(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
セラミックス基板の一方の面に銅又は銅合金からなる回路層が配設され、前記セラミックス基板の他方の面に銅又は銅合金からなる金属層が配設されたパワーモジュール用基板と、
前記パワーモジュール用基板の前記金属層に接合され、炭化珪素からなる多孔質体にアルミニウム又はアルミニウム合金が含浸されたアルミニウム含浸炭化珪素多孔質体からなるヒートシンクとを備え、
前記回路層の耐力をσ1(MPa)、前記回路層の厚みをt1(mm)、前記回路層と前記セラミックス基板との接合面積をA1(mm2)とし、前記金属層の耐力をσ2(MPa)前記金属層の厚みをt2(mm)、前記金属層と前記セラミックス基板との接合面積をA2(mm2)としたときに、
前記厚みt1が0.1mm以上3.0mm以下に形成され、
前記厚みt2が0.15mm以上5.0mm以下に形成されるとともに、前記厚みt1よりも大きく形成されており、
比率{(σ2×t2×A2)/(σ1×t1×A1)}が1.5以上15以下の範囲内とされていることを特徴とするヒートシンク付パワーモジュール用基板。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献3又は特許文献4に記載されるように、従前は、ヒートシンクを低熱膨張で高熱伝導率のアルミニウム含浸炭化珪素多孔質体により形成することで、パワーモジュール用基板とヒートシンクとの線膨張差を小さくし、ヒートシンク付パワーモジュール用基板に生じる反りの低減を図っていた。しかし、ヒートシンク付パワーモジュール用基板に生じる反り量の低減は十分とは言えず、さらなる改善が求められている。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、パワーサイクルや冷熱サイクルに対する信頼性の高いヒートシンク付パワーモジュール用基板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のヒートシンク付パワーモジュール用基板は、セラミックス基板の一方の面に銅又は銅合金からなる回路層が配設され、前記セラミックス基板の他方の面に銅又は銅合金からなる金属層が配設されたパワーモジュール用基板と、前記パワーモジュール用基板の前記金属層に接合され、炭化珪素からなる多孔質体にアルミニウム又はアルミニウム合金が含浸されたアルミニウム含浸炭化珪素多孔質体からなるヒートシンクとを備え、前記回路層の耐力をσ1(MPa)、前記回路層の厚みをt1(mm)、前記回路層と前記セラミックス基板との接合面積をA1(mm
2)とし、前記金属層の耐力をσ2(MPa)、前記金属層の厚みをt2(mm)、前記金属層と前記セラミックス基板との接合面積をA2(mm
2)としたときに、前記厚みt1が0.1mm以上3.0mm以下に形成され、前記厚みt2が0.15mm以上5.0mm以下に形成されるとともに、前記厚みt1よりも大きく形成されており、比率{(σ2×t2×A2)/(σ1×t1×A1)}が1.5以上15以下の範囲内とされている。
【0009】
ヒートシンクを形成するアルミニウム含浸炭化珪素多孔質体は、セラミックス基板に近い線膨張率を有しているが、わずかながら線膨張率に差がある。このため、金属層が薄いと、セラミックス基板とヒートシンクとの線膨張率差に起因する反りが生じる。
本発明のヒートシンク付パワーモジュール用基板では、剛性の高い銅又は銅合金からなる金属層の厚みを大きく(厚く)したので、金属層の表裏面に沿う応力差に対して金属層の抵抗力が支配的となり、セラミックス基板とヒートシンクとの線膨張差に起因する反りが低減され、ヒートシンク付パワーモジュール用基板に生じる反りをさらに低減できる。ただし、金属層の厚みを大きくしすぎると、冷熱サイクル時の金属層の熱伸縮により、セラミックス基板に割れ(クラック)が生じるおそれがある。この場合、回路層の厚みが金属層より大きいと、回路層の熱伸縮の影響が大きくなるため、反りが生じる。そこで、回路層と金属層とを所定の厚みの範囲内で形成し、回路層と金属層との関係を比率{(σ2×t2×A2)/(σ1×t1×A1)}が1.5以上15以下の範囲内に調整することにより、ヒートシンク付パワーモジュール用基板の全体の反りを低減でき、パワーサイクルや冷熱サイクルに対する信頼性の高いヒートシンク付パワーモジュール用基板を形成できる。
