(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
Al−Si系過共晶合金に対して、0.5mol/L以上4.0mol/L以下の硫酸および0.05mol/L以上0.2mol/L以下の有機酸を含有する電解液で0.5時間以上の陽極酸化処理を施す、アルミニウム系合金材の製造方法。
Al−Si系過共晶合金から鋳造された内燃機関用ピストン母材に対して、0.5mol/L以上4.0mol/L以下の硫酸および0.05mol/L以上0.2mol/L以下の有機酸を含有する電解液で0.5時間以上の陽極酸化処理を施す、内燃機関用ピストンの製造方法。
【背景技術】
【0002】
アルミニウム(Al)系合金の陽極酸化膜(アルマイトともいう。)は、非常に硬質であり、かつ、広い温度域で耐食性および耐摩耗性に優れるという特性を有する。また、Al系合金の中でも、Alおよびシリコン(Si)を含む過共晶合金(以下、単に「Al−Si系過共晶合金」ともいう。)は、さらに、熱膨張係数が小さく、かつ、耐摩耗性もより高いという特性を有する。そのため、上記Al−Si系過共晶合金の陽極酸化膜を有するアルミニウム系合金材は、内燃機関のピストンなどの、熱的および機械的な負荷を繰り返し受ける部材に好ましく用いられる。
【0003】
たとえば、特許文献1には、Al−Si系過共晶合金から作製された内燃機関用のピストンが記載されている。このピストンのトップリング溝部の内面には、厚さ10〜50μmの陽極酸化膜が形成され、さらに上記陽極酸化膜の表面には10〜40μmの大きさの初晶Si粒子が分散露呈している。特許文献1には、硬質な陽極酸化膜をトップリング溝部の内面に形成することで、上記内面の摩耗や上記内面からのスカッフの発生が抑制され、さらに、陽極酸化膜の表面から分散露呈した硬質の初晶Si粒子が相手材からの荷重を支持することで、陽極酸化膜の摩耗が抑制されると記載されている。
【0004】
また、特許文献2にも、初晶Si粒子の大きさが50μm以下であるAl−Si系過共晶合金から作製された、内燃機関用のピストンが記載されている。このピストンの頂部には、厚さ30〜150μmの陽極酸化膜が形成されている。特許文献2には、ピストンの燃焼室端部への亀裂の発生を硬質アルマイトが抑制することができ、かつ、初晶Si粒子の大きさを微細にしたことで、アルマイト層の強度がさらに高まると記載されている。特許文献2には、溶解させたAl−Si系合金を高圧(少なくとも500kg/cm
2)で鋳造することで、初晶Si粒子の大きさを50μm以下にすることができると記載されている。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明者は、鋭意研究の結果、Al−Si系過共晶合金から形成した陽極酸化膜中で初晶Si粒子を層分離させる技術を開発し、初晶Si粒子が層分離すると、上記陽極酸化膜の遮熱性がより高まることを見出した。すなわち、本発明の一実施形態に係るアルミニウム系合金材は、陽極酸化膜を含み、さらに、その断面写真である
図1Aおよび
図1Bに示すように、陽極酸化膜の表面または内部に分散した初晶Si粒子が上記陽極酸化膜の成膜方向に層分離している。上記層分離した初晶Si粒子は、各層の間に、熱伝導率が低い空気を含んでいる。そのため、上記層分離した初晶Si粒子を有する陽極酸化膜は、初晶Si粒子が層分離していない従来の陽極酸化膜よりも高い遮熱性を有すると考えられ、このような陽極酸化膜を有するアルミニウム系合金材は、従来のアルミニウム系合金材よりも高い遮熱性を有すると考えられる。
【0013】
以下に、本発明の代表的な実施形態を詳細に説明する。
【0014】
1.アルミニウム系合金材
本発明の一実施形態に係るアルミニウム系合金材は、Al−Si系過共晶合と、上記Al−Si系過共晶合の陽極酸化膜とを含み、
図1Aおよび
図1Bに示すように、上記陽極酸化膜では初晶Si粒子が陽極酸化膜の成膜方向に層分離している。
【0015】
