(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
フィルム基材上に分散樹脂及び水溶性の凝集剤を少なくとも含む塗布液を塗布してなる記録媒体に、顔料、顔料分散剤、水及び水溶性有機溶剤を少なくとも含むインクジェットインクをシングルパス方式で記録する記録方法であって、
前記凝集剤は、少なくとも一部が前記分散樹脂間に存在し、マロン酸又はクエン酸である第1凝集剤、及び、多価金属塩又はカチオン化合物である第2凝集剤を少なくとも含み、
前記記録媒体への前記インクジェットインク着弾時に、前記第1凝集剤は、プロトンであるカチオンを生成し、前記第2凝集剤は、非プロトンであるカチオンを生成し、前記第1凝集剤からのカチオンと前記第2凝集剤からのカチオンとは、有意な拡散速度の差をもって、前記インクジェットインク成分に作用して凝集させることを特徴とするインクジェット記録方法。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、本発明を実施するための形態について詳しく説明する。
【0012】
本発明のインクジェット記録方法は、フィルム基材上に分散樹脂及び水溶性の凝集剤を少なくとも含む塗布液を塗布してなる記録媒体に、顔料、顔料分散剤、水及び水溶性有機溶剤を少なくとも含むインクジェットインク(以下、単にインクともいう)をシングルパス方式で記録する。その際、前記凝集剤が、酸である第1凝集剤、及び、多価金属塩又はカチオン化合物である第2凝集剤を少なくとも含むことを一つの特徴とする。
【0013】
これにより、フィルム基材に対してシングルパス方式による高速インクジェット記録を行う場合においても、印字率が低い低濃度部で液寄りが発生することを防止でき、且つ印字率が高い高濃度部では隙間なくドットが拡がって均一なベタ画像を形成できる効果が得られる。
【0014】
フィルム基材に対してシングルパス方式でインクジェット記録する場合、互いに隣接するドットを形成するためのインク滴を、インクを実質的に吸収しないフィルム基材上に極短時間に着弾させることになる。そのため、低濃度部で液寄りが発生したり、高濃度部でビーディングや斑が発生したりする問題があった。また、これらの問題を回避するため凝集剤の量を増加させれば、高濃度部のドット間に隙間ができてしまい、ベタ画像を均一に埋めることが困難であるという問題があった。これに対して、本発明によれば、フィルム基材に対してシングルパス方式でインクジェット記録する場合においても、上記のような問題を好適に解決できる。
【0015】
インクが記録媒体に着弾した際に、第1凝集剤及び第2凝集剤はそれぞれカチオンを生成する。これらカチオンがインク成分に作用することで凝集が生じる。
【0016】
第1凝集剤が生成するカチオンはプロトンであり、水中での拡散速度が潜在的に速い。一方、第2凝集剤が生成するカチオンはプロトンではなく、水中での拡散速度が潜在的に遅い。本発明においては、記録媒体に凝集剤が分散樹脂と共に塗布されているため、分散樹脂と共に塗布された凝集剤は、少なくとも一部が分散樹脂間に存在している。そのため、インク着弾時に、凝集剤からのカチオンは、分散樹脂間からインク中に拡散される。この拡散過程で、第1凝集剤からのカチオン(プロトン)は分散樹脂間を速やかに通過する。一方、比較的サイズの大きい第2凝集剤からのカチオン(非プロトン)は、例えば分散樹脂が障害物になる等によって、分散樹脂間の通過が遅れ、拡散が遅くなる。その結果、第1凝集剤からのカチオンと、第2凝集剤からのカチオンとが有意な拡散速度の差をもって、インク成分に作用する。
【0017】
これにより、印字率が低い低濃度部では、第1凝集剤からのカチオンを速やかに作用させて、液寄りの発生を防止できる。
【0018】
また、印字率が高い高濃度部(例えばベタ画像)では、インク付量が多いため、第1凝集剤が生成するカチオンの作用に加えて、第2凝集剤が生成するカチオンを遅く作用させて、隙間なくドットが拡がる時間を確保できる。さらに、遅れて作用する第2の凝集剤によって、インク付量が多くても、ビーディングや斑の発生原因となり得る過剰なインク流動が防止され、均一なベタ画像を形成できる。
【0019】
例えば、インク付量に対応して第2凝集剤の配合量を増加させても、第2凝集剤が生成するカチオンの拡散は分散樹脂の存在により充分遅くなるため、高濃度部の形成時にドットが拡がる時間を充分に確保できる。例えば、2次色を凝集させるために、インク単色の200%を凝集可能な量の凝集剤を付与する場合においても、好適に対応できる。
【0020】
これらの結果、印字率の高低によらず、高品質な画像を記録することが可能になる。この効果は、フィルム基材に対して、特に記録速度が高速になるシングルパス方式によるインクジェット記録を行う際に顕著になる。
【0021】
以下に、インクジェット記録方法に係る各構成について更に詳しく説明する。
【0022】
<記録媒体>
インクジェット法による記録対象となる記録媒体を用意する。記録媒体は、フィルム基材上に、分散樹脂及び水溶性の凝集剤を少なくとも含む塗布液を塗布してなる。
【0023】
(フィルム基材)
フィルム基材を構成する樹脂は格別限定されないが、例えばポリプロピレン、ポリエチレン等のポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル、ナイロン等のポリアミド等のようなプラスチックを好ましく挙げることができる。フィルム基材は、未延伸フィルム又は延伸フィルムの何れであってもよい。フィルム基材としては、インク非吸収性あるいはインク微吸収性のものを好適に用いることができる。また、フィルム基材の表面は、コロナ処理等の表面処理がなされていてもよい。
