(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6778817
(24)【登録日】2020年10月14日
(45)【発行日】2020年11月4日
(54)【発明の名称】複合材成形治具及び複合材成形方法
(51)【国際特許分類】
B29C 33/20 20060101AFI20201026BHJP
B29C 43/34 20060101ALI20201026BHJP
B29C 70/44 20060101ALI20201026BHJP
【FI】
B29C33/20
B29C43/34
B29C70/44
【請求項の数】11
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2019-515188(P2019-515188)
(86)(22)【出願日】2018年4月2日
(86)【国際出願番号】JP2018014173
(87)【国際公開番号】WO2018198687
(87)【国際公開日】20181101
【審査請求日】2019年10月15日
(31)【優先権主張番号】特願2017-89546(P2017-89546)
(32)【優先日】2017年4月28日
(33)【優先権主張国】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成28年度、経済産業省、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「次世代構造部材創製・加工技術開発/次世代複合材及び軽金属構造部材創製・加工技術開発(第二期)」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】100136504
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 毅彦
(72)【発明者】
【氏名】平林 大輔
【審査官】
▲高▼村 憲司
(56)【参考文献】
【文献】
特公昭40−010719(JP,B1)
【文献】
特開2010−115867(JP,A)
【文献】
国際公開第2007/102573(WO,A1)
【文献】
特開2015−229304(JP,A)
【文献】
特開2015−142993(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 43/00 − 43/58
B29C 70/00 − 70/88
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
展開及び少なくとも1つの成形型を他の成形型に対して相対的に傾斜させることが可能な複数の成形型であって、展開した状態で、樹脂を含浸させた複数のシート状の繊維及び樹脂を含浸させる前の複数のシート状の繊維の少なくとも一方の積層を行い、前記少なくとも1つの成形型を相対的に傾斜させて前記積層後の繊維の賦形を行うための複数の成形型と、
前記積層を行う場合には前記複数の成形型を展開する一方、前記賦形を行う場合には前記少なくとも1つの成形型を傾斜させる傾斜機構と、
展開した状態において前記複数の成形型間における隙間を変化させる移動機構と、
を有する複合材成形治具。
【請求項2】
前記移動機構は、前記少なくとも1つの成形型を傾斜させることによって折り曲げられる前記積層後の繊維の谷側の長さよりも山側の長さの方が長くなるように、前記繊維の積層枚数が増えるにつれて前記複数の成形型間における隙間を狭くするように構成される請求項1記載の複合材成形治具。
【請求項3】
展開された状態における前記複数の成形型への前記繊維の積層を行う自動積層装置から前記繊維の積層枚数を示す情報を取得し、前記繊維の積層枚数を示す情報に基づいて、前記繊維の積層枚数が増えるにつれて前記複数の成形型間における隙間が狭くなるように前記移動機構を制御する制御装置を更に有する請求項2記載の複合材成形治具。
【請求項4】
前記複数の成形型を連結し、かつ前記複数の成形型に着脱可能なボールネジを前記移動機構として有する請求項1乃至3のいずれか1項に記載の複合材成形治具。
【請求項5】
展開及び少なくとも1つの成形型を他の成形型に対して相対的に傾斜させることが可能な複数の成形型であって、展開した状態で、樹脂を含浸させた複数のシート状の繊維及び樹脂を含浸させる前の複数のシート状の繊維の少なくとも一方の積層を行い、前記少なくとも1つの成形型を相対的に傾斜させて前記積層後の繊維の賦形を行うための複数の成形型と、
前記積層を行う場合には前記複数の成形型を展開する一方、前記賦形を行う場合には前記少なくとも1つの成形型を傾斜させる傾斜機構と、
前記少なくとも1つの成形型を傾斜させた状態において、前記少なくとも1つの成形型と、前記少なくとも1つの成形型に隣接する成形型との間に生じる空隙に配置される別の成形型であって樹脂を含浸させた前記積層後における繊維の面取り用の成形型と、
を有する複合材成形治具。
【請求項6】
前記少なくとも1つの成形型を傾斜させた状態において前記積層後における繊維を覆うバギングフィルムと各成形型とで囲まれた領域を真空状態にするために、前記少なくとも1つの成形型と、前記面取り用の成形型との間並びに前記少なくとも1つの成形型に隣接する成形型と、前記面取り用の成形型との間とをシールするシール部材を有する請求項5記載の複合材成形治具。
【請求項7】
展開及び少なくとも1つの成形型を他の成形型に対して相対的に傾斜させることが可能な複数の成形型であって、展開した状態で、樹脂を含浸させた複数のシート状の繊維及び樹脂を含浸させる前の複数のシート状の繊維の少なくとも一方の積層を行い、前記少なくとも1つの成形型を相対的に傾斜させて前記積層後の繊維の賦形を行うための複数の成形型と、
前記積層を行う場合には前記複数の成形型を展開する一方、前記賦形を行う場合には前記少なくとも1つの成形型を傾斜させる傾斜機構と、
を有し、
前記少なくとも1つの成形型を傾斜させた状態において、樹脂を含浸させた前記積層後における繊維に面取りが形成されるように、前記少なくとも1つの成形型と、前記少なくとも1つの成形型に隣接する成形型との間を可撓性を有するシートで連結した複合材成形治具。
【請求項8】
展開及び少なくとも1つの成形型を他の成形型に対して相対的に傾斜させることが可能な複数の成形型であって、展開した状態で、樹脂を含浸させた複数のシート状の繊維及び樹脂を含浸させる前の複数のシート状の繊維の少なくとも一方の積層を行い、前記少なくとも1つの成形型を相対的に傾斜させて前記積層後の繊維の賦形を行うための複数の成形型と、
前記積層を行う場合には前記複数の成形型を展開する一方、前記賦形を行う場合には前記少なくとも1つの成形型を傾斜させる傾斜機構と、
を有し、
前記少なくとも1つの成形型と、前記少なくとも1つの成形型に隣接する成形型との間を回転可能に連結し、かつ前記少なくとも1つの成形型及び前記隣接する成形型に着脱可能なヒンジを前記傾斜機構として有する複合材成形治具。
【請求項9】
少なくとも1つの成形型を他の成形型に対して相対的に傾斜させることが可能な複数の成形型を展開した状態でセットするステップと、
樹脂を含浸させた複数のシート状の繊維及び樹脂を含浸させる前の複数のシート状の繊維の少なくとも一方を、前記展開した状態における前記複数の成形型に積層するステップと、
前記少なくとも1つの成形型を相対的に傾斜させることによって、前記樹脂を含浸させた積層後における繊維の賦形を行うステップと、
前記樹脂を含浸させた前記賦形後の繊維を加圧下で加熱硬化することによって硬化後における前記樹脂が前記繊維で強化された複合材の製品又は半製品を製造するステップと、
を有し、
前記少なくとも1つの成形型を傾斜させることによって折り曲げられる前記積層後の繊維の谷側の長さよりも山側の長さの方が長くなるように、前記繊維の積層枚数が増えるにつれて前記複数の成形型間における隙間を狭くする複合材成形方法。
【請求項10】
少なくとも1つの成形型を他の成形型に対して相対的に傾斜させることが可能な複数の成形型を展開した状態でセットするステップと、
樹脂を含浸させた複数のシート状の繊維及び樹脂を含浸させる前の複数のシート状の繊維の少なくとも一方を、前記展開した状態における前記複数の成形型に積層するステップと、
前記少なくとも1つの成形型を相対的に傾斜させることによって、前記樹脂を含浸させた積層後における繊維の賦形を行うステップと、
前記樹脂を含浸させた前記賦形後の繊維を加圧下で加熱硬化することによって硬化後における前記樹脂が前記繊維で強化された複合材の製品又は半製品を製造するステップと、
を有し、
