(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記液晶層は、前記電場の非印加状態において、前記第二の配向膜側から前記第一の配向膜側に向かって前記液晶分子が螺旋状に配列されている、請求項1〜5のいずれか一項に記載の液晶表示素子。
前記カイラル剤は、前記電場の非印加状態において、前記第二の配向膜側における前記液晶分子の初期配向方向に対し、前記第一の配向膜側における前記液晶分子の初期配向方向が90°捻れるように含有されている、請求項1〜6のいずれか一項に記載の液晶表示素子。
前記第一の配向膜において前記液晶分子の配向方向を前記初期配向方向に拘束するための配向処理方向と、前記第二の配向膜において前記液晶分子の配向方向を拘束するための配向処理方向とが、互いに直交している、請求項1〜7のいずれか一項に記載の液晶表示素子。
電場の非印加状態における前記第一の配向膜近傍の前記液晶分子の配向方向が、前記カイラル剤の捩れ力によって決定される請求項1〜8のいずれか一項に記載の液晶表示素子。
前記電場の印加状態において、前記第二の配向膜側から前記第一の配向膜側に向けて、前記液晶層の前記初期配向方向に対する前記液晶分子の配向方向の変位角度が漸次大きくなる、請求項1〜11のいずれか一項に記載の液晶表示素子。
前記第一の配向膜側に位置する前記液晶分子と、前記第二の配向膜側に位置する前記液晶分子とで、所定電圧を印加することによって生成される前記電場による前記液晶分子の前記初期配向方向に対する配向方向の変位角度の差が、0°以上90°以下である、請求項12に記載の液晶表示素子。
【発明を実施するための形態】
【0013】
実施の形態1.
以下、本発明の実施の形態1について図面を参照して詳細に説明する。
液晶には、誘電率異方性が正であるポジティブ型と、誘電率異方性が負であるネガティブ型とが存在する。ポジティブ型の液晶は、誘電的性質が液晶分子の長軸方向に大きく、長軸方向に直交する方向に小さい。ネガティブ型は、誘電的性質が液晶分子の長軸方向に小さく、長軸方向に直交する方向に大きい。本実施の形態では、液晶として、ポジティブ型の液晶を用いた事例を挙げて説明する。
【0014】
また、液晶分子の配向方向を制御するための配向膜として、液晶分子の配向方向を拘束する力が強い強アンカリング配向膜と、液晶分子の配向方向を拘束する力が弱い弱アンカリング配向膜とがある。本発明は、互いに対向する配向膜の一方に強アンカリング配向膜を採用し、他方に弱アンカリング配向膜を採用した片面弱アンカリング形式を対象とする。ここで、本明細書において「強アンカリング配向膜」とは、極角方向のアンカリングエネルギー及び方位角方向のアンカリングエネルギーがいずれも10
−3J/m
2以上の配向膜のことを意味する。また、「弱アンカリング配向膜」とは、極角方向のアンカリングエネルギー及び方位角方向のアンカリングエネルギーの少なくとも1つが3×10
−4J/m
2以下の配向膜のことを意味する。
【0015】
図1は、本発明の実施の形態1として示した液晶ディスプレイの概略構成を示す断面図である。
図2は、実施の形態1として示した液晶ディスプレイの液晶パネルにおいて、誘電率異方性が正の液晶を用い、電場の印加状態における液晶分子の配向方向の分布を示す図である。
図3は、実施の形態1として示した液晶ディスプレイの液晶パネルにおいて、誘電率異方性が正の液晶を用い、電場の非印加状態における電極線と第一の配向膜近傍の液晶分子の配向方向との関係を示す図である。
図4は、実施の形態1として示した液晶ディスプレイの液晶パネルにおいて、誘電率異方性が正の液晶を用い、電場の印加状態における電極線と液晶分子の配向方向との関係を示す図である。
図1、
図2に示すように、液晶ディスプレイ10は、液晶パネル(液晶表示素子)11と、液晶パネル11に光を提供するバックライトユニット12とを備えている。
【0016】
バックライトユニット12は、液晶パネル11の裏面に設けられた光源(図示無し)から入力される光を、液晶パネル11の裏面11r側から表面11f側に向けて均一に照射する。バックライトユニット12は、例えば、その一側端部に設けられた光源(図示無し)から入力される光を、液晶パネル11の表面11fと平行な方向に伝搬するとともに、伝搬した光を液晶パネル11の裏面11r側から表面11f側に向けて照射する、いわゆるエッジライト型のものを用いることができる。また、バックライトユニット12は、液晶パネル11の裏面11r側に設けられた光源から入力される光を液晶パネル11の裏面11r側から表面11f側に向けて照射する、いわゆる直下型のものを用いることもできる。
【0017】
液晶パネル11は、基板(第二の基板)13A,基板(第一の基板)13Bと、偏光板(第一の偏光板)14A,偏光板(第二の偏光板)14Bと、駆動電極15と、強アンカリング配向膜(第二の配向膜)16と、弱アンカリング配向膜(第一の配向膜)17と、液晶層18とを備えている。
【0018】
基板13A,13Bは、それぞれガラス、又は樹脂などの基板からなり、所定の間隔を空けて互いに平行に配置されている。
【0019】
偏光板14Aは、バックライトユニット12側に配置された基板13Aにおいて、バックライトユニット12に対向する側、又はバックライトユニット12とは反対側に設けられている。
偏光板14Bは、バックライトユニット12から離間した側に配置された基板13Bにおいて、バックライトユニット12とは反対側、又はバックライトユニット12に対向する側に設けられている。
これら偏光板14A,14Bは、その透過軸方向が、互いに平行となるように配置されている。例えば、一方の偏光板14Aの透過軸方向、及び他方の偏光板14Bの透過軸方向は、基板13Bに沿った方向Xに設定されている。
【0020】
駆動電極15は、基板13A又は13Bに設けられている。この実施の形態では、駆動電極15は、バックライトユニット12側の基板13Aにおいて、バックライトユニット12から離間した側に設けられている。
駆動電極15は、基板13Aの表面に沿って、複数本の電極線20Aが並設されることで形成されている。ここで、
図3に示すように、各電極線20Aは、その長軸方向が、例えば基板13Aの表面に平行な面内で方向Yに沿って延びるよう直線状に形成されている。駆動電極15は、このような電極線20Aが、基板13Aの表面に平行な面内で方向Yに直交する方向Xに沿って、一定間隔ごとに並設されている。
【0021】
図2、
図4に示すように、このような駆動電極15においては、駆動電極15の各電極線20Aに予め設定した電圧を印加すると、互いに隣接する電極線20A間で、これら互いに隣接する電極線20A同士を結ぶ方向、すなわち、この実施の形態では、基板13Bに平行な方向Xの電場Eが生成される。
【0022】
強アンカリング配向膜16は、基板13A又は13Bに設けられている。この実施の形態では、強アンカリング配向膜16は、バックライトユニット12側の基板13Aにおいて、バックライトユニット12から離間した側に形成されている。強アンカリング配向膜16は、液晶層18の液晶分子Lpを、その長軸方向が、基板13A,13Bの表面に平行な面内の所定の配向方向(
図1では方向X)にほぼ一致させるように初期配向方向が設定されている。
【0023】
弱アンカリング配向膜17は、基板13A又は13Bに設けられている。この実施の形態では、弱アンカリング配向膜17は、バックライトユニット12から離間した側の基板13Bにおいて、バックライトユニット12に対向する側に形成されている。
弱アンカリング配向膜17は、液晶層18の液晶分子Lpを、その長軸方向が、基板13A,13Bの表面に平行な面内で、強アンカリング配向膜16における初期配向方向(
図1では方向X)に直交する方向(
図1では方向Y)にほぼ一致させるように初期配向方向が設定されている。
【0024】
液晶層18は、強アンカリング配向膜16と弱アンカリング配向膜17との間に設けられている。液晶層18は、ポジティブ型の液晶組成物を用いて形成されており、液晶層18には多数の液晶分子Lpが含有されている。
ポジティブ型の液晶組成物としては、特に限定されず、当該技術分野において公知のものを用いることができる。その中でも、本実施の形態に用いるのに適したポジティブ型の液晶組成物は、下記の一般式(1)〜(6)で表される化合物のうち、好ましくは2種以上、より好ましくは3種以上、さらに好ましくは4種以上、特に好ましくは5種以上を含有する。また、ポジティブ型の液晶組成物における下記の一般式(1)〜(6)で表される化合物の合計含有量は、75質量%以上であることが好ましい。
【0026】
上記の一般式(1)〜(6)中、R
1及びR
2は、同一でも異なっていてもよく、炭素数1〜5のアルキル基又は炭素数2〜5のアルケニル基を表し;R
3及びR
