(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
Ni処理膜を備え、Snを含み、厚みが5〜10μmのSn拡散防止膜を接合面に備える被接合体と、Biを主成分とするはんだ材を溶融させてなるはんだ接合層とを少なくとも備えてなるはんだ接合部。
前記Biを主成分とするはんだ材が、Bi単体、または、Biに、Sn、Sb、Ge、Ag、Cu、Ni、P、Alから選択される1以上の添加元素を含む、固相線温度が260℃以上の高温はんだである、請求項1〜4のいずれか1項に記載のはんだ接合部。
前記Ni処理膜を備える被接合体が、Ni処理膜を含む電極を備える半導体素子、及び/または、母材表面にNi処理膜を備えるリードフレームもしくは基板電極である、請求項8または9に記載の方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記を、Zn系はんだ(融点:382℃)等の高温はんだ材のリフロー工程に適用するとき、温度400℃でのSnからZnへの拡散係数が温度170℃での拡散係数に比べて約10
5倍大きいことを考慮すると、プロセス中にSnめっき成分が接合層(はんだ)中に溶出する、もしくは、消失に至ることが懸念される。具体的には、Zn中へのSnの拡散係数(D
Sn→Zn)が、150℃では、1.4×10
―20m
2/s、170℃では、6.9×10
―20m
2/sであるのに対し、400℃では、6.9×10
―15m
2/sになる。その結果、下地Niめっきがはんだ中に拡散して、Zn−Ni化合物が接合界面に形成することで界面抵抗が上昇し、電気的接続性の確保が困難になることが想定される。
【0007】
Zn系はんだに比べて融点が低いBi系はんだ材(融点:262℃)を用いたリフロー工程に関しても、プロセス中にSnめっき成分が接合層(はんだ)中に溶出する、もしくは消失すると、接合界面にBi−Ni化合物が形成して界面抵抗が上昇し、電気的接続性の確保が困難になることが想定される。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明者は、Ni処理層を表面に、あるいは内部に備える被接合体の接合面に、Niの拡散を防止する膜を形成することを考え、本発明を完成するに至った。本発明は、一実施形態によれば、はんだ接合部であって、Ni処理膜を備え、接合面にSn拡散防止膜を備える被接合体と、BiまたはZnを主成分とするはんだ材を溶融させてなるはんだ接合層とを少なくとも備えてなる。
【0009】
前記はんだ接合部において、前記被接合体が、Ni処理膜を含む電極上にSn拡散防止膜を備える半導体素子であることが好ましい。
【0010】
前記はんだ接合部において、前記被接合体が、母材表面にNi処理膜を備え、前記Ni処理膜上にSn拡散防止膜を備えるリードフレームもしくは基板電極であることが好ましい。
【0011】
前記はんだ接合部において、前記Sn拡散防止膜が、2〜10μmであることが好ましい。
【0012】
前記はんだ接合部において、前記BiまたはZnを主成分とするはんだ材が、Bi単体、Zn単体、または、BiまたはZnに、Sn、Sb、Ge、Ag、Cu、Ni、P、Alから選択される1以上の添加元素を含む、固相線温度が260℃以上の高温はんだであることが好ましい。
【0013】
本発明は、別の実施形態によれば、前述のいずれかに記載のはんだ接合部を備える半導体装置に関する。
【0014】
本発明は、また別の実施形態によれば、前述のいずれかに記載のはんだ接合部を備える電気機器に関する。
【0015】
本発明は、また別の実施形態によれば、半導体装置の製造方法であって、Ni処理膜を備える被接合体の接合面にSn拡散防止膜を形成する工程と、前記被接合体を、BiまたはZnを主成分とする、固相線温度が260℃以上の高温はんだ材を用いて、リフロー接合する工程とを含む。
【0016】
前記半導体装置の製造方法において、前記Sn拡散防止膜を形成する工程が、蒸着、スパッタリング、電気めっき、無電解めっき、溶融めっきから選択される方法により実施されることが好ましい。
