(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記純スピン流発生部の一端に接続された前記低抵抗部と、前記純スピン流発生部の他端に接続された前記低抵抗部とが、分離されている請求項1に記載のスピン流磁化反転素子。
前記純スピン流発生部は、d電子またはf電子を有する原子番号39番以上の非磁性金属を含み、前記純スピン流発生部の電気抵抗率が前記低抵抗部の電気抵抗率の2倍以上大きい請求項1〜6のいずれか一項に記載のスピン流磁化反転素子。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明について、図を適宜参照しながら詳細に説明する。以下の説明で用いる図面は、本発明の特徴をわかりやすくするために便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などは実際とは異なっていることがある。以下の説明において例示される材料、寸法等は一例であって、本発明はそれらに限定されるものではなく、本発明の効果を奏する範囲で適宜変更して実施することが可能である。本発明の素子において、本発明の効果を奏する範囲で他の層を備えてもよい。
【0022】
(スピン流磁化反転素子)
本発明のスピン流磁化反転素子は、磁化方向が変化する(可変な)第1強磁性金属層と、第1強磁性金属層の面直方向である第1方向に対して交差する第2方向に延在し、第1強磁性金属層の第1面に接合するスピン軌道トルク配線と、を備え、スピン軌道トルク配線は、第1強磁性金属層に接合する純スピン流発生部と、純スピン流発生部よりも電気抵抗率が小さい材料からなる低抵抗部とからなり、純スピン流発生部は、第1方向に直交する断面の面積が第1方向において第1強磁性金属層に接合する接合面から遠ざかるにつれて、連続的に及び/又は段階的に大きくなるように形成されてなる。
ここで、「連続的に及び/又は段階的に大きくなる」とは、「連続的に大きくなる」場合と、「段階的に大きくなる」場合と、「連続的に大きくなる部分と段階的に大きくなる部分とを有する」場合とを含む。「連続的に大きくなる」場合とは、徐々に大きくなる場合であり、大きくなる程度は特に限定はない(
図1、
図4〜
図8、
図12、
図13参照)。「段階的に大きくなる」場合とは、所定の大きさが複数段階で大きくなる場合である(
図10参照)。「連続的に大きくなる部分と段階的に大きくなる部分とを有する」場合とは、連続的に大きくなる部分と段階的に大きくなる部分の配置順は特に限定はなく、また各部分の数にも限定はないが、第1強磁性金属層に接合する接合面から遠く離れる方向では、遠い側の当該断面積は近い側の当該断面積と同じか、あるいは、大きいかのいずれかである場合である(
図9、
図11参照)。「連続的に大きくなる部分と段階的に大きくなる部分とを有する」場合の例としては、接合面から遠ざかるについてまず断面積が一定の大きさの部分があり、その後に連続的に大きくなる部分が続く構成である(
図9参照)。
スピン軌道トルク配線層と第1強磁性金属層との接合は、「直接」接合してもよいし、後述するようにキャップ層のような「他の層を介して」接合してもよく、スピン軌道トルク配線で発生した純スピン流が第1強磁性金属層に流れ込む構成であれば、スピン軌道トルク配線と第1強磁性金属層との接合(接続あるいは結合)の仕方は限定されない。
【0023】
図1に、本発明の一実施形態に係るスピン流磁化反転素子の一例の模式図を示す。
図1(a)は平面図であり、
図1(b)は
図1(a)のスピン軌道トルク配線2の幅方向の中心線であるX−X線で切った断面図である。
図1に示すスピン流磁化反転素子10は、第1面1aと該第1面1aの反対側の第2面1bとを有し、磁化方向が変化する第1強磁性金属層1と、第1強磁性金属層1の面直方向である第1方向(z方向)に対して交差する第2方向(x方向)に延在し、第1強磁性金属層1の第1面1aに接合するスピン軌道トルク配線2と、を備え、スピン軌道トルク配線2は、第1強磁性金属層1に接合する純スピン流発生部2Aと、純スピン流発生部2Aよりも電気抵抗率が小さい材料からなる低抵抗部2Bとからなり、純スピン流発生部2Aは、第1方向に直交する断面の面積が第1方向において第1強磁性金属層1に接合する接合面2Aaから遠ざかるにつれて、連続的に大きくなるように形成されてなる。すなわち、純スピン流発生部2Aが、第1方向(z方向)に直交するいずれの断面の面積(例えば、CS1、CS2)も第1強磁性金属層1に接合する接合面2Aaの断面積(接合面積)CS0より小さくなるように形成されてなる。言い換えると、純スピン流発生部2Aが、第1強磁性金属層1に接合する接合面2Aaの断面積(接合面積)CS0が第1方向に直交する断面の面積中で最も小さくなるように形成されてなる。
なお、
図1(b)において、符号CS0、CS1、CS2で示した点線矢印の長さは断面積の大きさを模式的に示すものである。第1強磁性金属層1に接合する接合面2Aaの接合面積CS0は離れた位置に示したが、単に図示上の都合による。
図1(a)から
図1(b)に延びる4本の点線は、内側の2本の点線は純スピン流発生部2Aの第1強磁性金属層1との接合面2Aaのx方向の長さを示すものであり、外側の2本の点線は純スピン流発生部2Aの第1強磁性金属層1との接合面2Aaの反対側の面2Abのx方向の長さを示すものである。
以下、第1強磁性金属層1の面直方向もしくは第1強磁性金属層1とスピン軌道トルク配線2とが積層する方向(第1方向)をz方向、z方向と垂直でスピン軌道トルク配線2と平行な方向(第2方向)をx方向、x方向及びz方向と直交する方向(第3方向)をy方向とする。
図1を含めて以下では、スピン軌道トルク配線が第1強磁性金属層の面直方向である第1方向に対して交差する方向に延在する構成の例として、第1方向に対して直交する方向に延在する構成の場合について説明する。
【0024】
本発明のスピン流磁化反転素子すなわち、純スピン流によるSOT効果で強磁性金属層の磁化反転を行う素子は、従来のSTTを利用する磁気抵抗効果素子において強磁性金属層の磁化反転のアシスト手段あるいは主力手段として用いることもできるし、純スピン流によるSOTのみで強磁性金属層の磁化反転を行う新規の磁気抵抗効果素子において用いることもできる。
【0025】
<スピン軌道トルク配線>
スピン軌道トルク配線2は、電流が流れるとスピンホール効果によって純スピン流が生成される材料からなる。本発明のスピン軌道トルク配線2は、第1強磁性金属層1に接合する純スピン流発生部2Aと、第2方向における純スピン流発生部2Aの両端に接続され、純スピン流発生部2Aよりも電気抵抗の小さい材料からなる低抵抗部2Bとからなる。
スピンホール効果とは、材料に電流を流した場合にスピン軌道相互作用に基づき、電流の向きに直交する方向に純スピン流が誘起される現象である。
【0026】
図2は、スピンホール効果について説明するための模式図である。
図2は、
図1に示すスピン軌道トルク配線2をx方向に沿って切断した断面図である。
図2に基づいてスピンホール効果により純スピン流が生み出されるメカニズムを説明する。
【0027】
図2に示すように、スピン軌道トルク配線2の延在方向に電流Iを流すと、−y方向(紙面手前側)に配向した第1スピンS1と+y方向(紙面奥側)に配向した第2スピンS2はそれぞれ電流と直交する方向に曲げられる。通常のホール効果とスピンホール効果とは運動(移動)する電荷(電子)が運動(移動)方向を曲げられる点で共通するが、通常のホール効果は磁場中で運動する荷電粒子がローレンツ力を受けて運動方向を曲げられるのに対して、スピンホール効果では磁場が存在しないのに電子が移動するだけ(電流が流れるだけ)で移動方向が曲げられる点で大きく異なる。
【0028】
非磁性体(強磁性体ではない材料)では第1スピンS1の電子数と第2スピンS2の電子数とが等しいので、図中で上方向に向かう第1スピンS1の電子数と下方向に向かう第2スピンS2の電子数が等しい。そのため、電荷の正味の流れとしての電流はゼロである。この電流を伴わないスピン流は特に純スピン流と呼ばれる。
【0029】
