(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6776615
(24)【登録日】2020年10月12日
(45)【発行日】2020年10月28日
(54)【発明の名称】動吸振器
(51)【国際特許分類】
F16F 15/14 20060101AFI20201019BHJP
【FI】
F16F15/14 Z
【請求項の数】7
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2016-100551(P2016-100551)
(22)【出願日】2016年5月19日
(65)【公開番号】特開2017-207151(P2017-207151A)
(43)【公開日】2017年11月24日
【審査請求日】2019年4月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】アイシン精機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】230104019
【弁護士】
【氏名又は名称】大野 聖二
(74)【代理人】
【識別番号】100106840
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 耕司
(74)【代理人】
【識別番号】100131451
【弁理士】
【氏名又は名称】津田 理
(74)【代理人】
【識別番号】100167933
【弁理士】
【氏名又は名称】松野 知紘
(74)【代理人】
【識別番号】100174137
【弁理士】
【氏名又は名称】酒谷 誠一
(74)【代理人】
【識別番号】100184181
【弁理士】
【氏名又は名称】野本 裕史
(72)【発明者】
【氏名】神保 優
(72)【発明者】
【氏名】近藤 宏亮
(72)【発明者】
【氏名】藤原 拓也
(72)【発明者】
【氏名】小室 誠
【審査官】
保田 亨介
(56)【参考文献】
【文献】
特表2011−522185(JP,A)
【文献】
特開2000−046116(JP,A)
【文献】
特開2012−141018(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16F15/00−15/36
F16H39/00−47/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転プレートと、
前記回転プレートを軸方向に貫通するように設けられた複数の支持ピンと、
周方向に隣り合う2つの支持ピンの間にそれぞれ配置された複数の質量体と、
を備え、
前記支持ピンの各々は、当該支持ピンに対して周方向の一方側に隣接する質量体の端部を軸方向の一方側の端部にて揺動可能に支持しており、当該支持ピンに対して周方向の他方側に隣接する質量体の端部を軸方向の他方側の端部にて揺動可能に支持している、
動吸振器。
【請求項2】
前記質量体は、径方向から見てクランク形状を有している、
請求項1に記載の動吸振器。
【請求項3】
前記質量体は、径方向から見て点対称な形状を有している、
請求項2に記載の動吸振器。
【請求項4】
前記回転プレートは、径方向に延びる複数のフランジを有し、
各フランジには、それぞれ前記支持ピンが1つずつ軸方向に貫通するように設けられている、
請求項1〜3のいずれかに記載の動吸振器。
【請求項5】
各質量体は、
前記複数のフランジのうちの隣り合う2つのフランジの間に配置された中間板材と、
前記中間板材に対して軸方向の一方側に配置された第1板材と、
前記中間板材に対して軸方向の他方側に配置された第2板材と、
を有し、
前記第1板材の周方向の一方側の端部が、当該第1板材に対して周方向の一方側に隣接する支持ピンにより揺動可能に支持され、当該第1板材の周方向の他方側の端部が、前記中間板材に連結されており、
前記第2板材の周方向の一方側の端部が、前記中間板材に連結され、当該第2板材の周方向の他方側の端部が、当該第2板材に対して周方向の他方側に隣接する支持ピンにより揺動可能に支持されており、
前記第1板材の周方向の他方側の端部と、当該第1板材に対して周方向の他方側に隣接する支持ピンとの間には間隔があけられており、
前記第2板材の周方向の一方側の端部と、当該第2板材に対して周方向の一方側に隣接する支持ピンとの間には間隔があけられている、
請求項4に記載の動吸振器。
【請求項6】
前記第1板材と前記第2板材とは、同一形状を有している
ことを特徴とする請求項5に記載の動吸振器。
【請求項7】
各支持ピンは、前記回転プレートに対して各々の軸線回りに回転可能に設けられている、
請求項1〜6のいずれかに記載の動吸振器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動吸振器に関し、特に振り子式動吸振器に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等のエンジンによって発生する動力伝達系の回転振動を、動力伝達系に取り付けられた質量体の振り子運動による動吸振器作用によって低減させる機構が知られている。
