特許第6778086号(P6778086)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6778086チョコレート試料中のアレルゲンの検出方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6778086
(24)【登録日】2020年10月13日
(45)【発行日】2020年10月28日
(54)【発明の名称】チョコレート試料中のアレルゲンの検出方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/53 20060101AFI20201019BHJP
   G01N 33/543 20060101ALI20201019BHJP
【FI】
   G01N33/53 Q
   G01N33/543 521
   G01N33/543 541Z
【請求項の数】11
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2016-220029(P2016-220029)
(22)【出願日】2016年11月10日
(65)【公開番号】特開2018-77171(P2018-77171A)
(43)【公開日】2018年5月17日
【審査請求日】2019年9月12日
【微生物の受託番号】FERM  BP-10267
【微生物の受託番号】FERM  BP-10268
【微生物の受託番号】FERM  BP-11239
【微生物の受託番号】FERM  BP-11240
(73)【特許権者】
【識別番号】000113067
【氏名又は名称】プリマハム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107984
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 雅紀
(74)【代理人】
【識別番号】100102255
【弁理士】
【氏名又は名称】小澤 誠次
(74)【代理人】
【識別番号】100096482
【弁理士】
【氏名又は名称】東海 裕作
(74)【代理人】
【識別番号】100188352
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 一弘
(74)【代理人】
【識別番号】100131093
【弁理士】
【氏名又は名称】堀内 真
(74)【代理人】
【識別番号】100150902
【弁理士】
【氏名又は名称】山内 正子
(74)【代理人】
【識別番号】100141391
【弁理士】
【氏名又は名称】園元 修一
(74)【代理人】
【識別番号】100198074
【弁理士】
【氏名又は名称】山村 昭裕
(74)【代理人】
【識別番号】100145920
【弁理士】
【氏名又は名称】森川 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100096013
【弁理士】
【氏名又は名称】富田 博行
(72)【発明者】
【氏名】加藤 綾子
(72)【発明者】
【氏名】加藤 重城
【審査官】 三好 貴大
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2010/095469(WO,A1)
【文献】 特開2010−002369(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2016/0251703(US,A1)
【文献】 B. Keck-Gassenmeier,Determination of Peanut Traces in Food by a Commercially-Available ELISA Test,Food and Agricultural Immunology,1999年,Vol.11,pp.243-250
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48−33/98
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
変性及び未変性のアレルゲンを共に認識し、かつ異なるエピトープを認識する2種類のモノクローナル抗体を用いるチョコレート試料中のアレルゲンの検出方法であって、前記アレルゲンが小麦グリアジン又はAra h1であり、ゼラチンを添加した、非イオン性界面活性剤、チオ硫酸塩、及び陰イオン性界面活性剤を含み、かつ、トリス(3−ヒドロキシプロピル)フォスフィンを含まない抽出液を用いて前記チョコレート試料から変性及び未変性のアレルゲンを抽出することを特徴とするアレルゲンの検出方法。
【請求項2】
異なるエピトープを認識する2種類のモノクローナル抗体の少なくとも一つが、イムノクロマト法に用いられる金コロイドで標識されたモノクローナル抗体であることを特徴とする請求項1記載のアレルゲンの検出方法。
【請求項3】
ゼラチンの濃度が、0.001〜5%であることを特徴とする請求項1又は2記載のアレルゲンの検出方法。
【請求項4】
ゼラチンの濃度が、小麦アレルゲンを検出するときは0.001〜3%であり、落花生アレルゲンを検出するときは0.05〜5%であることを特徴とする請求項1又は2記載のアレルゲンの検出方法。
【請求項5】
ゼラチンがフィッシュゼラチンであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか記載のアレルゲンの検出方法。
【請求項6】
小麦グリアジンを認識するモノクローナル抗体として、ハイブリドーマ(FERM−BP−10267)が産生する抗小麦グリアジンモノクローナル抗体PGL1及びハイブリドーマ(FERM−BP−10268)が産生する抗小麦グリアジンモノクローナル抗体PGL2を用いることを特徴とする請求項1〜5のいずれか記載のアレルゲンの検出方法。
【請求項7】
Ara h1を認識するモノクローナル抗体として、ハイブリドーマ(FERM−BP−11239)が産生する抗落花生Ara h1モノクローナル抗体PAh1−4及びハイブリドーマ(FERM−BP−11240)が産生する抗落花生Ara h1モノクローナル抗体PAh1−5を用いることを特徴とする請求項1〜5のいずれか記載のアレルゲンの検出方法。
【請求項8】
変性及び未変性のアレルゲンを共に認識し、かつ異なるエピトープを認識する2種類のモノクローナル抗体を用いるチョコレート試料中のアレルゲンの検出方法であって、以下の工程(a)〜(h)を備える方法。
(a)チョコレート試料にゼラチンを添加した、非イオン性界面活性剤、チオ硫酸塩、及び陰イオン性界面活性剤を含み、かつ、トリス(3−ヒドロキシプロピル)フォスフィンを含まない抽出液を添加して、チョコレート含有抽出液を調製する工程;
(b)チョコレート含有抽出液を加熱して、変性及び未変性のアレルゲンが抽出された測定サンプルを調製する工程;
(c)測定サンプルに、金コロイド標識抗体と展開液とを添加してサンプル供試液を調製する工程;
(d)サンプル供試液中のアレルゲンが、変性及び未変性のアレルゲンを共に認識する金コロイド標識抗体と結合して抗原抗体複合体を形成する工程;
(e)サンプル供試液をイムノクロマトストリップに供試する工程;
(f)抗原抗体複合体がイムノクロマトストリップ上の展開支持体を毛細管現象により移動する工程;
(g)展開支持体上の所定位置に固定された、変性及び未変性のアレルゲンを共に認識し、金コロイド標識抗体と異なるエピトープを認識するモノクローナル抗体が抗原抗体複合体を捕捉する工程;
(h)所定位置において金コロイドが集積することにより現れる着色ラインによりアレルゲンを検出する工程;
【請求項9】
