【実施例】
【0031】
以下に、実施例を用いて本発明を詳細に説明する。なお、以下の実施例は本発明の一例であり、本発明は以下の実施例に限定されない。
【0032】
<実施例1>
塩基性の酢酸アルミニウム(シグマアルドリッチ社製)22.6g及び酢酸(和光純薬工業社製)1.2gを水560gに添加して溶液を調製した。この溶液をオートクレーブに入れて、200℃で24時間の水熱処理を行った。その後、オートクレーブを室温まで冷却し、反応溶液をオートクレーブから取り出した。この反応溶液の一部を乾燥させて乾燥物を得た。
図2は、この乾燥物をFE−SEM(電界放射型走査電子顕微鏡)で観察した写真である。
図3は、この乾燥物のXRD(X線回折)による測定結果を示す。
図2及び
図3に示す結果から、この乾燥物は、ベーマイトナノロッドの集合体であることが確認された。また、この乾燥物を550℃で1時間焼成することによって白色の粉体が得られた。この白色の粉体に対し、XRD(X線回折)による測定を行ったところ、γ−アルミナの回折ピークが認められた。また、この白色の粉体を透過型電子顕微鏡によって観察したところ、5〜30nmの短軸長さ、20〜1000nmの長軸長さ、及び2〜200のアスペクト比を有するロッド形状を有していた。
【0033】
上記の反応溶液の半量にPtPVPコロイド水溶液(田中貴金属工業社製、Pt含有量:4.0wt%)9.87gを投入して混合した。その後、この混合液を、ロータリーエバポレーターによって減圧した100℃の環境に置いて、この混合液から溶媒を除去して固形物を得た。次に、得られた固形物を550℃の温度の空気雰囲気で1時間焼成した後粉砕し、複合体粒子Aを得た。この複合体粒子AにおけるPtの担持率は10質量%であった。
図4は、複合体粒子AのXRDによる測定結果を示す。
図4に示す通り、Ptの回折ピーク及びγ−アルミナの回折ピークが認められた。2θ=39.8°付近のPt(111)面の回折ピークからPtの結晶子径を算出したところ、Ptの結晶子径は、4.7nmであった。また、複合体粒子AのBET比表面積は、109m
2/gであった。
【0034】
複合体粒子A5.0g、ベーマイト粒子のゾル液(日産化学工業社製、アルミナ含有量:20重量%、商品名:アルミナゾル520)1.5g、及びプロピレングリコール45.0gと、直径1mmのジルコニアビーズとをガラス容器に入れて、ペイントシェーカーによって2時間分散処理を行った。その後、ろ過によりジルコニアビーズを分離し、実施例1に係る感ガス体用組成物を得た。実施例1に係る感ガス体用組成物において、ベーマイトの質量と複合体粒子Aの質量との比(ベーマイトの質量/複合体粒子Aの質量)は、0.07であった。
図5は、少量のアルミナゾル520を乾燥して得られた固形物のXRDによる測定結果を示す。
図5に示す通り、この固形物はベーマイト(AlO(OH))であることが確認された。アルミナゾル520は、23.5質量%のベーマイト粒子を含有する分散液であることが確認された。
図5の2θ=38.3°付近の回折ピークから算出されるベーマイト粒子の結晶子径は11.8nmであった。
【0035】
ITO膜付ガラス基板(ITO膜の厚み:0.2μm、ガラス基板の厚み:0.7mm)に対してフォトリソグラフィ及びエッチングを行って、電極間の距離が10μmである、ITOでできた一対の電極をガラス基板上に形成した。電極の幅は2mmであった。次に、一対の電極間のギャップ上から実施例1に係る感ガス体用組成物を約1μL滴下し、その後、感ガス体用組成物を200℃で1時間又は500℃で1時間の条件で焼成した。このようにして、実施例1に係るガスセンサを得た。
【0036】
<実施例2>
複合体粒子A5.0g、ベーマイト粒子のゾル液(日産化学工業社製、アルミナ含有量:10重量%、商品名:アルミナゾル200)3.0g、及びエチレングリコール45.0gと、直径1mmのジルコニアビーズとをガラス容器に入れて、ペイントシェーカーによって2時間分散処理を行った。その後、ろ過によりジルコニアビーズを分離し、実施例2に係る感ガス体用組成物を得た。実施例2に係る感ガス体用組成物において、ベーマイトの質量と複合体粒子Aの質量との比(ベーマイトの質量/複合体粒子Aの質量)は、0.07であった。
