維は5重量%以上20重量%以下の量で含まれている。グラファイトが10重量%より少ないと、寿命が短くなる懸念がある。グラファイトが30重量%より多いと、相対的にベース樹脂の割合が少なくなるため必要な強度が得られない場合がある。炭素繊維が上記範囲で含まれていると、強度を好適に向上できる。このように、保持器64は、カーボン系フィラーとしてグラファイトおよび炭素繊維の両方を含んでおり、その総量が20重量%以上40重量%以下である。これにより、グラファイトの摺動性による寿命の長期化と炭素繊維による強度の確保とを両立できる。
【0018】
なお、保持器64中に、ポリエーテルケトン系樹脂は、強度および寿命を両立する観点から、60重量%以上80重量%以下の量で含まれていることが好ましい。
【0019】
また、保持器64の外周面を回転軸に平行に切断する平面であって隣接する2つのポケット65の間に位置し、それぞれのポケット65に接し、かつ軸方向両端面まで延在する矩形領域を観察領域とした際に、上記観察領域中でグラファイトが占める総面積に対して、粒子を内接する円の直径(以下、最大径と称する)が30μm以上であるグラファイトが占める面積の割合すなわち面積率が10%以上20%以下である。粒子を内接する円の直径が30μm以上であるグラファイトが上記範囲で含まれていると、寿命の長期化が達成できる。
【0020】
ここで、面積率の求め方について、より具体的に説明する。まず、面積率を求めるために用いる試料は、以下のようにして作製する。
図5および
図6は、面積率を説明するための図である。
図5は、
図4の保持器64の軸方向に対して垂直方向から、保持器64を見たときを示している。また、
図6は、
図4の保持器64の軸方向と平行な方向から、保持器64から作製した試料を見たときを示している。まず、保持器64において、隣接する2つのポケット65間を切り出し、部分円環Bを得る(
図5)。次いで、部分円環Bの外周面を研磨する。このとき、部分円環Bの外周面を含む仮想の円に対して、接線方向と平行かつ軸方向に平行に研磨していき、試料Cが得られる(
図6)。試料Cにおいて、研磨して得られた平面は、保持器64の外周面を回転軸に平行に切断する平面であって隣接する2つのポケット65の間に位置し、それぞれのポケット65に接し、かつ軸方向両端面まで延在する矩形領域である。この矩形領域の全域を観察領域Rとする。なお、試料Cの厚さ(部分円環Bの内周面と観察領域Rとの最短距離)が、保持器64の厚さの1/2となるように研磨を行う。
【0021】
次に、試料Cの観察領域Rを顕微鏡により観察する。観察されるグラファイトの最大径は、粒子を内接する円の直径である。そして、観察領域R中でグラファイトが占める総面積に対する、最大径が30μm以上であるグラファイトの面積の割合を求め、これを上記面積率とする。
【0022】
上述のように試料Cを顕微鏡により観察した際に、炭素繊維が、試料C中で、試料C作製前の保持器64における軸方向に対応する方向に配向していることが好ましい。炭素繊維が上記方向に配向していると、玉軸受の強度がより向上できる。これは、高速回転中に転動体はポケットの壁面に衝突するが、炭素繊維が上記方向に配向していると、この衝突により壁面に加わる力に対抗できるためと考えられる。
【0023】
保持器64は、さらに添加剤を含んでいてもよい。添加剤として、固体潤滑剤、無機充填材、酸化防止剤、帯電防止剤、離型材、強化繊維材などを含んでいてもよい。固体潤滑剤としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、窒化ホウ素、メラミンシアヌレートなどが挙げられる。添加剤の量は、上述した機械的強度の確保および摩擦と摩耗の低減効果に影響を与えない量であれば特に限定されず、添加剤は、たとえば保持器64の100重量%中に、合計で15重量%以下の量で含まれていてもよい。
【0024】
