(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に本発明の実施形態について詳細に説明する。
まず、本発明の製造方法によって製造する表面被覆銅フィラー中間体の原料となる銅粒子について説明する。以後、銅粒子と称した場合は、特に断らない限り原料銅粒子を指すものとする。
銅粒子としては、銅ペーストや銅インクに一般的に用いられる公知の銅粒子が挙げられる。その形状としては、球状、板状、樹枝状、棒状、繊維状いずれであってもよく、中空状、または多孔質状等の不定形であってもよい。さらに、シェルが銅でコアが銅以外の物質であるコアシェル形状であってもよい。
銅粒子の平均粒径は、特に限定されないが、導電性組成物用として用いる場合、導電性組成物がIJ印刷やスクリーン印刷などの各種印刷方法において印刷可能であるように銅粒子の粒径を制御する。具体的には5nm〜20μmが好ましい。粒子の自己凝集の抑制、表面積の増加による酸化抑制、または、100μm以下の微細配線を描画する場合は、10nm〜10μmの粒径が好ましい。連続印刷性に優れたスクリーン印刷用の導電性組成物用に用いるためには100nm〜10μmが好ましい。
また、銅粒子は、1種類でも良いが、異なる形状や平均粒径の銅粒子を混合して用いても良い。
銅粒子の平均粒径とは、透過型電子顕微鏡または走査型電子顕微鏡で観察して得られる顕微鏡像中、無作為に選ばれた100個の粒子のferet径を相加平均して得られる値を意味するものとする。
【0013】
本発明の表面被覆銅フィラー中間体の製造方法は、上記銅粒子に対して、下記の工程(A)および(B)に示す各処理を実施することを含む製造方法である。
銅粒子は、その製造に由来して高級脂肪酸等の有機系分散剤を不純物の1種として表面に付着させている場合がある。当該不純物は工程(A)の式(1)で表される化合物による処理工程によって除去可能であるが、工程(A)での銅粒子表面の所望の処理を効果的に実施するため、工程(A)に先立ち当該有機系分散剤の除去のための下記前処理を実施してもよい。工程(A)の式(1)の化合物の主な働きは酸化銅の除去であるので、上記有機系分散剤の付着が明確である場合は、当該前処理を実施することが好ましい。
【0014】
[前処理]
有機系分散剤を銅粒子表面から除去できれば特にその方法に限定はないが、例えば、有機溶剤を用いた洗浄方法がある。有機溶剤としては、種類は特に制限されないが、銅粒子表面への濡れ性がよく、洗浄処理後に除去しやすいものがよく、単独もしくは混合して用いることができる。具体的にはアルコール類、ケトン類、炭化水素類、エーテル類、ニトリル類、イソブチロニトリル類、水ならびに1−メチル−2−ピロリドン等が挙げられる。
【0015】
[工程(A)]
工程(A)は、式(1)で表される化合物を含む溶液中に銅粒子を添加し、該溶液中に銅粒子を浸漬させた混合液を調製して、銅粒子表面に存在する酸化銅(I)を、式(1)で表される化合物との反応により塩化銅(I)に変化させる工程である。当該反応により酸化銅(I)に代わって塩化銅(I)が表面に付着した塩化銅付着銅粒子が得られる。以後、式(1)で表される化合物を化合物(1)と称する。
【化3】
[式(1)中、aは1〜3の整数、bは0〜2の整数であり、a+b=3である。]
【0016】
銅粒子表面に存在する酸化銅の大部分は酸化銅(I)であり、この酸化銅(I)が化合物(1)と反応して塩化銅(I)が生成する機構は、次の式(3)に示す反応によるものと考えられる。
【化4】
銅粒子表面上の酸化銅(I)と化合物(1)が反応し、酸化銅(I)が塩化銅(I)に変化する。塩化銅(I)は、非水溶性のため極性溶剤への溶解性が低いので、銅粒子表面上に付着した状態の塩化銅(I)層が形成される。この塩化銅(I)層が酸素と銅粒子表面の反応を阻害するため、銅粒子表面の再酸化が抑制される。なお、塩化銅(I)は、工程(B)において、式(2)で表されるアミン化合物を含むアミン化合物溶液に溶解して銅粒子表面から除去される。従って、工程(B)においてアミン化合物の被覆を阻害することはない。
銅粒子表面上に付着する塩化銅(I)層の存在は、例えばXPS(X線光電分光法)により確認することができる。XPSによる分析には、例えばJPS-9200(日本電子株式会社製)を使用することができる。
【0017】
また、銅粒子表面上に微量に存在する酸化銅(II)は、化合物(1)と反応することで塩化銅(II)に変化する。なお、塩化銅(II)は、極性溶剤への溶解性が高く、化合物(1)を含む溶液に溶媒として使用される溶剤に溶解するため、銅粒子表面から除去される。
以後、特に断らない限り、単に酸化銅と称した場合は、酸化銅(I)および(II)の両者を、単に塩化銅と称した場合は、塩化銅(I)および(II)の両者を指すものとする。
【0018】
