特許第6778094号(P6778094)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6778094カゼイン酵素分解物の製造方法及びカゼイン酵素分解物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6778094
(24)【登録日】2020年10月13日
(45)【発行日】2020年10月28日
(54)【発明の名称】カゼイン酵素分解物の製造方法及びカゼイン酵素分解物
(51)【国際特許分類】
   C12P 21/06 20060101AFI20201019BHJP
   C12P 13/14 20060101ALI20201019BHJP
   A23J 3/10 20060101ALI20201019BHJP
   A23L 27/00 20160101ALI20201019BHJP
【FI】
   C12P21/06
   C12P13/14 Z
   A23J3/10
   A23L27/00 Z
【請求項の数】5
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2016-232158(P2016-232158)
(22)【出願日】2016年11月30日
(65)【公開番号】特開2018-85976(P2018-85976A)
(43)【公開日】2018年6月7日
【審査請求日】2019年8月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006127
【氏名又は名称】森永乳業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112874
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邊 薫
(74)【代理人】
【識別番号】100147865
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 美和子
(72)【発明者】
【氏名】中田 創
(72)【発明者】
【氏名】栗栖 まなみ
【審査官】 池上 京子
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭48−082068(JP,A)
【文献】 特公昭48−034898(JP,B1)
【文献】 特開昭52−079083(JP,A)
【文献】 特開平04−084855(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12P 1/00−41/00
A23L 5/40−5/49
A23L 31/00−33/29
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カゼインに対して、アスペルギルス属に属する微生物由来の蛋白質分解酵素、乳酸菌由来の蛋白質分解酵素、及びグルタミナーゼ活性を有する酵素、を用いることを特徴とする、遊離グルタミン酸の含量が3800mg/100g以上であるカゼイン酵素分解物の製造方法であって、
前記グルタミナーゼ活性を有する酵素は、バシラス(Bacillus)属に属する微生物由来のグルタミナーゼである、カゼイン酵素分解物の製造方法。
【請求項2】
前記グルタミナーゼ活性を有する酵素を、カゼインに対して0.4質量%以上添加する、請求項1に記載のカゼイン酵素分解物の製造方法。
【請求項3】
前記乳酸菌由来の蛋白質分解酵素を、カゼインに対して0.4質量%以上添加する、請求項1又は2に記載のカゼイン酵素分解物の製造方法。
【請求項4】
前記遊離グルタミン酸の含量が、4400mg/100g以上である、請求項3に記載のカゼイン酵素分解物の製造方法。
【請求項5】
前記カゼイン酵素分解物は、風味増強剤として用いられる、請求項1から4のいずれか一項に記載のカゼイン酵素分解物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カゼイン酵素分解物の製造方法及びカゼイン酵素分解物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、乳蛋白質は生体内での利用性等において優れた栄養学的特性を有しており、食品、飲料等の分野で幅広く利用されている。最近では、酸性条件下での安定性の改善、消化吸収性の向上、抗原性の低減等を目的として、乳蛋白質を酵素で分解した乳蛋白質酵素分解物の利用が増加している。
【0003】
しかし、乳蛋白質を加水分解した場合、発生した呈味性ペプチドや遊離アミノ酸等により苦味等の不快な風味が生じるという問題があり、乳蛋白質加水分解物を利用する際に大きな制約となっていた。また、この不快な風味の発生は、特に、疎水性アミノ酸を多く含有するカゼインを加水分解した場合に苦味が発生することで顕著となる。そのため、カゼインを酵素で加水分解したカゼイン酵素分解物を、飲食品等に含有させて利用する際には、風味の改善が重要な課題となっていた。
【0004】
そこで、風味改善のための技術が幾つか開発されている。例えば、特許文献1には、風味がほとんど無味無臭であり、食品、飲料等の用途に使用できるカゼイン酵素分解物が開示されている。
【0005】
また、乳蛋白質酵素分解物の中には、グルタミン酸をはじめとする旨味のもととなるアミノ酸を含有し、チーズ様の風味や旨味、コクを表現できるものも存在する。例えば、非特許文献1には、カゼイン蛋白を原料に、酵素分解を利用して加水分解した粉末であって、先味の強い旨味と熟成チェダーチーズ様の味を呈するカゼイン加水分解物が開示されている。
【0006】
しかし、従来技術では、カゼインの苦味を抑えつつも、旨味が強いカゼイン酵素分解物を提供することが困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平9−28306号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】乳業ジャーナル,2016年,第6巻,pp.32-36