保持器64の製造においては、たとえば、まず、上述した数値範囲内の割合になるように、ポリエーテルケトン系樹脂、グラファイト(具体的には原料グラファイト)および炭素繊維を混合する。必要に応じて添加剤を混合してもよい。これらの成分を、たとえば、ヘンシェルミキサー、タンブラーミキサーなどの混合機を用いて乾式混合する。
【0025】
ここで、最大径が30μm以上であるグラファイトが占める面積率を上記範囲に調整するためには、粒径が30μm以上のグラファイトを含む原料グラファイトを用いることが好ましい。これは、上記混合の際に、粒径が小さくなるためである。具体的には、原料グラファイトは、平均粒径が30μm以上100μm以下の範囲にあることが好ましい。平均粒径が上記範囲にあると、粒径が30μm以上のグラファイトが適切な量で含まれているため、上記面積率を上記範囲に調整できる。なお、上記面積率を上記範囲に調整するためには、上記混合の条件を適宜設定することも好ましい。
【0026】
次いで、混合した成分を押出成形機に供給し、減圧下で溶融混練する。混練した混合成分を押出成形機の先端部のダイスから棒状に押し出して冷却することで丸棒などの成形材料を作製する。これを切削加工し、保持器64として所定の形状にする。このように成形材料を作製してから切削加工を行うと、上述のように炭素繊維の向きを保持器64の軸方向に揃えることができる。なお、得られた保持器64を用いて、公知の方法により玉軸受6および歯科用ハンドピース1が製造される。
【0027】
実施形態に係る玉軸受は、
図4に示す保持器64を有する玉軸受6の他、冠型保持器を有する玉軸受であってもよい。
図7は、玉軸受に用いられる冠型保持器の斜視図である。冠型保持器604は、転動体を転動自在に保持するためのポケット605が周方向に一定間隔で複数設けられている。冠型保持器604は、ポケットの形状が異なる他は、保持器64と同様である。すなわち、冠型保持器604は、上述したような特定の成分が特定の量で含まれており、上記面積率が特定の範囲にある。このため、冠型保持器604を有する玉軸受604においても、玉軸受6と同様の効果が得られる。
【0028】
なお、実施形態に係る玉軸受は、歯科用ハンドピースの他、掃除機などの家電、工作機械などに用いられるスピンドルなどの機器にも好適に用いられる。実施形態に係る玉軸受は、高速回転時の強度、寿命に優れるため、これらの機器において、玉軸受を高速回転させる場合に特に好適に用いられる。
【0029】
以下、実施例に基づいて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0030】
[実施例]
[実施例1]
ポリエーテルエーテルケトン(Victrex 150FP(商品名)、Victrex社製)を70重量%、原料グラファイト(CGB−50(商品名)、日本黒鉛工業株式会社製、平均粒径D50=50μm)を20重量%、および炭素繊維(HT−C702、帝人社製)を10重量%の量で配合し、混合した。得られた混合物を射出成形機により丸棒の成形材料とした。これを切削加工し、
図4に示す形状を有する保持器64を得た。
保持器64について、デジタル顕微鏡(VHX−6000、(株)キーエンス製)により観察した。すなわち、上述のように作製された試料Cの観察領域Rを倍率300倍にて観察し、各グラファイト粒子の最大径および面積を測定した。観察領域中でグラファイトが占める総面積に対して、最大径が30μm以上であるグラファイトが占める面積率は12%であった。
また、
図8は、実施例1で得られた保持器から作製された試料Cの観察領域Rの一部のデジタル顕微鏡写真を示している。炭素繊維が、試料C中で、試料C作製前の保持器64における軸方向に対応する方向に配向している。
なお、表1に、混合物を得る際の配合比、および最大径が30μm以上であるグラファイトが占める面積率を示す。
【0031】
[実施例2]
