(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
内輪の外周面に砥石による研削加工を施す際には、前記内輪に対する前記砥石の相対回転に伴い、前記砥石中の砥粒が前記内輪の外周面に接触する。前記内輪に対する前記砥石の相対回転に伴って、前記砥粒が前記内輪の外周面に押し付けられつつ、周方向に移動する。これにより、前記砥粒により前記内輪の外周面に存在する金属が除去される。その後、前記内輪に対する前記砥石の相対回転に伴って、前記砥粒が前記内輪の外周面から離れる。したがって、前記内輪を前記砥石に対して所定方向に相対回転させつつ、ある程度の硬さを有する回転砥石を前記内輪の外周面に押し付けることで研削加工を施すと、前記砥粒の通過した部分の両側に隆起やバリなど変形が生じる。このような変形には、周方向に関して傾向(方向性)が存在する。このため、変形が存在する部分を、シールリップの先端部が摺接する摺接面とすると、前記外輪と前記内輪との第1相対回転方向と第2相対回転方向との間での、前記シールリップの先端部の前記摺接面に対する摺動トルクの差、すなわち前記外輪に対する前記内輪の回転トルクの差(正回転と逆回転との間での回転トルクの差)が大きく異なるといった問題を生じる可能性がある。具体的には、前記外輪を固定したと仮定すると、前記内輪を所定方向に回転させた場合(第1相対回転)と、前記所定方向と反対方向に回転させた場合(第2相対回転)との間で、前記シールリップの先端部の前記摺接面に対する摺動トルクが異なる(摺動トルクに差が生じる)可能性がある。この理由としては、前記摺接面に対する前記シールリップの先端部の摺動方向が、前記砥石により前記内輪を研削する際の前記砥石の前記内輪に対する移動方向と同じか否かによって、前記摺接面に対する前記シールリップの先端部の摺動トルクが異なることが一因と考えられる。
【0006】
このような問題を解決する手段として、前記研削筋目が形成された前記摺接面を、砥粒入ブラシや不織布研磨材などにより研磨して、前記摺接面に不規則な方向の加工目を多数形成することが考えられる。すなわち、前記摺接面に不規則な方向の加工目を多数形成することにより、前記摺接面の表面の凹凸が複雑になり、前記摺接面の存在していた粗さの方向性を解消することができる。この結果、前記外輪と前記内輪との相対回転方向による、前記外輪に対する前記内輪の回転トルクの差を小さくすることができる。
【0007】
前記内輪は、前記摺接面に不規則な方向の加工目を多数形成した後、組立工程に送られ、前記外輪や転動体、密封装置と組み合わされて転がり軸受を構成する。ここで、前記転がり軸受を組み立てた後、前記外輪と前記内輪との相対回転方向による、前記外輪に対する前記内輪の回転トルクの差が所定値以下となっていない場合、前記転がり軸受を分解して、前記摺接面を、再度、砥粒入ブラシや不織布研磨材などにより研磨する必要があり面倒である。そこで、転がり軸受を組み立てる以前に、前記外輪と前記内輪との相対回転方向による、前記外輪に対する前記内輪の回転トルクの差を推定することができる検査方法の実現が望まれる。
【0008】
本発明は、組み立てる以前に、転がり軸受やハブユニット軸受などの回転特性を推定することができる、軌道輪部材の検査方法を実現することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の軌道輪部材の検査方法における一態様は、シールリップの先端部が摺接される摺接面を全周にわたり備え、前記摺接面に不規則な方向に形成された加工目を多数有する、軌道輪部材を対象とする。具体的には、本発明の軌道輪部材の検査方法は、転がり軸受を構成する内輪および外輪、並びに、ハブユニット軸受を構成するハブなどの軌道輪部材を対象とする。
【0010】
本発明の一態様は、軌道輪部材の検査方法であって、前記軌道輪部材は、シールリップの先端部が摺接される摺接面を備え、前記方法は、前記摺接面の少なくとも一部を、カメラにより撮影して原画像を得ることと、前記原画像に画像処理を施して、前記摺接面の複数の加工目を検出することと、前記加工目の検出結果に基づいて、前記軌道輪部材が組み込まれた部品の回転特性を推定することと、を含む。
【0011】
本発明の軌道輪部材の検査方法の一態様は、
前記摺接面の一部または全部を、カメラにより撮影して原画像を得る、撮影工程を行った後、
前記原画像に、前記加工目を検出する画像処理を施して、検出画像を得る、検出工程を行い、
さらに、前記軌道輪部材を複数個の転動体を介して別の軌道輪部材と組み合わせるとともに、基端部を、前記別の軌道輪部材に対し支持固定したシールリップの先端部を前記摺接面に摺接させた場合の、前記軌道輪部材と前記別の軌道輪部材との相対回転方向による、前記別の軌道輪部材に対する前記軌道輪部材の回転トルクの差を、前記検出画像に基づいて推定する、評価工程を行う。
【0012】
前記画像処理では、前記摺接面に存在する研削筋目に対し、所定の傾斜角度の範囲にある前記加工目のみを検出することができる。具体的には、例えば、前記所定の角度範囲を、15度以上45度以下とすることができる。
【0013】
前記画像処理では、所定の色の画素が所定の個数以上集合して存在する部分を、前記加工目として検出することができる。
【0014】
