(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
一方向に配列した炭素繊維に熱硬化性樹脂を含浸させてなる繊維層の少なくとも片面に、熱硬化性樹脂および該熱硬化性樹脂に不溶な熱可塑性樹脂を含む樹脂層が存在するプリプレグであって、樹脂層と繊維層との間に25℃で固体状であり、かつ、80℃で粘度10000Pa・s以下である固体状樹脂からなる沈み込み防止層を有し、該プリプレグに含まれる炭素繊維の繊維質量が120〜300g/m2、樹脂含有率が25〜50質量%であり、プリプレグを積層し、引抜速度0.2mm/min、垂直応力0.1bar、引抜変位1mmの条件下において、40〜80℃の温度範囲で10℃刻みに層間摩擦係数を測定した場合に、層間摩擦係数が最低となる温度にプリプレグを24時間暴露した際の繊維直交方向の直線上における表面形状の極値頻度が30個/mm以下である、プリプレグ。
プリプレグを積層し、引抜速度0.2mm/min、垂直応力0.1bar、引抜変位1mmの条件下において、40〜80℃の温度範囲で10℃刻みに層間摩擦係数を測定した場合に、層間摩擦係数が0.1以下となる温度領域が20℃以上の幅で存在する、請求項1または2に記載のプリプレグ。
プリプレグを積層し、引抜速度0.2mm/min、垂直応力0.1barの条件下において、40〜80℃の温度範囲で10℃刻みに層間摩擦係数を測定した場合に、引抜変位1mmにおいて層間摩擦係数が最低となる温度の上下10℃以内の範囲内に、引抜変位1mmにおける層間摩擦係数に対する引抜変位2mmにおける層間摩擦係数の上昇率が20%以内となる温度が存在する、請求項1〜3のいずれかに記載のプリプレグ。
一方向に配列した炭素繊維に熱硬化性樹脂を含浸させてなる繊維層の少なくとも片面に、熱硬化性樹脂および該熱硬化性樹脂に不溶な熱可塑性樹脂を含む樹脂層が存在するプリプレグであって、樹脂層と繊維層との間に25℃で固体状であり、かつ、80℃で粘度10000Pa・s以下である固体状樹脂からなる沈み込み防止層を有し、該プリプレグに含まれる炭素繊維の繊維質量が120〜300g/m2、樹脂含有率が25〜50質量%であり、該プリプレグ16枚を[45/0/−45/90]2Sで積層した150mm角のプリプレグ積層体をナイロン製の耐熱バグフィルムで密封して真空引きを行いながら、直径100mmの穴が設けられた台座に設置し、所定の温度に温調した雰囲気下で、直径30mmの半球状のポンチをプリプレグ積層体の中央に当てポンチの中央が前記台座の穴の中央を通るように、速度5mm/minでポンチをプリプレグ積層体に押し付けながら、押し込んで行き、プリプレグ積層体にポンチが接触してからプリプレグ積層体にシワが発生するまでのポンチの変位を計測し、この測定を40〜80℃の温度範囲で10℃刻みに行った場合に、プリプレグ積層体にポンチが接触してからプリプレグ積層体にシワが発生するまでのポンチの変位が15mm以上である温度が、40〜80℃の温度範囲内に存在するプリプレグ。
プリプレグを擬似等方に積層および成形し、ASTM D7137/7137M−07に準拠して測定した衝撃後圧縮強度が250MPa以上である、請求項1〜6のいずれかに記載のプリプレグ。
一方向に配列した炭素繊維に熱硬化性樹脂を含浸させて繊維層を得た後、該繊維層の少なくとも片面に、25℃で固体状であり、かつ、80℃で粘度10000Pa・s以下である固体状樹脂を配置した後、該固体状樹脂を配置した面に、熱硬化性樹脂および該熱硬化性樹脂に不溶な熱可塑性樹脂を含む樹脂層を配置するプリプレグの製造方法であって、得られたプリプレグに含まれる炭素繊維の繊維質量が120〜300g/m2、樹脂含有率が25〜50質量%である請求項1〜9のいずれかに記載のプリプレグの製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明者らは、プリプレグ積層体から得られる繊維強化プラスチックにおいて、面外から加わる衝撃荷重に対する耐性を向上させることを目的として検討を行った。前記のように、プリプレグ積層体の層間に熱可塑性樹脂を局在化させると、繊維強化プラスチックの衝撃強度を向上できた。しかし、この場合、層間に存在する熱可塑性樹脂が、プリプレグ層間の滑りを妨げ、賦形性を低下させていることを見出した。そこで、プリプレグを、炭素繊維および熱硬化性樹脂を含む繊維層と、熱硬化性樹脂および該熱硬化性樹脂に不溶な熱可塑性樹脂を含む樹脂層とが積層された構造とし、かつ、プリプレグ積層体とした際の隣接するプリプレグ層間の摩擦抵抗を低下させる設計とすることで、上述した本発明の課題を解決できることを究明した。これにより、プリプレグ積層体を三次元形状に追従させる際、プリプレグ積層体の各層の曲げ変形と層間の滑りをバランスよく引き起こさせ、シワの発生を抑制することで、層間靭性が高く、かつ、高力学特性で品質ばらつきの少ない繊維強化プラスチックを製造できることを見出した。
【0014】
具体的には、一方向に配列した炭素繊維に熱硬化性樹脂を含浸させてなる繊維層の少なくとも片面に、熱硬化性樹脂および該熱硬化性樹脂に不溶な熱可塑性樹脂を含む樹脂層が存在するプリプレグであって、該プリプレグに含まれる炭素繊維の繊維質量が120〜300g/m
2、樹脂含有率が25〜50質量%であり、プリプレグを積層し、引抜速度0.2mm/min、垂直応力0.1bar、引抜変位1mmの条件下において、40〜80℃の温度範囲で10℃刻みに層間摩擦係数を測定した場合に、層間摩擦係数が最低となる温度に、プリプレグを24時間暴露した際の繊維直交方向の直線上における表面形状の極値頻度が30個/mm以下である、プリプレグである。層間摩擦係数、および、表面形状の極値頻度の測定方法については後述する。
【0015】
本発明における繊維層は、一方向に配列した炭素繊維に熱硬化性樹脂を含浸させてなるものである。
【0016】
炭素繊維としては、用途に応じてあらゆる種類の炭素繊維を用いることが可能であるが、層間靭性や耐衝撃性の点から、230〜400GPaの引張弾性率を有する炭素繊維が好ましい。また、強度の観点からは、高い剛性および機械強度を有する複合材料が得られることから、引張強度が4.4〜7.0GPaの炭素繊維が好ましく用いられる。さらに、引張伸度が、1.7〜2.3%の高強度高伸度炭素繊維が好ましい。従って、引張弾性率が少なくとも230GPaであり、引張強度が少なくとも4.4GPaであり、引張伸度が少なくとも1.7%であるという特性を兼ね備えた炭素繊維が最も適している。
【0017】
好ましく用いられる炭素繊維の市販品としては、“トレカ(登録商標)”T1100G−24K、“トレカ(登録商標)”T1100G−12K、“トレカ(登録商標)”T800S−24K、 “トレカ(登録商標)”T800S−12K、“トレカ(登録商標)”T300−3K、および“トレカ(登録商標)”T700S−12K(以上、東レ(株)製)などが挙げられる。
【0018】
熱硬化性樹脂としては、特に制限されず、熱により架橋反応を起こし、少なくとも部分的な三次元架橋構造を形成する樹脂であればよい。このような熱硬化性樹脂としては、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、エポキシ樹脂、ベンゾオキサジン樹脂、フェノール樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、およびポリイミド樹脂等が挙げられる。また、これらの樹脂の変性体および2種以上の樹脂の混合物を用いることもできる。さらに、これらの熱硬化性樹脂は熱により自己硬化する樹脂であってもよいし、硬化剤や硬化促進剤等とブレンドしてもよい。