上記Al−Si系過共晶合金は、AlおよびSiを含む合金(Al−Si系合金)であり、共晶点よりもSiの含有量が多い、過共晶の合金である。Siの含有量は、10.5質量%以上30.0質量%以下とすることができる。層分離をより生じやすくする観点からは、Siの含有量は10.5質量%以上20.0質量%以下、好ましくは10.5質量%以上15.0質量%以下、より好ましくは10.5質量%以上13.0質量%以下、さらに好ましくは11.0質量%以上13.0質量%以下とすることができる。
【0016】
上記Al−Si系過共晶合金は、AlおよびSi以外の元素を含んでもよい。上記Al−Si系過共晶合金が含みうる元素の例には、銅(Cu)、ニッケル(Ni)、マグネシウム(Mg)およびリン(P)などが含まれる。
【0017】
上記Al−Si系過共晶合金中の上記Cu、NiおよびMgの含有量は、十分な大きさの初晶Siが生成する限りにおいて限定されないが、たとえば、Cuの含有量は1.0質量%以上6.0質量%以下、Niの含有量は1.0質量%以上3.5質量%以下、Mgの含有量は0.1質量%以上1.0質量%以下、などとすることができる。
【0018】
一方で、上記Pは初晶Siをより小さくするために添加される元素であるが、本実施形態で初晶Siをより層分離させやすくする観点からは、上記Al−Si系過共晶合金中の上記Pの含有量は少ないことが好ましく、たとえば10ppm以上120ppm以下、好ましくは10ppm以上95ppm以下、より好ましくは10ppm以上90ppm以下、さらに好ましくは10ppm以上80ppm以下とすることができる。
【0019】
アルミニウム系合金材中の各元素の比率は、発光分光分析法などの公知の方法で測定することができる。
【0020】
上記陽極酸化膜は、上記Al−Si系過共晶合金を電解液に接触させ、上記Al−Si系過共晶合金を陽極として上記電解液に通電させることで形成される、酸化アルミニウムを主成分とする皮膜である。上記通電によりAlが酸化して皮膜が厚くなる方向に上記皮膜が成長するが、このとき、Alの一部は溶解して細孔となり、上記細孔から上記Al−Si系過共晶合金の深さ方向にも上記皮膜が形成されていく。そのため、上記陽極酸化膜は、上記Al−Si系過共晶合金の深さ方向にも浸食して成膜されるという特徴、および、その成膜方向に伸びる細孔と上記細孔を取り囲む孔壁とが形成され得るという特徴を有する。本発明において、陽極酸化膜の成膜方向(あるいは単に「成膜方向」)というときは、上記皮膜が厚くなる方向(上記陽極酸化膜の深さ方向)を意味する。
【0021】
本実施形態においては、上記Al−Si系過共晶合金中の初晶Siは、上記陽極酸化膜が成膜するときのアルミニウムもしくは酸化アルミニウムの熱膨張または電流により、成膜方向に伸長する方向への応力を受けて、成膜方向に割れて層分離すると考えられる。より多くの初晶Siを層分離させたり、それぞれの初晶Siをより細かい層に分離させたりして、アルミニウム系合金材の遮熱効果をより高める観点からは、より長い時間の陽極酸化処理を施して、膜厚がより厚い陽極酸化膜を形成することが好ましい。このような観点からは、上記陽極酸化膜の膜厚は50μm以上500μm以下であることが好ましく、70μm以上300μm以下であることがより好ましく、120μm以上250μm以下であることがさらに好ましい。
【0022】
上記初晶Siは、加熱溶解させた上記Al−Si系過共晶合金を冷却するときに析出するSiの相である。本実施形態においては、上記陽極酸化膜の表面または内部に、成膜方向に層分離した初晶Siが分散している。なお、初晶Siは、陽極酸化膜の表面または内部のみならず、上記陽極酸化膜を構成しない上記Al−Si系過共晶合金の領域にも分散していてもよい。
【0023】
初晶Siを大きくしてより層分離させやすくし、一方で初晶Siが大きすぎることによる合金の強度の低下を抑制する観点からは、上記初晶Siの粒子径は、たとえば、10μm以上100μm、好ましくは10μm以上80μm以下、より好ましくは20μm以上50μm以下とすることができる。
【0024】
初晶Siの粒子径は、たとえば、アルミニウム系合金材の任意の断面中に存在する20個の初晶Siの粒子径(長径と短径との加算平均)を測定し、測定された粒子径の加算平均を求めて、算出することができる。
【0025】
