(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
紫外線吸収剤として、分子量が300g/mol以上の、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系、ベンゾエート系、あるいはトリアジン系紫外線吸収剤を1種類以上含有する、請求項1に記載の積層二軸延伸ポリエステルフィルム。
前記積層フィルムの幅が400mm以上であり、かつリタデーションRe(0°)が150nm以下であって、配向角が15°以下であることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の積層二軸延伸ポリエステルフィルム。
結晶性ポリエステルAが、ポリエチレンナフタレートを5〜40mol%共重合したポリエチレンテレフタレートおよび/またはポリブチレンテレフタレートを主成分とする、請求項1〜9のいずれかに記載の積層二軸延伸ポリエステルフィルム。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の積層二軸延伸ポリエステルフィルムについて詳細に説明する。
【0011】
本発明の積層二軸延伸ポリエステルフィルムは、結晶性ポリエステルAからなる層(A層)と前記と異なる熱可塑性樹脂Bからなる層(B層)を交互に50層以上積層し、最表層
がA層であり、該最表層の層厚みが
5μm以上あるいは
50nm以下であり、かつ50nm以下の層厚みを有する層数が第2層から数えて連続して10層以上あり、
A層とB層のうちB層のみに紫外線吸収剤を含有した積層二軸延伸ポリエステルフィルムであって、波長400nmにおける光線透過率T
400が80%以上であることが必要である。
【0012】
本発明で述べるところのポリエステルとは、芳香族ジカルボン酸または脂肪族ジカルボン酸とジオールとを主たる構成成分とする単量体からの重合により得られる縮重合体のことである。ポリエステルの工業的製造方法としては、公知の如く、エステル交換反応(エステル交換法)や直接エステル化反応(直接重合法)が用いられる。ここで、芳香族ジカルボン酸としては、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、4,4′−ジフェニルジカルボン酸、4,4´−ジフェニルエーテルジカルボン酸、4,4´−ジフェニルスルホンジカルボン酸などを挙げることができる。脂肪族ジカルボン酸としては、例えば、アジピン酸、スベリン酸、セバシン酸、ダイマー酸、ドデカンジオン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸とそれらのエステル誘導体などが挙げられる。中でも高い屈折率を発現するテレフタル酸と2,6−ナフタレンジカルボン酸が好ましく用いられる。ジカルボン酸成分はこれらのうち1種類を用いても良く、2種類以上を併用して用いても良い。
【0013】
また、ジオール成分としては、例えば、エチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、ネオペンチルグリコール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,2−シクロヘキサンジメタノール、1,3−シクロヘキサンジメタノール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリアルキレングリコール、2,2−ビス(4−ヒドロキシエトキシフェニル)プロパン、イソソルベート、スピログリコールなどを挙げることができる。中でもエチレングリコールが好ましく用いられる。これらのジオール成分は1種類のみ用いてもよく、2種類以上を併用して用いてもよい。
【0014】
さらに、本発明で結晶性ポリエステルAは、例えば、ポリエチレンテレフタレートおよびその共重合体、ポリエチレンナフタレートおよびその共重合体、ポリブチレンテレフタレートおよびその共重合体、ポリブチレンナフタレートおよびその共重合体、さらにはポリヘキサメチレンテレフタレートおよびその共重合体、ポリヘキサメチレンナフタレートおよびその共重合体などを用いることも出来る。このとき、共重合成分としては、前記のジカルボン酸成分およびジオール成分が、それぞれ1種類以上、共重合されていることが好ましい。
【0015】
本発明において、熱可塑性樹脂Bとしては、特に限定されるものではなく、ポリエチレン,ポリプロピレン,ポリ(4−メチルペンテン−1),ポリアセタールなどの鎖状ポリオレフィン、ノルボルネン類の開環メタセシス重合,付加重合,他のオレフィン類との付加共重合体である脂環族ポリオレフィン、ポリ乳酸,ポリブチルサクシネートなどの生分解性ポリマー、ナイロン6,ナイロン11,ナイロン12,ナイロン66などのポリアミド、アラミド、ポリメチルメタクリレート、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール、エチレン酢酸ビニルコポリマー、ポリアセタール、ポリグルコール酸、ポリスチレン、スチレン共重合ポリメタクリル酸メチル、ポリカーボネート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレン−2,6−ナフタレートなどのポリエステル、ポリエーテルサルフォン、ポリエーテルエーテルケトン、変性ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルイミド、ポリイミド、ポリアリレート、4フッ化エチレン樹脂、3フッ化エチレン樹脂、3フッ化塩化エチレン樹脂、4フッ化エチレン−6フッ化プロピレン共重合体、ポリフッ化ビニリデンなどを用いることができる。この中で、強度や耐熱性、透明性および汎用性の観点から、特にまた、結晶性ポリエステルAとの密着性・積層性の観点からも、熱可塑性樹脂Bとしてポリエステルを選択することが最も好ましい。ここで、熱可塑性樹脂Bは、共重合体であっても、混合物であってもよい。
【0016】
交互に50層以上積層するとは、結晶性ポリエステルAと熱可塑性樹脂Bとが厚さ方向に規則的な配列で積層されていることをいい、たとえばA(BA)n(nは自然数)の規則的な配列に従って、50層以上の樹脂が積層された状態のことを指す。熱可塑性樹脂Bとは、具体的には、示差走査熱量測定(DSC)において結晶性ポリエステルAとは異なる融点やガラス転移点温度を示すものを指す。このように熱特性の異なる樹脂が交互に積層されることにより、積層二軸延伸ポリエステルフィルムを製造する際に各々の層の配向状態を高度に制御する事が可能となる。また、50層以上交互に積層されたフィルムの場合、数層〜十数層積層されたフィルムと比較して、均質に各々の樹脂が配分されるため、安定した製膜性や機械物性を得ることが期待される。さらに、層数が増加するに従い、各々の層での配向の成長を抑制できる傾向がみられ、交互に多くの層を積層することで後述のフィルムのリタデーションを制御しやすくなる。層数は、好ましくは100層以上、より好ましくは200層以上である。層数に上限はないが、層数が増えるに従い、製造装置の大型化に伴う製造コストの増加や、フィルム厚みが厚くなることによるハンドリング性の悪化を招く。特に、フィルム厚みが厚くなることは、結晶性ポリエステルAからなる層(A層)の絶対的な量が増加するために、後述のリタデーションを増加させることとなり、ディスプレイ材料に用いると干渉色や虹斑を引き起こすため好ましくなく、現実的には1000層以下が適している。
【0017】
本発明の積層二軸延伸ポリエステルフィルムにおいては、最表層
がA層であり、該最表層の厚みが50nm以下あるいは5μm以上であることが必要である。ここで述べるところの最表層とは、結晶性ポリエステルAからなる層(A層)のうち最外層に位置する層のことを指し、フィルム同士の貼り合わせ時に用いる粘着層や、別途コーティング法で表層に積層した第3成分の樹脂からなるコーティング層は該当しない。最表層の厚みを5μm以上とする場合、接着層の凹凸が積層二軸延伸ポリエステルフィルムに転写することを防止することが可能となり、さらに、フローマークの抑制や、光線透過率および光線反射率スペクトルのリップル抑制の効果が得られる。厚みは、さらに7μm以上であることが好ましい。最表層の厚みに上限はないが、結晶性ポリエステルAからなる層(A層)の増加に伴う、その他物性や光学性能の変化を鑑みると、10μm以下とすることが現実的である。一方で、最表層の厚みを50nm以下にする手法も利用することが出来る。最表層の厚みを50nm以下にすることで、光線透過率および光線反射率スペクトルのリップル抑制に強い効果が得られ、最表層に位置する結晶性ポリエステルAからなる層(A層)の層厚みが総じて小さくなるために、リタデーションの低減にも寄与することが可能となる。最表層の厚みに下限はないが、薄過ぎる場合に積層装置の精度の良い設計が現実的に困難であり、また、2層目に位置する熱可塑性樹脂Bからなる層(B層)の影響を強く受けるため、製膜時の延伸も困難となる。そのため、最表層は10nm以上の厚みに設計することが好ましい。
【0018】
