(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、ガラス製の収容部に筆記具用水性インキ組成物を収容した際にも析出物を生じることなく、長期間安定したインキ組成を維持できる保存安定性に優れた筆記具用水性インキ組成物およびそれを収容した水性インキ製品を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、筆記具用水性インキ組成物(以下、場合によりインキ組成物と表すことがある)中にキレート剤を配合し、ガラス製のインキ収容部に前記インキ組成物を収容することなどにより、前記課題が解決された。
すなわち、本発明は、
「1.ガラス製のインキ収容部に収容する筆記具用水性インキ組成物であって、前記筆記具用水性インキ組成物が、水と、着色剤と、キレート剤とを含んでなることを特徴とする筆記具用水性インキ組成物。
2.前記キレート剤がエチレンジアミン四酢酸塩であることを特徴とする第1項に記載の筆記具用水性インキ組成物。
3.前記着色剤が、染料であることを特徴とする第1項または第2項に記載の筆記具用水性インキ組成物。
4.第1項〜第3項のいずれか1項に記載の筆記具用水性インキ組成物をガラス製のインキ収容部に収容してなる水性インキ製品。
5.前記ガラス製のインキ収容部がソーダ石灰ガラスであることを特徴とする第4項に記載の水性インキ製品。」に関する。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、ガラス製のインキ収容部に収容される筆記具用水性インキ組成物にキレート剤を配合したことにより、ガラスからアルカリ成分が溶出した際にも析出物の発生を防ぐことができる為、安定したインキ組成を長期間維持できる。さらに、アルカリ成分の溶出の少ない高価なガラスを用いる必要がなく、また、アルカリ成分の溶出を防ぐ為にインキ収容部のガラス表面に脱アルカリ処理を施す工程を必要とせず、工数の削減によりコストを減らすことができるなど優れた効果を奏するものである。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。なお、本明細書において、配合を示す「部」、「%」などは特に断らない限り質量基準である。
【0008】
<キレート剤>
本発明に用いるキレート剤としては、ガラス製のインキ収容部から溶出するアルカリ成分を捕捉し、該アルカリ成分がインキ組成物中の成分と反応し、水に不溶な析出物などを発生させることを防ぐことができる。
【0009】
本発明に用いるキレート剤としては、具体的には、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、ヒドロキシエチレンジアミン三酢酸(HEDTA)、グリコールエーテルジアミン四酢酸(GEDTA)、ニトリロ三酢酸(NTA)、ヒドロキシエチルイミノ二酢酸(HIDA)、ジヒドロキシエチルグリシン(DHEG)、ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)、トリエチレンテトラミン六酢酸(TTHA)及びそれらのアルカリ金属塩、アンモニウム塩又はアミン塩などが挙げられる。前記キレート剤において、エチレンジアミン四酢酸のアルカリ金属塩、アンモニウム塩、アミン塩であるエチレンジアミン四酢酸塩を用いると、十分なC.V.値を有している為、ガラスから溶出するアルカリ成分を十分に捕捉することができるため好ましい。特に、エチレンジアミン四酢酸三ナトリウムは、キレート剤を配合する前のインキ組成物のpHの変化やインキの変色などをおこさず、インキ物性やインキ性能を変化させることがないので好ましい。
【0010】
前記キレート剤の配合割合としては、インキ組成物全質量に対し、0.01〜1%が好ましい。この範囲より少ないと、ガラスから溶出したアルカリ成分を捕捉できず、析出物が発生する恐れがあり、この範囲より多いと、インキの変色などインキ組成物の性能や物性に悪影響を与える可能性がある。この範囲にあると、析出物が発生せず、インキ組成物の性能や物性に悪影響を及ぼさないので好ましい。
【0011】
<着色剤>
本発明に用いることができる着色剤としては、通常、筆記具用水性インキ組成物に用いる染料、顔料などが挙げられる。
【0012】
本発明において用いることができる染料としては、水性媒体に溶解もしくは分散可能であれば特に制限されるものではない。例えば、酸性染料、塩基性染料、反応性染料、直接染料、分散染料および食用色素など各種染料が挙げられ、これらは単独で、または2種以上組み合わせて用いることができる。染料の添加量は、インキ組成物の総質量に対して、0.1〜10%であることが好ましく、0.1〜5%であることがより好ましい。
