(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6778812
(24)【登録日】2020年10月14日
(45)【発行日】2020年11月4日
(54)【発明の名称】複数種のハロゲン化オレフィンとフッ化アルカンを同時生産する方法
(51)【国際特許分類】
C07C 17/20 20060101AFI20201026BHJP
C07C 17/087 20060101ALI20201026BHJP
C07C 21/18 20060101ALI20201026BHJP
C07C 19/08 20060101ALI20201026BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20201026BHJP
【FI】
C07C17/20
C07C17/087
C07C21/18
C07C19/08
!C07B61/00 300
【請求項の数】7
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2019-502017(P2019-502017)
(86)(22)【出願日】2018年6月25日
(65)【公表番号】特表2019-530639(P2019-530639A)
(43)【公表日】2019年10月24日
(86)【国際出願番号】CN2018000232
(87)【国際公開番号】WO2019047447
(87)【国際公開日】20190314
【審査請求日】2019年1月15日
(31)【優先権主張番号】201710798254.6
(32)【優先日】2017年9月7日
(33)【優先権主張国】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】516137993
【氏名又は名称】浙江衢化▲弗▼化学有限公司
【氏名又は名称原語表記】ZHEJIANG QUHUA FLUOR−CHEMISTRY CO LTD
(74)【代理人】
【識別番号】110000291
【氏名又は名称】特許業務法人コスモス国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】洪 江永
(72)【発明者】
【氏名】楊 波
(72)【発明者】
【氏名】張 彦
(72)【発明者】
【氏名】余 国軍
(72)【発明者】
【氏名】▲超▼ 陽
(72)【発明者】
【氏名】欧陽 豪
(72)【発明者】
【氏名】▲ごん▼ 海涛
【審査官】
前田 憲彦
(56)【参考文献】
【文献】
特開2013−241395(JP,A)
【文献】
特表2012−509324(JP,A)
【文献】
特開平11−106358(JP,A)
【文献】
特開2012−116830(JP,A)
【文献】
特開2016−222647(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 17/00
C07C 19/00
C07C 21/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数種のハロゲン化オレフィンとフッ化アルカンを同時生産する方法であって、
シス−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロピレンを第1反応器に導入して、反応温度200〜400℃、空間速度300〜1000h−1で、第1触媒の作用で異性化反応を発生させ、第1反応器の反応生成物を得るステップ(a)と、
ステップ(a)で得られた第1反応器の反応生成物を第1精留塔に投入して、製品としてトランス−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロピレンと第1精留塔の塔底液を得るステップ(b)と、
ステップ(b)で得られたトランス−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロピレン30〜70wt%とフッ化水素を混合した後、第2反応器に投入して、フッ化水素とトランス−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロピレンのモル比を8〜20:1、反応温度を180〜400℃、空間速度を300〜1000h−1として、第2触媒の作用下で反応させ、第2反応器の反応生成物を得るステップ(c)と、
ステップ(c)で得られた第2反応器の反応生成物を相分離器に入れて分離し、無機相と有機相を得るステップ(d)と、
