特許第6776992号(P6776992)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6776992キャラクターラインを有するパネルの製造装置および製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6776992
(24)【登録日】2020年10月12日
(45)【発行日】2020年10月28日
(54)【発明の名称】キャラクターラインを有するパネルの製造装置および製造方法
(51)【国際特許分類】
   B21D 37/08 20060101AFI20201019BHJP
   B21D 37/02 20060101ALI20201019BHJP
   B21D 24/00 20060101ALI20201019BHJP
   B21D 22/26 20060101ALI20201019BHJP
   B21D 47/00 20060101ALI20201019BHJP
【FI】
   B21D37/08
   B21D37/02 Z
   B21D24/00 H
   B21D24/00 F
   B21D22/26 D
   B21D47/00 G
【請求項の数】4
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2017-79534(P2017-79534)
(22)【出願日】2017年4月13日
(65)【公開番号】特開2018-176222(P2018-176222A)
(43)【公開日】2018年11月15日
【審査請求日】2019年12月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101557
【弁理士】
【氏名又は名称】萩原 康司
(74)【代理人】
【識別番号】100096389
【弁理士】
【氏名又は名称】金本 哲男
(72)【発明者】
【氏名】磯貝 栄志
(72)【発明者】
【氏名】中田 匡浩
(72)【発明者】
【氏名】三日月 豊
【審査官】 石田 宏之
(56)【参考文献】
【文献】 特許第6146483(JP,B2)
【文献】 特許第6063646(JP,B2)
【文献】 特許第5000256(JP,B2)
【文献】 特開2008−100239(JP,A)
【文献】 特開昭55−61328(JP,A)
【文献】 特開2015−96271(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2013/25343(US,A1)
【文献】 実開昭60−74808(JP,U)
【文献】 実開昭56−112026(JP,U)
【文献】 特許第4994985(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21D 37/08
B21D 22/26
B21D 24/00
B21D 37/02
B21D 47/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
パンチと、前記パンチに対向する上下方向に移動するように構成された複数のダイとを備え、前記パンチと前記複数のダイとの間に配置されるブランクのプレス加工を行い、少なくとも二つの面により挟まれた稜線から成るキャラクターラインを有するパネルを製造する製造装置であって、
前記ブランクの線ずれ発生側の面に対向するダイを、プレス方向に移動させながらプレス方向に垂直な方向のうちパンチ先端部側の方向に前進させるダイスライド機構が設けられていることを特徴とする、キャラクターラインを有するパネルの製造装置。
【請求項2】
前記ブランクの線ずれ発生側でない面に対向するダイを、プレス方向に移動させながらプレス方向に垂直な方向のうち前記パンチ先端部側の方向に前進させる他のダイスライド機構が設けられていることを特徴とする、請求項1に記載のキャラクターラインを有するパネルの製造装置。
【請求項3】
前記パンチおよび前記ダイは、プレス金型の閉型時における該パンチと該ダイとのクリアランスが、該パンチの先端部で前記ブランクの加工前板厚より大きく、かつ、該パンチの先端部から離れるに従い徐々に小さくなって前記ブランクの加工前板厚より小さくなるような形状を有していることを特徴とする、請求項1または2に記載のキャラクターラインを有するパネルの製造装置。
【請求項4】