前記評価工程では、前記軌道輪部材を前記別の軌道輪部材と組み合わせた場合の、前記軌道輪部材と前記別の軌道輪部材との相対回転方向による、前記別の軌道輪部材に対する前記軌道輪部材の回転トルクの差を、前記検出画像中の加工目の面積および/または本数に基づいて推定することができる。
【0015】
前記カメラのレンズを、テレセントリックレンズとすることが好ましい。
【0016】
前記カメラにより前記摺接面を撮影する際に、青色の光源を使用することが好ましい。
【0017】
本発明の一態様は、転がり軸受の製造方法であって、上記の検査方法を使用して複数の軌道輪部材を検査することと、前記検査された軌道輪部材を用いて転がり軸受を組み立てることと、を含む。
【0018】
本発明の一態様は、ハブユニット軸受の製造方法であって、上記の検査方法を使用して複数の軌道輪部材を検査することと、前記検査された軌道輪部材を用いてハブユニット軸受を組み立てることと、を含む。
【0019】
本発明の一態様は、車両の製造方法であって、上記の製造方法により製造されたハブユニット軸受を使用して車両を製造する。
【0020】
本発明の一態様は、軌道輪部材の検査装置であって、カメラと、コントローラと、を備え、前記コントローラは、以下を実行するように構成される、前記軌道輪部材におけるシールリップの先端部が摺接される摺接面の少なくとも一部を、前記カメラにより撮影して原画像を得ること、前記原画像に画像処理を施して、前記摺接面の複数の加工目を検出すること、及び、前記加工目の検出結果に基づいて、前記軌道輪部材が組み込まれた部品の回転特性を推定すること。
【発明の効果】
【0021】
上述のような本発明の態様によれば、転がり軸受やハブユニット軸受などを組み立てる以前に、1対の軌道輪部材の相対回転方向による、一方の軌道輪部材に対する他方の軌道輪部材の回転トルクの差など、転がり軸受やハブユニット軸受などの回転特性を推定することができる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
[実施の形態の第1例]
本発明の実施の形態の第1例について、
図1〜
図6により説明する。
図1は、本例の対象である内輪3を備える、転がり軸受1を示している。転がり軸受1は、第1の軌道輪部材である外輪2と、第2の軌道輪部材である内輪3と、複数個の転動体4と、1対の密封装置(シールリング)5とを備える。
【0024】
外輪2は、軸受鋼や浸炭素鋼などの硬質の鉄系合金製で、軸方向中央部内周面に、断面円弧形の外輪軌道6を全周にわたり有するとともに、軸方向両側部分の内周面に、径方向外方に凹んだ係止凹溝7をそれぞれ全周にわたって有する。
【0025】
内輪3は、軸受鋼や浸炭素鋼などの硬質の鉄系合金製で、外輪2の内径側に外輪2と同軸に配置されている。内輪3は、軸方向中央部外周面に、断面円弧形の内輪軌道8を全周にわたり有するとともに、軸方向両側部分の外周面に、径方向内方に凹んだシール溝9をそれぞれ全周にわたり有する。さらに、内輪3は、シール溝9のそれぞれの内面のうち、互いに反対方向(軸方向外側)を向いた側面に、円輪状の摺接面10を全周にわたって有する。本例では、摺接面10には、深さが0μm〜2μm程度の微細溝状の加工目30(
図5Aの(a)、(b)、
図5Bの(a)、(b)参照)が不規則な方向に多数形成されている。
【0026】
なお、転がり軸受1に関して、軸方向内側とは、転がり軸受1の幅方向中央側といい、軸方向外側とは、転がり軸受1の幅方向外側(両側)をいう。
【0027】
転動体4のそれぞれは、軸受鋼などの鉄系合金またはセラミックス製で、外輪軌道6と内輪軌道8との間に、保持器11により保持された状態で、転動自在に配置されている。なお、本例では、転動体4として玉を使用している。
【0028】
密封装置5のそれぞれは、転動体4が配置された内部空間12の軸方向両側の開口部を塞いで、内部空間12に封入されたグリースが外部に漏洩することを防止するとともに、雨水や泥、塵などの異物が内部空間12に入り込むことを防止するものである。密封装置5のそれぞれは、円環状の芯金13と、芯金13により補強されたゴムのようなエラストマーなどからなる弾性材14とを備える。密封装置5のそれぞれは、金型のキャビティ内に芯金13を配置した後、弾性材14を構成する材料を、芯金13にモールド成形することにより造ることができる。弾性材14を構成する材料としては、例えば、ニトリルゴムやアクリルゴム、シリコンゴム、フッ素ゴム、エチレンプロピレン系ゴム、水素化ニトリルゴムなどを使用することができる。
【0029】
芯金13は、軟鋼板などの金属板を曲げ成形することにより、略L字形の断面形状を有するとともに、全体を円環状に構成されている。すなわち、芯金13は、円筒部15と、円筒部15の軸方向外側の端部から径方向内側に向けて直角に折れ曲がった円輪部16とを備える。
【0030】
弾性材14は、径方向外側の端部に存在する弾性係止部17と、円輪部16の軸方向外側面を全周にわたり覆う薄肉状の円輪覆い部18と、径方向内側の端部に存在するシール部19とを備える。
【0031】
弾性係止部17は、弾性係止部17を外輪2の係止凹溝7に係止する以前の自由状態で、係止凹溝7の幅寸法(軸方向寸法)よりもわずかに大きい幅寸法を有し、芯金13の円筒部15の外周面および先端面(軸方向内側の端面)を覆っている。
