【文献】
中山直人,電気化学測定を用いためっき液の品質管理,日置技報,2016年 4月27日,Vol.37, No.1,p.1-5
【文献】
中山直人,電気化学計測を用いためっき液の性能評価,計測自動制御学会中部支部シンポジウム講演論文集,2015年,p.14-17
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
分析対象の電解メッキ液を対象とする電気化学測定処理の測定結果、および当該電解メッキ液に含まれているN種類(Nは、2以上の自然数)の含有物の濃度をそれそれ特定するための濃度特定用データに基づいて当該電解メッキ液の状態を分析する分析処理において、前記濃度特定用データとして、前記電解メッキ液と同じ金属イオンを含有すると共に前記各含有物の濃度の組み合わせが互いに相違する複数種類の試料を対象として複数種類の還元電位においてそれぞれ実行された前記電気化学測定処理の測定結果に基づいて当該各試料毎に特定された当該各還元電位毎の複数種類の分析用パラメータの値が当該各試料における当該各含有物の濃度および当該還元電位の値に関連付けられて記録された第1のデータにおける当該各分析用パラメータの値および当該各含有物の濃度を示す値を、当該各試料の当該各還元電位毎に、当該各含有物の濃度および当該各分析用パラメータの相関関係を示す予め規定された分析用モデル式の第2のデータにおける当該分析用モデル式にそれぞれ代入した複数の第1のモデル式のなかから、当該各含有物毎に、予め規定された第1の基準を満たす当該第1のモデル式を特定する第1の処理と、当該第1の処理によって特定したN個の前記第1のモデル式に関連付けられている前記還元電位において前記電解メッキ液を対象として実行された前記電気化学測定処理の測定結果を取得すると共に、取得した当該測定結果に基づいて特定される前記複数種類の分析用パラメータの値を当該N個の第1のモデル式に対応する前記分析用モデル式に代入した各第2のモデル式に基づき、当該電解メッキ液における前記各含有物の濃度をそれぞれ特定する第2の処理とを実行する電解メッキ液分析方法。
前記第1の処理において、前記第2のデータにおける複数種類の前記分析用モデル式に対応する複数種類の前記第1のモデル式のなかから、予め規定された第2の基準を満たす種類の当該第1のモデル式を特定し、特定した当該各第1のモデル式のなかから、当該各含有物毎に、前記第1の基準を満たす当該第1のモデル式を特定する請求項4記載の電解メッキ液分析方法。
分析対象の電解メッキ液を対象とする電気化学測定処理の測定結果に基づいて当該電解メッキ液の状態を分析する分析処理を実行する処理部と、前記電解メッキ液に含まれているN種類(Nは、2以上の自然数)の含有物の濃度をそれそれ特定するための濃度特定用データを記憶する記憶部とを備えた電解メッキ液分析装置における前記処理部に前記分析処理を実行させる電解メッキ液分析用プログラムであって、
前記記憶部に、前記濃度特定用データとして、前記電解メッキ液と同じ金属イオンを含有すると共に前記各含有物の濃度の組み合わせが互いに相違する複数種類の試料を対象として複数種類の還元電位においてそれぞれ実行された前記電気化学測定処理の測定結果に基づいて当該各試料毎に特定された当該各還元電位毎の複数種類の分析用パラメータの値が当該各試料における当該各含有物の濃度および当該還元電位の値に関連付けられて記録された第1のデータと、前記各含有物の濃度および前記各分析用パラメータの相関関係を示す予め規定された分析用モデル式の第2のデータとが記憶されている状態において、前記処理部に対して、前記分析処理において、前記第1のデータにおける前記各分析用パラメータの値および前記各含有物の濃度を示す値を前記各試料の前記各還元電位毎に前記第2のデータにおける前記分析用モデル式にそれぞれ代入した複数の第1のモデル式のなかから、当該各含有物毎に、予め規定された第1の基準を満たす当該第1のモデル式を特定する第1の処理と、当該第1の処理によって特定したN個の前記第1のモデル式に関連付けられている前記還元電位において前記電解メッキ液を対象として実行された前記電気化学測定処理の測定結果を取得すると共に、取得した当該測定結果に基づいて特定される前記複数種類の分析用パラメータの値を当該N個の第1のモデル式に対応する前記分析用モデル式に代入した各第2のモデル式に基づき、当該電解メッキ液における前記各含有物の濃度をそれぞれ特定する第2の処理とを実行させる電解メッキ液分析用プログラム。
前記記憶部に、前記第2のデータとして、前記各含有物の濃度および前記各分析用パラメータの相関関係を示す複数種類の前記分析用モデル式が記憶されている状態において、前記処理部に対して、前記第1の処理において、前記複数種類の分析用モデル式に対応する複数種類の前記第1のモデル式のなかから、予め規定された第2の基準を満たす種類の当該第1のモデル式を特定し、特定した当該各第1のモデル式のなかから、当該各含有物毎に、前記第1の基準を満たす当該第1のモデル式を特定する処理を実行させる請求項6記載の電解メッキ液分析用プログラム。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献に開示の分析方法では、含硫黄有機化合物の濃度の変化に応じて変化するパラメータと含窒素有機化合物の濃度との関係に基づいて作成した検量線に基づき、含窒素有機化合物の濃度を特定している。これにより、この分析方法によれば、複数の添加剤を含有する硫酸銅めっき液中に含まれている含窒素有機化合物系添加剤の濃度を、再現性よく、かつ高精度に特定することが可能となっている。
【0005】
しかしながら、含窒素有機化合物(含窒素有機化合物系添加剤)の濃度の特定を目的としている上記の分析方法では、分析対象の電解メッキ液に含まれている含窒素有機化合物以外の含有物の濃度を特定することはできない。このため、含窒素有機化合物以外の含有物の濃度を特定する必要があるときには、上記のような検量線に基づく含窒素有機化合物の濃度の特定処理とは別個に、対象とする含有物に関する濃度の特定処理をそれぞれ実行する必要がある。したがって、上記の分析方法では、電解メッキ液に含まれている複数種類の含有物の濃度をそれぞれ特定するために非常に長い作業時間を必要とするという問題点がある。
【0006】