パンチと、前記パンチに対向する上下方向に移動するように構成された複数のダイとを用い、前記パンチと前記複数のダイとの間に配置されるブランクのプレス加工を行うことにより、少なくとも二つの面により挟まれた稜線から成るキャラクターラインを有するパネルを製造する製造方法であって、
前記複数のダイをプレス方向に移動させ、該ダイが前記ブランクに接触した後に、前記ブランクの線ずれ発生側の面に対向するダイを、プレス方向に移動させながら、プレス方向に垂直な方向のうちパンチ先端部側の方向に前進させて、プレス加工を行うことを特徴とする、キャラクターラインを有するパネルの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、キャラクターラインを有するパネルの製造装置および製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車のエクステリアデザインの高い意匠性を実現するための一つの手段として、例えばドアーアウターパネル、フェンダーパネル、サイドパネル、フードアウターパネル、リアゲートアウター等の車体の外板パネル(以下、“パネル”)にキャラクターラインを設けることが知られている。特に車体の側面に配置されるパネルにキャラクターラインを設けることが多用されるようになっている。
【0003】
しかし、パネルにキャラクターラインを設けると、外板面品質不良である線ずれが発生することが知られている。特に、キャラクターラインがシャープであると線ずれが発生しやすい。なお、キャラクターラインがシャープであるとは、キャラクターラインの稜線の曲率半径が例えば10mm以下と小さいこと、あるいは、稜線を形成する二つの面がなす挟み角度が例えば150°以下と小さいことを意味する。
【0004】
図1(a)および図1(b)は、従来のパネル製造装置51を用いた場合の線ずれの発生状況を模式的に説明する断面図であり、図1(a)は成形初期を示し、図1(b)は成形完了時を示している。キャラクターラインLは、パンチ2、ダイ54、ブランクホルダー3、さらに必要に応じてダイパッド(図示しない)を用いてブランクSに絞り成形または張り出し成形等のプレス加工を行うことで形成されるが、線ずれはキャラクターラインLの成形段階で発生する。具体的に説明すると、まず、図1(a)に示す成形初期において、パンチ2のキャラクターライン成形用凸部の型当たりによりブランクSに、局部的かつ微小な曲げ部である曲げ癖(図1中の黒丸印)が不可避的に発生する。ここで生じた曲げ癖は、その後の成形時においてキャラクターラインLを挟む二つの面にかかる張力の差により、図1(b)の矢印で示すようにキャラクターラインLから傾斜面に沿って外側に移動し、成形完了時にも消失せずに残存する。このように、キャラクターラインLを有するパネルに曲げ癖が残存する現象が線ずれである。
【0005】
線ずれが発生すると、パネルのハイライト面検査において線ずれの発生部でハイライト折れ(外板面品質不良)が発生する原因になると考えられる。一方、特許文献1には、パンチと、第1ダイおよび第2ダイを有する分割ダイと、ブランクホルダーとを用いてキャラクターラインの線ずれを抑制するリヤーサイドアウターパネルのプレス加工方法が開示されている。特許文献1の加工方法は、まず第2ダイおよびパンチによりキャラクターラインを含む部分をプレス加工し、次いで、成形したキャラクターラインを第2ダイおよびパンチにより拘束したまま、第1ダイおよびパンチによりブランクの残りの部分をプレス加工することで、線ずれを抑制しながらキャラクターラインを形成している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−100240号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1により開示された発明では、ブランクのキャラクターラインを含む部分をプレス加工した後に、成形箇所を拘束したまま、ブランクの残りの部分をプレス加工するが、そのような状態でプレス加工すると、ブランクの拘束されていない部分にしわが発生する可能性があり、線ずれとは異なる外板面品質不良が生じるおそれがある。特に、三次元的に湾曲する形状のパネルを成形する場合には、しわが発生しやすい。
【0008】