工程(A)の実施形態としては以下に示す操作を例示できる。
まず、化合物(1)を含む溶液を以下のようにして調製する。
当該溶液の溶媒用として使用する溶剤は、化合物(1)が溶解し、また、銅粒子と濡れ性がよいものであれば特に限定されないが、上記塩化銅に対する作用の点で極性溶剤である。
具体的には、水、アルコール類、スルホキシド類、ピロリドン類、イオン性液体、エチレンカーボネート類、プロピレンカーボネート類、ニトリル類から選ばれる1種以上を含む溶剤である。具体的には、アルコール類は、メタノール、エタノール、1−プロパノール、イソプロピルアルコール、1−ブタノール、2−ブタノール、1−ペンタノール、tert−アミルアルコール、エチレングリコール、ブトキシエタノール、メトキシエタノール、エトキシエタノール、プロピレングリコール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテルおよびジプロピレングリコールモノメチルエーテルなどが挙げられる。ケトン類は、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどが挙げられる。エーテル類は、ジエチルエーテル、ジブチルエーテルなどが挙げられる。ニトリル類は、アセトニトリル、プロピオニトリル、ブチロニトリルおよびイソブチロニトリルが挙げられる。スルホキシド類では、ジメチルスルホキシドなどが挙げられる。ピロリドン類としては、1−メチル−2−ピロリドンなどが挙げられる。
【0019】
工程(A)の処理によって、理想的には、銅粒子表面上の酸化銅を可能な限り完全に塩化銅に変化させることが望ましい。従って、銅粒子と化合物(1)との混合割合としては、銅粒子100質量部に対して、化合物(1)0.1〜100質量部が好ましい。添加量が0.1質量部よりも少ない場合は、塩化銅への変化が不十分となる可能性があり、また、100質量部よりも多い場合は、化合物(1)が後工程または表面被覆銅フィラー中間体中に不純物として残留する可能性がある。その場合、該中間体から表面被覆銅フィラーを製造したとき、その導電性が低下する可能性がある。
【0020】
また、溶剤の量は、銅粒子の表面処理が良好に行われる程度に銅粒子を分散させることができ、かつ、化合物(1)を溶解させることができる量であればよい。具体的には、銅粒子100質量部に対して、溶剤100〜1000質量部が好ましい。100質量部よりも少ない場合、銅粒子の分散が不十分となる可能性がある。1000質量部より多くても、銅粒子の分散効果にほとんど変化はなく、費用対効果の点で利点がない。
【0021】
化合物(1)を含む溶液は、上記説明した化合物(1)および溶剤の、銅粒子に対する使用量範囲を満足する様に調製して使用すればよい。
【0022】
このようにして調製した化合物(1)を含む溶液に銅粒子を添加して混合液とし、撹拌することによって、銅粒子を処理して銅粒子表面の酸化銅を塩化銅に変化させる。攪拌方法は特に限定されず、銅粒子と化合物(1)が十分接触するように攪拌すればよく、バドル攪拌機、ラインミキサー、マグネチックスターラー等、公知の攪拌機を用いて一般的な攪拌方法を用いればよい。
【0023】
化合物(1)による銅粒子の処理温度[化合物(1)を含む溶液の温度]は、溶液が固化しない温度以上であって、酸化銅から塩化銅へ変化する反応が十分に進行する温度であればよい。具体的には、−10〜120℃の範囲で行うことが好ましい。反応速度および副反応の抑制の点で、0〜60℃の範囲で行うことがより好ましい。
【0024】
処理時間は特に限定はないが、5分間〜10時間が好ましく、5分間〜3時間がより好ましい。5分間未満であると、酸化銅から塩化銅へ変化する反応が不十分になるおそれがあり、10時間経過すれば反応はほとんど終了しているので、それを超えて時間を費やす利点がない。
【0025】
工程(A)の主たる目的は、銅粒子表面の酸化銅を塩化銅に変化させることであるが、銅は酸化されやすいため、酸化銅が塩化銅に変化する反応中に、意に反して銅粒子表面の銅が酸化されるおそれがある。従って、工程(A)の処理は、不活性ガス雰囲気で行うことが好ましく、例えば、不活性ガスのバブリング等を行うことが好ましい。不活性ガスとしては、具体的には窒素、アルゴン、ヘリウムなどが挙げられる。また、当該バブリングは撹拌を兼用するものであってもよく、すなわち、不活性ガスのバブリングのみで銅粒子と化合物(1)が十分接触可能であれば、特に撹拌は実施しなくてもよい。
【0026】
ところで、上記式(3)の反応によりアンモニア又はアミンが副生する。この副生物は、工程(A)の混合液中の水分及び銅イオンと反応して水酸化銅を生成する場合がある。そして、工程(A)で得られた塩化銅付着銅粒子を、工程(B)で、例えば濾過により分別するとき、この水酸化銅が濾過性に悪影響を及ぼす場合がある。
