(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記酸化ケイ素膜は、前記基板の一方の面上に形成した凹凸層上に積層され、前記凹凸層は、酸素及び窒素のうち少なくとも1種及びケイ素を含有し、0.1μm〜0.3μmの層厚であることを特徴とする請求項1又は2に記載の光変換部材。
前記スパッタリングにおいて、ターゲットからの被スパッタ粒子の前記基板表面に対する入射方向を、前記基板の法線に対して10°から80°にすることを特徴とする請求項6に記載の光変換部材の製造方法。
前記スパッタリングにおいて、正対するターゲット面に対し、前記基板表面を10°から80°に傾斜させることによりターゲットからの被スパッタ粒子の入射方向を制御することを特徴とする請求項6又は7に記載の光変換部材の製造方法。
シリコンと酸化ケイ素が被スパッタ領域に混在したターゲットを用いてスパッタリングを行い、前記酸化ケイ素膜中にシリコンを分散させることを特徴とする請求項6〜8のうちいずれか1項に記載の光変換部材の製造方法。
酸化ケイ素からなるターゲット又はシリコンと酸化ケイ素が被スパッタ領域に混在したターゲットからの被スパッタ粒子の入射方向が、前記基板の法線に対して10°から80°になるようにして、且つ前記基板の温度を300℃以下にして、酸素及び窒素のうち少なくともいずれかを含有する雰囲気中でスパッタリングを行って、0.1μm〜0.3μmの層厚の凹凸層を堆積し、
次いで、前記酸化ケイ素膜を形成することを特徴とする請求項7〜9のうちいずれか1項に記載の光変換部材の製造方法。
前記凹凸層を堆積する際の雰囲気は、酸素及び窒素のうち少なくともいずれかとアルゴンガスを含有し、前記雰囲気の全圧は、0.3Pa〜1.5Paであって、酸素分圧及び窒素分圧の合計が前記雰囲気の全圧に対して10%〜50%であることを特徴とする請求項10に記載の光変換部材の製造方法。
【背景技術】
【0002】
従来、発光素子の材料として、GaAsまたはZnSeなどのIII-V族系またはII-VI族系の化合物半導体材料が使われているが、大規模集積回路などの半導体産業の主役であるシリコンに代替できれば、資源量が豊富であること、低環境毒性であること、安価であることなど得られるメリットが多い。
【0003】
1990年に単結晶ウェハー表面をフッ化水素酸水溶液中で陽極酸化することによるポーラスシリコンからの赤色発光が発見されたこと(非特許文献1)に端を発して、ナノスケール(nanoscale)にサイズ化されたシリコンを用いた発光素子の開発が、様々な用途において進められている。
【0004】
例えば、シリコンの大きさを三次元的にナノスケールにサイズ化するサイズ効果により蛍光発光し、粒子径を変えることにより近紫外から近赤外光を放出し、可視光領域においては青色、緑色、赤色(三原色)各色を発色できることが開示されている(特許文献1、2)。また、半導体レーザーや発光ダイオード(特許文献1)、白色光の発色が可能であることから液晶ディスプレイのバックライト(特許文献2)、太陽光発電モジュール用波長変換素子(特許文献3)、生体標識(特許文献4)へのナノ粒子化されたシリコン粒子(以下、シリコンナノ粒子)の適用が開示されている。
【0005】
なお、「ナノスケール」とは、ISOがTS27687規格において、約1nmから100nmと定義した範囲である。また、「ナノ粒子」とは、3次元のうちの三つ全ての次元でナノスケールの外寸をもつ粒子である。
【0006】
更に、近年、シリコン微結晶粒子を発光材料として用いる研究が精力的に進められている。具体的には、スパッタリング法、CVD法、イオン注入法等の手段を用いてシリコン化窒化物多結晶膜とシリコン微結晶粒子とを交互に堆積して発光材料を製造する方法(特許文献5)、シリコン微結晶粒子をシリコンカ−バイド多結晶体中にドット状に分散して発光材料を製造する方法(特許文献6)等が開示されている。さらには、遊星ボールミルでシリコン粉末を粉砕してシリコンナノ粒子を得る方法(特許文献7)や、シリコン源と炭素源とを含む混合物を焼成し、その際に生成した気体を急冷することでシリコンナノ粒子を得る方法(特許文献3)等が開示されている。
【0007】
一方、発光素子の発光材料としてシリコンナノ粒子を用いようとした場合、その発光強度や発光安定性を向上させることが必要であり、この必要性に応えるべく、種々の技術が開示されている。
【0008】
具体的には、シリコンナノ粒子の発光強度はその粒径に依存するため、発光に寄与しない粒径の大きいSiナノ粒子を含有するシリコン酸化膜中に酸素雰囲気中で特定波長のレーザー光を照射して、その表面を酸化して粒径を制御する方法(特許文献1)、Si:SiO
2膜中に含まれるSiの量を調整する方法(特許文献8)、シリコンナノ粒子が埋め込まれた酸化ケイ素膜をフッ酸溶液で溶解し、シリコンナノ粒子が分散したフッ酸水溶液を得た後、遠心分離により分級する方法(特許文献9)などが開示されている。さらに、シリコンナノ粒子の表面状態も発光強度や発光安定性に大きく寄与することが知られており、SiO
2中とそれに埋め込まれたシリコンナノ粒子との熱膨張係数の差を緩和し、界面の欠陥に起因する発光を低減させる方法(特許文献10)、有機分子により不動態化(特許文献11)、コア/シェル構造化(特許文献12)などの工夫がなされている。
【0009】
また、スパッタリング法によるシリコンナノ粒子の作製技術が開示されている特許文献10、13では、シリコンとSiO
2それぞれのターゲット面積比と成膜レートの比を規定することにより、或いは、特許文献14では、高周波電力やガス圧を変化させることにより、ターゲット材料から叩き出されるシリコン原子の量を調整して、シリコンナノの結晶サイズや密度を制御し、各色を発色させる方法が開示されている。
【0010】
さらに、酸化ケイ素膜中にPをドープすることで、酸化ケイ素膜とシリコンナノ粒子との熱膨張係数の差を緩和し、界面の欠陥を減少させ、発光強度を向上させる技術が開示(特許文献10)されているが、発光ピークが約885nmの発光に限られている。