強磁性体中に電流を流した場合は、第1スピンS1と第2スピンS2が互いに反対方向に曲げられる点は同じである。一方で、強磁性体中では第1スピンS1と第2スピンS2のいずれかが多い状態であり、結果として電荷の正味の流れが生じてしまう(電圧が発生してしまう)点が異なる。従って、スピン軌道トルク配線2の材料としては、強磁性体だけからなる材料は含まれない。
【0030】
ここで、第1スピンS1の電子の流れをJ
↑、第2スピンS2の電子の流れをJ
↓、スピン流をJ
Sと表すと、J
S=J
↑−J
↓で定義される。
図2においては、純スピン流としてJ
Sが図中の上方向に流れる。ここで、J
Sは分極率が100%の電子の流れである。
【0031】
図1において、スピン軌道トルク配線2の上面に強磁性体を接触させると、純スピン流は強磁性体中に拡散して流れ込む。すなわち、第1強磁性金属層1にスピンが注入される。
【0032】
本発明のスピン流磁化反転素子では、このようにスピン軌道トルク配線に電流を流して純スピン流を生成し、その純スピン流がスピン軌道トルク配線に接する第1強磁性金属層に拡散する構成とすることで、その純スピン流によるスピン軌道トルク(SOT)効果によって第1強磁性金属層の磁化反転を起こすものである。
【0033】
本発明のスピン流磁化反転素子の磁化反転のために流す電流として、SOT効果を利用するためにスピン軌道トルク配線に流す電流(以下、「SOT反転電流」ということがある。)がある。この電流自体は電荷の流れを伴う通常の電流であるため、電流を流すとジュール熱が発生する。
ここで、純スピン流を生成しやすい材料である重金属は、通常の配線として用いられる金属に比べて電気抵抗率が高い。
そのため、SOT反転電流によるジュール熱を低減する観点では、スピン軌道トルク配線はすべてが純スピン流を生成しうる材料だけからなるよりも、電気抵抗率が小さい部分を有することが好ましい。この観点で、本発明のスピン流磁化反転素子が備えるスピン軌道トルク配線は、純スピン流を発生する材料からなる部分(純スピン流発生部)と、この純スピン流発生部よりも電気抵抗率が小さい材料からなる部分(低抵抗部)とからなる。
【0034】
純スピン流発生部2Aは、純スピン流を生成しえる材料からなっていればよく、例えば、複数種類の材料部分からなる構成等であってもよい。
純スピン流発生部2Aは、タングステン、レニウム、オスミウム、イリジウム、及び、それらの金属を少なくとも1つ以上含む合金からなる群から選択された材料からなるものとすることができる。また、タングステン、レニウム、オスミウム及びイリジウムは、最外殻に5dの電子を持ち、d軌道の5つの軌道が縮退している場合に、大きな軌道角運動量を持つ。そのため、スピンホール効果を生じさせるスピン軌道相互作用が大きくなり、効率的にスピン流を発生させることができる。
低抵抗部2Bは、通常の配線として用いられる材料を用いることができる。例えば、アルミニウム、銀、銅、金等を用いることができる。低抵抗部2Bは、純スピン流発生部2Aよりも電気抵抗率が低い材料からなっていればよく、例えば、複数種類の材料部分からなる構成等であってもよい。
なお、低抵抗部において純スピン流が生成されても構わない。この場合、純スピン流発生部と低抵抗部との区別は、本明細書中に純スピン流発生部及び低抵抗部の材料として記載したものからなる部分は純スピン流発生部または低抵抗部であるとして区別できる。また、純スピン流を発生する主要部以外の部分であって、その主要部より電気抵抗率が低い部分は低抵抗部として、純スピン流発生部と区別できる。
【0035】
純スピン流発生部2Aは、その電気抵抗率が低抵抗部2Bの電気抵抗率より少なくとも2倍以上大きい材料からなるものとすることができる。このように電気抵抗率の差が大きいと、純スピン流発生部2Aと低抵抗部2Bの界面に電流が集中し、界面における電流密度が高くなる。
【0036】
純スピン流発生部2Aは、非磁性の重金属を含んでもよい。
ここで、重金属とは、イットリウム以上の比重を有する金属の意味で用いている。
この場合、非磁性の重金属は最外殻にd電子又はf電子を有する原子番号39以上の原子番号が大きい非磁性金属であることが好ましい。かかる非磁性金属は、スピンホール効果を生じさせるスピン軌道相互作用が大きいからである。純スピン流発生部2Aは、最外殻にd電子又はf電子を有する原子番号39以上の原子番号が大きい非磁性金属だけからなってもよい。
通常、金属に電流を流すとすべての電子はそのスピンの向きに関わりなく、電流とは逆向きに動くのに対して、最外殻にd電子又はf電子を有する原子番号が大きい非磁性金属はスピン軌道相互作用が大きいためにスピンホール効果によって電子の動く方向が電子のスピンの向きに依存し、純スピン流が発生しやすい。
仮に、低抵抗部がCu(1.7μΩcm)からなるものとすると、原子番号39以上でかつCuよりも電気抵抗率が2倍以上大きい材料としては、Y,Zr,Nb,Mo,Ru,Pd,Cd,La,Hf,Ta,W,Re,Os,Ir,Pt,Hg,Ce,Pr,Nd, Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,Yb,Luが挙げられる。
【0037】
純スピン流発生部2Aが非磁性の重金属を含む場合、純スピン流を生成しうる重金属を所定の割合で含んでいればよい。さらにこの場合、純スピン流発生部は、純スピン流発生部の主成分よりも純スピン流を生成しうる重金属が十分少ない濃度領域であるか、または、純スピン流を生成しうる重金属が例えば主成分の90%以上の濃度領域であることが好ましい。この場合の重金属は、純スピン流を生成しうる重金属が最外殻にd電子又はf電子を有する原子番号39以上の非磁性金属100%であることが好ましい。
ここで、純スピン流発生部の主成分よりも純スピン流を生成しうる重金属が十分少ない濃度領域とは、例えば、銅を主成分とする純スピン流発生部において、モル比で重金属の濃度が10%以下を指す。スピン流発生部を構成する主成分が上述の重金属以外からなる場合、純スピン流発生部に含まれる重金属の濃度はモル比で50%以下であることが好ましく、10%以下であることがさらに好ましい。これらの濃度領域は、電子のスピン散乱の効果が有効に得られる領域である。重金属の濃度が低い場合、重金属よりも原子番号が小さい軽金属が主成分となる。なお、この場合、重金属は軽金属との合金を形成しているのではなく、軽金属中に重金属の原子が無秩序に分散していることを想定している。軽金属中ではスピン軌道相互作用が弱いため、スピンホール効果によって純スピン流は生成しにくい。しかしながら、電子が軽金属中の重金属を通過する際に、軽金属と重金属の界面でもスピンが散乱される効果があるため重金属の濃度が低い領域でも純スピン流が効率よく発生させることが可能である。重金属の濃度が50%を超えると、重金属中のスピンホール効果の割合(発生率)は大きくなるが、軽金属と重金属の界面の効果が低下するため総合的な効果が減少する。したがって、十分な界面の効果が期待できる程度の重金属の濃度が好ましい。
【0038】
また、純スピン流発生部2Aは、磁性金属を含んでもよい。磁性金属とは、強磁性金属、あるいは、反強磁性金属を指す。非磁性金属に微量な磁性金属が含まれるとスピン軌道相互作用が増強され、純スピン流発生部2Aに流す電流に対するスピン流生成効率を高くできるからである。純スピン流発生部2Aは、反強磁性金属だけからなってもよい。反強磁性金属は重金属が最外殻にd電子又はf電子を有する原子番号39以上の非磁性金属100%の場合と同等の効果を得ることができる。反強磁性金属は、例えば、IrMnやPtMnが好ましく、熱に対して安定なIrMnがより好ましい。
スピン軌道相互作用はスピン軌道トルク配線材料の物質の固有の内場によって生じるため、非磁性材料でも純スピン流が生じる。スピン軌道トルク配線材料に微量の磁性金属を添加すると、磁性金属自体が流れる電子スピンを散乱するためにスピン流生成効率が向上する。ただし、磁性金属の添加量が増大し過ぎると、発生した純スピン流が添加された磁性金属によって散乱されるため、結果としてスピン流が減少する作用が強くなる。したがって、添加される磁性金属のモル比は純スピン流発生部2Aの主成分のモル比よりも十分小さい方が好ましい。目安で言えば、添加される磁性金属のモル比は3%以下であることが好ましい。
【0039】