【0019】
これらの熱硬化性樹脂のうち、耐熱性、力学的特性および炭素繊維への接着性のバランスに優れていることから、エポキシ樹脂が好ましく用いられる。特に、アミン、フェノールおよび炭素−炭素二重結合を持つ化合物を前駆体とするエポキシ樹脂が好ましく用いられる。
【0020】
アミンを前駆体とするエポキシ樹脂としては、アミノフェノール型エポキシ樹脂、グリシジルアニリン型エポキシ樹脂およびテトラグリシジルアミン型エポキシ樹脂が好ましく用いられる。グリシジルアミン型エポキシ樹脂としては、テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン、トリグリシジル−p−アミノフェノール、トリグリシジル−m−アミノフェノールおよびトリグリシジルアミノクレゾール等が挙げられる。高純度テトラグリシジルアミン型エポキシ樹脂である平均エポキシド当量(EEW)が100〜115の範囲のテトラグリシジルアミン型エポキシ樹脂、および高純度アミノフェノール型エポキシ樹脂である平均EEWが90〜104の範囲のアミノフェノール型エポキシ樹脂が、得られる繊維強化複合材料にボイドを発生させる恐れのある揮発性成分を抑制するために特に好ましく用いられる。テトラグリシジルジアミノジフェニルメタンは耐熱性に優れており、航空機の構造部材の複合材料用樹脂として好ましく用いられる。
【0021】
また、前駆体としてフェノールを用いるエポキシ樹脂としては、グリシジルエーテル型エポキシ樹脂が好ましく用いられる。このようなエポキシ樹脂としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂およびレゾルシノール型エポキシ樹脂が挙げられる。その中でも平均EEWが170〜180の範囲の高純度なビスフェノールA型エポキシ樹脂、および平均EEWが150〜65の範囲の高純度なビスフェノールF型エポキシ樹脂が、得られる繊維強化複合材料にボイドを発生させる恐れのある揮発性成分を抑制するために特に好ましく用いられる。
【0022】
また、室温(25℃)で液状のビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂およびレゾルシノール型エポキシ樹脂は、粘度が低いため他のエポキシ樹脂と組み合わせて用いることが好ましい。
【0023】
一方、室温(25℃)で固体状のビスフェノールA型エポキシ樹脂は、液状のビスフェノールA型エポキシ樹脂と比較すると硬化樹脂中の架橋密度が低い構造となるため、硬化樹脂の靱性はより高くなるが、耐熱性はより低くなる。そのため、靭性と耐熱性のバランスをとるために、グリシジルアミン型エポキシ樹脂、液状のビスフェノールA型エポキシ樹脂やビスフェノールF型エポキシ樹脂と組み合わせて用いることが好ましい。
【0024】
フェノールノボラック型エポキシ樹脂およびクレゾールノボラック型エポキシ樹脂は、耐熱性が高く、吸水性が低いため、耐熱耐水性の高い硬化樹脂が得られる。フェノールノボラック型エポキシ樹脂およびクレゾールノボラック型エポキシ樹脂を用いることによって、耐熱耐水性を高めつつプリプレグのタック性およびドレープ性を調節することができる。
【0025】
ナフタレン骨格を有するエポキシ樹脂は、吸水性が低く耐熱性が高い硬化樹脂となる。また、ビフェニル型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、フェノールアラルキル型エポキシ樹脂およびフェニルフルオレン型エポキシ樹脂も吸水性の低い硬化樹脂となるため、好ましく用いることができる。
【0026】
ウレタン変性エポキシ樹脂およびイソシアネート変性エポキシ樹脂は、破壊靭性と伸度の高い硬化樹脂となるため、好ましく用いることができる。
【0027】
また、炭素−炭素二重結合を持つ化合物を前駆体とするエポキシ樹脂も、熱硬化性樹脂として好ましく用いられる。このようなエポキシ樹脂としては、脂環式エポキシ樹脂が挙げられる。硬化した樹脂の耐熱性が特に高いことが特徴である。特に室温(25℃)で液状の脂環式エポキシは粘度が低いため、他のエポキシ樹脂と組み合わせて用いることが好ましい。
【0028】
以上のエポキシ樹脂は、単独で用いてもよいし、ブレンドして用いてもよい。2官能、3官能またはそれ以上の官能基を有するエポキシ樹脂を樹脂組成物に添加すると、得られるプリプレグが、作業性、加工性および繊維強化複合体としての湿潤条件下における耐熱性などの各種特性を満足できるため好ましい。特に、グリシジルアミン型エポキシ樹脂とグリシジルエーテル型エポキシ樹脂の組合せは、加工性、耐熱性および耐水性を向上することができる。また、少なくとも1種の室温で液状のエポキシ樹脂と少なくとも1種の室温で固体状のエポキシ樹脂とをブレンドすることは、プリプレグに好適なタック性とドレープ性の両方を付与するのに有効である。
【0029】
エポキシ樹脂の硬化剤は、エポキシ基と反応し得る活性基を有するいずれの化合物であってもよい。中でも、アミノ基、酸無水物基またはアジド基を有する化合物が硬化剤として好適である。硬化剤のより具体的な例としては、ジシアンジアミド、ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルスルホンの各種異性体、アミノ安息香酸エステル類、各種酸無水物、フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂、ポリフェノール化合物、イミダゾール誘導体、脂肪族アミン、テトラメチルグアニジン、チオ尿素付加アミン、メチルヘキサヒドロフタル酸無水物等のカルボン酸無水物、カルボン酸ヒドラジド、カルボン酸アミド、ポリメルカプタン、三フッ化ホウ素エチルアミン錯体および他のルイス酸錯体等が挙げられる。これらの硬化剤は、単独または組み合わせて用いることができる。
【0030】
硬化剤として芳香族ジアミンを用いることにより、耐熱性の良好な硬化樹脂を得ることができる。特に、ジアミノジフェニルスルホンの各種異性体は、耐熱性の良好な硬化樹脂が得られるため最も好適である。硬化剤の添加量は、エポキシ樹脂に対して化学量論的に当量であることが好ましいが、場合によっては、エポキシ樹脂に対して約0.7〜0.9当量を用いることにより高弾性率の硬化樹脂を得ることができる。
【0031】
また、イミダゾール、またはジシアンジアミドと尿素化合物(例えば、3−フェノール−1,1−ジメチル尿素、3−(3−クロロフェニル)−1,1−ジメチル尿素、3−(3,4−ジクロロフェニル)−1,1−ジメチル尿素、2,4−トルエンビスジメチル尿素、2,6−トルエンビスジメチル尿素)との組合せを硬化剤として用いることにより、比較的低温で硬化しながらも高い耐熱性および耐水性を達成することができる。酸無水物を硬化剤として用いた場合、アミン化合物を用いた場合に比べて比較的吸水性の低い硬化樹脂が得られる。さらに、これらの硬化剤のうちの1つを形成する可能性を有する物質、例えばマイクロカプセル化物質を用いることにより、プリプレグの保存安定性を高めることができ、特に、タック性およびドレープ性が室温放置しても変化しにくくなる。
【0032】
また、これらのエポキシ樹脂、硬化剤、またはそれらの両方を部分的に予備反応させた生成物を組成物に添加することもできる。この方法は粘度調節や保存安定性向上に有効である。
【0033】