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで、本技術では、旨味が強く、苦味の少ないカゼイン酵素分解物を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意研究を行った結果、アスペルギルス属に属する微生物由来の蛋白質分解酵素、乳酸菌由来の蛋白質分解酵素、及びグルタミナーゼ活性を有する酵素、の3種類の酵素を用いてカゼインを酵素分解することにより、意外にも、旨味が強く、苦味の少ないカゼイン酵素分解物を製造できることを見出し、本技術を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本技術では、カゼインに対して、アスペルギルス属に属する微生物由来の蛋白質分解酵素、乳酸菌由来の蛋白質分解酵素、及びグルタミナーゼ活性を有する酵素、を用いることを特徴とする、遊離グルタミン酸の含量が3800mg/100g以上であるカゼイン酵素分解物の製造方法であって、前記グルタミナーゼ活性を有する酵素は、バシラス(Bacillus)属に属する微生物由来のグルタミナーゼである、カゼイン酵素分解物の製造方法を提供する。
本技術に係る製造方法では、前記グルタミナーゼ活性を有する酵素を、カゼインに対して0.4質量%以上添加することができる。
また、本技術に係る製造方法では、前記乳酸菌由来の蛋白質分解酵素を、カゼインに対して0.4質量%以上添加することもできる。この場合、前記遊離グルタミン酸の含量を、4400mg/100g以上とすることもできる。
さらに、本技術に係る製造方法では、前記カゼイン酵素分解物を、風味増強剤として用いることもできる。
【発明の効果】
【0013】
本技術によれば、旨味が強く、苦味の少ないカゼイン酵素分解物を提供することができる。なお、ここに記載された効果は、必ずしも限定されるものではなく、本開示中に記載されたいずれかの効果であってもよい。
【発明を実施するための形態】
【0014】
<1.カゼイン酵素分解物の製造方法>
本技術に係る製造方法は、カゼインに対して、アスペルギルス属に属する微生物由来の蛋白質分解酵素、乳酸菌由来の蛋白質分解酵素、及びグルタミナーゼ活性を有する酵素、を用いることを特徴とし、遊離グルタミン酸の含量が3800mg/100g以上であるカゼイン酵素分解物を製造する方法である。
【0015】
(1)カゼイン
本技術に係る製造方法において、原料であるカゼインは乳由来の蛋白質を主成分とするものである。当該カゼインは特に限定されないが、当該カゼインとして、市販品を使用してもよいし、乳からの分離精製品を使用してもよい。
カゼインとしては、例えば、各種カゼイン、カゼイネート、レンネットカゼイン等が挙げられ、これらを1種又は2種以上組み合わせて使用することができる。
具体的には、乳酸カゼイン、硫酸カゼイン、塩酸カゼイン等の酸カゼイン;ナトリウムカゼイネート、カリウムカゼイネート、カルシウムカゼイネート、マグネシウムカゼイネート等のカゼイネートなど、又は、これらのうち2種以上組み合わせた混合物等が挙げられる。
また、牛乳、脱脂乳、全粉乳、全脂粉乳、脱脂粉乳等から常法により分離精製したウシ由来のカゼイン等を利用することもできる。
【0016】
前述の通り、従来技術では、カゼインの苦味を抑えつつも、旨味が強いカゼイン酵素分解物を提供することが困難であった。特に、遊離グルタミン酸の含量が3800mg/100g以上であるカゼイン酵素分解物を製造することは極めて困難であった。
しかしながら、本発明者らは、カゼインに対して、アスペルギルス属に属する微生物由来の蛋白質分解酵素、乳酸菌由来の蛋白質分解酵素、及びグルタミナーゼ活性を有する酵素、の3種類の酵素を作用させることにより、意外にも、遊離グルタミン酸の含量が3800mg/100g以上であるカゼイン酵素分解物が得られることを発見した。また、本発明者らが確認したところ、前記カゼイン酵素分解物は、カゼインを加水分解した際に生じる苦味も非常に少ないという特徴も兼ね備えていた。
【0017】
本技術に係る製造方法により製造されたカゼイン酵素分解物は、そのもの自体でも価値が高いが、前述した性質を有することから、医薬品、飲食品、飲飼料等に添加して、旨味やコク等の風味を増強するための風味増強剤として用いることができる。
【0018】
原料として使用されるカゼインは、乳由来のため、比較的安価で、安定して簡便に、しかも大量に入手できるという利点がある。したがって、カゼインを原料とする本技術に係る製造方法では、前記カゼイン酵素分解物を、比較的安価かつ安全で、安定して、簡便に、しかも大量に得ることができる。
【0019】
(2)アスペルギルス属に属する微生物由来の蛋白質分解酵素
本技術に係る製造方法では、通常、医薬品又は飲食品の分野において用いることができるアスペルギルス属に属する微生物由来の蛋白質分解酵素を、1種又は2種以上自由に選択して用いることができる。
【0020】
アスペルギルス(Aspergillus)属に属する微生物としては、例えば、アスペルギルス・オリゼ(Aspergillus oryzae)、アスペルギルス・グラウカス(Aspergillus glaucus)、アスペルギルス・ソジャエ(Aspergillus sojae)、アスペルギルス・タマリ(Aspergillus tamarii)、アスペルギルス・アワモリ(Aspergillus awamori)等を挙げることができる。
【0021】
本技術では、これらの中でも特に、アスペルギルス・オリゼ(Aspergillus oryzae)由来の蛋白質分解酵素を用いることが好ましい。
【0022】
本技術において、アスペルギルス属に属する微生物由来の蛋白質分解酵素の添加量は特に限定されず、製造するカゼイン酵素分解物の目的の収量や、併用する他の2種類の酵素の添加量などに応じて、適宜、設定することができる。本技術では特に、カゼインに対して0.1質量%以上添加することが好ましく、0.5質量%以上添加することがより好ましく、2質量%以上添加することがさらに好ましい。これにより、遊離グルタミン酸の含量が高含量であるカゼイン酵素分解物を、効率的かつ安定的に製造することができる。
【0023】
また、本技術では、コスト及び製造工程の煩雑化防止の観点から、アスペルギルス属に属する微生物由来の蛋白質分解酵素は、カゼインに対して20質量%以下添加することが好ましく、10質量%以下添加することがより好ましく、5質量%以下添加することがさらに好ましい。