アルミニウム系合金材の遮熱効果をより高める観点からは、より多くの上記初晶Siが層分離していることが好ましい。このような観点からは、上記陽極酸化膜の成膜方向における断面に、陽極酸化膜の表面が延在する方向に20mmの幅を有する、前記陽極酸化膜の厚み分の領域を設定するとき、上記領域中に少なくとも1個の層分離した初晶Siが存在する領域が、任意に設定した20個の上記領域の中に15個以上存在することが好ましい。
【0026】
また、アルミニウム系合金材の遮熱効果をより高める観点からは、上記初晶Siはより細かく層分離していることが好ましい。このような観点からは、上記陽極酸化膜の成膜方向における断面に、陽極酸化膜の表面が延在する方向に500μmの幅を有する、前記陽極酸化膜の厚み分の領域を設定するとき、上記領域中に5層以上に層分離した初晶Siが存在する領域が、任意に設定した20個の上記領域の中に12個以上存在することが好ましい。なお、このとき、成膜方向に略直行する方向に、初晶Siの幅の半分以上を占める連続した層の数を、層分離した初晶Siの層の数とする。
【0027】
上記アルミニウム系合金材は、高い遮熱効果を有する。たとえば、上記アルミニウム系合金材の熱伝導率は0.15W/mk以上0.65W/mk以下、好ましくは0.20/mk以上0.40W/mk以下、より好ましくは0.20W/mk以上0.35W/mk以下、さらに好ましくは0.20W/mk以上0.30W/mkとすることができる。
【0028】
上記熱伝導率は、レーザフラッシュ法などの公知の非定常法で測定した値とすることができる。
【0029】
2.内燃機関用ピストン
本発明の別の実施形態に係る内燃機関用ピストンは、前述の実施形態に係るアルミニウム系合金材を少なくともその表面の一部に含む、内燃機関用ピストンである。このとき、上記アルミニウム系合金材は、上記陽極酸化膜がピストンの表面側に位置するように、上記内燃機関用ピストンに含まれる。
【0030】
上記内燃機関用ピストンは、前記アルミニウム系合金材の高い遮熱効果により、冷却損失を抑制し、内燃機関の燃費を低くすることができる。
【0031】
燃焼室内からピストン内部へ熱が伝達することによる冷却損失をより抑制し、上記内燃機関用ピストンの遮熱効果をより高める観点からは、上記内燃機関用ピストンは、少なくともピストンの頂面を形成する壁面または燃焼室を形成する壁面の一部に上記陽極酸化膜を有することが好ましく、ピストンの頂面を形成する壁面または燃焼室を形成する壁面の全面に上記陽極酸化膜を有することがより好ましく、ピストンの頂面を形成する壁面および燃焼室を形成する壁面の両方に上記陽極酸化膜を有することがより好ましく、ピストンの頂面を形成する壁面および燃焼室を形成する壁面の両方の全面に上記陽極酸化膜を有することがさらに好ましい。このとき、上記陽極酸化膜はピストンの最外層を形成していてもよく、上記陽極酸化膜の表面に別の皮膜が形成されていてもよい。
【0032】
上記内燃機関用ピストンは、ガソリンエンジン用ピストンでもディーゼルエンジン用ピストンでもよいが、燃焼室がより広いために冷却損失の問題がより生じやすいという特性を有するディーゼルエンジン用ピストンにおいて、前記アルミニウム系合金材の高い遮熱効果による燃費の低減がより顕著に見られる。
【0033】
3.内燃機関
本発明の別の実施形態に係る内燃機関は、前述の実施形態に係る内燃機関用ピストンを含む内燃機関である。内燃機関は複数のピストンを備えていてもよく、このとき、上記複数のピストンのうち少なくとも1個が前記内燃機関用ピストンであればよいが、上記複数のピストンのすべてが前記内燃機関用ピストンであることが好ましい。
【0034】
上記内燃機関は、前記アルミニウム系合金材の高い遮熱効果により、冷却損失が抑制され、自動車などの燃費を低くすることができる。
【0035】
上記内燃機関は、ガソリンエンジンでもディーゼルエンジンでもよいが、燃焼室がより広いために冷却損失の問題がより生じやすいという特性を有するディーゼルエンジン用ピストンにおいて、前記アルミニウム系合金材の高い遮熱効果による燃費の低減がより顕著に見られる。
【0036】
4.アルミニウム系合金材の製造方法