本発明に用いる熱硬化性樹脂には、熱可塑性樹脂をブレンドしてもよい。このような熱可塑性樹脂としては、炭素−炭素結合、アミド結合、イミド結合、エステル結合、エーテル結合、カーボネート結合、ウレタン結合、チオエーテル結合、スルホン結合およびカルボニル結合より選択される結合を有する熱可塑性樹脂であることが好ましい。熱可塑性樹脂は、部分的に架橋構造を有していても構わない。また、熱可塑性樹脂は結晶性を有していてもいなくてもよい。特に、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリアセタール、ポリフェニレンオキシド、ポリフェニレンスルフィド、ポリアリレート、ポリエステル、ポリアミドイミド、ポリイミド、ポリエーテルイミド、フェニルトリメチルインダン構造を有するポリイミド、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリアラミド、ポリエーテルニトリルおよびポリベンズイミダゾールからなる群より選択される少なくとも1種の樹脂が好ましい。繊維層に用いられる熱可塑性樹脂としては、熱硬化性樹脂に溶解するものが好ましい。
【0034】
これらの熱可塑性樹脂は、市販のポリマーでもよいし、ポリマーより分子量の低いいわゆるオリゴマーであってもよい。オリゴマーとしては、熱硬化性樹脂と反応し得る官能基を末端または分子鎖中に有するオリゴマーが好ましい。
【0035】
熱硬化性樹脂と熱可塑性樹脂とのブレンドを用いる場合、これらの一方のみを用いた場合に比べ、熱硬化性樹脂の脆さを熱可塑性樹脂の靭性でカバーすることができ、また熱可塑性樹脂の成形の困難さを熱硬化性樹脂でカバーすることができるため、バランスのとれた樹脂組成物とすることができる。熱硬化性樹脂と熱可塑性樹脂との比(質量部)は、バランスの点で100:2〜100:50の範囲が好ましく、100:5〜100:35の範囲がより好ましい。
【0036】
本発明における樹脂層は、熱硬化性樹脂および該熱硬化性樹脂に不溶な熱可塑性樹脂を含む。ここで、熱硬化性樹脂に不溶な熱可塑性樹脂とは、熱硬化性樹脂および熱可塑性樹脂を含む組成物を硬化して得られた樹脂硬化物の表面を、熱可塑性樹脂が表面に露出するまで研磨し、該表面を光学顕微鏡を用いて観察した際に、熱硬化性樹脂と熱可塑性樹脂との間に明確な界面が観察できることを指す。一方、熱可塑性樹脂が周囲の熱硬化性樹脂と明確な界面を有さず、両者の区別がつかない場合は、熱可塑性樹脂が熱硬化性樹脂中に溶解しているとした。
【0037】
樹脂層に用いられる熱硬化性樹脂としては、前記の繊維層用として例示した熱硬化性樹脂と同種のものを用いることができる。
【0038】
樹脂層に用いられる熱可塑性樹脂としては、樹脂種を限定されるものではなく、ガラス転移温度が80℃〜180℃の範囲にある熱可塑性樹脂が好ましい。このような比較的高いガラス転移温度を有する熱可塑性樹脂は、加熱硬化の際に形態の変形が起こらないため、プリプレグ積層体を硬化させて得られる繊維強化複合材料は、安定した層間厚みが形成され、層間靭性に優れるとともに、湿熱時圧縮強度が安定する。熱可塑性樹脂のガラス転移温度が80℃に満たない場合、得られる繊維強化複合材料の層間靭性および湿熱時圧縮強度のバランスが低下する。一方、ガラス転移温度が180℃を上回る場合、熱可塑性樹脂自体の靱性が不足する傾向があるとともに、熱可塑性樹脂とマトリックス樹脂の界面接着性が不十分となり、繊維強化複合材料の層間靭性が低くなる。
【0039】
熱可塑性樹脂としては、前記の繊維層用として例示した各種熱可塑性樹脂のうち、樹脂層を構成する熱硬化性樹脂に不溶なものを用いることができる。中でも、耐衝撃性を大きく向上させることから、ポリアミドが最も好ましい。ポリアミドの中でも、ナイロン12、ナイロン6、ナイロン11、ナイロン10、ナイロン6/12共重合体や特開平1−104624号公報の実施例1に記載されたエポキシ化合物とセミIPN(高分子相互侵入網目構造)化されたナイロン(セミIPNナイロン)は、熱硬化性樹脂との接着強度が特に良好である。したがって、繊維強化プラスチックとした際の層間剥離強度が高くなり、また耐衝撃性の向上効果が高くなるため、好ましい。
【0040】
繊維層の少なくとも片面に樹脂層が存在するとは、繊維層の片面または両面に樹脂層が積層されていることを意味する。樹脂層は、プリプレグ表面の片面のみに配されていても、両面に配されていてもよい。また、繊維層と樹脂層の間に他の層、例えば、後述する固体状エポキシ樹脂層等、をさらに含んでも良い。
【0041】
熱硬化性樹脂に不溶な熱可塑性樹脂の形態は、不織布や繊維でもよいが、高衝撃強度を発現する繊維強化複合材料を得るためには、粒子が好ましい。熱可塑性樹脂が粒子の形態であることで、層間が滑る際、熱可塑性樹脂粒子同士の位置関係を変化させることができるため、不織布や繊維の形態で存在する場合よりも層間摩擦係数を低下させることができる。粒子の形状としては、球状、非球状、多孔質、針状、ウイスカー状、フレーク状のいずれでもよいが、特に球状が好ましい。
【0042】
本発明のプリプレグ中に含まれる炭素繊維に含まれる炭素繊維の繊維質量は、120〜300g/m
2であり、より好ましくは140〜280g/m
2である。ここで、繊維質量とは、プリプレグの単位面積当たりに含まれる炭素繊維の質量である。繊維質量が120g/m
2より小さい場合、所望の繊維強化プラスチック厚みを得るための積層数が多くなり、製造のための工数が多くなる。一方、繊維質量が300g/m
2より大きい場合、繊維中に樹脂が含浸しにくく、それを用いて得られる繊維強化プラスチックに未含浸部がボイドとして残り、物性の低下につながる可能性がある。
【0043】
本発明のプリプレグは、樹脂含有率が25〜50質量%であり、さらに好ましくは30〜40質量%である。ここで、樹脂含有率とは、プリプレグの全質量に対する、炭素繊維を除いた全樹脂成分の質量の比率である。樹脂含有率が50質量%より大きいと、繊維含有率が減り、それを用いて得られる繊維強化プラスチックの強度および弾性率が低下する。また、樹脂含有率が25質量%より小さいと、特にプリプレグ表面に樹脂層を設ける本発明の構成においては、繊維層における樹脂量が少なくなり、繊維表面を完全に樹脂で覆うことができず、繊維間で割れが発生しやすくなり、予期せぬ破壊を引き起こし品質ばらつきも大きくなる可能性がある。
【0044】
本発明のプリプレグは、プリプレグを積層し、引抜速度0.2mm/min、垂直応力0.1bar、引抜変位1mmの条件下において、40〜80℃の温度範囲で10℃刻みに層間摩擦係数を測定した場合に、層間摩擦係数が最低となる温度において、プリプレグを24時間暴露した際の繊維直交方向の直線上における表面形状の極値頻度が30個/mm以下である。該極値頻度が30個/mmより多い場合、プリプレグ積層体を三次元形状に追従させる際、例え層間摩擦係数が最小となる温度にて賦形を実施したとしても、層間が滑りにくく、シワが発生してしまう。
【0045】
ここで、層間摩擦係数とは、複数のプリプレグを積層したプリプレグ積層体において、プリプレグ層間で発生する摩擦係数を指す。本発明において、層間摩擦係数は、
