(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6776661
(24)【登録日】2020年10月12日
(45)【発行日】2020年10月28日
(54)【発明の名称】ギア騒音低減方法
(51)【国際特許分類】
F16H 55/12 20060101AFI20201019BHJP
F16H 55/14 20060101ALI20201019BHJP
【FI】
F16H55/12 A
F16H55/14
【請求項の数】2
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2016-130270(P2016-130270)
(22)【出願日】2016年6月30日
(65)【公開番号】特開2018-3939(P2018-3939A)
(43)【公開日】2018年1月11日
【審査請求日】2019年5月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000170
【氏名又は名称】いすゞ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100128509
【弁理士】
【氏名又は名称】絹谷 晴久
(74)【代理人】
【識別番号】100119356
【弁理士】
【氏名又は名称】柱山 啓之
(72)【発明者】
【氏名】飯島 章
【審査官】
小川 克久
(56)【参考文献】
【文献】
特表2003−503650(JP,A)
【文献】
特開2005−030458(JP,A)
【文献】
特開平10−246314(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 55/12
F16H 55/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ギアトレーンを構成するヘリカルギアが共振したとき、ヘリカルギアを軸方向に分割した形状の複数の分割ギアを備え、前記分割ギアが軸方向に重ねられると共に、前記分割ギアの歯すじ方向に隣り合う歯間に空隙が形成された低騒音ギアを形成し、共振したヘリカルギアと前記低騒音ギアとを交換することを特徴とするギア騒音低減方法。
【請求項2】
軸方向に重なり合う前記分割ギア同士には、これら分割ギアの周方向の位置決めをするためのノックピンが挿入された請求項1に記載のギア騒音低減方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は
、ギア騒音低減方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
エンジンのクランク軸からの動力は、複数のヘリカルギアで構成されるギアトレーンを介して油圧ポンプ等に伝達されている。一般にギアトレーンから発生する音圧(騒音)はエンジン回転数と比例関係にあり、エンジン回転数が高くなると、ギア噛み合いによる音圧も大きくなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−180469号公報
【特許文献2】特開2001−263452号公報
【特許文献3】特開2010−144554号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、
図3に示すように、開発段階のエンジン等では、エンジン回転数が特定の値nとなったときに音圧が大きくなることがあった。この音圧の増大について原因を調べたところ、特定のギアが共振していることが解った。また、特定のギアの共振は、ギアの固有振動数と、ギアの噛み合い周波数が一致することで発生していた。
【0005】
そこで、本発明の目的は、簡単かつ安価にギア騒音を低減でき
るギア騒音低減方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述の目的を達成するため、本発明は、ヘリカルギアを軸方向に分割した形状の複数の分割ギアを備え、前記分割ギアが軸方向に重ねられると共に、前記分割ギアの歯すじ方向に隣り合う歯間に空隙が形成された低騒音ギアを提供する。
【0007】
また、本発明は、ギアトレーンを構成するヘリカルギアが共振したとき、前記低騒音ギアを形成し、共振したヘリカルギアと前記低騒音ギアとを交換するギア騒音低減方法を提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明
のギア騒音低減方法によれば、簡単かつ安価にギア騒音を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の一実施の形態に係る低騒音ギアの側面図である。
【
図3】エンジン回転数と音圧の関係を示す図である。
【
図5】他の実施の形態に係る低騒音ギアの側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の好適な実施の形態を添付図面にしたがって説明する。
【0011】
図4に示すように、エンジンEは、クランクシャフト1からの動力をサプライポンプ(燃料供給ポンプ)の駆動軸2やパワーステアリングポンプ(以下、パワステポンプ)の駆動軸3に伝達するためのギアトレーン4を備える。ギアトレーン4は、クランクシャフト1に設けられるクランクギア5と、クランクギア5と噛合されるアイドルギア6と、サプライポンプの駆動軸2に設けられアイドルギア6と噛合されるサプライポンプ用ギア7と、アイドルギア6と噛合される中間ギア8と、パワステポンプの駆動軸3に設けられ中間ギア8と噛合されるパワステポンプ用ギア9とを備える。
【0012】
アイドルギア6、サプライポンプ用ギア7、中間ギア8及びパワステポンプ用ギア9は、それぞれ金属製のヘリカルギアからなる。
【0013】
図1及び
図2に示すように、クランクギア5は、低騒音ギア10からなる。低騒音ギア10は、金属製のヘリカルギアを軸方向に分割した形状の複数の分割ギア10a、10b、すなわち、歯底円直径、歯先円直径、基礎円直径、基準円直径、ねじれ角、円ピッチが同じである複数の分割ギア10a、10bを備える。分割ギア10a、10bは、軸方向の寸法(幅)が異なり、共振周波数が異なる。分割ギア10a、10bは、軸方向に重ねられると共に歯11同士が歯すじ方向に延びる同一直線上となるように位置決めされている。また、分割ギア10a、10bの軸方向に隣り合う歯11間には空隙12が形成されている。空隙12は、歯すじ方向に隣り合う歯11のうち、一方の歯11を切り欠くことで形成されている。また、空隙12は、歯すじ方向に隣り合う全ての歯11間に形成されると共に、歯たけhより深く形成されている。また、軸方向に重なり合う分割ギア10a、10bには、分割ギア10a、10bの周方向の位置決めをするためのノックピン13が挿入されている。
