(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6777466
(24)【登録日】2020年10月12日
(45)【発行日】2020年10月28日
(54)【発明の名称】プーリユニット
(51)【国際特許分類】
F16C 33/80 20060101AFI20201019BHJP
F16C 33/78 20060101ALI20201019BHJP
F16C 19/06 20060101ALI20201019BHJP
F16J 15/3204 20160101ALI20201019BHJP
F16H 55/36 20060101ALI20201019BHJP
【FI】
F16C33/80
F16C33/78 Z
F16C19/06
F16J15/3204 201
F16H55/36 Z
【請求項の数】7
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2016-169555(P2016-169555)
(22)【出願日】2016年8月31日
(65)【公開番号】特開2018-35880(P2018-35880A)
(43)【公開日】2018年3月8日
【審査請求日】2019年7月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100130513
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 直也
(74)【代理人】
【識別番号】100074206
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 文二
(74)【代理人】
【識別番号】100130177
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 弥一郎
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 一弘
【審査官】
藤村 聖子
(56)【参考文献】
【文献】
特開2010−025252(JP,A)
【文献】
特開2015−194172(JP,A)
【文献】
特開2009−174683(JP,A)
【文献】
特開2010−038186(JP,A)
【文献】
特開2005−257051(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 19/00−19/56
F16C 33/30−33/66
F16C 33/72−33/82
F16H 55/36
F16J 15/3204
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベルト案内輪の内側にボス部が設けられたプーリと、前記ボス部の内側に組み込まれた外輪回転用の転がり軸受とを有し、前記転がり軸受の外輪と内輪間に形成された軸受空間の両端開口のそれぞれをシール部材によりシールし、前記シール部材が、前記内輪の外径面端部に固定された円筒部の外側端部に外向きフランジが設けられた断面L形のスリンガと、前記外輪の内径面における両端部に外周部が支持され、内周部に内向き傾斜部が設けられた弾性シール部材とを有し、前記弾性シール部材の前記スリンガと対向する面に1以上のリップを設け、そのリップの1以上が前記弾性シール部材の外側面から外方に向けて延びて先端部が前記スリンガの外向きフランジに弾性接触するアキシャルリップであるプーリユニットにおいて、
前記スリンガの外向きフランジの外周面を、前記ボス部の内周面に近づけて配置することによりラビリンス隙間を形成し、前記アキシャルリップは、その先端に、表裏面に跨って径方向に交差する向きに1以上の溝を有するものであり、この溝はスリンガとの圧接による弾性変形で閉塞可能であり、前記プーリの回転状態ではアキシャルリップに作用する遠心力で前記スリンガに対する圧接力は弱まり開通する溝であることを特徴とするプーリユニット。
【請求項2】
前記ボス部の内周面が、端部に近いほど大径のテーパ面を有する内周面である請求項1に記載のプーリユニット。
【請求項3】