【0010】
なお、回路層の厚みt1が0.1mm未満では、セラミックス基板と回路層との接合に用いた接合材が加熱時に回路層の表面に染み出すおそれがあり、厚みt1が3.0mmを超えると、例えば、半導体素子を接合する場合等、ヒートシンク付パワーモジュール用基板を加熱した際に、セラミックス基板に割れが生じるおそれがある。
また、金属層の厚みt2が0.15mm未満では、金属層の厚みt2を大きくしたことによる、ヒートシンク付パワーモジュール用基板に生じる反りの低減の効果を十分に発揮できない。そして、厚みt2が5.0mmを超えると、例えば、半導体素子を接合する場合等、ヒートシンク付パワーモジュール用基板を加熱した際に、セラミックス基板に割れが生じるおそれがある。
【0011】
本発明のヒートシンク付パワーモジュール用基板は、前記ヒートシンクの下面において、前記ヒートシンクと前記金属層との接合面の中心位置を測定範囲の中心として、該測定範囲の最大長さをL(mm)とし、前記ヒートシンクの変形量をZ(mm)とし、285℃に加熱したときの反り(Z/L
2)の値をXとし、前記285℃に加熱した後に30℃まで冷却したときの反り(Z/L
2)の値をYとしたときに、前記反りXと前記反りYとの差分(Y−X)が−18.0×10
−6(mm
−1)以上18.0×10
−6(mm
−1)以下とされる。ここで、変形量Zは、回路層側に凸の変形を正、ヒートシンク下面側に凸の変形を負とする。
【0012】
このように、285℃加熱時における反り(Z/L
2)の値Xと、その加熱後に285℃から30℃まで冷却したときの反り(Z/L
2)の値Yとの差分(Y−X)が−18.0×10
−6(mm
−1)以上18.0×10
−6(mm
−1)以下とされるヒートシンク付パワーモジュール用基板は、低温時(30℃)と高温時(285℃)とに生じる反りの変化も小さい。このようなヒートシンク付パワーモジュール用基板では、電子部品を回路層へはんだ付けやワイヤーボンディング等を行う際に生じる反りや、パワーモジュールの冷熱サイクル負荷時に生じる反りが小さいので、電子部品のはんだ付け等の製造工程における作業性の向上や、加熱によるセラミックス基板の割れを防止できる。
【発明の効果】
【0013】
本発明のヒートシンク付パワーモジュール用基板によれば、温度変化に伴うセラミックス基板の割れの発生を抑制でき、パワーサイクルや冷熱サイクルに対する信頼性を高めることができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。
図1に、本実施形態のヒートシンク付パワーモジュール用基板101を示す。このヒートシンク付パワーモジュール用基板101は、パワーモジュール用基板10と、パワーモジュール用基板10に接合されたヒートシンク20とを備える。
【0016】
パワーモジュール用基板10は、
図2に示すように、絶縁層を構成するセラミックス基板11と、このセラミックス基板11の一方の面(
図1において上面)に配設された回路層12と、セラミックス基板11の他方の面(
図1において下面)に配設された金属層13とを備える。
【0017】
セラミックス基板11は、回路層12と金属層13との間の電気的接続を防止するものであり、例えばAlN(窒化アルミニウム),Si
3N
4(窒化珪素),Al
2O
3(アルミナ),SiC(炭化珪素)等の絶縁性の高いセラミックスで形成され、厚みが0.32mm以上1.0mm以下の範囲内に形成されている。
【0018】