【0032】
シール部19は、シールリップ20と、グリースリップ21と、ダストリップ22とを備える。
【0033】
シールリップ20は、芯金13の円輪部16の径方向内側の端部よりも径方向内側かつ軸方向内側に向けて突出するように形成されており、その先端部を、シール溝9の摺接面10に全周にわたり摺接させている。
【0034】
グリースリップ21は、略三角形の断面形状を有し、シール部19のうちでシールリップ20よりも径方向外側に位置する部分から軸方向内側に向けて突出するように形成されている。グリースリップ21は、先端部を、内輪3の外周面のうちで内輪軌道8とシール溝9との接続部に近接対向させることにより、当該部分とグリースリップ21の先端部との間にラビリンスシールを構成している。
【0035】
ダストリップ22は、略矩形の断面形状を有し、円輪覆い部18の径方向内側の端部から径方向内側に向けて延出するように形成されている。ダストリップ22は、先端部を、内輪3のうちでシール溝9よりも軸方向外側に存在する部分に近接対向させることにより、当該部分とダストリップ22の先端部との間にラビリンスシールを構成している。
【0036】
密封装置5のそれぞれは、弾性係止部17を、軸方向および径方向に弾性的に圧縮した状態で、係止凹溝7の内側に配置(係止)することにより、外輪2に対し支持するとともに、シールリップ20の先端部を、シール溝9の摺接面10に、締め代を持たせた状態で全周にわたり摺接させる。
【0037】
転がり軸受1を構成する内輪3を造る際には、まず、金属製の素材に、鍛造加工や切削加工などの塑性加工を施して、内輪3の外形を成形する。
【0038】
次のセンタレス研削工程では、内輪3を一方向に回転させつつ、内輪3の外周面のうち、摺接面10を含む部分に砥石23を押し付けることにより、内輪3の外周面に研削加工を施す。センタレス研削工程は、例えば
図2に示すような研削盤24を使用して行うことができる。研削盤24は、砥石23と、調整車25と、ワークレスト26と、研削液ノズル27とを備える。
【0039】
砥石23は、円盤状で、内輪3の外周面の母線形状に沿った母線形状を有し、図示しない中心軸を中心に回転する回転砥石である。砥石23としては、例えば、A(アルミナ)系砥粒を、ガラス系のボンドで結合したものであって、結合粒度が#60〜#400であり、結合度がG〜Oであり、集中度が4〜12であるものを使用することができる。
【0040】
調整車25は、砥石23の中心軸に対し所定の角度傾斜した中心軸を中心に回転駆動可能である。なお、図示の研削盤24は、研削加工中に、調整車25の外周面に付着した、研削屑などの異物を除去するための洗浄装置28をさらに備える。
【0041】
ワークレスト26は、砥石23と調整車25の間部分の下方に配置されて、内輪3を下方から支持する。
【0042】
研削液ノズル27は、研削液の吐出口を下方に向けるようにして、砥石23と調整車25の間部分の上方に配置されている。
【0043】
研削盤24を使用してセンタレス研削工程を行う際には、まず、被加工物である内輪3を、ワークレスト26の上面と、調整車25の外周面との間に載置する。次いで、研削液ノズル27から内輪3の外周面に向けて、研削液を吐出する。そして、調整車25を回転駆動することにより、内輪3を一方向(図示の例では反時計方向)に回転させつつ、自身の中心軸を中心に回転する砥石23を、内輪3の外周面のうち、摺接面10を含む部分に押し付けることにより、当該部分に研削加工を施す。なお、この場合に、内輪3の周速と砥石23の周速とを互いに異ならせることにより、内輪3を、砥石23に対して所定方向(一方向)に相対回転させる。
【0044】
このように、センタレス研削工程では、内輪3を砥石23に対して所定方向に相対回転させつつ、内輪3の外周面に、硬い砥石23を押し付けることで研削加工を施している。このため、センタレス研削工程による得られる内輪3の摺接面10のうち、砥石23中の砥粒が通過することで、円周方向(
図5Aの(a)および
図5Bの(a)の左右方向)に伸長するように形成された研削筋目29の両側には、隆起やバリなどの変形が生じる可能性がある。
【0045】
次の仕上工程では、摺接面10に不規則な方向の加工目30を多数形成する加工を行う。
【0046】
仕上工程は、例えば
図3を示すように、砥粒入ブラシ31を使用して行うことができる。砥粒入ブラシ31としては、例えば、ナイロン6などのナイロン繊維に、粒度が#80〜#600のA(アルミナ)系またはGC(緑色炭化ケイ素)系砥粒を混入してなり、適度な弾性を有する線材製のものを使用することができる。
【0047】
砥粒入ブラシ31を使用して仕上工程を行う際には、砥粒入ブラシ31を、内輪3のシール溝9のそれぞれに押し付けたまま、内輪3を内輪3の中心軸を中心に回転させる。砥粒入ブラシ31の先端部は、砥粒入ブラシ31を構成する繊維の弾性により不規則な方向に変形するため、内輪3の回転に伴って押し付けられる場所が変化する。このため、砥粒入ブラシ31により、摺接面10を含むシール溝9のそれぞれの内面に研磨加工を施すことで、摺接面10に、
図5Aの(a)、(b)、
図5Bの(a)、(b)に示すような、不規則な方向の加工目30を多数形成することができる。
