特許第6777164号(P6777164)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6777164
(24)【登録日】2020年10月12日
(45)【発行日】2020年10月28日
(54)【発明の名称】多層セラミック基板及び電子装置
(51)【国際特許分類】
   H05K 3/46 20060101AFI20201019BHJP
   H01L 23/13 20060101ALI20201019BHJP
   H01L 23/15 20060101ALI20201019BHJP
【FI】
   H05K3/46 T
   H05K3/46 H
   H01L23/12 C
   H01L23/14 C
【請求項の数】8
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2018-554887(P2018-554887)
(86)(22)【出願日】2017年11月14日
(86)【国際出願番号】JP2017040930
(87)【国際公開番号】WO2018105333
(87)【国際公開日】20180614
【審査請求日】2019年4月22日
(31)【優先権主張番号】特願2016-238525(P2016-238525)
(32)【優先日】2016年12月8日
(33)【優先権主張国】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】特許業務法人 安富国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤田 誠司
【審査官】 小林 大介
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2013/146789(WO,A1)
【文献】 特開2016−171191(JP,A)
【文献】 特開2003−201170(JP,A)
【文献】 特開2007−073728(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05K 3/46
H01L 23/13
H01L 23/15
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に位置する表層部と前記表層部より内側に位置する内層部とからなる積層構造を有し、前記表層部の表面に表層電極が設けられた多層セラミック基板であって、
前記表層部は、前記内層部に隣接する第1層を含み、前記内層部は、前記第1層に隣接する第2層を含み、
前記第1層の熱膨張係数は、前記第2層の熱膨張係数より小さく、
前記第1層及び前記第2層を構成する材料は、いずれも、40重量%以上65重量%以下のMO(ただし、MOは、CaO、MgO、SrO及びBaOからなる群より選択される少なくとも1種)を含むガラスと、アルミナと、CuO及びAgOからなる群から選択される少なくとも1種の金属酸化物とを含み、
前記ガラス及び前記アルミナの合計重量に対する前記アルミナの含有量が35重量%以上60重量%以下であり、
前記ガラス及び前記アルミナの合計重量に対する前記金属酸化物の含有量が1重量%以上10重量%以下であり、
前記第1層のポア率が13%以下、最大ポア径が10μm以下であり、
前記第2層のポア率が14%以下、最大ポア径が11μm以下であることを特徴とする多層セラミック基板。
【請求項2】
前記第1層のポア率が8%以下である請求項1に記載の多層セラミック基板。
【請求項3】
前記第1層の最大ポア径が7μm以下である請求項1又は2に記載の多層セラミック基板。
【請求項4】
前記第2層のポア率が9%以下である請求項1〜3のいずれか1項に記載の多層セラミック基板。
【請求項5】
前記第2層の最大ポア径が9μm以下である請求項1〜4のいずれか1項に記載の多層セラミック基板。
【請求項6】
前記第1層中の前記金属酸化物の前記含有量は、前記第2層中の前記金属酸化物の前記含有量よりも多い請求項1〜5のいずれか1項に記載の多層セラミック基板。
【請求項7】
前記第1層の熱膨張係数をα1[ppmK−1]とし、前記第2層の熱膨張係数をα2[ppmK−1]としたとき、0.3≦α2−α1≦1.5である請求項1〜6のいずれか1項に記載の多層セラミック基板。
【請求項8】
請求項1〜のいずれか1項に記載の多層セラミック基板を備えることを特徴とする電子装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多層セラミック基板及び電子装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体部品等の電子部品を複数配設したモジュール等の用途に、配線導体を3次元的に配置した多層セラミック基板が広く用いられている。
