特許第6777978号(P6777978)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6777978-発泡成形体の製造方法 図000007
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6777978
(24)【登録日】2020年10月13日
(45)【発行日】2020年10月28日
(54)【発明の名称】発泡成形体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 45/56 20060101AFI20201019BHJP
   B29C 45/70 20060101ALI20201019BHJP
   B29C 45/76 20060101ALI20201019BHJP
   B29C 45/00 20060101ALI20201019BHJP
   B29C 44/00 20060101ALI20201019BHJP
【FI】
   B29C45/56
   B29C45/70
   B29C45/76
   B29C45/00
   B29C44/00 D
【請求項の数】8
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2015-198100(P2015-198100)
(22)【出願日】2015年10月6日
(65)【公開番号】特開2017-71088(P2017-71088A)
(43)【公開日】2017年4月13日
【審査請求日】2018年9月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000188951
【氏名又は名称】松本油脂製薬株式会社
(72)【発明者】
【氏名】喜夛 裕
(72)【発明者】
【氏名】今尾 聖太郎
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 良貢
【審査官】 山本 雄一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−197684(JP,A)
【文献】 特開2010−126577(JP,A)
【文献】 特開2009−202527(JP,A)
【文献】 特開2008−254302(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 45/00−45/84
B29C 44/00−44/60
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
射出成形により発泡成形体を製造する方法であって、
発泡成分と樹脂成分とを、加熱シリンダー内で溶融混練して溶融混合物を作製する溶融混練工程と、
前記溶融混合物を金型内のキャビティ空間に射出充填する射出充填工程と、
前記溶融混合物の射出充填完了後に前記金型を開くことにより前記キャビティ空間を拡大して前記溶融混合物を発泡させる発泡工程とを有し、
前記発泡成分が、熱可塑性樹脂からなる外殻と、それに内包され且つ加熱することによって気化する膨張剤とから構成される熱膨張性微小球を必須に含み、
前記溶融混合物の射出充填完了から、前記金型を開き始めるまでの時間が0〜2秒であり、
前記発泡工程において、前記キャビティ空間を拡大する際の型開速度が25mm/sec以上、100mm/sec未満であ
前記発泡成形体の比重が0.6超、0.85未満である、
発泡成形体の製造方法。
【請求項2】
前記発泡工程において、前記キャビティ空間を拡大する際の前記キャビティ空間の容積拡大速度が、射出充填完了時のキャビティ空間の容積を100体積%として、33体積%/sec以上、10000体積%/sec未満である、請求項1に記載の発泡成形体の製造方法。
【請求項3】
前記射出充填工程において、前記金型内のキャビティ空間に射出充填された前記溶融混合物の厚みが1〜3mmであり、前記発泡工程において、発泡後に得られる前記発泡成形体の厚みが1.5〜5mmである、請求項1又は2に記載の発泡成形体の製造方法。
【請求項4】
前記射出充填工程において、前記溶融混合物の射出充填開始から射出充填完了までの時間が0.1〜3秒である、請求項1〜3のいずれかに記載の発泡成形体の製造方法。
【請求項5】
前記金型の表面温度が30〜100℃である、請求項1〜4のいずれかに記載の発泡成形体の製造方法。
【請求項6】
前記発泡成形体の比重が0.61以上である、請求項1〜5のいずれかに記載の発泡成形体の製造方法。
【請求項7】
前記溶融混練工程において、前記樹脂成分100重量部に対して、1〜10重量部の前記発泡成分を用いる、請求項1〜6のいずれかに記載の発泡成形体の製造方法。
【請求項8】
前記熱膨張性微小球の最大膨張温度が170〜250℃である、請求項1〜7のいずれかに記載の発泡成形体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発泡成形体の製造方法に関する。さらに詳しくは、剛性および軽量性に優れるとともに、良好な外観を有する発泡成形体を射出成形により製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性樹脂発泡成形体は、樹脂の素材や形成された気泡の状態等を変化させることにより、遮熱性、断熱性、遮音性、吸音性、防振性、軽量化等の諸性能を発現させることができることから、様々な用途で用いられている。このような発泡成形体の製造方法として、射出成形装置を用いて、化学発泡剤や物理発泡剤等の発泡成分により熱可塑性樹脂を発泡成形する方法が知られている(特許文献1)。
【0003】
しかしながら、上記の製造方法は、いずれも発泡成分から生じるガスにより樹脂中に気泡を形成するものであるため、原料となる熱可塑性樹脂の溶融粘度や発生したガスの圧力のわずかな差異によって、気泡の状態が大きく変化してしまうという傾向がある。そのため、上記のような製造方法では、成形条件のわずかなズレや金型内でのゲートからの位置等の影響により発泡成形体中の気泡径が大きくなることや、連続気泡になることで、得られる発泡成形体の剛性が低下すること、および、発泡成形体の表面にシルバーストリークやボイド等の外観不良が生じることがどうしても避けられず、外観を重視する自動車用部品のような用途に適用するには十分とはいえなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平5−318541号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、剛性および軽量性に優れるとともに、良好な外観を有する発泡成形体の製造方法を提供する事を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、鋭意検討した結果、射出成形により発泡成形体を製造する方法において、発泡成分として熱膨張性微小球を必須に使用し、特定の成形条件を満足させることにより、上記課題を解決できることを見出し、本発明に到達した。
