(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、ゴム成分、シランカップリング剤、BET比表面積が210m
2/g以上のシリカ、加硫促進剤及び加硫剤を含むタイヤ用ゴム組成物の製造方法であって、前記ゴム成分、前記シランカップリング剤及び前記シリカを混練した後、前記加硫促進剤を投入して混練するベース練り工程と、前記ベース練り工程で得られた混練物に、前記加硫剤を投入して混練する仕上げ練り工程とを含み、前記ベース練り工程において、前記ゴム成分、前記シランカップリング剤及び前記シリカを混練した後の混練物のpHが6.5以下であり、前記加硫促進剤を混練した後の混練物のpHが8.0以上であるタイヤ用ゴム組成物の製造方法である。
【0013】
通常、加硫促進剤は、加硫剤とともに仕上げ練り工程で投入されるが、本発明では、ベース練り工程において、ゴム成分、シランカップリング剤及びシリカを混練した後、加硫促進剤を投入することにより、シリカとシランカップリング剤の反応を効果的に促進することができる。
【0014】
また、シランカップリング剤とシリカが結合するためには、シランカップリング剤の加水分解反応が生じた後、シランカップリング剤とシリカの重縮合反応が生じることが必要である。通常、pHは、水溶性のものでのみ測定されており、ゴム組成物のような疎水性のもので測定されることは少なかったが、本発明者らの検討の結果、加水分解反応及び重縮合反応の反応速度は、混練物のpHに大きく影響されることが判明した。そして、本発明者らが更に検討した結果、ベース練り工程における混練途中の混練物のpH、より詳細には、ゴム成分、シランカップリング剤及びシリカを混練した後の混練物のpHと、加硫促進剤を混練した後の混練物のpHとを調整することで、まず、ベース練りの初期でシランカップリング剤の加水分解反応を促進し、その後、ベース練りの後期でシランカップリング剤とシリカの重縮合反応を促進することができ、シランカップリング剤とシリカの結合を効率よく生成することが可能となることを見出した。
なお、本発明において、混練物のpHとは、混練物を各辺2mm角以内の大きさに切って蒸留水に浸漬し、マイクロ波を照射しながら90℃で15分間抽出し、浸漬水をpHメーターを用いて測定された値であり、具体的には後述の実施例に記載の方法で測定された値である。ここで、抽出については、超音波洗浄器などで1時間抽出してもゴム内部から完全に水溶性成分を抽出することはできないため、正確に内部のpHを知ることはできないが、本手法で抽出することでゴムの実体を知ることが可能になる。
【0015】
上記の作用により、本発明では、一般的に分散性が劣るBET比表面積が210m
2/g以上のシリカ(所謂微粒子シリカ)であっても、良好に分散させることができ、低燃費性、耐摩耗性及びウェットグリップ性能をバランスよく改善することが可能となる。
【0016】
従来のシランカップリング剤の活性化の技術は、シリカとシランカップリング剤の反応、ゴム成分とシランカップリング剤の反応の両方を促進するものであり、これらの反応が拮抗して、反応が不均一化していたと考えられる。これに対し、本発明は、加硫前の混練段階では、ゴム成分とシランカップリング剤の反応を抑制して、シリカとシランカップリング剤の反応のみを促進しておき、混練後の加硫でゴム成分とシランカップリング剤の反応を進行させることで、シリカの分散性が顕著に改善し、シリカとゴム成分とを均一に反応させることができ、これが、従来と比較して、優れた低燃費性、耐摩耗性及びウェットグリップ性能が発揮される理由であると推測される。しかしながら、このようなゴム組成物の状態を構造又は特性で直接特定することは困難である。
【0017】
以下、各工程の詳細について説明する。
【0018】
(ベース練り工程)
ベース練り工程では、ゴム成分、シランカップリング剤及びシリカを混練した後、加硫促進剤を投入して混練する。
【0019】
ベース練り工程において、ゴム成分、シランカップリング剤、シリカ及び加硫促進剤の投入量は、全量(全工程で使用する合計量)であってもよいし、一部であってもよい。
シリカの分散をより促進できるという理由から、ゴム成分、シランカップリング剤及びシリカは、ベース練り工程で全量を投入して混練することが好ましく、加硫促進剤は、一部をベース練り工程で投入して混練し、残部を仕上げ練り工程で投入して混練することが好ましい。
同様の理由から、ゴム成分、シランカップリング剤及びシリカは、加硫促進剤を投入する前に、全量の50質量%以上を投入して混練することが好ましく、70質量%以上がより好ましく、90質量%以上が更に好ましく、100質量%が特に好ましい。
