【実施例】
【0021】
以下、本発明を実施するための一実施例を、
図1〜
図7を用いて説明する。
1はキャリパ本体が車輪の軸方向に移動する本発明の浮動型キャリパブレーキ装置であり、以下に説明するように構成されている。
【0022】
2は先端側が車輪3の外周両側面の外側に位置するように二つに分岐形成されたキャリパ本体であり、台車4に固定された支持枠5に取付けた2本の支持ピン6a,6bに沿って車輪3の軸方向へのスライドが自在なように、その基端側を支持枠5に取付けている。
【0023】
7a,7bは前記キャリパ本体2の二つに分岐形成されたうちの一方の先端部における車輪3の周方向両側にそれぞれ支持された2個の油圧ピストンであり、これら油圧ピストン7a,7bのロッド端に制輪子8aが設置されている。
【0024】
9a,9bは前記キャリパ本体2の一方の先端部における前記2個の油圧ピストン7a,7bの間に設置された2個の隙間調整装置であり、車輪3に一体的に取付けられたブレーキディスク10と制輪子8aとの隙間を自動的に調整する装置である。
【0025】
一方、前記キャリパ本体2の一方の先端部と相対する他方の先端部の内側には制輪子8bが直接支持され、制輪子8bをブレーキディスク10に押付ける油圧ピストン7a,7bは設置されていない。
【0026】
なお、11aは前記制輪子8a,8bを上端部から保持する上部受け部材、11bは同じく制輪子8a,8bを下端部から保持する下部受け部材で、それぞれキャリパ本体2の分岐した先端部に設置される。
【0027】
また、2aはキャリパ本体2における前記油圧ピストン7a,7bの設置側の中央部に設けられた作動油配管口であり、この作動油配管口2aから供給された作動油は、通孔2bを通って油圧ピストン7a,7bに供給される。
【0028】
上記構成の浮動型キャリパブレーキ装置1は、油圧ピストン7a,7bに作動油を供給してロッドを突出させることで、キャリパ本体2の一方の先端部に支持された制輪子8aがブレーキディスク10に押付けられる。
【0029】
制輪子8aがブレーキディスク10に押付けられると、その反力でキャリパ本体2は支持ピン6a,6bに沿って制輪子8aが車輪3から離れる方向に移動する一方、キャリパ本体2の他方の先端部に支持された制輪子8bがブレーキディスク10に接近する方向に移動する。そして、ついには両制輪子8a,8bでブレーキディスク10を両側から押付けることになる。
【0030】
本発明では、上記浮動型キャリパブレーキ装置1に、以下の構成の駐車ブレーキを追加している。
【0031】
12はエアーの供給によってシリンダ21から突出するロッド22が出退動する駐車ブレーキシリンダ装置であり、前記キャリパ本体2の基端側の、鉄道車両の高さ方向に設置した前記2本の支持ピン6a,6bの間に設置される。
【0032】
前記駐車ブレーキシリンダ装置12は、前記シリンダ21の内部をピストン23によってばね室24と圧力室25に気密を保って区画し、ばね室24に配置した圧縮ばね26によりロッド22を突出するように付勢している。
【0033】
前記ピストン23のばね室24側への移動は、ピストン23のロッド22と反対側に突出させた軸状部23aの段差部23bにシリンダ21のばね室24側の壁面21aから圧力室25側に突出させた筒状部21bの先端面が当接することで規制している。
図7の例では、前記軸状部23aを前記筒状部21bの内部で摺動自在に支持させたものを示している。
【0034】
27は前記ロッド22の先端部外周に移動自在に挿入した筒状のプッシュロッドである。このプッシュロッド27の基端側には複数の孔27aを設け、これらの孔27aにそれぞれ挿入したボール28がロッド22の先端側に形成した円周凹部22aに嵌合することで、ロッド22とプッシュロッド27が連結するようになっている。
【0035】
29は前記円周凹部22aに嵌合したボール28を保持すべく、前記プッシュロッド27の外周に挿入した筒状の保持部材である。この保持部材29の他端側端部はプッシュロッド27の外周に形成した凸状周縁部27bと当接可能に形成され、前記連結時に保持部29aの内周面がボール28の直上に位置するように保持部材29の内部に設けたばね30によって付勢されている。また、前記保持部材29の一端側の内周部分から前記保持部29aに至る間をボール28の逃がし部29bとなるように形成している。
【0036】
31は前記保持部材29に固定された取付け部32にピン33を用いて一方端側を回転自在に設置されたレバーであり、このレバー31の他方端にピン34を介して連結した引き棒35をシリンダ21のばね室24側の壁面21aに至るように導いている。
【0037】
そして、前記引き棒35の長手方向2か所には僅かな凹み35a,35bを形成し、これら凹み35a,35bを分別するために2種類の塗料で塗り分けている。
【0038】
このうちのピン34より遠い方の
凹み35a(第1表示部)は、