本発明は、かかる問題点に鑑みてなされたものであり、電解メッキ液に含まれている複数種類の含有物の濃度を短時間で特定し得る電解メッキ液分析装置、電解メッキ液分析方法および電解メッキ液分析用プログラムを提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成すべく請求項1記載の電解メッキ液分析装置は、分析対象の電解メッキ液を対象とする電気化学測定処理の測定結果に基づいて当該電解メッキ液の状態を分析する分析処理を実行する処理部と、前記電解メッキ液に含まれているN種類(Nは、2以上の自然数)の含有物の濃度をそれそれ特定するための濃度特定用データを記憶する記憶部とを備え、前記記憶部は、前記濃度特定用データとして、前記電解メッキ液と同じ金属イオンを含有すると共に前記各含有物の濃度の組み合わせが互いに相違する複数種類の試料を対象として複数種類の還元電位においてそれぞれ実行された前記電気化学測定処理の測定結果に基づいて当該各試料毎に特定された当該各還元電位毎の複数種類の分析用パラメータの値が当該各試料における当該各含有物の濃度および当該還元電位の値に関連付けられて記録された第1のデータと、前記各含有物の濃度および前記各分析用パラメータの相関関係を示す予め規定された分析用モデル式の第2のデータとを記憶し、前記処理部は、前記分析処理において、前記第1のデータにおける前記各分析用パラメータの値および前記各含有物の濃度を示す値を前記各試料の前記各還元電位毎に前記第2のデータにおける前記分析用モデル式にそれぞれ代入した複数の第1のモデル式のなかから、当該各含有物毎に、予め規定された第1の基準を満たす当該第1のモデル式を特定する第1の処理と、当該第1の処理によって特定したN個の前記第1のモデル式に関連付けられている前記還元電位において前記電解メッキ液を対象として実行された前記電気化学測定処理の測定結果を取得すると共に、取得した当該測定結果に基づいて特定される前記複数種類の分析用パラメータの値を当該N個の第1のモデル式に対応する前記分析用モデル式に代入した各第2のモデル式に基づき、当該電解メッキ液における前記各含有物の濃度をそれぞれ特定する第2の処理とを実行する。
【0008】
また、請求項2記載の電解メッキ液分析装置は、請求項1記載の電解メッキ液分析装置において、前記記憶部は、前記第2のデータとして、前記各含有物の濃度および前記各分析用パラメータの相関関係を示す複数種類の前記分析用モデル式を記憶し、前記処理部は、前記第1の処理において、前記複数種類の分析用モデル式に対応する複数種類の前記第1のモデル式のなかから、予め規定された第2の基準を満たす種類の当該第1のモデル式を特定し、特定した当該各第1のモデル式のなかから、当該各含有物毎に、前記第1の基準を満たす当該第1のモデル式を特定する。
【0009】
さらに、請求項3記載の電解メッキ液分析装置は、請求項1または2記載の電解メッキ液分析装置において、前記電解メッキ液および前記各試料を対象とする前記電気化学測定処理を実行する測定部を備え、前記処理部は、前記測定部による前記各試料を対象とする前記還元電位毎の前記電気化学測定処理の測定結果に基づいて前記第1のデータを生成して前記記憶部に記憶させると共に、前記第2の処理において、前記測定部による前記電解メッキ液を対象とする前記電気化学測定処理の測定結果に基づいて前記複数種類の分析用パラメータの値を特定して前記各含有物の濃度を特定する。
【0010】
また、請求項4記載の電解メッキ液分析方法は、分析対象の電解メッキ液を対象とする電気化学測定処理の測定結果、および当該電解メッキ液に含まれているN種類(Nは、2以上の自然数)の含有物の濃度をそれそれ特定するための濃度特定用データに基づいて当該電解メッキ液の状態を分析する分析処理において、前記濃度特定用データとして、前記電解メッキ液と同じ金属イオンを含有すると共に前記各含有物の濃度の組み合わせが互いに相違する複数種類の試料を対象として複数種類の還元電位においてそれぞれ実行された前記電気化学測定処理の測定結果に基づいて当該各試料毎に特定された当該各還元電位毎の複数種類の分析用パラメータの値が当該各試料における当該各含有物の濃度および当該還元電位の値に関連付けられて記録された第1のデータにおける当該各分析用パラメータの値および当該各含有物の濃度を示す値を、当該各試料の当該各還元電位毎に、当該各含有物の濃度および当該各分析用パラメータの相関関係を示す予め規定された分析用モデル式の第2のデータにおける当該分析用モデル式にそれぞれ代入した複数の第1のモデル式のなかから、当該各含有物毎に、予め規定された第1の基準を満たす当該第1のモデル式を特定する第1の処理と、当該第1の処理によって特定したN個の前記第1のモデル式に関連付けられている前記還元電位において前記電解メッキ液を対象として実行された前記電気化学測定処理の測定結果を取得すると共に、取得した当該測定結果に基づいて特定される前記複数種類の分析用パラメータの値を当該N個の第1のモデル式に対応する前記分析用モデル式に代入した各第2のモデル式に基づき、当該電解メッキ液における前記各含有物の濃度をそれぞれ特定する第2の処理とを実行する。
【0011】
さらに、請求項5記載の電解メッキ液分析方法は、請求項4記載の電解メッキ液分析方法において、前記第1の処理において、前記第2のデータにおける複数種類の前記分析用モデル式に対応する複数種類の前記第1のモデル式のなかから、予め規定された第2の基準を満たす種類の当該第1のモデル式を特定し、特定した当該各第1のモデル式のなかから、当該各含有物毎に、前記第1の基準を満たす当該第1のモデル式を特定する。
【0012】