ここで述べるリップルとは、分光の光線透過率や光線反射率のスペクトルが一定の値を示さず、波長の変化に従って波打つように変動する現象のことを指し、積層二軸延伸ポリエステルフィルムの最表層で反射された光線と内層界面で反射された光線との干渉、および内層界面で反射された光線同士の干渉により生じるものである。これが可視光線領域に発生すると、色相斑が生じて視認性の悪化に繋がる。また、本発明の光線透過率カットの対象となる紫外線領域でリップルが発生した場合には、部分的に反射光線の抜けが発生することとなり、安定な光線透過性を保持できなくなるため、必ず抑制することが求められるものである。最表層の厚みを5μm以上に設計すると、リップルを長周期のうねりとして消失させることが可能となり、50nm以下として設計した場合には、リップルを短周期の小さなうねりに変化させて消失させることが可能となる。
【0019】
リタデーションとは、一般的に、フィルムの面内における直交する2方向の屈折率差の最大値とフィルム厚みの積から算出されるものであるが、本発明のような積層されたフィルムにおいては容易にフィルムとしての屈折率を測定できないため、間接的な手法で算出されたリタデーションの値をもってリタデーションとする。具体的には、王子計測機器株式会社から販売されている光学的な手法をもってリタデーションを測定する位相差測定装置KOBRAシリーズにて計測された値を用いるものとする。偏光子と貼り合わせて用いる偏光子保護フィルムでは、リタデーションの値が高くなると液晶ディスプレイに実装した際に干渉色や虹斑を生じるようになり、品位が低下する問題点を生じる。そのため、本発明においては、延伸や結晶により配向を発現する結晶性ポリエステルAからなる層(A層)の層厚みを出来得る限り薄くしておくことが、リタデーションを低減するために好ましい。この観点から、前述した通り、最表層の厚みは50nm以下に制御することが、リップルの抑制およびリタデーションの低減の両観点、ならびに薄膜化トレンドの観点を踏まえると、好ましい手法である。
【0020】
本発明の積層二軸延伸ポリエステルフィルムは、50nm以下の層厚みを有する層数が第2層から数えて連続して10層以上あることが必要となる。表層付近の層は、光学層としてリップルのない光線反射を実現するのに大きく関係する層であり、最表層を5μm以上あるいは50nm以下とするいずれの場合においても、上述の層設計が必須となる。さらに、層厚みが50nm以下となる層の総数は連続して20層以上であることが好ましく、さらに好ましくは連続して30層以上である。当該範囲は、積層層厚みの分布に影響して変化させるものである。
【0021】
積層層厚みの分布としては、フィルムの片面側から反対側の面へ向かって増加または減少する層厚み分布や、フィルムの片面側からフィルム中心へ向かって層厚みが増加した後減少する層厚み分布や、フィルムの片面側からフィルム中心へ向かって層厚みが減少した後増加する層厚み分布等が好ましい。層厚み分布の変化の方法としては、線形、等比、階差数列といった連続に変化するものや、10層から50層程度の層がほぼ同じ層厚みを持ち、その層厚みがステップ状に変化するものが好ましい。
【0022】
本発明のような、A(BA)n(nは自然数)の積層二軸延伸ポリエステルフィルムを製膜する場合、結晶性ポリエステルAと熱可塑性樹脂Bの複数の樹脂を2台以上の押出機を用いて異なる流路から送り出し、公知の積層装置であるマルチマニホールドタイプのフィードブロックやスタティックミキサー等を用いることができる。特に、本発明の構成を効率よく得るためには、微細スリットを有するフィードブロックを用いることが高精度な積層を実現する上で好ましい。スリットタイプのフィードブロックを用いて積層体を形成する場合、各層の厚みおよび層厚み分布は、スリットの長さや幅を変化させて圧力損失を傾斜させることにより達成可能となる。スリットの長さとは、スリット板内で結晶性ポリエステルAからなる層(A層)と熱可塑性樹脂Bからなる層(B層)を交互に流すための流路を形成する櫛歯部の長さのことである。最表層の厚みを50nm以下に薄くするためには、スリット板端部に位置するスリットの幅を他の薄膜層を形成するスリットよりも狭くする、もしくはスリット長を長めに調整することで達成可能となる。
【0023】
さらに、本発明の積層二軸延伸ポリエステルフィルムは、
A層とB層のうちB層のみに紫外線吸収剤が含有されていることが必須である。A層とB層を交互に積層することによる光線反射により紫外線をカットする手法では、樹脂の組み合わせや延伸条件、熱処理条件に伴い発生する、A層とB層の屈折率差の大きさにより光線反射率が変化するため、完全な紫外線カットを実現することは容易ではない。そのため、積層による光線反射と両立させる副手法として、紫外線吸収剤の含有が必要となる。A層とB層を交互に積層することによる光線反射と紫外線吸収剤を含有させる手法を併用すると、紫外線吸収剤を含有させるだけで光線カットを実現する手法と比較して、紫外線吸収剤の含有量を低減できるので、特に紫外線吸収剤のブリードアウト抑制の観点で、大きな利点を有する。
【0024】
紫外線吸収剤は、樹脂の内部に添加剤として添加してもよく、樹脂に共重合させてもよい。
紫外線吸収剤の多くは低分子量であり、高分子量の紫外線吸収剤でない場合、シート状として溶融吐出した際に空気中に揮散する、熱処理工程や信頼性試験においてフィルムの表面に析出するなどの問題が生じる。そのため、樹脂に共重合させることで、紫外線吸収剤を層内に確実に留めることができ
る。紫外線吸収剤を樹脂と共重合させる場合には、たとえば、ポリエステル系の樹脂と共重合する場合には、紫外線吸収剤の多くに含まれるヒドロキシ基を、エステル交換反応などを用いてポリエステル樹脂内のカルボキシル末端と反応させることなどで達成できる。
紫外線吸収剤を含有する層
は、積層二軸延伸ポリエステルフィルムの内層に位置するB層
のみである。最表層を含むA層に紫外線吸収剤を含有する場合、添加剤として紫外線吸収剤を用いると、先述のとおりフィルム表面に析出する現象(ブリードアウト現象)、およびそれが口金付近で昇華・揮散する現象が発生しやすくなり、これによってフィルム製膜機が汚染され、析出物が加工工程において欠点発生などの悪影響を及ぼすため好ましくないものである。B層にのみ紫外線吸収剤を含有させる場合、最表層および層内に交互に位置する結晶性ポリエステルAからなるA層が、紫外線吸収剤の析出を防ぐフタとしての役割を果たすため、ブリードアウト現象が起こりにくくなり好ましいものとなる。
【0025】
紫外線吸収剤の含有濃度は、積層二軸延伸ポリエステルフィルム全体で、フィルム全重量に対して2.5wt%以下、好ましくは1.5wt%以下、より好ましくは1.0wt%以下である。2.5wt%よりも含有濃度が多い場合、光線透過率が低下してフィルムの白濁度(ヘイズ値)が高くなり、液晶画像表示装置などに実装した場合に視認性悪化の問題点を生じるため好ましくない。
【0026】
本発明の積層二軸延伸ポリエステルフィルムにおいては、波長400nmにおける光線透過率T
400が80%以上であることが必要である。好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上である。波長400nmは紫外線と可視光線の境界に位置し、該波長より長波長側の光線が反射もしくは吸収された場合、フィルムが色づきを起こし、画像表示装置に実装した場合に画面の色相変化を招くため好ましくない。
【0027】
本発明で利用することができる紫外線吸収剤として、分子量が300g/mol以上の、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系、ベンゾエート系、トリアジン系のものを用いることが好ましい。紫外線吸収剤は、これらのうち1種類を選択してもよく、2種類以上を併用しても良い。分子量と紫外線吸収剤をはじめとする添加剤の昇華性とは関連があり、分子量が大きい添加剤を利用した場合には、昇華は起こりにくい。分子量は、400g/mol以上がより好ましく、500g/mol以上がさらに好ましい。分子量が高い紫外線吸収剤は、基本の芳香族環骨格に長鎖アルキル鎖が付属しているものが多く、これらが紫外線吸収剤同士のスタッキングを阻害し、樹脂内において結晶化してヘイズの増加を招くなどの問題点を生じなくなるため望ましい。
【0028】
添加することが出来る紫外線吸収剤は、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤としては、特に限定されないが、例えば、2−(2’−ヒドロキシ−5’−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ第三ブチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’−第三ブチル−5’−メチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−5’−第三オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジクミルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’−第三ブチル−5’−カルボキシフェニル)ベンゾトリアゾール、2,2’−メチレンビス(4−第三オクチル−6−ベンゾトリアゾリル)フェノール等の2−(2’−ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール類等が挙げられる。