【0011】
また、特許文献17には、シリコン原子と酸素原子が混ざり合ったアモルファスSiO
x膜を形成し、不活性ガスにて熱処理して前記シリコン原子を3.0nmのナノシリコンとして形成し、フッ酸水溶液処理と熱酸化処理することによって、光の三原色のいずれかを発光するナノシリコン発光素子を得ることが開示されている。
【0012】
特許文献17に開示された発光素子は、ナノシリコン表面近傍の伝導帯下端近傍に近接した局在準位の電子eと、価電子帯上端近傍に存在する局在準位の正孔hの再結合による発光を利用している。このように、特許文献17に開示された発光素子は、バンド間の局在準位による蛍光を利用するが、ナノシリコン表面近傍の伝導帯下端の電子と、価電子帯上端の正孔の再結合による発光を利用するものでは無い。そのため、特許文献17に開示された発光素子は、発光強度を高める余地が存在する。
【0013】
特許文献18は、高い蛍光発光強度を有するナノスケールのシリコン粒子の製造方法を開示する。特許文献18に開示された前記製造方法は、基板上に形成された酸化ケイ素膜中に、スパッタリングによりシリコンを分散させる工程において、ターゲットからの被スパッタ粒子の基板表面に対する入射方向が、前記基板の法線に対して10°から80°になるようにして、且つ前記基板温度を300°以下にしてスパッタリングを行い、その後、非酸化雰囲気で800℃から1350℃で熱処理することを特徴としている。
【0014】
しかし、特許文献18の製造方法は、シリコンナノ粒子のダングリングボンド数を低減することを開示しておらず、また、バンド間局在準位の生成を防止することを開示しない。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の光変換部材において、酸化ケイ素膜は、基板の一方の面上に積層され、シリコンナノ粒子が分散されており、前記シリコンナノ粒子とその外側の酸化ケイ素との界面に存在するダングリングボンドが極めて少なく、且つ、シリコンナノ粒子の表面近傍での欠陥が極めて少ないことを特徴とする。
【0024】
ここで、「シリコンナノ粒子とその外側の酸化ケイ素との界面に存在するダングリングボンドが極めて少ない」とは、標準的な電子スピン共鳴装置を用いて、シリコンナノ粒子とその外側の酸化ケイ素との界面に存在するダングリングボンドの電子に起因するスピン(g値が2.0030±0.0010の範囲内;P
b−中心)の数を測定した時に、当該スピン数が3×10
16/cm
3以下であることをいう。また、「バンド間局在準位が存在しない」とは、標準的な電子スピン共鳴装置を用いて、シリコンナノ粒子内の電導電子に起因するスピン(g値が1.9980±0.0010の範囲内;P
ce−中心)の数を測定した時に、当該スピン数が1×10
16/cm
3以下であることをいう。
【0025】
ナノシリコンと酸化ケイ素が完全に分離された状態であっても、シリコンナノ粒子とその外側の酸化ケイ素との界面に存在するダングリングボンドによるP
b−中心は非発光中心であるため、その数は極力少ないほうが良い。特許文献17では、このダングリングをフッ酸処理して水素終端することにより、発光強度が上がるとしている。
【0026】
また、非特許文献3には、シリコン原子と酸素原子が混ざり合ったアモルファスSiOx膜を形成し、Ar雰囲気中900℃で熱処理した場合、P
b中心のスピン数が4.0x10
16/cm
3であったのに対し、1100℃では2.4x10
17/cm
3に上昇するが、フッ酸処理により信号強度は検出下限まで減少し発光強度が増加することが開示されている。
【0027】
特許文献17及び非特許文献3に開示された製造方法では、フッ酸水溶液処理によってナノシリコンを試料表面上に露出させてから前記ナノシリコンを酸化するので、不整合な部分が生じると考えられる。そのため、特許文献17及び非特許文献3に開示されたナノシリコンにはバンド間局在準位が残存すると推測される。
【0028】
さらに、非特許文献4では、シリコンを分散した酸化ケイ素膜を不活性ガス(N
2)で1100℃で熱処理した後、水素ガス中450℃で熱処理すると、ダングリングボンドが水素により終端され、蛍光量子収率が水素熱処理前では、4%だったのに対し、水素熱処理後では13%まで向上したことが開示されている。
【0029】
一方、シリコン原子と酸素原子が混ざり合ったアモルファスSiOx膜を形成し、Ar雰囲気中900℃で熱処理した場合、P
ce−中心のスピン数は1.5x10
16/cm
3であったのに対し、P
ce−中心のスピン数は1100℃では4.0x10
16/cm
3に上昇、さらにフッ酸による水素終端処理をすると、さらにそのスピン数が上昇することが開示されている(非特許文献2)。これらのことから発光はシリコンナノ粒子内のバンド間局在準位にトラップされた電子が正孔と再結合する過程による発光(
図8の従来技術)が支配的であるとしている。しかし、P
ce−中心のスピンを有する電子による発光は、ナノシリコン表面近傍の伝導帯下端の電子と、価電子帯上端の正孔の再結合による発光ではない。
【0030】
これに対して、本発明に係る光変換部材は、当該光変換部材のシリコンナノ粒子を酸化ケイ素膜から露出させないで酸化するので、シリコンナノ粒子と酸化ケイ素膜との界面をわずかに酸化させることで界面でのダングリングボンドが消滅するとともに、前記界面近傍のシリコン原子の再配列によりシリコンナノ粒子表面近傍でのバンド間局在準位の原因となる欠陥が低減すると考えられる。そのため、本発明に係る光変換部材のシリコンナノ粒子は、バンド間局在準位が極めて少ない。
【0031】
このように、本発明に係る光変換部材は、P
b−中心のスピン数及びP
ce−中心のスピン数が極めて少ない。また、本発明に係る光変換部材による発光は、
図8の「本発明」に図示されるように、ナノシリコン表面近傍の伝導帯下端の電子と、価電子帯上端の正孔の再結合によって生じる。
