(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、吸水調整プライマーは躯体表面に膜を生成するため打ち継ぐセメント混練物が躯体に投錨するのを妨げるという問題、又は施工後打継ぎ面に水が回った場合は樹脂フィルムの再乳化及び/又は膨潤により新旧硬化体の一体性が損なわれるという問題がある。
【0006】
また、市販されている吸水調整プライマーとして用いられる高分子ディスパージョンは、濃度が20〜60質量%程度で、吸水調整プライマーとして用いるときは、施工現場で高分子ディスパージョンの質量の1〜5倍の質量の水で更に希釈することが多い。
高分子ディスパージョンの運搬は約半分以上が水を運搬していることになり、効率が悪く、又そのために排出されるCO
2排出量も多いという問題がある。
また、施工現場で計量用の秤を準備する必要があり施工準備が煩雑であった。
更に、市販の吸水調整プライマーは、一斗缶、石油缶又はポリタンクに充填され販売されている。このため、使用後は空の缶又はポリタンクが産業廃棄物として排出され、これらは非常に嵩張るという問題がある。
【0007】
従って、本発明は新旧硬化体の付着強度が高く、一体性に優れており、かつ運搬効率が良いセメント打継ぎ用プライマーを提供することを目的とする。また、本発明は、施工準備が簡単なセメント打継ぎ用プライマーを提供することを目的とする。また、本発明は、準備から施工までが簡単なセメントの打継ぎ方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そこで本発明者は、前記課題解決のため鋭意検討した結果、水溶性樹脂をシート状として用いることにより、新旧硬化体の付着強度が高く、その付着強度が持続するとともに、運搬効率が良く、施工準備も簡単であり、長期間安定なプライマーシートが得られることを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
すなわち、本発明は、次の〔1〕〜〔
3〕を提供するものである。
【0010】
〔1〕
所定量の水に、水溶性樹脂を主要成分とし、所定量の水に溶解させてセメント打継ぎ用プライマーとして用いるセメント打継ぎ用プライマーシート
を、所定量投入し攪拌することでセメント打継ぎ用プライマーを作製し、当該セメント打継ぎ用プライマーをセメント硬化体表面に塗布し、次いで該セメント用プライマーの表面に未硬化のセメント混練物を打継ぐことを特徴とするセメント打継ぎ方法。
〔2〕
セメント打継ぎ用プライマーシートの水溶性樹脂がポリビニルアルコール系水溶性樹脂である上記〔1〕のセメント打継ぎ
方法。
〔3〕
セメント打継ぎ用プライマーシートが水溶性樹脂を主要成分とする繊維で形成されている不織布である上記〔1〕又は〔2〕のセメント打継ぎ
方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、新旧硬化体の付着強度が高く、その付着強度が持続し、運搬効率が良いセメント打継ぎ用プライマーシートが得られる。また、本発明によれば、施工準備が簡単なセメント打継ぎ用プライマーシートが得られる。また、本発明によれば、長期間保管しても性状の変化が見られずに安定な打継ぎ用プライマーシートが得られる。また、本発明によれば、準備から施工までが簡単なセメントの打継ぎ方法が得られる。
また、本発明によれば、セメント打継ぎ用プライマー用材料の運搬で排出されるCO
2排出量は少なく済み、また、当該運搬に一斗缶、石油缶又はポリタンクを用いる必要がなく、排出される廃棄物の嵩も小さい。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明のセメント打継ぎ用プライマーシートは、水溶性樹脂を主要成分とするシートからなる。本発明のセメント打継ぎ用プライマーシートは、シート状の水溶性樹脂からなっているので、施工現場までは水を添加せずに運搬でき、運搬する質量が小さいので、その運搬において発生するCO
2量は少ない。
【0013】