また、純スピン流発生部2Aは、トポロジカル絶縁体を含んでもよい。純スピン流発生部2Aは、トポロジカル絶縁体だけからなってもよい。トポロジカル絶縁体とは、物質内部が絶縁体、あるいは、高抵抗体であるが、その表面にスピン偏極した金属状態が生じている物質である。物質にはスピン軌道相互作用という内部磁場のようなものがある。そこで外部磁場が無くてもスピン軌道相互作用の効果で新たなトポロジカル相が発現する。これがトポロジカル絶縁体であり、強いスピン軌道相互作用とエッジにおける反転対称性の破れにより純スピン流を高効率で生成することができる。
トポロジカル絶縁体としては例えば、SnTe,Bi
1.5Sb
0.5Te
1.7Se
1.3,TlBiSe
2,Bi
2Te
3,(Bi
1−xSb
x)
2Te
3などが好ましい。これらのトポロジカル絶縁体は、高効率でスピン流を生成することが可能である。
【0040】
図1に示すスピン流磁化反転素子10は、スピン軌道トルク配線2が低抵抗部2Bを備えた構成とすることで回路全体の抵抗を下げることができ、かつ、スピン軌道トルク配線2を構成する純スピン流発生部2Aにおいて、第1強磁性金属層1に接合する接合面2Aaの接合面積CS0を最も小さくする構成とすることによって、純スピン流発生部2Aにおいて接合面2Aaでの電流密度を最も高くし、それによって、第1強磁性金属層1へ拡散していく純スピン流の密度を高くして、第1強磁性金属層1へのスピン注入の効率を向上させるものである。
【0041】
図1に示すスピン流磁化反転素子10では、純スピン流発生部2Aの第1強磁性金属層1の第1面1aに接合する面2Aaの反対側の面2Abは低抵抗部に覆われていない。
より詳細には、純スピン流発生部2Aの一端に接続された低抵抗部2Bと、純スピン流発生部2Aの他端に接続された低抵抗部2Bとが、分離されている。
つまり、一端に接続された低抵抗部2Bと他端に接続された低抵抗部2Bとが、純スピン流発生部2A以外の低抵抗部材料ではつながっていない。
この場合、スピン軌道トルク配線を流れる電流が純スピン流発生部2Aの下方から抜けていくことがない。
また、純スピン流発生部2Aの接合面2Aaは、第1強磁性金属層1の第1面1aと重なる領域に含まれている。
【0042】
以下、本発明のスピン軌道トルク配線が備える純スピン流発生部の形状とその効果について詳述する。
【0043】
図3を用いてまず、本発明の原理について説明する。
図3は、
図1(b)に示したスピン流磁化反転素子の断面図と同じ断面図である。
点線矢印I
0、I
1、I
2はそれぞれ、接合面積CS0の位置(すなわち、接合面2Aa)、断面積CS1の位置、断面積CS2の位置での電流密度を模式的に示すものである。その点線矢印の太さは電流密度の大きさの違いを模式的に示すものであり、太いほど電流密度が高い。
【0044】
スピン軌道トルク配線2において、低抵抗部2Bは1種類の材料からなり、その断面形状が一様であるため、その電流密度は一様である。一方、純スピン流発生部2Aでは材料は同じであるが、その断面積は第1強磁性金属層1の第1面1aから離れるほど大きくなっている。純スピン流発生部2Aは低抵抗部2Bよりも電気抵抗率が高い材料からなる。従って、純スピン流発生部の断面積がより小さい面に電流がより集中することになる。
図1に示すスピン軌道トルク配線2は、その純スピン流発生部2Aを、第1方向(z方向)に直交する断面の面積が第1方向において第1強磁性金属層1に接合する接合面2Aaから遠ざかるにつれて、連続的に大きくなるように形成されてなる構成(より具体的には、第1強磁性金属層1との接合面2Aaでの接合面積(「接合面における断面積」に相当)が第1強磁性金属層1との接合面から離れたどの断面の面積よりも小さくなるように形成してなる構成とすること)で、純スピン流発生部2Aのうち第1強磁性金属層1との接合面2Aaで電流を集中させるものである。その結果として、接合面2Aaに接合する第1強磁性金属層1へ拡散していく純スピン流の密度が高くなり、第1強磁性金属層1へのスピン注入の効率を向上させることができる。
純スピン流発生部の形状としては、z方向から平面視したときに第1強磁性金属層との接合面がその接合面から離れた断面の領域内に含まれる(接合面と当該断面が完全に重畳する場合も含む)形状であることが好ましい。
【0045】
図1に示す実施形態は、純スピン流発生部2Aが錐台形状を有するものである。すなわち、錐体から、頂点を共有し相似に縮小した錐体を取り除いた立体図形である。 ここで、 円錐からできる錐台を円錐台、楕円錐からできる錐台を楕円錐台、角錐からできる錐台を角錐台、n角錐からできる錐台をn角錐台と呼ぶとすると、
図1に示す例は、断面形状が長方形の四角錐台に相当するが、他の錐台形状であってもよい。
図1に示す実施形態では、純スピン流発生部2Aは、xz面に平行な断面において、低抵抗部2Bとの界面が直線状となるように形成されているが、曲線状となるように形成されていてもよい。曲線状とは低抵抗部側に凸になるような曲線状、純スピン流発生部側に凸になるような曲線状を含み、製造プロセスに応じた曲線状とすることができる。
【0046】
また、
図1に示す実施形態では、純スピン流発生部2Aの第1強磁性金属層1に接合する接合面2Aaは、第1強磁性金属層1の純スピン流発生部2Aに接合する接合面(第1面)1aとは一致する。言い換えると、z方向から平面視して接合面2Aaと接合面1aとは完全に重なる。この場合、純スピン流発生部2Aで発生した純スピン流を効果的に第1強磁性金属層1に拡散させることができる。
【0047】
また、
図1に示す実施形態では、低抵抗部2Bは、純スピン流発生部2Aを挟んで離間する第1低抵抗部2B1と第2低抵抗部2B2からなる構成である。このため、スピン軌道トルク配線2に流れる電流は必ず、純スピン流発生部2Aを通過するため、スピン軌道トルク配線2に流す電流(SOT反転電流)を全て純スピン流の発生のために使うことができる。
以下に示す他の実施形態においても特に断らない限りは、低抵抗部は、純スピン流発生部を挟んで離間する第1低抵抗部と第2低抵抗部からなる構成であるとする。
【0048】
また、
図1に示す実施形態では、スピン軌道トルク配線2の長手方向に直交する方向(y方向)の幅W1と、第1強磁性金属層1の同じ方向の幅W2が同じである。この場合、第1強磁性金属層1とスピン軌道トルク配線2とのy方向における両端の加工を同時に行うことができる。
【0049】
図1に示す実施形態では、第1強磁性金属層1はz方向から平面視して矩形(より正確には、長方形)であったが、
図4に示すように、楕円状であってもよいし、さらに他の形状であってもよい。この点は、以下に示す他の実施形態においても同様である。
但し、
図4に示すスピン流磁化反転素子20においては、純スピン流発生部2Aの第1強磁性金属層1に接合する接合面2Aaは、第1強磁性金属層11の純スピン流発生部2Aに接合する接合面11aとは一致しておらず、z方向から平面して接合面2Aaは接合面11aよりも大きい。この場合、
図1に示すスピン流磁化反転素子10に比べると、純スピン流発生部2Aで発生した純スピン流を十分には第1強磁性金属層11に拡散させることができない。
【0050】
また、第1強磁性金属層の形状に合わせて、純スピン流発生部の形状もその接合面が第1強磁性金属層の第1面と一致するような形状であってもよい。すなわち、例えば、
図4(a)において、純スピン流発生部2Aの第1強磁性金属層1に接合する接合面2Aaが第1強磁性金属層11の純スピン流発生部2Aに接合する接合面11aと一致して、z方向から平面視して接合面2Aaが接合面11aに重なる構成であってもよい。
【0051】
図5に、本発明の他の実施形態に係るスピン流磁化反転素子の一例の模式図を示す。
図5(a)は平面図であり、
図5(b)は
図5(a)のスピン軌道トルク配線12の幅方向の中心線であるX−X線で切った断面図である。
図1と同様な構成について、同じ符号を用いて説明を省略する。
