(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、X線タルボ撮影装置によって立体的な形状の検査対象物を撮影する場合に、検査対象物のうち、例えば被写体台等の基準面に近接していない部分は、被写体台等の基準面に近接している部分に対して、吸収画像、微分位相画像、小角散乱画像のそれぞれの信号が変化してしまうことがあった。
【0008】
すなわち、立体的な形状の検査対象物には、基準面に近接して配置できる部分と、基準面に対して傾斜する部分と、基準面から離間する部分とがある。そのため、基準面に対して傾斜する部分及び基準面から離間する部分は、基準面に近接する部分とは撮影条件(G1格子との間隔)が異なるものとなり、同じサイズの領域を撮影しても、得られた画像のサイズや形状が異なるものとなってしまうという問題があった。
【0009】
そのため、立体的な形状の検査対象物の撮影画像を定量化して評価したい場合には、部分ごとに向きや被写体台への載せ方を変更して撮影しなければならない。また、検査対象物の形態によっては、検査対象物を破壊しなければならないこともあり、手間であった。
【0010】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、X線タルボ撮影装置によって撮影された立体的な形状の検査対象物における各部の画像データを容易かつ正確に定量化することができるX線撮影システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため、請求項1に記載の発明は、X線源と、複数の格子と、X線検出器とがX線照射軸方向に並んで設けられており、基準面に対して所定位置にある立体的な形状の検査対象物
の微分位相画像及び小角散乱画像を生成するためのモアレ画像を撮影するX線タルボ撮影手段と、
前記X線タルボ撮影手段により撮影された前記モアレ画像に基づいて再構成され
た前記微分位相画像及び前記小角散乱画像のうちの少なくとも一つの再構成画像を、前記基準面に対する前記検査対象物の形状情報に基づいて補正する補正手段と、を備えることを特徴とする。
【0012】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のX線撮影システムにおいて、
前記X線タルボ撮影手段は、前記検査対象物が撮影位置に配置されて保持される被写体台を有しており、
前記被写体台に保持された前記検査対象物の形状情報は、前記検査対象物のサンプルにおける表面形状の実測データや前記検査対象物の表面形状を特定する設計データに基づいて演算されることを特徴とする。
【0013】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載のX線撮影システムにおいて、
前記補正手段は、
前記検査対象物の検査対象部位における前記基準面からの高さに応じて、前記少なくとも一つの再構成画像の画像データを補正することを特徴とする。
【0014】
請求項4に記載の発明は、請求項1から3のいずれか一項に記載のX線撮影システムにおいて、
前記補正手段は、
前記検査対象物の検査対象部位における前記基準面に対する角度に応じて、前記少なくとも一つの再構成画像の画像データを補正することを特徴とする。
【0015】
請求項5に記載の発明は、請求項1から4のいずれか一項に記載のX線撮影システムにおいて、
前記補正手段は、
前記検査対象物の検査対象部位における前記基準面からの高さに応じて、前記少なくとも一つの再構成画像における二次元方向のサイズを補正することを特徴とする。
【0016】
請求項6に記載の発明は、請求項1から5のいずれか一項に記載のX線撮影システムにおいて、
前記補正手段は、
前記検査対象物の検査対象部位における前記基準面に対する角度に応じて、前記少なくとも一つの再構成画像における二次元方向のサイズを補正することを特徴とする。
【0017】
請求項7に記載の発明は、請求項5又は6に記載のX線撮影システムにおいて、
前記補正手段によって補正された前記少なくとも一つの再構成画像を表示可能な表示手段と、
前記補正手段によって補正された前記少なくとも一つの再構成画像における二次元方向のサイズに基づいて、同縮尺でハードコピーする出力手段と、を備えることを特徴とする。
【0018】
請求項8に記載の発明は、請求項1から7のいずれか一項に記載のX線撮影システムにおいて、
前記X線タルボ撮影手段は、
前記検査対象物の前記モアレ画像を撮影する場合に、前記X線照射軸の軸周りに角度を変更して複数回撮影することを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、X線タルボ撮影装置によって撮影された立体的な形状の検査対象物における各部の画像データを容易かつ正確に定量化することができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。ただし、以下に述べる実施形態には、本発明を実施するために技術的に好ましい種々の限定が付されているが、本発明の技術的範囲を以下の実施形態および図示例に限定するものではない。
