(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6778035
(24)【登録日】2020年10月13日
(45)【発行日】2020年10月28日
(54)【発明の名称】体液中成分検出用試験片
(51)【国際特許分類】
G01N 33/52 20060101AFI20201019BHJP
G01N 33/64 20060101ALI20201019BHJP
G01N 31/00 20060101ALI20201019BHJP
【FI】
G01N33/52 B
G01N33/64
G01N31/00 T
G01N31/00 U
【請求項の数】11
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-136699(P2016-136699)
(22)【出願日】2016年7月11日
(65)【公開番号】特開2018-9795(P2018-9795A)
(43)【公開日】2018年1月18日
【審査請求日】2019年7月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】506372690
【氏名又は名称】古賀 震
(73)【特許権者】
【識別番号】390018153
【氏名又は名称】日本毛織株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083301
【弁理士】
【氏名又は名称】草間 攻
(72)【発明者】
【氏名】古賀 震
(72)【発明者】
【氏名】延谷 公昭
(72)【発明者】
【氏名】福井 慎二
【審査官】
海野 佳子
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭51−040980(JP,A)
【文献】
実開昭50−075692(JP,U)
【文献】
特開2012−107975(JP,A)
【文献】
特開2014−238337(JP,A)
【文献】
登録実用新案第3184660(JP,U)
【文献】
特開平01−224667(JP,A)
【文献】
米国特許第05330715(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48−33/98
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩基性試薬を添加させた第一部材と、
該第一部材と当接する、少なくともアルカリ性条件下に体液中成分と反応して呈色する体液成分検査試薬を添加させた第二部材と、
からなり、
前記第一部材と第二部材との当接を、第一部材の一部領域内に第二部材を組み入れるか、第二部材の一部領域内に第一部材を組み入れた封入構造、又は第一部材中若しくは第二部材中に第二部材若しくは第一部材により刻印を施した印字構造となるようにして当接させ、
前記第一部材側から吸収した体液が、アルカリ条件下に前記第二部材側に浸潤・移行することにより体液検査試薬との呈色反応を生じるようにしたことを特徴とする、体液中成分検出用試験片。
【請求項2】
前記第一部材及び第二部材が、織布、不織布、多孔質体、フィルムまたは紙材であるシート状部材である、請求項1に記載の体液中成分検出用試験片。
【請求項3】
前記第一部材中に添加させる塩基性試薬が、アルカリ金属又はアルカリ土類金属炭酸塩、若しくは、アルカリ金属又はアルカリ土類金属炭酸水素塩である、請求項1に記載の体液中成分検出用試験片。
【請求項4】
アルカリ金属又はアルカリ土類金属炭酸塩、若しくは、アルカリ金属又はアルカリ土類金属炭酸水素塩が、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム、炭酸カルシウム、炭酸水素カルシウムである、請求項3に記載の体液中成分検出用試験片。
【請求項5】
前記第二部材中に添加させる体液成分検査試薬が、ニトロプルシドナトリウムである請求項1に記載の体液中成分検出用試験片。
【請求項6】
前記第二部材中に添加させる体液成分検査試薬を、酸性条件下に含浸させた請求項5に記載の体液中成分検出用試験片。
【請求項7】
前記第二部材中に添加させる体液成分検査試薬に加え、更に耐光性試薬及び/又は耐熱性試薬を添加させたことを特徴とする請求項5又は6に記載の体液中成分検出用試験片。
【請求項8】
耐光性試薬が、カルバゾクロムスルホン酸ナトリウム、フラビンアデニンジヌクレオチドナトリウムであり、耐熱性試薬が酒石酸からなるものである請求項7に記載の体液中成分検出用試験片。
