特許第6778088号(P6778088)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6778088
(24)【登録日】2020年10月13日
(45)【発行日】2020年10月28日
(54)【発明の名称】ゴム組成物およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 3/22 20060101AFI20201019BHJP
   C08K 3/04 20060101ALI20201019BHJP
   C08L 7/00 20060101ALI20201019BHJP
   C08L 9/00 20060101ALI20201019BHJP
   C08L 21/00 20060101ALI20201019BHJP
   C08L 21/02 20060101ALI20201019BHJP
【FI】
   C08J3/22CEQ
   C08K3/04
   C08L7/00
   C08L9/00
   C08L21/00
   C08L21/02
【請求項の数】3
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2016-226535(P2016-226535)
(22)【出願日】2016年11月22日
(65)【公開番号】特開2018-83875(P2018-83875A)
(43)【公開日】2018年5月31日
【審査請求日】2019年9月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003148
【氏名又は名称】TOYO TIRE株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】特許業務法人 ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】三浦 聡一郎
【審査官】 加賀 直人
(56)【参考文献】
【文献】 特開平06−287356(JP,A)
【文献】 特開2016−035030(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 3/22
C08K 3/04
C08L 7/00
C08L 9/00
C08L 21/00
C08L 21/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴムラテックス溶液およびカーボンブラック(A)含有スラリーを原料とするゴムウエットマスターバッチと、ゴムと、カーボンブラック(B)を含有するゴム組成物であって、
前記カーボンブラック(A)および(B)は、DBP吸収量が100〜150cm/100gで、かつヨウ素吸着量が110〜160mg/gであり、
前記ゴムウエットマスターバッチ中のゴム成分100重量部に対して、前記ゴムウエットマスターバッチ中のカーボンブラック(A)が、1〜35重量であり、
前記ゴム組成物中のゴム全成分100重量部に対して、前記ゴム組成物中のカーボンブラック(A)と(B)の合計が50重量部以上であることを特徴とするゴム組成物。
【請求項2】
前記ゴム組成物中のゴム成分が、天然ゴムおよび合成ジエン系ゴムのブレンドゴム成分であることを特徴とする請求項1記載のゴム組成物。
【請求項3】
前記ゴムラテックス溶液と前記カーボンブラック(A)含有スラリー溶液を混合して、カーボンブラック(A)含有ゴムラテックス溶液を製造する工程(i)と、
得られたカーボンブラック(A)含有ゴムラテックス溶液を凝固および乾燥して、ゴムウエットマスターバッチを製造する工程(ii)と、