【0022】
本実施形態では、X線タルボ撮影手段1と補正手段2とを用いて、被写体である立体的な形状の検査対象物Hを分解あるいは破壊することなく検査するX線撮影システム(非破壊検査システム)について説明する。本実施形態のX線タルボ撮影手段として、線源格子(マルチ格子やマルチスリット、G0格子等ともいう。)12を備えるタルボ・ロー干渉計を用いたX線タルボ撮影装置1が採用されている。なお、線源格子12を備えず、第1格子(G1格子ともいう。)14と第2格子(G2格子ともいう。)15のみを備えるタルボ干渉計を用いたX線タルボ撮影装置1を採用することもできる。
【0023】
また、本実施形態では、検査対象物Hが、例えばガラス繊維や炭素繊維等の繊維を強化材として使用した繊維強化プラスチックからなり、表面に立体的な凹凸があるように成形された成形品である場合について説明する。ただし、これに限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能であり、例えば樹脂成形品や非鉄金属部品等を検査対象物Hとしてもよい。
【0024】
[X線タルボ撮影装置について]
図1は、本実施形態に係るX線タルボ撮影装置1の全体像を表す概略図である。本実施形態に係るX線タルボ撮影装置1は、
図1に示すように、X線発生装置11と、線源格子12と、被写体台13と、第1格子14と、第2格子15と、X線検出器16と、支柱17と、基台部18と、コントローラー19とを備えている。
【0025】
このようなX線タルボ撮影装置1によれば、基準面(本実施形態では被写体台13)に対して所定位置にある立体的な形状の検査対象物Hのモアレ画像を縞走査法の原理に基づく方法で撮影したり、モアレ画像をフーリエ変換法を用いて解析したりすることで、少なくとも3種類の画像を再構成することができる(再構成画像という)。すなわち、モアレ画像におけるモアレ縞の平均成分を画像化した吸収画像(通常のX線の吸収画像と同じ)と、モアレ縞の位相情報を画像化した微分位相画像と、モアレ縞のVisibility(鮮明度)を画像化した小角散乱画像の3種類の画像である。なお、これらの3種類の再構成画像を再合成する等してさらに多くの種類の画像を生成することもできる。
【0026】
また、本実施形態のX線撮影システムは、上述のように補正手段2を備えており、この補正手段2は、X線タルボ撮影装置1によって出力された吸収画像、微分位相画像及び小角散乱画像の再構成画像を、基準面である被写体台13に対する検査対象物Hの形状情報に基づいて補正する。
【0027】
ここで、まず、タルボ干渉計やタルボ・ロー干渉計に共通する原理について、
図2を用いて説明する。
【0028】
なお、
図2では、タルボ干渉計の場合が示されているが、タルボ・ロー干渉計の場合も基本的に同様に説明される。また、
図2におけるz方向が
図1のX線タルボ撮影装置1における鉛直方向に対応し、
図2におけるx、y方向が
図1のX線タルボ撮影装置1における水平方向(前後、左右方向)に対応する。
【0029】
また、
図3に示すように、第1格子14や第2格子15には(タルボ・ロー干渉計の場合は線源格子12にも)、X線の照射方向であるz方向と直交するy方向に、所定の周期dで複数のスリットSが配列されて形成されている。
【0030】
図3に示すように、X線源2から照射されたX線(タルボ・ロー干渉計の場合はX線源2から照射されたX線が線源格子12(
図3では図示省略)で多光源化されたX線)が第1格子14を透過すると、透過したX線がz方向に一定の間隔で像を結ぶ。この像を自己像(格子像等ともいう。)といい、このように自己像がz方向に一定の間隔をおいて形成される現象をタルボ効果という。
【0031】
すなわち、タルボ効果とは、
図3に示すように一定の周期dでスリットSが設けられた第1格子14を可干渉性(コヒーレント)の光が透過すると、上記のように光の進行方向に一定の間隔でその自己像を結ぶ現象をいう。
【0032】
そして、
図2に示すように、第1格子14の自己像が像を結ぶ位置に、第1格子14と同様にスリットSが設けられた第2格子15を配置する。その際、第2格子15のスリットSの延在方向(すなわち
図2ではx軸方向)が、第1格子14のスリットSの延在方向に対して略平行になるように配置すると、第2格子15上でモアレ画像Moが得られる。
【0033】
なお、
