(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6778067
(24)【登録日】2020年10月13日
(45)【発行日】2020年10月28日
(54)【発明の名称】雲位置推定装置、雲位置推定方法及び雲位置推定プログラム
(51)【国際特許分類】
G01W 1/00 20060101AFI20201019BHJP
G01B 11/00 20060101ALI20201019BHJP
【FI】
G01W1/00 E
G01B11/00 H
【請求項の数】6
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2016-190579(P2016-190579)
(22)【出願日】2016年9月29日
(65)【公開番号】特開2018-54455(P2018-54455A)
(43)【公開日】2018年4月5日
【審査請求日】2019年6月17日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)「平成25年度、防衛省、委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願」
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】100090033
【弁理士】
【氏名又は名称】荒船 博司
(74)【代理人】
【識別番号】100093045
【弁理士】
【氏名又は名称】荒船 良男
(72)【発明者】
【氏名】小野村 陽一
(72)【発明者】
【氏名】板橋 由布
(72)【発明者】
【氏名】山根 章弘
【審査官】
伊藤 昭治
(56)【参考文献】
【文献】
特開2014−186004(JP,A)
【文献】
特開2014−048131(JP,A)
【文献】
特開2015−011014(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01W 1/00 − 1/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高所に設置された光学センサを用いて雲の位置を推定する雲位置推定装置であって、
前記光学センサは、鉛直方向と交差するセンサ方向に向けられ、雲を含む画像を取得し、
前記光学センサにより取得された画像に基づいて、当該画像上での水平及び鉛直の各方向における雲の範囲を算出する雲範囲算出手段と、
前記雲範囲算出手段により算出された前記画像上での雲の鉛直方向範囲、前記光学センサの高度、及び雲の存在可能高度に基づいて、高度と雲の発生しやすさとの関係を用いて、前記光学センサからの離隔距離に対する雲の存在確率分布を推定する雲分布推定手段と、
前記雲範囲算出手段により算出された前記画像上での雲の水平方向範囲と、前記雲分布推定手段により推定された前記光学センサからの離隔距離に対する雲の存在確率分布とに基づいて、前記画像上での水平方向及び前記センサ方向を含む平面内における雲の存在確率分布を生成する雲分布生成手段と、
を備え、
前記雲分布推定手段は、
前記光学センサの仰俯角と、前記画像上での雲の鉛直方向範囲と、前記光学センサの高度とに基づいて、前記光学センサと雲の最高高度点とを結ぶ直線を算出し、
前記直線を含む鉛直断面内で雲が存在し得る範囲として、前記直線と、地球の丸みを考慮した前記雲の存在可能高度とで囲まれる雲存在範囲を算出し、
前記雲存在範囲のうち前記直線上の位置の高度が低い部分ほど雲の存在確率が高くなるものとして、当該雲存在範囲内における前記光学センサからの離隔距離に対する雲の存在確率分布を算出することを特徴とする雲位置推定装置。
【請求項2】
前記光学センサは、移動体に搭載されて、取得時刻が互いに異なるとともに同一の雲を含んだ複数の画像を取得し、
前記雲範囲算出手段、前記雲分布推定手段及び前記雲分布生成手段により、前記複数の画像に対応する複数の前記平面内における雲の存在確率分布を生成し、
生成された複数の当該雲の存在確率分布を、より新しい画像に対応するものほど重み係数が大きくなるように重み付けして統合する雲分布統合手段を備えることを特徴とする請求項1に記載の雲位置推定装置。
【請求項3】
当該雲位置推定装置は、前記光学センサにより所定の対象の画像が取得された場合に、当該画像内に含まれる雲の位置を推定するものであることを特徴とする請求項1又は2に記載の雲位置推定装置。
