特許第6778834号(P6778834)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6778834液状シリコーンゴム組成物、その硬化物、該硬化物を備える物品、及びシリコーンゴムの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6778834
(24)【登録日】2020年10月14日
(45)【発行日】2020年11月4日
(54)【発明の名称】液状シリコーンゴム組成物、その硬化物、該硬化物を備える物品、及びシリコーンゴムの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 83/07 20060101AFI20201026BHJP
   C08L 83/05 20060101ALI20201026BHJP
   C08K 3/36 20060101ALI20201026BHJP
   A61L 15/26 20060101ALI20201026BHJP
   A61L 29/06 20060101ALI20201026BHJP
   A61L 29/14 20060101ALI20201026BHJP
   A61L 15/42 20060101ALI20201026BHJP
【FI】
   C08L83/07
   C08L83/05
   C08K3/36
   A61L15/26 100
   A61L29/06
   A61L29/14
   A61L15/42 100
【請求項の数】10
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2019-565492(P2019-565492)
(86)(22)【出願日】2019年8月1日
(86)【国際出願番号】JP2019030376
(87)【国際公開番号】WO2020027302
(87)【国際公開日】20200206
【審査請求日】2020年5月1日
(31)【優先権主張番号】特願2018-145835(P2018-145835)
(32)【優先日】2018年8月2日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000221111
【氏名又は名称】モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001092
【氏名又は名称】特許業務法人サクラ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】島川 雅成
【審査官】 中落 臣諭
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−124297(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L1/00−101/14
C08K3/00−13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)一分子中に2個以上3個未満のアルケニル基を有し、ケイ素原子に結合する水素原子を有しない直鎖状のポリオルガノシロキサン、
(B)一分子中に2個以上3個未満のケイ素原子に結合する水素原子を有し、アルケニル基を有しない直鎖状のポリオルガノシロキサンを前記(A)成分100質量部に対して0.1〜39質量部、
(C)アルケニル基及びケイ素原子に結合した水素原子の1種以上を有し、前記アルケニル基及びケイ素原子に結合した水素原子を合計で、一分子中に3個以上有するポリオルガノシロキサン、
(D)ヒドロシリル化触媒、及び
(E)比表面積が100〜420m/gであるシリカ粉末を前記(A)成分100質量部に対して10〜50質量部、含有する液状シリコーンゴム組成物であって、
前記(A)成分に含まれるアルケニル基と、前記(B)成分に含まれるケイ素原子に結合した水素原子の合計モル量が、前記(A)成分、(B)成分及び(C)成分の合計質量に対して、0.03〜0.19mmol/gの範囲であり、前記(C)成分に含まれる、アルケニル基及びケイ素原子に結合した水素原子の合計モル量が、前記(A)成分、(B)成分及び(C)成分の合計質量に対して、0.01〜0.05mmol/gの範囲であり、前記液状シリコーンゴム組成物に含まれる、アルケニル基の数に対するケイ素原子に結合した水素原子の数の割合が、0.7〜1.3の範囲である液状シリコーンゴム組成物。
【請求項2】
前記(A)成分の粘度が0.5〜200Pa・sである請求項1に記載の液状シリコーンゴム組成物。
【請求項3】
前記(A)成分中のアルケニル基の質量当たりのモル量は、0.02〜0.1mmol/gである請求項1又は2に記載の液状シリコーンゴム組成物。
【請求項4】
前記(C)成分中のアルケニル基とケイ素原子に結合した水素原子の質量当たりの合計モル量は、0.5〜15mmol/gである請求項1乃至3のいずれか1項に記載の液状シリコーンゴム組成物。
【請求項5】
20℃における粘度が5〜2000Pa・sである請求項1乃至4のいずれか1項に記載の液状シリコーンゴム組成物。
【請求項6】
前記液状シリコーンゴム組成物の硬化物の300%モジュラスが0.2〜1.7MPa、かつ、引き裂き強さが20〜60N/mmである、請求項1乃至5のいずれか1項に記載の液状シリコーンゴム組成物。
【請求項7】
前記液状シリコーンゴム組成物の硬化物の破断伸びが800%以上である、請求項1乃至6のいずれか1項に記載の液状シリコーンゴム組成物。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれか1項に記載の液状シリコーンゴム組成物の硬化物。
【請求項9】
下記(A)〜(E)成分を混合して液状シリコーンゴム組成物を得る工程と、
前記液状シリコーンゴム組成物を硬化させる工程とを含むシリコーンゴムの製造方法。
(A)一分子中に2個以上3個未満のアルケニル基を有し、ケイ素原子に結合する水素原子を有しない直鎖状のポリオルガノシロキサン、
(B)一分子中に2個以上3個未満のケイ素原子に結合する水素原子を有し、アルケニル基を有しない直鎖状のポリオルガノシロキサンを前記(A)成分100質量部に対して0.1〜39質量部、
(C)アルケニル基及びケイ素原子に結合した水素原子の1種以上を有し、前記アルケニル基及びケイ素原子に結合した水素原子を合計で、一分子中に3個以上有するポリオルガノシロキサン、
(D)ヒドロシリル化触媒、及び