図2では、モアレ画像Moを第2格子15上に記載するとモアレ縞とスリットSとが混在する状態になって分かりにくくなるため、モアレ画像Moを第2格子15から離して記載している。しかし、実際には第2格子15上およびその下流側でモアレ画像Moが形成される。そして、このモアレ画像Moが、第2格子15の直下に配置されるX線検出器16で撮影される。
【0034】
また、
図2に示すように、X線源2と第1格子14との間に(すなわち
図1の被写体台13上に)被写体Hが存在すると、被写体HによってX線の位相がずれるため、モアレ画像Moのモアレ縞が被写体の辺縁を境界に乱れる。一方、図示を省略するが、X線源2と第1格子14との間に被写体Hが存在しなければ、モアレ縞のみのモアレ画像Moが現れる。以上がタルボ干渉計やタルボ・ロー干渉計の原理である。
【0035】
この原理に基づいて、本実施形態に係るX線タルボ撮影装置1においても、例えば
図1に示すように、第2のカバーユニット130内で、第1格子14の自己像が像を結ぶ位置に第2格子15が配置されるようになっている。また、前述したように、第2格子15とX線検出器16とを離すとモアレ画像Mo(
図2参照)がぼやけるため、本実施形態では、X線検出器16は第2格子15の直下に配置されるようになっている。
【0036】
なお、第2のカバーユニット130は、人や物が第1格子14や第2格子15、X線検出器16等にぶつかったり触れたりしないようにして、X線検出器16等を防護するために設けられている。
【0037】
図示を省略するが、X線検出器16は、照射されたX線に応じて電気信号を生成する変換素子が二次元状(マトリクス状)に配置され、変換素子により生成された電気信号を画像信号として読み取るように構成されている。そして、本実施形態では、X線検出器16は、第2格子15上に形成されるX線の像である上記のモアレ画像Moを変換素子ごとの画像信号として撮影するようになっている。
【0038】
そして、本実施形態では、X線タルボ撮影装置1は、いわゆる縞走査法を用いてモアレ画像Moを複数枚撮影するようになっている。すなわち、本実施形態に係るX線タルボ撮影装置1では、第1格子14と第2格子15との相対位置を
図1〜
図3におけるy軸方向(すなわちスリットSの延在方向(x軸方向)に直交する方向)にずらしながらモアレ画像Moを複数枚撮影する。
【0039】
そして、X線タルボ撮影装置1から複数枚分のモアレ画像Moの画像信号を受信した図示しない画像処理装置における画像処理で、複数枚のモアレ画像Moに基づいて、吸収画像や、微分位相画像や、小角散乱画像等を再構成するようになっている。
【0040】
そのため、本実施形態に係るX線タルボ撮影装置1で、縞走査法によりモアレ画像Moを複数枚撮影するために、第1格子14をy軸方向に所定量ずつ移動させるための図示しない移動装置等が設けられている。なお、第1格子14を移動させる代わりに第2格子15を移動させたり、或いは両方とも移動させたりするように構成することも可能である。
【0041】
また、X線タルボ撮影装置1で、第1格子14と第2格子15との相対位置を固定したままモアレ画像Moを1枚だけ撮影し、画像処理装置における画像処理で、このモアレ画像Moをフーリエ変換法等を用いて解析する等して吸収画像や微分位相画像等を再構成するように構成することも可能である。
【0042】
そして、この方法を用いる場合には、X線タルボ撮影装置1に必ずしも上記の移動装置等を設ける必要はない。なお、本発明は、このような移動装置が設けられていないX線タルボ撮影装置にも適用される。
【0043】
本実施形態に係るX線タルボ撮影装置1における他の部分の構成について説明する。本実施形態では、いわゆる縦型であり、X線発生装置11、線源格子12、被写体台13、第1格子14、第2格子15、X線検出器16が、この順序に重力方向であるz方向に配置されている。すなわち、本実施形態では、z方向が、X線発生装置11からのX線の照射方向ということになる。
【0044】
X線発生装置11は、X線源11aとして、例えば医療現場で広く一般に用いられているクーリッジX線源や回転陽極X線源等を備えている。また、それ以外のX線源を用いることも可能である。本実施形態のX線発生装置11は、焦点からX線をコーンビーム状に照射するようになっている。すなわち、X線発生装置11から離れるほどX線が広がるように照射される。
【0045】
そして、本実施形態では、X線発生装置11の下方に線源格子12が設けられている。その際、X線源11aの陽極の回転等により生じるX線発生装置11の振動が線源格子12に伝わらないようにするために、本実施形態では、線源格子12は、X線発生装置11には取り付けられず、支柱17に設けられた基台部18に取り付けられた固定部材12aに取り付けられている。
【0046】
なお、本実施形態では、X線発生装置11の振動が支柱17等のX線タルボ撮影装置1の他の部分に伝播しないようにするために(或いは伝播する振動をより小さくするために)、X線発生装置11と支柱17との間に緩衝部材17aが設けられている。
