特許第6776979号(P6776979)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6776979
(24)【登録日】2020年10月12日
(45)【発行日】2020年10月28日
(54)【発明の名称】アンテナ装置
(51)【国際特許分類】
   H01Q 19/22 20060101AFI20201019BHJP
   H01Q 9/30 20060101ALI20201019BHJP
【FI】
   H01Q19/22
   H01Q9/30
【請求項の数】5
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2017-65441(P2017-65441)
(22)【出願日】2017年3月29日
(65)【公開番号】特開2018-170590(P2018-170590A)
(43)【公開日】2018年11月1日
【審査請求日】2019年7月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004695
【氏名又は名称】株式会社SOKEN
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】100106149
【弁理士】
【氏名又は名称】矢作 和行
(74)【代理人】
【識別番号】100121991
【弁理士】
【氏名又は名称】野々部 泰平
(74)【代理人】
【識別番号】100145595
【弁理士】
【氏名又は名称】久保 貴則
(72)【発明者】
【氏名】角谷 祐次
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 隆
(72)【発明者】
【氏名】篠田 卓士
【審査官】 佐藤 当秀
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−258523(JP,A)
【文献】 特開平02−070104(JP,A)
【文献】 特開2010−200202(JP,A)
【文献】 特開2016−032122(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2010/0214189(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01Q 5/00− 11/20
H01Q 15/00− 19/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板(1)と、
前記基板に配置されている平板状の導体であって、接地電位を提供する地板(4)と、
線状であって、一方の端が給電部(3)を介して前記地板と接続されており、他方の端が開放端となっている第1線状素子(5)と、
前記地板と容量結合するように、前記地板と所定の間隔をおいて配置されている線状の導体である第2線状素子(6)と、を備え、
前記第2線状素子は、全長が送受信の対象とする電波の波長である対象波長の2分の1未満に設定されており、かつ、所定のインダクタンスを提供するインダクタ(7)と接続されており、
前記インダクタが提供するインダクタンスは、前記地板と前記第2線状素子との間に形成されるキャパシタンスと直列共振することによって、前記第1線状素子に流れる電流と位相が90°ずれた電流が、前記第2線状素子に励起する値に設定されており、
前記第1線状素子は、前記第2線状素子に励起する電流のベクトルと平行な方向に共振電流が流れるように配置されていることを特徴とするアンテナ装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記地板と前記第2線状素子との間隔は、前記対象波長の50分の1以下に設定されていることを特徴とするアンテナ装置。
【請求項3】
請求項1又は2において、
前記第1線状素子は、前記給電部との接続点を始点として所定の長さ直線状に形成されている給電接続部(51)を備え、
前記第2線状素子は、直線状に形成されており、且つ、前記給電接続部と平行となるように配置されており、
前記給電接続部と前記第2線状素子との距離は、前記対象波長の4分の1以下に設定されていることを特徴とするアンテナ装置。
【請求項4】
請求項3において、
前記地板は、各辺の長さが前記対象波長の4分の1よりも短い長方形状に形成されており、
前記給電部は、長方形状の前記地板が備える4つの角部のうちの1つの角部に配置されており、
前記第1線状素子は、L字型又は逆L字型に形成されており、