また、請求項6記載の電解メッキ液分析用プログラムは、分析対象の電解メッキ液を対象とする電気化学測定処理の測定結果に基づいて当該電解メッキ液の状態を分析する分析処理を実行する処理部と、前記電解メッキ液に含まれているN種類(Nは、2以上の自然数)の含有物の濃度をそれそれ特定するための濃度特定用データを記憶する記憶部とを備えた電解メッキ液分析装置における前記処理部に前記分析処理を実行させる電解メッキ液分析用プログラムであって、前記記憶部に、前記濃度特定用データとして、前記電解メッキ液と同じ金属イオンを含有すると共に前記各含有物の濃度の組み合わせが互いに相違する複数種類の試料を対象として複数種類の還元電位においてそれぞれ実行された前記電気化学測定処理の測定結果に基づいて当該各試料毎に特定された当該各還元電位毎の複数種類の分析用パラメータの値が当該各試料における当該各含有物の濃度および当該還元電位の値に関連付けられて記録された第1のデータと、前記各含有物の濃度および前記各分析用パラメータの相関関係を示す予め規定された分析用モデル式の第2のデータとが記憶されている状態において、前記処理部に対して、前記分析処理において、前記第1のデータにおける前記各分析用パラメータの値および前記各含有物の濃度を示す値を前記各試料の前記各還元電位毎に前記第2のデータにおける前記分析用モデル式にそれぞれ代入した複数の第1のモデル式のなかから、当該各含有物毎に、予め規定された第1の基準を満たす当該第1のモデル式を特定する第1の処理と、当該第1の処理によって特定したN個の前記第1のモデル式に関連付けられている前記還元電位において前記電解メッキ液を対象として実行された前記電気化学測定処理の測定結果を取得すると共に、取得した当該測定結果に基づいて特定される前記複数種類の分析用パラメータの値を当該N個の第1のモデル式に対応する前記分析用モデル式に代入した各第2のモデル式に基づき、当該電解メッキ液における前記各含有物の濃度をそれぞれ特定する第2の処理とを実行させる。
【0013】
さらに、請求項7記載の電解メッキ液分析用プログラムは、請求項6記載の電解メッキ液分析用プログラムにおいて、前記記憶部に、前記第2のデータとして、前記各含有物の濃度および前記各分析用パラメータの相関関係を示す複数種類の前記分析用モデル式が記憶されている状態において、前記処理部に対して、前記第1の処理において、前記複数種類の分析用モデル式に対応する複数種類の前記第1のモデル式のなかから、予め規定された第2の基準を満たす種類の当該第1のモデル式を特定し、特定した当該各第1のモデル式のなかから、当該各含有物毎に、前記第1の基準を満たす当該第1のモデル式を特定する処理を実行させる。
【発明の効果】
【0014】
請求項1記載の電解メッキ液分析装置、および請求項4記載の電解メッキ液分析方法では、複数種類の試料を対象として複数種類の還元電位においてそれぞれ実行された電気化学測定処理の測定結果に基づいて各試料毎に特定された各還元電位毎の複数種類の分析用パラメータの値が各試料における各含有物の濃度および還元電位の値に関連付けられて記録された第1のデータにおける各分析用パラメータの値および各含有物の濃度を示す値を、各試料の各還元電位毎に、各含有物の濃度および各分析用パラメータの相関関係を示す予め規定された分析用モデル式の第2のデータにおける分析用モデル式にそれぞれ代入した複数の第1のモデル式のなかから、各含有物毎に、予め規定された第1の基準を満たす第1のモデル式を特定する第1の処理と、特定したN個の第1のモデル式に関連付けられている還元電位において電解メッキ液を対象として実行された電気化学測定処理の測定結果を取得すると共に、取得した測定結果に基づいて特定される複数種類の分析用パラメータの値をN個の第1のモデル式に対応する分析用モデル式に代入した各第2のモデル式に基づき、電解メッキ液におけるN種類の含有物の濃度をそれぞれ特定する第2の処理とを実行する。また、請求項6記載の電解メッキ液分析用プログラムでは、上記の第1の処理および第2の処理を電解メッキ液分析装置における処理部に実行させる。
【0015】
したがって、請求項1記載の電解メッキ液分析装置、請求項4記載の電解メッキ液分析方法、および請求項6記載の電解メッキ液分析用プログラムによれば、電解メッキ液に含まれているN種類の含有物の濃度を1回の作業で特定することができるため、複数種類の含有物が含まれていることが多い電解メッキ液を対象とする各含有物の濃度を短時間で特定することができる。また、第1の処理を1回実行しておくことで、電解メッキ液に含まれている各含有物の濃度を特定すべきときには第2の処理だけを実行することで分析結果(含有物の濃度)を得ることができるため、電解メッキ液の状態を逐次把握して、好適な条件下で対象物をメッキ処理することが可能となる。
【0016】
請求項2記載の電解メッキ液分析装置、および請求項5記載の電解メッキ液分析方法では、第1の処理において、第2のデータにおける複数種類の分析用モデル式に対応する複数種類の第1のモデル式のなかから、予め規定された第2の基準を満たす種類の第1のモデル式を特定し、特定した各第1のモデル式のなかから、各含有物毎に、第1の基準を満たす第1のモデル式を特定する。また、請求項7記載の電解メッキ液分析用プログラムでは、第1の処理において電解メッキ液分析装置における処理部に上記の処理を実行させる。
【0017】
したがって、請求項2記載の電解メッキ液分析装置、請求項5記載の電解メッキ液分析方法、および請求項7記載の電解メッキ液分析用プログラムによれば、濃度を特定すべき含有物の特性に応じて複数種類の分析用モデル式を用意しておくことで、各種の含有物の濃度を精度よく特定することができる。
【0018】
請求項3記載の電解メッキ液分析装置では、処理部が、測定部による各試料を対象とする還元電位毎の電気化学測定処理の測定結果に基づいて第1のデータを生成して記憶部に記憶させると共に、第2の処理において、測定部による電解メッキ液を対象とする電気化学測定処理の測定結果に基づいて複数種類の分析用パラメータの値を特定して各含有物の濃度を特定する。したがって、請求項3記載の電解メッキ液分析装置によれば、電解メッキ液分析装置とは別個に電気化学測定装置を備えることなく、電解メッキ液に含まれる各含有物の濃度を好適に特定することができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、電解メッキ液分析装置、電解メッキ液分析方法および電解メッキ液分析用プログラムの実施の形態について、添付図面を参照して説明する。
【0021】
図1に示す電解メッキ液分析システム1は、メッキ液槽内に貯液されている電解メッキ液(メッキ浴)Xaの状態を「電解メッキ液分析方法」に従って分析可能な「電解メッキ液分析装置」の一例であって、電気化学測定装置2および分析装置3を備えて構成されている。
【0022】