【0048】
仕上工程は、砥粒入ブラシ31を使用する方法に限らず、摺接面10に不規則な方向の加工目30を多数形成することができる限り、特に限定されない。具体的には、例えば、ナイロン不織布に、粒度が#80〜#600のA(アルミナ)系またはGC(緑色炭化ケイ素)系砥粒を接着した不織布研磨材を、摺接面10に沿って移動させることにより、摺接面10を研磨することで、摺接面10に不規則な方向の加工目30を多数形成することができる。
【0049】
なお、いずれの方法により仕上工程を行う場合でも、1対のシール溝9を同時に加工することもできるし、1対のシール溝9をそれぞれ別々に(順番に)加工することもできる。
【0050】
さらに、仕上工程と前後してまたは同時に、内輪軌道8に、内輪軌道8の表面粗さを向上させるための超仕上加工を施したり、必要に応じて適切なタイミングで、焼き入れなどの熱処理を施したりするなどして、内輪3を完成させる。
【0051】
次いで、内輪3を、外輪2、転動体4、1対の密封装置5および保持器11と組み合わせて転がり軸受1を構成した場合に、外輪2と内輪3との相対回転方向による、外輪2に対する内輪3の回転トルクの差を所定値以下に抑えるのに十分な量の加工目30が、摺接面10に形成されているか否かを検査する。
【0052】
このために、まず、
図4に示すように、内輪3の摺接面10を、照明32により照射しつつ、カメラ33により撮影して原画像を得る撮影工程を行う。検査装置100は、照明32、カメラ33、及びコントローラ110等を備える。
【0053】
摺接面10をカメラ33により撮影する前の準備として、仕上工程において摺接面10に形成された加工目30が、原画像にはっきりと表示される(写る)ように、照明32の照射方向を調整しておく。照明32の照射方向を調整するために、具体的には、例えば、摺接面10に形成された加工目30の面積または/および本数が既知である内輪(マスターワーク)3を用意し、内輪(マスターワーク)3の摺接面10をカメラ33により撮影して得た原画像に、後述の検出工程を行うことで検出画像を得る。そして、検出画像中の加工目30の面積または/および本数が、所定の値となるように、照明32の取付位置や取付角度などを調整することにより、照明32の照射方向を調整することができる。照明32の照明方向を調整する作業は、一度行えば、同一の形状および寸法を有する内輪3を撮影対象とする限り、都度行う必要はない。本例では、照明32として、青色の光を発光する青色照明を使用している。なお、青色照明としては、具体的には、例えば、青色発光ダイオード(青色LED)を備えるものを使用することができる。
【0054】
なお、摺接面10をカメラ33により撮影する前の準備として、内輪3の円周方向が、カメラ33の出力画像の横方向(左右方向)と一致するように、カメラ33の取付角度を、カメラ33の出力画像をモニタなどで確認しながら調整する。カメラ33の取付角度を調整する作業は、製品ごとに行うことが好ましい。なお、カメラ33としては、テレセントリックレンズを有するカメラを使用することが好ましい。
【0055】
撮影工程では、内輪3の摺接面10を、照明32により照射しつつ、カメラ33により撮影して、
図5Aの(a)および
図5Bの(a)に示すような原画像(静止画)を得る。なお、カメラ33により摺接面10を撮影する際には、摺接面10の一部のみを撮影することもできるし、カメラ33のシャッターを開いたまま、カメラ33に対し内輪3を相対回転させることで、摺接面10を全周にわたり撮影することもできる。
【0056】
次の検出工程では、原画像に、加工目30を検出する画像処理を施して、
図5Aの(b)および
図5Bの(b)に示すような検出画像を得る。具体的には、原画像に、原画像から、円周方向に伸長するように形成された研削筋目29を削除する画像処理を施して、検出画像を得る。
【0057】
原画像から検出画像を得るための画像処理の具体的な方法については、特に限定されない。なお、具体的には、例えば、画素値が所定の範囲である画素が、所定の閾値以上、かつ、線状に集合するとともに、原画像の横方向(左右方向)に対し所定角度だけ傾斜している部分(画素群)を、加工目30として検出する方法を採用することができる。
【0058】
すなわち、まず、原画像から、白色の画素を検出する。なお、画素が白色であるか否かの判断は、例えば、R値、G値およびB値のそれぞれが、予め実験などにより設定された所定値以上であるか否かに基づいて行うことができる。次いで、検出した白色の画素が、所定の閾値以上、かつ、線状に集合して存在する部分(画素群)を検出する。具体的には、例えば、白色の画素が、所定の閾値以上集合して存在する部分のうちで、長さ寸法Lに対する幅寸法Wの比(W/L)が、予め実験などにより定められた所定値以上である画素群を検出する。白色の画素が集合して存在する部分とは、集合中の任意の白色の画素が、他の白色の画素と縦方向または横方向に互いに隣接している部分をいう。例えば、
図6の例では、白色の画素が8個集合している。なお、前記所定の閾値は、カメラ33の画素数や原画像の倍率、転がり軸受1に要求される回転トルクの差などに応じて、適切に決定される。具体的には、例えば、500万画素のカメラ33で、摺接面10の約5mm