【0020】
ベース練り工程において、ゴム成分、シランカップリング剤、シリカ及び加硫促進剤は、一度に投入してもよいし、分割して投入してもよい。例えば、ゴム成分、シランカップリング剤、シリカの一部を最初に混練した後、これらの残部を、加硫促進剤とともに投入して混練してもよい。
【0021】
ベース練り工程の混練は、1段階で実施してもよいし、2段階以上で実施してもよい。
なお、本発明では、1段階の混練とは、各成分を投入して混練した後、排出するまでを意味する。よって、排出するまでに各成分を時間差で投入した場合も、1段階の混練となる。
【0022】
加硫促進剤の投入時期は、例えば、ベース練り工程の混練を1段階で実施する場合であれば、まず、ゴム成分、シランカップリング剤及びシリカを混練した後、加硫促進剤を投入して混練すればよい。この場合、ゴム成分、シランカップリング剤及びシリカを混練した後の混練物を、混練機内で、所定の温度(好ましくは130〜160℃)に調整しながら、所定の時間(好ましくは30秒〜5分)静置した後、加硫促進剤を投入して混練することが好ましい。
【0023】
また、ベース練り工程の混練を2段階で実施する場合であれば、1段階目の混練で、ゴム成分、シランカップリング剤及びシリカを混練してから一旦排出し、その後、2段階目の混練で、1段階目で得られた混練物とともに、加硫促進剤を投入して混練すればよい。ベース練り工程の混練を2段階で実施し、2段階目で加硫促進剤を投入する場合、工数は増加するが、ゴム成分に無駄な熱履歴が加わることを防止できるため、シランカップリング剤の加水分解反応、シリカの分散、シランカップリング剤とシリカの重縮合反応をバランスよく促進させることが可能となる。
【0024】
加硫促進剤を投入する前に、ゴム成分、シランカップリング剤及びシリカを混練する際の混練時間は、好ましくは30秒以上、より好ましくは60秒以上、更に好ましくは80秒以上である。30秒未満では、シランカップリング剤の加水分解反応を充分に進行させることができないおそれがある。上限は特に限定されないが、好ましくは30分以下、より好ましくは5分以下である。30分を超えると、ゴム成分が劣化し、耐摩耗性が悪化するおそれがある。
また、加硫促進剤を投入した後の混練時間は特に限定されないが、好ましくは30秒〜30分、より好ましくは80秒〜5分である。
【0025】
上記のとおり、本発明では、ベース練り工程における混練物のpHを所定の範囲に調整する。混練物のpHは、配合するシリカ等の成分に大きく影響されるが、ステアリン酸、加硫促進剤、アミン系老化防止剤等の極性の大きい配合剤は、水溶性ではないため、その配合量はpHに直接影響しない。但し、極性の大きい配合剤は、シリカの表面官能基と反応してpHに影響を与えるため、この点を含めて組成全体でpHを管理することが重要となる。
【0026】
ベース練り工程において、ゴム成分、シランカップリング剤及びシリカを混練した後の混練物、すなわち、加硫促進剤が投入される混練物のpHは、6.5以下、好ましくは6.0以下、より好ましくは5.5以下、更に好ましくはpH5.0以下、特に好ましくは4.5以下である。上記pHが6.5を超えると、シランカップリング剤の加水分解反応が充分に促進されず、未反応のシランカップリング剤が多くなり、耐摩耗性やウェットグリップ性能を充分に改善できないおそれがある。また、上記pHが6.5を超えると、シランカップリング剤の加水分解反応よりもシランカップリング剤同士の重縮合反応が進んでゲル化したり、シリカ間の凝集が強くなることで、シリカの分散が阻害されてしまい、シランカップリング剤とシリカの反応が進みにくくなり、結果、耐摩耗性、ウェットグリップ性能の改善効果が損なわれたり、加工性が悪化するおそれがある。さらに、シリカと反応する官能基を有する変性ゴムを使用する場合、上記pHが6.5を超えると、官能基同士の縮合反応が進み、シリカと官能基の反応が阻害されるおそれがある。
【0027】
ベース練り工程において、ゴム成分、シランカップリング剤及びシリカを混練した後の混練物のpHは、好ましくは2.0以上、より好ましくは2.5以上、更に好ましくは3.0以上、特に好ましくは3.5以上である。2.0未満であると、急激に加水分解反応が起こり、シランカップリング剤同士の重縮合反応も起こるため、かえってシランカップリング剤とシリカの反応が阻害されるおそれがある。また、酸性物質によりゴム成分が劣化するおそれもある。
【0028】