図5に示すスピン流磁化反転素子30も、スピン軌道トルク配線12の純スピン流発生部12Aが、第1方向(z方向)に直交する断面の面積が第1方向(z方向)において第1強磁性金属層1に接合する接合面12Aaから遠ざかるにつれて、連続的に大きくなるように形成されてなる。すなわち、純スピン流発生部12Aが、第1方向(z方向)に直交するいずれの断面の面積(例えば、CS1、CS2)も第1強磁性金属層1に接合する接合面12Aaの断面積(接合面積)CS0より小さくなるように形成されてなる場合である。言い換えると、純スピン流発生部12Aが、第1強磁性金属層1に接合する接合面12Aaの断面積(接合面積)CS0が第1方向(z方向)に直交する断面の面積中で最も小さくなるように形成されてなる。従って、純スピン流発生部12Aのうち第1強磁性金属層1との接合面12Aaでの電流密度を最も高くするものである。その結果として、その第1強磁性金属層1へ拡散していく純スピン流の密度を高くし、第1強磁性金属層1へのスピン注入の効率を高くすることができる。
【0052】
また、
図5に示すスピン流磁化反転素子30においては、純スピン流発生部12Aと低抵抗部12Bとの境界の少なくとも一部は、第1強磁性金属層1の第1面1aに接している。
純スピン流発生部12Aのうち、低抵抗部12Bとの境界部分で、かつ接合面12Aa近傍に電流が最も集中するため、純スピン流が発生しやすい。従って、第1強磁性金属層1に効率的に純スピン流を流し込むことができる。純スピン流は拡散し、減衰するため第1強磁性金属層1の近傍で発生した純スピン流が最も第1強磁性金属層1の磁化反転に寄与する。第1強磁性金属層1近傍の純スピン流発生部12Aに電流が集中するため、第1強磁性金属層1に効率的に純スピン流を流し込むことができる。
【0053】
また、純スピン流発生部12Aで生成した純スピン流はx方向やy方向にも拡散するが、
図5に示すスピン流磁化反転素子30においては、純スピン流発生部12Aはその第1強磁性金属層1との接合面12Aaは第1強磁性金属層1の第1面1aよりも狭く形成されているため、例えば、第1強磁性金属層1との接合面12Aa近傍において低抵抗部12B寄りに発生した純スピン流がまず、x方向に多少拡散してもその後、第1強磁性金属層1へ拡散するような純スピン流を磁化反転に使うことが可能となる。
【0054】
また、
図5に示すスピン流磁化反転素子30においては、純スピン流発生部12Aは、その第1強磁性金属層1との接合面12Aaが第1方向(z方向)から平面視して、第1強磁性金属層1の第1面1aの範囲内に含まれおり、かつ、純スピン流発生部12Aの第1強磁性金属層1との接合面12Aaの反対側の第2面12Abの面積も
図1に示すスピン流磁化反転素子10と比べて小さい。このため、
図5に示すスピン流磁化反転素子30は、
図1に示すスピン流磁化反転素子10と比べて、低抵抗部が増大するため、素子全体の抵抗が下がるという効果を奏する。
【0055】
図6に、本発明の他の実施形態に係るスピン流磁化反転素子の一例の模式図を示す。
図6(a)は平面図であり、
図6(b)は
図6(a)のスピン軌道トルク配線22の幅方向の中心線であるX−X線で切った断面図である。
図1と同様な構成について、同じ符号を用いて説明を省略する。
図6に示すスピン流磁化反転素子40も、純スピン流発生部22Aが、第1方向(z方向)に直交する断面の断面積が第1方向(z方向)において第1強磁性金属層1に接合する接合面22Aaから遠ざかるにつれて、連続的に大きくなるように形成されてなる場合である。すなわち、純スピン流発生部22Aが、第1方向(z方向)に直交するいずれの断面の断面積(例えば、CS1、CS2)も第1強磁性金属層1に接合する接合面22Aaの断面積(接合面積)CS0より小さくなるように形成されてなる場合である。言い換えると、純スピン流発生部22Aが、第1強磁性金属層1に接合する接合面22Aaの断面積(接合面積)CS0が第1方向(z方向)に直交する断面の断面積中で最も小さくなるように形成されてなる。従って、純スピン流発生部22Aのうち第1強磁性金属層1との接合面22Aaでの電流密度を最も高くするものである。その結果として、その第1強磁性金属層1へ拡散していく純スピン流の密度を高くし、第1強磁性金属層1へのスピン注入の効率を高くすることができる。
【0056】
また、
図6に示すスピン流磁化反転素子40においては、スピン軌道トルク配線22の純スピン流発生部22Aは、その第1強磁性金属層1との接合面22Aaが第1方向(z方向)から平面視して、第1強磁性金属層1の第1面1aの面積よりも大きいため、
図1にスピン流磁化反転素子10や
図5に示すスピン流磁化反転素子30に比べて、純スピン流発生部22Aで発生した純スピン流のうち、第1強磁性金属層1に拡散させることができない割合が高い。
また、
図6に示すスピン流磁化反転素子40は、純スピン流発生部22Aの第1強磁性金属層1との接合面22Aaの反対側の第2面22Abの面積も
図1に示すスピン流磁化反転素子10や
図5に示すスピン流磁化反転素子30に比べて大きい。このため、
図6に示すスピン流磁化反転素子40は、
図1に示すスピン流磁化反転素子10や
図5に示すスピン流磁化反転素子30に比べて、純スピン流発生部が増大するため、素子全体の抵抗が上がってしまう。
【0057】
図7に、本発明の他の実施形態に係るスピン流磁化反転素子の一例の模式図を示す。
図7(a)は平面図であり、
図7(b)は
図7(a)のスピン軌道トルク配線32の幅方向の中心線であるX−X線で切った断面図である。
図1と同様な構成について、同じ符号を用いて説明を省略する。
図7に示すスピン流磁化反転素子50も、スピン軌道トルク配線32の純スピン流発生部32Aが、第1方向(z方向)に直交する断面の面積が第1方向(z方向)において第1強磁性金属層1に接合する接合面32Aaから遠ざかるにつれて、連続的に大きくなるように形成されてなる場合である。すなわち、純スピン流発生部32Aが、第1方向(z方向)に直交するいずれの断面の面積(例えば、CS1、CS2)も、低抵抗部32Bの第1強磁性金属層1側の面32Baで切った断面32Aaaの断面積(接合面積)CS0より小さくなるように形成されてなる場合である。この場合、純スピン流発生部32Aが、第1方向(z方向)に直交する断面の面積が第1方向(z方向)において第1強磁性金属層1に接合する接合面32Aaから遠ざかるにつれて、連続的に大きくなるように形成されてなる場合ではあるが、純スピン流発生部32AにおいてSOT反転電流が流れる部分における最も断面積が小さい断面は、第1強磁性金属層1に接合する接合面32Aaではなく、低抵抗部32Bの第1強磁性金属層1側の面32Baで切った断面32Aaaである点に留意する。従って、純スピン流発生部32Aのうち、SOT反転電流が流れる部分であってかつ第1強磁性金属層1に接合する接合面32Aaに最も近いは低抵抗部32Bの第1強磁性金属層1側の面32Baで切った断面32Aaaであって、この断面32Aaaの電流密度を最も高くするものである。その結果として、その第1強磁性金属層1へ拡散していく純スピン流の密度を高くし、第1強磁性金属層1へのスピン注入の効率を高くすることができる。
【0058】
また、
図7に示すスピン流磁化反転素子50においては、純スピン流発生部32Aで発生した純スピン流が第1強磁性金属層1に拡散していくためには、低抵抗部32Bの第1強磁性金属層1側の面32Baで切った断面32Aaaと第1強磁性金属層1に接合する接合面32Aaとの距離がスピン拡散長より小さいことが好ましい。
また、
図7に示すスピン流磁化反転素子50においては、純スピン流発生部32Aのうち、SOT反転電流が流れる部分の体積が大きいため、
図1に示すスピン流磁化反転素子10や
図5に示すスピン流磁化反転素子30に比べて、純スピン流発生部が増大するため、素子全体の抵抗が上がってしまう。
【0059】
図8に、本発明の他の実施形態に係るスピン流磁化反転素子の一例の模式図を示す。
図8(a)は平面図であり、
図8(b)は
図8(a)のスピン軌道トルク配線42の幅方向の中心線であるX−X線で切った断面図である。
図1と同様な構成について、同じ符号を用いて説明を省略する。