4は、同一でも異なっていてもよく、炭素数1〜5のアルキル基又は炭素数4〜5のアルケニル基を表し;R
5は、炭素数1〜5のアルキル基を表す。
液晶層18は、駆動電極15を構成する各電極線20Aに電圧を印加することによって生じる電場Eにより、液晶分子Lpの配向方向が変化して駆動される。このようにして液晶分子Lpの配向が変化することによって、液晶層18は、バックライトユニット12から供給される光を部分的に透過したり遮断したりすることで、表示画像を生成する。
【0027】
また、この液晶層18は、電場Eの印加を停止したときに、駆動電極15によって印加された電場Eによって配向方向が変わった液晶分子Lpの向きを、電場Eが印加されていない初期状態に戻すための復元力を付与するため、カイラル剤(光学活性物質)を含有する。
液晶層18がカイラル剤を含有することにより、液晶層18では、電場Eの非印加状態において、強アンカリング配向膜16側から弱アンカリング配向膜17側に向かって、強アンカリング配向膜16側における液晶分子Lpの長軸方向の配向方向に対する液晶分子Lpの配向方向の変位量が漸次大きくなり、螺旋状に捩れた配向状態となる。具体的には、電場Eの非印加状態において、液晶層18の液晶分子Lpが、強アンカリング配向膜16側から弱アンカリング配向膜17側に向けて、90°ツイストした配向状態になるように、カイラル剤を含有させるのが好ましい。
【0028】
ここで、強アンカリング配向膜16と弱アンカリング配向膜17とは、液晶分子Lpの配向方向を拘束する配向拘束力が互いに異なる。
すなわち、
図2に示すように、強アンカリング配向膜16は、電圧が印加されて電場Eが生成されても、液晶層18において強アンカリング配向膜16側の液晶分子Lpが、その長軸方向を、基板13A,13Bの表面に沿った面内で、強アンカリング配向膜16の配向処理方向(方向X)にほぼ一致させた初期配向状態を維持する。
これに対し、弱アンカリング配向膜17では、電圧が印加されることで電場Eが生成されたときに、印加電圧が閾値電圧以上となると、液晶層18の弱アンカリング配向膜17側において、液晶分子Lpが弱アンカリング配向膜17の拘束から離脱する。そして、液晶分子Lpの配向方向は、印加電圧の大きさに応じ、基板13A,13Bの表面に平行な面内で、初期配向方向(
図2では方向Y)から変化する。
【0029】
このように、液晶層18の液晶分子Lpは、電場Eが印加されたときに、液晶層18の強アンカリング配向膜16側では、液晶分子Lpが強アンカリング配向膜16による配向強制力(拘束力)を受けたまま、その配向方向を維持するのに対し、弱アンカリング配向膜17側では、弱アンカリング配向膜17による配向強制力(拘束力)を脱して液晶分子Lpの配向方向が変化する。
【0030】
その結果、液晶層18においては、強アンカリング配向膜16側と弱アンカリング配向膜17側とでは、閾値以上の電場Eを印加したときの液晶分子Lpの初期配向方向に対する配向方向の変位量が異なる。具体的には、印加電場Eの大きさが大きくなるにしたがい、弱アンカリング配向膜17近傍の液晶分子Lpの初期配向方向に対する配向方向の変位量が漸次大きくなる。これにより、初期配向状態では強アンカリング配向膜16側から弱アンカリング配向膜17側に向けて、液晶分子Lpが螺旋状に捩れていた配向状態に対し、弱アンカリング配向膜17側における液晶分子Lpの初期配向状態に対する配向方向の捻れ角が小さくなる。電場強度がある一定値に達すると、弱アンカリング配向膜17近傍の液晶分子Lpは、電場Eの方向に平行な方向に配向する。すなわち、強アンカリング配向膜16側から弱アンカリング配向膜17側に向けて、配向方向が電場Eの方向に平行な方向(
図2では方向X)に沿って一様となる。
【0031】
ところで、上記の電圧非印加時における液晶層18の配向状態は、TN方式における電圧非印加時の液晶の配向状態と同様である。従って、ΔnP≫λ(Δnは液晶の屈折率異方性、Pは液晶のヘリカルピッチ、λは光の波長)、すなわち、モーガン条件(Mougain Condition)を満たすよう、液晶パネル11の光学設計を行えば、液晶層18に旋光能効果を生じさせることが可能となる。
【0032】
また、TN方式の液晶パネルにおける光の透過率Tを与える式として、以下のGooch-Tarryの式(1)が知られている。
【0034】
ここで、u=dΔn/λ・π/θで、dはセルギャップ(液晶層18の厚さ)、θは液晶分子Lpの捩れ角であり、本実施の形態では、電圧非印加時における強アンカリング配向膜16側の液晶分子と弱アンカリング配向膜17側の液晶分子の配向方向の角度の差に相当する。なお、本実施の形態では、θ=π/2であるので、u=2dΔn/λである。
【0035】
液晶パネル11では、ポジティブ型の液晶分子Lpを用い、偏光板14Aと偏光板14Bとを、それぞれの透過軸方向が互いに平行なパラレルニコルに配置し、偏光板14Aの透過軸方向が、電場Eの非印加状態における液晶分子Lpの配向方向を規制するための強アンカリング配向膜16に対する配向処理方向(
図1では方向X)と一致するように設定される。
【0036】
図1に示すように、電場Eの非印加状態では、液晶分子Lpは、上記したように強アンカリング配向膜16側においては、初期配向状態が、液晶分子Lpの長軸方向が強アンカリング配向膜16の配向処理方向(
図1では方向X)に沿う。これに対し、弱アンカリング配向膜17側では、液晶分子Lpの長軸方向が、弱アンカリング配向膜17の配向処理方向(
図1では方向Y)に沿う。仮に、弱アンカリング配向膜17の規制力がゼロに近い場合には、弱アンカリング配向膜17に配向処理を行っても、初期配向方向を記憶させることができない。その場合でも、液晶層18の液晶分子Lpが、強アンカリング配向膜16側から弱アンカリング配向膜17側に向けて、90°ツイストするように、カイラル剤の量が調整されているため、弱アンカリング配向膜17側では、液晶分子Lpの長軸方向が強アンカリング配向膜16の配向処理方向と直交する方向(
図1では方向Y)に沿う。このとき、液晶パネル11の光学条件を、モーガン条件を満たし、且つ式(1)が最小値を取るように設計することで、液晶層18に入射した直線偏光は、偏光状態を維持したまま偏光面が90°回転(旋光)して、液晶パネル11から出射する。このとき、液晶パネル11からの出射光の偏光方向と偏光板14Bの透過軸方向が直交するため、液晶パネル11からの出射光の大部分が偏光板14Bに吸収され、液晶パネル11からの出射光量を最小にすることができる。これにより、本実施の形態におけるコントラスト比を最大にすることができる。ここで、一般に、セルギャップdが大きくなると、応答速度の低下が生じるため、液晶パネルの光学設計は、式(1)が最小値を取る複数の条件の中から、いわゆる、ファーストミニマム条件を選択するのが好ましい。
【0037】
一方、
図2に示すように、電場Eの印加状態では、液晶分子Lpは、上記したように強アンカリング配向膜16側においては、長軸方向が強アンカリング配向膜16の配向処理方向(
図2では方向X)に沿った初期配向状態を維持する。これに対し、弱アンカリング配向膜17側では、閾値以上の電場Eの印加により、液晶分子Lpの配向方向は基板13Bに平行な面内で変化し始め、電場強度がある一定値に達したときに、液晶分子Lpの長軸方向が電場Eに平行な方向、すなわち基板13Bに平行な方向Xに沿うようになる。これにより、液晶分子Lpは、強アンカリング配向膜16に対する配向処理方向(
図2では方向X)に配向するため、液晶層18に入射した直線偏光は、偏光状態及び偏光面を維持したまま、液晶パネル11から出射する。このとき、液晶層18に入射した直線偏光の偏光方向(
図2では方向X)と偏光板14Bの透過軸方向(
図2では方向X)が一致しているため、バックライトユニット12側からの大部分の光は偏光板14Bを透過することができる。
【0038】
また、電場Eの印加状態を非印加状態に変えると、液晶層18の液晶分子Lpは、カイラル剤によって付与された復元力(弾性力)により、液晶分子Lpの配向方向が、
図1に示したような螺旋状の初期配向状態に戻る。ここで、強アンカリング配向膜16側では、液晶分子Lpの長軸方向が強アンカリング配向膜16の配向処理方向(
図1では方向X)に沿った状態を維持する。これに対し、液晶層18の弱アンカリング配向膜17側では、カイラル剤によって付与された復元力(弾性力)により、液晶分子Lpの長軸方向が弱アンカリング配向膜17の配向処理方向(
図2では方向Y)に沿うように配向方向が変位する。これにより、液晶分子Lpは、強アンカリング配向膜16側から弱アンカリング配向膜17側に向かって、長軸方向の配向角度の変位量が漸次大きくなり、螺旋状に捩れた状態に戻す。
【0039】