前記第1線状素子は、L字型又は逆L字型に形成されている前記第1線状素子のうち、前記給電接続部以外の部分である延設部が、前記地板の縁部のうち、前記給電部が配置されている前記角部である給電角部に連なる1つの辺に相当する第1縁部(41)と対向するように配置されており、
前記第2線状素子は、前記第1縁部と直角に連なる縁部である第2縁部(42)と対向配置されていることを特徴とするアンテナ装置。
【請求項5】
請求項1から4の何れか1項において、
前記第1線状素子の全長は、前記対象波長の4分の1以下に設定されており、
前記第2線状素子の全長は、前記対象波長の8分の1以下に設定されていることを特徴とするアンテナ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無給電素子を用いて所定の方向への指向性を実現するアンテナ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、指向性を備えるアンテナとして八木アンテナ(登録商標)が知られている。八木アンテナは、放射器として機能する給電素子と、反射器として機能する無給電素子とを用いて実現される。一般的に、八木アンテナにおける給電素子は、送受信の対象とする電波の半波長(つまりλ/2)相当の長さが必要であり、無給電素子は、λ/2以上の長さが必要となる。
【0003】
また、反射素子は、放射素子に対して約λ/4程度離して対向配置する必要がある。仮に放射素子と反射素子との間隔をλ/4以下にすると、90°位相差の共振電流が反射素子に誘起されず、指向性アンテナとしての特性が得られないためである。そのような課題に対し、特許文献1には、反射素子を屈曲形状とすることで、放射素子と反射素子との離隔をλ/8程度まで縮めた構成が開示されている。ただし、屈曲形状に形成された無給電素子の一端から他端までの直線距離は、λ/2となっている必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011−71832号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の構成では、屈曲形状に形成された無給電素子の一端から他端までの直線距離が、λ/2となっている必要がある。
【0006】
本発明は、この事情に基づいて成されたものであり、その目的とするところは、指向性を形成するための無給電素子を備えるアンテナ装置であって、無給電素子の長さを送受信の対象とする電波の半波長未満に短縮可能なアンテナ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
その目的を達成するための本発明は、基板(1)と、基板に配置されている平板状の導体であって、接地電位を提供する地板(4)と、線状であって、一方の端が給電部(3)を介して地板と接続されており、他方の端が開放端となっている第1線状素子(5)と、地板と容量結合するように、地板と所定の間隔をおいて配置されている線状の導体である第2線状素子(6)と、を備え、第2線状素子は、全長が送受信の対象とする電波の波長である対象波長の2分の1未満に設定されており、かつ、所定のインダクタンスを提供するインダクタ(7)と接続されており、インダクタが提供するインダクタンスは、地板と第2線状素子との間に形成されるキャパシタンスと直列共振することによって、第1線状素子に流れる電流と位相が90°ずれた電流が第2線状素子に流れる値に設定されており、第1線状素子は、第2線状素子に励起する電流のベクトルと平行な方向に共振電流が流れるように配置されていることを特徴とする。
【0008】
上記構成において、無給電素子に配置されているインダクタは、無給電素子と地板との間に形成されるキャパシタンスと動作周波数で共振するインダクタンスを提供する。故に、無給電素子の長さを、送受信の対象とする電波の波長(以降、λ)の2分の1よりも短く設定しても、動作周波数において無給電素子には電流が励起される。また、インダクタは、無給電素子には、第1線状素子に流れる電流に対して位相が90°ずれた電流が流れるように設定されている。このように上記の構成によれば無給電素子の長さをλ/2未満に設定しても、位相が90°ずれて共振電流が励起するため、反射器として機能させることができる。すなわち、無給電素子の長さを送受信の対象とする電波の半波長未満に短縮することができる。
【0009】