変性及び未変性のアレルゲンを共に認識するモノクローナル抗体に金コロイドを結合した金コロイド標識抗体と、変性及び未変性のアレルゲンを共に認識し、前記金コロイド標識抗体と異なるエピトープを認識するモノクローナル抗体が所定の位置に固定された展開支持体と、チョコレート試料からアレルゲンを抽出するためのゼラチンと、非イオン性界面活性剤、チオ硫酸塩、及び陰イオン性界面活性剤を含み、かつ、トリス(3−ヒドロキシプロピル)フォスフィンを含まない抽出液と、展開液とを備えることを特徴とするイムノクロマト用アレルゲンの検出キット。
【請求項10】
アレルゲンが小麦グリアジンであって、金コロイド標識抗体が、ハイブリドーマ(FERM−BP−10268)が産生する抗小麦グリアジンモノクローナル抗体PGL2であり、前記金コロイド標識抗体と異なるエピトープを認識するモノクローナル抗体が、ハイブリドーマ(FERM−BP−10267)が産生する抗小麦グリアジンモノクローナル抗体PGL1であることを特徴とする請求項9記載のイムノクロマト用小麦アレルゲンの検出キット。
【請求項11】
アレルゲンがAra h1であって、金コロイド標識抗体が、ハイブリドーマ(FERM−BP−11240)が産生する抗落花生Ara h1モノクローナル抗体PAh1−5であり、前記金コロイド標識抗体と異なるエピトープを認識するモノクローナル抗体が、ハイブリドーマ(FERM−BP−11239)が産生する抗落花生Ara h1モノクローナル抗体PAh1−4であることを特徴とする請求項9記載のイムノクロマト用落花生アレルゲンの検出キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゼラチンを添加した抽出液を用いてチョコレート試料中の変性及び未変性のアレルゲンを抽出することを特徴とするアレルゲンの検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自然環境の減少、車や工場などからの排気ガス、住宅事情等、或いは食べ物の変化など様々な要因により、現在では、3人に1人が何らかのアレルギー疾患をもつといわれている。特に、食物アレルギーは、食品中に含まれるアレルギー誘発物質(以下、「食物アレルゲン」という)の摂取が原因となる有害な免疫反応であり、皮膚炎、喘息、消化管障害、アナフィラキシーショック等を引き起こることが知られている。これらの症状は死に至ることもあることから、FAO/WHO合同食品規格委員会は、食物アレルゲンを含む可能性がある8種の原材料を含む食品について、それを含む旨の表示について合意し、加盟国で各国の制度に適した表示方法を検討することとした(1999年6月)。日本では過去の健康危害などの程度、頻度を考慮して重篤なアレルギー症状を起した実績のある24品目の食品について、その表示方法が定められた(2002年4月より施行)。その後、3品目の食品が追加され、2016年現在、合計27品目の表示方法が定められている。アレルギーを引き起こすおそれのある食品としては、卵類、牛乳類、肉類、魚類、甲殻類、軟体動物類、穀類、豆類、ナッツ類、果実類、野菜類、ビール酵母、ゼラチン等が知られている。
【0003】
上記の食物アレルゲンを迅速かつ簡易に検出するため、抗原抗体反応を利用して特定の抗原又は抗体よりなる被検出物質を検出する免疫測定法が広く用いられており、試料中の被検出物質に、蛍光物質等からなる標識物質により標識した抗体又は抗原を免疫反応により結合させ、結合した標識物質を測定する免疫測定法が採用されている。これらの免疫測定法では、競合型反応、サンドイッチ型反応が広く用いられており、サンドイッチ型反応を利用したイムノクロマトグラフィー法による(例えば、特許文献1参照)、アレルゲン検出キットが販売されている。
【0004】
一方、小麦アレルゲンとしては、グリアジン、グルテニン、グルテン、アルブミン、グロブリン等のタンパク質が知られているが、小麦属植物等の穀物に存在し、重篤なアレルギーを引き起こすおそれがあることが知られているグリアジンやグルテンを高精度に検出することがアレルゲン検査において特に求められている。また、落花生アレルゲンとしては、Ara h1等が知られている。
【0005】
本出願人は、変性剤及び還元剤を用いた抽出溶液を用いて食物アレルゲンを抽出し、金コロイドの崩壊に伴う非特異反応を抑え迅速かつ精度よくアレルゲンを検出することのできるイムノクロマト法(例えば、特許文献2参照)を提案している。また、2−メルカプトエタノールが2008年7月1日より毒物として指定されたことから、2−メルカプトエタノールを使用することなく、陰イオン性界面活性剤とチオ硫酸塩、又は、陰イオン性界面活性剤と非イオン性界面活性剤を用いて抽出した変性及び未変性のアレルゲンの測定サンプルを含む展開液を用い、金コロイドの集積の有無により、アレルゲンを検出するイムノクロマト法によるアレルゲンの検出方法(例えば、特許文献3参照)を提案している。これらの方法では、加熱した被検試料から小麦グリアジンをはじめとする各アレルゲンが十分に抽出され、精度と簡便さが飛躍的に向上している。
【0006】
一方、イムノクロマトグラフィー等に用いられるラテラルフロー用テストストリップにおいて、複合繊維材料に標識生体分子があまり強固に結合しないように、標識生体分子を塗布する前に複合繊維材料を予め親水処理しておくことが好ましく、かかる親水処理として、BSA、スキムミルク、カゼイン又はホスホリルコリン基等を有する合成高分子によるブロッキング処理が好ましいとされている(例えば、特許文献4参照)。
【0007】
また、固相担体試薬と標識試薬とから構成される免疫測定用試薬において、標識試薬には、牛血清アルブミン、ブロックエース、カゼイン、カゼイン加水分解物、スキムミルク、ゼラチン、コラーゲンペプチド、ラクトアルブミン、ラクトアルブミン加水分解物を含有することが好ましいとされている(例えば、特許文献5参照)。
【0008】
そしてまた、試料中の第一被検出物質及び第一被検出物質と異なる第二被検出物質を検出するためのイムノクロマトグラフ法用試験具であって、第一ブロッキング剤及び第一固定用物質によって前記第一判定領域が形成され、第一ブロッキング剤及び前記第二固定用物質によって前記第二判定領域が形成された後に、前記クロマトグラフ媒体の全体が第二ブロッキング剤を用いてブロッキングされる、イムノクロマトグラフ法用試験具において、第一ブロッキング剤又は第二ブロッキング剤がグロブリン、アルブミン、カゼイン、ゼラチン、スキムミルク、ポリビニルアルコール及びポリビニルピロリドンからなる群から選択される少なくとも一種である旨の記載がある(例えば、特許文献6参照)。
【0009】
さらに、市販のRIDAスクリーン・グリアジン(r−Biopharm社製)(例えば、非特許文献1参照)においては、マイクロタイターストリップのウェルを用いた抗原抗体反応によるグリアジン検出のキットの説明において、チョコレートを含む試料の検出に当たっては、ホモジナイズした試料と同量の脱脂粉乳(スキムミルク)を加えて混合する旨の記載がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平5−010950号公報
【特許文献2】特開2007−278773号公報
【特許文献3】国際公開WO2010/095469号パンフレット
【特許文献4】特開2012−089355号公報
【特許文献5】特開2016−136130号公報
【特許文献6】特許第462811号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】RIDAスクリーン・グリアジン(r−Biopharm社製)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明者らは、上述のとおり特段のブロッキング処理をする必要なく高精度に、各種アレルゲンを検出できる方法を開発しており、それらは、実用段階において高い評価を得ているが、チョコレート試料中の小麦アレルゲンや落花生アレルゲンの検出感度が低くなることがあるという事象について報告を受けている。