2の範囲を倍率約4倍で撮影した場合、前記所定の閾値を、40,000個に設定することができる。
【0059】
そして、検出した画素群のうちで、画素群の長さ方向(伸長方向)の、内輪3の円周方向(研削筋目29の形成方向)と一致する原画像の横方向に対する傾斜角度θが、15度以上45度以下の範囲にある画素群を加工目30として検出するとともに、残りの部分を除去する、すなわち青色または黒色の画素に変換することで検出画像を得る。ただし、原画像から検出画像を得るための画像処理として、従来から知られている他の方法を採用することもできる。
【0060】
原画像から検出画像を得た後、次の評価工程では、内輪3を、外輪2、転動体4、1対の密封装置5および保持器11と組み合わせて転がり軸受1を構成した場合に、外輪2と内輪3との相対回転方向による、外輪2に対する内輪3の回転トルクの差を所定値以下に抑えるのに十分な量の加工目30が、摺接面10に形成されているか否かを、検出画像に基づいて推定する。具体的には、検出画像中の加工目30の総面積または/および本数に基づいて、加工目30が十分に形成されているか否かを評価する。このために、加工目30の総面積または/および本数と、外輪2と内輪3との相対回転方向による、外輪2に対する内輪3の回転トルクの差との関係を予め実験により求めておき、マップや計算式などとして記録しておく。評価工程では、検出画像中の加工目30の総面積または/および本数を算出し、上記関係に基づいて、外輪2と内輪3との相対回転方向による、外輪2に対する内輪3の回転トルクの差を求める。なお、加工目30の総面積は、検出画像中の白色の画素の総数に基づいて算出することができる。また、加工目30の本数は、検出画像中の白色の画素群の数に基づいて算出することができる。
【0061】
外輪2と内輪3との相対回転方向による、外輪2に対する内輪3の回転トルクの差が所定値以下である、すなわち加工目30が十分に形成されている場合には、内輪3を、次の組立工程に送る。組立工程では、内輪3を、外輪2、転動体4、1対の密封装置5および保持器11と組み合わせることにより、転がり軸受1を得る。例えば、外輪2、転動体4、1対の密封装置5および保持器11の製造方法、並びに、転がり軸受1の組立方法については、従来から知られている方法を適用できる。
【0062】
外輪2と内輪3との相対回転方向による、外輪2に対する内輪3の回転トルクの差が所定値よりも大きい、すなわち加工目30が十分に形成されていない場合には、再度仕上工程を行う。
【0063】
本例において、コントローラ110は、摺接面10の少なくとも一部を、カメラ33により撮影して原画像を得ることと、原画像に画像処理を施して、摺接面10の複数の加工目を検出することと、加工目の検出結果に基づいて、軌道輪部材が組み込まれた部品の回転特性を推定することと、を実行する。本例によれば、転がり軸受1を組み立てる以前に、外輪2と内輪3との相対回転方向による、外輪2に対する内輪3の回転トルクの差(正回転と逆回転との間での回転トルクの差)が所定値以下となっているか否かを推定することができる。このため、転がり軸受を組み立てた後、外輪と内輪との相対回転方向による、外輪に対する内輪の回転トルクの差が所定値以下となっていない場合に、転がり軸受を分解する必要がなく、転がり軸受1の製造コストを低減することができる。
【0064】
本例では、照明32として、青色照明を使用しているため、摺接面10をカメラ33により撮影する際に、加工目30をはっきりと浮き上がらせることができる。このため、外輪2と内輪3との相対回転方向による、外輪2に対する内輪3の回転トルクの差の推定精度を良好にできる。
【0065】
なお、本例では、転動体4として玉を使用した転がり軸受(玉軸受)1の内輪3を対象としているが、本発明の検査方法は、ニードル軸受や円筒ころ軸受、円すいころ軸受の軌道輪部材を対象とすることもできる。また、本発明は、単列の転がり軸受に限らず、複列を含む多列の転がり軸受の軌道輪部材を対象とすることもできるし、密封装置を構成するシールリップの先端部が全周にわたり摺接する摺接面を備えた外輪を対象とすることもできる。さらに、本発明は、ラジアル転がり軸受の軌道輪部材に限らず、密封装置を備えていれば、スラスト転がり軸受の軌道輪部材を対象とすることもできる。
【0066】
また、検出工程で実施する画像処理は、加工目30を検出することができる限り、上述の方法に限定されない。具体的には、例えば、センタレス研削工程後、仕上工程前の内輪3の摺接面10を予めカメラ33により撮影しておき、仕上工程前後の画像を比較する(差分を求める)ことで、検出画像を得ることができる。
【0067】
また、検出工程を行う前に、研削筋目29または/およびノイズを除去する画像処理を行うこともできる。具体的には、例えば、原画像に、ローパスフィルタや平滑化フィルタによるフィルタ処理などを施すことができる。
【0068】
なお、センタレス研削工程中に、内輪3の中心軸と、回転砥石である砥石23の中心軸との距離が変化するなどした場合には、砥石23中の砥粒が摺接面10を通過することにより形成される研削筋目29が、内輪3の円周方向に対して傾斜する方向に伸長して形成される可能性がある。この場合には、摺接面10をカメラ33により撮影する際に、研削筋目29の形成方向(伸長方向)が、カメラ33の出力画像の横方向(左右方向)または縦方向(上下方向)と一致するように、カメラ33の取付角度を調整することができる。