ステップ(d)で得られた有機相を第2精留塔に入れて、トランス−1,3,3,3−テトラフルオロプロピレン製品と第2精留塔の塔底液を得るステップ(e)と、
ステップ(e)で得られた第2精留塔の塔底液を第3精留塔に入れて、シス−1,3,3,3−テトラフルオロプロピレン製品と第3精留塔の塔底液を得るステップ(f)と、
ステップ(f)で得られた第3精留塔の塔底液を第4精留塔に入れて、1,1,1,3,3−ペンタフルオロプロパン製品と第4精留塔の塔底液を得るステップ(g)とを含み、
ステップ(c)において、前記第2触媒の組成は、酸化クロム73〜90質量%、酸化亜鉛9.5〜25質量%、酸化ガリウム0.5〜2質量%であり、フッ化水素とトランス−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロピレンのモル比を8〜20:1に制御することにより、前記第2触媒の寿命を延長する、ことを特徴とする方法。
【請求項2】
ステップ(b)において、前記第1精留塔の塔底液を第1反応器に循環させる、ことを特徴とする請求項1に記載の複数種のハロゲン化オレフィンとフッ化アルカンを同時生産する方法。
【請求項3】
ステップ(d)において、無機相を第2反応器に循環させる、ことを特徴とする請求項1に記載の複数種のハロゲン化オレフィンとフッ化アルカンを同時生産する方法。
【請求項4】
ステップ(g)において、第4精留塔の塔底液を第2反応器に循環させる、ことを特徴とする請求項1に記載の複数種のハロゲン化オレフィンとフッ化アルカンを同時生産する方法。
【請求項5】
ステップ(a)において、反応温度は250〜320℃、空間速度は500〜800h−1である、ことを特徴とする請求項1に記載の複数種のハロゲン化オレフィンとフッ化アルカンを同時生産する方法。
【請求項6】
ステップ(c)において、前記フッ化水素とトランス−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロピレンのモル比は10〜15:1、反応温度は200〜350℃、空間速度は500〜700h−1である、ことを特徴とする請求項1に記載の複数種のハロゲン化オレフィンとフッ化アルカンを同時生産する方法。
【請求項7】
ステップ(a)において、前記第1触媒は、アルミナ担持クロムとマグネシウムであり、クロムの担持量は3〜8wt%、マグネシウムの担持量は1〜3wt%である、ことを特徴とする請求項1に記載の複数種のハロゲン化オレフィンとフッ化アルカンを同時生産する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フッ素含有オレフィン、フッ素含有クロロオレフィン及びフッ素含有アルカンの製造方法に関し、特に複数種のハロゲン化オレフィンとフッ化アルカンを同時生産する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
1,3,3,3−テトラフルオロプロピレン(HFO−1234ze)は、ハイドロフルオロオレフィンHFOシリーズに属し、重要な4世代の冷媒と発泡剤である。HFO−1234zeはZ型とE型の2種があり、Z型は沸点が9℃、E型は沸点が−19℃、GWP値が6であり、Z型は発泡剤であってもよく、E型はほかの物質と混合して冷媒として使用される。
【0003】
1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロピレン(HFO−1233zd)は、Z型とE型の2種があり、E型は、沸点が19℃であり、Z型は、沸点が38℃、大気寿命が26日間、ODP値が約ゼロ、GWP値が<5であり、E型は、次世代の環境保全型発泡剤として好適であり、家電製品、建築用断熱材、コールドチェーン輸送、産業用断熱などの分野におけるポリウレタン断熱材の発泡に適しており、CFC、HCFC、HFCやほかの非フルオロカーボン発泡剤の代用品として好適である。従来の発泡剤系(HFC−245fa及びシクロペンタン)に比べて、より優れた熱伝達係数や総エネルギー消費レベルを有し、熱伝達係数が、それぞれ同一型番のHFC−245fa及びシクロペンタン系冷蔵庫よりも7%(HFC−245fa系に比べて)と12%(シクロペンタン系に比べて)低下し、且つ総エネルギー消費量も3%(HFC−245fa系に比べて)と7%(HFC−245fa系に比べて)低下する。
【0004】