また、施工現場で、水に所定量の当該プライマーシートを投入した後に攪拌することで所定濃度の水溶性樹脂水溶液からなるセメント打継ぎ用プライマーとして製造し用いることができるので簡単である。予め、プライマーシートの大きさ及び質量を調整しておくことで、施工現場では、計量した所定量の水にプライマーシートの枚数を確認して投入後、攪拌することで水溶性樹脂が水に溶解し、セメント硬化体への塗布用のセメント打継ぎ用プライマーを簡単に製造することができる。
【0014】
このときの水の計量には、秤は必ずしも必要ではなく、体積による計量でもよいのでより簡単である。バケツ、缶、タンク等の容器に、所定量の水量となる位置に印を付けておき、その印と水面が一致するように水を当該容器内に注ぎ、所定量つまり所定面積の本発明のセメント打継ぎ用プライマーシートを当該容器に投入後、攪拌し当該シートを水に溶解させる。
【0015】
本発明のプライマーシートは、シートの形態であればよく、例えばフィルム状シート、不織布状シート、織布状シート、紙状シート等の形態が挙げられる。このうち、運搬性、水への溶解性、製品安定性、取り扱い易さの点から不織布状シートが好ましい。
【0016】
本発明のプライマーシートの厚さは、特に限定されないが、運搬性、使用性、加工性等の点から1μm〜10mmが好ましく、10μm〜5mmがより好ましく、20μm〜1mmがさらに好ましい。
【0017】
また、当該シートに升目を印刷またはミシン目を入れておき、必要量を、升目を目処に切り取り、所定量の水と攪拌することで、簡単にセメント硬化体への塗布用のセメント打継ぎ用プライマーを製造することもできる。
【0018】
水溶性樹脂を主要成分とするシートの作製方法は特に限定されないが、水溶性樹脂を圧延する方法、水溶性樹脂の水溶液を板やベルトの上に広げた上で水を蒸発させる方法、水溶性樹脂を主要成分とする繊維から不織布を形成・製造する方法等が好ましい例として挙げられる。水溶性樹脂を主要成分とする繊維から不織布を形成・製造する方法により製造された、上記シートが水溶性樹脂を主要成分とする繊維から形成されている不織布であると、シートの見掛け面積当たりの水溶性樹脂の表面積が大きく、水に投入したときに溶解し易いことから好ましい。水溶性樹脂を主要成分とする繊維から不織布を形成・製造する方法は、ポリプロピレンやポリエステル等の樹脂による不織布を製造する方法を用いることができる。
【0019】
本発明に用いる水溶性樹脂としては、ポリビニルアルコール系水溶性樹脂であると水に溶解し易く、少ない使用量でセメントを打継ぎ用プライマーとしての性能、つまり、打継部の付着能力(接着能力)に優れ且つ保存性安定性に優れることから好ましい。本発明においてポリビニルアルコール系水溶性樹脂とは、ポリ酢酸ビニルをケン化し酢酸基の一部または全部を水酸基に置換したもの(ポリビニルアルコール、以下「PVOH」と略記することがある。)、酢酸ビニルと他のモノマーの共重合体の酢酸基の一部または全部を水酸基に置換したもの(以下「PVOH共重合体」という。)、PVOHに水酸基、酢酸基以外の官能基を有するもの(以下「変性PVOH」という。)、PVOH共重合体に水酸基、酢酸基及びモノマー由来の官能基以外の官能基を有するもの(以下「変性PVOH共重合体」という。)をいう。ここで、水酸基、酢酸基以外の官能基としては、例えばカルボニル基、カルボキシル基、エチレンオキサイド基、プロピレンオキサイド基、アセトアセチル基、アシル基、スルホン酸基、カチオン基(4級アンモニウム塩)、ハロゲン、フェニル基、ジアセトンアクリルアミド基、メルカプト基、シラノール基等が挙げられる。PVOH共重合体または変性PVOH共重合体としては、酢酸ビニルとブテンジオールを共重合させたものに由来するもの(ブテンジオール・ビニルアルコール共重合樹脂)が、低温時における水溶性が高いことから好ましい。
【0020】