なお、特許請求の範囲に記載した括弧内の符号は、一つの態様として後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものであって、本発明の技術的範囲を限定するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】アンテナ装置100の上面図である。
図2】アンテナ装置100の模式図である。
図3】アンテナ装置100の動作をシミュレーションした結果を示す図である。
図4】アンテナ装置100の動作を説明するための図である。
図5】アンテナ装置100の動作をシミュレーションした結果を示す図である。
図6】アンテナ装置100の指向性を解析した結果を示す図である。
図7】アンテナ装置100の使用態様の一例を示す図である。
図8】アンテナ装置100の構成の変形例を示す図である。
図9】アンテナ装置100の構成の変形例を示す図である。
図10】10−10線での断面を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について図を用いて説明する。本実施形態に係るアンテナ装置100は、所定の周波数の電波(以降、対象電波)を送受信するように構成されている。なお、アンテナ装置100は、送信と受信の何れか一方のみに供されても良い。アンテナ装置100の動作周波数(換言すれば対象電波の周波数)は、適宜設計されればよく、ここでは一例として930MHzとする。もちろん、動作周波数は適宜設計されれば良く、他の態様として例えば300MHzや、760MHz、1.575GHz、2.4GHz、5.9GHz等としてもよい。以降では、対象電波の波長のことを対象波長とも称する。本実施形態では対象電波の周波数が930MHzであるため、対象波長は322mmである。
【0012】
<アンテナ装置100の構成>
以下、アンテナ装置100の具体的な構成について述べる。アンテナ装置100は、図1に示すように、基板1、無線回路モジュール2、給電部3、地板4、給電素子5、無給電素子6、及びインダクタ7を備える。なお、図1は、アンテナ装置100を上方向から見たときの外観を概略的に表した図(つまり上面図)である。
【0013】
基板1は、樹脂(例えばガラス布基材エポキシ樹脂)などの電気絶縁材料からなる平板状の部材である。基板1の片面には地板4、給電部3、給電素子5、無給電素子6、及びインダクタ7が配置されており、他方の面には無線回路モジュール2が配置されている。便宜上以降では、基板1において地板4等が配置されている方の面を表面と称し、その反対側の面を裏面と称する。基板1の裏面から表面に向かう方向がアンテナ装置100にとっての上方向に相当する。
【0014】
基板1の形状は、地板4等の部材を配置するために必要十分な大きさ及び形状となっていればよい。本実施形態では一例として、基板1は長方形状に形成されているが、その他、基板1の形状は円形(楕円を含む)やその他の多角形であってもよい。基板1の材料は、所望の比誘電率を有する材料とすれば良い。
【0015】
無線回路モジュール2は、受信信号に対する所定の処理(例えばノイズの除去や増幅、復調)を実施したり、信号の送信に係る所定の処理を実施したりする回路モジュールである。信号送信に係る処理とは、例えば、送信信号の生成/変調等である。無線回路モジュール2は、アナログ回路素子やデジタル回路素子、ICなどを用いて実現される。もちろん、無線回路モジュール2は、CPUやMPUなどを用いてコンピュータとして実現されていても良い。無線回路モジュール2は、図示しない電源(例えば電池)から供給される電力によって駆動する。
【0016】
無線回路モジュール2は、図示しない給電用の線路(以降、給電線)を介して給電素子5及び地板4のそれぞれと接続されている。給電線は同軸ケーブルを用いて実現されていてもよいし、マイクロストリップ線路であってよい。本実施形態では一例として給電線は同軸ケーブルを用いて実現されているものとする。すなわち、無線回路モジュール2は、給電素子5と同軸ケーブルの内部導体を介して接続されており、地板4とは同軸ケーブルの外部導体を介して接続されている。
【0017】
給電部3は、地板4及び給電素子5のそれぞれが給電線(具体的には同軸ケーブル)と接続する構成である。給電部3は、同軸ケーブルの内部導体と給電素子5とが接続する給電点や、同軸ケーブルの外部導体と地板4とが接続する接地点を備える。各部材同士の電気的な接続は、導電性のピンやビアを用いて実現されれば良い。給電部3は、図1に示すように地板4の角部に配置される。地板4において給電部3が配置されている角部が請求項に記載の給電角部に相当する。給電部3はインピーダンス整合回路やフィルタ回路などを備えていてもよい。