前記少なくとも1つの成形型を傾斜させた状態において、前記少なくとも1つの成形型と、前記少なくとも1つの成形型に隣接する成形型との間に生じる空隙に面取り用の成形型を配置することによって、樹脂を含浸させた前記積層後における繊維に面取りを形成する複合材成形方法。
【請求項11】
前記少なくとも1つの成形型を傾斜させた状態において、前記少なくとも1つの成形型と、前記面取り用の成形型との間並びに前記少なくとも1つの成形型に隣接する成形型と、前記面取り用の成形型との間とをシール部材でシールし、前記積層後における繊維を覆うバギングフィルムと各成形型とで囲まれた領域を真空状態にすることによって前記賦形後の繊維に対する前記加圧を行う請求項10記載の複合材成形方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、複合材成形治具
及び複合材成形方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ガラス繊維強化プラスチック(GFRP: Glass fiber reinforced plastics)や炭素繊維強化プラスチック(CFRP: Carbon Fiber Reinforced Plastics)等の複合材の典型的な成形方法は、シート状の繊維に樹脂を含浸させたプリプレグを積層し、積層されたプリプレグをオートクレーブ装置等で加熱硬化するというものである。このため、シート状のプリプレグを、硬化後における複合材の形状に合わせて積層するための成形治具が用いられる(例えば特許文献1及び特許文献2参照)。
【0003】
硬化前におけるプリプレグの形状を整える作業は、プリプレグの加熱硬化による成形と区別するために、賦形と呼ばれる。複合材の成形型にプリプレグを積層する際には、プリプレグに皺が生じないように積層することが重要である。そこで、成形型に積層されたプリプレグに皺が生じないように、ローラを動かす複合材の成形方法が提案されている(例えば特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2015−157481号公報
【特許文献2】特開2014−051065号公報
【特許文献3】特開2006−335049号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
成形型にプリプレグを積層することによって複雑な形状を有する複合材を成形するためには、複雑な形状を有する成形型を準備することが必要である。但し、硬化後における複合材を成形型から脱型できるように、すなわち複合材を離型できるように成形型の形状を設計することが必要である。
【0006】
逆に、成形型から離型することが困難な形状を有する複合材は、成形型を用いて一体成形することができない。このため、複雑な形状を有する複合材は、複数のパーツに分けてそれぞれ加熱硬化した後にファスナで組立てるか、或いは、パーツごとに積層したプリプレグの積層体を組立てて一体硬化(コキュア)せざるを得ない。また、複雑な形状を有する複合材を製作する別の方法として、事前に加熱硬化したパーツを硬化前のプリプレグ上にセットし、プリプレグの硬化と同時に接着硬化(コボンド)させる手法も知られている。
【0007】
具体例として、航空機の構造体の1つとして典型的な、外板(パネル)に桁(スパー)、小骨(リブ)又は縦通材(ストリンガ)等の補強材を取付けた複合材構造体を製造する場合には、外板及び補強材を別々に製作して組立てることが必要となる。すなわち、外板及び桁等の補強材をそれぞれ加熱硬化した後で、ファスナで組立作業が行われている。或いは、外板用のプリプレグの積層体と、補強材用のプリプレグの積層体が別々に製作され、積層体を組立てた後に加熱硬化される。特に、桁用のプリプレグの積層体を製作するためには、ホットドレープフォーミング装置で予備賦形する工程が必要となる。このため、製造に要する時間が長く、製造コストが高いという課題がある。
【0008】
そこで本発明は、複雑な構造を有する複合材を容易に成形することができるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の実施形態に係る複合材成形治具は、展開及び少なくとも1つの成形型を他の成形型に対して相対的に傾斜させることが可能な複数の成形型であって、展開した状態で、樹脂を含浸させた複数のシート状の繊維及び樹脂を含浸させる前の複数のシート状の繊維の少なくとも一方の積層を行い、前記少なくとも1つの成形型を相対的に傾斜させて前記積層後の繊維の賦形を行うための複数の成形型と、
前記積層を行う場合には前記複数の成形型を展開する一方、前記賦形を行う場合には前記少なくとも1つの成形型を傾斜させる傾斜機構と
、展開した状態において前記複数の成形型間における隙間を変化させる移動機構とを有する
ものである。
また、本発明の実施形態に係る複合材成形治具は、展開及び少なくとも1つの成形型を他の成形型に対して相対的に傾斜させることが可能な複数の成形型であって、展開した状態で、樹脂を含浸させた複数のシート状の繊維及び樹脂を含浸させる前の複数のシート状の繊維の少なくとも一方の積層を行い、前記少なくとも1つの成形型を相対的に傾斜させて前記積層後の繊維の賦形を行うための複数の成形型と、前記積層を行う場合には前記複数の成形型を展開する一方、前記賦形を行う場合には前記少なくとも1つの成形型を傾斜させる傾斜機構と、前記少なくとも1つの成形型を傾斜させた状態において、前記少なくとも1つの成形型と、前記少なくとも1つの成形型に隣接する成形型との間に生じる空隙に配置される別の成形型であって樹脂を含浸させた前記積層後における繊維の面取り用の成形型とを有するものである。
また、本発明の実施形態に係る複合材成形治具は、展開及び少なくとも1つの成形型を他の成形型に対して相対的に傾斜させることが可能な複数の成形型であって、展開した状態で、樹脂を含浸させた複数のシート状の繊維及び樹脂を含浸させる前の複数のシート状の繊維の少なくとも一方の積層を行い、前記少なくとも1つの成形型を相対的に傾斜させて前記積層後の繊維の賦形を行うための複数の成形型と、前記積層を行う場合には前記複数の成形型を展開する一方、前記賦形を行う場合には前記少なくとも1つの成形型を傾斜させる傾斜機構とを有し、前記少なくとも1つの成形型を傾斜させた状態において、樹脂を含浸させた前記積層後における繊維に面取りが形成されるように、前記少なくとも1つの成形型と、前記少なくとも1つの成形型に隣接する成形型との間を可撓性を有するシートで連結したものである。
また、本発明の実施形態に係る複合材成形治具は、展開及び少なくとも1つの成形型を他の成形型に対して相対的に傾斜させることが可能な複数の成形型であって、展開した状態で、樹脂を含浸させた複数のシート状の繊維及び樹脂を含浸させる前の複数のシート状の繊維の少なくとも一方の積層を行い、前記少なくとも1つの成形型を相対的に傾斜させて前記積層後の繊維の賦形を行うための複数の成形型と、前記積層を行う場合には前記複数の成形型を展開する一方、前記賦形を行う場合には前記少なくとも1つの成形型を傾斜させる傾斜機構とを有し、前記少なくとも1つの成形型と、前記少なくとも1つの成形型に隣接する成形型との間を回転可能に連結し、かつ前記少なくとも1つの成形型及び前記隣接する成形型に着脱可能なヒンジを前記傾斜機構として有するものである。
【0010】
また、本発明の実施形態に係る複合材成形方法は、少なくとも1つの成形型を他の成形型に対して相対的に傾斜させることが可能な複数の成形型を展開した状態でセットするステップと、樹脂を含浸させた複数のシート状の繊維及び樹脂を含浸させる前の複数のシート状の繊維の少なくとも一方を、前記展開した状態における前記複数の成形型に積層するステップと、前記少なくとも1つの成形型を相対的に傾斜させることによって、前記樹脂を含浸させた積層後における繊維の賦形を行うステップと、前記樹脂を含浸させた前記賦形後の繊維を加圧下で加熱硬化することによって硬化後における前記樹脂が前記繊維で強化された複合材の製品又は半製品を製造するステップとを有
し、前記少なくとも1つの成形型を傾斜させることによって折り曲げられる前記積層後の繊維の谷側の長さよりも山側の長さの方が長くなるように、前記繊維の積層枚数が増えるにつれて前記複数の成形型間における隙間を狭くするものである。