ポリエーテルエーテルケトン(Victrex 150FP(商品名)、Victrex社製)を60重量%、原料グラファイト(CGB−50(商品名)、日本黒鉛工業株式会社製、平均粒径D50=50μm)を20重量%、および炭素繊維(HT−C702、帝人社製)を20重量%の量で配合した以外は、実施例1と同様にして、保持器64を得た。
保持器64について、実施例1と同様に、デジタル顕微鏡により観察した。観察領域中でグラファイトが占める総面積に対して、最大径が30μm以上であるグラファイトが占める面積率は10%であった。
【0032】
[実施例3]
ポリエーテルエーテルケトン(Victrex 150FP(商品名)、Victrex社製)を60重量%、原料グラファイト(CGB−50(商品名)、日本黒鉛工業株式会社製、平均粒径D50=50μm)を20重量%、炭素繊維(HT−C702、帝人社製)を10重量%、およびポリテトラフルオロエチレン(KT−400M、(株)喜多村製)を10重量%の量で配合した以外は、実施例1と同様にして、保持器64を得た。
保持器64について、実施例1と同様に、デジタル顕微鏡により観察した。観察領域中でグラファイトが占める総面積に対して、最大径が30μm以上であるグラファイトが占める面積率は14%であった。
【0033】
[実施例4]
ポリエーテルエーテルケトン(Victrex 150FP(商品名)、Victrex社製)を60重量%、原料グラファイト(CGB−50(商品名)、日本黒鉛工業株式会社製、平均粒径D50=50μm)を30重量%、および炭素繊維(HT−C702、帝人社製)を10重量%の量で配合した以外は、実施例1と同様にして、保持器64を得た。
保持器64について、実施例1と同様に、デジタル顕微鏡により観察した。観察領域中でグラファイトが占める総面積に対して、最大径が30μm以上であるグラファイトが占める面積率は19%であった。
【0034】
[実施例5]
ポリエーテルエーテルケトン(Victrex 150FP(商品名)、Victrex社製)を70重量%、原料グラファイト(CGB−50(商品名)、日本黒鉛工業株式会社製、平均粒径D50=50μm)を10重量%、および炭素繊維(HT−C702、帝人社製)を20重量%の量で配合した以外は、実施例1と同様にして、保持器64を得た。
保持器64について、実施例1と同様に、デジタル顕微鏡により観察した。観察領域中でグラファイトが占める総面積に対して、最大径が30μm以上であるグラファイトが占める面積率は11%であった。
【0035】
[実施例6]
ポリエーテルエーテルケトン(Victrex 150FP(商品名)、Victrex社製)を80重量%、原料グラファイト(CGB−50(商品名)、日本黒鉛工業株式会社製、平均粒径D50=50μm)を10重量%、および炭素繊維(HT−C702、帝人社製)を10重量%の量で配合した以外は、実施例1と同様にして、保持器64を得た。
保持器64について、実施例1と同様に、デジタル顕微鏡により観察した。観察領域中でグラファイトが占める総面積に対して、最大径が30μm以上であるグラファイトが占める面積率は15%であった。
【0036】
[実施例7]
ポリエーテルエーテルケトン(Victrex 150FP(商品名)、Victrex社製)を70重量%、原料グラファイト(CGB−50(商品名)、日本黒鉛工業株式会社製、平均粒径D50=50μm)を25重量%、および炭素繊維(HT−C702、帝人社製)を5重量%の量で配合した以外は、実施例1と同様にして、保持器64を得た。
保持器64について、実施例1と同様に、デジタル顕微鏡により観察した。観察領域中でグラファイトが占める総面積に対して、最大径が30μm以上であるグラファイトが占める面積率は20%であった。
[実施例8]
ポリエーテルエーテルケトン(Victrex 150FP(商品名)、Victrex社製)を70重量%、原料グラファイト(CGB−50(商品名)、日本黒鉛工業株式会社製、平均粒径D50=50μm)を10重量%、炭素繊維(HT−C702、帝人社製)を10重量%、およびポリテトラフルオロエチレン(KT−400M、(株)喜多村製)を10重量%の量で配合した以外は、実施例1と同様にして、保持器64を得た。