【0047】
本実施形態では、上記の固定部材12aには、線源格子12のほか、線源格子12を透過したX線の線質を変えるためのろ過フィルター(付加フィルターともいう。)112や、照射されるX線の照射野を絞るための照射野絞り113、X線を照射する前にX線の代わりに可視光を被写体に照射して位置合わせを行うための照射野ランプ114等が取り付けられている。
【0048】
なお、線源格子12とろ過フィルター112と照射野絞り113とは、必ずしもこの順番に設けられる必要はない。また、本実施形態では、線源格子12等の周囲には、それらを保護するための第1のカバーユニット120が配置されている。
【0049】
また、コントローラー19(
図1参照)は、本実施形態では、図示しないCPU(Central Processing Unit)やROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、入出力インターフェース等がバスに接続されたコンピューターで構成されている。なお、コントローラー19を、本実施形態のような汎用のコンピューターではなく、専用の制御装置として構成することも可能である。また、コントローラー19には、操作部を含む入力手段や出力手段、記憶手段、通信手段等の適宜の手段や装置が設けられている。
【0050】
コントローラー19は、X線タルボ撮影装置1に対する全般的な制御を行うようになっている。すなわち、例えば、コントローラー19は、X線発生装置11に接続されており、X線源11Aに管電圧や管電流、照射時間等を設定することができるようになっている。また、例えば、コントローラー19が、X線検出器16と外部の図示しない画像処理装置等との信号やデータの送受信を中継するように構成することも可能である。
【0051】
また、X線タルボ撮影装置1が、本実施形態のように縞走査法によりモアレ画像Moを複数枚撮影するように構成されている場合には、コントローラー19が、上記の移動装置を制御して、第1格子14(或いは第2格子15或いはその両方)を移動させる所定量を調整したり、格子の移動とX線発生装置11からのX線の照射とのタイミングを調整する等の処理を行うように構成される。
【0052】
なお、X線発生装置11を制御するコントローラーとして、X線発生装置11専用のジェネレーターを用い、格子を移動させる移動装置を制御する等するためのコントローラー19を、X線発生装置11のジェネレーターとは別体の装置として構成することも可能であり、コントローラー19の構成は適宜決められる。
【0053】
また、上述の記憶手段やROMには、検査対象物Hの形状情報を演算するために必要な各種データや、X線タルボ撮影装置1によって出力された各種画像の画像データを補正するために必要な処理プログラムが記憶されている。すなわち、補正手段2の実行に必要な各種データやプログラムが記憶されている。
【0054】
検査対象物Hの形状情報とは、検査対象物Hにおける表面の形状やサイズに係る情報であり、検査対象物Hと同様に形成されたサンプル(図示せず)における表面形状の実測データや検査対象物Hの表面形状を特定する設計データに基づいて予め演算される。より具体的には、実測データとは、例えば検査対象物HのサンプルにおけるCT画像データや三次元測定機によって実際に測定されたデータであり、設計データとしては、例えば機械設計図面データやメカニカルCADデータ等が挙げられる。
【0055】
なお、検査対象物Hの形状情報は、例えば厚み・材質等の材料特性や、プレス等の製造方法でも変わり得るものであるため、非破壊検査を行う場合は、その都度検査対象物Hのサンプルを利用して形状情報を取得することが望ましい。
【0056】
検査対象物Hは、
図4に示すように、基準面である被写体台13に近接して配置できる第1部分H1と、被写体台13に対して傾斜する第2部分H2と、被写体台13から平行離間する第3部分H3と、を備える。これら各部分H1,H2,H3は一体形成されて、検査対象物Hを構成している。また、これら各部分H1,H2,H3は、X線タルボ撮影装置1によって所定の撮影視野範囲A2,A3で撮影される。この撮影視野範囲A2,A3内に位置する部位が検査対象部位となる。なお、第1部分H1の撮影視野範囲は、第2部分H2の撮影視野範囲A2及び第3部分H3の撮影視野範囲A3と同程度の範囲であれば、第1部分H1におけるいずれの箇所でもよい。
【0057】
なお、
図4に示す検査対象物Hは、その構造をわかりやすく説明するために簡略化されたものであり、実際の検査対象物Hの構造は、より複雑であることが想定される。
【0058】