【0007】
すなわち、本発明に係る発泡成形体の製造方法は、射出成形により発泡成形体を製造する方法であって、発泡成分と樹脂成分とを、加熱シリンダー内で溶融混練して溶融混合物を作製する溶融混練工程と、前記溶融混合物を金型内のキャビティ空間に射出充填する射出充填工程と、前記溶融混合物の射出充填完了後に前記金型を開くことにより前記キャビティ空間を拡大して前記溶融混合物を発泡させる発泡工程とを有し、前記発泡成分が、熱可塑性樹脂からなる外殻と、それに内包され且つ加熱することによって気化する膨張剤とから構成される熱膨張性微小球を必須に含み、前記溶融混合物の射出充填完了から、前記金型を開き始めるまでの時間が0〜2秒であり、前記発泡工程において、前記キャビティ空間を拡大する際の型開速度が25mm/sec以上、100mm/sec未満であ前記発泡成形体の比重が0.6超、0.85未満である、前記製造方法である。
【0008】
本発明の発泡成形体の製造方法は、次の1)〜7)から選ばれる少なくとも1つをさらに満足すると好ましい。
1)前記発泡工程において、前記キャビティ空間を拡大する際の前記キャビティ空間の容積拡大速度が、射出充填完了時のキャビティ空間の容積を100体積%として、33体積%/sec以上、10000体積%/sec未満である。
2)前記射出充填工程において、前記金型内のキャビティ空間に射出充填された前記溶融混合物の厚みが1〜3mmであり、前記発泡工程において、発泡後に得られる前記発泡成形体の厚みが1.5〜5mmである。
3)前記射出充填工程において、前記溶融混合物の射出充填開始から射出充填完了までの時間が0.1〜3秒である。
4)前記金型の表面温度が30〜100℃である。
5)前記発泡成形体の比重が0.61以上である。
6)前記溶融混練工程において、前記樹脂成分100重量部に対して、1〜10重量部の前記発泡成分を用いる。
7)前記熱膨張性微小球の最大膨張温度が170〜250℃である。
【発明の効果】
【0009】
本発明の製造方法では、剛性および軽量性に優れるとともに、良好な外観を有する発泡成形体を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明における射出充填工程および発泡工程の一例を説明する模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[発泡成形体の製造方法]
本発明の発泡成形体の製造方法は、射出成形により発泡成形体を製造する方法であって、発泡成分と樹脂成分とを、加熱シリンダー内で溶融混練して溶融混合物を作製する溶融混練工程と、前記溶融混合物を金型内のキャビティ空間に射出充填する射出充填工程と、前記溶融混合物の射出充填完了後に前記金型を開くことにより前記キャビティ空間を拡大して前記溶融混合物を発泡させる発泡工程とを含む、製造方法である。以下に詳細に説明する。
【0012】
本発明の発泡成形体の製造方法に用いる射出成形機としては、少なくとも可塑化装置と金型装置とを備えるものであれば、その他の装置は特に限定されない。
可塑化装置としては、例えば、加熱シリンダーと、この加熱シリンダーの内部に回転方向と軸方向とに駆動可能に設けられているスクリューとから構成されるものが挙げられる。加熱シリンダーは、発泡成分と樹脂成分とを加熱するためのヒーターを備えており、加熱シリンダーに備わるヒーターの数については、特に限定されないが、溶融混合物の温度をより精密に制御するという観点からは、複数個以上であることが好ましい。
金型装置としては、例えば、固定型と可動型とから構成されるものが挙げられる。これらの金型の型合面にはキャビティ空間が形成されている。
射出成形機は、可塑化装置および金型装置以外に、溶融混合物を所定量計量するための計量室、溶融混合物を蓄積するための射出プランジャユニット、シリンダー内部発泡を防止するためのシャットオフ装置などを備えていてもよい。
【0013】
〔溶融混練工程〕
溶融混練工程は、発泡成分と樹脂成分とを、加熱シリンダー内で溶融混練して溶融混合物を作製する工程である。発泡成分は、熱可塑性樹脂からなる外殻と、それに内包され且つ加熱することによって気化する膨張剤とから構成される熱膨張性微小球を必須に含む成分である。発泡成分、熱膨張性微小球および樹脂成分の詳細に関しては後述する。
【0014】
溶融混練工程を行う方法としては特に限定されず、例えば、加熱シリンダー内部でスクリューを回転駆動して、発泡成分と樹脂成分とを溶融混練して溶融混合物を作製する方法などが挙げられる。なお、本発明において溶融混合物とは、発泡成分と樹脂成分とが均一に混合され溶融状態にあるものを指し、その混合度合いおよび溶融状態については特に限定されない。また、溶融混練工程で得られた溶融混合物を金型内のキャビティ空間に射出充填し、表面が冷却固化されてスキン層が形成されたものについても溶融混合物ということがある。
【0015】
発泡成分と樹脂成分とを溶融混練する温度(以下、成形温度ということがある)については、少なくとも加熱シリンダー内部の1箇所において熱膨張性微小球の膨張開始温度以上の温度であることが必要であるが、その他の条件は特に限定されない。なお、ここでいう成形温度とは、加熱シリンダー内部における溶融混合物の温度を指し、溶融混合物の温度を熱伝対温度計で測定することによって求められる。該成形温度は、加熱シリンダーの温度設定やスクリューの回転数を調整する方法により制御される。
【0016】
成形温度は、樹脂成分の融点または軟化点より高いことが好ましい。また、成形温度については、加熱シリンダー内で原料供給口(ホッパー)から射出ノズルの方向に向かって一定であってもよく、温度勾配があってもよい。成形温度に温度勾配がある場合としては、例えば、(1)原料供給口から射出ノズルの方向に向かって成形温度が徐々に高くなる、(2)原料供給口から射出ノズルの方向に向かって成形温度が徐々に低くなる、(3)原料供給口から加熱シリンダー中央部に向かって成形温度が徐々に高くなり、加熱シリンダー中央部から射出ノズルに向かって成形温度が徐々に低くなる、等の態様が挙げられる。また、熱膨張性微小球の膨張倍率を高めるという観点から、成形温度の最高温度は、好ましくは(Tmax−20)〜(Tmax+50)℃、より好ましくは(Tmax−10)〜(Tmax+40)℃、さらに好ましくはTmax〜(Tmax+30)℃である。ここで、Tmaxは熱膨張性微小球の最大膨張温度を意味する。成形温度の最高温度において、熱膨張性微小球に内包されている膨張剤の蒸気圧は、好ましくは0.1〜10.0MPa、さらに好ましくは0.5〜7.5MPa、特に好ましくは1.0〜5.0MPaである。なお、前記蒸気圧とは、熱膨張性微小球に内包されている膨張剤全体としての蒸気圧を意味し、膨張剤が複数の成分から構成される場合、該蒸気圧は、その温度における各成分固有の蒸気圧に対して、膨張剤に占める各成分のモル分率を乗じ、それらを合計した値である。