また、本発明の実施形態に係る複合材成形方法は、少なくとも1つの成形型を他の成形型に対して相対的に傾斜させることが可能な複数の成形型を展開した状態でセットするステップと、樹脂を含浸させた複数のシート状の繊維及び樹脂を含浸させる前の複数のシート状の繊維の少なくとも一方を、前記展開した状態における前記複数の成形型に積層するステップと、前記少なくとも1つの成形型を相対的に傾斜させることによって、前記樹脂を含浸させた積層後における繊維の賦形を行うステップと、前記樹脂を含浸させた前記賦形後の繊維を加圧下で加熱硬化することによって硬化後における前記樹脂が前記繊維で強化された複合材の製品又は半製品を製造するステップとを有し、前記少なくとも1つの成形型を傾斜させた状態において、前記少なくとも1つの成形型と、前記少なくとも1つの成形型に隣接する成形型との間に生じる空隙に面取り用の成形型を配置することによって、樹脂を含浸させた前記積層後における繊維に面取りを形成するものである。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の第1の実施形態に係る複合材成形治具の構成を示す展開状態における正面図。
【
図3】
図1に示す複合材成形治具の賦形時における正面図。
【
図5】傾斜対象となる成形型の傾斜機構として用いられるヒンジに傾斜角度のストッパ構造を設けた例を示す図。
【
図6】傾斜対象となる成形型を傾斜させるために
図5に示すヒンジを動かした状態における図。
【
図7】航空機の翼構造体を構成する外板及び桁の構造例を示す斜視図。
【
図8】
図7に示すボックス構造体を展開した状態を示す斜視図。
【
図9】
図3に示すR面取り用の成形型に溝を形成し、パッキンでシールする方法を説明する図。
【
図10】
図1に示す移動機構による各成形型間における隙間の調整方法を説明する図。
【
図11】
図1に示す複合材成形治具を用いて複合材を成形する流れの一例を示すフローチャート。
【
図12】
図1に示す複合材成形治具を用いてハイブリッド成形法により複合材を成形する場合における流れの一例を示す図。
【
図13】本発明の第2の実施形態に係る複合材成形治具の構成を示す部分拡大図。
【
図14】
図13に示す成形型間に形成される隙間を狭くした例を示す図。
【0013】
本発明の実施形態に係る複合材成形治具
及び複合材成形方法について添付図面を参照して説明する。
【0014】
(第1の実施形態)
(複合材成形治具)
図1は本発明の第1の実施形態に係る複合材成形治具の構成を示す展開状態における正面図、
図2は
図1に示す複合材成形治具の上面図、
図3は
図1に示す複合材成形治具の賦形時における正面図、
図4は
図3に示す複合材成形治具の上面図である。
【0015】
複合材成形治具1は、シート状の繊維束に熱硬化性樹脂を含浸させた硬化前におけるプリプレグの積層、積層されたプリプレグの賦形及びプリプレグの積層体の加熱硬化を行うための治具である。
【0016】
尚、シート状の繊維を積層した後に熱硬化性樹脂を含浸させるようにしてもよい。その場合には、シート状のプリプレグに代えて、シート状の繊維が複合材成形治具1を用いて積層される。
図1に示す例では、複合材成形治具1にプリプレグから成る繊維強化樹脂層(PLY)が積層されており、
図3に示す例では、プリプレグから成る繊維強化樹脂層の積層体又は積層された繊維に熱硬化性樹脂を含浸して得られる繊維強化樹脂層の積層体が複合材成形治具1によって賦形されている。尚、
図2では、シート状のプリプレグ又はシート状の繊維の図示が省略されている。
【0017】
繊維を積層した後に樹脂を含浸させる複合材の成形方法は、RTM(Resin Transfer Molding)法と呼ばれる。RTM法のうち、真空圧で繊維に樹脂を含浸させる手法は、VaRTM(Vacuum assisted Resin Transfer Molding)法と呼ばれる。
【0018】
また、プリプレグの積層と、RTM法を併用するハイブリッド成形法による複合材の成形用に複合材成形治具1を用いることもできる。ハイブリッド成形法は、プリプレグの積層体の上にシート状の繊維を積層し、積層されたシート状の繊維に樹脂を含浸させた後、加熱硬化する複合材の成形法である。従って、ハイブリッド成形法による複合材の成形用に複合材成形治具1が用いられる場合には、シート状のプリプレグ及びシート状の繊維の双方が積層されることになる。
【0019】
複合材を加熱硬化する方法としては、任意の方法を採用することができる。複合材の典型的な加熱硬化法としては、オートクレーブ成形装置内に硬化前の複合材を搬入し、真空引きを行って加圧下で加熱硬化する方法が挙げられる。一方、オートクレーブ成形装置を使用せずに複合材を成形する様々な脱オートクレーブ(OoA:Out of autoclave)成形法が知られている。具体例として、オーブンで複合材を加熱硬化する方法が知られている。従って、複合材の加熱硬化法に応じた所望の設備内に、硬化前かつ賦形後の複合材をセットした複合材成形治具1を搬入することができる。
【0020】
複合材成形治具1は、
図1乃至4に例示されるように展開状態と組立状態との間で構造を変化させることができる。プリプレグ又は繊維の積層時には、複合材成形治具1は、
図1及び
図2に示すように展開状態でセットされる。一方、樹脂を含浸させた繊維の賦形時及び加熱硬化時には、複合材成形治具1は、
図3及び
図4に示すように組立状態でセットされる。
【0021】
このため、自動積層装置2を用いて自動的に又は自動積層装置2を用いずに作業者が手作業で、展開状態の複合材成形治具1に樹脂を含浸させた複数のシート状の繊維、すなわちプリプレグのシート及び樹脂を含浸させる前の複数のシート状の繊維の少なくとも一方の積層を行うことができる。一方、プリプレグ又は繊維の積層が完了した場合には、複合材成形治具1を折り曲げて組立てることによって、硬化前における樹脂を含浸させた繊維で構成される繊維強化樹脂層の積層体を、硬化後における複合材の形状に合わせて賦形することができる。
【0022】
そのために、複合材成形治具1は、少なくとも複数の成形型3及び傾斜機構4で構成される。複数の成形型3は、傾斜機構4によって、展開及び少なくとも1つの成形型3を他の成形型3に対して相対的に傾斜させることができる。一方、傾斜機構4は、少なくとも1つの成形型3を傾斜させることが可能な構造を有する。
【0023】
各成形型3は、展開した状態で、樹脂を含浸させた複数のシート状の繊維及び樹脂を含浸させる前の複数のシート状の繊維の少なくとも一方の積層を行うための治具である。従って、各成形型3は、プリプレグ又は繊維を積層するための平面又は曲率が小さな曲面を有する。すなわち、プリプレグ又は繊維の積層に支障がなければ各成形型3の表面に形成される積層面は、平面に限らず、曲面であってもよい。各成形型3は、CFRP等の複合材や金属等の剛体で構成することができる。各成形型3の構造は、板状、ブロック状又は中空のボックス構造など、所望の構造とすることができる。
【0024】
また、各成形型3は、
図1に例示されるように、各成形型3を展開させると、各成形型3の積層面が概ね平坦になるように配置される。このため、展開状態における複数の成形型3の各積層面上に作業者が手作業でシート状のプリプレグ又は繊維を積層することができるのみならず、図示されるように車輪やクローラ等の走行機構を備えた自動積層装置2を用いて自動的にシート状のプリプレグ又は繊維を積層することができる。或いは、自動積層装置2を固定し、各成形型3を移動させることによって、シート状のプリプレグ又は繊維を積層するようにしてもよい。
【0025】
複数の成形型3のうちの少なくとも1つの成形型3は、他の成形型3に対して相対的に傾斜させることができる。これにより、プリプレグから成る繊維強化樹脂層及び積層後における繊維に樹脂を含浸させて得られる繊維強化樹脂層の少なくとも一方で構成される繊維強化樹脂層の積層体の賦形を行うことができる。また、賦形された繊維強化樹脂層の積層体を組立後の複数の成形型3にセットした状態で加熱硬化することができる。その結果、賦形後の形状を有する複合材を製作することができる。
【0026】
傾斜機構4は、プリプレグ又は繊維の積層を行う場合には複数の成形型3を展開する一方、繊維強化樹脂層の積層体の賦形を行う場合には少なくとも1つの成形型3を傾斜させるための器具又は装置である。
【0027】
傾斜機構4は、例えば、図示されるように、動力の無いヒンジ4Aで構成することができる。すなわち、傾斜対象となる少なくとも1つの成形型3と、傾斜対象となる当該成形型3に隣接する成形型3との間を複数のヒンジ4Aで回転可能に連結することができる。この場合、大掛かりな専用の装置を備えることなく、ホイストやフォークリフト等の汎用の設備を用いて傾斜対象となる成形型3を傾斜させることが可能となる。
【0028】