図7(a)に示した駐車ブレーキを解除した緩め位置のときにシリンダ21のばね室24側の端面下に位置するようにその位置を決定し、緩め位置であることを確認できるようにしている。
【0039】
また、ピン34に近い方の
凹み35b(第2表示部)は、
図7(a)に示した緩め位置のときには、その一方端がシリンダ21の外周部に設けた引き棒35の案内支え21cの例えばロッド側端面と一致する一方、
図7(b)の駐車ブレーキ時には案内支え21
cの外側に位置するようにその位置を決定している。このように、
凹み35bの位置を決定すれば、案内支え21cの例えばロッド側端面と駐車ブレーキ時の
凹み35bの一方端の距離を測定することで、駐車ブレーキ時のピストンストローク量Lを測定できることになる。
【0040】
このような構成により、
図1に示すように、ロッド22、プッシュロッド27、保持部材29が台車の幅方向中央に位置する場合であっても、台車の側面方向から、以下に説明するように、手動で解放操作をできるようになる。
【0041】
すなわち、上記構成の駐車ブレーキシリンダ装置12では、鉄道車両の係留時は、
図7(a)の緩め位置にある圧力室25から圧縮空気を排気することにより、
図7(b)に示すように、圧縮ばね26の付勢力によりプッシュロッド27をロッド22と一体に突出させる。
【0042】
このプッシュロッド27の突出により前記一方の制輪子8aがブレーキディスク10に向けて移動し、結果的に両制輪子8a,8bで車輪3の両側面に取付けたブレーキディスク10を挟んで鉄道車両が転動しない駐車ブレーキ状態になる。
【0043】
その際、駐車ブレーキシリンダ12のプッシュロッド27の突出を一方の制輪子8aに伝える手段として、本発明では、以下のブレーキ梃子13を採用している。
【0044】
すなわち、前記駐車ブレーキシリンダ装置12のプッシュロッド27の端部にブレーキ梃子13の基端部13aを回転自在に取付ける。そして、前記プッシュロッド27の突出により先端部13bをプッシュロッド27の突出方向と逆方向に移動させて前記油圧ピストン7a,7bを配置した側の一方の制輪子8aを押付けるように、中央部に支点13cを設ける。このブレーキ梃子13の支点13cを、本発明では、前記キャリパ本体2に設けた作動油配管口2aよりも
車輪の軸方向に関して車輪側とする。
【0045】
このようにキャリパ本体2に設けた作動油配管口2aよりも
車輪の軸方向に関して車輪側にブレーキ梃子13の支点13cを設けることで、ブレーキ梃子13が小型化できて、駐車ブレーキを追加しても従来の浮動型キャリパブレーキ装置のサイズを維持することができ、台車4への搭載性を阻害することもなくなる。
【0046】
また、実施例では、前記ブレーキ梃子13の先端部13bに設置した球面座14を介して押圧部材15を保持し、この押圧部材15に形成した3点の押圧部15a〜15cで前記制輪子8aを押付けるものを示している。
【0047】
その際、前記3点の押圧部15a〜15cの押圧高さ位置を、制輪子8aの被押付け面(ブレーキディスク10への当接面と反対側)の段差に合致させることで、ブレーキ性能に重要な油圧ピストン7a,7b、隙間調整装置9a,9bなどの配置を変更することなく、安定した押付けが可能になる。この安定した押付けは球面座14を介在させることによってより顕著になる。
【0048】
このような実施例によれば、従来の浮動型キャリパブレーキ装置との互換性を持たせることができ、容易に従来の浮動型キャリパブレーキ装置との置き換えが可能になる。
【0049】
一方、球面座14を介在させた場合は、車両の走行時に押圧部材15に回転動揺が生じる。従って、押圧部材15の回転動揺を防止するために、実施例では、押圧部材15にピン16を貫通させ、この貫通させたピン16をブレーキ梃子13の前記ピン16の貫通部分に設けた嵌入孔13dに挿入している。このような回り止めを設置することで、車輪の回転方向の自由度を抑制して押圧部材15が回転動揺しないようになる。
【0050】
図7(b)に示す駐車ブレーキ位置から手動で駐車ブレーキを解除する場合は、作業者が引き棒35をロッド22の突出方向と反対方向に引いてピン33を支点として前記レバー31の一方端側を回動する。
【0051】
これにより、レバー31の一方端側に形成した爪部31aがプッシュロッド27の外周面に形成した凸部27cをシリンダ21側に押し、ばね30の付勢力に抗して保持部材29を凸部27c側に引き寄せ、ボール28がロッド22の円周凹部22aから出て退避位置に位置するよう、保持部材29を移動させる(
図7(c)参照)。手動による駐車ブレーキの解除後、引き棒35の位置が
図7(a)に示した緩め位置と紛らわしい場合は、引き棒35が簡単に移動するかどうかによって確認することができる。
【0052】
本発明は上記した例に限らないことは勿論であり、各請求項に記載の技術的思想の範疇であれば、適宜実施の形態を変更しても良いことは言うまでもない。