電気化学測定装置2は、電気化学センサ2aおよび測定装置本体2bを備えている。電気化学センサ2aは、三極測定による「電気化学測定処理」を実行するためのセンサ装置であって、ケーシング10、参照電極11、作用電極12、対向電極13および信号処理回路基板14を備えている。なお、本明細書では、「電解メッキ液分析装置」および「電解メッキ液分析方法」に関する理解を容易とするために、参照電極11、作用電極12および対向電極13を同じ形状・同じ大きさに図示しているが、実際には、測定対象(電解メッキ液分析システム1による分析対象)の電解メッキ液Xaの種類に応じて、各電極11〜13毎に各種の形状・大きさ・構成の電極が採用される。
【0023】
ケーシング10は、耐薬品性樹脂材料などで形成された容器体であって、各電極11〜13が取り付けられると共に、各電極11〜13に接続された信号処理回路基板14を収容する。信号処理回路基板14は、ポテンショスタットやI/V変換回路などが実装された回路基板であって、信号ケーブル2cを介して測定装置本体2bに接続されている。なお、この信号処理回路基板14については、測定装置本体2b側の構成要素とすることもできる。
【0024】
測定装置本体2bは、操作部21、表示部22、処理部23および記憶部24を備えている。操作部21は、測定条件等の設定操作、各種処理の開始/停止の指示、および測定結果の分析装置3への送信指示などの操作が可能な操作スイッチを備え、これらの操作に応じた操作信号を処理部23に出力する。表示部22は、処理部23の制御下で、処理部23によって演算される電気化学測定処理の測定結果などを表示する。
【0025】
処理部23は、電気化学測定装置2を総括的に制御する。具体的には、処理部23は、電気化学センサ2aの信号処理回路基板14と相俟って「測定部」を構成し、操作部21からの操作信号に応じて「電気化学測定処理(以下、単に「測定処理」ともいう)」などを実行する。この場合、処理部23は、参照電極11に対する作用電極12の電位(以下、単に「作用電極12の電極電位」ともいう)を制御しつつ、対向電極13および作用電極12の間を流れる電流の電流値(電気化学センサ2aから出力されたセンサ信号)を取得し、取得した電流値(センサ信号の値)に基づいて測定値を演算すると共に、演算結果(測定値:「電気化学測定処理の測定結果」の一例)を記録した測定値データD1を生成して記憶部24に記憶させる処理を「測定処理」として実行する。
【0026】
また、処理部23は、操作部21からの操作信号(または、分析装置3からの制御信号)に応じて記憶部24から測定値データD1を読み出して分析装置3に出力する。記憶部24は、処理部23の動作ブログラムや、上記の測定値データD1などを記憶する。
【0027】
一方、分析装置3は、一例として、「電解メッキ液分析用プログラム」に相当する分析用プログラムDpがインストールされたパーソナルコンピュータで構成されており、操作部31、表示部32、処理部33および記憶部34を備えている。操作部31は、キーボードや、マウスおよびタッチパッド等のポインティングデバイスで構成されて、これらの操作に応じた操作信号を処理部33に出力する。表示部32は、処理部33による「分析処理」の結果(分析結果)などを表示する。
【0028】
処理部33は、「処理部」の一例であって、測定値が記録された測定値データD1を電気化学測定装置2(測定装置本体2b)から送信させて記憶部34に記憶させる。また、処理部33は、電気化学測定装置2から送信させた測定値データD1を分析用プログラムDpに従って解析することにより、電解メッキ液Xaの状態を分析して分析結果を表示部32に表示させると共に、分析結果を記録した分析結果データD2〜D4を生成して記憶部34に記憶させる(「分析処理」の一例)。この場合、本例の電解メッキ液分析システム1では、処理部33が、「分析処理」において、電解メッキ液Xaに含まれているN種類の含有物(各種の添加剤や、電解メッキ液Xaに混入した不純物等)の濃度を特定する処理を実行可能に構成されている。
【0029】
なお、この「分析処理」の具体的な内容については、後に詳細に説明するが、本例では、「電解メッキ液分析装置」、「電解メッキ液分析方法」および「電解メッキ液分析用プログラム」についての理解を容易とするために、一例として、「電解メッキ液に含まれているN種類の含有物」として、電解メッキ液Xaに添加されている抑制剤(添加剤A)および促進剤(添加剤B)のN=2種類の「含有物」の濃度を特定するものとする。また、本例では、一例として、「測定処理」の結果が記録された測定値データD1に基づいて特定される「電流効率」、「メッキ量」および「ピーク電流」などの各種のパラメータのうちの2つ(一例として、「電流効率」および「メッキ量」)を「分析用パラメータ(電解メッキ液Xa等に含まれる含有物の種類およびその濃度に応じて変化するパラメータ)」として、各種の処理を実行するものとする。
【0030】
この場合、「電流効率」は、電解メッキ液Xaなどに含まれている金属を作用電極12の電極面に析出させた(メッキした)ときに金属の析出に寄与した電流の比率を示すパラメータであって、一例として、金属溶出時電気量(作用電極12上に析出させた金属を電解メッキ液Xaなどに溶出させたときに対向電極13および作用電極12間を流れる電流の電流値に基づいて特定される電気量)を、析出時電気量(作用電極12上に金属を析出させたときに対向電極13および作用電極12間を流れる電流の電流値に基づいて特定される電気量)で除すことで求められる。
【0031】
また、「メッキ量」は、電解メッキ液Xaなどに含まれている金属を作用電極12の電極面に規定時間に亘って析出させた(メッキした)ときに電極面上に析出する(メッキされる)金属の質量であって、一例として、作用電極12上に析出させた金属を電解メッキ液Xaなどに溶出させた際に対向電極13および作用電極12間を流れる電流の電流値(電流値に基づいて特定される電気量)に基づいて特定される。さらに、「ピーク電流」は、作用電極12上に析出させた金属を作用電極12の電極電位を変化させつつ電解メッキ液Xaなどに溶出させた際に対向電極13および作用電極12間を流れる電流の電流値がどのような電極電位において最大値であったかに基づいて特定される。
【0032】
記憶部34は、「記憶部」の一例であって、上記の分析用プログラムDpや、電解メッキ液Xaに含まれている各種含有物の濃度を特定するためのモデル式データD0を記憶する。この場合、モデル式データD0は、「第2のデータ」の一例であって、電解メッキ液Xaに含まれている各種の含有物のうちの濃度特定対象の含有物の「濃度」と、「分析用パラメータ」との相関関係を示す「分析用モデル式」が記録されている。