ただし、カイラル剤によって付与された液晶分子Lpの螺旋ピッチは、温度などの外的要因によって変化することがある。そのため、液晶層18の弱アンカリング配向膜17側では、電場Eの印加状態を非印加状態に変えた場合に、液晶分子Lpの配向が初期配向状態に戻り難いことがある。液晶分子Lpの配向が初期配向状態に戻らない場合、光漏れが生じるため、コントラスト比が低下してしまう。
そこで、本実施の形態では、弱アンカリング配向膜17のアンカリング力を、液晶層18の螺旋誘起力と弾性力との合計よりも大きくする。このような弱アンカリング配向膜17のアンカリング力の制御を行うことにより、温度などの外的要因の影響を受けても、電場Eの非印加状態において、弱アンカリング配向膜17のアンカリング力によって弱アンカリング配向膜17側の液晶分子Lpの配向方向を初期配向方向に安定して復元させることができる。
【0040】
弱アンカリング配向膜17のアンカリング力を、液晶層18の螺旋誘起力と弾性力との合計よりも大きくする方法としては、特に限定されないが、
図1及び2に示すように、弱アンカリング配向膜17に凹凸形状を形成すればよい。このような凹凸形状を形成することにより、弱アンカリング配向膜17側の液晶分子Lpが適度に固定されるため、電場Eの印加状態を非印加状態に変えた場合に、液晶分子Lpの配向が初期配向状態に戻り易くなる。
凹凸形状の形成方法としては、特に限定されないが、ラビング法や光配向法等によって弱アンカリング配向膜17を処理することによって形成することができる。また、凹凸形状を有する基板13Bを用い、その上に弱アンカリング配向膜17を形成してもよい。さらに、基板13Bと弱アンカリング配向膜17との間に電極を形成することにより、その上に形成される弱アンカリング配向膜17を形成してもよい。
【0041】
また、弱アンカリング配向膜17に形成する凹凸形状は、傾斜面を有することが好ましい。傾斜面を有する凹凸形状を形成することにより、弱アンカリング配向膜17側の液晶分子Lpを初期配向状態に安定して復元させ易くなる。傾斜面の角度としては、特に限定されないが、基板13Bの法線方向に対して、一般に25°以下、好ましくは15°以下、より好ましくは3°〜10°とすることが好ましい。
傾斜面の形成方法としては、特に限定されないが、任意の角度で弱アンカリング配向膜17に対して斜めから、ラビング法や光配向法などの処理を行えばよい。
【0042】
上記のように、本実施の形態の液晶パネル11では、ポジティブ型の液晶分子Lpを用い、偏光板14Aと偏光板14Bとをパラレルニコルに配置し、偏光板14Aの透過軸方向が、電場Eの非印加状態における液晶分子Lpの配向方向を規制するための強アンカリング配向膜16に対する配向処理方向と一致する(
図1では方向X)ように設定されている。そして、液晶層18の液晶分子Lpは、カイラル剤により、強アンカリング配向膜16側から弱アンカリング配向膜17側に向けて、螺旋状に捩れた初期配向状態とされている。
このような構成において、電場Eを非印加の状態では、
図1に示すように、バックライトユニット12側から偏光板14Aを通過した光は、液晶層18において液晶分子Lpの配向方向の螺旋状分布に沿って偏光面が変化し、反対側の偏光板14Bに吸収される。
【0043】
また、
図2に示すように、閾値以上の所定の電場Eを液晶パネル11に印加すると、印加電場Eの大きさが大きくなるに従い、弱アンカリング配向膜17近傍の液晶分子Lpの初期配向方向に対する配向方向の変位量が漸次大きくなる。印加される電場Eの強度がある一定値に達したときに、液晶層18の液晶分子Lpは、強アンカリング配向膜16における配向処理方向(
図2では方向X)に沿った方向に配向する。このとき、弱アンカリング配向膜17近傍の液晶分子Lpは、強アンカリング配向膜16における配向処理方向に一様に配向しても略一様に配向してもよい。弱アンカリング配向膜17近傍の液晶分子Lpの配向方向は、特に限定されないが、液晶分子Lpの初期配向方向に対する配向方向の変位角度の差が好ましくは0°〜90°、より好ましくは45°〜90°、さらに好ましくは45°〜89°、特に好ましくは60°〜89°である。また、弱アンカリング配向膜17近傍の液晶分子Lpは、チルト角を有していてもよい。チルト角は、特に限定されないが、好ましくは1°〜30°、より好ましくは1°〜20°、さらに好ましくは1°〜15°、特に好ましくは1°〜10°である。このような液晶分子Lpの配向により、バックライトユニット12側から偏光板14Aを通過した光は反対側の偏光板14Bを透過する。
すなわち、液晶パネル11では、液晶の駆動方式として、液晶分子Lpを基板13A,13Bの表面に沿った面内で変位させるIPS駆動方式を採用する一方、旋光性を利用して、光のオン・オフ制御を行う。
【0044】
ところで、上記したような強アンカリング配向膜16は、例えば、以下のようにして形成する。まず、基板13A上にポリイミドなどからなる配向膜を形成する。その後、レーヨンや綿などからなる布を巻いたローラーを、回転数及びローラーと基板13Aとの距離を一定に保った状態で回転させ、配向膜の表面を所定の方向に擦る(ラビング法)。あるいは、偏光紫外線を照射してポリイミドからなる配向膜の表面に異方性を発生させる(光配向法)。これらのラビング法、光配向法等によって配向方向が設定された、強アンカリング配向膜16は、液晶分子Lpに対し、弱アンカリング配向膜17よりも強い配向強制力を付与する。
【0045】
弱アンカリング配向膜17としては、例えば、ポリマーブラシで形成したものを用いることができる。ポリマーブラシは、一端が基板13B表面に固定され、他端が基板13Bの表面から離間する方向に延びたグラフトポリマー鎖により形成される。このようなグラフトポリマー鎖は、基板13B側から延伸させるようにして生成してもよいし、予め所定長を有したポリマー鎖を、基板13Bに付着させてもよい。弱アンカリング配向膜17の初期配向方向は、ラビング法、偏光照射、無偏光斜め照射などの公知の手法により、決定してもよい。
【0046】
以下に、ポリマーブラシの具体的な一例を示す。
ポリマーブラシは、例えば、次の一般式(A)で表される。
【0048】
一般式(A)において、XはH又はCH
3であり、mは正の整数であって、ポリマーブラシのTg(ガラス転移温度)が−5℃以下であるものである。
【0049】
図5は、弱アンカリング配向膜として基板に形成したポリマーブラシの例を示す断面図である。
図5に示すように、液晶分子Lpは、基板13B上に形成されたポリマーブラシ2の表層部分に浸透しており、液晶分子Lpと接したポリマーブラシ2の表層部分は膨潤している(図中では、膨潤した状態は示していない)。
【0050】
本明細書においては、液晶分子Lpが浸透したポリマーブラシ2の部分を共存部4として表し、液晶分子Lpが浸透していないポリマーブラシ2の部分をポリマーブラシ層3として表す。なお、
図5では、本発明を理解し易くする観点から、共存部4とポリマーブラシ層3とを明確に区別して表したが、実際には、共存部4とポリマーブラシ層3との境界を区別することは難しい。
【0051】
上記したようなポリマーブラシ2を用いることにより、共存部4のTg(ガラス転移温度)が、常温よりもかなり低い温度になるので、常温において、共存部4の形状を自由に変動させることができる。そのため、共存部4と液晶分子Lpとの界面において共存部4の状態が変化し、基板13Bに対して水平方向に液晶分子Lpを配向強制しつつ、面内ではいずれの方向にも配向強制力をもたない状態(ゼロ面アンカリング状態)を実現することができる。
【0052】
共存部4のTgは、使用するポリマーブラシ2及び液晶分子Lpの種類によって異なるため、一義的に定義することはできないが、一般に、ポリマーブラシ2単独のTgに比べて低くなる。また、共存部4のTgは、ポリマーブラシ2に対する液晶分子Lpの浸透の程度(すなわち、ポリマーブラシ2と液晶分子Lpとの割合)によっても変化する。具体的には、共存部4において、液晶分子Lpの割合が多い液晶分子Lp側の共存部4はTgが低く、液晶分子Lpの割合が少ないポリマーブラシ層3側の共存部4はTgが高くなる。
【0053】
しかしながら、ポリマーブラシ2として、上記一般式(A)で表され、一般式(A)において、XはH又はCH
3であり、mは正の整数であって、ポリマーブラシのTgが−5℃以下であるものを用いることにより、共存部4のTgを、常温よりも十分低い温度にすることができるので、常温において、基板13Bの表面に対して水平な面内に液晶分子Lpを配向強制しつつ、面内ではいずれの方向にも配向強制力をもたない状態(ゼロ面アンカリング状態)を実現することができる。
【0054】
基板13Bの表面は必要に応じて、平坦化処理を行っても良い。平坦化処理としては、特に限定されず、当該技術分野において公知の方法を用いて行うことができる。平坦化処理の例としては、基板13Bの表面に平坦化膜を形成する方法が挙げられ、例えば、UV硬化性の透明樹脂などを基板13Bの表面に塗布してUV硬化すればよい。