ベース練り工程において、加硫促進剤を混練した後の混練物のpHは、8.0以上、好ましくは8.5以上である。上記pHが8.0未満であると、シランカップリング剤とシリカの重縮合反応が充分に進行しない状態でシランカップリング剤とゴム成分との反応が進行してしまい、良好な耐摩耗性、ウェットグリップ性能が得られないおそれがある。上記pHの上限は特に限定されないが、13以下であることが好ましい。上記pHが13を超えると、シランカップリング剤とシリカの重縮合反応が進行し過ぎてゲル化が生じ、耐摩耗性が悪化するおそれがある。
【0029】
ベース練り工程で投入するゴム成分としては、例えば、天然ゴム(NR)、エポキシ化天然ゴム(ENR)、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)等のジエン系ゴムが挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なかでも、SBR、BRが好ましく、BRがより好ましい。また、低燃費性、耐摩耗性、ウェットグリップ性能の観点から、BRとしては、シス含量70質量%以上、重量平均分子量30万以上のハイシスBRを用いることが好ましい。
なお、本発明において、シス含量は、赤外吸収スペクトル分析により算出される値であり、重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC)(東ソー(株)製GPC−8000シリーズ、検出器:示差屈折計、カラム:東ソー(株)製のTSKGEL SUPERMULTIPORE HZ−M)による測定値を基に標準ポリスチレン換算により求めた値である。
【0030】
低燃費性、耐摩耗性及びウェットグリップ性能の観点から、SBR、ハイシスBRは、シリカと反応する官能基を有する変性SBR、変性ハイシスBRであることが好ましい。官能基としては特に限定されないが、例えば、アルコキシシリル基、アミノ基、水酸基、カルボキシ基、アミド基、エポキシ基、イミノ基、シアノ基等が挙げられる。これらは、官能基は、ポリマー鎖の末端、主鎖のいずれに導入されていてもよく、ポリマー鎖に複数導入されていてもよい。なかでも、シリカと強固な結合を形成できるという理由から、アルコキシシリル基、アミド基が好ましく、アルコキシシリル基がより好ましい。
【0031】
なお、変性SBR、変性ハイシスBR等の変性ゴムを使用した場合、ムーニー粘度が上昇して各成分が分散しにくくなることで、シランカップリング剤の反応が均一に進行することができず、耐摩耗性が悪化する場合があったが、本発明の混練手法では、各成分を良好に分散させることができるため、変性ゴムの使用による耐摩耗性の悪化を抑制することができる。
【0032】
ベース練り工程で投入するシランカップリング剤としては特に限定されないが、例えば、スルフィド系、ビニル系、アミノ系、グリシドキシ系、ニトロ系、クロロ系シランカップリング剤等が挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。なかでも、スルフィド系シランカップリング剤が好ましく、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィドがより好ましい。
【0033】
ベース練り工程で投入するシリカは、BET比表面積が210m
2/g以上の所謂微粒子シリカである。上記微粒子シリカは、補強性が高く、耐摩耗性の改善効果に優れるという特徴を有しているが、分散性が低いため、分散不良によってかえって耐摩耗性が悪化する場合があった。これに対し、本発明の混練手法では、上記微粒子シリカであっても良好に分散させることができるため、上記微粒子シリカによる耐摩耗性の改善効果を充分に発揮させることが可能となる。
なお、本発明では、上記微粒子シリカとともに、他のシリカ(BET比表面積が210m
2/g未満のシリカ)を併用してもよい。
【0034】
耐摩耗性の観点から、上記微粒子シリカのBET比表面積は、好ましくは215m
2/g以上、より好ましくは220m
2/g以上である。BET比表面積の上限は特に限定されないが、作業性、加工性の観点から、400m
2/g以下が好ましく、300m
2/g以下がより好ましい。
なお、本発明において、BET比表面積は、ASTM D3037−81に準じて測定される値である。
【0035】
シランカップリング剤の反応促進効果の観点から、上記微粒子シリカのpHは、好ましくは4.0以上、より好ましくは5.5以上であり、また、好ましくは9.5以下、より好ましくは7.0以下である。
なお、本発明において、上記微粒子シリカのpHは、JIS K1150に従って測定される値である。
【0036】