上記1以上のリップが、前記アキシャルリップと、前記傾斜部から内輪方向に延びて先端部が前記スリンガの円筒部の外径面に弾性接触するラジアルリップとからなる請求項1または2に記載のプーリユニット。
【請求項4】
上記1以上のリップが、前記アキシャルリップと、前記傾斜部から内輪方向に延びて先端部が前記スリンガの円筒部の外径面に対して微小間隔を空けて非接触のラジアルリップとからなる請求項1または2に記載のプーリユニット。
【請求項5】
上記弾性シール部材が、ニトリルゴム、アクリルゴムまたはフッ素ゴムからなる弾性シール部材である請求項1〜4のいずれかに記載のプーリユニット。
【請求項6】
上記溝は、軸受の軸心から放射状または放射曲線状に配置された複数の溝である請求項1〜5のいずれかに記載のプーリユニット。
【請求項7】
上記プーリユニットが、自動車エンジン用のプーリユニットである請求項1〜6のいずれかに記載のプーリユニット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、自動車のエンジンのタイミングベルトや補機ベルトなどのベルト伝動装置に用いるプーリおよびそれを回転自在に支持する転がり軸受からなるプーリユニットに関するものである。
【背景技術】
【0002】
通常、オルタネータやコンプレッサ等の自動車補機を駆動するベルト伝動装置においては、アイドラプーリによってベルトの移動を案内し、あるいは、油圧式オートテンショナによりテンションプーリをベルトに押し付けてベルトの張力変動を吸収するようにしている。アイドラプーリやテンションプーリは、ボス部の内径側に組み込まれてユニット化された転がり軸受によって回転自在に支持されている。
【0003】
ところで、転がり軸受を有するプーリユニットが自動車のエンジンのタイミングベルトや補機ベルトなどのベルト伝動装置への組み込まれている状態においては、転がり軸受の外部から飛来してくる泥水等の異物が軸受内部に入り込み易く、その異物の浸入によって転がり軸受の本来の機能が早期に損なわれることがある。
【0004】
上記プーリユニットの耐水性を向上させるためには、シール付きの転がり軸受が採用されている。
シール付きの転がり軸受に採用される基本的なシール構造は、例えばリング状シールの内周部に設けられたリップを内輪外径面に弾性接触させ、その締め代により外部からの水の浸入を防止する構造であるが、上記の締め代を大きくし過ぎると、軸受の回転トルクを増加させてしまうので、充分に締め代を大きくできず、結果的に軸受内への水の浸入を完全に防止することはできなかった。
【0005】
また、特許文献1に記載されるように、プーリ本体を回転自在に支持する軸受の両側にスリンガを設けることにより、プーリ用軸受装置の耐水性の向上を図ったものもある。
ただし、上記スリンガの外周部は、プーリ本体と共に回転する外輪の側面に対して非接触の状態であって隙間を有するから、この隙間から外部の水や異物が浸入することがあり、スリンガにシールリップを接触させる接触形の軸受シールを設ける必要がある。
【0006】
特許文献2に記載されたスリンガ付きの軸受用密封装置は、主シールリップを内輪の端部に形成された段差部のアキシャル方向端部に弾性接触させ、副シールリップも併用して2重のシール構造によって「締め代」を増やして耐水性を向上させている。
【0007】
また、
図7に示すように、特許文献3に記載されるプーリユニットは、スリンガ20を弾性シール部材8の外側に配置することによって、泥水などがリップに直接掛からない構造であり、弾性シール部材8にアキシャルリップ8bを設けてスリンガ20と接触させ、外部から洗浄水等で強い圧力が加えられた場合(
図8(a)参照)には、アキシャルリップ8bがスリンガにより押しつけられることによって水等の浸入を防ぐ構造を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2009−216138号公報
【特許文献2】特開2009−216139号公報
【特許文献3】特開2015−194172号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、