【0024】
(3)乳酸菌由来の蛋白質分解酵素
本技術に係る製造方法では、通常、医薬品又は飲食品の分野において用いることができる乳酸菌由来の蛋白質分解酵素を、1種又は2種以上自由に選択して用いることができる。なお、「乳酸菌」とは、代謝により乳酸を生成する細菌類の総称であり、ラクトコッカス属細菌、ラクトバチルス属細菌、ストレプトコッカス属細菌、及びビフィドバクテリウム属細菌等が挙げられる。また、ビフィドバクテリウム属細菌は、代謝により乳酸及び酢酸を生成する細菌類の総称である「ビフィズス菌」とも呼ばれうる。
【0025】
乳酸菌由来の蛋白質分解酵素は、例えば、特公昭54−36235号公報の第6欄第4行「(3)使用する酵素について」の項に記載の方法により製造できる。
具体的には、乳酸菌(「ビフィズス菌」を含む)を公知の方法(例えば、特公昭48−43878号公報に記載の方法)により培養し、得られた培養液を遠心分離して乳酸菌菌体を回収し、滅菌水に菌体を懸濁し、遠心分離して乳酸菌菌体を回収する操作を2回繰り返し、菌体を洗浄し、20%の濃度で菌体を滅菌水に懸濁し、菌体破砕機(例えば、ダイノミル(Willy Bachnfen Engineering)社製;KDL型)により菌体を破砕し、凍結乾燥し、乳酸菌由来の蛋白質分解酵素の粉末を得る。
【0026】
ラクトコッカス(Lactococcus)属細菌としては、例えば、ラクトコッカス・ラクティス(L. lactis)、ラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシーズ・ラクティス(L. lactis subsp. Lactis)、ラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシーズ・ラクティス・バイオバラエティ・ジアセチラクティス(L. lactis subsp. lactis biovar. diacetylactis)、ラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシーズ・クレモリス(L. lactis subsp. cremoris)等の菌が挙げられる。
【0027】
ラクトバチルス(Lactobacillus)属細菌としては、例えば、ラクトバチルス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ラクティス(L. delbrueckii subsp. lactis)、ラクトバチルス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ブルガリカス(L. delbrueckii subsp. bulgaricus)、ラクトバチルス・ブルガリカス(L.bulgaricus)、ラクトバチルス・ロイテリ(L. reuteri)、ラクトバチルス・ヘルベティカス(L. helveticus)等の菌が挙げられる。
【0028】
ストレプトコッカス(Streptococcus)属細菌としては、例えば、ストレプトコッカス・サリバリウス・サブスピーシーズ・サーモフィルス(S. salivarius subsp. thermophilus)、ストレプトコッカス・サーモフィルス(S.thermophilus)等の菌が挙げられる。
【0029】
ビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)属細菌としては、例えば、ビフィドバクテリウム・ロンガム(B. longum)、ビフィドバクテリウム・ブレーベ(B. breve)、ビフィドバクテリウム・ビフィダム(B. bifidum)、ビフィドバクテリウム・インファンティス(B. infantis)、ビフィドバクテリウム・アニマリス(B. animalis)等の菌が挙げられる。
【0030】
本技術では、これらの中でも特に、ラクトバチルス(Lactobacillus)属細菌由来の蛋白質分解酵素を用いることが好ましく、ラクトバチルス・ヘルベティカス(L. helveticus)由来の蛋白質分解酵素を用いることがより好ましい。
【0031】
本技術において、乳酸菌由来の蛋白質分解酵素の添加量は特に限定されず、製造するカゼイン酵素分解物の目的の収量や、併用する他の2種類の酵素の添加量などに応じて、適宜、設定することができる。本技術では特に、カゼインに対して0.4質量%以上添加することが好ましく、0.6質量%以上添加することがより好ましく、0.8質量%以上添加することがさらに好ましい。これにより、遊離グルタミン酸の含量が高含量であるカゼイン酵素分解物を、効率的かつ安定的に製造することができ、特に、遊離グルタミン酸の含量が、4400mg/100g以上であるカゼイン酵素分解物を安定的に製造し易くなる。
【0032】
また、本技術では、コスト及び製造工程の煩雑化防止の観点から、乳酸菌由来の蛋白質分解酵素は、カゼインに対して20質量%以下添加することが好ましく、10質量%以下添加することがより好ましく、5質量%以下添加することがさらに好ましい。
【0033】
(4)グルタミナーゼ活性を有する酵素
本技術に係る製造方法では、通常、医薬品又は飲食品の分野において用いることができるグルタミナーゼ活性を有する酵素を、1種又は2種以上自由に選択して用いることができる。なお、「グルタミナーゼ活性」とは、遊離のL−グルタミンを基質としてL−グルタミン酸を生成する加水分解反応を触媒する酵素活性である。
【0034】
グルタミナーゼ活性を有する酵素としては、例えば、バシラス(Bacillus)属に属する微生物由来のグルタミナーゼ、アスペルギルス(Aspergillus)属に属する微生物由来のグルタミナーゼ等が挙げられる。なお、本技術では、グルタミナーゼ活性を有する酵素として、特にグルタミナーゼ活性のみを有する酵素である必要はなく、転移反応、アスパラギナーゼ反応を併せ持つ酵素であってもよい。
【0035】