【請求項9】
体液中成分検出が尿中ケトン体の検出である、請求項1〜8のいずれかに記載の体液中成分検出用試験片。
【請求項10】
体液中成分検出が体液中に含まれる皮膚ガス中のケトン体としての検出である、請求項1〜8のいずれかに記載の体液中成分検出用試験片。
【請求項11】
脱水症状の早期推察、ダイエット効果の確認、糖尿病の早期推察のために使用することを特徴とする請求項1〜10のいずれかに記載の体液中成分検出用試験片。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、体液中成分検出用試験片に係り、特に、尿中のケトン体、或いは皮膚ガス成分としてのケトン体の有無を検出し、脱水症或いは脱水症状の早期推察、ダイエット効果の確認、糖尿病の早期診断等をなし得る体液中成分検出用試験片に関する。
【背景技術】
【0002】
医療上、脱水症を呈する疾患は非常に多く存在する。風邪や肺炎、インフルエンザなどに代表される主に発熱を伴う様々な感染症は、注意して十分な水分補給を行わないと気が付かないうちに脱水症になっていることがしばしば観察される。
また、感染性の胃腸炎、特にウイルス性胃腸炎であるノロウイルス感染症、ロタウイルス感染症などに罹患すると、嘔吐、下痢等の症状が強いために、水分が失われ、直ちに脱水症状に陥る。
【0003】
さらに、近年の温暖化現象に伴い、夏場になると、野外活動中の熱中症による脱水症状が多く、また、野外活動のみならず、室内でもエアコンの使用を制限し、熱気の侵入を防ぐために、閉めきった状態で扇風機等のみの使用による生活で、熱中症、脱水症になっていることが、しばしば報道されている。
このように、乾燥した環境や、閉鎖空間、暑熱環境下等における身体適応の障害、さらには発熱、嘔吐症、下痢症などの状況になると簡単に脱水症が引き起こされる。
【0004】
臨床の場では、このように種々の要因で体液が減少すると脱水症になるが、この脱水症は重篤になると、急性循環不全症、急性腎不全症、ショック、痙攣などの多臓器症状を併発し致命的になるために、迅速な検査、早期診断、および適切な治療を必要とする。
【0005】
一般的に医療の現場では、脱水症に罹患しているか否かの診断の一手段として、尿中ケトン体の有無を測定することが行われている。
ケトン体とは、肝臓内で生成された脂肪酸やアミノ酸から合成される成分(不完全代謝産物)であり、アセトン、アセト酢酸、β−ヒドロキシ酪酸の総称である。
このケトン体は、主に生命維持に欠かせない心臓や腎臓などの各種臓器のエネルギー源としての働きを有している。すなわち、基本的なエネルギー源は、グルコース(ブドウ糖)であるが、ケトン体は、このグルコースが何らかの障害や疾患で生成されなくなった場合に、その代用エネルギー源として生成するものである。
したがって、ケトン体は、主に体内のブドウ糖不足、糖代謝の異常など、生体が正常に機能していない時に生成されるものである。
【0006】
すなわち、血糖を表す指標である血糖値が異常に低い値を示すケースでは、エネルギー源としての糖分(グルコース)が不足することから、この場合には、肝臓で脂肪を分解して脂肪酸を生成し、この脂肪酸がエネルギー源として使用される。しかしながら、この脂肪酸の生成が一定量を超えてくると、新たにアセトン、アセト酢酸、β−ヒドロキシ酪酸が生成され、これらの成分がケトン体となっている。
かかるケトン体は、血液中の濃度が一定量以上になると、尿中に排泄され、尿のケトン体量も上昇することとなる。
したがって、脱水症状などにより十分なエネルギー源(グルコース)が身体に供給されない時にもケトン体が上昇することから、脱水症状を起こした際に、水分不足と共に血糖値が下がり、尿中ケトン体の上昇が観察されてくる。
このような観点から、尿中ケトン体の有無の確認は、脱水症状の診断の一つの手段として利用されているものである。
【0007】
これまでに、尿中ケトン体等の成分、尿pH等の検出試験紙として、尿との接触により変色するインジケーターを用いた、尿検査試験紙(ウロペーパー)(非特許文献1)が使用されている。
このウロペーパーは、尿との接触により試験試薬が反応し、変色することで、尿pH、尿糖、尿タンパクなどの検査ができるものとされ、そのなかでも、特に尿中ケトン体検出用のインジケーターとして、尿中ケトン体との接触により変色する、いわゆるニトロプルシド法によるウロペーパーが使用されている。
【0008】
ところで、一般的に医療機関で脱水症を診断するには、採尿することが不可欠であるが、現実的には、乳児・幼児などの小児、或いは高齢者患者からの採尿は極めて困難な状態にある。