検査対象物Hは、このように部分によって基準面である被写体台13との位置関係が異なるため、同じサイズの領域を撮影しても、得られた画像のサイズや形状が異なるものとなってしまう。このような立体的な形状の検査対象物Hの撮影画像を定量化して評価するためには、上述の補正手段2によって、基準面である被写体台13からの高さや、基準面である被写体台13に対する角度に応じて、再構成画像の画像データを補正したり、再構成画像における二次元方向のサイズを補正したりする必要がある。換言すれば、第1部分H1、第2部分H2及び第3部分H3は、基準面である被写体台13に対する位置や角度がそれぞれ異なるが、同等の条件下で撮影した画像であるように評価するために、画像のデータを補正したり、サイズを補正したりすることで定量化する必要がある。
【0059】
なお、
図1に示すように、基準面である被写体台13の直下に第1格子14が設けられた状態となっている。検査対象物Hが第1格子14に近ければ近いほど撮影される画像のピントは合うが、遠ければ遠いほどピントが合わずに暈けた状態となる。したがって、本実施形態では、基準面を被写体台13としているが、これに限られるものではなく、第1格子14を基準面としてもよいし、その他の位置を基準面としてもよい。
【0060】
補正手段2は、コントローラー19のCPU等と記憶手段やROMに記憶された処理プログラムとの協働により処理が行われる。具体的には、CPUは、図示しない操作部から入力される操作信号又は通信手段により受信される指示信号に応じて、ROMに記憶されている処理プログラムを読み出してRAMに展開し、当該プログラムとの協働により、検査対象物Hの形状情報に基づいて画像データの補正処理を行う。
【0061】
コントローラー19には、補正手段2によって補正された再構成画像を表示可能な表示手段3が設けられている。この表示手段3は、LCD(Liquid Crystal Display)やCRT(Cathode Ray Tube)等のモニターにより構成され、CPUから入力される表示信号の指示に従って、操作部からの入力指示やデータ等を表示する。
【0062】
コントローラー19には、補正手段2によって補正された再構成画像における二次元方向のサイズに基づいて、同縮尺でハードコピーする出力手段4が設けられている。この出力手段4は、例えばプリンターにより構成され、CPUから入力される出力信号の指示に従って、画像のハードコピーを出力する。
【0063】
[画像データの高さ補正について]
図5は、検査対象物Hの検査対象部位における被写体台13からの高さに応じて、再構成画像の画像データの高さ補正を行うために必要な補正値を表すグラフである。
【0064】
このような補正値を導き出すために、X線タルボ撮影装置1によって、検査対象物Hの複数のサンプルの撮影を予め行い、当該複数のサンプルの再構成画像の各画素における信号値(X線検出器16によって得られる画素信号の値)を取得する。なお、
図5のグラフにおける複数のサンプルは、被写体台13に接する位置(すなわち、0mm)から100mmまでの高さの間に等間隔に並べられて撮影される。
【0065】
複数のサンプルの再構成画像の各画素における信号値が取得できたら各信号値から高さ補正値を計算し、それを縦軸にし、高さを横軸としたグラフ(近似直線)を作成する。作成されるグラフとしては、
図5(a)から(c)に示すように、吸収画像の高さ補正値を求めるためのグラフと、微分位相画像の高さ補正値を求めるためのグラフと、小角散乱画像の高さ補正値を求めるためのグラフの3つがある。
【0066】
実際に非破壊検査される立体的な形状の検査対象物Hの信号値を求める場合は、
図5に示すグラフの数式に求めようとする高さを代入し、高さ補正値を計算する。そして、X線タルボ撮影装置1によって撮影された検査対象物Hの再構成画像の画像データに当該高さ補正値をプラスする。このようにすることで、検査対象物Hの信号値を求めることができ、検査対象物Hの高さ補正を行うことができる。
【0067】
[画像データの角度補正について]
図6は、検査対象物Hの検査対象部位における被写体台13に対する角度に応じて、再構成画像の画像データの角度補正を行うために必要な補正値を表すグラフである。
【0068】
このような補正値を導き出すために、X線タルボ撮影装置1によって、検査対象物Hのサンプルの撮影を予め行い、当該サンプルの再構成画像の各画素における信号値(X線検出器16によって得られる画素信号の値)を取得する。なお、
図6のグラフにおけるサンプルは、被写体台13に対し、回転中心高さ(
図4の符号「C」)を一定にした状態で角度を0°〜80°まで10°ごとに傾けながら撮影を実施する。
【0069】
サンプルの再構成画像の各画素における信号値が取得できたら各信号値から角度補正値を計算し、それを縦軸にし、角度を横軸としたグラフ(近似曲線)を作成する。作成されるグラフとしては、
図6(a)から(c)に示すように、吸収画像の角度補正値を求めるためのグラフと、微分位相画像の角度補正値を求めるためのグラフと、小角散乱画像の角度補正値を求めるためのグラフの3つがある。