ベース練り工程で投入する加硫促進剤としては特に限定されないが、例えば、グアニジン類、スルフェンアミド類、チアゾール類、チウラム類、ジチオカルバミン酸塩類、チオウレア類、キサントゲン酸塩類等が挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。なかでも、本発明の効果が良好に得られるという理由から、グアニジン類が好ましい。グアニジン類のソフト塩基としての機能により、シランカップリング剤とシリカの重縮合反応が選択的に促進され、シリカが良好に分散し、低燃費性、耐摩耗性、ウェットグリップ性能の改善効果が高まると考えられる。
【0037】
グアニジン類としては、1,3−ジフェニルグアニジン、1,3−ジ−o−トリルグアニジン、1−o−トリルビグアニド、ジカテコールボレートのジ−o−トリルグアニジン塩、1,3−ジ−o−クメニルグアニジン、1,3−ジ−o−ビフェニルグアニジン、1,3−ジ−o−クメニル−2−プロピオニルグアニジン等が挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。なかでも、1,3−ジフェニルグアニジン、1,3−ジ−o−トリルグアニジン、1−o−トリルビグアニドが好ましく、1,3−ジフェニルグアニジンがより好ましい。
【0038】
ベース練り工程において、加硫促進剤の投入量は、シリカの投入量100質量部に対して、好ましくは0.1〜20質量部、より好ましくは0.5〜5質量部、更に好ましくは1〜3質量部である。0.1質量部未満では、シランカップリング剤とシリカの重縮合反応の促進効果が充分に得られないおそれがあり、20質量部を超えると、仕上げ練り工程後に実施する加硫工程のコントロールが困難となり、耐摩耗性が悪化するおそれがある。
【0039】
ベース練り工程で得られた混練物、すなわち、仕上げ練り工程で加硫剤が投入される混練物において、シランカップリング剤の未反応率は、20%未満であることが好ましい。上記範囲内であれば、シランカップリング剤の反応が充分に進行しているため、良好な低燃費性、耐摩耗性及びウェットグリップ性能が得られる。
なお、本発明において、シランカップリング剤の未反応率とは、ベース練り工程で投入したシランカップリング剤のうち、シリカと結合していないと想定されるものの割合であり、後述の実施例の方法で測定することができる。
【0040】
ベース練り工程では、上述のゴム成分、シランカップリング剤、シリカ及び加硫促進剤以外に、他の成分を投入して混練してもよい。他の成分としては、仕上げ練り工程で投入する加硫剤以外であれば特に限定されないが、例えば、カーボンブラック、オイル、ステアリン酸、老化防止剤、酸化亜鉛等が挙げられる。
【0041】
ベース練り工程の混練方法としては特に限定されず、例えば、バンバリーミキサー、ニーダー等の公知の混練機を用いることができる。また、混練時間(ベース練り工程の全体の混練時間)は、3〜20分が好ましく、混練時のゴム温度(混練物の温度)は、130〜160℃が好ましい。
【0042】
(仕上げ練り工程)
仕上げ練り工程では、ベース練り工程で得られた混練物に、加硫剤を投入して混練する。
【0043】
仕上げ練り工程で投入する加硫剤としては、ゴム成分を架橋可能な薬品であれば特に限定されないが、例えば、硫黄等が挙げられる。また、ハイブリッド架橋剤(有機架橋剤)についても本発明における加硫剤として使用できる。これらは、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。なかでも、硫黄が好ましい。
【0044】
なお、仕上げ練り工程では、上述の加硫剤以外に、他の成分を投入して混練してもよい。他の成分としては、例えば、加硫促進剤、ステアリン酸等が挙げられる。
【0045】
仕上げ練り工程で投入する加硫促進剤としては、ベース練り工程で投入する加硫促進剤と同様のものを使用できるが、スルフェンアミド類が好ましい。スルフェンアミド類により、架橋形態が均一化され、低燃費性、耐摩耗性、ウェットグリップ性能が更に改善されると考えられる。
【0046】
スルフェンアミド類としては、N−シクロヘキシル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、N,N−ジシクロヘキシル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、N−tert−ブチル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、N−オキシジエチレン−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、N−メチル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