【0017】
溶融混練工程において、発泡成分が発泡しないように前記溶融混合物を加圧することが好ましい。溶融混合物を加圧する方法としては特に限定されず、例えば、シャットオフ装置を装着し、かつ、背圧の設定を成形温度の最高温度における、発泡成分の発泡圧力以上に設定することが挙げられる。発泡成分に必須に含まれる熱膨張性微小球に対しては、熱膨張性微小球に内包されている膨張剤の蒸気圧以上に背圧を設定する必要がある。溶融混練工程において、熱膨張性微小球は膨張開始温度以上の温度に加熱されるが、上記のとおり溶融混合物を加圧することにより、熱膨張性微小球を未膨張状態に保持させることが可能であり、このようにすることで発泡成形体表面の凹凸を抑制し、より外観に優れた発泡成形体を得ることができる。
【0018】
〔射出充填工程〕
射出充填工程は、上記溶融混練工程で作製した溶融混合物を金型内のキャビティ空間に射出充填する工程である。射出充填工程では、溶融混合物を固定型に形成されたスプルーより射出して、キャビティ空間を溶融混合物で充填する。キャビティ空間に射出する溶融混合物の体積は、キャビティ空間に対して、好ましくは90〜110%、さらに好ましくは95〜105%、特に好ましくは98〜102%である。キャビティ空間に射出する溶融混合物の体積が、キャビティ空間の容積に対して90%未満の場合は、キャビティ内で発泡成分(熱膨張性微小球)が膨張することにより、発泡成形体表面の外観が悪化することがある。また、キャビティ空間に射出する溶融混合物の体積が、キャビティ空間の容積に対して110%超の場合は、キャビティ空間から溶融樹脂が漏れることで成形品にバリが生じることがある。
【0019】
射出成形機としては、プランジャータイプ、スクリュープリプラタイプ、スクリューインラインタイプなどの射出成形機等が挙げられる。
【0020】
射出速度については、特に限定されないが、好ましくは30mm/sec以上、より好ましくは60mm/sec以上、特に好ましくは100mm/sec以上である。30mm/sec未満で射出成形した場合、キャビティ内で発泡成分(熱膨張性微小球)が膨張することにより、発泡成形体表面の外観が悪化することがある。射出速度の上限は、500mm/secであり、上限以上の射出速度で成形した場合、成形品にバリが生じることや、樹脂焼けによる成形品の外観不良が生じることがある。なお、本発明でいう射出速度とは、射出充填工程時におけるスクリューの移動速度を示し、射出成形機に予め設置されている計測装置あるいは、外部計測装置を用いて計測することができる。
射出圧力は、固定型と可動型との型締圧力より低いことが望ましく、好ましくは20〜250MPa、より好ましくは35〜200MPa、特に好ましくは50〜150MPaである。
【0021】
射出充填工程において、射出充填された溶融混合物のうち、金型に接触した部分については素早く冷却されてスキン層が形成されるのに対して、金型に接触していない内部は未だ溶融状態を保っており発泡可能な状態にある。しかし、射出充填された溶融混合物に対しては射出圧力および充填圧力がかかっているので、溶融状態にある内部においても発泡は全く、あるいはほとんど起こらない。
【0022】
射出充填工程において、金型内のキャビティ空間に射出充填された溶融混合物の厚み(以下、充填時の厚みということがある)については特に限定されないが、1〜3mmであると好ましく、より好ましくは1.5〜2.8mm、特に好ましくは1.8〜2.5mmである。該厚みが、1mm未満であると、発泡工程において発泡成分が充分に発泡しない場合がある。該厚みが3mm超であると、発泡工程において過発泡となり外観不良になる場合がある。なお、該厚みとは、溶融混合物の射出充填完了時における厚み(図1(b)のL)のことをいい、金型の固定型と可動型との初期クリアランスに等しい。
【0023】
射出充填工程において、溶融混合物の射出充填開始から射出充填完了までの時間(以下、射出充填時間ということがある)は、特に限定されないが、好ましくは0.1〜3秒、より好ましくは0.2〜2秒、特に好ましくは0.25〜1秒である。射出充填時間の下限値については特に意味はなく、0.1秒未満でも構わないが、設備の設計上、0.1秒未満であることは困難である場合が多い。一方、射出充填時間が3秒超であると、発泡工程において発泡成分が充分に発泡しない場合がある。射出充填時間は、キャビティ空間の容積に対して射出速度を調整する方法等により適宜調整することができる。
【0024】
〔発泡工程〕
発泡工程は、溶融混合物の射出充填完了後に金型を開くことによりキャビティ空間を拡大して溶融混合物を発泡させる工程である。なお、本発明において金型を開くとは、可動型又は可動型に内設された可動コアを、固定型に対して離隔させる方向に移動させることを意味し、具体的には、射出成形機が横型射出成形機の場合は水平方向かつ固定型に対して離隔させる方向に、射出成形機が竪型射出成形機の場合は垂直方向かつ固定型に対して離隔させる方向に、可動型又は可動型に内設された可動コアを、移動させる動作を意味する。発泡工程では、金型を開くことに伴うキャビティ内の減圧によって発泡成分の発泡が進行し、軽量な発泡成形体が得られる。
【0025】
溶融混合物の射出充填完了から金型を開き始めるまでの時間(以下、型開遅延時間ということがある)は0〜2秒であり、より好ましくは0〜1.5秒、特に好ましくは0〜1秒である。本発明の製造方法では、型開遅延時間を0〜2秒とすることにより、射出充填された溶融混合物の表面に適度な厚みのスキン層を形成させつつ、溶融混合物内部において発泡成分に必須に含まれる熱膨張性微小球を充分に膨張させることが可能となり、剛性および軽量性に優れるとともに、良好な外観を有する発泡成形体とすることができる。型開遅延時間が2秒超であると、溶融混合物中の発泡成分に含まれる熱膨張性微小球が金型により冷却されることで、充分に膨張せず、低比重成形体が得られない。型開遅延時間の下限については特に限定されない。
型開遅延時間を0〜2秒とするための具体的方法としては、例えば、溶融混合物の充填が完了したことを検知する検知手段、検知手段からの情報に従って金型の開放を制御する制御手段、及び、制御手段からの信号により金型を開放する金型開放手段を有する装置を用いる方法が挙げられる。
上記検知手段としては、例えば、射出充填工程において、射出成形機のスクリューの位置により、溶融混合物の充填が完了したことを検知する手段、金型内の所定の位置に圧力センサーを設置し、その位置に溶融混合物が充填されたことを信号として検知する手段等が挙げられる。
【0026】