そこで、当該不具合を防止するため、上記混合液に、さらに炭素数1〜4のカルボン酸を添加することが好ましい。当該カルボン酸が副生物であるアンモニア又はアミンと反応することにより、上記水酸化銅の生成を防止するからである。
炭素数5以上のカルボン酸では該溶液中への溶解度が小さいので、目的とする効果が小さくなる。
【0027】
具体的なカルボン酸としては、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、コハク酸などが上げられる。カルボン酸の添加量としては、工程(A)で使用する化合物(1)100質量部に対して0.1〜50質量部が好ましい。添加量が0.1質量部よりも少ない場合は、十分な濾過性改善効果が得られず、また、50質量部よりも多い場合は、未反応として残存するカルボン酸量が多くなり、濾過後の溶剤洗浄や、工程(B)での清浄後銅粒子表面の被覆処理に悪影響を及ぼす可能性がある。
【0028】
[工程(B)]
工程(B)は、工程(A)で得られた塩化銅付着銅粒子を、式(2)で表されるアミン化合物を含む溶液中に添加し、塩化銅(I)の除去およびアミン化合物による表面被覆を実施する工程である。
【化5】
[式(2)中、mは0〜3の整数、nは0〜2の整数であり、n=0のとき、mは0〜3のいずれか、n=1またはn=2のとき、mは1〜3のいずれかである。]
【0029】
まず、工程(A)の操作終了後、混合液から塩化銅付着銅粒子を分別する。分別方法は特に制限はないが、例えば濾過やデカンテーションによって塩化銅付着銅粒子を分別することができる。濾過方法としては、公知の方法を適用でき、自然濾過、減圧濾過、加圧濾過等を例示できる。
上記方法により分別した分離物中には、塩化銅付着銅粒子以外に、少量の処理後溶液が含まれているので、該分離物を溶剤洗浄して残存する処理後溶液を除去することが好ましい。洗浄溶剤としては、水、炭素数1〜4のアルコール、またはこれらの混合溶剤を使用することが好ましい。炭素数1〜4のアルコールとしては、メタノール、エタノール、1−プロパノール、1−ブタノール、およびイソプロパノール等が挙げられる。
【0030】
このようにして分別した塩化銅付着銅粒子を、アミン化合物を含むアミン化合物溶液に添加して混合物aとし、当該混合物aを撹拌することによって、工程(A)で銅粒子表面上に一時的に形成された塩化銅(I)層を除去する。塩化銅(I)層が除去された清浄後銅粒子表面に、アミン化合物が吸着して被覆層が形成される。
撹拌方法は特に限定されず、塩化銅付着銅粒子とアミン化合物が十分接触するように撹拌すればよく、パドル撹拌機、ラインミキサー等、公知の撹拌機を用いて一般的な撹拌方法を用いればよい。
【0031】
理想的には、清浄後銅粒子表面をアミン化合物が単分子膜状に均一に被覆した被覆層が形成されることが望ましく、できるだけ理想に近い良好な被覆層が形成されることが好ましい。従って、工程(B)における塩化銅付着銅粒子とアミン化合物との混合割合としては、この良好な被覆層を形成するために適する割合が好ましい。
具体的には、銅粒子の粒子径にもよるが、塩化銅付着銅粒子100質量部に対して0.1〜200質量部が好ましい。遊離のアミン化合物が、表面被覆銅フィラー中間体を経由して製造される表面被覆銅フィラー中に残存するのを抑制する点で、1〜100質量部がより好ましい。銅粒子の粒子径が小さいほど単位質量当たりの表面積が大きくなるので、小さい粒子径のものほどアミン化合物の混合量を多くすることが好ましい。
【0032】
ここで、式(2)で示されるアミン化合物を溶解する溶媒とは、塩化銅付着銅粒子と濡れ性がよく、アミン化合物および脂肪族モノカルボン酸と反応が生じないものであれば特に限定されない。好ましくは、アルコール類、ケトン類、エーテル類、ニトリル類、スルホキシド類、ピロリドン類、水から選ばれる1種類以上を含む溶剤である。具体的には、アルコール類は、メタノール、エタノール、1−プロパノール、イソプロピルアルコール、1−ブタノール、2−ブタノール、1−ペンタノール、tert−アミルアルコール、エチレングリコール、ブトキシエタノール、メトキシエタノール、エトキシエタノール、プロピレングリコール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテルおよびジプロピレングリコールモノメチルエーテルなどがあげられる。ケトン類は、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどがあげられる。エーテル類は、ジエチルエーテル、ジブチルエーテルなどがあげられる。ニトリル類は、アセトニトリル、プロピオニトリル、ブチロニトリルおよびイソブチロニトリルなどがあげられる。スルホキシド類では、ジメチルスルホキシドなどがあげられる。ピロリドン類としては、1−メチル−2−ピロリドンなどがあげられる。
