(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記多孔質部は、前記ピストンと前記シリンダとが摺動する周面の全周にわたって設けられた環状の部材であることを特徴とする請求項1に記載のアキシャルピストン型液圧回転機。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態によるアキシャルピストン型液圧回転機を、例えば斜板式アキシャルピストン型油圧ポンプ(可変容量型斜板式油圧ポンプ)として用いる場合を例に挙げ、添付図面に従って詳細に説明する。
【0013】
図1ないし
図6は、実施の形態を示している。
図1において、斜板式アキシャルピストン型油圧ポンプ1(以下、油圧ポンプ1という)は、ケーシング2、回転軸4、シリンダブロック5、複数のシリンダ6、複数のピストン7、複数のシュー8、リテーナ9、弁板12、斜板13、クレードル14、傾転アクチュエータ15を含んで構成されている。油圧ポンプ1は、例えば油圧ショベルの原動機(駆動源となるエンジンや電動モータ)によって回転駆動され、タンク内から吸込んだ作動油を高圧の圧油として吐出する。
【0014】
ケーシング2は、中空に形成され、油圧ポンプ1の外殻を構成している。ケーシング2は、有底筒状のケーシング本体2Aと、ケーシング本体2Aの開口を閉塞したフロントケーシング2Bとから構成されている。ケーシング2の一側(
図1の左側)に位置するフロントケーシング2Bには、クレードル14が斜板13の裏面側に対向して設けられている。
【0015】
一方、ケーシング本体2Aの他側には、
図1中に破線で示すように、一対の給排通路3A,3Bが設けられている。給排通路3A,3Bのうち一方の給排通路3Aは、低圧側の吸込通路となってタンク(図示せず)に接続され、他方の給排通路3Bは、吐出通路となって高圧側の吐出配管(図示せず)に接続される。
【0016】
回転軸4は、ケーシング2内に回転可能に設けられている。即ち、回転軸4は、ケーシング2内を軸方向に延び、ケーシング本体2Aとフロントケーシング2Bとにそれぞれ軸受を介して回転可能に支持されている。例えば、回転軸4の一端側は、フロントケーシング2Bから軸方向に突出しており、エンジン等の原動機が動力伝達機構(いずれも図示せず)等を介して連結される。
【0017】
シリンダブロック5は、回転軸4と一体的に回転するようにケーシング2内に設けられている。シリンダブロック5には、その周方向に離間して軸方向に延びる複数のシリンダ6を有している。シリンダブロック5の各シリンダ6には、弁板12の給排ポート12A,12Bと間欠的に連通するシリンダポート6Aが形成されている。
図2および
図3に示すように、シリンダ6の内周面とシリンダポート6Aとの接続部は、角部となる段差縁6Bとなっている。即ち、シリンダ6は、一方(奥側)の角部となる段差縁6Bと、他方(開口側)の角部となる開口縁6Cとを有している。
【0018】
複数のピストン7は、シリンダブロック5の各シリンダ6内にそれぞれ往復動可能(摺動可能)に挿嵌されている。ピストン7は、シリンダブロック5の回転に伴ってシリンダ6内を上死点と下死点との間で往復動し、吸入行程と吐出行程とを繰返す。このため、斜板13には、高圧側の給排ポート12Bに連通している各シリンダ6内の圧力が、ピストン7を介して作用する。
【0019】
図4に示すように、ピストン7は、全体として円筒状(または円柱状)のロッド(棒体)として形成されている。ピストン7の先端側(
図4の右端側)は、平坦面7Aとなっている。一方、ピストン7の基端側(
図4の左端側)は、シュー8の球形部8Aが取付けられる球形凹部7Bとなっている。ピストン7は、外径寸法が一定の本体部7Cと、基端側に向けて外径寸法が小さくなるように傾斜した円錐部7Dとを含んで構成されている。
【0020】
即ち、ピストン7は、
図4中の破線Hを境として右側(先端側)が本体部7Cとなり左側(基端側)が円錐部7Dとなっている。この場合、本体部7Cの外周面と円錐部7Dの外周面は、角部となる境界縁7Eによって接続されている。即ち、ピストン7は、一方(先端側)の角部となる先端縁7Gと、他方(基端側)の角部となる境界縁7Eとを有している。さらに、ピストン7には、平坦面7Aと球形凹部7Bとの間を貫通するように軸線方向に延びる給油孔7Fが設けられている。