【0013】
前記酸性染料は、長期的に溶出するガラス由来のアルカリ成分と反応して、水への溶解性が比較的小さい塩を形成し、析出物となり易い。
【0014】
前記酸性染料として具体的には、C.I.アシッドレッド18、C.I.アシッドレッド51、C.I.アシッドレッド52、C.I.アシッドレッド87、C.I.アシッドレッド92、C.I.アシッドレッド289、C.I.アシッドオレンジ10、C.I.アシッドイエロー3、C.I.アシッドイエロー7、C.I.アシッドイエロー23、C.I.アシッドイエロー42、C.I.アシッドグリーン3、C.I.アシッドグリーン16、C.I.アシッドブルー1、C.I.アシッドブルー9、C.I.アシッドブルー22、C.I.アシッドブルー90、C.I.アシッドブルー239、C.I.アシッドブルー248、C.I.アシッドバオレット15、C.I.アシッドバイオレット49、C.I.アシッドブラック1、C.I.アシッドブラック2、アシッドレッド52、アシッドレッド289、アシッドレッド388、アクリジンレッド(C.I.45000)、ローダミン110、ローダミン123、ローダミン6G(C.I.ベーシックレッド1)、ローダミン6Gエキストラ、ローダミン116、ローダミンB(C.I.45170)、テトラメチルローダミン過塩素酸塩、ローダミン3B、ローダミン19、スルホローダミン、ピロニンG(C.I.45005)、ローダミンS(C.I.45050)、ローダミンG(C.I.45150)、エチルローダミンB(C.I.45175)、ローダミン4G(C.I.45166)、ローダミン3GO(C.I.45215)、スルホローダミンGなどが挙げられる。
【0015】
特に、酸性染料のうち、フルオレセイン骨格を有する染料を用いた場合には、析出傾向が高く、本発明がより有利なものとなる。
前記フルオレセイン骨格を有する染料としては、例えば、アシッドレッド87(エオシン)、アシッドレッド92(フロキシン)、アシッドレッド51(エリスロシン)、アシッドレッド94(ローズベンガル)などが挙げられる。
【0016】
塩基性染料としては、C.I.ベーシックオレンジ2、C.I.ベーシックオレンジ14、C.I.ベーシックグリーン4、C.I.ベーシックブルー9、C.I.ベーシックブルー26、C.I.ベーシックバイオレット1、C.I.ベーシックバイオレット3、C.I.ベーシックバイオレット10、クリソイジン(C.I.11270)、メチルバイオレットFN(C.I.42535)、クリスタルバイオレット(C.I.42555)、マラカイトグリーン(C.I.42000)、ビクトリアブルーFB(C.I.44045)、アクリジンオレンジNS(C.I.46005)、メチレンブルーB(C.I.52015)などが挙げられ、直接染料としては、C.I.ダイレクトレッド28、C.I.ダイレクトイエロー44、C.I.ダイレクトブルー86、C.I.ダイレクトブルー87、C.I.ダイレクトバイオレット51、C.I.ダイレクトブラック19、食用色素としては、C.I.フードイエロー3、C.I.フードブラック2、コンゴーレッド(C.I.22120)、ダイレクトスカイブルー5B(C.I.24400)、バイオレットBB(C.I.27905)、ダイレクトディープブラックEX(C.I.30235)、カヤラスブラックGコンク(C.I.35225)、ダイレクトファストブラックG(C.I.35255)、フタロシアニンブルー(C.I.74180)などが挙げられる。
【0017】
本発明において用いることができる顔料としては、無機、有機、加工顔料などが挙げられるが、具体的にはカーボンブラック、アニリンブラック、群青、黄鉛、酸化チタン、酸化鉄、フタロシアニン系、アゾ系、キナクリドン系、キノフタロン系、トリフェニルメタン系、ペリノン系、ペリレン系、ジオキサジン系、アルミ顔料、パール顔料、蛍光顔料、蓄光顔料、補色顔料等が挙げられる。その他、着色樹脂粒子体として顔料を媒体中に分散させてなる着色体を公知のマイクロカプセル化法などにより樹脂壁膜形成物質からなる殻体に内包又は固溶化させたマイクロカプセル顔料を用いても良い。更に、顔料を透明、半透明の樹脂等で覆った着色樹脂粒子や、無色樹脂粒子を顔料もしくは染料で着色したもの等を用いることもできる。これらの染料および顔料は、単独または2種以上組み合わせて使用してもかまわない。含有量は、インキ組成物全量に対し、1〜20%が好ましい。
【0018】
<その他>