【0024】
(塗布液)
かかるフィルム基材上に塗布される塗布液は、分散樹脂及び水溶性の凝集剤を少なくとも含む。
【0025】
(分散樹脂)
分散樹脂は格別限定されないが、例えば、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、ポリプロピレンなどのポリオレフィン樹脂などを挙げることができ、特にウレタン樹脂が好適である。ウレタン樹脂を含むことによって、後述するインクジェット法によって記録される画像の密着性を向上することができ、更に、記録後のフィルム基材の柔軟性が損なわれにくい。
【0026】
フィルム基材が、延伸ポリオレフィンフィルム、例えば、延伸ポリプリピレンフィルム(略称OPP)等の場合は、後述するインクジェット法によって記録される画像の密着性を高める観点で、樹脂として、ウレタン樹脂を単独で用いるよりも、ウレタン樹脂に極性の低いオレフィン系樹脂を混合して用いることが好ましい。
【0027】
樹脂としては、本発明の効果を更に顕著に発揮する観点で、カチオン性又はノニオン性の樹脂を好ましく用いることができ、特にカチオン性の樹脂が好適である。
【0028】
以下に、カチオン性又はノニオン性のウレタン樹脂の具体例を挙げる。カチオン性のウレタン樹脂としては、例えば、第一工業製薬株式会社製の「スーパーフレックス620」及び「スーパーフレックス650」(「スーパーフレックス」は同社の登録商標)、三洋化成工業株式会社製の「パーマリンUC−20」(「パーマリン」は同社の登録商標)、大原パラヂウム化学株式会社製の「パラサーフUP−22」などを挙げることができる。ノニオン性のウレタン樹脂としては、例えば、第一工業製薬株式会社製の「スーパーフレックス500M」及び「スーパーフレックスE−2000」などを挙げることができる。
【0029】
分散樹脂は、樹脂微粒子として塗布液に含有されることが好ましい。樹脂微粒子の体積平均粒子径は、10nm以上10μm以下の範囲であることが好ましい。体積平均粒子径の測定は、動的光散乱法、電気泳動法等を用いた市販の粒径測定機器により求めることができるが、動的光散乱法による測定が簡便で、且つ該粒子径領域を精度よく測定できる。
【0030】
塗布液における分散樹脂の含有量は、塗布液の重量に対して5重量%〜40重量%の範囲とすることが好ましく、10重量%〜30重量%の範囲とすることが更に好ましい。
【0031】
塗布液の樹脂は、一種を単独で用いてもよいし、複数種を併用してもよい。
【0032】
(水溶性の凝集剤)
水溶性の凝集剤は、25℃の水に5重量%以上の濃度で溶解可能であることが好ましく、10重量%以上の濃度で溶解可能であることが更に好ましい。
【0033】
塗布液は、水溶性の凝集剤として、第1凝集剤及び第2凝集剤を少なくとも含む。
【0034】
第1凝集剤は、酸であれば格別限定されず、例えばpH変動等によって、インク成分を凝集することができる。
【0035】
酸として、例えば、無機酸、有機酸、酸性ポリマー等が挙げられる。
【0036】
無機酸としては、例えば、オルトリン酸、亜リン酸、次亜リン酸、硝酸、亜硝酸、硫酸、塩酸等が挙げられる。
【0037】
有機酸としては、例えば、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、イソ酪酸、シュウ酸、フマル酸、リンゴ酸、クエン酸、マロン酸、コハク酸、マレイン酸、安息香酸、2−ピロリドン−5−カルボン酸、乳酸、アクリル酸又はその誘導体、メタクリル酸又はその誘導体、アクリルアミド又はその誘導体、スルホン酸誘導体等が挙げられる。
【0038】
酸性ポリマーとしては、例えば、ポリアクリル酸又はその誘導体、ポリメタクリル酸又はその誘導体、ポリアクリルアミド又はその誘導体、ポリスルホン酸又はその誘導体、ポリリン酸又はその誘導体等が挙げられる。
【0039】
これらの酸の中でも特に有機酸が好ましい。有機酸を用いることによって、塗布液を構成する分散樹脂等の他の成分との相溶性を向上できる。また、有機酸は、無機酸等と比較して、塗布液が乾燥しても塩になりにくいため、透明性等に優れる効果を奏する。
【0040】
更に、有機酸は第一解離定数pK
a1=1.5〜4.5であることが好ましい。これにより、印字率が低い低濃度部における液寄りが更に防止され、印字率が高い高濃度部におけるビーディングが更に改善される。塗布液のpHは、該塗布液に含有させる有機酸のpKa
1未満に調整されることが好ましい。
【0041】
第2凝集剤は、多価金属塩又はカチオン化合物であれば格別限定されず、例えば塩析等によって、インク成分を凝集することができる。
【0042】
多価金属塩としては、2価以上の価数をもつ金属の塩を用いることができる。多価金属塩を構成する金属(カチオン)の種類は特に限定されないが、例えば、Ca
2+、Cu
2+、Ni
2+、Mg
2+、Zn
2+、Ba
2+などの2価金属イオン、Al
3+、Fe
3+、Cr
3+、Y
3+などの3価金属イオン、Zr
4+などの4価金属イオン等が挙げられる。多価金属塩を構成する塩の種類は特に限定されないが、例えば、炭酸塩、硫酸塩、硝酸塩、塩酸塩、有機酸塩、ホウ酸塩、リン酸塩などの公知の塩を使用でき、第1凝集剤について例示した酸に対応する塩であってもよい。多価金属塩の具体例として、例えば、酢酸カルシウム、塩化カルシウム等が挙げられる。
【0043】
カチオン化合物としては、プロトンではないカチオンを生成する化合物を用いることができる。生成するカチオンは、単原子イオン又は多原子イオン(分子イオンともいう)の何れでもよいが、特に多原子イオンとしてのカチオンを生成する化合物を好ましく用いることができる。
【0044】