【0032】
図8に示すように、本発明に係る光変換部材における発光強度は、従来技術に比べて大きい。本発明に係る光変換部材は非発光中心(Pb−中心)を含有しない。また、本発明に係る光変換部材における発光は、電子の遷移確率や電子と正孔の距離によって発光強度が小さくなってしまう局在準位(Pce―中心)間遷移ではないため、波長300nmから500nmの入射光に対する蛍光量子収率が15%以上である。
【0033】
次に、本発明に係る光変換部材の実施形態及びその製造方法を具体的に述べる。
【0034】
(第1実施形態)
第1実施形態の光変換部材は、シリコンナノ粒子が分散された酸化ケイ素膜を備える。前記酸化ケイ素膜は、下記のスパッタリングの条件にて作製される。
【0035】
(スパッタリングの条件)
主成分がSiO
2からなる基板等の誘電体基板上に、酸化ケイ素膜を形成し、前記酸化ケイ素膜中に含有させるシリコン量の制御を行うため、シリコンと酸化ケイ素の両方が被スパッタ粒子となるように、シリコンと酸化ケイ素が被スパッタ領域に混在したターゲットを用いてスパッタリングすることにより、シリコンの混在比を調整すれば良い。
【0036】
シリコンと酸化ケイ素が被スパッタ領域に混在した前記ターゲットとして、酸化ケイ素(SiOx(0.5≦x≦2))を用い、酸化ケイ素膜中に含有させるシリコン量を制御するために前記ターゲット上にシリコンチップを配置しても良い。また、シリコンチップを酸化ケイ素上に配置する形態以外に、酸化ケイ素のターゲットの代わりにシリコンと酸化ケイ素の複合ターゲットを用いても構わない。尚、前記複合ターゲットにおけるシリコンと酸化ケイ素の複合の形態は、特に限定されない。例えば、前記複合ターゲットは、シリコンの粒子と酸化ケイ素の粒子からなる混合体又は複合体であっても良い。
【0037】
図1は、本発明に係る第1実施形態の光変換部材1と、その製造方法の概略図である。この実施形態においては、酸化ケイ素膜3をスパッタリングで形成するためのターゲット10としてSiO
2が用いられている。
【0038】
図1に示されるように、ターゲット10上の複数箇所にシリコンチップ11を配置し、基板2上へ同時スパッタリング(co−sputtering)することによって、酸化ケイ素膜3中にシリコン4が分散された状態で存在する。前記シリコン4は、酸化ケイ素膜中で酸素原子と結合していない状態で存在するシリコン原子のみからなる。
【0039】
成長中の膜に付着した被スパッタ粒子の易動度(モビリティー)が大きくなりすぎると、それ自身で空孔や空隙を埋めてしまうことになるので、基板温度を300℃以下にすることが必要である。基板を加熱せずに室温でスパッタリングを行った場合、基板がプラズマに晒されると基板温度が上昇、ターゲット印加電力、ガス圧力などのスパッタリング条件により異なるが、300℃以上になることはない。
【0040】
スパッタリングではアルゴンなどの不活性ガスを用いて、ターゲットに含まれる成分と同じ成分の薄膜を形成する。例えば、
図1において、スパッタリングガスとしてアルゴンを用い、ターゲット10の成分とシリコンチップの成分であるシリコンの両方を含む薄膜を形成する。第1実施形態では、基板2として、SiO
2基板が用いられている。尚、後述する実施形態においても基板2としてSiO
2基板が用いられるが、SiO
2基板の代わりに、Al
2O
3やCaO等を含むガラス基板を基板2に適用してもよい。前記不活性ガスには、窒素ガス又は窒素化合物ガスを2体積%以下まで含ませても良い。但し、窒素ガス又は窒素化合物ガスが前記不活性ガスに対して2体積%超含まれる場合、シリコンが窒化されたり、当該膜中に含まれた窒素が、スパッタリング後の熱処理においてシリコンの拡散を抑制し、凝集作用を阻害することになる。その結果、発光強度を低下させてしまう可能性があるので好ましくない。
【0041】
前述の方法以外に、例えばシリコンからなるターゲットと酸化ケイ素(SiOx(0.5≦x≦2))からなるターゲットとを用い、基板をそれぞれのターゲット上に交互に移動させても良い。或いは、両ターゲットからの被スパッタ粒子が基板表面内で重複するように、前記シリコンのターゲット及び酸化ケイ素のターゲットと、基板表面間の位置関係を制御しても良い。これらの方法によってシリコン膜と酸化ケイ素膜の積層膜もしくはシリコンと酸化ケイ素の混合膜を形成し、前記混合膜を熱処理することによって、シリコン4が分散されたケイ素膜3を製造しても良い。
【0042】
(スパッタリング後の熱処理の条件)
前記方法で形成された酸化ケイ素膜を、まず、非酸化ガス雰囲気で熱処理を行う。この非酸化ガス雰囲気での熱処理によって、酸化ケイ素膜中にシリコンナノ粒子6が形成される。
【0043】
前記非酸化性ガスとして主にアルゴンが選択されるが、窒素ガス又は窒素化合物ガスでも良い。
【0044】
熱処理温度の下限は、酸化ケイ素膜中に含まれたシリコンを比較的短時間でナノ粒子にするために、800℃以上とする。一方、熱処理温度の上限は、酸化ケイ素とシリコンが反応して一酸化ケイ素に変化してシリコンが消失してしまうのを避けるために1150℃以下にする。熱処理時間は10分から120分の間で行うことが好ましいが、発光波長はシリコンナノ粒子の粒径に依存するため、酸化ケイ素膜中に含まれるシリコンの量、基板表面粗さに応じて、熱処理温度、熱処理時間を選択する必要がある。
【0045】
前記非酸化雰囲気での熱処理後、前記酸化ケイ素膜を酸素含有雰囲気において500℃から1000℃で熱処理を行う。シリコンは酸化され易く、特に、シリコンナノ粒子は比表面積が大きいため、僅かな酸化で消滅してしまうため、前記酸素含有雰囲気の酸素含有濃度は1〜50vol%とし、残余は前記非酸化ガス成分及び不可避的不純物ガス成分とする。
【0046】
このような酸素含有雰囲気下での熱処理によって、前記シリコンナノ粒子とその外側の酸化ケイ素との界面のダングリングボンド(P