図8に示すスピン流磁化反転素子60も、スピン軌道トルク配線42の純スピン流発生部42Aが、第1方向(z方向)に直交する断面の面積が第1方向(z方向)において第1強磁性金属層1に接合する接合面42Aaから遠ざかるにつれて、連続的に大きくなるように形成されてなる場合である。すなわち、純スピン流発生部42Aが、第1方向(z方向)に直交するいずれの断面の面積(例えば、CS1、CS2)も第1強磁性金属層1に接合する接合面42Aaの断面積(接合面積)CS0より大きくなるように形成されてなる場合である。言い換えると、純スピン流発生部42Aが、第1強磁性金属層1に接合する接合面42Aaの断面積(接合面積)CS0が第1方向(z方向)に直交する断面の面積中で最も小さくなるように形成されてなる。従って、純スピン流発生部42Aのうち第1強磁性金属層1との接合面42Aaでの電流密度を最も高くするものである。その結果として、その第1強磁性金属層1へ拡散していく純スピン流の密度を高くし、第1強磁性金属層1へのスピン注入の効率を高くすることができる。
【0060】
また、
図8に示すスピン流磁化反転素子60も、純スピン流発生部42Aの第1強磁性金属層1との接合面42Aaの反対側の第2面42Abが低抵抗部42Bの第1強磁性金属層1側の面42Baで切った断面より第1強磁性金属層1から遠ざかる方に突出している。
図8に示すスピン流磁化反転素子60は
図7に示すスピン流磁化反転素子50と同様に、純スピン流発生部を構成する材料のうち、SOT反転電流が流れない部分を有する点が共通であるが、純スピン流発生部42Aが第1強磁性金属層1に接合する接合面42AaにSOT反転電流が流れるため、純スピン流発生部42Aで発生した純スピン流が直接第1強磁性金属層1に拡散していく点では有利である。
【0061】
図9に、本発明の他の実施形態に係るスピン流磁化反転素子の一例の模式図を示す。
図9(a)は平面図であり、
図9(b)は
図9(a)のスピン軌道トルク配線52の幅方向の中心線であるX−X線で切った断面図である。
図1と同様な構成について、同じ符号を用いて説明を省略する。
図9に示すスピン流磁化反転素子70は、スピン軌道トルク配線52の純スピン流発生部52Aが、第1方向(z方向)に直交する断面の面積が第1方向(z方向)において第1強磁性金属層1に接合する接合面52Aaから遠ざかるにつれて、「連続的に大きくなる部分と段階的に大きくなる部分とを有する」場合特に、「連続的に大きくなる部分と一定の大きさの部分とを有する」場合である。純スピン流発生部52Aは、その断面積が第1方向(z方向)において第1強磁性金属層1に接合する接合面52Aaから遠ざかるにつれて順に、断面積が一定の大きさの部分52A1と、連続的に大きくなる部分52A2と有する。すなわち、純スピン流発生部52Aが、第1方向(z方向)に直交するいずれの断面の面積(例えば、CS1、CS2)も、低抵抗部52Bの第1強磁性金属層1側の面52Baで切った断面52Aaaの断面積(接合面積)CS0より大きくなるように形成されてなる場合である。この場合、純スピン流発生部52AにおいてSOT反転電流が流れる部分における最も断面積が小さい断面である断面52Aaaの断面積は、第1強磁性金属層1に接合する接合面52Aaの断面積(接合面積)と等しい点に留意する。純スピン流発生部52Aのうち、断面52Aaaの電流密度が最も高いものである。その結果として、その第1強磁性金属層1へ拡散していく純スピン流の密度を高くし、第1強磁性金属層1へのスピン注入の効率を高くすることができる。
【0062】
但し、
図9に示すスピン流磁化反転素子70においても、
図7に示すスピン流磁化反転素子50と同様に、純スピン流発生部52A2で発生した純スピン流が第1強磁性金属層1に拡散していくためには、断面積が一定の大きさの部分52A1のz方向の厚さがスピン拡散長より小さいことが好ましい。
【0063】
図10に、本発明の他の実施形態に係るスピン流磁化反転素子の一例の模式図を示す。
図10(a)は平面図であり、
図10(b)は
図10(a)のスピン軌道トルク配線62の幅方向の中心線であるX−X線で切った断面図である。
図1と同様な構成について、同じ符号を用いて説明を省略する。
図10に示すスピン流磁化反転素子80は、スピン軌道トルク配線62の純スピン流発生部62Aが、第1方向(z方向)に直交する断面の面積が第1方向(z方向)において第1強磁性金属層1に接合する接合面62Aaから遠ざかるにつれて、段階的に大きくなる場合である。純スピン流発生部62Aは、その断面積が第1方向(z方向)において第1強磁性金属層1に接合する接合面62Aaから遠ざかるにつれて順に、断面積CS3を有する部分62A1と、CS3よりも大きな断面積CS4を有する部分に大きくなる部分62A2と有する。この場合、純スピン流発生部62Aにおいて、断面積が小さい部分62A1を流れる電流密度は断面積が大きい部分62A2を流れる電流密度よりも大きく、その結果として、その第1強磁性金属層1へ拡散していく純スピン流の密度を高くし、第1強磁性金属層1へのスピン注入の効率を高くすることができる。
【0064】
図11に、
図1に示したスピン流磁化反転素子の変形例の模式図を示す。
図11(a)は平面図であり、
図11(b)は
図11(a)のスピン軌道トルク配線72の幅方向の中心線であるX−X線で切った断面図である。
図1と同様な構成について、同じ符号を用いて説明を省略する。
図11に示すスピン軌道トルク配線72は、純スピン流発生部72Aが、第1強磁性金属層1の第1面1aに接合された、四角錐台状の第1純スピン流発生部72A1と、スピン軌道トルク配線72の第1強磁性金属層1が形成された側と反対側の面側の一面全体に形成された第2純スピン流発生部72A2とからなる構成である点が、
図1に示したスピン流磁化反転素子10のスピン軌道トルク配線2との大きな違いである。
スピン軌道トルク配線72は、x方向に沿って、低抵抗部72Bと第2純スピン流発生部72A2とが積層された部分と、低抵抗部72Bと第1純スピン流発生部72A1の傾斜72A1aを含む部分と第2純スピン流発生部72A2とが積層された部分と、第1純スピン流発生部72A1と第2純スピン流発生部72A2が積層された部分と、低抵抗部72Bと第1純スピン流発生部72A1の傾斜72A1bを含む部分と第2純スピン流発生部72A2とが積層された部分と、低抵抗部72Bと第2純スピン流発生部72A2とが積層された部分と、からなる。
スピン軌道トルク配線72においては、第2純スピン流発生部72A2と低抵抗部72Bとが接する面積が広いため、純スピン流発生部72Aと低抵抗部72Bの密着性が高い。
【0065】
さらに、
図11に示すスピン軌道トルク配線72の変形例として、
図11(c)に示すように、第2純スピン流発生部72A2がスピン軌道トルク配線72の第1強磁性金属層1が形成された側と反対側の面側の一面全体ではなく、その一部に形成された構成としてもよい。この変形例では、純スピン流発生部の材料を減らすことができる。
【0066】
図11に示した
図1のスピン流磁化反転素子10の変形例と同様の変形は
図4〜
図10に示したスピン流磁化反転素子にも適用できる。
【0067】
図12に、
図1に示したスピン流磁化反転素子の変形例の模式図を示す。
図12(a)は平面図であり、
図12(b)は
図12(a)のスピン軌道トルク配線82の幅方向の中心線であるX−X線で切った断面図である。
図1と同様な構成について、同じ符号を用いて説明を省略する。
図12に示すスピン軌道トルク配線82においては、純スピン流発生部82Aはz方向の厚みが低抵抗部82Bより薄く、そのため、純スピン流発生部82Aの第1強磁性金属層1との接合面82Aaの反対側の面82Ab側には凹部82cを有する。また、スピン軌道トルク配線82は、純スピン流発生部82Aと、純スピン流発生部82Aを挟んで離間する第1低抵抗部82B1と第2低抵抗部82B2からなる低抵抗部82Bとからなる点は
図1と同様である。
スピン軌道トルク配線82においても、純スピン流発生部82Aにおいて第1強磁性金属層1との接合面82Aaで電流密度が最も高いことは
図1に示した実施形態と同様である。
【0068】
図12に示した
図1のスピン流磁化反転素子10の変形例と同様の変形は
図4〜
図10に示したスピン流磁化反転素子にも適用できる。
【0069】
図13に、
図1に示したスピン流磁化反転素子の変形例の模式図を示す。
図13(a)は平面図であり、
図13(b)は
図13(a)のスピン軌道トルク配線2の幅方向の中心線であるX−X線で切った断面図である。
図1と同様な構成について、同じ符号を用いて説明を省略する。
図13に示すスピン流磁化反転素子では、純スピン流発生部2Aの第1強磁性金属層21に接合する接合面2Aaは、第1強磁性金属層21の純スピン流発生部2Aに接合する接合面(第1面)21aとは一致する点は
