(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
最近、水を使用せず手軽に服用することができる胃腸薬液剤が多く販売されている。胃腸薬液剤の多くはガラス瓶に充填された製品形態で販売されているが、携帯性や容器の処分の容易さ等から、軽量で容易に廃棄できるフィルム包装容器等の樹脂製容器に胃腸薬液剤を充填した液体充填製品へのニーズが高まっている。
【0003】
一般に、胃腸薬液剤には植物エキス(例えば、健胃剤の一種である厚朴(コウボク)に含まれる有効成分「マグノロール」)やメントール等の油性成分が配合されるが、接液部分がポリエチレンやポリプロピレン等の樹脂で構成される容器に充填した場合、上記油性成分が容器に吸着されることがあった。この場合、製剤中の油性成分の含有量が減少したり、容器内に充填した製剤に変質をきたして、その品質を低下させる原因となり得る。そのため、医薬品等の分野においては、これまでにも容器の素材や製剤の配合等の観点から、含有成分の容器に対する吸着を抑制する試みが多くなされてきた。
【0004】
容器を構成する素材を検討したものとしては、例えば、特開2011−136734号公報(特許文献1)には、化粧品や医薬部外品等の含油液状製剤を充填するための包装袋において、包装袋の内側(即ち、接液部分)を環状ポリオレフィン系樹脂を主成分として含む樹脂で構成することにより、油溶性ビタミン類や油溶性紫外線吸収剤等の極性油剤の吸着を抑制し得ることが記載されている。
【0005】
また、製剤の配合を検討したものとしては、点眼剤に関するものであるが、特開2002−3364号公報(特許文献2)において、点眼剤に含有されるメントールがユニットドーズ容器に吸着することを改善するために、多価アルコール類、界面活性剤及びシクロデキストリン類から選ばれる1種以上の成分を配合することが提案され、特開2002−161037号公報(特許文献3)では、プロスタグランジン誘導体が樹脂製容器に吸着することを防ぐために非イオン性界面活性剤を組み合わせた点眼液が提案されている。
【0006】
一方、製剤中の油性成分の樹脂製容器に対する吸着を抑制するには、界面活性剤を配合することが有効であるが、内服薬や食料品等の場合、配合条件によっては苦みを生じて服用性を損なうことがあった。
【0007】
界面活性剤に起因する苦み等を抑制し、服用性を改善する技術としては、特開2003−137797号公報(特許文献4)において、医薬品や食料品等に使用されるマスティック可溶化物を含む乳化液を製造する際に、ポリグリセリン又はポリソルビタンの脂肪酸エステル系やポリオキシエチレン硬化ヒマシ油系の界面活性剤に起因するエグ味や苦みを緩和する技術として、該界面活性剤にレシチンを組み合わせる手法が提案されている。
【0008】
近年では、油性成分の吸着を抑制する目的でポリエチレンテレフタラート等を用いた包材が開発され、油性成分の吸着の問題は改善されつつあるが、配合の条件によっては十分に抑制されないことがあった。また、界面活性剤の配合によってその吸着性を低下させることができるが、所望の吸着抑制効果を得るために過量に配合すると界面活性剤由来の苦味を強く感じるようになる。そのため、従来の手法では、吸着抑制効果と服用性とを両立することが難しかった。特に、胃腸薬液剤において、スクラルファートの粘膜に対する付着性を向上させようとすると、配合の条件によっては油性成分の樹脂製容器に対する吸着が促進され、容器の素材にポリエチレンテレフタラートを使用したり、界面活性剤を適量配合したとしてもその吸着を十分に抑制できないことがあった。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の液体充填製品は、(A)スクラルファート含有組成物、(B)フェニルプロパノイド誘導体(マグノロール、ホノキオール、シンナムアルデヒド及びオイゲノール等)、イソキノリン系アルカロイド(マグノフロリン及びマグノクラリン等)、及びセスキテルペノイド誘導体(βオイデスモール等)からなる群より選ばれる1種以上の油性成分、(C)非イオン性界面活性剤、及び(D)パラベン類を含有する液体製剤が所定の樹脂製容器に充填されているものである。
【0015】
(A)スクラルファート含有組成物
本発明の(A)スクラルファート含有組成物は、(a−1)スクラルファートを含有する液状又はゲル状の組成物である。この場合、(a−1)スクラルファートを後述する(a−3)水に分散した分散液として用いてもよく、更に、必要に応じて後述する他の成分を含有する液状組成物又はゲル組成物であってもよい。