そのため,例えば、尿中の成分を容易に検査し得る手段として、尿を分離採取する手段が提案されているが、操作が煩雑であり専門的な知識を有することが必要であることから、一般的に普及しにくい(特許文献1)。
一方、排尿した時のサインとして紙オムツの防水シートの内側に尿中の水分を検知し変色するラインや模様を設けて、目視で確認できる手段もあるが(特許文献2)、排尿を検知するのみであって、脱水症状の早期推察、ダイエットの効果確認、糖尿病の早期診断等の機能は有していない。
【0009】
様々な疾患の治療のために生体情報を種々の方法により取得することが行われており、上記した尿中ケトン体の検出もその一手段であるが、生体から得られるサンプル(生体サンプル)として、皮膚表面からの体液としての汗のケトン体(アセト酢酸)、或いは皮膚表面から放出されるガス(皮膚ガス)としてのケトン体(アセトン)も挙げられ、その検出も重要な生体情報のひとつと考えられる。
【0010】
特に、皮膚ガスは身体の健康状態を反映するものであり、ケトン体であるアセトンの検出は、糖尿病、飢餓状態、栄養失調、ダイエットなどの進行状態のメルクマール、すなわち健康モニター、或いは運動の計測モニターとなり得るものであって、「皮膚ガスアセトン分析装置」の提案がなされているが(特許文献3)、皮膚ガスである皮膚から放出させるアセトンを簡便に測定する体液中成分検出用試験片の開発はなされていないのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特許第4550192号掲載公報
【特許文献2】特開2004−229695号公報
【特許文献3】特許第5412609号掲載公報
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】日本臨床検査標準協議会(LCCLS)提案指針「尿試験紙検査法」(追補−版、2004年)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
したがって、本発明は、脱水症状を診断し得る、尿中ケトン体の有無を明瞭に検出し得る手段、或いは皮膚ガス成分としてのケトン体(アセトン)の有無を検出し、脱水症或いは脱水症状の早期推察、ダイエット効果の確認、糖尿病の早期診断等をなし得る体液中成分検出用試験片、及びその使用法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
かかる課題を解決するために本発明者は鋭意検討を加え、例えば尿中ケトン体、或いは皮膚ガスとしてのケトン体(アセトン)を検知できる検査インジケーターとして、ケトン体の検査成分であるニトロプルシドナトリウムの劣化を防止し得る構造体とすることにより、尿中ケトン体、或いは皮膚ガスとしてのケトン体(アセトン)との接触による呈色反応を鮮明に生じさせ、その呈色反応による変色を目視することにより、尿中ケトン体等の有無の検出が可能であることに着目し、その結果、本発明を完成させるに至った。
【0015】
すなわち、本発明は、その基本的態様として、
(1)塩基性試薬を添加させた第一部材と、
該第一部材と当接する、少なくともアルカリ性条件下に体液中成分と反応して呈色する体液成分検査試薬を添加させた第二部材と、
からなり、
前記第一部材側から吸収した体液が、アルカリ条件下に前記第二部材側に浸潤・移行することにより体液検査試薬との呈色反応を生じるようにしたことを特徴とする、体液中成分検出用試験片である。
【0016】
より具体的な態様として、本発明は、
(2)前記第一部材及び第二部材が、織布、不織布、多孔質体、フィルムまたは紙材であるシート状部材である、上記(1)に記載の体液中成分検出用試験片;
(3)前記第一部材と第二部材との当接を、両者を積層させた積層構造、第一部材の一部領域内に第二部材を組み入れるか、第二部材の一部領域内に第一部材を組み入れた封入構造、又は第一部材中若しくは第二部材中に第二部材若しくは第一部材により刻印を施した印字構造となるようにして当接したことを特徴とする、上記(1)又は(2)に記載の体液中成分検出用試験片;
(4)前記第一部材中に添加させる塩基性試薬が、アルカリ金属又はアルカリ土類金属炭酸塩、若しくは、アルカリ金属又はアルカリ土類金属炭酸水素塩である、上記(1)に記載の体液中成分検出用試験片;