得られたゴムウエットマスターバッチに、さらに、前記ゴムおよび前記カーボンブラック(B)を加えて、乾式混合する工程(iii)を含むことを特徴とする請求項1または2記載のゴム組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴム組成物およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、ゴム業界においては、カーボンブラックを含有するゴム組成物を製造する際の加工性やカーボンブラックの分散性を向上させるために、ゴムウエットマスターバッチを用いることが知られている。これは、カーボンブラックと分散溶媒とを予め一定の割合で混合し、機械的な力でカーボンブラックを分散溶媒中に分散させたカーボンブラック含有スラリー溶液と、ゴムラテックス溶液とを液相で混合し、その後、酸などの凝固剤を加えて凝固させたものを回収して乾燥するものである。
【0003】
ゴムウエットマスターバッチを用いる場合、カーボンブラックとゴムとを固相で混合して得られるゴムドライマスターバッチを用いる場合に比べて、カーボンブラックの分散性に優れるため、耐摩耗性や低発熱性などのゴム物性に優れるゴム組成物が得られることが知られている(特許文献1〜4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−224067号公報
【特許文献2】特開2007−203903号公報
【特許文献3】特開2006−225599号公報
【特許文献4】特開2006−169483号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一方、市場では、ゴム組成物を原料としたゴム製品(加硫ゴム)において、特に、小型トラック用のタイヤのトレッドゴムには、より低発熱性および耐摩耗性を有するものが求められているが、上記の特許文献のようなゴム組成物から得られた加硫ゴムは、当該特性を満足するものではなかった。
【0006】
本発明は、上記の実情に鑑みてなされたものであり、優れた低発熱性および耐摩耗性を有する加硫ゴムが得られるゴム組成物およびその製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、ゴムラテックス溶液およびカーボンブラック(A)含有スラリーを原料とするゴムウエットマスターバッチと、ゴムと、カーボンブラック(B)を含有するゴム組成物であって、前記ゴムウエットマスターバッチ中のゴム成分100重量部に対して、前記ゴムウエットマスターバッチ中のカーボンブラック(A)が、1〜35重量であり、前記ゴム組成物中のゴム全成分100重量部に対して、前記ゴム組成物中のカーボンブラック(A)と(B)の合計が50重量部以上であることを特徴とするゴム組成物、に関する。
【0008】
また、本発明は、前記ゴムラテックス溶液と前記カーボンブラック(A)含有スラリー溶液を混合して、カーボンブラック(A)含有ゴムラテックス溶液を製造する工程(i)と、得られたカーボンブラック(A)含有ゴムラテックス溶液を凝固および乾燥して、ゴムウエットマスターバッチを製造する工程(ii)と、得られたゴムウエットマスターバッチに、さらに、前記ゴムと前記カーボンブラック(B)を加えて、乾式混合する工程(iii)を含むことを特徴とする前記ゴム組成物の製造方法、に関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明のゴム組成物は、特定量(低充填量)のカーボンブラック(A)を含むゴムウエットマスターバッチと、ゴムと、カーボンブラック(B)を含有し、かつ前記カーボンブラック(A)および(B)の合計が一定量以上含有するものである。このような組成物とすることにより、前記ゴムウエットマスターバッチ中の前記カーボンブラック(A)は低充填量であるため、前記ゴム組成物中の前記カーボンブラック(B)は、前記ゴムウエットマスターバッチ中のゴム(の層)とは別に添加した前記ゴム(の層)に偏在すると推定される。よって、前記カーボンブラック(A)および(B)が、前記ゴム組成物のゴム成分(ゴムマトリックス)全体に均一に分散でき、前記ゴム組成物から得られた加硫ゴムの低発熱性および耐摩耗性が向上するものと推定される。
【0010】
また、特定のDBP吸収量(ジブチルフタレート吸収量)およびヨウ素吸着量を有するカーボンブラック(A)および(B)を用いることで、当該カーボンブラックと前記ゴム組成物中のゴム成分とのバウンドラバー量が増大することにより、前記ゴム組成物から得られた加硫ゴムの耐摩耗性がさらに向上するものと推定される。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<ゴム組成物>