、N−エチル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、N−プロピル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、N−ブチル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、N−ペンチル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、N−ヘキシル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、N−ペンチル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、N−オクチル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、N−2−エチルヘキシル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、N−デシル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、N−ドデシル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、N−ステアリル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、N,N−ジメチル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、N,N−ジエチル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、N,N−ジプロピル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、N,N−ジブチル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、N,N−ジペンチル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、N,N−ジヘキシル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、N,N−ジペンチル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、N,N−ジオクチル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、N,N−ジ−2−エチルヘキシルベンゾチアゾリルスルフェンアミド、N−デシル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、N,N−ジドデシル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、N,N−ジステアリル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド等が挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。なかでも、N−シクロヘキシル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、N−tert−ブチル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミドが好ましく、N−tert−ブチル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミドがより好ましい。
【0047】
仕上げ練り工程の混練方法としては特に限定されず、例えば、オープンロール等の公知の混練機を用いることができる。また、混練時間は、1〜15分が好ましく、混練時のゴム温度(混練物の温度)は、80〜120℃が好ましい。
【0048】
(加硫工程)
加硫工程では、仕上げ練り工程で得られた混練物(未加硫ゴム組成物)を加硫する。より詳細には、未加硫ゴム組成物を、トレッド等のタイヤ部材の形状に合わせて押し出し加工し、タイヤ成型機上にて通常の方法にて成形し、他のタイヤ部材とともに貼り合わせ、未加硫タイヤを形成した後、加硫機中で加熱加圧することで、タイヤを製造することができる。加硫温度は、150〜200℃が好ましく、加硫時間は、5〜15分が好ましい。
【0049】
