特許第6777425号(P6777425)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6777425構造物の雨水排出用屋根材及び雨水排出用組立屋根
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6777425
(24)【登録日】2020年10月12日
(45)【発行日】2020年10月28日
(54)【発明の名称】構造物の雨水排出用屋根材及び雨水排出用組立屋根
(51)【国際特許分類】
   E04D 13/04 20060101AFI20201019BHJP
   E04G 21/28 20060101ALI20201019BHJP
【FI】
   E04D13/04 Z
   E04G21/28 Z
【請求項の数】7
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2016-97721(P2016-97721)
(22)【出願日】2016年5月16日
(65)【公開番号】特開2017-206815(P2017-206815A)
(43)【公開日】2017年11月24日
【審査請求日】2019年1月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001373
【氏名又は名称】鹿島建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124316
【弁理士】
【氏名又は名称】塩田 康弘
(72)【発明者】
【氏名】松尾 一平
(72)【発明者】
【氏名】海平 孝雄
(72)【発明者】
【氏名】涌澤 一章
【審査官】 五十幡 直子
(56)【参考文献】
【文献】 実開昭49−143808(JP,U)
【文献】 実開昭60−061338(JP,U)
【文献】 特開平07−076935(JP,A)
【文献】 特開2016−017278(JP,A)
【文献】 特開平02−304177(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04D 13/04
E04G 21/24−21/32
E04B 7/00
E04B 7/18
E04H 4/00
E04H 15/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
躯体としての屋根の天端上に設置され、降雨時の雨水を受け止めて前記屋根外へ排出するために使用される屋根材であり、
内部に気体と液体の注入が可能で、それぞれの注入状態を維持可能な素材から中空断面形状に形成され、環状に閉じた形に周回する枠材と、液体の貯留状態を維持可能な素材から形成され、前記周回する枠材の底面側に一体化した底材とを備え、
前記枠材に気体と液体のいずれかを注入するための注入口が形成され
前記底材に前記底材上の水を排出するための排水口が形成されており、
前記排水口に縦樋が直接、または横樋を介して間接的に接続可能であることを特徴とする構造物の雨水排出用屋根材。
【請求項2】
躯体としての屋根の天端上に設置され、降雨時の雨水を受け止めて前記屋根外へ排出するために使用される屋根材であり、
内部に気体と液体の注入が可能で、それぞれの注入状態を維持可能な素材から中空断面形状に形成され、環状に閉じた形に周回する枠材と、液体の貯留状態を維持可能な素材から形成され、前記周回する枠材2の底面側に一体化した底材とを備え、
前記枠材に気体と液体のいずれかを注入するための注入口が形成され
前記底材上の空間と前記枠材の外部を連通させるパイプが前記枠材を幅方向に、もしくは幅方向に対して傾斜した方向に貫通し、このパイプの内周面が前記底材上の水を排出するための排水口を兼ね、
前記排水口に縦樋が直接、または横樋を介して間接的に接続可能であることを特徴とする構造物の雨水排出用屋根材。
【請求項3】
前記排水口が前記屋根の縁側のつなぎ材寄りに形成されていることを特徴とする請求項1、もしくは請求項2に記載の構造物の雨水排出用屋根材。
【請求項4】
前記枠材に気体、もしくは液体を排出するための排出口が形成されていることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の構造物の雨水排出用屋根材。
【請求項5】
前記枠材は幅方向に距離を置いて並列する主枠材と、この主枠材の少なくとも軸方向両端部間に架設されて前記各主枠材に接続され、内部が前記主枠材の内部に連通するつなぎ枠材からなり、
前記主枠材の長さ方向一方側の前記つなぎ枠材と前記主枠材との接続部分、もしくはこの接続部分に近い前記主枠材の内部に、前記枠材内部の空間を前記主枠材側と前記つなぎ枠材側とに仕切る隔壁が形成され、この隔壁で仕切られた前記枠材の前記主枠材側に気体と液体のいずれかを注入するための注入口が形成され、前記隔壁で仕切られた前記つなぎ枠材側に気体と液体のいずれかを注入するための注入口が形成されていることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の構造物の雨水排出用屋根材。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の雨水排出用屋根材をその幅方向に並列させ、隣接する前記雨水排出用屋根材を互いに連結して構成される雨水排出用組立屋根であり、
前記隣接して配置された前記雨水排出用屋根材の互いに並列する前記枠材間に跨って連結材が設置され、この連結材が両枠材に接続されて前記隣接する雨水排出用屋根材が前記枠材の幅方向に互いに接合されていることを特徴とする構造物の雨水排出用組立屋根。
【請求項7】
前記隣接する雨水排出用屋根材の互いに並列する前記枠材の各雨水排出用屋根材の内周側間に、前記各雨水排出用屋根材の底材上の空間を連通させるパイプが挿通していることを特徴とする請求項6に記載の構造物の雨水排出用組立屋根。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は例えば建物等、構造物の屋根上に着脱自在に設置され、構造物内に雨水が浸入することを防止するために使用される構造物の雨水排出用屋根材、及びそれを組み合わせて構成される雨水排出用組立屋根に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば既存の構造物の屋根、特に屋根スラブのような陸屋根の一部に損傷が発生したような場合、損傷箇所からは降雨時に雨水の構造物内への浸入が生じる可能性があるため、雨水浸入の防止上、暫定的(一時的)にでも構造物の屋根上に仮設の屋根材を敷設することが必要になる。