本発明のゴム組成物は、ゴムラテックス溶液およびカーボンブラック(A)含有スラリーを原料とするゴムウエットマスターバッチと、ゴムと、カーボンブラック(B)を含有する。また、ゴム組成物は、各種配合剤を適宜組み合わせて含有させることができる。
【0012】
<ゴムウエットマスターバッチ>
前記ゴムウエットマスターバッチは、前記ゴムラテックス溶液および前記カーボンブラック(A)含有スラリーを液相で混合し、乾燥してなるものである。
【0013】
前記ゴムラテックス溶液としては、天然ゴムラテックス溶液および合成ゴムラテックス溶液を使用することができる。
【0014】
前記天然ゴムラテックス溶液は、植物の代謝作用による天然の生産物であり、特に分散溶媒が水である、天然ゴム/水系のものが好ましい。天然ゴムラテックス中の天然ゴムの数平均分子量は、200万以上であることが好ましく、250万以上であることがより好ましい。天然ゴムラテックス溶液については、濃縮ラテックスやフィールドラテックスといわれる新鮮ラテックスなど区別なく使用できる。また、合成ゴムラテックス溶液としては、例えば、イソプレンゴム(IR)、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)、ブタジエンゴム(BR)、ニトリルゴム(NBR)、クロロプレンゴム(CR)などの合成ジエン系ゴムを乳化重合により製造したものが挙げられる。ゴムラテックス溶液は、単独で用いてもよく2種類以上を併用してもよい。
【0015】
前記カーボンブラック(A)含有スラリーは、カーボンブラック(A)を分散溶媒中で分散させたものである。
【0016】
前記カーボンブラック(A)としては、例えば、SAF、ISAF、HAF、FEF、GPFなど、通常のゴム工業で使用されるカーボンブラックの他、アセチレンブラックやケッチェンブラックなどの導電性カーボンブラックを使用することができる。カーボンブラック(A)は、通常のゴム工業において、そのハンドリング性を考慮して造粒された、造粒カーボンブラックであってもよく、未造粒カーボンブラックであってもよい。カーボンブラック(A)は、単独で用いてもよく2種類以上を併用してもよい。
【0017】
前記カーボンブラック(A)は、DBP吸収量(ジブチルフタレート吸収量)が100〜150cm/100gで、かつヨウ素吸着量が110〜160mg/gであることが好ましい。カーボンブラック(A)は、加硫ゴムの耐摩耗性が優れる観点から、DBP吸収量が110〜140cm/100gであることがより好ましく、そして、ヨウ素吸着量が120〜150mg/gであることが好ましい。
【0018】
前記分散溶媒としては、特に水を使用することが好ましいが、例えば、有機溶媒を含有する水であってもよい。分散溶媒は、単独で用いてもよく2種類以上を併用してもよい。
【0019】
前記カーボンブラック(A)含有スラリー中の、カーボンブラック(A)の濃度は、特に限定されず、例えば、1〜20重量%でもよく、3〜10重量%でもよい。
【0020】
なお、ゴムウエットマスターバッチには、前記ゴムラテックス溶液および前記カーボンブラック(A)含有スラリー以外に、所望に応じて、例えば、界面活性剤、酸化亜鉛、ステアリン酸、老化防止剤、ワックスやオイルなどの軟化剤、加工助剤などの通常ゴム工業で使用される配合剤を配合してもよい。
【0021】
<ゴム>
前記ゴムは、前記ゴムウエットマスターバッチ由来のゴム成分とは別に使用されるものである。前記ゴムとしては、例えば、天然ゴム(NR)や、イソプレンゴム(IR)、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)、ブタジエンゴム(BR)、クロロプレンゴム(CR)、ニトリルゴム(NBR)などの合成ジエン系ゴムが挙げられる。ゴムは、単独で用いてもよく2種類以上を併用してもよい。
【0022】