【0021】
複数のシュー8は、各シリンダ6から突出する各ピストン7の突出端側(基端側)に、それぞれ揺動可能に装着されている。この場合、各シュー8は、球面軸受を構成する球形部8Aを有しており、各シュー8の球形部8Aは、ピストン7の球形凹部7Bに取付けられている。シュー8は、斜板13の平滑面13Aに対しピストン7からの押付力(油圧力)により押付けられ、この状態でリテーナ9等を介して保持される。各シュー8は、この状態で回転軸4、シリンダブロック5およびピストン7と一緒に回転することにより、リング状の円軌跡を描くように斜板13の平滑面13A上を摺動変位する。
【0022】
リテーナ9は、環状に形成され、各シュー8を斜板13に対して保持している。即ち、リテーナ9は、斜板13の平滑面13Aに向けてシュー8をそれぞれ押圧、保持し、斜板13の平滑面13A上で各シュー8が環状軌跡を描くように摺動変位するのを補償する。この場合、リテーナ9は、ばね10により球状ガイド11を介して斜板13(平滑面13A)に向けて付勢されている。
【0023】
弁板12は、ケーシング2内に位置してケーシング本体2Aの他側に固定して設けられている。即ち、弁板12は、ケーシング本体2Aとシリンダブロック5との間に設けられている。弁板12は、回転軸4と一体に回転するシリンダブロック5を、ケーシング本体2Aと一緒に回転可能に支持している。この状態で、弁板12は、シリンダブロック5の端面に摺接している。
【0024】
弁板12には、眉形状をなす一対の給排ポート12A,12Bが形成されている。給排ポート12A,12Bは、ケーシング本体2Aの給排通路3A,3Bと連通している。弁板12の給排ポート12A,12Bは、シリンダブロック5の回転時に各シリンダ6のシリンダポート6Aと間欠的に連通する。このとき、各シリンダ6内を往復するピストン7は、その吸入行程で一方の給排通路3A側から給排ポート12Aを介して各シリンダ6内に作動油を吸込み、吐出行程では各シリンダ6内で高圧状態となった圧油を給排ポート12Bを介して他方の給排通路3Bから吐出させる。
【0025】
斜板13は、ケーシング2内にクレードル14を介して傾転可能に設けられている。斜板13は、
図1中に示す矢示A,B方向に、傾転アクチュエータ15(傾転ピストン15C)を用いて傾転駆動される。油圧ポンプ1の吐出容量(圧油の吐出流量)は、斜板13の傾転角に応じて可変に制御される。斜板13の表面側は、各シュー8を摺動可能に案内する平滑面13Aとなっている。これに対して、斜板13の裏面側は、クレードル14に傾転可能に支持される。
【0026】
クレードル14は、回転軸4の周囲に位置してケーシング2(より具体的には、フロントケーシング2B)に固定して設けられている。クレードル14は、ケーシング2の斜板支持部(斜板支持体)となるものである。クレードル14は、斜板13を、
図1中の矢示A,B方向に傾転(摺動)可能に支持する。
【0027】
傾転アクチュエータ15は、斜板13を傾転駆動するものである。傾転アクチュエータ15は、ケーシング2に設けられている。この場合、傾転アクチュエータ15は、シリンダブロック5の径方向外側に位置してケーシング本体2Aに形成されたシリンダ穴15Aと、シリンダ穴15A内に摺動可能に挿嵌され、シリンダ穴15Aとの間に液圧室15Bを形成した傾転ピストン15Cとを含んで構成されている。そして、傾転アクチュエータ15は、ケーシング本体2Aに対しシリンダブロック5の径方向で互いに対向する位置に配設されている。
【0028】
傾転アクチュエータ15は、傾転ピストン15Cによって斜板13を矢示A,B方向に傾転駆動する。即ち、傾転アクチュエータ15の液圧室15Bには、外部から傾転制御圧が給排される。
【0029】
この傾転制御圧により、例えば、一方(例えば、
図1の上方)の傾転アクチュエータ15の傾転ピストン15Cがシリンダ穴15A内から伸長し、他方(例えば、
図1の下方)の傾転アクチュエータ15の傾転ピストン15Cがシリンダ穴15A内に縮小するときには、斜板13が矢示A方向(即ち、傾転角が大きくなる正方向)に傾転駆動される。
【0030】
これに対して、他方(例えば、
図1の下方)の傾転アクチュエータ15の傾転ピストン15Cがシリンダ穴15A内から伸長し、一方(例えば、