バシラス(Bacillus)属に属する微生物としては、例えば、バシラス・サブティリス(Bacillus subtilis)、バシラス・アミロリクエファシエンス(Bacillus amyloliquefaciens)、バシラス・コアギュランス(Bacillus coagulans)、バシラス・レンタス(Bacillus lentus)、バシラス・リケニホルミス(Bacillus licheniformis)等が挙げられる。また、バシラス属に属する微生物由来のグルタミナーゼとして、バイオテクノロジーを応用し、遺伝子組替え等の改変菌によって製造したものも用いてもよい。
【0036】
アスペルギルス(Aspergillus)属に属する微生物としては、例えば、アスペルギルス・オリゼ(Aspergillus oryzae)、アスペルギルス・ソーヤ(Aspergillus soyer)、アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)等が挙げられる。また、アスペルギルス属に属する微生物由来のグルタミナーゼとして、バイオテクノロジーを応用し、遺伝子組替え等の改変菌によって製造したものも用いてもよい。
【0037】
本技術では、これらの中でも特に、バシラス(Bacillus)属に属する微生物由来のグルタミナーゼを用いることが好ましく、バシラス・サブティリス(Bacillus subtilis)由来のグルタミナーゼを用いることがより好ましい。
【0038】
本技術において、グルタミナーゼ活性を有する酵素の添加量は特に限定されず、製造するカゼイン酵素分解物の目的の収量や、併用する他の2種類の酵素の添加量などに応じて、適宜、設定することができる。本技術では特に、カゼインに対して0.4質量%以上添加することが好ましく、0.8質量%以上添加することがより好ましい。これにより、遊離グルタミン酸の含量が高含量であるカゼイン酵素分解物を、効率的かつ安定的に製造することができる。
【0039】
また、本技術では、コスト及び製造工程の煩雑化防止の観点から、グルタミナーゼ活性を有する酵素は、カゼインに対して10質量%以下添加することが好ましく、5質量%以下添加することがより好ましく、1質量%以下添加することがさらに好ましい。
【0040】
(5)その他の酵素
本技術に係る製造方法では、通常、医薬品又は飲食品の分野において用いることができるその他の酵素を、本技術による効果を損なわない範囲で、1種又は2種以上自由に選択して用いることができる。また、本技術において、その他の酵素の添加量は特に限定されず、製造するカゼイン酵素分解物の目的の収量や、併用する他の3種類の酵素の添加量などに応じて、適宜、設定することができる。
【0041】
(6)製造方法の具体例
本技術に係る製造方法は、カゼインに対して、アスペルギルス属に属する微生物由来の蛋白質分解酵素、乳酸菌由来の蛋白質分解酵素、及びグルタミナーゼ活性を有する酵素、を用い、遊離グルタミン酸の含量が3800mg/100g以上であるカゼイン酵素分解物を得ることができれば、詳細な工程は特に限定されない。
本技術に係る製造方法では、公知のカゼイン酵素分解物の製造方法で用いられている様々な工程を自由に選択して採択することができる。
以下、製造方法の一例について、具体的に説明する。
【0042】
[原料溶液の調整]
カゼインを含む原料を、水等の溶媒に溶解又は分散させ、カゼイン含有溶液を調製する。
【0043】
原料に使用するカゼインについては、上述の通りである。
ガゼイン以外の原料として、例えば、pH調整剤、界面活性剤等が挙げられ、このうち、1種又は2種以上を選択することができる。
溶媒として、特に限定されないが、水として蒸留水、RO水(逆浸透膜で処理された水)、井水等を用いることが好ましい。
また、前記カゼイン含有溶液中のカゼイン濃度は、特に限定されないが、通常、蛋白質換算で5〜15質量%前後の濃度範囲とすることが、効率性及び操作性の点から、好ましい。
【0044】
また、前記カゼイン含有溶液のpHは、pH4〜10とするのが好ましく、pH6〜10とするのがより好ましく、pH6.2〜9とするのがさらに好ましく、pH6.5〜9とするのが特に好ましい。
pHの酸調整には、塩酸、硫酸等の無機酸;酢酸等の有機酸等を用いることができ、pHのアルカリ調整には、水酸化ナトリウム等のアルカリ金属塩;水酸化カルシウム等のアルカリ土類金属塩等を用いることができる。本技術では、これらを1種又は2種以上組み合わせて使用することもできる。
【0045】
[酵素反応]
次に、前記カゼイン含有溶液に、前述した3種類の酵素(アスペルギルス属に属する微生物由来の蛋白質分解酵素、乳酸菌由来の蛋白質分解酵素、及びグルタミナーゼ活性を有する酵素)を添加する。本技術において、これらの酵素の添加順序は特に限定されない。
【0046】
また、本技術において、反応継続時間、反応温度、初発pH等の反応条件を調整することによって、酵素処理の進行状態を、適宜、調整することができる。
例えば、酵素反応をモニターすることにより、カゼイン酵素分解物の理化学的性質が所望の値になるように反応継続時間を決定することもできる。
なお、酵素反応のモニタリング方法としては、例えば、前記反応溶液の一部を採取し、蛋白質の分解率等を測定する方法等が挙げられる。採取した反応溶液のまま測定して反応継続時間を決定してもよい。
【0047】
本技術において、反応時間は、下限値として、好ましくは3時間以上、より好ましくは5時間以上、さらに好ましくは10時間以上、特に好ましくは15時間以上である。また、上限値として、好ましくは24時間以下、より好ましくは20時間以下である。
また、反応時間は、好ましくは3〜24時間であり、より好ましくは5〜24時間であり、さらに好ましくは10〜20時間であり、特に好ましくは15〜20時間である。
【0048】
本技術において、反応pHは、好ましくはpH6〜9であり、より好ましくは6.2〜9である。さらに好ましい上限値は9である。また、さらに好ましい下限値は、pH6.3である。反応pHは、カゼインの酸沈殿を抑制するため、pH6以上が望ましい。
【0049】
本技術において、反応温度は、下限値として、好ましくは20℃以上、より好ましくは40℃以上、さらに好ましくは50℃以上である。上限値として、好ましくは65℃以下、より好ましくは60℃以下、さらに好ましくは55℃以下である。