【0013】
本発明の課題は、チョコレート試料中の小麦アレルゲンや落花生アレルゲンの検出感度を高めることにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、チョコレート試料から小麦アレルゲンや落花生アレルゲン等のアレルゲンを抽出するための抽出液の組成について鋭意検討した。上記特許文献4には、コンジュゲートパッドとメンブレンとの界面付近に標識生体分子の集積が生じにくいラテラルフロー用テストストリップ等を提供することや、コンジュゲートパッドからメンブレンへの標識生体分子の移動をスムーズになしうるラテラルフロー用コンジュゲートパッドの製造方法を提供することを課題とし、複合繊維材料をコンジュゲートパッドの材料として用いる場合に、複合繊維材料に標識生体分子があまり強固に結合しないように、標識生体分子を塗布する前に複合繊維材料を予め親水処理しておくために、BSA(Bovine serum albumin:牛血清アルブミン)、スキムミルク、カゼイン又はホスホリルコリン基等が使用されているが、本発明においては、かかる問題は生じていない。
【0015】
上記特許文献5においては、標識試薬が、標識物質により標識されてなる物質と、及び固定化されていないタンパク質を含有し、前記タンパク質の含有量が前記標識試薬の重量に対して0.01〜2重量%である免疫測定用試薬についての記載がある。しかし、実施例において用いられている標識試薬は、0.5重量%の牛アルブミン含有リン酸緩衝液や、0.5重量%のスキムミルク含有リン酸緩衝液や、0.5重量%のゼラチン含有リン酸緩衝液が検討されているが、特定抗体タンパク質の検出においてのみ検討されている。
【0016】
また、上記市販のRIDAスクリーンにおいては、チョコレート等が試料である場合に、抽出溶媒に脱脂粉乳(スキムミルク)を添加する旨の記載があるが、スキムミルクを被検試料と同量添加する必要があること、2回のインキュベーションが必要であること等手順が複雑であって検出に時間がかかり、さらに2−メルカプトエタノールを使用することが必要であることから安全性にも問題がある。
【0017】
本発明者らは、市販されている安全性の高いキットの改良という制約の中、上記特許文献5や特許文献6におけるように固定用物質に添加するのではなく、特定の物質を抽出液に初めから含めることで簡便性に影響を与えないという条件において、様々な検討を行ってきた。最終的に、スキムミルク、BSA、牛(Bovine)ゼラチン、フィッシュ(Fish)ゼラチン等のタンパク質を試料の抽出液に添加することにより、チョコレート試料中の小麦アレルゲンや落花生アレルゲンの検出感度が高くなるということが確認された。ただし、かかる効果を奏する各タンパク質の濃度には顕著な差があり、スキムミルクやBSAと比較して非常に少量で検出感度の上昇をもたらす、ゼラチンが特に好適であるという結論に達し、本発明を完成するに至った。
【0018】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
[1]変性及び未変性のアレルゲンを共に認識し、かつ異なるエピトープを認識する2種類のモノクローナル抗体を用いるチョコレート試料中のアレルゲンの検出方法であって、前記アレルゲンが小麦グリアジン又はAra h1であり、ゼラチンを添加した抽出液を用いて前記チョコレート試料から変性及び未変性のアレルゲンを抽出することを特徴とするアレルゲンの検出方法。
[2]異なるエピトープを認識する2種類のモノクローナル抗体の少なくとも一つが、イムノクロマト法に用いられる金コロイドで標識されたモノクローナル抗体であることを特徴とする上記[1]記載のアレルゲンの検出方法。
[3]ゼラチンの濃度が、0.001〜5%であることを特徴とする上記[1]又は[2]記載のアレルゲンの検出方法。
[4]ゼラチンの濃度が、小麦アレルゲンを検出するときは0.001〜3%であり、落花生アレルゲンを検出するときは0.05〜5%であることを特徴とする上記[1]又は[2]記載のアレルゲンの検出方法。
[5]ゼラチンがフィッシュゼラチンであることを特徴とする上記[1]〜[4]のいずれか記載のアレルゲンの検出方法。
[6]小麦グリアジンを認識するモノクローナル抗体として、ハイブリドーマ(FERM−BP−10267)が産生する抗小麦グリアジンモノクローナル抗体PGL1及びハイブリドーマ(FERM−BP−10268)が産生する抗小麦グリアジンモノクローナル抗体PGL2を用いることを特徴とする上記[1]〜[5]のいずれか記載のアレルゲンの検出方法。
[7]Ara h1を認識するモノクローナル抗体として、ハイブリドーマ(FERM−BP−11239)が産生する抗落花生Ara h1モノクローナル抗体PAh1−4及びハイブリドーマ(FERM−BP−11240)が産生する抗落花生Ara h1モノクローナル抗体PAh1−5を用いることを特徴とする上記[1]〜[5]のいずれか記載のアレルゲンの検出方法。
[8]変性及び未変性のアレルゲンを共に認識し、かつ異なるエピトープを認識する2種類のモノクローナル抗体を用いるチョコレート試料中のアレルゲンの検出方法であって、以下の工程(a)〜(h)を備える方法。
(a)チョコレート試料にゼラチンを添加した抽出液を添加して、チョコレート含有抽出液を調製する工程;
(b)チョコレート含有抽出液を加熱して、変性及び未変性のアレルゲンが抽出された測定サンプルを調製する工程;
(c)測定サンプルに、金コロイド標識抗体と展開液とを添加してサンプル供試液を調製する工程;
(d)サンプル供試液中のアレルゲンが、変性及び未変性のアレルゲンを共に認識する金コロイド標識抗体と結合して抗原抗体複合体を形成する工程;
(e)サンプル供試液をイムノクロマトストリップに供試する工程;
(f)抗原抗体複合体がイムノクロマトストリップ上の展開支持体を毛細管現象により移動する工程;
(g)展開支持体上の所定位置に固定された、変性及び未変性のアレルゲンを共に認識し、金コロイド標識抗体と異なるエピトープを認識するモノクローナル抗体が抗原抗体複合体を捕捉する工程;
(h)所定位置において金コロイドが集積することにより現れる着色ラインによりアレルゲンを検出する工程;
[9]変性及び未変性のアレルゲンを共に認識するモノクローナル抗体に金コロイドを結合した金コロイド標識抗体と、変性及び未変性のアレルゲンを共に認識し、前記金コロイド標識抗体と異なるエピトープを認識するモノクローナル抗体が所定の位置に固定された展開支持体と、チョコレート試料からアレルゲンを抽出するためのゼラチンと抽出液と、展開液とを備えることを特徴とするイムノクロマト用アレルゲンの検出キット。
[10]アレルゲンが小麦グリアジンであって、金コロイド標識抗体が、ハイブリドーマ(FERM−BP−10268)が産生する抗小麦グリアジンモノクローナル抗体PGL2であり、前記金コロイド標識抗体と異なるエピトープを認識するモノクローナル抗体が、ハイブリドーマ(FERM−BP−10267)が産生する抗小麦グリアジンモノクローナル抗体PGL1であることを特徴とする上記[9]記載のイムノクロマト用小麦アレルゲンの検出キット。
[11]アレルゲンがAra h1であって、金コロイド標識抗体が、ハイブリドーマ(FERM−BP−11240)が産生する抗落花生Ara h1モノクローナル抗体PAh1−5であり、前記金コロイド標識抗体と異なるエピトープを認識するモノクローナル抗体が、ハイブリドーマ(FERM−BP−11239)が産生する抗落花生Ara h1モノクローナル抗体PAh1−4であることを特徴とする上記[9]記載のイムノクロマト用落花生アレルゲンの検出キット。