【0003】
構造物の屋根上に敷設される屋根材が仮設であっても、陸屋根の場合には屋根材(屋根ユニット)自体がほぼ水平な面をなす屋根面上を覆う形状の平板状に形成される関係で、風の影響を受け、浮き上がりを生じ易い。
【0004】
このため、屋根材が仮設の場合、構造物本体に何らかの手段で拘束されない限り、風圧作用時に屋根材が構造物本体から容易に離脱し、浮き上がりを生じないよう、ある程度の自重を持つことが要求される(特許文献1〜3参照)。屋根材が仮設ではなく、構造物本体と共に永続的に使用されるのであれば、屋根材を構造物本体に固定する等により拘束すればよいからである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−292545号公報(段落0013〜0020、図3図5
【特許文献2】特開2003−13536号公報(請求項1、段落0018〜0022、図2図6
【特許文献3】特開2008−75435号公報(段落0007、図1図2
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
但し、単一(1個)の屋根材に風では容易に浮き上がりを生じない程度の質量を与えることは、地上から屋根上への吊り上げ作業性を低下させる不利益を招くことになる。このように仮設として使用される屋根材は浮き上がり防止機能と吊り上げ作業性の相反する性能が要求されるため、いずれか一方の要求を満たそうとすれば、他方の要求が満たされなくなる性質を持っている。
【0007】
本発明は上記背景より、単一の屋根材の吊り上げ作業性を確保しながら、設置後の風に対する安定性も確保し得る形態の雨水排出用屋根材及び雨水排出用組立屋根を提案するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に記載の発明の構造物の雨水排出用屋根材は、躯体としての屋根の天端上に設置され、降雨時の雨水を受け止めて前記屋根外へ排出するために使用される屋根材であり、内部に気体と液体の注入が可能で、それぞれの注入状態を維持可能な素材から中空断面形状に形成され、環状に閉じた形に周回する枠材と、液体の貯留状態を維持可能な素材から形成され、前記周回する枠材の底面側に一体化した底材とを備え、前記枠材に気体と液体のいずれかを注入するための注入口が形成され、前記底材に前記底材上の水を排出するための排水口が形成されており、前記排水口に縦樋が直接、または横樋を介して間接的に接続可能であることを構成要件とする。
【0009】
「環状に閉じた形に周回する」とは、中空の枠材の材軸に直交するある断面上の中心を結ぶ軸線の方向に枠材の構成材である素材が連続し、全体として環状に閉じた形状をすることを言い、主に直線状の軸線からなる角のある環状に形成されるが、一部の軸線が曲線状であることもある。枠材自体、あるいは枠材の構成材自体は軸線方向(軸方向)に連続した中空断面形状(チューブ状)をし、軸線方向に連続した1本の中空断面材からなることもあるが、角のある環状に形成される場合には、例えば図4に示すように幅方向に距離を置いて並列する主枠材21、21と、主枠材21の少なくとも軸方向両端部間に架設されて各主枠材21に接続され、内部が主枠材21の内部に連通するつなぎ枠材22、22から枠材2が構成されることが合理的である(請求項5)。主枠材21とつなぎ枠材22は枠材2を構成するから、共に中空である。
【0010】
この(請求項5の)場合、主枠材21は主に直線状に形成されるが、並列する主枠材21、21の長さ方向の両端部間につなぎ枠材22が架設され、両主枠材22、22、または各主枠材22に接続(接合)されたときに枠材2が環状に閉じ、周回した形状になる。この場合の枠材2の基本形状は2本の主枠材21、21が並列したときの形状になるが、枠材2(屋根材1)を構成する主枠材21は2本であるとは限らず、3本以上であることもある。主枠材21とつなぎ枠材22からなる枠材2は主に主枠材21の軸方向に長い形状、例えば長方形状等に形成されることが多いが、そうでない形状のこともある。
【0011】
只、請求項5では屋根材1の幅方向に隣接する屋根材1と隙間なく組み合わせる(請求項6)上では、基本的には主枠材21とつなぎ枠材22は共に直線状に形成されることが合理的であるため、閉じた枠材2は主に長方形状に形成されるが、完全な長方形状である必要はない。例えば屋根材1が図2図3に示すように幅方向に並列して配列し、隣接する屋根材1、1同士が互いに接合されて組立屋根5として使用される場合(請求項6)に、図1に示すように屋根材1の軸方向(長さ方向)の一方の端部が躯体としての屋根(以下、躯体屋根4と言う)の縁(へり)から庇状に張り出すような場合には、その張り出し側(縁側)に位置するつなぎ枠材22は必ずしも直線状である必要はなく、並列する屋根材1、1の張り出し側の端部が直線状に揃えられている必要もない。
【0012】
この躯体屋根4から張り出す側の反対側(躯体側)の端部は躯体としての壁や柱等に密着した状態を維持することが望ましいため、その側のつなぎ枠材22は壁等の躯体の表面形状に対応し、直線状に、または凹凸状に形成されることが適切である。このことから、枠材2は基本的には並列する主枠材21、21とその少なくとも躯体側である一方側のつなぎ枠材22が直線状であればよく、主枠材21の他方側(縁側)のつなぎ枠材22は直線状の場合とそうでない場合がある。
【0013】
請求項1における「気体と液体の注入が可能で、それぞれの注入状態を維持可能な素材」とは、気体と液体を中空の枠材2内部に注入したときに気体と液体が枠材2の外部に漏れない性能を有する素材であることである。例えばゴムボートの素材として使用されるゴム引布等のようにポリエステル、アラミド繊維その他の合成繊維からなる基布の両面にCSM(クロロスルホン化ポリエチレン)、EPDM等の合成ゴム、PVC等の合成樹脂を貼り合わせた素材、または前記合成繊維の基布の片面に前記合成ゴムや合成樹脂を貼り、他方の片面にクロロプレンゴム等の合成ゴムを貼り合わせた素材等が適する。但し、合成ゴムや合成樹脂、並びに枠材2の素材はこれらの例には限られない。
【0014】
底材3として使用される「液体の貯留状態を維持可能な素材」も同様の性能を有する素材であることであり、例えばポリパラフェニレンテレフタルアミド等のような合成樹脂のように底材3上から液体が漏れることがなく、底材3上に貯留させることができる能力を持つ素材を言う。「気体」と「液体」はそれぞれ主に空気と水であるが、必ずしもその必要はなく、水は海水を含む。
【0015】