また、反応温度は、好ましくは20〜65℃であり、より好ましくは40〜60℃であり、さらに好ましくは50〜60℃であり、特に好ましくは50〜55℃である。反応温度は、酵素の加熱失活を抑制するため、60℃以下が望ましい。
【0050】
次に、酵素反応を停止させる。
酵素反応の停止は、加水分解液中の酵素を失活させることにより行われる。失活処理は、常法、例えば、加熱失活処理等により実施することができる。
加熱失活処理の条件(加熱温度、加熱時間等)は、使用した酵素の熱安定性を考慮し、十分に失活できる条件を、適宜、設定することができる。
本技術において、一例として、5〜10分間80〜85℃保持で酵素失活させることができる。
【0051】
[分離・精製]
上述の酵素反応を行った酵素反応物を、常法の分離・精製法にて、分離・精製してもよい。これにより、本技術に係る酵素分解物から、不純物を除去してもよい。また、本技術に係る酵素分解物は、溶液の状態であってもよい。さらに、本技術では、本技術に係る酵素分解物から、所望の画分又は所望のペプチドを回収してもよい。
【0052】
分離・精製法としては、例えば、ろ過法、精密ろ過法、限界濾過膜等の膜分離処理法、樹脂吸着分離法、カラムクロマトグラフィー法、HPLC分離精製法、沈殿法、結晶法等が挙げられる。本技術では、これらを1種又は2種以上組み合わせて用いることができる。
【0053】
ろ過法は、公知の方法により実施することができ、例えば、珪藻土を用い、公知の装置により実施することができる。
【0054】
膜分離処理法は、公知の装置を用いて行うことができる。公知の装置としては特に限定されないが、例えば、精密濾過モジュール等、限外濾過モジュール Pellicon2 Cassettes(メルクミリポア社製、分画分子量1,000Da)、限外濾過モジュール SEP1053(旭化成社製、分画分子量3,000Da)、SIP1053(旭化成社製、分画分子量6,000Da)、SLP1053(旭化成社製、分画分子量10,000Da)等が挙げられる。
【0055】
樹脂吸着分離法は、公知の方法により実施することができ、例えば、酵素分解物を、樹脂と接触させることにより実施することができる。樹脂としては特に限定されないが、例えば、イオン交換樹脂、キレート樹脂、アフィニティー吸着樹脂、合成吸着剤、高速液体クロマトグラフィー用樹脂等が挙げられる。具体的には、例えば、商品名:ダイヤイオン、セパビーズ(三菱化学社製)、アンバーライト XAD(オルガノ社製)、KS-35(味の素ファインテクノ社製)等が挙げられる。
樹脂吸着分離法は、これらの樹脂をカラムに充填して、前記酵素分解物を連続的に流入させ、流出させることによる連続方式で行うこともでき、また、前記酵素分解物中に樹脂を投入し、一定時間接触させた後、該酵素分解物と樹脂とを分離するバッチ方式で行うこともできる。
【0056】
沈殿法は、公知の方法により実施することができ、例えば、酸沈殿法、遠心分離法等が挙げられる。本技術では、これらを1種又は2種以上組み合わせて使用することができる。
【0057】
[殺菌処理]
また、本技術では、得られたカゼイン酵素分解物を殺菌してもよい。殺菌方法は、常法による加熱処理方法等を用いることができる。
加熱処理時の加熱温度と保持時間は、充分に殺菌できる条件を、適宜、設定すればよく、例えば、70〜140℃で2秒間〜30分間加熱処理することにより殺菌できる。
加熱殺菌の方式は、バッチ方式、連続方式のいずれの方式も可能であり、連続方式においてもプレート熱交換方式、インフュージョン方式、インジェクション方式等の方式を用いることができる。
【0058】
[濃縮処理・乾燥処理・粉末化処理・二次的処理]
さらに、得られたカゼイン酵素分解物は、そのままの溶液の状態で使用することもでき、また、必要に応じて、該溶液を公知の方法により、濃縮した濃縮液として使用することもできる。また、該濃縮液を公知の方法により乾燥し、粉末にして使用することもできる。
【0059】
<2.カゼイン酵素分解物>
また、本技術では、遊離グルタミン酸の含量が3800mg/100g以上であるカゼイン酵素分解物も提供する。本技術に係るカゼイン酵素分解物は、旨味成分として知られる遊離グルタミン酸を高含量で含んでいるため、様々な医薬品、飲食品、飲飼料等に添加し、旨味やコク等の風味を増強するための風味増強剤として用いることができる。また、本技術に係るカゼイン酵素分解物は、後述の実施例にて示すように、苦味が非常に少ないことからも、有用性が高い。
【0060】
本技術に係るカゼイン酵素分解物の製造方法は特に限定されないが、前述した本技術に係る製造方法により製造されることが望ましい。本技術に係る製造方法により製造されたカゼイン酵素分解物は、カゼインを原料とし、通常、医薬品又は食品分野において用いることができる3種類の酵素を用いて製造しているため、安全性に優れ、長期間、連続的に摂取しても副作用を心配する必要性も少なく、非常に有用である。
【0061】
本技術に係るカゼイン酵素分解物の遊離グルタミン酸の含量は、3800mg/100g以上であれば特に限定されないが、4000mg/100g以上であることが好ましく、4200mg/100g以上であることがより好ましく、4400mg/100g以上であることがさらに好ましく、4800mg/100g以上であることが特に好ましい。
【0062】
また、本技術に係るカゼイン酵素分解物は、後述する試験例2及び3にて示すように、塩味を強く感じさせる効果も有していることから、減塩用の風味増強剤としても用いることができる。
【0063】
本技術に係るカゼイン酵素分解物を医薬品に利用する場合、公知の医薬品に本技術に係るカゼイン酵素分解物を添加して調製することもできるし、医薬品の原料中に該カゼイン酵素分解物を混合して新たな医薬品を製造することもできる。
また、本技術に係るカゼイン酵素分解物を医薬品に利用する際には、そのまま、又は濃縮してから、或いは固体状、顆粒状又は粉末状に加工してから用いてもよい。
【0064】
前記医薬品は、経口投与や非経口投与等の投与方法に応じて、適宜、所望の剤形に製剤化することができる。その剤形は特に限定されないが、経口投与の場合、例えば、散剤、顆粒剤、錠剤、トローチ剤、カプセル剤等の固形製剤;溶液剤、シロップ剤、懸濁剤、乳剤等の液剤等に製剤化することができる。非経口投与の場合、例えば、座剤、噴霧剤、吸入剤、軟膏剤、貼付剤、注射剤等に製剤化することができる。本技術では、経口投与の剤形に製剤化することが好ましい。