【0069】
[実施の形態の第2例]
本発明の実施の形態の第2例について、
図7〜
図10により説明する。本例は、車輪および制動用回転体を、車両の懸架装置に対し回転自在に支持するハブユニット軸受のハブを構成するハブ本体を対象としている。
図7に示すように、ハブユニット軸受34は、外径側軌道輪部材かつ固定側軌道輪部材である外輪35の内側に、内径側軌道輪部材かつ回転側軌道輪部材であるハブ36を、複数個の転動体37a、37bを介して、回転自在に支持してなる。
【0070】
外輪35は、中炭素鋼などの硬質金属製で、複列の外輪軌道38a、38bと、静止フランジ39とを備える。複列の外輪軌道38a、38bは、外輪35の軸方向中間部内周面にそれぞれ全周にわたり形成されている。静止フランジ39は、外輪35の軸方向中間部に径方向外方に突出するように形成されており、径方向中間部の円周方向複数箇所に、ねじ孔である支持孔40を有する。外輪35は、車両の懸架装置を構成するナックル41に形成された通孔42を挿通したボルト43を、静止フランジ39の支持孔40に軸方向内側から螺合しさらに締め付けることで、ナックル41に対し支持固定されている。
【0071】
なお、ハブユニット軸受34に関して、軸方向内側とは、ハブユニット軸受34を自動車に組み付けた状態で車体の中央側となる、
図7および
図8の右側をいう。反対に、ハブユニット軸受34を自動車に組み付けた状態で車体の外側となる、
図7および
図8の左側を、軸方向外側という。
【0072】
ハブ36は、外輪35の内径側に外輪35と同軸に配置されており、複列の内輪軌道44a、44bと、回転フランジ45とを備える。複列の内輪軌道44a、44bは、ハブ36の外周面のうち、複列の外輪軌道38a、38bに対向する部分にそれぞれ全周にわたり形成されている。回転フランジ45は、ハブ36のうち、外輪35の軸方向外側の端部よりも軸方向外側に位置する部分に、径方向外方に突出するように形成されており、径方向中間部の円周方向複数箇所に、軸方向に貫通する取付孔46を有する。本例では、ディスクやドラムなどの制動用回転体47を回転フランジ45に結合固定するために、スタッド48の基端寄り部分に形成されたセレーション部を、取付孔46に圧入するとともに、スタッド48の中間部を、制動用回転体に形成された通孔49に圧入している。さらに、車輪を構成するホイール50を回転フランジ45に固定するために、スタッド48の先端部に形成された雄ねじ部を、ホイール50に形成された通孔51に挿通した状態で、雄ねじ部にナット52を螺合しさらに締め付けている。なお、本例のハブユニット軸受34は、駆動輪用であるため、ハブ36の中心部に、図示しない駆動軸を係合する係合孔64を有する。
【0073】
本例では、ハブ36を、中炭素鋼などの硬質金属製で、軸方向外側の内輪軌道44aを有するハブ本体53と、軸受鋼などの硬質金属製で、軸方向内側の内輪軌道44bを有する内輪54とを、互いに結合固定することにより構成している。具体的には、ハブ本体53の軸方向内側部分に内輪54を外嵌した状態で、ハブ本体53の軸方向内側の端部に存在する円筒部55の軸方向内端部を径方向外方に塑性変形させてなるかしめ部56により、内輪54の軸方向内端面を抑え付けることで、ハブ本体53と内輪54とを結合固定している。本例のハブ36は、回転フランジ45の軸方向内側面の径方向内側の端部から、外周面のうちで軸方向外側の内輪軌道44aよりも軸方向外側に存在する部分にかけての範囲に、摺接面57を全周にわたって有する。摺接面57には、微細溝状の加工目30(
図5Aの(a)、(b)、
図5Bの(a)、(b)参照)が不規則な方向に多数形成されている。
【0074】
転動体37a、37bは、それぞれが軸受鋼などの硬質金属製あるいはセラミックス製で、複列の外輪軌道38a、38bと複列の内輪軌道44a、44bとの間に、それぞれ複数個ずつ、保持器58a、58bにより保持された状態で、転動自在に配置されている。このような構成により、外輪35の内径側にハブ36を回転自在に支持している。なお、本例では、転動体37a、37bとして玉を使用している。
【0075】
さらに、本例のハブユニット軸受34では、転動体37a、37bが配置された内部空間59の軸方向内側の開口部を、組み合わせシールリング60により塞ぐとともに、内部空間59の軸方向外側の開口部を、密封装置61により塞いでいる。これにより、内部空間59に封入されたグリースが外部に漏洩することを防止するとともに、雨水や泥、塵などの異物が内部空間59に入り込むことを防止している。
【0076】
組み合わせシールリング60は、ハブ36の軸方向内側の端部に外嵌固定されたスリンガ62に、外輪35の軸方向内側に端部に内嵌固定されたシールリング63を構成する複数本のシールリップの先端部を摺接させてなる。
【0077】
密封装置61は、円環状の芯金65と、芯金65により補強されたゴムのようなエラストマーなどからなる弾性材66とを備える。
【0078】