本発明は、従来の技術が有するこの課題に鑑みてなされたものであり、しわ発生を伴うことなく、キャラクターラインを有するパネルの線ずれを抑制、または実質的に解消することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述したように、キャラクターラインを有するパネルの線ずれは、成形初期に型(パンチ)当たりによりブランクに生じた曲げ癖が、その後の成形時にキャラクターラインから傾斜面に沿って外側へ移動することにより発生すると考えられる。このため、線ずれを抑制するには、(i)曲げ癖の発生を抑制すること、(ii)発生した曲げ癖をキャラクターラインの外側へ移動させずに留めること、が有効である。本発明者らは、上記(i)、(ii)について鋭意検討を重ねた結果、以下に列記の知見A〜Cを得て、本発明を完成した。
【0010】
(A)パンチには、成形開始から成形完了までの間に、ブランクに高い面圧を与える高面圧発生部(キャラクターライン成形用凸部)と、高面圧発生部がブランクに与える面圧よりも低い面圧をブランクに与える低面圧発生部とが存在する。その高面圧発生部における面圧を緩和するために、ダイを横方向に移動させるダイスライド機構を設置し、成形開始時において、ダイをブランクのより端部側に接触させて成形初期におけるパンチ先端部によるブランクの曲げ変形を緩やかにすることで、パンチとブランクの初期当たりに起因する曲げ癖の発生を抑制できる。そして、プレス加工中にダイを横方向にスライドすることで、材料がキャラクターライン側に引き込まれるようにしてキャラクターラインが形成される。これにより、キャラクターラインからの曲げ癖の移動が起こり難くなる。
【0011】
(B)ブランクの線ずれ発生側の面に対向するダイだけでなく、線ずれ発生側とは反対側の面に対向するダイもスライドさせることで、曲げ癖の発生を更に抑制することができる。
【0012】
(C)パネルのキャラクターラインの形状によっては、パンチの形状とダイの形状を同一形状に設計せずに、ダイの分割面のR形状を最適設計することでパネルの高意匠化が実現できる。
【0013】
即ち、上記課題を解決する本発明は、パンチと、前記パンチに対向する上下方向に移動するように構成された複数のダイとを備え、前記パンチと前記複数のダイとの間に配置されるブランクのプレス加工を行い、少なくとも二つの面により挟まれた稜線から成るキャラクターラインを有するパネルを製造する製造装置であって、前記ブランクの線ずれ発生側の面に対向するダイを、プレス方向に移動させながらプレス方向に垂直な方向のうちパンチ先端部側の方向に前進させるダイスライド機構が設けられていることを特徴としている。
【0014】
なお、本発明に係る “線ずれ発生側の面”とは、キャラクターラインを有するパネルの形状から想定された線ずれが起こり得る面のことを指す。例えば、図1(b)のような形状のキャラクターラインを有するパネルを製造する場合、キャラクターラインを構成するブランクの二つの面のうち、図中左側の面より右側の面の方がプレス加工中における張力が大きくなる。このため、プレス加工前の段階で、線ずれが発生する場合にどちらの面に線ずれが発生するか想定することができる。
【0015】
前記ブランクの線ずれ発生側でない面に対向するダイを、プレス方向に移動させながらプレス方向に垂直な方向のうち前記パンチ先端部側の方向に前進させる他のダイスライド機構が設けられていても良い。
【0016】
前記パンチおよび前記ダイは、プレス金型の閉型時における該パンチと該ダイとのクリアランスが、該パンチの先端部で前記ブランクの加工前板厚より大きく、かつ、該パンチの先端部から離れるに従い徐々に小さくなって前記ブランクの加工前板厚より小さくなるような形状を有していても良い。
【0017】
別の観点による本発明は、パンチと、前記パンチに対向する上下方向に移動するように構成された複数のダイとを用い、前記パンチと前記複数のダイとの間に配置されるブランクのプレス加工を行うことにより、少なくとも二つの面により挟まれた稜線から成るキャラクターラインを有するパネルを製造する製造方法であって、前記複数のダイをプレス方向に移動させ、該ダイが前記ブランクに接触した後に、前記ブランクの線ずれ発生側の面に対向するダイを、プレス方向に移動させながら、プレス方向に垂直な方向のうちパンチ先端部側の方向に前進させて、プレス加工を行うことを特徴としている。
【発明の効果】
【0018】
しわ発生を伴うことなく、キャラクターラインを有するパネルの線ずれを抑制、または実質的に解消することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】従来のプレス加工時における線ずれの発生状況を模式的かつ経時的に説明する断面図であり、図1(a)は成形初期の状態を示し、図1(b)は成形完了時の状態を示している。
図2】本発明の第1の実施形態に係るパネルの製造装置の概略構成を示す図である。
