【0014】
一方本発明の方法は、従来技術と同様に玄米50kgを用いた場合、従来技術と対比するため分節すると、次のような工程を採用するものである。なお、本生産ライン規模の場合、加温工程と蒸煮が連続工程となるため、加温・蒸煮の工程が10tの玄米の処理時間は2時間程となる。
<本発明の方法>
1)あらかじめ水分を10〜15質量%前後に調整した玄米を50kg用いる。
2)これに0.5〜2.0質量%/hの加水速度で緩慢な加水を行いながら、水分を16〜20質量%になるまで同様にして加水する(加水工程)。
3)加水終了後、通気条件下で調質(テンパリング)を行い、玄米を発芽させる(調質・発芽工程)。
4)テンパリング終了後、連続蒸米機等を用いて、70〜80℃で6〜10分加温する(加温工程)。
5)次いで高温の水蒸気で蒸煮し、α化度がBAP法で測定したとき9〜40%になるまで加熱して終了させる(蒸煮工程)。
6)さらに送風機により水分が15質量%になるまで通風乾燥させ、水分含量15質量%の発芽玄米50kgを得る(乾燥工程)。
【実施例】
【0021】
以下に試験例及び実施例を示し、本発明をさらに説明する。
<1.加水量及び加温時間の設定試験>
加水工程における加水量の変更、及び加温工程の追加操作が、発芽玄米の有効成分であるγ−アミノ酪酸の産生量に影響しないことを確認した。
【0022】
[試験法及び結果]
水分量14質量%の玄米320gに水を0.5〜2.0質量%/hの加水速度でスプレーしながら、玄米の米の水分値が17質量%となるまで加水した。
次いで蒸し器を用い、電磁調理器で蒸し器下段に張った水を沸騰させ、蒸し器に蓋をした状態で蒸し器内部温度が70〜80℃を維持するよう出力を調整し6分間又は10分間加温した。その後電磁調理器の出力を強めて沸騰させ、90秒間加熱し、玄米を蒸煮した。
さらに、55℃〜60℃に設定した恒温機中に、上記の玄米を広げて乾燥させ米の水分値が15質量%になるまで1〜3時間乾燥させた。
得られた発芽玄米の蒸煮直後、乾燥後のγ−アミノ酪酸含有量を常法により測定し、加水量及び加温工程が発芽玄米に及ぼす影響を評価した。
測定結果を表1及び
図1に示す。
【0023】
【表1】
【0024】
表1、
図1から明らかなように、17質量%加水直後の玄米は、γ―アミノ酪酸の含有量が4.15mgであった。この玄米を70℃で加温することでγ−アミノ酪酸は8.06〜8.81mgに増加した。蒸煮乾燥後はさらに9.78〜10.14mgに増加した。すなわち70℃で加温する工程は、調質・発芽工程を経なくともγ−アミノ酪酸を増加させることが判明した。また加水量を17質量%にすることによる発芽玄米中のγ−アミノ酪酸量は、従来法と比べ差は認められなかった。
【0025】
<2.実生産装置を用いた製造例>
特許文献5に記載の生産方法を最適化した連続生産装置(株式会社ファンケル発芽玄米 長野工場に設置)を用いて製造を行った。なお本装置は加水と調質・発芽工程を同一タンクの中で連続的に進行させる機能を有している。
原料玄米(水分含量14質量%)10tを用いて、下記の表の設定条件で操作した。
【0026】
【表2】
【0027】
設定温度70〜80℃での加温処理時間が6分の発芽玄米10t(以下「実施例1」)、加温処理時間が10分の発芽玄米10t(以下「実施例2」)を得た。
【0028】
<3.参考例>
参考例1として従来技術の製造条件を下記表3に示す。
【0029】
【表3】
【0030】
実施例1、2と同じ玄米10tを用いて発芽玄米を製造し、発芽玄米10tを得た。この参考例の方法で製造した発芽玄米を比較例とする。
実施例の10tの発芽玄米の製造時間は約19時間を必要とするが、比較例の発芽玄米の製造時間は42時間を必要とする。これは、加温工程を設けることにより、調質後の玄米の水分量を従来法より10質量%低く設定できたため、調質時間及び乾燥時間の大幅な低減が可能となった。すなわち本発明の方法を採用することで発芽玄米の製造に要する時間を半分にすることが可能である。
【0031】
<4.評価試験>
1.発芽玄米特有成分
発芽玄米で特有に増加する成分であるγ−アミノ酪酸、総イノシトール、フィチン酸、総フェルラ酸、オリザノールの含有量を測定したところ、実施例1、実施例2、比較例で大きな差は認められなかった。
実施例1、2の発芽玄米の加水直後、蒸煮直後、乾燥後のγ−アミノ酪酸含有量を常法により測定した。
測定結果を表4及び