1,1,1,3,3−ペンタフルオロプロパン(HFC−245fa)は、大気のオゾン層に対して安全なフッ化炭化水素化合物であり、オゾン層破壊係数(ODP)がゼロで、地球温暖化係数(GWP)が低く、不燃性、低毒性を有し、現在、主にトリクロロフルオロメタン(CFC−11)と1,1,1−トリクロロフルオロエタン(HCFC−141b)発泡剤の代替品として使用されるとともに、溶媒、噴射剤、消火剤やドライエッチャントに幅広く適用されている。
【0005】
HFO−1233zdの製造方法としては、主に1,1,1,3,3−ペンタクロロプロパン(HCC−240fa)とHFを原料として、気相法により合成し、反応後にZ型とE型の2種があり、今のところ、Z型の用途が少ないため、一般的に、Z型を異性化してE型にする。
【0006】
HFC−245faの製造方法としては、主に1,1,1,3,3−ペンタクロロプロパンと無水フッ化水素を原料とし、液相法を主にし、一般的にはSb、Sn又はTiの塩化物を触媒とし、反応温度が低く、エネルギー消費量が低い反面、装置への腐食が深刻で、連続的に操作できず、環境保全上の問題が深刻である。
【0007】
HFO−1234zeの産業化が期待できる製造経路は、主に、1,1,1,3,3−ペンタフルオロプロパン(HFC−245fa)の気相脱HF法と1−クロロ3,3,3−トリフルオロプロピレンのHF添加法の2種を有する。
【0008】
中国特許出願公開第103189338号(開示日:2013年7月3日、発明名称:「トランス−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロピレン、トランス−1,3,3,3−テトラフルオロプロピレン及び1,1,1,3,3−ペンタフルオロプロパンを同時生産する統合方法」において、単一塩素化炭化水素原料である1,1,1,3,3−ペンタクロロプロパンを出発として、トランス−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロピレン、トランス−1,3,3,3−テトラフルオロプロピレン及び1,1,1,3,3−ペンタフルオロプロパンを同時生産する統合生産方法が開示されている。該方法は、トランス−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロピレンを直接発生させる液相又は気相反応/精製の組み合わせ操作を含む。第2液相フッ化反応器において、トランス−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロピレンとフッ化水素(HF)は、触媒存在下で接触して、高転化率と高選択性で反応し、1,1,1,3,3−ペンタフルオロプロパンを発生する。第3反応器では、液相中に苛性アルカリ溶液と接触し又は気相中に脱フッ化水素触媒を用いて245faの脱フッ化水素を行ってトランス−1,3,3,3−テトラフルオロプロピレンを発生する。該トランス−1,3,3,3−テトラフルオロプロピレン生成物を回収するために、該操作後に、1つ又は複数の精製過程を行ってもよい。液相フッ化と液相脱フッ化水素では、反応触媒の寿命が短く、プロセス全体による廃液が多く、環境を保全するための処置によるコストが高いという欠点がある。
【0009】
中国特許出願公開第103476736号(開示日:2013年12月25日、発明名称:「1,1,1,3,3−ペンタフルオロプロパン、トランス−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロピレンとトランス−1,3,3,3−テトラフルオロプロピレンを同時生産する統合方法」)において、1,1,1,3,3−ペンタフルオロプロパン(HFC−245fa)、トランス−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロピレン(HFO−1233zd(E))及びトランス−1,3,3,3−テトラフルオロプロピレン(HFO−1234ze(E))を同時生産する高度統合方法が開示されている。化学過程において、(a)1,1,1,3,3−ペンタクロロプロパン(HCC−240fa)又は1,1,3,3−テトラクロロプロピレンと1,3,3,3−テトラクロロプロピレンから選ばれるその誘導体と過剰な無水HFとを、触媒存在下で、液相反応器において、所定の方式で反応させて、第1反応器においてHFO−1233zd、HFO−1234ze、HCFC−244fa(3−クロロ−1、1、1、3−テトラフルオロプロパン)及びHFC−245faを同時生産するステップと、(b)HFO−1233zd及びHFO−1234zeと過剰なHClとを、触媒存在下で、第2反応器において反応させて、この2種のオレフィンをそれぞれHCFC−243faとHCFC−244faに転化するステップと、(c)HCFC−243faとHCFC−244faを、第3反応器において、脱塩化水素触媒上又は苛性アルカリ溶液において反応させてHFO−1233zdとHFO−1234zeを形成するステップと、(d)HFO−1233zd(Z)とHFO−1234ze(Z)を、触媒存在下で、第4反応器において反応させて、それぞれHFO−1233zd(E)とHFO−1234ze(E)を形成するステップとを含む。