【0017】
前記半導体装置の製造方法において、前記Ni処理膜を備える被接合体が、Ni処理膜を含む電極を備える半導体素子、及び/または、母材表面にNi処理膜を備えるリードフレームもしくは基板電極であることが好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係るはんだ接合部によれば、Sn拡散防止膜を成膜することにより、Ni処理膜の、高温はんだ材を溶融させた接合層への拡散及び/または消失を抑制することができる。そして、これにより電気的接続性を確保した半導体装置を提供することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、図面を参照して、本発明の実施の形態を説明する。ただし、本発明は、以下に説明する実施の形態によって限定されるものではない。
【0021】
本発明は、一実施形態によれば、はんだ接合部に関する。はんだ接合部は、接合面にSn拡散防止膜を備え、Ni処理膜を備える被接合体と、BiまたはZnを主成分とするはんだ材を溶融させてなるはんだ接合層とを少なくとも備えてなる。
【0022】
はんだ接合部は、典型的には電気機器における比較的大面積を接合する接合部であってよい。電気機器としては、例えば、半導体装置、LED素子を用いた照明部品や、インバータの駆動回路、電力変換機等が挙げられるが、これらには限定されない。好ましくは、電気機器は、半導体装置であり、接合部は、リードフレームと半導体ダイの電極との接合部、基板電極と半導体ダイの電極との接合部、あるいは半導体ダイの電極とインプラントピンとの接合部が挙げられるが、これらには限定されない。以下、本発明を半導体装置におけるダイボンド接合部を一例として説明するが、本発明の接合部は特定の装置の特定の接合部に接合されるものではない。
【0023】
図1は、本発明の一実施形態によるはんだ接合部を備える半導体装置の一例である、半導体モジュールの概念的な断面図である。半導体モジュール100は、主として、半導体素子1と、はんだ接合層2と、リードフレーム3と、ワイヤ4並びに、これらをモールドする封止樹脂5から構成される。図示する半導体モジュール100においては、半導体素子1、はんだ接合層2、リードフレーム3がダイボンド接合部Pを構成する。
【0024】
図示する実施形態において、被接合体は、半導体素子1及びリードフレーム3であり、これらが、はんだ接合層2により接合される。
【0025】
はんだ接合層2は、BiまたはZnを主成分とするはんだ材を溶融させてなる。BiまたはZnを主成分とするはんだ材は、固相線温度が260℃以上のはんだ材であって、Sn、Sb、Ge、Ag、Cu、Ni、P、Alといった添加元素が含まれていてもよく、さらに不可避不純物を含みうる。不可避不純物とは、主として、Cu、Ni、Zn、Fe、Al、As、Cd、Ag、Au、In、P、Pbなどをいう。また、本発明によるはんだ材は、Pbを含まない鉛フリーはんだである。以下、本明細書において、当該はんだ材を、高温はんだ材と指称することがある。
【0026】
このようなはんだ材のうち、Biを主成分とするはんだ材としては、純Bi、Bi−Sn、Bi−Ge、Bi−Sb、Bi−Cu、Bi−Zn、Bi−Sn−Ag、Bi−Sb−Ge、Bi−Sb−Ge−P、Bi−Sb−Ge−Ni、Bi−Sb−Ge−Ni−Pが挙げられるが、これらには限定されない。また、Znを主成分とするはんだ材としては、純Zn、Zn−Bi、Zn−Al−Geが挙げられるが、これらには限定されない。
【0027】
はんだ接合層2の形成方法については後述するが、典型的には、高温はんだ材の固相線温度以上の温度で溶融させる、リフロー工程により形成されたものであってよい。
【0028】
図1(b)を参照すると、被接合体である半導体素子1、リードフレーム3は、両者とも接合面にSn拡散防止膜10、30を備え、接合面の内側(接合面に対し、はんだ接合層の逆側)にNi処理膜11、31を備えるものである。