【発明の効果】
【0019】
本発明によると、チョコレート試料中のアレルゲンの検出感度を、チョコレートが含まれていない他試料中のアレルゲンの検出感度と同等に維持する又は高めることができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明のアレルゲンの検出方法としては、変性及び未変性のアレルゲンを共に認識し、かつ異なるエピトープを認識する2種類のモノクローナル抗体を用いるチョコレート試料中のアレルゲンの検出方法であって、前記アレルゲンが小麦グリアジン又はAra h1であり、ゼラチンを添加した抽出液を用いて前記チョコレート試料から変性及び未変性のアレルゲンを抽出するアレルゲンの検出方法であれば特に制限されず、上記アレルゲンは、小麦グリアジン又はAra h1である。上記小麦アレルゲンとしては、一般に小麦粉や小麦グルテンより得ることができる、分子内ジスルフィド結合を有する単量体タンパク質の混合物であって、水不溶性であるが70%エタノール(pH7.0)に溶解する小麦グリアジンを挙げることができる。また、ライ麦、大麦、エンバク等の各種穀類から得ることができる70%エタノール(pH7.0)に溶解するタンパク質を便宜上小麦グリアジンに含めることができる。また、上記小麦グリアジンには、上記小麦グリアジンと貯蔵タンパク質の一種であるグルテニンが相互作用することによって生成したグルテンが含まれる。上記落花生アレルゲンとしては、落花生の主要タンパク質であるAra h1を挙げることができる。
【0021】
本発明におけるチョコレート試料としては、チョコレート類及びチョコレート関連試料を挙げることができ、上記チョコレート類としては、「チョコレート類の表示に関する公正競争規約」(昭和46年3月29日、公正取引委員会告示第16号)における第2条に定めるチョコレート、準チョコレート、チョコレート菓子、準チョコレート菓子、カカオマス、ココアバター、ココアケーキ、ココアパウダー(ココア)及び調整ココアパウダー(調整ココア)として記載されているチョコレート製品を挙げることができる。また、市販されておらず他の製品の原材料として用いられるチョコレート様製品も、実質上上記チョコレート類の態様に含まれるものであれば、チョコレート試料に含めることができる。
【0022】
上記チョコレート関連試料としては、上記チョコレート類を含む可能性のある試料であれば特に制限されず、例えば、チョコレート類を製造するために用いられる装置を洗浄した洗浄水;該洗浄水を取り除くために使用されたすすぎ液;上記洗浄水の乾燥物、上記すすぎ液の乾燥物、チョコレート類を製造するために用いられる原料又はその飛散物、チョコレート類を製造するために使用された装置に残るカス、チョコレート類製造工程における沈殿物等の残留物、チョコレート類を包装した包装紙や包装容器における残留物等を(拭取り用)溶媒で拭き取った拭取り液;及びかかる拭取り液を溶媒に溶解することにより得られる拭取り溶液;などを挙げることができる。
【0023】
本発明における抽出液としては、チョコレート試料から変性及び未変性のアレルゲンを抽出することができる、ゼラチンが添加された抽出液であれば特に制限されず、上記ゼラチンとしては、動物の皮や骨に含まれるタンパク質である難溶性のコラーゲンを加熱処理した抽出物を挙げることができ、豚の皮や骨由来の豚ゼラチン、牛の皮や骨由来の牛ゼラチン、魚の鱗や皮由来のフィッシュゼラチンを例示することができる。また、アルカリ処理、酸処理、酵素処理等を行った、アルカリ処理ゼラチン、酸処理ゼラチン、コハク化ゼラチンやフタル化ゼラチン等の化学修飾ゼラチン、ゼラチンの加水分解物や酵素分解物等のゼラチン分解物なども使用することができる。なかでも低温で溶解状態を維持することができる性質を有し、低温(例えば、1℃から10℃)にて水溶液の状態を維持することができるフィッシュゼラチンを好適に挙げることができる。
【0024】
上記ゼラチンの濃度としては、0.001〜5%を挙げることができ、0.002〜3%がより好ましく、0.0025〜2.5%がさらに好ましい。小麦アレルゲンを検出する場合のゼラチンの濃度としては、0.001〜3%を挙げることができ、0.002%〜2.5%が好ましく、0.0025%〜2%がより好ましく、0.025%〜2%がさらに好ましく、0.025〜1.5%が特に好ましい。落花生アレルゲンを検出する場合のゼラチンの濃度としては、0.05〜5%を挙げることができ、0.1〜4%が好ましく、0.2〜3%がより好ましく、0.25〜2.5%がさらに好ましい。なお、本発明において濃度(%)は、w/v%を表す。
【0025】
上記抽出液としては、非イオン性界面活性剤、チオ硫酸塩、陰イオン性界面活性剤から選ばれる一種又は二種以上を含む水溶液を挙げることができ、かかる処方にすることにより、チョコレート試料に含まれるナッツ類、果実類、乳製品等の非チョコレート部原料における小麦グリアジンや落花生Ara h1の検出感度を高めることができる。
【0026】
上記非イオン性界面活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸アミド、ポリオキシエチレンアルキルアミン、ソルビタン脂肪酸エステル等を挙げることができ、具体的にはモノラウリン酸ポリオキシエチレンソルビタン(Tween20)、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアラート(Tween60)、ポリオキシエチレン(10)オクチルフェニルエーテル(TritonX−100)を好適に例示することができる。ゼラチン(溶液)添加前の抽出液中の上記非イオン性界面活性剤の濃度としては、0.01〜5.0%が好ましく、0.05〜3.0%がより好ましく、0.1〜2.5%がさらに好ましい。
【0027】
上記チオ硫酸塩としては、チオ硫酸ナトリウム、チオ硫酸カリウム、チオ硫酸アンモニウム等を挙げることができる。ゼラチン(溶液)添加前の抽出液中の上記チオ硫酸塩の濃度としては、0.01〜5.0%が好ましく、0.05〜1.0%がより好ましく、0.075%〜0.5%がさらに好ましく、0.08〜0.2%が特に好ましい。
【0028】
上記陰イオン性界面活性剤としては、高級アルコール硫酸エステル塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルリン酸エステル塩などを挙げることができ、具体的にはドデシル硫酸ナトリウム(Sodium Dodecyl Sulfate−SDS)を例示することができる。ゼラチン(溶液)添加前の抽出液中の上記陰イオン性界面活性剤の濃度としては、0.01〜1.0%が好ましく、0.05%〜0.5%がより好ましい。
【0029】
本発明における、チョコレート試料からゼラチンを添加した抽出液を用いて変性及び未変性の小麦グリアジンやAra h1のアレルゲンを抽出する手順としては、
(a)チョコレート試料に、ゼラチンを添加した抽出液を添加して、チョコレート含有抽出液を調製する工程;
(b)チョコレート含有抽出液を加熱して、変性及び未変性のアレルゲンが抽出された測定サンプルを調製する工程;
を備える手順を例示することができる。
【0030】
上記チョコレート試料に添加する、ゼラチンを添加した抽出液の量としては、チョコレート試料:抽出液(質量比)で0.1〜20:20が好ましく、0.2〜10:20がより好ましく、0.5〜5:20がさらに好ましく、0.8〜1.5:20が特に好ましい。
【0031】
上記チョコレート含有抽出液を加熱する時間としては、チョコレート試料から変性及び未変性のアレルゲンを抽出することができる限りにおいて特に制限されないが、例えば、100℃にて2〜20分間が好ましく、5〜15分間がより好ましく、8〜12分間がさらに好ましい。また、80℃にて30〜60分間や、90℃にて15〜45分間等の加熱時間によっても同等の効果を得ることができる。