該経路では、第1ステップ、第2ステップには液相反応が使用されており、反応触媒の寿命が短く、プロセス全体による廃液が多く、環境を保全するための処置によるコストが高い。
【0010】
中国特許出願公開第103429558号(開示日:2013年12月4日、発明名称:「トランス−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロピレン、トランス−1,3,3,3−テトラフルオロプロピレン及び1,1,1,3,3−ペンタフルオロプロパンを同時生産する統合方法」)において、該同時生産は三段法である。その化学過程には、HCC−240faと過剰なHFを、液相触媒反応器において、主にHFO−1233zd(E)、HCFC−244fa及びHClを同時発生するように反応させるステップ(1)と、次に、HCFC−244fa流れを用いて、3種類の所望の生成物のうちのいずれかの生成物を直接生産するステップ(2)と、HCFC−244fa流れを脱塩化水素して、所望の第2生成物HFO−1234ze(E)を生産するステップ(3a)、及び/又は、より多くのHFO−1233zd(E)が期待される場合、HCFC−244faを脱フッ化水素して、HFO−1233zd(E)を生産するステップ(3b)、及び/又は、HCFC−244faをさらにフッ化してHFC−245faを形成するステップ(3c)とを含む。
【0011】
中国特許出願公開第102918010号(開示日:2015年2月25日、発明名称:「トランス−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロピレンとトランス−1,3,3,3−テトラフルオロプロピレンを同時生産する統合方法」)において、液相反応と精製操作を組み合わせた統合製造方法が開示されており、トランス−1,3,3,3−テトラフルオロプロピレンを製造するための前駆体であるトランス−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロピレンと3−クロロ−1,1,1,3−テトラフルオロプロパンを直接生産する。同時生産する生成物である混合物は通常の蒸留により分離されやすく、且つ、次に、液相中に苛性アルカリ溶液と接触し又は気相中に脱塩化水素触媒を用いて3−クロロ−1,1,1,3−テトラフルオロプロパンを脱塩化水素されて、トランス−1,3,3,3−テトラフルオロプロピレンを生産する。液相フッ化と液相脱フッ化水素では、反応触媒の寿命が短く、プロセス全体による廃液が多く、環境を保全するための処置によるコストが高いという欠点がある。
【0012】
中国特許出願公開第103880589号(開示日:2014年6月25日、発明名称:「HFO−1234zeとHFC−245faの同時生産プロセス」)において、1,1,1,3,3−ペンタクロロプロパン(HCC−240fa)とHFを原料として、二段気相フッ化によりHFO−1234zeとHFC−245faを製造する。第1反応器においてHCC−240faとHFを反応させて、HFC−245fa、HFO−1233zd、HF、HClを得て、HCl分離後、混合物を第2反応器に投入して、HFO−1234zeのZ型とE型を得て、HFO−1233zd、HFC−245fa及びHCFC−244faについて、一連の分離をして、HFC−245faとHFO−1234zeを得る。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、従来技術の欠点に対して、プロセスがシンプルで、操作の柔軟性が高く、投資が少なく、エネルギー消費量が低い複数種のハロゲン化オレフィンとフッ化アルカンを同時生産する方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記技術的問題を解決するために、本発明に使用される技術案は以下のとおりである。複数種のハロゲン化オレフィンとフッ化アルカンを同時生産する方法であって、