(5)アルカリ金属又はアルカリ土類金属炭酸塩、若しくは、アルカリ金属又はアルカリ土類金属炭酸水素塩が、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム、炭酸カルシウム、炭酸水素カルシウムである、上記(4)に記載の体液中成分検出用試験片;
(6)前記第二部材中に添加させる体液成分検査試薬が、ニトロプルシドナトリウムである上記(1)に記載の体液中成分検出用試験片;
(7)前記第二部材中に添加させる体液成分検査試薬を、酸性条件下に含浸させた上記(6)に記載の体液中成分検出用試験片;
(8)前記第二部材中に添加させる体液成分検査試薬に加え、更に耐光性試薬及び/又は耐熱性試薬を添加させたことを特徴とする上記(6)又は(7)に記載の体液中成分検出用試験片;
(9)耐光性試薬が、カルバゾクロムスルホン酸ナトリウム、フラビンアデニンジヌクレオチドナトリウムであり、耐熱性試薬が酒石酸からなるものである上記(8)に記載の体液中成分検出用試験片;
である。
【0017】
また本発明は、
(10)体液中成分検出が尿中ケトン体の検出である、上記(1)〜(9)のいずれかに記載の体液中成分検出用試験片;
(11)体液中成分検出が皮膚ガス中のケトン体の検出である、上記(1)〜(9)のいずれかに記載の体液中成分検出用試験片;
である。
【0018】
さらにまた本発明は、
(12)脱水症状の早期推察、ダイエット効果の確認、糖尿病の早期推察のために使用することを特徴とする上記(1)〜(11)のいずれかに記載の体液中成分検出用試験片;
である。
【発明の効果】
【0019】
本発明が提供する体液中成分検出用試験片は、尿中ケトン体との接触による呈色反応を鮮明に生じさせ、その呈色反応による変色を目視することにより、尿中ケトン体等の有無の検出が可能であり、例えば、この試験片を紙オムツに応用することにより、採尿が極めて困難である乳児・幼児などの小児、或いは高齢者における尿中ケトン体の有無を、紙オムツの外部から目視的に検出し得るものであり、脱水症状の診断を迅速に行うことができ、脱水症状に対する適切な治療を施すことができる点で、その医療上の効果は特異的なものである。
【0020】
さらにまた、本発明が提供する体液中成分検出用試験片を、例えば粘着シート、或いはリストバンド等に応用することにより、皮膚ガスとしてのケトン体(アセトン)、或いは、汗中のケトン体(アセト酢酸)を検知することが可能となり、試験片による皮膚ガス等による変色を外部から目視的に検出し得るものであり、日常的に脱水症状の早期推察、ダイエット効果の確認、糖尿病の早期診断等をなし得る点で、その応用性は極めて多大なものであり、日ごろの健康管理に一助を与えるものである。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明の体液中成分検出用試験片の、一つの実施例に基づく断面拡大図である。
【
図2】本発明の体液中成分検出用試験片の、別の実施例に基づく断面拡大図である。
【
図3】本発明の体液中成分検出用試験片を応用した一例であり、粘着シートと組み合わせた試験片付絆創膏タイプの貼付シートの、試験片側からみた上面図である。
【
図5】
図3に示した試験片付粘着シートを紙オムツに応用した例として、紙オムツを広げた状態を示した斜視図である。
【
図6】本発明の体液中成分検出用試験片を応用した一例であるリストバンドの概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明は、上記したように、その基本的態様は、
塩基性試薬を添加させた第一部材と、
該第一部材と当接する、少なくともアルカリ性条件下に体液中成分と反応して呈色する体液成分検査試薬を添加させた第二部材と、
からなり、
前記第一部材側から吸収した体液が、アルカリ条件下に前記第二部材側に浸潤・移行することにより体液検査試薬との呈色反応を生じるようにしたことを特徴とする、体液中成分検出用試験片、
である。
【0023】
一般に、体液中成分としての尿中ケトン体を検出する試験紙として、臨床的に「ウロペーパー」が知られている。このウロペーパーは、ケトン体検出試薬であるニトロプルシドナトリウムを含浸させた試験紙であり、塩基性条件下でのケトン体との接触によりオキシムを生成し、このオキシムが紫色を呈するため、ケトン体の呈性反応として利用されているものである。
そのようなウロペーパーとして、例えば、ウロペーパーIIIK(栄研化学社製)などが市販されている。
【0024】
本発明者らの検討によれば、これらの市販のウロペーパーは、保存瓶から取り出し、そのまま空気中に数日間放置しただけで劣化をきたし、ケトン体との呈色反応を示さなくなる。したがって、ウロペーパー自体を体液中成分としての尿中ケトン体検査インジケーターとして利用することは、ほとんどできないものである。