カチオン化合物として、低分子化合物(非ポリマー)を用いてもよいが、より好ましいのは、カチオン性ポリマーを用いることである。カチオン性ポリマーとしては、ポリマー主鎖に複数のカチオン性基を有するものを好ましく用いることができる。
【0045】
カチオン性ポリマーは、多価金属塩等との対比で、塗布液により形成される被膜の透明性に優れる等の効果を奏する。
【0046】
更に、本発明の効果を顕著に発揮させる観点で、第2凝集剤が生成するカチオンの拡散速度は遅いことが好ましい。この観点から、カチオンのサイズが大きいことは好ましいことであり、特にカチオン性ポリマーは好適である。ここでいうカチオンのサイズとは、例えば、カチオンの式量、カチオンを構成する原子の数などであり得る。
【0047】
カチオン性ポリマーの具体例として、例えば、カチオン性ウレタンポリマーや、カチオン性アリルアミンポリマー等が挙げられ、特にカチオン性アリルアミンポリマーが好ましい。
【0048】
カチオン性アリルアミンポリマーとしては、例えば、アリルアミン塩酸塩重合体やアリルアミンアミド硫酸塩重合体のような一級アミンの重合体、ジアリルアミン塩酸塩重合体やメチルジアリルアミン塩酸塩重合体のような2級アミンの重合体、メチルジアリルアミン塩酸塩重合体のような3級アミンの重合体、ジアリルジメチルアンモニウムクロリド重合体のような4級アミンの重合体、およびアリルアミン塩酸塩・ジアリルアミン塩酸塩共重合体のような1級と2級のアミンの共重合体等が挙げられる。
【0049】
カチオン性アリルアミンポリマーは市販品としても入手可能であり、例えば、ニットーボーメディカル社製の「PAS−H5−L」、「PAA−HCL−05」及び「PAS−M−1」等が挙げられる。
【0050】
(その他の成分)
塗布液は溶媒を含有することができる。溶媒は格別限定されないが、例えば、水を用いることができる。また、溶媒として有機溶剤を含んでもよい。溶媒は塗布後の乾燥により除去することができる。
【0051】
また、塗布液は界面活性剤を含有することができる。これにより、各種塗布方法への適合性を高めることができる。
【0052】
塗布液には、本発明の効果を損なわない範囲で、その他、架橋剤、防黴剤、殺菌剤等、他の成分を適宜配合することができる。
【0053】
(塗布条件)
フィルム基材上への塗布液の塗布方法は格別限定されないが、例えば、ローラー塗布法、カーテン塗布法、スプレー塗布法、インクジェット法等を好ましく挙げることができる。
【0054】
フィルム基材に塗布液を塗布した後、該塗布液中の溶媒を乾燥させる乾燥処理を施すことは好ましいことである。乾燥方法は格別限定されないが、温風による乾燥、ヒーターによる乾燥等を用いることができる。
【0055】
フィルム基材上に塗布される樹脂の付量は、0.5g/m
2以上10g/m
2以下の範囲であることが好ましい。
【0056】
フィルム基材上に塗布される凝集剤の付量は、0.1g/m
2以上1g/m
2以下の範囲であることが好ましい。ここでいう「凝集剤の付量」は、第1凝集剤及び第2凝集剤を含む総量である。
【0057】
更に、凝集剤における第1凝集剤と第2凝集剤の重量比(第1凝集剤:第2凝集剤)は5:95〜40:60であることが好ましい。
【0058】
上述した凝集剤の付量及び重量比の条件を満たすことによって、本発明の効果が更に顕著に発揮される。特に、上記重量比における第1凝集剤の比が5以上であることによって、印字率の低い低濃度部における液寄りを更に防止できる。また、上記重量比における第1凝集剤の比が40以下であることによって、印字率の高い高濃度部において隙間なくドットを拡げることができる。
【0059】
このようにして、塗布液に由来する分散樹脂及び水溶性の凝集剤を少なくとも含む被膜が設けられた記録媒体が得られる。
【0060】
乾燥後の被膜の厚さは格別限定されないが、例えば、0.1μm以上4μm以下の範囲であることが好ましい。これにより、フィルム基材の質感が変化することを好適に防止でき、また、該被膜中に十分な量の凝集剤を含有させることができる。
【0061】
<インク>
インクは、顔料、顔料分散剤、水及び水溶性有機溶剤を少なくとも含む。
【0062】
(顔料分散剤)
インクに用いる顔料分散剤は、酸価を有する高分子分散剤(樹脂分散剤ともいう)を含むことが好ましく、特に50mgKOH/g以上150mgKOH/g以下の酸価を有する高分子分散剤を含むことが好ましい。これにより、液寄りを防止する効果を更に向上できる。
【0063】
顔料分散剤は、アルカリ中和されたアニオン性基を有することが好ましい。アルカリ中和されたアニオン性基としては、アルカリ中和されたカルボキシル基、スルホン酸基等を好ましく例示でき、顔料凝集剤が作用した際に速やかな凝集を実現する観点で、アルカリ中和されたカルボキシル基が好適である。
【0064】
アニオン性基を中和するアルカリとしては、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、水酸化カルシウム等の金属塩基化合物や、アンモニアや、トリエチルアミン、ピリジン、モルホリン等の有機アミンや、モノエタノールアミン等のアルカノールアミン等を好ましく挙げることができる。
【0065】
顔料分散剤として、例えば、アクリル系分散剤を好ましく用いることができる。アクリル系分散剤としては、ポリ(メタ)アクリル酸及び(メタ)アクリル酸共重合体から選択される一種又は複数種を好適に用いることができる。
【0066】
アクリル系分散剤は、モノマー成分として、(メタ)アクリル酸を含む。アクリル系分散剤として、(メタ)アクリル酸の重合体(即ち、ポリ(メタ)アクリル酸)、あるいは必要に応じてスチレンなどの他のモノマー成分を共重合した共重合体(即ち、(メタ)アクリル酸共重合体)を好適に用いることができる。