図1に示すように2枚のプリプレグ4の間に1枚のプリプレグ3を挟み、プリプレグ面外から、圧板1を用いて、プリプレグに対して垂直に所定の荷重をかけて測定する。詳細は後述する。この条件下において、挟まれたプリプレグ3を引き抜く際にかかる荷重(引抜荷重)を、プリプレグ面外から垂直に押し付ける荷重(垂直荷重)の2倍で割って得られる値を層間摩擦係数とする。2倍で割るのは、測定するプリプレグ3の両面が摩擦抵抗を受けるからである。試験法としては、プリプレグは繊維方向に長尺となるように切り出され、幅30mm(繊維直交方向)、長さ60mm(繊維方向)の範囲でプリプレグ3とプリプレグ4がオーバーラップするように、繊維方向を同一にして3枚積層する。中央のプリプレグ4のオーバーラップ部に接するように、同じプリプレグを繊維方向が同じになるように、幅30mm、長さ20mmにカットしたスペーサー5を設置する。プリプレグ3の引抜きとともにオーバーラップ部の面積が減り、圧板1で加圧する領域が偏ることから、圧板1が片当たりして局所的に高い荷重が加わる可能性があるため、引抜きと逆方向にスペーサー5を配置し、圧板1が傾かないようにする。オーバーラップ部およびスペーサー5の長さ10mmの範囲(幅30mm、長さ70mmの範囲)を、加熱源を有した圧板1で所定の温度に温調しながら21Nの一定垂直荷重を試験中加え続ける。試験開始時は、21Nの荷重を垂直応力に換算すると0.1barとなる。プリプレグに垂直荷重を加え始めて10分後に、中央プリプレグ層3を繊維方向に引抜速度0.2mm/minで引抜き、引抜荷重を測定する。引抜荷重をオーバーラップ部(試験開始時には幅30mm、長さ60mmの範囲)に加わる垂直荷重(試験開始時には18N)の2倍で割ったものを層間摩擦係数として計算する。ここで引抜きとともに中央プリプレグ層が垂直荷重を受けるオーバーラップ部の面積が減少するため、引抜き変位を勘案したオーバーラップ部の面積(幅30mm、長さ(60mm−引抜き変位))とスペーサーで荷重を受けている部分の面積(幅30mm、長さ10mm)を足し合わせた面積で21Nの荷重を受けているとしてオーバーラップ部に加わる垂直荷重を比例計算し、その垂直荷重の2倍で引抜き荷重を割ったものを層間摩擦係数とする。層間摩擦係数は温度、引抜き速度および垂直応力によって変化するため、本発明においては引抜き速度0.2mm/min、試験開始時の垂直応力0.1barの条件下で、引抜きを開始して5分後、すなわち引抜き変位1mmにおける層間摩擦係数を測定する。測定は5回行い、平均値を層間摩擦係数とする。賦形工程においてはプリプレグ積層体を密封し真空引きして賦形を行うことがあるが、実際には1barもの垂直応力が加わることは少なく、1/10程度の垂直応力での変形性能が重要となることから、0.1barにおける層間摩擦係数を代表値として用いる。
【0046】
このようにして40〜80℃の温度範囲で10℃刻みに層間摩擦係数を測定し、層間摩擦係数が最低となる温度を求める。
【0047】
プリプレグを所定の温度に24時間暴露した際の繊維直交方向の直線上における表面形状の極値頻度の数を、以下の手順で測定する。プリプレグの両端を含む5箇所を幅方向に略均等に20mm角のサイズに切り出し、離型紙を剥がす。前記のようにして求めた層間摩擦係数が最低となる温度に温調したオーブン内に、切り出した5個のプリプレグを、離型紙を剥がした面を上面として24時間暴露し、その後プリプレグ表面に触れることなく室温まで冷却する。続いて、光学顕微鏡を用いて、プリプレグ表面の離型紙を剥がした面を観察する。プリプレグ表面の表面を、強化繊維の配向方向と直交する方向に、直線的にスキャンして、
図2に示すような表面の高さプロファイルを得る。測定する直線の長さは、1mm±0.2mmの範囲であり、スキャンの間隔は、1μm±0.2μmの範囲とする。これを20mm角のサイズのプリプレグそれぞれに対して各5回行い、計25回の測定を行なう。
図2に示すように、スキャン方向に対して、スキャン点6のうち、表面高さの増減が逆転する点を極値7とし、極値7の数をスキャン長さで割り、1mm当たりの極値の個数を求める。計25回の測定で求めた1mm当たりの極値の個数を平均し、表面形状の極値頻度とする。
【0048】
このパラメータの意味は、以下のとおりである。プリプレグ積層体の賦形時には、層間滑りを促進しシワを抑制するため、層間摩擦係数が低くなる温度条件を選んで賦形を行う。プリプレグ積層体を賦形前に温調する際および賦形中に、プリプレグの表面形態が変化する。プリプレグ積層体は空気など断熱層を含み、賦形のため所望の温度に温調する際に時間がかかることが多い。そのため、賦形前に長時間賦形に適する温度に暴露されることがある。そのような場合、表面形状の極値頻度が大きくなることは、時間の経過とともにプリプレグ表面の平滑性が失われることを意味している。この原因として、樹脂層に含まれる熱硬化性樹脂が繊維層に移行することにより、樹脂層に含まれる熱可塑性樹脂や固体状の硬化剤等がプリプレグ表面に露出して凸部を形成してしまうことが考えられる。賦形時にプリプレグ表面が平滑でないと、プリプレグ積層体の層間滑りが阻害されるので、賦形時にプリプレグ表面が平滑であることが賦形性に優れたプリプレグとして好ましい。プリプレグ表面の凸部の数を表す指標が表面形状の極値頻度である。プリプレグを所望の温度に24時間暴露した後の表面形状の極値頻度が、30個/mm以下であると層間滑りがよく、賦形性に優れるプリプレグとなる。極値頻度は、好ましくは25個/mm以下であり、さらに好ましくは15個/mm以下である。暴露後の表面形状の極値頻度を上記の範囲にすることにより、プリプレグ積層体を三次元形状に追従させる際、プリプレグ積層体の各層の曲げ変形と層間の滑りをバランスよく引き起こさせ、シワの発生を抑制することで、層間靭性が高く、かつ、高力学特性で品質ばらつきの少ない繊維強化プラスチックを製造できる。
【0049】
プリプレグを所望の温度に長時間暴露した際に、樹脂層に含まれる熱硬化性樹脂が繊維層に移行する現象を防ぐ手段の一つとして、樹脂層と繊維層の間に後述の沈み込み防止層を介在させることが有効である。
【0050】
プリプレグは、前記層間摩擦係数の測定において、層間摩擦係数が0.1以下となる温度領域が、40〜80℃の温度範囲内に存在するのがよい。かかる層間摩擦係数の測定において、層間摩擦係数がより好ましくは0.08以下、さらに好ましくは0.05以下となる温度が、40〜80℃の温度範囲内に存在するのがよい。40〜80℃の温度範囲は、プリプレグの硬化反応が開始しない安定領域であるので、プリプレグ積層体を三次元形状に追従させる工程は、この温度範囲内で好ましく実施される。したがって、層間摩擦係数が0.1以下となる温度領域が40〜80℃の温度範囲内に存在しない場合、プリプレグ積層体の層間が滑りにくく、プリプレグ積層体の賦形時にシワが発生してしまう可能性がある。プリプレグ積層体の賦形時にシワが発生すると、得られた繊維強化プラスチックの強度が低下し、品質が安定しない。
【0051】
層間摩擦係数が大きくなる要因の一つは、樹脂層に含まれる熱硬化性樹脂に不溶な熱可塑性樹脂が、繊維層に含まれる炭素繊維と接触することによる抵抗が考えられている。したがって、該熱可塑性樹脂と該炭素繊維が接触しないように、樹脂層と繊維層の間に後述の沈み込み防止層を存在させることは、層間摩擦係数を減少させることに対しても有効である。
【0052】
さらに好ましくは、前記層間摩擦係数の測定において、層間摩擦係数が0.1以下となる温度領域が20℃以上の幅で存在するのが好ましい。かかる層間摩擦係数の測定において、層間摩擦係数が、より好ましくは0.08以下、さらに好ましくは0.05以下となる温度領域が、20℃以上の幅で存在することが好ましい。なお本発明においては、前記層間摩擦係数の測定において、40〜80℃の温度範囲で10℃刻みに層間摩擦係数を測定した際に、連続する3つの温度において層間摩擦係数が0.1以下となることを以って層間摩擦係数が0.1以下となる温度領域の幅が20℃以上と定義する。
【0053】