そこで本発明者らは、ウロペーパーの検査試薬であるニトロプルシドナトリウムをアルカリ条件下で溶液とし、例えば不織布等へ含浸させた検査布としての尿検査試験片の作製を試みた。しかしながら、この場合であっても、乾燥条件下で空気中に数日間放置しただけでも劣化を来してしまい、試験片としてケトン体との呈色反応を示さなくなるものであった。
【0025】
このような状況を鑑み、本発明者らは鋭意検討を行い、体液中成分、具体的には尿中ケトン体検査試験片として、塩基性試薬を添加させた第一部材と、尿中ケトン体検出試薬であるニトロプルシドナトリウムを添加させた第二部材との複合部材として形成させ、第一部材と第二部材とを当接させることにより、体液との接触直前までニトロプルシドナトリウムをアルカリ性条件下とすることなく構成することにより、検査試験片としての呈色反応の劣化を防止し得ることを見出した。
したがって、本発明は、体液中成分、例えば尿中ケトン体を検知する検査試験片として、上記した第一部材と第二部材とからなる複合部材として構成した試験片とする点に特徴を有するものである。
【0026】
この場合の複合部材を構成する第一部材としては、織布、不織布、多孔質体、フィルムまたは紙材であるシート状部材であり、また、第二部材としては、織布、不織布、多孔質体、フィルムまたは紙材であるシート状部材であるのが好ましい。
【0027】
また、本発明の検出用試験片としての複合部材の形態は、例えば、第一部材と第二部材からなる積層構造体、いずれか一方の部材中に他の部材を包埋した包埋構造体、或いは、いずれか一方の部材中に他の部材を封入した封入構造体、更には、相互に織り、編み、撚り等による混合構造体の形態をとることができ、そのなかでも第一部材と第二部材からなる積層構造体を採るのが好ましい。
【0028】
したがって、本発明にいう「体液中成分検出用試験片」とは、「試験片」、すなわちテストピース(test piece)としてのデバイス、コンポーネント、或いはエレメント等の意味を有するものとして解釈される点に注意すべきである。
【0029】
複合部材を構成する第一部材中に含浸させる塩基性試薬としては、例えば体液としての尿、或いは汗との接触によりアルカリ性を呈するアルカリ金属又はアルカリ土類金属炭酸塩、若しくは、アルカリ金属又はアルカリ土類金属炭酸水素塩である塩基性試薬が挙げられ、具体的には、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム、炭酸カルシウム、炭酸水素カルシウム等を挙げることができる。
【0030】
その添加量としては、第一部材が体液(例えば、尿)と接触して、第二部材中に添加させた尿中ケトン体検出試薬であるニトロプルシドナトリウムとの呈色反応を生じさせ得るに十分な弱アルカリ性を保つpH9〜12程度の値となる量であればよく、pHが高くなるような量を添加させるのは、好ましいものではない。
【0031】
一方、第二部材中には、例えば、尿中ケトン体を検出するケトン体検査試薬であるニトロプルシドナトリウムを添加させているが、この第二部材は、外部からの光に直接晒されることによる劣化、或いは外部からの温度・湿度による劣化を防止する目的から、耐光性及び/又は耐熱・耐湿性を付与しておくことも好ましい。
そのような耐光性を付与する手段としては、例えば、カルバゾクロムスルホン酸ナトリウム、フラビンアデニンジヌクレオチドナトリウムの組み合わせからなるものを添加させておく手段を挙げることができる。
【0032】
なお、カルバゾクロムスルホン酸ナトリウムは、もともと黄色の試薬であるため、検査試薬の変色変化の確認を阻害する可能性もある。したがって、必ずしも添加させる必要は無く、また、添加させる場合には、その変色変化の確認を阻害しない量とするのがよい。
【0033】
耐熱・耐湿性の付与は、具体的には、季節による温度・湿度変化への対応を考慮したものであるが、このような耐熱・耐湿性を付与する手段として、例えば、酒石酸、クエン酸、リン酸等により、pHが1〜6程度となる酸性溶液を含ませることにより行う手段を挙げることができる。
【0034】
以上の様にして構成される本発明の体液中成分検査試験片は、体液(例えば、尿、汗等)との接触により、体液中に含まれる成分、例えば、ケトン体と検査試験薬が呈色反応を起こし、或いは、皮膚表面から放出される皮膚ガス(アセトン)と検査試験薬が呈色反応を起こし、体液中成分の存在の確認を認識し、脱水症或いは脱水症状の早期推察、ダイエット効果の確認、糖尿病の早期診断等ができるのである。