b−中心)を前述したように極めて少なくすると共に、バンド間局在準位を消失させることができる。
【0047】
熱処理時間は10分から120分の間で行うことが好ましく、10分未満だと前記効果が不充分で、120分超にしても効果は向上せず、生産性を低下させてしまう。また、酸素含有濃度が1vol%未満の場合、P
b−中心のダングリングボンドやPce-中心のシリコンナノ粒子表面近傍の欠陥を低減する効果が十分に得られない場合がある。また、酸素含有濃度が50vol%超の場合、酸化ケイ素との界面における前記シリコンナノ粒子の表面に欠陥が形成され、P
b−中心のダングリングボンドを低減する効果が十分に得られない場合がある。
【0048】
尚、シリコン粒子の粒径は、前記酸素含有雰囲気での熱処理後の試料を集束イオンビーム加工装置(Focused Ion Beam : FIB)で、薄膜ブロックに加工して摘出した試料を、透過型電子顕微鏡(Transmission Electron Microscope:TEM)で観察することにより測定する。
【0049】
(第2実施形態)
第2実施形態の光変換部材は、酸化ケイ素膜の表面の算術平均粗さRaが5nmから50nmになるように、前記酸化ケイ素膜の表面の粗さが制御された基板上に、適度な量の空孔や空隙を導入された酸化ケイ素膜を備えるものである。第2実施形態の光変換部材は、下記の製造条件にて作製される。尚、第2実施形態の光変換部材は、被スパッタ粒子を基板に対して斜めに入射させて酸化ケイ素膜を形成する工程と、前記酸化ケイ素膜を非酸化ガス雰囲気で熱処理を行う工程と、非酸化雰囲気での熱処理後に前記酸化ケイ素膜を酸素含有雰囲気において熱処理を行う工程によって製造される。これらの工程を実施する際の条件として、酸化ケイ素膜に適度な空孔や空隙を確保するために必要とされる条件を除き、第1実施形態と同じ条件を採用することができる。
【0050】
(酸化ケイ素膜表面を算術平均粗さRa5nm〜50nmにするための基板処理工程)
基板表面上に形成された酸化ケイ素膜の表面の粗さは、その基板の表面粗さを反映する。スパッタリングにより形成される膜は数μm以下と薄く均一であるため、基板表面粗さを調整することによって、酸化ケイ素膜の表面の算術平均粗さRaを5nmから50nmにすることができる。
【0051】
基板の表面粗さはその表面の研磨加工の工程で調整するか、鏡面仕上げされた基板に、数μm径の研磨剤を含んだ水を照射するウェットブラストなどで、所定の表面粗さにすることができる。但し、本発明において、算術平均荒さ(Ra)は、JIS B 0601:2001に基づいて定義される粗さである。
【0052】
すなわち、本発明において、算術平均粗さ(Ra)は粗さ曲線からその平均線の方向に基準長さ(l)だけを抜き取り、この抜き取り部分の平均線の方向にX軸を、縦倍率の方向にY軸を取り、粗さ曲線を以下の式(1)で表したときに、以下の式(2)によって求められる値をいう(JIS B 0601:2001)。
【0054】
算術平均粗さ(Ra)は原子間力顕微鏡(Atomic Force Microscopy)を用いて測定される。算術平均粗さの測定は、JIS R 1683:2007に準じる測定条件で行い、試料中心付近の10mm角領域の四隅及び中央の5か所を測定し、その平均を算出することによって行う。
【0055】
(酸化ケイ素膜を形成する工程)
酸化ケイ素膜に適度な空孔や空隙を確保するため、ターゲットからの被スパッタ粒子の基板表面に対する平均的な入射方向が、基板の法線に対し、10°から80°になるようにする。10°未満だと充分な空孔や空隙を形成することができず、一方、80°超だと空隙が大きくなりすぎて、熱処理時に一部のシリコン粒子のサイズが肥大化したり、シリコンが酸化ケイ素に被覆されていない状態になってしまうため、結果的に蛍光強度が大きくならない。
【0056】
図2に示されるように、基板に対して被スパッタ粒子を前述した角度で斜め入射することにより、既に基板上に堆積した被スパッタ粒子自身が、基板に飛来する被スパッタ粒子の入射方向に対して影を形成し、影になった部分には被スパッタ粒子は堆積できない。このような自己陰影効果により、酸化ケイ素膜3中にシリコン4が分散された状態で存在するとともに、空孔や空隙3aが十分に形成される。
【0057】
前記シリコン4は、酸化ケイ素膜中で酸素原子と結合していない状態で存在するシリコン原子のみからなる。前記空孔或いは空隙により、後述する熱処理時においてシリコン4が凝集してシリコンナノ粒子5が形成される際、そのサイズが均一化される構造になる。尚、酸化ケイ素膜3とシリコンナノ粒子5との界面におけるダングリングボンド数とシリコンナノ粒子表面の欠陥数は、後述する非酸化ガス雰囲気での熱処理時によって著しく低減される。
【0058】
正対するターゲット面に対して基板を10°から80°に傾斜させて配置する方法は、容易であることや、生産性の点から好適である。また、これ以外の方法として、ターゲットに正対する位置から平行にずらした位置に基板を配置する方法(特許文献16)、ターゲットと基板の間にコリメーター(貫通孔を有するマスク)を配置する方法(特許文献15)があり、いずれの方法でも良い。
【0059】
被スパッタ粒子を斜め入射させる場合、陰影効果による空孔や空隙の形成は、基板表面の凹凸により影響を受ける。前述したように、表面が完全に平坦の場合でも自己陰影効果による空孔や空隙が形成されるが、酸化ケイ素膜の表面の算術平均粗さが5nmから50nmとなるように基板表面粗さが調整されていると、シリコンナノ粒子の均一化に好適であり、蛍光スペクトルの蛍光強度の最大値を高めることができる。また、量子収率を向上する観点から、酸化ケイ素膜の表面の算術平均粗さは、7nm〜30nmが更に好ましい。50nmを超えると、大きな空隙が発生し、熱処理の際にシリコンが空隙に流出し、シリコン粒子が肥大化する場合がある。シリコン粒子径が5nmを越えてしまうと良好な発光が得られない(特許文献1)。或いは、前記シリコン粒子が酸化ケイ素膜から露出すると、当該シリコン粒子の露出した表面には熱処理によって欠陥等の不整合な部分が生じる。そのため、シリコンナノ粒子とその外側の酸化ケイ素との界面に存在するダングリングボンドが増加して、前記シリコン粒子は、発光しないものとなってしまう。