ベンゾフェノン系紫外線吸収剤としては、特に限定されないが、例えば、2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−オクトキシベンゾフェノン、5,5’−メチレンビス(2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン)等の2−ヒドロキシベンゾフェノン類が挙げられる。
ベンゾエート系紫外線吸収剤としては、特に限定されないが、例えば、フェニルサリシレート、レゾルシノールモノベンゾエート、2,4−ジ第三ブチルフェニル−3,5−ジ第三ブチル−4−ヒドロキシベンゾエート、2,4−ジ第三アミルフェニル−3,5−ジ第三ブチル−4−ヒドロキシベンゾエート、ヘキサデシル−3,5−ジ第三ブチル−4−ヒドロキシベンゾエート等が挙げられる。
【0029】
トリアジン系紫外線吸収剤としては、特に限定されないが、2−(2−ヒドロキシ−4−オクトキシフェニル)−4,6−ビス(2,4−ジメチルフェニル)−s−トリアジン、2−(2−ヒドロキシ−4−ヘキシルオキシフェニル)−4,6−ジフェニル−s−トリアジン、2−(2−ヒドロキシ−4−プロポキシ−5−メチルフェニル)−4,6−ビス(2,4−ジメチルフェニル)−s−トリアジン、2−(2−ヒドロキシ−4−ヘキシルオキシフェニル)−4,6−ジビフェニル−s−トリアジン、2,4−ビス(2−ヒドロキシ−4−オクトキシフェニル)−6−(2,4−ジメチルフェニル)−s−トリアジン、2,4,6−トリス(2−ヒドロキシ−4−オクトキシフェニル)−s−トリアジン、2−(4−イソオクチルオキシカルボニルエトキシフェニル)−4,6−ジフェニル−s−トリアジン等のトリアリールトリアジン類等が挙げられる。
【0030】
その他の紫外線吸収剤として、サリチル酸系では、たとえば、フェニルサリチレート、t−ブチルフェニルサリチレート、p−オクチルフェニルサリチレート等、その他では、天然物系(たとえば、オリザノール、シアバター、バイカリン等)、生体系(たとえば、角質細胞、メラニン、ウロカニン等)なども利用することが出来る。これらの紫外線吸収剤には、安定剤としてヒンダードアミン系化合物も併用することが出来る。無機系の紫外線吸収剤はベースとなる樹脂と相溶せずヘイズの上昇につながり、画像表示した際の視認性を悪化させるため、好ましくない。
【0031】
本発明の積層二軸延伸ポリエステルフィルムにおいて、先述の紫外線吸収剤は、融解エンタルピーが50J/g以下の紫外線吸収剤を用いることが好ましい。融解エンタルピーが低い紫外線吸収剤を用いることで、加熱に伴う熱エネルギーによる昇華や表面析出を抑制することが可能となる。また、トリアジン系紫外線吸収剤は、その他のベンゾトリアゾール系やベンゾフェノン系の構造と比較して立体的な結晶構造を形成しにくく、表面析出してヘイズが上昇しにくくなる点において優れている。そのため、融解エンタルピーが50J/g以下のトリアジン系紫外線吸収剤を用いることがより好ましい。特に、トリアジン骨格に長い側鎖がついているものは分子同士が結晶を形成しにくくなるため、より好ましく用いることが出来る。なお、積層二軸延伸ポリエステルフィルムに含有する紫外線吸収剤の融解エンタルピーは、後述する方法によって積層二軸延伸ポリエステルフィルムから紫外線吸収剤を抽出し、抽出した紫外線吸収剤を示差熱量分析(DSC)を行うことにより求められる。後述する方法によって積層二軸延伸ポリエステルフィルムから紫外線吸収剤を抽出するのが困難な場合は、積層二軸延伸ポリエステルフィルムに添加する前の紫外線吸収剤を示差熱量分析(DSC)により求める。
【0032】
本発明の積層二軸延伸ポリエステルフィルムに含有させる紫外線吸収剤は、2種類以上の紫外線吸収剤を併用することがより好ましい。本発明の積層二軸延伸ポリエステルフィルムでは、昇華や表面析出を抑えつつ、最低限の紫外線吸収剤の含有量で、波長380nm以下の光線をカットすることが求められる。各紫外線吸収剤は、それぞれ光線カットできる波長領域が異なることから、光線カットできる波長領域の異なる紫外線吸収剤同士を適宜組み合わせることが好ましい。特に、前項で記述した融解エンタルピーが50J/g以下を示すトリアジン系紫外線吸収剤と併用する場合、昇華性を示す他の紫外線吸収剤の昇華を抑制する効果を示すため、より好ましい。また、併用の処方としては、2種類以上の紫外線吸収剤を添加する処方を用いてもよく、添加と共重合を併用してもよく、2種類以上を同時に樹脂に共重合してもよい。好ましい態様としては、結晶性ポリエステルAに共重合により1種類の紫外線吸収剤を添加し、熱可塑性樹脂Bに前記と異なる紫外線吸収剤を1種類以上添加する手法である。同じ樹脂層に高濃度に紫外線吸収剤を添加しないため、揮散や表面析出を効果的に抑制することができる。
【0033】
本発明の積層二軸延伸ポリエステルフィルムにおいては、A層、B層あるいはA層とB層の両層に蛍光増白剤を含有してもよい。本発明における蛍光増白剤とは、300〜400nmの波長領域の紫外線を吸収して紫〜青色の可視光線を発光する分子のことを指し、紫外線の吸収性能だけでなく、波長400nm以上の紫〜青色の波長領域の光線透過率を増加させる効果を奏するものである。本発明における蛍光増白剤としては、ベンゾチアゾール系、ベンゾイミダゾール系、べンゾオキサゾール系などを用いることが出来、含有濃度は0.5wt%以下、好ましくは0.4wt%以下である。添加層としては、分子のブリードアウトや熱処理時のフィルム表面への析出現象を防止するために、先に記述した紫外線吸収剤の添加手法と同様に、内層に位置する熱可塑性樹脂Bからなる層(B層)に含有することが好ましい。蛍光増白剤の特性上、紫外線吸収剤の機能と兼用することは可能であるが、蛍光増白剤の含有量が多い場合、発光強度が高いためにフィルムの白濁度が強くなりヘイズの上昇を招くほか、画像表示装置に搭載した際の視認性に問題を生じる。そのため、蛍光増白剤は紫外線吸収剤の可視光線吸収に伴う色相発現を抑えるためのみの用途として、紫外線吸収剤と併用することが好ましい。紫外線吸収剤と蛍光増白剤を併用した場合、前記の蛍光増白剤の含有濃度条件に加え、添加剤の総含有濃度がフィルム全重量に対して2.5wt%以下となることが好ましい。先に述べた通り、添加剤の含有濃度が高い場合、光線拡散に伴うフィルムの白化が顕著となるためである。紫外線吸収剤の含有濃度は、フィルム厚みや各種添加剤の光線吸収能に応じて変化させるものであるために濃度下限は実質上ないものの、たとえば、偏光子保護フィルムとして用いる場合、偏光子や液晶分子が紫外線により劣化することを十分に防ぐ分の含有濃度を含んでいることが求められ、0.5wt%以上含有していることが好ましい。
画像表示装置に利用されている偏光子とは、特定の振動方向のみを有する光を透過させる機能を有するものであり、ヨウ素や二色性染料などで染色したポリビニルアルコール(PVA)系フィルムが最も多く使用されている。この偏光子は、有機材料により構成されており、特に、波長280〜380nmの紫外線を照射することで劣化が起こるため、この領域における紫外線を偏光子に届く手前でカットすることにより、偏光子の劣化、あるいは液晶分子の劣化を防止することが可能となる。
【0034】
前記の偏光子の特徴を受け、本発明の積層二軸延伸ポリエステルフィルムは、波長380nmにおける光線透過率T
380が20%以下であることが好ましく、より好ましくは10%以下、さらに好ましくは5%以下である。本発明の積層二軸ポリエステルフィルムの設計により、積層構造に伴う光線反射と紫外線吸収剤含む各種添加剤による光線吸収との両立を行うことで、380nmの紫外波長領域では光線を十分にカットし、400nmの可視光線波長では光線を十分透過することが可能となる。反射波長領域は層厚みの設計に応じて変換させることが出来るものであるため、紫外線吸収剤の吸収波長領域を鑑みて相互に補完できるような反射・吸収関係となることが最も好ましい体系である。
【0035】
本発明の結晶性ポリエステルAならびに熱可塑性樹脂B中には、前記の紫外線吸収剤や蛍光増白剤以外のその他各種添加剤、例えば、酸化防止剤、耐熱安定剤、耐候安定剤、有機系易滑剤、可塑剤、顔料、染料、有機又は無機の微粒子、充填剤、帯電防止剤、核剤などが本来満たすべきフィルム特性を悪化させない程度に含有されていてもよい。
【0036】
本発明の積層二軸延伸ポリエステルフィルムは、波長300〜380nmの範囲における平均光線反射率を20%以上にすることが好ましく、より好ましくは30%以上、さらに好ましくは50%以上である。積層二軸延伸ポリエステルフィルムでは、フィルムの厚さ、層間距離ならびに層数を特定の設計にすることにより、空気とフィルムの界面ならびにフィルムの層間の界面での多重干渉反射の効果により、特定の波長範囲の光線を反射させることが可能である。この効果を利用して、紫外線領域の波長300〜380nmの光線のみを特異的に反射させることが可能となる。具体的には、各層の平均の層厚みを45〜65nmに設定することで達成可能となる。
【0037】