【0029】
リードフレーム3は、Cu母材32表面に、Ni処理膜31を備えており、さらにNi処理膜31上にSn拡散防止膜30を備えている。Ni処理膜31は、一般的に、防錆等の目的でCu部材表面に設けられるものであり、無電解Niめっき膜、無電解P−Niめっき膜、電解Niめっき膜であってよいが、これらには限定されない。Ni処理膜31の膜厚は、目的によって適宜決定することができ、例えば、0.1〜5μmであってよく、0.5〜3μmとすることができるが、特定の膜厚には限定されない。
【0030】
Sn拡散防止膜30は、Ni処理膜31上に形成されためっき膜、スパッタリング膜などであってよい。また、Snを主成分とするものであれば、Sn以外の成分を含んでいてもよい。例えば、Ag、Cu、Bi、Zn、Sb、Ge、Niから選択される1以上の元素とSnとからなる膜であって良いが、これらには限定されない。特に、はんだ接合層を形成するはんだ材の主成分がBiの場合は、SnとBiを含むSn拡散防止膜とすることができ、はんだ材の主成分がZnの場合は、SnとZnを含むSn拡散防止膜とすることができる。拡散防止膜の主成分をAuやAgとした場合、はんだ接合層中に拡散して、Siチップやリードフレームの表面処理膜の接合材への拡散を抑制する効果は殆どなくなるため、AgやAuは拡散防止膜の主成分として適さず、Snを主成分とすることが好ましい。なお、Snを主成分とすれば、Ag等を含んでいても拡散防止機能に影響を与えるものではない。
【0031】
Sn拡散防止膜30の厚みは、Sn拡散防止膜30が実質的にSnのみからなる場合には、2〜10μmとすることが好ましい。2μm以上とするのは、ピーク加熱温度350℃、加熱時間3minのリフロー温度プロファイル条件下で、Snがはんだ接合層中に完全に拡散した結果、残留Snめっき膜厚を確保する理由からである。10μm以下とするのは、剥離を防止するためである。なお、Sn拡散防止膜30に、はんだ材の主成分であるBiまたはZnを含める場合には、BiまたはZnの含有率に応じて、この膜厚を減ずることができる。一方、Sn拡散防止膜30に、BiまたはZn以外の元素を含める場合には、Sn単体で2μm以上の膜を形成しうる膜厚とすることが好ましい。
【0032】
図示するリードフレームは、Ni処理膜31に接触してSn拡散防止膜30を設けているが、他の被接合体においては、場合により、Ni処理膜31とSn拡散防止膜30との間にはんだ濡れ性向上、ワイヤボンディング性向上といった目的で他の層を設けることもできる。この場合、他の層は、例えば、Pd(パラジウム)、Au(金)あるいはこれらを含む組み合わせからなる、0.01〜1μmの層であってよいが、これらには限定されない。また、リードフレーム材は、Cu母材(Cu−Fe−Pなど)、Fe母材(Fe−42%Niなど)のいずれを用いることもできる。
【0033】
半導体素子(シリコンチップ)1は、裏面電極上にSn拡散防止膜10を備えている。さらに具体的には、Si結晶14に対して、Ti層13、Ni処理膜11、Au層12からなる一般的な裏面電極層が形成され、Au層12上にSn拡散防止膜10を備えている。Ti層13、Ni処理膜11、Au層12の厚みは、半導体素子1の特性により異なっており、当業者が適宜決定することができる。典型的には、Ni処理膜11は、無電解Niめっき膜、無電解P−Niめっき膜、電解Niめっき膜であってよいが、これらには限定されない。また、Ni処理膜11の膜厚は、通常、例えば、0.1〜5μmであってよく、0.5〜3μmとすることができるが、特定の膜厚には限定されない。また、Au層12の厚みは、通常、例えば、0.01〜0.3μmであってよく、0.03〜0.1μmとすることができるが、特定の膜厚には限定されない。
【0034】