図2に示す。
【表4】
【0032】
2.食味評価試験
実施例、比較例の発芽玄米を炊飯し、これを試験試料として専門の官能評価員6名による食味評価試験を実施した。比較例の発芽玄米に対して、実施例の発芽玄米が優れている場合、+1〜3点、同等の場合0点、劣る場合を−1〜3点とした7段階で評点付けし、平均値を求めた。結果を
図3に示す。実施例1、実施例2ともに、比較例よりも香り、食味、甘みが優れていた。特に実施例1は食味が優れていた。
【0033】
3.味覚評価
味認識装置SA402B(株式会社インテリジェントセンサーテクノロジー)を用いた評価試験を実施した。試験操作は装置のマニュアルにしたがって実施した。
(1)苦味雑味及び渋味刺激
実施例1、2、比較例の発芽玄米及び参考例2として白米を対照とし、炊飯後測定した。味認識装置による評価結果を
図4に示す。
白米は、味認識装置による評価では苦味雑味値が低く、渋味刺激値も低かった。一方発芽玄米間では、実施例1、実施例2、比較例の順で味認識装置による評価値が白米の数値にやや近づくことがわかった。この結果は、上記の官能評価試験の結果を裏付けるものであった。
【0034】
(2)におい成分量による評価
匂い識別装置FF−2A(株式会社島津製作所)を用いた試験を実施した。
実施例1、2、比較例の従来法の発芽玄米、及び参考例2の白米を対照とし、炊飯後測定した。匂い識別装置による評価結果を
図5に示す。
匂い識別装置による評価では、実施例1、2ともに比較例より参考例2の白米の数値に近づくことが示された。この結果より、本発明の方法が従来法に比べて玄米の発芽による発酵臭や異臭が低減されたことが示唆された。
【0035】
4.一般細菌数による評価
発芽玄米の食味に影響する因子として、加水・調質中の細菌数の増加が考えられている。原料玄米の一般細菌数、本発明の方法による加水・調質終了後の玄米の一般細菌数、比較例の加水・調質終了後の一般細菌数を測定した。測定結果を下記表5に示す。
【0036】
【表5】
【0037】
表5に示すように、実施例1、2の加水・調質終了後の一般細菌数は、原料玄米より減少し、比較例の約1/6であった。
以上の評価試験の結果、本発明の方法によれば食味が改善するとともに、一般細菌数を減らすことが可能であることがわかった。
【0038】
<5.劣化加速試験>
上記の<2.実生産装置を用いた製造例>に記載の発芽玄米(実施例2)及び参考例1の製造例の発芽玄米を用いて保存に伴う劣化の評価を行った。
1.保存条件
各発芽玄米300gと脱酸素剤1個をバリアナイロン袋に密封充填し、40℃湿度75%のインキュベータ中で1ヶ月、1.5ヶ月、2ヶ月間保存し、風味等に及ぼす影響を試験した。なお40℃湿度75%の保存環境下では、1ヶ月保存は室温6ヶ月保存、1.5ヶ月保存は室温9ヶ月保存、2ヶ月保存は室温12ヶ月保存に相当する。
【0039】
2.食味試験
それぞれの期間保存した実施例2の発芽玄米及び参考例1の発芽玄米を炊飯し、製造直後の参考例1の発芽玄米と比較した食味試験を行った。
食味試験は専門の官能評価員7名による従来製品との対照比較試験法で行った。評価項目は、外観、香り、食味、食感、粘り、甘味、総合の7項目とし、次の基準で評価を行った。
5:同等
4:殆ど同じ(変化はわずかであり、商品価値は十分保たれている)
3:やや差がある(変化が見られるが、商品価値は保たれている)
2:かなり差がある(明らかに変化しており、商品価値がない)
1:非常に大きな差がある(明らかに異質)
また官能評価員の外観、風味についてのコメントを付記してもらった。
【0040】
3.官能評価結果
実施例2の発芽玄米の評価結果を表6、参考例1の評価結果を表7に示す。
【0041】
【表6】
【0042】
【表7】
【0043】
いずれの試験試料も2ヶ月経過後も商品価値を維持していた。
本発明品である実施例2の発芽玄米は、40℃湿度75%2ヶ月保存(常温12ヶ月相当)しても、官能評価の評点は殆ど低下しなかった。一方参考例1の発芽玄米の評点は1ヶ月経過すると評点が著しく低下した。
参考例1の2ヶ月経過後の試験品について、官能評価員のコメントは、外観変化について多く記載されており、褐色化などの変色は、全ての評価員によって指摘されていた。また粘りの低下も指摘が多かった。
【0044】
この試験により、本発明の方法で製造された発芽玄米は、食味が向上するだけでなく保存期間を延長できることが明らかとなった。