図1の上方)の傾転アクチュエータ15の傾転ピストン15Cがシリンダ穴15A内へと縮小するときには、斜板13が矢示B方向(即ち、傾転角が小さくなる逆方向)に傾転駆動される。
【0031】
ところで、ピストン7がシリンダ6内で往復運動をするとき、ピストン7とシリンダ6との摺動部の隙間には、ピストン7とシリンダ6の相対運動と油(作動油)の粘性とによって生じるクエット流れと、シリンダ6内の圧力とケーシング2内の圧力との圧力差により生じる流れとによって、油膜が形成される。そして、この油膜が摺動部を潤滑することで、ピストン7とシリンダ6との焼き付きおよびかじりを抑制している。しかし、摺動部の隙間に油膜が形成されないと、ピストン7の摺動部の金属とシリンダ6の摺動部の金属とが高い面圧で接触し、焼き付きおよびかじりが発生する可能性がある。特に、アキシャルピストン型液圧回転機は、シリンダ6内の圧力とケーシング2内の圧力との差が小さくなったときに、圧力差による油の流れが生じにくくなるため、油膜が形成されにくい特性がある。
【0032】
これに対して、例えば、前述の特許文献1の油圧ポンプ・モータは、ピストンの外周面に油溝が設けられている。即ち、油溝を油溜とすることにより、油膜を形成し易くしている。しかし、ピストンの外周部に油溝を設けることは、ピストンとシリンダとの摺動部の隙間が広がるため、ピストンとシリンダとの隙間からの油の漏出、即ち、シリンダ内からの作動流体の漏出が増大する。この漏出した油は、仕事を行わないため、油の漏出量が増大することは、液圧回転機の動力変換効率の低下(油圧ポンプであれば、ポンプ効率の低下)につながり、効率の面から好ましくない。
【0033】
一方、前述の特許文献2の油圧ポンプは、ピストンの外周の全体を多孔質の金属としている。多孔質の金属は、内部の空孔に油を溜めることができるため、この油によりピストンとシリンダとの摺動部の隙間に油膜を保持することができる。しかし、多孔質の金属は、内部が密でないため、機械的な強度が低い。
【0034】
ここで、
図5は、油圧ポンプ1が動作しているときのピストン7を示している。この
図5に誇張して示すように、ピストン7は、シリンダ6内で往復運動するとき、シリンダ6との隙間分傾いている。この傾きは、シュー8が斜板13との摺動抵抗によって引っ張られる力、ピストン7とシリンダ6の摺動面に働く力等の作用に基づくものである。このピストン7の傾きの影響により、ピストン7とシリンダ6とのどちらかが角部で接触し、当該接触部での接触面圧が高い状態で摺動することになる。
【0035】
即ち、
図5に示すように、ピストン7の傾きによって、ピストン7の角部(ピストン7の先端縁7G、および、境界縁7E)がシリンダ6の内周面と接触し、当該接触部位での接触面圧が高くなる可能性がある。また、ピストン7の傾きによっては、シリンダ6の角部(シリンダ6の開口縁6C、および、シリンダポート6Aとの段差縁6B)がピストン7の外周面と接触し、当該接触部位での接触面圧が高くなる可能性がある。このため、シリンダ6の内周面のうちピストンの角部7E,7Gと接触する部位、および、ピストンの外周面のうちシリンダ6の角部6B,6Cと接触する部位は、接触面圧の高い摺動に耐えうる強度を確保しなければ、摩耗が増大する傾向となる。即ち、特許文献2のように、ピストン外周部全体を多孔質の金属とした場合、角部と接触する部位の摩耗が増大するおそれがある。
【0036】
これに対して、実施の形態では、シリンダ6とピストン7とが互いに摺動する周面、即ち、シリンダ6の内周面とピストン7の外周面には、多孔質の材料からなる多孔質部21,22が設けられている。この場合、シリンダ6の内周面には、ピストン7が上死点と下死点との間で往復動中に相手側周面(ピストン7の外周面)と常時摺接し続ける範囲(Cの範囲)に、多孔質部21が設けられている。また、ピストン7の外周面には、ピストン7が上死点と下死点との間で往復動中に相手側周面(シリンダ6の内周面)と常時摺接し続ける範囲(Fの範囲)に、多孔質部22が設けられている。なお、常時摺接し続ける範囲は、例えば、斜板13を最も傾転させた状態(傾転角最大)での往復動中に常時摺接し続ける範囲(C,F)に対応する。
【0037】
即ち、
