(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記クラッチ機構は、前記スライド部材が前記デフケースの内側に配置されると共に前記アクチュエータが前記デフケースの外側に配置され、前記アクチュエータの前記移動力が前記アクチュエータと前記スライド部材との間に配置された押圧部材を介して前記スライド部材に伝達され、
前記複数のケース部材のうち第2のケース部材は、複数の挿通孔が形成された壁部を有し、前記第2の噛み合い部と前記壁部との間に前記スライド部材が配置され、
前記押圧部材は、前記複数の挿通孔にそれぞれ挿通された複数の軸部を有する、
請求項1に記載の差動装置。
前記第2のケース部材は、前記差動機構及び前記スライド部材を収容する有底円筒状であり、前記第2のケース部材の開口が前記第1のケース部材によって覆蓋されている、
請求項2又は3に記載の差動装置。
【発明を実施するための形態】
【0013】
[第1の実施の形態]
本発明の実施の形態について、
図1乃至
図7を参照して説明する。なお、以下に説明する実施の形態は、本発明を実施する上での好適な具体例として示すものであり、技術的に好ましい種々の技術的事項を具体的に例示している部分もあるが、本発明の技術的範囲は、この具体的態様に限定されるものではない。
【0014】
(差動装置の構成)
図1は、本発明の第1の実施の形態に係る差動装置の構成例を示す断面図である。
図2は、差動装置の分解斜視図である。
図3は、差動装置のスライド部材を示す斜視図である。
図4は、差動装置の差動機構を示す斜視図である。
図5は、差動機構の分解斜視図である。
図6は、差動装置の一部を拡大して示す断面図である。
図7は、差動装置の動作を示す説明図であり、(a)はアクチュエータの非作動状態を、(b)はアクチュエータの作動状態をそれぞれ示す。
【0015】
この差動装置1は、車両のエンジン等の駆動源の駆動力を一対の出力軸に差動を許容して配分するために用いられる。より具体的には、本実施の形態に係る差動装置1は、駆動源の駆動力が常に伝達される左右一対の主駆動輪(例えば前輪)と、駆動源の駆動力が走行状態に応じて伝達される左右一対の補助駆動輪(例えば後輪)とを備えた四輪駆動車に搭載され、補助駆動輪の左右の車輪に駆動力を配分するディファレンシャル装置として用いられる。主駆動輪のみに駆動力が伝達される場合、車両が四輪駆動状態となり、主駆動輪及び補助駆動輪に駆動力が伝達される場合、車両が二輪駆動状態となる。差動装置1は、四輪駆動状態において、入力された駆動力を補助駆動輪側の左右のドライブシャフトに配分する。
【0016】
差動装置1は、図略のデフキャリアに回転可能に支持されたデフケース2と、デフケース2に収容された差動機構3と、デフケース2と差動機構3との間で駆動力を断続可能に伝達するクラッチ機構4とを備えている。デフケース2の内部には、差動機構3を潤滑する潤滑油(デフオイル)が導入される。
【0017】
差動機構3は、入力部材としてのピニオンシャフト30と、デフケース2の回転軸線O周りに回転可能に支持された複数(4つ)のピニオンギヤ31と、一対の出力部材としての一対のサイドギヤ32とを有している。複数のピニオンギヤ31及び一対のサイドギヤ32は、傘歯車からなり、ギヤ軸を直交させて互いに噛み合っている。一対のサイドギヤ32には、左右のドライブシャフトがそれぞれ相対回転不能に連結される。なお、ピニオンギヤ31及びサイドギヤ32には、複数のギヤ歯が形成されているが、
図2,4,5では、これらのギヤ歯の図示を省略している。
【0018】
差動機構3は、ピニオンシャフト30に入力された駆動力を一対のドライブシャフトに差動を許容して出力する。本実施の形態では、差動機構3が一対のピニオンシャフト30を有し、4つのピニオンギヤ31のうち2つのピニオンギヤ31が一方のピニオンシャフト30に軸支され、他の2つのピニオンギヤ31が他方のピニオンシャフト30に軸支されている。
【0019】
それぞれのピニオンシャフト30は、