回路層12は、セラミックス基板11の一方の面に、銅又は銅合金(好ましくは無酸素銅:OFC)の銅板が接合されることにより形成されている。また、回路層12は、エッチング等により所定の回路パターンが形成されている。回路層12の厚みt1(銅板の厚み)は、0.1mm以上3.0mm以下の範囲内に形成されている。
【0019】
金属層13は、セラミックス基板11の他方の面に、銅又は銅合金(好ましくは無酸素銅:OFC)の銅板が接合されることにより形成されている。また、金属層13の厚みt2(銅板の厚み)は、0.15mm以上5.0mm以下の範囲内に形成されている。
【0020】
そして、パワーモジュール用基板10において、
図2に示すように、回路層12の耐力をσ1(MPa)、回路層12の厚みをt1(mm)、回路層12とセラミックス基板11との接合面積をA1(mm
2)とし、金属層13の耐力をσ2(MPa)、金属層13の厚みをt2(mm)、金属層13とセラミックス基板11との接合面積をA2(mm
2)としたときに、回路層12の厚みt1よりも金属層13の厚みt2が大きく(厚く)形成されており、回路層12と金属層13との関係が、比率{(σ2×t2×A2)/(σ1×t1×A1)}が1.5以上15以下の範囲内となるように調整されている。
【0021】
なお、回路層12には回路パターンが形成されており、複数に分割されたパターン形状を有する場合には、各パターン形状の接合面積の総和が接合面積A1(mm
2)となり、回路層12の接合面積A1は、通常は金属層13の接合面積A2の90%程度の面積とされる。また、回路層12の耐力σ1と、金属層13の耐力σ2は、調質(質別)記号「O」の25℃における耐力とされる。
【0022】
ヒートシンク20は、パワーモジュール用基板10を冷却するためのものであり、
図1に示すように、金属層13の下面に接合されている。このヒートシンク20は、
図3に示すように、炭化珪素(SiC)からなる多孔質体21にアルミニウム(Al)又はアルミニウム合金が含浸され、多孔質体21の表面に、内部に含浸されたアルミニウム又はアルミニウム合金の被覆層22が形成されたアルミニウム含浸炭化珪素多孔質体により、平板状に形成されている。
【0023】
含浸されるアルミニウムとしては、純度が99質量%以上のアルミニウム(2N‐Al)や純度が99.99質量%のアルミニウム(4N‐Al)等の純アルミニウム、若しくはAl:80質量%以上99.99質量以下、Si:0.01質量%以上12.6質量%以下、Mg:0.03質量%以上5.0質量%以下、残部:不純物の組成を有するアルミニウム合金を用いることができる。また、ADC12やA356等のアルミニウム合金を用いることもできる。
【0024】
また、ヒートシンク20の厚みは、0.5mm以上5.0mm以下とすることができる。なお、ヒートシンク20の厚みは、多孔質体21の両面を被覆する被覆層22を含んだ厚みである。被覆層22の片面当たりの厚みは、ヒートシンク20の厚みの0.01倍以上0.1倍以下とすることが好ましい。
【0025】
このように、多孔質体21の表面に被覆層22が形成されたヒートシンク20は、例えば、多孔質体21を、その周囲に所定の隙間を有するように設けられた型内に配置しておき、その型内に加熱溶融したアルミニウム又はアルミニウム合金を圧入して、加圧された状態で冷却することにより製造される。このように、アルミニウム等を圧入することで、アルミニウム等との濡れ性が悪い炭化珪素の多孔質体21の内部にアルミニウム合金を含浸させることができ、さらに多孔質体21の周囲の隙間にアルミニウム等を充填して、多孔質体21の表面に所定の厚みの被覆層22を形成できる。なお、形成された被覆層22を切削加工することにより、被覆層22の厚みを調整してもよい。
【0026】
なお、本実施形態のヒートシンク付パワーモジュール用基板101の好ましい組み合わせ例として、パワーモジュール用基板10の各部材は、例えばセラミックス基板11が厚み0.635mmのAlN(窒化アルミニウム)、回路層12が厚み0.3mmのOFC(無酸素銅、耐力σ1:200MPa)、金属層13が厚み2.0mmのOFC(無酸素銅、耐力σ2:200MPa)により構成され、接合面積A1が1369mm