発泡工程において、キャビティ空間を拡大する際の型開速度は1mm/sec以上、100mm/sec未満であり、より好ましくは1mm/sec以上、75mm/sec未満、特に好ましくは25mm/sec以上、60mm/sec未満である。本発明の製造方法では、型開速度を1mm/sec以上、100mm/sec未満とすることにより、成形体断面の気泡状態は均一な独立気泡となり、さらには、成形体表面の凹凸が抑制され、剛性および外観に特に優れる発泡成形体とすることができる。型開速度が1mm/sec未満であると、発泡成分が冷却されることで充分に膨張しないことで目的の厚みの成形体が得られない。型開速度が100mm/sec以上であると、膨張速度に比べ型開速度が速いため、成形体断面の気泡状態は不均一な連続気泡が生じることで剛性が低下し、さらには、成形体表面に金型由来では無い凹凸が発生するといった外観不良が生じる。なお、本発明における型開速度とは、金型を開くことによりキャビティ空間を拡大させる際の、可動型又は可動型に内設された可動コアの単位時間当たりの位置の変化量を意味し、可動型又は可動型に内設された可動コアが、固定型に対して離隔する方向に移動を開始してから停止するまでに移動した距離を、その移動に要した時間(以下、型開時間ということがある)で除した値である。型開速度は、通常の射出成形機ではコンピュータ制御されており、その設定値を変更することによって適宜調整することができる。
金型を開く方法としては、型開速度が上記範囲内であれば、一段階で行ってもよく、二段階以上の多段階で行ってもよい。
【0027】
本発明では、上記のとおり発泡成分として熱膨張性微小球を必須に用い、溶融混合物の射出充填完了から金型を開き始めるまでの時間を0〜2秒とし、キャビティ空間を拡大する際の型開速度を1mm/sec以上、100mm/sec未満とすることにより、剛性および軽量性に優れるとともに、良好な外観を有する発泡成形体を製造することができる。
【0028】
発泡工程において、キャビティ空間を拡大する際のキャビティ空間の容積拡大速度は、特に限定されないが、射出充填完了時のキャビティ空間の容積を100体積%として、好ましくは33体積%/sec以上、10000体積%/sec未満、より好ましくは50体積%/sec以上、6000体積%/sec未満、特に好ましくは60体積%/sec以上、5000体積%/sec未満である。本発明の製造方法において、型開速度が上記所定の範囲にあることに加えて、キャビティ空間の容積拡大速度が上記所定の範囲を満たす場合に、得られる発泡成形体が、より軽量性、剛性および外観に優れるという効果が得られる。なお、本発明におけるキャビティ空間の容積拡大速度とは、射出充填完了時のキャビティ空間の容積を100体積%として、金型を開くことによりキャビティ空間を拡大させる際の、単位時間当たりのキャビティ空間の容積の変化量(拡大量)を意味し、可動型又は可動型に内設された可動コアが、固定型に対して離隔する方向に移動を開始してから停止するまでに増加したキャビティ空間の容積の拡大量を、その拡大に要した時間(型開時間)で除した値である。
【0029】
射出充填時間、型開遅延時間および型開時間の和(以下、射出工程時間ということがある)は好ましくは0.5〜5秒であり、より好ましくは0.75〜4秒、特に好ましくは1〜3秒である。本発明の製造方法では、射出工程時間を0.5〜5秒にすることにより、成形体断面の気泡状態は均一な独立気泡となり、さらには、成形体表面の凹凸が抑制され、剛性および外観に特に優れた発泡成形体が得られる。
【0030】
発泡工程において、発泡後に得られる発泡成形体の厚み(以下、発泡成形体の厚みということがある)については特に限定されないが、1.5〜5mmであると好ましく、より好ましくは2.0〜4.5mm、特に好ましくは2.5〜4mmである。該厚みが、1.5mm未満であると、成形体の剛性が弱くなり、製品として適していない。該厚みが5mm超であると、成形体の外観不良になる場合がある。なお、上記厚みとは、図1(d)のLのことをいう。
【0031】
本発明における射出充填工程および発泡工程の一例を図1に示す。まず、溶融混練工程において作製した溶融混合物5を固定型2に形成されたスプルー1より射出して、金型の型合面に形成されたキャビティ空間4を溶融混合物で充填する(図1(a)〜(b))。
次に、可動型3を固定型2に対して離隔させる方向に移動させることにより、金型内のキャビティ空間を拡大して溶融混合物を発泡させて発泡成形体6を作製する(図1(c)〜(d))。
【0032】
発泡工程の後、冷却して発泡成形体を取り出すことができる。冷却時間については、発泡成形体の寸法等によって適宜調整すればよいが、一般に30秒以上であれば十分である。
本発明の製造方法において、金型の表面温度は特に限定されず、使用する樹脂成分の種類に応じて適宜設定すればよいが、好ましくは30〜100℃、より好ましくは40〜80℃、特に好ましくは50〜70℃である。金型の表面温度を上記範囲とすることにより、射出充填された溶融混合物の表面に適度な厚みのスキン層を形成させつつ、溶融混合物内部において発泡成分に必須に含まれる熱膨張性微小球を充分に膨張させることが可能となり、剛性および軽量性に優れるとともに、良好な外観を有する発泡成形体とすることができる。
本発明に用いる金型装置としては、蒸気式、加圧熱水式、オイル式、電磁誘導加熱式等の公知の加熱方法を用いる金型装置を用いることができる。
【0033】
(発泡成分)
発泡成分は、熱可塑性樹脂からなる外殻と、それに内包され且つ加熱することによって気化する膨張剤とから構成される熱膨張性微小球を必須に含む。本発明の製造方法では、発泡工程において、発泡成分に必須に含まれる熱膨張性微小球が膨張することにより、樹脂成分からなるマトリックス中に熱膨張性微小球の膨張体であるプラスチックバルーンが三次元的に均一に分散配置した独立気泡構造を有する発泡成形体が得られる。熱膨張性微小球が膨張しても、発泡成形体の剛性の低下あるいは外観の悪化を引き起こす原因となる連続気泡構造が形成されることはないため、本発明の製造方法では、剛性および軽量性に優れるとともに、良好な外観を有する発泡成形体を製造することができる。なお、発泡成分が化学発泡剤や物理発泡剤など熱膨張性微小球以外の発泡成分をさらに含む場合は、得られる発泡成形体が連続気泡構造となることにより曲げ弾性率などの剛性が著しく低下したり、発泡成形体表面の外観が著しく損なわれたりすることがある。そのため、通常は、本発明の製造方法において、熱膨張性微小球以外の発泡成分を使用することは好ましくないが、本発明の効果を損なわない範囲で上記化学発泡剤や物理発泡剤など熱膨張性微小球以外の発泡成分を使用することも可能である。
【0034】
化学発泡剤としては、たとえば、重炭酸ナトリウム、炭酸アンモニウム、重炭酸アンモニウム、亜硝酸アンモニウム、アジド化合物、ホウ水素化ナトリウム等の無機系発泡剤;アゾジカルボンアミド、アゾビスイソブチロニトリル、バリウムアゾジカルボキシレート、ジニトロソペンタメチレンテトラミン、4,4’−オキシビス(ベンゼンスルホニルヒドラジド)、N,N’−ジメチル−N,N’−ジニトロソテレフタルアミド、N,N’−ジニトロソペンタメチレンテトラミン、ニトロウレア、アセトン−p−トルエンスルホニルヒドラゾン、p−トルエンスルホニルアミド、ニトログアニジン、ヒドロアゾジカルボンアミド、トリヒドラジノトリアジン、5−フェニールテトラゾール等の有機発泡剤等を挙げることができる。また、上記化学発泡剤とともに、必要に応じて発泡助剤を併用してもよい。発泡助剤とは、発泡剤の分解温度の低下、分解促進、気泡の均一化等の働きをする添加剤であり、たとえば、ステアリン酸亜鉛、サリチル酸、フタル酸等を挙げることができる。