或いは、傾斜機構4を、動力を有する成形型3の起倒装置とすることができる。例えば、成形型3間を連結するヒンジ4Aを回転させるためのモータを設けて成形型3の自動起倒装置を構成することができる。この場合、動力の伝達及び剛性を確保するために、共通の成形型3間を連結する複数のヒンジ4Aを、回転シャフトで連結するようにしてもよい。
【0029】
複数の成形型3を組立てた状態において傾斜対象となる成形型3の傾斜角度が一定の場合には、傾斜機構4に傾斜角度を規制するための構造を設けることができる。すなわち、傾斜対象となる成形型3の傾斜角度が、展開させた状態において隣接する成形型3に対する傾斜角度と、組立てが完了した状態において隣接する成形型3に対する傾斜角度との間においてのみ変化させることができるように、傾斜機構4に傾斜角度を制限するストッパ構造を設けることができる。
【0030】
図5は傾斜対象となる成形型3の傾斜機構4として用いられるヒンジ4Aに傾斜角度のストッパ構造を設けた例を示す図であり、
図6は傾斜対象となる成形型3を傾斜させるために
図5に示すヒンジ4Aを動かした状態における図である。
【0031】
例えば、成形型3を展開させた状態において傾斜対象となる成形型3の傾斜角度が隣接する成形型3に対して0度である一方、成形型3を組立てた状態において傾斜対象となる成形型3の傾斜角度が隣接する成形型3に対して90度である場合には、0度から90度の範囲で一方の部材を他方の部材に対して相対的に回転させることが可能なヒンジ4Aを用いて傾斜機構4を構成することができる。
【0032】
すなわち、ヒンジ4Aの回転範囲を0度から90度の間に制限することができる。具体例として、
図5及び
図6に例示されるように、2枚の板状の部品10、11を、厚さ方向が回転軸方向となるように配置して回転シャフト12で連結したヒンジ4Aで傾斜機構4を構成する場合であれば、回転させる側の板状の部品10に接触させることによって、回転させる側の板状の部品10の回転範囲を0度から90度の範囲に制限させるストッパ13を他方の板状の部品11に設けることができる。これにより、傾斜対象となる成形型3を常に適切な傾斜角度で展開及び傾斜させることができる。
【0033】
また、ヒンジ4A等の傾斜機構4に成形型3の傾斜角度を制限するストッパ構造を設けるか否かに関わらず、異なる複数の傾斜角度で成形型3を傾斜させることによって、異なる複数の組立て状態で複数の成形型3を配置できるようにしてもよい。その場合、共通の複数の成形型3を利用して、異なる形状を有する複合材を成形することが可能となる。具体例として、共通の複数の成形型3を利用して、ウェブに対するフランジの傾斜角度が異なる複数種類の縦通材等を製作することができる。
【0034】
複合材成形治具1を表面が概ね平坦な2つの成形型3で構成し、2つの成形型3の少なくとも一方を他方に対して傾斜機構4で相対的に傾斜させることができるようにすると、硬化後における繊維強化樹脂層の積層体が1箇所で折り曲げられた、断面がL字型の複合材を成形することができる。
【0035】
また、複合材成形治具1に3つ以上の複数の成形型3を設け、複数の成形型3のうちの少なくとも2つの成形型3を傾斜機構4で他の成形型3に対して相対的に傾斜させることができるようにすると、繊維強化樹脂層の積層体の賦形用の凹面を有する雌型の賦形治具を形成することができる。このため、断面がU字型、C字型、コ字型又はO字型の複合材や角筒状の複合材を成形することが可能となる。
【0036】
しかも、複合材成形治具1で製作される複合材は、硬化後における繊維強化樹脂層の積層体を折り曲げた形状を有する継接ぎの無い複合材となる。例えば、4つ以上の成形型3のうち3つ以上の成形型3を傾斜機構4で他の成形型3に対して相対的に傾斜させることができるようにすれば、硬化後における樹脂が繊維で強化された繊維強化樹脂層の積層体が少なくとも3箇所で同じ方向に折り曲げられた形状を有する複合材を製作することができる。
【0037】
図7は、航空機の翼構造体を構成する外板及び桁の構造例を示す斜視図である。
【0038】
航空機の翼構造体は、外板の上に前桁と後桁を設けた構造を有する。このため、従来は、外板、前桁及び後桁をそれぞれ製作し、ファスナ等で組立てられる場合が多い。或いは、外板用のプリプレグの積層体、前桁用のプリプレグの積層体及び後桁用のプリプレグの積層体がそれぞれ製作され、組合わせられた状態で一体硬化することによって翼構造体が製作される場合もある。
【0039】
これに対して、
図1乃至4に例示される複合材成形治具1を用いると、
図7に示すように前桁20及び後桁21を外板23の両端に形成した、横断面が概ねC字型のボックス構造体24を製作することができる。主翼や尾翼を構成する典型的なボックス構造体24は、翼端に向かって細くなる長尺構造物となる。従って、横断面の形状が一定の長尺構造物のみならず、
図7に示すボックス構造体24のように横断面が変化する長尺構造物であっても、複合材成形治具1を用いて製作することができる。
【0040】
図8は
図7に示すボックス構造体24を展開した状態を示す斜視図である。
【0041】
図8に示すように、
図7に示すボックス構造体24は横断面が一定ではないが平面的に展開することができる構造を有する。すなわち、前桁20及び後桁21を展開すると、ボックス構造体24は平面的な部品となる。そこで、展開されたボックス構造体24の形状に合わせて複数の成形型3を展開状態で配置し、展開状態における複数の成形型3の上にシート状のプリプレグ又は繊維を自動積層装置2又は手作業で積層することができる。
【0042】
図7に示すボックス構造体24は、繊維強化樹脂層の積層体を4箇所で同じ方向に折り曲げた構造を有する。すなわち、前桁20及び後桁21は、それぞれ1箇所で折り曲げた板状の複合材であり、前桁20及び後桁21自体は、それぞれ板状の外板23から折り曲げることによって形成される。
【0043】
従って、複合材成形治具1は、
図1乃至
図4に例示されるように、前桁20及び後桁21用の4つの成形型3A、3B、3C、3Dと、外板23用の1つの成形型3Eで構成することができる。そして、シート状のプリプレグ又は繊維の積層時には、前桁20及び後桁21用の4つの成形型3A、3B、3C、3Dを展開して各成形型3A、3B、3C、3D、3Eを概ね平坦に配置することができる。
【0044】
ボックス構造体24を構成する外板23の形状は長方形ではなく、概ね台形である。このため、外板23用の成形型3Eの表面の形状も略台形となる。従って、展開された各成形型3A、3B、3C、3D、3E全体の上面図は、必ずしも矩形とはならない。すなわち、展開前の複合材の形状に応じて各成形型3の表面の形状が決定される。このため、仮に、外板23の形状が長方形であれば、外板23用の成形型3Eの表面の形状も長方形となる。
【0045】
一方、繊維強化樹脂層の積層体の賦形時及び加熱硬化時には、前桁20及び後桁21用の4つの成形型3A、3B、3C、3Dを、隣接する成形型3に対してそれぞれ内側に傾斜させることができる。より具体的には、端部側における前桁20用の成形型3Aを、外板23側における前桁20用の成形型3Bに対して略90度傾斜させ、外板23側における前桁20用の成形型3Bを、外板23用の成形型3Eに対して略90度傾斜させることができる。同様に、端部側における後桁21用の成形型3Cを、外板23側における後桁21用の成形型3Dに対して略90度傾斜させ、外板23側における後桁21用の成形型3Dを、外板23用の成形型3Eに対して略90度傾斜させることができる。これにより、横断面が概ねC字型のボックス構造体24に対応する構造を有する賦形治具を組立てることができる。
【0046】
ボックス構造体24のようにコーナーが生じる場合には、R面取りやC面取り等の面取りが施される場合が多い。そこで、
図3及び
図4に示すように、前桁20及び後桁21用の4つの成形型3A、3B、3C、3Dを、隣接する成形型3に対してそれぞれ内側に傾斜させることによって生じる成形型3A、3B、3C、3D、3E間における各空隙に、面取り用の成形型30を組立てることができる。
【0047】
これは、
図7に示すようなボックス構造体24に限らず、複合材に面取りを施すことが必要な場合においても同様である。すなわち、賦形用に少なくとも1つの成形型3を傾斜させた状態において、傾斜状態となった少なくとも1つの成形型3と、傾斜状態となった少なくとも1つの成形型3に隣接する成形型3との間に生じる空隙に、樹脂を含浸させた積層後における繊維の面取り用の別の成形型30を配置することができる。
【0048】