【0067】
アクリル系分散剤として、例えば、BASF社製「ジョンクリル819」(酸価75mgKOH/g)、「ジョンクリル67」(酸価213mgKOH/g)等の市販品を用いることができる。
【0068】
顔料分散剤は、1種を単独で用いてもよいし、複数種を併用してもよい。
【0069】
インク中における顔料分散剤の含有量は、顔料100重量部に対して10重量部以上100重量部以下の範囲であることが好ましく、10重量部以上50重量部以下の範囲であることが更に好ましい。
【0070】
(顔料)
インクに含有させる顔料としては、従来公知のものを特に制限なく使用でき、水分散性顔料、溶剤分散性顔料等何れも使用可能であり、例えば、不溶性顔料、レーキ顔料等の有機顔料、あるいは酸化チタンやカーボンブラック等の無機顔料を好ましく用いることができる。これらの顔料は、インク中に上述した顔料分散剤により分散させた状態で存在させて、使用することができる。
【0071】
不溶性顔料は格別限定されないが、例えば、アゾ、アゾメチン、メチン、ジフェニルメタン、トリフェニルメタン、キナクリドン、アントラキノン、ペリレン、インジゴ、キノフタロン、イソインドリノン、イソインドリン、アジン、オキサジン、チアジン、ジオキサジン、チアゾール、フタロシアニン、ジケトピロロピロール等が好ましい。
【0072】
有機顔料は格別限定されないが、例えば以下のものを好ましく例示できる。
【0073】
イエロー又はオレンジ等に用いる顔料としては、例えば、C.I.ピグメントオレンジ31、C.I.ピグメントオレンジ43、C.I.ピグメントイエロー12、C.I.ピグメントイエロー13、C.I.ピグメントイエロー14、C.I.ピグメントイエロー15、C.I.ピグメントイエロー15:3、C.I.ピグメントイエロー17、C.I.ピグメントイエロー74、C.I.ピグメントイエロー93、C.I.ピグメントイエロー128、C.I.ピグメントイエロー94、C.I.ピグメントイエロー138、C.I.ピグメントイエロー155等が挙げられる。
【0074】
マゼンタ又はレッド等に用いる顔料としては、例えば、C.I.ピグメントレッド2、C.I.ピグメントレッド3、C.I.ピグメントレッド5、C.I.ピグメントレッド6、C.I.ピグメントレッド7、C.I.ピグメントレッド15、C.I.ピグメントレッド16、C.I.ピグメントレッド48:1、C.I.ピグメントレッド53:1、C.I.ピグメントレッド57:1、C.I.ピグメントレッド122、C.I.ピグメントレッド123、C.I.ピグメントレッド139、C.I.ピグメントレッド144、C.I.ピグメントレッド149、C.I.ピグメントレッド166、C.I.ピグメントレッド177、C.I.ピグメントレッド178、C.I.ピグメントレッド202、C.I.ピグメントレッド222、C.I.ピグメントバイオレット19等が挙げられる。
【0075】
シアン又はグリーン等に用いる顔料としては、例えば、C.I.ピグメントブルー15、C.I.ピグメントブルー15:2、C.I.ピグメントブルー15:3、C.I.ピグメントブルー16、C.I.ピグメントブルー60、C.I.ピグメントグリーン7等が挙げられる。
【0076】
また、ブラック等に用いる顔料としては、例えば、C.I.ピグメントブラック1、C.I.ピグメントブラック6、C.I.ピグメントブラック7等が挙げられる。
【0077】
インク中における顔料の分散状態の重量平均粒子径は、50nm〜200nmの範囲であることが好ましい。これにより、顔料の分散安定性を向上でき、インクの保存安定性を向上できる。顔料の粒子径測定は、動的光散乱法、電気泳動法等を用いた市販の粒径測定機器により求めることができるが、動的光散乱法による測定が簡便で、且つ該粒子径領域を精度よく測定できる。
【0078】
顔料は、顔料分散剤およびその他所望する諸目的に応じて必要な添加物と共に、分散機により分散して用いることができる。
【0079】
分散機としては、従来公知のボールミル、サンドミル、ラインミル、高圧ホモジナイザー等を使用できる。中でもサンドミルによって顔料を分散させると、粒度分布がシャープとなるため好ましい。また、サンドミル分散に使用するビーズの材質は、格別限定されないが、ビーズ破片の生成やイオン成分のコンタミネーションを防止する観点から、ジルコニアまたはジルコンであることが好ましい。さらに、このビーズ径は、0.3mm〜3mmであることが好ましい。
【0080】
インクにおける顔料の含有量は格別限定されないが、例えば、無機顔料については7重量%〜18重量%の範囲であることが好ましく、有機顔料については0.5重量%〜7重量%の範囲であることが好ましい。
【0081】
(水溶性有機溶剤)
インクに含有させる水溶性有機溶剤としては、例えば、1価アルコール類、グリコール類(2価アルコール類)、3価アルコール類、グリコールエーテル類、アセテート類、アミン類、アミド類等を好ましく例示できる。
【0082】
1価アルコール類としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノール、セカンダリーブタノール、ターシャリーブタノール等を好ましく例示できる。
【0083】
グリコール類としては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、エチレンオキサイド基の数が5以上のポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、テトラプロピレングリコール、プロピレンオキサイド基の数が4以上のポリプロピレングリコール、ブチレングリコール、チオジグリコール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,2−ペンタンジオール、1,2−ヘキサンジオール、1,2−ヘプタンジオール、3−メチル−2,4−ペンタンジオール等を好ましく例示できる。