物理発泡剤としては、たとえば、ブタン、ペンタン、ジクロロメタン、水、窒素ガス、炭酸ガス、空気等を挙げることができる。
【0035】
(熱膨張性微小球)
熱膨張性微小球は、熱可塑性樹脂からなる外殻と、それに内包され且つ加熱することによって気化する膨張剤とから構成される。熱膨張性微小球は、外殻を構成する熱可塑性樹脂および内包される膨張剤の組み合わせにより、様々な温度で膨張させることができ、それらの組み合わせは樹脂成分の融点又は軟化点、成形温度等を考慮して適宜選択することができる。
【0036】
熱膨張性微小球の外殻を構成する熱可塑性樹脂については、特に限定はないが、たとえば、塩化ビニリデン共重合体、(メタ)アクリル酸系共重合体等の不飽和カルボン酸系共重合体、(メタ)アクリル酸エステル系共重合体等の不飽和カルボン酸エステル系共重合体、(メタ)アクリロニトリル系共重合体等のニトリル系共重合体、(メタ)アクリル酸−(メタ)アクリロニトリル系共重合体等の不飽和カルボン酸−ニトリル系共重合体等が挙げられる。
【0037】
熱可塑性樹脂の原料となる重合性モノマーとしては、たとえば、塩化ビニリデン;塩化ビニル;酢酸ビニル;アクリロニトリル、メタクリロニトリル、α−クロルアクリロニトリル、フマロニトリル等のニトリル系モノマー;アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、フマル酸、マレイン酸およびこれらの金属塩等の不飽和カルボン酸(塩)系モノマー;メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸エステル系モノマー;アクリルアミド、メタアクリルアミド、置換アクリルアミド、置換メタクリルアミド等のアミド系モノマー;N−フェニルマレイミド、N−(2−クロロフェニル)マレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド等のイミド系モノマー;スチレン、α−メチルスチレン、クロロスチレン等のビニル芳香族系モノマー;イソプレン;ブタジエン等が挙げられる。これらの重合性モノマーは、1種または2種以上を併用してもよい。また、上記重合性モノマーとともに、必要に応じて重合性二重結合を2個以上有するモノマー(架橋剤)を併用してもよい。
【0038】
熱膨張性微小球において、その外殻を構成する熱可塑性樹脂が、(たとえば、ニトリル系モノマーを含む重合性モノマーを重合して得られる)ニトリル系共重合体であると、発泡倍率向上の観点から好ましい。ニトリル系モノマーの重量割合は、好ましくは重合性モノマーの20〜80重量%、より好ましくは30〜70重量%である。
【0039】
また、熱膨張性微小球において、その外殻を構成する熱可塑性樹脂が、(たとえば、不飽和カルボン酸(塩)系モノマーおよびニトリル系モノマーを含む重合性モノマーを重合して得られる)不飽和カルボン酸−ニトリル系共重合体であると、耐熱性向上の観点から好ましい。ニトリル系モノマーおよび不飽和カルボン酸(塩)モノマーの合計重量割合は、好ましくは重合性モノマーの50〜100重量%、より好ましくは60〜100重量%である。このとき、ニトリル系モノマーおよび不飽和カルボン酸(塩)系モノマーの合計に占める不飽和カルボン酸(塩)系モノマーの重量割合は、好ましくは5〜70重量%、より好ましくは10〜60重量%である。
【0040】
膨張剤は、外殻に内包され、加熱することによって気化するものであれば特に限定はなく、たとえば、プロパン、ノルマルブタン、イソブタン、ノルマルペンタン、シクロペンタン、イソペンタン、ネオペンタン、ノルマルヘキサン、イソヘキサン、ヘプタン、オクタン、イソオクタン、ノナン、ノルマルデカン、イソドデカン、石油エーテル等の炭化水素、クロロフルオロカーボン、塩素や臭素原子を含まない含フッ素化合物、加熱により熱分解してガスを発生する化合物等を挙げることができる。これらの膨張剤は、1種または2種以上を併用してもよい。
【0041】
熱膨張性微小球は公知の方法により製造することができる。たとえば、上記重合性モノマーと重合開始剤と上記膨張剤とを含む油性混合物を、分散剤等を含む水性分散媒中に分散して懸濁重合する方法等が挙げられる。
水性分散媒中に添加する分散安定剤については、特に限定はないが、たとえば、コロイダルシリカ、コロイダル炭酸カルシウム、水酸化マグネシウム、リン酸カルシウム、水酸化アルミニウム、水酸化第二鉄、硫酸カルシウム、硫酸ナトリウム、蓚酸カルシウム、炭酸カルシウム、炭酸バリウム、炭酸マグネシウム、アルミナゾル等が挙げられる。その他に、水性分散媒中に必要に応じて添加してもよい分散安定補助剤として、ジエタノールアミンと脂肪酸ジカルボン酸の縮合生成物、ゼラチン、ポリビニルピロリドン、メチルセルロース、ポリエチレンオキサイド、ポリペプチド、ポリビニルアルコール等の高分子タイプの分散安定補助剤;塩化アルキルトリメチルアンモニウム、塩化ジアルキルジメチルアンモニウム等の陽イオン界面活性剤;アルキル硫酸ナトリウム等の陰イオン界面活性剤;アルキルジメチルアミノ酢酸ベタイン、アルキルジヒドロキシエチルアミノ酢酸ベタイン等の両イオン性界面活性剤等が挙げられる。また、水性分散媒中には分散安定剤と併用して、スケール防止剤等の水溶性化合物を添加してもよい。
【0042】
重合温度は、重合開始剤の種類により適宜設定される。また、重合は加圧下で行われてもよく、たとえば重合初期圧は好ましくは0〜5.0MPaの範囲である。
また、熱膨張性微小球は商業的にも入手可能であり、熱膨張性微小球の代表的な市販品として、松本油脂製薬株式会社製のマツモトマイクロスフェアーの各品番の熱膨張性微小球を挙げることができる。
【0043】
熱膨張性微小球の平均粒子径(D50)については特に限定されないが、通常1〜60μm、より好ましくは5〜50μm、さらに好ましくは10〜45μmである。1μmより小さいと、均一分散が難しく、発泡倍率が低いものとなる。また60μmより大きいと、得られる発泡成形体の強度が弱くなるため望ましくない。なお、本発明における熱膨張性微小球の平均粒子径は、実施例に示す方法で測定されるものである。
熱膨張性微小球の粒度分布の変動係数CVは、特に限定されないが、均一な気泡径を有する発泡成形体を得るという点から、好ましくは35%以下、さらに好ましくは30%以下、特に好ましくは25%以下である。変動係数CVは、以下に示す計算式(1)および(2)で算出される。
【0044】
【数1】
(式中、sは粒子径の標準偏差、<x>は平均粒子径、xはi番目の粒子径、nは粒子の数である。)
【0045】