低燃費性、耐摩耗性及びウェットグリップ性能がバランスよく得られるという理由から、本発明の製造方法により得られるゴム組成物において、ゴム成分100質量%中の上記ハイシスBRの含有量は、20質量%を超えることが好ましく、より好ましくは25質量%以上であり、また、好ましくは80質量%以下、より好ましくは70質量%以下である。
【0050】
低燃費性、耐摩耗性及びウェットグリップ性能がバランスよく得られるという理由から、本発明の製造方法により得られるゴム組成物において、ゴム成分100質量%中のSBRの含有量は、好ましくは20質量%以上、より好ましくは30質量%以上であり、また、好ましくは80質量%未満、より好ましくは75質量%以下である。
【0051】
低燃費性、耐摩耗性及びウェットグリップ性能がバランスよく得られるという理由から、本発明の製造方法により得られるゴム組成物において、上記微粒子シリカの含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは10質量部以上、より好ましくは20質量部以上、更に好ましくは60質量部以上であり、また、好ましくは300質量部以下、より好ましくは150質量部以下である。
同様の理由から、本発明の製造方法により得られるゴム組成物において、シリカの含有量(上記微粒子シリカ及び他のシリカの合計量)は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは10質量部以上、より好ましくは20質量部以上、更に好ましくは60質量部以上であり、また、好ましくは300質量部以下、より好ましくは150質量部以下である。
【0052】
低燃費性、耐摩耗性及びウェットグリップ性能がバランスよく得られるという理由から、本発明の製造方法により得られるゴム組成物において、シランカップリング剤の含有量は、シリカ100質量部に対して、好ましくは1質量部以上、より好ましくは3質量部以上であり、また、好ましくは10質量部以下、より好ましくは6質量部以下である。
【0053】
低燃費性、耐摩耗性及びウェットグリップ性能がバランスよく得られるという理由から、本発明の製造方法により得られるゴム組成物において、加硫促進剤の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは0.5質量部以上、より好ましくは1.5質量部以上であり、また、好ましくは10質量部以下、より好ましくは6質量部以下である。
【0054】
低燃費性、耐摩耗性及びウェットグリップ性能がバランスよく得られるという理由から、本発明の製造方法により得られるゴム組成物において、加硫剤の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは0.1質量部以上、より好ましくは0.5質量部以上であり、また、好ましくは8質量部以下、より好ましくは5質量部以下である。
【実施例】
【0055】
実施例に基づいて、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらのみに限定されるものではない。
【0056】
以下、実施例及び比較例で使用した各種薬品について、まとめて説明する。
SBR1:製造例1
BR1:製造例2
シリカ1:エボニック・デグサ社製のウルトラシル 9000GR(BET:240m
2/g、CTAB:200m
2/g、pH:6.9)
シリカ2:ローディア社製のZEOSIL P200MP(BET:220m
2/g、CTAB200m
2/g、pH:6.3)
シリカ3:東ソー・シリカ(株)製のニプシールAQ(BET:200m
2/g、CTAB:155m
2/g、pH:6.0)
シリカ4:試作品の湿式シリカ(BET:225m
2/g、CTAB:200m
2/g、pH:9.5)
シリカ5:ローディア社製のZeosil 1115MP(BET:115m
2/g、CTAB:110m
2/g、pH6.7)
シランカップリング剤:エボニック・デグサ社製のSi75(ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド)
カーボンブラック:三菱化学(株)製のダイアブラックI(ISAFクラス)(N
2SA:114m
2/g)
オイル:オリソイ社製の高オレイン酸ひまわり油(オレイン酸比率82%、多価不飽和脂肪酸比率9%、飽和脂肪酸比率9%)
ステアリン酸:日油(株)製のビーズステアリン酸つばき
老化防止剤:大内新興化学工業(株)製のノクラック6C(N−(1,3−ジメチルブチル)−N−フェニル−p−フェニレンジアミン)
酸化亜鉛:三井金属鉱業(株)製の酸化亜鉛2種
硫黄:鶴見化学工業(株)製の粉末硫黄