(E)比表面積が100〜420m/gであるシリカ粉末を前記(A)成分100質量部に対して10〜50質量部
であり、かつ、前記(A)成分に含まれるアルケニル基と、前記(B)成分に含まれるケイ素原子に結合した水素原子の合計モル量が、前記(A)成分、(B)成分及び(C)成分の合計質量に対して、0.03〜0.19mmol/gの範囲であり、前記(C)成分に含まれる、アルケニル基及びケイ素原子に結合した水素原子の合計モル量が、前記(A)成分、(B)成分及び(C)成分の合計質量に対して、0.01〜0.05mmol/gの範囲であり、前記液状シリコーンゴム組成物に含まれる、アルケニル基の数に対するケイ素原子に結合した水素原子の数の割合が、0.7〜1.3の範囲である。
【請求項10】
請求項8に記載の硬化物を備え、創傷保護シート、ウェアラブルデバイス又は医療用バルーンカテーテルとして用いる物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液状シリコーンゴム組成物、その硬化物、該硬化物を備える物品、及びシリコーンゴムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シリコーンゴムは、その分子構造によって優れた耐熱性や耐寒性、耐候性、柔軟性を有しいている。特に、ケイ素原子に結合した水素原子(Si−H)を有するポリオルガノハイドロジェンシロキサン、ケイ素原子に結合したビニル基等のアルケニル基を有するポリオルガノシロキサン及びヒドロシリル化触媒を含有し、ケイ素原子に結合した水素原子のアルケニル基への付加反応により硬化物を得る付加反応硬化型ポリオルガノシロキサン組成物を硬化させることで得られる付加硬化型シリコーンゴムは、耐熱性や耐寒性、耐候性、柔軟性に加えて、加硫剤として用いられる有機過酸化物の分解残渣や、縮合反応によって生成する反応副生成物がないことから、安全性が要求される医療・ヘルスケア用途や、不純物の混入を嫌う電子デバイス等の封止材として広く用いられている。
【0003】
一方で、ポリマー(ポリシロキサン)同士を架橋させただけのシリコーンゴムは、物理的強度が十分でない場合があるため、シリコーンゴム組成物には、使用される用途に適した引張り強さ、伸び、引き裂き強さ等の強度を与えるためにシリカ粉末等の補強材が配合されることがある。シリコーンゴム組成物は、使用されるベースポリマーの性状や補強材の配合量によって、液状シリコーンゴム組成物と、固形状のミラブルシリコーンゴム組成物の2つの形態に分類することができる。
【0004】
液状シリコーンゴム組成物は、優れた流動性を有するため、金型を用いた成型方法において、狭い隙間に高い圧力をかけることなく組成物を充填することが可能であり、複雑な形状や、肉厚の薄い部分を有する形状の成型物を得ることができる。また、硬化剤などの添加剤の配合に、2本ロール等の開放系の装置を用いるミラブルシリコーンゴム組成物に比べて、液状シリコーンゴム組成物は、ポンプやスタティックミキサーなどの密閉系の装置を使用して成型物を製造できるため、異物混入のリスクを低減する必要のある医療用途等で用いられる成型品の製造に好ましく使用される。
【0005】
さらに、液状シリコーンゴム組成物の粘度を低減して流動性を向上させることにより、射出成型やプレス成型に加えて、溶剤などで希釈することなくコーティング、ディッピング、スクリーン印刷など、幅広い成型方法をとることが可能であり、生産性の向上や、シリコーンゴムの用途の拡大が可能である。
【0006】
液状シリコーンゴム組成物に優れた流動性を与えるためには、低粘度のベースポリマーを選択するとともに、シリカ粉末等の補強性充填剤の配合量を少なくすることが一般的であるが、この場合、流動性は改善されるものの、硬化物の引張り強さ、伸び、引き裂き強さなどの物理的強度は低下する傾向である。
【0007】
近年では、創傷保護シート、ウェアラブルデバイス、また、医療用のバルーンカテーテル等などの用途においては、装着部位へのストレスの低減や、複雑かつ大きなアンダーカットを有する成型品の金型からの脱型を容易にするため、低いモジュラスとともに、高い引き裂き強さを併せ持つシリコーンゴムが求められている。さらには、成型方法や形状の自由度を広げるために、低いモジュラスと高い引き裂き強さを維持しながら、より低粘度で流動性に優れた付加硬化シリコーンゴム組成物が求められている。
【0008】
従来、低粘度で強靭なゲルとエラストマー硬化物を得ることや、型取り用シリコーンゴムにおける型取り耐久性の向上、基材との粘着性及び応力緩和特性の向上、硬度、伸張性、引張り強度及び引き裂き強さの向上などを目的として、両末端にケイ素原子に結合する水素原子を有する直鎖状のポリオルガノシロキサンを鎖長延長剤として配合した種々の付加型シリコーンゴム組成物が提案されている(例えば、特許文献1〜4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平7−188559号公報
【特許文献2】特開2004−231824号公報
【特許文献3】特開2002−1179921号公報
【特許文献4】特開2015−052026号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、従来のシリコーンゴム組成物では、低いモジュラスと高い引き裂き強さ及び優れた流動性のすべてを十分に両立させることは困難であり、シリコーンゴムの使用用途の拡大を制限する要因となっている。
【0011】
本発明は、上記した課題を解決するためになされたものであって、低いモジュラスと高い引き裂き強さを両立させることのできるシリコーンゴムを与える流動性に優れた液状シリコーンゴム組成物、その硬化物、該硬化物を備える物品、及び低いモジュラスと高い引き裂き強さを両立させることのできるシリコーンゴムの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の液状シリコーンゴム組成物は、
(A)一分子中に2個以上3個未満のアルケニル基を有し、ケイ素原子に結合する水素原子を有しない直鎖状のポリオルガノシロキサン、
(B)一分子中に2個以上3個未満のケイ素原子に結合する水素原子を有し、アルケニル基を有しない直鎖状のポリオルガノシロキサンを前記(A)成分100質量部に対して0.1〜39質量部、
(C)アルケニル基及びケイ素原子に結合した水素原子の1種以上を有し、前記アルケニル基及びケイ素原子に結合した水素原子を合計で、一分子中に3個以上有するポリオルガノシロキサン、
(D)ヒドロシリル化触媒、及び