本発明における積層二軸延伸ポリエステルフィルムは、フィルム幅が400mm以上であり、その範囲において垂直入射時の面内リタデーションRe(0°)が150nm以下であり、かつ配向角が15°以下であることが好ましい。リタデーションRe(0°)のより好ましい値は100nm以下であり、さらに好ましくは50nm以下である。リタデーションの値は限りなく0nmに近い値であることが好ましく、150nmより大きい値を示す場合は、バックライトから透過した光線に偏光がかかるため、画像表示装置に搭載した場合の輝度が低下する問題点が生じる。リタデーションが50nm以下まで小さくなる場合、偏光への影響は無視できる程度になるため、結晶の配向を考慮する必要はないが、リタデーションが100nm程度より大きい値を示す場合、幅方向で配向角が大きく変化することは、透過する偏光の向きに強く影響を与えるために好ましくない。配向角の制御が求められる場合、より好ましくは配向角が10°以下であり、さらに好ましくは5°以下である。
【0038】
本発明における積層二軸延伸ポリエステルフィルムは、85℃85%RHの条件で200時間処理した際の、処理前後のヘイズ変化量(Δヘイズ)が1.0以下であることが好ましい。本発明で述べるところのヘイズとは、フィルムの全ヘイズのことを指す。本条件は、特にディスプレイ分野において評価される、長期安定性を判断するための信頼性試験条件である。より好ましくはΔヘイズが0.7以下であり、さらに好ましくは0.5以下であるが、ヘイズの上昇は外観を大きく損なうことにつながるため、試験後のヘイズ変化量(Δヘイズ)は0に近いことが最たる好適条件である。
【0039】
本発明における、結晶性ポリエステルAは、ポリエチレンナフタレートを5〜40mol%共重合したポリエチレンテレフタレートおよび/またはポリブチレンテレフタレートを主成分とすることが好ましい。薄膜フィルムにおいて反射性能を高く発揮するためには、光学厚さ(屈折率×物理的な層厚み)を反射したい波長に対して調整することが必要となる。フィルムを薄膜化する場合、物理的な層厚みは小さくなることから、屈折率を大きくすること、特に、結晶性ポリエステルAと熱可塑性樹脂Bの屈折率差をより大きくすることが求められる。屈折率差を大きくするためには、結晶性ポリエステルAとして、分子配向の増加に伴って複屈折が増加する複屈折性ポリマーを用いることが好ましく、延伸により配向方向への屈折率が1.65〜1.69程度を示すポリエチレンテレフタレートや、1.64〜1.68程度の屈折率を示すポリブチレンテレフタレートを用いることが好ましい。さらに、ここに、延伸後の配向方向への屈折率が1.74〜1.80程度の屈折率を示すポリエチレンナフタレートを共重合することで、さらに延伸後の屈折率を高めることが可能となり、より好ましいものとなる。ポリエチレンナフタレートの共重合量は、10〜40mol%であることが好ましく、15〜30mol%であることがより好ましい。共重合量が5mol%より少ない場合は、ポリエチレンナフタレートの屈折率の効果を得ることが出来ず、一方、共重合量が40mol%より大きい場合は、樹脂自体が結晶性を損なうため好ましくない。
【0040】
本発明における積層二軸延伸ポリエステルフィルムは、フィルム厚みが5μm以上15μm以下であることが好ましい。より好ましくは、8μm以上14μm以下である。フィルム厚みが5μmより小さい場合は、前記のポリエチレンナフタレートを共重合した結晶性ポリエステルを用いた場合でも層設計により反射性能を実現することは困難となる場合がある。また、フィルムの厚みが薄膜になるため、延伸後のフィルムのハンドリング性や巻き取り性に問題が生じる場合がある。一方で、15μmを超えると、結晶性ポリエステルAからなる層(A層)の層厚みが大きくなるため、リタデーションRe(0°)の数値が大きくなり、ディスプレイに実装した際の視認性を悪化する問題点が生じる場合がある。
【0041】
本発明の積層二軸延伸ポリエステルフィルムは、光学用途として好ましく利用することが出来る。つまり、紫外線による内容物劣化防止および紫外線からの人体保護としての役割が求められる用途、たとえば、ディスプレイの表面保護目的としての機能性フィルム用途、電車や車両の紫外線カットや防虫向けの窓張り用途、建築物の外装用途、食品や医療用具などの包装用途、農業用途をはじめとする様々な分野に利用することが可能である。ただし、リタデーションを低く制御して偏光による色づきを抑制できる点に強みを発揮できることから、該要素を重要視される分野であるディスプレイ周辺の光学フィルム、特に、偏光子保護フィルムにおいて好適に用いられる性能を有している。
【0042】
次に、本発明の積層二軸延伸ポリエステルフィルムの好ましい製造方法を以下に説明する。もちろん本発明は係る例に限定して解釈されるものではない。
【0043】
結晶性ポリエステルAおよび熱可塑性樹脂Bをペレットなどの形態で用意する。ペレットは、必要に応じて、熱風中あるいは真空下で乾燥された後、2台以上の押出機を用いて異なる流路から送り出し、多層積層装置に送り込まれる。多層積層装置としては、マルチマニホールドダイやフィードブロックやスタティックミキサー等を用いることができるが、特に、本発明の構成を効率よく得るためには、微細スリットを有するフィードブロックを用いることが好ましい。このようなフィードブロックを用いると、装置が極端に大型化することがないため、熱劣化による異物が少なく、積層数が極端に多い場合でも、高精度な積層が可能となる。また、幅方向の積層精度も従来技術に比較して格段に向上する。また、この装置では、先述の通り各層の厚みをスリットの形状(長さ、幅)で調整できるため、任意の層厚みを達成することが可能となったものである。
【0044】
押出機内において、融点以上に加熱溶融された樹脂は、ギヤポンプ等で樹脂の押出量を均一化され、フィルター等を介して異物や変性した樹脂などが取り除かれる。これらの樹脂はダイにて目的の形状に成形された後、吐出される。
【0045】
ダイから吐出された多層に積層されたシートは、キャスティングドラム等の冷却体上に押し出され、冷却固化され、キャスティングフィルムが得られる。この際、ワイヤー状、テープ状、針状あるいはナイフ状等の電極を用いて、静電気力によりキャスティングドラム等の冷却体に密着させ急冷固化させることが好ましい。また、スリット状、スポット状、面状の装置からエアーを吹き出してキャスティングドラム等の冷却体に密着させ急冷固化させたり、ニップロールにて冷却体に密着させ急冷固化させたりする方法も好ましい。
【0046】
このようにして得られたキャスティングフィルムは、つづいて長手方向および幅方向に二軸延伸される。延伸は、逐次に二軸延伸しても良いし、同時に二軸延伸してもよい。また、さらに長手方向および/または幅方向に再延伸を行ってもよい。
逐次二軸延伸の場合についてまず説明する。ここで、長手方向への延伸とは、フィルムに長手方向の分子配向を与えるための延伸を言い、通常は、ロールの周速差により施され、この延伸は1段階で行ってもよく、また、複数本のロール対を使用して多段階に行っても良い。延伸の倍率としては樹脂の種類により異なるが、通常、2〜15倍が好ましく、積層ポリエステルフィルムを構成する樹脂のいずれかにポリエチレンテレフタレートを用いた場合には、2〜7倍が特に好ましく用いられる。また、延伸温度としては積層一軸延伸ポリエステルフィルムを構成する樹脂のガラス転移温度〜ガラス転移温度+100℃が好ましい。
【0047】
このようにして得られた積層一軸延伸ポリエステルフィルムに、必要に応じてコロナ処理やフレーム処理、プラズマ処理などの表面処理を施した後、易滑性、易接着性、帯電防止性などの機能を備えた水系コーティングをインライン処理で付与してもよい。
つづいて幅方向の延伸とは、フィルムに幅方向の配向を与えるための延伸をいい、通常は、テンターを用いて、フィルムの両端をクリップで把持しながら搬送して、幅方向に延伸する。延伸の倍率はフィルムを構成する樹脂の種類により異なるが、通常、2〜15倍が好ましく、積層ポリエステルフィルムを構成する樹脂のいずれかにポリエチレンテレフタレートを用いた場合には、2〜7倍が特に好ましく用いられる。また、延伸温度としては積層二軸延伸ポリエステルフィルムを構成する樹脂のガラス転移温度〜ガラス転移温度+120℃が好ましい。
【0048】
こうして二軸延伸された積層ポリエステルフィルムは、テンター内で延伸温度以上融点以下の熱処理を行い、均一に徐冷後、室温まで冷やして巻き取られる。また、必要に応じて、低配向角およびフィルムの熱寸法安定性を付与するために熱処理から徐冷の際に長手方向および/あるいは幅方向に弛緩処理などを併用してもよい。
【0049】
同時二軸延伸の場合について次に説明する。同時二軸延伸の場合には、得られたキャストフィルムに、必要に応じてコロナ処理やフレーム処理、プラズマ処理などの表面処理を施した後、易滑性、易接着性、帯電防止性などの機能を備えた水系コーティングをインラインで付与してもよい。
【0050】