【0016】
本発明において、液状組成物は(a−1)スクラルファート、(a−2)有機酸、及び(a−3)水を所定の比率で配合されている液状の組成物であり、ゲル組成物は、上記液状組成物に更に(a−4)pH調整剤を配合してpH5.0〜8.0に調整することによって得られるものである。なお、以下の説明において、「液状組成物」とは上記(a−1)〜(a−3)成分を配合した段階の液状の組成物を意味し、「ゲル組成物」とは上記液状組成物に対して(a−4)成分を配合してpHを調整し、更に必要に応じて他の成分を配合して得た上記(a−1)〜(a−4)成分の相互作用物であり、ゲル状の組成物を意味する。
【0017】
本発明では、(A)成分として、上記の液状組成物又はゲル組成物を使用することにより、口腔や食道のような通過時間の短い器官の粘膜に対する付着性をより向上させることができる。以下、上記の各成分について詳述する。
【0018】
(a−1)スクラルファート
(a−1)スクラルファート(ショ糖オクタ硫酸エステルアルミニウム塩)は、粘膜炎症部のタンパク質と結合して炎症部を被覆・保護しながら修復する作用を有し、「胃の絆創膏」とも呼ばれる薬物である。本発明では、胃の炎症部への効果の他、胸焼けの原因である食道の炎症部にも優れた効果を発揮することができる。
【0019】
(a−1)スクラルファートは、(a−3)水に分散した水分散液として使用することができる。また、(A)成分を液状組成物とする場合、(a−1)成分の(A)成分中の配合量は、特に限定されないが、20〜80質量%が好ましい。(A)成分をゲル組成物とする場合は、18〜70質量%が好ましく、25〜70質量%がより好ましく、30〜50質量%が更に好ましい。(a−1)成分の配合量を上記範囲内とすることで、分散安定性や製造適性が良好となる。なお、(a−1)成分の液体製剤1回量中の配合量は、特に限定されないが、有効性の観点から250〜1,000mgの範囲とすることが好適である。
【0020】
(a−2)有機酸
(a−2)有機酸としては特に限定されず、1種単独で又は2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。中でも、風味、分散安定性の点から、アルギン酸、クエン酸、リンゴ酸、アスコルビン酸、グルクロン酸、アスパラギン酸、グルタミン酸、アジピン酸、グルコン酸、酒石酸、コハク酸、乳酸、酢酸、酪酸、マレイン酸及びフマル酸から選ばれる1種以上が好ましく、特にクエン酸、リンゴ酸及び乳酸が好ましい。
【0021】
(a−2)成分の(A)成分中の配合量は、(A)成分を液状組成物とする場合、7.5〜40質量%が好ましく、8〜23質量%がより好ましい。また、(A)成分をゲル組成物とする場合は、7〜30質量%が好ましく、7〜20質量%がより好ましい。(a−2)成分の割合が大きくなりすぎると、粘膜付着性が小さくなり、歯面の付着性や収れん性が悪くなる場合がある。本発明において、(a−2)/(a−1)で表される配合質量比は、0.1〜1.2が好ましく、0.2〜0.4がより好ましい。特に、この比率を0.2〜0.4とすることで、粘膜付着効果をより高めることができる。また、上記の比率が1.2を上回る服用性に問題が生じる場合がある。
【0022】
(a−3)水
(a−3)水の(A)成分中の配合量は、(A)成分を液状組成物とする場合、5〜60質量%が好ましく、10〜50質量%がより好ましい。また、(A)成分をゲル組成物とする場合は、4〜55質量%が好ましく、9〜45質量%がより好ましく、15〜40質量%が更に好ましい。なお、液状組成物中では、(a−1)/(a−3)で表される配合質量比は、0.8〜6が好ましく、0.8〜4がより好ましい。この比率を、上記範囲内とすることにより良好な分散安定性を得ることができる。
【0023】
(a−4)pH調整剤