(E)比表面積が100〜420m/gであるシリカ粉末を前記(A)成分100質量部に対して10〜50質量部、含有する液状シリコーンゴム組成物であって、
前記(A)成分に含まれるアルケニル基と、前記(B)成分に含まれるケイ素原子に結合した水素原子の合計モル量が、前記(A)成分、(B)成分及び(C)成分の合計質量に対して、0.03〜0.19mmol/gの範囲であり、前記(C)成分に含まれる、アルケニル基及びケイ素原子に結合した水素原子の合計モル量が、前記(A)成分、(B)成分及び(C)成分の合計質量に対して、0.01〜0.05mmol/gの範囲であり、前記液状シリコーンゴム組成物に含まれる、アルケニル基の数に対するケイ素原子に結合した水素原子の数の割合が、0.7〜1.3の範囲である。
【0013】
本発明の液状シリコーンゴム組成物において、前記(A)成分の粘度は、0.5〜200Pa・sであることが好ましい。
【0014】
本発明の液状シリコーンゴム組成物において、前記(A)成分中のアルケニル基の質量当たりのモル量は、0.02〜0.1mmol/gであることが好ましい。
【0015】
本発明の液状シリコーンゴム組成物において、前記(C)成分中のアルケニル基とケイ素原子に結合した水素原子の質量当たりの合計モル量は、0.5〜15mmol/gであることが好ましい。
【0016】
本発明の液状シリコーンゴム組成物は、20℃における粘度が5〜2000Pa・sであることが好ましい。
【0017】
本発明の液状シリコーンゴム組成物は、該組成物の硬化物の300%モジュラスが0.2〜1.7MPa、かつ、引き裂き強さが20〜60N/mmであることが好ましい。また、該組成物の硬化物の破断伸びが800%以上であることが好ましい。
【0018】
本発明は、上記液状シリコーンゴム組成物の硬化物であるシリコーンゴムを提供する。
【0019】
本発明のシリコーンゴムの製造方法は、下記(A)〜(E)成分を混合して液状シリコーンゴム組成物を得る工程と、前記液状シリコーンゴム組成物を硬化させる工程とを含む。
(A)一分子中に2個以上3個未満のアルケニル基を有し、ケイ素原子に結合する水素原子を有しない直鎖状のポリオルガノシロキサン、
(B)一分子中に2個以上3個未満のケイ素原子に結合する水素原子を有し、アルケニル基を有しない直鎖状のポリオルガノシロキサンを前記(A)成分100質量部に対して0.1〜39質量部、
(C)アルケニル基及びケイ素原子に結合した水素原子の1種以上を有し、前記アルケニル基及びケイ素原子に結合した水素原子を合計で、一分子中に3個以上有するポリオルガノシロキサン、
(D)ヒドロシリル化触媒、及び
(E)比表面積が100〜420m/gであるシリカ粉末を前記(A)成分100質量部に対して10〜50質量部
であり、かつ、前記(A)成分に含まれるアルケニル基と、前記(B)成分に含まれるケイ素原子に結合した水素原子の合計モル量が、前記(A)成分、(B)成分及び(C)成分の合計質量に対して、0.03〜0.19mmol/gの範囲であり、前記(C)成分に含まれる、アルケニル基及びケイ素原子に結合した水素原子の合計モル量が、前記(A)成分、(B)成分及び(C)成分の合計質量に対して、0.01〜0.05mmol/gの範囲であり、前記液状シリコーンゴム組成物に含まれる、アルケニル基の数に対するケイ素原子に結合した水素原子の数の割合が、0.7〜1.3の範囲である。
【0020】
本発明の物品は、創傷保護シート、ウェアラブルデバイス又は医療用バルーンカテーテルとして用いる物品であって、上記本発明の液状シリコーンゴム組成物の硬化物を備える。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、低いモジュラスと高い引き裂き強さ及び優れた流動性を両立させることのできるシリコーンゴムを与える液状シリコーンゴム組成物、その硬化物、該硬化物を備える物品、及び低いモジュラスと高い引き裂き強さを両立させることのできるシリコーンゴムの製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の液状シリコーンゴム組成物は、以下の(A)〜(E)の各成分を含有する。
(A)一分子中に2個以上3個未満のアルケニル基を有し、ケイ素原子に結合する水素原子を有しない直鎖状のポリオルガノシロキサン((A)成分)
(B)一分子中に2個以上3個未満のケイ素原子に結合する水素原子を有し、アルケニル基を有しない直鎖状のポリオルガノシロキサン((B)成分)
(C)アルケニル基及びケイ素原子に結合した水素原子の1種以上を有し、前記アルケニル基及びケイ素原子に結合した水素原子を合計で、一分子中に3個以上有するポリオルガノシロキサン((C)成分)
(D)ヒドロシリル化触媒、((D)成分)
(E)比表面積が100〜420m/gであるシリカ粉末((E)成分)
【0023】
本発明の液状シリコーンゴム組成物において、(E)成分の含有量は、(A)成分100質量部に対して、10〜50質量部である。また、(B)成分の含有量は、(A)成分100質量部に対して、0.1〜39質量部である。
【0024】
本発明の液状シリコーンゴム組成物において、(A)成分に含まれるアルケニル基と、(B)成分に含まれるケイ素原子に結合した水素原子の合計モル量が、(A)成分、(B)成分及び(C)成分の合計質量に対して、0.03〜0.19mmol/gの範囲である。(C)成分に含まれる、アルケニル基及びケイ素原子に結合した水素原子の合計モル量が、(A)成分、(B)成分及び(C)成分の合計質量に対して、0.01〜0.05mmol/gの範囲である。本発明の液状シリコーンゴム組成物に含まれる、アルケニル基の数に対するケイ素原子に結合した水素原子の数の割合が、0.7〜1.3の範囲である。
【0025】
以下、本発明の液状シリコーンゴム組成物が含有する各成分について説明する。
【0026】
<(A)成分>
(A)成分である一分子中に2個以上3個未満のアルケニル基を有し、ケイ素原子に結合する水素原子を有しない直鎖状のポリオルガノシロキサン(以下「(A)アルケニル基含有直鎖状ポリオルガノシロキサン」ともいう。)は、本発明の液状シリコーンゴム組成物のベースポリマーである。
【0027】
(A)アルケニル基含有直鎖状ポリオルガノシロキサンは、一分子中にアルケニル基を2個以上3個未満有し、ケイ素原子に結合する水素原子を有しない。(A)アルケニル基含有直鎖状ポリオルガノシロキサンは、アルケニル基を両末端にのみ有することが好ましく、また、アルコキシ基、ヒドロキシ基等のアルケニル基以外の反応性基を有しないことが好ましい。(A)アルケニル基含有直鎖状ポリオルガノシロキサンにおいて、一分子中に2個以上3個未満で存在するアルケニル基を除く、ケイ素原子に結合する基又は原子としては、脂肪族不飽和結合を含まない置換又は非置換の一価炭化水素基(以下、「ケイ素原子結合炭化水素基」ともいう。)が好ましく、ケイ素原子結合炭化水素基のみからなることがより好ましい。