2、接合面積A2が1369mm
2の場合、比率{(σ2×t2×A2)/(σ1×t1×A1)}=8.21となる。また、ヒートシンク20は、アルミニウム等がAl‐Si系合金で構成され、全体の厚みが5.0mmで、被覆層22の厚みが100μm程度で構成される。
なお、各部材の線膨張率は、AlNからなるセラミックス基板11が4.5×10
−6/K、OFCからなる回路層12及び金属層13が17.7×10
−6/K、Al‐Si系合金を含浸したアルミニウム含浸炭化珪素多孔質体からなるヒートシンク20が8.5×10
−6/Kとされる。
【0027】
そして、このように構成されるヒートシンク付パワーモジュール用基板101の回路層12の上面に半導体素子等の電子部品30が搭載され、パワーモジュールが製造される。なお、電子部品30は、回路層12の上面にSn‐Cu、Sn‐Cu‐Ni等のはんだ材によりはんだ接合され、電子部品30と回路層12との間には、厚み50μm〜200μm程度のはんだ接合部が形成される。
【0028】
以下、本実施形態のヒートシンク付パワーモジュール用基板101の製造工程を説明する。
まず、回路層12となる銅板とセラミックス基板11、金属層13となる銅板とセラミックス基板11を接合する。回路層12となる銅板及び金属層13となる銅板と、セラミックス基板11との接合は、いわゆる活性金属ろう付け法によって実施した。
詳細には、セラミックス基板11の上面にAg‐Cu‐TiやAg‐Ti等の活性金属ろう材を介して回路層12となる銅板を積層するとともに、セラミックス基板11の下面にも同様の活性金属ろう材を介して金属層13となる銅板を積層する。そして、これらの銅板、活性金属ろう材、セラミックス基板11を積層した積層体を、
図4に示すように、その積層方向に0.1MPa以上3.5MPa以下の範囲内で加圧した状態で加熱し、回路層12となる銅板とセラミックス基板11、金属層13となる銅板とセラミックス基板11をそれぞれ接合して、パワーモジュール用基板10を製造する。この際の加熱条件は、例えば加熱温度が850℃、加熱時間が10分とされる。
【0029】
次に、パワーモジュール用基板10の金属層13の下面に、ヒートシンク20を接合する。パワーモジュール用基板10とヒートシンク20との接合には、
図5に示すように、凸曲面状の加圧面51aを有する加圧板51と、凹曲面状の加圧面52aを有する加圧板52とを有する加圧治具50を用いることが好ましい。二枚の加圧板51,52には、それぞれ対向する加圧面51a,52aを、曲率半径Rが3000mm〜7000mmとされる曲面を有する凹面又は凸面に形成するとよい。この場合、
図5に示すように、ヒートシンク20の下面を積層方向に加圧する加圧板52の加圧面52aが凹面で形成され、パワーモジュール用基板10の上面(回路層12の上面)を積層方向に加圧する加圧板51の加圧面51aが凸面で形成されている。なお、図示は省略するが、加圧治具50には、加圧板51,52を積層方向に付勢して加圧力を付与するばね等の付勢手段が備えられている。なお、加圧板51,52として、平板を用いることもできる。
【0030】
そして、このように構成される加圧治具50の加圧板51と加圧板52との間に、パワーモジュール用基板10及びヒートシンク20を重ねて配置し、これらを積層方向に挟んだ状態とする。この際、パワーモジュール用基板10とヒートシンク20との積層体は、加圧板51の加圧面51aと加圧板52の加圧面52aとにより、積層方向(厚み方向)に加圧され、ヒートシンク20の下面を下方に向けて凸状とする変形(反り)を生じさせた状態に保持される。そして、パワーモジュール用基板10とヒートシンク20との積層体を、この加圧治具50による加圧状態で加熱することにより、パワーモジュール用基板10の金属層13の下面とヒートシンク20の上面(被覆層22)とを固相拡散接合により接合する。
【0031】