図1に示したスピン流磁化反転素子と同様であるが、z方向から平面視して第1強磁性金属層21がスピン軌道トルク配線2より幅狭である点で異なる。
図13に示すスピン流磁化反転素子においても、スピン軌道トルク配線2は
図1に示したスピン軌道トルク配線2と同じ構成であるから、純スピン流発生部2Aのうち第1強磁性金属層31との接合面2Aaで電流を集中させるものである点で
図1に示したスピン流磁化反転素子と同様である。その結果として、接合面2Aaに接合する第1強磁性金属層31へ拡散していく純スピン流の密度が高くなり、第1強磁性金属層31へのスピン注入の効率を向上させることができる。
【0070】
図13に示した
図1のスピン流磁化反転素子10の変形例と同様の変形は
図4〜
図12に示したスピン流磁化反転素子にも適用できる。
【0071】
図14に、
図1に示したスピン流磁化反転素子の変形例の模式図を示す。
図14(a)は平面図であり、
図14(b)は
図14(a)のスピン軌道トルク配線2の幅方向の中心線であるX−X線で切った断面図である。
図1と同様な構成について、同じ符号を用いて説明を省略する。
図14に示すスピン流磁化反転素子では、純スピン流発生部2Aの第1強磁性金属層31に接合する接合面2Aaは、第1強磁性金属層31の純スピン流発生部2Aに接合する接合面(第1面)31aとは一致する点は
図1に示したスピン流磁化反転素子と同様であるが、z方向から平面視して第1強磁性金属層31がスピン軌道トルク配線2より幅広である点で異なる。
図14に示すスピン流磁化反転素子においても、スピン軌道トルク配線2は
図1に示したスピン軌道トルク配線2と同じ構成であるから、純スピン流発生部2Aのうち第1強磁性金属層41との接合面2Aaで電流を集中させるものである点で
図1に示したスピン流磁化反転素子と同様である。その結果として、接合面2Aaに接合する第1強磁性金属層41へ拡散していく純スピン流の密度が高くなり、第1強磁性金属層31へのスピン注入の効率を向上させることができる。
【0072】
図14に示した
図1のスピン流磁化反転素子10の変形例と同様の変形は
図4〜
図12に示したスピン流磁化反転素子にも適用できる。
【0073】
図15に、
図1に示したスピン流磁化反転素子の変形例の模式図を示す。
図15(a)は平面図であり、
図15(b)は
図15(a)のスピン軌道トルク配線92の幅方向の中心線であるX−X線で切った断面図である。
図1と同様な構成について、同じ符号を用いて説明を省略する。
図15に示すスピン軌道トルク配線92においては、純スピン流発生部92Aは、第1強磁性金属層1に接合する接合面92Aaが楕円状(楕円状の長軸は第1強磁性金属層1のx方向の長さより長い)となるような形状である点で
図1に示したスピン軌道トルク配線2と異なる。そのため、純スピン流発生部92Aと低抵抗部92Bとの境界のうち、符号92AB1、92AB2で示した部分は強磁性金属層1の接合面(第1面)1aに接していない。言い換えると、純スピン流発生部92Aと低抵抗部92Bとの境界の少なくとも一部(
図15(a)中の境界92AB1、92AB2以外の境界)だけが第1強磁性金属層1の接合面(第1面)1aに接している。
純スピン流発生部92Aのうち、低抵抗部92Bとの境界部分でかつ接合面92Aa近傍に電流が最も集中するため、純スピン流が発生しやすい。従って、第1強磁性金属層1に効率的に純スピン流を流し込むことができる。純スピン流は拡散し、減衰するため第1強磁性金属層1の近傍で発生した純スピン流が最も第1強磁性金属層1の磁化反転に寄与する。第1強磁性金属層1近傍の純スピン流発生部92Aに電流が集中するため、第1強磁性金属層1に効率的に純スピン流を流し込むことができる。
また、スピン軌道トルク配線92は、純スピン流発生部92Aと、純スピン流発生部92Aを挟んで離間する第1低抵抗部92B1と第2低抵抗部92B2からなる低抵抗部92Bとからなる点は
図1と同様である。
【0074】
図15に示した
図1のスピン流磁化反転素子10の変形例と同様の変形は
図4〜
図12に示したスピン流磁化反転素子にも適用でき、純スピン流発生部と低抵抗部との境界の形状は様々な形態をとることができる。
【0075】
スピン軌道トルク配線の第1強磁性金属層に接合する面の反対側の面に接合する絶縁層をさらに備えることができる。
この構成では、磁気抵抗効果素子やその他の用途に適用する場合に、スピン軌道トルク配線に流す電流が第1強磁性金属層に接合する面の反対側の面から漏れることが防止され、より電流集中効果を高めることができる。
【0076】
上述した実施形態ではスピン軌道トルク配線は、第1強磁性金属層に直接接続された場合のみを説明してきたが、後述するキャップ層のような他の層を介して接続されてもよい。
第1強磁性金属層については後述する。
【0077】
本発明のスピン流磁化反転素子は公知の方法を用いて製造することができる。
以下、
図1に図示したスピン流磁化反転素子10の製造方法について説明する。
まず、スピン流発生部2Aと第1強磁性金属層1は例えば、マグネトロンスパッタ装置を用いて、所定の基板(基材)に成膜することができる。成膜後、スピン流磁化反転素子を作成したい部分にレジストまたは保護膜を設置し、イオンミリング法または反応性イオンエッチング(RIE)法を用いて不要部分を除去する。その際に、イオンミリングまたはRIEのイオン照射方向とスピン流磁化反転素子10の相対角度(z軸からの角度θ)が変えられる機構を有する装置を利用する。スピン流磁化反転素子10に対するイオン照射の相対角度を変化させることで、角形比のよい素子や錐台形状の素子に形成することができることは公知である。
レジストまたは保護膜を設置されたスピン流磁化反転積層膜は、相対角度0度から30度で第1強磁性金属層1をミリングする。これにより角形比のよい第1強磁性金属層1が形成される。その後、相対角度を30度から80度の間で固定し、スピン生成部をミリングすることで傾斜が直線状のスピン生成部を形成することができる。また、相対角度を変化させながらミリングすることで曲線状の傾斜を有するスピン生成部を形成することができる。
その後、低抵抗部を成膜し、レジストまたは保護膜を設置し、ミリングすることでスピン軌道トルク配線形状に形成することができる。
また、第1強磁性金属層を後から成膜、形成することもできる。スピン生成部を上述の方法で錐台形状に形成した後に低抵抗部を成膜、及びスピン軌道トルク配線形状に形成した後、化学的機械研磨(CMP)を施すことにより平坦な面を設け第1強磁性金属層を積層することもできる。
スピン流発生部2A、第1強磁性金属層1の成膜に用いた基板は、通常であれば成膜後に除去するが、必要に応じて残しておいてもよい。
【0078】
本発明のスピン流磁化反転素子は後述するように磁気抵抗効果素子に適用することができる。用途としては磁気抵抗効果素子に限られず、他の用途にも適用できる。他の用途としては、例えば、上記のスピン流磁化反転素子を各画素に配設して、磁気光学効果を利用して入射光を空間的に変調する空間光変調器においても用いることができるし、磁気センサにおいて磁石の保磁力によるヒステリシスの効果を避けるために磁石の磁化容易軸に印加する磁場をSOTに置き換えてもよい。
【0079】
(磁気抵抗効果素子)
本発明の一実施形態に係る磁気抵抗効果素子は、本発明のスピン流磁化反転素子と、磁化方向が固定されている第2強磁性金属層と、第1強磁性金属層と第2強磁性金属層に挟持された非磁性層とを備えるものである。
【0080】
図16は、本発明のスピン流磁化反転素子の応用例であり、また、本発明の一実施形態に係る磁気抵抗効果素子でもある磁気抵抗効果素子を模式的に示した斜視図である。なお、
図16においては、本発明のスピン流磁化反転素子の特徴部分は図示を省略している。
図16に示す磁気抵抗効果素子100は、本発明のスピン流磁化反転素子(第1強磁性金属層101と、スピン軌道トルク配線120)と、磁化方向が固定された第2強磁性金属層103と、第1強磁性金属層101及び第2強磁性金属層103に挟持された非磁性層102とを有する。また、
図15に示す磁気抵抗効果素子100は、磁気抵抗効果素子部105とスピン軌道トルク配線120とを有するということもできる。