【0060】
第2実施形態においては、酸化ケイ素膜が空隙を多く含んでおり、その結果、シリコンナノ粒子の粒径が均一化し、さらには結晶性も向上することから発光強度が大きくなる。
【0061】
蛍光波長はシリコンナノ粒子の粒子径に敏感であるため、発光強度の蛍光スペクトルから、シリコンナノ粒子の粒径を推定することができる。例えば、800nmで発光強度が高いということは、800nmに相当する径のシリコンナノ粒子が多いということになる。
図7に示された試料の蛍光は650nm〜1000nmであり、特許文献1及び9等の記載に基づいて、
図7に示された試料の酸化ケイ素膜中のシリコンナノ粒子のシリコン径は2.5nm〜5nmの範囲にあると推定できる。
【0062】
(第3実施形態)
第3実施形態の光変換部材は、平滑な基板と、前記基板の表面上に堆積された酸素及び窒素のうち少なくとも1種及びケイ素を含有する凹凸層と、シリコンナノ粒子が分散され且つ前記凹凸層に積層された酸化ケイ素膜とを含む。
【0063】
前述した第2実施形態では、酸化ケイ素膜に適度な空孔や空隙を確保するために、表面が調整された基板が用いられている。基板を前記方法で処理して表面に凹凸を形成しているが、平坦な基板に凹凸層を形成しても良い。
【0064】
第3実施形態では、シリコンナノ粒子が分散された酸化ケイ素膜の表面の算術平均粗さRaが5nmから50nm、好ましくは7nm〜30nmとなるように、酸化ケイ素(SiOx(0.5≦x≦2))からなる凹凸層を平滑な基板上に形成する。
【0065】
第3実施形態の光変換部材は、前記基板の表面上に凹凸層を形成する工程と、被スパッタ粒子を基板に対して斜めに入射させて酸化ケイ素膜を形成する工程と、前記酸化ケイ素膜を非酸化ガス雰囲気で熱処理を行う工程と、非酸化雰囲気での熱処理後に前記酸化ケイ素膜を酸素含有雰囲気において熱処理を行う工程によって製造される。
【0066】
(基板の表面上に凹凸層を形成する工程)
図3(a)に示されるように、酸素及び窒素のうち少なくともいずれかを含有する雰囲気中で、第1ターゲット10’(酸化ケイ素(SiOx(0.5≦x≦2)))をスパッタリングし、被スパッタ粒子の入射方向を前記SiO
2基板の法線に対して10°から80°の方向にすることで、酸素及び窒素のうち少なくとも1種及びケイ素を含有した凹凸層3bを形成する。ターゲットからの被スパッタ粒子の基板表面に対する平均的な入射方向が、基板の法線に対し、10°未満だと充分な表面粗さが確保できず、80°超だと成膜速度が大きく低下してしまう。尚、前記SiO
2基板の温度は、300℃以下にとする。
【0067】
尚、凹凸層を堆積する際のターゲットは、酸化ケイ素からなるターゲットでも良く、酸化ケイ素のターゲット上にシリコンチップが配置された構造としても良い。さらに、前述したようなシリコンと酸化ケイ素の複合ターゲットを用いても良い。但し、凹凸層を堆積するスパッタリングの際の雰囲気は、酸素及び窒素のうち少なくともいずれかを必須として含有する。また、前記凹凸層を堆積する際の雰囲気はアルゴンガスを含有し、その全圧を0.3Pa〜1.5Paとし、酸素分圧及び窒素分圧の合計が前記雰囲気の全圧に対して10%〜50%とすることが好ましい。
【0068】
スパッタリングで凹凸層を形成する場合、前記陰影効果がより大きくなる環境、すなわち被スパッタ粒子が同じ方向から基板に入射するような成膜条件にする必要がある。被スパッタ粒子がアルゴンガスとの衝突によって散乱されると、基板へ様々な角度で入射することになるので、アルゴンガスの圧力を1.5Pa以下とした。逆に、圧力が小さくなりすぎると、放電安定性や膜厚均一性が低下するため0.3Pa以上にする必要がある。
【0069】
一方、アルゴンガスにより散乱されずに基板に到達する被スパッタ粒子は、大きなエネルギーを持ったまま基板に到達するため、モビリティーが大きく、陰影効果を小さくしてしまうことになる。そこで、酸素や窒素をスパッタ雰囲気中に加えることで、基板に吸着した酸素及び窒素の少なくともいずれかの原子または分子が、基板に到達した被スパッタ粒子をトラップしてモビリティーを小さくすることができる。酸素分圧及び窒素分圧の合計が全圧に対して10%未満だと被スパッタ粒子をトラップするための量が不充分であり、50%超ではそれが過剰であるとともに成膜速度の大きな低下を招いてしまう。
【0070】
また、前記凹凸層は、0.1μm〜0.3μmの層厚になるように堆積される。前記凹凸層の層厚が0.1μm未満では、ケイ素膜中に充分な空孔や空隙を形成するための凹凸表面を形成することができない。また、前記凹凸層の層厚が0.3μmを超えると、大きな空隙が発生し、その上層のシリコン粒子が分散した酸化ケイ素膜中の空隙も大きくなるため、熱処理の際にシリコンが空隙に流出し、シリコンナノ粒子が肥大化してしまったり、酸化ケイ素の中に埋め込まれた状態ではなくなってしまう。従って、前記凹凸層の層厚が0.3μmを超えると、シリコンナノ粒子とその外側の酸化ケイ素との界面に存在するダングリングボンドが増加して、前記シリコン粒子は、発光しないものとなってしまう。
【0071】
尚、前記凹凸層を形成させる工程においては、スパッタリング以外に、シリコンまたは酸化ケイ素を蒸発源とし、酸素ガスまたは窒素ガスを導入して成膜する真空蒸着法、又はイオンプレーティング法でも良い。
【0072】
(凹凸膜上への酸化ケイ素膜の形成条件)
前記凹凸膜の堆積後、第2実施形態と同じ条件にて、酸化ケイ素膜を前記凹凸層上に形成する。