【0033】
具体的には、モデル式データD0には、「分析用モデル式」として、「Y=β
0+β
1X
1+β
2X
2+ε(1次モデル式)」、「Y=β
0+β
1X
1+β
2X
2+β
12X
1X
2+ε(交互作用モデル式)」および「Y=β
0+β
1X
1+β
2X
2+β
12X
1X
2+β
11X
12+β
22X
22+ε(2次モデル式)」の3種類のモデル式が記録されている。この場合、上記の各モデル式における「Y」は、「分析用パラメータ」の値(本例では、「電流効率」および「メッキ量」の値)であり、「X
1」は、抑制剤(添加剤A)の濃度であり、「X
2」は、促進剤(添加剤B)の濃度であり、「β
0,β
1・・」は、モデル式の作成に際して規定された任意の係数(パラメータ)であり、「ε」は、既知の「調整値(誤差)」である。
【0034】
なお、本例では、上記の3種類のモデル式を「各含有物の濃度および各分析用パラメータの相関関係を示す複数種類の分析用モデル式」として記録したモデル式データD0を使用するが、濃度を特定する対象の「含有物」によっては、上記の3種類のモデル式のうちの1つ、または2つを「分析用モデル式」として記録したモデル式データD0を使用したり、「3次モデル式」、「4次モデル式」・・等のモデル式を含む4つ以上のモデル式を「分析用モデル式」として記録したモデル式データD0を使用したりすることができる。
【0035】
また、記憶部34は、電気化学測定装置2から送信された測定値データD1や、後述するように処理部33によって測定値データD1に基づいて特定される「分析用パラメータ」の値が記録された分析結果データD2,D3、および特定された各含有物の濃度が記録された分析結果データD4などを記憶する。なお、本例では、後述するように測定値データD1に基づいて処理部33によって生成される分析結果データD2が「第1のデータ」に相当すると共に、この分析結果データD2と、前述したモデル式データD0とが相俟って「濃度特定用データ」に相当する。
【0036】
この電解メッキ液分析システム1によってメッキ液槽内の電解メッキ液Xaの状態を分析する(電解メッキ液Xaに含まれている抑制剤および促進剤の濃度を特定する)には、まず、
図2に示す試料Xb1〜Xb9を用意する。この場合、試料Xb1〜Xb9は、「電解メッキ液と同じ金属イオンを含有すると共に各含有物の濃度の組み合わせが互いに相違する複数種類の試料」に相当し、本例では、一例として、濃度を特定する対象の「含有物(本例では、抑制剤および促進剤)」を新品の電解メッキ液Xa(その電解メッキ液Xaを用いたメッキ処理を行っておらず、かつ抑制剤や促進剤などの添加剤が添加されたり、不純物等が混入したりしていない電解メッキ液Xa)に添加して製作する。
【0037】
具体的には、
図2に示すように、本例では、抑制剤の添加量が適量の状態、抑制剤の添加量が不足している状態、および抑制剤の添加量が過剰な状態の3つの状態と、促進剤の添加量が適量の状態、促進剤の添加量が不足している状態、および促進剤の添加量が過剰な状態の3つの状態との組み合わせによって3×3=9種類の試料Xb1〜Xb9(以下、区別しないときには「試料Xb」ともいう)を製作する。
【0038】
この場合、後述する「分析処理」において「分析用モデル式」としての「交互作用モデル式」や「2次モデル式」を含むモデル式を使用する本例では、抑制剤の添加量(濃度)の種類数、および促進剤の添加量(濃度)の種類数をそれぞれ3種類以上とするのが好ましい。また、添加量(濃度)が適量であるべき抑制剤や促進剤を「含有物」としてその濃度を特定する本例では、上記の各「含有物」の添加量の3つの状態のうちの1つが「適量」で、他の2つが「不足(適量より少ない状態)」および「過剰(適量より多い状態)」であるのが好ましい。
【0039】
次いで、上記の各試料Xbを対象とする「測定処理」をそれぞれ実行する。具体的には、まず、ケーシング10に各電極11〜13を取り付けて電気化学センサ2aを組み立てると共に、信号ケーブル2cを介して電気化学センサ2aを測定装置本体2bに接続する。続いて、電気化学センサ2aにおける各電極11〜13の電極面を試料Xbにそれぞれ浸した後に、測定装置本体2bの操作部21を操作して、「測定処理」の開始を指示する。これに応じて、処理部23が「測定処理」を開始して測定値データD1を生成し、生成した測定値データD1を記憶部24に記憶させる。この際に、処理部23は、一例として、分析対象の電解メッキ液Xaを使用した実際のメッキ処理時における還元電位を中心とする十分に広い電位範囲内で還元電位(作用電極12の電極面に金属を析出させる際の電極電位)を変更して複数回の「測定処理」を実行する。
【0040】
なお、この「測定処理」については、一例として、出願人が特開2016−105072号公報や特開2016−105073号公報に開示している分析方法における「測定値取得処理」の手順と同様の手順で実施することができる。したがって、これら公開公報に開示の事項と同様の事項については詳細な説明を省略する。このような「測定処理」を、各試料Xbを対象としてそれぞれ実行することにより、試料Xb1についての複数種類の還元電位においてそれぞれ実行された「測定処理」の測定結果が記録された測定値データD1から、試料Xb9についての複数種類の還元電位においてそれぞれ実行された「測定処理」の測定結果が記録された測定値データD1までの複数の測定値データD1が記憶部24に記憶される。
【0041】
次いで、電気化学センサ2aを試料Xbから引き上げ、必要に応じて各電極11〜13をケーシング10から取り外して保管用のケースに収容した後に、信号ケーブル4(
図1参照)を介して測定装置本体2bを分析装置3に接続する。続いて、電気化学測定装置2(測定装置本体2b)の操作部21を操作することにより、記憶部24に記憶されている各測定値データD1を分析装置3に送信する。
【0042】
これに応じて、分析装置3では、処理部33が、電気化学測定装置2から送信された各測定値データD1を記憶部34に記憶させる。なお、電気化学測定装置2から分析装置3への測定値データD1の送信については、電気化学測定装置2の操作部21を操作する上記の例に限定されず、分析装置3の操作部31を操作して分析装置3から電気化学測定装置2に送信要求信号を送信することで、電気化学測定装置2から分析装置3に測定値データD1を送信させることもできる。以上により、各試料Xbの分析に必要な測定値データD1が分析装置3の記憶部34に記憶される。