【0018】
地板4は、銅などの導体を素材とする板状の導体部材である。なお、ここでの板状には、例えば箔のような薄膜状も含まれる。地板4は、給電部3において同軸ケーブルの外部導体と電気的に接続されて、アンテナ装置100におけるグランド電位(換言すれば接地電位)を提供する。
【0019】
地板4を上側から見た形状(以降、平面形状)は適宜設計されればよい。ここでは一例として地板4の平面形状は、長辺と短辺とを有する長方形状(換言すれば正方形以外の長方形)に設定されているものとする。なお、他の態様として地板4の平面形状は、その他の多角形状(例えば正方形や六角形など)であってもよい。また、円形(楕円を含む)状であってもよい。もちろん、直線部分と曲線部分とを組み合わせた形状であってもよい。また、長方形の角部を丸めたり切り欠いたりした形状や、さらには、長方形の縁部の一部に凹部や、突出部、切り欠き部を設けた形状も、長方形状に含まれるものとする。
【0020】
以降では便宜上、それぞれが互いに直交するX、Y、Z軸を備える三次元座標系の概念を適宜導入して、アンテナ装置100の構成を説明する。X軸は地板4の短辺に平行な軸とし、Y軸は、X軸を含む地板4と平行な平面においてX軸と直交する軸とする。Y軸は地板4の長辺に平行な軸に相当する。Z軸は、X軸及びY軸のそれぞれと直交し、かつ、基板1の裏面から表面に向かう方向を正方向とする軸とする。
【0021】
地板4の短辺の長さL3xは、後述する無給電素子6の長さと同等か無給電素子6よりも長い範囲において適宜設計されればよい。ここでは一例として、対象波長の約10分の1の長さ(つまり32mm)に設定されているものとする。また、地板4の長辺の長さL3yは、対象波長の約8分の1の長さ(つまり40mm)から、後述する間隔Laを差し引いた値に設定されているものとする。ここでは一例として間隔Laは3.2mmに設定されているものとし、地板4の長辺の長さL3yは、約37mmに設定されているものとする。
【0022】
なお、本実施形態では一例として、対象電波が基板1等による波長短縮効果を受けないものとして、各部材の寸法について説明している。仮に基板1等によって対象電波の波長が短縮される場合には、その短縮された波長を基準として各部材の寸法を設計すればよい。例えば、基板1等によって対象電波の波長が短縮される場合には、地板4の短辺の長さL3xは、短縮された波長の10の1の長さとなっていれば良い。つまり、地板4の短辺の長さL3xは電気的に対象波長の10分の1の長さとなっていればよい。ここでの電気的な長さとは、フリンジング電界や、誘電体による波長短縮効果などを考慮した、実効的な長さに相当する。
【0023】
地板4が備える4つの角部のうちの1つには、同軸ケーブルの外部導体と直接的又は間接的に接続される接地点が設けられている。なお、間接的に接続されている構成とは、インピーダンス整合回路やフィルタ回路等を介して接続されている構成や、電磁気結合によって接続されている構成を含む。いずれにしても地板4は、接地電位を提供するように、同軸ケーブルの外部導体と電気的に接続されていれば良い。ここでは一例として、地板4が備える4つの角部のうち、図面において左下の角部に給電部3(より具体的には接地点)が配置されているものとする。図面において左下の角部とは、X軸正方向側の長辺と、Y軸負方向側の短辺とを接続する角部に相当する。
【0024】
給電素子5は、銅などの導体を素材とする線状の導体部材である。なお、ここでの線状には、所定の幅を有する形状(例えば帯状)も含まれる。給電素子5が請求項に記載の第1線状素子に相当する。給電素子5は、X軸に平行であるX軸平行部51と、Y軸に平行であるY軸平行部52とを備える。X軸平行部51とY軸平行部52とは端部で直角に接続されており、全体としてL字型/逆L字型をなしている。
【0025】
つまり、給電素子5は、L字型/逆L字型に形成された線状の導体素子である。給電素子5は例えば直線形状のモノポール導体素子を、その途中(直角部とする)において直角(略直角を含む)で曲げた構成に相当する。X軸平行部51が請求項に記載の給電接続部に相当し、Y軸平行部52が請求項に記載の延設部に相当する。
【0026】
給電素子5は、X軸平行部51の端部が給電部3を介して地板4と接続し、かつ、Y軸平行部52が地板4の縁部であって、長方形の1つの辺に相当する部分(以降、辺縁部)と対向するように基板1に配置されている。つまりY軸平行部52は、地板4の縁部と対向配置されている構成に相当する。なお、X軸平行部51は、給電部3との接続点を始点として所定の長さだけX軸に平行に延設された直線状の導体部材とみなすこともできる。また、Y軸平行部52は、X軸平行部51において給電部3と接続していない方の端部から直角に延設された直線状の導体部材とみなすこともできる。