本発明のゴム組成物では、前記ゴム組成物中のゴム成分(前記ゴムラテックス溶液由来のゴム成分と前記ゴム)が、天然ゴムおよび合成ジエン系ゴムのブレンドゴム成分であることが好ましい。特に、加硫ゴムの低発熱性および耐摩耗性が優れる観点から、ゴムラテックス溶液由来のゴム成分が天然ゴムであり、前記ゴムが合成ジエン系ゴムであることが好ましい。合成ジエン系ゴムとしては、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)、ブタジエンゴム(BR)が好ましい。
【0023】
<カーボンブラック(B)>
前記カーボンブラック(B)としては、前記カーボンブラック(A)と同様のものが挙げられる。前記カーボンブラック(B)は、単独で用いてもよく2種類以上を併用してもよい。また、前記カーボンブラック(B)と前記カーボンブラック(A)は、同一の種類であってもよく、異なっていてもよい。
【0024】
以下、本発明のゴム組成物の各成分の配合量について説明する。
【0025】
前記ゴムウエットマスターバッチにおいて、前記ゴムウエットマスターバッチ中のカーボンブラック(A)は、前記ゴムウエットマスターバッチ中のゴム成分100重量部に対して、1〜35重量である。前記ゴムウエットマスターバッチ中のカーボンブラック(A)は、加硫ゴムの低発熱性および耐摩耗性が優れる観点から、前記ゴムウエットマスターバッチ中のゴム成分100重量部に対して、3〜30重量部であることがより好ましい。
【0026】
前記ゴム組成物において、前記ゴム組成物中のゴム全成分100重量部に対して、前記ゴム組成物中の、前記カーボンブラック(A)と(B)の合計が50重量部以上である。前記ゴム組成物中の、前記カーボンブラック(A)と(B)の合計は、加硫ゴムの低発熱性および耐摩耗性が優れる観点から、前記ゴム組成物中のゴム全成分100重量部に対して、55重量部以上であることが好ましく、そして、100重量部以下であることが好ましく、80重量部以下であることがより好ましい。
【0027】
前記ゴム組成物において、前記カーボンブラック(A)の含有割合は、加硫ゴムの耐摩耗性を高める観点から、前記ゴム組成物に含まれる前記カーボンブラック(A)と(B)の合計中、1〜25重量%であることが好ましく、3〜20重量%であることがより好ましい。
【0028】
前記ゴム組成物において、前記ゴム組成物中のゴム成分が、天然ゴムおよび合成ジエン系ゴムのブレンド成分である場合、前記天然ゴムは、前記ブレンドゴム成分中、20〜50重量%であることが好ましく、30〜45重量%であることがより好ましい。
【0029】
<各種配合剤>
前記ゴム組成物では、さらに、各種配合剤を用いることができる。使用可能な配合剤としては、例えば、硫黄系加硫剤、加硫促進剤、老化防止剤、シリカ、シランカップリング剤、酸化亜鉛、メチレン受容体およびメチレン供与体、ステアリン酸、加硫促進助剤、加硫遅延剤、有機過酸化物、ワックスやオイルなどの軟化剤、加工助剤などの通常ゴム工業で使用される配合剤が挙げられる。
【0030】
前記硫黄系加硫剤としての硫黄は、通常のゴム用硫黄であればよく、例えば、粉末硫黄、沈降硫黄、不溶性硫黄、高分散性硫黄などを用いることができる。硫黄系加硫剤は、単独で用いてもよく2種類以上を併用してもよい。
【0031】
前記硫黄の含有量は、ゴム組成物に含まれるゴム成分100重量部に対して0.3〜6.5重量部であることが好ましい。硫黄の含有量が0.3重量部未満であると、加硫ゴムの架橋密度が不足してゴム強度などが低下し、6.5重量部を超えると、特に耐熱性および耐久性の両方が悪化する。加硫ゴムのゴム強度を良好に確保し、耐熱性と耐久性をより向上するためには、硫黄の含有量がゴム組成物に含まれるゴム成分100重量部に対して1.0〜5.5重量部であることがより好ましい。
【0032】
前記加硫促進剤としては、通常のゴム用加硫促進剤であればよく、スルフェンアミド系加硫促進剤、チウラム系加硫促進剤、チアゾール系加硫促進剤、チオウレア系加硫促進剤、グアニジン系加硫促進剤、ジチオカルバミン酸塩系加硫促進剤などが挙げられる。加硫促進剤は、単独で用いてもよく2種類以上を併用してもよい。
【0033】
前記加硫促進剤の含有量は、ゴム組成物に含まれるゴム成分100重量部に対して1〜5重量部であることが好ましい。