熱膨張性微小球全体の重量に占める膨張剤の重量割合(以下、膨張剤の内包率ということがある)については特に限定されないが、好ましくは2〜40重量%、より好ましくは5〜30重量%である。該重量割合が2重量%未満であると、熱膨張性微小球の膨張倍率が小さく、軽量な発泡成形体を得ることが困難となることがある。一方、該重量割合が40重量%超であると、粒子径に対する外殻の厚みが小さいために溶融混練工程において熱膨張性微小球が破壊され易く、熱膨張性微小球が破壊されて漏れ出た膨張剤により発泡成形体中に連通気泡が形成されやすくなる。
【0046】
また、熱膨張性微小球の最大膨張倍率は、好ましくは5倍以上、より好ましくは10倍以上、さらに好ましくは20倍以上、最も好ましくは30倍以上である。最大膨張倍率の上限値は特に限定されないが、通常は400倍以下である。なお、熱膨張性微小球の最大膨張倍率は、熱膨張性微小球をオーブンで1分間加熱し、加熱前の熱膨張性微小球の真比重(d)と加熱後の最大膨張時の真比重(d)との比(d/d)から求めることができる。
熱膨張性微小球の熱膨張特性を示す指標として、膨張開始温度(Ts)および最大膨張温度(Tmax)がある。なお、本発明において、膨張開始温度とは、その温度以上に加熱することで熱膨張性微小球が膨張する温度のことを、最大膨張温度とは、熱膨張性微小球の膨張が最大となる温度のことを指し、それぞれ実施例に示す方法で測定されるものと定義される。
【0047】
熱膨張性微小球の膨張開始温度(Ts)は、特に限定はないが、好ましくは130〜220℃、より好ましくは140〜210℃、特に好ましくは150〜200℃である。膨張開始温度が130℃未満であると、溶融混練工程で熱膨張性微小球に内包されている膨張剤が抜けてしましい、発泡成形体の表面にシルバーストリークが発生することがある。膨張開始温度が230℃超の場合、熱膨張性微小球の膨張倍率が低くなることがある。
熱膨張性微小球の最大膨張温度(Tmax)は、特に限定はないが、好ましくは170〜250℃、より好ましくは、180〜240℃、特に好ましくは190〜230℃である。熱膨張性微小球の最大膨張温度(Tmax)が上記範囲内にあると、成形温度の観点から、樹脂成分として汎用射出グレードのポリプロピレン樹脂、TPO、TPV、TPS、またはABS樹脂を用いて発泡成形体を製造する場合に好適であり、そのようにして得られた発泡成形体は特に剛性および軽量性に優れたものとなるため好ましい。
【0048】
発泡成分に占める熱膨張性微小球の重量割合は、好ましくは発泡成分全体の40〜100重量%、より好ましくは70〜100重量%、さらに好ましくは90〜100重量%、特に好ましくは100重量%である。該重量割合が40重量%未満であると、得られる発泡成形体の剛性が低下したり、外観が損なわれたりすることがある。
【0049】
発泡成分はそのまま使用してもよいが、発泡成分を予めオイル等の液状物で湿化した湿化物として、あるいは発泡成分をワックス等で固めた造粒物としてから、使用しても良い。また、発泡成分と樹脂成分とを含むマスターバッチを予め準備し、それと樹脂成分とを混合しても良い。これらの場合は、加熱シリンダー内で溶融混練して得られる溶融混合物中での発泡成分の分散性が高くなるため好ましい。
【0050】
上記マスターバッチを製造する方法としては、特に限定されず、例えば、発泡成分と樹脂成分と、必要に応じて添加される各種添加剤とを、1軸押出機、2軸押出機、ニーダー、加圧ニーダー、バンバリーミキサー、スーパーミキサーなどの混練機を用いて混練し、得られた混練物をペレタイザーにて所望の大きさに切断することによりペレット形状にして、マスターバッチペレットとする方法などが挙げられる。
【0051】
湿化物に用いる液状物としては、樹脂成分との相溶性が良好であれば特に限定はなく、たとえば、鉱物油、流動性パラフィン、シリコーンオイル、プロセスオイル、可塑剤等を挙げることができる。液状物の重量割合は、好ましくは湿化物全体の0.1〜60重量%、より好ましくは0.2〜50重量%、さらに好ましくは0.5〜40重量%である。液状物の重量割合が0.1重量%より少ないと、湿化が十分ではなく、発泡成分の分散性を高める効果が少ない。また、液状物の重量割合が60重量%より多いとべたつきが多く、作業性が悪い。
造粒物に用いるワックスとしては、たとえば、脂肪酸、パラフィン系ワックス等を挙げることができる。ワックスの重量割合は、好ましくは造粒物全体の5〜70重量%、より好ましくは10〜60重量%、さらに好ましくは15〜50重量%である。ワックスの重量割合が5重量%よりも少ないと、造粒物を形成できない。また、ワックスの重量割合が70重量%よりも多いと、樹脂成分の物性への影響が懸念される。
【0052】
マスターバッチに用いる樹脂成分としては、以下に具体的に例示する樹脂成分であれば、特に限定はないが、熱膨張性微小球の膨張開始温度および化学発泡剤の分解温度よりも低い溶融温度を持つ熱可塑性の材料であると、発泡性能を損なうことなくマスターバッチ化することができるため、好ましい。樹脂成分の重量割合は、好ましくはマスターバッチ全体の25〜95重量%、より好ましくは30〜90重量%、さらに好ましくは35〜80重量%である。
【0053】
(樹脂成分)
樹脂成分は、発泡成形体を構築する基礎となる成分であり、発泡成形体の物性にも大きく影響を与える成分である。本発明の製造方法で使用する樹脂成分としては、特に限定されず、一般に用いられている熱可塑性樹脂や、熱可塑性エラストマーを使用することができ、たとえば、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリブテン樹脂、ポリメチルペンテン樹脂、TPO、TPV、オレフィン系熱可塑性エラストマー等のポリオレフィン樹脂;エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−ビニルアルコール共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸(エステル)共重合体、アイオノマー樹脂等のオレフィン系樹脂共重合体;ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール等のポリビニル系樹脂;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリテトラメチレンテレフタレート、ポリエチレンイソフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリアリレート、ポリカーボネート、TPEE等のポリエステル系樹脂;ポリ(メタ)アクリル酸メチル、ポリ(メタ)アクリル酸エチル、ポリ(メタ)アクリル酸ブチル、ポリ(メタ)アクリロニトリル等のアクリル系樹脂;ポリスチレン、AS樹脂、ASA樹脂、ABS樹脂、TPS等のスチレン系樹脂;6−ナイロン、6,6−ナイロン、TPEA等のポリアミド系樹脂;ポリ乳酸等の生分解性樹脂;フッ素系樹脂;ポリウレタン系熱可塑性エラストマー;液晶ポリマー等が挙げられる。これらの樹脂成分は、1種または2種以上を併用してもよい。