図3】本発明の第1の実施形態に係るプレス加工を経時的に説明する断面図である。図3(a)は成形初期の状態、図3(b)は成形中期の状態、図3(c)は成形末期の状態を示している。
図4】本発明の第2の実施形態に係るパネルの製造装置の概略構成およびその製造装置を用いたプレス加工を経時的に説明する断面図である。図4(a)は成形初期の状態を示し、図4(b)は成形完了時の状態を示している。
図5】本発明の第3の実施形態に係るパンチおよびダイの概略形状を示す図である。
図6】実施例で成形するパネルの形状を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。なお、以下の実施形態において、パネルのキャラクターラインは二つの面で構成されている。また、本明細書および図面において、実質的に同一の機能構成を有する要素においては、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0021】
<第1の実施形態>
図2に示すように、第1の実施形態に係るパネルの製造装置1は、パンチ2と、被加工材であるブランクSを支持するブランクホルダー3と、パンチ2およびブランクホルダー3に対向するようにパンチ2およびブランクホルダー3の上方に設けられた可動式のダイ4を備えている。ブランクSは金属製の被加工材であり、鋼板であることが例示されるが、鋼板には限定されず、アルミニウムまたはアルミニウム合金板や、チタンまたはチタン合金板であってもよい。また、プレス加工により得られるパネルとしては、ドアーアウターパネル、フェンダーパネル、サイドパネル、フードアウターパネル、リアゲートアウター等の自動車の車体の外板パネルが例示される。
【0022】
ダイ4は、第1のダイ4aと第2のダイ4bといった二つのダイに分割され、各ダイ4a、4bは上下方向に移動するように構成されている。第1のダイ4aは、ブランクSの線ずれ発生側の面に対向するように配置され、第2のダイ4bは、ブランクSの線ずれ発生側でない面に対向するように配置されている。第1のダイ4aおよび第2のダイ4bは、初期位置において両者の間に隙間が空くように配置されている。第1のダイ4aの下部のブランクSに接触しない部分には傾斜面5aが形成されている。
【0023】
パネルの製造装置1は、第1のダイ4aを、プレス方向V(本実施形態では上方から下方に向かう方向)に移動させながら、プレス方向Vに垂直な方向のうちパンチ先端部側の方向Dに前進させるダイスライド機構10aを備えている。ダイスライド機構10aは、第1のダイ4aを移動させるスライド部材11aを備えており、スライド部材11aは、第1のダイ4aの下方、かつ、ブランクホルダー3のパンチ2が設けられていない側の側方に配置されている。スライド部材11aの上部には第1のダイ4aの傾斜面5aに対向するようにして傾斜面12aが形成されている。スライド部材11aの傾斜面12aは、第1のダイ4aの下降時に第1のダイ4aの傾斜面5aが接触するような位置に形成されている。なお、図示は省略しているが、ダイスライド機構10aは、スライド部材11aの他、スライド部材11aの固定機構や、第1のダイ4aがプレス方向Vに移動しながら、パンチ先端部側の方向Dにも移動できるために必要な構成を有している。
【0024】
第1のダイ4aの初期位置からパンチ先端部側方向Dへの移動距離は、200mm以上、またはパンチ2とブランクSとの接触面圧が2MPa以上となる範囲に相当する距離にすることが望ましい。移動距離が大きくなるほど、パンチ2とブランクSの接触が緩和され、第1のダイ4aのスライド時においてブランクSの材料をキャラクターライン側に寄せ込みやすくなる。
【0025】
第1の実施形態のパネルの製造装置1は以上のように構成されている。次に、このような製造装置を用いたキャラクターラインを有するパネルの製造方法について説明する。なお、第1の実施形態における第2のダイ4bの動作は従来と同様であるため、説明を省略する。
【0026】
まず第1のダイ4aを下方に移動させ、第1のダイ4aをブランクホルダー3に支持されたブランクSに接触させる。その状態で第1のダイ4aを更に下方に移動させると、図3(a)に示すようにブランクSがパンチ2の先端部2aに接触し、図3(b)に示すようにブランクSの曲げ変形が開始される。このとき、第1のダイ4aは、初期位置において第2のダイ4bとの間に隙間が空くような状態で配置されていたことから、第1のダイ4aをプレス方向Vに沿って下方に移動させただけでは、第1のダイ4aと第2のダイ4bとの間の隙間が残存し、得られるキャラクターラインの曲げ半径が所望のキャラクターラインの曲げ半径よりも大きくなる。換言すると、第1のダイ4aを下方に移動させてブランクSの曲げ変形が開始された段階では、従来のプレス加工に対し、ブランクSの線ずれ発生側の面におけるキャラクターライン近傍の曲げ半径が大きくなる。その結果、従来よりもキャラクターライン近傍の変形が緩和されることになり、パンチ2とブランクSの初期当たりに起因する曲げ癖の発生を抑えることができる。