図3に示す例では、4箇所で折り曲げられた繊維強化樹脂層の積層体の山側にそれぞれR面取りを賦形するために、4つのR面取り用の成形型30が配置されている。すなわち、端部側における前桁20用の成形型3Aと、外板23側における前桁20用の成形型3Bとの間に形成される空隙、外板23側における前桁20用の成形型3Bと、外板23用の成形型3Eとの間に形成される空隙、端部側における後桁21用の成形型3Cと、外板23側における後桁21用の成形型3Dとの間に形成される空隙並びに外板23側における後桁21用の成形型3Dと外板23用の成形型3Eとの間に形成される空隙に、それぞれR面取り用の成形型30が配置されている。面取り用の成形型30は、隣接する成形型3とボルト等で連結することができる。
【0049】
面取り用の成形型30を配置する場合、面取り用の成形型30と、ヒンジ4A等の傾斜機構4が干渉しないようにすることが必要である。そこで、図示されるように、2枚の板状の部品10、11を、厚さ方向が概ね回転軸方向となるように配置して回転シャフト12で連結したヒンジ4Aで傾斜機構4を構成すると、面取り用の成形型30と干渉しない位置に傾斜機構4を設けることができる。
【0050】
すなわち、ヒンジ4Aを、面取り用の成形型30の設置対象となる2つの隣接する成形型3間における空隙に取付けずに、2つの隣接する成形型3の側面に取付けることができる。これにより、ヒンジ4Aで2つの隣接する成形型3を回転可能に連結した状態で、2つの隣接する成形型3間に面取り用の成形型30を設置することが可能となる。
【0051】
逆に2つの隣接する成形型3間に面取り用の成形型30を設置しない場合には、2つの隣接する成形型3間を典型的な平ヒンジ等の所望のタイプのヒンジで回転可能に連結するようにしてもよい。平ヒンジは、2枚の板状の部品の縁同士を回転シャフトで連結したヒンジであり、回転シャフトの長さ方向が2枚の板状の部品の厚さ方向と概ね垂直となっているヒンジである。
【0052】
組立後の成形型3A、3B、3C、3D、3Eにセットされたプリプレグの積層体は、加熱硬化前に真空引きを伴ってバギングされる。また、VaRTM法で複合材を成形する場合には、組立後の成形型3A、3B、3C、3D、3Eに積層されたシート状の繊維に樹脂を含浸させるために真空引きを伴うバギングが行われる。すなわち、VaRTM法の場合には、樹脂の含浸に先だってバギングが行われる。
【0053】
バギングは、バギングフィルム31でプリプレグ又は繊維の積層体を覆い、バギングフィルム31の端部を成形型3A、3B、3C、3D、3Eの各表面にシーラント32で貼り付けた後、バギングフィルム31で覆われた領域を真空ポンプ33で減圧することによって行うことができる。
【0054】
従って、バギングフィルム31で覆われた領域内に空気が入り込むことを防止することが必要である。そこで、面取り用の成形型30と、各成形型3A、3B、3C、3D、3Eとの間をシール部材34でシールすることが望ましい。実用的な例として、面取り用の成形型30及び各成形型3A、3B、3C、3D、3Eの少なくとも一方に溝を設け、溝にゴム製のパッキン34Aを挿入することによって面取り用の成形型30と、各成形型3A、3B、3C、3D、3Eとの間をシールすることができる。
【0055】
これは、面取り用の成形型30の数に依らず同様である。すなわち、隣り合う成形型3間に面取り用の成形型30を配置する場合には、傾斜対象となる少なくとも1つの成形型3と、面取り用の成形型30との間並びに傾斜対象となる少なくとも1つの成形型3に隣接する別の成形型3と、面取り用の成形型30との間をシール部材34でシールすることが望ましい。これにより、少なくとも1つの成形型3を傾斜させた状態において、積層後における繊維を覆うバギングフィルム31と各成形型3とで囲まれた領域への空気の流入を抑止し、速やかに真空状態にすることができる。
【0056】
図9は、
図3に示すR面取り用の成形型30に溝30Aを形成し、パッキン34Aでシールする方法を説明する図である。尚、
図9では、ヒンジ4Aの図示が省略されている。
【0057】
図9(A)に示すように、R面取り用の成形型30の構造は、曲面30Bと、曲面30Bを挟む2つの平面30Cを表面とする中空のボックス構造とすることができる。R面取り用の成形型30の曲面30Bは、R面取りの形状を賦形するための面である。一方、曲面30Bを挟む2つの平面30Cは、2つの成形型3の端面と接触させて固定するための面である。
【0058】
このような構造を有するR面取り用の成形型30には、ゴム製のパッキン34Aを挿入するための溝30Aを形成することができる。溝30Aは、R面取り用の成形型30のシールすべき面に形成される。従って、2つの成形型3の端面と接触するR面取り用の成形型30の2つの平面30Cに溝30Aが形成される。
【0059】
バギングエリアへの空気の流入を低減させるためには、R面取り用の成形型30に形成される溝30Aに挿入されるパッキン34Aをリング状とすることが重要である。すなわち、パッキン34Aに端部を形成させないことが重要である。そこで、
図9(A)に例示されるようにリング状のパッキン34Aを挿入できるように、R面取り用の成形型30の2つの平面30Cに形成される溝30Aの端部を、R面取り用の曲面30Bを挟んで互いに対向させることができる。
【0060】
これにより、
図9(B)に示すようにR面取り用の成形型30の溝30Aにリング状のパッキン34Aを挿入した状態で、2つの成形型3間に形成される空隙に、R面取り用の成形型30を設置することができる。
【0061】
R面取り用の成形型30を2つの成形型3の端面に接触させてボルト等で固定すると、
図9(C)に示すように、R面取り用の曲面30Bが2つの成形型3の賦形面の間に露出することになる。従って、R面取り用の曲面30Bに沿うパッキン34Aの一部が、バギングフィルム31側に露出することになる。
【0062】
そこで、パッキン34Aが露出した部分からバギングエリアへの空気の流入を防止するために、
図9(D)に示すように、バギングフィルム31の端部とともに、露出したパッキン34Aの一部を、シールテープ35で密閉することが好ましい。これにより、バギングフィルム31で覆われた領域の圧力を低くし、大気圧との差圧を繊維強化樹脂層の積層体に負荷することができる。また、VaRTM法で複合材を成形する場合であれば、樹脂を含浸させる前のシート状の繊維の積層体に、バギングフィルム31で覆われた領域内における圧力と、大気圧との差圧を負荷することができる。
【0063】
尚、バギング対象がプリプレグの積層体である場合には、プリプレグ自体に粘着力があるため、プリプレグの積層体を組立後における成形型3の下方に配置しても弛んだり、落下することはない。
【0064】
これに対して、バギング対象が樹脂を含浸させる前におけるシート状の繊維の積層体である場合には、組立後における成形型3の下方に配置される繊維がバギング前に重力の作用で弛んだり、落下することを防止することが必要である。そこで、バギング対象が樹脂を含浸させる前におけるシート状の繊維の積層体である場合には、バインダで固定することが適切である。これにより、繊維の積層体を成形型3に貼り付けることができる。すなわち、バギング前において、繊維の端部が重力で落下することを防止することができる。
【0065】
高品質な複合材を製作するためには、硬化前において繊維強化樹脂層に皺が生じないようにすることも重要である。繊維強化樹脂層の積層数が比較的少なく、繊維強化樹脂層の積層体の厚さが薄い場合には、成形型3の傾斜によって繊維強化樹脂層の積層体を湾曲させても皺が生じる可能性は小さい。このため、展開状態における複数の成形型3の上にプリプレグ又は繊維を積層した後、ヒンジ4A等の傾斜機構4によって対象となる成形型3を傾斜させることによって、皺のない繊維強化樹脂層の積層体を容易に賦形することができる。
【0066】
これに対して、繊維強化樹脂層の積層数が比較的多く、繊維強化樹脂層の積層体の厚さが厚い場合においてプリプレグ又は繊維の積層体を折り曲げると、積層体の折り曲げた部位において山折りされた側の長さと谷折りされた側の長さに無視できない差が生じる。その結果、折り曲げられたシート状のプリプレグ又はシート状の繊維に皺が生じる。
【0067】
そこで、繊維強化樹脂層の積層体の厚さが厚い場合であっても、シート状のプリプレグ又はシート状の繊維に皺を発生させずに高品質な複合材を製作することができるように、複合材成形治具1には、展開した状態において複数の成形型3間における隙間を変化させる移動機構40及び移動機構40の制御装置41を設けることができる。
【0068】