【0084】
3価アルコール類としては、例えば、グリセリン、ヘキサントリオール等を好ましく例示できる。
【0085】
グリコールエーテル類としては、例えば、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノプロピルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、テトラエチレングリコールモノメチルエーテル、テトラエチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノエチルエーテル、トリプロピレングリコールモノプロピルエーテル、トリプロピレングリコールモノブチルエーテル、テトラプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、トリエチレングリコールジエチルエーテル、トリエチレングリコールジブチルエーテル、ジプロピレングリコールジブチルエーテル、トリプロピレングリコールジブチルエーテル等を好ましく例示できる。
【0086】
アセテート類としては、例えば、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールジアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールジアセテート等を好ましく例示できる。
【0087】
アミン類としては、例えば、エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、N−メチルジエタノールアミン、N−エチルジエタノールアミン、モルホリン、N−エチルモルホリン、エチレンジアミン、ジエチレンジアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ポリエチレンイミン、ペンタメチルジエチレントリアミン、テトラメチルプロピレンジアミン等を好ましく例示できる。
【0088】
アミド類としては、例えば、2−ピロリジノン、ジメチルイミダゾリジノン、ホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等を好ましく例示できる。
【0089】
これらの溶剤は1種を単独で用いてもよいし、複数種を併用してもよい。
【0090】
本発明においては、水溶性有機溶剤として、グリコール類又はグリコールエーテル類を少なくとも含有することが特に好ましい。これにより、インクジェット法におけるインク吐出安定性を更に向上できる。
【0091】
インク中におけるグリコール類及びグリコールエーテル類の総含有量は、該インクの総重量に対して10重量%以上40重量%以下の範囲であることが好ましい。これにより、インク吐出安定性を向上でき、更に、記録媒体上に付与された後のインクの乾燥が好適に進行し、インク塗膜のにじみ防止とひび割れ防止を、より好適に両立できる。
【0092】
(その他の成分)
インクは、吐出性向上や濡れ性向上のため、界面活性剤を含んでいることが好ましい。界面活性剤は格別限定されず、例えば、陽イオン性界面活性剤、陰イオン性界面活性剤、両性界面活性剤、非イオン性界面活性剤等を挙げることができる。
【0093】
陽イオン性界面活性剤としては、例えば、脂肪族アミン塩、脂肪族4級アンモニウム塩、ベンザルコニウム塩、塩化ベンゼトニウム、ピリジニウム塩、イミダゾリニウム塩等を好ましく例示できる。
【0094】
陰イオン性界面活性剤としては、例えば、脂肪酸石鹸、N−アシル−N−メチルグリシン塩、N−アシル−N−メチル−β−アラニン塩、N−アシルグルタミン酸塩、アシル化ペプチド、アルキルスルフォン酸塩、アルキルベンゼンスルフォン酸塩、アルキルナフタレンスルフォン酸塩、ジアルキルスルホコハク酸エステル塩、アルキルスルホ酢酸塩、α−オレフィンスルホン酸塩、N−アシルメチルタウリン、硫酸化油、高級アルコール硫酸エステル塩、第2級高級アルコール硫酸エステル塩、アルキルエーテル硫酸塩、第2級高級アルコールエトキシサルフェート、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸塩、モノグリサルフェート、脂肪酸アルキロールアミド硫酸エステル塩、アルキルエーテルリン酸エステル塩、アルキルリン酸エステル塩等を好ましく例示できる。
【0095】
両性界面活性剤としては、例えば、カルボキシベタイン型、スルホベタイン型、アミノカルボン酸塩、イミダゾリニウムベタイン等を好ましく例示できる。
【0096】
非イオン性界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレン2級アルコールエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンステロールエーテル、ポリオキシエチレンラノリン誘導体、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンヒマシ油、硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸エステル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、脂肪酸モノグリセリド、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、脂肪酸アルカノールアミド、ポリオキシエチレン脂肪酸アミド、ポリオキシエチレンアルキルアミン、アルキルアミンオキサイド、アセチレングリコール、アセチレンアルコール等を好ましく例示できる。