【請求項4】
前記光学センサが航空機に搭載されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の雲位置推定装置。
【請求項5】
高所に設置された光学センサを用いて雲の位置を推定する雲位置推定方法であって、
前記光学センサとして、鉛直方向と交差するセンサ方向に向けられ、雲を含む画像を取得するものを用い、
雲位置推定装置が、
前記光学センサにより取得された画像に基づいて、当該画像上での水平及び鉛直の各方向における雲の範囲を算出する雲範囲算出工程と、
前記雲範囲算出工程で算出された前記画像上での雲の鉛直方向範囲、前記光学センサの高度、及び雲の存在可能高度に基づいて、高度と雲の発生しやすさとの関係を用いて、前記光学センサからの離隔距離に対する雲の存在確率分布を推定する雲分布推定工程と、
前記雲範囲算出工程で算出された前記画像上での雲の水平方向範囲と、前記雲分布推定工程で推定された前記光学センサからの離隔距離に対する雲の存在確率分布とに基づいて、前記画像上での水平方向及び前記センサ方向を含む平面内における雲の存在確率分布を生成する雲分布生成工程と、
を実行し、
前記雲分布推定工程では、
前記光学センサの仰俯角と、前記画像上での雲の鉛直方向範囲と、前記光学センサの高度とに基づいて、前記光学センサと雲の最高高度点とを結ぶ直線を算出し、
前記直線を含む鉛直断面内で雲が存在し得る範囲として、前記直線と、地球の丸みを考慮した前記雲の存在可能高度とで囲まれる雲存在範囲を算出し、
前記雲存在範囲のうち前記直線上の位置の高度が低い部分ほど雲の存在確率が高くなるものとして、当該雲存在範囲内における前記光学センサからの離隔距離に対する雲の存在確率分布を算出することを特徴とする雲位置推定方法。
【請求項6】
高所に設置された光学センサが取得した画像を用いて雲の位置を推定する雲位置推定プログラムであって、
前記光学センサは、鉛直方向と交差するセンサ方向に向けられ、雲を含む画像を取得するものであり、
雲位置推定装置を、
前記光学センサにより取得された画像に基づいて、当該画像上での水平及び鉛直の各方向における雲の範囲を算出する雲範囲算出手段、
前記雲範囲算出手段により算出された前記画像上での雲の鉛直方向範囲、前記光学センサの高度、及び雲の存在可能高度に基づいて、高度と雲の発生しやすさとの関係を用いて、前記光学センサからの離隔距離に対する雲の存在確率分布を推定する雲分布推定手段、
前記雲範囲算出手段により算出された前記画像上での雲の水平方向範囲と、前記雲分布推定手段により推定された前記光学センサからの離隔距離に対する雲の存在確率分布とに基づいて、前記画像上での水平方向及び前記センサ方向を含む平面内における雲の存在確率分布を生成する雲分布生成手段、
として機能させ、
前記雲分布推定手段は、
前記光学センサの仰俯角と、前記画像上での雲の鉛直方向範囲と、前記光学センサの高度とに基づいて、前記光学センサと雲の最高高度点とを結ぶ直線を算出し、
前記直線を含む鉛直断面内で雲が存在し得る範囲として、前記直線と、地球の丸みを考慮した前記雲の存在可能高度とで囲まれる雲存在範囲を算出し、
前記雲存在範囲のうち前記直線上の位置の高度が低い部分ほど雲の存在確率が高くなるものとして、当該雲存在範囲内における前記光学センサからの離隔距離に対する雲の存在確率分布を算出することを特徴とする雲位置推定プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学センサにより取得された画像を用いて雲の位置を推定する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
航空機に搭載された光学センサにより監視を行う際など、高所に設置された光学センサを使用して所定の対象の画像を取得する場合には、この対象と光学センサとの間に位置する雲が画像取得の障害となる。そのため、雲を回避して好適に画像取得を行えるように、できるだけ正確に雲の位置を把握する必要がある。
【0003】
雲の位置を検出するには気象レーダーを用いるのが一般的であるが、重量や消費電力の点から小型の航空機等には搭載が困難であることや、電波を発するため気象レーダーの位置を他者に把握される可能性があるといった問題がある。
【0004】