図示された例では、各成形型3A、3B、3C、3D、3Eに移動機構40を取付けることができるように、展開状態における各成形型3A、3B、3C、3D、3Eの構造が下面側が閉塞されずに開口している中空のボックス構造となっている。そして、各成形型3A、3B、3C、3D、3E間における隙間を調整するための移動機構40として、ボールネジ40Aが用いられている。すなわち、隣接する2つの成形型3がボールネジ40Aで連結されている。
【0069】
より具体的には、隣接する2つの成形型3の一方の内部にモータ40Bが固定される。モータ40Bの出力軸は、2つの成形型3の双方を貫通するボールネジ40Aと一体化される。隣接する2つの成形型3の他方の内部には、ボールネジ40Aに締付けられるナット40Cが固定される。
【0070】
このため、モータ40Bの動力によってボールネジ40Aを回転させると、ナット40Cをボールネジ40Aの長さ方向に平行移動させることができる。その結果、ナット40Cを固定する成形型3をボールネジ40Aの長さ方向に平行移動させることができる。つまり、ボールネジ40Aの回転駆動によって成形型3間における隙間の長さを調整することができる。従って、ボールネジ40Aは、長さ方向が成形型3間における隙間の調整方向となるように配置される。
【0071】
図示された例では、前桁20及び後桁21用の4つの成形型3A、3B、3C、3Dが車輪を有する台車等の走行機構42の上に載置されている。一方、外板23用の成形型3Eは走行機能の無い土台43に載置されている。このため、各ボールネジ40Aの回転駆動によって外板23用の成形型3Eに対して相対的に前桁20及び後桁21用の成形型3A、3B、3C、3Dを平行移動させることができる。
【0072】
尚、前桁20用の2つの成形型3A、3Bと、外板23用の成形型3Eとを共通のボールネジで連結し、ボールネジを回転させると、前桁20用の2つの成形型3A、3Bが同じ距離だけ外板23用の成形型3Eに対して相対的に平行移動するようにしてもよい。同様に、後桁21用の2つの成形型3C、3Dと、外板23用の成形型3Eとを共通のボールネジで連結し、ボールネジを回転させると、後桁21用の2つの成形型3C、3Dが同じ距離だけ外板23用の成形型3Eに対して相対的に平行移動するようにしてもよい。
【0073】
図10は
図1に示す移動機構40による各成形型3A、3B、3C、3D、3E間における隙間の調整方法を説明する図である。
【0074】
成形型3間における隙間をボールネジ40A等の移動機構40で調整できるようにすると、シート状のプリプレグ又はシート状の繊維の積層開始時において、成形型3間における隙間を、成形型3の組立時における隙間よりも長くすることができる。そして、傾斜対象となる成形型3を傾斜させることによって折り曲げられる積層後のプリプレグ又は繊維の谷側の長さよりも山側の長さの方が長くなるように、プリプレグ又は繊維の積層枚数が増えるにつれて複数の成形型3間における隙間を移動機構40の駆動によって徐々に狭くすることができる。
【0075】
より具体的には、
図10(A)に示すように、シート状のプリプレグ又はシート状の繊維の積層開始時には、成形型3間における隙間をR面取りの山側の長さに調整することができる。そして、
図10(B)、(C)に示すようにプリプレグ又は繊維の積層枚数が増えるにつれて成形型3間における隙間を狭くしていくことができる。そうすると、成形型3間において、下方のプリプレグ又は繊維ほど大きく弛んだ状態で積層されることになる。最後のプリプレグ又は繊維が積層される際には、
図10(D)に示すように、成形型3間における隙間がR面取りの谷側の長さに調整される。尚、
図10では、説明の便宜上、プリプレグ又は繊維の積層体の厚さが実際よりも厚く図示されている。
【0076】
このようにプリプレグ又は繊維の長さを調節すると、最も成形型3側に積層される最下部におけるプリプレグ又は繊維の長さは、成形型3間においてR面取りの山側の長さとなり、最も成形型3から離れた側に積層される最上部におけるプリプレグ又は繊維の長さは、成形型3間においてR面取りの谷側の長さとなる。従って、成形型3を傾斜させることによってプリプレグ又は繊維の積層体を折り曲げると、皺を発生させることなくR面取りの形状にすることができる。
【0077】
このため、
図7に例示されるような前桁20及び後桁21を外板23の両端に形成したボックス構造体24のように板を折り曲げた形状を有する複合材構造体を、コーナーに良好な品質でR面取りを施した状態で一体成形することができる。
【0078】
成形型3間における隙間を変化させる場合には、成形型3間における隙間が最も狭くなった状態で成形型3が傾斜機構4によって傾斜させられることになる。従って、ヒンジ4A等の傾斜機構4の構造によっては、傾斜対象となる成形型3及び傾斜対象となる当該成形型3に隣接する成形型3にボルト等で着脱可能とすることが必要である。このため、
図10(D)に示すように、ヒンジ4Aは最後のプリプレグ又は繊維が積層された後に成形型3にボルト等で取付けられる。
【0079】
他方、隙間の調整後における各成形型3を傾斜させて組立てることができるように、ボールネジ40A等の移動機構40についても、構造によっては成形型3に着脱可能とすることが必要である。このため、
図3及び
図4に示す例では、ボールネジ40Aを含む移動機構40が各成形型3から取外されている。
【0080】
成形型3の移動機構40としては、ボールネジ40Aに限らず、ラック・アンド・ピニオン、油圧シリンダ又はエアシリンダ等の直線移動を行うための機構や動力を有するクローラ等の走行機構で構成することもできる。但し、成形型3の位置決め精度は、複合材の品質に影響を及ぼす。このため、位置決め精度が良好なボールネジ40Aを用いて成形型3間における隙間を調整するための移動機構40を構成することが、良好な品質で複合材を成形する観点から好ましい。
【0081】
制御装置41は、樹脂を含浸させた繊維、すなわちプリプレグ又は樹脂を含浸させる前の繊維の積層枚数が増えるにつれて成形型3間における隙間が狭くなるように移動機構40を制御する装置である。成形型3間における隙間をより正確に制御するためには、プリプレグ又は繊維の積層枚数を特定することが必要である。このため、制御装置41は、成形型3へのプリプレグ又は繊維の積層を自動的に行う自動積層装置2からプリプレグ又は繊維の積層枚数を示す情報を取得し、取得したプリプレグ又は繊維の積層枚数を示す情報に基づいて移動機構40を制御できるように構成される。
【0082】
より具体的には、自動積層装置2からプリプレグ又は繊維の積層枚数を示す情報を制御装置41において電位信号として取得することができる。そして、予めプリプレグ又は繊維の積層枚数と、成形型3間における隙間の長さとの関係を制御装置41にプリセットしておき、プリプレグ又は繊維の積層枚数に対応する成形型3間における隙間の適切な長さを特定することができる。そして、特定された長さの隙間が成形型3間に形成されるように、制御装置41から移動機構40に制御信号を出力することができる。
【0083】
図示されるように移動機構40がモータ40Bの動力によって回転するボールネジ40Aであれば、制御装置41からモータ40Bに回転量を制御するための制御信号が電気信号として出力される。一方、移動機構40がエアシリンダや油圧シリンダ等の電気式でない装置で構成される場合には、移動機構40の構成に応じてエア信号等として制御信号が移動機構40に出力される。
【0084】
このため、制御装置41は、プログラムを読込ませたコンピュータ等の電気回路で構成することができる。また、制御装置41を構成するために、必要に応じて、電気信号をエア信号や油圧信号に変換して移動機構40に出力するエア信号回路や油圧信号回路等の信号回路を用いることができる。
【0085】
(複合材成形方法)
次に複合材成形治具1を用いた複合材成形方法について説明する。
【0086】
図11は、
図1に示す複合材成形治具1を用いて複合材を成形する流れの一例を示すフローチャートである。
【0087】
まずステップS1において、少なくとも1つの成形型3を他の成形型3に対して相対的に傾斜させることが可能な複数の成形型3が展開された状態でセットされる。具体例として、
図10(A)に示すように、前桁20及び後桁21用の4つの成形型3A、3B、3C、3Dと、外板23用の成形型3Eが展開された状態で自動積層装置2の積層エリアに配置される。この時、傾斜機構4としてのヒンジ4Aは各成形型3A、3B、3C、3D、3Eから取外される。
【0088】
一方、
図10(A)に示すように、ボールネジ40Aを含む移動機構40が各成形型3A、3B、3C、3D、3E間に取付けられる。ボールネジ40Aとナット40Cとの相対位置の初期位置は、各成形型3A、3B、3C、3D、3E間における隙間が、R面取りの山側の長さとなる位置とされる。