請求項1における「気体と液体のいずれかを注入する」とは、屋根材1の状態(躯体屋根4上への設置前か設置後か)に応じ、枠材2の内部に気体のみを注入(充填)する場合と液体のみを注入(充填)する場合があることを言う。枠材2内部に気体を注入している状況から液体を注入するときには、液体が気体に置き換わるように枠材2の内部に注入され、注入されている気体は注入口2aから、または注入口2aとは別に枠材2に形成された場合(請求項4)の排出口2cから排出される。枠材2内部に液体が注入されている状況から気体を注入するときには、同様に注入口2aから、または排出口2cから液体が排出される。
【0016】
枠材2は気体と液体の注入が可能なように軸方向に連続した中空断面形状(チューブ状)に形成されるため、請求項5の主枠材21とつなぎ枠材22は共に、それぞれ軸方向に連続した中空断面形状(チューブ状)に形成される。枠材2の軸線に直交する断面形状は任意であり、円形状、多角形状等に形成される。
【0017】
只、屋根材1は幅方向に並列して配置され、組み合わせられることから(請求項6)、隣接する屋根材1、1の枠材2、2(主枠材21、21)間に雨水等が浸入しないようにする上では、隣接する屋根材1の枠材2との組み合わせ(接合)時に両枠材2、2間に隙間が生じないよう、図2に示すように例えば隣接する屋根材1、1の枠材2、2の接触面が互いに面で接触(密着)するような方形状、または半円形状等の断面形状であることが望ましい。但し、図5図6に示すように隣接する屋根材1、1の並列する枠材2、2(主枠材21、21)間に面状(帯状)の連結材6が跨り、連結材6が枠材2、2間の空隙を塞ぐことができれば、必ずしも並列する枠材2、2が互いに接触する必要はない。
【0018】
主枠材21の少なくとも軸方向(長さ方向)両側に配置され、主枠材21に接続されるつなぎ枠材22が主枠材21に接続されたときには、つなぎ枠材22の内部と主枠材21の内部の空間が連通する。「接続」とは、主枠材21とつなぎ枠材22の端面(断面)が互いに突き合わせられた状態で、端面の周面が周方向に連続して縫合される、または接着される等により接合されることを言う。「つなぎ枠材が少なくとも主枠材の軸方向両端部間に架設される」とは、つなぎ枠材22が並列する主枠材21、21の軸方向中間部間にも架設され、双方に接合されることがあることを意味する。
【0019】
屋根材1を地上から躯体屋根4上に吊り上げるときには、吊り上げ作業性と作業効率を考慮し、屋根材1の軽量化のために、枠材2の内部には注入口2aから気体が注入される。屋根材1を躯体屋根4上へ載置した後の屋根材1の使用状態では風による浮き上がりに対する安定性の確保のために、枠材2の内部には注入口2aから液体が注入され、屋根材1の質量が増加させられる。このように屋根材1の躯体屋根4上への吊り上げ時に枠材2の内部に気体が注入されて屋根材1が軽量化され、吊り上げ後に液体が注入されて質量が増加させられるため、屋根材1の吊り上げ作業性を確保しながら、設置後の風に対する安定性も確保することが可能になる。
【0020】
躯体屋根4上に載置された屋根材1の枠材2内への液体の注入は枠材2に形成され、枠材2内部に気体を注入したときの注入口2aから注入されればよいが、前記のように注入口2aとは別に、気体や液体の排出用の排出口2cが形成されることもある(請求項4)。この場合、排出口2cは注入口2aからの気体や液体の注入時に、注入されている液体や気体の排出を促し、注入口2aからの効率的な注入の目的で使用される。この他、気体注入用の注入口2aと液体注入用の注入口2aが独立して形成されることもあり、その場合、いずれか一方の注入口2aから気体や液体が注入されるときには、他方の注入口2aは排出口2cとして利用されることになる。
【0021】
躯体屋根4上に設置された屋根材1が役目を終えて、または交換のために地上に降ろされるときには、軽量化のために注入口2a、もしくは排出口2cから液体が排出されるが、単一の注入口2aからの排出が困難な場合に、注入口2aと排出口2cが枠材2に形成されていれば(請求項4)、注入口2aと排出口2cのいずれか一方から気体を注入することで、他方から容易に液体を排出することが可能であり、躯体屋根4上の屋根材1を降ろすときの液体の排出作業性を向上させることが可能である。
【0022】
屋根材1の使用状態で屋根材1全体が躯体屋根4の上に完全に、またはほぼ完全に納まるように載置される場合には、屋根材1全体が躯体屋根4上に支持されるため、枠材2全体の内部に液体が注入されればよく、液体が枠材2の全体に均等に行き渡ることで、屋根材1は全体において躯体屋根4に支持される。
【0023】
この場合、屋根材1が使用状態に置かれた後、降雨があったときの雨水等は底材3上に貯留するため、基本的には図1に示すように底材3に形成された排水口3aから(請求項)、または底材3上の空間と枠材2の外部を連通させるパイプ7が枠材2を幅方向に、もしくは幅方向に傾斜した方向に貫通し、このパイプ7の内周面が底材3上の水を排出するための排水口を兼ねる場合の排水口から排水される(請求項)。求項における「水」は主に雨水を指すが、放水された水を含む場合もある。
【0024】
例えば幅方向に隣接する屋根材1、1を互いに隙間なく組み合わせて組立屋根5を形成した場合(請求項6)に、隣接する屋根材1、1の内周側間に各底材3上の空間を連通させるためにパイプ7を挿通させる場合(請求項7)には、少なくとも組立屋根5の幅方向片側に位置する屋根材1の枠材2に排水口が形成されればよく、必ずしも全屋根材1に排水口が形成される必要はない。「屋根材1の内周側」は周回する枠材2の内周側、あるいは底材3の上面側を指す。隣接する屋根材1、1間にパイプ7を挿通させる場合(請求項7)、パイプ7は枠材2を幅方向等に貫通するため、パイプ7の内周面が排水口を兼ねることになる(請求項)。以下、本項目中、パイプ7の内周面が形成する排水口を排水口7と記載する。
【0025】
パイプ7は組立屋根5としての屋根材1にではなく、屋根材1単体の枠材2にも使用されることがある。例えば図5−(a)は組立屋根5を構成する屋根材1、1の隣接する枠材2、2間にパイプ7を挿通させた場合の様子を示すが、このように枠材2の軸方向端部か中間部のいずれかの部分を枠材2の幅方向等に貫通し、底材3上の空間と枠材2の外部を連通させるように枠材2に設置されることもある。
【0026】