【0043】
次いで、分析装置3において各試料Xbについての「分析用パラメータ」を取得するための「分析処理」を実行する。なお、この「分析処理」に関しても、一例として、出願人が上記の公開公報に開示している「分析処理」と同様の手順で実施することができる。この際に、本例では、処理部33が、各試料Xb毎に、「分析用パラメータ」としての「電流効率」および「メッキ量」の2つのパラメータをM種類(Mは、2以上の自然数:一例として、−0.30V、−0.25V、−0.20V、−0.15V、−0.10V、−0.05Vおよび0.00VのM=7種類)の各還元電位毎にそれぞれ特定する。これにより、
図3に示すように、試料Xb1についての還元電位V1,V2・・VM(一例として、還元電位V1が−0.30Vで、還元電位VMが0.00Vの7種類の還元電位)において実行された「測定処理」の測定値データD1に基づく電流効率A11,A12・・A1Mおよびメッキ量B11,B12・・B1Mから、試料Xb9についての還元電位V1,V2・・VMにおいて実行された「測定処理」の測定値データD1に基づく電流効率A91,A92・・A9Mおよびメッキ量B91,B92・・B9Mがそれぞれ特定される。
【0044】
続いて、処理部33は、分析用プログラムDpに従い、特定した上記の各「電流効率」および各「メッキ量」を、対応する試料Xbにおける抑制剤や促進剤の濃度、および対応する測定値データD1の取得時における還元電位に関連付けて分析結果データD2を生成し、生成した分析結果データD2を「第1のデータ」として記憶部34に記憶させる。なお、上記の分析結果データD2(第1のデータ)については、分析対象の電解メッキ液Xaの種類や、使用している電気化学センサ2a(各電極11〜13)の種類が変わらない限り、継続的に使用することができる。したがって、この分析結果データD2の取得作業については、分析対象の電解メッキ液Xaおよび使用する電気化学センサ2aの組み合わせ毎に、任意の場所で1回だけ実行すればよい。
【0045】
次いで、処理部33は、分析用プログラムDpに従って「第1の処理」を実行する。この場合、本例の電解メッキ液分析システム1(分析装置3)では、モデル式データD0に記憶されている各モデル式のうちのいずれのモデル式が抑制剤や促進剤の濃度の特定に適したモデル式であるかを特定する処理と、どのような還元電位に対応する「分析用パラメータ」を代入したモデル式が抑制剤や促進剤の濃度の特定に適したモデル式であるかを特定する処理とを「第1の処理」としてこの順で実行する。
【0046】
具体的には、処理部33は、まず、分析結果データD2における各「分析用パラメータ」の値、および各「含有物」の濃度を示す値を、各試料Xbについて実行した「測定処理」時の各還元電位毎に、モデル式データD0における各「分析用モデル式」にそれぞれ代入して「第1のモデル式」を生成する。この際に、処理部33は、一例として、上記の各値を最小二乗法でモデル式にあてはめることによって「第1のモデル式」を生成する。
【0047】
続いて、処理部33は、生成した各「第1のモデル式」のなかから、分析結果データD2に記録されている各値との差異が最も小さい「第1のモデル式」(「予め規定された第2の基準を満たす種類の第1のモデル式」の一例)を各「含有物」毎にそれぞれ特定する。具体的には、処理部33は、分析結果データD2において各「分析用パラメータ」に関連付けられている各試料Xbにおける抑制剤の濃度をモデル式データD0における1次モデル式にそれぞれ代入した「第1のモデル式」、各試料Xbにおける抑制剤の濃度を交互作用モデル式にそれぞれ代入した「第1のモデル式」、および各試料Xbにおける抑制剤の濃度を2次モデル式にそれぞれ代入した「第1のモデル式」のなかで、R2乗値(決定係数)が最も小さい「第1のモデル式」を「第2の基準を満たす第1のモデル式」として特定する。
【0048】
これにより、各種の「第1のモデル式」のなかから、「1次モデル式」、「交互作用モデル式」および「2次モデル式」のうちのいずれかが、抑制剤の分析に適したモデル式(第1のモデル式)として特定される。また、処理部33は、「含有物」としての促進剤の分析に適したモデル式(第1のモデル式)についても、抑制剤についてのモデル式の特定と同様に特定する。
【0049】
次いで、処理部33は、上記の処理で特定した各「含有物」毎の「第1のモデル式」のなかで、いずれの還元電位を代入した「第1のモデル式」が各「含有物」の濃度の特定に適しているかを特定する。具体的には、処理部33は、各還元電位をあてはめた各「第1のモデル式」における「X
1」の項(抑制剤の濃度)に乗じる「β
n」の項を「0」としたときのp値をそれぞれ求め、求めたp値が最も小さいモデル式(「予め規定された第1の基準を満たす第1のモデル式」の一例:抑制剤の濃度である「X
1」に対する影響が最も大きいモデル式)を抑制剤の濃度の特定に適した還元電位の「第1のモデル式」として特定する。同様にして、処理部33は、各還元電位をあてはめた各「第1のモデル式」における「X
2」の項(促進剤の濃度)に乗じる「β
n」の項を「0」としたときのp値をそれぞれ求め、求めたp値が最も小さいモデル式(「予め規定された第1の基準を満たす第1のモデル式」の一例:促進剤の濃度である「X
2」に対する影響が最も大きいモデル式)を促進剤の濃度の特定に適した還元電位の「第1のモデル式」として特定する。
【0050】
以上により、「第1の処理」が完了し、「1次モデル式」、「交互作用モデル式」および「2次モデル式」のうちのいずれのモデル式が抑制剤の濃度の特定に適しているかとの事項、抑制剤の濃度の特定に際していずれの還元電位において「測定処理」を実行するのが好ましいかとの事項、「1次モデル式」、「交互作用モデル式」および「2次モデル式」のうちのいずれのモデル式が促進剤の濃度の特定に適しているかとの事項、促進剤の濃度の特定に際していずれの還元電位において「測定処理」を実行するのが好ましいかとの事項が特定される。
【0051】