【0097】
低表面張力化の観点から、これらの界面活性剤の一部はフッ素原子あるいは珪素原子に置換されていることが好ましい。
【0098】
これらの界面活性剤は1種を単独で用いてもよいし、複数種を併用してもよい。インクにおける界面活性剤の含有量は、格別限定されないが、0.1重量%〜5.0重量%の範囲であることが好ましい。
【0099】
インクには、本発明の効果を損なわない範囲で、他の成分を適宜配合することができる。
【0100】
<インクジェット法>
インクジェット法では、上述したインクを装填したインクジェットヘッドを備えるプリンタを用いて、デジタル信号に基づいてインクジェットヘッドのノズルからインクを液滴として吐出させ、これを上述した記録媒体における塗布液が塗布された領域に着弾させて画像を記録することができる。
【0101】
インクジェットヘッドは、オンデマンド方式、コンティニュアス方式の何れであってもよい。インクジェットヘッドの液滴吐出方式としては、電気−機械変換方式(例えば、シングルキャビティー型、ダブルキャビティー型、ベンダー型、ピストン型、シアーモード型、シアードウォール型等)、電気−熱変換方式(例えば、サーマルインクジェット型、バブルジェット(登録商標)型等)等、何れの方式を用いてもよい。
【0102】
特に、電気−機械変換方式に用いられる電気−機械変換素子として圧電素子を用いたインクジェットヘッド(ピエゾ型インクジェットヘッドともいう)が好適である。
【0103】
インクジェットプリンタの印刷方式には、スキャン方式(マルチパス方式ともいう)とシングルパス方式と呼ばれる2つの方式がある。
【0104】
スキャン方式は、例えば、ヘッドキャリッジをフィルムの搬送方向(副走査方向)に対して、横方向(主走査方向)に往復運動をさせ、複数回のパスによって画像を完成させる方式で、記録速度は遅いが使用するヘッドの数を少なくできる。
【0105】
一方、シングルパス方式は、例えば、ラインヘッド型のインクジェットヘッド(ヘッドキャリッジ)を固定したまま、搬送している用紙に1回のパスによって画像を完成させる方式で、高速記録が可能となり、高い生産性が得られる。
【0106】
一般にスキャン方式では主走査方向の搬送速度は数m/分(より具体的には1m/分〜5m/分)程度であるが、シングルパス方式では数十m/分(より具体的には10m/分〜100m/分)の印字が可能となる。
【0107】
その結果、単位面積当たりのインク付量が同じ場合、単位時間当たりのインクの付着量が、シングルパス方式ではスキャン方式の十倍以上になることもある。
【0108】
参考として、スキャン方式及びシングルパス方式の印字条件の一例を示すが、これに限定されるものではない。
【0109】
スキャン方式:搬送速度5m/min、印字幅1.2m、印字速度360m
2/h、インク付量20cc/m
2、1秒間あたりのインク付着量2cc/m
2・s
【0110】
シングルパス方式:搬送速度50m/min、印字幅1.2m、印字速度3600m
2/h、インク付量20cc/m
2、1秒間あたりのインク付着量20cc/m
2・s
【0111】
フィルム基材に対してシングルパス方式でインクジェット記録する場合、互いに隣接するドットを形成するためのインク滴を、インクを実質的に吸収しないフィルム基材上に極短時間に着弾させることになる。そのため、低濃度部で液寄りが発生したり、高濃度部でビーディングや斑が発生したりする問題があった。また、これらの問題を回避するために凝集剤の量を増加させれば、高濃度部のドット間に隙間ができてしまい、ベタ画像を均一に埋めることが困難であるという問題があった。これに対して、本発明によれば、フィルム基材に対してシングルパス方式でインクジェット記録する場合においても、上記のような問題を好適に解決できる。
【0112】
シングルパス方式には、上述したようにラインヘッド型のインクジェットヘッドを使用することが好ましい。ラインヘッド型のインクジェットヘッドとは、印字範囲の幅以上の長さを持つインクジェットヘッドのことを指す。ラインヘッド型のインクジェットヘッドとしては、一つのヘッドで印字範囲の幅以上であるものを用いてもよいし、複数のヘッドを組み合わせて印字範囲の幅以上となるように構成してもよい。また、複数のヘッドを、互いのノズルが千鳥配列となるように並設して、これらヘッド全体としての解像度を高くすることも好ましい。
【0113】
インクジェット法では、例えば、インク乾燥によるノズル詰まりを防止するために、ノズルからインクを吐き捨てるメンテナンス動作を実行することができる。この動作は、インクジェットヘッドを記録媒体上の領域の外に移動させた状態(即ち記録媒体にインクが付与されない状態)で実行することができる。スキャン方式では、インクジェットヘッドをスキャンさせることによって、記録媒体上の領域の外に容易に移動することができる。一方、シングルパス方式では、通常はインクジェットヘッドが固定されているため、記録媒体上の領域の外に移動することが比較的困難である。これに対して、本発明では、インクに、乾燥してもノズル詰まりを生じにくい性質を好適に付与できるため、インク吐き捨ての負担を軽減でき、吐出安定性が高いインクジェット記録方法を提供できる。
【0114】
<その他>
本発明のインクジェット記録方法は、フィルム基材からなる記録媒体上にインクジェット法で記録する種々の用途に好適に用いることができる。本発明のインクジェット記録方法によって記録が成された記録媒体の用途は格別限定されない。記録済み記録媒体の用途の具体例としては、例えば、食品や飲料等を包装する包装用フィルム等が挙げられる。