この場合、上記のように枠材2を幅方向に、もしくは幅方向に対して傾斜した方向に貫通し、底材3上の空間と枠材2の外部を連通させるパイプ7の内周面が排水口7になる(請求項)。この場合の排水口7が形成される枠材2は図5−(a)に示すように組立屋根5としての屋根材1の枠材2、または屋根材1単体の枠材2を指す。図5−(a)は枠材2の断面が円形状の場合の例であるため、パイプ7の内周面の下面(上向き面)が底材3の上面より上に位置しているが、枠材2の断面は図2に示すように方形状の場合もあるため、パイプ7の内周面の下面(上向き面)は底材3の上面に揃えられる場合もある。
【0027】
屋根材1全体が躯体屋根4の上に載っている場合には、底材3に形成された排水口3a(請求項)に直接、躯体屋根4の縁の屋外側に設置される縦樋8を接続することが難しいため、排水口3aと縦樋8との間には例えば横樋が介在させられ、双方に接続されるようなことが必要になることもある。枠材2の長さ方向一方側(躯体屋根4縁側)の部分が躯体屋根4の縁から張り出すように屋根材1が躯体屋根4上に設置される場合には、底材3の排水口3aに直接、縦樋8を接続することができるため、横樋等の介在は必要ではない。排水口7が枠材2に形成されている場合(請求項)には、屋根材1の長さ方向の一部が躯体屋根4の縁から張り出すか否かに拘わらず、排水口7に縦樋8を直接、またはほぼ直接的に接続することが可能である。
【0028】
躯体屋根4縁側のつなぎ枠材22が躯体屋根4の縁から張り出す場合には、縦樋8を鉛直方向に向けた状態で、枠材2の排水口7に限らず、底材3の排水口3aにも底材3の底面側から接続することができるため、底材3の排水口3aから縦樋8までに横樋等を介在させずに済み、排水口3aから縦樋8までの経路を迂回させずに済む。この結果、雨水等が底材3上に貯留している状況のときに、排水口3aと縦樋8間に横樋等を介在させる場合のように貯留している雨水等が縦樋8まで到達するまでの間に停滞するようなことがなくなるため、底材3上の雨水等の排水効率を向上させることが可能になる。
【0029】
屋根材1の一方側(躯体屋根4縁側)の部分が躯体屋根4上に納まる場合も張り出す場合も、底材3の排水口3a、または枠材2の排水口7からの排水の効率上は、排水口3a、7は躯体屋根4縁側の、主枠材21の長さ方向一方側のつなぎ枠材22寄りに形成されることが合理的である(請求項3)。躯体屋根4縁側のつなぎ枠材22が躯体屋根4の縁から張り出す場合には、排水口3a、7は張り出し側のつなぎ枠材22寄りの、躯体屋根4の縁から張り出した区間に配置されることが、上記した縦樋8の接続上、適切である。底材3の排水口3aは図7−(a)に示すように一箇所とは限られず、枠材2の排水口7も同様である。
【0030】
屋根材1は基本的に底材3の上面に、主枠材21の長さ方向一方側の、排水口3aの反対側(躯体側)から排水口3a側(縁側)へかけて鉛直方向下向きに傾斜する水勾配が付けられた状態で躯体屋根4の天端面上に載置される。但し、躯体屋根4の天端面自体に水勾配が付けられている場合には、屋根材1は躯体屋根4の天端面上に単純に載置されればよく、底材3の上面には必ずしも水勾配が付けられる必要はない。躯体屋根4の天端面が水平面である場合には、水平面の天端面上に載置されたときに底材3の上面に水勾配が付けられるよう、予め底材3の上面に水勾配を付けた状態で屋根材1が製作されることもあるが、底材3に水勾配を付けることなく、底材3や枠材2に排水口3a、7を形成することもある。
【0031】
枠材2の躯体屋根4縁側の一部が躯体屋根4の縁から張り出すように屋根材1が躯体屋根4上に設置される場合には、枠材2の、躯体屋根4の縁から張り出す部分は躯体屋根4に支持されなくなる。この場合に、枠材2全体の内部に液体を注入すると、躯体屋根4から張り出した部分が液体の重みで垂れ下がろうとするため、枠材2内部に液体が注入された屋根材1の躯体屋根4上での安定性が損なわれることになる。
【0032】
そこで、枠材2の躯体屋根4に支持される部分(領域)と支持されない部分(領域)とに枠材2の内部を仕切り、躯体屋根4に支持される部分に液体を注入し、支持されない部分には液体が回り込まないよう、気体が注入された状態に保たれるようにすることで(請求項5)、躯体屋根4の縁側の一部が躯体屋根4の縁から張り出すように屋根材1が躯体屋根4上に設置される場合にも屋根材1の設置状態での安定性を確保することが可能になる。
【0033】
この場合、枠材2は前記のように幅方向に距離を置いて並列する主枠材21、21と、主枠材21の少なくとも軸方向両端部間に架設されて各主枠材21に接続され、内部が主枠材21の内部に連通するつなぎ枠材22からなり、主枠材21の長さ方向一方側のつなぎ枠材22と主枠材21との接続部分、もしくはこの接続部分に近い主枠材21の内部に、枠材2内部の空間を主枠材21側とつなぎ枠材22側とに仕切る隔壁23が形成される(請求項5)。隔壁23はつなぎ枠材22と主枠材21との接続部分か、その付近に形成されるため、接続部分よりつなぎ枠材22側に寄った位置、または接続部分より主枠材21側へ寄った位置に形成されることもある。
【0034】
枠材2内部の空間が隔壁23に区画され、隔壁23を挟んだ両側にそれぞれ気体と液体のいずれかを注入するための注入口2a、2bが形成されることで(請求項5)、主枠材21側の空間とつなぎ枠材22側の空間のそれぞれに独立して気体と液体のいずれかを注入することが可能になる。主枠材21側の空間とつなぎ枠材22側の空間に独立して気体と液体のいずれかを注入可能であるから、主枠材21側の空間とつなぎ枠材22側の空間のいずれにも気体と液体を独立して注入可能である。
【0035】
屋根材1全体が躯体屋根4上に納まるように載置される場合と躯体屋根4縁部側の一部が躯体屋根4から張り出して設置される場合のいずれも、隔壁23を挟んだ主枠材21側の空間には吊り上げ時に気体が注入され、躯体屋根4上への設置後には液体が注入されるため、主枠材21側の空間には気体と液体のいずれかが注入されるが、屋根材1の使用時には設置状態に拘わらず、液体が注入される。前記のように枠材2の内周の底材3上に貯留した雨水等の地上への排出をし易くする目的で、躯体屋根4縁部側の一部が躯体屋根4から張り出して設置される場合、つなぎ枠材22側の空間への液体の注入状態は屋根材1の安定性を損なうことになるため、つなぎ枠材22側の空間には気体が注入されたままの状態に保たれる。
【0036】
隔壁23を挟んだつなぎ枠材22側の空間には、躯体屋根4上への設置状態で屋根材1全体が躯体屋根4上に納まる場合には液体が注入され、縁部側の一部が躯体屋根4から張り出して設置される場合には気体が注入されたままであるため、つなぎ枠材22側の空間には屋根材1の使用時には設置状態に応じ、気体と液体のいずれかが注入される。このため、隔壁23を挟んだ主枠材21側の空間用の注入口2aと隔壁23を挟んだつなぎ枠材22側の空間用の注入口2bのいずれも、気体の注入用と液体の注入用を兼ねることになる。