【0089】
次に、ステップS2において、プリプレグの自動積層が実行される。すなわち、展開した状態における各成形型3A、3B、3C、3D、3Eへの自動積層装置2によるプリプレグの積層が実行される。
【0090】
プリプレグの積層中には、
図10に例示されるようにプリプレグの積層枚数が増えるにつれて各成形型3A、3B、3C、3D、3E間における隙間が徐々に狭くなるように移動機構40が駆動する。そのために、制御装置41が自動積層装置2からプリプレグの積層枚数を示す情報を取得する。そして制御装置41は、取得した情報に基づいて、各成形型3A、3B、3C、3Dを傾斜させることによって折り曲げられる積層後におけるプリプレグの谷側の長さよりも山側の長さの方が長くなるように、
図10(B)、(C)に示すようにプリプレグの積層枚数が増えるにつれて各成形型3A、3B、3C、3D、3E間における隙間が狭くなるように移動機構40を制御する。
【0091】
より具体的には、制御装置41から、各成形型3A、3B、3C、3D、3E間における隙間の制御値に対応するモータ40Bの回転量の制御値が、制御信号としてモータ40Bに出力される。これにより、モータ40Bが回転し、ボールネジ40Aがモータ40Bの回転量の制御値に対応する長さとなる。その結果、各成形型3A、3B、3C、3D、3E間における隙間が制御値に相当する隙間となる。
【0092】
そうすると、各成形型3A、3B、3C、3D、3Eの表面に近いプリプレグ程、各成形型3A、3B、3C、3D、3E間において大きく弛んだ状態で、複数のプリプレグが各成形型3A、3B、3C、3D、3E上に積層されることになる。そして、最後に積層される最も上のプリプレグが積層される際には、各成形型3A、3B、3C、3D、3E間における隙間が、R面取りの谷側の長さとなるように調整される。その結果、最も成形型3A、3B、3C、3D、3E側に積層される最下部におけるプリプレグの長さは、成形型3A、3B、3C、3D、3E間においてR面取りの山側の長さとなり、最も成形型3A、3B、3C、3D、3Eから離れた側に積層される最上部におけるプリプレグの長さは、成形型3A、3B、3C、3D、3E間においてR面取りの谷側の長さとなる。
【0093】
プリプレグの積層が完了すると、ステップS3において、ヒンジ4Aの取付け及び移動機構40の取外しが行われる。ヒンジ4A及び移動機構40は、ボルト等で各成形型3A、3B、3C、3D、3Eに着脱することができる。
【0094】
次に、ステップS4において、成形型3A、3B、3C、3D、3Eの組立によってプリプレグの積層体の賦形が行われる。すなわち、作業者が電動ホイスト等のクレーンやフォークリフトで傾斜対象となる成形型3A、3B、3C、3Dを吊上げ、ヒンジ4Aの回転シャフト12を支点として傾斜させることができる。或いは、専用の起倒装置を用いて傾斜対象となる成形型3A、3B、3C、3Dを傾斜させてもよい。
【0095】
図示されるように、4つの成形型3A、3B、3C、3Dを隣接する他の成形型3に対して相対的に傾斜させると、プリプレグの積層体の賦形用の凹面を有する雌型の賦形治具が形成される。尚、図示される4つの成形型3A、3B、3C、3Dに限らず、3つ以上の複数の成形型3のうちの少なくとも2つの成形型3を他の成形型3に対して相対的に傾斜させれば、プリプレグの積層体の賦形用の凹面を有する雌型の賦形治具を形成することができる。成形型3の組立によって雌型の賦形治具が形成されると、プリプレグの積層体が雌型の賦形治具の形状に合わせて賦形されることになる。
【0096】
次に、ステップS5において、面取り用の成形型30がセットされる。すなわち、傾斜状態となった成形型3と、傾斜状態となった成形型3に隣接する成形型3との間に生じる空隙に面取り用の成形型30が配置される。これにより、プリプレグの積層体に面取りを形成するための賦形を行うことが可能となる。
【0097】
尚、面取り用の成形型30と、面取り用の成形型30に隣接する成形型3との間がシール部材34でシールされた状態で面取り用の各成形型30がセットされる。具体例として、
図9に例示されるように、面取り用の成形型30と、各成形型3A、3B、3C、3D、3Eとの間がパッキン34Aでシールされる。
【0098】
次に、ステップS6において、プリプレグの積層体のバギングが行われる。そのために、プリプレグの積層体がバギングフィルム31で覆われる。バギングフィルム31の端部は、各成形型3A、3B、3C、3D、3Eにシーラント32でシールされる。バギングフィルム31で覆われた領域は、真空ホースで真空ポンプ33と連結される。その後、真空ポンプ33が作動し、プリプレグの積層体を覆うバギングフィルム31と各成形型3A、3B、3C、3D、3Eとで囲まれた領域が真空状態とされる。
【0099】
これにより、大気圧と真空圧との差圧に相当する圧力がプリプレグの積層体に負荷される。すなわち、傾斜対象となる成形型3A、3B、3C、3Dが傾斜した状態で、プリプレグの積層体を加圧することができる。
【0100】
次に、ステップS7において、プリプレグの積層体の、加圧下における加熱硬化が行われる。すなわち、組立後の成形型3A、3B、3C、3D、3Eを用いて賦形及びバギングされた状態におけるプリプレグの積層体が、オートクレーブ成形装置やオーブン等の加熱設備に搬入される。そして、真空圧によって加圧されたプリプレグの積層体が、加熱設備によって加熱される。これにより、熱硬化性の樹脂が硬化し、硬化後における樹脂が繊維で強化された複合材の製品又は半製品を製造することができる。
【0101】
次に、ステップS8において、各成形型3A、3B、3C、3D、3E及びバギングフィルム31等の治具の取外しが行われる。すなわち、加熱硬化後における複合材の製品又は半製品が載置された組立後における成形型3A、3B、3C、3D、3Eが、加熱設備から搬出される。
【0102】
そして、クレーンやフォークリフトで成形型3A、3B、3C、3Dを吊上げ、ヒンジ4Aの回転シャフト12を支点として展開することができる。或いは、専用の起倒装置を用いて成形型3A、3B、3C、3Dを展開してもよい。また、バギングフィルム31等の他の治具も複合材の製品又は半製品から除去される。
【0103】
これにより、複合材の製品又は半製品を取出すことができる。複合材の製品又は半製品は、成形型3を折り曲げて形成した賦形用の凹面を有する雌型の賦形治具を用いて製作されているため、硬化後における樹脂が繊維で強化された繊維強化樹脂層の積層体が少なくとも2箇所で折り曲げられた形状を有する複合材の製品又は半製品となる。図示されるように4つの成形型3A、3B、3C、3Dを折り曲げて雌型の賦形治具を形成した場合であれば、
図7に例示されるような上面の一部と両サイドが開口し、繊維強化樹脂層の積層体が4箇所で折り曲げられた形状を有するボックス構造体24を製造することができる。
【0104】
図12は、
図1に示す複合材成形治具1を用いてハイブリッド成形法により複合材を成形する場合における流れの一例を示す図である。
【0105】
ハイブリッド成形法により複合材を成形する場合には、ステップS10において、展開した状態における各成形型3A、3B、3C、3D、3Eに予め決定した枚数だけプリプレグが積層される。プリプレグの積層中には、プリプレグの積層枚数が増えるにつれて各成形型3A、3B、3C、3D、3E間における隙間が徐々に狭くなるように移動機構40が駆動する。
【0106】
次に、ステップS11において、樹脂を含浸させた複数のシート状の繊維であるプリプレグの積層体の上に、樹脂を含浸させる前の複数のシート状の繊維が積層される。シート状の繊維についても、プリプレグと同様に自動積層することができる。もちろん、プリプレグ及びシート状の繊維の少なくとも一方を、手作業で積層するようにしてもよい。シート状の繊維の積層中においても、繊維の積層枚数が増えるにつれて各成形型3A、3B、3C、3D、3E間における隙間が徐々に狭くなるように移動機構40が駆動する。繊維の積層が完了すると、移動機構40の取外し及びヒンジ4Aの取付けが行われる。
【0107】
次に、ステップS12において、成形型3A、3B、3C、3D、3Eの組立及び面取り用の成形型30の組付けが行われる。成形型3A、3B、3C、3D、3Eを組立てると、端部側における前桁20用の成形型3A及び端部側における後桁21用の成形型3Cに載置されていた積層体の一部はそれぞれ成形型3A及び成形型3Cの下面側となる。
【0108】