図2に示すように、シリンダ6の内周面のうちピストン7と高面圧で摺動し得る範囲は、ピストン7が上死点にあるときと下死点にあるときとの位置関係から幾何学的に求めることができる。また、ピストン7の外周面のうちシリンダ6と高面圧で摺動し得る範囲も、ピストン7が上死点にあるときと下死点にあるときとの位置関係から幾何学的に求めることができる。なお、
図2では、上側のピストン7の位置が下死点に対応し、下側のピストン7の位置が上死点に対応する。
【0038】
図2および
図3に示すように、シリンダ6の内周面のうち「A」の範囲は、ピストン7の往復動中に、ピストン7の一方(先端側)の角部となる先端縁7Gと接触する範囲である。シリンダ6の内周面のうち「B」の範囲は、ピストン7の往復動中に、ピストン7の他方(基端側)の角部となる境界縁7Eと接触する範囲である。これら「A」の範囲および「B」の範囲は、シリンダ6の内周面のうちピストン7と高面圧で摺動し得る範囲となる。即ち、シリンダ6の内周面のうち「A」の範囲および「B」の範囲は、ピストン7が上死点と下死点との間で往復動中に、ピストン7の外周面が常時摺接し続けない範囲である。
【0039】
これに対して、シリンダ6の内周面のうち「C」の範囲は、ピストン7の往復動中に、ピストン7の外周側の角部となる先端縁7Gおよび境界縁7Eの両方と接触しない範囲である。この「C」の範囲は、シリンダ6の内周面のうちピストン7と高面圧で摺動し得ない範囲となる。即ち、「C」の範囲は、シリンダ6の内周面のうちピストン7が上死点と下死点との間で往復動中にピストン7の外周面が常時摺接し続ける範囲となる。実施の形態では、シリンダ6の内周面のうち「C」の範囲にのみ多孔質部21が設けられている。
【0040】
一方、
図2および
図4に示すように、ピストン7の外周面のうち「D」の範囲は、ピストン7の往復動中に、シリンダ6の一方(奥側)の角部となる段差縁6Bと接触する範囲である。ピストン7の外周面のうち「E」の範囲は、ピストン7の往復動中に、シリンダ6の他方(開口側)の角部となる開口縁6Cと接触する範囲である。これら「D」の範囲および「E」の範囲は、ピストン7の外周面のうちシリンダ6と高面圧で摺動し得る範囲となる。即ち、ピストン7の外周面のうち「D」の範囲および「E」の範囲は、ピストン7が上死点と下死点との間で往復動中に、シリンダ6の内周面が常時摺接し続けない範囲である。
【0041】
これに対して、ピストン7の外周面のうち「F」の範囲は、ピストン7の往復動中に、シリンダ6の外周側の角部となる段差縁6Bおよび開口縁6Cの両方と接触しない範囲である。この「F」の範囲は、ピストン7の外周面のうちシリンダ6と高面圧で摺動し得ない範囲となる。即ち、「F」の範囲は、ピストン7の外周面のうちピストン7が上死点と下死点との間で往復動中にシリンダ6の内周面が常時摺接し続ける範囲となる。実施の形態では、ピストン7の外周面のうち「F」の範囲にのみ多孔質部22が設けられている。
【0042】
多孔質部21,22は、例えば、粉末材料の焼結や溶射によって得ることができる。例えば、ピストン7の外周面のうち「F」の範囲には、「D」および「E」の範囲の外周面よりも小径の外周面となった環状凹部7Hを予め形成する。ピストン7の多孔質部22は、例えば、ピストン7の環状凹部7H内に粉末材料を焼結や溶射によって満たすことにより形成できる。この場合、環状凹部7Hの深さ、即ち、多孔質部22の厚さは、例えば、500μm(0.5mm)以上とすることができる。環状凹部7Hの深さ(=多孔質部22の厚さ)は、例えば、多孔質部22に油を十分に保持することができ、かつ、ピストン7の強度を確保できる(強度に影響がない)範囲で設定することができる。
【0043】
シリンダ6の多孔質部21についても、同様である。例えば、シリンダ6の内周面のうち「C」の範囲には、「A」および「B」の範囲の内周面よりも大径の内周面となった環状凹部6Dを予め形成する。シリンダ6の多孔質部21も、例えば、シリンダ6の環状凹部6D内に粉末材料を焼結や溶射によって満たすことにより形成できる。この場合、環状凹部6Dの深さ、即ち、多孔質部21の厚さは、例えば、500μm(0.5mm)以上とすることができる。環状凹部6Dの深さ(=多孔質部21の厚さ)は、例えば、多孔質部21に油を十分に保持することができ、かつ、シリンダ6の強度を確保できる(強度に影響がない)範囲で設定することができる。