【実施例】
【0115】
以下に、本発明の実施例について説明するが、本発明はかかる実施例により限定されない。
【0116】
(実施例1)
1.塗布液の調製及び塗布
分散樹脂としてウレタン樹脂(カチオン性カーボネート系ポリウレタン樹脂微粒子のエマルジョン;第一工業製薬社製「スーパーフレックス650」)と、第1凝集剤としてマロン酸(pK
a1=2.8)と、第2凝集剤としてカチオン性ポリマーCP1(ジアリルジメチルアンモニウムクロリド重合体;ニットーボーメディカル社製「PAS−H5−L」)と、イオン交換水とを混合し、撹拌した後、5.0μmのフィルターにより濾過して塗布液を得た。
【0117】
得られた塗布液を、フィルム基材(二軸延伸ポリプロピレンフィルム(フタムラ化学社製「FOS#60」))上にワイヤーバーを用いて塗布し、80℃の熱風ドライヤーで乾燥させて被膜を形成した。
【0118】
ここで、塗布液の組成(配合量)及び塗布量は、各成分の付量、並びに第1凝集剤と第2凝集剤の重量比が、表1の値となるように調整された。
【0119】
2.インクの調製及びインクジェット記録
顔料(ピグメントブルー15:3)を18重量%に、顔料分散剤(水酸化ナトリウム中和されたカルボキシル基を有するアクリル系分散剤(BASF社製「ジョンクリル819」、酸価75mgKOH/g、固形分20重量%)を31.5重量%と、エチレングリコール20重量%と、イオン交換水(残量;全量が100重量%となる量)を加えた混合液をプレミックスした後、0.5mmのジルコニアビーズを体積率で50%充填したサンドグラインダーを用いて分散し、顔料の含有量が18重量%の顔料分散液を調製した。
【0120】
この顔料分散液に含まれる顔料粒子の平均粒子径は109nmであった。なお、平均粒子径の測定はマルバルーン社製「ゼータサイザ1000HS」により行った。
【0121】
上記顔料分散液27.8重量%に、エチレングリコール24.4重量%、界面活性剤(DIC社製「メガファックF−444」)0.2重量%及びイオン交換水(残量;全量が100重量%となる量)を撹拌しながら添加し、得られた混合液を1μmのフィルターにより濾過してインクを得た。濾過前後で実質的な組成変化はなかった。
【0122】
コニカミノルタ社製ピエゾ型インクジェットヘッド(360dpi、吐出量14pL)の独立駆動ヘッド2つをノズルが互い違いになるように配置し、720dpi×720dpiのヘッドモジュールを作成し、ステージ搬送機上に、搬送方向にノズル列が直交するように設置した。
【0123】
ヘッドモジュールのインクジェットに、上記により得られたインクを充填し、ステージ搬送機によって搬送されるフィルム基材の被膜上にシングルパス方式でベタ画像を記録できるようにインクジェット記録装置を構成した。
【0124】
上記インクジェット記録装置を用いて、ステージ搬送機の搬送速度を20m/分の速度で搬送しながら、フィルム基材の被膜上の縦横5cmの正方形領域に対して、印字率10%(インク付量1.5cc/m
2、1秒間あたりのインク付着量0.6cc/m
2・s)でインクを記録した後、ホットプレート上にて60℃で15分間乾燥し、低濃度部に相当する画像を形成した。更に、これと同様にして、印字率100%(インク付量15cc/m
2、1秒間あたりのインク付着量6cc/m
2・s)でインクを記録した後、ホットプレート上にて60℃で15分間乾燥し、高濃度部に相当する画像(ベタ画像)を形成した。
【0125】
3.評価方法
(1)低濃度部における液寄り防止性
低濃度部を目視で観察して液寄り防止性を下記評価基準で評価した。
<評価基準>
A:液寄りは無く、ドットの粒状感が良好である
B:注視すると僅かに液寄りが発生しているが、問題ない
C:液寄りによってドットが合一され、粒状感が損なわれている
【0126】
(2)高濃度部における濃度(埋まり)
高濃度部を目視で観察して濃度(埋まり)を下記評価基準で評価した。
<評価基準>
A:ドット間に隙間がなく、ベタ画像が良好に埋まっている
B:注視すると僅かに隙間が発生しているが、問題ない
C:ドット間に隙間があり、ベタ画像が埋まらない(濃度が低下している)
【0127】
(3)高濃度部におけるビーディング防止性
高濃度部を目視で観察してビーディング防止性を下記評価基準で評価した。
<評価基準>
A:ベタ画像が均一である
B:注視するとベタ画像に僅かに不均一な部位が発生しているが、問題ない
C:ベタ画像が不均一である
【0128】
(4)透明性
塗布液を塗布、乾燥した後の被膜を目視で観察して透明性を下記評価基準で評価した。
<評価基準>
A:透明である
B:やや白濁しているが、問題ない
C:白濁している
【0129】
以上の評価結果を表1に示す。
【0130】
(実施例2)
実施例1において、第1凝集剤としてマロン酸に代えてクエン酸(pK
a1=3.1)を用い、第2凝集剤としてカチオン性ポリマーCP1に代えて多価金属塩(塩化カルシウム;CaCl
2)を用い、塗布液の組成(配合量)及び塗布量を、各成分の付量、並びに第1凝集剤と第2凝集剤の重量比が、表1の値となるように調整したこと以外は、実施例1と同様にして画像形成した。実施例1と同様に評価した結果を表1に示す。
【0131】
(実施例3)
実施例1において、第2凝集剤としてカチオン性ポリマーCP1に代えてカチオン性ポリマーCP2(アリルアミン塩酸塩重合体;ニットーボーメディカル社製「PAA−HCL−05」)を用い、塗布液の組成(配合量)及び塗布量を、各成分の付量、並びに第1凝集剤と第2凝集剤の重量比が、表1の値となるように調整したこと以外は、実施例1と同様にして画像形成した。実施例1と同様に評価した結果を表1に示す。