【0070】
実際に非破壊検査される立体的な形状の検査対象物Hの信号値を求める場合は、
図6に示すグラフの数式に求めようとする角度を代入し、角度補正値を計算する。そして、X線タルボ撮影装置1によって撮影された検査対象物Hの再構成画像に、回転中心高さ補正値と当該角度補正値をプラスする。なお、回転中心高さ補正値は、
図5に示すグラフの数式に求めようとする回転中心高さを代入し、回転中心高さ補正値を計算する。このようにすることで、検査対象物Hの信号値を求めることができ、検査対象物Hの高さ補正を行うことができる。
【0071】
[高さに応じた二次元方向のサイズ補正について]
図7(a)は、検査対象物Hの検査対象部位における被写体台13からの高さに応じて、再構成画像における二次元方向のサイズを補正する際の、X線タルボ撮影装置1の撮影形態を示している。
【0072】
図7(b),(c)は、補正前の画像と補正後の画像を対比して示している。すなわち、被写体台13から検査対象物Hの検査対象部位(第3部分H3の検査対象部位)までが離間している場合、X線検出器16で検出して得られた画像は、
図7(b)に示すように、被写体台13に近接する第1部分H1の撮影画像よりも大きく撮影されることとなる。検査対象物Hにおける撮影画像の定量評価を行うためには、このように大きく撮影された補正前の画像を、
図7(c)に示すように、第1部分H1の撮影画像と同程度のサイズにする必要がある。
【0073】
図7(a)中の矢印「h」は、被写体台13から検査対象物Hの検査対象部位までの離間距離を表し、矢印「R」は、線源格子12から第2格子15までの距離を表し、矢印「RS」は、線源格子12から被写体台13までの距離を表している。そして、補正前の画像における二次元方向のサイズを「IS0」とし、補正後の画像における二次元方向のサイズを「ISh」とすると、この補正後の画像における二次元方向のサイズを、以下の計算式1から求めることができる。
(計算式1)IS
h=IS
0×(RS−h)/R
【0074】
以上の計算式1に実際の数値を代入して計算することにより、X線検出器16で検出して得られた第3部分H3の検査対象部位の画像における二次元方向のサイズを、第1部分H1における検査対象部位の撮影画像と同程度まで縮尺することができる。これによって、検査対象物Hにおける撮影画像の定量評価しやすくなる。
【0075】
[角度に応じた二次元方向のサイズ補正について]
図8(a)は、検査対象物Hの検査対象部位(第2部分H2の検査対象部位)における被写体台13に対する角度に応じて、再構成画像における二次元方向のサイズを補正する際の、X線タルボ撮影装置1の撮影形態を示している。このように撮影した場合、X線検出器16で検出して得られる画像は、
図8(c)に示すような状態となる。すなわち、撮影範囲が四角形であった場合、傾斜方向の上方は寸法が長く、傾斜方向の下方は寸法が短い台形状に撮影される。
【0076】
そして、
図8(b)は、検査対象物Hの検査対象部位を、撮影時において被写体台13と平行にするイメージを示しており、
図8(d)は角度補正された後の画像を示している。補正前の画像における二次元方向のサイズを「ISh」とすると、補正後の画像における二次元方向のサイズを「ISr」とすると、このような補正後の画像は、以下の計算式2から求めることができる。
(計算式2)IS
r=IS
h/cosθ
【0077】
なお、計算式2における、補正前の画像における二次元方向のサイズ「ISh」は、上述の[高さに応じた二次元方向のサイズ補正について]で説明した「ISh」と同様である。すなわち、傾斜した検査対象部位の画像の角度補正を行う場合は、高さ補正を行ったうえで行われる。
【0078】
以上の計算式2に実際の数値を代入して計算することにより、X線検出器16で検出して得られた第2部分H2の検査対象部位の画像における二次元方向のサイズを、第1部分H1における検査対象部位の撮影画像と同程度まで変形して縮尺することができる。これによって、検査対象物Hにおける撮影画像の定量評価しやすくなる。
【0079】
[非破壊検査の流れについて]
図9は、X線撮影システムによって検査対象物Hの検査を行う際のフローチャートである。
【0080】
なお、検査対象物Hは、基準面である被写体台13に接して配置できる第1部分H1と、被写体台13に対して傾斜する第2部分H2と、被写体台13から平行離間する第3部分H3と、を備える。また、この検査対象物Hのサンプルも、検査対象物Hと同形状となっている。
【0081】
まずは、検査対象物Hと同形状に形成されたサンプルにおける表面形状の実測データ(CT画像データや三次元測定機等による実測データ)や検査対象物Hの表面形状を特定する設計データ(機械設計図面データやメカニカルCADデータ等)に基づいて、検査対象物Hの形状情報を演算して取得する(ステップS1)。