図8(b)に示すように、上記したシール構造を備えた従来のプーリ用転がり軸受は、ベルトを介して外輪回転で使用されて転がり軸受が回転し、アキシャルリップ8bに強い遠心力が作用すると、アキシャルリップ8bは外輪側に引っ張られるように変形し、シールの「締め代」、すなわち接触面積が減少して耐水性が低下するという問題がある。
【0010】
また、アキシャルリップ8bにできるだけ遠心力が作用しないようにするためには、アキシャルリップ8bはスリンガ20の円筒部20aにできるだけ近い位置でラジアルリップ8cによりシールすることが好ましい。
【0011】
しかし、そのように対応したとしても、
図9に示すように、プーリ用軸受には角振れが発生することがあり、角振れ量は外輪側の方が大きく、内・外輪間の間隔L
1とL
2も角振れ量(θ)に対応して変化し、これらに対応するように予めリップの締め代を設定することは容易なことではない。
【0012】
そこで、この発明の課題は、上記した問題点を解決し、スリンガにリップを接触させる接触形の軸受シールを有するプーリユニットにおいて、外輪回転で使用される転がり軸受の遠心力による締め代の減少、および自動車の過酷な使用環境における泥水その他の異物浸入を確実に防御できるプーリユニットとすることである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の課題を解決するために、この発明においては、ベルト案内輪の内側にボス部が設けられたプーリと、前記ボス部の内側に組み込まれた外輪回転用の軸受とを有し、前記軸受の外輪と内輪間に形成された軸受空間の両端開口のそれぞれをシール部材によりシールし、前記シール部材が、前記内輪の外径面端部に固定された円筒部の外側端部に外向きフランジが設けられた断面L形のスリンガと、前記外輪の内径面における両端部に外周部が支持され、内周部に内向き傾斜部が設けられた弾性シール部材とを有し、前記弾性シール部材の前記スリンガと対向する面に1以上のリップを設け、そのリップの1以上を前記スリンガに弾性接触させたプーリユニットにおいて、前記スリンガの外向きフランジの外周面を、前記ボス部の内周面に近づけて配置することによりラビリンス隙間を形成したことを特徴とするプーリユニットとしたのである。
【0014】
上記したように構成されるこの発明のプーリユニットは、スリンガにリップを接触させる接触形の軸受シールを有するものであるが、スリンガの外向きフランジの外周面とボス部の内周面とが僅かな隙間を空けて対向してラビリンス通路が形成されるので、これがラビリンス隙間という非接触のすきまシールとして作用し、プーリユニットの使用環境で存在する水、泥、埃などの液体または粉塵などの粒子状の異物の軸受内への浸入を阻止し、前記軸受の外輪と内輪間に形成される軸受空間に異物を浸入させない。
また、このような作用をより確実に奏するように、前記ボス部の内周面が、端部に近いほど大径のテーパ面を有する内周面であることが好ましい。
【0015】
上記ラビリンス隙間は、プーリのボス部と、軸受の内輪に固定されたスリンガとの間に隙間を空けて非接触状態にするものであるから、転がり軸受の軸受トルクを高めることがないものである。また上記ラビリンス隙間は、角振れ量(プーリ軸方向傾き量)が大きくてもシール性が大きく低下するものではない。
【0016】
弾性シール部材のスリンガと対向する面に1以上のリップを設けて、そのリップの1以上を前記スリンガに弾性接触させる構造のプーリユニットは、上記ラビリンス隙間によってシール部材の「遠心力による耐水性の低下」、「角振れ量に対応するサイドリップの締め代の設定困難性」という問題を解決し、しかもシール性を向上させることによって、外輪回転で使用される転がり軸受の遠心力による締め代の減少、および自動車の過酷な使用環境における泥水その他の異物浸入を確実に防御できるプーリユニットとなる。
【0017】
上記1以上のリップの具体的な態様としては、前記弾性シール部材の外側面から外方に向けて延びて先端部が前記スリンガの外向きフランジに弾性接触するアキシャルリップと、前記傾斜部から内輪方向に延びて先端部が前記スリンガの円筒部の外径面に弾性接触するラジアルリップとからなる構成を採用できる。