【0037】
躯体屋根4縁部側の一部が躯体屋根4から張り出して設置される場合、屋根材1の一方のつなぎ枠材22側の端部を躯体屋根4の縁から張り出させることで、前記のように底材3の張り出したつなぎ枠材22寄りに排水口3aを形成し、排水口3aに縦樋8を接続すれば、底材3上に貯留している雨水等を直接、縦樋8を通じて地上に排出することができる。同時に、使用状態ではその張り出し側のつなぎ枠材22側の空間内に気体が注入されることで、躯体屋根4からの張り出し区間が自重により垂れ下がろうとすることがないため、使用状態での安定性と排水性を同時に確保することが可能になる。
【0038】
請求項5では隔壁23の形成により枠材2内部の空間は隔壁23を挟んで主枠材21側の空間とつなぎ枠材22側の空間とに区画され、隔壁23自体の周辺部分を含め、隔壁23の全面において両側の空間間での気密性と水密性が確保される。「気密性と水密性が確保される」とは、隔壁23の一方側の空間に注入された気体と液体が隔壁23を挟んだ他方側の空間へ移動しないことを言う。隔壁23の全面での気密性と水密性を確保するために、隔壁23にも枠材2や底材3と同一、もしくは同等(類似)の素材が使用される。
【0039】
枠材2の内部に隔壁23が形成された場合(請求項5)、前記のように隔壁23を挟んだ主枠材21側の空間には屋根材1の躯体屋根4への吊り上げ時には気体が注入され、躯体屋根4への載置後には液体が注入され、気体と液体が入れ替わるように注入されるため、躯体屋根4への載置後の液体の注入作業が円滑に行われるようにする目的で、隔壁23を挟んだ主枠材21側に注入口2aから液体を注入するときの気体の排出を促すための排出口2cが形成されることもある(請求項4)。主枠材21側の空間に液体が注入されている状態から、屋根材1を躯体屋根4上から降ろすような場合等には、注入口2aから気体が注入されることで、排出口2cから液体が排出される。
【0040】
この場合、隔壁23を挟んだ主枠材21側に注入口2aと排出口2cが形成されることで、主枠材21内に気体が注入されている状態で注入口2aから液体を注入するときに、液体の注入に伴い、排出口2cから気体が抜けていくため、排出口2cがない場合より液体の注入がし易く、作業効率が向上する。
【0041】
屋根材1の、躯体屋根4から張り出す側の反対側(躯体側)の端部は前記のように構造体(躯体)の屋外に面する壁や柱の表面と屋根材1の背面との間への雨水等の回り込みを回避、あるいは抑制するために、これら壁等の躯体に突き合わせられ、接触(密着)させられる。壁と柱の接合部等、躯体の屋外側の表面に平面上(平面図として見たとき)、凹凸がある場合にはその凹凸に屋根材1の躯体側の端部の形状が合わせられる。
【0042】
屋根材1は単独(単体)で地上から吊り上げられ、躯体屋根4の天端上に載置されることもあるが、吊り上げ作業の効率を上げる上では、図5図6に示すように複数本(複数枚)の屋根材1を予め地上で屋根材1の幅方向に並列させて組み合わせ、連結して組立屋根5を組み立てた状態で躯体屋根4上に吊り上げ、載置することが合理的である(請求項6)。
【0043】
この場合、隣接して配置された屋根材1、1の並列する枠材2、2(主枠材21、21)間に跨って連結材6が設置され、連結材6が両枠材2、2に接続(接合)されることで、隣接する屋根材1、1が枠材2、2の幅方向に互いに接合(連結)される(請求項6)。前記のように隣接する屋根材1、1の枠材2、2は雨水等の浸入防止上は互いに接触(密着)した状態で連結されることが望ましいが、連結材6が面状である場合にはその必要はない。
【0044】
「屋根材の幅方向」とは、屋根材1の平面形状を見たときに長さ方向と幅方向に区別できる場合の幅方向であるが、平面上、2方向の長さが等しく、長さ方向と幅方向の区別ができない場合にはいずれかの方向を指す。枠材2が主枠材21とつなぎ枠材22からなる場合(請求項5)には、「屋根材の幅方向」は主枠材21の幅方向を指す。
【0045】
連結材6は屋根材1が互いに連結される方向の幅方向に直交する方向の長さ方向である枠材2の軸方向に1箇所、または複数箇所に分散して配置され、枠材2の表面には面ファスナー、スナップボタン等の着脱自在な接着、嵌合、係止その他、任意の手段により接合される。但し、連結材6は必ずしも枠材2表面に着脱自在に接合される必要はなく、縫合等により分離不能に接合されることもある。枠材2が主枠材21とつなぎ枠材22からなる場合(請求項5)には、「枠材の軸方向」は主枠材21の軸方向を指す。
【0046】
請求項6では屋根材1(主枠材21)の幅方向に並列する複数本の屋根材1、1が連結材6によって纏められて1枚の板状の組立屋根5が構成されることで、同数の屋根材1を躯体屋根4上に吊り上げることに要する回数が削減されるため、地上から躯体屋根4上への吊り上げ作業が効率化される。複数本の屋根材1から構成された組立屋根5の吊り上げ時には、枠材2(主枠材21とつなぎ枠材22)の内部に気体が注入されるため、地上及び躯体屋根4上での人による組立屋根5の取扱い作業性が屋根材1単体の場合と異ならずに済む。組立屋根5の躯体屋根4上への吊り上げ後、躯体屋根4の縁から端部が張り出す場合のその側のつなぎ枠材22内を除き(請求項5)、枠材2の内部に水等の液体が注入され、風等による浮き上がりに対する安定性が確保される。
【0047】
複数本の屋根材1、1から構成された組立屋根5が躯体屋根4上に載置され、使用状態に置かれたときには、前記のように壁と柱等、躯体の表面形状に屋根材1の端部の形状が合わせられるが、予め地上で複数本の屋根材1から組立屋根5が組み立てられる場合にも、組立屋根5の躯体側の端部の形状は吊り上げ予定の躯体の表面形状に応じた形状に調整されることがある。
【0048】
躯体屋根4上で使用状態になった各屋根材1の底材3上には降水時に雨水等が貯留しながら、前記のように躯体屋根4の縁側の排水口3aから縦樋8等を通じて躯体外へ排出される。但し、複数本の屋根材1が連結されて組立屋根5が組み立てられる場合(請求項6)、躯体屋根4上での組立屋根5の設置位置や傾斜状態等の原因により各屋根材1の排水口3aからの排水速度が相違し、各屋根材1内の雨水等の貯留量が相違することが想定される。各屋根材1内の雨水等の貯留量が相違することは各屋根材1内での排水速度の差に起因する場合と起因しない場合がある。
【0049】