芯金65は、軟鋼板などの金属板を曲げ成形することにより、略L字形の断面形状を有するとともに、全体を円環状に構成されている。すなわち、芯金65は、円筒状で、外輪35の軸方向外側の端部に内嵌固定された嵌合筒部67と、嵌合筒部67の軸方向外側の端部から径方向内側に向けて折れ曲がった折れ曲がり部68とを備える。
【0079】
弾性材66は、基部69と、複数本(図示の例では3本)のシールリップ70とを備える。基部69は、芯金65の折れ曲がり部68の軸方向外側面および径方向内側の端部を覆うように、当該部分に加硫接着により固定されている。シールリップ70のそれぞれは、基部69からハブ36の摺接面57に向けて延出し、先端部を、摺接面57に全周にわたり摺接させている。
【0080】
ハブユニット軸受34のハブ36を構成するハブ本体53を造る際には、まず、金属製の素材に、鍛造加工や切削加工などを施して、ハブ本体53の外形を成形する。
【0081】
次のセンタレス研削工程では、
図9に示すように、ハブ本体53を砥石71に対して所定方向に相対回転させつつ、ハブ本体53の外周面のうち、摺接面57を含む部分に砥石71を押し付けることにより、ハブ本体53の外周面に研削加工を施す。
【0082】
本例の砥石71は、ハブ本体53の外周面のうち、摺接面57から円筒部55の軸方向内側の端部にかけての範囲の母線形状に沿った母線形状を有する、所謂総型の回転砥石である。砥石71としては、例えば、A(アルミナ)系砥粒を、ガラス系のボンドで結合したものであって、結合粒度が#60〜#400であり、結合度がG〜Oであり、集中度が4〜12であるものを使用することができる。
【0083】
砥石71を使用してセンタレス研削工程を行う際には、まず、回転フランジ45の軸方向外側面にマグネットチャック72を磁気吸着により結合させ、マグネットチャック72を回転させることにより、ハブ本体53を回転させる。また、ハブ本体53の軸方向中間部外周面を1対(
図9では1つのみ表示)のシュー73により支持することで、ハブ本体53のラジアル方向に関する位置決めを図る。そして、総型の回転砥石である砥石71を、自身の中心軸O
71を中心に回転させながら、砥石71の外周面を、ハブ本体53の外周面のうち、摺接面57を含む部分に押し付けることで、当該部分に研削加工を施す。なお、砥石71は、母線形状を、総型のロータリドレッサ74により、センタレス研削工程完了後のハブ本体53の母線形状に沿った形状に適宜整えられる。また、センタレス研削工程による得られるハブ本体53の摺接面57のうち、砥石71中の砥粒が通過することにより形成された研削筋目29(
図5Aの(a)および
図5Bの(a)参照)の両側には、隆起やバリなどの変形が生じる可能性がある。
【0084】
次の仕上工程では、摺接面57に不規則な方向の加工目30を多数形成する加工を行う。具体的には、例えば、摺接面57を、砥粒入ブラシ31(
図3参照)や不織布研磨剤により研磨することで、摺接面57に不規則な方向の加工目30を多数形成することができる。
【0085】
そして、仕上工程と前後してまたは同時に、軸方向外側の内輪軌道44aに超仕上加工を施したり、必要に応じて適切なタイミングで、焼き入れなどの熱処理を施したりするなどして、ハブ本体53を完成させる。
【0086】
次いで、ハブ本体53を、外輪35、転動体37a、37bおよび保持器58a、58b、内輪54、並びに、組み合わせシールリング60および密封装置61と組み合わせてハブユニット軸受34を構成した場合に、ハブ36の回転方向による、ハブ36の回転トルクの差を所定値以下に抑えるのに十分な量の加工目30が、摺接面57に形成されているか否かを検査する。
【0087】
まず、
図10に示すように、ハブ本体53の摺接面57を、照明32aにより照射しつつ、カメラ33aにより撮影して原画像を得る撮影工程を行う。
【0088】
摺接面57をカメラ33aにより撮影する前の準備として、加工目30が、原画像にはっきりと表示されるように、照明32aの照射方向を調整するとともに、内輪3の円周方向(研削筋目29の形成方向)が、カメラ33aの出力画像の横方向と一致するように、カメラ33aの取付角度を調整する。また、本例でも、実施の形態の第1例と同様に、照明32aとして、青色の光を発光する青色照明を使用するとともに、カメラ33aとして、テレセントリックレンズを有するものを使用している。
【0089】
撮影工程において、ハブ本体53の摺接面57を照明32aにより照射しつつ、カメラ33aにより撮影して、前述の
図5Aの(a)および
図5Bの(a)に示すような原画像を得た後は、次の検出工程に進む。検出工程では、原画像に、加工目30を検出する画像処理を施して、前述の
図5Aの(b)および
図5Bの(b)に示すような検出画像を得る。
【0090】
次いで、評価工程では、ハブ本体53を、外輪35、転動体37a、37bおよび保持器58a、58b、内輪54、並びに、組み合わせシールリング60および密封装置61と組み合わせてハブユニット軸受34を構成した場合に、ハブ36の回転方向による、ハブ36の回転トルクの差を所定値以下に抑えるのに十分な量の加工目30が、摺接面57に形成されているか否かを、検出画像に基づいて推定する。このために、加工目30の総面積または/および本数と、ハブ36の回転方向による、ハブ36の回転トルクの差との関係を予め実験により求めておき、マップや計算式などとして記録しておく。評価工程では、検出画像中の加工目30の総面積または/および本数を算出し、上記関係に基づいて、ハブ36の回転方向による、ハブ36の回転トルクの差を求める。