【0044】
多孔質部21,22は、例えば、油圧ポンプ1の作動流体の圧力に耐えられ、かつ、作動流体によって変質しない材料とすることができる。また、多孔質部21,22は、シリンダ6およびピストン7と熱膨張率が近い(より好ましくは、同等の)材料とすることができる。例えば、多孔質部21,22は、溶射被膜や焼結金属として用いることが可能な鉄系、銅系、アルミニウム合金系の材料により形成することができる。また、油および熱に対して変質しにくい材料であれば、例えば、合成樹脂等の樹脂材料(高分子化合物)を用いてもよい。
【0045】
図6に誇張して示すように、多孔質部22は、その内部に多数の空孔23を有しており、各空孔23の内部には、油が浸透する。多孔質部21についても同様である。この場合、多孔質部21,22に占める空孔23の割合は、例えば、25〜50%程度であり、空孔23の大きさは、数十μmから数百μm程度となる。
図6に示すように、ピストン7とシリンダ6の相対運動と油の粘性とによってクエット流れが発生したときに、多孔質部22の空孔23の内部に浸透した油が、ピストン7とシリンダ6との摺動部の隙間に流れ込む。これにより、ピストン7とシリンダ6の摺動面に、油膜が形成され易くなり、焼き付きおよびかじりを抑制することができる。これは、シリンダ6内の圧力が低く、このシリンダ6内の圧力とケーシング2内の圧力との圧力差が小さいときの油膜の形成に特に有効である。
【0046】
いずれにしても、実施の形態では、シリンダ6の内周面のうち、ピストン7の先端側となる一方の角部(先端縁7G)と接触する範囲をAとし、ピストン7の基端側となる他方の角部(境界縁7E)と接触する範囲をBとし、範囲Aと範囲Bとの間の範囲をCとしている。この場合に、シリンダ6の内周面には、範囲Cに多孔質部21を設け、範囲Aと範囲Bとには多孔質部21を設けていない。また、ピストン7の外周面のうち、シリンダ6の奥側となる一方の角部(段差縁6B)と接触する範囲をDとし、シリンダ6の開口側となる他方の角部(開口縁6C)と接触する範囲をEとし、範囲Dと範囲Eとの間の範囲をFとしている。この場合に、ピストン7の外周面には、範囲Fに多孔質部22を設け、範囲Dと範囲Eとには多孔質部22を設けていない。
【0047】
この場合、多孔質部21,22は、ピストン7とシリンダ6とが摺動する周面の全周にわたって設けられている。即ち、シリンダ6の多孔質部21は、環状に形成された部材(円環状部材)であり、シリンダ6の内周面の周方向に全体にわたって設けられている。ピストン7の多孔質部22も、環状に形成された部材(円環状部材)であり、ピストン7の外周面の周方向に全体にわたって設けられている。
【0048】
また、多孔質部21,22の周面および多孔質部21,22と隣り合う隣接部24A,24B,25A,25Bの周面は、連続した円周面としている。即ち、
図3に示すように、シリンダ6の内周面のうち「A」の範囲を、多孔質部21と隣り合う隣接部24Aとし、シリンダ6の内周面のうち「B」の範囲を、隣接部24Bとする。また、
図4に示すように、ピストン7の外周面のうち「D」の範囲を、多孔質部22と隣り合う隣接部25Aとし、ピストン7の外周面のうち「E」の範囲を、隣接部25Bとする。
【0049】
この場合、シリンダ6の多孔質部21の内周面と隣接部24A,24Bの内周面は、滑らかに連続した周面としている。これと共に、多孔質部21および隣接部24A,24Bは、溝(油溝)等の凹凸のない一様な連続した円周面としている。即ち、シリンダ6の多孔質部21の内径は、シリンダ6の内径と一様である。換言すれば、シリンダ6の内周面は、多孔質部21の内周面を含み、溝(油溝)等の凹凸のない平滑な内周面(凹凸のない一様な形状)としている。
【0050】
また、ピストン7の多孔質部22の外周面と隣接部25A,25Bの外周面も、滑らかに連続した周面としている。これと共に、多孔質部22および隣接部25A,25Bは、溝(油溝)等の凹凸のない一様な連続した円周面としている。即ち、ピストン7の多孔質部22の外径は、ピストン7の外径と一様である。換言すれば、ピストン7の外周面は、多孔質部22の外周面を含み、溝(油溝)等の凹凸のない平滑な外周面(凹凸のない一様な形状)としている。
【0051】