【0082】
続いて、X線タルボ撮影装置1によって、被写体台13に対する高さ位置がそれぞれ異なる検査対象物Hの複数のサンプルの撮影を行い、複数のサンプルの再構成画像の各画素における信号値(X線検出器16によって得られる画素信号の値)を取得する(ステップS2)。このステップS2で、
図5に示すような各再構成画像のグラフを作成することができる。
【0083】
続いて、検査対象物Hのサンプルを、被写体台13に対して回転中心高さ(
図4参照)を一定にした状態で角度を0°〜80°まで10°ごとに傾けながら、X線タルボ撮影装置1によって撮影を行い、当該サンプルの再構成画像の各画素における信号値(X線検出器16によって得られる画素信号の値)を取得する(ステップS3)。
【0084】
続いて、X線タルボ撮影装置1によって、検査対象物Hにおける各部分H1,H2,H3の検査対象部位を撮影する(ステップS4)。
【0085】
このとき、検査対象物Hのモアレ画像を縞走査法の原理に基づく方法で撮影したり、モアレ画像をフーリエ変換法を用いて解析したりすることで、少なくとも3種類の画像を再構成して取得する(ステップS5)。すなわち、少なくとも吸収画像、微分位相画像、小角散乱画像を取得する。
【0086】
続いて、補正手段2によって、X線タルボ撮影装置1によって撮影して得られた再構成画像の画像データに対して、ステップS2でサンプルを撮影して取得していた高さ補正値をプラスして、検査対象物Hの高さ補正を行う。さらに、ステップS3でサンプルを撮影して取得していた角度補正値をプラスして、検査対象物Hの角度補正を行う(ステップS6)。
【0087】
続いて、補正手段2によって、検査対象物Hの第3部分H3における検査対象部位の画像を、上述の計算式1を用いて二次元方向のサイズ補正を行う。さらに、検査対象物Hの第2部分H2における検査対象部位の画像を、上述の計算式2を用いて二次元方向のサイズ補正を行う(ステップS7)。
【0088】
続いて、表示手段3によって、補正された再構成画像を表示したり、出力手段4によって、補正された再構成画像における二次元方向のサイズに基づいて、同縮尺でハードコピーしたりして、検査対象物Hを検査する検査員が、画像を実際に見て定量評価を行うことができる状態にする(ステップS8)。
【0089】
以上のようにして検査対象物Hにおける各部分H1,H2,H3の画像データを容易かつ正確に定量化し、その上で検査対象物Hの評価を行うことができるので、検査対象物Hを分解あるいは破壊することなく検査することができる。
なお、X線タルボ撮影装置1で撮影されたモアレ画像を再構成することで、少なくとも吸収画像、微分位相画像、小角散乱画像の3種類の高精細の撮影画像を得ることができるが、これらの画像はそれぞれ画像の写り方が異なるため、例えば吸収画像では見えない検査対象物Hの欠陥が、微分位相画像や小角散乱画像では見える場合等がある。したがって、検査対象物Hの非破壊検査を行う場合は、写り方の異なる複数種類の再構成画像を見て検査を行うことが望ましい。
【0090】
[構成例]
次に、
図10,
図11を参照して、X線撮影システムの構成例について説明する。
検査対象物Hが、例えば繊維強化プラスチックのように繊維を含むものである場合、微細な繊維同士が絡まり合った状態となるため、X線タルボ撮影装置1によって撮影しても見えにくい箇所が生じる場合があった。本構成例では、このような問題を解決するための手法について説明する。
【0091】
[構成例1]
本構成例1においては、
図10に示すよぅに、2台のX線タルボ撮影装置1,1Aが用いられている。これら2台のX線タルボ撮影装置1,1Aは、互いに間隔を空けて並べられており、各々の第1格子14の上方にベルトコンベヤー20が通過するように構成されている。検査対象物Hは、このベルトコンベヤー20に乗せられた状態で、下流に向かって移動する。
【0092】
なお、本構成例1においては、基準面がベルトコンベヤー20となっており、高さ補正処理や角度補正処理、二次元方向のサイズ補正処理も当該ベルトコンベヤー20を基準面として行われる。
【0093】
2台のX線タルボ撮影装置1,1Aのうち、一方のX線タルボ撮影装置1と他方のX線タルボ撮影装置1Aは、各々の複数の格子12,14,15におけるスリットSの向きが90度異なるように配置されている。すなわち、一方のX線タルボ撮影装置1における複数の格子12,14,15のスリットSの向きが、例えばベルトコンベヤー20の流れ方向に沿っていた場合、他方のX線タルボ撮影装置1における複数の格子12,14,15のスリットSの向きは、ベルトコンベヤー20の流れ方向と直交する方向となる。
【0094】