(a−4)pH調整剤としては特に限定されず、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の酸化物、水酸化物及び炭酸塩から選ばれる1種を単独で又は2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。本発明では、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物、水酸化マグネシウム及び水酸化カルシウム等のアルカリ土類金属水酸化物、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カルシウム及び炭酸マグネシウム等の炭酸塩のほか、合成ヒドロタルサイト、ケイ酸アルミン酸マグネシウム、酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、及び水酸化アルミナマグネシウム等の制酸剤を使用することができる。本発明では、製造性の観点から、特に炭酸水素ナトリウム、炭酸カルシウム、水酸化ナトリウム、炭酸マグネシウム及び水酸化マグネシウムを好適に用いることができる。また、(a−4)成分として水溶性の成分を配合した場合、当該成分は水に溶解して消費される(金属イオン、水酸化物イオン、炭酸イオン等が系中に残る)。
【0024】
(a−4)成分の配合量は、上記(a−1)〜(a−3)成分を含有する液状組成物のpHを所定の範囲に調整し得る量であり、特に制限されるものではない。本発明では、上記(a−4)成分により上記組成物のpHを好ましくは5.0〜8.0、より好ましくは5.5〜7.4、更に好ましくは5.5〜7.0に調整してゲル化させることで、より良好な付着性を有し、かつ服用性にも優れる液体製剤を与えるゲル組成物が得られる。
【0025】
[液状組成物]
上記の「液状」とは、粘度(25℃)が100〜50,000mPa・sである流動体を意味する。粘度は、製造適性の点から、100〜10,000mPa・sが好ましい。また、この範囲とすることで、服用性(飲み込みやすさ)も良好となる。なお、粘度の測定方法は、B型粘度計(例えば、東機産業社製,RB−80)、3又は4番ローター(粘度に応じて変更)を用い、回転速度12rpm/20℃で測定する。本発明において、製造適性とは、スクラルファート液状組成物の包装容器への充填時、スクラルファート液状組成物にさらなる製剤化処理(ミクロゲル化等)を加えるために次製造プロセスに移行する際に、高粘度では攪拌、ライン輸送等が困難で、製造適性上望ましくないため、液状組成物粘度は一定の値以下であることをいう。また、液状組成物のpH(25℃)は、粘膜付着性の点から、3.0〜4.5の範囲が好ましい。
【0026】
[ゲル組成物]
上記の「ゲル組成物」とは、分散媒と分散質(粒子)から構成され、分散質は主にショ糖オクタ硫酸エステルと水酸化アルミニウムと有機酸の複合体、分散媒の主成分は水からなり、分散媒と分散粒子の相互作用によって分散粒子が全体に均一分散することで長期間分散が安定化されており、全体としては流体物であり、チキソトロピー性を有する組成物を意味する。チキソトロピー性を有するとは、せん断速度として0.1s
-1、及び得10s
-1で測定したときの粘度の比(ρ0.1s
-1/ρ10s
-1)が1〜20となるものを指す。前記粘度は、E型粘度計タイプのレオメーターで測定することができる。
【0027】
上記(A)成分の配合量は、液体製剤中10〜60質量%が好ましく、20〜50質量%がより好ましく、30〜40質量%が更に好ましい。(A)成分の配合量を上記下限以上とすることで、無理のない1回服用量で充分な薬効を得られる。また上記上限以下とすることで、液体製剤が服用し易くなる。
【0028】
(B)油性成分
(B)油性成分は、フェニルプロパノイド誘導体、イソキノリン系アルカロイド、及びセスキテルペノイド誘導体からなる群より選ばれる成分である。具体的には、フェニルプロパノイド誘導体としては、マグノロール、ホノキオール、シンナムアルデヒド及びオイゲノール等を好適に使用できる。また、イソキノリン系アルカロイドとしては、マグノフロリン及びマグノクラリン等を好適に使用できる。セスキテルペノイド誘導体としては、βオイデスモール等を好適に使用できる。本発明では、これらの中でも特にマグノロール、ホノキオール、マグノフロリン、マグノクラリン及びβオイデスモールをより好適に使用することができる。また、これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0029】
また、(B)成分は、生薬そのもの又は生薬から抽出したエキス中に含有される成分が多く、本発明では、上記各成分を生薬そのもの又は生薬から抽出したエキスとして配合してもよい。生薬成分としては、(B)成分が含有されていれば特に限定はされないが、例えば、厚朴、蒼朮、桂皮、薄荷、防已、辛夷、黄連、生姜、ホオノキ及びユーカリ油等を挙げることができる。(B)成分の配合量は、特に限定されないが、医薬成分としての有効性等の観点から、液体製剤中0.0003〜0.02質量%が好ましく、0.0005〜0.01質量%がより好ましい。