次に、キャストフィルムを、同時二軸テンターへ導き、フィルムの両端をクリップで把持しながら搬送して、長手方向と幅方向に同時および/または段階的に延伸する。同時二軸延伸機としては、パンタグラフ方式、スクリュー方式、駆動モーター方式、リニアモーター方式があるが、任意に延伸倍率を変更可能であり、任意の場所で弛緩処理を行うことができる駆動モーター方式もしくはリニアモーター方式が好ましい。延伸の倍率としては樹脂の種類により異なるが、通常、面積倍率として6〜50倍が好ましく、積層二軸延伸ポリエステルフィルムを構成する樹脂のいずれかにポリエチレンテレフタレートを用いた場合には、面積倍率として8〜30倍が特に好ましく用いられる。特に同時二軸延伸の場合には、面内の配向差を抑制するために、長手方向と幅方向の延伸倍率を同一とするとともに、延伸速度もほぼ等しくなるようにすることが好ましい。また、延伸温度としては積層二軸延伸ポリエステルフィルムを構成する樹脂のガラス転移温度〜ガラス転移温度+120℃が好ましい。
【0051】
こうして二軸延伸された積層ポリエステルフィルムは、平面性、寸法安定性を付与するために、引き続きテンター内で延伸温度以上融点以下の熱処理を行うのが好ましい。この熱処理の際に、幅方向での主配向軸の分布を抑制するため、熱処理ゾーンに入る直前および/または直後に瞬時に長手方向に弛緩処理することが好ましい。このようにして熱処理された後、均一に徐冷後、室温まで冷やして巻き取られる。また、必要に応じて、熱処理から徐冷の際に長手方向および/あるいは幅方向に弛緩処理を行っても良い。熱処理ゾーンに入る直前および/あるいは直後に瞬時に長手方向に弛緩処理する。
【0052】
つづいて、本発明にかかる積層二軸延伸ポリエステルフィルムの最表面に硬化性樹脂Cを主成分とするハードコート層を設けてなる積層シートについて記述する。
本発明の積層二軸延伸ポリエステルフィルムは、最表面に耐擦傷性や寸法安定性などの機能を付加できる樹脂層であるハードコート層を設けてなることがより好ましい。特に、ディスプレイ向けの光学フィルムの場合、前述の85℃85%RHの条件で処理を行うことをはじめとする各種信頼性試験において積層二軸延伸ポリエステルフィルムの性状が変化しないことが要求される。延伸により配向結晶化した積層二軸延伸ポリエステルフィルムの場合、信頼性試験の条件がより過酷な場合、熱収縮によりフィルムの寸法が変化することが考えられる。熱収縮が起こることでフィルムの厚みが増加するため、紫外線吸収剤の吸収性能が向上する、反射波長帯域が長波長側にシフトして望まない可視光線の波長カットが発生するなどの問題点が生じる。ハードコート層は積層二軸延伸ポリエステルフィルムの上に直接コーティングされてもよく、前述の製造方法に記載の通り、易滑性や易接着性などの機能を付与できるインライン水系コーティング層を設けた上にコーティングされてもよい。
さらに、ハードコート層を最表面に設けることで、架橋による密度の高い層が最表面に位置することとなり、積層二軸延伸ポリエステルフィルムの積層構造で十分にカットできなかったオリゴマーや添加剤の析出を、さらに強くブロックすることが出来る。ハードコートはオフコートにより積層二軸延伸ポリエステルフィルムに後から積層されることから、該効果は、特に信頼性試験において強く発揮される。
硬化性樹脂Cを主成分とするハードコート層(C層)は片面に設けてもよいが、オリゴマーなどの析出は一般にフィルムの両面より発生し、さらに片面のみに積層する場合は積層面側に硬化による収縮応力が強く働き、ハードコート層の積層厚みによって積層シート自身が著しくカールする恐れがある。そのため、オリゴマー等のブロック層としてのハードコート層は、積層二軸延伸ポリエステルフィルムの両面に塗布されていてもよい。
ハードコート層を積層する際に、予め積層二軸延伸ポリエステルフィルムに塗布する易接着層は、易滑性や易接着性などの機能を付与するだけでなく、硬化性樹脂Cを主成分とするハードコート層を積層する際に、積層二軸延伸ポリエステルフィルムとの密着性を向上させる効果を奏する。最表層に位置するA層を構成する結晶性ポリエステルとしてポリエチレンテレフタレートを、硬化性樹脂Cとしてアクリル樹脂を用いる場合、前者は屈折率が1.64〜1.68程度、後者は屈折率が1.50程度と屈折率差が大きくなることから、層間密着性の悪化を引き起こすことが懸念される。そのため、易接着層の屈折率は1.53〜1.60の値に調整されることが好ましく、より好ましくは1.55〜1.58の屈折率である。
【0053】
ハードコート層を構成する硬化性樹脂Cは、高透明で耐久性があるものが好ましく、例えば、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、フッソ系樹脂、シリコン樹脂、ポリカーボネート系樹脂、塩化ビニル系樹脂を単独または混合して使用できる。特に、硬化性や可撓性、生産性の点において、硬化性樹脂Cはポリアクリレート樹脂に代表されるアクリル樹脂などの活性エネルギー線硬化型樹脂からなることが好ましい。また、曲面追従性が求められる部位に適用するフィルムに求められる、折り曲げ時の耐擦傷性を付加する場合、硬化性樹脂Cは熱硬化性ウレタン樹脂からなることが好ましい。
【0054】
ハードコート層の構成成分として用いられる活性エネルギー線硬化型樹脂は、該活性エネルギー線硬化型樹脂を構成するモノマー成分としては、例えば、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ビス(メタクロイルチオフェニル)スルフィド、2,4−ジブロモフェニル(メタ)アクリレート、2,3,5−トリブロモフェニル(メタ)アクリレート、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロイルオキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロイルオキシエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロイルオキシジエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロイルペンタエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロイルオキシエトキシ−3,5−ジブロモフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロイルオキシジエトキシ−3,5−ジブロモフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロイルオキシペンタエトキシ−3,5−ジブロモフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロイルオキシエトキシ−3,5−ジメチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロイルオキシエトキシ−3−フェニルフェニル)プロパン、ビス(4− (メタ)アクリロイルオキシフェニル)スルホン、ビス(4−(メタ)アクリロイルオキシエトキシフェニル)スルホン、ビス(4−(メタ)アクリロイルオキシペンタエトキシフェニル)スルホン、ビス(4−(メタ)アクリロイルオキシエトキシ−3−フェニルフェニル)スルホン、ビス(4−(メタ)アクリロイルオキシエトキシ−3,5−ジメチルフェニル)スルホン、ビス(4−(メタ)アクリロイルオキシフェニル)スルフィド、ビス(4−(メタ)アクリロイルオキシエトキシフェニル)スルフィド、ビス(4−(メタ)アクリロイルオキシペンタエトキシフェニル)スルフィド、ビス(4−(メタ)アクリロイルオキシエトキシ−3−フェニルフェニル)スルフィド、ビス(4−(メタ)アクリロイルオキシエトキシ−3,5−ジメチルフェニル)スルフィド、ジ((メタ)アクリロイルオキシエトキシ)フォスフェート、トリ((メタ)アクリロイルオキシエトキシ)フォスフェートなどの多官能(メタ)アクリル系化合物を用いることができ、これらは1種もしくは2種類以上を併用することが出来る。
【0055】
また、これら多官能(メタ)アクリル系化合物とともに、活性エネルギー線硬化型樹脂の硬度、透明性、強度、屈折率などをコントロールするため、スチレン、クロロスチレン、ジクロロスチレン、ブロモスチレン、ジブロモスチレン、ジビニルベンゼン、ビニルトルエン、1−ビニルナフタレン、2−ビニルナフタレン、N−ビニルピロリドン、フェニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、ビフェニル(メタ)アクリレート、ジアリルフタレート、ジメタリルフタレート、ジアリルビフェニレート、あるいはバリウム、鉛、アンチモン、チタン、錫、亜鉛などの金属と(メタ)アクリル酸との反応物などを用いることができる。これらは1種もしくは2種類以上を併用してもよい。
【0056】
活性エネルギー線硬化型樹脂を硬化させる方法として、例えば、紫外線を照射する方法を用いることができるが、この場合には、前記化合物に対し、0.01〜10重量部程度の光重合開始剤を加えることが望ましい。
【0057】
本発明に用いる活性エネルギー線硬化型樹脂には、塗工時の作業性の向上、塗工膜厚のコントロールを目的として、本発明の効果を損なわない範囲において、イソプロピルアルコール、酢酸エチル、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、トルエンなどの有機溶剤を配合することができる。
【0058】