【0034】
前記老化防止剤としては、通常のゴム用老化防止剤であればよく、芳香族アミン系老化防止剤、アミン−ケトン系老化防止剤、モノフェノール系老化防止剤、ビスフェノール系老化防止剤、ポリフェノール系老化防止剤、ジチオカルバミン酸塩系老化防止剤、チオウレア系老化防止剤などが挙げられる。老化防止剤は、単独で用いてもよく2種類以上を併用してもよい。
【0035】
前記老化防止剤の含有量は、ゴム組成物に含まれるゴム成分100重量部に対して1〜5重量部であることが好ましい。
【0036】
<ゴム組成物の製造方法>
以下に、本発明のゴム組成物の製造方法について具体的に説明する。かかる製造方法は、前記ゴムラテックス溶液と前記カーボンブラック(A)含有スラリー溶液を混合して、カーボンブラック含有ゴムラテックス溶液を製造する工程(i)と、得られたカーボンブラック(A)含有ゴムラテックス溶液を凝固および乾燥して、ゴムウエットマスターバッチを製造する工程(ii)と、得られたゴムウエットマスターバッチに、さらに、前記ゴムおよび前記カーボンブラック(B)を加えて、乾式混合する工程(iii)を含む。
【0037】
<工程(i)>
本発明の工程(i)では、前記ゴムラテックス溶液と前記カーボンブラック(A)含有スラリー溶液を混合して、カーボンブラック(A)含有ゴムラテックス溶液を製造する。
【0038】
前記カーボンブラック(A)含有スラリーは、前記カーボンブラック(A)を前記分散溶媒中で分散させたものである。特に、本発明においては、前記工程(i)が、前記カーボンブラック(A)を前記分散溶媒中に分散させる際に、前記ゴムラテックス溶液の少なくとも一部を添加することにより、ゴムラテックス粒子が付着したカーボンブラック(A)を含有するスラリー溶液を製造する工程(i−(a))、および得られたゴムラテックス粒子が付着したカーボンブラック(A)を含有するスラリー溶液と、残りのゴムラテックス溶液とを混合して、ゴムラテックス粒子が付着したカーボンブラック(A)含有ゴムラテックス溶液を製造する工程(i−(b))を含むことが好ましい。以下に、工程(i−(a))および工程(i−(b))について説明する。
【0039】
<工程(i−(a))>
本発明の工程(i−(a))では、前記カーボンブラック(A)を前記分散溶媒中に分散させる際に、前記ゴムラテックス溶液の少なくとも一部を添加することにより、ゴムラテックス粒子が付着したカーボンブラック(A)を含有するスラリー溶液を製造する。前記ゴムラテックス溶液は、あらかじめ前記分散溶媒と混合した後、前記カーボンブラック(A)を添加し、分散させても良い。また、前記分散溶媒中に前記カーボンブラック(A)を添加し、次いで所定の添加速度で、前記ゴムラテックス溶液を添加しつつ、前記分散溶媒中で前記カーボンブラック(A)を分散させても良く、あるいは前記分散溶媒中に前記カーボンブラック(A)を添加し、次いで何回かに分けて一定量の前記ゴムラテックス溶液を添加しつつ、前記分散溶媒中で前記カーボンブラック(A)を分散させても良い。前記ゴムラテックス溶液が存在する状態で、前記分散溶媒中に前記カーボンブラック(A)を分散させることにより、前記ゴムラテックス粒子が付着したカーボンブラック(A)を含有するスラリー溶液を製造することができる。前記工程(i−(a))におけるゴムラテックス溶液の添加量としては、使用するゴムラテックス溶液の全量(工程(i−(a))および工程(i−(b))で添加する全量)に対して、0.075〜12重量%が例示される。
【0040】
前記工程(i−(a))では、添加するゴムラテックス溶液のゴム成分の量が、カーボンブラック(A)との重量比で0.25〜15%であることが好ましく、0.5〜6%であることが好ましい。また、添加するゴムラテックス溶液中のゴム成分の濃度が、0.2〜5重量%であることが好ましく、0.25〜1.5重量%であることがより好ましい。これらの場合、ゴムラテックス粒子をカーボンブラック(A)に確実に付着させつつ、カーボンブラック(A)の分散度合いを高めたゴムウエットマスターバッチを製造することができる。
【0041】