【0132】
(実施例4)
実施例1において、塗布液の組成(配合量)及び塗布量を、各成分の付量、並びに第1凝集剤と第2凝集剤の重量比が、表1の値となるように調整したこと以外は、実施例1と同様にして画像形成した。実施例1と同様に評価した結果を表1に示す。
【0133】
(実施例5)
実施例1において、第1凝集剤としてマロン酸に代えてプロピオン酸(pK
a1=4.9)を用い、塗布液の組成(配合量)及び塗布量を、各成分の付量、並びに第1凝集剤と第2凝集剤の重量比が、表1の値となるように調整したこと以外は、実施例1と同様にして画像形成した。実施例1と同様に評価した結果を表1に示す。
【0134】
(実施例6)
実施例1において、第2凝集剤としてカチオン性ポリマーCP1に代えてカチオン性ポリマーCP3(メチルジアリルアミン塩酸塩重合体;ニットーボーメディカル社製「PAS−M−1」)を用い、分散樹脂としてウレタン樹脂に代えてアクリル樹脂(アクリル樹脂微粒子のエマルジョン;日信化学工業社製「ビニブラン2687」;アニオン性)を用い、塗布液の組成(配合量)及び塗布量を、各成分の付量、並びに第1凝集剤と第2凝集剤の重量比が、表1の値となるように調整したこと以外は、実施例1と同様にして画像形成した。実施例1と同様に評価した結果を表1に示す。
【0135】
(比較例1)
実施例1において、第2凝集剤の配合を省略し、塗布液の組成(配合量)及び塗布量を、各成分の付量が表1の値となるように調整したこと以外は、実施例1と同様にして画像形成した。実施例1と同様に評価した結果を表1に示す。
【0136】
(比較例2)
実施例1において、第2凝集剤の配合を省略し、塗布液の組成(配合量)及び塗布量を、各成分の付量が表1の値となるように調整したこと以外は、実施例1と同様にして画像形成した。実施例1と同様に評価した結果を表1に示す。
【0137】
(比較例3)
実施例1において、第1凝集剤の配合を省略し、塗布液の組成(配合量)及び塗布量を、各成分の付量が表1の値となるように調整したこと以外は、実施例1と同様にして画像形成した。実施例1と同様に評価した結果を表1に示す。
【0138】
(比較例4)
実施例3において、分散樹脂の配合を省略し、塗布液の組成(配合量)及び塗布量を、各成分の付量、並びに第1凝集剤と第2凝集剤の重量比が、表1の値となるように調整したこと以外は、実施例3と同様にして画像形成した。実施例1と同様に評価した結果を表1に示す。
【0139】
なお、比較例4では、塗布液を乾燥後のフィルム基材上にマロン酸が白い細かな結晶となって析出し、白濁していた。また、インクジェット記録を行ったところ、ベタ画像に濃度ムラが著しく発生し、評価に値しないものであった。
【0140】
【表1】
【0141】
<評価>
表1の結果より、塗布液が凝集剤及び分散樹脂を含み、且つ該凝集剤が、酸である第1凝集剤、及び、多価金属塩又はカチオン化合物である第2凝集剤を少なくとも含む実施例1〜5は、比較例1〜4と比べて、シングルパス方式による高速インクジェット記録を行う場合においても、印字率が低い低濃度部で液寄りが発生することを防止でき、且つ印字率が高い高濃度部では隙間なくドットが拡がって均一なベタ画像を形成できることがわかる。
【0142】
また、特に実施例2と他の実施例との対比より、第2凝集剤としてカチオン性ポリマーを用いることによって、多価金属塩等を用いる場合よりも、透明性等に優れる効果を奏することがわかる。
【0143】
また、特に実施例3、4と他の実施例との対比より、フィルム基材上における凝集剤の付量が0.1g/m
2〜1g/m
2であり、第1凝集剤と第2凝集剤の重量比が5:95〜40:60であることによって、本発明の効果が更に顕著に発揮されることがわかる。特に、上記重量比における第1凝集剤の比が5以上であることによって、印字率の低い低濃度部における液寄りを更に防止できることがわかる。更に、上記重量比における第1凝集剤の比が40以下であることによって、印字率の高い高濃度部において隙間なくドットを拡げることができることがわかる。
【0144】
また、特に実施例5と他の実施例との対比より、有機酸のpK
a1=1.5〜4.5であることによって、印字率が低い低濃度部における液寄りが更に防止され、印字率が高い高濃度部におけるビーディングが更に改善されることがわかる。
【0145】
また、特に実施例6と他の実施例との対比より、本発明の効果を更に顕著に発揮する観点で、カチオン性又はノニオン性の樹脂が好ましく、カチオン性又はノニオン性のウレタン樹脂が更に好ましく、カチオン性のウレタン樹脂が最も好ましいことがわかる。
【0146】
一方、比較例1、2より、第2凝集剤を用いない場合(第1凝集剤のみの場合)は、凝集剤の配合量を多くすると高濃度部(ベタ画像)を埋めることが困難になり、凝集剤の配合量を少なくすると特に高濃度部を形成する際の凝集が不足して、過剰なインク流動によりビーディングや斑が発生し、画像が不均一になることがわかる。
【0147】
また、比較例3より、第1凝集剤を用いない場合(第2凝集剤のみの場合)は、印字率が低い低濃度部で液寄りの発生を防止できないことがわかる。
【0148】
また、比較例4より、分散樹脂を用いない場合は、第1凝集剤からのカチオンと、第2凝集剤からのカチオンとの潜在的な拡散速度の差を、有意な差として引き出すことができず、これらのカチオンがインク中に一斉に拡散される。その結果、高濃度部を形成する際に、隙間なくドットが拡がる時間を確保できなくなり、濃度ムラが著しく発生してしまうことがわかる。また、吸収性のないフィルム基材上で、凝集剤が析出して白濁してしまうことがわかる。