図6は、少量のアルミナゾル200を乾燥して得られた固形物のXRDによる測定結果を示す。
図6に示す通り、この固形物はベーマイト(AlO(OH))であることが確認された。アルミナゾル200は、11.8質量%のベーマイト粒子を含有する分散液であることが確認された。
図6の2θ=38.5°付近の回折ピークから算出されるベーマイト粒子の結晶子径は3.6nmであった。
【0037】
ITO膜付ガラス基板(ITO膜の厚み:0.2μm、ガラス基板の厚み:0.7mm、拡散防止用のSiO
2コート(厚さ約0.1μm)あり)に対してフォトリソグラフィ及びエッチングを行って、電極間の距離がそれぞれ10μm、20μm、及び30μmである、ITOでできた複数対の電極をガラス基板上に形成した。電極の幅は2mmであった。次に、複数対の電極のそれぞれの電極間のギャップ上から実施例2に係る感ガス体用組成物を約1μL滴下し、その後、感ガス体用組成物を500℃で1時間の条件で焼成した。このようにして、実施例2に係るガスセンサを得た。
【0038】
<ガスセンサの性能測定>
(測定装置及び測定方法)
図7に示す測定装置9を用いて、実施例1に係るガスセンサ及び実施例2に係るガスセンサの性能を測定した。測定装置9は、容器1、ピコアンメータ2、コンピュータ3、温度調節器4、バブリング装置5、第一マスフローコントローラ6a、第二マスフローコントローラ6b、窒素ガスタンク7、ストップバルブ8a、及びストップバルブ8bを備えていた。容器1の内部空間の容積は51cm
3であった。容器1の蓋1aに実施例1又は2に係るガスセンサSaを固定した後、蓋1aで本体1bを覆った。ガスセンサSaの一対の電極はそれぞれピコアンメータ2に接続され、ガスセンサSaの一対の電極に所定の電圧が印加されたときにガスセンサSaの一対の電極の間に流れる電流値がピコアンメータ2によって測定された。ピコアンメータ2による電流値の測定結果は、ピコアンメータ2と通信可能に接続されたコンピュータ3に出力された。
【0039】
ガスセンサSaの一対の電極に所定の電圧が印加されているときに、窒素ガスタンク7から容器1の内部空間に窒素ガスが供給された。このとき、温度調節器4によって容器1の内部空間の温度が所定の温度に調節された。窒素ガスタンク7から排出された窒素ガスの全部または一部は、バブリング装置5を経由せずに容器1の内部空間に直接供給された。第一マスフローコントローラ6a及びストップバルブ8aによって、バブリング装置5を経由せずに容器1の内部空間に直接供給される窒素ガスの流量が調整された。一方、窒素ガスタンク7から排出された窒素ガスの一部は、バブリング装置5の内部に貯留された所定の液体に吹き込まれたうえで、容器1の内部空間に供給された。これにより、バブリング装置5に貯留された液体に由来する窒素ガス以外のガスが窒素ガスとともに容器1の内部空間に供給された。第二マスフローコントローラ6b及びストップバルブ8bによって、バブリング装置5の内部に貯留された所定の液体に吹き込まれる窒素ガスの流量(バブリング量)が調整された。なお、第一マスフローコントローラ6a及び第二マスフローコントローラ6bはそれぞれ、制御用電源(図示省略)に接続されていた。
【0040】
(測定例1)
200ml/分の窒素ガスを窒素ガスタンク7から容器1の内部空間に供給しながら、実施例1に係るガスセンサ(感ガス体用組成物の焼成温度:500℃)の性能を測定装置9によって測定した。バブリング装置5の内部に所定量のアセトンを貯留し、200ml/分の窒素ガスのうち、
図8の下方のグラフに示す流量の窒素ガスをバブリング装置5に貯留されたアセトンに断続的に吹き込んだ。バブリング量は、20ml/分、40ml/分、60ml/分、80ml/分、及び100ml/分と、段階的に増加させた。一対の電極間の電圧は100Vに設定した。容器1の内部空間の温度を温度調節器4によってそれぞれ30℃、50℃、及び70℃に調節した場合のそれぞれについてガスセンサの性能を測定した。
図8の上方のグラフは、ピコアンメータ2によって測定された一対の電極間の電流値の時間的変化を示す。