【0018】
また、上記1以上のリップの別の態様としては、前記弾性シール部材の外側面から外方に向けて延びて先端部が前記スリンガの外向きフランジに弾性接触するアキシャルリップと、前記傾斜部から径方向に延びて先端部が前記スリンガの円筒部の外径面に対して微小間隔を空けて非接触のラジアルリップとからなる構成を備えるものでもよく、同様に上記した「遠心力による耐水性の低下」、「角振れ量に対応するサイドリップの締め代の設定困難」という問題を解消できる。
【0019】
弾性シール部材は、リップがスリンガと摺動状態で接触するため、柔軟性および耐摩耗性に優れたゴムで形成するのが好ましく、そのようなゴムとして、ニトリルゴム、アクリルゴムまたはフッ素ゴムからなる弾性シール部材が挙げられる。
【0020】
また、上記アキシャルリップは、プーリの使用時と非使用時に拘わらずに安定した耐水性を示すことが好ましく、そのためにはアキシャルリップの先端に、表裏面に跨って径方向に交差する向きに1以上の溝を有することが好ましく、この溝はスリンガとの圧接による弾性変形によって閉塞可能な形態(幅、深さ)の溝である。
【0021】
すなわち、上記溝は、プーリの非使用時にアキシャルリップがスリンガに圧接して弾性変形している状態では、先端に形成された溝が軸の径方向から加わる圧力で径方向に交差する溝の対向する溝壁同士は近づくように弾性変形し、溝は塞がれて外部から水などの異物の浸入は防止される。
【0022】
また、プーリの回転する使用状態では、アキシャルリップに作用する遠心力でスリンガに対する圧接力は弱まるから、溝は開通し、転がり軸受内の空間に浸入している水等の異物があったとしてもそれらは遠心力で溝から外部へ排出される。
【0023】
また、飛沫や粉塵等の異物には、プーリの回転時に回転方向に慣性力が作用するので、できるだけ速やかに異物が溝から排出されるように、上記溝は、回転する軸受の軸心から放射状または放射曲線状に配置された溝であることが好ましい。
【0024】
このような作用が効果的であるプーリユニットの用途としては、上記プーリユニットが、自動車エンジン用のプーリユニットであることが効果的である。
【発明の効果】
【0025】
この発明は、スリンガにリップを接触させる接触形の軸受シールを有するプーリユニットにおいて、前記スリンガの外向きフランジの外周面を、前記ボス部の内周面に近づけて配置してラビリンス隙間を形成したことにより、プーリユニットの使用環境で存在する可能性の高い水、泥、埃などの液体または粉塵などの粒子状の異物は、軸受空間には浸入しない。さらに、このプーリユニットは、フランジのリム部の外周面とボス部とは接触させる必要がないので、軸受トルクを高めることなく、遠心力によるシール性の低下もないので、外輪回転で使用される転がり軸受の遠心力による締め代の減少、および自動車の過酷な使用環境における泥水その他の異物浸入を確実に防御できるプーリユニットとなる利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図3】実施形態のプーリユニットの回転状態の拡大断面図
【
図4】第2実施形態のプーリユニットの回転状態の拡大断面図
【
図8】(a)従来例のプーリユニットの非回転状態を説明する要部拡大断面図、(b)従来例のプーリユニットの回転状態を説明する要部拡大断面図
【発明を実施するための形態】
【0027】
この発明の実施形態を、以下に添付図面に基づいて説明する。
図1〜3に示すように、第1実施形態のプーリユニットは、プーリ1のベルト案内輪2の内側にボス部3が設けられ、ボス部3の内側に外輪回転用の転がり軸受4が組み込まれたものであり、転がり軸受4の外輪5と内輪6の間に形成された軸受空間の両端開口のそれぞれにシール部材を設けている。
【0028】