プリプレグは硬化前における樹脂層の粘着力によって付着する。従って、自重によってプリプレグの積層体が端部側における前桁20用の成形型3A及び端部側における後桁21用の成形型3Cから剥がれ落ちることはない。これに対して、樹脂を含浸させる前のシート状の繊維については、粘着力が無い。そこで、端部側における前桁20用の成形型3A及び端部側における後桁21用の成形型3Cからシート状の繊維の端部が剥がれ落ちて弛まないようにバインダで固定される。これにより、シート状の繊維の端部を端部側における前桁20用の成形型3A及び端部側における後桁21用の成形型3Cに貼り付けることができる。
【0109】
成形型3A、3B、3C、3D、3Eの組立が完了すると、面取り用の成形型30が組付けられる。すなわち、成形型3A、3B、3C、3D、3E間に形成される四隅の空隙に、それぞれ面取り用の成形型30が配置される。各成形型30と、隣接する成形型3A、3B、3C、3D、3E間は、パッキン34A等のシール部材34でシールされる。
【0110】
次に、ステップS13において、プリプレグ及び樹脂の含浸前における繊維の積層体のバギング並びに繊維の積層体部分への樹脂の注入が行われる。具体的には、組立後の成形型3A、3B、3C、3D、3Eに載置されたプリプレグ及び繊維の積層体がバギングフィルム31で覆われ、シーラント32で貼り付けられる。
【0111】
バギングフィルム31で覆われた領域は、真空ホースで真空ポンプ33と連結される。更に、バギングフィルム31で覆われた領域は、供給管で樹脂貯留容器50と連結される。その後、真空ポンプ33が作動し、プリプレグ及びシート状の繊維の積層体を覆うバギングフィルム31と各成形型3A、3B、3C、3D、3Eとで囲まれた領域が真空状態とされる。
【0112】
続いて、真空引きによって加圧されたバギングフィルム31内の真空領域に、樹脂貯留容器50から供給管を介して熱硬化性の樹脂が注入される。これにより、シート状の繊維に樹脂を含浸させることができる。シート状の繊維に樹脂を含浸させると、バギングフィルム31内の真空領域には、硬化前における樹脂を繊維に含浸させた複数の繊維強化樹脂層の積層体が形成される。
【0113】
そして、繊維強化樹脂層の積層体が真空圧と、組立後の成形型3A、3B、3C、3D、3Eによって賦形される。また、面取り用の成形型30によって、繊維強化樹脂層の積層体の四隅が、R面取り等の面取りが施された形状に賦形される。
【0114】
次に、ステップS14において、樹脂の含浸後における繊維の積層体の、加圧下における加熱硬化が行われる。すなわち、賦形後における繊維強化樹脂層の積層体の加熱硬化が行われる。これにより、硬化後における樹脂が繊維で強化された
図7に例示されるような形状を有する複合材の製品又は半製品を製造することができる。
【0115】
尚、
図11に例示したようなプリプレグの積層体の加熱硬化による複合材の成形法や
図12に例示したようなハイブリッド法による複合材の成形法の他、VaRTM法のみによって複合材の製品又は半製品を製造することもできる。その場合には、展開状態における成形型3A、3B、3C、3D、3E上にシート状の繊維が積層され、面取り用の成形型30が組付けられた組立後の成形型3A、3B、3C、3D、3Eにセットされたシート状の繊維を対象としてバギング及び樹脂の注入が行われる。そして、樹脂の注入によって製作された賦形後における繊維強化樹脂層の積層体の加熱硬化によって、複合材の製品又は半製品が製作される。
【0116】
(効果)
以上のような複合材成形治具1及び複合材成形方法は、複数の成形型3を展開状態でセットしてシート状のプリプレグ又はシート状の繊維を積層した後、少なくとも1つの成形型3を傾斜させることによって組立てた複数の成形型3で硬化前における複合材の賦形を行うようにしたものである。
【0117】
このため、複合材成形治具1及び複合材成形方法によれば、
図7に例示されるような前桁20及び後桁21を外板23の両端に形成したボックス構造体24等の複雑な形状を有する複合材を一体成形することができる。すなわち、シート状のプリプレグ又はシート状の繊維を1回積層するのみで、それぞれの部品の組立作業を伴うことなく複雑な形状を有する複合材を容易に成形することができる。このため、自動積層装置2を用いれば、複雑な形状を有する複合材の成形に要する作業労力を飛躍的に低減させることができる。
【0118】
また、ボールネジ40A等の移動機構40で成形型3間における隙間を調整することによって、成形型3の傾斜によって折り曲げられたプリプレグ又は繊維に皺が発生することを防止することができる。その結果、積層後におけるプリプレグ又は繊維の変形を行っても、硬化後における複合材の品質を維持することができる。
【0119】
(第2の実施形態)
図13は本発明の第2の実施形態に係る複合材成形治具の構成を示す部分拡大図である。
【0120】
図13に示された第2の実施形態における複合材成形治具1Aでは、傾斜対象となる成形型3と、傾斜対象となる成形型3に隣接する成形型3との間を可撓性を有するシート60で連結した構成が第1の実施形態における複合材成形治具1と相違する。第2の実施形態における複合材成形治具1Aの他の構成及び作用については第1の実施形態における複合材成形治具1と実質的に異ならないためシート60による成形型3間の連結部分のみ図示し、同一の構成又は対応する構成については同符号を付して説明を省略する。
【0121】
複合材成形治具1Aでは、成形型3間がシリコン等の可撓性を有するシート60で連結される。具体例として、
図13に示すように成形型3の表面端部に段差を設け、シート60を取付けた状態において、展開された複数の成形型3の表面が滑らかに連結されるようにすることができる。このため、展開状態における複数の成形型3にシート状のプリプレグ及びシート状の繊維の少なくとも一方を積層することができる。
【0122】
図14は、
図13に示す成形型3間に形成される隙間を狭くした例を示す図である。
【0123】
第2の実施形態においても第1の実施形態と同様に、
図14に示すようにシート状のプリプレグ又はシート状の繊維の積層枚数が増えるにつれて、ボールネジ40A等の移動機構40で成形型3間における隙間を狭くすることができる。すなわち、成形後における複合材のR面取りの形状に合わせて、成形型3により近いプリプレグ又は繊維程より大きく弛ませることができる。これにより、成形型3を傾斜させてプリプレグ又は繊維を折り曲げた際に皺が発生することを防止することができる。そして、成形型3間における隙間がR面取りの内側の長さに対応する長さとなった時に、ヒンジ4Aを取付けることができる。
【0124】
図15は、
図14に示す成形型3を組立てた状態を示す図である。
【0125】
図14に示すように隙間が調整された成形型3から移動機構40を取外す一方、ヒンジ4Aを取付けることによって、
図15に示すように成形型3を組立てることができる。そうすると、成形型3間を連結するシート60をR面取りの形状に合わせて湾曲させることができる。これにより、傾斜対象となる少なくとも1つの成形型3を傾斜させた状態において、樹脂を含浸させた積層後における繊維に面取りを形成することが可能となる。すなわち、硬化前における樹脂を繊維に含浸させた複数の繊維強化樹脂層の積層体のエッジ部分を、R面取りが施された形状に賦形することができる。
【0126】
以上のような第2の実施形態における複合材成形治具1A及び複合材成形方法は、成形型3間を可撓性を有するシート60で連結することによって、成形型3を傾斜させた際に硬化前の複合材にR面取りを施すことができるようにしたものである。
【0127】
このため、第2の実施形態における複合材成形治具1A及び複合材成形方法によれば、第1の実施形態における複合材成形治具1及び複合材成形方法によって得られる効果に加え、面取り用の成形型30及びシール部材34を不要にすることができるという効果を得ることができる。従って、面取り用の成形型30及びシール部材34の取付け作業を不要とし、より簡易な作業で複雑な形状を有する複合材を製作することが可能となる。
【0128】
(他の実施形態)
以上、特定の実施形態について記載したが、記載された実施形態は一例に過ぎず、発明の範囲を限定するものではない。ここに記載された新規な方法及び装置は、様々な他の様式で具現化することができる。また、ここに記載された方法及び装置の様式において、発明の要旨から逸脱しない範囲で、種々の省略、置換及び変更を行うことができる。添付された請求の範囲及びその均等物は、発明の範囲及び要旨に包含されているものとして、そのような種々の様式及び変形例を含んでいる。