【0055】
基板13Bの例としては、アレイ基板及び対向基板が挙げられる。
アレイ基板の例としては、アクティブマトリックスアレイ基板が挙げられる。このアクティブマトリックスアレイ基板は、一般的に、ガラス基板上にゲート配線及びソース配線がマトリックス状に配置されており、その交点部分に、薄層トランジスタ(TFT:Thin Film Transistor)などのアクティブ素子が形成され、このアクティブ素子に画素電極が接続されたものである。
【0056】
また、対向基板の例としては、カラーフィルタ基板が挙げられる。このカラーフィルタ基板は、一般的に、ガラス基板上に、不要な光の漏れを防止するためにブラックマトリックスを形成した後、R(赤)、G(緑)、B(青)の着色層をパターン形成し、必要に応じて保護膜を形成したものである。これらの基板13Bを用いる場合、基板13Bの表面に透明樹脂を塗布して硬化し、平坦化膜を形成してもよい。
【0057】
基板13B上に形成されるポリマーブラシ2としては、上記一般式(A)で表され、一般式(A)において、XはH又はCH
3であり、mは正の整数であって、ポリマーブラシのTgが−5℃以下であるものを用いることができる。ここで、ポリマーブラシ2は、多数のグラフトポリマー鎖が高密度で基板13B表面に対して垂直方向に伸張した構造を有するのが好ましい。
【0058】
一般的に、一端が基板13B表面に固定されたグラフトポリマー鎖は、グラフト密度が低いと、糸まり状の縮んだ構造をとるが、ポリマーブラシ2は、グラフト密度が高いため、隣接したグラフトポリマー鎖の相互作用(立体反発)により、基板13B表面に対して垂直方向に伸張した構造をとる。
【0059】
本明細書において「高密度」とは、隣接するグラフトポリマー鎖間で立体反発が生じる程度に密集したグラフトポリマー鎖の密度を意味し、一般的に0.1本/nm
2以上、好ましくは0.1〜1.2本/nm
2の密度である。また、本明細書において「グラフトポリマー鎖の密度」とは、単位面積(nm
2)あたりの基板13B表面上に形成されたグラフトポリマー鎖の本数を意味する。
なお、ポリマーブラシ2は、多数のグラフトポリマー鎖が上記に示した「高密度」よりも低い密度で設けられたものであってもよい。
【0060】
ポリマーブラシ2は、基板13Bの表面上でポリマーブラシ2の層を形成する。このポリマーブラシ2の層の厚さは、特に限定されないが、一般に数十nm、具体的には1nm以上100nm未満、好ましくは10nm〜80nm、より好ましくは10nm〜60nm、さらに好ましくは10nm〜50nm、またさらに好ましくは10nm〜40nm、特に好ましくは10nm〜30nm、最も好ましくは15nm〜25nmである。また、このポリマーブラシ2の層にはサイズ排除効果があり、一定の大きさの物質はポリマーブラシ2の層を通過することはできない。そのため、ポリマーブラシ2の層の厚さを薄くしても、下地から液晶分子Lpへの不純物の侵入を防止することができる。
【0061】
ポリマーブラシ2の形成方法としては、特に限定されず、当該技術分野において公知の方法を用いて行うことができる。具体的には、ポリマーブラシ2は、ラジカル重合性モノマーをリビングラジカル重合させることにより形成することができる。ここで、本明細書において「リビングラジカル重合」とは、ラジカル重合反応において、連鎖移動反応及び停止反応が実質的に起こらず、ラジカル重合性モノマーが反応し尽くした後も連鎖成長末端が活性を保持する重合反応のことを意味する。
【0062】
この重合反応では、重合反応終了後でも生成重合体の末端に重合活性を保持しており、ラジカル重合性モノマーを加えると再び重合反応を開始させることができる。また、リビングラジカル重合は、ラジカル重合性モノマーと重合開始剤との濃度比を調節することによって任意の平均分子量をもつ重合体の合成ができ、そして、生成する重合体の分子量分布が極めて狭いなどの特徴がある。
【0063】
リビングラジカル重合の代表例は、原子移動ラジカル重合(ATRP:Atom Transfer Radical Polymerization)である。例えば、重合開始剤の存在下で、ハロゲン化銅/リガンド錯体を用いてラジカル重合性モノマーの原子移動リビングラジカル重合を行う。高分子末端ハロゲンをハロゲン化銅/リガンド錯体が引き抜くことにより可逆的に成長する成長ラジカルにラジカル重合性モノマーが付加して進行し、十分な頻度での可逆的活性化・不活性化により分子量分布が規制される。
【0064】
リビングラジカル重合に用いられるラジカル重合性モノマーは、有機ラジカルの存在下でラジカル重合を行うことが可能な不飽和結合を有するものであり、例えば、t−ブチルメタクリレート、ヘキシルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、ノニルメタクリレート、ラウリルメタクリレート、n−オクチルメタクリレートなどのメタクリレート系モノマー;t−ブチルアクリレート、ヘキシルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、ノニルアクリレート、ベンジルアクリレート、ラウリルアクリレート、n−オクチルアクリレートなどのアクリレート系モノマー;スチレン、スチレン誘導体(例えば、o−、m−、p−メトキシスチレン、o−、m−、p−t−ブトキシスチレン、o−、m−、p−クロロメチルスチレンなど)、ビニルエステル類(例えば、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、安息香酸ビニル、酢酸ビニルなど)、ビニルケトン類(例えば、ビニルメチルケトン、ビニルヘキシルケトン、メチルイソプロペニルケトンなど)、N−ビニル化合物(例えば、N−ビニルピロリドン、N−ビニルピロール、N−ビニルカルバゾール、N−ビニルインドールなど)、(メタ)アクリル酸誘導体(例えば、アクリロニトリル、メタアクリロニトリル、アクリルアミド、イソプロピルアクリルアミド、メタクリルアミドなど)、ハロゲン化ビニル類(例えば、塩化ビニル、塩化ビニリデン、テトラクロロエチレン、ヘキサクロロプレン、フッ化ビニルなど)などのビニルモノマーが挙げられる。これらの各種ラジカル重合性モノマーは、単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。
【0065】
重合開始剤としては、特に限定されず、リビングラジカル重合で一般的に公知のものを使用することができる。重合開始剤の例としては、p−クロロメチルスチレン、α−ジクロロキシレン、α,α−ジクロロキシレン、α,α−ジブロモキシレン、ヘキサキス(α−ブロモメチル)ベンゼン、塩化ベンジル、臭化ベンジル、1−ブロモ−1−フェニルエタン、1−クロロ−1−フェニルエタンなどのベンジルハロゲン化物;プロピル−2−ブロモプロピオネート、メチル−2−クロロプロピオネート、エチル−2−クロロプロピオネート、メチル−2−ブロモプロピオネート、エチル−2−ブロモイソブチレート(EBIB)などのα位がハロゲン化されたカルボン酸;p−トルエンスルホニルクロリド(TsCl)などのトシルハロゲン化物;テトラクロロメタン、トリブロモメタン、1−ビニルエチルクロリド、1−ビニルエチルブロミドなどのアルキルハロゲン化物;ジメチルリン酸クロリドなどのリン酸エステルのハロゲン誘導体が挙げられる。これらの各種重合開始剤は、単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。
【0066】
ハロゲン化銅/リガンド錯体を与えるハロゲン化銅としては、特に限定されず、リビングラジカル重合で一般的に公知のものを使用することができる。ハロゲン化銅の例としては、CuBr、CuCl、CuIなどが挙げられる。これらの各種ハロゲン化銅は、単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。
【0067】
ハロゲン化銅/リガンド錯体を与えるリガンド化合物としては、特に限定されず、リビングラジカル重合で一般的に公知のものを使用することができる。リガンド化合物の例としては、トリフェニルホスファン、4,4’−ジノニル−2,2’−ジピリジン(dNbipy)、N,N,N’,N’N”−ペンタメチルジエチレントリアミン、1,1,4,7,10,10−ヘキサメチルトリエチレンテトラアミンなどが挙げられる。これらの各種リガンド化合物は、単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。
【0068】