このシール部材は、断面L形で円筒部7aの外側端部に外向きフランジ7bが設けられたスリンガ7の円筒部7aを内輪6の外径面端部に圧入して固定し、内周部に内向きの傾斜部8aが設けられた環状の弾性シール部材8を外輪5の内径面における両端部に外周部を支持して設け、この弾性シール部材8のスリンガ7と対向する面に、弾性シール部材8の外側面から外方に向けて延びて先端部がスリンガ7の外向きフランジ7bに弾性接触するアキシャルリップ8bを設けると共に、傾斜部8aから径方向に延びて先端部がスリンガ7の円筒部7aの外径面に対して弾性接触するラジアルリップ8cを設け、さらに前記スリンガの外向きフランジ7bのリム部7cの外周面7dを、前記ボス部3の内周側端部に設けたテーパ面3bおよびこれに連続する円筒状内周面3cに近づけて配置することによりラビリンス隙間9を形成している。
【0029】
図1、2に示すように、プーリ1は、外径部にベルト案内輪2を有し、そのベルト案内輪2の内径面に環状フランジ1aが形成され、その環状フランジ1aの内径部にボス部3が設けられた樹脂の成形品からなり、ボス部3の一方の端部には内向きフランジ3aが設けられている。
【0030】
ベルト案内輪2は、外径面が円筒面からなる平ベルト案内用のものを示したが、外径面に複数のV溝が形成されたVベルト案内用のものであってもよい。
【0031】
転がり軸受4は、外輪5、内輪6と、それらの間に組み込まれた転動体としてのボール10を有する玉軸受であり、各列のボール10の軸方向の外側にシール部材が組み込まれ、そのシール部材によって外輪5と内輪6の対向面間に形成された軸受空間の両端開口がシールされている。
なお、玉軸受として単列の玉軸受の場合を示したが、支障のない範囲で、複列の玉軸受や、単列の玉軸受を複数個、例えば2列で使用する形態などとしてもよい。
【0032】
図3に示すように、シール部材は、内輪6の外径面端部に装着されたスリンガ7と、そのスリンガ7の内側に設けられた弾性シール部材8とからなる。
スリンガ7は、円筒部7aの一方の端部に外向きフランジ7bを設けた鋼板のプレス成形品からなり、円筒部7aが内輪6の外径面端部に圧入した状態に固定されている。
【0033】
そして、スリンガ7の外向きフランジ7bの径を寸法調整して外向きフランジ7bのリム部7cの外周面が、ボス部3の内周側端部に設けたテーパ面3bおよび円筒状内周面3cに跨る位置に接近させて配置し、ラビリンス隙間9を形成してシール作用が発揮されるようにしている。
【0034】
前記したテーパ面3bは、軸受の端面に近いほど大径であり、その小径側に連続する円筒状内周面3cに連続し、リム部7cの外周面7dとテーパ面3bの間に略円錐台筒状の部分および円筒状の部分が連続するラビリンス隙間9を形成している。
【0035】
このようなラビリンス隙間9は、軸受外部にある水等の液状異物が、軸受空間に浸入する可能性があるとき、液状異物の通過する抵抗を高め、さらにそのような液状異物の通過を阻止するものであり、隙間寸法は、転がり軸受の軸径や材質にも依るが、例えば最も狭い部分が0.2〜1.0mm程度の隙間であることが好ましい。
【0036】
さらに、この実施形態では、前記外向きフランジ7bのリム部7cの外周面7dをできるだけ広げて外輪5の端面に近づけ、リム部7cの周りに形成される隙間状通路によりラビリンス隙間によるシール性をより高めている。
【0037】
また、この実施形態では、転がり軸受の外輪と内輪間に形成された軸受空間の片側のみに上述のラビリンス隙間9を形成したものを示したが、他側のスリンガ7´の外向きフランジの径を寸法調整し、上記同様なラビリンス隙間を転がり軸受の両端部分に設けることもできる。
【0038】
図3に示すように、弾性シール部材8は、環状であり、同じく環状の芯金11で補強されている。弾性シール部材8の外周部には芯金11の外周に形成された円筒部11aを覆うように嵌合部8dを形成し、嵌合部8dが外輪5の内径面端部に形成されたシール取付溝5aに圧入されて外周部が外輪5に保持されている。
【0039】
一方、弾性シール部材8の傾斜部8aの内周には一対のラジアルリップ8c、8cが設けられている。一対のラジアルリップ8c、8cのそれぞれは、スリンガ7における円筒部7aの外径面に弾性接触してシールしている。
【0040】
このようなアキシャルリップ8bおよびラジアルリップ8c、8cのそれぞれは、スリンガ7の外向きフランジ7bの内側面および円筒部7aの外径面に弾性接触して対向部間をシールするものであるから、柔軟性および耐摩耗性に優れたニトリルゴム、アクリルゴム、フッ素ゴムなどのゴムで形成するのが好ましい。