このように互いに連結された屋根材1、1の内、いずれかの屋根材1内の雨水等の貯留量が多くなるような状況に対しては、図5−(a)に示すように請求項6において隣接する屋根材1、1の、例えば互いに接触している枠材2、2(主枠材21、21)の各屋根材1の内周側間に、各屋根材1の底材3上の空間を連通させるパイプ7を挿通させることで(請求項7)、特定の屋根材1内の雨水等の貯留量が多くなる事態を回避することが可能である。パイプ7は前記のように枠材2を幅方向に、もしくは幅方向に対して傾斜した方向に貫通する。この場合、前記のように全屋根材1の枠材2に排水口7を形成する必要はない。枠材2、2にパイプ7を挿通させる場合も、並列する枠材2、2は必ずしも互いに接触している必要はない。
【0050】
請求項7では幅方向に隣接する枠材2、2の内周側間にパイプ7が挿通させられることで、枠材2の内部の空間はパイプ7の外周側の空間と内周側の空間とに仕切られるが、パイプ7の外周側の空間は枠材2の内部の空間に連通し、同時に枠材2の表面に形成された挿通孔21aの内周部分において枠材2の外部とも連通する。このため、挿通孔21a内周部分における枠材2外部との連通部分には枠材2内部に注入されている気体や液体が外部に漏れないよう、シール材が充填、もしくは挿入され、パイプ7の外周面と挿通孔21aとの間での気密性と水密性が確保される。パイプ7の内周側の空間はパイプ7の軸方向の端部において各屋根材1の枠材2内周側の底材3上の空間に連通する。
【0051】
枠材2に幅方向に挿通する挿通孔21aが形成されながらも、パイプ7の外周面と挿通孔21aとの間での気密性と水密性が確保されることで、枠材2内に注入される気体や液体の漏れが防止されながら、枠材2(主枠材21)が気体や液体が注入された膨張状態の形態が維持される。
【0052】
またパイプ7の内周側の空間が各屋根材1の枠材2内周側の底材3上の空間に連通することで、隣接する屋根材1、1の内、相対的に雨水等の貯留量の多い側の屋根材1から貯留量の少ない側の屋根材1内に雨水等を移動させることができるため、屋根材1内に貯留した雨水等をより効率的に躯体外へ排出することが可能になり、貯留量の多い側の屋根材1から雨水等が溢れる事態を回避することが可能になる。
【発明の効果】
【0053】
気体と液体の注入状態を維持可能な素材から中空断面形状に形成され、環状に閉じた形の枠材に気体と液体のいずれかを注入するための注入口を形成するため、枠材の内部に屋根材の躯体屋根上への吊り上げ時に気体を注入し、吊り上げ後に液体を注入することができる。この結果、吊り上げ時に屋根材を軽量化しながら、吊り上げ後に屋根材の質量を増加させることができるため、屋根材の吊り上げ時の作業性を確保しながら、設置後の風に対する安定性を確保することができる。
【0054】
特に枠材が並列する主枠材と、主枠材間に架設されて各主枠材に接続され、内部が主枠材の内部に連通するつなぎ枠材からなり、主枠材とつなぎ枠材の接続部分等の内部に枠材内部の空間をつなぎ枠材側と主枠材側とに仕切る隔壁を形成した場合には、枠材内部のつなぎ枠材側の空間と主枠材側の空間のそれぞれに独立して気体と液体のいずれかを注入することができる。
【0055】
この結果、枠材の長さ方向一方側(躯体屋根の縁側)の部分が躯体屋根の縁から張り出すように屋根材を躯体屋根上に設置する場合に、使用状態で主枠材内に液体を注入しながら、張り出すつなぎ枠材側に気体を注入することができる一方、底材の張り出したつなぎ枠材寄りに排水口を形成することで、底材上に貯留している雨水等を直接、縦樋を通じて地上に排出することができるため、屋根材の使用状態での安定性と排水性を同時に確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0056】
図1】一方の端部を躯体屋根の縁から張り出した状態で屋根材を躯体屋根上に設置し、躯体屋根からの張り出し部分から底材上の雨水を縦樋を通じて排出する様子を示した概要図である。
図2】屋根材を幅方向に連結して組立屋根を構成した場合の図1のx−x線断面図である。
図3】複数本(複数枚)の屋根材(組立屋根)を幅方向に並列させて躯体屋根上に配列した様子を示した斜視図である。
図4】(a)は主枠材とつなぎ枠材からなる場合の屋根材の製作例を示した平面図、(b)は(a)の立面図、(c)は(a)の側面図である。
図5】(a)は屋根材を幅方向に連結して構成された組立屋根の組み立て例を示した、主枠材を軸方向に見たときの断面図、(b)は(a)の破線円部分の拡大斜視図である。
図6】屋根材を幅方向に連結して構成された図5とは異なる組立屋根の組み立て例を示した斜視図である。
図7】(a)は幅方向に並列する複数枚の屋根材からなる組立屋根を躯体屋根上に設置したときの様子を示した平面図、(b)は(a)のy−y線の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0057】
図1図2は気体と液体の注入が可能で、それぞれの注入状態を維持可能な素材から中空断面形状に形成され、環状に閉じた形に周回する枠材2と、液体の貯留状態を維持可能な素材から形成され、周回する枠材2の底面側に一体化した底材3とを備え、躯体としての屋根である躯体屋根4の天端上に設置(載置)され、降雨時の雨水を受け止めて躯体屋根4外へ排出するために使用される雨水排出用屋根材(以下、屋根材)1を躯体屋根4の天端上に載置(敷設)したときの状況を概略的に示す。枠材2と底材3には前記のように合成繊維製の基布の両面に合成ゴムや合成樹脂を貼り合わせた素材が使用される。
【0058】
枠材2には気体と液体のいずれかを注入するための注入口2aが形成されるが、図4−(a)に示すように枠材2には注入口2aとは別に、枠材2の内部に注入済みの気体や液体を排出するための排出口2cが形成されることもある。底材3には基本的にその上に貯留した雨水を排水するための排水口3aが形成されるが、排水口は後述のパイプ7が単一の屋根材1の枠材2、または隣接する屋根材1、1の枠材2、2を幅方向等に貫通することにより枠材2に形成されることもある。
【0059】
屋根材1は図3に示すように躯体屋根4の天端面上に少なくとも1方向に、例えば屋根材1の幅方向に配列するように載置されるため、基本的には隣接する屋根材1の枠材2と接触する部分は直線状に形成される。このことから、周回する枠材2は躯体屋根4の縁側の部分を除き、主に方形状等、多角形状に形成される。「躯体屋根4の縁側」は躯体屋根4の外周側を指し、反対側には躯体屋根4の全体が陸屋根でない場合を除き、壁や柱等の躯体があるため、「(躯体屋根4の)縁側」の反対側を「(躯体屋根4の)躯体側」と言う。
【0060】