このパラメータの意味は、以下のとおりである。プリプレグ積層体の賦形工程においては、温調条件によっては、しばしばプリプレグ積層体内に温度分布が生じる。例えばプリプレグ積層体を片面からの加熱源、例えばIRヒーターなどで加熱する場合、プリプレグ積層体の厚み方向に温度分布が生じる。また、例えばオーブン等で加熱されたプリプレグ積層体を室温のマンドレル上で賦形する際には、賦形中にマンドレルに接する面から冷却され、プリプレグ積層体内で温度分布が生じる。したがって、再現性のよい賦形工程を実現するためには、プリプレグは層間摩擦係数が適切な範囲である温度領域が20℃以上の幅で存在することが好ましい。さらに好ましくは30℃以上の幅の温度領域である。
【0054】
プリプレグは、引抜速度0.2mm/min、垂直応力0.1barの条件下において、40〜80℃の温度範囲で10℃刻みに層間摩擦係数を測定した場合に、引抜変位1mmにおける層間摩擦係数に対する引抜変位2mmにおける層間摩擦係数の上昇率が20%以内となる温度が、40〜80℃の温度範囲内に存在することが好ましい。ここで、層間摩擦係数の上昇率とは、所定の温度において、前記のとおり層間摩擦係数を測定した際に、引抜変位2mmにおける層間摩擦係数が、引抜変位1mmにおける層間摩擦係数を基準として、どの程度上昇したかを表す比率である。該層間摩擦係数の上昇率が20%以内となる温度は、引抜変位1mmにおける層間摩擦係数が最低となる温度の上下10℃以内の範囲内にあることが好ましい。より好ましくは該上昇率が10%以内となる温度が、40〜80℃の温度範囲に存在することが好ましい。該上昇率が20%以内となる温度領域の幅が20℃以上存在することがより好ましく、該上昇率が10%以内となる温度領域の幅が20℃以上存在することがさらに好ましい。
【0055】
このパラメータの意味は、以下のとおりである。賦形中に層間摩擦係数が変動することが、思いがけないシワの発生に繋がることがある。引抜変位が大きくなっても、層間摩擦係数の上昇が少なければ、このようのシワの発生を防止することができるため、該上昇率は小さい方がよい。またプリプレグ積層体が大型になればなるほど、自由端までの距離が長くなるため、プリプレグ積層体の上下面のひずみ差を解消するために必要な層間滑り量が大きくなり、シワが発生しやすい。したがって該上昇率が小さいことが特にプリプレグ積層体の表面積が1m
2を超える大型部材の賦形に適した条件となる。
【0056】
本発明のプリプレグの別の態様は、一方向に配列した炭素繊維に熱硬化性樹脂を含浸させてなる繊維層の少なくとも片面に、熱硬化性樹脂および該熱硬化性樹脂に不溶な熱可塑性樹脂を含む樹脂層が存在するプリプレグであって、該プリプレグに含まれる炭素繊維の繊維質量が120〜300g/m
2、樹脂含有率が25〜50質量%であり、該プリプレグ16枚を[45/0/−45/90]
2Sで積層した150mm角のプリプレグ積層体をフィルムで密封して真空引きを行いながら、直径100mmの穴が設けられた台座に設置し、所定の温度に温調した雰囲気下で、直径30mmの半球状のポンチをプリプレグ積層体の中央に当てポンチの中央が前記台座の穴の中央を通るように、ポンチをプリプレグ積層体に押し付けながら、押し込んで行き、プリプレグ積層体にポンチが接触してからプリプレグ積層体にシワが発生するまでのポンチの変位を計測し、この測定を40〜80℃の温度範囲で10℃刻みに行った場合に、プリプレグ積層体にポンチが接触してからプリプレグ積層体にシワが発生するまでのポンチの変位が15mm以上である温度が、40〜80℃の温度範囲内に存在するプリプレグである。
【0057】
プリプレグ積層体の賦形性を定量的に評価する測定法として、平板状のプリプレグ積層体に半球状のポンチを押し当て、形状追従できずシワが発生するまでの押し込み量を計測する。本測定法は、恒温槽を具した万能試験機にて、所定の温度下でロードセルに直結したポンチでプリプレグを押し込むことで、荷重が低下する点もしくは荷重を変位量で割った剛性が低下する点をもってシワが発生する変位を一意に同定することができる。具体的には、炭素繊維の配向方向を0°方向として、プリプレグを150mm角に0°方向および45°方向に切り出した後、[45/0/−45/90]
2Sに計16枚積層して30分間密閉空間を真空引きすることでプリプレグ同士の密着性を高めた後、プラスチック製の耐熱バグフィルムで密封し、真空引きを行いながら、測定する所定の温度に温調した恒温槽内で直径100mmの穴が設けられた台座にセットし、10分間温調した後、試験を開始する。直径30mmの半球状のポンチを、ポンチ中央が前記台座の穴中央を通るよう、速度5mm/minで、プリプレグ積層体に押し付けながら、押し込んで行き、プリプレグ積層体にポンチが接触してからプリプレグ積層体にシワが発生するまでのポンチの変位を計測する。ポンチ押込みにより形成された三次元形状は様々な形状を代表している。40〜80℃の温度範囲で10℃刻みに上記の測定を行い、プリプレグ積層体にポンチが接触してからプリプレグ積層体にシワが発生するまでのポンチの変位が15mm以上である温度が、40〜80℃の温度範囲内に存在すれば、該温度においてプリプレグ積層体を複雑形状へシワなく賦形することができる。好ましくはプリプレグ積層体にポンチが接触してからプリプレグ積層体にシワが発生するまでのポンチの変位が20mm以上である温度が、40〜80℃の温度範囲内に存在するのがよい。さらに好ましくは該変位が25mm以上である。
【0058】
さらに好ましくは、プリプレグ積層体にポンチが接触してからプリプレグ積層体にシワが発生するまでのポンチの変位が15mm以上である温度領域が、40〜80℃の温度範囲内に20℃以上の幅にわたって存在するのがよい。熱伝導率の低いプリプレグ積層体を用いた大型部材の賦形においては、部位による温度差が20℃以上となることもあるので、広い温度領域で高い賦形性を有するプリプレグである方がよい。
【0059】
プリプレグを擬似等方に積層および成形し、硬化して得られた積層板をASTM D7137/7137M−07にて規定される平板状の試験片に加工したときに、ASTM D7137/7137M−07に準拠して測定した該積層板の衝撃後圧縮強度(CAI)が250MPa以上であることが好ましい。かかる衝撃後圧縮強度は、好ましくは300MPa以上であり、さらに好ましくは350MPaである。なお、試験片に層間剥離を生じさせる落錘衝撃工程はASTM D7136/7136M−07に従い実施する。試験は5回行い、それらの平均値を衝撃後圧縮強度(CAI)とする。CAIが高いほど衝撃特性が高く、航空機構造部材の設計要求に適し、部材軽量化に寄与する。ここで、擬似等方に積層するとは、積層するプリプレグの繊維方向を、少しずつずらして積層することにより、積層体全体としては繊維の配向が等方的になることを意味する。特に本発明においては、隣接する4層のプリプレグの繊維方向が、−45°、0°、45°、および90°になるように、繊維方向を45°ずつずらしてプリプレグを積層することで等方性を確保した。
【0060】
プリプレグを一方向に積層した積層体を成形し、硬化して得られた積層板を、JIS K7086−1993に準拠して測定した破壊靭性値G
ICが450J/m
2以上であることが好ましい。破壊靭性値G
ICは、さらに好ましくは550J/m
2以上である。試験は5回行い、それらの平均値を破壊靭性値G
ICとする。層間靭性が高いことで、繊維が配向していない方向への想定外の破壊を防ぐことができる。特に航空機構造部材の破壊の多くがモードIであり、G
ICが重要な力学特性となる。ここで、一方向に積層するとは、積層するプリプレグの繊維方向を同一方向にそろえて積層することを意味する。
【0061】
プリプレグを一方向に積層した積層体を成形し、硬化して得られた積層板を、JIS K7086−1993に準拠して測定した破壊靭性値G