この場合、固相拡散接合は、真空雰囲気中で、加圧荷重(加圧力)0.1MPa〜3.5MPa、加熱温度450℃以上548℃未満の加熱温度で、5分〜240分保持することにより行う。これにより、パワーモジュール用基板10の金属層13とヒートシンク20(被覆層22)とは、金属層13の銅原子と、ヒートシンク20(被覆層22)のアルミニウム原子とが相互拡散することにより、拡散層(図示略)を形成して接合される。
【0032】
次に、このパワーモジュール用基板10とヒートシンク20との接合体を、加圧治具50に取り付けた状態、つまり、加圧した状態で、30℃まで冷却する。この場合、パワーモジュール用基板10とヒートシンク20との接合体は、加圧治具50により厚み方向に加圧され、ヒートシンク20の下面を下方に向けた凸状の反りとする変形を生じさせた状態で拘束されている。このため、冷却に伴う接合体の形状は見かけ上は変化がないように見えるが、応力に抗して加圧され、冷却時に反りとしての変形ができない状態に拘束されている結果、塑性変形が生じる。そして、30℃まで冷却した後に、加圧治具50による加圧を解放してヒートシンク付パワーモジュール用基板101を製造する。
【0033】
このようにして製造されたヒートシンク付パワーモジュール用基板101では、剛性の高い銅又は銅合金からなる金属層13の厚みt2を大きく(厚く)したので、金属層13の表裏面(上下面)に沿う応力差に対して金属層13の抵抗力が支配的となる。このため、セラミックス基板11と、ヒートシンク20を形成するアルミニウム含浸炭化珪素多孔質体とは、わずかながら線膨張率に差があるが、セラミックス基板11とヒートシンク20との線膨張差に起因する反りを低減できる。したがって、ヒートシンク付パワーモジュール用基板101の全体に生じる反りを低減できる。
【0034】
ただし、金属層13の厚みt2を大きくしすぎると、例えば、半導体素子の接合等、ヒートシンク付パワーモジュール用基板101を加熱した際に、金属層13の熱伸縮により、セラミックス基板11に割れ(クラック)が生じるおそれがある。この場合、回路層12の厚みt1が金属層13の厚みt2より大きいと、回路層12の熱伸縮の影響が大きくなるため、反りが生じる。そこで、本実施形態のヒートシンク付パワーモジュール用基板101では、回路層12の厚みt1を0.1mm以上3.0mm以下の範囲内で形成し、金属層13の厚みt2を厚みt1より大きく形成するとともに0.15mm以上5.0mm以下の範囲内で形成して、さらに回路層12と金属層13との関係を比率{(σ2×t2×A2)/(σ1×t1×A1)}が1.5以上15以下の範囲内に調整することにより、ヒートシンク付パワーモジュール用基板101全体としてのバランスを図り、ヒートシンク付パワーモジュール用基板101の全体の反りを低減している。
【0035】
そして、このように構成されるヒートシンク付パワーモジュール用基板101では、ヒートシンク20の下面(裏面)において、
図6及び
図7(a)〜(c)に示すように、ヒートシンク20と金属層13との接合面の中心位置Cを測定範囲Eの中心として、その測定範囲Eの最大長さをLとし、ヒートシンク20の変形量をZとし、285℃に加熱したときの反り(Z/L
2)の値をXとし、285℃に加熱した後に30℃まで冷却したときの反り(Z/L
2)の値をYとしたときに、これらの反りXと反りYとの差分(Y−X)が−18.0×10
−6(mm
−1)以上18.0×10
−6(mm
−1)以下となり、高温時(285℃)と低温時(30℃)との反りの変化量を小さくできる。なお、ここで、ヒートシンク20の変形量Zは、回路層側に凸の変形を正、ヒートシンク20の下面側に凸の変形を負とした。
【0036】
なお、ヒートシンク付パワーモジュール用基板101においては、285℃に加熱したときの反り(Z/L
2)の値Xが−50×10
−6(mm
−1)以上50×10
−6(mm
−1)以下とされ、285℃に加熱した後に30℃まで冷却したときの反り(Z/L
2)の値Yが−50×10
−6(mm
−1)以上50×10
−6(mm