【0033】
被覆層を形成させるに当たっての処理温度は、アミン化合物の被覆が進み、かつ溶液が固化しない温度以上であればよく、また、銅の酸化促進が少ない温度がよい。具体的には、−10〜120℃の範囲で行うことが好ましい。より被覆速度を高め、より酸化促進を抑えることができる点で、30〜100℃の範囲で行うことがより好ましい。
また、処理時間は特に限定はないが、5分間〜10時間が好ましい。また、製造コストの点で、5分間〜3時間がより好ましい。5分間未満であると、アミン化合物による被覆が不十分となるおそれがあり、10時間を超えると、アミン化合物が大気中から混入してくる二酸化炭素と塩を形成し、表面被覆銅フィラー中間体中に不純物として残留するおそれがある。
【0034】
また、アミン化合物と大気中の二酸化炭素との塩形成や、銅の酸化の抑制が可能である点で、工程(B)は不活性ガス雰囲気で行うことが好ましく、例えば、不活性ガスのバブリング等を行うことが好ましい。不活性ガスとしては、具体的には窒素、アルゴン、ヘリウムなどが挙げられる。また、当該バブリングは撹拌を兼用するものであってもよく、すなわち、不活性ガスのバブリングのみで銅粒子とアミン化合物が十分接触可能であれば、特に撹拌は実施しなくてもよい。
【0035】
工程(B)により、清浄後銅粒子表面の銅と化学的および/または物理的に結合して吸着しているアミン化合物の被覆層が形成される。化学的な結合による吸着とは、アミン化合物が清浄後銅粒子表面の銅と静電的な相互作用により結合を形成し、該表面に吸着していることを指す。ここでいう静電的な相互作用とは、水素結合、イオン間相互作用(イオン結合)などを指す。また、物理的な結合による吸着とは、ファンデルワールス力による物理吸着により当該表面に吸着していることを指す。特に、アミノ基は電子供与性が高く、アミノ基が銅への配位を形成することで結合を形成すると考えられるので、アミン化合物は主に、静電的な相互作用による化学結合によって当該表面に吸着し、被覆層を形成していると考えられる。しかし、物理的な結合による吸着が一部存在してもよい。
【0036】
以上の工程(A)および(B)の処理を銅粒子に施すことにより、式(2)で表されるアミン化合物の被覆層が形成された表面被覆銅フィラー中間体を製造することができる。
該表面被覆銅フィラー中間体は、大気中において酸化されやすく、そのままでは表面被覆銅フィラーとして実用的ではない。従って、アミン化合物の被覆層の上に、第2の被覆層を形成する必要がある。例えば、表面被覆銅フィラー中間体を、アミン化合物と反応によって結合する化合物で処理することによって第2の被覆層を形成する。
アミン化合物と反応によって結合する化合物としては、アミン化合物およびアミン化合物と反応によって結合する化合物によって形成される2層型被覆層が、大気中で安定であるような化合物を選択する。
【0037】
アミン化合物と反応によって結合する化合物の一例としては、脂肪族モノカルボン酸を挙げることができる。以下に、脂肪族モノカルボン酸による第2の被覆層を形成して表面被覆銅フィラーを製造する製造方法の一実施形態を示す。
例えば、工程(B)の終了後、下記工程(C)〜(F)を実施して、アミン化合物の第1被覆層と、脂肪族モノカルボン酸の第2被覆層とを有する2層型表面被覆銅フィラーとする。
以後、アミン化合物の被覆層を第1被覆層と称する。
【0038】
[工程(C)]
工程(C)は、第1被覆層の形成に使用されなかった遊離のアミン化合物を含むアミン化合物溶液を上記混合物aから除去し、表面被覆銅フィラー中間体を含有する中間体1を得る工程である。すなわち、過剰のアミン化合物溶液を除去する工程である。なお、過剰のアミン化合物溶液中には上記塩化銅も溶解されている。
このとき、過剰のアミン化合物を完全に除去する必要はなく、自然沈降もしくは遠心分離による分離によって、または濾過によって上記中間体1を得ることができる。つまり、中間体1中には少量の遊離アミン化合物および溶媒が含まれているが、そのまま次の工程(D)に移行してよい。操作が簡便である点で、表面被覆銅フィラー中間体(第1被覆層が形成された銅粒子)を自然沈降によって沈降させた後、上澄みのアミン化合物溶液をデカンテーション、またはアスピレーターによる吸引によって除去する方法が好ましい。
また、当該分離後の沈殿物または濾過物を、アミン化合物および炭素数8〜20の脂肪族モノカルボン酸の両者を溶解可能な溶媒で洗浄して中間体1としてもよい。当該洗浄により遊離アミン化合物の混入量を低減できるので好ましい。ただし、遊離のアミン化合物を完全に除去することを目的に水洗等を実施すると、第1被覆層を形成したアミン化合物も銅表面から脱離して除去されるおそれがあるので、水洗は好ましくない。