発泡成形体表面の凹凸が抑制され、外観が優れるという点から、ポリプロピレン樹脂、TPO、TPV、TPS、ABS樹脂が好ましい。
【0054】
溶融混練工程においては、上記発泡成分および樹脂成分以外に、必要に応じて、滑剤、可塑剤、酸化防止剤、着色剤、充填剤、帯電防止剤、難燃剤、木粉、ガラス繊維、炭素繊維等の各種添加剤を添加して、溶融混合物を作製してもよい。その場合、各種添加剤を添加する方法は特に限定されず、たとえば、(1)発泡成分、樹脂成分および各種添加剤をそれぞれ別々に原料供給口に直接添加して溶融混練工程を行い、溶融混合物を作製する方法、(2)予め各種添加剤を樹脂成分に練り込んだものを準備し、それと発泡成分とを原料供給口に添加して溶融混練工程を行い、溶融混合物を作製する方法、などが挙げられる。
【0055】
溶融混練工程において、発泡成分の配合割合については特に限定はないが、樹脂成分100重量部に対して、1〜10重量部の発泡成分を用いることが好ましく、2〜8重量部の発泡成分を用いることがより好ましい。発泡成分の配合割合が1重量部より少ないと、所望とする軽量化効果が得られないことがある。一方、発泡成分の配合割合が10重量部より多いと、得られる発泡成形体の剛性が低下することがある。
【0056】
[発泡成形体]
本発明の製造方法で得られる発泡成形体は、独立気泡を有する発泡成形体であり、剛性および軽量性に優れるとともに、良好な外観を有する。
発泡成形体の比重は、好ましくは0.85未満、より好ましくは0.83未満、特に好ましくは0.81未満、最も好ましくは0.75未満である。該比重が0.85以上であると、発泡成形体の軽量性が優れない。該比重の下限値については、特に限定されないが、発泡成形体の剛性および外観とのバランスを重視するという観点から、好ましくは0.45超、より好ましくは0.5超、特に好ましくは0.55超、最も好ましくは0.6超である。
また、発泡成形体を自動車内外装用部品に用いるという観点からは、該比重は0.6超、0.75未満であることが好ましい。該比重を前記範囲内とすることにより、自動車内外装用部品で特に重視される剛性および外観の美しさに優れた発泡成形体が得られやすい。なお、該比重は、JIS K7112 A法(水中置換法)に準拠した方法により測定した値である。
【0057】
発泡成形体の曲げ弾性率は、好ましくは400MPa以上1500MPa未満、より好ましくは450MPa以上1300MPa未満、特に好ましくは500MPa以上1200MPa未満である。曲げ弾性率が400MPa未満の場合は、剛性が低すぎることで実用的でない。曲げ弾性率が1500MPa以上の場合は、柔軟性が低すぎることで実用的ではない。上記曲げ弾性率は、JIS K7171に準拠した方法で測定した値である。
【0058】
発泡成形体の平均気泡径については、特に限定はないが、好ましくは2〜500μm、より好ましくは3〜400μm、さらに好ましくは5〜300μmである。平均気泡径が2μmより小さいと、軽量な発泡成形体を得ることが難しいことがある。一方、平均気泡径が500μmより大きいと、得られる発泡成形体の剛性が低下することがあり、好ましくない。なお、本発明における平均気泡径とは、発泡成形体の任意の箇所に存在する気泡径の平均値を意味し、後述する実施例の方法にて算出される値のことである。発泡成形体の平均気泡径は熱膨張性微小球の粒子径によって容易に調整することができる。
【0059】
発泡成形体の独立気泡率については、特に限定はないが、好ましくは50%以上、より好ましくは60%以上、さらに好ましくは65%以上、特に好ましくは80%以上、最も好ましくは95%以上である。独立気泡率の上限値は100%である。独立気泡率が50%より小さいと、得られる発泡成形体の剛性が低下し、また連通気泡による吸水性の問題もあり、好ましくない。
発泡成形体の厚みの薄い場合や、発泡成形体の剛性が必要である場合は、粒子径の小さな熱膨張性微小球を選択し、発泡成分に占める熱膨張性微小球の重量割合を多くすることが好ましい。
【0060】
このようにして得られた発泡成形体は、剛性および軽量性に優れるとともに、良好な外観を有するため、自動車内外装、家電、容器トレー等の用途に好適に用いることができる。
【実施例】
【0061】
以下に、本発明の実施例について、具体的に説明する。なお、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例4、及び実施例8は参考例とする。
以下で用いる熱膨張性微小球、実施例および比較例で製造した発泡成形体について、次に示す要領で物性の評価を行った。熱膨張性微小球を単に微小球ということがあり、発泡成形体を単に成形体ということがある。
【0062】
〔熱膨張性微小球の平均粒子径と粒度分布の測定〕
レーザー回折式粒度分布測定装置(SYMPATEC社製 HEROS&RODOS)を使用した。乾式分散ユニットの分散圧は5.0bar、真空度は5.0mbarで乾式測定法により測定し、D50値を平均粒子径とした。
【0063】
〔熱膨張性微小球の含水率の測定〕
測定装置として、カールフィッシャー水分計(MKA−510N型、京都電子工業株式会社製)を用いて測定した。
【0064】
〔熱膨張性微小球に封入された膨張剤の内包率の測定〕
熱膨張性微小球1.0gを直径80mm、深さ15mmのステンレス製蒸発皿に入れ、その重量(W1)を測定した。アセトン30ml加え均一に分散させ、30分間室温で放置した後に、120℃で2時間加熱し乾燥後の重量(W2)を測定した。膨張剤の内包率は、下記の式により計算される。
内包率(重量%)=(W1−W2)(g)/1.0(g)×100−(含水率)(重量%)
(式中、含水率は、上記方法で測定される。)
【0065】
〔TsおよびTmax〕
熱膨張性微小球の膨張開始温度(Ts)および最大膨張温度(Tmax)は、DMA(DMA Q800型、TA instruments社製)を用いて測定される。熱膨張性微小球をアルミカップに入れ、その試料に上から加圧子により0.01Nの力を加えた状態で20℃から300℃まで10℃/minの昇温速度で加熱し、加圧子の垂直方向における変位量(D)を測定し、正方向への変位開始温度を膨張開始温度(Ts)とし、最大変位量(Dmax)を示したときの温度を最大膨張温度(Tmax)とした。
【0066】
〔真比重の測定〕
微小球およびこれを熱膨張させた中空微粒子の真比重は、以下の測定方法で測定した。
真比重は環境温度25℃、相対湿度50%の雰囲気下においてイソプロピルアルコールを用いた液浸法(アルキメデス法)により測定した。
具体的には、容量100mlのメスフラスコを空にし、乾燥後、メスフラスコ重量(WB)を秤量した。秤量したメスフラスコにイソプロピルアルコールをメニスカスまで正確に満たした後、イソプロピルアルコール100mlの充満されたメスフラスコの重量(WB)を秤量した。
【0067】