なお、製剤化は剤形に応じて、適宜、公知の方法により実施できる。
【0065】
製剤化に際しては、適宜、製剤担体を配合する等して製剤化してもよい。また、本技術に係るカゼイン酵素分解物の他に、通常、製剤化に用いられている賦形剤、pH調整剤、着色剤、矯味剤等の成分を用いることができる。さらに、公知の又は将来的に見出される疾患や症状の予防、治療及び/又は改善の効果を有する成分を、適宜、目的に応じて併用することも可能である。
【0066】
製剤担体としては、剤形に応じて、各種有機又は無機の担体を用いることができる。
固形製剤の場合の担体としては、例えば、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、安定剤、矯味矯臭剤等が挙げられる。
【0067】
賦形剤としては、例えば、乳糖、白糖、ブドウ糖、マンニット、ソルビット等の糖誘導体;トウモロコシデンプン、馬鈴薯デンプン、α−デンプン、デキストリン、カルボキシメチルデンプン等のデンプン誘導体;結晶セルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースカルシウム等のセルロース誘導体;アラビアゴム;デキストラン;プルラン;軽質無水珪酸、合成珪酸アルミニウム、メタ珪酸アルミン酸マグネシウム等の珪酸塩誘導体;リン酸カルシウム等のリン酸塩誘導体;炭酸カルシウム等の炭酸塩誘導体;硫酸カルシウム等の硫酸塩誘導体等が挙げられる。
【0068】
結合剤としては、例えば、上記賦形剤の他、ゼラチン;ポリビニルピロリドン;マクロゴール等が挙げられる。
【0069】
崩壊剤としては、例えば、上記賦形剤の他、クロスカルメロースナトリウム、カルボキシメチルスターチナトリウム、架橋ポリビニルピロリドン等の化学修飾されたデンプン又はセルロース誘導体等が挙げられる。
【0070】
滑沢剤としては、例えば、タルク;ステアリン酸;ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム等のステアリン酸金属塩;コロイドシリカ;ピーガム、ゲイロウ等のワックス類;硼酸;グリコール;フマル酸、アジピン酸等のカルボン酸類;安息香酸ナトリウム等のカルボン酸ナトリウム塩;硫酸ナトリウム等の硫酸塩類;ロイシン;ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸マグネシウム等のラウリル硫酸塩;無水珪酸、珪酸水和物等の珪酸類;デンプン誘導体等が挙げられる。
【0071】
安定剤としては、例えば、メチルパラベン、プロピルパラベン等のパラオキシ安息香酸エステル類;クロロブタノール、ベンジルアルコール、フェニルエチルアルコール等のアルコール類;塩化ベンザルコニウム;無水酢酸;ソルビン酸等が挙げられる。
【0072】
矯味矯臭剤としては、例えば、甘味料、酸味料、香料等が挙げられる。
なお、経口投与用の液剤の場合に使用する担体としては、水等の溶剤、矯味矯臭剤等が挙げられる。
【0073】
前記医薬品中の本技術に係るカゼイン酵素分解物の含量は特に制限されないが、風味改善効果が効率的に得られる範囲であって、無理なく摂取できる程度に含有することが望ましい。
【0074】
また、本技術では、本技術に係るカゼイン酵素分解物をヒト又は動物用の飲食品に利用する場合、公知の飲食品に本技術に係るカゼイン酵素分解物を添加して調製することもできるし、飲食品の原料中に該カゼイン酵素分解物を混合して新たな飲食品を製造することもできる。
また、本技術に係るカゼイン酵素分解物を飲食品に利用する際には、そのまま、又は濃縮してから、或いは固体状、顆粒状又は粉末状に加工してから用いてもよい。
【0075】
飲食品としては、液状、ペースト状、固体、粉末等の形態を問わず、錠菓、流動食等のほか、例えば、小麦粉製品、即席食品、農産加工品、水産加工品、畜産加工品、乳・乳製品、油脂類、基礎調味料、複合調味料・食品類、冷凍食品、菓子類、飲料、これら以外の市販食品等が挙げられる。
【0076】
乳製品としては、例えば、発酵乳、乳飲料、乳酸菌飲料、加糖れん乳、脱脂粉乳、加糖粉乳、調整粉乳、クリーム、チーズ、バター、アイスクリーム類等が挙げられる。
小麦粉製品としては、例えば、パン、マカロニ、スパゲッティ、めん類、ケーキミックス、から揚げ粉、パン粉等が挙げられる。
即席食品類としては、例えば、即席めん、カップめん、レトルト・調理食品、調理缶詰め、電子レンジ食品、即席スープ・シチュー、即席みそ汁・吸い物、スープ缶詰め、フリーズ・ドライ食品、その他の即席食品等が挙げられる。
農産加工品としては、例えば、農産缶詰め、果実缶詰め、ジャム・マーマレード類、漬物、煮豆類、農産乾物類、シリアル(穀物加工品)等が挙げられる。
水産加工品としては、例えば、水産缶詰め、魚肉ハム・ソーセージ、水産練り製品、水産珍味類、つくだ煮類等が挙げられる。
畜産加工品としては、例えば、畜産缶詰め・ペースト類、畜肉ハム・ソーセージ等が挙げられる。
油脂類としては、例えば、バター、マーガリン類、植物油等が挙げられる。
基礎調味料としては、例えば、しょうゆ、みそ、ソース類、トマト加工調味料、みりん類、食酢類等が挙げられ、前記複合調味料・食品類として、調理ミックス、カレーの素類、たれ類、ドレッシング類、めんつゆ類、スパイス類、その他の複合調味料等が挙げられる。
冷凍食品としては、例えば、素材冷凍食品、半調理冷凍食品、調理済冷凍食品等が挙げられる。
菓子類としては、例えば、キャラメル、キャンディー、チューインガム、チョコレート、クッキー、ビスケット、ケーキ、パイ、スナック、クラッカー、和菓子、米菓子、豆菓子、デザート菓子、その他の菓子等が挙げられる。
飲料類としては、例えば、炭酸飲料、天然果汁、果汁飲料、果汁入り清涼飲料、果肉飲料、果粒入り果実飲料、野菜系飲料、豆乳、豆乳飲料、コーヒー飲料、お茶飲料、粉末飲料、濃縮飲料、スポーツ飲料、栄養飲料、アルコール飲料、その他の嗜好飲料等が挙げられる。
前述した食品以外の市販食品としては、例えば、ベビーフード、ふりかけ、お茶潰けのり等が挙げられる。
【0077】