【0003】
特許文献1には、内層部と、その内層部を積層方向に挟むように位置する表層部とからなる積層構造を有する多層セラミック基板であって、表層部の熱膨張係数をα1[ppmK−1]とし、内層部の熱膨張係数をα2[ppmK−1]としたとき、0.3≦α2−α1≦1.5であり、かつ、内層部に針状結晶が析出している多層セラミック基板が開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、表層部と内層部とからなる積層構造を有する多層セラミック基板であって、表層部の熱膨張係数は、内層部の熱膨張係数より小さく、かつ、内層部の熱膨張係数との差が1.0ppmK−1以上であり、表層部を構成する材料と内層部を構成する材料との間で共通する成分の重量比率が75重量%以上である多層セラミック基板が開示されている。
【0005】
特許文献1及び2に記載の多層セラミック基板によれば、表層部の熱膨張係数を内層部の熱膨張係数よりも小さくすることにより、焼成後の冷却過程において、表裏の最外層に圧縮応力が生じるため、多層セラミック基板の抗折強度を向上させることができるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−73728号公報
【特許文献2】国際公開第2007/142112号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
近年、電子装置の小型化により、多層セラミック基板の薄型化、及び、配線の細線化が進められている。特許文献1及び2に記載の多層セラミック基板では、内層部よりも熱膨張係数の小さい層を表層部に設けることによって、抗折強度が向上し、多層セラミック基板の薄型化が可能となっている。しかし、特許文献1及び2に記載の多層セラミック基板では、表層部及び内層部にポア(空隙)が発生し、表層部の表面に設けられた表層電極に断線が生じる場合があることが判明した。今後、多層セラミック基板の薄型化、及び、配線の細線化を進めていくためには、このような表層電極の断線を抑制する必要がある。
【0008】
本発明は上記の問題を解決するためになされたものであり、表層電極の断線が抑制されるとともに、内層部の絶縁性が確保された多層セラミック基板を提供することを目的とする。本発明はまた、該多層セラミック基板を備える電子装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の多層セラミック基板は、表面に位置する表層部と上記表層部より内側に位置する内層部とからなる積層構造を有し、上記表層部の表面に表層電極が設けられた多層セラミック基板であって、上記表層部は、上記内層部に隣接する第1層を含み、上記内層部は、上記第1層に隣接する第2層を含み、上記第1層のポア率が13%以下、最大ポア径が10μm以下であり、上記第2層のポア率が14%以下、最大ポア径が11μm以下であることを特徴とする。
【0010】
本発明の多層セラミック基板においては、表層部中の第1層のポア率及び最大ポア径、並びに、内層部中の第2層のポア率及び最大ポア径を小さくすることにより、第1層及び第2層を緻密にすることができる。その結果、表層電極の断線を抑制することができることができるとともに、内層部の絶縁性を確保することができる。
【0011】
本発明の多層セラミック基板では、上記第1層のポア率が8%以下であることが好ましく、上記第1層の最大ポア径が7μm以下であることが好ましい。また、上記第2層のポア率が9%以下であることが好ましく、上記第2層の最大ポア径が9μm以下であることが好ましい。
【0012】
本発明の多層セラミック基板では、上記第1層の熱膨張係数は、上記第2層の熱膨張係数より小さく、上記第1層及び上記第2層を構成する材料は、いずれも、40重量%以上65重量%以下のMO(ただし、MOは、CaO、MgO、SrO及びBaOからなる群より選択される少なくとも1種)を含むガラスと、アルミナと、CuO及びAgOからなる群から選択される少なくとも1種の金属酸化物とを含み、上記ガラス及び上記アルミナの合計重量に対する上記アルミナの含有量が35重量%以上60重量%以下であり、上記ガラス及び上記アルミナの合計重量に対する上記金属酸化物の含有量が1重量%以上10重量%以下であることが好ましい。
表層部中の第1層を構成する材料、及び、内層部中の第2層を構成する材料に、CuO及びAgOからなる群から選択される少なくとも1種の金属酸化物を所定量含有させることにより、第1層でのガラス化が促進され、第1層を緻密にすることができる。その結果、第1層でのポアの発生を抑えることができるため、表層電極の断線を抑制することができる。
【0013】