図5に示すように、後述するクラッチ機構4のスライド部材5に係合する一対の被係合部301と、ピニオンギヤ31に挿通される一対のピニオンギヤ支持部302と、一対のピニオンギヤ支持部302を連結する連結部303とを一体に有し、全体として軸状に形成されている。一対の被係合部301は、ピニオンシャフト30の両端部に設けられ、連結部303はピニオンシャフト30の軸方向の中央部に設けられている。一対のピニオンギヤ支持部302は、一対の被係合部301のそれぞれと連結部303との間に設けられ、ピニオンギヤ31を軸支する。
【0020】
一対のピニオンシャフト30は、その軸方向の中央部において互いに噛み合わされている。具体的には、一方のピニオンシャフト30における一対のピニオンギヤ支持部302の間に形成された凹部300に他方のピニオンシャフト30の連結部303が嵌合し、かつ他方のピニオンシャフト30における一対のピニオンギヤ支持部302の間に形成された凹部300に一方のピニオンシャフト30の連結部303が嵌合している。一対のピニオンシャフト30は、デフケース2の回転軸線Oに沿って見た場合に、互いに直交している。
【0021】
クラッチ機構4は、デフケース2の回転軸線Oに沿う中心軸方向に移動可能なスライド部材5、スライド部材5に中心軸方向への移動力を付与するアクチュエータ6、及びスライド部材5とアクチュエータ6との間に配置された押圧部材7を有して構成されている。スライド部材5は、デフケース2の内側に配置されている。アクチュエータ6は、デフケース2の外側に配置されている。押圧部材7は、アクチュエータ6の移動力をスライド部材5に伝達する。スライド部材5は、押圧部材7によって中心軸方向に押圧されて移動する。
【0022】
スライド部材5は、その中心軸線がデフケース2の回転軸線Oと一致する円筒状であり、差動機構3に対して、デフケース2の回転軸線Oに沿う中心軸方向に相対移動可能かつ相対回転不能に配置されている。また、スライド部材5は、鋼材を鍛造して形成され、
図3に示すように、中心軸方向の一端部に設けられた複数の噛み合い歯510を有する第1の噛み合い部51、第1の噛み合い部51の内方に突出して設けられた環状の内鍔部52、及びピニオンシャフト30が周方向に係合する係合部530が形成された円筒部53を一体に有している。第1の噛み合い部51は、デフケース2に設けられた第2の噛み合い部211(後述)と周方向に噛み合う。係合部530は、円筒部53の内外周面間を貫通し、スライド部材5の中心軸方向に延びる溝として形成されている。
【0023】
係合部530には、ピニオンシャフト30の両端部に設けられた被係合部301が係合する。ピニオンシャフト30の被係合部301がスライド部材5の係合部530に係合することにより、スライド部材5は、ピニオンシャフト30に軸支された複数のピニオンギヤ31に対して中心軸方向に相対移動可能かつ相対回転不能である。複数のピニオンギヤ31は、デフケース2の回転軸線O周りにスライド部材5と共に回転(公転)する。本実施の形態では、一対のピニオンシャフト30のそれぞれの両端部に設けられた被係合部301がスライド部材5に係合するため、円筒部53には4つの係合部530が形成されている。
【0024】
図7に示すように、複数のピニオンギヤ31の背面31aとスライド部材5の円筒部53の内周面53aとの間には、ワッシャ33が配置されている。ワッシャ33は、ピニオンギヤ31の背面31aに対向する内面33aが部分球面状であり、スライド部材5の円筒部53の内周面53aに対向する外面33bが平面状である。ピニオンギヤ31がピニオンシャフト30を中心として回転(自転)すると、ピニオンギヤ31の背面31aがワッシャ33の内面33aを摺動する。また、スライド部材5がピニオンシャフト30に対して中心軸方向に移動すると、スライド部材5の円筒部53の内周面53aがワッシャ33の外面33bを摺動する。
【0025】