【0030】
(C)非イオン性界面活性剤
(C)非イオン性界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキレンエーテル、及びポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル等を用いることができる。これらの中でも、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油及びショ糖脂肪酸エステルが好ましい。なお、本発明では、セチルトリメチルアンモニウムクロリド(カチオン性界面活性剤)やラウリル硫酸ナトリウム(アニオン性界面活性剤)等のイオン性界面活性剤を用いると、高い吸着抑制効果を得られるが、舌への刺激が強まったり、不快な味がするようになるため好ましくない。(C)成分の配合量は、液体製剤中0.04〜0.40質量%であり、0.07〜0.40質量%が好ましく、0.15〜0.35質量%がより好ましい。(C)成分の配合量が少なすぎると、十分な吸着抑制効果を得ることができない。一方、(C)成分の配合量が多すぎると、苦味や舌への刺激が強くなり、服用性が悪化する。
【0031】
また、(C)/(B)で表される、(B)成分に対する(C)成分の配合質量比は70〜500が好ましく、100〜500がより好ましく、250〜500が更に好ましい。上記配合質量比を70以上とすることで吸着抑制効果が高くなり、500以下とすることで活性剤由来の味、苦味、舌への刺激が低くなり、服用性が良好になる。
【0032】
(D)パラベン類
(D)パラベン類としては、例えば、アルキルパラベン(ブチルパラベン、プロピルパラベン、エチルパラベン)、安息香酸ナトリウムが吸着抑制の観点から望ましい。(D)成分の配合量は、液体製剤中0.001〜0.04質量%が好ましく、0.001〜0.03質量%がより好ましい。(D)成分の配合量を0.001質量%以上とすることで吸着抑制効果が高くなり、0.04質量%以下とすることで(D)成分の析出が起き難く、製剤の安定性が良好なものとなる。
【0033】
また、[(C)+(D)]/(B)で表される、(B)成分に対する(C)成分と(D)成分の合計質量の配合質量比は、100〜700が好ましく、200〜600がより好ましい。上記配合質量比を100以上とすることで吸着抑制効果が良好となり、700以下とすることで服用性が良好となる。
【0034】
更に、(D)/(C)で表される、(C)成分に対する(D)成分の配合質量比は、0.005〜0.4が好ましく、0.005〜0.2がより好ましい。上記配合質量比を0.005以上とすることで吸着抑制効果が良好となり、0.4以下とすることで(D)成分の経時での析出が起きにくく製剤の安定性が良好となる。
【0035】
このように(C)成分と(D)成分とを適切に組合せることによって、(B)成分の樹脂製容器に対する吸着を効果的に抑制することができる。
【0036】
上記(A)〜(D)成分を含有する液体製剤には、その他の成分として本発明の効果を阻害しない範囲で後述する各成分を適宜配合することができる。なお、以下の各成分は1種を単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0037】
一般的な医薬有効成分としては、例えば、ラニチジン又はラニチジン塩酸塩、ファモチジン、シメチジン、塩酸ロキサチジンアセタート、ニザチジン、ラフチジン、ランソプラゾール、ラベプラゾール及びオメプラゾール等の胃酸分泌抑制剤;ピレンゼピン又はピレンゼピン塩酸塩、アトロピン及びスコポラミン等のムスカリン受容体拮抗薬;アルジオキサ、アズレン、L−グルタミン及びレバミピド等の防御因子促進剤を配合することができる。
【0038】
その他にも、無機制酸剤として、合成ヒドロタルサイト、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム、ケイ酸アルミン酸マグネシウム及びケイ酸マグネシウムアルミニウム等の制酸剤粒子や、スメクタイト、ベントナイト及びモンモリロナイト等の無機粘土鉱物を配合することができる。また、イブプロフェン、アセトアミノフェン、ロキソプロフェンナトリウム及びアスピリン等の解熱鎮痛成分や、ロートエキス及びタンニン酸ベルベリン等の胃腸関連成分を配合してもよい。