【0014】
分割ギア10a、10bには、キー溝(図示せず)が形成され、クランクシャフト1にはキー溝と嵌合するキーが形成されている。なお、キーが分割ギア10a、10bに形成され、キー溝がクランクシャフト1に形成されてもよい。
【0015】
また、それぞれの歯11には、歯すじ方向に沿ってクラウニングが施されている。なお、クラウニングは施されなくてもよい。
【0016】
次にヘリカルギアのギア騒音低減方法について述べる。
【0017】
クランクギア5が通常のヘリカルギア(図示せず)からなり、特定のエンジン回転数n(
図3参照)で共振する場合、上述の低騒音ギア10を形成し、通常のヘリカルギアからなるクランクギア5と低騒音ギア10とを交換する。
【0018】
図1に示すように、低騒音ギア10は、空隙12によって歯11が軸方向に分断されており、歯11の配置が千鳥状となっている。このため、低騒音ギア10とアイドルギア6が噛み合って回転するとき、低騒音ギア10の歯11は、左右交互にアイドルギア6と噛み合うこととなる。これにより、エンジン回転数が同じである場合、低騒音ギア10の噛み合い周波数(噛み合い周波数=エンジン回転数(rpm)/60(sec)×歯数)はギア交換前の2倍となる。
【0019】
一方、クランクギア5の共振はクランクギア5の固有振動数が噛み合い周波数と一致するとき発生するため、共振の条件は、式(1)となる。
固有振動数≒エンジン回転数(rpm)/60(sec)×歯数 …(1)
【0020】
ここで空隙12の幅wは低騒音ギアの幅Wに対して十分小さいため、低騒音ギア10の固有振動数はクランクギア5として用いられていた通常のヘリカルギアと略同じと考えられる。このため、クランクギア5を通常のヘリカルギアから低騒音ギア10に変えると、実質的に歯数が2倍となる。そして、
図3に示すように、共振が発生するときのエンジン回転数(式(1)の共振の条件を満たすときのエンジン回転数)がギア交換前の1/2にシフトする。
【0021】
この1/2となった、共振が発生するときのエンジン回転数が通常の運転で使用されるエンジン回転数域(常用回転域)より低い場合(例えば、アイドル回転数より低い場合)、ギア騒音は問題とならなくなる。
【0022】
また、エンジン回転数が1/2のときに発生する共振の音圧はギア交換前より小さいため、たとえ共振が発生するときのエンジン回転数が常用回転域であったとしてもクランクギア5から発生するギア騒音を低減できる。また、歯11はそれぞれ軸方向に分断されることで剛性が下がり、ギア噛み合い音が小さくなる。歯元応力、歯面圧は、噛み合い率が確保されるため問題とはならない。
【0023】
また、分割ギア10a、10bが相対移動可能な場合、分割ギア10a、10bは、共振周波数が異なるため、一方が共振するとき、他方は共振しない。このため、分割ギア10a、10bの合わせ面でフリクションが発生し、フリクションダンパとなる。
【0024】
このように、低騒音ギア10は、ヘリカルギアを軸方向に分割した形状の複数の分割ギア10a、10bを備え、分割ギア10a、10bが軸方向に重ねられると共に、分割ギア10a、10bの歯すじ方向に隣り合う歯11間に空隙12が形成されるものとしたため、共振するヘリカルギアの直径や歯のピッチ等を変更した場合のように他のヘリカルギアにまで影響が及ぶことがなく、共振するヘリカルギアを交換するだけの簡単な作業で安価に騒音を低減できる。
【0025】
また、軸方向に重なり合う分割ギア10a、10b同士には、分割ギア10a、10bの周方向の位置決めをするためのノックピン13が挿入されるものとしたため、分割ギア10a、10bの周方向の位置決めを簡単な構造で確実に行うことができる。
【0026】
なお、ヘリカルギアを軸方向に2分割するものとしたが、3つ以上の複数に分割してもよい。歯数を更に増やすことができる。ヘリカルギアの分割数は、共振が発生するときのエンジン回転数が通常の運転で使用されるエンジン回転数より低くなるように設定されるとよい。
【0027】
また、クランクギア5が共振する場合について述べたが、例えばアイドルギア6が共振する場合、アイドルギア6を通常のヘリカルギアから本発明の低騒音ギア(図示せず)に変えるとよく、他のギアが共振する場合も同様に通常のヘリカルギアから本発明の低騒音ギア(図示せず)に変えるとよい。
【0028】
また、分割ギア10a、10bは上記のものに限るものではない。変形例を
図5を用いて説明する。なお、上述と同様の構成については、同符号を付し説明を省略する。
【0029】
図5に示すように、低騒音ギア20は、形状の異なる複数の分割ギア0a、20bを備える。
【0030】
一方の分割ギア20bは、軸方向に延びる筒部21を有し、他方の分割ギア20aは、筒部21を圧入させる嵌合孔22を有する。筒部21は、他方の分割ギア20aよりも軸方向に長く形成され、他方の分割ギア20aは、一方の分割ギア20bとは反対側の端面23が筒部21の先端面24と面一となるように配置されている。これにより、分割ギア20a、20bの歯11間に空隙25が形成され、歯すじ方向に隣り合う歯11同士が分断される。
【0031】
また、分割ギア20a、20bは、溶接にて一体にされている。具体的には、他方の分割ギア20aの端面23と筒部21の先端面24とがレーザ溶接又はビーム溶接されている。熱の影響による変形を抑えることができる。
【0032】
このように、低騒音ギア20が、軸方向に異なる形状で分割された複数の分割ギア20a、20bを備えるものとしても、簡単かつ安価にギア騒音を低減できる。
【0033】
また、一方の分割ギア20bは、軸方向に延びる筒部21を有し、他方の分割ギア20aは、筒部21を圧入させる嵌合孔22を有するものとしたため、分割ギア20a、20bを簡単な構造で同軸上に配置することができ、分割ギア20a、20b同士の芯ずれを防ぐことができる。
【符号の説明】
【0034】
10 低騒音ギア
10a 分割ギア
10b 分割ギア
11 歯
12 空隙
20 低騒音ギア
20a 分割ギア
20b 分割ギア
25 空隙