【0028】
(A)アルケニル基含有直鎖状ポリオルガノシロキサンは1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。(A)アルケニル基含有直鎖状ポリオルガノシロキサンを2種以上併用する場合、一分子中のアルケニル基の数は1種ごとに算出される数が上記範囲であればよい。また、本発明の液状シリコーンゴム組成物は、本発明の効果を損なわない限り、(A)アルケニル基含有直鎖状ポリオルガノシロキサンと比較して、一分子中のアルケニル基の数が異なりその他の構成が共通する、その他のアルケニル基含有直鎖状ポリオルガノシロキサンを含有していてもよい。
【0029】
(A)アルケニル基含有直鎖状ポリオルガノシロキサンが有するアルケニル基は、通常、炭素原子数2〜6、好ましくは炭素原子数2〜4、より好ましくは炭素原子数2〜3のアルケニル基である。その具体例としては、ビニル基、アリル基、プロペニル基、イソプロペニル基、ブテニル基、イソブテニル基等が挙げられ、好ましくはビニル基である。(A)アルケニル基含有直鎖状ポリオルガノシロキサンが一分子中に2個以上3個未満有するアルケニル基は同一であってもよく異なっていてもよい。
【0030】
(A)アルケニル基含有直鎖状ポリオルガノシロキサンが有するアルケニル基の数は一分子中に、2個以上3個未満である。(A)アルケニル基含有直鎖状ポリオルガノシロキサンは、その両末端に1個ずつアルケニル基が結合する態様が特に好ましい。アルケニル基の数は、2個未満では、ゴム状の硬化物を得られず、3個以上では、低いモジュラスと高い引き裂き強さが実現できない。
【0031】
低いモジュラスと高い引き裂き強さを両立した硬化物を得る点で、(A)アルケニル基含有直鎖状ポリオルガノシロキサンが有するアルケニル基のモル量は、(A)成分の全質量に対して、0.02〜0.1mmol/gであることが好ましい。
【0032】
(A)アルケニル基含有直鎖状ポリオルガノシロキサンが有する、アルケニル基以外のケイ素原子に結合する基又は原子としては、上記のとおりケイ素原子結合炭化水素基が好ましく、その炭素原子数は、通常1〜10、好ましくは1〜6である。
【0033】
ケイ素原子結合炭化水素基の具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、オクチル基、デシル基等のアルキル基;フェニル基、トリル基等のアリール基;ベンジル基、フェニルエチル基等のアラルキル基;これらの基の水素原子の一部又は全部を、塩素、臭素、フッ素等のハロゲン原子で置換した基、例えば、クロロメチル基、3,3,3−トリフルオロプロピル基等が挙げられる。中でも低モジュラスかつ高引き裂き強さの特性に優れることから、好ましくはアルキル基、アリール基、3,3,3−トリフルオロプロピル基であり、より好ましくはメチル基、フェニル基、3,3,3−トリフルオロプロピル基である。(A)アルケニル基含有直鎖状ポリオルガノシロキサンが一分子中に2個以上のケイ素原子結合炭化水素基を有する場合、これらは同一であってもよく異なっていてもよい。
【0034】
(A)アルケニル基含有直鎖状ポリオルガノシロキサンは、実質的に直鎖状であるが、その構造の一部に若干の分岐を有していてもよい。この場合、(A)アルケニル基含有直鎖状ポリオルガノシロキサンの、一分子内のSiO1/2単位、SiO2/2単位、SiO3/2単位及びSiO4/2単位の合計に対するSiO3/2単位及びSiO4/2単位の合計量が、モル分率で、5%以下であることが好ましい。
【0035】
また、(A)アルケニル基含有直鎖状ポリオルガノシロキサンの20℃における粘度は、0.5〜200Pa・sが好ましく、1〜100Pa・sがより好ましい。(A)アルケニル基含有直鎖状ポリオルガノシロキサンの粘度は0.5〜200Pa・sであることで、作業性に優れ、また、低モジュラス特性と高い引き裂き強さを有する硬化物を得ることができる。なお、本明細書において、粘度は、特に断らない限り、レオメーターでシアレート10s−1、20℃の条件で測定した値である。レオメーターとしては、例えば、HAAKE社製、RS6000型が使用できる。
【0036】
<(B)成分>
(B)一分子中に2個以上3個未満のケイ素原子に結合する水素原子を有し、アルケニル基を有しない直鎖状のポリオルガノシロキサン(以下、「(B)直鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサン」ともいう。)は、鎖長延長剤として作用する。
【0037】
(B)直鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサンは、一分子中に2個以上3個未満のケイ素原子に結合する水素原子(以下、「ケイ素原子結合水素原子」ともいう。)を有し、アルケニル基を有しない。(B)直鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサンは、両末端にのみケイ素原子結合水素原子を有することが好ましく、また、アルコキシ基、ヒドロキシ基等のケイ素原子結合水素原子以外の反応性基を有しないことが好ましい。(B)直鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサンにおいて、一分子中に2個以上3個未満で存在するケイ素原子結合水素原子を除く、ケイ素原子に結合する基又は原子としてはケイ素原子結合炭化水素基が好ましく、ケイ素原子結合炭化水素基のみからなることがより好ましい。
【0038】
(B)直鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサンは1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。(B)直鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサンを2種以上併用する場合、一分子中のケイ素原子結合水素原子の数は1種ごとに算出される数が上記範囲であればよい。また、本発明の液状シリコーンゴム組成物は、本発明の効果を損なわない限り、(B)直鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサンと比較して、一分子中のケイ素原子結合水素原子の数が異なりその他の構成が共通する、その他の直鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサンを含有していてもよい。