図3は枠材2が幅方向に距離を置いて並列する主枠材21、21と、主枠材21、21の少なくとも軸方向両端部間に架設されて各主枠材21に接続され、内部が主枠材21の内部に連通するつなぎ枠材22、22からなる屋根材1の躯体側を壁や柱等の躯体の表面に突き合わせながら、縁側を躯体屋根4の縁から突出させつつ、屋根材1を幅方向に並列させて躯体屋根4の天端上に敷設した様子を示している。図3はまた、躯体屋根4の縁からの突出部分に底材3上に貯留した雨水を排出するための縦樋8を接続した様子を示している。
【0061】
図1も屋根材1の長さ方向の一方の端部を躯体屋根4の縁から張り出した状態で屋根材1を躯体屋根4上に設置し、躯体屋根4から張り出した部分から底材3上の雨水を縦樋8を通じて排出する場合の例を示している。図2は屋根材1を幅方向に並列させ、隣接する屋根材1、1を互いに連結し、組立屋根5を構成した様子を示している。図1はまた、屋根材1単体を、または複数枚の屋根材1から構成された組立屋根5を揚重機により吊り込んでいる状況も示している。
【0062】
組立屋根5は図5図6に示すように隣接して配置された屋根材1、1の並列する枠材2、2(主枠材21、21)間に跨って連結材6が設置され、連結材6が両枠材2、2に接着等により分離自在に、または縫合等により分離不能に接続されて隣接する屋根材1、1が枠材2の幅方向に互いに接合されることにより製作される。組立屋根5は主に地上から躯体屋根4上への吊り上げ作業効率を上げる目的で予め地上で製作されるが、分離している屋根材1を躯体屋根4上へ吊り上げた後に隣接する屋根材1に接合し、躯体屋根4上で組立屋根5を完成させることもある。図5図7は枠材2が上記した主枠材21、21とつなぎ枠材22、22からなる場合の例を示している。
【0063】
図5は隣接する屋根材1、1の並列する枠材2、2(主枠材21、21)が互いに接触(密着)した状態で連結された場合の例を示しているが、面状の連結材6により枠材2、2が互いに連結されれば、並列する枠材2、2間への雨水の浸入は阻止されるため、並列する枠材2、2は図6に示すように必ずしも接触している必要はない。
【0064】
屋根材1の単体、または組立屋根5の躯体屋根4上への吊り上げは、例えば図4−(a)、図5−(a)に示すように枠材2(主枠材21)の内周側等に接着、縫合等により突設されたリング状の受け具26に揚重機から吊り下げられたワイヤのフック等を係止させることにより行われる。
【0065】
図1は枠材2の、躯体屋根4から張り出した部分に位置する主枠材21とつなぎ枠材22にそれぞれ注入口2a、2bを形成すると共に、底材3に排水口3aを形成し、主枠材21内に注入口2aから液体を、つなぎ枠材22内に注入口2bから気体をそれぞれ注入し、排口3aから底材3上の雨水を排出している様子を示している。図1では注入口2a、2bが主枠材21とつなぎ枠材22の下面側に形成されているように示されているが、注入口2a、2bは図4図5に示すように主枠材21とつなぎ枠材22の上面側、または側面側に形成されることもある。
【0066】
図1は躯体屋根4と屋根材1の関係を模式的に示している。ここでは主枠材21とつなぎ枠材22とで囲まれた底材3の一方のつなぎ枠材22寄りに形成された排水口3aを躯体屋根4の縁から突出させるために、躯体屋根4から張り出したつなぎ枠材22寄りの主枠材21の一部も躯体屋根4から張り出している状況を示している。但し、屋根材1の使用状態では枠材2内の、躯体屋根4から張り出した部分(領域)に気体が注入(充填)され、躯体屋根4上に位置する部分(領域)には液体が注入(充填)されるため、基本的には主枠材21は躯体屋根4上に位置し、つなぎ枠材22が躯体屋根4から張り出すように屋根材1が躯体屋根4上に設置される。
【0067】
使用状態で液体が注入される主枠材21を躯体屋根4上に位置させ、気体が注入されるつなぎ枠材22を躯体屋根4から張り出させながら、底材3の排水口3aを躯体屋根4の縁から突出させるには、図4−(a)に示すように枠材2の内部を主枠材21側とつなぎ枠材22側とに仕切る隔壁23を主枠材21とつなぎ枠材22の接続部分(境界)より主枠材21寄りに配置すればよい。
【0068】
この図4に示す屋根材1の製作例の場合、(a)に示すように隔壁23が主枠材21とつなぎ枠材22の交差部分(境界面)より主枠材21側に形成されているため、つなぎ枠材22の注入口2bから注入された気体はつなぎ枠材22から主枠材21側へ回り込んだ隔壁23まで入り、主枠材21の注入口2aから注入された液体は隔壁23に堰き止められる。従って隔壁23の形成位置が躯体屋根4の縁の位置に合致するように屋根材1が躯体屋根4上に敷設されれば、屋根材1(枠材2)の躯体屋根4から張り出した部分に気体のみを注入し、液体を躯体屋根4上に位置する部分にのみ注入した状態にすることができる。
【0069】
主枠材21、21は屋根材1の幅方向に並列しているため、隔壁23は各主枠材21の内部に配置される。この場合に、図4−(a)に示すように各主枠材21の隔壁23を結ぶ直線上付近、または直線よりつなぎ枠材22寄りに底材3の排水口3aを形成すれば、つなぎ枠材22を躯体屋根4から張り出させたときに、図1に示すように排水口3aも躯体屋根4の縁から突出させることができ、排水口3aに底材3の底面側から直接、縦樋8を接続することが可能になる。
【0070】
図2は幅方向に隣接する屋根材1、1の枠材2、2(主枠材21、21)を互いに幅方向に接触(密着)させ、両枠材2、2間に跨る連結材6を両枠材2、2に接合して組立屋根5を構成したときの状況として図1のx−x線の断面を示している。隣接する屋根材1、1から組立屋根5を構成する場合、隣接する屋根材1、1の枠材2、2間の水密性を確保し、枠材2、2間への雨水の浸入を防止する上では、枠材2(主枠材21)は図2に示すように隣接する枠材2、2(主枠材21、21)が互いに面で接触(密着)するような方形断面形状、もしくは接触面が平面となる半円断面形状、またはこれらに近い曲面を有する断面形状に形成されていることが適切である。
【0071】
図2は隣接する屋根材1、1の枠材2、2(主枠材21、21)が両者間に跨る連結材6により接合され、底材3上に貯留した雨水が底材3の排水口3aに接続された縦樋8を通じて排出する状況を示している。図2ではまた、底材3の底面が躯体屋根4の天端面に直接、接触することによる摩耗や破損を防止、または低減するために、底材3の底面側に底材3の全面に重なる面状の補強材31を重ねて一体化した場合の様子も示している。補強材31は底材3を保護する機能を発揮すればよいため、補強材31には例えば底材3と同等の、または同様の材料が使用されるが、補強材31の材料は問われない。
【0072】