IICが2200J/m
2以上であることが好ましい。破壊靭性値G
IICは、さらに好ましくは2900J/m
2以上である。試験は5回行い、それらの平均値を破壊靭性値G
IICとする。G
IC同様、層間靭性が高いことで、繊維が配向していない方向への想定外の破壊を防ぐことができる。航空機構造部材の破壊モードの一つ、スキン−ストリンガーの剥離はモードIIであることが知られ、G
IICが重要な力学特性となる。またCAIを向上するためには、G
IICの向上により、面外衝撃荷重に対し層間剥離を抑制することが有効であり、高衝撃強度を実現するためにもG
IICが重要な力学特性となる。
【0062】
次に本発明のプリプレグの具体的な様態について説明する。
【0063】
本発明者らは、繊維層中に樹脂層の熱硬化性樹脂が移行することにより、樹脂層に含まれる固体状成分、すなわち熱可塑性樹脂や固体状の硬化剤等の熱硬化性樹脂に対する割合が増え、プリプレグ積層体の賦形時に層間が滑る際、樹脂層中の固体状成分同士、もしくは該固体状成分と繊維層中の繊維との接触が層間摩擦を増大し、シワ発生に繋がることを見出した。そして、樹脂層と繊維層との間に樹脂層中の熱硬化性樹脂の繊維層への移行を防止する沈み込み防止層を形成することにより、プリプレグの保管中および賦形のための加温加圧中に、樹脂層の熱硬化性樹脂が繊維層へ移行することを防止できることを見出した。沈み込み防止層は、室温〜100℃の温度領域、より好ましくは40〜80℃の温度領域で、樹脂層中の熱硬化性樹脂が繊維層へ移行することを防止する。加えて沈み込み防止層は、プリプレグ積層体の賦形時に潤滑剤としても作用する。沈み込み防止層の存在により、賦形中に、樹脂層中の固体状成分同士、もしくは該固体状成分と繊維層中の繊維との接触を減少させることができ、層間滑りを促進する。また、沈み込み防止層自体が潤滑剤として滑ることで、さらに層間滑りが促進される。沈み込み防止層は、プリプレグの保管中および賦形時に存在すればよく、沈み込み防止層を構成する樹脂は、成形温度、例えば180℃付近で熱硬化性樹脂中に分散し、得られた繊維強化プラスチックにおいては層を形成していなくてもよい。
【0064】
沈み込み防止層を構成する材料としては、固体状樹脂が好ましい。具体的には、熱可塑性樹脂、室温で固体状の熱硬化性樹脂、もしくはそれらの混合物からなるフィルム、不織布、粒子などがよい。固体状樹脂は、40℃で固体状であり、かつ、80℃で粘度10000Pa・s以下であるのがよい。40℃で固体状であることにより、沈み込み防止効果が高まる。また、80℃で粘度1000Pa・s以下であると潤滑剤としての効果が高まる。
【0065】
さらに沈み込み防止層に用いる固体状樹脂としては、熱可塑性樹脂に不相溶な樹脂を用いることも可能だが、熱可塑性樹脂に相溶な樹脂を用いることで、均質な熱硬化樹脂組成物を得ることができ、得られる繊維強化プラスチックの破壊強度も向上すると期待される。熱可塑性樹脂に相溶可能な固体状成分としては、高分子量のエポキシ樹脂、特に分子量が500以上のビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、フェノキシ樹脂等が有効である。
【0066】
沈み込み防止層を設ける手段としては、一方向に配列した炭素繊維に熱硬化性樹脂を含浸させて繊維層を得た後、該繊維層の少なくとも片面に、固体状樹脂を配置した後、該固体状樹脂を配置した面に、熱硬化性樹脂および熱硬化性樹脂に不溶な熱可塑性樹脂を含む樹脂層を配置する方法が例示できる。
【0067】
本発明のプリプレグの製造方法の好ましい態様は、一方向に配列した炭素繊維に熱硬化性樹脂を含浸させて繊維層を得た後、該繊維層の少なくとも片面に、25℃で固体状であり、かつ、80℃で粘度10000Pa・s以下である固体状樹脂を配置した後、該固体状樹脂を配置した面に、熱硬化性樹脂および該熱硬化性樹脂に不溶な熱可塑性樹脂を含む樹脂層を配置するプリプレグの製造方法であって、得られたプリプレグに含まれる炭素繊維の繊維質量が120〜300g/m
2、樹脂含有率が25〜50質量%であるプリプレグの製造方法である。なお、ここでいう粘度とは、動的粘弾性測定装置(ARES−G2:TA Instruments社製)を用い、直径40mmのパラレルプレートを用い、昇温速度2℃/minで単純昇温し、周波数0.5Hz、Gap1mmで測定することにより得られる複素粘性率η
*のことを指している。
【実施例】
【0068】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は、実施例に記載の発明に限定されるものではない。実施例で用いた樹脂原料、プリプレグおよび繊維強化複合材料の作製方法および評価法を、次に示す。実施例のプリプレグの作製環境および評価は、特に断りのない限り、温度25℃±2℃、相対湿度50%の雰囲気で行ったものである。
【0069】
(1)衝撃後圧縮強度(CAI)測定
次の(a)〜(e)の操作によりCAIを測定した。
(a)一方向プリプレグを[45/0/−45/90]
2Sで16ply積層した。
(b)前記プリプレグ積層体をナイロンフィルムで隙間のないように覆い、オートクレーブ中で昇温速度1.5℃/分で180℃まで昇温した後、温度180℃、圧力7kg/cm
2で2時間加熱加圧して硬化し、擬似等方材(炭素繊維強化複合材料)を成形した。
(c)前記擬似等方材より、0°方向を長さ方向として、長さ150±0.25mm、幅100±0.25mmのCAI試験片を切り出した。
(d)ASTM D7136/7136M−07に規定する試験方法に従い、落錘により前記CAI試験片に衝撃荷重を付与した。その後、超音波探傷法にて損傷面積を測定した。パネルに与えたインパクトのエネルギーは、成形板厚さ9点の平均から算出し、一律28.4Jとした。
(e)前記の手順により衝撃を付与したCAI試験片に対して、ASTM D7137/7137M−07に規定する試験方法に従い、“インストロン(登録商標)”万能試験機4208型を用い、CAI強度を測定した。測定した試験片の数は5とし、平均値をCAI強度とした。
【0070】
(2)モードI層間靭性(G
IC)測定
JIS K7086(1993)に準じ、次の(a)〜(f)の操作によりG
ICを測定した。
(a)一方向プリプレグを、繊維方向を同方向に揃えて16ply積層した。ただし、積層中央面(8ply目と9ply目の間)に、初期き裂を作製するため、厚み12.5μmのフッ素樹脂製フィルムを積層体端部から0°方向に40mm差し込んだ。
(b)積層したプリプレグをナイロンフィルムで隙間のないように覆い、オートクレーブ中で昇温速度1.5℃/分で180℃まで昇温した後、温度180℃、圧力7kg/cm
2で2時間加熱加圧して硬化し、一方向強化材(炭素繊維強化複合材料)を成形した。
(c)(b)で得た一方向強化材(炭素繊維強化複合材料)を、0°方向を長さ方向として、幅20mm、長さ195mmにカットし層間靭性試験用試験片を得た。このとき、繊維方向が試験片の長手方向と平行になるようにカットした。
(d)JIS K7086(1993)に従い、前記試験片にピン負荷用ブロック(長さ25mm、アルミ製)を試験片端部(フィルムをはさんだ側)に接着した。
(e)き裂進展を観察しやすくするため、前記試験片の両側面に白色塗料を塗った。
(f)前記試験片を用いて、以下の手順により、G
IC測定を行った。
【0071】