【0039】
添加物として、スターチ類;ヒドロキシプロピルメチルセルロース及びヒドロキシエチルセルロース等のセルロース類;ポリビニルピロリドン;ポリオール類(ポリビニルアルコール、マンニトール、エリスリトール、キシリトール、ソルビトール、パラチニット及びラクチトール等の糖アルコール、単糖、オリゴ糖及び多糖類のほか、ポリエチレングリコール及びグリセリン等の多価アルコール);エタノール及びプロピレングリコール等の低級アルコール等を配合することができる。アラビアゴム、アルファー化デンプン及びカルボキシビニルポリマー等を配合してもよい。そのほかにも、キサンタンガム、アルギン酸エステル、HMペクチン、カラギーナン、グアガム、ジェランガム、タマリンドガム及び寒天等の水溶性多糖類;ゼラチン及びカゼイン等の水溶性タンパク質を配合してもよい。これらは1種を単独で又は2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。その中でも特にキサンタンガム、アルギン酸エステル及びHMペクチンより選ばれる2種以上を組み合わせることにより、より高い滞留性及び嚥下性の向上効果及び分散安定効果が期待される。
【0040】
甘味剤としては、ショ糖、果糖、アスパルテーム、スクラロース、ソーマチン、アセスルファムカリウム、ソルビトール、ステビア、精製白糖、サッカリン及びグリチルリチン等が挙げられる。香料としては、公知の精油類、例えば、リモネン、オレンジフレーバー、ライチフレーバー、レモンフレーバー、ライムフレーバー、ストロベリーフレーバー、パイナップルフレーバー、ミントフレーバー及びグレープフルーツフレーバー等が挙げられる。嬌味剤としては、メントール等が挙げられる。色素としては、カラメル、カルミン、カロチン液、β−カロテン、銅クロロフィル及び銅クロロフィリンナトリウム等が挙げられる。
【0041】
本発明の液体製剤の粘度(25℃)は、10〜20,000mPa・sが好ましく、500〜5,000mPa・sがより好ましい。上記下限以上とすることで胃粘膜滞留性がよくなり、効果感が向上する。上限以下とすることで服用し易くなる。なお、上記の粘度は、試料を25℃の恒温槽に6時間保存して測定試料とし、ブルックフィールド型粘度計(英弘精機製、DV2T型)を用いて測定された値である(測定条件:12rpm、1分、プローブは粘度に応じて適宜選定)。
【0042】
上記の液体製剤が充填される樹脂製容器としては、フィルム包装容器(パウチ、サシェ及びスティック包装等)やボトル容器等を使用することができる。また、上記容器の層構造は、単層構造であっても、同種又は異種の樹脂やアルミニウム等の金属を積層した多層構造(ラミネート包材)であってもよい。本発明では、携帯性や処分の容易さ等の観点から、ラミネート包材を使用したフィルム包装容器(ラミネート容器)を好適に使用することができる。
【0043】
また、上記の樹脂製容器において、液体製剤が接する接液部分の材質は、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタラート及びポリアクリロニトリル等が挙げられる。特に、接液部分がポリエチレン、ポリプロピレン及びポリエチレンテレフタラートの容器は、通常の配合では(B)成分の吸着が生じやすいため、本発明の効果をより得やすい。
【0044】
容器の厚みは特に限定されないが、フィルム包装容器の場合、容器自体の耐久性と使い易さの観点から、好ましくは5μm以上、より好ましくは10μm以上とすることができる。なお、その厚みの上限も特に限定されないが、好ましくは50μm以下、より好ましくは40μm以下とすることができる。また、ボトル容器の場合においても、その厚みは特に限定されないが、好ましくは500μm以上、より好ましくは800μm以上とすることができる。その厚みの上限も特に限定されないが、好ましくは5,000μm以下、より好ましくは3,000μm以下とすることができる。
【0045】
[製造方法]
上記で説明した(A)スクラルファート含有組成物及び液体製剤は、例えば、以下の方法により調製することができる。
【0046】
(1)(A)スクラルファート含有組成物の製造方法