また、容量100mlのメスフラスコを空にし、乾燥後、メスフラスコ重量(WS)を秤量した。秤量したメスフラスコに約50mlの粒子を充填し、粒子の充填されたメスフラスコの重量(WS)を秤量した。そして、粒子の充填されたメスフラスコに、イソプロピルアルコールを気泡が入らないようにメニスカスまで正確に満たした後の重量(WS)を秤量した。そして、得られたWB、WB、WS、WSおよびWSを下式に導入して、粒子の真比重(d)を計算した。
d={(WS−WS)×(WB−WB)/100}/{(WB−WB)−(WS−WS)}
上記で、粒子として微小球または中空微粒子を用いて、それぞれの真比重を計算した。
【0068】
〔膨張倍率の測定〕
アルミ箔で縦12cm、横13cm、高さ9cmの底面の平らな箱を作成し、その中に微小球1.0gを均一になるように入れ、ギア式オーブン中に入れ、所定温度で1分間加熱膨張した後、微小球の真比重を測定した。加熱後の微小球の真比重(d)で加熱前の微小球の真比重(d)を割ることにより膨張倍率(E)を算出した。最大膨張倍率(Emax)は、最大膨張時の膨張倍率に相当する。
【0069】
〔成形体の軽量性〕
得られた成形体の比重をJIS K−7112 A法(水中置換法)に準拠した方法により、電子比重計(MDS−3000、アルファーミラージュ株式会社製)を用いて測定を行った。
成形体の軽量性は、以下の評価基準に基づいて判定した。
○:成形体の比重が0.85未満
×:成形体の比重が0.85以上
【0070】
〔成形体の剛性〕
得られた成形体の曲げ弾性率をJIS K−7171に準拠した方法により、引張圧縮試験機(テクノグラフ TG−2KN、ミネビア株式会社製)を用いて測定を行った。
成形体の剛性は、以下の評価基準に基づいて判定した。
○:成形体の剛性が400MPa以上1500MPa未満
×:成形体の剛性が400MPa未満、1500MPa以上
【0071】
〔成形体断面の気泡状態〕
電子顕微鏡(SEM)装置を用いて、得られた成形体断面の気泡状態の確認を行った。30倍で撮影したSEM写真から、単位面積あたりに占める独立気泡の割合を算出し、以下の評価基準に基づいて判定した。
◎:均一独立(独立気泡率80%以上)
○:ほぼ均一独立(独立気泡率50%以上80%未満)
×:不均一(独立気泡率50%未満)
【0072】
〔成形体の表面状態〕
成形体の表面状態について、以下の評価基準に基づいて判定した。
○:良好(表面に凹凸が無く、かつ、シルバーストリークが発生していない)
△:やや不良(表面に凹凸が有るか、または、シルバーストリークが発生している)
×:不良(表面に凹凸が有り、かつ、シルバーストリークが発生している)
【0073】
〔平均気泡径〕
得られた成形体の断面を100倍で撮影したSEM写真より、ASTM・D3576−77に準じた方法で算出した。
【0074】
〔製造例1〕
(熱膨張性微小球の製造)
以下の実施例および比較例で使用した、熱膨張性微小球を製造した。
イオン交換水600gに、塩化ナトリウム150g、シリカ有効成分20重量%であるコロイダルシリカ分散液70g、ポリビニルピロリドン1.0gおよびエチレンジアミン四酢酸・4Na塩の0.5gを加えた後、得られた混合物のpHを2.8〜3.2に調整し、水性分散媒を調製した。
これとは別に、アクリロニトリル150g、メタクリロニトリル50g、メタクリル酸100g、1,9−ノナンジオールジアクリレート1.0g、イソペンタン90g、および有効成分70%のジ−2−エチルヘキシルパーオキシジカーボネート含有液8gを混合して油性混合物を調製した。
水性分散媒と油性混合物を混合し、得られた混合液をホモミキサー(特殊機化工業社製、TKホモミキサー)により分散して、懸濁液を調製した。この懸濁液を容量1.5リットルの加圧反応器に移して窒素置換をしてから反応初期圧0.5MPaにし、80rpmで攪拌しつつ重合温度60℃で20時間重合した。重合後に得られた重合液を濾過、乾燥して、熱膨張性微小球1を得た。熱膨張性微小球1の物性を表1に示す。なお、表1においては、表2に示す略号が使用されている。
(マスターバッチの製造)
容量0.5L加圧ニーダーを用いて、マスターバッチに用いる樹脂成分としての低密度ポリエチレン(ダウ・ケミカル日本株式会社製 LDPE樹脂、DNDV−0405R、融点108℃、密度0.914g/cm)120gを溶融混練し、その温度が115℃に到達したときに、熱膨張性微小球1を180g配合して均一に混合し予備混合物とした。得られた予備混合物をシリンダー口径40mmの二軸押出機に供給して混練温度115℃で押出して、熱膨張性微小球1の重量割合が60重量%のマスターバッチを得た。
【0075】
〔製造例2〜4〕
熱膨張性微小球1の製造で用いた各種成分および量を、表1に示すものに変更する以外は熱膨張性微小球1の製造と同様にして熱膨張性微小球2〜4をそれぞれ得た。得られた原料微小球の物性を表1に示す。
熱膨張性微小球とマスターバッチに用いる樹脂成分の配合量を、表1に示すものに変更する以外は製造例1と同様にして各熱膨張性微小球を用いたマスターバッチをそれぞれ得た。
【0076】
【表1】
【0077】
【表2】
【0078】
〔実施例1〕
製造例1で得られたマスターバッチ17重量部と、ポリプロピレン樹脂(日本ポリプロピレン株式会社製、ノバテックPP BC3F、密度0.90g/cm)100重量部とを混合し、得られた混合ペレットを射出成形機(日本製鋼所株式会社製、J85AD−110H、型締力85トン)のホッパーに供給して溶融混練し、射出成形を行い、板状の成形体を得た。なお、成形条件は、成形温度:210℃、射出速度:30mm/sec、金型の表面温度:100℃、型開遅延時間:0秒、型開速度:73mm/secに設定し、他の条件については、表3に示す。
得られた成形体を評価した結果、比重0.63、曲げ弾性率820MPa、成形体断面の気泡状態は独立気泡であり、平均気泡径65μm、成形体の表面状態は良好である成形体が得られた。
【0079】
【表3】
【0080】
【表4】
【0081】
〔実施例2〜10、比較例1〜3〕
実施例1で使用したマスターバッチと成形条件を、表3および4に示すものに変更する以外は実施例1と同様にして発泡成形体を得た。
【0082】
〔比較例4〕
熱膨張性微小球を用いたマスターバッチに代えて無機化学発泡剤(永和化成工業株式会社製、ポリスレン)を使用し、無機化学発泡剤を5重量部とポリプロピレン樹脂100重量部とを混合し、成形条件を表4に示すものに変更する以外は実施例1と同様にして発泡成形体を得た。
【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明の発泡成形体の製造方法は、独立気泡を有し、成形体表面の凹凸が抑制され、剛性および外観が優れた軽量な発泡成形体を製造することができる。したがって、得られる発泡成形体は、軽量で、断熱性および圧縮特性に優れ、外観良好な発泡成形体であり、自動車用の機械部品や内外装材、家庭用電化製品の外装、建築材料として、広く利用される。
【符号の説明】
【0084】
1 スプルー
2 固定型
3 可動型
4 キャビティ空間
5 溶融混合物
6 発泡成形体
図1