JIS K7086(1993)附属書1に従い、“インストロン(登録商標)”5565型を用いて試験を行った。クロスヘッドスピードは、き裂進展が20mmに到達するまでは0.5mm/min、20mm到達後は1mm/minとした。JIS K7086(1993)にしたがって、荷重、変位、および、き裂長さから、G
IC(き裂進展初期のG
IC)を算出した。測定した試験片の数は5とし、平均値をG
ICとした。
【0072】
(3)モードII層間靭性(G
IIC)測定
JIS K7086(1993)に準じ、次の(a)〜(e)の操作によりG
IICを測定した。
(a)一方向プリプレグを、繊維方向を同方向に揃えて16ply積層した。ただし、積層中央面(8ply目と9ply目の間)に、初期き裂を作製するため、厚み12.5μmのフッ素樹脂製フィルムを積層体端部から0°方向に40mm差し込んだ。
(b)積層したプリプレグをナイロンフィルムで隙間のないように覆い、オートクレーブ中で昇温速度1.5℃/分で180℃まで昇温した後、温度180℃、圧力7kg/cm
2で2時間加熱加圧して硬化し、一方向強化材(炭素繊維強化複合材料)を成形した。
(c)(b)で得た一方向強化材(炭素繊維強化複合材料)を、0°方向を長さ方向として、幅20mm、長さ195mmにカットし層間靭性試験用試験片を得た。繊維方向が試験片の長手方向と平行になるようにカットした。
(d)き裂進展を観察しやすくするため、前記試験片の両側面に白色塗料を塗った。
(e)前記試験片を用いて、以下の手順により、G
IIC測定を行った。
【0073】
JIS K7086(1993)附属書2に従い、“インストロン(登録商標)”5565型を用いて試験を行った。クロスヘッドスピードは、1mm/minとした。JIS K7086(1993)にしたがって、荷重、変位、および、き裂長さから、き裂進展初期の限界荷重に対応するG
IIC(き裂進展初期のG
IIC)を算出した。測定した試験片の数は5とし、平均値をG
IICとした。
【0074】
(4)プリプレグの層間摩擦係数測定
次の(a)〜(d)の操作により、層間摩擦係数を測定した。
【0075】
(a)
図1に示すように、0°方向を長さ方向として、幅40mm、長さ150mmに裁断した1層目のプリプレグ4に、幅30mm、長さ150mmに裁断した2層目のプリプレグ3を幅30mm、長さ60mmの範囲でオーバーラップするように積層し、さらに2層目のオーバーラップ部に接するように幅30mm、長さ20mmのスペーサー用プリプレグ5を積層した後、幅40mm、長さ150mmの3層目のプリプレグ4を1層目と重なるように積層した。その後、幅40mm×長さ30mmの離型紙2を1層目および3層目の外側に重なるよう貼り付けた。
【0076】
(b)オーバーラップ部およびスペーサーが形成する幅30mm、長さ80mmの領域のうち、長手方向に5mmずつ内側の領域(全体で幅30mm、長さ70mmの領域)に、加熱源を有した圧板1で所定の温度に温調しながら21Nの一定垂直荷重(圧力0.1bar)を加えた。
【0077】
(c)垂直荷重を加え始めて10分後に、2層目のプリプレグ3を繊維方向に引抜速度0.2mm/minで引抜き、引抜荷重を測定した。なお、引抜きとともに2層目のプリプレグ3が垂直荷重を受けるオーバーラップ部の面積が減少するため、引抜き変位で換算したオーバーラップ部の面積で受ける垂直荷重の2倍、すなわち21N×(60mm−引抜き変位)÷(70mm−引抜き変位)×2で引抜き荷重を割ったものを層間摩擦係数とし、引抜開始から5分後および10分後、すなわち引抜き変位1mmおよび2mmにおける層間摩擦係数を5回測定し、該5回測定値の平均をそれぞれの変位における層間摩擦係数の値とした。
【0078】
(d)上記(a)〜(c)の測定を40〜80℃の温度範囲で10℃刻みに実施した。
【0079】
(5)プリプレグの表面形状測定
次の(a)〜(c)の操作により、プリプレグを24時間暴露した際の繊維直交方向の直線上における表面形状の極値頻度を測定した。
【0080】
(a)上記(4)の手段により40〜80℃の温度範囲で10℃刻みに変位1mmにおけるプリプレグの層間摩擦係数を測定し、該層間摩擦係数が最低となる温度を求めた。プリプレグの両端を含む5箇所を幅方向に略均等に20mm角のサイズに切り出し、離型紙を剥がした。前記のようにして求めた層間摩擦係数が最低となる温度に温調したオーブン内に、切り出した5枚のプリプレグを、離型紙を剥がした面を上面として24時間暴露した後、プリプレグ表面に触れることなく室温まで冷却した。
【0081】
(b)プリプレグ表面の離型紙を剥がした面を、キーエンス社のデジタルマイクロスコープVHX500を用いて深度合成法により測定し、
図2に示す表面の高さプロファイルを得た。このとき、プリプレグ表面を炭素繊維の配向方向と直交する方向にスキャンし、長さ1.1mmに相当する範囲の直線上の表面高さを1.1μmの間隔で取得した。測定は、20mm角のサイズのプリプレグ5枚に対してそれぞれ5回、計25回行なった。
【0082】
(c)
図2に示すように、スキャン方向に対して、スキャン点6のうち、表面高さの増減が逆転する点を極値7とし、極値7の数をスキャン長さで割り、1mm当たりの極値の個数を求めた。計25回の測定で求めた1mm当たりの極値の個数を平均し、表面形状の極値頻度とした。
【0083】
(6)プリプレグ積層体の賦形性測定
次の(a)〜(e)の操作により、プリプレグ積層体の賦形性を測定した。測定の模式図を
図3に示す。
(a)プリプレグを150mm角に0°方向および45°方向に切り出した後、積層パターンが[45/0/−45/90]
2Sとなるように計16枚を積層して30分間密閉空間を真空引きしプリプレグ積層体8とした。
(b)万能試験機の恒温槽内に、直径30mmの半球状のポンチ9を上側に、直径100mmの穴が設けられた台座12を下側に、ポンチ9の中央が台座12の穴中央を通るよう配置し、所定の温度に温調した。
(c)(a)で得られたプリプレグ積層体8をナイロン製の耐熱バグフィルム10で密封し、真空引き11を行いながら、所定の温度に温調した恒温槽内の台座12上にセットし、ポンチ9先端がプリプレグ積層体8の中央に接触した状態で、恒温槽を閉じた後、10分後に試験を開始した。
(d)速度5mm/minでポンチを、プリプレグ積層体8に押し付けながら、台座12の穴に押し込んで行き、プリプレグ積層体8にポンチ9が接触してからプリプレグ積層体8にシワが発生するまでのポンチ9の変位を計測した。
(e)上記(a)〜(d)の測定を40〜80℃の温度範囲で10℃刻みに実施した。
【0084】
(7)ホットフォーミング賦形試験
次の(a)〜(d)の操作により、ホットフォーミング賦形試験およびシワ判定を行った。
(a)積層パターン[45/−45/0/90]
2Sとなるように、0°方向を繊維配向方向として、幅15cm、長さ15cmのプリプレグを16層積層した。
(b)
図4に示すような、幅5cm、高さ10cm、X=6cm、Y=0.3cmの段差が設けられ、全辺がR=5mmの賦形型13をシリコンラバー14、シール16が具備されたフレーム15にセットし、(1)の方法で測定した層間摩擦係数が最も低くなる温度に設定したオーブンで30分温調した。
(c)プリプレグ積層体8を賦形型13の上に配置し、オーブン内で10分温調した後、フレーム15内を150秒かけて真空引き11した。これによって、プリプレグ積層体8の両端部が90°曲げられた賦型後プリプレグ積層体17が得られた。
(d)賦型後プリプレグ積層体17の曲げられた部分の内側に生成するシワを、深いシワ、成形すれば消える細かいシワ、シワなしの3種類で判定した。
【0085】
(8)熱可塑樹脂粒子の不溶性評価