(A)成分としては、(a−1)スクラルファートを(a−3)水に分散し、プロペラミキサー等の公知の手段で所定時間攪拌することにより得られるスクラルファート水分散液を使用することができる。また、(a−1)スクラルファート、(a−2)乳酸、クエン酸及びリンゴ酸等のカルボン酸類、及び(a−3)水を含有する液状組成物を調製する場合は、(a−2)成分を(a−3)成分に溶解し、そこに(a−1)成分を添加してプロペラミキサー等の公知の手段で所定時間攪拌することにより得ることができる。更に、(a−4)pH調整剤を加えてゲル組成物を調製する場合は、上記で得た液状組成物に(a−4)成分を加えてpHを調整し、更に精製水を適量(バランス)加えて全量を調整し、所定時間攪拌することにより得ることができる。
【0047】
上記各工程の混合条件については通常の条件を採用し得るが、上記液状組成物のpH調整時(中和時)においては、液状組成物の温度を5〜50℃に維持することが好ましく、5〜30℃に維持することがより好ましい。液状組成物の温度を50℃以下にすることで、歯面への付着・収れん性、粘膜付着性をより向上させることができる。液状組成物の温度を5℃以上とすることで、水が凍結しないため製造性が良くなる。
【0048】
なお、上記の液状組成物及びゲル組成物を調製する各工程においては、特別な攪拌・混合を行う必要なく、公知の攪拌・混合法を採用することができる。攪拌装置としては、スターラー攪拌、プロペラ攪拌、ホモジナイザー、ホモミキサー及び乳化機等が挙げられる。
【0049】
(a−1)スクラルファートは、ショ糖オクタ硫酸エステル1モルに対し水酸化アルミニウム(Al
2(OH)
5)約8モルが配位結合した粒子状で存在する。本発明では、まず上述した配合比率で(a−1)スクラルファートと(a−2)有機酸と(a−3)水とを混合することで、酸性条件下でスクラルファート粒子中の一部又は全部の水酸化アルミニウムが解離する。続いて上記(a−1)〜(a−3)成分の混合物(即ち、液状組成物)を(a−4)pH調整剤で中和することで、ショ糖オクタ硫酸エステルと水酸化アルミニウムと有機酸の複合体となる。なお、上記ゲル組成物は、上述した製造方法により得られるものであり、例えば上記の(a−1)〜(a−4)成分を同時に混合しても得られない。この場合、得られる組成物は、ゲル状にはなるものの、所望の粘膜付着性等を奏するものとはならない。
【0050】
また、上記で得られるゲル組成物の分散質中のショ糖オクタ硫酸エステル/アルミニウム比は、質量比で0.3〜1.4の範囲内である。なお、このショ糖オクタ硫酸エステル/アルミニウム比は、後述する実施例の測定方法により得られるものである。ショ糖オクタ硫酸エステル/アルミニウム比が、上記の範囲を満足することにより、食道等の粘膜に対する良好な付着性を有しつつ、服用時の収れん味、渋味(塩味、ヒリヒリ感)、熱感等の不快味を大幅に改善することができる。なお、上記ゲル組成物を後述する実施例のように水等で希釈されても、ゲル組成物中に含まれるスクラルファート粒子の構造が変化しないため、上記のショ糖オクタ硫酸エステル及びアルミニウムの比率は変わらないまま維持される。そのため、上記ゲル組成物は水等で希釈して服用しても、付着性、不快味抑制及び治療効果等の効果を十分に得ることができる。
【0051】
上記の製造方法により、特に(a−1)スクラルファート18〜70質量%、(a−2)有機酸7〜30質量%、(a−3)水、及び(a−4)pH調整剤が配合されているゲル組成物であって、分散媒と分散質から構成され、分散質中のショ糖オクタ硫酸エステル/アルミニウム比が質量比で0.3〜1.4であり、かつpHが5.0〜8.0であるゲル組成物を得ることができる。
【0052】
(2)液体製剤及び液体充填製品の製造方法
(1)で得た(A)スクラルファート含有組成物に、(B)フェニルプロパノイド系化合物、イソキノリン系アルカノイド、セスキテルペノイド誘導体からなる群から選ばれる1種以上の油性成分を加え、プロペラミキサー等の公知の手段で所定時間攪拌する。次に、別途用意した(C)非イオン界面活性剤と(D)パラベン類のエタノール分散液とを加えて均一になるまで攪拌することにより、本発明に係る液体製剤を得ることができる。そして、得られた液体製剤を、フィルム包装容器等の樹脂製容器に充填することにより本発明に係る液体充填製品を得ることができる。
【0053】