ラジカル重合性モノマー、重合開始剤、ハロゲン化銅及びリガンド化合物の量は、使用する原料の種類に応じて適宜調節すればよいが、一般的に、重合開始剤1molに対して、ラジカル重合性モノマーが5mol〜10,000mol、好ましくは50mol〜5,000mol、ハロゲン化銅が0.1mol〜100mol、好ましくは0.5mol〜100mol、リガンド化合物が0.2mol〜200mol、好ましくは1.0mol〜200molである。
【0069】
リビングラジカル重合は、通常、無溶媒で行うが、リビングラジカル重合で一般的に使用される溶媒を使用してもよい。使用可能な溶媒としては、例えば、ベンゼン、トルエン、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、アセトン、クロロホルム、四塩化炭素、テトラヒドロフラン(THF)、酢酸エチル、トリフルオロメチルベンゼンなどの有機溶媒;水、メタノール、エタノール、イソプロパノール、n−ブタノール、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、1−メトキシ−2−プロパノールなどの水性溶媒が挙げられる。これらの各種溶媒は、単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。また、溶媒の量は、使用する原料の種類に応じて適宜調節すればよいが、一般的にラジカル重合性モノマー1gに対して、溶媒が0.01mL〜100mL、好ましくは0.05mL〜10mLである。
【0070】
リビングラジカル重合は、上記の原料を含むポリマーブラシ形成用溶液中に基板13Bを浸漬、または基板13Bに上記の原料を含むポリマーブラシ形成用溶液を塗布し、加熱することによって行うことができる。加熱条件は、特に限定されることはなく、使用する原料などに応じて適宜調節すればよい。一般的に、加熱温度は60℃〜150℃である。また、加熱時間は0.1時間〜80時間、好ましくは0.1時間〜50時間、より好ましくは0.1時間〜30時間、さらに好ましくは0.1時間〜25時間、特に好ましくは0.1時間〜10時間である。この重合反応は、一般的に常圧で行われるが、加圧又は減圧しても構わない。なお、基板13Bは、必要に応じて、ポリマーブラシ2の形成前に洗浄を行ってもよい。
【0071】
リビングラジカル重合により形成されるポリマーブラシ2の分子量は、反応温度、反応時間や使用する原料の種類や量によって調整可能であるが、数平均分子量が一般的に500〜1,000,000、好ましくは1,000〜500,000、より好ましくは5,000〜200,000、特に好ましくは10,000〜200,000のポリマーブラシ2を形成することができる。また、ポリマーブラシ2の分子量分布(Mw/Mn)は、一般的に1.05〜2.0、好ましくは1.05〜1.6、より好ましくは1.05〜1.4、特に好ましくは1.05〜1.25の間に制御することができる。
【0072】
ポリマーブラシ2は、基板13Bとポリマーブラシ2との間の固着性を高める観点から、必要に応じて、固定化膜を介して基板13Bの表面上に形成してもよい。固定化膜としては、基板13B及びポリマーブラシ2との固着性に優れたものであれば特に限定されることはなく、リビングラジカル重合で一般的に公知のものを使用することができる。固定化膜の例としては、次の一般式(B)で表されるアルコキシシラン化合物から形成される膜が挙げられる。
【0074】
一般式(B)において、R
1はそれぞれ独立してC1〜C3のアルキル基、好ましくはメチル基又はエチル基であり、R
2はそれぞれ独立してメチル基又はエチル基であり、Xはハロゲン原子、好ましくはBrであり、nは3〜10の整数、より好ましくは4〜8の整数である。
【0075】
固定化膜には、ポリマーブラシ2が共有結合していることが好ましい。固定化膜とポリマーブラシ2とが結合力の強い共有結合で結ばれていれば、ポリマーブラシ2の剥がれを十分に防止することができる。その結果、液晶パネル11の特性が低下する可能性が低くなり、液晶パネル11の信頼性が向上する。
【0076】
固定化膜の形成方法は、特に限定されず、使用する材料に応じて適宜設定すればよい。例えば、固定化膜形成用溶液に基板13Bを浸漬させたり、あるいは、基板13Bに上記の固定化膜形成用溶液を塗布後、乾燥させることによって固定化膜を形成することができる。ここで、所定の部分に固定化膜を形成させるために、固定化膜を形成させない部分にマスキングを施してもよい。また、基板13Bは、必要に応じて、固定化膜の形成前に洗浄を行ってもよい。
【0077】
基板13Aと、ポリマーブラシ2を形成した基板13Bとの間に、液晶分子Lpおよびカイラル剤を含む液晶材料を注入する方法としては、特に限定されず、毛細管現象を利用した真空注入法、液晶滴下注入法(ODF:One Drop Filling)などの公知の方法を用いることができる。例えば、毛細管現象を利用した真空注入法を用いる場合には、次のようにして行えばよい。
【0078】
まず、一方の基板13A上に公知の方法によって駆動電極15を形成する。他方の基板13B上には、フォトリソグラフィーなどの公知の方法によってスペーサーを形成した後、固定化膜(必要な場合)及びポリマーブラシ2を形成する。ここで、必要に応じて、基板13B上(スペーサー部以外)に平坦化膜などを形成することによって平坦化し、その上に固定化膜(必要な場合)及びポリマーブラシ2を形成してもよい。
【0079】
次に、一方の基板13Aを洗浄して乾燥させた後、シール材を塗布し、他方の基板13Bと重ね合わせ、加熱又はUV照射などによってシール材を硬化させて接着する。ここで、シール材の一部には、液晶分子Lpおよびカイラル剤を含む液晶材料を注入するための注入口を開けておく必要がある。次に、注入口から真空注入法によって基板13A,13Bの間に、液晶分子Lpおよびカイラル剤を含む液晶材料を注入した後、注入口を封止する。
【0080】
本発明において用いられる液晶分子Lpとしては、特に限定されず、当該技術分野において公知のものを用いることができる。その中でも、液晶分子Lpとしては、液晶分子LpのNI点(N相からI相への相転移温度)が共存部4のTgよりも高いものが好ましい。
【0081】
また、カイラル剤としては、特に限定されず、当該技術分野において公知のものを用いることができる。
【0082】
上述したように、液晶パネル11によれば、弱アンカリング配向膜17が形成された基板13Bと、強アンカリング配向膜16が形成された基板13Aと、弱アンカリング配向膜17と強アンカリング配向膜16との間に配置された液晶層18と、基板13A又は基板13Bに設けられ、液晶分子Lpに電場Eを印加する駆動電極15とを備えており、液晶層18は、液晶分子Lpを電場Eの非印加状態における初期配向状態に復元させるカイラル剤を含有する。そして、駆動電極15で生成した電場Eによって配向方向を変位させた液晶分子Lpを、カイラル剤によって付与される復元力によって初期配向状態に戻すことによって、液晶分子Lpの駆動を高速化することが可能となる。これにより、液晶パネル11における表示応答性を高めることが可能となる。また、液晶分子Lpを初期状態に戻すための消費電力を抑えることもできる。
【0083】
また、弱アンカリング配向膜17のアンカリング力を、弱アンカリング配向膜17に凹凸形状を形成するなどの方法により、液晶層18の螺旋誘起力と弾性力との合計よりも大きくしている。そのため、温度などの外的要因の影響を受けても、電場Eの非印加状態において、弱アンカリング配向膜17のアンカリング力によって弱アンカリング配向膜17側の液晶分子Lpの配向方向を初期配向方向に安定して復元させることができる。これにより、液晶パネル11におけるコントラスト比を高めることが可能になる。
【0084】
また、弱アンカリング配向膜17は、電場Eを印加したときの液晶分子Lpの配向方向を拘束するアンカリング力が、強アンカリング配向膜16よりも小さい。そして、電場Eを印加した状態で、印加電場Eの大きさが大きくなるにつれて、弱アンカリング配向膜17近傍の液晶分子Lpの初期配向状態に対する配向方向の変位量が漸次大きくなる。これにより、弱アンカリング配向膜17側の液晶分子Lpの配向方向を変化させるのに十分な所定の電圧を印加すれば、液晶パネル11の液晶層18が駆動され、表示を行うことができる。したがって、低電圧で液晶分子Lpを駆動することができる。
また、上記構成によれば、電場Eの非印加状態では、光が、液晶分子Lpの配向に沿って変化し、偏光板14Bでほぼ全ての光が吸収され、透過率はほぼゼロとなる。一方、一定値以上の電場Eを印加した状態では、液晶層18は電場方向に平行な方向で一様配向し、液晶パネル11に入射した光は、ほぼ全量が偏光板14Bを透過するため、透過率及びコントラスト比の高い表示を行うことが可能となる。
【0085】
実施の形態2.