保持器64について、実施例1と同様に、デジタル顕微鏡により観察した。観察領域中でグラファイトが占める総面積に対して、最大径が30μm以上であるグラファイトが占める面積率は11%であった。
【0037】
[比較例1]
ポリエーテルエーテルケトン(Victrex 150FP(商品名)、Victrex社製)を70重量%、炭素繊維(HT−C702、帝人社製)を10重量%、およびポリテトラフルオロエチレン(KT−400M、(株)喜多村製)を20重量%の量で配合した以外は、実施例1と同様にして、保持器64を得た。
【0038】
[比較例2]
ポリエーテルエーテルケトン(Victrex 150FP(商品名)、Victrex社製)を60重量%、原料グラファイト(JCPB(商品名)、日本黒鉛工業株式会社製、平均粒径D50=5μm)を10重量%、グラファイト(CGB−20(商品名)、日本黒鉛工業株式会社製、平均粒径D50=20μm)を20重量%、および炭素繊維(HT−C702、帝人(株)製)を10重量%の量で配合した以外は、実施例1と同様にして、保持器64を得た。
保持器64について、実施例1と同様に、デジタル顕微鏡により観察した。観察領域中でグラファイトが占める総面積に対して、最大径が30μm以上であるグラファイトが占める面積率は6%であった。
また、
図9は、比較例2で得られた保持器から作製された試料Cの観察領域Rの一部のデジタル顕微鏡写真を示している。
【0039】
[比較例3]
ポリエーテルエーテルケトン(Victrex 150FP(商品名)、Victrex社製)を50重量%、原料グラファイト(CGB−20(商品名)、日本黒鉛工業株式会社製、平均粒径D50=20μm)を20重量%、および炭素繊維(HT−C702、帝人社製)を30重量%の量で配合した以外は、実施例1と同様にして、保持器64を得た。
保持器64について、実施例1と同様に、顕微鏡により観察した。観察領域中でグラファイトが占める総面積に対して、最大径が30μm以上であるグラファイトが占める面積率は0.4%であった。
【0040】
[比較例4]
ポリエーテルエーテルケトン(Victrex 150FP(商品名)、Victrex社製)を50重量%、原料グラファイト(CGB−50(商品名)、日本黒鉛工業株式会社製、平均粒径D50=50μm)を40重量%、および炭素繊維(HT−C702、帝人社製)を10重量%の量で配合した以外は、実施例1と同様にして、保持器64を得た。
保持器64について、実施例1と同様に、顕微鏡により観察した。観察領域中でグラファイトが占める総面積に対して、最大径が30μm以上であるグラファイトが占める面積率は24%であった。
【0041】
[比較例5]
ベース樹脂をポリエーテルエーテルケトンとする市販のVictrex社製450FC30で構成された保持器を用いた。
保持器64について、実施例1と同様に、顕微鏡により観察した。観察領域中でグラファイトが占める総面積に対して、最大径が30μm以上であるグラファイトが占める面積率は8%であった。
【0042】
[比較例6]
ベース樹脂をポリアミドイミドとする市販のSolvay Specialty Polymers社製トーロン材(登録商標TORLON)で構成された保持器を用いた。
【0044】
<評価方法および結果>
[耐久試験]
保持器を組み込んだ歯科用ハンドピースを、規定の圧力の圧縮空気にて作動させることで玉軸受を回転させ、負荷を加えながら一定時間回転状態を保持した後に停止するサイクルを繰り返し、回転数を測定した。より具体的には、玉軸受の初期回転速度を約40万rpmとして負荷回転試験を実施した。この試験では1サイクルを2分間とし、1サイクルの内容は回転中の工具先端に2〜4Nの荷重を1分間に30回繰り返し負荷した後、無負荷回転時の回転速度を1分間計測した。計測された回転速度が、初期回転速度の10%以上低下した時点を寿命とした。