また、スライド部材5の円筒部53には、潤滑油を流動させるための複数の開口部531が形成されている。本実施の形態では、4つの開口部531が円筒部53の周方向に等間隔に形成されている。また、開口部531は、円筒部53を径方向に貫通すると共に、第1の噛み合い部51とは反対側の他端部に開放されている。ただし、開口部531の形状及び数はこれに限らず、適宜形状を変形すると共に数を増減させてもよい。
【0026】
スライド部材5の内鍔部52は、後述する付勢部材81の付勢力を受ける環状の受面52aを有している。また、内鍔部52には、付勢部材81を保持する保持部材82の複数の突起821(
図2参照)がそれぞれ嵌合する複数の嵌合部520が形成されている。嵌合部520は、受面52aの内側に形成されている。
【0027】
押圧部材7は、スライド部材5の円筒部53における第1の噛み合い部51とは反対側の軸方向端面53bに当接する円環部71と、円環部71からデフケース2の回転軸線Oと平行に延設された複数の軸部72とを有している。本実施の形態では、押圧部材7に3つの軸部72が設けられている。押圧部材7は、鋼板をプレス加工して形成され、軸部72の先端部(円環部71側の基端部とは反対側の端部)が内側に屈曲されている。
【0028】
アクチュエータ6は、コイル巻線611、及びコイル巻線611をモールドするモールド樹脂部612を有する環状の電磁石61と、コイル巻線611への通電によって発生する電磁石61の磁束の磁路となるヨーク62と、モールド樹脂部612に摺接してデフケース2の回転軸線O方向に案内されるアーマチャ63とを有している。モールド樹脂部612は、回転軸線Oに沿う断面の形状が矩形状である。アーマチャ63は、コイル巻線611への通電により発生する磁力によって、デフケース2の第2の噛み合い部211に第1の噛み合い部51が噛み合う方向にスライド部材5を移動させる。スライド部材5は、押圧部材7を介して伝達されるアクチュエータ6の移動力によって、第1の噛み合い部51が第2の噛み合い部211に噛み合わされる。
【0029】
コイル巻線611には、図略の制御装置から電線610(
図2参照)を介して励磁電流が供給される。アクチュエータ6は、コイル巻線611に励磁電流が供給されることにより作動する。アクチュエータ6がデフケース2の外部に配置されていることにより、コイル巻線611への電流供給が容易である。ヨーク62は、低炭素鋼等の軟磁性金属からなり、
図6に示すように、モールド樹脂部612の内周面612bを内側から覆う円筒部621と、円筒部621の軸方向の一端部から外方に突出してモールド樹脂部612の軸方向端面612cを覆う鍔部622とを一体に有している。円筒部621の内径は、円筒部621の内周面621aに対向する部分のデフケース2の外径よりも僅かに大きく形成されている。
【0030】
円筒部621の内周面621aには、圧入ピン83によってデフケース2に固定された非磁性体からなる複数(本実施の形態では3つ)のプレート84が嵌合する環状凹部620が形成されている。ヨーク62は、環状凹部620にプレート84が嵌合することで、デフケース2に対する軸方向移動が規制されている。環状凹部620の軸方向幅は、デフケース2が回転する際にヨーク62との間で回転抵抗が発生しないように、プレート84の厚みよりも大きく形成されている。
【0031】
ヨーク62の円筒部621における鍔部622とは反対側の端部には、ストッパリング64が固定されている。ストッパリング64は、オーステナイト系ステンレス等の非磁性金属からなり、ヨーク62に固定される環状部641と、周方向の2箇所において環状部641から軸方向に突出する一対の突起部642と、突起部642の先端部から鋭角に折り返された折り返し部643とを一体に有している。ストッパリング64は、一対の突起部642が図略のデフキャリアに係止されて回り止めされている。環状部641は、例えば溶接によってヨーク62に固定されている。
【0032】