本発明によるインキ組成物は、インキ物性や機能を向上させる目的で、水溶性有機溶剤、pH調整剤、保湿剤、防腐剤、防錆剤などの各種添加剤を含んでもよい。
【0019】
水溶性有機溶剤としては、(i)エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、またはグリセリンなどのグリコール類、(ii)メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、イソプロパノール、イソブタノール、t−ブタノール、プロパギルアルコール、アリルアルコール、3−メチル−1−ブチン−3−オール、エチレングリコールモノメチルエーテルアセタートやその他の高級アルコールなどのアルコール類、および(iii)エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、3−メトキシブタノール、または3−メトキシ−3−メチルブタノールなどのグリコールエーテル類などが挙げられる。水溶性有機溶剤の添加量は、インキ組成物に対して、0.1〜10%であることが好ましく、0.1〜5%であることがより好ましい。
【0020】
pH調整剤としては、アンモニア、炭酸ナトリウム、リン酸ナトリウム、水酸化ナトリウムなどの塩基性無機化合物、酢酸ナトリウム、トリエタノールアミンやジエタノールアミンなどの水溶性の塩基性有機化合物、乳酸およびクエン酸などが挙げられる。pH調整剤の添加量は、インキ組成物に対して、0.1〜10%であることが好ましく、0.1〜5%であることがより好ましい。
【0021】
保湿剤としては、前記水溶性有機溶剤の他に尿素、またはソルビットなどが挙げられる。保湿剤の添加量は、インキ組成物に対して、0.1〜10%であることが好ましく、0.1〜5%であることがより好ましい。
【0022】
防腐剤としては、2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン、1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オン、2−n−オクチル−4−イソチアゾリン−3−オン、2−メチル−4,5−トリメチレン−4−イソチアゾリン−3オン、N−(n−ブチル)−1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オン、2−ピリジンチオール−1−オキシドナトリウム、3−ヨード−2−プロピニルブチルカルバマート安息香酸ナトリウム、ベンゾトリアゾール及びフェノールなどが挙げられる。
【0023】
また、防錆剤としては、ベンゾトリアゾールおよびその誘導体、トリルトリアゾール、ジシクロヘキシルアンモニウムナイトライト、ジイソプロピルアンモニウムナイトライト、チオ硫酸ナトリウム、サポニン、またはジアルキルチオ尿素などが挙げられる。また、水溶性樹脂として、アクリル系樹脂、アルキッド樹脂、セルロース誘導体、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコールなどを用いることができる。さらに、樹脂エマルジョンとして、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、スチレン−ブタジエン系樹脂、ポリエステル系樹脂、酢酸ビニル系樹脂など含むエマルジョンを添加することができる。
【0024】
さらには、溶剤の浸透性を向上させるフッ素系界面活性剤やノニオン、アニオン、カチオン系界面活性剤、ジメチルポリシロキサンなどの消泡剤を添加することもできる。
【0025】
本発明による筆記具用水性インキ組成物は、万年筆、ボールペン、筆ペン、カリグラフィー用のペン、各種マーカー類など各種筆記具用の水性インキとして用いることができる。特に、万年筆などのくし溝を利用したインキ供給機構を備える筆記具や、マーカー類などに代表される繊維収束体を利用したインキ供給機構を備える筆記具など、毛細管現象を利用したインキ供給機構を備える筆記具は、そのインキ供給機構などから、インキ組成物中に析出物などの不溶物があると、インキ流路を塞ぎインキの供給が少なくなり、筆記する際にその筆跡がかすれたり、インキの供給が途切れた際には筆記不能になる場合があったが、本発明による筆記具用水性インキ組成物においては、インキ流路を析出物などの不溶物で塞がれることがない為、好適に用いられる。
【0026】
<インキ組成物の製造方法>
本発明によるインキ組成物は、従来知られている任意の方法により製造することができる。具体的には、前記各成分を必要量配合し、プロペラ攪拌、ホモディスパー、また