【0039】
(B)直鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサンが有するケイ素原子結合水素原子の数は一分子中に、好ましくは2個である。(B)直鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサンの両末端に1個ずつケイ素原子結合水素原子が結合する態様が特に好ましい。ケイ素原子結合水素原子の数は、2個未満では、ゴム状の硬化物を得られず、3個以上では、低いモジュラスと高い引き裂き強さが実現できない。
【0040】
(B)直鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサンが有する、ケイ素原子結合水素原子以外のケイ素原子に結合する基又は原子としては、上記のとおりケイ素原子結合炭化水素基が好ましい。(B)直鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサンが有するケイ素原子結合炭化水素基として、具体的には、(A)アルケニル基含有直鎖状ポリオルガノシロキサンが有するケイ素原子結合炭化水素基と同様の基が挙げられ、好ましい態様も同様である。(B)直鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサンが一分子中に2個以上のケイ素原子結合炭化水素基を有する場合、これらは同一であってもよく異なっていてもよい。
【0041】
(B)直鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサンは、実質的に直鎖状であるが、その構造の一部に若干の分岐を有していてもよい。この場合、(B)直鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサンの、一分子内のSiO1/2単位、SiO2/2単位、SiO3/2単位及びSiO4/2単位の合計に対するSiO3/2単位及びSiO4/2単位の合計量が、モル分率で、5%以下であることが好ましい。
【0042】
(B)直鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサンの粘度は、0.005〜1Pa・sが好ましく、0.01〜0.5Pa・sがより好ましい。(B)直鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサンの粘度は0.005〜1Pa・sであることで、作業性に優れ、また、低モジュラスと特性に優れた硬化物を得ることができる。
【0043】
本発明の液状シリコーンゴム組成物中の(B)成分の量は、(A)成分100質量部に対して、0.1〜39質量部である。(B)成分の量は0.1〜10質量部が好ましい。(B)成分の量が、上記の範囲外では、低いモジュラスが得られず、十分な引き裂き強さも得られない。
【0044】
<(C)成分>
(C)成分は、アルケニル基及びケイ素原子に結合した水素原子(ケイ素原子結合水素原子)のうちの1種以上を有し、これらのアルケニル基及びケイ素原子結合水素原子を合計で、一分子中に3個以上有するポリオルガノシロキサン(以下、「(C)架橋性ポリオルガノシロキサン」ともいう。)である。(C)成分は、本発明の液状シリコーンゴム組成物において架橋剤として作用する。以下、アルケニル基及びケイ素原子結合水素原子を「架橋性基」ともいう。
【0045】
(C)架橋性ポリオルガノシロキサンは、架橋性基としてアルケニル基のみを一分子中に3個以上有するポリオルガノシロキサンであってもよく、架橋性基としてケイ素原子結合水素原子のみを一分子中に3個以上有するポリオルガノシロキサンであってもよく、架橋性基としてアルケニル基とケイ素原子結合水素原子を一分子中に合計で3個以上有するポリオルガノシロキサンであってもよい。
【0046】
(C)架橋性ポリオルガノシロキサンにおける一分子中の架橋性基の数は、引き裂き強さを高く保つ観点から100個以下が好ましく、50個以下がより好ましい。
【0047】
(C)成分として具体的には、RSiO1/2で表わされる単位、RSiO2/2で表わされる単位、RSiO3/2で表わされる単位(ただし、Rは、ケイ素原子結合炭化水素基である。)、SiO4/2で表わされる単位、RSiO1/2で表わされる単位、RSiO2/2で表わされる単位(ただし、Rは、水素原子又はケイ素原子結合炭化水素基であり、1つの単位中の1つ以上のRが水素原子である。)、RSiO1/2で表わされる単位及びRSiO2/2で表わされる単位(ただし、Rは、アルケニル基又はケイ素原子結合炭化水素基であり、1つの単位中の1つ以上のRがアルケニル基である。)から選ばれる3個以上の単位からなり、かつ、RSiO1/2で表わされる単位、RSiO1/2で表わされる単位、RSiO2/2で表わされる単位及びRSiO2/2で表わされる単位から選ばれる単位を一分子中に3個以上含むポリオルガノシロキサンが挙げられる。
【0048】
以下、RSiO1/2で表わされる単位を、RSiO1/2単位ともいう。他の単位についても同様である。
【0049】
上記の単位において、一分子中に複数のRを有する場合これらは同一であっても異なっていてもよい。また、一分子中に有する水素原子以外のR及びアルケニル基以外のRを複数有する場合、これらは同一であっても異なっていてもよい。
【0050】
、R、Rとしてのケイ素原子結合炭化水素基は、上記(A)成分又は(B)成分におけるケイ素原子結合炭化水素基と好ましい態様を含めて同様であり、低モジュラスかつ高引き裂き強さの特性に優れることから、メチル基、フェニル基又は3,3,3−トリフルオロプロピル基が好ましい。
【0051】
としてのアルケニル基は、上記(A)成分におけるアルケニル基と同様、すなわち、炭素原子数2〜6、好ましくは炭素原子数2〜4、より好ましくは炭素原子数2〜3のアルケニル基である。その具体例としては、ビニル基、アリル基、プロペニル基、イソプロペニル基、ブテニル基、イソブテニル基等が挙げられ、好ましくはビニル基である。一分子中に含まれる複数のアルケニル基は同一であっても異なっていてもよい。
【0052】