−1)以下とされる。
【0037】
反り(Z/L
2)の値X及び値Yが、50×10
−6(mm
−1)を超える場合では、ヒートシンク付パワーモジュール用基板101を水冷式冷却器などに締結した際に、ヒートシンク20と水冷式冷却器との間に使用するグリースの量が多く必要となり、熱抵抗が上昇するおそれがある。また、反り(Z/L
2)の値X及び値Yが、−50×10
−6(mm
−1)未満となった場合、ヒートシンク付パワーモジュール用基板101を水冷式冷却器などに締結した際に、セラミックス基板11に負荷がかかり、割れなどが生じるおそれがある。
【0038】
以上説明したように、ヒートシンク付パワーモジュール用基板101では、パワーモジュールの製造時に生じる反りを低減でき、熱処理過程における反り変形を抑制できるので、電子部品30のはんだ付け等の製造工程における作業性の向上や、パワーモジュールの冷熱サイクル負荷に対する信頼性を向上できる。
【0039】
なお、回路層の厚みt1が0.1mm未満では、セラミックス基板11と回路層12との接合に用いた接合材が加熱時に回路層12の表面にしみだすおそれがあり、厚みt1が3.0mmを超えると、例えば半導体素子の接合等のヒートシンク付パワーモジュール用基板101を加熱した際に、セラミックス基板11に割れが生じるおそれがある。
また、金属層13の厚みt2が0.15mm未満では、金属層13の厚みt2を大きくしたことによる、ヒートシンク付パワーモジュール用基板101に生じる反りの低減の効果を十分に発揮できない。そして、厚みt2が5.0mmを超えると、例えば半導体素子の接合等のヒートシンク付パワーモジュール用基板101を加熱した際に、セラミックス基板11に割れが生じるおそれがある。
【0040】
なお、本発明は、上記実施形態のものに限定されるものではなく、細部構成においては、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
【実施例】
【0041】
以下、本発明の効果を確認するために行った実施例について説明する。
表1に記載されるように、回路層の材質(耐力σ1)、回路層の厚みt1及び接合面積A1と、金属層の材質(耐力σ2)、金属層の厚みt2及び接合面積A2とを変更したパワーモジュール用基板を複数製造した。そして、各パワーモジュール用基板の金属層とヒートシンクとを固相拡散接合したヒートシンク付パワーモジュール用基板の試料を製造した。
【0042】
回路層となる銅板には、表1に示されるように、OFC(線膨張率:17.7×10
−6/K、耐力:200MPa)やZC(線膨張率:17.7×10
−6/K、耐力:270MPa)からなる平面サイズが37mm×37mmの矩形板を用い、金属層となる銅板には、OFC(線膨張率:17.7×10
−6/K、耐力:200MPa)やZC(線膨張率:17.7×10
−6/K、耐力:270MPa)からなる平面サイズが37mm×37mmの矩形板を用いた。また、セラミックス基板は、AlN(線膨張率:4.5×10
−6/K)からなる厚み0.635mm、平面サイズ40mm×40mmの矩形板を用いた。そして、各銅板とセラミックス基板との接合にはAg‐Ti系活性金属ろう材を用い、銅板、活性金属ろう材、セラミックス基板を積層し、積層方向に加圧荷重0.1MPa、加熱温度850℃、加熱時間10分で加圧しながら加熱して、回路層となる銅板とセラミックス基板、金属層となる銅板とセラミックス基板をそれぞれ接合して、パワーモジュール用基板を製造した。
なお、表1の接合面積A1と接合面積A2は、それぞれ回路層又は金属層となる銅板の平面サイズから算出した値であり、これらの値を用いて表2に示す比率{(σ2×t2×A2)/(σ1×t1×A1)}を算出した。
【0043】
ヒートシンクは、炭化珪素(SiC)にAl‐Si系合金を含浸したアルミニウム含浸炭化珪素多孔質体(線膨張率:8.5×10