はホモミキサーなどの各種攪拌機やビーズミルなどの各種分散機などにて混合し、製造す
ることができる。
【0027】
<水性インキ製品>
本発明による水性インキ製品は、本発明のインキ組成物をガラス製のインキ収容部に収容してなることを特徴とする。
【0028】
前記インキ組成物を収容するガラス製のインキ収容部は、ガラス瓶等、単一のガラス製品でできたものや、インキ収容部の外側に樹脂や木材、漆塗装等の外装(装飾)を施したものが使用できる。
【0029】
本発明に用いるガラス製のインキ収容部として、ガラスの中でも廉価で成形性が高いソーダ石灰ガラスを用いることが好ましい。ソーダ石灰ガラスは、アルカリ成分の含有量が高いため、アルカリ成分が溶出され易い(一般的なソーダ石灰ガラスの組成では、酸化アルカリ金属:13〜16%、酸化アルカリ土類金属:10〜13%で含有される)。この為、析出物など不溶物が生成しやすくなるが、本発明のインキ組成物を用いることで、析出物など不溶物の生成を抑制できることから、インキ組成物とソーダ石灰ガラスを使用したガラス製のインキ収容部との組合せの時に、特に高い効果が発揮される。
【実施例】
【0030】
(実施例1)
・C.Iアシッドレッド87(着色剤:赤色染料) 0.5部
・C.Iアシッドイエロー42(着色剤:黄色染料) 0.5部
・エチレングリコール 2.0部
・トリエタノールアミン 1.0部
・エチレンジアミン四酢酸三ナトリウム 0.3部
・防腐剤 0.2部
(1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オン
ロンザジャパン社製、商品名:プロキセルXL−2(S))
水 残部
上記組成物をプロペラ撹拌により撹拌混合を行い、筆記具用水性インキ組成物を得た。
【0031】
(実施例2〜6)
インキ組成物に含まれる各成分を表1において表される組成に変更した以外は、実施例1と同じ方法で筆記具用水性インキ組成物を得た。
【0032】
(比較例1〜4)
インキ組成物に含まれる各成分を表1において表される組成に変更した以外は、実施例1と同じ方法で筆記具用水性インキ組成物を得た。
【0033】
【表1】
【0034】
(水性インキ製品)
下記の3種類のガラス瓶を用意し、実施例1〜6及び比較例1〜4の各筆記具用水性インキ組成物を表2及び表3に示した組合せにより収容した後、樹脂製キャップを螺着することで実施例7〜14、比較例5〜10の水性インキ製品を作製した。
ガラス瓶I:ガラスのアルカリ溶出量が40ppm以上であるソーダ石灰ガラス製のガラス瓶。
ガラス瓶I処理:ガラス瓶Iを脱アルカリ処理したガラス瓶。
ガラス瓶II:ガラスのアルカリ溶出量が10ppm未満であるガラス瓶。
尚、ガラスのアルカリ溶出量は次の方法で求めた。容積が30mlのガラス瓶I、I処理、IIに蒸留水20mlを充填し、120℃で3時間加熱後、室温まで冷却し、ICP発光分析法により、アルカリの溶出量を測定した。
A:アルカリ溶出量が1ppm未満。
B:アルカリ溶出量が1ppm以上40ppm未満。
C:アルカリ溶出量が40ppm以上。
前記水性インキ製品を用いて以下の試験を行った。
析出試験:各水性インキ製品を50℃の環境下で3ヶ月放置した後、室温に戻した状態で水性インキ製品の底部からインキ組成物を採取し、当該インキ組成物を顕微鏡観察により観察した。
A:析出物が全く見られない。
B:析出物がわずかに観察されるがその量は少ない。
C:析出物が中量観察される。
D:析出物が大量に観察される。
筆記性能試験:50℃の環境下で3ヶ月放置した後室温に戻した水性インキ製品のインキ組成物を株式会社パイロットコーポレーション製万年筆(カスタム74:ペン種M)に充填し、筆記用紙Aに筆記を行った。その際の筆跡を目視により観察した。
A:筆跡にかすれもなく、良好な筆跡が得られる。
B:筆跡にかすれが生じる。
C:析出物がインキ流路を塞ぎ、インキが出てこない為、筆記不能。
前記試験の結果を表2に示した。
【0035】
【表2】
【0036】
【表3】
【0037】
上記結果からも明らかなように、実施例1〜6の筆記具用水性インキ組成物は、ガラス製のインキ収容部にインキを収容した際にも、析出物が生じず、筆記した際にも良好な筆跡が得られるなど優れていることがわかった。一方、比較例1〜4の筆記具用水性インキ組成物を用いた場合には、アルカリ成分の溶出が少ないガラス瓶や脱アルカリ処理をしたガラス瓶を用いた際にも、経時後に析出物が見られ、筆記具に用いた際にも筆記に悪影響が出るなど、筆記具用水性インキ組成物として劣っていた。