(C)架橋性ポリオルガノシロキサンは、上記の単位から選ばれる3個以上の単位(ただし、RSiO1/2単位、RSiO1/2単位、RSiO2/2単位及びRSiO2/2単位から選ばれる単位を3個以上含む)からなり、単位の総数は3以上1000以下であることが好ましい。
【0053】
(C)架橋性ポリオルガノシロキサンとしては、分子中に3個以上有する架橋性基の全てがアルケニル基である(C)架橋性ポリオルガノシロキサン(以下、(Ca)架橋性ポリオルガノシロキサン)、分子中に3個以上有する架橋性基の全てがケイ素原子結合水素原子である(C)架橋性ポリオルガノシロキサン(以下、(Cb)架橋性ポリオルガノシロキサン)が好ましい。
【0054】
(C)架橋性ポリオルガノシロキサンの分子構造は、直鎖状、分岐状のいずれであってもよい。また、(C)架橋性ポリオルガノシロキサンは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。(C)架橋性ポリオルガノシロキサンを2種以上併用する場合、アルケニル基及びケイ素原子結合水素原子の数、また、上記単位の数は1種ごとに算出される数が上記範囲であればよい。
【0055】
(C)成分として、2種以上の(C)架橋性ポリオルガノシロキサンを組み合せて用いる場合、(Ca)架橋性ポリオルガノシロキサンの1種以上と(Cb)架橋性ポリオルガノシロキサンの1種以上を用いる組み合わせが好ましい。
【0056】
また、(C)成分において、用いる(C)架橋性ポリオルガノシロキサンは、1種単独での性状が室温において液状であり、粘度が0.0001〜100Pa・sの範囲であることが好ましい。本発明の液状シリコーンゴム組成物は、本発明の効果を損なわない限り、アルケニル基及びケイ素原子結合水素原子の数、また、上記単位の数が異なりその他の構成が共通する架橋性ポリオルガノシロキサンを含有していてもよい。
【0057】
(C)成分における、(C)成分の全質量に対する、架橋性基のモル量、すなわちアルケニル基とケイ素原子結合水素原子の合計モル量は、0.5〜15mmol/gであることが好ましい。また、(C)成分を構成する個々の(C)架橋性ポリオルガノシロキサンについても上記架橋性基のモル量、すなわちアルケニル基とケイ素原子結合水素原子の合計モル量は、0.5〜15mmol/gであることが好ましい。これにより、低いモジュラスと高い引き裂き強さを両立した硬化物が得やすい。
【0058】
本発明の液状シリコーンゴム組成物において、(A)成分に含まれるアルケニル基と、(B)成分に含まれるケイ素原子結合水素原子の合計モル量が、(A)成分、(B)成分及び(C)成分の合計質量に対して、0.03〜0.19mmol/gの範囲である。(A)成分に含まれるアルケニル基と、(B)成分に含まれるケイ素原子結合水素原子の合計モル量が、0.03mmol/g未満では、液状シリコーンゴム組成物の粘度が高くなりすぎて流動性を失う。該合計モル量が0.19mmol/gを超えると、十分に架橋することができず、優れた引き裂き強さが得られない。(A)成分に含まれるアルケニル基と、(B)成分に含まれるケイ素原子結合水素原子の合計モル量は、0.032〜0.18mmol/gがより好ましく、0.032〜0.161mmol/gがさらに好ましい。
【0059】
本発明の液状シリコーンゴム組成物において(C)成分に含まれる、アルケニル基及びケイ素原子結合水素原子(架橋性基)の合計モル量が、(A)成分、(B)成分及び(C)成分の合計質量に対して、0.01〜0.05mmol/gの範囲である。(C)成分に含まれる、架橋性基の合計モル量が、0.01mmol/g未満では、十分な架橋密度が得られないため、ゴム状の硬化物が得られない。該架橋性基の合計モル量が、0.05mmol/gを超えると、硬化物のモジュラスが高くなりすぎ、また引き裂き強さが十分でない。(C)成分に含まれる、架橋性基の合計モル量が、(A)成分、(B)成分及び(C)成分の合計質量に対して、0.01〜0.045mmol/gがより好ましく、0.01〜0.035mmol/gがさらに好ましい。
【0060】
(A)成分、(B)成分及び(C)成分において、アルケニル基のモル量及びケイ素原子結合水素原子のモル量は、H−NMRを用いて測定することができる。
【0061】
本発明の液状シリコーンゴム組成物において、全成分を合計して算出される、アルケニル基の数に対するケイ素原子結合水素原子の数の割合、すなわちアルケニル基に対するケイ素原子結合水素原子のモル比が、0.7〜1.3の範囲である。上記アルケニル基の数に対するケイ素原子結合水素原子の数の割合が上記範囲外では、十分な引き裂き強さが得られない。上記アルケニル基の数に対するケイ素原子結合水素原子の数の割合は、0.8〜1.24がより好ましく、0.9〜1.10がさらに好ましい。なお、上記アルケニル基の数に対するケイ素原子結合水素原子の数の割合は、通常、(A)成分、(B)成分及び(C)成分に含まれる、アルケニル基の合計数に対するケイ素原子結合水素原子の合計数の割合である。
【0062】
<(D)ヒドロシリル化触媒>
本発明の液状シリコーンゴム組成物において、(D)ヒドロシリル化触媒は、(A)成分及び(C)成分に含まれるアルケニル基と、(B)成分及び(C)成分に含まれるケイ素原子結合水素原子との付加反応を促進させるための触媒である。(D)成分としては、Pt、Pd、Rh、Co、Ni、Ir、又はRuの金属又は金属化合物からなる群から選択され、好ましくは、白金又は少なくとも1種の白金化合物を含有する。(D)成分としての白金化合物は、例えば、有機白金化合物、白金の塩の群から選択できる。(D)成分としての白金化合物は、活性炭、炭素、シリカ粉末などの固体担持体を有していてもよい。
【0063】
有機白金化合物としては、(η―ジオレフィン)−(σ―アリール)−白金錯体を含む光活性化可能触媒、ηシクロペンタジエニル白金錯体化合物、及び、σ結合している配位子、好ましくは、σ結合しているアルキル又はアリール配位子で置換されていてもよいシクロペンタジエニル配位子を有する錯体が適している。使用され得る光活性化されることが可能な白金触媒として、さらにジケトンから選択される配位子を有するものがある。
【0064】
白金化合物としては、亜リン酸エステルと錯体を形成することができる白金(0)、(II)又は(IV)化合物の任意の形態であってもよい。
【0065】
白金化合物としては、例えばアルケニル、シクロアルケニルのようなアルケニルを配位子とするPt(0)−アルケニル錯体、ビニルシロキサンのようなアルケニルシロキサンを配位子とするPt(0)−アルケニルシロキサン錯体がある。ポリオルガノシロキサン組成物に対する分散性が良好であることから、1,3−ジビニルテトラメチルジシロキサンや、2,4,6,8−テトラビニル−2,4,6,8−テトラメチルテトラシロキサンとのPt(0)錯体が特に好ましい。