図3(b)に示されるように、第2ターゲット10”(酸化ケイ素(SiOx(0.5≦x≦2)))、もしくは第2ターゲット10”上の複数箇所にシリコンチップ11を配置し、前述の入射方向から基板2上へスパッタリングすることによって、酸化ケイ素膜3中に、クラスター状のシリコン又はシリコン粒子或いはシリコン原子(以下、「Si粒子」という。)からなる粒子4が分散された状態で存在するとともに、空孔や空隙3aが十分に形成される。前記前記Si粒子4は、酸化ケイ素膜中で酸素原子と結合していない状態で存在するシリコン原子のみからなる。
【0073】
(スパッタリング後の熱処理の条件)
前記方法で形成された酸化ケイ素膜に対して、第1実施形態或いは第2実施形態と同じ条件にて、非酸化ガス雰囲気にて熱処理し、その後、酸素含有雰囲気下での熱処理を行う。第3実施形態においては、前記空孔或いは空隙により、前記非酸化ガス雰囲気での熱処理時において前記Si粒子4が凝集してシリコンナノ粒子5が形成される際、そのサイズが均一化される。さらに、酸素含有雰囲気下で熱処理することで、コアは局在準位が非常に少ない結晶となり、シリコンナノ粒子/酸化ケイ素膜の界面ではキャリア再結合が起きにくい構造となる。また、熱処理をすることで、酸化ケイ素膜の表面が平滑化されるメリットがある。
【0074】
(本発明に係る発光素子の実施形態)
本発明の光変換部材は、前記シリコンナノ粒子が分散された酸化ケイ素膜と、当該酸化ケイ素膜がその上に形成された基板とを含む構造を有する。本発明の光変換部材は、短波長の光を長波長に変換できるため、青色の光と、その光を赤色と緑色の光に波長変換して重ねることで白色光を合成することができるので、本発明の光変換部材を発光素子の発光体に用いることができる。例えば、
図4(a)、(b)に示すように、青色LED21を光源として、導光板20として本発明の光変換部材を発光体22として用いて、液晶等の白色バックライト30を構成しても良い。尚、
図4(a)のバックライト30はオンエッジ方式であり、(b)のバックライト40は表面実装方式である。リフレクター23は、反射率が高く、光を一定方向に反射するように成形されたものが好ましい。
【0075】
(本発明に係る太陽電池モジュールの実施形態)
図5は、本発明の光変換部材1を用いた太陽電池モジュールの実施形態である。この太陽電池モジュール50は、透明基板としてのガラス板2と、前記ガラス板上に形成され、前記シリコンナノ粒子5が分散された酸化ケイ素膜3からなる光変換部材1を備えている。前記光変換部材1は、封止材53内に封入された太陽電池セル51の太陽光入射側に前記酸化ケイ素膜3が接するように配置され、前記ガラス板2の上には太陽電池モジュールの太陽光入射側の最外層として反射防止コート膜52が配置されている。一方、封止材53の他方の側には、裏面側保護部材54が設けられている。尚、ガラス基板として、SiO
2等の酸化ケイ素のみからなる基板、又は、前記酸化ケイ素を含むガラス基板を用いても良い。
【0076】
(本発明に係る太陽電池の実施形態)
図6は、本発明の光変換部材1を用いた太陽電池の実施形態である。この実施形態の太陽電池60は、透明基板としてのガラス板2と、前記ガラス板2上に形成され、前記シリコンナノ粒子5が分散された酸化ケイ素膜3からなる光変換部材1と、太陽電池セル51とを備え、前記酸化ケイ素膜3が太陽電池セル51に接するように構成されている。尚、太陽電池セル51は結晶シリコンなどの光吸収層51aと電極51bを備えており、前記光吸収層51aは、反射防止コート膜52側から入射して前記光変換部材1によって波長変換された光を受光する。
【0077】
入射光(太陽光)のスペクトル(符号SUN)と、前記光変換部材1により変換された光スペクトル(符号SICL)とを
図9に示す。本発明に係る太陽電池セル51の分光感度のスペクトルは、
図9の符号CELLで示される。また、太陽光を受光したシリコンナノ粒子の発光スペクトルを、
図9の符号SNSiに示す。
【0078】
符号SUN、SICL及びCELLの光スペクトルを比較すると、光変換部材1により変換された光スペクトルは、入射光に比べて、太陽電池セルの分光感度が低い波長領域において光強度が低いが、太陽電池セルの分光感度が高い波長領域において光強度が高い。このことから、光変換部材1は、太陽電池セルの分光感度が低い波長領域における入射光の光量の一部(符号CL)を、太陽電池セルの分光感度が高い波長領域における光量に変換していることが分かる(符号ICL)。光変換部材1の前記光変換機能は、シリコンナノ粒子の蛍光量子収率に基づくものである。
【0079】
太陽光スペクトル(符号SUN)のうち、太陽電池セルの分光感度が低い波長領域(符号CL)を光変換部材1が吸収し、太陽電池セルの分光感度が高い波長領域で発光する。これにより太陽光スペクトルが符号SICLで示されたスペクトルに変化して、分光感度の高い波長領域で太陽光スペクトルよりも光強度が高くなる(符号ICL)。光変換部材1の前記光変換機能は、シリコンナノ粒子の蛍光量子収率に基づくものである。
【0080】
分光感度が高くなるほど、対応する波長領域における発電効率が高い。本発明の光変換部材を備える太陽電池は、分光感度の低い300nm〜500nmの波長域の光を、太陽電池セルの分光感度の高い800nm程度の波長域の光に変換できるため、太陽電池の出力が向上する。また、本発明の光変換部材は、太陽電池セルの光吸収帯域における蛍光量子収率が高い。従って、本発明の光変換部材を用いて製造された太陽電池モジュールは、発電効率が向上する。
【0081】
本発明に係る実施形態の太陽モジュール及び太陽電池において、本発明の光変換部材1は、太陽電池を構成する半導体の光吸収スペクトルに対応するように、入射光の波長スペクトル分布を変換できるので、太陽電池モジュール50又は太陽電池60の発電効率を高めることができる。
【実施例】
【0082】
以下、実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0083】