本発明の多層セラミック基板では、上記第1層中の上記金属酸化物の上記含有量は、上記第2層中の上記金属酸化物の上記含有量よりも多いことが好ましい。
第2層中の金属酸化物の含有量が多すぎると、第2層でのガラス化が過度に進んでしまうため、焼成時に有機成分を充分に分解することができず、第2層にポアが発生しやすくなる。その場合、表層電極の断線を抑制することはできるものの、内層部の絶縁性が低下するおそれがある。そのため、第1層中の金属酸化物の含有量を第2層中の金属酸化物の含有量よりも多くすることにより、表層電極の断線を抑制することができるとともに、内層部の絶縁性を確保することができる。
【0014】
本発明の多層セラミック基板では、上記第1層の熱膨張係数をα1[ppmK−1]とし、上記第2層の熱膨張係数をα2[ppmK−1]としたとき、0.3≦α2−α1≦1.5であることが好ましい。
熱膨張係数の差α2−α1を0.3以上とすることにより、多層セラミック基板の抗折強度を高くすることができる。また、熱膨張係数の差α2−α1を1.5以下とすることにより、第1層と第2層との界面での応力の増加が抑制され、界面部分での剥離の発生を抑制することができる。
【0015】
本発明の電子装置は、上記多層セラミック基板を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、表層電極の断線が抑制されるとともに、内層部の絶縁性が確保された多層セラミック基板を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1は、本発明の一実施形態に係る多層セラミック基板を備える電子装置を模式的に示す断面図である。
図2図2は、図1に示した多層セラミック基板の製造途中で作製される複合積層体を模式的に示す断面図である。
図3図3は、評価用の多層セラミック基板を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の多層セラミック基板及び電子装置について説明する。
しかしながら、本発明は、以下の構成に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において適宜変更して適用することができる。なお、以下において記載する本発明の個々の望ましい構成を2つ以上組み合わせたものもまた本発明である。
【0019】
図1は、本発明の一実施形態に係る多層セラミック基板を備える電子装置を模式的に示す断面図である。
【0020】
多層セラミック基板1は、内層部10と、内層部10を積層方向に挟むように位置する第1の表層部20及び第2の表層部30とからなる積層構造を有している。
内層部10、第1の表層部20及び第2の表層部30は、それぞれ少なくとも1層のセラミック層から構成されている。第1の表層部20は、内層部10に隣接する第1層21を含み、第2の表層部30は、内層部10に隣接する第1層31を含む。また、内層部10は、第1の表層部20中の第1層21に隣接する第2層22と、第2の表層部30中の第1層31に隣接する第2層32とを含む。
【0021】
多層セラミック基板1は、配線導体を備えている。配線導体は、例えばコンデンサ又はインダクタのような受動素子を構成したり、あるいは素子間の電気的接続のような接続配線を行なったりするためのもので、典型的には、図示したように、表層電極41及び42、内部導体43、並びに、ビアホール導体44から構成される。これらの配線導体は、Ag、Cu、Au、Ag−Pd合金又はAg−Pt合金を主成分とすることが好ましく、Agを主成分とすることがより好ましい。
【0022】
表層電極41及び42は、それぞれ、多層セラミック基板1の一方主面上及び他方主面上に形成される。内部導体43は、多層セラミック基板1の内部に形成され、セラミック層の間に設けられる。ビアホール導体44は、表層電極41及び42並びに内部導体43のいずれかと電気的に接続され、かつセラミック層を厚み方向に貫通するように設けられる。
【0023】
多層セラミック基板1の一方主面上には、表層電極41に電気的に接続された状態で、チップ状の電子部品である積層セラミックキャパシタ45及び半導体部品46が搭載される。これによって、多層セラミック基板1を備える電子装置Aが構成される。多層セラミック基板1の他方主面上に形成された表層電極42は、当該電子装置Aを図示しないマザーボード上に実装する際の電気的接続手段として用いられる。
【0024】
本発明の多層セラミック基板においては、第1層のポア率が13%以下である。第1層のポア率は、好ましくは8%以下である。また、第1層のポア率は、好ましくは1%以上である。
【0025】