屋根材1の枠材2は中空断面形状のまま、単一で環状に閉じた形状に形成されることもある。但し、図面では屋根材1を長さ方向と幅方向に区別したときの長さ方向の一方側の端部を図1に示すように躯体屋根4の縁から外周側へ張り出した状態で屋根材1を躯体屋根4上に設置したときに、枠材2の、躯体屋根4から張り出した部分に空気等の気体を注入したまま、躯体屋根4上に位置する部分に水等の液体を注入できるよう、枠材2を屋根材1の長さ方向を向く主枠材21と幅方向を向くつなぎ枠材22から構成している。
【0073】
枠材2を主枠材21とつなぎ枠材22から構成することには、周回する枠材2が角部のある方形状に形成されるようにし、幅方向に隣接する屋根材1、1同士の連結時に隣接する屋根材1、1の角部間に空隙を生じにくくする意味もある。この場合の枠材2は幅方向に距離を置いて並列する主枠材21と、主枠材21の少なくとも軸方向両端部間に架設されて各主枠材21に接続され、内部が主枠材21の内部に連通するつなぎ枠材22から構成される。
【0074】
上記のように枠材2の、躯体屋根4から張り出した部分に気体を注入したまま、躯体屋根4上に位置する部分に液体を注入できるようにする目的で枠材2を主枠材21とつなぎ枠材22から構成する場合、図4−(a)に示すように主枠材21の長さ方向一方側のつなぎ枠材22と主枠材21との接続(接合)部分、もしくはこの接続部分に近い主枠材21の内部に、上記したように枠材2内部の空間を主枠材21側とつなぎ枠材22側とに仕切る隔壁23が形成される。図4図3に示す屋根材1の具体的な製作例を示している。
【0075】
この場合、枠材2の内部が隔壁23が主枠材21側とつなぎ枠材22側とに仕切られたことに伴い、隔壁23で仕切られた枠材2の主枠材21側に気体と液体のいずれかを注入するための注入口2aが形成され、隔壁23で仕切られたつなぎ枠材22側に気体と液体のいずれかを注入するための注入口2bが形成される。図4では特に隔壁23で仕切られた枠材2の主枠材21側に、注入口2aからの気体や液体の注入時に、先に注入されている気体や液体を排出するための排出口2cを形成した場合の例を示している。
【0076】
枠材2の外周側には図4−(b)、(c)に示すように主枠材21とつなぎ枠材22に連続し、底材3を接続(接合)するための帯状の受け材24が周回して固定されており、この受け材24に底材3が図5−(b)に示すように編み込み、縫合、接着等の手段により着脱自在に、または一体的に接合される。図5−(b)では受け材24に長さ方向に間隔を置いて形成された孔24aに、底材3の主枠材21側の縁を貫通する紐25を通し、編み込みにより底材3を受け材24に接続している。
【0077】
図4−(a)は屋根材1の枠材2を構成する並列する主枠材21、21の内、一方の主枠材21の上面側に幅方向に隣接する屋根材1の主枠材21と連結するための面状(帯状)の連結材6を接続(接合)した様子も示している。図5−(a)はこの連結材6を用いて幅方向に並列する屋根材1、1の互いに接触する主枠材21、21同士を接合したときの、主枠材21の軸方向に見たときの断面を示している。図5−(b)は図5−(a)の破線円部分を拡大した詳細を示している。図5−(a)では互いに接触する主枠材21、21間に面状の連結材6を跨らせ、両主枠材21、21に接着等により接合した場合の接合例を示している。
【0078】
図5−(a)はまた、長さ方向に隣接し、互いに連結された屋根材1、1の互いに接触している枠材2、2(主枠材21、21)の各屋根材1の内周側間に、各屋根材1の底材3上の空間を連通させるパイプ7を架設した(挿通させた)場合の組立屋根5の製作例も示している。パイプ7は枠材2を幅方向に、もしくは幅方向に対して傾斜した方向に貫通する。隣接する屋根材1、1の枠材2、2間にパイプ7が架設されることで、パイプ7の内部を通じ、両屋根材1、1の底材3、3上の空間が連通する。隣接する枠材2、2は軸方向に連続し、面で接触する。屋根材1単体の枠材2、または隣接する枠材2、2へのパイプ7の挿通により枠材2に、底材3上の水を排出するための排水口が形成されることもある。
【0079】
屋根材1を躯体屋根4上に設置した後の降雨により隣接する屋根材1、1のいずれか一方の屋根材1の底材3上に貯留した雨水が他方の底材3上の雨水量を上回り、その側の底材3の排水口3aを通じた排水が停滞するような状況になったときに、隣接する屋根材1、1の底材3、3上の空間が連通することで、一方の屋根材1内の雨水を相対的に貯留量の少ない他方の屋根材1側へ移動させ、その側の排口3aから排水することが可能になる。
【0080】
この場合、互いに接触している枠材2、2(主枠材21、21)の一部にパイプ7を挿通させるための挿通孔21aが形成され、枠材2の内部を挿通したパイプ7の外周側の空間が枠材2(主枠材21)の内部と連通する。この枠材2内部の空間はパイプ7回りの挿通孔21a内周面とも連通するため、挿通孔21a内周面とパイプ7外周面との間には枠材2(主枠材21)内に注入されている気体や液体の漏れを防止するための図示しないシール材が充填され、パイプ7と挿通孔21a間の気密性と水密性が確保される。
【0081】
図6は隣接する屋根材1、1の枠材2、2(主枠材21、21)を互いに接触させることなく、面状の連結材6を用いて連結し、また図2のように隣接する屋根材1、1の底材3、3の、躯体屋根4の天端面に接触する底面側に底材3と同等の素材からなる補強材31を張り合わせ、底材3を補強した場合の組立屋根5の製作例を示している。
【0082】
この製作例では連結材6が面状であることで、並列する枠材2、2(主枠材21、21)間への雨水の浸入が阻止されることもあり、枠材2、2間に間隔が確保されているが、枠材2へのパイプ7の挿通は枠材2、2間への雨水の浸入とは無関係であるため、図6に示す製作例においても並列する枠材2、2間にパイプ7を架設する(挿通させる)ことはある。
【0083】
図7−(a)は幅方向に並列する複数枚の屋根材1を連結して一体化させて形成した組立屋根5を図3のように躯体屋根4上に設置(敷設)したときの平面を示す。(b)は(a)のy−y線の断面を示す。
【符号の説明】
【0084】
1……屋根材、
2……枠材、21……主枠材、2a……注入口(主枠材21)、21a……挿通孔、22……つなぎ枠材、23……隔壁、2b……注入口(つなぎ枠材22)、2c……排出口、24……受け材、24a……孔、25……紐、26……受け具、
3……底材、3a……排水口、31……補強材、
4……躯体屋根、
5……組立屋根、6……連結材、7……パイプ、
8……縦樋。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7