【0041】
このようなプーリ1は、高圧洗浄水によってエンジンルームが洗浄される際、ラビリンス隙間9のシール性によって、高圧洗浄水や、自動車の速度によって比較的高速で飛散する泥、埃などの液体または粉塵などの飛沫その他の粒子状の異物が直接に吹き付けられるようなことがないため、アキシャルリップ8bおよびラジアルリップ8cの弾性接触によって、前記飛沫や水などが軸受内部に浸入するのを確実に防止することができる。
【0042】
次に、
図4に示すこの発明の第2実施形態は、第1実施形態と略同様な形態の弾性シール部材12を有するが、ラジアル方向のシールは、リップの弾性接触性を利用するものではなく、弾性シール部材12における内径面を傾斜部12aから内輪6に向かって突出させ、その先端部12cをスリンガ7の円筒部7aの外径面に対してグリースの流動を阻止できる程度の微小な間隙dを介して対向させたものである。
【0043】
前述のラビリンス隙間9やアキシャルリップ12bのシール性によって、上記微小な間隙dに対しては、高圧洗浄水や粒子状の異物は、直接に吹き付けられるようなことがなく、転がり軸受の内部に保持されているグリースの流動による漏洩を阻止し、水滴などの非加圧の水等の浸入の防止機能を発揮する。
【0044】
次に、
図3(鎖線で示す部分)および
図5、6に示す第3実施形態は、第1実施形態における環状の弾性シール部材8(
図1参照)のアキシャルリップ8bの形態を一部変更し、それ以外は全く同様に構成したプーリユニットである。
【0045】
すなわち、第3実施形態の弾性シール部材8におけるアキシャルリップ8bは、その先端を切り欠いたように、先端に表裏面に跨って径方向に交差する向きに複数の溝8eを形成したものであって、軸受の軸心から広がる放射曲線に沿う溝8eを周方向に等間隔に形成したものであり、この溝8eの大きさ(溝幅と深さ)はスリンガ7との圧接による弾性変形で閉塞可能であるように設定されている。
【0046】
溝8eは、プーリの非使用時に非回転状態であるとき、アキシャルリップ8bがスリンガ7に圧接して弾性変形し、このとき先端縁に形成された溝8eの対向する溝壁面同士が軸の径方向から加わる圧力で互いに接する状態になるので、溝8eの流路は塞がれて軸受外部からの水などの異物の浸入を防止できる。
【0047】
また、プーリの回転する使用状態では、アキシャルリップ8bに作用する遠心力でスリンガ7に対する圧接力は弱まるから、溝8eの流路は開いて径方向に対して交差する方向に貫通し、軸受空間内に浸入している水等の異物があっても、これを遠心力によって溝8eから弾性シール部材8の外側の軸受外に排出することができる。
【0048】
図示した溝8eは、軸受の軸心から広がる放射曲線に沿うものであり、上記の作用によって、円滑に異物が溝8eから排出されやすい形状としている。
軸受の軸心から放射曲線状に広がる溝8eは、転がり軸受の軸心に近い溝端部を外輪5の回転する方向に傾けて配置することが、遠心力を受けた水などの異物をできるだけ速やかに排出するために好ましい。
【0049】
上記した実施形態のプーリユニットは、いずれもプーリユニットの「遠心力による耐水性の低下」、「角振れ量に対応するサイドリップの締め代の設定困難性」という従来技術における課題を解決できるものであり、外輪回転で使用される転がり軸受の遠心力による締め代の減少、自動車の過酷な使用環境における泥水その他の異物浸入を確実に防御できるプーリユニットになる。
【符号の説明】
【0050】
1 プーリ
1a 環状フランジ
2 ベルト案内輪
3 ボス部
3a 内向きフランジ
3b テーパ面
3c 円筒状内周面
4 転がり軸受
5 外輪
5a シール取付溝
6 内輪
7、7´、20 スリンガ
7a、20a 円筒部
7b、20b 外向きフランジ
7c リム部
7d 外周面
8、12 弾性シール部材
8a、12a 傾斜部
8b、12b アキシャルリップ
8c ラジアルリップ
8d 嵌合部
8e 溝
9 ラビリンス隙間
10 ボール
11 芯金
11a 円筒部
12c 先端部
d 間隙