試料No.1〜8の光変換部材の製造条件を表1−1に示す。尚、試料5〜8は本発明の製造方法によって製造された発明例であり、試料1〜4は本発明に対する比較例である。
【0084】
まず、直径152.4mmのSiO
2円板の上に5mm角、厚さ1mmの単結晶シリコンチップを均等に並べたものをターゲットとし、シリコン/SiO
2比はシリコンチップの枚数により調整した。被スパッタ粒子を被着させる基板は、縦幅及び横幅:20mm×20mm、厚さ:2mmのSiO
2角板で、表面を光学研磨したものを使用した。
【0085】
(試料No.1〜4の製造条件)
試料No.1〜4は本発明に対する比較例である。試料No.1〜3は、前記基板の基板表面をターゲット表面に対して平行に対向させ、ターゲット法線上に近い位置に設置した。試料No.4はターゲット法線上に近い位置で、且つ法線に対し前記基板を傾斜させて、被スパッタ粒子を斜め入射させる方法とした。次いで、チャンバー内を真空にした後、Arガス50SCCMを導入し、圧力調整弁にてチャンバー内を0.7Paとした。スパッタリングは800Wの高周波電力をターゲットに印加することにより行い、シリコンが分散された酸化ケイ素膜の膜厚を1μmとした。尚、試料No.1、2、4は基板を加熱せずに、試料No.3は前記基板を400℃に加熱して、Si粒子分散酸化ケイ素膜が形成された。
【0086】
前記酸化ケイ素膜の表面粗さは、原子間力顕微鏡(Bruker社製 NanoScope5 Dimension-5000)を用いて、15μm×15μmの領域について測定した。試料No.1〜4の前記酸化ケイ素膜の表面粗さの測定結果を表1−1に示す。
【0087】
試料No.1〜No.4は、表1−1の「第一熱処理」の欄に示すように酸化ケイ素膜に対して800℃でArまたは窒素ガス(N
2)雰囲気にて熱処理を行うことによって製造された。表1−1の欄の「雰囲気のガス組成」の「Ar」はArガス100vol%の雰囲気であり、「N
2」は窒素ガス100vol%の雰囲気であることを示す。尚、いずれの試料も、酸化ケイ素膜を酸素含有雰囲気で熱処理する工程がされていない。
【0088】
(試料No.5〜8の製造条件)
試料No.5〜8は本発明の製造方法によって製造された発明例である。試料No.5〜8のいずれも、試料No.1〜4の「第一熱処理」の後に、「第二熱処理」の欄に示す条件にて、酸素含有雰囲気で熱処理する工程が行われた。試料No.5〜8の酸化ケイ素膜の表面粗さは、試料No.1〜4と同じ条件にて測定した。これらの表面粗さの測定結果を表1−1に示す。
【0089】
前記の製造条件によって得られたシリコンナノ粒子発光体に、波長450nmの励起光を照射し、発生する蛍光スペクトルを分光器(浜松ホトニクス社製C10027-02)で測定した。試料1〜8の各製造条件での蛍光量子収率の測定結果を表1−1に示す。また、以下の電子スピン共鳴法(ESR)の測定条件にて、試料No.1〜8のESR測定を行った。
【0090】
[電子スピン共鳴法(ESR)の測定条件]
以下の条件にてマイクロ波照射下で磁場変調を行うことによって、それぞれの試料のESR測定を行った。それぞれの試料のg値、スピン数は、Mnマーカー(MgO中のMn
2+)を同時測定することにより求めた。
装置:日本電子社製 JES-FE3T
マイクロ波:9.37GHz(周波数)、中心磁場:3330G
中心磁場からの磁場掃引幅:100G
磁場変調の条件:100kHz(周波数)、1.6G(磁場変調の大きさ)、掃引時間:60s x 20回
測定温度:室温
【0091】
(試料No.9〜14の製造条件)
「第一熱処理」温度により、シリコンナノ粒子の大きさが変わり、蛍光ピーク波長が変わるため、「第一熱処理」温度を1000℃にした場合での実験を行った。試料11、14は、前記基板表面をダイヤモンドペーストによるバフ研磨したものを使用した。
【0092】
尚、ターゲット及び基板は、試料1〜8と同様のものが使用され、前記基板を傾斜する方法も、試料1〜8と同様に行われた。試料12〜14は本発明の製造方法によって製造された発明例であり、試料9〜11は本発明に対する比較例である。試料No.12〜14のいずれも、試料No.9〜11の「第一熱処理」の後に、「第二熱処理」の欄に示す条件にて、酸素含有雰囲気で熱処理する工程が行われた。
【0093】
試料9〜14の製造条件と、試料9〜14の各製造条件での蛍光量子収率の測定結果を表1−1に示す。尚、試料9〜14の蛍光量子収率の測定は、試料1〜8の測定方法と同様の方法にて行った。また、試料9〜14の酸化ケイ素膜の表面粗さは、試料No.1〜4と同じ条件にて測定し、前述した電子スピン共鳴法の測定条件にて、試料No.9〜14のESR測定を行った。
【0094】
(試料No.15〜39の製造条件)
「第一熱処理」温度を1150℃にした場合で、凹凸層の有無、基板の表面粗さの効果、「第二熱処理」及び「第二熱処理」での雰囲気ガス組成、「第二熱処理」での温度の影響を調査した。
試料No.22、23、35、36には、酸化ケイ素膜の形成前に凹凸層が形成されている。これらの試料の凹凸層は、以下のように形成された。
【0095】
[凹凸層の形成条件]
試料No.22、23、35、36の基板は、ターゲット法線上に近い位置で、且つ法線に対し前記基板を40°または60°に傾斜させて設置した。チャンバー内を真空にした後、試料1〜8の酸化ケイ素膜形成に用いられたものと同等のターゲットを用いて、チャンバー内の圧力が0.7Paになるように圧力調整弁にて調整しながら、50SCCMのArガス、12.5SCCMのO
2ガスを前記チャンバー内に導入し、基板は加熱せずに、表1−2に示す膜厚になるまで、試料No.22、23、35、36の基板上に前記凹凸層を堆積した。
【0096】
尚、スパッタリングは500Wの高周波電力をターゲットに印加することにより行った。凹凸層上に形成された形成された酸化ケイ素膜の表面粗さは、試料No.1〜8と同様の方法により測定し、それらの測定結果を表1−1及び表1−2に示した。
【0097】
[酸化ケイ素膜の形成条件]