加硫促進剤1:大内新興化学工業(株)製のノクセラーD(N,N’−ジフェニルグアニジン)
加硫促進剤2:大内新興化学工業(株)製のノクセラーNS(N−tert−ブチル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド)
【0057】
<製造例1:SBR1(変性SBR)>
窒素雰囲気下、撹拌機を備えたガラスフラスコ中のジクロロメタン溶媒400mL中にアミノシラン部位として36gの3−アミノプロピルメチルジエトキシシラン(Gelest社製)を加えた後、更に保護部位として塩化トリメチルシラン(Aldrich社製)48mL、トリエチルアミン53mLを加え、17時間室温下で撹拌した。その後、反応溶液をエバポレーターにかけることにより溶媒を取り除き、反応混合物を得た。得られた反応混合物を圧力665Pa条件下で減圧蒸留することにより、130〜135℃留分として、変性剤であるN,N−ビス(トリメチルシリル)アミノプロピルメチルジエトキシシランを40g得た。
【0058】
次に、窒素置換された内容積5Lのオートクレーブ反応器に、シクロヘキサン2,750g、テトラヒドロフラン16.8mmol、スチレン125g、1,3−ブタジエン375gを仕込んだ。反応器内容物の温度を10℃に調整した後、n−ブチルリチウム1.2mmolを添加して重合を開始した。
【0059】
重合転化率が99%に達した時点で、ブタジエン10gを追加し、更に5分重合させた。上記で得られたN,N−ビス(トリメチルシリル)アミノプロピルメチルジエトキシシラン1.1mmolを加えて、変性反応を15分間行った。この後、テトラキス(2−エチル−1,3−ヘキサンジオラト)チタン0.6mmolを加え、更に15分間撹拌した。最後に、反応後の重合体溶液に、2,6−ジ−tert−ブチル−p−クレゾールを添加した。次いで、スチームストリッピングを行い、110℃に調温された熱ロールによりゴムを乾燥し、SBR1(変性SBR)を得た。得られたSBR1は、ガラス転移温度Tg−38℃、結合スチレン量24.5質量%、共役ジエン部のビニル含有量56モル%であった。
【0060】
<製造例2:BR1(変性ハイシスBR)>
5Lオートクレーブに、窒素雰囲気下、シクロヘキサン2.4kg、1,3−ブタジエン300gを仕込んだ。これらに、予め、バーサチック酸ネオジム(0.09mmol)のシクロヘキサン溶液、メチルアルモキサン(1.0mmol)のトルエン溶液、水素化ジイソブチルアルミニウム(3.5mmol)及びジエチルアルミニウムクロリド(0.18mmol)のトルエン溶液と、1,3−ブタジエン(4.5mmol)とを50℃で30分間反応熟成させて調製した触媒を仕込み、80℃で45分間重合反応を行った。
【0061】
次に、反応温度60℃に保ち、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(4.5mmol)のトルエン溶液を添加し、30分間反応を行い、重合体の活性末端を変性させた。その後、2,4−ジ−tert−ブチル−p−クレゾール1.5gを含むメタノール溶液を添加した。
【0062】
次に、水酸化ナトリウムによりpH10に調整した水溶液20Lに、上記で得られた変性重合体溶液を添加し、110℃で2時間脱溶媒した後、110℃の熱ロールで乾燥させて、BR1(変性ハイシスBR)を得た。得られたBR1は、シス含量97質量%、ビニル含量1.1質量%、Mw35万であった。
【0063】
<製造例3:実施例1〜3、比較例1〜2>
バンバリーミキサーを用いて、表1の工程1 投入1に記載の薬品を投入して、ゴム温度(混練物の温度)が約150℃になるように調整しながら3分間混練した。その後、混練物を、バンバリーミキサー内で、ゴム温度が約155℃となるように調整しながら1分間保持(静置)した。
【0064】
次に、工程1 投入2に記載の薬品をバンバリーミキサーに投入して、ゴム温度が約150℃となるように調整しながら3分間混練してから、混練物を排出した。その後、排出した混練物と、工程3に記載の薬品とをオープンロールに投入し、ゴム温度が約110℃になるように調整しながら3分間混練し、未加硫ゴム組成物を得た。
【0065】
得られた未加硫ゴム組成物をトレッドの形状に成形し、タイヤ成型機上で他のタイヤ部材とともに貼り合わせて未加硫タイヤを形成し、170℃で10分間加硫し、試験用タイヤ(サイズ:195/65R15、乗用車用タイヤ)を製造した。
【0066】
<製造例4:実施例4>
バンバリーミキサーを用いて、表2の工程1に記載の薬品をゴム温度が約150℃になるように調整しながら3分間混練した後、一旦混練物を排出した。次に、排出した混練物を、工程2に記載の薬品とともに、バンバリーミキサーに再び投入し、ゴム温度が約150℃となるように調整しながら3分間混練した。その他の条件は製造例3と同様にして、試験用タイヤを製造した。