本発明の多層セラミック基板においては、第1層の最大ポア径が10μm以下である。第1層の最大ポア径は、好ましくは7μm以下である。また、第1層の最大ポア径は、好ましくは1μm以上である。
【0026】
本発明の多層セラミック基板においては、第1層のポア率が13%以下、最大ポア径が10μm以下であり、ポア率が8%以下、最大ポア径が7μm以下であることが好ましい。
【0027】
本発明の多層セラミック基板においては、第2層のポア率が14%以下である。第2層のポア率は、好ましくは9%以下である。また、第2層のポア率は、好ましくは2%以上である。
【0028】
本発明の多層セラミック基板においては、第2層の最大ポア径が11μm以下である。第2層の最大ポア径は、好ましくは9μm以下である。また、第2層の最大ポア径は、好ましくは2μm以上である。
【0029】
本発明の多層セラミック基板においては、第2層のポア率が14%以下、最大ポア径が11μm以下であり、ポア率が9%以下、最大ポア径が9μm以下であることが好ましい。
【0030】
なお、上記ポア率及び最大ポア径は、第1層及び第2層の断面をSEM観察することによって求めることができ、ポア率とは、視野内においてポアの占める面積比率であり、最大ポア径とは、視野内において最も大きなポアの直径である。
【0031】
表層部が第1層以外のセラミック層を含む場合、第1層以外のセラミック層のポア率及び最大ポア径は特に限定されないが、少なくとも最表層のポア率が13%以下、最大ポア径が10μm以下であることが好ましく、表層部を構成する全てのセラミック層のポア率が13%以下、最大ポア径が10μm以下であることがより好ましい。また、内層部が第2層以外のセラミック層を含む場合、第2層以外のセラミック層のポア率及び最大ポア径は特に限定されないが、内層部を構成する全てのセラミック層のポア率が14%以下、最大ポア径が11μm以下であることが好ましい。
【0032】
本発明の多層セラミック基板において、第1層の熱膨張係数は、第2層の熱膨張係数より小さいことが好ましい。第1層の熱膨張係数をα1[ppmK−1]とし、第2層の熱膨張係数をα2[ppmK−1]としたとき、0.3≦α2−α1≦1.5であることが好ましい。熱膨張係数の差α2−α1のより好ましい下限値は0.4、さらに好ましい下限値は0.5、特に好ましい下限値は0.6であり、より好ましい上限値は1.4、さらに好ましい上限値は1.3である。
なお、熱膨張係数は、熱機械分析(TMA)により、室温から500℃まで5℃/minの昇温速度で測定した値として得られる。
【0033】
第1層の熱膨張係数α1の好ましい下限値は5.0ppmK−1、より好ましい下限値は5.3ppmK−1であり、好ましい上限値は8.0ppmK−1、より好ましい上限値は7.7ppmK−1である。また、第2層の熱膨張係数α2の好ましい下限値は5.5ppmK−1、より好ましい下限値は5.7ppmK−1であり、好ましい上限値は8.5ppmK−1、より好ましい上限値は8.0ppmK−1である。
【0034】
後述するように、表層部を構成する表層部セラミック層、及び、内層部を構成する内層部セラミック層の各材料として、ガラスとアルミナと金属酸化物との混合物が用いられる。ガラスとアルミナと金属酸化物との比率、あるいはガラスの種類及び/又は金属酸化物の種類を変更することによって、第1層の熱膨張係数及び第2層の熱膨張係数をそれぞれ調整することができる。
【0035】
第1層及び第2層を構成する材料は、いずれもガラスを含む。具体的には、第1層及び第2層を構成するガラスは、いずれも、ガラス全体の重量に対して40重量%以上65重量%以下のMO(ただし、MOは、CaO、MgO、SrO及びBaOからなる群より選択される少なくとも1種)を含むことが好ましい。
第1層及び第2層を構成するガラスは、いずれも、Al、B及びSiOをさらに含むことが好ましい。
第1層及び第2層を構成する材料に含まれるガラスの組成及び各成分の含有量を調整することによって、第1層の熱膨張係数及び第2層の熱膨張係数を調整することができる。
【0036】
第1層を構成するガラスに含まれる成分の含有量の好ましい割合は以下のようになる。
MO(好ましくはCaO):40重量%以上55重量%以下、より好ましくは41重量%以上50重量%以下
Al:0重量%以上10重量%以下、より好ましくは3重量%以上8.5重量%以下
:0重量%以上20重量%以下、より好ましくは3重量%以上15重量%以下
SiO:25重量%以上70重量%以下、より好ましくは30重量%以上60重量%以下
【0037】
第2層を構成するガラスに含まれる成分の含有量の好ましい割合は以下のようになる。
MO(好ましくはCaO):40重量%以上55重量%以下、より好ましくは41重量%以上50重量%以下
Al:0重量%以上10重量%以下、より好ましくは3重量%以上8.5重量%以下