シス−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロピレンを第1反応器に導入して、反応温度200〜400℃、空間速度300〜1000h
−1で、第1触媒の作用で異性化反応を発生させ、第1反応器の反応生成物を得るステップ(a)と、
ステップ(a)で得られた第1反応器の反応生成物を第1精留塔に投入して、製品としてトランス−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロピレンと第1精留塔の塔底液を得るステップ(b)と、
ステップ(b)で得られたトランス−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロピレン30〜70wt%(wt%、質量百分率)とフッ化水素を混合した後、第2反応器に投入して、フッ化水素とトランス−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロピレンのモル比を8〜20:1、反応温度を180〜400℃、空間速度を300〜1000h
−1として、第2触媒の作用下で反応させ、第2反応器の反応生成物を得るステップ(c)と、
ステップ(c)で得られた第2反応器の反応生成物を相分離器に入れて分離し、無機相と有機相を得るステップ(d)と、
ステップ(d)で得られた有機相を第2精留塔に入れて、トランス−1,3,3,3−テトラフルオロプロピレン製品と第2精留塔の塔底液を得るステップ(e)と、
ステップ(e)で得られた第2精留塔の塔底液を第3精留塔に入れて、シス−1,3,3,3−テトラフルオロプロピレン製品と第3精留塔の塔底液を得るステップ(f)と、
ステップ(f)で得られた第3精留塔の塔底液を第4精留塔に入れて、1,1,1,3,3−ペンタフルオロプロパン製品と第4精留塔の塔底液を得るステップ(g)とを含む。
【0015】
本発明の好適な実施形態として、ステップ(b)において、前記第1精留塔の塔底液を第1反応器に循環させる。
【0016】
本発明の好適な実施形態として、ステップ(d)において、前記無機相を第2反応器に循環させる。
【0017】
本発明の好適な実施形態として、ステップ(g)において、前記第4精留塔の塔底液を第2反応器に循環させる。
【0018】
本発明の好適な実施形態として、ステップ(a)において、前記反応温度は、好ましくは250〜320℃、空間速度は、好ましくは500〜800h
−1である。
【0019】
本発明の好適な実施形態として、ステップ(c)において、前記フッ化水素とトランス−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロピレンのモル比は、好ましくは10〜15:1、反応温度は、好ましくは200〜350℃、空間速度は、好ましくは500〜700h
−1である。
【0020】
本発明の好適な実施形態として、ステップ(a)において、前記第1触媒は、アルミナ担持クロムとマグネシウムであり、クロムの担持量は、好ましくは3〜8wt%、マグネシウムの担持量は、好ましくは1〜3wt%である。
【0021】
本発明の好適な実施形態として、ステップ(c)において、前記第2触媒の組成は、酸化クロム73〜90質量%、酸化亜鉛9.5〜25質量%、酸化ガリウム0.5〜2質量%である。
【0022】
本発明では、第1反応器では、異性化反応を行い、HFO−1233zd(Z)を異性化してHFO−1233zd(E)にし、異性化が平衡反応であるため、温度によるHFO−1233zd(Z)の転化率への影響が大きく、温度が高いと、クロロ含有オレフィンにより触媒にはカーボンが蓄積されやすい。従って、本発明の第1反応器において、反応条件として、反応温度を200〜400℃、空間速度を300〜1000h
−1として制御し、反応条件として、好ましくは、反応温度は250〜320℃、空間速度は500〜800h
−1である。
【0023】
本発明では、HFO−1233zd(E)とフッ化水素(HF)を第2反応器で反応させて、HFC−245fa、HFO−1234ze(E)及びHFO−1234ze(Z)を含む混合物を得て、反応は以下のとおりである。
CF
3CH=CHCl(HFO−1233zd)+HF→CF
3CH=CHF(HFO−1234ze)+HCl
CF
3CH=CHF(HFO1234ze)+HF→CF
3CH
2CHF
2(HFC−245fa)
CF
3CH
2CHF
2(HFC−245fa)→CF
3CH=CHF(HFO−1234ze)+HF
又は、CF
3CH=CHClとHFを反応させてCF
3CH
2CHFClを得て、次に脱塩化水素(HCl)してCF