前記アルミニウム系合金材は、上述したAl−Si系過共晶合金に対して、0.5mol/L以上4.0mol/L以下の硫酸および0.05mol/L以上0.2mol/L以下の有機酸を含有する電解液で0.5時間以上の陽極酸化処理を施して、作製することができる。
【0037】
上記Al−Si系過共晶合金は、Al、Siおよび任意に含まれるCu、Ni、Mg、Pおよびその他の微量元素を所定の割合で含有する合金溶湯を冷却または加圧凝固させて、作製することができる。上記合金溶湯中の上記各元素の比率は、たとえば上述した各元素の組成と同様にすればよい。上記合金溶湯は、個別に用意した上記各元素を加熱し互いに溶解させて作製してもよいし、JIS H 5202で規定されるAC8A、AC9AおよびAC9Bなどの規格品を溶解させて作製してもよい。
【0038】
成形を容易にする観点からは、加圧凝固が好ましい。このとき、初晶Siの粒子径をより大きくして、層分離を生じさせやすくする観点からは、合金溶湯に加圧する加圧力は2.0kg/cm
2以上1000kg/cm
2未満であることが好ましく、2.0kg/cm
2以上500kg/cm
2未満であることがより好ましく、2.0kg/cm
2以上100kg/cm
2未満であることがさらに好ましく、2.0kg/cm
2以上50kg/cm
2未満であることがさらに好ましい。
【0039】
このとき、上記合金溶湯を内燃機関用ピストンの形状を有する型に入れて冷却または加圧凝固させることで、上記Al−Si系過共晶合金を内燃機関用ピストンの形状に成形することができる(本発明において、陽極酸化処理を施す前の、内燃機関用ピストンの形状に成形した合金を、「内燃機関用ピストン母材」ともいう。)。
【0040】
上記陽極酸化処理は、上記Al−Si系過共晶合金を電解液に接触させ、上記Al−Si系過共晶合金を陽極として上記電解液に通電させることで、陽極酸化処理する公知の方法で施すことができる。このとき、上記電解液は、0.5mol/L以上4.0mol/L以下の硫酸および0.05mol/L以上0.2mol/L以下の有機酸を含有する。また、上記通電は0.5時間以上行う。
【0041】
上記有機酸は、陽極酸化処理に通常用いられる有機酸、たとえば2個以上のカルボキシル基を有する有機酸であればよい。このような有機酸の例には、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、マレイン酸、イタコン酸、リンゴ酸、酒石酸およびクエン酸などが含まれ、これらのうち、シュウ酸およびクエン酸が好ましい。
【0042】
陽極酸化処理には、硫酸などの無機酸を含有する電解液が用いられることが多い。しかし、本発明者の知見によれば、硫酸のみを含有する電解液を用いて陽極酸化処理を行うと、初晶Siはほとんど層分離しない。これに対し、硫酸と上記有機酸とを含有する電解液を用いた陽極酸化処理では、陽極酸化膜の密度が高くなるため十分な応力が初晶Siに印加され、より層分離が生じやすくなる。また、上記硫酸と有機酸とを含有する電解液を用いた陽極酸化処理では、より強度が高く、かつ多孔質の陽極酸化膜を形成することができる。そのため、このようにして製造された陽極酸化膜は、内燃機関のピストンなどの、熱的および機械的な負荷を繰り返し受ける部材に好ましく用いることができる。
【0043】
上記硫酸の濃度は、0.5mol/L以上4.0mol/L以下であればよく、1.0mol/L以上2.0mol/L以下であることが好ましい。
【0044】
上記有機酸の濃度は、0.05mol/L以上0.2mol/L以下であればよく、0.08mol/L以上0.15mol/L以下であることが好ましい。
【0045】
上記硫酸と上記有機酸との濃度比は、(硫酸の濃度)/(有機酸の濃度)=1/20以上1/5以下となる濃度比が好ましく、(硫酸の濃度)/(有機酸の濃度)=1/15以上1/8以下となる濃度比がより好ましい。
【0046】
上記電解液の温度は、通常の陽極酸化処理を施す際の温度と同等であればよく、たとえば0℃以上10℃以下、好ましくは0℃以上4℃以下とすることができる。
【0047】
上記通電の電流密度も、通常の陽極酸化処理を施す際の電流密度と同等であればよく、たとえば2.0A/dm