【実施例】
【0035】
以下に本発明の体液中成分検出用試験片を、図面に基づく実施例を参照しながら、詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではなく、種々の変法を行うことができ、かかる変法も、特許請求の範囲を逸脱しない限り、本願発明に包含されるものであることはいうまでもない。
【0036】
図1は、本発明が提供する体液中成分検出用試験片(以下、単に「試験片」と記す場合もある)の一実施例に基づく拡大断面図である。
図中において、試験片1は、第1部材101と、第二部材102からなる積層構造を有している。
第一部材101は、塩基性試薬を添加した織布、不織布、多孔質体、フィルム、または紙材であるシート状部材であり、第二部材102は、体液成分検出試薬、例えば、ケトン体検出試薬であるニトロプルシドナトリウムを添加させた織布、不織布、多孔質体、フィルム、または紙材であるシート状部材である。
【0037】
本実施例に基づく本発明の試験片は、第一部材101と第二部材102が、互いが接触(当接)した構造として積層されており、第一部材101側から体液と共に塩基性試薬を浸潤透過させ、第一部材101中に添加されている塩基性試薬により第二部材102のpHをアルカリサイドとし、添加されているケトン体検出試薬であるニトロプルシドナトリウムと、ケトン体との呈色反応が鮮明に生じ、第二部材102の変色を観察することで、体液中成分の存在を目視的に確認することができる。
【0038】
以下に本発明が提供する上記の試験片1のより具体的な例を示す。
90g/m
2の日本工業規格(JISP3801)No.1濾紙と、75g/m
2の炭酸ナトリウムを複合させて第1部材とした。
一方、90g/m
2の日本工業規格(JISP3801)No.1濾紙と、50g/m
2のグリシン、3g/m
2のニトロプルシドナトリウムを複合させて第二部材とした。
上記で得た第一部材と第二部材をそれぞれ1cm角とし、両者を積層させて試験片1を調製した。
【0039】
上記で得た試験片1を用いた他液中ケトン体検出の結果を示す。
すなわち、尿中にケトン体がない状態の正常の尿と試験片1との接触では、添加された試薬との反応が生ぜず、試験片1における色彩変化は生じない(陰性判定)ものであったが、尿中ケトン体が存在する場合には、当該ケトン体との接触により、試験片1の第二部材102中に含浸されているニトロプルシドナトリウムとの呈色反応により試験片1が紫色に変化し、ケトン体陽性との判定となった。
【0040】
図2に、本発明の別の実施例に基づく試験片を示した。
本実施例においては、試験片1は、塩基性試薬を添加した第一部材101中の一部領域内に、体液成分検出試薬、例えば、ケトン体検出試薬であるニトロプルシドナトリウムを添加させた第二部材102が組み入れられた構成となっている。
なお、第一部材101と第二部材102の組み入れは、上記と逆であるケトン体検出試薬であるニトロプルシドナトリウムを添加させた第二部材102中の一部領域に塩基性試薬を添加した第一部材101が組み入れられた構成となっていてもよく、かかる構成の状態を括弧内で示した。
【0041】
本実施例においても、先の実施例と同様に、第一部材101側から体液と共に塩基性試薬が第二部材102に浸潤透過され、第二部材102のpHがアルカリサイドとなり、添加されているケトン体検出試薬であるニトロプルシドナトリウムと、ケトン体との呈色反応が鮮明に生じ、第二部材102の変色を観察することで、体液中成分の存在を目視的に確認することができる。
【0042】
本発明が提供する体液中成分検出用試験片は、その態様として、上記した実施例に限定されるものではなく、他の態様として、例えば、第一部材101中若しくは第二部材102中に、第二部材102若しくは第一部材102により刻印、例えば、文字、図形等を施した印字構造となるようにして構成することもできる。
【0043】
以上の様にして構成される本発明の試験片を使用した応用例のいくつかを、図面を参照にしながら説明する。
【0044】
図3に、粘着テープに本発明の体液中成分検出用試験片(試験片)を組み合わせた、貼付機能を有する、いわゆる試験片付絆創膏タイプの貼付シートの、試験片側からみた上面図を示した。
すなわち、貼付シート20は、長方形のシートの粘着層21の中央部に、本発明の試験片1が積層された形態を有している。