:0重量%以上20重量%以下、より好ましくは3重量%以上15重量%以下
SiO:25重量%以上70重量%以下、より好ましくは30重量%以上60重量%以下
【0038】
第1層及び第2層を構成するガラスには、その他の不純物が含まれていてもよく、不純物が含まれる場合の好ましい含有量は5重量%未満である。
【0039】
第1層及び第2層を構成する材料は、いずれも、セラミックフィラーとしてアルミナ(Al)を含むことが好ましい。Alフィラーは、機械的強度を向上させるのに寄与する。
【0040】
第1層及び第2層を構成する材料においては、いずれも、ガラス及びアルミナの合計重量に対するアルミナの含有量が35重量%以上60重量%以下であることが好ましい。
第1層を構成する材料は、ガラス及びアルミナの合計重量に対してアルミナを48重量%以上60重量%以下含むことがより好ましい。また、第2層を構成する材料は、ガラス及びアルミナの合計重量に対してアルミナを48重量%以上60重量%以下含むことがより好ましい。
【0041】
さらに、第1層及び第2層を構成する材料は、いずれも、CuO及びAgOからなる群から選択される少なくとも1種の金属酸化物を含むことが好ましい。第1層及び第2層を構成する材料は、いずれも、CuO及びAgOのいずれか一方を含むことがより好ましい。この場合、第1層及び第2層を構成する材料のうち、一方はCuOを、他方はAgOを含んでもよいが、どちらも同じ金属酸化物を含むことが好ましい。また、CuO及びAgOは、配線導体を構成する金属元素と共通する金属元素(Cu及びAg)を有するが、第1層及び第2層を構成する材料は、配線導体を構成する金属元素と同じ金属元素を有する金属酸化物を含んでいなくてもよい。例えば、配線導体がAgを主成分とする場合、第1層及び第2層を構成する材料はCuOを含んでもよい。
【0042】
第1層及び第2層を構成する材料においては、いずれも、ガラス及びアルミナの合計重量に対する金属酸化物の含有量が1重量%以上10重量%以下であることが好ましい。第1層中の金属酸化物の上記含有量は、第2層中の金属酸化物の上記含有量よりも多いことが好ましい。
第1層を構成する材料は、ガラス及びアルミナの合計重量に対して金属酸化物を3重量%以上5重量%以下含むことがより好ましい。また、第2層を構成する材料は、ガラス及びアルミナの合計重量に対して金属酸化物を1重量%以上2重量%以下含むことがより好ましい。
【0043】
特に、第1層を構成する材料は、ガラス及びアルミナの合計重量に対してアルミナを48重量%以上60重量%以下含み、金属酸化物を3重量%以上5重量%以下含むことが好ましい。また、第2層を構成する材料は、ガラス及びアルミナの合計重量に対してアルミナを48重量%以上60重量%以下含み、金属酸化物を1重量%以上2重量%以下含むことが好ましい。
【0044】
第1層及び第2層を構成する材料には、Al、CuO及びAgO以外に、例えばZrO等の他のセラミックフィラーが含まれていてもよい。
【0045】
表層部が第1層以外のセラミック層を含む場合、第1層以外のセラミック層は、第1層と異なる材料から構成されてもよいが、少なくとも最表層が第1層と同じ材料から構成されていることが好ましく、表層部を構成する全てのセラミック層が第1層と同じ材料から構成されていることがより好ましい。また、内層部が第2層以外のセラミック層を含む場合、第2層以外のセラミック層は、第2層と異なる材料から構成されてもよいが、内層部を構成する全てのセラミック層が第2層と同じ材料から構成されていることが好ましい。
【0046】
図1に示した多層セラミック基板1では、第1の表層部20及び第2の表層部30の両方の表面にそれぞれ表層電極41及び42が設けられ、第1の表層部20及び第2の表層部30がそれぞれ第1層21及び31を有しているが、本発明の多層セラミック基板においては、少なくとも一方の表層部の表面に表層電極が設けられ、表層電極が設けられた表層部が上述の第1層を有していればよい。
【0047】
図1に示した多層セラミック基板1は、好ましくは、以下のように製造される。
【0048】
図2は、図1に示した多層セラミック基板の製造途中で作製される複合積層体を模式的に示す断面図である。
複合積層体100は、多層セラミック基板1における内層部10となるべき内層用セラミックグリーンシート110と、表層部20及び30となるべき表層用セラミックグリーンシート120及び130とを備えるとともに、拘束用セラミックグリーンシート151及び152を備えている。また、内層用セラミックグリーンシート110並びに表層用セラミックグリーンシート120及び130には、多層セラミック基板1に備える配線導体としての表層電極41及び42、内部導体43並びにビアホール導体44が設けられている。これらの配線導体は、この段階では、未焼結の導体ペーストから構成されている。