Sn拡散防止膜10は、Au層12上に形成されためっき膜、スパッタリング膜などであってよく、その組成、形成方法、膜厚等は、リードフレーム3上のSn拡散防止膜30と同様の範囲から選択することができる。半導体素子1上のSn拡散防止膜10と、リードフレーム3上のSn拡散防止膜30とは、両者が同一の組成、形成方法、膜厚等であってもよく、組成、形成方法、膜厚のいずれか1以上が異なっていてもよい。
【0035】
次に、このようなはんだ接合部を含む半導体装置の製造方法について説明する。半導体装置の製造方法は、Ni処理膜を備える被接合体の接合面にSn拡散防止膜を形成する工程と、前記被接合体を、BiまたはNiを主成分とする、固相線温度が260℃以上の高温はんだ材を用いて、リフロー接合する工程とを含む。
【0036】
Ni処理膜を備える被接合体の接合面にSn拡散防止膜を形成する工程は、リードフレーム、基板電極、半導体素子などの接合面にSn拡散防止膜を形成する工程である。Sn拡散防止膜は、蒸着、スパッタリング、電気めっき、無電解めっき、溶融めっき等の方法により形成することができる。被接合体の態様により、Ni処理膜の表面上にSn拡散防止膜を形成する場合もあり、Ni処理膜に接触することなく、他の材質からなる膜上にSn拡散防止膜を形成する場合もある。当業者であれば、これらの方法を用いて、先に詳述した組成、膜厚を備えるSn拡散防止膜を形成することができる。
【0037】
被接合体をリフロー接合する工程は、被接合体間にはんだ材を接触させた状態で、はんだ材を溶融させる。はんだ材は、フラックスと併用する粉末材、あるいは、板材、線材のいずれであってよい。フラックスと併用する粉末材とする場合、はんだ材は、平均粒径が、15〜50μm、好ましくは、25〜40μmのものを用いることができる。平均粒径が15〜50μmの範囲において、隣接するはんだ材が凝集することなく、安定して製造できるためである。フラックスは、接合の条件等に応じて、当業者が適宜選択することができ、特に限定されるものではないが、ZnもしくはBiの酸化を抑制することが可能な組成を有するフラックスを用いることが好ましい。一例として、ハロゲン活性化ロジンフラックス等を挙げることができる。線材は、例えば、直径が200〜1000μmの線材とすることができ、板材は、例えば、厚みが50〜200μmの板材とすることができる。
【0038】
例えば、糸状あるいは板状のはんだ材を、一方の被接合体上に供給し、あるいは粉末状のはんだ材をフラックスとともに一方の被接合体上に供給し、他方の被接合体をはんだ上に搭載して、加熱する。このときの加熱温度は、はんだ材の固相線温度以上とし、加熱ピーク温度をはんだ材の液相線温度+30℃程度に設定することが好ましい。加熱時間は少なくとも60秒以上保持することで良好な濡れ性が得られる。加熱ピーク温度に関しては、必ずしも液相線温度以上の加熱の必要はなく、純Biもしくは純Znにより近い成分の場合は、これらの固相線温度+30℃程度の加熱をすることで、良好な接合を確保することができる。加熱は、水素やギ酸など活性雰囲気下において実施することもできる。
【0039】
以上のような工程で、Sn拡散防止膜を形成した接合部を備える半導体装置を製造することにより、Ni処理膜の接合層への拡散を抑制し、熱衝撃耐性の低い金属間化合物の生成を抑制することができる。すなわち、Sn拡散防止膜が存在しない場合に、はんだ接合層の被接合体との界面に生成しうるBi
3Ni、BiNiなどのBi−Ni化合物や、Ni
2Zn
11、NiZn
3、Ni
5Zn
21などのZn−Ni化合物の生成を抑制し、電気的接続性を確保することができる。
【0040】