前記工程(i−(a))において、前記ゴムラテックス溶液の存在下で、前記カーボンブラック(A)および前記分散溶媒を混合する方法としては、例えば、高せん断ミキサー、ハイシアーミキサー、ホモミキサー、ボールミル、ビーズミル、高圧ホモジナイザー、超音波ホモジナイザー、コロイドミルなどの一般的な分散機を使用してカーボンブラックを分散させる方法が挙げられる。
【0042】
前記「高せん断ミキサー」とは、ローターとステーターとを備えるミキサーであって、高速回転が可能なローターと、固定されたステーターと、の間に精密なクリアランスを設けた状態でローターが回転することにより、高せん断作用が働くミキサーを意味する。このような高せん断作用を生み出すためには、ローターとステーターとのクリアランスを0.8mm以下とし、ローターの周速を5m/s以上とすることが好ましい。このような高せん断ミキサーは、市販品を使用することができ、例えば、SILVERSON社製「ハイシアーミキサー」が挙げられる。
【0043】
本発明においては、前記ゴムラテックス溶液の存在下で、前記カーボンブラック(A)および前記分散溶媒を混合し、前記ゴムラテックス粒子が付着したカーボンブラック(A)を含有するスラリー溶液を製造する際、前記カーボンブラック(A)の分散性向上のために界面活性剤を添加しても良い。界面活性剤としては、ゴム業界において公知の界面活性剤を使用することができ、例えば、非イオン性界面活性剤、アニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、両イオン系界面活性剤などが挙げられる。また、界面活性剤に代えて、あるいは界面活性剤に加えて、エタノールなどのアルコールを使用しても良い。ただし、界面活性剤を使用した場合、最終的な加硫ゴムのゴム物性が低下することが懸念されるため、界面活性剤の配合量は、ゴムラテックス溶液のゴム成分100重量部に対して、2重量部以下であることが好ましく、1重量部以下であることがより好ましく、実質的に界面活性剤を使用しないことが好ましい。
【0044】
<工程(i−(b))>
本発明の工程(i−(b))では、ゴムラテックス粒子が付着したカーボンブラック(A)を含有するスラリー溶液と、残りのゴムラテックス溶液とを混合して、ゴムラテックス粒子が付着したカーボンブラック(A)含有ゴムラテックス溶液を製造する。前記ゴムラテックス粒子が付着したカーボンブラック(A)を含有するスラリー溶液と、前記残りのゴムラテックス溶液とを液相で混合する方法は特に限定されるものではなく、前記ゴムラテックス粒子が付着したカーボンブラック(A)を含有するスラリー溶液および前記残りのゴムラテックス溶液とを、例えば、高せん断ミキサー、ハイシアーミキサー、ホモミキサー、ボールミル、ビーズミル、高圧ホモジナイザー、超音波ホモジナイザー、コロイドミルなどの一般的な分散機を使用して混合する方法が挙げられる。必要に応じて、混合の際に分散機などの混合系全体を加温してもよい。
【0045】
前記残りのゴムラテックス溶液は、次工程(ii)での乾燥時間・労力を考慮した場合、工程(i−(a))で添加したゴムラテックス溶液よりもゴム成分の濃度が高いことが好ましく、具体的には、ゴム成分の濃度が10〜60重量%であることが好ましく、20〜30重量%であることがより好ましい。
【0046】
<(2)工程(ii)>
本発明の工程(ii)では、前記カーボンブラック(A)含有ゴムラテックス溶液を凝固および乾燥して、ゴムウエットマスターバッチを製造する。
【0047】
前記凝固の方法としては、例えば、前記カーボンブラック(A)含有ゴムラテックス溶液中に凝固剤を含有させて、カーボンブラック(A)含有ゴム凝固物を得る方法が挙げられる。この場合、凝固剤としては、ゴムラテックス溶液の凝固用として通常使用されるギ酸、硫酸などの酸や、塩化ナトリウムなどの塩を使用することができる。
【0048】
前記乾燥の方法としては、例えば、単軸押出機、オーブン、真空乾燥機、エアードライヤーなどの各種乾燥装置を使用することができる。
【0049】