なお、中間体1を乾燥させて含有溶媒(アミン化合物溶液の溶媒)を低減させてもよいが、この段階で乾燥させると銅表面が酸化されるおそれがあるので、乾燥、特に加熱乾燥は実施しない方が好ましい。
【0039】
中間体1中に遊離アミン化合物量が多く残留すると、アミン化合物が大気中の二酸化炭素や脂肪族モノカルボン酸と塩を形成することにより生じる不純物が、導電性組成物の導電性に悪影響を与えるため好ましくない。
従って、中間体1中のアミン化合物量は、第1被覆層を形成するアミン化合物と遊離アミン化合物の合計量として、銅粒子量の10質量%以下にするのが好ましい。脂肪族モノカルボン酸の第2被覆層形成に影響を与えない点で、1.0質量%以下にするのがより好ましい。なお、中間体1中のアミン化合物量は、上澄み液等のアミン化合物量を測定し、工程(B)で使用したアミン化合物量との差から求めることができる。
【0040】
[工程(D)]
工程(D)は、第1被覆層上に炭素数8〜20の脂肪族モノカルボン酸の第2被覆層を形成する工程である。
具体的には、上記中間体1に炭素数8〜20の脂肪族モノカルボン酸を含む脂肪族モノカルボン酸溶液を加えて混合物bとし、当該混合物bを撹拌することによって、第1被覆層上に脂肪族モノカルボン酸の第2被覆層を形成させる。なお、炭素数8〜20の脂肪族モノカルボン酸を含む脂肪族モノカルボン酸溶液に、上記中間体1を添加して混合物bとしてもよい。撹拌方法は特に限定されず、第1被覆層が形成された銅粒子と脂肪族モノカルボン酸が十分接触するように撹拌すればよく、パドル撹拌機、ラインミキサー等、公知の撹拌機を用いて一般的な撹拌方法を用いればよい。
【0041】
理想的には、第1被覆層のアミン化合物と脂肪族モノカルボン酸との結合によって、第1被覆層を脂肪族モノカルボン酸が単分子膜状に均一に被覆した第2被覆層が形成されることが望ましく、できるだけ理想に近い良好な第2被覆層が形成されることが好ましい。従って、工程(D)における銅粒子と脂肪族モノカルボン酸との混合割合としては、この良好な第2被覆層を形成するために適する割合が好ましい。
具体的には、銅粒子の粒子径にもよるが、銅粒子100質量部に対して0.1〜50質量部が好ましい。遊離の脂肪族モノカルボン酸が2層型表面被覆銅フィラー中に残存するのを抑制する点で、0.5〜10質量部がより好ましい。銅粒子の粒子径が小さいほど単位質量当たりの表面積が大きくなるので、小さい粒子径のものほど脂肪族モノカルボン酸の混合量を多くすることが好ましい。
【0042】
炭素数8〜20の脂肪族モノカルボン酸溶液を調製する際の溶媒は、脂肪族モノカルボン酸が溶解し、第1被覆層が形成された銅粒子と濡れ性がよく、アミン化合物および脂肪族モノカルボン酸と反応しないものであれば特に限定されない。後述する工程(F)の乾燥工程において容易に乾燥除去できる溶媒であれば好ましい。
好ましい溶媒は、アルコール類、ケトン類、エーテル類、ニトリル類、スルホキシド類、ピロリドン類から選ばれる1種類以上を含む溶剤である。具体的には、アルコール類は、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、1−ペンタノール、tert−アミルアルコール、エチレングリコール、ブトキシエタノール、メトキシエタノール、エトキシエタノール、プロピレングリコール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテルおよびジプロピレングリコールモノメチルエーテルなどが挙げられる。ケトン類は、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどが挙げられる。エーテル類は、ジエチルエーテル、ジブチルエーテルなどが挙げられる。ニトリル類は、アセトニトリル、プロピオニトリル、ブチロニトリルおよびイソブチロニトリルなどが挙げられる。スルホキシド類では、ジメチルスルホキシドなどが挙げられる。ピロリドン類としては、1−メチル−2−ピロリドンなどが挙げられる。
【0043】
第2被覆層を形成させるに当たっての処理温度は、脂肪族モノカルボン酸の被覆が進み、かつ溶液が固化しない温度以上であればよく、具体的には、−10〜80℃の範囲で行うことが好ましい。より被覆速度を高め、第2被覆層を形成した脂肪族モノカルボン酸が脱離するのを抑制する点で、10〜60℃の範囲で行うことがより好ましい。
また、処理時間は特に限定はないが、5分間〜10時間が好ましい。また、製造コストの点で、5分間〜3時間がより好ましい。5分間未満であると、脂肪族モノカルボン酸による被覆が不十分となるおそれがあり、10時間を超えると、銅−アミン化合物−脂肪酸の錯体として脱離した成分が2層型表面被覆銅フィラー中に残留するおそれがあり、導電性組成物の導電性に悪影響を与える可能性があるため好ましくない。
【0044】