なお、この「第1の処理」における特定事項についても、分析対象の電解メッキ液Xaの種類(すなわち、試料Xbの種類)、モデル式データD0のモデル式の種類、および使用している電気化学センサ2a(各電極11〜13)の種類が変わらない限り、継続的に使用することができる。したがって、この分析結果データD2の取得作業については、分析対象の電解メッキ液Xa、使用するモデル式、および使用する電気化学センサ2aの組み合わせ毎に、任意の場所で1回だけ実行すればよい。以上により、メッキ液槽内の電解メッキ液Xaについての実質的な「分析処理」の準備が完了する。
【0052】
次いで、メッキ液槽内の電解メッキ液Xaを対象とする「測定処理」を実行する。この際には、電気化学測定装置2の操作部21を操作することにより、上記の「第1の処理」において特定されたN=2個の「第1のモデル式」に関連付けられている還元電位(抑制剤の濃度の特定に適していると特定された還元電位、および促進剤の濃度の特定に適していると特定された還元電位)において還元処理を実行するように測定条件を設定する。次いで、分析対象の電解メッキ液Xa内に電気化学センサ2aにおける各電極11〜13の電極面をそれぞれ浸した後に、測定装置本体2bの操作部21を操作して、「測定処理」の開始を指示する。これに応じて、処理部23が「測定処理」を開始して測定値データD1を生成し、生成した測定値データD1を記憶部24に記憶させる。
【0053】
次いで、電気化学センサ2aを電解メッキ液Xaから引き上げ、必要に応じて各電極11〜13をケーシング10から取り外して保管用のケースに収容した後に、信号ケーブル4を介して測定装置本体2bを分析装置3に接続する。続いて、一例として、電気化学測定装置2(測定装置本体2b)の操作部21を操作することにより、記憶部24に記憶されている各測定値データD1を分析装置3に送信する。
【0054】
これに応じて、分析装置3では、処理部33が、分析用プログラムDpに従って「第2の処理」を開始する。この「第2の処理」では、処理部33は、まず、電気化学測定装置2から送信された電解メッキ液Xaについての各測定値データD1を記憶部34に記憶させる。これにより、電解メッキ液Xaの分析に必要な測定値データD1が分析装置3の記憶部34に記憶された状態となる(「第1の処理によって特定したN個の第1のモデル式に関連付けられている還元電位において電解メッキ液を対象として実行された電気化学測定処理の測定結果を取得する」との処理の一例)。
【0055】
次いで、処理部33は、電解メッキ液Xaについての測定値データD1に基づく「分析処理」を実行する。この際に、本例では、処理部33が、「分析用パラメータ」としての「電流効率」および「メッキ量」の2つのパラメータを特定する。続いて、処理部33は、特定した「電流効率」および「メッキ量」を、対応する測定値データD1の取得時における還元電位に関連付けて分析結果データD3を生成して記憶部34に記憶させる。
【0056】
次いで、処理部33は、分析結果データD3における各「分析用パラメータ」の値、およびそれらの値に関連付けられている還元電位の値を、前述した「第1の処理」において各「含有物」毎に特定したN=2個の「第1のモデル式」に対応する「分析用モデル式」に代入して「第2のモデル式」を生成する。また、処理部33は、生成した各「第2のモデル式」の連立方程式を解くことにより、「X
1(抑制剤の濃度)」および「X
2(促進剤の濃度)」を求め、求めた値を分析結果データD4として記憶部34に記憶させる。
【0057】
以上により、「第2の処理」が完了し、メッキ液槽内の電解メッキ液Xa(分析対象の電解メッキ液Xa)に含まれている抑制剤の濃度、および促進剤の濃度の特定が完了する。これにより、分析結果データD3の値(抑制剤の濃度、および促進剤の濃度)が表示部32に表示され、電解メッキ液Xaについての分析作業が完了する。
【0058】
このように、この電解メッキ液分析システム1、およびその電解メッキ液分析方法では、複数種類の試料Xbを対象として複数種類の還元電位においてそれぞれ実行された「電気化学測定処理」の測定結果が記録された測定値データD1に基づいて各試料Xb毎に特定された各還元電位毎の複数種類の「分析用パラメータ(本例では、「電流効率」および「メッキ量」)」の値が各試料Xbにおける各「含有物(本例では、「抑制剤」および「促進剤」)」の濃度および還元電位の値に関連付けられて記録された分析結果データD2(第1のデータ)における各「分析用パラメータ」の値および各「含有物」の濃度を示す値を、各試料Xbの各還元電位毎に、各「含有物」の濃度および各「分析用パラメータ」の相関関係を示す予め規定された「分析用モデル式(モデル式データD0(第2のデータ)に記録されたモデル式)」にそれぞれ代入した複数の「第1のモデル式」のなかから、各「含有物」毎に、予め規定された第1の基準を満たす「第1のモデル式」を特定する「第1の処理」と、特定したN個の「第1のモデル式」に関連付けられている還元電位において電解メッキ液Xaを対象として実行された「電気化学測定処理」の測定結果が記録された測定値データD1を取得すると共に、取得した測定値データD1に基づいて特定される複数種類の「分析用パラメータ」の値を上記のN個の「第1のモデル式」に対応する「分析用モデル式」に代入した各「第2のモデル式」に基づき、電解メッキ液XaにおけるN種類の「含有物」の濃度をそれぞれ特定する「第2の処理」とを実行する。また、この分析用プログラムDpでは、上記の「第1の処理」および「第2の処理」を電解メッキ液分析システム1における処理部33に実行させる。
【0059】
したがって、この電解メッキ液分析システム1、電解メッキ液分析方法および分析用プログラムDpによれば、電解メッキ液Xaに含まれているN種類(上記の例では、N=2種類)の「含有物」の濃度を1回の作業で特定することができるため、複数種類の「含有物」が含まれていることが多い電解メッキ液Xaを対象とする各「含有物」の濃度を短時間で特定することができる。また、「第1の処理」を1回実行しておくことで、電解メッキ液Xaに含まれている各「含有物」の濃度を特定すべきときには「第2の処理」だけを実行することで分析結果(「含有物」の濃度)を得ることができるため、電解メッキ液Xaの状態を逐次把握して、好適な条件下で対象物をメッキ処理することが可能となる。
【0060】