【0049】
このような複合積層体100を作製するため、まず、内層用セラミックグリーンシート110、表層用セラミックグリーンシート120及び130、並びに、拘束用セラミックグリーンシート151及び152がそれぞれ用意される。
【0050】
第1層となるべき表層用セラミックグリーンシート120及び130の焼結体のポア率が13%以下、最大ポア径が10μm以下となるように、さらに、第2層となるべき内層用セラミックグリーンシート110の焼結体のポア率が14%以下、最大ポア径が11μm以下となるように、これらのセラミックグリーンシート110、120及び130の各組成が選ばれる。
【0051】
拘束用セラミックグリーンシート151及び152は、内層用セラミックグリーンシート110、並びに、表層用セラミックグリーンシート120及び130が焼結する温度では焼結しない無機材料(Al等)を主成分とする組成とされる。
【0052】
次に、少なくとも1つの内層用セラミックグリーンシート110を積層方向に挟むように、それぞれ、表層用セラミックグリーンシート120及び130を配置し、さらに、その外側に拘束用セラミックグリーンシート151及び152をそれぞれ配置することによって、図2に示すような複合積層体100が作製される。
【0053】
続いて、複合積層体100は、表層用セラミックグリーンシート120及び130並びに内層用セラミックグリーンシート110が焼結するが、拘束用セラミックグリーンシート151及び152が焼結しない温度で焼成される。その結果、表層用セラミックグリーンシート120及び130に由来する第1層21及び31(図1参照)のポア率が13%以下、最大ポア径が10μm以下であり、内層用セラミックグリーンシート110に由来する第2層22及び32(図1参照)のポア率が14%以下、最大ポア径が11μm以下である、焼成後の複合積層体100が得られる。
【0054】
その後、焼成後の複合積層体100において、拘束用セラミックグリーンシート151及び152に由来する部分が除去される。これによって、多層セラミック基板1が得られる。
【0055】
上述の製造方法によれば、拘束用セラミックグリーンシートを両主面上に配置した複合積層体を焼成するので、表層用セラミックグリーンシート及び内層用セラミックグリーンシートの焼成時における各主面方向での収縮を抑制することができる。そのため、多層セラミック基板の不所望な変形を抑制し、寸法精度を高めることができるばかりでなく、焼成時における表層部と内層部との間での剥離を生じにくくすることができる。
【0056】
その一方で、拘束用セラミックグリーンシートを両主面上に配置した複合積層体を焼成する場合には、通常、表層用セラミックグリーンシートに含まれるガラス成分が拘束用セラミックグリーンシートに吸収されやすいため、表層部にポアが発生するおそれがある。これに対し、第1層となるべき表層用セラミックグリーンシート、及び、第2層となるべき内層用セラミックグリーンシートに、CuO及びAgOからなる群から選択される少なくとも1種の金属酸化物が所定量含まれていると、第1層でのガラス化が促進され、第1層を緻密にすることができる。その結果、第1層でのポアの発生を抑えることができるため、表層電極の断線を抑制することができる。
【0057】
なお、多層セラミック基板1を製造するにあたり、上述のような拘束用セラミックグリーンシート151及び152を用いるのではなく、拘束用セラミックグリーンシートが無い状態の積層体を焼成してもよい。この場合も、表層電極の断線を抑制することができる。
【実施例】
【0058】
以下、本発明の多層セラミック基板をより具体的に開示した実施例を示す。なお、本発明は、これらの実施例のみに限定されるものではない。
【0059】
(多層セラミック基板の作製)
まず、表1に示す組成を有するSiO−CaO―B−Al系ガラス粉末を用意した。
【0060】
【表1】
【0061】
次に、表2に示す各試料が得られるように、表層用セラミックグリーンシート及び内層用セラミックグリーンシートをそれぞれ作製した。
表2に示した各試料を得るため、ガラス粉末と、アルミナ(Al)粉末と、CuO又はAgOの金属酸化物粉末とを含む混合粉末に、溶剤、分散剤、バインダ及び可塑剤を配合し、混合することによりスラリーを得た。得られたスラリーをPETフィルム上に塗布することにより、表層用セラミックグリーンシート及び内層用セラミックグリーンシートを作製した。
【0062】