【0067】
<製造例5:比較例3、4>
バンバリーミキサーを用いて、表3の工程1に記載の薬品をゴム温度が約150℃になるように調整しながら6分間混練した後、混練物を排出した。その後、排出した混練物と、工程3に記載の薬品とをオープンロールに投入し、ゴム温度が約110℃になるように設定して3分間混練した。その他の条件は製造例3と同様にして、試験用タイヤを製造した。
【0068】
得られた試験用タイヤ等について、下記の評価を行った。結果を表1〜3に示す。
【0069】
<混練物のpH>
混練物ゴム5gを3辺の合計が5mm以下(約1〜2×約1〜2×約1〜2(mm))に切断して100mlビーカーに入れ、常温の蒸留水50mlを加えて2分間で90℃に昇温し、その後90℃に保つように調整しながらマイクロ波(300W)を13分(合計15分)照射した。次いで、浸漬水をアイスバスで冷却して25℃とした後、pHメーターを用いて、浸漬水のpHを測定した。
実施例1〜3、比較例1、2については、工程1 投入1を実施した後の混練物のpHと、工程1 投入2を実施した後の混練物のpHとを測定し、それぞれ、表1のpH1、pH2の欄に記載した。
実施例4については、工程1を実施した後の混練物のpHと、工程2を実施した後の混練物のpHとを測定し、それぞれ、表2のpH1、pH2の欄に記載した。
比較例3、4については、工程1を実施した後の混練物のpHを測定し、表3のpH2の欄に記載した。
【0070】
<シランカップリング剤の未反応率>
ベース練り工程後の混練物について、液相クロマトグラフィーを用いて抽出した未反応のシランカップリング剤のピーク面積から未反応率を求めた。具体的には、各混練物から、未反応のシランカップリング剤をアセトン抽出して、液相クロマトグラフィー法によりそのピーク面積(ピーク面積1)を測定した。そして、各混練物に使用したシランカップリング剤と同量のシランカップリング剤を含む参照溶液に対して同様の操作を行い、ピーク面積(ピーク面積2)を測定した。得られたピーク面積1、2の比から、ベース練り工程後の混練物におけるシランカップリング剤の未反応率(%)を算出した。
【0071】
<低燃費性>
転がり抵抗試験機を用い、各試験用タイヤを、リム(15×6JJ)、内圧(230kPa)、荷重(3.43kN)、速度(80km/h)で走行させたときの転がり抵抗を測定し、比較例1を100とした時の指数で表示した。指数が大きいほど転がり抵抗が少なく、低燃費性に優れることを示す。
【0072】
<耐摩耗性>
各試験用タイヤを国産FF車に装着し、走行距離8000km後のタイヤトレッド部の溝深さを測定し、タイヤ溝深さが1mm減るときの走行距離を算出し、比較例1を100とした時の指数で表示した。指数が大きいほど、タイヤ溝深さが1mm減るときの走行距離が長く、耐摩耗性に優れることを示す。
【0073】
<ウェットグリップ性能>
各試験用タイヤを車両(国産FF2000cc)の全輪に装着して、湿潤アスファルト路面にて初速度100km/hからの制動距離を求め、比較例1を100とした時の指数で表示した。指数が大きいほど制動距離が短く、ウェットグリップ性能(ウェットスキッド性能)に優れることを示す。
【0074】
<加工性>
JIS K6300に従い、各未加硫ゴム組成物のムーニー粘度(ML1+4)を130℃で測定し、比較例1を100とした時の指数で表示した。指数が大きいほど、ムーニー粘度が低く、加工性に優れることを示す。
【0075】
【表1】
【0076】
【表2】
【0077】
【表3】
【0078】
表1〜3より、ゴム成分、シランカップリング剤及びBET比表面積が210m
2/g以上のシリカ(シリカ1、2、4)を混練した後、加硫促進剤を投入して混練するベース練り工程と、ベース練り工程で得られた混練物に、加硫剤(硫黄)を投入して混練する仕上げ練り工程とを含み、ゴム成分、シランカップリング剤及びシリカを混練した後の混練物のpH(pH1)が6.5以下であり、加硫促進剤を混練した後の混練物のpH(pH2)が8.0以上である製造方法で得られた実施例は、低燃費性、耐摩耗性及びウェットグリップ性能がバランスよく改善され、また、良好な加工性も得られることが明らかとなった。
【0079】
また、実施例1、比較例1、3、4の結果から、BET比表面積が210m
2/g以上のシリカを含むゴム組成物に本発明の手法を適用した場合、他のシリカを含むゴム組成物に同様の手法を適用した場合と比較して、性能の改善効果が大きいことが分かった。