3CH=CHFを得て、また、CF
3CH=CHClとHFをワンステップで反応させても、CF
3CH
2CHF
2は得られる。
【0024】
第2反応器において複数の反応を同時に行うため、反応条件による影響が大きい。温度が上昇すると、HFC−245faの含有量は低下し、HFO−1234zeの含有量は向上する。低温がHFC−245faの生成に有利であり、温度210〜230℃では、生成するHFC−245faの含有量は最高である。温度の上昇がHFO−1234zeの生成に有利であり、温度330〜350℃では、生成するHFO−1234zeの含有量は最高であり、HFO−1234zeは、Z型とE型の混合物であり、市場のニーズに応じて製品の割合を調整できる。温度が高くなると、オレフィン原料CF
3CH=CHClに自己重合が生じやすく、触媒に炭素が蓄積して不活性化が加速化され、触媒は酸化クロムを主成分として、さらに亜鉛とガリウムの酸化物を含み、亜鉛の添加により触媒の活性が高まり、ガリウムの添加により対象生成物の選択性が向上し、ほかの副生成物の発生が抑制され、また、高温条件下での触媒への炭素蓄積が抑制できる。モル比は生成物の選択性へ所定の影響を与える。モル比の向上により、HFC−245faの含有量が高くなり、HFO−1234zeの含有量は低下する。モル比が高い場合、過剰なHFにより熱量が放散されて、触媒の寿命延長に貢献する。このため、本発明の第2反応器では、反応条件として、HFとHFO−1233zd(E)のモル比は8〜20:1、反応温度は180〜400℃、空間速度は300〜1000h
−1に制御され、反応条件としては、好ましくは、HFとHFO−1233zd(E)のモル比は10〜15:1、反応温度は200〜350℃、空間速度は500〜700h
−1である。
【0025】
第2反応器の反応生成物には、製品としてのHFC−245fa、HFO−1234ze(E)及びHFO−1234ze(Z)以外、未反応原料であるHFO−1233zd(E)及び過剰なHFが含まれており、このような物質の沸点を以下に示す。
【0026】
【表0】
【0027】
HF、HFC−245fa及びHFO−1233zd(E)の沸点が極めて近いため、HFが過量になりすぎると、再利用する必要があるため、後続の分離を実施しにくくし、それに対して、本発明では、分離過程に相分離器が設計されることにより、無機相HFと有機相を効果的に分離して、相分離器の温度を0〜−30℃に制御して、99%のHFを分離し、第2反応器に戻して再利用する。
【0028】
本発明では、第1反応器触媒は、アルミナ担持クロムとマグネシウムであり、本分野に既知の浸漬法で製造され得、具体的には、クロムとマグネシウム金属の塩素化塩又は硝酸塩を水に溶解して、アルミナ担体を浸漬し、所定の担持量になると、乾燥させて焙焼し、HFでフッ化して触媒を得る。
【0029】
本発明では、第2反応器の触媒は、酸化クロムを主成分として、さらに亜鉛とガリウムの酸化物を含むものであり、本分野に既知の共沈殿法で製造され得、具体的には、クロム、亜鉛及びガリウムの塩素化塩又は硝酸塩を、所定の配合比率で水に溶解して、アンモニア水(NH
3・H
2O)、炭酸アンモニウム((NH
4)
2・CO
3)等の弱アルカリから選ばれる沈殿剤を加えて反応させ、次に濾過、水洗、乾燥、焙焼、造粒、プレスをして前駆体を得て、フッ化して、触媒を得る。
【0030】
本発明における第1反応器と第2反応器は、等温又は断熱式のものを用い得る。
【発明の効果】
【0031】
従来技術に比べて、本発明は、以下の利点を有する。
(1)プロセスがシンプルで、効率的であり、本発明では、二段気相法で反応させ、反応プロセス、触媒配合比率、反応温度、空間速度などのパラメータを最適化させることで反応効率向上させ、エネルギー消費量を著しく低下させる。
(2)環境に優しく、廃棄ガス・廃水・固体廃棄物の発生量が少なく、本発明では、気相法による生産プロセスが使用されており、完全に反応されていない原料と中間製品を反応器に戻してさらに反応させることができることから、廃棄ガス・廃水・固体廃棄物の排出量を著しく低下させる。
(3)投資が少なく、操作の柔軟性が高く、1セットの装置によりトランス−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロピレン、トランス−1,3,3,3−テトラフルオロプロピレン、シス−1,3,3,3−テトラフルオロプロピレン及び1,1,1,3,3−ペンタフルオロプロパンの4種類の製品を同時に生産でき、市場の需要に応じて製品の割合を柔軟に調整できるため、装置への投資を著しく低下させる。