図3においては、貼付シート20は横長の矩形(長方形)を有しているが、その形状は正方形、菱型形状、丸型形状、星型形状等の種々の形状を採用することができ、その大きさも、試験片1を超える貼付面を有する大きさであれば、特に限定させるものではなく、3〜6cm程度の大きさであれば良い。
【0045】
図4に
図3におけるA−A断面図を示した。
すなわち、貼付シート20は、伸縮性または非伸縮性であり、水分透過性または非透過性の支持体22の一面に粘着層21を設け、その粘着層21の中央部に本発明の試験片1が積層される形態を有している。
試験片1の積層は、貼付側に、例えば
図1に示した試験片の第一部材側となるよう積層するのがよく、その場合には、第一部材(塩基性試薬を添加させた第一部材)側を例えば多孔質シートで被覆し、貼付面である人体皮膚に対する刺激を抑制しておくのがよい。
【0046】
これらの粘着シート20における支持体22、粘着層22、多孔質シートとしては、一般的に貼付剤、パップ剤等の外用剤に一般的に使用されているものをそのまま応用することができる。
【0047】
図3に示した本発明の試験紙1を組み入れた貼付シート20は、その応用として、人体表面に貼付することにより、体液(汗)中のケトン体、或いは皮膚ガスによるアセトンの放出を試験片1の変色により認識し、例えば、スポーツジム等での運動による運動効果、ダイエット効果等を確認することができる。
【0048】
また、第5図に、
図3に示した本発明の試験片を設けた貼付シートを応用した一例として、紙オムツに貼りつけた状態を示した斜視図を示した。
図中、30は紙オムツを示し、本紙オムツは、紙オムツを構成する前面腹部側の吸収部31の排尿部位の近傍部分に
図3に示した本発明の試験片を設けた貼付シート20を貼付することにより構成されたものである。
この紙オムツへ本発明の試験紙を貼付することにより、オムツの交換時に尿中ケトン体の有無を検出することができ、脱水症状の早期推察をすることができる。
【0049】
さらに、
図3に示した貼付シート20の他の応用例として、尿漏れパッドへ貼着させることにより、尿中ケトン体の有無を検出することもできる。
なお、これら場合にあっては、
図3に示した貼付シート20を貼付すること以外に、本発明の試験片そのものを適宜貼付させる手段を用いて、紙オムツ或いは尿漏れパッドを構成させてもよいことはいうまでもない。
【0050】
また、本発明が提供する試験片自体を用いて、排尿時の体液中のケトン体の有無の検出についての応用例として、例えば、スティック状の細長の紙の先端に試験紙を組み込み、排尿時の尿と直接接触させることで、試験紙の色彩変化を観察し、脱水症状の早期推察をすることができる。
さらに、特に女性の場合には、排尿後の陰股部での尿のふき取りナプキン(ティッシュペーパー)類に組み込み、排尿時の尿と直接接触させることで、試験紙の色彩変化を観察し、脱水症状の早期推察をすることができる。
【0051】
また、本発明が提供する試験片の応用例として、皮膚ガス(アセトン)の検出としてのリストバンドに組み入れた例を、
図6として示した。
図6は、本発明の試験片1をアーム状バンド41の一部として設けたリストバンド400の斜視図である。
【0052】
当該リストバンド40を腕に装着し、例えばスポーツジム等での運動により皮膚ガスであるアセトンの放出を試験片1の変色により認識し、そのダイエット効果を確認することが可能となる。
更に皮膚の汗中に含まれるケトン体(アセト酢酸)を検出し得るものでもある。
皮膚ガスは身体の健康状態を反映し、皮膚ガスとしてのアセトンは、糖尿病、飢餓状態、栄養失調とのメルクマールとして放出されることより、リストバンドにおける試験片の変色を認識することで、脱水症状の早期推察、ダイエット効果の確認、糖尿病の早期診断等をなし得る。
【産業上の利用可能性】
【0053】
以上に説明したように、本発明により簡便な尿中ケトン体の有無を、外部から検出し得る尿中ケトン体検出用試験片を提供することができ、かかる試験片を応用することで、尿中ケトン体検出により脱水症状の有無を迅速に判断することができ、脱水状態に対する適切な治療を施すことができる点で、その医療上の効果は特異的なものである。
また本発明が提供する体液中成分検出用試験片は、ダイエット効果の確認、糖尿病の早期診断等を確認し得るものであり、産業上の利用性は多大なものである。
【符号の説明】
【0054】
1 体液中成分検出用試験片
101 第一部材
102 第二部材
20 試験片付粘着シート
21 粘着層
22 支持体
30 紙オムツ
31 吸収部
40 リストバンド
41 アーム状バンド