表2に、表層用セラミックグリーンシート及び内層用セラミックグリーンシートに含まれるガラス粉末の種類及び含有量、Al粉末の含有量、並びに、金属酸化物粉末の含有量を示している。表2において、ガラスの種類に記載された「G1」〜「G3」の記号は、表1の「ガラス記号」に対応している。表2に示すように、ガラス粉末とAl粉末の重量比は、46:54〜60:40に調整した。また、表2に示した第1層(表層)の厚み及び第2層(内層)の厚みが焼成後においてそれぞれ得られるように、表層用セラミックグリーンシート及び内層用セラミックグリーンシートの各厚みを調整した。
【0063】
【表2】
【0064】
別途、Al粉末に溶剤、分散剤、バインダ及び可塑剤を配合し、混合することによりスラリーを得た。得られたスラリーをPETフィルム上に塗布することにより、厚み50μmの拘束用セラミックグリーンシートを作製した。
【0065】
他方、Ag粉末、溶剤及び有機バインダを所定の割合で混合し、この混合物を3本ロールミルによって分散処理することにより、Agペーストを得た。
【0066】
次に、特定の表層用セラミックグリーンシート及び内層用セラミックグリーンシートにレーザーパンチャーを用いてビアホール加工を施した後、Agペーストを充填することにより、ビアホール導体となるペースト体を形成した。また、特定の表層用セラミックグリーンシート及び内層用セラミックグリーンシートに、スクリーン印刷によりAgペーストを印刷することにより、表層電極及び内部導体となるペーストパターンを形成した。これらの表層用セラミックグリーンシート及び内層用セラミックグリーンシートを複数枚積層し、その上下に拘束用セラミックグリーンシートを配置した後、圧着し、複合積層体を作製した。
【0067】
作製した複合積層体を、表層用セラミックグリーンシート、内層用セラミックグリーンシート及びAgペーストは焼結するが、拘束用セラミックグリーンシートは焼結しない温度で焼成した。焼成後、拘束用セラミックグリーンシートに由来する未焼結部分を除去し、評価用の多層セラミック基板を作製した。
【0068】
図3は、評価用の多層セラミック基板を模式的に示す断面図である。
評価用の多層セラミック基板2は、内層部10の表面に位置する第2層22に表層部20の第1層21を、内層部10の裏面に位置する第2層32に表層部30の第1層31をそれぞれ貼り合わせた積層構造となっている。基板内には2つのビアホール導体44a及び44bが形成されている。ビアホール導体44aは、基板表側の第1層21に形成された表層電極41、及び、内層部10を構成する層間に形成された内部導体43aと接続されており、ビアホール導体44bは、基板裏側の第1層31に形成された表層電極42、及び、内層部10を構成する層間に形成された内部導体43bと接続されている。ビアホール導体44aと接続した内部導体43aからビアホール導体44bと接続した内部導体43bまでは、内層部10を構成するセラミック層1層の厚み分の間隔で離れている。
【0069】
(多層セラミック基板の評価)
評価用の多層セラミック基板について、「熱膨張係数の差」、「ポア率」、「最大ポア径」、「内層部の絶縁性」、「表層電極の断線」、「抗折強度」及び「デラミネーション」の各項目について評価した。各評価結果を表3に示す。
【0070】
「熱膨張係数の差」は、評価用の多層セラミック基板の第1層の熱膨張係数α1及び第2層の熱膨張係数α2から求めた。
熱膨張係数は、熱機械分析(TMA)により、以下の条件で、室温から500℃まで5℃/minの昇温速度で測定した。
測定雰囲気:窒素(300mL/min)
測定荷重:10gf
【0071】
「ポア率」及び「最大ポア径」については、多層セラミック基板の断面をSEM観察することによって求めた。
具体的には、焼成後の多層セラミック基板を所定の大きさにカットし、硬化剤を混ぜたエポキシ樹脂中に埋めて固めた後、研磨することにより断面を出し、第1層及び第2層の断面を倍率500倍で観察した。
【0072】
「内層部の絶縁性」は、評価用の多層セラミック基板の表裏の表層電極を端子として、絶縁性試験を行った。プレッシャークッカー試験で50Vの直流電圧を印加し、200時間後の絶縁抵抗を確認した。試験条件は121℃−85%RHである。プレッシャークッカー試験後のサンプルに50Vの直流電圧を60秒間印加した後の漏れ電流を測定し、LogIR≧10を示したサンプルを○(良)、LogIR<10を示したサンプルを×(不良)と評価した。なお、絶縁抵抗を測定する内部導体で挟まれたセラミック層の厚みは、表2に示すように、内部導体がない場合に焼成後の厚みで11μmである。
【0073】
「表層電極の断線」は、テスターを用いて、評価用の多層セラミック基板の表側の表層電極の両端の導通の有無を確認することによって評価したもので、導通している場合を○(良)、導通していない場合を×(不良)と評価した。
【0074】