【0081】
本発明の一実施形態に係る磁気抵抗効果素子は、スピン軌道トルク配線120を備えることで、純スピン流によるSOTのみで磁気抵抗効果素子の磁化反転を行う構成(以下、「SOTのみ」構成ということがある)とすることもできるし、従来のSTTを利用する磁気抵抗効果素子において純スピン流によるSOTを併用する構成(以下、「STT及びSOT併用」構成ということがある)とすることもできる。
【0082】
図16を含めて以下では、スピン軌道トルク配線が磁気抵抗効果素子部の積層方向に対して交差する方向に延在する構成の例として、直交する方向に延在する構成の場合について説明する。
図16においては、磁気抵抗効果素子100の積層方向に電流を流すための配線130と、その配線130を形成する基板110も示している。また、第1強磁性金属層101とスピン軌道トルク配線120との間にキャップ層104を備える。
【0083】
<磁気抵抗効果素子部>
磁気抵抗効果素子部105は、磁化方向が固定された第2強磁性金属層103と、磁化方向が変化する第1強磁性金属層101と、第2強磁性金属層103及び第1強磁性金属層101に挟持された非磁性層102とを有する。
第2強磁性金属層103の磁化が一方向に固定され、第1強磁性金属層101の磁化の向きが相対的に変化することで、磁気抵抗効果素子部105として機能する。保磁力差型(擬似スピンバルブ型;Pseudo spin valve 型)のMRAMに適用する場合には、第2強磁性金属層の保持力は第1強磁性金属層の保磁力よりも大きいものであり、また、交換バイアス型(スピンバルブ;spin valve型)のMRAMに適用する場合には、第2強磁性金属層では反強磁性層との交換結合によって磁化方向が固定される。
また、磁気抵抗効果素子部105は、非磁性層102が絶縁体からなる場合は、トンネル磁気抵抗(TMR:Tunneling Magnetoresistance)素子であり、非磁性層102が金属からなる場合は巨大磁気抵抗(GMR:Giant Magnetoresistance)素子である。
【0084】
本発明が備える磁気抵抗効果素子部としては、公知の磁気抵抗効果素子部の構成を用いることができる。例えば、各層は複数の層からなるものでもよいし、第2強磁性金属層の磁化方向を固定するための反強磁性層等の他の層を備えてもよい。
第2強磁性金属層103は固定層や参照層、第1強磁性金属層101は自由層や記憶層などと呼ばれる。
【0085】
第2強磁性金属層103及び第1強磁性金属層101は、磁化方向が層に平行な面内方向である面内磁化膜でも、磁化方向が層に対して垂直方向である垂直磁化膜でもいずれでもよい。
【0086】
第2強磁性金属層103の材料には、公知のものを用いることができる。例えば、Cr、Mn、Co、Fe及びNiからなる群から選択される金属及びこれらの金属を1種以上含み強磁性を示す合金を用いることができる。またこれらの金属と、B、C、及びNの少なくとも1種以上の元素とを含む合金を用いることもできる。具体的には、Co−FeやCo−Fe−Bが挙げられる。
【0087】
また、より高い出力を得るためにはCo
2FeSiなどのホイスラー合金を用いることが好ましい。ホイスラー合金は、X
2YZの化学組成をもつ金属間化合物を含み、Xは、周期表上でCo、Fe、Ni、あるいはCu族の遷移金属元素または貴金属元素であり、Yは、Mn、V、CrあるいはTi族の遷移金属でありXの元素種をとることもでき、Zは、III族からV族の典型元素である。例えば、Co
2FeSi、Co
2MnSiやCo
2Mn
1−aFe
aAl
bSi
1−bなどが挙げられる。
【0088】
また、第2強磁性金属層103の第1強磁性金属層101に対する保磁力をより大きくするために、第2強磁性金属層103と接する材料としてIrMn,PtMnなどの反強磁性材料を用いてもよい。さらに、第2強磁性金属層103の漏れ磁場を第1強磁性金属層101に影響させないようにするため、シンセティック強磁性結合の構造としてもよい。
【0089】
さらに第2強磁性金属層103の磁化の向きを積層面に対して垂直にする場合には、CoとPtの積層膜を用いることが好ましい。具体的には、第2強磁性金属層103は[Co(0.24nm)/Pt(0.16nm)]
6/Ru(0.9nm)/[Pt(0.16nm)/Co(0.16nm)]
4/Ta(0.2nm)/FeB(1.0nm)とすることができる。
【0090】
第1強磁性金属層101の材料として、強磁性材料、特に軟磁性材料を適用できる。例えば、Cr、Mn、Co、Fe及びNiからなる群から選択される金属、これらの金属を1種以上含む合金、これらの金属とB、C、及びNの少なくとも1種以上の元素とが含まれる合金等を用いることができる。具体的には、Co−Fe、Co−Fe−B、Ni−Feが挙げられる。
【0091】
第1強磁性金属層101の磁化の向きを積層面に対して垂直にする場合には、第1強磁性金属層の厚みを2.5nm以下とすることが好ましい。第1強磁性金属層101と非磁性層102の界面で、第1強磁性金属層101に垂直磁気異方性を付加することができる。また、垂直磁気異方性は第1強磁性金属層101の膜厚を厚くすることによって効果が減衰するため、第1強磁性金属層101の膜厚は薄い方が好ましい。
【0092】
非磁性層102には、公知の材料を用いることができる。
例えば、非磁性層102が絶縁体からなる場合(トンネルバリア層である場合)、その材料としては、Al
2O
3、SiO
2、Mg、及び、MgAl
2O
4等を用いることができる。またこれらの他にも、Al,Si,Mgの一部が、Zn、Be等に置換された材料等も用いることができる。これらの中でも、MgOやMgAl
2O
4はコヒーレントトンネルが実現できる材料であるため、スピンを効率よく注入できる。
また、非磁性層102が金属からなる場合、その材料としては、Cu、Au、Ag等を用いることができる。
【0093】
また、第1強磁性金属層101の非磁性層102と反対側の面には、
図15に示すようにキャップ層104が形成されていることが好ましい。キャップ層104は、第1強磁性金属層101からの元素の拡散を抑制することができる。またキャップ層104は、磁気抵抗効果素子部105の各層の結晶配向性にも寄与する。その結果、キャップ層104を設けることで、磁気抵抗効果素子部105の第2強磁性金属層103及び第1強磁性金属層101の磁性を安定化し、磁気抵抗効果素子部105を低抵抗化することができる。
【0094】
キャップ層104には、導電性が高い材料を用いることが好ましい。例えば、Ru、Ta、Cu、Ag、Au等を用いることができる。キャップ層104の結晶構造は、隣接する強磁性金属層の結晶構造に合せて、fcc構造、hcp構造またはbcc構造から適宜設定することが好ましい。
【0095】
また、キャップ層104には、銀、銅、マグネシウム、及び、アルミニウムからなる群から選択されるいずれかを用いることが好ましい。詳細は後述するが、キャップ層104を介してスピン軌道トルク配線120と磁気抵抗効果素子部105が接続される場合、キャップ層104はスピン軌道トルク配線120から伝播するスピンを散逸しないことが好ましい。銀、銅、マグネシウム、及び、アルミニウム等は、スピン拡散長が100nm以上と長く、スピンが散逸しにくいことが知られている。
【0096】
キャップ層104の厚みは、キャップ層104を構成する物質のスピン拡散長以下であることが好ましい。キャップ層104の厚みがスピン拡散長以下であれば、スピン軌道トルク配線120から伝播するスピンを磁気抵抗効果素子部105に十分伝えることができる。
【0097】
<基板>
基板110は、平坦性に優れることが好ましい。平坦性に優れた表面を得るために、材料として例えば、Si、AlTiC等を用いることができる。
【0098】
基板110の磁気抵抗効果素子部105側の面には、下地層(図示略)が形成されていてもよい。下地層を設けると、基板110上に積層される第2強磁性金属層103を含む各層の結晶配向性、結晶粒径等の結晶性を制御することができる。
【0099】
下地層は、絶縁性を有していることが好ましい。配線130等に流れる電流が散逸しないようにするためである。下地層には、種々のものを用いることができる。