これに対し、例えば特許文献1に記載の技術では、雲を山や建造物などの参照物体と共に撮影し、得られた画像上で参照物体の高さと位置から雲の位置を推定することにより、気象レーダーを用いずに雲の位置を把握することが可能となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2015−11014号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1に記載の技術は、雲の位置を推定するための参照物体の存在が必須であるため、例えば撮影対象と雲しか存在しない洋上や高高度などでの画像取得時には適用できない。
【0007】
本発明は、上記課題を鑑みてなされたもので、雲の位置を推定するための参照物体を必要とすることなく、光学センサで取得した画像から好適に雲の位置を推定することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、高所に設置された光学センサを用いて雲の位置を推定する雲位置推定装置であって、
前記光学センサは、鉛直方向と交差するセンサ方向に向けられ、雲を含む画像を取得し、
前記光学センサにより取得された画像に基づいて、当該画像上での水平及び鉛直の各方向における雲の範囲を算出する雲範囲算出手段と、
前記雲範囲算出手段により算出された前記画像上での雲の鉛直方向範囲、前記光学センサの高度、及び雲の存在可能高度に基づいて、高度と雲の発生しやすさとの関係を用いて、前記光学センサからの離隔距離に対する雲の存在確率分布を推定する雲分布推定手段と、
前記雲範囲算出手段により算出された前記画像上での雲の水平方向範囲と、前記雲分布推定手段により推定された前記光学センサからの離隔距離に対する雲の存在確率分布とに基づいて、前記画像上での水平方向及び前記センサ方向を含む平面内における雲の存在確率分布を生成する雲分布生成手段と、
を備え
、
前記雲分布推定手段は、
前記光学センサの仰俯角と、前記画像上での雲の鉛直方向範囲と、前記光学センサの高度とに基づいて、前記光学センサと雲の最高高度点とを結ぶ直線を算出し、
前記直線を含む鉛直断面内で雲が存在し得る範囲として、前記直線と、地球の丸みを考慮した前記雲の存在可能高度とで囲まれる雲存在範囲を算出し、
前記雲存在範囲のうち前記直線上の位置の高度が低い部分ほど雲の存在確率が高くなるものとして、当該雲存在範囲内における前記光学センサからの離隔距離に対する雲の存在確率分布を算出することを特徴とする。
【0009】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の雲位置推定装置において、
前記光学センサは、移動体に搭載されて、取得時刻が互いに異なるとともに同一の雲を含んだ複数の画像を取得し、
前記雲範囲算出手段、前記雲分布推定手段及び前記雲分布生成手段により、前記複数の画像に対応する複数の前記平面内における雲の存在確率分布を生成し、
生成された複数の当該雲の存在確率分布を、より新しい画像に対応するものほど重み係数が大きくなるように重み付けして統合する雲分布統合手段を備えることを特徴とする。
【0011】
請求項3に記載の発明は、
請求項1又は2に記載の雲位置推定装置において、
当該雲位置推定装置は、前記光学センサにより所定の対象の画像が取得された場合に、当該画像内に含まれる雲の位置を推定するものであることを特徴とする。
【0012】
請求項4に記載の発明は、
請求項1〜3のいずれか一項に記載の雲位置推定装置において、
前記光学センサが航空機に搭載されていることを特徴とする。
【0013】
請求項5及び請求項6に記載の発明は、請求項1に記載の雲位置推定装置と同様の特徴を具備する雲位置推定方法及び雲位置推定プログラムである。
【発明の効果】
【0014】
請求項1に記載の発明によれば、光学センサで取得された画像上での水平及び鉛直の各方向における雲の範囲が算出され、算出された画像上での雲の鉛直方向範囲、光学センサの高度、雲の存在可能高度に基づいて、高度と雲の発生しやすさとの関係を用いて、光学センサからの離隔距離に対する雲の存在確率分布が推定される。そして、この光学センサからの離隔距離に対する雲の存在確率分布と、画像上での雲の水平方向範囲とに基づいて、当該画像上での水平方向とセンサ方向とを含む平面内における雲の存在確率分布が生成される。