【0003】
たとえば、特許文献1には、回転プレートの周方向に複数の質量体が分配され、各質量体に対して運動の軌跡を規定する支持部材が質量体ごとに別個に2つずつ用意されている遠心振り子式動吸振器が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2011−522185号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このような従来の動吸振器では、各質量体に対して運動の軌跡を規定する支持部材が質量体ごとに別個に2つずつ用意されているため、部品点数が多くなってしまう。また、隣り合う2つの質量体の端部同士が同一平面上において互いに隣接して配置されるため、質量体の端部に形成される運動軌道を大きくとることができず、回転プレートに対する質量体の揺動角を大きくとることができない。
【0006】
本発明は、以上のような点を考慮してなされたものである。本発明の目的は、部品点数を削減できる動吸振器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明による動吸振器は、
回転プレートと、
前記回転プレートを軸方向に貫通するように設けられた複数の支持ピンと、
周方向に隣り合う2つの支持ピンの間にそれぞれ配置された複数の質量体と、
を備え、
各支持ピンは、周方向の一方側に隣接する質量体の端部を軸方向の一方側の端部にて揺動可能に支持しており、周方向の他方側に隣接する質量体の端部を軸方向の他方側の端部にて揺動可能に支持している。
【0008】
本発明によれば、各支持ピンが、周方向に隣接する2つの質量体の端部を揺動可能に支持しており、すなわち、周方向に隣り合う2つの質量体の端部は、それらの間に位置する同一の支持ピンにより揺動可能に支持されている。したがって、支持ピンの部品点数を削減することができ、コスト低減に貢献することができる。
【0009】
本発明による動吸振器において、前記質量体は、径方向から見てクランク形状を有していてもよい。
【0010】
このような態様によれば、隣り合う2つの質量体の端部同士が互いに異なる平面上に配置され、同一平面上に互いに隣接して配置されることがないため、質量体の端部に形成される運動軌道を大きくとることができる。これにより、回転プレートに対する質量体の揺動角を大きくとることができ、質量体の振り子運動による振動減衰性能を向上できる。
【0011】
本発明による動吸振器において、前記質量体は、径方向から見て点対称な形状を有している。
【0012】
このような態様によれば、周方向における重量バランスの偏りを低減できる。また、動吸振器の組立て時に、質量体の表と裏とを気にすることなく組立てることができ、作業性が良い。
【0013】
本発明による動吸振器において、前記回転プレートは、径方向に延びる複数のフランジを有し、各支持ピンは、それぞれ異なるフランジを軸方向に貫通するように設けられていてもよい。
【0014】
本発明による動吸振器において、各質量体は、
前記複数のフランジのうちの隣り合う2つのフランジの間に配置された中間板材と、
前記中間板材に対して軸方向の一方側に配置され、周方向の一方側の端部が周方向の一方側に隣接する支持ピンにより揺動可能に支持され、周方向の他方側の端部が前記中間板材に連結された第1板材と、
前記中間板材に対して軸方向の他方側に配置され、周方向の一方側の端部が前記連結部分に連結され、周方向の他方側の端部が周方向の他方側に隣接する支持ピンにより揺動可能に支持された第2板材と、
を有してもよい。
【0015】
このような態様によれば、複雑な立体形状を有する質量体が、単純な板形状を有する第1板材、第2板材および中間板材の3部材を組み合わせることで実現される。したがって、質量体の製作に要するコストを低減できるとともに、歩留まりを向上できる。
【0016】
本発明による動吸振器において、前記第1板材と前記第2板材とは、同一形状を有していてもよい。
【0017】
このような態様によれば、質量体の製作に要するコストを更に低減できるとともに、歩留まりを更に向上できる。
【0018】
本発明による動吸振器において、各支持ピンは、前記回転プレートに対して各々の軸線回りに回転可能に設けられていてもよい。
【0019】
このような態様によれば、支持ピンと質量体との接触部分における抵抗が下がるため、質量体の振り子運動による振動減衰性能を向上できる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、動吸振器の部品点数を削減できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】
図1は、本発明の一実施の形態による動吸振器を示す斜視図である。
【
図2】
図2は、
図1に示す動吸振器を軸方向から見た平面図である。
【
図3】
図3は、
図2に示す動吸振器を矢印Aの方向から見た側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に、添付の図面を参照して、本発明の実施の形態を詳細に説明する。なお、以下に説明する実施の形態は、本発明を実施する場合の一例を示すものであって、本発明を以下に説明する具体的構成に限定するものではない。本発明の実施にあたっては、実施の形態に応じた具体的構成が適宜採用されてよい。