【0027】
Y軸平行部52においてX軸平行部51と接続していない方の端部は開放端となっている。便宜上、地板4が備える4つの辺のうち、Y軸平行部52と対向する辺縁部を給電素子対向部41と称する。給電素子対向部41が請求項に記載の第1縁部に相当する。
【0028】
なお、ここでの平行が指し示す範囲とは、厳密な平行に限定されない。30度程度の傾きが生じていても良い。対向も同様である。直角が指し示す範囲もまた、厳密な直角(つまり90°)に限定されない。30度程度の傾きが生じていても良い。
【0029】
給電素子5の長さは、対象波長の2分の1以下となる範囲において適宜設計されればよい。また、小型化の観点からは、対象波長の4分の1以下に設定されていることが好ましい。本実施形態では一例として、給電素子5の全長は、対象波長の約6分の1に設定されているものとする。
【0030】
給電素子5におけるX軸平行部51の長さL1xとY軸平行部52の長さL1yの比率は適宜設計されれば良い。本実施形態では一例としてX軸平行部51の長さL1xは7mmに設定されており、Y軸平行部52の長さL1yは45mmに設定されているものとする。X軸平行部51が十分に短ければ、Y軸平行部52を流れる電流によって、給電素子対向部41にY軸平行部52に流れる電流とは逆向きの電流が誘起され、それらが打ち消し合うように作用する。その結果、給電素子5が共振している場合に流れる電流(以降、共振電流)の方向を、X軸方向に平行な方向に設定することができる。
【0031】
また、X軸平行部51が長いとその分だけ、Y軸平行部52と給電素子対向部41の離隔が大きくなり、アンテナ装置100のサイズが大きくなる。ただし、X軸平行部51が短すぎると、Y軸平行部52と給電素子対向部41とが容量結合してしまい、X軸平行部51に電流を集中しにくくなってしまう。そのような事情を鑑みると、X軸平行部51の長さは対象波長の100分の1以上、10分の1以下に設定されることが好ましい。
【0032】
無給電素子6は、銅などの導体を素材とする線状の導体部材である。無給電素子6が請求項に記載の第2線状素子に相当する。無給電素子6は、地板4の短辺と所定の間隔Laをおいて対向するように配置されている。より具体的には本実施形態の無給電素子6は、地板4が備える2つの短辺のうち、Y軸正方向(換言すれば図面右側)に位置する短辺(以降、無給電素子対向部)42と対向するように配置されている。無給電素子対向部42が請求項に記載の第2縁部に相当する。
【0033】
無給電素子6と無給電素子対向部42との間隔Laは、地板4と無給電素子6とが容量結合する長さに設定されているものとする。なお、発明者らは、種々の試験の結果、間隔Laが対象波長の50分の1以下であれば、地板4と無給電素子6とが動作周波数において容量結合するという知見を得た。すなわち、間隔Laは対象波長の50分の1以下となる範囲において適宜設計されれば良い。本実施形態では間隔Laは3.2mmに設定されているものとする。これにより、X軸平行部51から無給電素子6までの距離Lbは対象波長の4分の1(つまり40mm)相当となる。
【0034】
無給電素子6の長さL6は、対象波長の約10分の1の長さ(つまり32mm)に設定されているものとする。なお、無給電素子6の途中には、所定のインダクタンスを提供するインダクタ7が介設されている。本実施形態では一例としてインダクタ7は、無給電素子6の中央部に配置されているものとする。
【0035】
インダクタ7が提供するインダクタンスは、地板4と無給電素子6との間に形成されるキャパシタンスと直列共振することによって、給電素子5とは位相が90°ずれた電流が無給電素子6に流れる値に設定されている。インダクタ7が提供するインダクタンスは、例えば67nHに設定されていれば良い。このようにインダクタ7のインダクタンス値や、無給電素子6と地板4との間隔Laは、給電素子5に流れる電流と、無給電素子6に流れる電流の位相差を調整するパラメータとして機能する。
【0036】
なお、給電素子5に流れる電流と無給電素子6に流れる電流の位相が90°ずれている状態とは、位相差が厳密に90°となっている状態に限らない。給電素子5に流れる電流と無給電素子6に流れる位相が90°ずれている状態とは、無給電素子6が給電素子5にとっての反射器として動作する範囲において90°からずれていてもよい。ある程度の利得の劣化を許容するならば、位相差が60°〜120°となっている状態も、位相差が90°となっている状態に含まれる。