また、第1被覆層のアミン化合物や少量混入している遊離アミン化合物と、大気中の二酸化炭素との塩形成や、銅の酸化の抑制が可能である点で、工程(D)も不活性ガス雰囲気で行うことが好ましく、例えば、不活性ガスのバブリング等を行うことが好ましい。不活性ガスとしては、具体的には窒素、アルゴン、ヘリウムなどが挙げられる。また、当該バブリングは撹拌を兼用するものであってもよく、すなわち、不活性ガスのバブリングのみで、第1被覆層が形成された銅粒子と脂肪族モノカルボン酸が十分接触可能であれば、特に撹拌は実施しなくてもよい。
【0045】
工程(D)により、第1被覆層のアミン化合物と化学結合によって結合している炭素数8〜20の脂肪族モノカルボン酸の第2被覆層が形成される。化学結合とは、脂肪族モノカルボン酸のカルボキシル基とアミン化合物のアミノ基とが静電的な相互作用により結合していることを意味する。ここでいう静電的な相互作用とは、水素結合、イオン間相互作用(イオン結合)などを指す。
【0046】
[工程(E)]
工程(E)は、第2被覆層の形成に使用されなかった遊離の脂肪族モノカルボン酸を含む脂肪族モノカルボン酸溶液を上記混合物bから除去し、第1および第2被覆層形成銅粒子を含有する中間体2を得る工程である。具体的には、濾過によって中間体2を得ることができる。濾過方法としては、公知の方法を適用でき、自然濾過、減圧濾過、加圧濾過等を例示できる。
また、遊離の脂肪族モノカルボン酸および遊離のアミン化合物を可能な限り除去する点で、濾過物を、炭素数8〜20の脂肪族モノカルボン酸溶液用の溶媒で洗浄して中間体2とすることが好ましい[工程(Ea)]。洗浄によって、遊離の脂肪族モノカルボン酸量を低減することにより、導電性組成物としたときの該組成物の密着性が良好となる。
【0047】
[工程(F)]
工程(F)は、上記中間体2を乾燥させて、銅粒子形態の2層型表面被覆銅フィラーを得る工程である。
当該乾燥方法には特に限定はないが、例えば、減圧乾燥や凍結乾燥を例示できる。製造コストの点で減圧乾燥が好ましく、乾燥温度としては、20〜120℃が好ましい。20℃未満では乾燥時間が長くなるおそれがあり、120℃より高い温度では、銅が酸化されるおそれがある。減圧度、乾燥温度、および乾燥時間は、各々の条件の組み合わせおよび使用した溶媒の種類等によって適宜決定すればよく、乾燥後の2層型表面被覆銅フィラー中の溶媒量が1質量%以下になる程度まで乾燥させ得る条件であれば好ましい。
以上の製造方法により、銅粒子形態の2層型表面被覆銅フィラーを製造することができる。
【実施例】
【0048】
以下に、実施例および比較例を挙げて本発明の実施形態をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。本実施例では、表面被覆銅フィラー中間体の製造から連続して2層型表面被覆銅フィラーを製造する例を実施形態例として示す。なお、該2層型表面被覆銅フィラーを単に表面被覆銅フィラーと称する。
各実施例および比較例で用いた評価方法を下記に示す。
【0049】
<SUS腐食性>
各実施例及び比較例の製造方法におけるSUS腐食性は、工程(A)の化合物(1)を含む溶液、または当該溶液に対応する溶液にSUS304製(NAS304、日本治金工業株式会社製)の試料片を浸漬して評価した。試料片全体を溶液中に浸漬せず、その一部が液面から大気中に出るようにして浸漬した。
・試料片;50mm×30mm×1.5mm
・浸漬温度および時間;25 ℃、72時間
・腐食性評価;試料片を溶液中から取り出し、試料片表面の溶液を拭き取った後、目視観察により次の基準で評価した。
〇 試料片表面に変化無し
△ 試料片表面の液界面部に液痕
× 試料片表面が白濁
【0050】
<塩化銅付着銅粒子または処理後銅粒子の濾過性>
工程(A)後の塩化銅付着銅粒子、または工程(A)に対応する工程後の処理後銅粒子を濾別する際の濾過性を次の基準で評価した。
◎ -90kPaの減圧濾過条件下で濾過時間が90秒未満
○ -90kPaの減圧濾過条件下で濾過時間が90秒以上180秒以下
× -90kPaの減圧濾過条件下で濾過時間が180秒超
【0051】
<体積抵抗率>
各実施例及び比較例の方法で製造した表面被覆銅フィラーを用いて導電性組成物を調製し、該導電性組成物の硬化物の体積抵抗率を、JIS K 7194に準拠して測定し、評価した。
測定器機種:抵抗率計MCP−T610(三菱化学(株)製)、測定条件;4探針法
プローブ:ASP
試料(硬化物);導電性組成物を幅×長さ×厚み=1cm×3cm×30μmのパターンに塗布したものの硬化物。
測定回数;5回
【0052】
(実施例1−1)
次の製造方法により、表面被覆銅フィラー中間体を経由して表面被覆銅フィラーを製造した。
[工程(A)]
化合物(1)を含む溶液(処理液)として、水100gに対し塩化アンモニウム5gを溶解した塩化アンモニウム水溶液を調製した。