次に、本発明にかかる液晶表示素子の実施の形態2について説明する。なお、以下に説明する実施の形態2においては、上記の実施の形態1と共通する構成については図中に同符号を付してその説明を省略する。この実施の形態2では、上記の実施の形態1に対し、駆動電極15における電極線20Bの配置が異なる。
図6は、実施の形態2として示した液晶ディスプレイの液晶パネルにおいて、誘電率異方性が正の液晶を用い、電場の非印加状態における電極線と第一の配向膜近傍の液晶分子の配向方向との関係を示す図である。
図7は、前記実施の形態2として示した液晶ディスプレイの液晶パネルにおいて、誘電率異方性が正の液晶を用い、電場印加状態における電極線と第一の配向膜近傍の液晶分子の配向方向との関係の他の例を示す図である。
【0086】
図6に示すように、この実施の形態2において、駆動電極15は、基板13Aの表面に沿って、複数本の電極線20Bが並設されることで形成されている。ここで、各電極線20Bは、その長軸方向を、例えば、基板13Aに沿った方向Yに対して傾斜させて形成されている。駆動電極15は、このような電極線20Bが、基板13Aに沿った方向Yに直交する方向Xに沿って、一定間隔ごとに並設されることで形成されている。
【0087】
図1に示すように、液晶層18では、電場Eの非印加状態において、ポジティブ型の液晶分子Lpは、カイラル剤の添加により、強アンカリング配向膜16側から弱アンカリング配向膜17側に向けて、螺旋状に捩れた初期配向状態となる。この状態で、強アンカリング配向膜16側では、液晶分子Lpは、強アンカリング配向膜16における配向処理方向(方向X)に沿って配向されている。これに対し、
図6に示すように、弱アンカリング配向膜17側では、駆動電極15において互いに隣接する電極線20B,20B間で、電場Eの非印加状態で、ポジティブ型の液晶分子Lpは、弱アンカリング配向膜17側における配向処理方向(方向Y)に沿って配向されている。
【0088】
液晶層18において、ポジティブ型の液晶分子Lpは、電場Eを印加しても、強アンカリング配向膜16側においては液晶分子Lpの長軸方向が強アンカリング配向膜16の配向処理方向(方向X)に沿った初期配向状態を維持する。一方、
図7に示すように、弱アンカリング配向膜17側では、印加された電場Eにより、液晶分子Lpは基板13Bに平行な面内で配向角度が変位し、電場強度がある一定値に達したときに、その長軸方向が電場Eに平行な方向、すなわち電極線20Bに直交する方向に沿うように配向する。このとき、弱アンカリング配向膜17近傍の液晶分子Lpは、強アンカリング配向膜16における配向処理方向に一様に配向しても略一様に配向してもよい。弱アンカリング配向膜17近傍の液晶分子Lpの配向方向は、特に限定されないが、液晶分子Lpの初期配向方向に対する配向方向の変位角度の差が好ましくは0°〜90°、より好ましくは45°〜90°、さらに好ましくは45°〜89°、特に好ましくは60°〜89°である。また、弱アンカリング配向膜17近傍の液晶分子Lpは、その長軸方向が電場Eに平行な方向に完全に配向している必要はなく、チルト角を有していてもよい。チルト角は、特に限定されないが、好ましくは1°〜30°、より好ましくは1°〜20°、さらに好ましくは1°〜15°、特に好ましくは1°〜10°である。
【0089】
このような駆動電極15を備える本実施の形態の液晶パネル11においても、駆動電極15で生成した電場Eによって配向方向を変位させた液晶分子Lpを、電場Eの印加を停止したときに、カイラル剤によって付与された復元力により螺旋状の初期配向状態に戻すことによって、液晶分子Lpの駆動を高速化することが可能となる。これにより、液晶パネル11における表示応答性を高めることが可能となる。また、本実施の形態では、弱アンカリング配向膜17側の液晶分子Lpの配向方向が電場Eに平行となった際、液晶分子Lpの配向方向と偏光板14Bの透過軸方向とが完全に一致しないため、第1実施形態に示した構成よりも最大透過率は若干低下するが、従来のIPS方式の液晶パネルよりも高い最大透過率を実現することが可能となる。
【0090】
実施の形態3.
次に、本発明にかかる液晶表示素子の実施の形態3について説明する。なお、以下に説明する実施の形態3においては、上記の実施の形態1及び2と共通する構成については図中に同符号を付してその説明を省略する。この実施の形態3では、上記実施の形態1及び2に対し、駆動電極15における電極線20Cの配置が異なる。
図8は、実施の形態3として示した液晶ディスプレイの液晶パネルにおいて、誘電率異方性が正の液晶を用い、電場の非印加状態における電極線と第一の配向膜近傍の液晶分子の配向方向との関係を示す図である。
図9は、前記実施の形態3として示した液晶ディスプレイの液晶パネルにおいて、誘電率異方性が正の液晶を用い、電場の印加状態における電極線と第一の配向膜近傍の液晶分子の配向方向との関係の他の例を示す図である。
【0091】
図8に示すように、この実施の形態3において、駆動電極15は、基板13Aの表面に沿って、複数本の電極線20Cが並設されることで形成されている。ここで、各電極線20Cは、各画素において、基板13Aに沿った方向Yに対して所定角度αだけ傾斜した第一傾斜部20aと、方向Yに対し所定角度−αだけ傾斜した第二傾斜部20bとが、長軸方向である方向Yにおいて連続する「く」字状をなしている。駆動電極15は、このような電極線20Cが、基板13Aに沿った方向Yに直交する方向Xに沿って、一定間隔ごとに並設されることで形成されている。
【0092】
このような駆動電極15においては、互いに隣接する電極線20C,20C間で、電場Eの非印加状態で、ポジティブ型の液晶分子Lpは、強アンカリング配向膜16における配向処理方向(方向X)に沿って配向されている。
【0093】
図1に示すように、液晶層18においては、電場Eの非印加状態で、ポジティブ型の液晶分子Lpは、カイラル剤の添加により、強アンカリング配向膜16側から弱アンカリング配向膜17側に向けて、螺旋状に捩れた初期配向状態となる。この状態で、強アンカリング配向膜16側では、液晶分子Lpは、強アンカリング配向膜16における配向処理方向(方向X)に沿って配向されている。これに対し、
図8に示すように、弱アンカリング配向膜17側では、駆動電極15において互いに隣接する電極線20B,20B間で、電場Eの非印加状態で、ポジティブ型の液晶分子Lpは、弱アンカリング配向膜17側における配向処理方向(方向Y)に沿って配向されている。
【0094】
液晶層18において、ポジティブ型の液晶分子Lpは、電場Eを印加しても、強アンカリング配向膜16側においては液晶分子Lpの長軸方向が強アンカリング配向膜16の配向処理方向(方向X)に沿った初期配向状態を維持する。一方、
図9に示すように、弱アンカリング配向膜17側では、印加された電場Eにより、液晶分子Lpは基板13Bに平行な面内で配向角度が変位し、電場Eの強度がある一定値に達したときに、その長軸方向が第一傾斜部20a、第二傾斜部20bに直交するように配向する。具体的には、電場Eを印加したときに、第一傾斜部20a,20a間では、液晶分子Lpは第一傾斜部20aに直交し、第二傾斜部20b,20b間では、液晶分子Lpは第二傾斜部20bに直交するように配向する。このとき、弱アンカリング配向膜17近傍の液晶分子Lpの配向は、一様配向であっても略一様配向であってもよい。弱アンカリング配向膜17近傍の液晶分子Lpの配向方向は、特に限定されないが、液晶分子Lpの初期配向方向に対する配向方向の変位角度の差が好ましくは0°〜90°、より好ましくは45°〜90°、さらに好ましくは45°〜89°、特に好ましくは60°〜89°である。また、弱アンカリング配向膜17近傍の液晶分子Lpは、チルト角を有していてもよい。チルト角は、特に限定されないが、好ましくは1°〜30°、より好ましくは1°〜20°、さらに好ましくは1°〜15°、特に好ましくは1°〜10°である。
ここで、駆動電極15において、電極線20Cは、各画素において「く」字状に屈曲している。したがって、電場Eを印加したときに、方向Xに対し、角度αだけ傾斜した液晶分子Lpと、角度−αだけ傾斜した液晶分子Lpとが混在して画像を形成する。その結果、液晶パネル11を、パネル表面に対して傾斜した斜め方向から見た場合の画像劣化を抑えることができる。
【0095】
このような駆動電極15を備える本実施の形態の液晶パネル11においても、駆動電極15で生成した電場Eによって配向方向を変位させた液晶分子Lpを、電場Eの印加を停止したときに、カイラル剤によって付与された復元力により螺旋状の初期配向状態に戻すことによって、液晶分子Lpの駆動を高速化することが可能となる。これにより、液晶パネル11における表示応答性を高めることが可能となる。また、本実施の形態では、弱アンカリング配向膜17側の液晶分子Lpの配向方向が電場Eに平行となった際、液晶分子Lpの配向方向と偏光板14Bの透過軸方向とが完全に一致しないため、第1実施形態に示した構成よりも最大透過率は若干低下するが、従来のIPS方式の液晶パネルよりも高い最大透過率を実現することが可能となる。
【0096】
実施の形態4.