【0037】
また、本実施形態では一例としてインダクタ7を無給電素子6の中央部に挿入した態様を開示しているが、これに限らない。インダクタ7は、無給電素子6の中央部からずれた位置に配置されていても良い。例えばインダクタ7は、無給電素子6の一端に配置されていても良い。
【0038】
図2はアンテナ装置100の模式図である。図2に示すLは、インダクタ7が提供するインダクタンスを表しており、Cは無給電素子6と地板4との間隔Laが提供するキャパシタンスを表している。また、図中のλは対象波長を表している。
【0039】
無給電素子6が、所定のインダクタンスを提供するインダクタ7と接続され、且つ、地板4から所定の間隔Laをおいて対向配置されることによって、無給電素子6の全長が対象波長の8分の1以下であっても、動作周波数において給電素子5とは90°位相がずれた電流が流れるようになる。その結果、アンテナ装置100は、給電素子5が対象電波を放射するモードである第1モードと、無給電素子6が対象電波を放射するモードである第2モードとを備える。以下、給電素子5に電流が最も誘起された状態を初期状態(位相=0°)として、位相が0°、90°、180°、270°のときのアンテナ装置100の作動について説明する。
【0040】
図3は、アンテナ装置100の動作をシミュレーションした際の、位相が0°のときの電流分布を示す図である。なお、シミュレーションモデルとしては、地板4の一部に切り欠き部を設けた構成を採用している。切り欠き部がない構成においても同様の電流分布となる。
【0041】
位相が0°のときには、アンテナ装置100は第1モードとして動作する。具体的には、給電素子5には図4に示すように給電部3から開放端に向かって電流が流れる。また、給電素子対向部41には、Y軸平行部52に流れる電流とは逆向きのイメージ電流が発生する。その結果、Y軸平行部52に流れる電流に由来する電界成分と、給電素子対向部41に流れるイメージ電流に由来する電界成分とは互いに打ち消し合い、X軸平行部51が主たる放射素子として機能する。共振時においてX軸平行部51に流れる電流が電波の放射に実効的に寄与するため、共振時においてX軸平行部51に流れる電流が請求項に記載の共振電流に相当する。
【0042】
また、位相が90°のときには、無給電素子6が共振し、X軸正方向に電流が流れる。つまり、アンテナ装置100は第2モードとして動作する。図5は、位相が90°のときの電流分布をシミュレーションした結果を示した図である。なお、無給電素子6に分布する電流の合成ベクトルが、請求項に記載の、第2線状素子に励起する電流のベクトルと平行な方向に相当する。ただし、本実施形態において無給電素子6は直線状であるため、無給電素子6に平行な方向が、請求項に記載の、第2線状素子に励起する電流のベクトルと平行な方向に相当する。
【0043】
位相が180°のときには、給電素子5及び給電素子対向部41に、位相が0°ときとは逆向きの電流が流れる。つまり、位相が180°のとき、アンテナ装置100は第1モードとして動作する。位相が270°のときには、無給電素子6が共振し、X軸負方向に電流が流れ、電波を放射する。つまり、アンテナ装置100は第2モードとして動作する。
【0044】
このように位相が0°、180°のときには、X軸平行部51に共振電流が誘起する一方、位相が90°、270°のときには無給電素子6で共振電流が励起する。そして、X軸平行部51と無給電素子6は互いに対向する姿勢となっているため、無給電素子6がX軸平行部51にとっての反射器として機能する。その結果、図6に示すように無給電素子6からX軸平行部51に向かう方向(つまりY軸負方向)へ指向性を備えることとなる。なお、図6は実施形態の構成における指向性を解析した結果を示した図である。実施形態の構成によれば、前方と後方に放射されるレベルの比(いわゆるFB比)として、約8dBの利得が得られる。
【0045】
<実施形態の効果>
一般的に、八木アンテナ(登録商標)において、放射素子としての給電素子は、送受信の対象とする電波の半波長(つまりλ/2)相当の長さが必要であり、反射器としての無給電素子は、λ/2以上の長さが必要となる。これに対して、本実施形態の構成によれば、無給電素子6と地板4との間に形成されるキャパシタンスと動作周波数で共振するインダクタンスを提供するインダクタ7を無給電素子6に接続(具体的には中央部に介設)することによって、無給電素子6の長さをλ/8以下に設定しても、無給電素子6に給電素子5とは位相が90°ずれた電流を励起させる事ができる。