「抗折強度」は、3点曲げ法によって、評価用の多層セラミック基板の抗折強度を測定した。別途、表層部のみからなる試料、及び、内層部のみからなる試料を作製し、3点曲げ法によって、各試料の抗折強度を測定した。以上により、表層部、内層部及び基板(焼結体全体)の各々について抗折強度を測定した。基板の抗折強度が内層部の抗折強度と同じであるか、内層部の抗折強度よりも高い場合を○(良)、基板の抗折強度が内層部の抗折強度よりも低い場合を×(不良)と評価した。
【0075】
「デラミネーション」は、200倍の金属顕微鏡を用いた観察によって、評価用の多層セラミック基板の断面にて層間剥離があるかを評価した。各100個の試料について、デラミネーションが認められなかった場合を○(良)、1個でもデラミネーションが確認された場合を×(不良)と評価した。
【0076】
【表3】
【0077】
表2及び表3に示すように、第1層のポア率が13%以下、最大ポア径が10μm以下であるとともに、第2層のポア率が14%以下、最大ポア径が11μm以下である実施例1〜15では、表層電極の断線が生じていない。実施例1〜15の結果から、ガラスの組成比、アルミナ又は金属酸化物の含有量を変更しても、表層電極の断線を抑制することができる効果が得られることが分かる。
【0078】
特に、実施例1〜8及び11〜15では、第1層中のCuOの含有量が第2層中のCuOの含有量よりも多いか同じであり、かつ、第1層及び第2層の熱膨張係数の差が0.3≦α2−α1≦1.5であるため、内層部の絶縁性が確保できており、基板の抗折強度が内層部の抗折強度よりも高く、デラミネーションも発生していない。
【0079】
なお、第1層及び第2層の熱膨張係数の差α2−α1が0.1である実施例9では、表層電極の断線は生じていないものの、基板の抗折強度が内層部の抗折強度よりも低くなっている。
【0080】
また、第1層及び第2層の熱膨張係数の差α2−α1が1.8である実施例10では、表層電極の断線は生じていないものの、デラミネーションが発生している。
【0081】
これに対し、第1層及び第2層を構成する材料が金属酸化物であるCuO及びAgOを含まない比較例1では、第1層及び第2層のポア率が高く、最大ポア径も大きくなるため、表層電極の断線が生じ、内層部の絶縁性も低下している。
【0082】
第1層を構成する材料が金属酸化物であるCuOを含むものの、第2層を構成する材料が金属酸化物を含まない比較例2では、ガラス化が充分に促進されていないため、第1層及び第2層のポア率が高く、最大ポア径も大きくなる結果、表層電極の断線が生じ、内層部の絶縁性も低下している。
【0083】
第1層中のCuOの含有量が第2層中のCuOの含有量よりも少ない比較例3では、第2層の最大ポア径が大きくなるため、表層電極の断線は生じていないものの、内層部の絶縁性が低下している。
【0084】
第1層中のCuOの含有量が11重量%である比較例4では、第1層のポア率が高く、最大ポア径も大きくなるため、表層電極の断線が生じている。
【0085】
また、第1層のポア率が13%以下、最大ポア径が10μm以下であるとともに、第2層のポア率が14%以下、最大ポア径が11μm以下である実施例16〜18では、表層電極の断線が生じていない。実施例16〜18の結果から、金属酸化物としてAgOを使用した場合も、CuOを使用した場合と同様に、表層電極の断線を抑制することができる効果が得られることが分かる。
【0086】
特に、実施例16〜18では、第1層中のAgOの含有量が第2層中のAgOの含有量よりも多く、かつ、第1層及び第2層の熱膨張係数の差が0.3≦α2−α1≦1.5であるため、内層部の絶縁性が確保できており、基板の抗折強度が内層部の抗折強度よりも高く、デラミネーションも発生していない。
【0087】
これに対し、第1層を構成する材料が金属酸化物であるAgOを含むものの、第2層を構成する材料が金属酸化物を含まない比較例5では、ガラス化が充分に促進されていないため、第1層及び第2層のポア率が高く、最大ポア径も大きくなる結果、表層電極の断線が生じ、内層部の絶縁性も低下している。
【0088】
第2層中のAgOの含有量が4重量%である比較例6では、第2層のポア率が高く、最大ポア径も大きくなるため、内層部の絶縁性が低下している。
【0089】
第1層中のAgOの含有量が11重量%である比較例7では、第1層のポア率が高く、最大ポア径も大きくなるため、表層電極の断線が生じている。
【符号の説明】
【0090】
A 電子装置
1,2 多層セラミック基板
10 内層部
20,30 表層部
21,31 第1層
22,32 第2層
41,42 表層電極
43,43a,43b 内部導体
44,44a,44b ビアホール導体
100 複合積層体
110 内層用セラミックグリーンシート
120,130 表層用セラミックグリーンシート
151,152 拘束用セラミックグリーンシート
図1
図2
図3