【発明を実施するための形態】
【0033】
本発明のプロセスは
図1に示されるとおりであり、原料としてシス−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロピレン(HFO−1233zd(Z))を、管路8を介して第1反応器1に投入して、反応させ、HFO−1233zd(E)と未反応HFO−1233zd(Z)を含有する混合物を得て、当該混合物を、管路9を介して第1精留塔2に投入し、第1精留塔2の塔頂で管路10から製品HFO−1233zd(E)を抜き出し、塔釜で未反応HFO−1233zd(Z)を管路11から第1反応器1に戻し、HFO−1233zd(E)30〜70wt%を、管路12を介して第2反応器3に投入して、HFを、管路13を介して第2反応器に投入し、反応させて、HFO−1234ze(E)、HFO−1234ze(Z)、HFC−245fa、未反応HFO−1233zd(E)、HCL及びHFを含有する混合物を得て、管路14を介して相分離器4に投入し、相分離器4の上層における大量のHFと少量の有機物を含有する無機相を、管路15を介して第2反応器3に戻し、下層における大量の有機物と少量のHFを含有する有機層を、管路16を介して第2精留塔5に投入し、第2精留塔5の塔頂成分を、製品HFO−1234ze(E)として、管路17から抜き出し、塔釜におけるHFO−1234ze(Z)、HFC−245fa、未反応HFO−1233zd(E)を含有する混合物を、管路18を介して、第3精留塔6に投入し、第3精留塔6の塔頂成分を、製品HFO−1234ze(Z)として、管路19から抜き出し、塔釜に含まれるHFC−245faと未反応HFO−1233zd(E)を、管路20を介して第4精留塔7に投入し、第4精留塔7の塔頂成分を、製品HFC−245faとして、管路21から抜き出し、塔釜の未反応HFO−1233zd(E)を、管路22を介して第2反応器3に戻す。
【0034】
以下、実施例にて本発明についてさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例のみに制限されない。
【実施例1】
【0035】
Al
2O
3/Cr/Mg(組成:Al
2O
3:95質量%;Cr
2O
3:4質量%;MgO:1質量%)触媒200mlを第1反応器に投入して、層温度を330℃に昇温すると、100g/hの流量、ホットスポット温度<380℃で、HFを導入して活性化させ、ホットスポット温度が層温度と同じ温度になった後、再度上昇しない場合、フッ化を終了した。
第1反応器を反応温度に昇温させて、HFO−1233zd(Z)を投入して反応させ、反応器の空間速度を設定値に保持し、1時間反応後、第1反応器の出口からサンプリングして分析した。異なる温度と空間速度での反応結果を表1−1に示した。
【0036】
【表1-1】
【0037】
第2反応器にCr
2O
3/ZnO/GaO触媒(組成:Cr
2O
3:80質量%、ZnO:19質量%、GaO:1質量%)を充填して、層温度を350℃に昇温し、100g/hのHF流量、ホットスポット温度<370℃で、HFを導入して活性化させ、ホットスポット温度が層温度と同じ温度になった後、再度上昇しない場合、さらに20時間フッ化して、フッ化を終了した。
【0038】
第1反応器出口の混合物を分離した後、純度99.9%のHFO−1233zd(E)製品を得て、HFO−1233zd(E)製品30wt%とHFをともに第2反応器に投入して反応させ、1時間反応後、第2反応器の出口からサンプリングして分析し、各種の温度、空間速度、フッ化水素及びトランス−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロピレンのモル比での反応結果を表1−2に示した。
【0039】
【表1-2】
【実施例2】
【0040】
Al
2O
3/Cr/Mg(組成:Al
2O
3:90質量%;Cr
2O
3:8質量%;MgO:2質量%)触媒200mlを第1反応器に投入して、層温度を330℃に昇温し、100g/hのHF流量、ホットスポット温度<380℃で、HFを導入して活性化させ、ホットスポット温度が層温度と同じ温度になった後、再度上昇しない場合、フッ化を終了した。
【0041】
第1反応器を反応温度に昇温させ、HFO−1233zd(Z)を導入して反応させ、反応器の空間速度を設定値に保持しながら、1時間反応後、第1反応器出口からサンプリングして分析した。各種の温度と空間速度での反応結果を表2−1に示した。