【0046】
また、給電素子5において共振電流が流れる部分は、無給電素子6と平行なX軸平行部51である。換言すれば、無給電素子6は、給電素子5において共振電流が流れる部分と平行な姿勢で配置されている。故に、無給電素子6は給電素子5にとっての反射器として機能する。つまり、上記の構成によれば、無給電素子6の長さを送受信の対象とする電波の半波長以下に短縮することができる。
【0047】
また、一般的な八木アンテナにおいて給電素子と無給電素子とは、約λ/4離して対向配置する必要がある。仮に放射素子と反射素子との間隔をλ/4以下にすると、90°位相差の共振電流が反射素子に誘起されず、指向性アンテナとしての特性が得られないためである。対して、本実施形態では、上述したようにインダクタ7等を用いることによって、給電素子5と無給電素子6とが対向する部分の距離Lbをλ/8程度まで短縮することができる。
【0048】
<アンテナ装置100の使用例>
上述したアンテナ装置100は、例えば図7に示すように、指向性を車両前方に向けた姿勢で自転車200のハンドル210やフロントフォーク等に取り付けて使用することができる。そのような取り付け姿勢によれば、アンテナ装置100が送受信する電波は、自転車200の乗員の体を通りにくくなるため、自転車200の乗員の体の影響によって通信性能が不安定となる恐れを低減できる。なお、アンテナ装置100は、例えば他車両300と無線通信を実施する機能を提供する装置として利用することができる。
【0049】
もちろん、アンテナ装置100は、自転車に限らず、原動機付き自転車や、自動車に搭載することができる。また、ベビーカーや車椅子等に取り付けて使用されても良い。さらに、靴やベルトなどの歩行者に身につけられる用品に取り付けられて使用されても良い。
【0050】
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、以降で述べる種々の変形例も本発明の技術的範囲に含まれ、さらに、下記以外にも要旨を逸脱しない範囲内で種々変更して実施することができる。
【0051】
なお、前述の実施形態で述べた部材と同一の機能を有する部材については、同一の符号を付し、その説明を省略する。また、構成の一部のみに言及している場合、他の部分については先に説明した実施形態の構成を適用することができる。
【0052】
[変形例1]
上述した実施形態では無線回路モジュール2を基板1の裏面に配置する態様を開示したがこれに限らない。無線回路モジュール2は地板4などと同様に、基板1の表面に実装されていても良い。また、地板4の上側に配置されていても良い。さらに、上述した実施形態では無線回路モジュール2をアンテナ装置100に内蔵されている構成を開示したが、これに限らない。無線回路モジュール2はアンテナ装置100の外部に設けられていても良い。
【0053】
また、アンテナ装置100は、サイクルコンピュータに内蔵されていてもよい。サイクルコンピュータは、自転車200に取り付けられて、自転車200の走行速度、走行距離、ケイデンスなどを計るコンピュータである。アンテナ装置100が、サイクルコンピュータに内蔵される場合、アンテナ装置100は走行速度等の計測データをユーザが携帯する携帯端末に送信するための装置として利用することもできる。なお、ユーザが携帯する携帯端末とは、例えば、スマートフォンやウェアラブルデバイスなどを指す。
【0054】
[変形例2]
上述した実施形態では、給電素子5をL字型/逆L字型に形成した態様を開示したが、給電素子5の形状はL字型/逆L字型に限らない。例えば図8に示すように給電素子5は直線上であっても良い。
【0055】
また、上述した実施形態では、無給電素子6を地板4の右側に配置した態様を開示したが、無給電素子6の位置は地板4の右側に限らない。地板4の左側に配置してもよい。また、図9図10に示すように、地板4の右側の縁部に対して所定の間隔Laだけ上側となる位置に配置してもよい。地板4と無給電素子6との離隔は、樹脂等で実現される支持部材8で確保されれば良い。なお、無給電素子6は、地板4の左側の縁部に対して所定の間隔Laだけ上側となる位置に配置されてもよい。
【符号の説明】
【0056】
100 アンテナ装置、1 基板、2 無線回路モジュール、3 給電部、4 地板、5 給電素子、6 無給電素子、7 インダクタ、200 自転車、300 他車両
図1
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図10