なお、実施の形態では、シリンダ6の多孔質部21は、シリンダ6の軸線方向の範囲Cの全体に設けられている。また、ピストン7の多孔質部22は、ピストン7の軸線方向の範囲Fの全体に設けられている。しかし、これに限らず、例えば、多孔質部21,22の軸方向寸法を、相手側周面と常時摺接し続ける範囲C,Fよりも小さくしてもよい。即ち、シリンダ6の多孔質部21は、シリンダ6の範囲Cの一部、例えば、範囲Cの80%〜99%(より好ましくは、95〜98%)に設けてもよい。また、ピストン7の多孔質部22も、ピストン7の範囲Fの一部、例えば、範囲Fの80%〜99%(より好ましくは、95〜98%)に設けてもよい。要するに、多孔質部21,22は、ピストン7が往復動中に相手側周面と常時摺接し続ける範囲C,Fのうち、少なくとも一部(例えば、80%〜100%、より好ましくは、90%〜100%)に設けることができる。
【0052】
即ち、シリンダ6およびピストン7は、油圧ポンプ1の作動時に弾性変形する。これに対して、シリンダ6の多孔質部21の範囲Cは、シリンダ6およびピストン7が弾性変形しない状態でピストン7を往復動させたときのピストン7の外周面と常時摺接し続ける範囲Cに対応する。そこで、この範囲Cの長さをL
Cとした場合、多孔質部21の軸方向長さL
21は、L
Cの80%〜99%(L
21=L
C×0.80〜0.99)、より好ましくは、L
Cの95%〜98%(L
21=L
C×0.95〜0.98)とすることができる。
【0053】
また、ピストン7の多孔質部22の範囲Fは、シリンダ6およびピストン7が弾性変形しない状態でピストン7を往復動させたときのシリンダ6の内周面と常時摺接し続ける範囲Fに対応する。そこで、この範囲Fの長さをL
Fとした場合、多孔質部22の軸方向長さL
22は、L
Fの80%〜99%(L
22=L
F×0.80〜0.99)、より好ましくは、L
Fの95%〜98%(L
22=L
F×0.95〜0.98)とすることができる。
【0054】
これにより、油圧ポンプ1の作動時の弾性変形に拘わらず、多孔質部21,22の接触面圧が高くなること(弾性変形に伴って多孔質部21,22に角部が接触してしまうこと)を抑制できる。即ち、多孔質部21,22の軸方向寸法は、範囲C,Fの全体よりも少し短く(狭く)し、弾性変形したときにも角部が多孔質部21,22に接触しないような余裕をもたせてもよい。
【0055】
実施の形態による油圧ポンプ1は、上述の如き構成を有するもので、次に、その動作について説明する。
【0056】
油圧ポンプ1は、回転軸4(シリンダブロック5)の回転運動を油の運動に変換するものである。即ち、エンジン等の原動機によって回転軸4を回転駆動すると、ケーシング2内でシリンダブロック5が回転軸4と一体に回転する。これにより、斜板13の表面(平滑面13A)に沿って複数のシュー8がリング状軌跡を描くように摺動変位し、これに伴って夫々のピストン7が各シリンダ6内で往復動を繰返す。
【0057】
このとき、シリンダブロック5が1回転する間に、各ピストン7はシリンダ6内を上死点から下死点に向けて摺動変位する吸入行程と、下死点から上死点に向けて摺動変位する吐出行程とを繰返す。そして、ピストン7の吸入行程では、例えば給排通路(吸込通路)3A側から弁板12の給排ポート(吸込ポート)12A、シリンダポート6Aを介してシリンダ6内に作動油を吸込み、ピストン7の吐出行程では、ピストン7が各シリンダ6内の油液を高圧の圧油として、これをシリンダポート6A、弁板12の給排ポート(吐出ポート)12Bを介して給排通路(吐出通路)3B側から吐出する。
【0058】
また、ピストン7が往復動するとき、ピストン7とシリンダ6の相対運動と油の粘性とにより生じるクエット流れによって、多孔質部21,22の空孔23の内部に浸透(保持)した油がピストン7とシリンダ6との摺動部の隙間に流れ込む。これにより、ピストン7とシリンダ6の摺動面に油膜を形成し易くできる。
【0059】