【0023】
図1は、本発明の一実施の形態による動吸振器10を示す斜視図である。
図2は、
図1に示す動吸振器10を軸方向から見た平面図である。
図3は、
図2に示す動吸振器10を矢印Aの方向から見た側面図である。なお、
図3では、1つの質量体141のみ示しており、他の質量体142〜144の図示を省略している。
【0024】
本実施形態による動吸振器10は、たとえば、車両の駆動系において、動力源と受動部(従動部)との間に設けられるダンパ装置に組み込まれ得る。このダンパ装置は、動力源の出力軸と、受動部の入力軸との間に設けられて、出力軸と入力軸との間で動力を伝達する。すなわち、このダンパ装置は、出力軸および入力軸とともに、動力伝達経路を構成する。また、このダンパ装置は、出力軸と入力軸との間の捩れによって生じるトルク変動や捩り振動を吸収(減衰、抑制)する。ここで、動力源は、例えばエンジンやモータ等であり、受動部は、例えば変速機やトランスアクスル等である。なお、動力源としては、エンジンとモータとの両方を備えたハイブリット式のものであってもよい。
【0025】
図1〜
図3に示すように、本実施の形態による動吸振器10は、径方向に延びる4つのフランジ121〜124を有する回転プレート11と、4つのフランジ121〜124の各々を軸方向に貫通するように設けられた4本の支持ピン131〜134と、周方向に隣り合う2つの支持ピン131〜134の間にそれぞれ配置された4つの質量体141〜144と、を備えている。
【0026】
図2に示すように、4つのフランジ121〜124は、それぞれ90°ずつ異なる角度で設けられている。4つの支持ピン131〜134は、それぞれ異なるフランジ121〜124の中心を軸方向に貫通するよう設けられている。図示された例では、4つの支持ピン131〜134は、それぞれ異なるフランジ121〜124に回転軸受(ベアリング)16を介して取り付けられており、各々の軸心周りに回転可能となっている。
【0027】
各支持ピン131〜134は、周方向の一方側(
図2における反時計回り側)に隣接する質量体141〜144の端部を軸方向の一方側(
図2における手前側)の端部にて揺動可能に支持しており、周方向の他方側(
図2における時計回り側)に隣接する別の質量体141〜144の端部を軸方向の他方側(
図2における奥側)の端部にて揺動可能に支持している。すなわち、各支持ピン131〜134は、周方向に隣接する2つの質量体141〜144の端部の両方を揺動可能に支持している。言い換えれば、周方向に隣り合う2つの質量体141〜144の端部は、それらの間に位置する同一の支持ピン131〜134により揺動可能に支持されている。これにより、質量体141〜144ごとに別個に2つずつ支持部材が用意される従来の動吸振器に比べて、部品点数を削減することができ、コスト低減に貢献することができる。
【0028】
4つの質量体141〜144は、同一の構造を有しているため、以下、質量体141の構造について説明する。
【0029】
本実施の形態では、質量体141は、隣り合う2つのフランジ121、122の間に配置された中間板材14aと、中間板材14aにそれぞれ連結された第1板材14bおよび第2板材14cとを有している。
【0030】
第1板材14bは、中間板材14aに対して軸方向の一方側(
図2における手前側)に配置され、周方向の一方側(
図2における反時計回り側)の端部が周方向の一方側に隣接する支持ピン131により揺動可能に支持され、周方向の他方側(
図2における時計回り側)の端部が中間板材14aに連結されている。第2板材14cは、中間板材14aに対して軸方向の他方側(
図2における奥側)に配置され、周方向の一方側(
図2における反時計回り側)の端部が中間板材14aに連結され、周方向の他方側(
図2における時計回り側)の端部が周方向の他方側に隣接する支持ピン132により揺動可能に支持されている。
【0031】
図示された例では、第1板材14bと第2板材14cとの間に中間板材14aが挟み込まれた状態で、それらが重なり合う部分を貫通するようにリベット14dが挿入されることにより、第1板材14bと第2板材14cと中間板材14aとは互いに締結されている。
【0032】
本実施の形態では、
図1に示すような複雑な立体形状を有する質量体141が、単純な板形状を有する第1板材14b、第2板材14cおよび中間板材14aの3部分を組み合わせることで実現されている。したがって、質量体141の製作に要するコストを低減できるとともに、歩留まりを向上できる。
【0033】
図示された例では、第1板材14bと第2板材14cとは、(裏と表が逆である点以外は)同一形状を有している。これにより、質量体141の製作に要するコストを更に低減できるとともに、歩留まりを更に向上できる。
【0034】