図10は、耐久試験の結果を示す図である。それぞれ、5回耐久試験した結果の平均値を示している。横軸は、ベース樹脂が市販のポリアミドイミド材である比較例6の寿命を1とした時の寿命を示している。市販のポリエーテルエーテルケトン材である比較例5の寿命は、非常に短いことが分かる。比較例1,2,3のポリエーテルエーテルケトン材も、比較例6と比べて短い寿命である。一方、実施例1〜8のポリエーテルエーテルケトン材では、比較例6よりも長い寿命が得られていることが分かる。このことより、実施例で作製した保持器を用いると、寿命の長い玉軸受が得られることが分かる。
なお、比較例4のポリエーテルエーテルケトン材の寿命も比較例6と同じくらいであるが、後述のように十分な引張強度が得られない。
【0045】
[オートクレーブ試験]
保持器64の形状に加工した材料を、温度が132℃、湿度が100%RHの環境下で10分間放置した後に、100℃で20分間乾燥させるサイクルを1サイクルとした。このサイクルを最大2500回まで繰り返し、規定回数ごとに引張強度を測定した。
保持器64の引張強度は以下のように測定した。
図11に示すように、保持器64の内径に、2本の断面半月状の治具101,102を装着した。下方の治具101を固定し、保持器64が破断するまで他方の治具102を上方に引張って、破断時の荷重を引張強度として求めた。
図12および
図13は、オートクレーブ試験の結果を示す図である。縦軸は上述の引張試験により得られた引張強度、横軸はその引張試験を行った時のオートクレーブ回数を示している。ポリアミドイミドを用いた比較例6では、オートクレーブ回数が増える程、引張強度が低下していることが分かる。一方、実施例1〜8で作製した保持器を用いると、オートクレーブ回数が増えても引張強度が維持されていることから、高温高湿環境下においても優れた強度が維持できることが分かる。市販のポリエーテルエーテルケトンを用いた比較例5は、引張強度がオートクレーブ回数が増えても維持されているが、上述の通り耐久試験における寿命が短い。比較例1〜4は、引張強度は維持されているが、初期強度が不十分である。
【0046】
表2は上記試験結果をまとめたものである。“耐久寿命”の項目においては、比較例6の耐久寿命以上の試験結果を“長”、比較例6の耐久寿命未満の試験結果を“短”とした。“初期強度”の項目においては、比較例5の初期強度よりも5N以上低くなかった試験結果を“許容”、比較例5の初期強度よりも5N以上低かった試験結果を“非許容”とした。“オートクレーブ試験による強度の変化”の項目においては、オートクレーブ回数が2500回の時の強度が、初期強度よりも10N以上低くなかった試験結果を“維持”、10N以上低かった試験結果を“非維持”とした。十分な初期強度がオートクレーブの回数が増えても維持され、耐久寿命も長いのは、実施例1〜8のみであることが分かる。
【表2】
【0047】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、上記実施の形態により本発明が限定されるものではない。上述した各構成要素を適宜組み合わせて構成したものも本発明に含まれる。また、さらなる効果または変形例は、当業者によって容易に導き出すことができる。よって、本発明のより広範な態様は、上記実施の形態に限定されるものではなく、様々な変更が可能である。
内輪と、前記内輪の外側に設置された外輪と、前記内輪と前記外輪との間に介在された複数の転動体と、前記転動体を周方向に間隔を置いて回転軸を中心に回転可能に保持するポケットを備えた円環状の保持器とを備えた玉軸受であって、上記保持器は、ポリエーテルエーテルケトン、グラファイトおよび炭素繊維を含む樹脂組成物からなり、上記樹脂組成物全体を100重量%としたときに、上記ポリエーテルエーテルケトンは60重量%以上80重量%以下の量、前記グラファイトは10重量%以上30重量%以下の量で、前記炭素繊維は5重量%以上20重量%以下の量で含まれている。