次に、本発明にかかる液晶表示素子の実施の形態4について説明する。なお、以下に説明する実施の形態4においては、上記の実施の形態1〜3と共通する構成については図中に同符号を付してその説明を省略する。この実施の形態4では、上記の実施の形態1と同様の駆動電極15を備え、ネガティブ型の液晶分子Lnを駆動する。
図10は、本発明の実施の形態4として示した液晶ディスプレイの概略構成を示す断面図である。
図11は、前記実施の形態4として示した液晶ディスプレイの液晶パネルにおいて、誘電率異方性が負の液晶を用い、電場を印加した状態における液晶分子の配向方向の分布を示す図である。
図12は、前記実施の形態4として示した液晶ディスプレイの液晶パネルにおいて、誘電率異方性が負の液晶を用い、電場を印加しない状態における電極線と第一の配向膜近傍の液晶分子の配向方向との関係を示す図である。
図13は、前記実施の形態4として示した液晶ディスプレイの液晶パネルにおいて、誘電率異方性が負の液晶を用い、電場を印加した状態における電極線と液晶分子の配向方向との関係を示す図である。
【0097】
図10、
図11に示すように、この実施の形態において、偏光板14Aと偏光板14Bはパラレルニコルに配置され、偏光板14Aおよび偏光板14Bの透過軸方向が、それぞれ方向Yに沿うよう設定されている。
【0098】
駆動電極15は、基板13Aの表面に沿って、複数本の電極線20Aが並設されることで形成されている。
図12、
図13に示すように、各電極線20Aは、その長軸方向が、例えば基板13Aの表面に平行な面内で方向Yに沿って延びるよう直線状に形成されている。駆動電極15は、このような電極線20Aが、基板13Aの表面に平行な面内で方向Yに直交する方向Xに沿って、一定間隔ごとに並設されている。
【0099】
液晶層18の液晶分子Lnは、誘電率異方性が負であり、誘電的性質が長軸方向に小さく、長軸方向に直交する方向に大きいネガティブ型である。
液晶層18は、ネガティブ型の液晶組成物を用いて形成されており、液晶層18には多数の液晶分子Lnが含有されている。
ネガティブ型の液晶組成物としては、特に限定されず、当該技術分野において公知のものを用いることができる。その中でも、本実施の形態に用いるのに適したネガティブ型の液晶組成物は、下記の一般式(7)〜(11)で表される化合物のうち、好ましくは2種以上、より好ましくは3種以上、さらに好ましくは4種以上、特に好ましくは5種を含有する。また、ネガティブ型の液晶組成物における下記の一般式(7)〜(11)で表される化合物の合計含有量は、75質量%以上であることが好ましい。
【0101】
上記の一般式(7)〜(11)中、R
1及びR
2は、同一でも異なっていてもよく、炭素数1〜5のアルキル基又は炭素数2〜5のアルケニル基を表し;R
3及びR
4は、同一でも異なっていてもよく、炭素数1〜5のアルキル基又は炭素数4〜5のアルケニル基を表す。
図10に示すように、ネガティブ型の液晶分子Lnを用いる場合、電場Eの非印加状態で液晶分子Lnの配向方向を規制するための強アンカリング配向膜16の配向処理方向を、各電極線20Aの長軸方向と平行な方向(
図10では方向Y)とする。また、弱アンカリング配向膜17の配向処理方向を、強アンカリング配向膜16の配向処理方向に直交する方向(
図10では方向X)とする。
また、液晶層18は、電場Eの非印加状態で液晶分子Lnを強アンカリング配向膜16側から弱アンカリング配向膜17側に向かって螺旋状に配向(初期配向状態)させるとともに、電場Eの印加を解除したときに螺旋状の初期配向状態に復元させる復元力を付与するカイラル剤を含有する。
【0102】
これにより、
図10に示すように、液晶層18のネガティブ型の液晶分子Lnは、強アンカリング配向膜16側においては、その長軸方向を、強アンカリング配向膜16の配向処理方向(
図10では方向Y)にほぼ一致させて配向されている。一方、弱アンカリング配向膜17側においては、その長軸方向を、弱アンカリング配向膜17の配向処理方向(
図10では方向X)にほぼ一致させて配向されている。
これにより、この実施の形態における液晶ディスプレイ10は、電場Eの非印加状態において、バックライトユニット12側から偏光板14Aを通過した光が、液晶分子Lnの配向方向の分布に沿って偏光面が変化し、ほぼ全ての光が反対側の偏光板14Bに吸収される。
【0103】
図11に示すように、ネガティブ型の液晶分子Lnは、電場Eを印加しても、上記したように強アンカリング配向膜16側においては、長軸方向が強アンカリング配向膜16の配向処理方向に沿った初期配向状態(方向Y)を維持する。一方、
図11、
図13に示すように、弱アンカリング配向膜17側では、印加された電場Eにより、液晶分子Lnは基板13Bに平行な面内で配向角度が変位し、電場強度がある一定値に達したときに、その長軸方向が電場Eに直交する方向、すなわち基板13Bに平行な方向Yに沿うように配向する。このとき、弱アンカリング配向膜17近傍の液晶分子Lnは、強アンカリング配向膜16における配向処理方向(方向Y)に一様に配向しても略一様に配向してもよい。弱アンカリング配向膜17近傍の液晶分子Lnの配向方向は、特に限定されないが、液晶分子Lnの初期配向方向に対する配向方向の変位角度の差が好ましくは0°〜90°、より好ましくは45°〜90°、さらに好ましくは45°〜89°、特に好ましくは60°〜89°である。また、弱アンカリング配向膜17近傍の液晶分子Lnは、チルト角を有していてもよい。チルト角は、特に限定されないが、好ましくは1°〜30°、より好ましくは1°〜20°、さらに好ましくは1°〜15°、特に好ましくは1°〜10°である。
上記のようにして、電場Eを印加した状態では、印加電場Eの大きさが大きくなるに従い、弱アンカリング配向膜17近傍の液晶分子Lnの初期配向状態に対する配向方向の変位量が漸次大きくなる。更に、一定値以上の電場を印加したとき、弱アンカリング配向膜17側における液晶分子Lnの配向方向(方向Y)は電場Eと直交する方向となり、強アンカリング配向膜16側から弱アンカリング配向膜17側に向けて、液晶層18の液晶分子Lnの配向方向が一様となる。これにより、バックライトユニット12側からの光が液晶パネル11を透過するようになる。
【0104】
また、電場Eの印加状態から電場Eの非印加状態に変えると、液晶層18の液晶分子Lnは、カイラル剤によって付与された復元力により、液晶分子Lnの配向方向が、
図10に示したような螺旋状の初期配向状態に戻る。すなわち、強アンカリング配向膜16側においては、液晶分子Lnの長軸方向が強アンカリング配向膜16の配向処理方向(
図10では方向Y)に沿った状態を維持する。これに対し、液晶層18の弱アンカリング配向膜17側においては、液晶分子Lnの長軸方向が弱アンカリング配向膜17の配向処理方向(
図10では方向X)に沿うように配向方向が変位する。これにより、液晶分子Lnが、強アンカリング配向膜16側から弱アンカリング配向膜17側に向かって、長軸方向の配向角度の変位量が漸次大きくなり、螺旋状に捩れた初期配向状態に戻る。
【0105】
このような駆動電極15を備える本実施の形態の液晶パネル11においても、駆動電極15で生成した電場Eによって配向方向を変位させた液晶分子Lnを、カイラル剤によって付与される復元力によって初期配向状態に復元させることによって、液晶分子Lnの駆動を高速化することが可能となる。これにより、液晶パネル11における表示応答性を高めることが可能となる。また、液晶分子Lnを初期状態に戻すために消費電力を抑えることができる。
【0106】
実施の形態5.
次に、本発明にかかる液晶表示素子の実施の形態5について説明する。なお、以下に説明する実施の形態5においては、上記の実施の形態1〜4と共通する構成については図中に同符号を付してその説明を省略する。この実施の形態5では、上記実施の形態2と同様の駆動電極15を備え、ネガティブ型の液晶分子Lnを駆動する。
図14は、実施の形態5として示した液晶ディスプレイの液晶パネルにおいて、誘電率異方性が負の液晶を用い、電場の印加状態における電極線と第一の配向膜近傍の液晶分子の配向方向との関係を示す図である。
図15は、前記実施の形態5として示した液晶ディスプレイの液晶パネルにおいて、誘電率異方性が負の液晶を用い、電場の印加状態における電極線と第一の配向膜近傍の液晶分子の配向方向との関係の他の例を示す図である。
【0107】
この実施の形態において、一方の偏光板14A、偏光板14Bの透過軸方向は、上記の実施の形態4と同様、それぞれ方向Yに沿うよう設定されている。
【0108】
図14に示すように、駆動電極15は、基板13Aの表面に沿って、複数本の電極線20Bが並設されることで形成されている。各電極線20Bは、その長軸方向を、例えば、基板13Aに沿った方向Yに対して傾斜させて形成されている。駆動電極15は、このような電極線20Bが、基板13Aに沿った方向Yに直交する方向Xに沿って、一定間隔ごとに並設されることで形成されている。
【0109】
図10に示すように、液晶層18においては、電場Eの非印加状態で、液晶分子Lnは、カイラル剤の添加により、強アンカリング配向膜16側から弱アンカリング配向膜17側に向けて螺旋状に捩れた初期配向状態となる。この状態で、強アンカリング配向膜16側では、液晶分子Lnは、強アンカリング配向膜16における配向処理方向(方向Y)に沿って配向されている。これに対し、
図14に示すように、弱アンカリング配向膜17側では、駆動電極15において互いに隣接する電極線20B,20B間で、電場Eを非印加の状態で、ネガティブ型の液晶分子Lnは、弱アンカリング配向膜17側における配向処理方向(方向X)に沿って配向されている。
【0110】
液晶層18において、ネガティブ型の液晶分子Lnは、電場Eを印加しても、強アンカリング配向膜16側においては液晶分子Lnの長軸方向が強アンカリング配向膜16の配向処理方向(方向Y)に沿った初期配向状態を維持する。一方、
図15に示すように、弱アンカリング配向膜17側においては、印加された電場Eにより、液晶分子Lnは基板13Bに平行な面内で配向角度が変位し、電場強度がある一定値に達したときに、その長軸方向が電場Eに直交する方向、すなわち電極線20Bに平行な方向に沿うように配向する。このとき、弱アンカリング配向膜17近傍の液晶分子Lnは、電場Eに直交する方向に一様に配向しても略一様に配向してもよい。弱アンカリング配向膜17近傍の液晶分子Lnの配向方向は、特に限定されないが、液晶分子Lnの初期配向方向に対する配向方向の変位角度の差が好ましくは0°〜90°、より好ましくは45°〜90°、さらに好ましくは45°〜89°、特に好ましくは60°〜89°である。また、弱アンカリング配向膜17近傍の液晶分子Lnは、チルト角を有していてもよい。チルト角は、特に限定されないが、好ましくは1°〜30°、より好ましくは1°〜20°、さらに好ましくは1°〜15°、特に好ましくは1°〜10°である。
【0111】
このような駆動電極15を備える本実施の形態の液晶パネル11においても、駆動電極15で生成した電場Eによって配向方向を変位させた液晶分子Lnを、カイラル剤によって付与される復元力によって初期配向状態に復元させることによって、液晶分子Lnの駆動を高速化することが可能となる。これにより、液晶パネル11における表示応答性を高めることが可能となる。また、液晶分子Lnを初期状態に戻すための消費電力を抑えることができる。また、本実施の形態では、弱アンカリング配向膜17側の液晶分子Lnの配向方向が電場Eに垂直となった際、液晶分子Lnの配向方向と偏光板14Bの透過軸方向とが完全に一致しないため、第4実施形態に示した構成よりも最大透過率は若干低下するが、従来のIPS方式の液晶パネルよりも高い最大透過率を実現することが可能となる。
【0112】
実施の形態6.