−6/K)からなり、全体が厚み5.0mm、平面サイズ50mm×60mmの矩形板とされ、表裏面の被覆層が100μmに形成されたものを用いた。そして、パワーモジュール用基板とヒートシンクとの固相拡散接合は、表2に記載したように、曲率半径Rの加圧面を有する加圧板を用いて、真空雰囲気中で、加圧荷重2.1MPa、加熱温度510℃、加熱時間150分で加圧・加熱して行った。なお、曲率半径Rが「∞」の場合は、加圧面が平面であることを表す。
【0044】
そして、得られたヒートシンク付パワーモジュール用基板の各試料について、「変形量Z」、「セラミックス割れ」、「素子位置ずれ」を、それぞれ評価した。
変形量Zの測定は、(1)285℃加熱時、(2)285℃加熱後に30℃まで冷却したときの測定を行った。そして、各時点におけるヒートシンク下面(裏面)の平面度の変化を、JESD22B112やJEITA ED−7306に準拠するモアレ干渉法により測定した。
【0045】
モアレ干渉法は、一定のピッチ、幅で形成された回折格子を介して測定光を測定面に照射し、その測定面で散乱した散乱光を回折格子を介して撮像部で撮像することにより、モアレ干渉縞を得て、そのモアレ干渉縞と回折格子のピッチや幅等の情報に基づいて、測定面の変形量を測定する方法である。なお、測定装置は、AkroMetrix社製のThermoire PS200を用いた。
【0046】
本実施例では、
図6に示すように、ヒートシンク20と金属層13との接合面の中心位置Cを測定範囲Eの中心として、その測定範囲E(
図7(a)〜(c)参照)におけるヒートシンクの下面の変形量Zを測定した。また、変形量Zは、回路層側に凸の変形を正とし、ヒートシンク下面側に凸の変形を負とした。
測定範囲Eは、
図6及び
図7(a)に示すように、W:36mm×H:36mmの矩形状の範囲であり、この場合、測定範囲Eの対角線の長さが最大長さLとなる。また、変形量Zは、
図7(b)又は(c)に示すように、測定範囲Eの対角線上における測定値の最大値と最小値との差である。そして、変形量Zと最大長さLから、反り(Z/L
2)を算出した。
【0047】
セラミックス割れは、上記加熱試験後に超音波探傷器によってセラミックス基板を観察し、セラミックス基板にクラックが生じていれば不合格「×」、クラックが生じていなければ合格「○」を判定した。
また、素子位置ずれは、電子部品を回路層にはんだ付けした後に、そのはんだ付け位置を計測することにより、位置ずれ発生の有無を、試料を30個製作して確認した。そして、0.2mm以上の位置ずれが生じた場合を不合格とし、0.2mm未満の位置ずれの場合は合格と評価した。
そして、試料30個について行った各評価において、合格の比率が90%以上の場合を「○」、合格の比率が90%未満の場合を「×」と評価した。表3に結果を示す。
【0048】
【表1】
【0049】
【表2】
【0050】
【表3】
【0051】
表1〜3からわかるように、厚みt1が0.1mm以上3.0mm以下、厚みt2が0.15mm以上5.0mm以下、厚みt2が厚みt1よりも大きく形成され、比率{(σ2×t2×A2)/(σ1×t1×A1)}が1.5以上15以下の範囲内とされるNo.2〜14の試料については、差分(Y−X)が−18.0×10
−6(mm
−1)以上18.0×10
−6(mm
−1)以下となった。そして、これらNo.1〜14の試料においては、「セラミックス割れ」、「素子位置ずれ」のいずれの評価においても良好な結果が得られた。
【0052】
一方、比率{(σ2×t2×A2)/(σ1×t1×A1)}の条件が、上記範囲から外れるNo.15,16,19の試料については、差分(Y−X)が−18×10
−6(mm
−1)以上18.0×10
−6(mm
−1)以下の範囲から外れ、反りの変化量が大きく、「素子位置ずれ」が発生した。また、厚みt2が5.0mmを超えるNo.17の試料では、反りの変化量が大きく、285℃加熱後にセラミックス基板に割れが生じていた。厚みt1が3.0mmを超え、厚みt2が5.0mmを超えるNo.18では、反りの変化量は小さいものの、285℃加熱後にセラミックス基板に割れが生じていた。