【0066】
(D)成分の配合量は有効量でよく、所望の硬化速度により適宜増減することができる。(D)成分として白金系触媒を用いる場合、通常、(A)成分、(B)成分及び(C)成分の合計質量に対して、白金原子の質量で、例えば、0.1〜1,000ppm、好ましくは0.1〜300ppmの範囲である。この配合量を多くしても、硬化特性に変化はなく経済的ではない。
【0067】
<(E)シリカ粉末>
本発明の液状シリコーンゴム組成物において、(E)成分のシリカ粉末は液状シリコーンゴム組成物を硬化させて得られるシリコーンゴムの補強材として作用する。(E)成分のシリカ粉末は、比表面積が100〜420m/gであり、130〜300m/gが好ましい。比表面積が100m/g未満では、シリコーンゴムの引き裂き強さが不十分となり、420m/gを超えると粘度が増加して作業性が低下する。比表面積はBET法で測定される値である。
【0068】
(E)シリカ粉末としては、微粉末状のシリカを使用することができ、例えばヒュームドシリカ等の乾式シリカ粉末や、湿式シリカ粉末等の合成シリカ粉末が使用される。これらのシリカ粉末は表面に多量のシラノール基を有しているために、例えばハロゲン化シラン、アルコキシシラン、各種シラザン化合物等の表面処理剤によりあらかじめ表面処理されたいわゆる表面処理シリカ粉末として使用することもできる。
【0069】
また、(A)成分のアルケニル基含有ポリオルガノシロキサンに(E)成分のシリカ粉末を配合する際、公知の方法に従って、ハロゲン化シラン、アルコキシシラン、各種シラザン化合物、水等を配合して混練し、続いて過剰量の表面処理剤と反応による副生成物を加熱や減圧によって除去することによって、混練プロセス中にシリカ粉末の表面を処理することもできる。
【0070】
本発明の液状シリコーンゴム組成物中の(E)シリカ粉末の量は、(A)成分100質量部に対して、10〜50質量部である。(E)シリカ粉末の量が、(A)成分100重量部に対して50質量部を超えると、組成物の作業性が損なわれ、10質量部未満では、十分な引き裂き強さが得られない。なお、あらかじめ表面処理されたシリカ粉末を用いる場合、表面処理によるシリカ粉末の質量変化は極めて小さいため、シリカ粉末の量は表面処理前の量で算出すればよい。
【0071】
<その他の任意成分>
本発明の組成物には、上記(A)〜(E)成分以外にも、本発明の目的を損なわない範囲で任意成分を配合することができる。この任意成分としては、例えば、ケイ素原子結合水素原子及びアルケニル基などの反応性基を含有しないポリオルガノシロキサン、反応抑制剤、耐熱性付与剤、難燃性付与剤、チクソ性付与剤、顔料、染料、導電性付与剤、熱伝導性付与剤、誘電性付与剤等が挙げられる。
【0072】
〔液状シリコーンゴム組成物〕
本発明の液状シリコーンゴム組成物は、上記(A)〜(E)成分(任意成分が配合される場合には、任意成分も含む)を常法に準じて混合することにより調製することができる。その際に、混合される成分を必要に応じて1パート又は2パートやそれ以上のパートに分割して混合してもよい。例えば2パートにする場合は、(A)成分の一部及び(B)、(C)、(E)成分からなるパートと、(A)成分の残部及び(D)成分からなるパートとに分割して混合することも可能である。
【0073】
上記のようにして得られる(A)成分の一部及び(E)成分としての表面処理シリカ粉末を含む第1のパートと、(A)成分の一部、(B)成分及び(C)成分からなる第2のパートと、(A)成分の残部及び(D)成分からなる第3のパートとに分割して混合することも可能である。この場合、第1のパートと第2のパートを混合した後、第3のパートを混合することが好ましい。
【0074】
本発明の液状シリコーンゴム組成物は、液状の組成物である、すなわち、常温で流動性を示す。本発明の液状シリコーンゴム組成物は、液状の組成物であることで、多様な成型方法が選択可能である。本発明の液状シリコーンゴム組成物の硬化前の20℃での粘度は5〜2000Pa・sが好ましく、5〜500Pa・sがより好ましい。液状シリコーンゴム組成物の硬化前の粘度は、上記(A)〜(C)及び(E)成分を混合し、(D)ヒドロシリル化触媒(若干量の(A)成分とともに配合されてもよい。)を配合する前の粘度と同視できる。
【0075】
〔シリコーンゴムの製造方法〕
本発明のシリコーンゴムの製造方法は、上記(A)〜(E)成分を混合して上記本発明の液状シリコーンゴム組成物を得る工程(混合工程)と、該液状シリコーンゴム組成物を硬化させる工程(硬化工程)とを含む。
【0076】
混合工程は、上記本発明の液状シリコーンゴム組成物の調製において説明したのと同様の方法により実行できる。
【0077】
硬化工程は、本発明の液状シリコーンゴム組成物を、常温もしくは用途に応じた温度条件下で硬化させることによりシリコーンゴムを得る工程である。硬化温度は例えば20〜200℃、硬化時間は例えば0.001〜24時間である。また、(D)成分として、光活性化可能触媒を用いた場合、光を照射して触媒を活性化させた後、常温又は加熱により硬化させて、液状シリコーンゴム組成物の硬化物として、シリコーンゴムを得ることができる。
【0078】
本発明の液状シリコーンゴム組成物を硬化させることで、硬化物として、その300%モジュラスが0.2〜1.7MPa、かつ、引き裂き強さが20〜60N/mmであるシリコーンゴムを得ることができる。シリコーンゴムの300%モジュラスは、0.2〜1.0MPaであることがより好ましく、引き裂き強さは30〜60N/mmであることがさらに好ましい。また、このシリコーンゴムは、破断伸びが800%以上を実現することができる。なお、300%モジュラス及び破断伸びは、DIN 53 504 S2に従って測定される値である。引き裂き強さは、ASTM D624 dieBに従って測定される値である。
【0079】
本発明の液状シリコーンゴム組成物の硬化物である本発明のシリコーンゴムは、耐熱性や耐寒性、耐候性、安全性等に加えて、柔軟かつ高強度を生かした用途に適している。例えば、本発明のシリコーンゴムを備える物品は、創傷保護シートや医療用バルーンカテーテルなどの医療用途、ウェアラブルデバイスなど肌に接触する用途に適している。特に大きなアンダーカットを有する成型品の型成型に用いると多大な効果が得られる。
【実施例】
【0080】
次に実施例について説明する。本発明は以下の実施例に限定されない。