アーマチャ63は、低炭素鋼等の軟磁性金属からなり、電磁石61の外周に配置される環状の外環部631と、電磁石61と軸方向に対向する側板部632とを一体に有している。外環部631は、電磁石61を外周側から覆う円筒状である。側板部632は、外環部631の軸方向の一端部から内方に突出している。側板部632は、モールド樹脂部612の軸方向端面612d(ヨーク62の鍔部622に対向する軸方向端面612cとは反対側の端面)、ストッパリング64の環状部641、及びヨーク62における円筒部621の軸方向端面621bと軸方向に対向する。
【0033】
アーマチャ63は、外環部631の内周面631aがモールド樹脂部612の外周面612aに接触して電磁石61に支持されている。アーマチャ63が軸方向に移動する際には、外環部631の内周面631aがモールド樹脂部612の外周面612aを摺動する。
【0034】
アーマチャ63の側板部632には、
図2に示すように、ストッパリング64の突起部642と係合する係合孔632a、電線610を挿通させる電線挿通孔632b、及び潤滑油を流動される複数(
図2に示す例では9個)の油孔632cが形成されている。また、側板部632の内周側の端部には、押圧部材7の軸部72の先端部が当接している。アーマチャ63は、ストッパリング64の折り返し部643によってストッパリング64から抜け止めされると共に、突起部642が係合孔632aに係合することによってデフキャリアに対して回り止めされている。ストッパリング64の突起部642は、係合孔632aを挿通してデフキャリアに係止されている。
【0035】
デフケース2は、回転軸線O方向に並列する第1のケース部材21と第2のケース部材22とを結合してなる。差動機構3における一対のサイドギヤ32と第1のケース部材21及び第2のケース部材22との間には、それぞれ環板状のワッシャ34が配置されている。
【0036】
第2のケース部材22は、差動機構3及びスライド部材5を収容する有底円筒状であり、円筒状の円筒部221と、円筒部221における第1のケース部材21側の端部とは反対側の一端部から内方に突出する壁部222と、円筒部221の他端部から外方に突出するフランジ部223とを一体に有している。電磁石61及びヨーク62は、円筒部221と壁部222との間の角部に配置されている。
【0037】
円筒部221には、潤滑油を流動させる複数の油孔221aが形成されている。壁部222には、アクチュエータ6の移動力をスライド部材5に伝達するための複数(3つ)の挿通孔222a、及び一対のサイドギヤ32のうち一方のサイドギヤ32に相対回転不能に連結されるドライブシャフトが挿入されるシャフト挿入孔222bが形成されている。挿通孔222aには、押圧部材7の複数の軸部72がそれぞれ挿通されている。複数の挿通孔222a及びシャフト挿入孔222bは、回転軸線Oと平行な方向に壁部222を貫通している。
【0038】
第1のケース部材21は、例えば鍛造によって成形され、第2のケース部材22の開口を覆蓋する円盤状であり、複数の噛み合い歯210を有する第2の噛み合い部211と、第2のケース部材22のフランジ部223と突き合わされるフランジ部212とを一体に有している。第2の噛み合い部211は、第1の噛み合い部51とスライド部材5の中心軸方向に対向する部位に形成されている。スライド部材5は、第1のケース部材21の第2の噛み合い部211と、第2のケース部材22の壁部222との間に配置されている。また、第1のケース部材21には、一対のサイドギヤ32のうち他方のサイドギヤ32に相対回転不能に連結されるドライブシャフトが挿入されるシャフト挿入孔21aが形成されている。
【0039】
デフケース2には、第1及び第2のケース部材21,22のフランジ部212,223に固定される入力ギヤとしてのリングギヤ23(
図1参照)から駆動力が入力される。フランジ部212,223は、リングギヤ23が接合される接合部として機能する。本実施の形態では、第1のケース部材21のフランジ部212に形成された複数のボルト挿通孔212a、及び第2のケース部材22のフランジ部223に形成された複数のボルト挿通孔223aにそれぞれ挿通された複数の締結ボルト24によって、リングギヤ23がデフケース2と一体に回転するように固定されている。締結ボルト24は、頭部241が第1のケース部材21のフランジ部212に当接し、雄ねじが形成された軸部242がボルト挿通孔212a,223aを挿通してリングギヤ23のねじ孔23aに螺合する。