このようにして得られる本発明の液体充填製品は、(A)スクラルファート含有組成物、(B)フェニルプロパノイド系化合物、イソキノリン系アルカロイド及びセスキテルペノイド誘導体からなる群より選ばれる1種以上の油性成分、(C)非イオン性界面活性剤、及び(D)パラベン類を含有する液体製剤(胃腸薬液剤)と、該液体製剤が充填される、接液部分がポリエチレン、ポリプロピレン及びポリエチレンテレフタラートのいずれかで構成される樹脂製容器とを有するものであり、特に液体医薬製品として好適なものである。
【0054】
また、上述した構成を採用することにより、(A)スクラルファート含有組成物と、(B)フェニルプロパノイド系化合物、イソキノリン系アルカロイド及びセスキテルペノイド誘導体からなる群より選ばれる1種以上の油性成分とを含有する液体製剤が、接液部分がポリエチレン、ポリプロピレン及びポリエチレンテレフタラートのいずれかで構成される樹脂製容器に充填されている液体充填製品において、上記液体製剤に(C)非イオン性界面活性剤及び(D)パラベン類を添加することを含む、(B)油性成分の樹脂製容器に対する吸着抑制方法を提供することができる。
【0055】
本発明の吸着抑制方法を採用することにより、得られる液体充填製品は、スクラルファート及び油性成分を含有する液体製剤(胃腸薬液剤)が樹脂製容器に充填された製品形態とした場合でも、樹脂製容器に対する油性成分の吸着を可及的に抑制することができるようになり、また、界面活性剤に起因する苦みが抑制され服用性にも優れるものとなる。
【実施例】
【0056】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。なお、以下の実施例で用いたスクラルファート(富士化学工業(株)製、「スクラルファート水和物」)には12質量%の水分が含まれる。
【0057】
[実施例1〜14、比較例1〜8、参考例1]
(1)(A)スクラルファート含有組成物の調製
[液1]
(a−2)乳酸140gを(a−3)精製水500gに溶解し、(a−1)スクラルファート500gを添加してプロペラミキサーで10時間攪拌した。次に、(a−4)pH調整剤を添加してpHを5〜7に調整し、更に全量が1,800gとなるよう精製水を適量(バランス)加え、2時間攪拌してゲル状の組成物(液1)を得た。分散質中のショ糖オクタ硫酸エステル/アルミニウム比は0.7であった。
[液2]
(a−2)乳酸140gを(a−3)精製水500gに溶解し、(a−1)スクラルファート500gを添加してプロペラミキサーで10時間攪拌した。次に、全量が1,800gとなるよう精製水を適量(バランス)加え、2時間攪拌して液状の組成物(液2)を得た。
【0058】
上記液1(ゲル組成物)の分散質中のショ糖オクタ硫酸エステル/アルミニウム比は以下の方法により測定した。
【0059】
[分散質中のショ糖オクタ硫酸エステル/アルミニウム比]
作製したゲル組成物を遠心分離管にとり、2,000rpm、30分(室温)で遠心分離して上澄みを除去した。沈殿物に精製水を添加、洗浄して遠心分離で上澄みを除去した。同操作を2回繰り返した。得られた沈殿物のショ糖オクタ硫酸エステル含量とアルミウム含量を各々求め、ショ糖オクタ硫酸エステル/アルミニウム比(質量比)を求めた。
ショ糖オクタ硫酸エステル含量は「日局・スクラルファート」定量法(HPLC法)に準じて実施した。アルミニウム含量は、「日局・乾燥水酸化アルミニウムゲル」定量法(逆滴定法)に準じて酸化アルミニウム量を求め、アルミニウム量に換算した。
【0060】
(2)液体製剤の調製及び液体充填製品の製造
(1)で得た(A)スクラルファート含有組成物に、(B)フェニルプロパノイド系化合物、イソキノリン系アルカノイド及びセスキテルペノイド誘導体からなる群より選ばれる1種以上の油性成分を加え、プロペラミキサーで1時間攪拌した。次に、別途用意した(C)非イオン界面活性剤、及び(D)パラベン類のエタノール分散液を加えて均一になるまで攪拌し、液体製剤を得た。得られた液体製剤を10mLずつとり、金属/樹脂ラミネート包材容器に充填して本発明に係る液体充填製品(液体医薬製品)とした。包材の接液部分の材質にはポリエチレン製、ポリプロピレン製、ポリエチレンテレフタラート製のものを用いた。
【0061】
また、上記の液体充填製品(液体医薬製品)とは別に、(A)成分と(B)成分とを配合し、(C)成分及び(D)成分を配合しない液体製剤を容量50mLのガラス瓶に充填し、参考例1の液体充填製品を得た。
【0062】
上記で作製した液体充填製品(液体医薬製品)について、下記評価を行った。結果を表1〜3に示す。