以上のような本構成例1によれば、2台のX線タルボ撮影装置1,1Aの、各々の複数の格子12,14,15におけるスリットSの向きが90度異なるように配置されていることによって、検査対象物Hを、X線照射軸の軸周りに角度を変更して複数回撮影できることとなる。これによって、例えば検査対象物Hが、例えば繊維強化プラスチックのように微細な繊維を含むものであったとしても、スリットSが異なる向きで撮影を行うことができるので、撮影された複数の画像に基づいて、異方性の影響なく検査を行うことができる。
【0095】
[構成例2]
本構成例2においては、
図11に示すように、1台のX線タルボ撮影装置1の両側にテーブル21,22が設置されている。これら両側のテーブル21,22の上面の高さ位置と、X線タルボ撮影装置1における被写体台13の上面の高さ位置は略等しく、面一の状態となっている。
【0096】
また、X線タルボ撮影装置1の前方には、左右方向に移動可能な搬送ユニット23が設置されている。搬送ユニット23は、左右方向に移動する本体部の両側端部から被写体台13側に突出する2本の搬送アーム23a,23aを備えており、当該搬送アーム23a,23aは、その下面が、被写体台13の上面及びテーブル21,22の上面よりも上方に位置するようにして配置されている。
【0097】
さらに、他方のテーブル22には、検査対象物Hを載せた状態で水平回転可能な回転ステージ22aが設けられている。この回転ステージ22aの上面は、他方のテーブル22の上面と面一な状態となっている。また、この回転ステージ22aは、図示しない回転駆動装置によって回転できるように構成されている。
【0098】
以上のような本構成例2では、
図11(a)に示すように、一方のテーブル21上にあるトレー23bに検査対象物Hを載せ、搬送ユニット23における右側の搬送アーム23aによって、検査対象物Hをトレー23bごと被写体台13の上面に搬送し、検査対象物Hの撮影を行うことができる。
【0099】
撮影が終わると、検査対象物Hは一旦、他方のテーブル22における回転ステージ22aまで搬送され、回転ステージ22aの回転に伴って回転移動する。本構成例2において検査対象物Hは90度回転する。そして、搬送ユニット23における左側の搬送アーム23aによって、検査対象物Hをトレー23bごと被写体台13の上面に搬送し、検査対象物Hの撮影を、角度を変えた状態で行うことができる。すなわち、検査対象物Hを、X線照射軸の軸周りに角度を変更して複数回撮影できることとなる。これによって、上述の構成例1と同様の効果を発揮することができる。
【0100】
以上説明したように、本実施の形態によれば、X線タルボ撮影手段1により撮影されたモアレ画像に基づいて再構成された吸収画像、微分位相画像及び小角散乱画像のうちの少なくとも一つの再構成画像を、被写体台13等の基準面に対する検査対象物Hの形状情報に基づいて、補正手段2によって補正することができるので、立体的な形状の検査対象物Hにおける各部分H1,H2,H3の画像データを容易かつ正確に定量化することができる。そして、その上で検査対象物Hの評価を行うことができるので、検査対象物Hを分解あるいは破壊することなく検査することができる。
【0101】
また、被写体台13に保持された検査対象物Hの形状情報は、検査対象物Hのサンプルにおける表面形状の実測データや検査対象物Hの表面形状を特定する設計データに基づいて演算されるので、検査対象物Hやそのサンプルを分解あるいは破壊することなく、検査対象物Hの形状情報を得ることができる。
【0102】
また、補正手段2は、検査対象物Hの検査対象部位における被写体台13からの高さや、被写体台13に対する角度に応じて、少なくとも一つの再構成画像の画像データを補正するので、実際に非破壊検査される検査対象物Hの撮影に係る工程数を少なくすることができる。さらに、検査対象物Hの製造部門に対して補正値等のデータを短時間でフィードバックできるので、以降に製造される製品に反映させやすい。
【0103】
また、補正手段2は、検査対象物Hの検査対象部位における被写体台13からの高さや、被写体台13に対する角度に応じて、少なくとも一つの再構成画像における二次元方向のサイズを補正するので、直感的な良否判断を行うことができる。特に検査対象物Hに繊維が含まれる場合には、繊維分布や繊維配向等の画像比較により、同一かどうかの判定等、直感的な良否判断を行うことができる。
【0104】
また、表示手段3によって、補正された再構成画像を表示したり、出力手段4によって、補正された再構成画像における二次元方向のサイズに基づいて、同縮尺でハードコピーしたりすることができるので、検査対象物Hを検査する際に、画像を実際に見て定量評価を行うことができる。
【0105】
また、検査対象物Hのモアレ画像を撮影する場合に、X線照射軸の軸周りに角度を変更して複数回撮影することで、一つの検査対象物Hを異なる向きで撮影を行うことができるので、撮影された複数の画像に基づいて、異方性の影響なく検査を行うことができる。