したがって、雲の位置を推定するための参照物体の存在が必須であった従来と異なり、このような参照物体を必要とすることなく、光学センサで取得した画像から好適に雲の位置を推定することができる。
【0015】
請求項2に記載の発明によれば、移動体とともに移動する光学センサにより、取得時刻が互いに異なるとともに同一の雲を含んだ複数の画像が取得され、これら複数の画像に対応して、上記平面内における雲の存在確率分布が複数生成される。そして、生成された複数の当該雲の存在確率分布が、より新しい画像に対応するものほど重み係数が大きくなるように重み付けされつつ統合される。
したがって、過去のものとは異なる方向から取得された新たな画像に基づく雲の存在確率分布が、より確度の高い情報として過去のものに加えられるので、より正確に雲の位置を推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本実施形態における航空機の概略構成を示すブロック図である。
【
図2】雲位置推定処理の流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明に係る雲位置推定装置を航空機1に適用した場合の実施形態について、図面を参照して説明する。
【0018】
[構成]
まず、本実施形態における航空機1の構成について、
図1を参照して説明する。
図1は、航空機1の概略構成を示すブロック図である。
航空機1は、搭載された光学センサ14を用いて所定の監視対象の監視を行うものであり、より詳しくは、本発明に係る雲位置推定装置を具備することにより、監視対象の画像取得を妨げ得る雲の位置を推定してこれを回避しつつ好適に監視対象を監視可能に構成されたものである。
具体的には、
図1に示すように、航空機1は、飛行機構11と、操作部12と、機体センサ13と、光学センサ14と、記憶部16と、制御部18とを備えて構成されている。
【0019】
このうち、飛行機構11は、航空機1を飛行させるための機構であり、推進力を発生させる内燃機関(例えばジェットエンジン)や舵面駆動用のアクチュエータ等から構成されている。
操作部12は、パイロットに操作される操縦桿や各種操作キー等を備えており、これら操縦桿や各種操作キー等の操作状態に対応する信号を制御部18に出力する。
【0020】
機体センサ13は、航空機1の位置や飛行状態等を検出するための各種のセンサであり、レーダー,ジャイロセンサ,速度センサ,GPS(Global Positioning System)等を含んで構成されている。これらの機体センサ13は、制御部18からの制御指令に基づいて各種情報を取得し、その信号を制御部18へ出力する。
【0021】
光学センサ14は、監視対象を監視するためのものであり、図示しないジンバルに載置されて向きを変えられるように航空機1の機体に設けられている。この光学センサ14は、航空機1の機外の画像を取得し、取得した画像情報を制御部18に出力する。
【0022】
記憶部16は、航空機1の各種機能を実現するためのプログラムやデータを記憶するとともに、作業領域としても機能するメモリである。本実施形態においては、記憶部16は、雲位置推定プログラム160を記憶している。
雲位置推定プログラム160は、後述の雲位置推定処理を制御部18に実行させるためのプログラムである。
【0023】
制御部18は、航空機1の各部を中央制御する。具体的に、制御部18は、飛行機構11を駆動制御して航空機1の飛行を制御したり、機体センサ13や光学センサ14の動作を制御したりする他、記憶部16に記憶されているプログラムを展開し、展開されたプログラムと協働して各種処理を実行したりする。
【0024】
[動作]
続いて、雲位置推定処理を実行する際の航空機1の動作について説明する。
図2は、雲位置推定処理の流れを示すフローチャートであり、
図3及び
図4は、雲位置推定処理を説明するための図である。
【0025】
雲位置推定処理は、光学センサ14により監視対象の監視を行う際に、雲が自機(航空機1)と監視対象との間に介在して監視対象の画像取得が妨げられないように、雲の位置を推定する処理である。この雲位置推定処理は、例えばパイロットの操作等により当該雲位置推定処理の実行指示が入力されたときに、制御部18が記憶部16から雲位置推定プログラム160を読み出して展開することで実行される。
なお、ここでは、航空機1が飛行中であり、飛行物体である監視対象Tの監視をその水平方向の遠方から行っているものとする(
図3(a)参照)。