また、この電解メッキ液分析システム1、およびその電解メッキ液分析方法では、「第1の処理」において、モデル式データD0における複数種類の「分析用モデル式」に対応する複数種類の「第1のモデル式」のなかから、予め規定された第2の基準を満たす種類の「第1のモデル式」を特定し、特定した各「第1のモデル式」のなかから、各「含有物」毎に、第1の基準を満たす「第1のモデル式」を特定する。また、この分析用プログラムDpでは、「第1の処理」において電解メッキ液分析システム1における処理部33に上記の処理を実行させる。
【0061】
したがって、この電解メッキ液分析システム1、電解メッキ液分析方法、および分析用プログラムDpによれば、濃度を特定すべき「含有物」の特性に応じて複数種類の「分析用モデル式」を用意しておくことで、各種の「含有物」の濃度を精度よく特定することができる。
【0062】
さらに、この電解メッキ液分析システム1では、分析装置3の処理部33が、電気化学測定装置2による各試料Xbを対象とする還元電位毎の「電気化学測定処理」の測定結果に基づいて分析結果データD2を生成して記憶部34に記憶させると共に、「第2の処理」において、電気化学測定装置2による電解メッキ液Xaを対象とする「電気化学測定処理」の測定結果に基づいて複数種類の「分析用パラメータ」の値を特定して各「含有物」の濃度を特定する。したがって、この電解メッキ液分析システム1によれば、電解メッキ液分析システム1(電解メッキ液分析装置)とは別個に電気化学測定装置を備えることなく、電解メッキ液Xaに含まれる各「含有物」の濃度を好適に特定することができる。
【0063】
なお、「電解メッキ液分析装置」の構成、「電解メッキ液分析方法」の具体的な内容、および「電解メッキ液分析用プログラム」の処理手順については、上記の電解メッキ液分析システム1の構成、電解メッキ液分析システム1による電解メッキ液分析方法、および分析用プログラムDpの処理手順の例に限定されない。例えば、「電気化学測定処理」に際して、参照電極11、作用電極12および対向電極13を用いた「三極測定」を実行する構成・方法・手順を例に挙げて説明したが、このような構成・方法・手順に代えて、参照電極11および作用電極12を用いた「二極測定」を実行する構成・方法・手順を採用することもできる。
【0064】
また、N=2種類の「含有物」の濃度を特定する例について説明したが、N=3種類以上の「含有物」についての濃度を特定する構成・方法・手順を採用することもできる。また、「含有物」は、電解メッキ液Xaに添加されてしかるべき「添加剤」に限定されず、電解メッキ液Xaに混入し得る各種の「異物(一例として、メッキ液槽等を洗浄する際に使用する「洗浄液」や、メッキ対象物の表面に付着している「潤滑剤」)を「含有物」として、それらの濃度を特定することもできる。
【0065】
さらに、「試料」は、新品の電解メッキ液Xaに濃度特定対象の「含有物」を添加した液に限定されず、分析対象の電解メッキ液Xaと同じ金属イオンを含有する電解液に濃度特定対象の「含有物」を含ませた液を使用することができる。また、「各含有物の濃度の組み合わせ」として、「含有物」が「適量」、「含有物」が「不足」、および「含有物」が「過剰」の3つの量の組み合わせで試料Xbを製作した例について説明したが、このような「試料」に代えて、例えば、「含有物」が「大幅に不足」、「含有物」が「やや不足」、および「含有物」が「適量」のような量の組み合わせで製作した「試料」や、「含有物」が「大幅に過剰」、「含有物」が「やや過剰」、および「含有物」が「適量」のような量の組み合わせで製作した「試料」を使用することもできる。
【0066】
さらに、各試料Xbを対象とする「電気化学測定処理」を実行し、その測定結果が記録された測定値データD1に基づいて「各試料の各還元電位毎の分析用パラメータ」を特定する例について説明したが、「各試料の各還元電位毎の分析用パラメータ」を特定するための「測定結果」については、本願発明における「分析処理」とは別個に実行された「電気化学測定処理」の「測定結果」を使用することができる。また、「第2の処理」に先立って分析対象の電解メッキ液Xaを対象とする「電気化学測定処理」を実行し、その測定結果が記録された測定値データD1に基づいて「電解メッキ液についての分析用パラメータ」を特定する例について説明したが、この「分析用パラメータ」を特定するための「測定結果」についても、本願発明における「分析処理」とは別個に実行された「電気化学測定処理」の「測定結果」を使用することができる。これらの構成・方法を採用する場合には、「電解メッキ液分析装置」の構成要件から「測定部」を除外することができる。
【0067】
さらに、「第1の処理」において、各「第1のモデル式」のなかから、R2乗値(決定係数)が最も小さいモデル式(分析結果データD2に記録されている各値との差異が最も小さいモデル式)を「予め規定された第2の基準を満たす種類の第1のモデル式」として特定する構成・方法・手順を例に挙げて説明したが、R2乗値(決定係数)が2番目に小さいモデル式や3番目に小さいモデル式を「第2の基準を満たす種類の第1のモデル式」として特定する構成・方法・手順を採用することもできる。
【0068】
また、「第1の処理」において、各「第1のモデル式」における「X
1」の項(抑制剤の濃度)に乗じる「β
n」の項を「0」としたときのp値が最も小さいモデル式(「X
1」に対する影響が最も大きいモデル式)、および各「第1のモデル式」における「X
2」の項(促進剤の濃度)に乗じる「β
n」の項を「0」としたときのp値が最も小さいモデル式(「X
2」に対する影響が最も大きいモデル式)を「予め規定された第1の基準を満たす第1のモデル式」として特定する構成・方法・手順を例に挙げて説明したが、p値が2番目に小さいモデル式や3番目に小さいモデル式を「第1の基準を満たす第1のモデル式」として特定する構成・方法・手順を採用することもできる。
【0069】
加えて、「電気化学測定処理」を実行する電気化学測定装置2と、「分析処理(第1の処理および第2の処理)」を実行する分析装置3とを別体に構成した電解メッキ液分析システム1を例に挙げて説明したが、この電解メッキ液分析システム1における電気化学測定装置2および分析装置3を一体化した「電解メッキ液分析装置」(図示せず)を用いて「電解メッキ液分析方法」による電解メッキ液Xaの分析を実行することもできる。