図8に示すように、容器1の内部空間に供給されるべき窒素ガスの一部がアセトンに吹き込まれたのに同期して、一対の電極間の電流値が増加した。このため、実施例1に係るガスセンサの感ガス体は、30℃、50℃、及び70℃において、検査対象ガスに含まれるアセトンに対して感応性を有することが示唆された。また、バブリング量が増えるに従って一対の電極間の電流値の増加幅が大きくなった。
【0041】
(測定例2)
感ガス体用組成物の焼成温度が200℃である実施例1に係るガスセンサを用いた以外は、測定例1と同様にしてガスセンサの性能を測定した。測定結果を
図9に示す。
図9の上方のグラフは、ピコアンメータ2によって測定された一対の電極間の電流値の時間的変化を示し、
図9の下方のグラフは、バブリング量の時間的変化を示す。この場合も、容器1の内部空間に供給されるべき窒素ガスの一部がアセトンに吹き込まれたのに同期して、一対の電極間の電流値が増加した。このため、感ガス体用組成物の焼成温度が200℃である実施例1に係るガスセンサの感ガス体は、30℃、50℃、及び70℃において、検査対象ガスに含まれるアセトンに対して感応性を有することが示唆された。測定例1の測定結果と測定例2の測定結果との対比から、感ガス体用組成物の焼成温度が高いと、ガスセンサの感ガス体の感応性が向上することが示唆された。
【0042】
(測定例3)
容器1の内部空間の温度を温度調節器4によって30℃に調節し、容器1の内部空間に供給される窒素ガスの流量及びバブリング量を調整して、実施例1に係るガスセンサ(感ガス体用組成物の焼成温度:500℃)の性能を測定装置9によって測定した。測定結果を
図10A及び
図10Bに示す。
図10Aの上方及び
図10Bのグラフにおける細い実線は、窒素ガスの流量が200mlであり、かつ、バブリング量を
図10Aの下方の実線のグラフに示す通り、20ml/分、40ml/分、60ml/分、80ml/分、及び100ml/分と、段階的に増加させた場合の一対の電極間の電流値の時間的変化を示す。
図10Aの上方及び
図10Bのグラフにおける太い実線は、窒素ガスの流量が1000mlであり、かつ、バブリング量を
図10Aの下方のグラフの実線に示す通り、20ml/分、40ml/分、60ml/分、80ml/分、及び100ml/分と、段階的に増加させた場合の一対の電極間の電流値の時間的変化を示す。
図10Aの上方及び
図10Bのグラフにおける破線は、窒素ガスの流量が200mlであり、かつ、バブリング量を
図10Aの下方のグラフの破線に示す通り、4ml/分、8ml/分、12ml/分、16ml/分、及び20ml/分と、段階的に増加させた場合の一対の電極間の電流値の時間的変化を示す。
【0043】
測定例3によれば、窒素ガスのバブリング量が比較的小さい場合でも、実施例1に係るガスセンサの感ガス体がアセトンに対して感応性を有することが示唆された。また、窒素ガスの流量が増えると窒素ガスのアセトンへの吹き込みの開始又は停止からより短い時間で一対の電極間の電流値が急激に(ステップ状に)変化し、実施例1に係るガスセンサの応答性が高まることが示唆された。
【0044】
(測定例4)
バブリング装置5の内部に所定量のエタノールを貯留し、
図11の下方のグラフに示す流量の窒素ガスをバブリング装置5に貯留されたエタノールに断続的に吹き込んだ以外は、測定例1と同様にして、実施例1に係るガスセンサ(感ガス体用組成物の焼成温度:500℃)の性能を測定装置9によって測定した。
図11の上方のグラフに示されるように、実施例1に係るガスセンサの感ガス体はエタノールに対してもある程度感応性を示すことが示唆された。また、バブリング装置5に貯留された液体がエタノールである場合の一対の電極間の電流値の変化量は、バブリング装置5に貯留された液体がアセトンである場合の一対の電極間の電流値の変化量よりも小さいので、実施例1に係るガスセンサは、ガス選択性を有し、アセトンに対して優れた感度を示すことが示唆された。
【0045】
(測定例5)
バブリング装置5の内部に所定量の水を貯留し、
図12の下方のグラフに示す流量の窒素ガスをバブリング装置5に貯留された水に断続的に吹き込んだ以外は、測定例1と同様にして、実施例1に係るガスセンサの性能を測定装置9によって測定した。