即ち、実施の形態によれば、ピストン7とシリンダ6とが互いに摺動する周面には、多孔質部21,22が設けられている。このため、多孔質部21,22の内部の空孔23に、潤滑のための油を保持(貯溜)することができる。これにより、ピストン7とシリンダ6との摺動部の隙間に油膜を確保することができ、焼き付きおよびかじりを抑制することができる。一方、多孔質部21,22を設ける部位は、ピストン7が上死点と下死点との間で往復動中にシリンダ周面と常時摺接し続ける範囲C,Fとしている。この範囲C,Fは、ピストン7の角部(境界縁7E、先端縁7G)またはシリンダ6の角部(段差縁6B、開口縁6C)が接触しない部位に対応する。このため、多孔質部21,22の接触面圧を低くすることができ、多孔質部21,22の強度が低くても、摩耗を抑制することができる。これにより、ピストン7とシリンダ6との摺動部の隙間の油膜を確保することと摩耗を抑制することとを両立できる。しかも、多孔質部21,22の接触面圧を低くできる分、より強度の低い多孔質部を採用することもできる。
【0060】
実施の形態によれば、多孔質部21,22は、ピストン7とシリンダ6とが摺動する周面の全周(周方向の全体)にわたって設けられた環状の部材としている。このため、ピストン7とシリンダ6との摺動部の隙間の全周にわたって油膜を確保することができる。即ち、摺動部の全周にわたって均一に油膜を確保することができる。これにより、この面からも、焼き付きおよびかじりを抑制することができる。
【0061】
実施の形態によれば、多孔質部21,22の周面および多孔質部21,22と隣り合う隣接部24A,24B,25A,25Bの周面は、連続した円周面としている。即ち、多孔質部21の周面(内周面)と隣接部24A,24Bの周面(内周面)、および、多孔質部22の周面(外周面)と隣接部25A,25Bの周面(外周面)とを滑らかに連続した周面としている。これと共に、多孔質部21,22および隣接部24A,24B,25A,25Bを、溝(油溝)等の凹凸のない一様な連続した円周面としている。このため、例えば、引用文献1のようなピストンの外周面に油溝を設ける構成と比較して、シリンダ6内の油(作動流体)がピストン7の外周面とシリンダ6の内周面との隙間から漏れ出ることを抑制できる。即ち、ピストン7とシリンダ6との隙間からケーシング2側に漏れ出る油(作動流体)の量を抑制することができ、液圧回転機である油圧ポンプ1の動力変換効率を確保できる(動力変換効率の良好にできる)。
【0062】
実施の形態によれば、多孔質部22は、ピストン7の外周面に設けられている。このため、ピストン7の外周面に設けられた多孔質部22により、ピストン7とシリンダ6との摺動部の隙間の油膜を確保することができる。これに加えて、実施の形態によれば、多孔質部21は、シリンダ6の内周面に設けられている。このため、シリンダ6の内周面に設けられた多孔質部21により、ピストン7とシリンダ6との摺動部の隙間の油膜を確保することができる。
【0063】
なお、実施の形態では、ピストン7の本体部7Cを、軸方向のいずれの場所でも外径寸法が一定の円柱体(円筒体)とした場合を例に挙げて説明した。しかし、これに限らず、ピストンを、例えば、軸方向に進むに従って外径寸法が漸次(徐々に)拡径または縮径する形状(例えば、太鼓形状、樽形状、円錐形状)としてもよい。
【0064】
実施の形態では、斜板式アキシャルピストン型油圧ポンプ1のピストン7に多孔質部22を設ける構成とした場合を例に挙げて説明した。しかし、これに限らず、例えば、
図7に示す第1の変形例のように、斜軸式アキシャルピストン型油圧ポンプのピストン31に多孔質部32を設けてもよい。この場合も、多孔質部32は、ピストン31の外周面のうち、ピストン31が上死点と下死点との間で往復動中に相手側周面(シリンダの内周面)と常時摺接し続ける範囲に設けることができる。なお、
図7中、31Aは平坦面であり、31Bは一方(先端側)の角部となる先端縁であり、31Cは他方(基端側)の角部となる基端縁である。また、ピストン31には、球形部31Dが設けられている。
【0065】
実施の形態では、斜板式アキシャルピストン型油圧ポンプ1のシリンダ6に多孔質部21を設ける構成とした場合を例に挙げて説明した。しかし、これに限らず、例えば、
図8に示す第2の変形例のように、斜軸式アキシャルピストン型油圧ポンプのシリンダブロック41のシリンダ42に多孔質部43を設けてもよい。この場合も、多孔質部43は、シリンダ42の外周面のうち、ピストンが上死点と下死点との間で往復動中に相手側周面(ピストンの外周面)と常時摺接し続ける範囲に設けることができる。なお、
図8中、42Aはシリンダポートであり、42Bは一方(奥側)の角部となる段差縁であり、42Cは他方(開口側)の角部となる開口縁である。