【0040】
なお、リングギヤ23をデフケース2に固定する固定手段としては、ボルト締結に限らず、例えば溶接によってリングギヤ23を第1のケース部材21に固定してもよい。この場合、第1のケース部材21におけるリングギヤ23が溶接される部位が接合部となる。
【0041】
第1のケース部材21と第2のケース部材22とは、複数の結合ボルト25(
図2参照)によって結合されている。本実施の形態では、第1のケース部材21と第2のケース部材22とが、リングギヤ23を締結する前に、4つの結合ボルト25によって結合されている。
図2では、このうち3つの結合ボルト25を図示している。結合ボルト25は、第2のケース部材22のフランジ部223に形成されたボルト挿通孔223bを挿通して第1のケース部材21に形成されたねじ孔212bに螺合する。
【0042】
第1のケース部材21とスライド部材5の内鍔部52との間には、弾性体からなる付勢部材81と、付勢部材81を保持する保持部材82が配置されている。保持部材82は、環状の本体部820と、本体部820から第2のケース部材22の壁部222に向かって突出する3つの突起821とを有している。また、保持部材82は、突起821がスライド部材5の内鍔部52に形成された嵌合部520に嵌合することで、スライド部材5に対して回り止めされている。
【0043】
付勢部材81は、アクチュエータ6の作動によって、スライド部材5の中心軸方向に圧縮される。スライド部材5は、付勢部材81の復元力(付勢力)によって第2のケース部材22の壁部222側に付勢されている。付勢部材81は、例えばコイルバネからなるが、これに限らずゴムによって付勢部材81を形成してもよい。また、本実施の形態では、付勢部材81が差動機構3と第2のケース部材22の円筒部221との間に配置された環状であるが、これに限らず、スライド部材5の内鍔部52に対向する複数箇所にそれぞれ付勢部材を配置してもよい。
【0044】
(差動装置の動作)
差動装置1は、アクチュエータ6の作動及び非作動によって、第1の噛み合い部51と第2の噛み合い部211とが周方向に噛み合ってスライド部材5とデフケース2とが相対回転不能に連結される連結状態と、スライド部材5とデフケース2とが相対回転可能な非連結状態とが切り替わる。
【0045】
図7(a)は、アクチュエータ6の非作動時における差動装置1を示す部分断面図である。
図7(b)は、アクチュエータ6の作動時における差動装置1を示す部分断面図である。
【0046】
電磁石61のコイル巻線611に励磁電流が供給されないアクチュエータ6の非作動時には、付勢部材81の復元力によってスライド部材5が第2のケース部材22の壁部222側に移動して、第1の噛み合い部51と第2の噛み合い部211との噛み合いが解除される。また、アーマチャ63は、電磁石61の非通電時において、スライド部材5及び押圧部材7を介して伝達される付勢部材81の復元力により、壁部222から離間した初期位置に戻される。
【0047】
このアクチュエータ6の非作動時には、デフケース2とスライド部材5が相対回転可能であるので、デフケース2から差動機構3への駆動力の伝達が遮断される。これにより、リングギヤ23からデフケース2に入力された駆動力がドライブシャフトに伝達されず、車両が二輪駆動状態となる。
【0048】
電磁石61のコイル巻線611に励磁電流が供給されると、電磁石61の磁力によって、アーマチャ63の側板部632がヨーク62における円筒部621の軸方向端面621b(
図6参照)に接近するように、アーマチャ63が軸方向に移動する。これにより、押圧部材7がスライド部材5を第1のケース部材21側に押圧し、第1の噛み合い部51と第2の噛み合い部211とが噛み合わされる。具体的には、押圧部材7が軸部72の先端部からアーマチャ63の移動力を受け、この移動力によってスライド部材5を第1のケース部材21側に押圧する。この際、押圧部材7の円環部71がスライド部材5の円筒部53における第1の噛み合い部51とは反対側の軸方向端面53bに当接する。