本発明のセメント打継ぎ用プライマーシートには、水溶性樹脂以外に本発明の効果を実質損なわない範囲で水溶性樹脂以外の成分を含有していてもよい。この水溶性樹脂以外の成分としては、例えば、セメント、ポゾラン、セメント分散剤(減水剤、AE減水剤、高性能AE減水剤、高性能減水剤、流動化剤を含む。)、エチレン酢酸ビニルやアクリル樹脂等の水溶性樹脂以外の樹脂、防水材、防錆剤、収縮低減剤、水溶性樹脂以外の増粘剤、保水剤、顔料、水溶性樹脂以外の繊維、白華防止剤、潤滑剤、急結剤(材)、急硬剤(材)、凝結遅延剤、消泡剤、高炉スラグ微粉末、石粉、表面硬化剤等が好ましい例として挙げられる。本発明のプライマーシートにおける主要成分とは、水溶性樹脂の含有量が60質量%以上であることを言い、80質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることがより好ましい。
【0021】
本発明のセメントの打継ぎ方法は、前記プライマーシートを所定量の水に投入し撹拌することで作製したセメント打継ぎ用プライマーを、セメント硬化体表面(打継ぎ面)に塗布し、該セメント打継ぎ用プライマーの表面に、未硬化のセメント混練物を打継ぐことを特徴とする。本発明において、(旧)セメント硬化体及び打ち継ぐセメント混練物の種類及び配合は特に限定されない。種類としては、例えば、セメントペースト、モルタル又はコンクリートが挙げられ、セメントペースト又はモルタルからなるグラウト材でもよい。
【0022】
本発明において、セメント打継ぎ用プライマーの水溶性樹脂の濃度は、0.05〜10質量%が、セメント打継ぎ用プライマーとしての効果があり均一に塗布し易くなる点で好ましい。濃度が低すぎると、プライマーの有効成分が(旧)セメント硬化体の内部に浸透し易く、打継ぎ面に有効成分が残り難いため、有効成分の効果を発揮し難い。また高すぎると付着性能が低下する虞がある。より好ましい濃度は0.1〜5質量%である。
【0023】
本発明において、セメント硬化体表面(打継ぎ面)へのセメント打継ぎ用プライマーの塗布1回当たりの塗布量としては、60〜250g/m
2とすることが均一に塗布し易いことから好ましい。塗布1回当たりの塗布量が、少なすぎると、塗布後直ぐに打継ぎ面からセメント硬化体内部に浸み込んでしまい均一に塗布し難く、また塗布に時間が掛かり、塗布から打ち継ぐ未硬化のセメント混練物の打設までの時間が掛かるとともに管理し難い。また、塗布1回当たりの塗布量が多すぎると、打継ぎ面が立上り面(壁面又は側面)や見上げ面(下面)のときに塗布したプライマーが流れ落ち、上面のときは不陸にプライマーが溜まり有効成分濃度が不均一になり易い。
また、セメント打継ぎ用プライマーの打継ぎ面への塗布回数は特に限定されないが、1〜2回が好ましい。塗布回数が多いと非効率で、塗布から打ち継ぐ未硬化のセメント混練物の打設までの時間が掛かるとともに管理し難い。
【0024】
セメント打継ぎ用プライマーを打継ぎ面に塗布する方法は特に限定されない。例えば、刷毛やローラーによる塗布又は噴霧が好ましい。
【0025】
セメント打継ぎ用プライマーを打継ぎ面に塗布する前に、打継ぎ面を清掃、洗浄等により清浄化することが、新旧硬化体の間の付着強度が高くなることから好ましい。
【0026】
セメント混練物で打ち継ぐ時期は、エチレン酢酸ビニルやアクリル樹脂等の高分子ディスパージョンからなる吸水調整プライマーと異なり、セメント打継ぎ用プライマーを打継ぎ面に塗布後、直ちにセメント混練物で打ち継いでも良いし、塗布したセメント打継ぎ用プライマーが乾燥後にセメント混練物で打ち継いでも良い。このため、塗布から打ち継ぐ未硬化のセメント混練物の打設までの時間を意識することなく施工を行える。打ち継ぐ未硬化のセメント混練物を打設する方法は特に限定されない。
【実施例】
【0027】
次に実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明する。
【0028】
(実施例1)
次の水溶性樹脂を主要成分とするセメント打継ぎ用プライマーシート(シートA〜シートE)を、表1に示す割合の水に投入後、攪拌し水溶性樹脂水溶液からなるセメント打継ぎ用プライマーを作製した。
<用いたセメント打継ぎ用プライマーシート>
・シートA:
ブテンジオール・ビニルアルコール共重合樹脂(PVOH共重合体)からなる不織布(30g/m
2、厚さ180μm)