【0027】
その後、更に第1のダイ4aを下方に移動させると、第1のダイ4aの傾斜面5aとスライド部材11aの傾斜面12aとが接触する。これにより、第1のダイ4aはスライド部材11aの傾斜面12aに沿ってパンチ先端部側の方向Dに移動し始める。即ち、第1のダイ4aはプレス方向Vに移動しながらプレス方向Vに垂直な方向のうちパンチ先端部側の方向Dに前進移動する。これに伴い、ブランクSの材料がキャラクターラインに向けて寄せ込まれることになる。即ち、キャラクターラインの線ずれ方向とは逆方向に材料が寄せ込まれるため、曲げ癖が発生したとしても、発生した曲げ癖がキャラクターラインから外側に移動することを抑制することができる。
【0028】
このように、第1の実施形態に係るパネルの製造装置1によれば、パンチ2の初期当たりによる曲げ癖の発生を抑制できると共に、発生した曲げ癖がキャラクターラインから移動することを抑制することができる。即ち、キャラクターライン成形時における線ずれを抑制することができる。また、プレス金型の閉型時にブランク全体が拘束されるため、キャラクターラインの成形時におけるブランクSのしわの発生を抑制することが可能となる。したがって、第1の実施形態のパネルの製造装置1によれば、従来よりも外観品質に優れたパネルを製造することができる。
【0029】
<第2の実施形態>
図4(a)および図4(b)に示すように第2の実施形態に係るパネルの製造装置1には、第2のダイ4bを、プレス方向Vに移動させながらパンチ先端部側の方向Dに前進させる他のダイスライド機構10bが更に設けられている。即ち、第2の実施形態のパネルの製造装置1は、ダイスライド機構として、第1のダイ4aをスライドさせる第1のダイスライド機構10aと、第2のダイ4bをスライドさせる第2のダイスライド機構10bを備えている。
【0030】
第2のダイスライド機構10bは、第2のダイ4bを移動させるスライド部材11bを備えており、スライド部材11bは、第2のダイ4bの下方、かつ、ブランクホルダー3のパンチ2が設けられていない側の側方に配置されている。スライド部材11bの上部には第2のダイ4bの傾斜面5bに対向するようにして傾斜面12bが形成されている。スライド部材11bの傾斜面12bは、第2のダイ4bの下降時に第2のダイ4bの傾斜面5bが接触するような位置に形成されている。なお、図示は省略しているが、第2のダイスライド機構10bは、スライド部材11bの他、スライド部材11bの固定機構や、第2のダイ4bがプレス方向Vに移動しながら、パンチ先端部側の方向Dにも移動できるために必要な構成を有している。
【0031】
第2の実施形態のパネルの製造装置1によれば、図4(b)に示すような第2のダイ4bを下方に移動させてブランクSの曲げ変形が開始される段階において、第1の実施形態のプレス加工と同様の理由により、ブランクSの線ずれ発生側でない面におけるキャラクターライン近傍の変形が緩和される。即ち、第2の実施形態のパネルの製造装置1においては、第1のダイ4aと第2のダイ4bが共にスライドするように構成されるため、成形初期におけるキャラクターライン近傍の変形が更に緩和される。これにより、第1の実施形態のパネルの製造装置1に対し、パンチ2の初期当たりによる曲げ癖の発生を更に抑制することが可能となる。
【0032】
<第3の実施形態>
第3の実施形態に係るパネルの製造装置1は、第2の実施形態と同様、第1のダイ4aおよび第2のダイ4bがスライドするよう構成されている。図5に示すように第3の実施形態では、各ダイ4a、4bのパンチ2に対向する面がパンチ表面に対して平行ではなく、傾斜している。具体的に説明すると、パンチ2およびダイ4は、プレス金型の閉型時におけるパンチ2とダイ4とのクリアランスCLが、パンチ先端部2aではブランクSの加工前板厚より大きく、かつ、パンチ先端部2aから離れるに従い徐々に小さくなってパンチ上面の周縁部2bではブランクSの加工前板厚より小さくなるように形成されている。
【0033】