図12の上方のグラフに示されるように、実施例1に係るガスセンサの感ガス体は水(水蒸気)に対してもある程度感応性を示すことが示唆された。容器1の内部空間の温度が30℃に調節されているときに、実施例1に係るガスセンサの感ガス体の水(水蒸気)に対する感度が特に高いことが示唆された。
【0046】
(測定例6)
バブリング装置5の内部に所定量の水又は所定量の水とアセトンとの混合液(水:99質量%、アセトン:1質量%)を貯留し、
図13A及び
図13Bの下方のグラフに示す流量の窒素ガスをバブリング装置5に貯留された液体に断続的に吹き込んだ以外は、測定例1と同様にして、実施例1に係るガスセンサの性能を測定装置9によって測定した。なお、温度調節器4によって容器1の内部空間の温度を30℃に調節した。
図13A及び
図13Bの上方のグラフの実線は、バブリング装置5の内部に所定量の水を貯留した場合の一対の電極間の電流値の時間的変化を示し、
図13A及び
図13Bの上方のグラフの破線は、バブリング装置5の内部に水とアセトンとの混合液を貯留した場合の一対の電極間の電流値の時間的変化を示す。
図13A及び
図13Bに示すように、少量のアセトンと、水との混合液が貯留されている場合、バブリング装置5の内部に水のみが貯留された場合と比べて、一対の電極間の電流値の変化量が大きかった。このため、実施例1に係るガスセンサによれば、検査対象ガスに水蒸気が含まれアセトンが含まれていない場合と、検査対象ガスに水蒸気及びアセトンが含まれている場合とを区別できることが示唆された。
【0047】
図14は、一対の電極間の電流値の変化量と、バブリング量と容器1の内部空間に供給される窒素ガスの流量との体積比(バブリング量/容器1の内部空間に供給される窒素ガスの流量)との関係を示している。
図14において、バブリング装置5の内部に水のみが貯留された場合の結果が白抜き三角の印でプロットされ、バブリング装置5の内部に水とアセトンとの混合液(水:99質量%、アセトン:1質量%)を貯留した場合の結果が黒丸印でプロットされている。
図14に示すように、バブリング量が増加するほど、バブリング装置5の内部に水のみが貯留された場合の電流値の変化量とバブリング装置5の内部に水とアセトンとの混合液が貯留された場合の電流値の変化量との差が大きくなった。
【0048】
(測定例7)
容器1に水で濡らした紙を入れて、200ml/分の窒素ガスを窒素ガスタンク7から容器1の内部空間に供給しながら、実施例1に係るガスセンサ(感ガス体用組成物の焼成温度:500℃)の性能を測定装置9によって測定した。温度調節器4によって容器1の内部空間の温度を30℃に調節した。バブリング装置5の内部に所定量のアセトンを貯留し、200ml/分の窒素ガスのうち、
図15の下方のグラフに示す流量の窒素ガスをバブリング装置5に貯留されたアセトンに断続的に吹き込んだ。一対の電極間には2Vの電圧を印加した。
図15の上方のグラフは、ピコアンメータ2によって測定された一対の電極間の電流値の時間的変化を示す。
図15に示すように、容器1の内部空間に供給されるべき窒素ガスの一部がアセトンに吹き込まれたのに同期して、一対の電極間の電流値が増加した。実施例1に係るガスセンサの感ガス体は、一対の電極に印加される電圧が比較的小さくても、30℃において、アセトンに対して感応性を有することが示された。
【0049】
(測定例8)
200ml/分の窒素ガスを窒素ガスタンク7から容器1の内部空間に供給しながら、実施例2に係るガスセンサの性能を測定装置9によって測定した。バブリング装置5の内部に所定量のアセトンを貯留し、200ml/分の窒素ガスのうち、
図16の下方のグラフに示す流量の窒素ガスをバブリング装置5に貯留されたアセトンに断続的に吹き込んだ。一対の電極間の電圧は100Vに設定した。容器1の内部空間の温度を温度調節器4によって30℃に調節した。
図16の上方のグラフは、ピコアンメータ2によって測定された一対の電極間の電流値の変化を示す。
図16に示すように、容器1の内部空間に供給されるべき窒素ガスの一部がアセトンに吹き込まれたのに同期して、一対の電極間の電流値が増加した。このため、実施例2に係るガスセンサの感ガス体は、30℃において、検査対象ガスに含まれるアセトンに対して感応性を有することが示唆された。また、バブリング量が増えるに従って一対の電極間の電流値の増加幅が大きくなった。