なお、本発明は、図示する実施形態に限定されるものではない。被接合体の少なくとも一方が、接合面にSn拡散防止膜が形成され、接合面の内側(はんだ接合層と反対側)にNi処理膜を備えるものであればよく、他方の被接合体の構成は限定されるものではない。したがって、図示するSn拡散防止膜10または30の一方が存在しなくてもよい。また、被接合体の接合面にSn拡散防止膜が形成されていれば、Sn拡散防止膜とNi処理膜とが接触して設けられている必要はない。Ni処理膜が、被接合体の接合面近傍(例えば、0.1〜5μm)に位置しており、Sn拡散防止膜とNi処理膜との間に、高温はんだ材の接合温度条件下で、拡散しやすい層が存在してもよい。具体的には、Sn拡散防止膜とNi処理膜との間に、Ag、Pd、Au等からなる、0.01〜1μmの層が存在していてもよい。はんだ接合層を介して接合される2つの被接合体ともに、接合面にSn拡散防止膜が形成されるものである場合は、それらのSn拡散防止膜の膜厚、組成、並びにSn拡散防止膜とNi処理膜との位置関係は、それぞれ、同一であってもよく、異なっていてもよい。
【0041】
また、本発明に係る接合部を備える半導体装置のその他の態様として、図示はしないが、別の構成を備える半導体モジュールが挙げられる。具体的には、上下2つの電極で挟まれた絶縁基板を備え、絶縁基板の上側の電極上に、半導体ダイを複数個接合した半導体モジュールであってもよい。このモジュールは、さらに、半導体ダイを、アルミワイヤーで接続し(ワイヤボンディング)、上側の電極から銅配線(銅バー)を引き出し、半導体ダイ、電極、絶縁基板、アルミワイヤーが、封止材により封止されている。このような構成は、特には、Siチップを搭載する半導体モジュールにおいて好ましく採用される。この場合、Sn拡散防止膜は、絶縁基板の電極のNi処理膜上、及び/または、半導体ダイの裏面電極(絶縁基板の電極と接合する電極)上に形成することができる。
【0042】
あるいは、さらに他の態様として、上下2つの銅ブロックで挟まれた絶縁基板を備え、絶縁基板の上側の銅ブロック上に、半導体ダイを複数個接合し、半導体ダイ上にインプラントピンを接合した半導体モジュールであってもよい。このモジュールでは、インプラントピンに、さらにプリント基板を接合し、半導体ダイ、銅ブロック、絶縁基板、ピン、並びにプリント基板が、封止材により封止されている。このような構成は、特には、SiCチップを搭載する半導体モジュールにおいて好ましく採用される。この場合、Sn拡散防止膜は、銅ブロックのNi処理膜上、及び/または、半導体ダイの裏面電極(ブロックと接合する電極)、及び/または、半導体ダイのおもて面電極(インプラントピンと接合する電極)、インプラントピンの接合面上に形成することができる。
【0043】
以下に、本発明を、実施例を参照してより詳細に説明する。しかし、以下の実施例は本発明の代表的な一態様を示すものであり、本発明を限定するものではない。
【0044】
[Ni拡散抑制効果及び電気特性試験]
[実施例]
実施例に係る接合部を製造した。被接合体としては、8.7mm×7.0mm×t1.4mmのリードフレーム、6mm×4.5mm×t0.28mmのSiチップを用いた。リードフレームはFe母材(Fe−42%Ni)上に、膜厚2μmのNi表面処理膜を形成し、Ni処理膜上に拡散防止膜として、膜厚2μmのSn拡散防止膜を電気めっき法にて形成した。一方、Siチップの表面処理はSiチップ側より、Ti/Ni/Auで構成し、それぞれの膜厚は、Ti:0.8μm、Ni:1μm、Au:0.03μmとした。さらに、Au表面処理層上に、拡散防止膜として、膜厚2μmのSn拡散防止膜を上記と同様の方法にて形成した。
【0045】
ダイボンダを用いて、リードフレーム上に、直径φ0.8mmの純Biからなる糸はんだを供給した。その後、Siチップを、Sn拡散防止膜がはんだに接触するようにはんだに搭載してスクラブをかけ、加熱温度320℃、N
2+10%H
2雰囲気(ガス流量:2.25L/min)下で接合することで、
図2に示す実施例サンプルを作製した。
【0046】
Sn拡散防止膜を成膜したSiチップ/リードフレーム接合の接合後の断面観察結果を
図3に示す。
図3(a)は、走査型顕微鏡写真であり、はんだ接合層2に接して、被接合体であるリードフレーム3、Siチップ1が観察できる。
図3(b)は、EDXマッピングによるNiの元素分析結果である。Ni処理層11、31が観察されるが、はんだ接合層2への拡散は見られない。