このような形状のパンチ2およびダイ4でプレス加工を行うと、第1のダイ4aおよび第2のダイ4bがパンチ先端部側の方向Dにスライドした際に、パンチ先端部2aから離れた部分では、パンチ2と各ダイ4a、4bのクリアランスCLがブランクSの加工前板厚よりも小さく、かつ、パンチ先端に向かってそのクリアランスCLが徐々に小さくなっていくことから、各ダイ4a、4bのスライド時にブランクSの材料がキャラクターラインに向けて寄せ込まれていく。そして、パンチ先端部2aにおいては、パンチ2とダイ4のクリアランスCLがブランクSの加工前板厚より大きいため、パンチ上面の周縁部2bから寄せ込まれた材料がパンチ先端部2aにおいてパンチ2とダイ4の間に充填され、キャラクターラインが形成される。これにより、パンチ2とダイ4のクリアランスCLがブランクSの加工前板厚と同じである場合のプレス金型では得られないシャープなキャラクターラインを形成することが可能となる。即ち、第3の実施形態のパネルの製造装置1によれば、キャラクターラインの線ずれを抑制することができると共に、シャープなキャラクターラインを形成することが可能となる。
【0034】
なお、第1〜第3の実施形態では、2つの面に挟まれることで構成されるキャラクターラインの成形について説明したが、第1〜第3の実施形態のようなプレス加工は3つ以上の面で構成されるキャラクターラインを成形する場合にも適用できる。その場合、パンチ2に対向するダイ4は、キャラクターラインを構成する面の数に合わせて増加する。複数のダイが設けられる場合でも、ブランクの線ずれ発生側の面に対向するダイを、プレス方向に移動させながら、プレス方向に垂直な方向のうちパンチ先端部側の方向に前進させるスライド機構がパネルの製造装置1に設けられていれば、キャラクターラインの線ずれ抑制効果を得ることができる。
【0035】
また、本実施形態では、パンチ2、ダイ4、ブランクホルダー3を用いて絞り成形または張り出し成形等のプレス加工を実施することとしたが、例えばパンチ2、ダイ4、およびダイパッド(図示しない)を用いてパッド曲げ成形を実施しても良い。また、パンチ2を上側に、ダイ4を下側に配置した金型構成であっても良い。
【0036】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到しうることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【実施例】
【0037】
本発明に係るプレス加工の効果を検討するために、板厚0.7mmで引張り強さが270MPa級のめっき鋼板から成る、幅100mm、長さ300mmのブランクを用いて成形試験を実施した。本発明に係るパネルの製造装置として、図2に示す構造の装置を用いた。ブランクの線ずれ発生側の面に対向するダイのスライド距離(プレス方向に垂直な方向の移動距離)は100mmとした。なお、成形後のパネルの断面形状は図6に示す通りであり、キャラクターラインの曲率半径は5mmである。また、パンチ先端の曲率半径も5mmである。
【0038】
また、比較例として、同一材料で同一サイズのブランクを用いた成形試験を実施した。上記実施例と比較するために、ダイスライド機構を備えない通常のダイを用いた。
【0039】
成形試験後、プレス加工により得られた各パネルに対し、キャラクターライン周辺に発生する線ずれの高さと長さの積である線ずれ評価値を算出して、線ずれの評価を実施した。本発明に係る製造装置で得られたパネルは、線ずれ評価値が0.8で、目視評価においても線ずれが確認できなかった。比較例のパネルは、線ずれ評価値が2.2で、目視評価においても明確な線ずれが確認できた。即ち、パンチの先端部に弾性体を設けることで、キャラクターラインの成形時における線ずれを抑制することができた。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明は、キャラクターラインを有するパネルの製造に適用することができる。
【符号の説明】
【0041】
1 パネルの製造装置
2 パンチ
2a パンチの先端部
2b パンチの周縁部
3 ブランクホルダー
4 ダイ
4a 第1のダイ
4b 第2のダイ
5a 第1のダイの傾斜面
5b 第2のダイの傾斜面
10a ダイスライド機構(第1のダイスライド機構)
10b ダイスライド機構(第2のダイスライド機構)
11a スライド部材
11b スライド部材
12a スライド部材の傾斜面
12b スライド部材の傾斜面
51 従来のパネル製造装置
54 従来のダイ
CL 閉型時のパンチとダイのクリアランス
D パンチ先端部側の方向
L キャラクターライン
S ブランク
V プレス方向
図1
図2
図3
図4
図5
図6