【0026】
図2に示すように、雲位置推定処理が実行されると、まず制御部18は、光学センサ14により監視対象Tの画像を取得する(ステップS1)。
具体的に、制御部18は、略水平方向に向けた光学センサ14のセンサ視軸Ax上に監視対象Tを捉えた状態(
図4(a)参照)で、当該光学センサ14により監視対象Tの画像を取得する。
なお、以下では、光学センサ14の向きに沿った方向(本実施形態では略水平方向)を「センサ方向」ということとする。
【0027】
次に、制御部18は、ステップS1で取得した画像上に監視対象Tの画像取得を妨げ得る雲が存在するか否かを判定し(ステップS2)、存在しないと判定した場合には(ステップS2;No)、上述のステップS1へ処理を移行して監視対象Tの画像取得を継続する。
なお、「監視対象Tの画像取得を妨げ得る雲」の条件については、特に限定されず、例えば監視対象Tと同程度の高度に位置する雲としてもよいし、画像上の全ての雲などとしてもよい。
【0028】
また、ステップS2において、ステップS1で取得した画像上に監視対象Tの画像取得を妨げ得る雲が存在すると判定した場合には(ステップS2;Yes)、制御部18は、この画像に基づいて、当該画像上での水平及び鉛直の各方向における当該雲の範囲を算出する(ステップS3)。
具体的には、
図3(a)に示すように、制御部18は、取得した画像から水平線HL近傍(
図3(a)では水平線HLよりも上方)の雲CLを、監視対象Tの画像取得を妨げ得るものとして抽出し、画像上での当該雲CLの水平方向範囲及び鉛直方向範囲を算出する。
【0029】
次に、制御部18は、光学センサ14からの離隔距離に対する雲の存在確率分布を推定する(ステップS4)。このステップでは、画像から直接得ることができない航空機1から雲CLまでの距離を、高度と雲の発生しやすさとの関係を用いて、雲の存在確率として推定する。
具体的には、
図3(b)に示すように、制御部18は、ステップS3で算出した画像上での雲CLの鉛直方向範囲(雲高)や、機体センサ13から得られる自機の高度AL、雲の存在可能高度(範囲)R等に基づいて、自機と雲CLの最高高度点とを含む鉛直断面における雲CLの存在確率分布を推定する。
より詳しくは、まず制御部18は、当該鉛直断面での光学センサ14の向き(つまり光学センサ14の仰俯角)と、画像上での雲CLの雲高と、自機の高度ALとから、自機と雲CLの最高高度点とを結ぶ直線Lを求める。次に、制御部18は、当該鉛直断面内で雲CLが存在し得る範囲として、この直線Lと、地表G(地球)の丸みを考慮した雲の存在可能高度Rとで囲まれる雲存在範囲EAを算出する。そして、一般に低高度の方が濃い雲が発生しやすいことから、制御部18は、雲存在範囲EAのうち上縁である直線L上の位置の高度が低い部分ほど雲CLの存在確率が高くなるものとして、当該雲存在範囲EA内における光学センサ14からの離隔距離に対する雲CLの存在確率分布を推定する。
なお、
図3(b)や後述の
図4(a),(b)では、雲CLの存在確率の高低をグラデーションの濃淡で示している。また、これらの図に二点鎖線で示した雲CLは、参考として示した当該雲CLの実際の位置であって、本実施形態の雲位置推定処理内においてこの位置が判明している訳ではない。
【0030】
次に、制御部18は、ステップS3で算出した雲CLの水平方向範囲と、ステップS4で推定した、光学センサ14からの離隔距離に対する雲CLの存在確率分布とを合成することにより、
図4(a)に示すように、画像上での水平方向とセンサ方向とを含む平面(本実施形態では略水平面)における雲CLの存在確率分布を表す雲分布マップMを生成する(ステップS5)。そして、制御部18は、生成した雲分布マップMを記憶部16に記憶させる。
こうして、ステップS1で取得された画像に対応する雲分布マップMが生成される。
【0031】
次に、制御部18は、ステップS1で取得した画像よりも過去に取得された画像に対応する雲CLの雲分布マップM(または後述の統合雲分布マップMI)が記憶部16に記憶されているか否かを判定し(ステップS6)、記憶されていないと判定した場合には(ステップS6;No)、上述のステップS1へ処理を移行して監視対象Tの画像取得を継続する。
【0032】
また、ステップS6において、ステップS1で取得した画像よりも過去に取得された画像に対応する雲CLの雲分布マップMが記憶部16に記憶されていると判定した場合には、制御部18は、新しいものほど存在確率が大きくなるように重み付けしつつ、複数の雲分布マップMを統合する(ステップS7)。