銅粒子[1400YP;粒径(D50) 6.9μm、比表面積 0.26m
2/g、三井金属鉱業株式会社製]50gを、該塩化アンモニウム水溶液に添加し、窒素バブリング下、30℃で60分間攪拌した。撹拌は、メカニカルスターラーを使用し、回転数150rpmで実施した。以下、撹拌は同様の撹拌装置を使用して同じ回転数で行った。
攪拌終了後、5C濾紙の桐山ロートを用いて減圧濾過にて塩化銅付着銅粒子を濾別し、つづいて、桐山ロート上で150gの水により2回塩化銅付着銅粒子の洗浄を行った。なお、水での洗浄前の塩化銅付着銅粒子を濾別するときの濾過性を評価した。
工程(A)での処理条件および濾過性の評価結果を表1に示す。
[工程(B)]
洗浄した塩化銅付着銅粒子を、40質量%のジエチレントリアミン水溶液250gに添加し、窒素バブリンクをしながら60℃下で1時間加熱攪拌を行った。
[工程(C)]
撹拌を止めて5分間静置した後、上澄み液約200gを抜き取って除去した。つづいて、沈殿物に洗浄用溶剤としてイソプロパノール200gを添加し、30℃で3分間攪拌を行った。撹拌を止めて5分間静置した後、上澄み液約200gを抜き取って除去し、中間体1を得た。
[工程(D)]
中間体1に2質量%のラウリン酸イソプロパノール溶液250gを添加した後、30℃で30分間攪拌した。
[工程(E)]
攪拌停止後、減圧ろ過によりラウリン酸イソプロパノール溶液を除去し、中間体2を得た。減圧濾過は、5C濾紙の桐山ロートをダイヤフラムポンプで減圧することで実施した。
[工程(F)]
中間体2を25℃で3時間減圧乾燥することにより表面被覆銅フィラーを得た。減圧乾燥は、中間体2を真空オーブン内に入れ、該オーブンをオイルポンプで減圧することで実施した。
【0053】
工程(A)で得られた洗浄後の塩化銅付着銅粒子の少量を採取して乾燥し、JPS−9200により下記測定条件でXPS分析を行った。その結果、200−210eV付近に原料の銅粒子表面には観察されない結合性の塩素に起因するピークが観察され、銅粒子表面に塩化銅が付着していることが確認された。XPS分析で観察されたスペクトルを
図1に示す。
[測定条件]
・フィラメント条件;10kV、10mA
・検出器パスエネルギー;30
・積算時間;300ms
・スキャン回数;10回
【0054】
上記表面被覆銅フィラーの製造と並行して、塩化アンモニウム水溶液のSUS腐食性を評価した。結果を表1に示す。
【0055】
得られた表面被覆銅フィラーの表面のIRスペクトルを測定した。その結果、ジエチレントリアミンのN−H変角振動のピークが、1590cm
-1(ジエチレントリアミン単独での測定)から1562cm
-1と低波数側にシフトしており、ジエチレントリアミンが銅粒子表面に配位して存在していることが確認された。また、ラウリン酸のC=O伸縮振動のピークが1700cm
-1に観察されず、カルボン酸アニオン(−COO
-)のピークが1400cm
-1に観測され、ラウリン酸がアミン化合物と静電的な相互作用により結合して存在していることが確認された。
IRスペクトルから、第1被覆層のジエチレントリアミンおよび第2被覆層のラウリン酸の両者とも化学結合により結合して各被覆層を形成していると判断できる。以下に示す各実施例および各比較例についても、同様にIRスペクトルから、第1被覆層のジエチレントリアミンおよび第2被覆層のラウリン酸の両者とも化学結合により結合して各被覆層を形成していると判断できる。
【0056】
(実施例1−2)
工程(A)において、化合物(1)を含む溶液を、水100gに対し塩化アンモニウム5gおよび酢酸5gを溶解した塩化アンモニウム−酢酸水溶液に変更し、塩化銅付着銅粒子の洗浄をイソプロパノールに変更した以外は実施例1−1と同様にして、表面被覆銅フィラーを得た。また、濾過性および塩化アンモニウム−酢酸水溶液のSUS腐食性を評価した。処理条件および各評価結果を表1に示す。なお、得られた表面被覆銅フィラーには、ジエチレントリアミンとラウリン酸のIRスペクトルのピークシフトが観察されており、ジエチレントリアミンとラウリン酸の被覆層を形成していると判断される。
【0057】
(実施例1−3)
工程(A)において、化合物(1)を含む溶液を、水100gに対し塩化メチルアンモニウム10gおよび酢酸5gを溶解した塩化メチルアンモニウム−酢酸水溶液に変更し、塩化銅付着銅粒子の洗浄をエタノールに変更した以外は実施例1−1と同様にして、表面被覆銅フィラーを得た。また、濾過性および塩化メチルアンモニウム−酢酸水溶液のSUS腐食性を評価した。処理条件および各評価結果を表1に示す。なお、得られた表面被覆銅フィラーは、ジエチレントリアミンとラウリン酸のIRスペクトルのピークシフトが観察されており、ジエチレントリアミンとラウリン酸の被覆層を形成していると判断される。
【0058】