(2)(c)で作製した一方向強化材の0°方向に垂直な面でカットし、その断面を、強化繊維と熱硬化性樹脂との界面が明確に見えるまで研磨し、その表面を光学顕微鏡で観察し、繊維層間に存在する樹脂層中の熱可塑性樹脂粒子を観察した。この際に、粒状の熱可塑性樹脂粒子と周囲の熱硬化性樹脂との界面が明確に見える場合は不溶とした。一方、熱可塑性樹脂粒子が周囲の熱硬化性樹脂との区別がつかない場合は可溶とした。
【0086】
(実施例1)
(a)熱可塑性樹脂粒子の調製
透明ポリアミド(製品名:“グリルアミド(登録商標)”−TR55、EMSER Werke社)90質量部、エポキシ樹脂(製品名:“エピコート(登録商標)”828、シェル石油化学社製)7.5質量部および硬化剤(製品名:“トーマイド(登録商標)”#296、フジ化成工業株式会社製)2.5質量部を、クロロホルム300質量部およびメタノール100質量部を含有する溶媒混合物に加えて均一な溶液とした。次に、得られた均一な溶液を塗装用スプレーガンで霧化し、n−ヘキサン3000質量部の液体表面に向けて噴霧した。沈殿した固体を濾過により分離し、n−ヘキサンで十分に洗浄し、次いで100℃で24時間真空乾燥させて球状エポキシ変性ナイロン粒子を得た。エポキシ変性ナイロン粒子をCCEテクノロジーズ社製のCCE分級機で分球した。得られた粒子の90体積%粒子径は28μm、CV値が60%であった。また、得られた粉体を走査型電子顕微鏡にて観察したところ、真球度96の微粒子形状であり、平均粒子径14μmであった。
【0087】
(b)樹脂組成物の調製
(1)13質量部のポリエーテルスルホン(“スミカエクセル(登録商標)“、PES5003P)を、混練機中の60質量部のテトラグリシジルジアミノジフェニルメタン(“アラルダイト(登録商標)”MY9655)および12.6質量部のビスフェノールA型液状エポキシ樹脂(“エポン(登録商標)”825)に加えて溶解させ、次いで硬化剤として、ジアミノジフェニルスルホン(“アラドゥール(登録商標)”9664−1)を45質量部加えて混練することにより、繊維層用の熱硬化性樹脂組成物(A)を作製した。
【0088】
(2)16質量部のPES5003Pを、混練機中の60質量部の“アラルダイト(登録商標)”MY9655および40質量部の“エポン(登録商標)”825に加えて溶解させ、(a)で作製した熱可塑性粒子を80質量部加えて混練し、次いで硬化剤として“アラドゥール(登録商標)”9664−1を45質量部加えて混練することにより、樹脂層用の熱硬化性樹脂組成物(B)を作製した。
【0089】
(c)プリプレグの作製
(b)(1)で作製した熱硬化性樹脂組成物(A)をナイフコーターで離型紙に塗布して、樹脂量30g/m
2の樹脂フィルム(A)を2枚作製した。次に、2枚の樹脂フィルム(A)を、一方向に配列されたシート状の炭素繊維(“トレカ(登録商標)”T800S−12K)の両面に積層し、加熱・加圧して樹脂を炭素繊維シートに含浸させ、一方向炭素繊維シートおよび熱硬化性樹脂組成物(A)からなる繊維層を作製した。その後、固体状エポキシ樹脂“jER(登録商標)1001”を乳鉢で粉体となるよう粉砕し、32μmの目の篩を用いて、先ほど作製した繊維層の両面の表面に、片面10g/m
2ずつ散布した。なお、jER(登録商標)1001は25℃では固体状であり、昇温速度2℃/分、振動周波数0.5Hz、パラレルプレート(直径40mm)の条件下で取得した粘度は80℃で120Pa・sであった。次いで、両面を離型紙で挟み、バグフィルムで密封した後、60℃に温調しながら5分間真空引きすることにより、繊維層の両面に、固体状エポキシ樹脂の層が配置された一方向炭素繊維強化プリプレグ前駆体を作製した。
【0090】
次に、(b)(2)で作製した熱硬化性樹脂組成物(B)をナイフコーターで離型紙に塗布して、樹脂量30g/m
2の樹脂フィルム(B)を2枚作製した。先ほど作製した一方向炭素繊維強化プリプレグ前駆体の離型紙を剥離した後、両面に樹脂フィルム(B)を積層し、バグフィルムで密封した後、50℃に温調しながら5分間真空引きした。このようにして、繊維層の両面に、固体状エポキシ樹脂の層と熱可塑性樹脂粒子を含む樹脂層がこの順に配置され、繊維質量が270g/m
2でマトリックス樹脂の樹脂含有率が34質量%の一方向炭素繊維強化プリプレグを作製した。
【0091】
得られたプリプレグを用いて、前述の手法により、層間摩擦測定、表面観察および賦形試験を行った。また、得られたプリプレグを用い炭素繊維複合材料を作製した。結果を表1および表2に示す。
【0092】
(比較例1)
(a)樹脂組成物の調製
13質量部のPES5003Pを、混練機中の60質量部の“アラルダイト(登録商標)”MY9655および40質量部の“エポン(登録商標)”825に加えて溶解させ、次いで硬化剤として、“アラドゥール(登録商標)”9664−1を45質量部加えて混練して熱硬化性樹脂組成物(C)を作製した。
【0093】
(b)プリプレグの作製
(a)で作製した熱硬化性樹脂組成物(C)をナイフコーターで離型紙に塗布して、樹脂量40g/m
2の樹脂フィルムを2枚作製した。次に、作製したこの2枚の樹脂フィルムを、一方向に配列されたシート状の炭素繊維(“トレカ(登録商標)”T800S−12K)の両面に積層し、実施例1と同様の条件、加熱・加圧して樹脂を炭素繊維シートに含浸させ、一方向炭素繊維強化プリプレグを作製した。さらに実施例1(b)(2)で作製した熱硬化性樹脂組成物(B)をナイフコーターで離型紙に塗布して、樹脂量30g/m
2の樹脂フィルムを2枚作製して、先ほど作製した一方向炭素繊維強化プリプレグの両面に積層し、加熱・加圧して樹脂を積層した。このようにして、繊維層の両面に、熱可塑性樹脂粒子を含む樹脂層が配置され、繊維質量が270g/m
2でマトリックス樹脂の樹脂含有率が34質量%の一方向炭素繊維強化プリプレグを作製した。
【0094】
得られたプリプレグを用い、層間摩擦測定、表面観察および賦形試験を行った。また、得られたプリプレグを用い炭素繊維複合材料を作製した。結果を表1および表2に示す。
【0095】
(比較例2)
(a)樹脂組成物の調製
16質量部のPES5003Pを、混練機中の60質量部の“アラルダイト(登録商標)”MY9655および40質量部の“エポン(登録商標)”825に加えて溶解させ、次いで硬化剤として“アラドゥール(登録商標)”9664−1を45質量部加えて混練して熱硬化性樹脂組成物(D)を作製した。
【0096】
(b)プリプレグの作製
比較例1(a)で作製した熱硬化性樹脂組成物(C)をナイフコーターで離型紙に塗布して、樹脂量40g/m
2の樹脂フィルムを2枚作製した。次に、作製したこの2枚の樹脂フィルムを、一方向に配列されたシート状の炭素繊維(“トレカ(登録商標)”T800S−12K)の両面に積層し、加熱・加圧して樹脂を炭素繊維シートに含浸させ、一方向炭素繊維強化プリプレグを作製した。さらに(a)で作製した熱可塑粒子を含まない熱硬化性樹脂組成物(D)をナイフコーターで離型紙に塗布して、樹脂量30g/m
2の樹脂フィルムを2枚作製して、先ほど作製した一方向炭素繊維強化プリプレグの両面に積層し、加熱・加圧して樹脂を積層した。このようにして、繊維層の両面に、熱可塑性樹脂粒子を含まない樹脂層が配置され、繊維質量が270g/m
2でマトリックス樹脂の樹脂含有率が34質量%の一方向炭素繊維強化プリプレグを作製した。
【0097】
得られたプリプレグを用い、層間摩擦測定、表面観察および賦形試験を行った。また、得られたプリプレグを用い炭素繊維複合材料を作製した。結果を表1および表2に示す。
【0098】
【表1】
【0099】
【表2】