【0066】
実施の形態では、ピストン7の外周面に環状凹部7Hを形成し、この環状凹部7H内に粉末材料を焼結や溶射によって満たすことにより、ピストン7の外周面に多孔質部22を設ける構成とした場合を例に挙げて説明した。しかし、これに限らず、例えば、
図9に示す第3の変形例のように、ピストン51の先端側から中間部にわたり他の部分よりも小径の小径部52を設けると共に、小径部52の先端側に雄ねじ部53を設ける。そして、予め焼結等により環状に形成した多孔質部54を小径部52の中間部に嵌合し、さらに、雄ねじ部53に抑え部材55を螺着することにより、ピストン51の外周面に多孔質部54を設けてもよい。この場合、例えば、抑え部材55の端面には、抑え部材55を雄ねじ部53に螺合するときに用いる工具、即ち、抑え部材55を回転させるための工具を係合する工具係合穴56を設けることができる。このことは、第1の変形例についても同様である。
【0067】
実施の形態では、シリンダ6の内周面とピストン7の外周面との両方に多孔質部21,22を設ける構成とした場合を例に挙げて説明した。しかし、これに限らず、シリンダ6の内周面とピストン7の外周面とのうちの一方にのみ設ける構成としてもよい。例えば、
図10に示す第4の変形例のように、ピストン7の外周面に多孔質部22を設け、シリンダ6の内周面には多孔質部を設けない構成としてもよい。また、例えば、
図11に示す第5の変形例のように、シリンダ6の内周面に多孔質部21を設け、ピストン7の外周面には多孔質部を設けない構成としてもよい。要するに、多孔質部は、シリンダの内周面とピストンの外周面とのうちの少なくとも一方に設けることができる。このことは、第1の変形例、第2の変形例の斜軸式アキシャルピストン型油圧ポンプについても同様である。
【0068】
上述した実施の形態では、2個の傾転アクチュエータ15により、斜板13を傾転動作させる構成とした場合を例に挙げて説明した。しかし、これに限らず、例えば1個の傾転アクチュエータにより傾転レバーを介して斜板を傾転動作させる構成としてもよい。このことは、第4の変形例、第5の変形例についても同様である。
【0069】
上述した実施の形態では、斜板13が一方に傾く片傾転の斜板式油圧ポンプ1を例に挙げて説明した。しかし、これに限らず、例えば、斜板が傾転角0を挟んで両方に傾く両傾転の斜板式油圧ポンプに用いてもよい。このことは、第4の変形例、第5の変形例についても同様である。
【0070】
上述した実施の形態では、斜板13の傾転角を可変とした可変容量型の斜板式油圧ポンプ1を例に挙げて説明した。しかし、これに限らず、例えば、斜板の傾転角が一定(固定)の固定容量型の斜板式油圧ポンプに用いてもよい。このことは、第4の変形例、第5の変形例についても同様である。また、斜軸式アキシャルピストン型油圧ポンプについても同様であり、可変容量型であるか固定容量型であるかを問わず用いることができる。
【0071】
上述した実施の形態では、液圧回転機として、シリンダブロック5の回転運動を油の運動に変換する油圧ポンプ1を例に挙げて説明した。しかし、これに限らず、例えば、油の運動をシリンダブロックの回転に変換する油圧モータ等、他の液圧回転機として用いてもよい。例えば、油圧モータの場合は、油圧ポンプ等の油圧源から弁板を介してシリンダブロック内に作動油を流入、流出させる。これにより、ピストンを斜板に沿って往復動させ、シリンダブロックの回転運動に変換させることで、油の運動を回転軸の回転運動に変換することができる。このことは、第1の変形例、第2の変形例の斜軸式アキシャルピストン型液圧回転機についても同様である。
【0072】
上述した実施の形態および各変形例では、油圧ポンプ1を油圧ショベルに適用する場合を例に挙げて説明した。しかし、これに限らず、例えば、油圧クレーン、ホイールローダ等の油圧ショベル以外の建設機械に適用してもよいものである。さらに、建設機械に限定されず、産業機械や一般機械に組み込まれる油圧ポンプ、油圧モータ等、各種の機械機器に用いられるアキシャルピストン型液圧回転機として広く適用できるものである。さらに、実施の形態および各変形例は例示であり、異なる実施の形態および変形例で示した構成の部分的な置換または組み合わせが可能であることは言うまでもない。