本発明において活性エネルギー線とは、紫外線、電子線、放射線(α線、β線、γ線など)などアクリル系のビニル基を重合させる電磁波を意味し、実用的には、紫外線が簡便であり好ましい。紫外線源としては、紫外線蛍光灯、低圧水銀灯、高圧水銀灯、超高圧水銀灯、キセノン灯、炭素アーク灯などを用いることができる。また、電子線方式は、装置が高価で不活性気体下での操作が必要ではあるが、光重合開始剤や光増感剤などを含有させなくてもよい点から有利である。
【0059】
耐擦傷性を付加するために硬化性樹脂Cを主成分とするハードコート層(C層)の構成成分として用いられる熱硬化性ウレタン樹脂は、ポリカプロラクトンセグメントならびにポリシロキサンセグメントおよび/またはポリジメチルシロキサンセグメントを有する共重合体樹脂を、イソシアネート基を有する化合物と熱反応により架橋させた樹脂が好ましい。熱硬化性ウレタン樹脂を適用することで、硬化性樹脂Cを主成分とするハードコート層を強靭にすると同時に弾性回復性を助長することが可能となり、適度な耐擦傷性を光学フィルムに付加することが可能となる。
【0060】
熱硬化性ウレタン樹脂を構成するポリカプロラクトンセグメントは、弾性回復の効果を奏するものであり、ポリカプロラクトンジオール、ポリカプロラクトントリオールや、ラクトン変性ヒドロキシエチルアクリレートなどのラジカル重合性ポリカプロラクトンを用いることが出来る。
【0061】
熱硬化性ウレタン樹脂を構成するポリシロキサンおよび/またはポリジメチルシロキサンセグメントは、これらの成分が表面配位することで表面の潤滑性を向上し、摩擦抵抗を低減する効果を奏する。ポリシロキサンセグメントを有する樹脂としては、テトラアルコキシシラン、メチルトリアルコキシシラン、ジメチルジアルコキシシラン、γ‐グリシドキシプロピルトリアルコキシシラン、γ‐メタクリロキシプロピルトリアルコキシシランなどを用いることができる。一方、ポリジメチルシロキサンセグメントを有する樹脂としては、ポリジメチルシロキサンセグメントに種々のビニルモノマー、たとえば、メチルアクリレート、イソブチルアクリレート、メチルメタクリレート、n−ブチルメタクリレート、スチレン、α−メチルスチレン、アクリロニトリル、酢酸ビニル、塩化ビニル、フッ化ビニル、アクリルアミド、メタクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、などが共重合された共重合体を好ましく用いることが出来る。
熱硬化性ウレタン樹脂からなるハードコート層は、任意の温度で樹脂や化合物同士を連結反応させ、層内の溶媒を揮発させると同時に熱架橋することで形成される。熱硬化性ウレタン樹脂の熱架橋反応を促進させるため、加熱工程における温度は150℃以上であることが好ましく、より好ましくは160℃以上である。加熱温度は高温であることが好ましいが、基材の熱収縮による収縮シワの発生などを考慮すると170℃以下で熱処理することが好ましい。加熱時間は、1分間以上、好ましくは2分間以上であり、上限は特に定められるものではないが、積層二軸延伸ポリエステルフィルムの寸法安定性や透明性の観点から5分間以内とすることが好ましい。このようにして、高温で短時間熱処理された積層シートは、20℃〜80℃の温度で3日以上、より好ましくは7日以上エージング処理を行うことが、ウレタン結合を増やして積層シートの伸度を向上させる点で好ましい。
【0062】
ハードコート層の厚みは、使用目的により適切に調整されるべきであるが、ディスプレイ用途での薄膜傾向およびハードコート性能の両立の観点から鑑みると、通常は1〜6μmであることが好ましく、より好ましくは1〜3μmであり、さらに好ましくは1〜1.5μmである。ハードコート層の厚みが6μmより厚い場合、相当厚いフィルムを利用しない限り、ハードコート層を硬化させる際に積層二軸延伸ポリエステルフィルムが力学的強度に劣り、積層シートが強くカールするため好ましくない。
硬化性樹脂Cを主成分とするハードコート層には、前述した種々の紫外線吸収剤をはじめとする各種添加剤が含有されてもよい。積層二軸延伸ポリエステルフィルムとハードコート層とに分けて含有することで、積層二軸延伸ポリエステルフィルムの各層に分布する各種添加剤の含有濃度が減少するため、樹脂押出時に発生するブリードアウト現象を抑制することが出来るため好ましい。
ハードコート層に含有する紫外線吸収剤含む添加剤の含有濃度は、ハードコート層を構成する硬化性樹脂組成物全体に対して5wt%以下であることが好ましく、より好ましくは3wt%以下である。含有濃度については、各種添加剤の性能およびハードコート層の厚みを鑑みて、目的とするカット性能を達成するために適宜調節されるべきであるが、5wt%を超える場合、ハードコート層の厚みに関わらず、ハードコート層積層時の熱処理工程や、信頼性試験おいてヘイズが上昇するため好ましくない。
【0063】
(特性の測定方法および効果の評価方法)
本発明における特性の測定方法、および効果の評価方法は次のとおりである。
【0064】
(1)層厚み、積層数、積層構造
フィルムの層構成は、ミクロトームを用いて断面を切り出したサンプルについて、透過型電子顕微鏡(TEM)観察により求めた。すなわち、透過型電子顕微鏡H−7100FA型((株)日立製作所製)を用い、加速電圧75kVの条件でフィルムの断面を観察し、断面写真を撮影、層構成および各層厚みを測定した。尚、場合によっては、コントラストを高く得るために、RuO
4やOsO
4などを使用した染色技術を用いた。また、1枚の画像に取り込められるすべての層の中で最も厚みの薄い層(薄膜層)の厚みにあわせて、薄膜層厚みが50nm未満の場合は10万倍、薄膜層厚みが50nm以上500nm未満である場合は4万倍、500nm以上である場合は1万倍の拡大倍率にて観察を実施した。
【0065】
(2)層厚みの算出方法
(1)項で得られたTEM写真画像を、CanonScanD123Uを用いて画像サイズ720dpiで取り込んだ。画像をビットマップファイル(BMP)もしくは、圧縮画像ファイル(JPEG)でパーソナルコンピューターに保存し、次に、画像処理ソフト Image−Pro Plus ver.4(販売元 プラネトロン(株))を用いて、このファイルを開き、画像解析を行った。画像解析処理は、垂直シックプロファイルモードで、厚み方向位置と幅方向の2本のライン間で挟まれた領域の平均明るさとの関係を、数値データとして読み取った。表計算ソフト(Excel2000)を用いて、位置(nm)と明るさのデータに対してサンプリングステップ1でデータ採用した後に、3点移動平均の数値処理を施した。さらに、この得られた周期的に明るさが変化するデータを微分し、VBA(Visual Basic for Applications)プログラムにより、その微分曲線の極大値と極小値を読み込み、隣り合うこれらの間隔を1層の層厚みとして層厚みを算出した。この操作を写真毎に行い、全ての層の層厚みを算出した。
【0066】
(3)リタデーションRe(0°)
王子計測機器(株)製 位相差測定装置(KOBRA−21ADH)を用いた。サンプルをフィルム幅方向中央部から幅方向5.0cm×長手方向4.0cmで切り出し、フィルム幅方向が本測定装置にて定義されている角度0°となるように装置に設置し、入射角0°における波長590nmのリタデーションを測定した。
【0067】
(4)配向角
王子計測機器(株)製 位相差測定装置(KOBRA−21ADH)を用いた。サンプルをフィルム幅方向中央部から幅方向5.0cm×長手方向4.0cmで切り出し、フィルム幅方向が本測定装置にて定義されている角度0°となるように装置に設置し、フィルム幅方向に対して時計回りの傾きを+、反時計回りを−とし、その絶対値を測定結果とした。
【0068】
(5)光線透過率T
380、T
400
日立ハイテクノロジーズ製の分光光度計U−4100を使用した。積分球を取り付け、酸化アルミニウム標準白色板(本体付属)の反射光線を利用して測定した透過光線を100%としたときの、380nmおよび400nmにおける相対光線透過率を測定し、各波長における光線透過率とした。条件として、スリットは2nm(可視)、ゲインは2、スキャン速度は600nm/min、サンプリングピッチは1nmに設定し、連続的に測定した。
【0069】
(6)平均光線反射率
日立ハイテクノロジーズ製の分光光度計U−4100を使用した。積分球を取り付け、酸化アルミニウム標準白色板(本体付属)の反射光線を100%としたときの、300〜380nm領域での相対光線反射率を測定し、該範囲での平均光線反射率を求めた。条件として、スリットは2nm(可視)、ゲインは2、スキャン速度を600nm/min、サンプリングピッチを1nmに設定し、連続的に測定した。
【0070】
(7)ヘイズ測定
スガ試験機(株)製 ヘイズメーター(HGM−2DP)を用いた。サンプルをフィルム幅方向中央部から10cm×10cmで切り出し、旧JIS−K−7105に準じて測定を行うことで全光線透過率ならびにヘイズ値を測定した。フィルム幅方向に対して等間隔で3点測定し、その平均値を測定結果とした。
【0071】
(8)融解エンタルピー