具体的には、
図4(b)に示すように、制御部18は、機体センサ13からの自機位置情報に基づいて自機の移動を加味しつつ、各位置で取得した画像に基づく雲CLの雲分布マップMを、より新しい画像に対応するものほど重み係数が大きくなるように重み付けして統合する。そして、制御部18は、統合されてできた雲分布マップMを、統合雲分布マップMIとして記憶部16に記憶させる。
こうして、取得時刻が互いに異なる複数の雲分布マップMが、時間により重み付けされつつ統合されることにより、より正確な雲CLの位置推定が可能となる。
【0033】
次に、制御部18は、パイロットによる終了指示の入力等により雲位置推定処理を終了させるか否かを判定する(ステップS8)。そして、制御部18は、雲位置推定処理を終了させないと判定した場合には(ステップS8;No)、上述のステップS1へ処理を移行して監視対象Tの画像取得を継続し、終了させると判定した場合には(ステップS8;Yes)、雲位置推定処理を終了させる。
【0034】
[効果]
以上のように、本実施形態によれば、光学センサ14で取得された画像上での水平及び鉛直の各方向における雲CLの範囲が算出され、算出された画像上での雲CLの雲高、航空機1(光学センサ14)の高度AL、雲の存在可能高度Rに基づいて、高度と雲の発生しやすさとの関係を用いて、光学センサ14からの離隔距離に対する雲CLの存在確率分布が推定される。そして、この光学センサ14からの離隔距離に対する雲CLの存在確率分布と、画像上での雲CLの水平方向範囲とに基づいて、当該画像上での水平方向とセンサ方向とを含む平面(本実施形態では略水平面)内における雲分布マップMが生成される。
したがって、雲の位置を推定するための参照物体の存在が必須であった従来と異なり、このような参照物体を必要とすることなく、光学センサ14で取得した画像から好適に雲CLの位置を推定することができる。
さらに、気象レーダーを必要とすることなく雲CLの位置を推定できるため、重量及び消費電力の低減や、気象レーダーが電波を発することにより自機位置が探知される可能性の抑制などを図ることができる。
【0035】
また、航空機1とともに移動する光学センサ14により、取得時刻が互いに異なるとともに同一の雲CLを含んだ複数の画像が取得され、これら複数の画像に対応する複数の雲分布マップMが生成される。そして、生成された複数の雲分布マップMが、より新しい画像に対応するものほど重み係数が大きくなるように重み付けされつつ統合され、統合雲分布マップMIが生成される。
したがって、過去のものとは異なる方向から取得された新たな画像に基づく雲CLの存在確率分布が、より確度の高い情報として過去のものに加えられるので、より正確に雲CLの位置を推定することができる。
【0036】
[変形例]
なお、本発明を適用可能な実施形態は、上述した実施形態に限定されることなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【0037】
例えば、上記実施形態では、光学センサ14のセンサ方向が略水平方向であることとしたが、当該センサ方向は鉛直方向と交差する方向であれば特に限定されない。
【0038】
また、複数の雲分布マップMを統合して統合雲分布マップMIを生成する際には、最新の雲分布マップMをその直前の雲分布マップMまたは統合雲分布マップMIに順次加えて当該統合雲分布マップMIを更新していくこととしてもよいし、3つ以上の雲分布マップMを生成してからこれらを同時に統合することとしてもよい。
【0039】
また、本発明に係る雲位置推定装置を航空機1に適用した場合を例に挙げて説明したが、本発明は高所に設置された光学センサを用いて雲の位置を推定する技術に広く適用可能である。
したがって、例えば、無人航空機に搭載した光学センサから送信されてくる画像情報を用いて地上設備で雲の位置推定を行うこととしてもよいし、光学センサを高い建造物の上部などに設置することとしてもよい。
【符号の説明】
【0040】
1 航空機
13 機体センサ
14 光学センサ
16 記憶部
160 雲位置推定プログラム
18 制御部
AL 自機の高度
CL 雲
EA 雲存在範囲
L 直線
M 雲分布マップ
MI 統合雲分布マップ
R 雲の存在可能高度