質量体141の周方向の一端部および他端部には、それぞれ、質量体141の運動軌道を規定するガイド孔15が形成されている。周方向の一方側の端部に形成されたガイド孔15には、周方向の一方側に隣接する支持ピン131の軸方向の一方側の端部が挿入されており、周方向の他方側の端部に形成されたガイド孔15には、周方向の他方側に隣接する支持ピン132の軸方向の他方側の端部が挿入されている。これにより、質量体141は、当該質量体141に隣接する2本の支持ピン131、132により両持ちにて支持される。また、質量体141は、2本の支持ピン131、132の端部がそれぞれガイド孔15に沿ってガイドされることにより、回転プレート11に対して揺動(振り子運動)できるようになっている。ガイド孔15の形状は、質量体141の重心の軌跡がサイクロイド曲線となるような形状であることが好ましい。
【0035】
図1および
図3に示すように、各質量体141〜144は、径方向から見てクランク形状を有している。そのため、隣り合う2つの質量体141〜144の互いに近い方の端部同士は、互いに異なる平面上(回転プレート11に対して互いに逆側)に配置され、同一平面上に互いに隣接して配置されることがない。したがって、質量体141〜144の端部の端部を延ばして、その端部に形成される運動軌道(ガイド孔15)を大きくとることができる。これにより、回転プレート11に対する質量体141〜144の揺動角を大きくとることができ、質量体141〜144の振り子運動による振動減衰性能を向上できる。
【0036】
また、各質量体141〜144は、径方向から見て点対称な形状を有している。これにより、動吸振器10の周方向における重量バランスの偏りを低減できる。また、動吸振器10の組立て時に、質量体141〜144の表と裏とを気にすることなく組立てることができ、作業性が良い。
【0037】
以上のように、本実施の形態によれば、各支持ピン131〜134が、周方向に隣接する2つの質量体141〜144の端部を揺動可能に支持しており、すなわち、周方向に隣り合う2つの質量体141〜144の端部は、それらの間に位置する同一の支持ピン131〜134により揺動可能に支持されている。したがって、支持ピン131〜134の部品点数を削減することができ、コスト低減に貢献することができる。
【0038】
また、本実施の形態によれば、質量体141〜144が径方向から見てクランク形状を有しており、隣り合う2つの質量体141〜144の端部同士が互いに異なる平面上に配置され、同一平面上に互いに隣接して配置されることがないため、質量体141〜144の端部に形成される運動軌道(ガイド孔15)を大きくとることができる。これにより、回転プレート11に対する質量体141〜144の揺動角を大きくとることができ、質量体141〜144の振り子運動による振動減衰性能を向上できる。
【0039】
また、本実施の形態によれば、質量体141〜144が径方向から見て点対称な形状を有しているため、周方向における重量バランスの偏りを低減できる。また、動吸振器10の組立て時に、質量体141〜144の表と裏とを気にすることなく組立てることができ、作業性が良い。
【0040】
また、本実施の形態によれば、複雑な立体形状を有する質量体141〜144が、単純な板形状を有する第1板材14b、第2板材14cおよび中間板材14aの3部材を組み合わせることで実現される。したがって、質量体141〜144の製作に要するコストを低減できるとともに、歩留まりを向上できる。
【0041】
また、本実施の形態によれば、第1板材14bと第2板材14とが同一形状を有しているため、質量体141〜144の製作に要するコストを更に低減できるとともに、歩留まりを更に向上できる。
【0042】
また、本実施の形態によれば、各支持ピン131〜134は、回転プレート11に対して各々の軸線回りに回転可能に設けられており、支持ピン131〜134と質量体141〜144との接触部分における抵抗が下がるため、質量体141〜144の振り子運動による振動減衰性能を向上できる。
【0043】
なお、上述した実施の形態では、動吸振器10は、フランジ121〜124と支持ピン131〜134と質量体141〜144とをそれぞれ4つずつ備えているが、これに限定されず、2つまたは3つずつ備えていてもよいし、5つ以上ずつ備えていてもよい。
【0044】
また、上述した実施の形態では、回転プレート11が複数のフランジ121〜124を有しており、これにより、回転プレート11のうち隣り合う2つの支持ピン131〜134の間の領域には隣り合う2つのフランジ121〜124により規定された略扇状の切欠きが形成され、質量体141〜144の中間部材14aは切欠きの内側に配置されていたが、これに限定されない。例えば、回転プレート11が複数のフランジを有しておらず、回転プレート11のうち隣り合う2つの支持ピン131〜134の間の領域には略扇状の開口(穴)が形成され、質量体141〜144の中間部材14aは開口(穴)の内側に配置されていてもよい。
【符号の説明】
【0045】
10 動吸振器
11 回転プレート
121〜124 フランジ
131〜134 支持ピン
141〜144 質量体
14a 中間板材
14b 第1板材
14c 第2板材
15 ガイド穴
16 回転軸受(ベアリング)