積層二軸延伸ポリエステルフィルムを1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−イソプロパノールに溶解し、室温下でゲル透過クロマトグラフィー法により低分子物質を抽出した。その後、乾燥し得られた粉末をクロロホルムに溶解し、溶液を回収して乾燥することで紫外線吸収剤粉末を得た。得られた粉末試料5mgをアルミニウム製パンおよびパンカバーを用いて封入し、セイコー電子工業(株)製”ロボットDSC−RDC220”、データ解析”ディスクセッションSSC/5200”を用いて示差熱量分析(DSC)を行った。窒素雰囲気下で25℃から300℃まで昇温速度20℃/分で昇温し、そのときの融解エンタルピー(J/g)を読み取った。
【0072】
(9)85℃85%RH促進耐湿熱試験
エスペック(株)製 恒温恒湿機(LHL−114)を用いた。前記ヘイズ測定と同様にしてサンプルを切り出し、スガ試験機(株)ヘイズメーター(HGM−2DP)でヘイズ値を測定後、サンプルを普通紙に挟んだ状態で恒温恒湿機に静置した。200時間静置後、同ヘイズメーターでヘイズ値を測定し、ヘイズ値の変化量をΔヘイズとして読み取った。
【0073】
(10)ハードコート層(実施例13、15)
ハードコート層を構成する活性エネルギー線硬化型ウレタンアクリル樹脂(日本合成化学工業(株)製 紫光UV−1700B[屈折率:1.50〜1.51])を、メチルエチルケトン溶媒を用いて30%の濃度に希釈し、積層二軸延伸ポリエステルフィルムの最表面上にバーコーターを用いて均一に塗布した。次いで、ハードコート層の表面から13cmの高さにセットした120W/cm
2の照射強度を有する集光型高圧水銀灯(アイグラフィックス(株)製 H04−L41)で、積算照射強度が180mJ/cm
2となるように紫外線を照射し、硬化させ、積層二軸延伸ポリエステルフィルム上にハードコート層が積層された積層シートを得た。なお、紫外線の積算照射強度測定には工業用UVチェッカー(日本電池(株)製UVR−N1)を用いた。
【0074】
(11)視認性
PVA中にヨウ素を吸着・配向させて作成した偏光度99.9%の偏光板の一方の面にフィルムの幅方向中央部分から幅方向に420mm、長手方向に310mmのサイズで切り出したサンプルに貼り合わせてテストピースとした。作成したテストピースとフィルムを貼り付けていない偏光板とをクロスニコルの配置にて重ね合わせLED光源(トライテック製A3−101)上においた場合の視認性を確認した。
【0075】
◎:干渉縞や干渉色、虹斑はほとんどみられない。
【0076】
○:干渉縞や干渉色、虹斑が若干見られるものの実用上問題ない。
【0077】
△:干渉縞や干渉色、虹斑が気になるため、ディスプレイ用途で使用できるが出来る限り避けたい。
【0078】
×:干渉縞や干渉色、虹斑がはっきりみられるため、ディスプレイ用途には全く適さない。
【0079】
(12)虹斑
23℃の暗室にて、LED光源の液晶表示装置に白色画像を表示させ、画像表示装置上に幅方向に420mm、長手方向に310mmのサイズで切り出したフィルムを載せた。フィルムの面直方向を基準として仰角を40°〜80°で変化させながら目視することで、虹状の着色の有無を確認した。
◎:角度の変化に対して、色相変化はほとんど観られない。
○:色相が変化する範囲が、仰角40°〜50°の狭い範囲であり、実用上問題ない
△:色相の変化する範囲が、仰角40°〜60°の範囲であり、使用は出来る限り避けたい
×:角度変化に対して色相が顕著に変化し、実用面で全く適さない。
【実施例】
【0080】
以下、実施例により本発明をより詳細に説明する。但し、以下実施例2、3、及び9は参考例とする。
(実施例1)
結晶性ポリエステルAとして、融点が254℃のポリエチレンテレフタレート(PET)を用いた。また熱可塑性樹脂Bとして融点を持たない非晶性樹脂であるシクロヘキサンジカルボン酸20mol%ならびにスピログリコール15mol%を共重合したポリエチレンテレフタレート(PE/SPG15T/CHDC20)を用いた。熱可塑性樹脂B内には、分子量が650g/molのベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤をフィルム全体の重量比率で2.0wt%となるように添加し、混練した。準備した結晶性ポリエステルAと熱可塑性樹脂Bをそれぞれ、2台の単軸押出機に投入し、前者は280℃、後者は260℃で溶融させて、混練した。次いで、それぞれFSSタイプのリーフディスクフィルタを5枚介した後、ギアポンプにて計量しながら、スリット数255個のフィードブロックにて合流させて、積層比1.0の厚さ方向に交互に255層積層された積層体とした。ここでは、スリット長さは階段状になるように設計し、間隔は全て一定とした。得られた積層体は、結晶性ポリエステルAからなる層(A層)が128層、熱可塑性樹脂Bからなる層(B層)が127層であり、厚さ方向に交互に積層されていた。最表層の厚みは40nmであった。該積層体をTダイに供給し、シート状に成形した後、ワイヤーで8kVの静電印可電圧をかけながら、表面温度が25℃に保たれたキャスティングドラム上で急冷固化し、未延伸の積層キャストフィルムを得た。
【0081】
得られた積層キャストフィルムを、100℃に設定したロール群で加熱した後、延伸区間長100mmの間で、フィルム両面からラジエーションヒーターにより急速加熱しながら、フィルム長手方向に3.3倍延伸し、その後一旦冷却した。つづいて、この積層一軸延伸ポリエステルフィルムの両面に空気中でコロナ放電処理を施し、基材フィルムの濡れ張力を55mN/mとし、そのフィルム両面の処理面に(#4のメタバーで易滑層となる粒径100nmのコロイダルシリカを3wt%含有した酢酸ビニル・アクリル系樹脂を含有した水系塗剤をコーティングし(以後、コーティングを行うとは、前記内容を意味する。)、透明な易滑・易接着層を形成した。
【0082】
この積層一軸延伸ポリエステルフィルムをテンターに導き、90℃の熱風で予熱後、140℃の温度でフィルム幅方向に3.3倍延伸した。ここでの延伸速度と温度は一定とした。延伸したフィルムは、そのまま、テンター内で190℃の熱風にて熱処理を行い、続いて同温度条件で幅方向に1%の弛緩処理を施し、その後巻き取ることで、積層二軸延伸ポリエステルフィルムを得た。得られた積層二軸延伸ポリエステルフィルムは、表1に示すとおりの物性を示すものであった。厚みは15μm、380nmや400nmにおける光線透過率はそれぞれ、9%、84%と目標値を満足し、透過スペクトルのリップルは見られなかった。また、面内の配向をはじめとするフィルムの基本物性も要求を満足するものであった。
【0083】
(比較例1)
実施例1において、紫外線吸収剤を添加せずに同様の手法でフィルムを作成した。無色透明の、積層構造による紫外線反射の効果が発揮された積層二軸延伸ポリエステルフィルムを得たが、紫外線吸収剤を添加していないため、波長380nmでの紫外線カット不足が顕著であり、偏光子を保護する目的での光学用途として適さないフィルムであった。
【0084】
(比較例2)
実施例1において、50nm以下の層厚みを有する層数が第2層から数えて連続して5層のみとした以外は、実施例1と同様にして積層二軸延伸ポリエステルフィルムを得た。得られた積層二軸延伸ポリエステルフィルムは表層近傍で50nmを超える層厚みを有するため、光干渉に伴うリップルが発現し、紫外線領域において光線透過率の抜けが顕著に確認された。特に、紫外線の透過は偏光子や液晶分子の劣化を引き起こすため、今回得られたフィルムは光学用途としては適さないものであった。
【0085】
(比較例3)
実施例1において、最表層の厚みが80nmとなる設計を施したスリット数255個のフィードブロックで異なる2種類の樹脂を積層し、積層比1.0の交互に255層積層された積層体とした以外は、実施例1と同様にして積層二軸延伸ポリエステルフィルムを得た。得られたフィルムは、最表層が厚いことによるリップルの発生により積層構造の光干渉反射に伴う干渉縞が見られた。
【0086】
(実施例2)
実施例1において、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤を、結晶性ポリエステルAのみに2wt%添加した以外は、同様の手法で積層二軸延伸ポリエステルフィルムを得た。最表層を含む結晶性ポリエステルAからなる層に紫外線吸収剤を添加したため、製膜時に口金付近からの紫外線吸収剤の揮散が確認された。積層二軸延伸ポリエステルフィルムの基本性能は、実施例1と同等であり、光学用途として利用可能なものであった。
【0087】
(実施例3)
実施例1において、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤を、結晶性ポリエステルAに対して1wt%共重合、熱可塑性樹脂Bに対して1wt%添加し、異なる2台の押出機に投入して製膜した以外は、実施例1と同様の手法で積層二軸延伸ポリエステルフィルムを得た。実施例2と異なり、樹脂に紫外線吸収剤を共重合したことで、口金付近からの紫外線吸収剤の揮散が抑制される結果となった。積層二軸延伸ポリエステルフィルムの性能は実施例1と同等であった。
【0088】
(実施例4)