図3(c)は、EDXマッピングによるBiの元素分析結果である。Biは、はんだ接合層中に存在していることが確認できる。
図3(d)は、EDXマッピングによるSnの元素分析結果である。はんだ接合層2の両面に、Sn拡散防止膜10、30の存在(点線で囲んだ部分)が確認できる。これらの観察結果から、Siチップとはんだ接合層との界面、及び、はんだ接合層とリードフレームとの界面にSn−Ni系化合物が形成され、はんだ接合層中へのNiの拡散を抑制していることが確認された。
【0047】
Siチップ及びリードフレームの表面処理膜上に、膜厚2μmのSnめっきからなるSn拡散防止膜を成膜し、表面処理膜成分であるNiの拡散を抑制した半導体装置の電気特性試験を行った。その結果、Idss(ゲート、ソース間を短絡した時のドレイン、ソース間電流)が規格値を満足することから、電気的接続性を確保することが可能であることもわかった。本実験は、Biはんだについて行ったが、Sn拡散防止膜によるNiの拡散抑制効果は、Zn系はんだ材での接合においても同様に確認される。
【0048】
[比較例]
上記実施例において、Siチップにも、リードフレームにも、Sn拡散防止膜を設けなかった以外は上記と同様にして、比較例サンプルを作製した。比較例におけるSiチップ/リードフレーム接合の断面観察結果を
図4に示す。
図4(a)は、走査型顕微鏡写真であり、被接合体1、3とはんだ接合層2との界面に、NiとBiの化合物Xがみられる。
図4(b)は、EDXマッピングによるNiの元素分析結果である。Ni処理層11、31が観察され、さらにはんだ接合層2へ拡散し、化合物Xを形成しているNi成分がみられる。
図4(c)は、EDXマッピングによるBiの元素分析結果である。Biは、はんだ接合層中に存在していることが確認できる。
図4(d)は、EDXマッピングによるSnの元素分析結果である。比較例では、Sn拡散防止膜は形成しておらず、Snの存在は確認できない。これらの観察結果から、比較例の接合部では、Ni処理膜の成分であるNiが拡散し、Siチップ/はんだ接合界面、及び、はんだ/リードフレーム接合界面にBi−Ni化合物Xが異常成長(化合物層厚さ:最大23μm)していることが確認された。Siチップ1上のNi処理膜は1μmから0.3μmに減肉し、リードフレーム3上のNi処理膜は2μmから0.7μmへと減肉した。接合プロセス条件によっては、拡散がさらに進行し、Ni処理膜の消失に至る可能性がある。
【0049】
そして、比較例の半導体装置の電気特性試験の結果、Idssが規格値を満足せず、電気的接続性を確保できないことが確認された。
【0050】
[Sn拡散防止膜の膜厚評価]
ディスクリート製品のSiチップの耐熱性より、リフロープロセス条件として、ピーク加熱温度350℃以下、加熱時間3min以下が求められる。Siチップ表面にSnめっきを2μm狙い(平均値)で成膜した場合、膜厚バラツキ±0.4μmを考慮すると、膜厚範囲は1.6μm〜2.4μmとなる。3mm×3mm×t0.45mmのSiチップ上にSnめっき2μmを成膜した。接合層としては実施例と同じ純Biはんだを用いた。上記のリフロー温度プロファイル条件下で、Snが接合層中に完全に拡散した結果、残留Snめっき膜厚の最小値が0.2μmとなった。すなわち、被接合体のSnめっき膜減り量は1.4μmであり、少なくとも平均2μmのSnめっき膜を成膜する必要がある。したがって、Siチップやリードフレームの表面処理膜上の成膜するSnめっき膜厚の下限値は2μmに設定した。
【0051】
10mm×10mm×t1mmのCu上にSnめっき拡散防止膜を形成した。Sn拡散防止膜厚をパラメータとして剥離発生状況を調べた結果を表2に示す。めっき剥離判定は、超音波探傷像の白色部、もしくは、断面観察により剥離部を特定し、剥離が無い場合は、○、剥離が生じた場合は×とした。Sn拡散防止膜厚が11μm以上のとき、めっき剥離が確認された。膜厚11μm狙い(平均値)におけるSn拡散防止膜厚バラツキ±0.6μmを考慮して、拡散防止膜の膜厚の上限値は10μmとすることが好ましい。