【0032】
上記変性及び未変性のアレルゲンを共に認識し、かつ異なるエピトープを認識する2種類のモノクローナル抗体を用いるアレルゲンの検出方法としては、不溶性担体に結合したアレルゲンのエピトープを認識するモノクローナル抗体(本件第一抗体)と、前記第一抗体と異なるエピトープを認識する蛍光色素等を有する標識モノクローナル抗体(本件第二抗体)を用いるサンドイッチELISA法;や、標識物を結合した標識抗体(本件第1抗体)を移動相とし、前記標識抗体と異なるアレルゲンのエピトープを認識するモノクローナル抗体(本件第2抗体)を固定相とし、アレルゲンと上記標識抗体の複合体が移動して固定相の抗体に抗原抗体反応により結合することにより、着色ラインの有無等によりアレルゲンを検出することができるイムノクロマト法;が好ましい。
【0033】
上記イムノクロマト法における標識抗体としては、金コロイド標識抗体、白金コロイド標識抗体、銀コロイド標識抗体等の金属コロイド標識抗体や、ポリスチレン、スチレン−ブタジエン共重合体等の有機高分子を含むラテックス着色粒子を用いたラテックスコロイド標識抗体や、パーオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、β−D−ガラクトシダーゼ等を用いる酵素標識抗体を例示することができるが、本発明においては、上記モノクローナル抗体(本件第1抗体)に金コロイドを結合した金コロイド標識抗体を用いるイムノクロマト法によるアレルゲンの検出方法を好適に挙げることができる。
【0034】
上記金コロイド標識抗体を用いるイムノクロマト法の具体的な手順としては、
(c)測定サンプルに、金コロイド標識抗体と展開液とを添加してサンプル供試液を調製する工程;
(d)サンプル供試液中のアレルゲンが、変性及び未変性のアレルゲンを共に認識する金コロイド標識抗体と結合して抗原抗体複合体を形成する工程;
(e)サンプル供試液をイムノクロマトストリップに供試する工程;
(f)抗原抗体複合体がイムノクロマトストリップ上の展開支持体を毛細管現象により移動する工程;
(g)展開支持体上の所定位置に固定された、変性及び未変性のアレルゲンを共に認識し、金コロイド標識抗体と異なるエピトープを認識するモノクローナル抗体が抗原抗体複合体を捕捉する工程;
(h)所定位置において金コロイドが集積することにより現れる着色ラインによりアレルゲンを検出する工程;
を備える手順を例示することができる。
【0035】
上記金コロイド標識抗体の作製方法は従来公知の方法を含め特に制限されないが、例えば、pH9.0に調製した金コロイド溶液に、2mMホウ酸緩衝液(pH9.0)でモノクローナル抗体を溶解した溶液を加え、室温にて反応させた後、10%BSA溶液を加えてさらに反応させ、遠心分離する方法を挙げることができる。
【0036】
上記展開液としては、ウシ胎児血清(FBS)が含まれている溶液が好ましく、FBSが少なくとも10質量%含まれている展開液、好ましくは少なくとも20質量%含まれている展開液、より好ましくは少なくとも30質量%含まれている展開液、特に好ましくは少なくとも40質量%含まれている展開液、より一層好ましくは少なくとも50質量%、例えば50〜100質%含まれている展開液が望ましい。上記展開液におけるFBS濃度が10質量%未満の場合、非特異反応を生じやすくなるおそれがある。
【0037】
上記展開支持体は、上記金コロイド標識抗体と異なるエピトープを認識するモノクローナル抗体を含む緩衝液を、ニトロセルロースメンブレン等の支持体に直線状に塗布し乾燥させた後、ブロッキング処理することにより、抗体固定化メンブレンとして作製することができる。
【0038】
上記イムノクロマトストリップは、例えば、供試サンプルを担持させることができるガラスウール製のサンプルパッド等のサンプル用担体部、上記展開支持体、好ましくはこの展開支持体の他端に展開液を吸収するガラスウール製吸収パッド等の吸収体を順次連結することにより作製することができる。
【0039】
本発明における変性及び未変性の小麦グリアジンを共に認識できる抗小麦グリアジンモノクローナル抗体としては、未変性小麦グリアジン、還元カルボキシメチル化小麦グリアジン、0.1M酢酸可溶化小麦グリアジン、70%エタノール可溶化小麦グリアジン、及び変性剤で可溶化した小麦グリアジンを認識することができるモノクローナル抗体が好ましい。異なるエピトープを認識する2種類のモノクローナル抗体を組み合わせることで、特に有利にイムノクロマト法やサンドイッチELISA法を行うことができる。
【0040】
上記抗小麦グリアジンモノクローナル抗体の具体例としては、ハイブリドーマ(FERM−BP−10267)が産生する抗小麦グリアジンモノクローナル抗体PGL1や、ハイブリドーマ(FERM−BP−10268)が産生する抗小麦グリアジンモノクローナル抗体PGL2を挙げることができる。ハイブリドーマ(FERM−BP−10267)、及びハイブリドーマ(FERM−BP−10268)は、2005年2月24日付で独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センター(住所:茨城県つくば市東1−1−1つくばセンター中央第6)に受託されている。
【0041】
本発明における変性及び未変性のAra h1を共に認識できる抗落花生Ara h1モノクローナル抗体としては、変性及び未変性のAra h1を共に認識することができるモノクローナル抗体が好ましい。異なるエピトープを認識する2種類のモノクローナル抗体を組み合わせることで、特に有利にイムノクロマト法やサンドイッチELISA法を行うことができる。
【0042】
上記抗落花生Ara h1モノクローナル抗体の具体例としては、ハイブリドーマ(FERM−BP−11240)が産生する抗Ara h1タンパク質モノクローナル抗体PAh1−5や、ハイブリドーマ(FERM−BP−11239)が産生する抗Ara h1タンパク質モノクローナル抗体PAh1−4を挙げることができる。ハイブリドーマ(FERM−BP−11240)及びハイブリドーマ(FERM−BP−11239)は、2010年2月22日付で独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センターに受託されている。
【0043】
本発明のイムノクロマト用アレルゲンの検出キットとしては、変性及び未変性のアレルゲンを共に認識することができるモノクローナル抗体に前記の標識物を結合した標識抗体と、変性及び未変性のアレルゲンを共に認識し、前記標識物を結合した標識抗体と異なるアレルゲンエピトープを認識するモノクローナル抗体が所定の位置に固定された展開支持体と、チョコレート試料からアレルゲンを抽出するためのゼラチンと抽出液と、展開液と備えることを特徴とする検出キットであれば特に制限されないが、展開液を回収するための拭取り部をさらに備えることもでき、製造年月日から1年以上常温保存した場合においても、実用性に耐えうる精度・安定性を有するものが望ましい。また、例えば10倍濃度のキット用濃縮抽出液を作製する場合には、低温にて水溶液の状態を維持することができるフィッシュゼラチンをキット用濃縮抽出液に添加する、又は、フィッシュゼラチンの濃縮溶液をキットに含めることが好ましい。
【0044】
より好ましい態様の本発明のアレルゲン検出用キットとしては、前記イムノクロマト法におけるイムノクロマトストリップを挙げることができる。この場合、小麦及又は落花生における、異なるエピトープを認識する2種類のモノクローナル抗体の少なくとも一つを、イムノクロマト法に用いられる金コロイドで標識されたモノクローナル抗体とすることもできる。