また、本技術で定義される飲食品は、保険用途(例えば、減塩用等)が表示された飲食品として、提供・販売されることが可能である。
【0078】
本技術において、「表示」行為には、需要者に対して前記用途を知らしめるための全ての行為が含まれ、前記用途を想起・類推させうるような表現であれば、表示の目的、表示の内容、表示する対象物・媒体等の如何に拘わらず、全て本技術の「表示」行為に該当する。
【0079】
また、「表示」は、需要者が前記用途を直接的に認識できるような表現により行われることが好ましい。具体的には、飲食品に係る商品又は商品の包装に前記用途を記載したものを譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引き渡しのために展示し、輸入する行為、商品に関する広告、価格表若しくは取引書類に前記用途を記載して展示し、若しくは頒布し、又はこれらを内容とする情報に前記用途を記載して電磁気的(インターネット等)方法により提供する行為等が挙げられる。
【0080】
一方、表示内容としては、行政等によって認可された表示(例えば、行政が定める各種制度に基づいて認可を受け、そのような認可に基づいた態様で行う表示等)であることが好ましい。また、そのような表示内容を、包装、容器、カタログ、パンフレット、POP(Point of purchase advertising)等の販売現場における宣伝材、その他の書類等へ付することが好ましい。
【0081】
また、「表示」には、健康食品、機能性食品、病者用食品、経腸栄養食品、特別用途食品、保健機能食品、特定保健用食品、機能性表示食品、栄養機能食品、医薬用部外品等としての表示も挙げられる。これら中でも特に、消費者庁によって認可される表示、例えば、特定保健用食品制度、機能性表示食品制度、これらに類似する制度にて認可される表示等が挙げられる。より具体的には、特定保健用食品としての表示、条件付き特定保健用食品としての表示、機能性表示食品としての表示、身体の構造や機能に影響を与える旨の表示、疾病リスク低減表示等を挙げることができる。この中でも典型的な例としては、健康増進法施行規則(平成15年4月30日日本国厚生労働省令第86号)に定められた特定保健用食品としての表示(特に、保健の用途の表示)、食品表示法(平成25年法律第70号)に定められた機能性表示食品としての表示及びこれらに類する表示等が挙げられる。
【0082】
なお、前述したような表示を行うために使用する文言は、「減塩用」等の文言のみに限られるわけではなく、それ以外の文言であっても、減塩効果等を表す文言であれば、本技術の範囲に包含されることは言うまでもない。そのような文言としては、例えば、需要者に対して、減塩効果等を認識させるような種々の用途に基づく表示も可能である。
【0083】
また、本技術では、本技術に係るカゼイン酵素分解物を飲飼料に利用する場合、公知の飲飼料に本技術に係るカゼイン酵素分解物を添加して調製することもできるし、飲飼料の原料中に該カゼイン酵素分解物を混合して新たな飲飼料を製造することもできる。
また、本技術に係るカゼイン酵素分解物を飲飼料に利用する際には、そのまま、又は濃縮してから、或いは固体状、顆粒状又は粉末状に加工してから用いてもよい。
【0084】
飲飼料の原料としては、例えば、トウモロコシ、小麦、大麦、ライ麦等の穀類;ふすま、麦糠、米糠、脱脂米糠等の糠類;コーングルテンミール、コーンジャムミール等の製造粕類;脱脂粉乳、ホエー、魚粉、骨粉等の動物性飲飼料類;ビール酵母等の酵母類;リン酸カルシウム、炭酸カルシウム等の鉱物質飲飼料;油脂類;アミノ酸類;糖類等が挙げられる。また、前記飲飼料の形態としては、例えば、愛玩動物用飲飼料(ペットフード等)、家畜飲飼料、養魚飲飼料等が挙げられる。
【0085】
このように、本技術に係るカゼイン酵素分解物は、医薬品、飲食品、飲飼料等の幅広い分野において利用することが可能である。
【0086】
また、本技術では、以下の構成を採用することも可能である。
〔1〕遊離グルタミン酸の含量が3800mg/100g以上であるカゼイン酵素分解物の製造のための、アスペルギルス属に属する微生物由来の蛋白質分解酵素、乳酸菌由来の蛋白質分解酵素、及びグルタミナーゼ活性を有する酵素の使用。
〔2〕前記グルタミナーゼ活性を有する酵素を、カゼインに対して0.4質量%以上添加する、〔1〕に記載の使用。
〔3〕前記乳酸菌由来の蛋白質分解酵素を、カゼインに対して0.4質量%以上添加する、〔1〕又は〔2〕に記載の使用。
〔4〕前記遊離グルタミン酸の含量が、4400mg/100g以上である、〔3〕に記載の使用。
〔5〕遊離グルタミン酸の含量が4400mg/100g以上であるカゼイン酵素分解物の製造のための、アスペルギルス属に属する微生物由来の蛋白質分解酵素、乳酸菌由来の蛋白質分解酵素、及びグルタミナーゼ活性を有する酵素の使用。
〔6〕前記カゼイン酵素分解物は、風味増強剤として用いられる、〔1〕から〔5〕のいずれかに記載の使用。
〔7〕遊離グルタミン酸の含量が3800mg/100g以上であるカゼイン酵素分解物の、風味増強剤への使用。
〔8〕前記風味増強剤は、減塩用として用いられる、〔7〕に記載の使用。
【実施例】
【0087】
以下、実施例に基づいて本技術をさらに詳細に説明する。なお、以下に説明する実施例は、本技術の代表的な実施例の一例を示したものであり、これにより本技術の範囲が狭く解釈されることはない。
【0088】
[製造例]
<製造例1>
市販のカゼイン(蛋白質含量90%、フォンテラ社製)を10%の濃度で精製水に膨潤させ、次いで10%水酸化ナトリウム溶液を添加し溶解した。次いで、温度を50℃に調整し、下記表1に示す各添加量にて、「プロテアックス(Aspergillus oryzae由来;天野エンザイム社製)」、「FD−H(Lactobacillus helveticus由来;森永乳業社製)」、及び「グルタミナーゼ SD−C100S(Bacillus subtilis由来;天野エンザイム社製)」を添加して16時間処理した後、90℃で10分間の加熱により酵素を失活させて、下記表1に示す実施例1〜13のカゼイン酵素分解物を製造した。各カゼイン酵素分解物を、常法により乾燥し、粉末状のカゼイン酵素分解物を得た。
【0089】
[試験例]
<試験例1>