【0049】
第1の噛み合い部51と第2の噛み合い部211とが噛み合うと、リングギヤ23からデフケース2の第1のケース部材21に入力された駆動力が、スライド部材5、差動機構3の一対のピニオンシャフト30、4つのピニオンギヤ31、及び一対のサイドギヤ32を介してドライブシャフトに伝達され、車両が四輪駆動状態となる。
【0050】
アーマチャ63の軸方向の位置は、ポジションセンサ10によって検出され、その検出信号が制御装置に送信される。ポジションセンサ10は、接触子11と、接触子11を支持する支持体12とを有している。接触子11は、支持体12に対してデフケース2の回転軸線Oと平行に進退移動可能であり、その先端部がアーマチャ63の側板部632に弾性的に接触している。支持体12は、デフキャリアに固定されている。制御装置は、ポジションセンサ10の検出信号によってアーマチャ63の位置を認識することができ、これにより第1の噛み合い部51と第2の噛み合い部211とが噛み合っているか否かを判定可能である。
【0051】
制御装置は、アクチュエータ6を非作動状態から作動状態にする際、スライド部材5を速やかに移動させることが可能な大きな電流値の励磁電流を電磁石61に供給し、その後、第1の噛み合い部51と第2の噛み合い部211とが噛み合ったと判定されると、励磁電流の電流値を、第1の噛み合い部51と第2の噛み合い部211との噛み合い状態を維持することができる程度の比較的小さな電流値に低減する。これにより、消費電力の低減を図ることができる。
【0052】
(第1の実施の形態の作用及び効果)
以上説明した第1の実施の形態によれば、デフケース2が第1のケース部材21と第2のケース部材22とを結合してなり、第1のケース部材21が、リングギヤ23が締結されるフランジ部212と、スライド部材5の第1の噛み合い部51に噛み合う第2の噛み合い部221とを一体に有している。これにより、リングギヤ23から入力された駆動力が第1及び第2のケース部材21,22のうち第1のケース部材21のみを介してスライド部材5に伝達され、スライド部材5から差動機構3のピニオンシャフト30に伝達される。このため、押圧部材7の複数の軸部72を挿通させる複数の挿通孔222aが形成された第2のケース部材22の壁部222が駆動力の伝達経路に含まれない。これにより、デフケース2の重量及びサイズの増大を抑制しながら、スライド部材5の軸方向移動によって駆動力伝達を断続可能とすることが可能となる。
【0053】
[第2の実施の形態]
次に、本発明の第2の実施の形態に係る差動装置について、
図8及び
図9を参照して説明する。本実施の形態に係る差動装置は、差動機構の入力部材の構成が第1の実施の形態と異なる他は、第1の実施の形態に係る差動装置1と同様に構成されているので、この違いの部分について説明する。また、
図8及び
図9において、第1の実施の形態と共通する構成部材については、同一の符号を付して重複した説明を省略する。
【0054】
図8は、本実施の形態に係る差動機構3Aをスライド部材5と共に示す分解斜視図である。
図9は、差動機構3Aの第1乃至第3のピニオンシャフト35〜37を第1支持部材381及び第2支持部材382の断面と共に示す部分断面図である。
【0055】
本実施の形態に係る差動機構3Aは、軸状の第1乃至第3のピニオンシャフト35〜37を有し、4つのピニオンギヤ31がこれら第1乃至第3のピニオンシャフト35〜37によって軸支されている。なお、
図8では、4つのピニオンギヤ31に噛み合う一対のサイドギヤ32の図示を省略している。第1乃至第3のピニオンシャフト35〜37は、それぞれが差動機構3Aにおける入力部材である。また、差動機構3Aは、第1乃至第3のピニオンシャフト35〜37を支持する第1支持部材381及び第2支持部材382を有している。
【0056】