【0045】
さらに、本発明のアレルゲン検出用キットを、小麦グリアジンと落花生Ara h1とを同時に検出することができるキットとすることもできる。例えば、上記標識抗体を、変性及び未変性の小麦グリアジンを共に認識することができるモノクローナル抗体に前記の標識物を結合した標識抗体と、変性及び未変性の落花生Ara h1を共に認識することができるモノクローナル抗体に前記の標識物を結合した標識抗体との2種類の標識抗体とし、上記展開支持体を、変性及び未変性の小麦グリアジンを共に認識し前記標識抗体と異なる小麦グリアジンエピトープを認識するモノクローナル抗体と、変性及び未変性の落花生Ara h1を共に認識し前記標識抗体と異なる落花生Ara h1エピトープを認識するモノクローナル抗体とが所定の位置に固定された展開支持体とすることにより、小麦アレルゲンと落花生アレルゲンとを同時に検出できるイムノクロマトストリップを備えるキットとすることができる。
【0046】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの例示に限定されるものではない。
【実施例】
【0047】
[実施例1]
[小麦アレルゲン検出用金コロイド標識抗体及びイムノクロマトストリップの作製]
(小麦アレルゲン検出用金コロイド標識抗体の作製)
2mMホウ酸緩衝液(pH9.0)で1mg/mLとなるように抗小麦グリアジンモノクローナル抗体PGL2溶液を調製した。次いで、あらかじめ0.2M炭酸カリウム溶液でpH9.0に調整した金コロイド溶液(シグマ社製)5mLに、上記抗小麦グリアジンモノクローナル抗体PGL2溶液を500μL加えて室温にて30分間反応した後、10%BSA溶液を635μL加えてさらに15分間反応させた。遠心分離を行い、1%BSA溶液でOD525=1.0になるよう調整し、小麦アレルゲン検出用金コロイド標識抗体とした。
【0048】
(小麦アレルゲン検出用抗体固定化メンブレンの作製)
PBSで4mg/mLとなるように抗小麦グリアジンモノクローナル抗体PGL1溶液を調製し、ニトロセルロースメンブレンに直線状に塗布し乾燥させた。その後、0.1%牛ゼラチン(シグマアルドリッチ社製)を含むTBS(Tris Buffered Saline)で37℃にて1時間ブロッキング後、TBSで洗浄し乾燥させ、小麦アレルゲン検出用抗体固定化メンブレンとした。
【0049】
(イムノクロマトストリップの組立)
上記各抗体固定化メンブレンに加えて、サンプル用担体部としてのガラスウール製サンプルパッド、液状サンプル吸収用のガラスウール製吸収パッドを別途用意し、サンプルパッド、抗体固定化メンブレン、吸収パッドの順に貼り付け、小麦アレルゲン検出用イムノクロマトストリップを作製した。
【0050】
[実施例2]
[各種チョコレートにおける小麦アレルゲンの検出感度]
現行キットに使用されている抽出液の濃度範囲の組成を用い、チョコレートの種類によって、イムノクロマト法での検出感度の相違が生じるか否かを検討した。
【0051】
1)抽出液の調製
0.2%Tween20、0.5%SDS、及び0.1%チオ硫酸ナトリウムを添加したPBS(phosphate buffered saline:リン酸緩衝生理食塩水、ダルベッコPBS(日水製薬株式会社製))溶液を、抽出液として調製した。
【0052】
2)小麦タンパク質の調製
小麦タンパク質は、小麦全粒粉(日本製粉株式会社製)を用い、「アレルギー物質を含む食品の検査方法について(参考)(平成26年3月26日、消費者庁)」に記載の標準品規格の方法に従い作製した粉末から調製した。
【0053】
3)小麦タンパク質添加チョコレート試料の調製
上記小麦タンパク質をミルクチョコレート及びホワイトチョコレートにそれぞれ添加した試料を調製した。ミルクチョコレート(株式会社明治製)及びホワイトチョコレート(株式会社明治製)を湯煎により溶解した各チョコレート液に小麦タンパク質を終濃度で0ppm、2ppm、10ppm、50ppmとなるように添加し、よく混合して均一化させることにより4種類の小麦タンパク質添加ミルクチョコレート試料、及び、4種類の小麦タンパク質添加ホワイトチョコレート試料を調製した。また、上記抽出液に小麦タンパク質を終濃度で0、2、10、50ppmとなるように添加し、4種類のチョコレート無添加小麦タンパク質標準溶液を調製した。
【0054】
4)測定サンプルの調製
上記4種類の小麦タンパク質添加ミルクチョコレート試料、4種類の小麦タンパク質添加ホワイトチョコレート試料、及び4種類のチョコレート無添加小麦標準溶液について、各1gを50mLの遠沈管に量り取り、上記抽出液19mLをそれぞれ加えて撹拌することにより、12種類のチョコレート試料含有抽出液を調製した。各チョコレート試料含有抽出液を沸騰水中で10分間加熱し、冷却遠心後、それぞれの上清を12種類の測定サンプルとして調製した。
【0055】
5)イムノクロマト法による検出の確認
上記小麦アレルゲン検出用金コロイド標識抗体20μLと、展開液としてFBS30μLとを、上記12種類の測定サンプル50μLにそれぞれ加えた供試液を、上記小麦アレルゲン検出用イムノクロマトストリップに供試した。結果を表1に示す。判定はラインの強い方から順に++、+、+w、+−と表記し、陰性を−と表記した(以下同じ)。
【0056】
【表1】
【0057】
(結果)
表1から明らかなとおり、小麦タンパク質添加ミルクチョコレート試料では、2ppm及び10ppmにおいて小麦グリアジンは陰性(−)であり、50ppmにおいて陽性(+−)であり検出限界が大幅に低下した。一方、小麦タンパク質添加ホワイトチョコレート試料では、チョコレート無添加小麦標準溶液同様に、50ppm及び10ppmにおいて小麦グリアジンは陽性(++)であり、2ppmにおいても陽性(+)であって、ホワイトチョコレートでは検出感度が低下しないことが確認された。
【0058】
(考察)
供試したミルクチョコレートの原材料は「砂糖、カカオマス、全粉乳、ココアバター、レシチン(大豆由来)、香料」であり、ホワイトチョコレートは「砂糖、全粉乳、ココアバター、植物油脂、乳糖、バターオイル、クリームパウダー、脱脂粉乳、乳たんぱく、レシチン(大豆由来)、香料」であった。ホワイトチョコレートにはチョコレート特有の茶褐色の色調の元となるカカオマスが含まれていないことから、カカオマス由来の成分が小麦グリアジンの検出感度の低下に大きく影響していると考えられた。
【0059】
[実施例3]
[抽出液への各種タンパク質添加による小麦アレルゲンの検出感度の改善効果]
抽出液に、スキムミルク(和光純薬工業社製)、BSA(シグマアルドリッチ社製)、フィッシュゼラチン(from cold water fish skin 40-50% in H2O、シグマアルドリッチ社製)、牛ゼラチン(シグマアルドリッチ社製)の4種のタンパク質を個別に添加することにより、ミルクチョコレートにおける小麦グリアジン検出感度を改善できるか否かを検討した。
【0060】
1)抽出液の調製
0.2%Tween20、0.1%チオ硫酸ナトリウム及び0.5%SDSを添加したPBS溶液に、
(a)スキムミルクを0%、0.5%、2.5%、又は5.0%となるように;
(b)BSAを0%、0.25%、1.25%、又は2.5%となるように;
(c)フィッシュゼラチンを0%、0.0025%、0.025%、0.25%、1.25%、又は2.5%となるように;あるいは、
(d)牛ゼラチンを0%、0.001%、0.01%、0.1%、0.5%、又は1.0%となるように;
それぞれ添加することにより、20種類の抽出液を調製した。
【0061】
2)小麦タンパク質添加チョコレート試料の調製