なお、前記凝固の工程の前あるいは後に、必要に応じて、前記カーボンブラック(A)含有ゴム凝固物が含む水分量を適度に低減する目的で、例えば、遠心分離工程や加熱工程などの固液分離工程を設けても良い。固液分離工程では、必要に応じて、前記カーボンブラック(A)含有ゴムラテックス溶液中に、凝集剤を含有させた後、得られた凝集体を回収し、乾燥させてもよい。凝集剤としては、ゴムラテックス溶液の凝集剤として公知のものを限定なく使用でき、具体的には、例えば、カチオン性凝集剤が挙げられる。
【0050】
<(3)工程(iii)>
本発明の工程(iii)では、前記ゴムウエットマスターバッチに、さらに、前記ゴムと、前記カーボンブラック(B)を加えて、乾式混合することにより、ゴム組成物を製造する。さらに、前記乾式混合では、必要に応じ、前記各種配合剤を配合することができる。
【0051】
前記工程(iii)において、各原料(各成分)の配合方法は特に限定されないが、例えば、硫黄系加硫剤および加硫促進剤などの加硫系成分以外の成分を、任意の順序で添加し混練する方法、同時に添加して混練する方法、また、全成分を同時に添加して混練する方法などが挙げられる。
【0052】
前記乾式混合としては、例えば、バンバリーミキサー、ニーダー、ロールなどの通常のゴム工業において使用される混練機を用いて混練りする方法が挙げられる。混練りする回数は、1回または複数回であってもよい。混練りする時間は、使用する混練機の大きさなどによって異なるが、通常、2〜5分程度とすればよい。また、混練機の排出温度は、ゴム組成物に前記加硫系成分を含まない場合、120〜170℃とすることが好ましく、120〜150℃とすることがより好ましい。混練機の排出温度は、ゴム組成物に前記加硫系成分を含む場合、80〜110℃とすることが好ましく、80〜100℃とすることがより好ましい。
【0053】
本発明のゴム組成物から得られた加硫ゴムは、低発熱性および耐摩耗性を有するため、小型トラック用のタイヤのトレッドゴムに適している。
【実施例】
【0054】
以下に実施例をあげて本発明を説明するが、本発明はこれら実施例によりなんら限定されるものではない。
【0055】
(使用原料)
a)カーボンブラック(CB):
カーボンブラック1(CB1):「シースト9H(SAF―HS)」(DBP吸収量130cm/100g、ヨウ素吸着量139mg/g)(東海カーボン社製)
カーボンブラック2(CB2):「シースト7HM(N234)」(DBP吸収量125cm/100g、ヨウ素吸着量120mg/g)(東海カーボン社製)
b)分散溶媒:水
c)ゴムラテックス溶液:
天然ゴムラテックス溶液「NRフィールドラテックス」(Golden Hope社製)(DRC=31.2%)
d)凝固剤:ギ酸(一級85%、10%溶液を希釈して、pH1.2に調整したもの)、(ナカライテスク社製)
e)オイル:「プロセスNC140」(ジャパンエナジー社製)
f)亜鉛華:「亜鉛華1号」(三井金属社製)
g)老化防止剤:N−(1,3−ジメチルブチル)−N’−フェニル−p−フェニレンジアミン、「ノクラック6C」(大内新興化学工業社製)
h)ステアリン酸:「ルナックS−20」(花王社製)
i)ワックス:「OZOACE0355」(日本精蝋社製)
j)硫黄:「5%油入微粉末硫黄」(鶴見化学工業社製)
k)加硫促進剤:「ソクシールCZ」(住友化学社製)
l)天然ゴム(NR):「RSS#3」
m)スチレン−ブタジエンゴム(SBR):「SBR1502」(JSR社製)
n)ブタジエンゴム(BR):「BR150B」(宇部興産社製)
【0056】
<実施例1>
<ゴムウエットマスターバッチ(WMB)の製造>
濃度0.5重量%に調整した希薄天然ゴムラテックス溶液に、表1記載の配合量となるようにカーボンブラックを添加し(ラテックス溶液のゴム成分の量が、カーボンブラックとの重量比で1重量%)、これにPRIMIX社製ロボミックスを使用してカーボンブラックを分散させることにより(該ロボミックスの条件:9000rpm、30分)、天然ゴムラテックス粒子が付着したカーボンブラック含有スラリー溶液を製造した(工程(i−(a)))。次に、得られた天然ゴムラテックス粒子が付着したカーボンブラック含有スラリー溶液に、残りの天然ゴム濃縮ラテックス溶液(固形分(ゴム)濃度25重量%となるように水を添加して調整されたもの)を、工程(i)−(a)で使用した天然ゴムラテックス溶液と合わせて、ゴム成分の量で100重量部となるように添加した後、SANYO社製家庭用ミキサーSM−L56型を使用して混合し(該ミキサーの条件:11300rpm、30分)、天然ゴムラテックス粒子が付着したカーボンブラック含有天然ゴムラテックス溶液を製造した(工程(i)−(b))。