次に、本発明にかかる液晶表示素子の実施の形態6について説明する。なお、以下に説明する実施の形態6においては、上記の実施の形態1〜5と共通する構成については図中に同符号を付してその説明を省略する。この実施の形態6では、上記の実施の形態3と同様の駆動電極15を備え、ネガティブ型の液晶分子Lnを駆動する。
図16は、実施の形態6として示した液晶ディスプレイの液晶パネルにおいて、誘電率異方性が負の液晶を用い、電場の印加状態における電極線と第一の配向膜近傍の液晶分子の配向方向との関係を示す図である。
図17は、前記実施の形態6として示した液晶ディスプレイの液晶パネルにおいて、誘電率異方性が負の液晶を用い、電場の印加状態における電極線と第一の配向膜近傍の液晶分子の配向方向との関係の他の例を示す図である。
【0113】
この実施の形態において、一方の偏光板14A、偏光板14Bの透過軸方向は、上記の実施の形態4と同様、それぞれ方向Yに沿うよう設定されている。
【0114】
図16に示すように、駆動電極15は、基板13Aの表面に沿って、複数本の電極線20Cが並設されることで形成されている。各電極線20Cは、各画素において、基板13Aに沿った方向Yに対して所定角度αだけ傾斜した第一傾斜部20aと、方向Yに対し所定角度−αだけ傾斜した第二傾斜部20bとが、長軸方向である方向Yにおいて連続する「く」字状をなしている。駆動電極15は、このような電極線20Cが、基板13Aに沿った方向Yに直交する方向Xに沿って、一定間隔ごとに並設されることで形成されている。
【0115】
図10に示すように、液晶層18においては、電場Eの非印加状態で、液晶分子Lnは、カイラル剤の添加により、強アンカリング配向膜16側から弱アンカリング配向膜17側に向けて、螺旋状に捩れた初期配向状態となる。この状態で、強アンカリング配向膜16側では、液晶分子Lnは、強アンカリング配向膜16における配向処理方向(方向Y)に沿って配向されている。これに対し、
図16に示すように、弱アンカリング配向膜17側では、駆動電極15において互いに隣接する電極線20B,20B間で、電場Eを非印加の状態で、ネガティブ型の液晶分子Lnは、弱アンカリング配向膜17側における配向処理方向(方向X)に沿って配向されている。
【0116】
液晶層18において、ネガティブ型の液晶分子Lnは、電場Eを印加しても、強アンカリング配向膜16側においては液晶分子Lnの長軸方向が強アンカリング配向膜16の配向処理方向(方向Y)に沿った初期配向状態を維持する。一方、
図17に示すように、弱アンカリング配向膜17側では、印加された電場Eにより、液晶分子Lnは基板13Bに平行な面内で配向角度が変位し、電場強度がある一定値に達したときに、その長軸方向が第一傾斜部20a、第二傾斜部20bに平行となるように配向する。具体的には、電場Eを印加したときに、第一傾斜部20a,20a間では、液晶分子Lnは第一傾斜部20aに平行となり、第二傾斜部20b,20b間では、液晶分子Lnは第二傾斜部20bに平行となるように配向する。このとき、弱アンカリング配向膜17近傍の液晶分子Lnの配向は、一様配向であっても略一様配向であってもよい。弱アンカリング配向膜17近傍の液晶分子Lnの配向方向は、特に限定されないが、液晶分子Lnの初期配向方向に対する配向方向の変位角度の差が好ましくは0°〜90°、より好ましくは45°〜90°、さらに好ましくは45°〜89°、特に好ましくは60°〜89°である。また、弱アンカリング配向膜17近傍の液晶分子Lnは、チルト角を有していてもよい。チルト角は、特に限定されないが、好ましくは1°〜30°、より好ましくは1°〜20°、さらに好ましくは1°〜15°、特に好ましくは1°〜10°である。
ここで、駆動電極15において、電極線20Cは、各画素において「く」字状に屈曲している。したがって、電場Eを印加したときに、互いに異なる2種類の角度に傾斜した液晶分子Lnが混在して画像を形成する。その結果、液晶パネル11を、パネル表面に対して傾斜した斜め方向から見た場合の画像劣化を抑えることができる。
【0117】
このような駆動電極15を備える本実施の形態の液晶パネル11においても、駆動電極15で生成した電場Eによって配向方向を変位させた液晶分子Lnを、カイラル剤によって付与される復元力によって初期配向状態に復元させることによって、液晶分子Lnの駆動を高速化することが可能となる。これにより、液晶パネル11における表示応答性を高めることが可能となる。また、液晶分子Lnを初期状態に戻すための消費電力を抑えることができる。
また、本実施の形態では、弱アンカリング配向膜17側の液晶分子Lnの配向方向が電場Eに垂直となった際、液晶分子Lnの配向方向と偏光板14Bの透過軸方向とが完全に一致しないため、実施の形態4に示した構成よりも最大透過率は若干低下するが、従来のIPS方式の液晶パネルよりも高い最大透過率を実現することが可能となる。
【0118】
以上、本発明の好ましい実施の形態について詳細に説明したが、当該技術分野における通常の知識を有する者であればこれから様々な変形及び均等な実施の形態が可能である。
よって、本発明の権利範囲はこれに限定されるものではなく、特許請求の範囲で定義される本発明の基本概念を用いた当業者の様々な変形や改良形態も本発明に含まれる。
【0119】
例えば、上記の実施の形態では、強アンカリング配向膜16、弱アンカリング配向膜17について、それぞれ具体的な形成方法を例示したが、これに限らない。すなわち、強アンカリング配向膜16と弱アンカリング配向膜17とで、電場Eを付与したときの、液晶分子Lp、Lnの配向方向を矯正する配向強制力が互いに異なるのであれば、強アンカリング配向膜16、弱アンカリング配向膜17は、それぞれ、他のいかなる方法、材料で形成してもよい。
【0120】
また、カイラル剤には左巻き螺旋と右巻き螺旋を誘起するものが存在するが、そのいずれを用いても良い。
【0121】
また、上記の実施の形態では、強アンカリング配向膜16をバックライトユニット12側に配置し、弱アンカリング配向膜17をバックライトユニット12から離間した側に配置したが、これに限らない。強アンカリング配向膜16をバックライトユニット12から離間した側に配置し、弱アンカリング配向膜17をバックライトユニット12側に配置してもよい。
【0122】
駆動電極15についても、バックライトユニット12側に限らず、その反対側に配置してもよい。
【0123】
また、実施の形態1〜6においては、偏光板14Aと偏光板14Bをパラレルニコルに配置し、偏光板14Aの透過軸方向が、電場Eの非印加状態での液晶分子Lの配向方向を規制するための強アンカリング配向膜16に対する配向処理方向と、一致する場合の例を示したが、偏光板14Aの透過軸方向を、電場Eの非印加状態での液晶分子Lの配向方向を規制するための強アンカリング配向膜16に対する配向処理方向と、直交させても良い。
【0124】
さらには、上記の実施の形態では、電圧非印加時に表示が暗く、電圧印加時に明るくなる、いわゆる、ノーマリーブラック型の液晶パネル11について説明を行ったが、これに限らない。液晶パネル11を、電圧非印加時に表示が明るく、電圧印加時に暗くなる、いわゆる、ノーマリーホワイト型の構成としてもよい。