上記ミルクチョコレートを湯煎により溶解したミルクチョコレート液に小麦タンパク質を終濃度で50ppmとなるように添加し、よく混合して均一化させることにより50ppm小麦タンパク質添加ミルクチョコレート試料を調製した。また、小麦タンパク質を添加しない、小麦無添加ミルクチョコレート試料をコントロール(0ppm)として調製した。
【0062】
3)測定サンプルの調製
上記50ppm小麦タンパク質添加ミルクチョコレート試料及び小麦無添加ミルクチョコレート試料について、各1gを50mLの遠沈管に量り取り、上記20種類の抽出液19mLをそれぞれ加えて撹拌することにより、40種類のチョコレート試料含有抽出液を調製した。各チョコレート試料含有抽出液を沸騰水中で10分間加熱し、冷却遠心後、それぞれの上清を40種類の測定サンプルとして調製した。
【0063】
4)イムノクロマト法による検出の確認
前記小麦アレルゲン検出用金コロイド標識抗体20μLと、展開液としてFBS30μLとを、上記40種類の測定サンプル50μLにそれぞれ加えた供試液を、上記小麦アレルゲン検出用イムノクロマトストリップに供試した。結果を表2〜表5に示す。
【0064】
【表2】
【0065】
【表3】
【0066】
【表4】
【0067】
【表5】
【0068】
(結果)
表2〜5から明らかなとおり、小麦無添加ミルクチョコレートではすべて陰性で非特異的反応は認められなかった。
(a)表2から明らかなとおり、スキムミルク濃度が0%、0.5%のときは「+−」判定でありほとんど検出できなかった。スキムミルク濃度2.5%以上で「+」判定、5.0%で「++」判定であり検出感度が高かった。
(b)表3から明らかなとおり、BSA濃度が0%、0.25%のときは「+−」判定でありほとんど検出できなかった。BSA濃度1.25%以上で「+」判定、5.0%で「++」判定であり検出感度が高かった。
(c)表4から明らかなとおり、フィッシュゼラチン濃度が0%のときは「+−」判定でありほとんど検出できなかった。フィッシュゼラチン濃度0.025%以上で「++」判定であり検出感度が高かった。
(d)表5から明らかなとおり、牛ゼラチン濃度が0%のときは「+−」判定でありほとんど検出できなかった。牛ゼラチン濃度0.01%以上で「++」判定であり検出感度が高かった。
【0069】
(考察)
スキムミルクは、2.5%以上で「+」判定となり、5%以上で「++」となった。BSAは、1.25%以上で「+」となった。一方、フィッシュゼラチンは、0.0025%以上で「+w」判定であり、0.025%以上で「++」判定となった。また、牛ゼラチンは0.01%以上で「++」判定であった。フィッシュゼラチンでは、スキムミルクの200分の一の濃度で「++」となり、牛ゼラチンは、スキムミルクの500分の一の濃度で「++」となったことから、同じタンパク質であっても、チョコレート試料中の小麦グリアジンの検出感度を上げるために必要な濃度には顕著な差があることが確認され、スキムミルクよりもゼラチンにおいて検出感度の上昇効果が顕著に高いことが確認された。
【0070】
スキムミルクは吸湿性が非常に高いため、開封して長時間立つと固まりになりやすく、また、溶けにくくなることも周知である。前記文献において、スキムミルクがキットに添付されておらず、使用者が用意する記載になっているのもその点が理由かと思われる。また、スキムミルクは乳アレルゲンであり、特に粉末スキムミルクの場合は、飛散した粉末が検査キットに付着・混入することで、誤判定が起こる可能性があるためアレルゲン検査を実施する検査室には持ち込みが禁止されている場合もある。一方、ゼラチンは、スキムミルクやBSAと比較して、使用濃度が少なくて済み、粉末としてキットに含めることも可能であるが、水溶液や濃縮水溶液の態様でキットに含めることが好ましい。そしてまた、食品工場等ではアレルゲン検査を同時に複数項目実施することを考えても、特定原材料(卵、乳、小麦、そば、落花生、甲殻類)に指定されていないゼラチンを使用することが望ましいと考えられる。また、特にフィッシュゼラチンを使用した場合は、低温でも水溶性が維持できる点で、好適に用いることができる。
【0071】
[実施例4]
[フィッシュゼラチンを添加した抽出液による小麦アレルゲンの検出限界]
これまでの検討の結果から、検出感度が高かったフィッシュゼラチンを0.25%含む抽出液を使用する場合に、ミルクチョコレート中の小麦アレルゲンを検出できる限界濃度を検討した。
【0072】
1)抽出液の調製
0.2%Tween20、0.1%チオ硫酸ナトリウム及び0.5%SDSを添加したPBSに、フィッシュゼラチンを0%又は0.25%添加し、2種類の抽出液を調製した。
【0073】
2)小麦タンパク質添加ミルクチョコレート試料の調製
ミルクチョコレートを湯煎により溶解したミルクチョコレート液に小麦タンパク質を終濃度で0ppm、2ppm、5ppm、10ppm、20ppm、50ppmとなるようにそれぞれ添加し、よく混合して均一化させることにより6種類の小麦タンパク質添加ミルクチョコレート試料を調製した。
【0074】
3)測定サンプルの調製
上記6種類の小麦タンパク質添加ミルクチョコレート試料について、各1gを50mLの遠沈管に量り取り、上記2種類の抽出液19mLをそれぞれ加えて撹拌することにより、12種類のチョコレート試料含有抽出液を調製した。各チョコレート試料含有抽出液を沸騰水中で10分間加熱し、冷却遠心後、それぞれの上清を12種類の測定サンプルとして調製した。
【0075】
4)イムノクロマト法による検出の確認
上記小麦アレルゲン検出用金コロイド標識抗体20μLと、展開液としてFBS30μLとを、上記12種類の測定サンプル50μLにそれぞれ加えた供試液を、上記小麦アレルゲン検出用イムノクロマトストリップに供試した。結果を表6に示す。
【0076】
【表6】
【0077】
(結果)
表6から明らかなとおり、フィッシュゼラチンが0.25%の場合は小麦タンパク質濃度が2ppm(+w)〜50ppm(++)で陽性であった。これは、一般的なアレルゲン検査キットの検出感度と同等の検出感度である。一方、フィッシュゼラチンが0%の場合は、50ppm(+−)以外は検出できず陰性(−)であった。したがって、小麦グリアジンの検出感度の低下に大きく影響すると考えられる成分が含まれているチョコレートにおいても、フィッシュゼラチンが添加されている抽出液を用いることにより、小麦タンパク質が2ppm以上含まれている場合には小麦アレルゲンを検出できることが確認された。
【0078】
[実施例5]
[落花生アレルゲン検出用金コロイド標識抗体及びイムノクロマトストリップの作製]
(落花生アレルゲン検出用金コロイド標識抗体の作製)
2mMホウ酸緩衝液(pH9.0)で1mg/mLとなるように抗落花生Ara h1モノクローナル抗体PAh1−5溶液を調製した。次いで、あらかじめ0.2M炭酸カリウム溶液でpH9.0に調整した金コロイド溶液(シグマ社製)5mLに、上記抗落花生Ara h1モノクローナル抗体PAh1−5溶液を500μL加えて室温にて30分間反応した後、10%BSA溶液を635μL加えてさらに15分間反応させた。遠心分離を行い、1%BSA溶液でOD525=1.0になるよう調整し、落花生アレルゲン検出用金コロイド標識抗体とした。
【0079】
(落花生アレルゲン検出用抗体固定化メンブレンの作製)
PBSで4mg/mLとなるように抗落花生Ara h1モノクローナル抗体PAh1−4溶液を調製し、ニトロセルロースメンブレンに直線状に塗布し乾燥させた。その後、0.1%牛ゼラチンを含むTBSで37℃にて1時間ブロッキング後、TBSで洗浄し乾燥させ、落花生アレルゲン検出用抗体固定化メンブレンとした。
【0080】
(イムノクロマトストリップの組立)
上記各抗体固定化メンブレンに加えて、サンプル用担体部としてのガラスウール製サンプルパッド、液状サンプル吸収用のガラスウール製吸収パッドを別途用意し、サンプルパッド、抗体固定化メンブレン、吸収パッドの順に貼り付け、落花生アレルゲン検出用イムノクロマトストリップを作製した。