【0057】
上記で得られた天然ゴムラテックス粒子が付着したカーボンブラック含有天然ゴムラテックス溶液に、凝固剤としてギ酸10重量%水溶液をpH4に成るまで添加し、60℃に加温した状態で、天然ゴムラテックス粒子が付着したカーボンブラック含有天然ゴムラテックス溶液を凝固させ、凝固物を得た。60℃に加温した状態で、凝固物を溶液から分離し(SUS製パンチングメタル2.0φ、3.5Pで濾過分離)、スエヒロEPM社製スクイザー式1軸押出脱水機(V−02型)で乾燥することにより、天然ゴムウエットマスターバッチ(WMB(4))を製造した(工程(ii))。
【0058】
<ゴム組成物の製造>
上記で得られたゴムウエットマスターバッチ(WMB(4))と、表2に記載の各原料(硫黄と加硫促進剤を除く成分)を、バンバリーミキサーを用いて乾式混合(混練り時間:3分、排出温度:150℃)することにより、ゴム組成物を製造した。次いで、得られたゴム組成物に、表2に記載の硫黄、加硫促進剤を加え、バンバリーミキサーを用いて乾式混合(混練り時間:1分、排出温度:90℃)することにより、未加硫ゴム組成物を製造した(工程(iii))。なお、表2中の配合比率は、ゴム組成物に含まれるゴム成分の全量を100重量部としたときの重量部(phr)で示す。
【0059】
<実施例2〜30>
各原料の種類とその配合量を表1〜4に示すように変えたこと以外は、実施例1と同様の方法により、ゴムウエットマスターバッチおよび未加硫ゴム組成物を製造した。
【0060】
<比較例1〜2、11〜12、21〜22>
表2〜4に記載の各原料(硫黄と加硫促進剤を除く成分)を、バンバリーミキサーを用いて乾式混合(混練り時間:3分、排出温度:150℃)してゴム組成物を製造した。次いで、得られたゴム組成物に、表2〜4に記載の硫黄、加硫促進剤を加え、バンバリーミキサーを用いて乾式混合(混練り時間:1分、排出温度:90℃)することにより、未加硫ゴム組成物を製造した。
【0061】
<比較例3〜10、13〜20、23〜30>
各原料の種類とその配合量を表1〜4に示すように変えたこと以外は、実施例1と同様の方法により、ゴムウエットマスターバッチおよび未加硫ゴム組成物を製造した。
【0062】
上記の実施例および比較例で得られた未加硫ゴム組成物を、150℃、30分間の条件で加硫することにより、加硫ゴムを製造した。得られた加硫ゴムについて以下の評価を行った。評価結果を表2〜4に示す。
【0063】
<低発熱性の評価>
低発熱性の評価は、東洋精機株式会社製の粘弾性試験機を使用し、静歪み10%、動歪み±1%、周波数10Hz、温度60℃の条件下で、損失係数tanδを測定し、実施例1〜10、比較例2〜10は、比較例1の値を100とした指数、実施例11〜20、比較例12〜20は、比較例11の値を100とした指数、実施例21〜30、比較例22〜30は、比較例21の値を100とした指数で表示した。指数が小さいほど、発熱し難く、低発熱性に優れることを示す。
【0064】
<耐摩耗性の評価>
耐摩耗性の評価は、得られた加硫ゴムの試験片において、JIS K6264に準拠して、岩本製作所(株)製のランボーン摩耗試験機を用いて、荷重40N、スリップ率30%、温度23℃、落砂量20g/分で摩耗減量を測定し、摩耗減量の逆数について、実施例1〜10、比較例2〜10は、比較例1の値を100とした指数、実施例11〜20、比較例12〜20は、比較例11の値を100とした指数、実施例21〜30、比較例22〜30は、比較例21の値を100とした指数で表示した。指数が大きいほど、摩耗減量が少なく、耐摩耗性に優れることを示す。
【0065】
【表1】
【0066】
【表2】
【0067】
【表3】
【0068】
【表4】