(実施例1−4)
工程(A)において、化合物(1)を含む溶液を、水100gに対し塩化アンモニウム5gおよびギ酸10gを溶解した塩化アンモニウム−ギ酸水溶液に変更し、塩化銅付着銅粒子の洗浄をメタノールと水との質量比80:20の混合溶剤に変更した以外は実施例1−1と同様にして、表面被覆銅フィラーを得た。また、濾過性および塩化アンモニウム−ギ酸水溶液のSUS腐食性を評価した。処理条件および各評価結果を表1に示す。なお、得られた表面被覆銅フィラーは、ジエチレントリアミンとラウリン酸のIRスペクトルのピークシフトが観察されており、ジエチレントリアミンとラウリン酸の被覆層を形成していると判断される。
【0059】
(比較例1−1)
工程(A)を実施しないこと以外は、実施例1−1と同様にして、表面被覆銅フィラーを得た。処理条件を表1に示す。なお、得られた表面被覆銅フィラーには、ジエチレントリアミンとラウリン酸のIRスペクトルのピークシフトが観察されており、ジエチレントリアミンとラウリン酸の被覆層を形成していると判断される。
【0060】
(比較例1−2)
工程(A)に対応する工程として、化合物(1)を含む溶液を用いる代わりに3.5質量%硫酸水溶液100gを使用した以外は実施例1−1と同様にして銅粒子を処理した。このようにして得た硫酸処理による処理後銅粒子を用いた以外は、実施例1−1と同様にして工程(B)〜(F)を実施し、表面被覆銅フィラーを得た。また、工程(A)に対応する工程での濾過性、および硫酸水溶液のSUS腐食性を評価した。処理条件および各評価結果を表1に示す。なお、得られた表面被覆銅フィラーには、ジエチレントリアミンとラウリン酸のIRスペクトルのピークシフトが観察されており、ジエチレントリアミンとラウリン酸の被覆層を形成していると判断される。
【0061】
(比較例1−3)
工程(A)に対応する工程として、化合物(1)を含む溶液を用いる代わりに0.01質量%ヒドラジン水溶液100gを使用した以外は実施例1−1と同様にして銅粒子を処理した。このようにして得たヒドラジン処理による処理後銅粒子を用いた以外は、実施例1−1と同様にして工程(B)〜(F)を実施し、表面被覆銅フィラーを得た。また、工程(A)に対応する工程での濾過性、およびヒドラジン水溶液のSUS腐食性を評価した。処理条件および各評価結果を表1に示す。なお、得られた表面被覆銅フィラーは、ジエチレントリアミンとラウリン酸のIRスペクトルのピークシフトが観察されており、ジエチレントリアミンとラウリン酸の被覆層を形成していると判断される。
【0062】
【表1】
【0063】
(実施例2−1)
実施例1−1で製造した表面被覆銅フィラー 20g、バインダーとしてレゾール型フェノール樹脂[PL−5208、群栄化学工業(株)製] 5.4g、添加剤(酸化膜除去剤)として1,4−フェニレンジアミン 0.3gを混合した。次に、プラネタリーミキサー[ARV−310、(株)シンキー製]を用いて、室温下、回転数1500rpmで30秒間撹拌し、1次混練を行った。
次に、3本ロールミル[EXAKT−M80S、(株)永瀬スクリーン印刷研究所製]を用いて、室温、ロール間距離5μmの条件下で5回通すことで、2次混練を行った。
ついで、2次混練で得られた混練物に、溶剤としてエチルカルビトールアセテート 0.5gを加え、プラネタリーミキサーを用いて、室温、真空条件下、回転数1000rpmで90秒間撹拌し脱泡混練することにより導電性組成物を製造した。
得られた導電性組成物を、無アルカリガラス上に、メタルマスクを用いて、幅×長さ×厚み=1cm×3cm×30μmのパターンに塗布した。パターンを塗布したガラスを150℃で15分間加熱することにより硬化物を製造した。得られた硬化物の体積抵抗率を上記の方法によって測定した。導電性組成物の各成分の配合量(g)および体積抵抗率の測定結果を表2に示す。
【0064】
(実施例2−2〜2−4および比較例2−1〜2−3)
実施例1−2〜1−4および比較例1−1〜1−3で製造した各表面被覆銅フィラーを用いて、実施例2−1と同様に各導電性組成物および硬化物を製造した。また、得られた各硬化物の体積抵抗率を測定した。各導電性組成物の各成分の配合量(g)および体積抵抗率の測定結果を表2に示す。
【0065】
【表2】
【0066】
実施例2−1〜2−4は、体積抵抗率が全て30μΩ・cm以下であり、比較例2−1の工程(A)を行わない銅粒子を用いた組成物と比べると導電性が向上している。
工程(A)に対応する工程として、比較例2−2は硫酸処理、比較例2−3はヒドラジン処理を実施した。これらによる処理の場合、化合物(1)による処理と異なり、処理後銅粒子の表面に塩化銅(I)層が形成されないので、処理後に表面の再酸化が進行したと考えられ、その結果、アミン化合物および脂肪族モノカルボン酸による表面被覆効果は実施例よりは劣っていた。