試料No.15〜39のそれぞれについて、表1−1、表1−2の条件にてシリコンナノ粒子が分散された酸化ケイ素膜を形成した。チャンバー内を真空にした後、チャンバー内の雰囲気が表1−2に示すガス組成になるように圧力調整弁にて調整しながら総流量50SCCMのArガスを前記チャンバー内に導入し、チャンバー内を0.7Paとした。次いで、基板は加熱せずに、スパッタリングは800Wの高周波電力をターゲットに印加することにより行い、Si粒子が分散された酸化ケイ素膜の膜厚が1μmになるまでスパッタリングを行った。
【0098】
尚、試料No.34においては、基板とターゲットの間にマスク(コリメーター)を挿入して、被スパッタ粒子を斜め入射させる方法とした。
【0099】
Si粒子が分散された前記酸化ケイ素膜は、表1−1、表1−2に示す「第一熱処理」の欄の条件にて熱処理を行い、当該膜中の前記Si粒子をナノスケールに凝集させた。また、試料No.21、24〜39に対しては、表1−1、表1−2の「第二熱処理」の欄に示す条件にて、窒素ガスまたは酸素含有雰囲気で熱処理する工程が行われた。
【0100】
表1−2の「第二熱処理」の欄において、熱処理雰囲気がアルゴン又は窒素と酸素からなる混合ガスであって、酸素がXvol%の場合、“Ar+Xvol%O
2”と記載されている。例えば、表1−2中、”Ar+50vol%O
2”なる表記は、熱処理雰囲気がアルゴンと酸素からなる混合ガスであって、酸素が20vol%であることを示す。
【0101】
[蛍光量子収率の測定]
試料No.1〜14と同様の方法にて、試料No.15〜39の蛍光量子収率の測定を行った。試料No.15〜39の各製造条件での蛍光量子収率の測定結果を表1−2に示す。
【0102】
【表1-1】
【0103】
【表1-2】
【0104】
比較例の試料No.17、18で、「第一熱処理」酸素含有ガスを使用すると、蛍光が発生しないことがわかる。
【0105】
比較例の試料No.15、16、19〜27と、発明例の試料No.28〜38とを製造条件及び蛍光量子収率測定結果に関して比較すると、非酸化ガス雰囲気にて熱処理後に酸素含有雰囲気下での熱処理を行うことによって、蛍光量子収率がいずれも30%以上に向上することが分かる。
【0106】
本発明例の試料はいずれも、P
b−中心のスピン数が3×10
16/cm
3以下であり、P
ce−中心のスピン数が1×10
16/cm
3以下であった。これに対して、比較例の試料はいずれも、蛍光が生じないか、蛍光が弱いものであった。すなわち、蛍光を生じる比較例の試料は、P
b−中心のスピン数が3×10
16/cm
3以上及び/又はP
ce−中心のスピン数が1×10
16/cm
3以上であった。
【0107】
(蛍光スペクトルの測定結果)
図7は、比較例である試料No.16、20、39と、本発明例である試料No.32、33、37、38のそれぞれに450nmの励起光を入射したときの、それぞれの試料から得られた蛍光スペクトルの測定結果である。
図7に示されるように、非酸化ガス雰囲気にて熱処理後に酸素含有雰囲気下での熱処理が行われた本発明の光変換部材は、蛍光スペクトルが検出される全波長領域において比較例に比べて発光強度が高く、特に、最も強い蛍光強度を与える波長において、各段に高いことが分かる。
【0108】
また、
図7に示されるように、本発明例の試料No.33、37及び38の蛍光強度の最大値は、比較例の試料No.39の蛍光強度の最大値よりも高い。試料No.39は、その酸化ケイ素膜表面の算術平均粗さRaが50nm超であるため、その蛍光強度が著しく低減したと考えられる。また、本発明例の試料No.37の蛍光強度の最大値は、本発明例No.33、38の蛍光強度の最大値よりも高い。試料No.37は、その酸化ケイ素膜表面の算術平均粗さRaが本発明例No.38よりも小さい。このように、蛍光強度の最大値を高めるため、酸化ケイ素膜表面の好適な算術平均粗さRaは、30nm未満である。
【0109】
また、
図7の蛍光スペクトルから、特許文献1及び9の記載に基づいて、シリコンナノ粒子の粒径を推定した。
図7に示された試料の蛍光は650nm〜1000nmであるので、
図7に示された試料の酸化ケイ素膜中のシリコンナノ粒子のシリコン径は2.5nm〜5nmの範囲にあると推定された。
【0110】
実際に、試料No.37のSi粒子が分散された酸化ケイ素膜の断面を透過型電子顕微鏡(TEM)で観察したところ、試料No.37の前記酸化ケイ素膜中のシリコンナノ粒子は、シリコン粒径が約3nmであることが確認された(
図10)。
【0111】
(太陽電池の出力向上率測定結果)
図6に示した構造の太陽電池セルを用いて、本発明の光変換部材を設置した場合の出力向上率を調査した。太陽電池セル51として単結晶シリコンの太陽電池セルを用い、ガラス基板2のみを太陽電池の上面に設置した場合と、シリコンナノ粒子5が分散された酸化ケイ素膜3がガラス基板2上に形成された構造の光変換部材1を設置した場合の太陽電池出力を太陽電池シミュレータ(三永電機製作所製 ES-155S1)を用いて測定した。尚、太陽光とは異なり、太陽光シミュレータでは斜めからの入射光は少ないため、本測定においては、反射防止コート膜52は形成していない。
【0112】
前記シリコンナノ粒子5が分散された酸化ケイ素膜3を備えずガラス基板2のみが設置された構造の太陽電池の出力に対し、試料No.1(比較例)では-2%、試料No.7、33(本発明例)でそれぞれ2%、8%の出力向上が見られた。このように、本発明の光変換部材を用いて製造された太陽電池は、発電効率が向上する。
【0113】
以上の結果から、本発明によれば、それぞれの波長でより発光強度が高い光変換部材を簡易で、生産性を低下させることなく、比較的安価に製造することができることが示された。また、本発明によれば、太陽電池モジュールを構成する半導体の光吸収スペクトルに対応して太陽電池及び太陽電池モジュールの発電効率が向上することが示された。