2以上30A/dm
2以下、好ましくは6A/dm
2以上15A/dm
2以下とすることができる。
【0048】
上記通電は0.5時間以上行う。本実施形態では、上記通電を0.5時間以上行い、長時間かけて初晶Siに応力を印加することで、初晶Siを十分に層分離させる。通電時間は、作製しようとする陽極酸化膜の厚みに応じて決定することができ、たとえば、0.5時間以上4.0時間以下、好ましくは0.5時間以上3.0時間以下、より好ましくは0.5時間以上1.5時間以下、さらに好ましくは0.5時間以上1.0時間以下とすることができる。
【0049】
上記方法による陽極酸化処理を、上述したAl−Si系過共晶合金から鋳造された内燃機関用ピストン母材に対して施すことで、上述した内燃機関用ピストンを製造することができる。遮熱効果がより高いピストンを製造する観点からは、上記陽極酸化処理は、少なくともピストンの頂面を形成する壁面または燃焼室を形成する壁面の一部に施すことが好ましく、ピストンの頂面を形成する壁面または燃焼室を形成する壁面の全面に施すことがより好ましく、ピストンの頂面を形成する壁面および燃焼室を形成する壁面の両方に施すことがより好ましく、ピストンの頂面を形成する壁面および燃焼室を形成する壁面の両方の全面に施すことがさらに好ましい。
【0050】
上記方法で製造したアルミニウム系合金材および内燃機関用ピストンには、トリミングおよび仕上げ加工などを含む後処理をさらに施してもよい。
【実施例】
【0051】
以下、本発明の具体的な実施例を比較例とともに説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0052】
1.試験片の作製
1−1.試験片1
円形形状(12.5mmφ,厚さ2mm)のAl−Si系過共晶合金(Si:11.8質量%、Cu:3.5質量%、Ni:1.9質量%、Mg:0.8質量%、P:90ppm)を、片面をマスキングして、1.5mol/Lの硫酸および0.1mol/Lのシュウ酸を含む電解液に浸漬し、電流密度を10A/dm
2とした電流を50分通電して、マスキングしなかった面に陽極酸化膜を有する試験片1を得た。
【0053】
1−2.試験片2
上記Al−Si系過共晶合金を、組成が異なるAl−Si系過共晶合金(Si:13.0質量%、Cu:4.0質量%、Ni:2.1質量%、Mg:0.55質量%、P:45ppm)とした以外は試験片1と同様にして、片面に陽極酸化膜を有する試験片2を得た。
【0054】
1−3.試験片3
上記通電時間を80分とした以外は試験片1と同様にして、片面に陽極酸化膜を有する試験片3を得た。
【0055】
1−4.試験片4
上記電解液を、2.0mol/Lの硫酸を含むが有機酸を実質的に含まない電解液とし、上記通電時間を15分とした以外は試験片1と同様にして、片面に陽極酸化膜を有する試験片4を得た。
【0056】
2.測定および評価
試験片1〜試験片4を切断して断面を倍率1000倍で撮像した顕微鏡写真から、陽極酸化膜の表面または内部に分散した初晶Siの粒子径、および陽極酸化膜の膜厚を測定した。また、上記顕微鏡写真を観察して初晶Siが層分離しているか否かを判定した。
【0057】
初晶Siの粒子径および陽極酸化膜の膜厚は、画像処理ソフト(イノテック株式会社製、Quick Grain)によって測定した。
【0058】
初晶Siが層分離しているか否かは、上記顕微鏡写真に写っている初晶Siを目視で観察し、その成膜方向に略直行する方向に、初晶Siの幅の半分以上を占める連続した層が2つ以上あるとき、初晶Siが層分離していると判断した。
【0059】
また、熱物性測定装置(NETZSCH社製、LFA 457 MicroFlash)によって、レーザフラッシュ法により、試験片1〜試験片4の熱伝導率を測定した。
【0060】
試験片1〜4の上記測定および評価結果(Siの含有量、初晶Si粒子の粒子径、陽極酸化膜の膜厚、層分離の有無および熱伝導率)を表1に示す。
【0061】
【表1】
【0062】
陽極酸化膜に分散した初晶Siが層分離している試験片1〜3は、初晶Siが層分離していない試験片4よりも熱伝導率が低かった。