【0081】
[実施例6]
[ミルクチョコレートにおける落花生アレルゲンの検出感度]
1)抽出液の調製
実施例2−1)抽出液の調製と同様の手順で抽出液を調製した。
【0082】
2)落花生タンパク質の調製
落花生タンパク質は、バージニア種(千葉県産)を用い、「アレルギー物質を含む食品の検査方法について(参考)(平成26年3月26日、消費者庁)」に記載の標準品規格の方法に従い作製した粉末から調製した。
【0083】
3)落花生タンパク質添加チョコレート試料の調製
上記落花生タンパク質をミルクチョコレートに添加した試料を調製した。ミルクチョコレート(株式会社明治製)を湯煎により溶解したチョコレート液に落花生タンパク質を終濃度で0ppm、2ppm、10ppmとなるように添加し、よく混合して均一化させることにより3種類の落花生タンパク質添加ミルクチョコレート試料を調製した。また、上記抽出液に落花生タンパク質を終濃度で0、2、10ppmとなるように添加し、3種類のチョコレート無添加落花生タンパク質標準溶液を調製した。
【0084】
4)測定サンプルの調製
上記3種類の落花生タンパク質添加ミルクチョコレート試料及び3種類のチョコレート無添加落花生標準溶液について、各1gを50mLの遠沈管に量り取り、上記抽出液19mLをそれぞれ加えて撹拌することにより、6種類のチョコレート試料含有抽出液を調製した。各チョコレート試料含有抽出液を沸騰水中で10分間加熱し、冷却遠心後、それぞれの上清を6種類の測定サンプルとして調製した。
【0085】
5)イムノクロマト法による検出の確認
上記落花生アレルゲン検出用金コロイド標識抗体20μLと、展開液としてFBS30μLとを、上記6種類の測定サンプル50μLにそれぞれ加えた供試液を、上記落花生アレルゲン検出用イムノクロマトストリップに供試した。結果を表7に示す。判定はラインの強い方から順に++、+、+w、+−と表記し、陰性を−と表記した(以下同じ)。
【0086】
【表7】
【0087】
(結果)
表7から明らかなとおり、落花生タンパク質添加ミルクチョコレート試料では、2ppmにおいてAra h1は陰性(−)であり、10ppmにおいて何とか検出可能(+−)となり、チョコレート無添加落花生標準溶液に比べ検出限界が大幅に低下した。かかる結果は落花生アレルゲンの場合、通常の検査では2ppmまで検出できるのに対し、チョコレート中の落花生アレルゲンの検出においては、10ppm程度ないと検出が難しいという報告と一致した。
【0088】
[実施例6]
[抽出液へのゼラチン添加による落花生アレルゲンの検出感度の改善効果]
抽出液に、フィッシュゼラチン、牛ゼラチンを個別に添加することにより、ミルクチョコレートにおける落花生Ara h1検出感度を改善できるか否かを検討した。
【0089】
1)抽出液の調製
0.2%Tween20、0.1%チオ硫酸ナトリウム及び0.5%SDSを添加したPBS溶液に、
(e)フィッシュゼラチンを0%、0.25%、又は2.5%となるように;、あるいは
(f)牛ゼラチンを0%、0.1%、又は1.0%となるように;
それぞれ添加することにより、6種類の抽出液を調製した。
フィッシュゼラチンは、45%のゼラチン成分を含む試薬であるフィッシュゼラチン(シグマアルドリッチ社製)、を用いて、上記濃度となるように添加した。
【0090】
2)落花生タンパク質添加チョコレート試料の調製
上記ミルクチョコレートを湯煎により溶解したミルクチョコレート液に落花生タンパク質を終濃度で10ppmとなるように添加し、よく混合して均一化させることにより10ppm落花生タンパク質添加ミルクチョコレート試料を調製した。また、落花生タンパク質を添加しない、落花生無添加ミルクチョコレート試料をコントロール(0ppm)として調製した。
【0091】
3)測定サンプルの調製
上記10ppm落花生タンパク質添加ミルクチョコレート試料及び落花生無添加ミルクチョコレート試料について、各1gを50mLの遠沈管に量り取り、上記6種類の抽出液19mLをそれぞれ加えて撹拌することにより、12種類のチョコレート試料含有抽出液を調製した。各チョコレート試料含有抽出液を沸騰水中で10分間加熱して、冷却遠心後、それぞれの上清を12種類の測定サンプルとして調製した。
【0092】
4)イムノクロマト法による検出の確認
前記落花生アレルゲン検出用金コロイド標識抗体20μLと、展開液としてFBS30μLとを、上記12種類の測定サンプル50μLにそれぞれ加えた供試液を、上記落花生アレルゲン検出用イムノクロマトストリップに供試した。結果を表8及び9に示す。
【0093】
【表8】
【0094】
【表9】
【0095】
(結果)
表8及び9から明らかなとおり、落花生無添加ミルクチョコレートではすべて陰性で非特異的反応は認められなかった。
(a)表8から明らかなとおり、フィッシュゼラチン濃度が0%のときは「+−」判定でありほとんど検出できなかった。フィッシュゼラチン濃度0.25%以上で「+」判定、2.5%以上で「++」判定であり検出感度が高かった。
(d)表9から明らかなとおり、牛ゼラチン濃度が0%のときは「+−」判定でありほとんど検出できなかった。牛ゼラチン濃度が0.1%以上で「+w」判定、1.0%以上で「++」判定であり検出感度が高かった。以上の結果より、フィッシュゼラチン、牛ゼラチンが抽出液に含まれている場合において、ミルクチョコレートにおいて検出が阻害されず検出が可能であることが確認された。
【0096】
[実施例4]
[フィッシュゼラチンを添加した抽出液による落花生アレルゲンの検出限界]
これまでの検討の結果から、検出感度が高かったフィッシュゼラチンを2.5%含む抽出液を使用する場合に、ミルクチョコレート中の落花生アレルゲンを検出できる限界濃度を検討した。
【0097】
1)抽出液の調製
0.2%Tween20、0.1%チオ硫酸ナトリウム及び0.5%SDSを添加したPBSに、フィッシュゼラチンを0%又は2.5%添加し、2種類の抽出液を調製した。
【0098】
2)落花生タンパク質添加ミルクチョコレート試料の調製
ミルクチョコレートを湯煎により溶解したミルクチョコレート液に落花生タンパク質を終濃度で0ppm、2ppm、5ppm、10ppmとなるようにそれぞれ添加し、よく混合して均一化させることにより4種類の落花生タンパク質添加ミルクチョコレート試料を調製した。
【0099】
3)測定サンプルの調製
上記4種類の落花生タンパク質添加ミルクチョコレート試料について、各1gを50mLの遠沈管に量り取り、上記2種類の抽出液19mLをそれぞれ加えて撹拌することにより、8種類のチョコレート試料含有抽出液を調製した。各チョコレート試料含有抽出液を沸騰水中で10分間加熱し、冷却遠心後、それぞれの上清を8種類の測定サンプルとして調製した。
【0100】
4)イムノクロマト法による検出の確認
上記落花生アレルゲン検出用金コロイド標識抗体20μLと、展開液としてFBS30μLとを、上記8種類の測定サンプル50μLにそれぞれ加えた供試液を、上記落花生アレルゲン検出用イムノクロマトストリップに供試した。結果を表10に示す。
【0101】
【表10】
【0102】
(結果)
表10から明らかなとおり、フィッシュゼラチンが2.5%のときは落花生タンパク質濃度が2ppm(+w)まで検出が可能であった。これは、一般的なアレルゲン検査キットの検出感度と同等の検出感度であった。フィッシュゼラチンが0%のときは、10ppm以外は検出できず陰性であった。
【産業上の利用可能性】
【0103】
チョコレート試料中のアレルゲンを迅速かつ精度よく検出することのできる、本発明のアレルゲンの検出方法や、それに用いることができる本発明のイムノクロマト用アレルゲンの検出キットは、食品産業において特に有用である。