実施例1において、スリット数491個のフィードブロックで樹脂を積層し、積層比1.3の厚さ方向に交互に491層積層された積層体とした。また、最表層の層厚みが5μmとなるように設計した。得られた積層二軸延伸ポリエステルフィルムは、結晶性ポリエステルA層が246層、熱可塑性樹脂B層が245層であり、厚さ方向に交互に積層されていることを透過型電子顕微鏡観察により確認した。その他、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤の含有濃度を0.8wt%とした以外は、紫外線吸収剤の添加処方やフィルムの延伸条件は実施例1に記載の手法で行った。得られた積層二軸延伸ポリエステルフィルムは、表1に記載の物性を示し、最表層である結晶性ポリエステルA層が厚く存在するためにRe(0°)の値は少し高かったものの、リップルなく透過率も満足していた。また、最表層の結晶性ポリエステルからなる層(A層)が5μmの厚みを有しているため、熱可塑性樹脂Bに添加したベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤の揮散は確認されず、85℃85%RHの信頼性試験におけるΔヘイズは実施例1と比較して、とりわけ低下する結果となった。
(実施例5)
実施例2において、紫外線吸収剤として、分子量が350g/molのベンゾオキサジン系の紫外線吸収剤を0.7wt%添加した以外は、実施例2と同様にしてフィルムを得た。融解エンタルピーは、これまでのベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤と比較しても、117J/gと高く、製膜時の昇華性が懸念されたものの、最表層が5μmと厚いために紫外線吸収剤の揮散は抑制され、製膜時の装置の汚染などは確認されなかった。フィルムの物性も、Re(0°)の値や配向角が高いこと以外は概ね目標を満足するものであり、光学部材として利用することができるものであった。
【0089】
(実施例6)
実施例1において、紫外線吸収剤として、分子量が350g/molのベンゾオキサジン系紫外線吸収剤を1.8wt%添加した以外は、実施例1と同様の製膜手法で積層二軸延伸ポリエステルフィルムを得た。得られた積層二軸延伸ポリエステルフィルムの物性は表1に記載の通りであるが、最表層の層厚みが40nmと薄いため、口金より吐出した際に昇華した紫外線吸収剤が製膜装置を汚染する結果となったが、得られた積層二軸延伸ポリエステルフィルムは、物性や光学特性ともに目標値を満たした。
【0090】
(実施例7)
実施例1において、紫外線吸収剤として、融解エンタルピーが40J/gを示す、分子量が700g/molのトリアジン系紫外線吸収剤を0.8wt%となるように添加した以外は、実施例1と同様にして積層二軸延伸ポリエステルフィルムを作成した。該トリアジン系紫外線吸収剤は、口金からの揮散もなく、85℃85%RH200時間の信頼性試験においても表面に析出しない結果となった。吸収波長がやや紫外線領域の長波長側まで及んでいるものの、フィルムの基本性能は目標を満足しており、これまでの実施例に用いた紫外線吸収剤の中で最も好適なものであった。
【0091】
(比較例4)
実施例7において、トリアジン系紫外線吸収剤を1.5wt%添加した以外は、実施例7と同様の手法でフィルムを得た。紫外線このトリアジン系紫外線吸収剤は長波長側の紫外線吸収剤を吸収吸収するものであることから、波長400nmの可視光線領域での透過率が73%と低い値を示した。フィルム自体が黄色色相を呈しており、光学用途として利用できないものであった。
【0092】
(実施例8)
実施例1において、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤の含有濃度を1.1wt%とし、さらに実施例7に用いたトリアジン系紫外線吸収剤を0.4wt%併用して熱可塑性樹脂Bに添加した以外は、実施例1と同様の手法で積層二軸延伸ポリエステルフィルムを得た。トリアジン系紫外線吸収剤の併用により、実施例1で確認された口金からの揮散および信頼性試験におけるΔヘイズ上昇が抑制された。
【0093】
(実施例9)
実施例8において、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤を結晶性ポリエステルAに共重合し、トリアジン系紫外線吸収剤のみを熱可塑性樹脂Bに添加した以外は、同様の手法で積層二軸延伸ポリエステルフィルムを得た。実施例3と同じく、共重合による揮散抑制の効果、さらに揮散・析出しにくいトリアジン系紫外線吸収剤の利用により、製膜汚染は全くなかった。得られたフィルムの特性は、実施例8と同等であった。
【0094】
(実施例10)
実施例8において、紫外線吸収剤以外に、熱可塑性樹脂B内にベンゾトリアゾール系の蛍光増白剤を0.2wt%添加した以外は、同様の手法で積層二軸延伸ポリエステルフィルムを得た。蛍光増白剤の効果により、波長400nmにおける光線透過率は向上し、クリア感が上昇した。その他の基本性能は、実施例8と同等であった。
【0095】
(実施例11)
実施例10において、結晶性ポリエステルAとしてイソフタル酸を5mol%共重合したポリエチレンテレフタレート樹脂を、熱可塑性樹脂Bとしてイソフタル酸を25%共重合したポリエチレンテレフタレート樹脂を用いた。さらに、各樹脂の押出機からの吐出量を変更して積層比を0.7、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤およびトリアジン系紫外線吸収剤の含有濃度をそれぞれ、1.0wt%、0.3wt%と減少させた以外は、実施例10と同様の手法でフィルムを得た。イソフタル酸を共重合して積層比を下げたことで、リタデーションRe(0°)が低減しただけでなく、斜め方向から視認した際の虹斑の低減にも効果を発揮した。
【0096】
(実施例12)
実施例8において、結晶性ポリエステルとしてスピログリコール(SPG)を5mol%共重合したポリエチレンテレフタレート樹脂を、熱可塑性樹脂BとしてSPGを35mol%共重合したポリエチレンテレフタレート樹脂を用いた以外は、実施例8と同様にして積層二軸延伸ポリエステルフィルムを得た。得られたフィルムの特性は実施例8と殆ど変化は無かったが、SPGを両層に添加したことで、85℃85%RH条件でフィルムを処理した際の力学特性変化が強く抑制されており、ディスプレイ用途に適したフィルムであった。
【0097】
(実施例13)
実施例8の積層二軸延伸ポリエステルフィルムを作成後、フィルムの片面にハードコート層を積層した。ハードコート層を積層したことで、分光スペクトルの光干渉によるリップルが低減し、フィルムの透明感が増した。また、架橋性の強いハードコートを積層したため、85℃85%RHの信頼性試験後のΔヘイズは、これまでの実施例の中で最も抑制される結果となった。
【0098】
(実施例14)
実施例8において、結晶性ポリエステルAとして、ポリエチレンナフタレート(PEN)を20mol%添加したポリエチレンテレフタレート樹脂を用いた。また、結晶性ポリエステルAの押出し温度を240℃とし、長手方向への延伸する際のロール温度を125℃、テンター内での熱処理温度を180℃に設定した以外は、同様の逐次二軸延伸で積層二軸延伸ポリエステルフィルムを得た。また、積層二軸延伸ポリエステルフィルムの厚みが8μm、積層比が0.7となるように押出条件を調整した。8μmと薄膜であったものの、ハンドリング性は問題なかった。また、ポリエチレンナフタレート樹脂本来の吸収があるため、波長380nmにおける光線透過率は、薄膜であっても10%を示しており、目標値を満足した。
【0099】
(比較例5)
結晶性ポリエステルAおよび熱可塑性樹脂Bとして、ポリエチレンナフタレート(PEN)樹脂を用いた。2台の押出機の温度を290℃とし、実施例14と同じ条件で延伸後、5μmの単膜の二軸延伸ポリエステルフィルムを得た。紫外線吸収剤として、実施例8と同様に、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤およびトリアジン系紫外線吸収剤の併用処方を用いた。PENの吸収が強く、波長400nmにおける光線透過率は73%と目標値を満足しなかった。また、フィルム自体が脆弱であり、巻き取り性やハンドリング性に問題が生じた。さらに、リタデーションRe(0°)も200nmを越え、斜め方向からの視認による虹斑が確認されたため、光学用途としては適さないものとなった。
【0100】
(比較例6)
実施例14において、厚みが18μmとなるように設計した以外は、同様の方法で積層二軸延伸ポリエステルフィルムを得た。ポリエチレンナフタレートの樹脂由来の吸収のため、波長400nmにおける光線透過率は71%と目標値より低い値を示した。また、リタデーションRe(0°)は362nmと高く、比較例5と同様に斜め方向からの視認において虹斑が強く確認され、光学用途として好ましくないものであった。
【0101】
(実施例15)
実施例14において、熱可塑性樹脂BとしてSPGを35mol%添加したポリエチレンテレフタレート樹脂を用いた以外は、同様の手法で積層二軸延伸ポリエチレンテレフタレートを得た。その後、積層二軸延伸ポリエステルフィルムの両面にハードコート層を1μmずつ積層し、積層シートを得た。ハードコートには、分子量が630g/molのトリアジン系紫外線吸収剤を2wt%添加し、光線吸収によるポリエチレンナフタレート成分の劣化を抑制した。両面にハードコート層を積層したことで、揮散や表面析出、リップル抑制に効果が発揮され、外観も良好であった。
【0102】
【表1】
【0103】
【表2】