【0042】
【表2-1】
【0043】
第2反応器を、Cr
2O
3/ZnO/GaO触媒(組成:Cr
2O
3:90質量%、ZnO:9.5質量%、GaO:0.5質量%)に充填して、層温度を350℃に昇温し、100g/hのHF流量、ホットスポット温度<370℃でHFを導入して活性化させ、ホットスポット温度が層温度と同じ温度になった後、再度上昇しない場合、さらに20時間フッ化して、フッ化を終了した。
【0044】
第1反応器出口の混合物を分離した後、純度99.9%のHFO−1233zd(E)製品を得て、HFO−1233zd(E)製品40wt%とHFをともに第2反応器に投入して反応させ、1時間反応後、第2反応器出口からサンプリングして分析し、各種温度、空間速度、フッ化水素及びトランス−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロピレンのモル比での反応結果を表2−2に示した。
【0045】
【表2-2】
【実施例3】
【0046】
Al
2O
3/Cr/Mg(組成:Al
2O
3:93質量%;Cr
2O
3:6質量%;MgO:1質量%)触媒200mlを第1反応器に投入して、層温度を330℃に昇温し、100g/hのHF流量、ホットスポット温度<380℃で、HFを導入して活性化させ、ホットスポット温度が層温度と同じ温度になった後、再度上昇しない場合、フッ化を終了した。
【0047】
第1反応器を反応温度に昇温させ、HFO−1233zd(Z)を導入して反応させ、反応器の空間速度を設定値に保持しながら、1時間反応後、第1反応器出口からサンプリングして分析した。各種温度と空間速度での反応結果を表3−1に示した。
【0048】
【表3-1】
【0049】
Cr
2O
3/ZnO/GaO触媒(組成:Cr
2O
3:73質量%、ZnO:25質量%、GaO:2質量%)を第2反応器に充填して、層温度を350℃に昇温し、100g/hのHF流量、ホットスポット温度<370℃で、HFを導入して活性化させ、ホットスポット温度が層温度と同じ温度になった後、再度上昇しない場合、さらに20時間フッ化して、フッ化を終了した。
【0050】
第1反応器出口の混合物を分離した後、純度99.9%のHFO−1233zd(E)製品を得て、HFO−1233zd(E)製品50wt%とHFをともに第2反応器に投入して反応させ、1時間反応後、第2反応器出口からサンプリングして分析し、各種温度、空間速度、フッ化水素及びトランス−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロピレンのモル比での反応結果を表3−2に示した。
【0051】
【表3-2】
【実施例4】
【0052】
Al
2O
3/Cr/Mg(組成:Al
2O
3:90質量%;Cr:7質量%;Mg:3質量%)触媒200mlを第1反応器に投入して、層温度を330℃に昇温し、100g/hのHF流量、ホットスポット温度<380℃で、HFを導入して活性化させ、ホットスポット温度が層温度と同じ温度になった後、再度上昇しない場合、フッ化を終了した。
【0053】
第1反応器を反応温度に昇温させ、HFO−1233zd(Z)を導入して反応させ、反応器の空間速度を設定値に保持しながら、1時間反応後、第1反応器出口からサンプリングして分析した。各種温度と空間速度での反応結果を表4−1に示した。
【0054】
【表4-1】
【0055】
第2反応器にCr
2O
3/ZnO/GaO触媒(組成:Cr
2O
3:85質量%、ZnO:14質量%、GaO:1質量%)を充填して、層温度を350℃に昇温し、100g/hのHF流量、ホットスポット温度<370℃で、HFを導入して活性化させ、ホットスポット温度が層温度と同じ温度になった後、再度上昇しない場合、さらに20時間フッ化して、フッ化を終了した。
【0056】
第1反応器出口の混合物を分離した後、純度99.9%のHFO−1233zd(E)製品を得て、70wt%のHFO−1233zd(E)製品とHFをともに第2反応器に投入して反応させ、1時間反応後、第2反応器出口からサンプリングして分析し、各種温度、空間速度、フッ化水素及びトランス−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロピレンのモル比での反応結果を表4−2に示した。
【0057】
【表4-2】
【符号の説明】
【0058】
1:第1反応器、2:第1精留塔、3:第2反応器、4:相分離器、5:第2精留塔、6:第3精留塔、7:第4精留塔、8〜22:プロセス管路