・シートB:
ブテンジオール・ビニルアルコール共重合樹脂(PVOH共重合体)からなる不織布(60g/m
2、厚さ290μm)
・シートC:
ブテンジオール・ビニルアルコール共重合樹脂(PVOH共重合体)からなる不織布(100g/m
2、厚さ340μm)
・シートD:
ポリビニルアルコール系水溶性樹脂製フィルム(日本合成化学工業社製「ハイセロンC−200」(商品名))(30g/m
2、厚さ40μm)
・シートE:
ブテンジオール・ビニルアルコール共重合樹脂(PVOH共重合体)粉末をメタノールに溶解させた溶液を固形分量120g/m
2となるように日本製紙パピリア社製水溶紙「120MDP」(製品型番)に含浸させた後に乾燥させたPVOH共重合体含有水溶紙(厚さ200μm)
【0029】
【表1】
【0030】
作製したセメント打継ぎ用プライマーの品質試験として、以下に示す付着試験、安定性試験を行った。その結果をセメント打継ぎ用プライマーシートの溶解性試験結果とともに表2に示した。
【0031】
<試験方法>
・付着試験
24−8−20NのJISコンクリートを開口部300×500mm、深さ60mmの型枠に打設し3日後に脱型しコンクリート基板を作製した。脱型後は材齢28日まで20℃水中で養生し、その後20℃60%RH条件下の気中で28日間養生したコンクリート基板の底面(300×500mm)を研磨紙#120で研磨を行い試験面として試験に供した。
表2に示した塗布量で作製したセメント打継ぎ用プライマーを、コンクリート基板に塗布した。プライマーが乾燥後、表2に示したモルタルを10mm厚で塗り付け試験体とした。
モルタル表面側よりコンクリート基板表面に達するまで内径Φ50mmのコアピットにて切込みを入れた。モルタル表面にΦ50mmの鋼製アタッチメントをエポキシ接着剤で貼り付け、建研式接着力試験器を用いて面に垂直方向に引っ張ることで付着性能を評価した。各水準5か所で測定を行い、付着強度最高値・最低値データを除いた3か所の平均値を以って評価した。付着強度は1.8MPa以上を以って良好(○)、2.2MPaを以って非常に良好(◎)、1.8MPa未満を不合格(×)とした。破断箇所は躯体凝集部(コンクリート基板内の破壊)をA、躯体−モルタル界面(コンクリート基板とモルタル界面)をB、モルタル凝集部(モルタル内部の破壊)をC、モルタル−鋼製アタッチメント接着面(接着に用いたエポキシ接着剤部を含む)をDとし、破断箇所に占める面積比を10%単位の精度で評価し、Bの占める比率が30%以下を以って一体性が良好(○)、10%以下を以って非常に良好(◎)、30%を超える場合を不合格(×)とした。)
付着試験は、材齢28日と、乾湿繰返し30サイクル後の2回実施した。
乾湿繰返しは、試験体を材齢28日まで曝露した後、試験体4側面をエポキシ塗装材でシーリングし、20℃水中3日、50℃気中乾燥4日間を1サイクルとし、30サイクルの負荷を行った。
【0032】
・安定性
20℃60%RHの室内条件で、セメント打継ぎ用プライマーシートを静置して、変状を確認した。安定性は静置後3ヶ月で変状が生じなかったものを良好(○)、藻が発生または形状が変形などの変状が生じたものを不合格(×)とした。
【0033】
・溶解性
水7.5Lに対して溶質濃度1%となるようにセメント打継ぎ用プライマーシートを投入後、かご型ハンドミキサ(東芝社製「東芝二段変速ミキサー 150mm BMV−150A」)を用いて低速で攪拌し、固形物が確認できなくなった時間(溶解時間)を測定した。溶解時間は3分以内を以って良好(○)、3分を超える場合を不合格(×)とした。
【0034】
【表2】
【0035】
比較として、ブテンジオール・ビニルアルコール共重合樹脂(PVOH共重合体)粉末、同PVOH共重合体粉末の濃度1質量%の水溶液、および市販の吸水調整材(日本化成社製「NSハイフレックスHF−1000」(商品名、製品型番)(エチレン酢酸ビニル系エマルション、固形分(有効成分)45%))を用い、表3に示す割合でセメント打継ぎ用プライマーを作製した。同様に試験を行った。
【0036】
【表3】
【0037】
【表4】