例えば1つの例として、下地層には(001)配向したNaCl構造を有し、Ti,Zr,Nb,V,Hf,Ta,Mo,W,B,Al,Ceの群から選択される少なくとも1つの元素を含む窒化物の層を用いることができる。
【0100】
他の例として、下地層にはXYO
3の組成式で表される(002)配向したペロブスカイト系導電性酸化物の層を用いることができる。ここで、サイトXはSr、Ce、Dy、La、K、Ca、Na、Pb、Baの群から選択された少なくとも1つの元素を含み、サイトYはTi、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Ga、Nb、Mo、Ru、Ir、Ta、Ce、Pbの群から選択された少なくとも1つの元素を含む。
【0101】
他の例として、下地層には(001)配向したNaCl構造を有し、かつMg、Al、Ceの群から選択される少なくとも1つの元素を含む酸化物の層を用いることができる。
【0102】
他の例として、下地層には(001)配向した正方晶構造または立方晶構造を有し、かつAl、Cr、Fe、Co、Rh、Pd、Ag、Ir、Pt、Au、Mo、Wの群から選択される少なくとも1つの元素を含む層を用いることができる。
【0103】
また、下地層は一層に限られず、上述の例の層を複数層積層してもよい。下地層の構成を工夫することにより磁気抵抗効果素子部20の各層の結晶性を高め、磁気特性の改善が可能となる。
【0104】
<配線>
配線130は、磁気抵抗効果素子部20の第2強磁性金属層21に電気的に接続され、
図5においては、配線130とスピン軌道トルク配線120と電源(図示略)とで閉回路を構成し、磁気抵抗効果素子部20の積層方向に電流が流される。
【0105】
配線130は、導電性の高い材料であれば特に問わない。例えば、アルミニウム、銀、銅、金等を用いることができる。
【0106】
上述した本実施形態では、磁気抵抗効果素子100において、積層が後になり基板110から遠い側に配置する第1強磁性金属層101が磁化自由層とされ、積層が先であり基板110に近い側に配置する第2強磁性金属層103が磁化固定層(ピン層)とされている、いわゆるボトムピン構造の例を挙げたが、磁気抵抗効果素子100の構造は特に限定されるものではなく、いわゆるトップピン構造であってもよい。
【0107】
本発明の磁気抵抗効果素子は公知の方法を用いて製造することができる。
磁気抵抗効果素子部は例えば、マグネトロンスパッタ装置を用いて形成することができる。磁気抵抗効果素子部がTMR素子の場合、例えば、トンネルバリア層は第2強磁性金属層上に最初に0.4〜2.0nm程度のアルミニウム、及び複数の非磁性元素の二価の陽イオンとなる金属薄膜をスパッタし、プラズマ酸化あるいは酸素導入による自然酸化を行い、その後の熱処理によって形成される。成膜法としてはマグネトロンスパッタ法のほか、蒸着法、レーザアブレーション法、MBE法等の薄膜作成法を用いることができる。
磁気抵抗効果素子部の成膜及び形状の形成を行った後、純スピン流発生部を最初に形成することが好ましい。これは純スピン流発生部から磁気抵抗効果素子部に純スピン流の散乱をできるだけ抑制できる構造にすることが高効率化に繋がるからである。
磁気抵抗効果素子部の成膜及び形状の形成を行った後、加工後の磁気抵抗効果素子部の周囲をレジスト等で埋めて、磁気抵抗効果素子部の上面を含む面を形成する。この際、磁気抵抗効果素子部の上面を平坦化することが好ましい。平坦化することで、純スピン流発生部と磁気抵抗効果素子部の界面におけるスピン散乱を抑制することができる。
次に、平坦化した磁気抵抗効果素子部の上面に純スピン流発生部の材料を成膜する。成膜はスパッタ等を用いることができる。
次に、純スピン流発生部を作製したい部分にレジストまたは保護膜を設置し、イオンミリング法または反応性イオンエッチング(RIE)法を用いて不要部を除去する。
次に、低抵抗部を構成する材料をスパッタ等で成膜し、レジスト等を剥離することで、スピン軌道トルク配線を作製する。純スピン流発生部の形状が複雑な場合は、レジストまたは保護膜の形成と、純スピン流発生部の成膜を複数回に分けて形成してもよい。
【0108】
図17は、
図16に示した磁気抵抗効果素子100において、磁気抵抗効果素子部105の積層方向に電流を流す第1電源140と、スピン軌道トルク配線120に電流を流す第2電源150とを示したものである。
【0109】
第1電源140は、配線130とスピン軌道トルク配線120とに接続される。第1電源140は磁気抵抗効果素子100の積層方向に流れる電流を制御することができる。
第2電源150は、スピン軌道トルク配線120の両端に接続されている。第2電源150は、磁気抵抗効果素子部105の積層方向に対して直交する方向に流れる電流である、スピン軌道トルク配線120に流れる電流を制御することができる。
【0110】
上述のように、磁気抵抗効果素子部105の積層方向に流れる電流はSTTを誘起する。これに対して、スピン軌道トルク配線120に流れる電流はSOTを誘起する。STT及びSOTはいずれも第1強磁性金属層101の磁化反転に寄与する。
【0111】
このように、磁気抵抗効果素子部105の積層方向と、この積層方向に直行する方向に流れる電流量を2つの電源によって制御することで、SOTとSTTが磁化反転に対して寄与する寄与率を自由に制御することができる。
【0112】
例えば、デバイスに大電流を流すことができない場合は磁化反転に対するエネルギー効率の高いSTTが主となるように制御することができる。すなわち、第1電源140から流れる電流量を増やし、第2電源150から流れる電流量を少なくすることができる。
また、例えば薄いデバイスを作製する必要があり、非磁性層102の厚みを薄くせざる得ない場合は、非磁性層102に流れる電流を少なくことが求められる。この場合は、第1電源140から流れる電流量を少なくし、第2電源150から流れる電流量を多くし、SOTの寄与率を高めることができる。
【0113】
第1電源140及び第2電源150は公知のものを用いることができる。
【0114】
上述のように、本発明の「STT及びSOT併用」構成の場合の磁気抵抗効果素子によれば、STT及びSOTの寄与率を、第1電源及び第2電源から供給される電流量により自由に制御することができる。そのため、デバイスに要求される性能に応じて、STTとSOTの寄与率を自由に制御することができ、より汎用性の高い磁気抵抗効果素子として機能することができる。
【0115】
(磁気メモリ)
本発明の磁気メモリ(MRAM)は、本発明の磁気抵抗効果素子を複数備える。
【0116】
(磁化反転方法)
磁化反転方法は、本発明の磁気抵抗効果素子において、スピン軌道トルク配線に流れる電流密度が1×10
7A/cm
2未満とすることができる。
スピン軌道トルク配線に流す電流の電流密度が大きすぎると、スピン軌道トルク配線に流れる電流によって熱が生じる。熱が第2強磁性金属層に加わると、第2強磁性金属層の磁化の安定性が失われ、想定外の磁化反転等が生じる場合がある。このような想定外の磁化反転が生じると、記録した情報が書き換わるという問題が生じる。すなわち、想定外の磁化反転を避けるためには、スピン軌道トルク配線に流す電流の電流密度が大きくなりすぎないようにすることが好ましい。スピン軌道トルク配線に流す電流の電流密度は1×10
7A/cm
2未満であれば、少なくとも発生する熱により磁化反転が生じることを避けることができる。
【0117】
磁化反転方法は、本発明の磁気抵抗効果素子において、「STT及びSOT併用」構成の場合、スピン軌道トルク配線の電源に電流を印加した後に、磁気抵抗効果素子の電源に電流を印加してもよい。
SOT磁化反転工程とSTT磁化反転工程は、同時に行ってもよいし、SOT磁化反転工程を事前に行った後にSTT磁化反転工程を加えて行ってもよい。第1電源140と第2電源150から電流を同時に供給してもよいし、第2電源150から電流を供給後に、加えて第1電源140から電流を供給してもよいが、SOTを利用した磁化反転のアシスト効果をより確実に得るためには、スピン軌道トルク配線の電源に電流が印加した後に、磁気抵抗効果素子の電源に電流を印加することが好ましい。すなわち、第2電源150から電流を供給後に、加えて第1電源140から電流を供給することが好ましい。