【0063】
1)油性成分の吸着性
作製した液体充填製品を60℃・75%RHの恒温槽にて1週間保存した後、容器から取り出した液体製剤における油性成分の含量(残存量)を以下の手順により求めた。
〈油性成分の含量の測定方法〉
製剤15gを採取し、精製水10mLと、1mol/L塩酸20mLとを加えてよく振とうし、続いてジエチルエーテル20mLを加えてよく振とうし、遠心分離して上澄みと沈殿物とに分離し、上澄み液を採取した。この上澄み液に対して、精製水を加えるところから上澄みと沈殿物を分離するまでの操作をもう一度繰り返し、上澄み液を採取した。得られた上澄み液の溶媒を留去し、残留物にメタノール10mLを加え溶解し、ろ過して試料溶液とした。これとは別に、測定対象の油性成分の標準品1mgを精密に量り、薄めたメタノール(7→10)で10mLにメスアップし、ろ過して標準溶液とした。試料溶液及び標準溶液につき、液体クロマトグラフィーにより試験を行い、油性成分の含量を算出した。本発明では、油性成分の含量(残存量)が85%以上を合格と判定した。
なお、上記液体クロマトグラフィーの装置及び測定条件は以下の通りである。
装置:島津製作所製、高液液体クロマトグラフィーLC2010
測定条件:20℃、1.5mL/min、油性成分の保持時間約15分、オクタデシルシリル化シリカゲル充填カラム使用、試料導入量50μL
【0064】
2)服用性
9人のパネラー(健常な成人男女)が製剤1回量を口中に含み、直後に感じる苦味性を下記の判定基準に基づいて評価した。表には、パネラー全員の評価の平均点を記載した。
〈判定基準〉
3点:無味
2点:少し苦いが許容できる
1点:苦くて服用できない
2点以上を合格とした。
【0065】
【表1】
【0066】
【表2】
【0067】
【表3】
*(C)成分の代わりに(C’)成分の配合量を用いて算出した値。
【0068】
上記例で使用した原料、容器を下記に示す。なお、特に明記がない限り、表中の各成分の量は純分換算量である。
スクラルファート:富士化学工業(株)製、「スクラルファート水和物」
乳酸:DSP五協フード&ケミカル(株)製、「90%DL−乳酸」
炭酸水素ナトリウム:旭硝子(株)製、「重炭酸ナトリウム」
精製水:共栄製薬(株)製、「精製水(蒸留)」
マグノロール:和光純薬工業(株)製、「マグノロール」
ホノキオール:和光純薬工業(株)製、「ホノキオール」
βオイデスモール:和光純薬工業(株)製、「β−オイデスモール」
ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60:日光ケミカルズ(株)製、「HCO−60」
ショ糖脂肪酸エステル:三菱化学フーズ(株)製、「ショ糖脂肪酸エステルJ−1816」
ラウリル硫酸ナトリウム:和光純薬工業(株)製、「ラウリル硫酸ナトリウム」
セチルトリメチルアンモニウムクロリド:和光純薬工業(株)製、「セチルトリメチルアンモニウムブロミド」
ブチルパラベン:みどり化学(株)製、「ブチルパラベン」
プロピルパラベン:上野製薬(株)製、「パラオキシ安息香酸プロピル」
エタノール:和光純薬工業(株)製、「特級 エタノール(95)」
ポリエチレンラミネート容器:藤森工業(株)製、「PET/AL/PET/LLDPE」(ポリエチレンテレフタラート12μm/アルミニウム9μm/ポリエチレン12μmの積層)
ポリプロピレンラミネート容器:藤森工業(株)製、「PET/AL/PET/CPP」(ポリエチレンテレフタラート12μm/アルミニウム9μm/ポリプロピレン12μmの積層)
ポリエチレンテレフタレートラミネート容器:藤森工業(株)製、「PET/AL/PET/G−PET」(ポリエチレンテレフタレート12μm/アルミニウム9μm/ポリエチレンテレフタラート12μmの積層)
ガラス容器:日電理化硝子(株)製、「SV−50A」
【0069】
上記の表1〜3に示した結果より、本発明の構成を満足することにより、樹脂製容器に対する油性成分の吸着が可及的に抑制されると共に、苦みが少なく服用性にも優れる液体充填製品が得られることが確認された。
また、表2に併記した参考例1は、(C)成分及び(D)成分を含まない液体製剤をガラス瓶に充填した液体充填製品について評価したものである。この結果より、ガラス瓶には(C)成分及び(D)成分を配合しなくても(B)成分が吸着されないことがわかり、ガラス瓶に充填した従来の製品形態では本発明の課題が発生しないことが確認された。