第1のピニオンシャフト35は、スライド部材5の係合部530に係合する一対の被係合部351と、ピニオンギヤ31に挿通される一対のピニオンギヤ支持部352と、一対のピニオンギヤ支持部352を連結する連結部353とを一体に有している。第2のピニオンシャフト36は、一方の端部にスライド部材5の係合部530に係合する被係合部361を有し、他方の端部に第1のピニオンシャフト35の連結部353に突き当てられる突き当て部363を有している。また、第2のピニオンシャフト36は、被係合部361と突き当て部363との間に、ピニオンギヤ31に挿通されるピニオンギヤ支持部362を有している。
【0057】
第3のピニオンシャフト37は、第2のピニオンシャフト36と同様に、一方の端部にスライド部材5の係合部530に係合する被係合部371を有すると共に、他方の端部に第1のピニオンシャフト35の連結部353に突き当てられる突き当て部373を有し、被係合部371と突き当て部373との間にピニオンギヤ31に挿通されるピニオンギヤ支持部372を有している。
【0058】
第1乃至第3のピニオンシャフト35〜37は、第1支持部材381に形成された挿通孔381a、及び第2支持部材382に形成された挿通孔382aを挿通している。第1支持部材381は、円筒状であり、スライド部材5の内側に配置されている。第2支持部材382は、角筒状であり、第1支持部材381の内側に配置されている。4つのピニオンギヤ31は、第1支持部材381と第2支持部材382との間に配置されている。
【0059】
また、第1乃至第3のピニオンシャフト35〜37は、4本のピン383によって第1支持部材381に対して回り止めされている。
図8では、このうち3本のピン383を図示している。第1支持部材381には、4本のピン383をそれぞれ挿通させる4つのピン挿通孔381b、及び潤滑油を流動させる4つの油孔381cが形成されている。また、第1のピニオンシャフト35には、2つのピン挿通孔35aが被係合部361とピニオンギヤ支持部362の間に形成され、第2及び第3のピニオンシャフト36,37には、それぞれ1つのピン挿通孔36a,37aが被係合部361,371とピニオンギヤ支持部362,372との間に形成されている。4本のピン383は、これらのピン挿通孔381b,35a,36a,37aに、例えば圧入されて固定されている。
【0060】
本実施の形態によっても、第1の実施の形態と同様の作用及び効果が得られる。
【0061】
[第3の実施の形態]
次に、本発明の第3の実施の形態に係る差動装置について、
図10を参照して説明する。本実施の形態に係る差動装置は、差動機構の入力部材の構成が第1の実施の形態と異なる他は、第1の実施の形態に係る差動装置1と同様に構成されているので、この違いの部分について説明する。また、
図10において、第1の実施の形態と共通する構成部材については、同一の符号を付して重複した説明を省略する。
【0062】
図10は、本実施の形態に係る差動機構の入力部材としてのピニオンギヤ支持部材39を示す構成図である。本実施の形態では、ピニオンギヤ31を支持するピニオンギヤ支持部材39が、4つの軸部391と、これら4つの軸部391を相互に連結する連結部392とを有している。それぞれの軸部391は、スライド部材5の係合部530に係合する被係合部391aと、ピニオンギヤ31を軸支するピニオンギヤ支持部391bとを有している。このように、ピニオンギヤ支持部材39は、4つの軸部391が放射状に設けられて中心軸方向視において十字状に一体成形され、4つの軸部391のそれぞれの端部がスライド部材5の係合部530に係合し、かつ4つの軸部391のそれぞれがピニオンギヤ31を軸支する。
【0063】
本実施の形態によっても、第1の実施の形態と同様の作用及び効果が得られる。
【0064】
(付記)
以上、本発明を上記第1乃至第3の実施の形態に基づいて説明したが、本発明はこれらの実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変形して実施することが可能である。