下記表1及び2に示す、各カゼイン酵素分解物、又は各カゼイン加水分解物について、遊離グルタミン酸の含量(mg/100g)を測定した。また、10人のパネラーにより、風味(旨味及び苦味)の評価を行った。具体的には、10点が最も強い、または良好であるとして評価し、各パネラーによる10段階評価の平均値を算出し、これを各評価点とした。表1及び2中の数値は、この評価点を示す。
【0090】
実施例1〜13は、前述した製造例1にて製造した各カゼイン酵素分解物を用いた。
比較例1は、乳業ジャーナル,2016年,第6巻,pp.32-36に記載のタツア・ジャパン社製 カゼイン加水分解物 HCP337を用いた。比較例2は、特開平9−28306号公報に記載の実施例1のカゼイン加水分解物を用いた。比較例3〜14は、下記表2に記載の各添加量にて各酵素を添加し、その他は前述した製造例1と同様の方法にて製造した各カゼイン酵素分解物を用いた。
【0091】
また、表1及び2に示す通り、上述した3種類以外の酵素として、実施例12及び13、並びに比較例11及び12では、「パンクレアチン(ブタ膵臓由来;天野エンザイム社製)」を用い、比較例13では、「パパイン W−40(パパイヤ由来;天野エンザイム社製)」を用い、比較例14では、「ビオプラーゼ SP−20(Bacillus sp.由来;ナガセケムテック社製)」を用いた。
【0092】
【表1】
【0093】
【表2】
【0094】
上記表1及び2に示す通り、カゼインに対して、アスペルギルス属に属する微生物由来の蛋白質分解酵素、乳酸菌由来の蛋白質分解酵素、及びグルタミナーゼ活性を有する酵素、の3種類の酵素を作用させることにより、遊離グルタミン酸の含量が高含量(=3800mg/100g以上)で、かつ苦味の少ないカゼイン酵素分解物が得られることが分かった。
【0095】
また、実施例10は、遊離グルタミンの含量が233mg/100gであり、遊離グルタミン酸と遊離グルタミンの合計含量が5805mg/100gであった。さらに、実施例13は、遊離グルタミンの含量が118mg/100gであり、遊離グルタミン酸と遊離グルタミンの合計含量が5878mg/100gであった。
一方で、比較例6は、遊離グルタミンの含量が1336mg/100gであり、遊離グルタミン酸と遊離グルタミンの合計含量が4059mg/100gであった。
【0096】
実施例10に対して、実施例13はパンクレアチンを1.0質量%添加している点で相違するが、パンクレアチンを添加しても、両者の遊離グルタミン酸と遊離グルタミンの合計含量に大きな差が認められないことから、本技術では、やはり、上述した3種類の酵素を用いることが必須であると考えられる。
【0097】
また、比較例6に対して、実施例10はグルタミナーゼを0.8質量%添加している点で相違するが、両者の遊離グルタミン酸と遊離グルタミンの合計含量には大きな差(=1746mg/100g)が認められた。このことから、基質であるグルタミンの生成が、単純に、アスペルギルス属に属する微生物由来の蛋白質分解酵素及び乳酸菌由来の蛋白質分解酵素の2種類の酵素によるものではない可能性が示唆された。具体的には、グルタミナーゼ非存在下では、ペプチド中のN末端に存在するグルタミンや遊離のグルタミンの一部が容易にピログルタミン酸に変化するが、その一方で、グルタミナーゼ活性を有する酵素を使用することで前述したグルタミンを速やかに安定的なグルタミン酸に変換することができるため、グルタミン酸が高含量であるカゼイン酵素分解物が得られていると予想される。
【0098】
<試験例2>
24gの北海道産スイートコーンパウダー(株式会社ナチュラルキッチン10製)及び1gの食塩を125mlの湯に溶解し、コーンスープを調整した。該コーンスープに、試験例1で用いたカゼイン酵素分解物中、下記表3に示す、カゼイン酵素分解物、又は各カゼイン加水分解物を1.0%(w/v)の濃度となるように添加して溶解し、10人のパネラーにより、風味(コク、旨味、塩味及び苦味)の評価を行った。なお、風味の評価方法は、試験例1と同様であるため、ここでは説明を割愛する。表3中の数値は、前述した評価点を示す。
【0099】
【表3】
【0100】
上記表3に示す通り、実施例10のカゼイン酵素分解物を用いた場合は、濃厚感があり、コクが最も強く、塩味も強かった。また、カゼイン酵素分解物特有の苦味は感じなかった。一方で、無添加品については、全体的に風味が弱かった。また、比較例1のカゼイン加水分解物を用いた場合は、無添加品と比較してコクを感じるものの、カゼイン加水分解物特有の苦味がやや感じられた。また、比較例2のカゼイン加水分解物を用いた場合は、カゼイン加水分解物特有の苦味が強く感じられ、また、実施例10と比較して全体的な風味も弱かった。
【0101】
<試験例3>
玉ねぎ1/4個、ニンニクチューブ小さじ1をオリーブオイルで炒めた後、カットトマト1/2缶とローリエを入れ中火で炒め、塩を0.2g添加し、トマトソースを調整した。該トマトソースに、試験例1で用いたカゼイン酵素分解物中、下記表4に示す、各カゼイン酵素分解物、又は各カゼイン加水分解物を0.5%(w/v)、又は、1.0%(w/v)の濃度となるように添加して溶解し、10人のパネラーにより、風味(コク、旨味、塩味及び苦味)の評価を行った。なお、風味の評価方法は、試験例1と同様であるため、ここでは説明を割愛する。表4中の数値は、前述した評価点を示す。
【0102】
【表4】
【0103】
上記表4に示す通り、実施例10のカゼイン酵素分解物を0.5%(w/v)用いた場合は、後味に程よくコク及び旨味が付与され、全体的に味に厚みが出ており、塩味も感じられた。また、実施例10のカゼイン酵素分解物を1.0%(w/v)用いた場合は、先味から旨味を感じ、全体的な風味が強く、濃厚感があり、塩味も強く感じられた。一方で、無添加品については、全体的に風味が弱かった。また、比較例1のカゼイン加水分解物を1.0%(w/v)用いた場合は、無添加品と比較してコクを感じるものの、カゼイン加水分解物特有の苦味が感じられ、実施例10と比較して全体的な風味が劣っていた。また、比較例2のカゼイン加水分解物を1.0%(w/v)用いた場合は、カゼイン加水分解物特有の苦味が強く感じられ、また、実施例10と比較して全体的な風味も弱かった。