【0091】
ハブ36の回転方向による、ハブ36の回転トルクの差が所定値以下であると推定された場合には、ハブ本体53を、次の組立工程に送る。組立工程では、ハブ本体53を、外輪35、転動体37a、37bおよび保持器58a、58b、内輪54、並びに、組み合わせシールリング60および密封装置61と組み合わせることにより、ハブユニット軸受34を得る。例えば、外輪35、転動体37a、37bおよび保持器58a、58b、内輪54、並びに、組み合わせシールリング60および密封装置61の製造方法、並びに、ハブユニット軸受34の組立方法については、従来から知られている方法を適用できる。
【0092】
一方、ハブ36の回転方向による、ハブ36の回転トルクの差が所定値よりも大きいと推定された場合には、ハブ本体53に対して、再度、加工目30を形成するための仕上工程を行う。
【0093】
本例において、コントローラ110aは、摺接面57の少なくとも一部を、カメラ33aにより撮影して原画像を得ることと、原画像に画像処理を施して、摺接面57の複数の加工目を検出することと、加工目の検出結果に基づいて、軌道輪部材が組み込まれた部品の回転特性を推定することと、を実行する。本例によれば、ハブユニット軸受34を組み立てる以前に、ハブ36の回転方向による、ハブ36の回転トルクの差が所定値以下となっているか否かを推定することができる。このため、ハブユニット軸受を組み立てた後、ハブの回転方向による、ハブの回転トルクの差が所定値以下となっていない場合に、ハブユニット軸受を分解する必要がなく、ハブユニット軸受34の製造コストを低減することができる。
【0094】
なお、本例のように、総型の回転砥石である砥石71と、マグネットチャック72とを使用してセンタレス研削工程を行うと、得られるハブ本体53の摺接面57には、対数螺旋状(渦巻状)の研削筋目が形成される可能性がある。すなわち、1対のシュー73によりハブ本体53のラジアル方向に関する位置決めを図る際に、ハブ本体53の中心軸O
53とマグネットチャック72の回転中心軸O
72とを偏心させることで、ハブ本体53に1対のシュー73同士の間に向かう方向の押圧力を付与している。したがって、ハブ本体53の外周面と1対のシュー73の先端部との間に作用する摩擦により、1対のシュー73の先端部に摩擦が生じて、ハブ本体53の中心軸O
53の芯高(上下方向に関する高さ)と、砥石71の中心軸O
71の芯高とが不一致になりやすい。このため、摺接面57(のうち、特に軸方向内側を向いた部分)に対する砥石71による研削位置が上下方向に変化して、摺接面57に、摺接面57を砥石71中の砥粒が通過することで形成される研削筋目29が、対数螺旋状に形成される可能性がある。この場合には、摺接面57をカメラ33aにより撮影する際に、研削筋目29の形成方向(伸長方向)が、カメラ33aの出力画像の横方向(左右方向)または縦方向(上下方向)と一致するように、カメラ33aの取付角度を調整することができる。その他の部分の構成および作用効果は、実施の形態の第1例と同様である。
【0095】
なお、本例の検査方法は、転動体37a、37bとして玉を使用したハブユニット軸受34のハブ36を構成するハブ本体を対象としているが、本発明の検査方法は、転動体として円すいころを使用したハブユニット軸受の軌道輪部材を対象とすることもできる。また、本発明の検査方法は、ハブの中心部に駆動軸を係合するための係合孔を有する駆動輪用のハブユニット軸受の軌道輪部材に限らず、ハブが中実である従動輪用のハブユニット軸受の軌道輪部材を対象とすることもできる。さらに、本発明の検査方法は、内輪回転型のハブユニット軸受の軌道輪部材に限らず、密封装置を備えていれば、外径側軌道輪部材を回転側軌道輪部材とするともに、内径側軌道輪部材を固定側軌道輪部材とした、外輪回転型のハブユニット軸受の軌道輪部材を対象とすることもできる。
【0096】
図11は、ハブユニット軸受(軸受ユニット)151を備える車両200の部分的な模式図である。本発明は、駆動輪用のハブユニット軸受、及び従動輪用のハブユニット軸受のいずれにも適用することができる。
図11において、ハブユニット軸受151は、駆動輪用であり、外輪152と、ハブ153と、複数の転動体156とを備えている。外輪152は、ボルト等を用いて、懸架装置のナックル201に固定されている。車輪(および制動用回転体)202は、ボルト等を用いて、ハブ153に設けられたフランジ(回転フランジ)153Aに固定されている。また、車両200は、従動輪用のハブユニット軸受151に関して、上記と同様の支持構造を有することができる。
摺接面の一部または全部を、カメラにより撮影して原画像を得る、撮影工程を行った後、前記原画像に、加工目を検出する画像処理を施して、検出画像を得る、検出工程を行い、さらに、軌道輪部材を別の軌道輪部材と組み合わせて転がり軸受を構成した場合の、前記軌道輪部材と前記別の軌道輪部材との相対回転方向による、前記別の軌道輪部材に対する前記軌道輪部材の回転トルクの差を、前記検出画像に基づいて推定する、評価工程を行う。