【0081】
実施例及び比較例で使用した成分及び各成分の記載における略号は以下のものである。
<略号>
M:(CHSiO1/2で表わされる単位
Vi:(CH=CH)(CHSiO1/2で表わされる単位
:H(CHSiO1/2で表わされる単位
D:(CHSiO2/2で表わされる単位
Vi:(CH=CH)(CH)SiO2/2で表わされる単位
:H(CH)SiO2/2で表わされる単位
Ph:(C)SiO3/2で表わされる単位
Q:SiO4/2で表わされる単位
Vi:ビニル基
SiH:ケイ素原子結合水素原子
【0082】
<使用した成分>
(A)アルケニル基含有直鎖状ポリオルガノシロキサン
(A1)MVi335Vi(ビニル基含有量:0.08mmol/g、粘度3Pa・s)
(A2)MVi929Vi(ビニル基含有量:0.029mmol/g、粘度80Pa・s)
(A3)MVi3858Vi(ビニル基含有量:0.007mmol/g、粘度7700Pa・s)
(A4)MVi148Vi(ビニル基含有量:0.18mmol/g、粘度0.4Pa・s)
【0083】
(B)直鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサン
22(ケイ素原子結合水素原子含有量:1.13mmol/g、粘度:0.019Pa・s)
【0084】
(C)架橋性ポリオルガノシロキサン
(C1)DVi(ビニル基含有量:11.6mmol/g)
(C2)MVi426Vi28Vi(ビニル基含有量:0.88mmol/g、粘度6.8Pa・s)
(C3)MPh(ケイ素原子結合水素原子含有量:9.09mmol/g)
(C4)MD2018M(ケイ素原子結合水素原子含有量:7.5mmol/g、粘度0.029Pa・s)
(C5)M(ケイ素原子結合水素原子含有量:10.3mmol/g、粘度0.021Pa・s)
【0085】
(D)ヒドロシリル化触媒
(D)成分としての1,3−ジビニル−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン白金(0)錯体を白金として20質量%含む、1,3−ジビニル−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン溶液を、(A1)成分に0.1%の濃度で配合したもの。
【0086】
(E)シリカ粉末
(E1)Aerosil 200(EVONIK社製、BET比表面積200m/g)
(E2)Aerosil 300(EVONIK社製、BET比表面積300m/g)
【0087】
(ベースコンパウンド(BC)の調整)
表1に示す割合で、(A)成分と、(E)成分のシリカ粉末と、1,1,1,3,3,3−ヘキサメチルジシラザン(HMDZ)と、水とを混合し、プラネタリーミキサーを用いて、50℃以下の温度で30分混練した。その後、150℃で加熱混練を1時間行い、さらに150℃で1時間加熱減圧混練を行うことによって、過剰量のHMDZ、水及び、揮発性の生成物を除去してベースコンパウンド(BC1〜BC5)を調製した。ベースコンパウンドの調製において、(E)成分のシリカ粉末をHMDZにより表面処理して、(E’)表面処理シリカ粉末を調製している。
【0088】
BC4については、生ゴム状のベースポリマーを使用しているため、ニーダーを用いて表1に示す割合で、(A)成分と、(E)成分のシリカ粉末と、HMDZと、水とを混合し、50℃以下の温度で30分混練した。その後、窒素ガスを流しながら150℃で加熱混練を3時間行って、過剰量のHMDZ、水及び、揮発性の生成物を除去してベースコンパウンドを調製した。
【0089】
【表1】
【0090】
上記で得られたベースコンパウンドを用いて、表2に示す種類と量に対して、表2の第2パートに示される組成となるように、(A)成分と(B)成分の鎖長延長剤と、(C)成分の架橋剤とを混合して、撹拌した。得られた混合物の粘度を測定し、その後、第3パートとして(D)成分のヒドロシリル化触媒を含む(A1)成分を表2に示す量添加して撹拌し、液状のシリコーンゴム組成物(実施例1〜11)を調製した。粘度はDIN 53 018に従い、レオメーター(HAAKE社製、RS6000型)で、シアレート10s−1、20℃で測定した。また、同様に、表3で表わされる組成の液状又はミラブル型のシリコーンゴム組成物(比較例1〜4)を調製した。
【0091】
なお、表2、3において、(D)の欄に記載した括弧内の数値は、(A)成分、(B)成分及び(C)成分の合計質量に対する白金原子(Pt)換算の質量ppmを示す。
【0092】
上記で得られたシリコーンゴム組成物を減圧脱気し、厚さ2mmの金型を用いて150℃で10分間プレスしてゴムシートを作製した。その後、ゴムシートを金型から取り出し、200℃のオーブンで4時間ポストキュアーを行って物性測定用のシートを得た。
【0093】
得られたシートについて硬さ、密度、引張強さ・破断伸び・300%モジュラス、引き裂き強さを以下の規定に準じて測定した。以上の評価結果を表2、3に各例の組成と併せて示す。
【0094】
<物性測定方法>
硬さ(ショアA硬度):DIN 53 505に従い、2mmシートを3枚重ねて、shoreA硬度計で測定した。
比重:DIN 53 479Aに従って測定した。
引張強さ・破断伸び・300%モジュラス:DIN 53 504 S2に従って測定した。
引き裂き強さ:ASTM D624 dieBに従って測定した。
【0095】
また、各例における、(A)、(B)及び(C)成分の合計質量に対する(A)成分に含まれるアルケニル基と、(B)成分に含まれるケイ素原子に結合した水素原子の合計モル量(表中、「Vi+SiH in (A)and(B)」)、(C)成分に含まれる、アルケニル基及びケイ素原子に結合した水素原子のモル量(表中、「Vi or SiH of (C)」)、(A)成分、(B)成分及び(C)成分に含まれる、(A)アルケニル基の数に対するケイ素原子に結合した水素原子比(表中、「SiH/Vi ratio」)及び、(A)、(B)及び(C)成分の合計量(表中、「total of A+B+C」)を算出して、表2、3の組成の下の欄に示す。
【0096】
【表2】
【0097】
【表3】
【0098】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これらの実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これらの実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。